(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照して本願発明に係る実施形態を説明する。
本願発明によれば、
図1に示すように、まず工程S1において、金属領域を有する基板の接合面を研磨し、工程S2において、研磨された金属領域の表面に対して表面活性化処理を行い、続いて親水化処理を行い、工程S3において、親水化処理された金属領域同士が接触するように、2つの基板を互いに貼り合わせることで仮接合を行い、そして、工程S4において、金属領域間での電気的接続を確立するように、仮接合された基板を加熱することで本接合を行う。
【0021】
<1. 研磨>
基板1の接合面2上に、めっきや蒸着などの堆積法により、金属領域3を形成すること
ができる。このようにして形成された金属領域3の表面の粗さは比較的大きい場合が多い(
図2(a))。工程S1において、金属領域3を有する基板の接合面2を研磨する(
図2(b))。基板の接合面の研磨には種々の研磨を適用することができる。
【0022】
たとえば、研磨は、半導体装置製造工程で使用される化学機械研磨(CMP)方法により行われてもよい。化学機械研磨(CMP)の条件は、金属領域を形成する金属、金属領域以外の領域を形成する材料や、両者の接合面での配置に応じて、スラリーの化学成分や研磨粒子の機械的性質、研磨パッドの性質、基板と研磨パッドの相対運動や加圧条件などの研磨装置の動作条件により決定することができる。
【0023】
例えば、金属領域が主成分として銅(Cu)により形成されている場合には、コロイダルシリカを主たる砥粒として含有するスラリーを使用することができる。
【0024】
スラリーが含む研磨粒子の成分として、二酸化ケイ素(シリカ)を挙げたが、これに限られない。金属領域を形成する金属の性質、研磨装置の動作条件などに応じて、例えば、酸化セリウム(セリア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、二酸化チタン(チタニア)、酸化錫を採用してもよい。
【0025】
スラリーは、好ましくはコロイド安定なコロイド分散体として、CMP組成物中に懸濁されることが望ましい。「コロイド」とは、液体中の研磨粒子の懸濁液を意味する。「コロイド安定性」は、選択された期間中、最小限の沈殿しか伴わずにその懸濁状態を維持することを意味する。
【0026】
また、スラリーは、界面活性剤や過酸化水素などの酸化剤を含んでいることが好ましい。これらの、濃度や比率は調節されうる。
【0027】
研磨は、研磨後の金属表面の表面粗さが算術平均粗さ(Ra)で1ナノメートル(nm)以下又は未満になるように行われることが好ましい。接合前に金属領域の表面粗さが上記の値であることで、十分な接合界面を形成させるために、接合際の金属領域に加えられる圧力を0.3MPa以下にすることができる。金属表面には、実質上接合に寄与しない窪みやスクラッチなどの溝がある場合がある。上記表面粗さの算定には、これらの実質上接合に寄与しない窪みや溝などの部分を含めないものとする。
【0028】
また、研磨を行う手法はCMPに限られない。たとえば、本願発明における研磨は、研削やラッピングも含むものである。金属表面を研削することにより、金属領域の表面近傍の結晶構造が乱される。CMPでは結晶構造が乱れる表面層の厚さを極めて小さく抑えることができるのに対し、研削により結晶構造が乱れた表面層の厚さが比較的大きくなり、例えば数十ナノメートルから数十ミクロンメータになる場合もある。この結晶構造が乱れた金属領域の表面はより高い表面エネルギーを有すると考えられる。したがって、研磨として研削を採用することで、後述のように親水化処理をより効率的に行い、かつ比較的低温での本接合プロセスを実現することができると考えられる。
【0029】
<2. 表面活性化処理>
工程S2において、金属領域3を含む基板1の接合面2に、所定の運動エネルギーを有する粒子を衝突させることで表面活性化処理を行う。
【0030】
所定の運動エネルギーを有する粒子を衝突させて、接合面を形成する物質を物理的に弾き飛ばす現象(スパッタリング現象)を生じさせることで、酸化物などの金属領域の表面層を除去し、表面エネルギーの高い、すなわち活性な新生表面を露出させることができる。
【0031】
表面活性化処理には、表面層を除去して接合すべき物質の新生表面を露出させるのみならず、所定の運動エネルギーを有する粒子を衝突させることで、露出された新生表面近傍の結晶構造を乱し、アモルファス化する作用もあると考えられている。アモルファス化した新生表面は、原子レベルの表面積が増え、より高い表面エネルギーを有するので、その後の親水化処理において結合される、単位表面積当たりの水酸基(OH基)の数が増加すると考えられる。これに対し、従来のウェット処理による表面の不純物の除去工程後に化学的に親水化処理する場合には、所定の運動エネルギーを有する粒子の衝突に起因する新生表面の物理的変化がないので、本願発明の接合方法に係る表面活性化処理に続く親水化処理は、この点で従来の親水化処理とは根本的に異なると考えられる。また、結晶構造が乱れ、アモルファス化した新生表面近傍の領域にある原子は、後述の本接合時の加熱処理の際に、比較的低い熱エネルギーで拡散しやすく、比較的低温での本接合プロセスを実現することができると考えられる。
【0032】
表面活性化処理に用いる粒子として、例えば、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などの希ガス又は不活性ガスを採用することができる。これらの希ガスは、衝突される接合面を形成する物質と化学反応を起こしにくいので、化合物を形成するなどして、接合面の化学的性質を大きく変化させることはない。また、比較的大きい質量を有しているので、効率的に、スパッタリング現象を生じさせることができ、新生表面の結晶構造を乱すことも可能になると考えられる。
【0033】
表面活性化処理に用いる粒子として、酸素のイオン、原子、分子などを採用することもできる。酸素イオン等を用いて表面活性化処理を行うことで、表面層を除去した後に新生表面上を酸化物の薄膜で覆うことが可能になる。新生表面上の酸化物の薄膜は、その後の親水化処理における、水酸(OH)基の結合又は水の付着の効率を高めると考えられる。また、新生表面上に形成された酸化物の薄膜は、後述の本接合での加熱処理の際に、比較的容易に分解すると考えられる。
【0034】
表面活性化される接合面に衝突させる粒子の運動エネルギーは、1eVから2keVであることが好ましい。上記の運動エネルギーにより、効率的に表面層におけるスパッタリング現象が生じると考えられる。除去すべき表面層の厚さ、材質などの性質、新生表面の材質などに応じて、上記運動エネルギーの範囲から所望の運動エネルギーの値を設定することもできる。
【0035】
表面活性化される接合面に衝突させる粒子には、粒子を接合面に向けて加速することで所定の運動エネルギーを与えることができる。
【0036】
<2.1 表面活性化処理1>
プラズマ発生装置を用いて、粒子に所定の運動エネルギーを与えることができる。基板の接合面に対して、交番電圧を印加することで、接合面の周りに粒子を含むプラズマを発生させ、プラズマ中の電離した粒子の陽イオンを、上記電圧により接合面に向けて加速させることで、所定の運動エネルギーを与える。プラズマは数パスカル(Pa)程度の低真空度の雰囲気で発生させることができるので、真空システムを簡易化でき、かつ真空引きなどの工程を短縮化することができる。
【0037】
あるいはまた、接合面から離間された位置に配置された、中性原子ビーム源、イオンビーム源などの粒子ビーム源を用いて、粒子に所定の運動エネルギーを与えることもできる。所定の運動エネルギーが付与された粒子は、粒子ビーム源から基板の接合面に向けて放射される。
【0038】
<2.2 表面活性化処理2>
粒子ビーム源を用いて、粒子に所定の運動エネルギーを与えることもできる。粒子ビーム源は、例えば1×10
−5Pa(パスカル)以下などの、比較的高い真空中で作動するので、表面活性化処理後に、新生表面の不要な酸化や新生表面への不純物の付着などを防ぐことができる。さらに、粒子ビーム源は、比較的高い加速電圧を印加することができるので、高い運動エネルギーを粒子に付与することができる。したがって、効率良く表面層の除去及び新生表面のアモルファス化を行うことができると考えられる。
【0039】
比較的高い真空に引くために真空ポンプの作動により、金属領域の表面から除去された物質が効率よく雰囲気外へ排気される。すなわち、露出された新生表面へ再び付着し汚染するような、望ましくない物質が効率よく雰囲気外へ排気される。
【0040】
プラズマ発生装置の場合は、金属領域の表面から除去された物質が、プラズマ化されてその陽イオンが加速され金属領域に再び衝突し付着する確立が高い場合がある。したがって、基板の接合面が、金属領域以外に、一つ又は複数の非金属領域を有する場合には、粒子ビーム源を用いて、表面活性化処理を行うことが好ましい。これにより、露出された新生表面への望ましくない物質の付着を抑制することができる。
【0041】
中性原子ビーム源としては、高速原子ビーム源(FAB,Fast Atom Beam)を用いることができる。高速原子ビーム源(FAB)は、典型的には、ガスのプラズマを発生させ、このプラズマに電界をかけて、プラズマから電離した粒子の陽イオンを摘出し電子雲の中を通過させて中性化する構成を有している。この場合、例えば、希ガスとしてアルゴン(Ar)の場合、高速原子ビーム源(FAB)への供給電力を、1.5kV(キロボルト)、15mA(ミリアンペア)に設定してもよく、あるいは0.1から500W(ワット)の間の値に設定してもよい。たとえば、高速原子ビーム源(FAB)を100W(ワット)から200W(ワット)で稼動してアルゴン(Ar)の高速原子ビームを2分ほど照射すると、接合面の上記酸化物、汚染物等(表面層)は除去され、新生表面を露出させることができる。
【0042】
本願発明において、表面活性化に用いられる粒子は、中性原子又はイオンでもよく、さらには、ラジカル種でもよく、またさらには、これらが混合した粒子群でもよい。
【0043】
各プラズマ又はビーム源の稼動条件、又は粒子の運動エネルギーに応じて、表面層の除去速度は変化しえる。そこで、表面活性化処理に必要な処理時間を調節する必要がある。例えば、オージェ電子分光法(AES,Auger Electron Spectroscopy)やX線光電子分光法(XPS,X−ray Photo Electron Spectroscopy)などの表面分析法を用いて、表面層に含まれる酸素や炭素の存在が確認できなくなる時間又はそれより長い時間を、表面活性化処理の処理時間として採用してもよい。
【0044】
表面活性化処理において接合面をアモルファス化するためには、粒子の照射時間を、表面層を除去し新生表面を露出させるために必要な時間より、長く設定してもよい。長くする時間は、10秒から15分、あるいは、表面層を除去し新生表面を露出させるために必要な時間の5%以上に設定してもよい。表面活性化処理において接合面をアモルファス化するための時間は、接合面を形成する材料の種類、性質、及び所定の運動エネルギーを有する粒子の照射条件によって適宜設定してもよい。
【0045】
表面活性化処理において接合面をアモルファス化するためには、照射される粒子の運動エネルギーは、表面層を除去し新生表面を露出させるために必要な運動エネルギーより、10%以上高く設定されてもよい。表面活性化処理において接合面をアモルファス化するための粒子の運動エネルギーは、接合面を形成する材料の種類、性質、及び粒子の照射条件によって適宜設定してもよい。
【0046】
ここで、「アモルファス化した表面」又は「結晶構造が乱れた表面」とは、具体的に表面分析手法を用いた測定により存在が確認されたアモルファス層又は結晶構造が乱れた層を含むとともに、粒子の照射時間を比較的長く設定した場合、又は粒子の運動エネルギーを比較的高く設定した場合に想定される結晶表面の状態を表現する概念的な用語であって、具体的に表面分析手法を用いた測定によりアモルファス層又は結晶構造が乱れた表面の存在が確認されていない表面をも含むものである。また、「アモルファス化する」又は「結晶構造を乱す」とは、上記アモルファス化した表面又は結晶構造が乱された表面を形成するための動作を概念的に表現したものである。
【0047】
<2.3 表面活性化処理3>
中性原子ビーム源、イオンビーム源、高速原子ビーム源などの粒子ビーム源は、ライン型でもよい。本願におけるライン型の粒子ビーム源とは、ライン型(線状)の又は細長い粒子ビーム放射口を有する粒子ビーム源であり、この放射口からライン型(線状)に粒子ビームを放射することができる。放射口の長さは、粒子ビームが照射される基板の直径より大きいことが好ましい。基板が円形でない場合には、放射口の長さは、粒子ビーム源に対して相対的に移動させられる基板に係る放射口が延びる方向の最大寸法より大きいことが好ましい。
【0048】
ライン型の粒子ビーム源から放射された粒子ビームは、表面活性化処理中のある時刻においては、基板の表面の線状の領域を照射している。そして、ライン型の粒子ビーム源を、接合面を有する基板に向けて粒子ビームを放射しつつ、放射口が延びる方向と垂直方向に走査させる。その結果、線状の粒子ビームの照射領域が基板のすべての接合部上を通過する。ライン型の粒子ビーム源が、基板上を通過し終えると、基板全体が、粒子ビームにより照射され、表面活性化される。
【0049】
ライン型の粒子ビーム源は、比較的面積の大きい基板の表面を、比較的均一に粒子ビームで照射する際に適している。また、ライン型の粒子ビーム源は、基板の様々な形状に対応して、比較的均一に粒子ビームを照射することができる。
【0050】
<3. 親水化処理>
工程S2において、親水化処理は、好ましくは上記表面活性化処理の後に行われる。親水化処理は、上記表面活性化処理の後に続けて真空中で行われることが好ましい。しかし、表面活性化処理が完了する前に、親水化処理を開始してもよい。また、表面活性化処理と親水化処理を同時に行ってもよい。表面活性化処理が、親水化処理の完了後に行われなければ、表面活性化処理と親水化処理との時間上の前後関係は、所望の条件により調節することができる。
【0051】
接合面の親水化処理により、表面活性化処理が行われえた金属領域3の表面に水4が付着することで、当該表面に水酸基(OH基)からなる層が形成され、その上に水の層4が形成されると考えられている(
図2(c))。水の付着量を増やすことで、水の層4の厚さを増やすことができる。
【0052】
水酸化処理により、接合面に酸化物が形成されることもある。しかし、この酸化物は、比較的薄い(例えば、数nm又は数原子層以下)ので、本接合の際の加熱処理において、金属材料内で吸収され、又は水として接合界面から外側へ逃げるなどして、消滅あるいは減少すると考えられる。したがって、この場合、基板との間の接合界面を介した導電性には実用上の問題が生じることはほぼないと考えられる。
【0053】
親水化処理は、表面活性化された接合面に水を供給することにより行われる。当該水の供給は、上記表面活性化された接合面の周りの雰囲気に、水(H
2O)を導入することで行うことができる。水は、気体状で(ガス状で、又は水蒸気として)導入されても、液体状(霧状)で導入されてもよい。さらに、水の付着の他の態様として、ラジカルやイオン化されたOHなどを付着させてもよい。しかし、水の導入方法はこれらに限定されない。
【0054】
表面活性化された接合面の周りの雰囲気の湿度を制御することで、親水化処理の工程を制御することができる。当該湿度は、相対湿度として計算しても、絶対湿度として計算してもよく、又は他の定義を採用してもよい。
【0055】
気体状の水は、たとえば液体の水の中に窒素(N
2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、酸素(O
2)などのキャリアガスを泡状にして通過させること(バブリング)で、気体状の水がキャリアガスに混合されて、表面活性化された接合面を有する基板が配置された空間又はチャンバ内に導入されることが好ましい。
【0056】
水の導入は、基板の接合部の周りの雰囲気における相対湿度を10%から90%となるように制御することが好ましい。
【0057】
たとえば、窒素(N
2)又は酸素(O
2)をキャリアガスとして気体状の水を導入する場合、上記チャンバ内の全圧を9.0×104Pa(パスカル)、すなわち0.89atm(アトム)とし、チャンバ内での気体状の水の量を、容積絶対湿度で8.6g/m
3(グラム/立方メートル)又は18.5g/m
3(グラム/立方メートル)、23℃(摂氏23度)の相対湿度でそれぞれ43%又は91%となるように制御することができる。
【0058】
また、チャンバ内の酸素(O
2)の雰囲気中濃度を10%としてもよい。
【0059】
親水化処理は、表面活性化処理された接合面を大気に曝すことなく、当該接合面に水を供給することで行うことが好ましい。
【0060】
また、親水化処理を行うために、所定の湿度を有するチャンバ外の大気を導入してもよい。大気をチャンバ内に導入する際には、望ましくない不純物の接合面への付着を防ぐために、当該大気が所定のフィルタを通過するように構成することが好ましい。所定の湿度を有するチャンバ外の大気を導入して親水化処理を行うことで、接合面の親水化処理を行う装置構成を簡略化することができる。
【0061】
また、水(H
2O)の分子やクラスターなどを加速して、接合面に向けて放射してもよい。水(H
2O)の加速に、上記表面活性化処理に用いる粒子ビーム源などを使用してもよい。この場合、上記バブリングなどで生成したキャリアガスと水(H
2O)との混合ガスを、上記粒子ビーム源に導入することにより、水の粒子ビームを発生させ、親水化処理すべき接合面に向けて照射することができる。
【0062】
親水化処理により形成された水酸基(OH基)の層又水酸基の層上に形成された水の層には、大気中の存在する酸素との接触による金属領域の酸化を最低限に抑制する働きがあると考えられる。
【0063】
これにより、親水化処理が完了した金属領域の表面は、非酸化雰囲気から取り出し、大気中に曝したとしても、酸化されにくい。よって、親水化処理が完了した金属領域の表面を数時間から数十時間に亘り大気中に放置しても、最終製品において良好な接合界面を得ることができる。
【0064】
図2(c)では、親水化処理により水の層4が金属領域3の表面に形成され、金属領域3以外の接合面2上の領域(非金属領域)では形成されていない実施例が示されている。この実施例においては、工程S2の前に、非金属領域の表面の一部又は全部を疎水化処理されている。後述のように、基板の接合面が親水化され水の層が形成された領域と疎水化されて水の層が形成されなかった領域とを有することで、仮接合において、一方の基板の親水化された金属領域と他方の基板の接合面上において対応する親水化された金属領域とが引き合って、金属領域間のセルフアラインメントを実現することができる。
【0065】
図2(c)では、工程S2の親水化処理後に金属領域3の表面のみに水の層4が形成されているが、これに限られない。例えば、基板の接合面上に所定の箇所に、親水化処理をする領域と疎水化処理をする領域とをそれぞれ画定することで、種々の態様をとることができる。
【0066】
<4. 仮接合>
工程S3において、工程S3で接合面が表面活性化処理され親水化処理された一対の基板1及び11が接合(仮接合)される。ここで、一方の基板1の金属領域3が、他方の基板11の接合面2上で対応する金属領域13に向き合うように位置決めされ、金属領域3及び13上に形成された水の層4を介して接触するように仮接合が行われる。(
図2(d))
【0067】
親水化処理が施された基板の金属領域の表面は、水酸(OH)基又は水の層4により覆われているため、基板の貼り付け時(仮接合時)の接触により、水酸基又は水分子間に水素結合などの引力が働き、基板は互いに吸着される。
【0068】
図2(c)及び
図2(d)に示すように、基板の接合面が親水化された領域と疎水化された領域とを有する場合には、仮接合の際に、水の層で発生する表面張力の作用が大きくなり、接合面内の方向に、水の層4を介して接触する金属領域同士が互いに引っ張り合う力が生じる。これにより、接合される一対の基板間で、互いに対応する金属領域同士の位置決めの精度がさらに向上する。
【0069】
上記の基板同士の仮接合により、少なくとも、仮接合が完了してから後述の本接合において加熱処理が行われるまでの過程において、仮接合された基板で構成される構造体が、搬送される際や位置変換される際に、基板がずれ落ちたり、基板の相対的な位置がずれたりすることがない十分な接合力で固定される。
【0070】
基板の仮接合時に、圧力を掛けてもよい。金属領域を有する接合面を研磨することで、仮接合時の圧力が1MPa以下でも、十分な仮接合時の接合強度が得られた。更に、研磨された金属領域の表面粗さがRa10nm以下である場合には、仮接合時の圧力が0.5MPaで十分な仮接合時の接合強度が得られた。また更には、金属領域が銅で形成され、研磨された金属領域の表面粗さがRa5nm程度である場合には、仮接合時の圧力が0.3MPaで十分な仮接合時の接合強度が得られた。
【0071】
基板間で対応する金属領域同士の位置決めは、例えば、一方の基板上に複数の位置調節用マークを設け、他方の基板の対応する位置に、対応する複数の位置調節用マークを設け、両方の位置調節用マークを互いに合わせることで行っても良い。両方の位置調節用マーク間のずれは、基板を透過する光を、いずれかの基板側から接合面に垂直方向に入射し、その反対側に設けたカメラにより撮像された、当該透過光による位置調節用マークの画像を観察することにより測定するように構成してもよい。
【0072】
上述のように、一例として、基板の対応する金属領域間の位置決めは、両方の基板側に設けられた位置調節用マークを、基板を透過する光を用いて、互いに合わせることで行われる。これにより、例えば、±1μmの位置決め精度を得ることができる。さらに、位置決めが十分でなかった場合には、仮接合直後に基板を互いから離し、再度位置決めしてから仮接合を行うことを、所定の位置決め精度が得られるまで繰り返すこともできる。これにより、±0.2μmの位置決め精度を得ることができる。
【0073】
基板を互いに離す工程は、仮接合された基板のエッジから面方向に、ブレードを機械的に挿入し、又は水や空気などの流体を吹き込むことで行ってもよい。
【0074】
仮接合の際の、基板の周りの雰囲気の湿度を所定の値に保つようにしてもよい。
【0075】
また、仮接合は、大気などの非酸化雰囲気中で行ってもよい。上述のとおり、親水化処理が完了した金属領域の表面は大気中でも安定であるので、親水化処理が完了した後、仮接合するまで数分から数時間、放置することも可能である。したがって、表面活性化処理や親水化処理を行う装置とは別に、大気中で動作する仮接合装置を設置してもよい。これにより、真空などの特殊な環境を作り、その中で動作する接合装置を製造する必要はなく、仮接合装置を比較的簡易な構成とすることができる。
【0076】
上述の仮接合された基板で構成される構造体は、基板同士が比較的強い水素結合で結合しているので、仮接合後に本接合をするための加熱装置へ搬送されても、基板がすべり落ち、又は剥がれ落ちる危険性は小さい。また、仮接合された基板で構成される構造体は、比較的安定であるので、加熱処理まで数時間から数日までの間、大気中で保存することも可能である。したがって、任意のタイミングで、そして、仮接合された基板で構成される構造体を複数個まとめて、加熱処理を行うことができる。
【0077】
<5. 本接合>
工程S4では、工程S3で仮接合された基板で構成される構造体に加熱処理を行うことにより、接合された金属領域3及び13の間で清浄な接合界面5が形成され、この接合界面5により所定の導電性(抵抗率)又は接合強度(機械的強度)が得られる。
【0078】
加熱処理中の最高温度は、100℃(摂氏100度)以上、金属領域を形成する材料の融点未満の温度に設定することが好ましい。
【0079】
加熱処理中の最高温度を100℃(摂氏100度)以上に設定することで、接合界面に含まれている水酸(OH)基又は水の多くが、接合界面外部に抜け出していくと考えられる。このとき、水が仮接合の界面から抜け出していく過程で、それまでは接触していなかった接合面同士が接触するようになり、実質的な接合界面が広がり、接合面積が大きくなると考えられる。
【0080】
接合界面に含まれている水酸(OH)基又は水が接合界面まわりの材料中へ拡散しても、接合界面近傍の部位の電気的特性又は機械的特性が顕著に低下することはないと考えられる。
【0081】
また、本願の発明によれば、加熱処理中の最高温度を、金属領域を形成する材料の融点未満に設定しても、十分な電気的特性及び機械的特性を得ることができる。従来の接合方法では、金属領域の表面に強固な酸化膜があると当該表面の近傍での原子の拡散が起こりにくかったが、本願発明は表面活性化処理に続いて親水化処理を行うことで、酸化膜がほぼない状態で金属領域の表面同士が接触しているので、本接合時に接合界面近傍での固相拡散が促進されると考えられる。その結果、それまでは接触していなかった接合面間の隙間を埋めることで、実質的な接合界面が広がり、接合面積が大きくなると考えられる。
【0082】
また、加熱処理中の最高温度を、金属領域を形成する材料の融点未満に設定して、固相拡散により本接合を行うことで、本接合における位置ずれをほぼなくすことができる。これにより、最終製品において、接合される金属領域間の位置決め精度を高くすることができ、例えば±1μm以下に抑えることが可能になる。
【0083】
加熱処理中の最高温度を、金属領域を形成する材料の融点以上に設定して本接合を行うと、仮接合で取り付けられた位置から、金属領域がずれることがあり得る。この位置ずれは、数μmになる場合がある。本接合する際に位置ずれが生じると、ある金属領域が隣接する金属領域と接触するなどして、ショートの原因となる。また、接合面積が小さくなり、接合界面で生じる段差などにより、接合界面の接合強度が低下する場合がある。
【0084】
したがって、位置調節用マークを用いるなどして、基板上の所定の位置に対して位置決めした上で仮接合を行い、さらに本接合において加熱温度を金属領域を形成する材料の融点未満に設定することで、最終製品において、接合される基板間の位置決め精度を極めて高くすることができる。これにより、ショートなどの欠陥の発生を抑制することができる。
【0085】
たとえば、金属領域が銅(Cu)で形成されている場合には、仮接合された基板で構成される構造体を150℃(摂氏150度)で600秒間、加熱することで、高い導電率と接合強度とを有する基板の接合体が得られる。
【0086】
金属領域が銅(Cu)で形成されている場合には、加熱中に0.14MPa(メガパスカル)程度の圧力を接合界面に垂直な方向に加えることで十分な導電性及び機械的強度が得られる。
【0087】
従来、銅(Cu)と銅(Cu)とを直接接合するために、350℃(摂氏350度)程度での高温で、基板毎に数トンもの力を10分ほど保持することが必要だったが、本願発明において金属領域を形成する材料として銅を採用することで、低温、低圧、かつ高速に、所望の導電性及び機械的強度を有する基板の接合体を製造することができる。
【0088】
各金属領域が、ニッケル(Ni)、金(Au)、スズ(Sn)、スズ―銀の合金などの金属で、20μm(マイクロメータ)四方、高さ3μm(マイクロメータ)から10μm(マイクロメータ)のパッド状に形成されている場合は、各パッドに対し0.5MPa(メガパスカル)から400MPa(メガパスカル)の圧力を加熱処理中に加えてもよい。
【0089】
加熱処理中の構造体周りの雰囲気は、大気でもよく、窒素又は希ガス雰囲気でもよい。
【0090】
加熱処理中の構造体周りの雰囲気の湿度を調節してもよい。この湿度は、得られる接合界面の電気的特性又は機械的特性に応じて調節してもよい。
【0091】
本願発明に係る仮接合と本接合とを有する接合方法を採用することで、大きい面積のウエハを用いた実装の生産効率が従来の接合方法と比較して著しく向上する。
【0092】
<6. 装置構成>
図3は、本願発明に係る接合方法を実施するための表面活性化処理と親水化処理とを行う表面処理システムの概略構成の一実施例を示す図である。
【0093】
図3に示す表面処理システム100は、真空容器101と、表面活性化処理手段として真空容器101内に配置された粒子ビーム源102と、親水化処理手段として水蒸気源103、水蒸気制御バルブ105及び水蒸気108を真空容器101に放出する水蒸気導入口104とを有して構成されている。
【0094】
真空容器101は、接続された真空ポンプ106により真空引きされるように構成されている。粒子ビーム源の作動と表面化成果処理を有効に行うために、真空ポンプ106は、真空容器101内の気圧を1×10
−5Pa(パスカル)以下などの比較的高い真空にする能力を有するものが好ましい。
【0095】
次に
図3に示す表面処理システムを用いた、本願発明に係る接合方法について説明する。
【0096】
基板1を研磨する研磨装置は、
図3には図示されていないが、表面処理システム100とは別個に配置されてもよい。研磨装置で研磨された基板は、真空容器101内に搬送手段(図示せず)を用いて搬送される。研磨された基板1が真空101内の基板支持体109上に載置された後に、真空容器101は、真空ポンプ106の作動により、所定の真空度に到達するように真空引きされる。
【0097】
真空容器101内の気圧が所定値に到達した後に、粒子ビーム源102を作動させて、粒子ビーム107を金属領域3を有する基板1の表面に向けて照射させる。上記のとおり表面活性化処理の完了時間は、予め行われる実験により定められてもよく、又は所定の表面評価手段(図示せず)を用いてその場(in―situ)観察により十分な表面活性化処理が行われたことを確認することで決定されてもよい。
【0098】
十分な表面活性化処理が行われたと判断されると、粒子ビーム源102の作動を止め、水蒸気源103から送られる水蒸気108を水蒸気導入口104を介して真空容器101内に導入する。
【0099】
粒子ビーム源102として、ライン型粒子ビーム源を採用してもよい。この場合、基板支持体109と粒子ビーム源102とは、粒子ビーム107が基板1の表面に均一な条件で照射されるように、相対的に可動な構成を有するように配置されることが好ましい。ライン型粒子ビーム源を、基板1に対して相対的に移動させ、粒子ビームの照射領域が基板1上を通過させることで、比較的面積の大きい基板の表面を比較的均一に粒子ビームで照射することができる。
【0100】
親水化処理に必要な真空容器101内の湿度の制御は、水蒸気源103で生成される水蒸気の湿度、水蒸気制御バルブ105により制御される水蒸気の真空容器101への導入量、真空ポンプ106による水蒸気の排気量、真空容器101内の温度などを調節することにより行うことができる。
【0101】
親水化処理の完了時間は、予め行われる実験により定められてもよく、又は所定の表面評価手段を用いてその場(in―situ)観察により十分な親水化処理が行われたことを確認することで決定されてもよい。
【0102】
図3では、本願発明に係る表面処理方法を実施するための装置は、1つの真空容器101で構成されているが、2つの真空容器を用いて構成されてもよい。この場合、上記装置は、第1の真空容器に表面活性化処理手段が配置され、第2の真空容器に親水化処理手段が配置され、第1の真空容器と第2の真空容器は真空バルブで連結され、基板を第1の真空容器から真空を破らずに搬送できるように構成されることが好ましい。これらの構成を採用することで、表面活性化処理された接合面を大気に曝さずに、親水化処理を行うことができる。また、水蒸気が第2の真空容器内の第1の真空容器へ流れる量を最小限に抑え、第1の真空容器内の高い真空度を長時間に亘り維持することが容易となるとともに、表面活性化処理と親水化処理とを同時に異なる基板に対して行うことができるので処理効率が上がる。
【0103】
仮接合を行う装置(図示せず)は、
図3に示す表面処理装置に連結して構成されてもよく、また
図3に示す表面処理システムとは別個な装置として構成されてもよい。親水化処理された金属表面は大気中でも比較的安定であるので、仮接合を行う装置は、表面処理システムと別個な装置とすることで、簡易な構造で構成されうる。
【0104】
また、本接合を行う装置(図示せず)として、基板を摂氏100度以上に加熱することができる、基板加熱装置を採用することができる。
【0105】
以上、本願発明の幾つかの実施形態及び実施例について説明したが、これらの実施形態及び実施例は、本願発明を例示的に説明するものである。特許請求の範囲は、本願発明の技術的思想から逸脱することのない範囲で、実施の形態に対する多数の変形形態を包括するものである。したがって、本明細書に開示された実施形態及び実施例は、例示のために示されたものであり、本願発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。