【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<実施例1>In vitro docking法による磁性細菌粒子上でのscFvの機能的発現
(1−1)試料
発現ベクター構築のためのDNA断片のPCR増幅にはPhusion DNA Polymerase(NEB)を、遺伝子クローニング用の試薬としてIn−Fusion HD Cloning Kit(Clontech)及びQuick Ligation Kit(NEB)を使用した。IgG結合試験にはAP(アルカリホスファターゼ)標識donkey anti−mouse IgG(Novus Biologicals,Littleton)を、Anti−β−Galactosidase scFvの結合活性評価にはbiotin β−Galactosidase(AVIVA SYSTEMS)及びAlkaline Phosphatase Streptavidin(Vector Laboratories)を使用した。
遺伝子クローニングの宿主としては、大腸菌株TOP10(Life technologies,Carlsbad,CA,USA)を使用し、大腸菌形質転換体を、アンピシリン(100μg/ml)を含んだLuria−Bertani(LB)培地中で、37℃で培養した。
プラスミドベクターは、T.Yoshino,and T.Matsunaga.,Efficient and Stable Display of Functional Proteins on Bacterial Magnetic Particles Using Mms13 as a Novel Anchor Molecule,Society.(2006)に記載されたpUM13ZZを基にして構築した。
【0066】
(1−2)
M.magneticum AMB−1由来Dsbタンパク質ファミリーのin silico解析
M..magneticum AMB−1の各Dsbタンパク質の配列はNCBIのProtein database(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein)より検索した。Dsbタンパク質のシグナルペプチドについては、まずSignal Peptide Website(http://www.signalpeptide.de/)におけるデータベースを用い、実験的に確定されているか又は配列から予測されているか、或いはデータベース上にないかどうかを調べた。データベース上にないものについては、PrediSi(http://www.predisi.de/)を用いてシグナル配列の予測を行った。膜貫通領域については、文献上で予測領域が報告されている大腸菌DsbB以外はSOSUI(http://bp.nuap.nagoya-u.ac.jp/sosui)を用いて予測を行った。
また、Dsbタンパク質の相同性解析にはClustalW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/)を使用した。
【0067】
NCBIのProtein databaseより
M.magneticum AMB−1由来のDsbタンパク質ファミリーを検索した結果、大腸菌と同様、DsbB、DsbC、DsbD及びDsbGが見つかった。一方、oxidase機能を持つDsbAに相当するタンパク質は見つからなかった。各Dsbタンパク質について、大腸菌で解析されているモチーフやS−S結合部位を中心に、
図6〜
図10にまとめた。
DsbAを除いた
M.magneticum AMB−1由来の各Dsbタンパク質は大腸菌とは相同性がほとんどないものの、触媒部位のCXXCモチーフを有していた。また、DsbBは大腸菌と同様に、DsbAの酸化に関わるCXXCモチーフに加え、もう1組のシステインのペアを有すると予想された。膜タンパク質であるDsbB及びDsbDについては、大腸菌と同様、それぞれ4つ及び8つの膜貫通(transmembrane:TM)領域を有することがSOSUIによって予測された。
【0068】
解析した
M.magneticum AMB−1からはDsbAが見つからなかったが、機能的にDsbBのパートナー分子であることから、NCBIのデータベースの元となった
M.magneticum AMB−1株ではdsbA遺伝子を含むゲノムの一部が欠落した可能性が考えられる。あるいは別の可能性として、大腸菌ではS−S結合isomeraseであるdsbC遺伝子の過剰発現がdsbA欠損株の機能を補完することから、
M.magneticum AMB−1においてもDsbCがDsbAの機能の一部を担っていることも考えられる。
以上の解析結果から、
M.magneticum AMB−1も大腸菌と同様、ペリプラズムにおけるS−S結合タンパク質の酸化とそれに伴うフォールディング機構を備えていることが示唆された。このことは、in vitro docking法が機能する前提として重要な知見である。
【0069】
(1−3)プラスミドの構築と磁性細菌の培養
プラスミドを、標準的なクローニング技術(J.Sambrook,D.W.Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Press,2001)又はIn−Fusionクローニング技術(Clontech,Mountain View,CA,USA)によって構築した。
抗β−ガラクトシダーゼ単鎖抗体(scFv)とヒトIgG1の定常領域(Fc)の融合遺伝子とを発現するベクター(pUM13ZZ/scFvFc)(
図1(B)の(c))は、両端にNsiI部位を持ち、かつ5’末端に大腸菌ペリプラズムタンパク質であるDsbCのシグナル配列(DsbCss)およびFLAGタグをコードする配列を持つように人工合成したscFv−Fc融合遺伝子を、アンカータンパク質Mms13をコードするmms13とProtein AのIgG結合ドメイン(ZZ)の融合遺伝子を発現するpUM13ZZ(
図1(B)の(a))のNsiI部位(Mms13−ZZ遺伝子の開始コドンに相当)に挿入することで構築した。なお、mms16プロモーターからscFv13R4−Fc融合遺伝子およびMms13−ZZ融合遺伝子までを単一オペロンとして発現させるために、scFv−Fc遺伝子の挿入により失われたShine−Dalgarno(SD)配列をMms13−ZZ遺伝子の上流に付加するよう人工合成遺伝子を設計した。
一方、コントロールベクターとして従来型のMms13融合タンパク質として発現するMms13−scFv発現ベクターを構築するため、SspI消化したpUM13ZZに対し、両端にSspI部位を持つようにPCR増幅したscFv遺伝子を挿入した(pUM13scFv)(
図1(B)の(b))。
【0070】
各発現プラスミド(pUM13ZZ、pUM13scFv及びpUM13ZZ/scFvFc)を、Y.Okamura,H.Takeyama,T.Sekine,T.Sakaguchi,A.T.Wahyudi,R.Sato,et al.,Design and Application of a New Cryptic−Plasmid−Based Shuttle Vector for Magnetospirillum magneticum Design and Application of a New Cryptic−Plasmid−Based Shuttle Vector for Magnetospirillum magneticum,Society.(2003)に記載された方法に従って、エレクトロポレーションによって
M.magneticum AMB−1に形質転換した。
【0071】
M..magneticum AMB−1(ATCC 700264)を、T.Matsunaga,T.Sakaguchi,F.Tadakoro,Magnetite formation by a magnetic bacterium capable of growing aerobically,Appl Microbiol.Biotechnol.35(1991)651−655に記載される方法従い、28℃でmagnetic spirillum growth medium(MSGM)で磁性微好気的に培養し、作製した
M.magneticum AMB−1形質転換体は同じ条件下、5μg/mlのアンピシリンを用いて培養した。
【0072】
(1−4)磁性細菌粒子の調製
集菌したAMB−1野生株もしくは各形質転換体(250ml culture相当)を2.5mlのExtraction buffer A(50mM Tris−HCl,5mM EDTA,pH8.0)に懸濁したのち、リゾチーム及びPMSFをそれぞれ終濃度0.4mg/mlおよび2mMとなるよう添加し、室温で5分間静置した。続いて、0.5mlのExtraction buffer B(1.5M NaCl,0.1M CaCl
2,0.1M MgCl
2,0.02mg/ml DNase I)を加え、室温で5分間静置した。次にTritonX−100を終濃度0.2%加え、室温にて0〜120分間穏やかに撹拌した後、Nd−B磁石を用いて磁性細菌粒子画分を磁気回収した。その後、PBS−Tで5回洗浄し、精製磁性細菌粒子を得た。
【0073】
(1−5)IgG捕捉試験
本発明のコンセプト証明を行うため、Mms13−ZZ融合タンパク質をコードするpUM13ZZのAMB−1形質転換体を用いたIgG結合試験を行った。
AMB−1野生株もしくはpUM13ZZ形質転換体の細胞ペレット(45ml culture相当)に対し、0から2μg/mlのAP標識donkey anti−mouse IgGを加え、磁性細菌粒子を抽出した。磁性細菌粒子各50μgを50μlのPBSに懸濁したのち、Lumi−Phos530を50μl加え、室温で20分間基質反応を行った後、ルミノメーターを用いて発光強度を測定した。
その結果、IgG−APの容量依存的な結合が認められ、少なくとも16ng/mlの低濃度であっても検出することが可能であることが示された(
図2)。Donkey IgGとProtein Aとの結合はヒトIgG1と比べると弱いものの、この濃度は僅か0.18μg/l cultureに相当し、機能性分子の発現量が非常に低い場合であっても本システムが機能することが示された。
【0074】
(1−6)ウェスタンブロッティング
AMB−1野生株もしくは各AMB−1形質転換体より得られた磁性細菌粒子0.1〜0.2mgに対し、還元の場合は10mM DTTおよび5mM EDTAを含む1%LDS溶液を、非還元の場合は5mM EDTAを含む1%SDS溶液を10〜20μl加え、95℃で15分間熱処理を行い、磁気分離により上清を回収したものを粒子膜画分とした。得られた上清をサンプルバッファーと混合しSDS−PAGEゲル(10〜20% gradient)にて泳動したのち、Transfer Buffer(48mM Tris,39mM Glycine,20% Methanol)を用いたセミドライ法でPVDF膜にブロッティングした。抗原抗体反応は2%BSAを含むPBS−T(2%BSA/PBS−T)に溶解した1μg/mlの1次抗体もしくはAP標識2次抗体を用いて行った。2次反応後、PVDF膜をPBS−Tで3回洗浄したのち、BCIP/NBT−Blueを用いてAP活性の検出を行った。
【0075】
(1−6−1)scFv−FcとMms13−ZZとの結合タイムコースの解析
次に、モデルタンパク質である変異型ヒト抗β−Galactosidase scFv−Fc融合タンパク質とMms13−ZZの共発現ベクター(pUM13/scFvFc)のAMB−1形質転換体を用いてFcとZZとの結合に必要な時間を調べた。ここで用いた変異型scFv(scFv13R4)は、大腸菌の細胞質内において高レベルで可能性発現するように改変されたものである。
リゾチームおよびDNase Iで10分間部分的に破砕処理した細胞に対し、細胞を完全に破砕し可溶化するためにTriton X−100を加え、0、10、30及び60分後に磁性細菌粒子を分離した。その結果、予想に反しFcとZZとの結合の大部分がtime0で起こり、TritonX−100の添加後10分以降に最大レベルに達した(
図3)。これらの結果から、AMB−1形質転換体からFc融合タンパク質が結合した磁性細菌粒子を得るためには、細胞を完全に破砕してから10分後の回収で十分であることが示された。
【0076】
(1−6−2)scFv融合タンパク質の発現解析
Mms13−scFv、scFv−Fc各融合遺伝子発現ベクターのAMB−1形質転換体における発現レベルを確かめるため、リニアエピトープもしくは構造エピトープの抗体をそれぞれ用いたウェスタンブロッティングを行った。
その結果、Mms13−scFvは、還元条件および非還元条件で、リニアエピトープ認識の抗FLAG抗体により予想された41kDaの単一のバンドとして検出されたが、構造エピトープ認識の抗ヒトλ light chain(VL−λ)抗体では検出されなかった(
図4)。一方、scFv−Fcの単量体(52kDa)は還元条件では抗FLAG抗体で検出されたが、非還元条件では抗FLAG抗体および抗ヒトVL−λの両方で2量体(105kDa)および3量体(157kDa)に相当する2本のバンドとして検出された(
図4)。
これらの結果から、Mms13−scFvは、細胞質において磁性細菌粒子上で正しくフォールディングされなかったが、一方で、ペリプラズム内に発現したscFv−FcはFcのヒンジ領域を介すると思われる2量体、又は、2量体に非共有結合が加わった3量体としてS−S結合を伴い正しくフォールディングされたものと考えられる。なお、scFv−Fc融合タンパク質の多量体形成は他のグループでも報告されている。
【0077】
(1−7)β−Galactosidase結合試験
磁性粒子上に捕捉されたscFv−Fcが抗原結合能を持っているかどうかを確かめるため、β−Galactosidaseの結合試験を行った。
pUM13ZZ、pUM13scFvもしくはpUM13ZZ/scFvFcを導入したAMB−1から抽出した磁性細菌粒子各50μgに対し、2%BSA/PBS−Tに懸濁したbiotin−β−Galactosidase(1μg/ml)を加え、室温で15分静置した。200μlのPBS−Tで1回洗浄したのち、Alkaline Phosphatase Streptavidin(1μg/ml)を加え、室温で15分静置した。200μlのPBS−Tで3回洗浄したのち、50μlのPBSに懸濁した。これにLumi−Phos530を50μl加えて30分間反応させ、ルミノメーターにより発光強度を測定した。
【0078】
scFv−FcとMms13−ZZの共発現形質転換体から抽出した磁性細菌粒子ではビオチンラベルしたβ−Galactosidaseの結合が検出されたのに対し(
図5、ZZ+scFv−Fc)、Mms13−ZZ単独もしくはMms13−scFvの形質転換体から抽出した磁性細菌粒子では認められなかった(
図5、ZZ及びscFv)。このことから、細胞質で発現したMms13−scFvは磁性細菌粒子上で機能発現しなかったのに対し、ペリプラズムに発現したscFv−Fcは磁性細菌粒子上で機能発現していることが示された。
ここで用いたscFv(scFv13R4)は、大腸菌の細胞質において高い可溶性とフォールディング能を持つよう機能改変された抗β−Galactosidase scFv(scFv13)の変異体である。しかしながら、高い可溶性を持つscFv13R4であっても従来の直接発現法では磁性細菌粒子上で機能発現しなかった。
【0079】
以下で説明する実施例2及び3は、本発明の第2の側面に対応する。
<実施例2>In vivo docking法による磁性細菌粒子上でのGFP及びmCherryの共局在
本実施例では、BacMPsに固定化する複数の目的タンパク質として、GFP及びmCherryを使用した。
(2−1)試料
試薬類は全て研究用の市販特級品またはそれに準じたものを用い、試薬等の調製は蒸留水及び蒸留水をMilliQ Lab(日本ミリポア)で処理した純水を用いた。アルカリホスファターゼ(ALP)標識mouse由来anti−c−mycモノクローナル抗体は、ACRISより購入した。Mouse由来抗GFPモノクローナル抗体及び、mouse由来抗mCherryモノクローナル抗体はClontech Laboratoriesより購入した。Goat由来ALP標識抗mouse IgG抗体はSanta Cruz Biotechnologyより購入した。組み換えGFP及びmCherryはCELL BIOLABSより購入した。プレートリーダーにはSH−9000(コロナ電気)を用いた。ALPの発光基質には和光純薬株式会社のルミホス530を用いた。
また、本実施例では融合タンパク質の発現ホストとして磁性細菌
M.magneticum AMB−1株のmms13遺伝子欠損株(Δmms13株)を使用した。プラスミド構築には、大腸菌TOP10(Invitrogen)を使用した。
【0080】
プラスミドベクターは、T.Yoshino,A.Shimojo,Y.Maeda,T.Matsunaga.,Inducible Expression of Transmembrane Protein on Bacterial Magnetic Particles in
Mamnetospirillum magneticum AMB−1,Appl Environ Microbiol.(2010)に記載されたpUMtOR13GFPを基にして構築した。
【0081】
(2−2)プラスミドの構築と磁性細菌の培養
図11(A)に、本実施例で構築したプラスミドコンストラクトpUMtetDoc−M13miniscafを示す。該プラスミドは、Pmsp1(tetO)プロモーターの下流にGFPと
Clostridium thermocellumのCelS由来Dockerin(DocC)の融合タンパク質(GFP−DocC)、mCherryと
Ruminococcus flavefaciensのScaA由来Dockerin(DocR)の融合タンパク質(mCherry−DocR)、及びPmms16プロモーターの下流にMms13、NS linker、
C.thermocellum由来Cohesin(CohC)、
R.flavefaciens由来Cohesin(CohR)、c−myc tagの融合タンパク質(Mms13−miniscaffoldin)の遺伝子を含む。
更に、Pmms16プロモーターの下流にGFP−DocC、mCherry−DocRの遺伝子を含むpUMtetDoc(図示せず)を構築した。
【0082】
作製した各プラスミドを用いて、エレクトロポレーション法によりΔmms13株の形質転換を行った。磁性細菌の培養には、magnetic spirillum growth medium(MSGM)を培地として用い、5Lの培地に、プレカルチャーを1/1000植菌し、室温26〜29℃で静置することで培養を行った。植菌時には、アルゴンガスでバブリング(15分間)することにより微好気状態を作った。また、形質転換体の培養の際は終濃度5.0μg/mlアンピシリンを添加し、対数増殖期中期に終濃度500ng/ml ATcを添加し、一晩培養した。BacMPsの回収は、以下に示す方法で行った。
【0083】
(2−3)磁性細菌粒子の調製
菌体培養後、遠心分離(9000g、4℃、10分間)を行い、培養液から磁性細菌を回収した。回収した磁性細菌は、1mM CaCl
2を含むHEPES緩衝液(10mM、pH7.4)に懸濁し、フレンチプレス(有限会社大岳製作所,5501M)を使用して1800kg/cm
2で菌体破砕を行った(3回)。破砕液をガラスの容器に移し、Nd−Fe−B(ネオジウム−鉄−ボロン)磁石を添付することにより、BacMPsを回収した。上清を取り除き、更に1mM CaCl
2を含むHEPES緩衝液を加え、磁気分離することでBacMPsの洗浄を行った(10回)。BacMPsを適量のPBSに分散させ吸光度(660nm)を測定し、検量線より乾燥重量に換算した。
【0084】
(2−4)ウェスタンブロッティング及びBacMPs上での抗体結合試験
野生型(WT)及び各形質転換体の菌体培養液を遠心分離(8000g、10分間)し、菌体を回収した。菌体2×10
9 cellsに対して1%SDS溶液20μlを添加し99℃で30分間煮沸した。更に、3×SDS sample bufferを添加し、99℃で5分間加熱し、菌体サンプルとした。また、WT及び各形質転換体から得られたBacMPs25〜500μgに対し、1%SDS溶液30μlを添加後、超音波により拡散させながら煮沸した(100℃、30分間)。遠心分離(18000g、5分間)により上清を回収し、3×SDS sample bufferをサンプルに15μl加え、99℃で5分間加熱し、粒子膜画分サンプルとした。コントロールとして、組み換えGFP及び組み換えmCherryを用いた。
【0085】
各サンプルをアクリルアミド濃度15%のゲルを用いてSDS−PAGEに供した。泳動後のゲルをPVDF膜へセミドライ法でブロッティングを行った。ブロッティング後のPVDF膜に対し、ALP標識抗c−myc抗体(1μg/ml、PBST)または、一次抗体に、mouse由来抗GFPモノクローナル抗体(0.05μg/ml、PBST)、mouse由来抗mCherryモノクローナル抗体(2μg/ml、PBST)、二次抗体にGoat由来ALP標識mouse IgG抗体(0.5μg/ml、PBST)を反応させた(室温、1時間)。PBS−Tを用いて10分間の洗浄を3回繰り返した後、基質としてNBT/BCIP−Blue Liquid Substrateを加え発色させた。また、解析には画像解析ソフトImage Jを用いてピクセル強度を算出した。
【0086】
次に、BacMPs上での抗体結合試験を行った。
WT及び形質転換体由来BacMPs 50μgにALP標識抗c−myc抗体(1μg/ml、PBST)、mouse由来抗GFPモノクローナル抗体(1μg/ml、PBST)またはmouse由来抗mCherryモノクローナル抗体(1μg/ml、PBST)100μlを室温で30分間反応させた。洗浄後、mouse由来抗GFPモノクローナル抗体またはmouse由来抗mCherryモノクローナル抗体を反応させたBacMPsは、更に二次抗体としてgoat由来ALP標識抗mouseIgG抗体(1μg/ml)を反応させた。洗浄後、TBS 50μlにBacMPsを懸濁した。96穴プレートに移した後にルミホス530を50μl添加し、5分後の発光強度を測定した。
【0087】
(2−4−1)形質転換体におけるMms13−miniscaffoldinの局在確認
Mms13−miniscaffoldinのC末端に融合したc−myc tagに対する抗体を用いて、形質転換体におけるMms13−miniscaffoldin(57kDa)の発現確認を行った。ウェスタンブロッティングの結果、pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体において、Mms13−miniscaffoldinの発現を確認することができた(
図12(A)、レーン1)。
また、上記BacMPsへの抗体結合試験により、精製したBacMPs上でのMms13−miniscaffoldinの局在を確認した。その結果、pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体から精製したBacMPsにおいて、抗c−myc抗体の結合が確認された(
図12(B)、レーン1)。
以上の結果より、形質転換体内で発現したMms13−miniscaffoldinはBacMPs膜上に局在し、固定化されていることが示された。
【0088】
(2−4−2)形質転換体におけるGFP−DocC及びmCherry−DocRの発現並びにBacMPs上への結合確認
形質転換体におけるGFP−DocC及びmCherry−DocRの発現を確認するために、ウェスタンブロッティングによるGFP−DocC(36kDa)、mCherry−DocR(38kDa)の検出を行った。その結果、形質転換体において、GFP−DocC、mCherry−DocRの発現を確認することができた(
図13(A)及び(B)、レーン1)。
また、各形質転換体のGFP−DocC及びmCherry−DocRのバンドを画像解析ソフトImage Jを用いて解析し、ピクセル強度の比較を行った。pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体のGFP−DocC及びmCherry−DocRのピクセル強度を100%としたとき、pUMtetDocを保持する形質転換体において、GFP−DocCが18%、mCherry−DocRが69%であった。よって、pUMtetDocを保持する形質転換体では、pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体に比べ、GFP−DocC及びmCherry−DocRの発現量が低下していることが示された。Dockerinは、Cohesinと結合していない状態では構造が不安定となり、細胞内でプロテアーゼにより分解されることが報告されている。従って、Mms13−miniscaffoldinを発現しないpUMtetDocを保持する形質転換体では、GFP−DocC及びmCherry−DocRが分解され、発現量が低下したと考えられる。
【0089】
また、GFP抗体及び抗mCherry抗体を用いたBacMPs上への抗体結合試験の結果、pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体から精製したBacMPsにおいて、抗GFP抗体及び抗mCherry抗体の結合を確認できた(
図14(A)及び(B)、レーン1)。よって、形質転換体内で発現したGFP−DocC及びmCherry−DocRは、Mms13−miniscaffoldinが局在したBacMPs上に結合していることが示された。
これらの結果から、足場となるMms13−miniscaffoldin及びGFP−DocC、mCherry−DocRを共発現させることで、BacMPs上にワンステップで2種類のタンパク質を固定化できることが示された。
【0090】
(2−4−3)BacMPs上でのGFP−DocC及びmCherry−DocRの共局在の確認
足場であるMms13−miniscaffoldinは、それぞれDocC及びDocRと結合するCohC及びCohRを1ドメインずつ含んでいる。従って、Mms13−miniscaffoldin上にGFP−DocC及びmCherry−DocRが共局在した場合、GFP−DocC及びmCherry−DocRの結合量比が1:1になる。
BacMPs上に結合したGFP−DocC及びmCherry−DocRの固定化量を算出するために、精製したBacMPsの膜画分に含まれるGFP−DocC及びmCherry−DocR量をウェスタンブロッティングにより定量した。濃度既知のGFP及びmCherryを用いて検量線を作成し、Image Jによる解析を行った(
図15)。
その結果、GFP−DocC及びmCherry−DocRの結合量はそれぞれ1mg BacMPsあたり380ng及び570ngであった。よってBacMPs上に同程度のGFP−DocC及びmCherry−DocRが固定化されていることが示された。mCherry−DocRの結合量と比較してGFP−DocCの結合量がわずかに低い理由は、GFP−DocCがプロテアーゼによる分解を受けやすいことが影響していることにあると考えられる。
【0091】
(2−5)形質転換体の蛍光顕微鏡観察
形質転換体のGFP及びmCherryの蛍光顕微鏡観察を行い、細胞内での局在解析を行った。WT及び形質転換体の培養液を、2%アガロースゲルを塗布したスライドガラス上に滴下し、観察を行った。GFP蛍光の検出にはGFP検出用フィルター(励起/検出:466nm:525nm)を用いた。mCherryの検出にはCY3フィルター(励起/検出:513−556nm/570−613nm)を用いた。GFP/mCherryのFRETの観察には励起フィルター(460−495nm)及び検出フィルター(580nm)を組み合わせたFRET検出フィルター用いた。
蛍光観察の結果、pUMtetDocを保持する形質転換体においてmCherryの蛍光は検出されたが、GFPの蛍光は検出されなかった(
図16(B))。これはGFP−DocCの発現量が低いことが原因であると考えられる。pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体においてはGFP及びmCherryの蛍光が検出された(
図16(C))。また、それらの蛍光から、GFP及びmCherryが細胞内で同一の位置に局在していることが示された。
【0092】
更に、GEPの励起波長を照射し、mCherryの蛍光波長を検出することでGFPとmCherryと間のFRET(Fluorescence resonance energy transfer)を観察した。ここで、FRETとは、2個の蛍光分子が近接して(10nm以下)位置する場合に、一方の分子が吸収したエネルギーが、他方の分子に移動し、蛍光を発する現象である。
観察の結果、pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体において、GFP及びmCherryの局在位置と同様の位置に、FRETによるmCherryの蛍光が検出された(
図16(C)の“FRET”のレーン)。従って、GFP−DocC及びmCherry−DocRが近接に位置していることが示された。
これらの結果から、pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体において、菌体内で発現したGFP−DocC及びmCherry−DocRは、BacMPs上に局在したMms13−miniscaffoldinに結合し共局在していることが示された。
【0093】
本実施例では、cohesinドメインを有するminiscafolldin及びdockerinを融合した蛍光タンパク質を磁性細菌AMB−1において共発現することで、BacMPs上に共局在できることが示された。本手法は、タンパク質の精製や固定化のために煩雑な操作を行う必要が無く、非常に簡便にタンパク質−磁性粒子複合体を作製することができる。
【0094】
<実施例3>In vitro docking法によるMHC class II及びシャペロン様タンパク質HLA−DRの磁性粒子上への共局在によるMHCの機能発現
本実施例では、BacMPsに固定化する複数の目的タンパク質として、eMHC II及びHLA−DMとを使用した。
【0095】
(3−1)試料
試薬類は全て研究用の市販特級品またはそれに準じたものを用い、試薬等の調製は蒸留水及び蒸留水をMilliQ Lab(日本ミリポア)で処理した純水を用いた。アルカリホスファターゼ(ALP)標識抗FLAGモノクローナル抗体はシグマアルドリッチジャパンより購入した。アルカリホスファターゼ(ALP)標識抗HA tagモノクローナル抗体はabcamより購入した。N末端ビオチン標識HA
306−318(PKYVKQNTLKLAT)は株式会社ベックスより購入した。ALP標識ストレプトアビジンはRocheより購入した。プレートリーダーにはSH−9000(コロナ電気)を用いた。ALPの発光基質には和光純薬株式会社のルミホス530を用いた。
また、本実施例では融合タンパク質の発現ホストとして磁性細菌
M.magneticum AMB−1株のmms13遺伝子欠損株(Δmms13株)を使用した。プラスミド構築には、大腸菌TOP10(Invitrogen社製)を使用した。
プラスミドベクターは、T.Yoshino,A.Shimojo,Y.Maeda,T.Matsunaga.,Inducible Expression of Transmembrane Protein on Bacterial Magnetic Particles in
Mamnetospirillum magneticum AMB−1,Appl Environ Microbiol.(2010)に記載されたpUMtOR13GFPを基にして構築した。
【0096】
(3−2)プラスミドの構築と磁性細菌の培養
図17(A)に、本実施例で構築したベクターコンストラクトpUMMHC II−DMDoc−M13miniscafを示す。
該ベクターは、Pmsp1(tetO)プロモーターの下流にMHC IIの細胞外ドメイン、FLAG tag、
Clostridium thermocellumのCelS由来Dockerin(DocC)の融合タンパク質(MHC II−DocC)、HLA−DM、HA−tag、
Ruminococcus flavefaciensのScaA由来Dockerin(DocR)の融合タンパク質(DM−DocR)、及びPmms16プロモーターの下流にMms13、NS linker、
C.thermocellum由来Cohesin(CohC)、
R.flavefaciens由来Cohesin(CohR)、c−myc tagの融合タンパク質(Mms13−miniscaffoldin)の遺伝子を含む。
更に、Mms13、NS linker、
C.thermocellum由来Cohesin(CohC)、c−myc tagの融合タンパク質(Mms13−cohC)の遺伝子を含むベクターコンストラクトpUMMHC II−DMDoc−M13cohC(図示せず)を構築した。
【0097】
作製した各プラスミドを用いて、エレクトロポレーション法によりΔmms13株の形質転換を行った。
また、磁性細菌の培養には、magnetic spirillum growth medium(MSGM)を培地として用い、5Lの培地に、プレカルチャーを1/1000植菌し、室温(26〜29℃)で静置することで培養を行った。植菌時には、アルゴンガスでバブリング(15分間)することにより微好気状態を作った。また、形質転換体の培養の際は終濃度5.0μg/mlアンピシリンを添加し、対数増殖期中期に終濃度500ng/ml ATcを添加し、一晩培養した。
【0098】
(3−3)磁性細菌粒子の調製
磁性細菌粒子の調製は、上記実施例2の(2−3)で説明したのと同様の方法で行った。
【0099】
(3−4)ウェスタンブロッティング及びBacMPs上での抗体結合試験
WT及び各形質転換体の菌体培養液を遠心分離(8000g、10分間)し、菌体を回収した。菌体2×10
9cellsに対して1%SDS溶液20μlを添加し99℃で30分間煮沸した。更に、3×SDS sample bufferを添加し99℃で5分間加熱し、菌体サンプルとした。WT及び各形質転換体から得られたBacMPs200μgに対し、1%SDS溶液30μlを添加後、超音波により拡散させながら煮沸した(100℃、30分間)。遠心分離(18000g、5分間)により上清を回収し、3×SDS sample bufferをサンプルに15 μl加えて99℃で5分間加熱し、粒子膜画分サンプルとした。
各サンプルを、アクリルアミド濃度12.5%のゲルを用いてSDS−PAGEを行った。泳動後のゲルをPVDF膜へセミドライ法でブロッティングを行った。ブロッティング後のPVDF膜に対し、ALP標識抗FLAGモノクローナル抗体(1μg/ml、PBST)またはALP標識抗HA tagモノクローナル抗体(1μg/ml、PBST)を反応させた(室温、1時間)。PBS−Tを用いて10分間の洗浄を3回繰り返した後、基質としてNBT/BCIP−Blue Liquid Substateを加え、発色させた。
【0100】
次に、形質転換体由来BacMPs上に、目的タンパク質であるeMHC II−DocC及びDM−DocRが結合していることを確認するため、抗体結合試験を行った。
WT及び形質転換体由来BacMPs50μgにALP標識抗FLAGモノクローナル抗体(1μg/mL、PBST)、ALP標識抗HA tagモノクローナル抗体(1μg/ml、PBST)100μLを、室温で30分間反応させた。洗浄後、TBS50μlにBacMPsを懸濁した。96穴プレートに移した後、ルミホス530を50μl添加し、5分後の発光強度を測定した。
【0101】
(3−4−1)eMHC II−DocC及びDM−DocRの発現確認
図17(A)に示すように、プラスミドpUMMHC II−DMDoc−M13miniscafは、eMHC−DocC及びDM−DocRはリボソーム結合サイト(RBS)を介してオペロンを構成している。また、pUMMHC II−DMDoc−M13cohC(図示せず)も同様の構成を有する。
ウェスタンブロッティングの結果から、pUMMHC II−DMDoc−M13miniscafを保持する形質転換体、及び、pUMMHC II−DMDoc−M13cohCを保持する形質転換体おいて、eMHC−DocC及びDM−DocRの発現を確認した。ここでは、eMHC−DocCに導入したFLAG tag及びDM−DocRに導入したHA tagに対する抗体を用いて検出を行った。
【0102】
(3−4−2)eMHC II−DocC及びDM−DocRのBacMPs上への結合確認
形質転換体由来BacMPs上にeMHC II−DocC及びDM−DocRが結合していることを確認するために、抗体結合試験を行った。pUMMHC II−DMDoc−M13miniscafを保持する形質転換体由来BacMPsにおいては、eMHC II−DocC及びDM−DocRの結合を確認することができた。一方、pUMMHC I−DMDoc−M13cohCを保持する形質転換体由来BacMPsにおいては、eMHC II−DocCの結合が確認できた。
【0103】
(3−5)ペプチド結合アッセイ及びeMHC II−DocCのペプチド結合能の評価
ペプチド結合アッセイを行い、eMHC II−DocCのペプチド結合能の評価を行った。具体的には、eMHC II−DocC及びDM−DocR結合BacMPs(eMHC II/DM−BacMPs)及びeMHC II−DocC結合BacMPs(eMHC II−BacMPs)に対して、インフルエンザヘマグルチニン由来抗原ペプチド(HA
306−318)の結合能を評価した。
ペプチドは、DMSOを用いて5mg/mlに調整し、使用するまで−20℃で保存した。WT及び各形質転換体から得られたBacMPs50μgに0.1〜10μM(PBST)に調整したビオチン標識HA
306−318100μlを加え、37℃で3時間反応させた。その後100μl PBSを用いて3回洗浄を行い、ALP標識ストレプトアビジン(ALP−SA:0.5U/ml、PBST)100μLを加え、30分間室温で反応させた。その後、Tris−HCl buffer(pH7.4)100μlを用いて2回洗浄を行い、TBS 50μlに懸濁したものをサンプルとして使用した。96−well microtiterplateに移し、ルミホス530(50μl)を加え、5分間室温で反応させた後、発光プレートリーダーを用いて発光強度を測定した。
【0104】
その結果、eMHC II/DM−BacMPsでは抗原ペプチドの結合が確認されたが、一方、DM−DocRが共局在していないeMHC II−BacMPsには、抗原ペプチドは結合しなかった。
更に、HA
306−318濃度、反応時間のカイネティクスを解析した。
【0105】
本実施例では、磁性細菌内でeMHC II及びシャペロンであるHLA−DMを共局在させることにより、従来生産が困難であったeMHC IIの調製に成功した。
既に述べた通り、MHC II分子は、ヒトの免疫機構を担う重要なタンパク質であり、種々の疾患及び病原体由来の抗原タンパク質の分解産物(抗原ペプチド)と結合し、抗原ペプチド−MHC II複合体(pMHC II)を形成する。それ故、MHC IIのペプチド結合能の解析、抗原ペプチドの同定は重要である。
抗原ペプチドと結合していない状態のMHC II(eMHC II)は構造が不安定であり、凝集塊を形成する。そのため、組み換えMHC IIは、例えば、α鎖及びβ鎖を封入体として別々に生産した後、抗原ペプチドと混合しリホールディングすることにより作製されており、この方法では、煩雑な操作が必要である。また、UV分解性抗原ペプチドを導入したpMHC IIにHLA−DMを添加し、UVを照射することでペプチド結合能を有したeMHC IIを作製されることが報告されているが、この系においてペプチド結合能を有したeMHC IIを作製するためには、高濃度のHLA−DMが必要になる。即ち、従来、MHC IIの、目的の抗原ペプチド候補とのペプチド結合能を評価するためには、煩雑な実験ステップを必要とするか、又は、非常に高濃度の試料を必要としていた。加えて、親和性の高い抗原ペプチドを用いてpMHC IIを作製しなければ充分な安定性が得られなかった。このような、組み換えMHC IIの作製の煩雑さ及び困難さがMHC II研究のボトルネックとなっていた。
しかし、本実施例では、磁性細菌内でeMHC II及びシャペロンであるHLA−DMを共局在させることで、従来生産が困難であったeMHC IIを簡便且つ効率的に、またその機能を維持した状態で調製することができた。本実施例においては、磁性細菌の菌体内という限られた空間内でeMHC IIとHLA−DMとを共発現させ、且つ、足場タンパク質を介してこれらを共局在させ、eMHC IIとHLA−DMを近接した位置に配置できることから、ペプチド結合能を保持したeMHC IIを効率的に生産することが可能である。更に、eMHC II及びHLA−DMはBacMps上に固定化されていることから、外部磁場を用いて簡便に回収することが出来るため、抗原ペプチドスクリーニング技術の簡便化や応用が期待できる。