特許第6426310号(P6426310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6426310
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】圧電素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/09 20060101AFI20181112BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20181112BHJP
   H01L 41/316 20130101ALI20181112BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   H01L41/09
   H01L41/187
   H01L41/316
   C23C14/08 K
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-565521(P2017-565521)
(86)(22)【出願日】2017年1月27日
(86)【国際出願番号】JP2017002983
(87)【国際公開番号】WO2017135166
(87)【国際公開日】20170810
【審査請求日】2018年7月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-20411(P2016-20411)
(32)【優先日】2016年2月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤木 大悟
(72)【発明者】
【氏名】新川 高見
【審査官】 宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−182717(JP,A)
【文献】 特開2012−9677(JP,A)
【文献】 特開2014−203840(JP,A)
【文献】 特開2013−168530(JP,A)
【文献】 特開2011−181720(JP,A)
【文献】 特開2006−278489(JP,A)
【文献】 特開2012−9678(JP,A)
【文献】 特開2008−94707(JP,A)
【文献】 特開2010−84180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/09
H01L 41/187
H01L 41/316
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、下部電極、圧電体膜、密着層、および上部電極をこの順に備える圧電素子であって、
前記圧電体膜が、(100)面に優先配向したペロブスカイト構造を有し、組成式Pb[(ZrTi1−x1−yNb]Oで表される複合酸化物であり、式中、xは0<x<1であり、yは0.10≦y<0.13であり、かつ、X線回折法によって測定されたペロブスカイト(100)面からの回折ピーク強度I(100)とペロブスカイト(200)面からの回折ピーク強度I(200)の比であるI(200)/I(100)が、0.85≦I(200)/I(100)≦1.00であり、かつ、
前記密着層が、イオン化エネルギー0.34eV以下の金属を含む圧電素子。
【請求項2】
前記I(200)/I(100)が、0.90≦I(200)/I(100)≦1.00である請求項1記載の圧電素子。
【請求項3】
前記圧電体膜の膜厚が2.0μm以上である請求項1または2記載の圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸ジルコン酸鉛系の圧電体膜を備えた圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電界印加強度の増減に伴って伸縮する圧電体膜と、圧電体膜に対して電界を印加する一対の電極(上部電極および下部電極)とを備えた圧電素子は、インクジェット式記録ヘッドに搭載される圧電アクチュエータ等として使用されている。インクジェット式記録ヘッド等に使用される場合、高速化および高精細化のため圧電定数が高い素子が求められている。また、インクジェットヘッドの交換頻度が少ないことが好ましいため実用上充分な耐久性が必要とされている。
【0003】
圧電体膜の圧電材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(以下、PZTとも記載する。)、およびPZTのAサイトおよびBサイトの少なくとも一方を他元素で置換したPZTの置換系が知られている。被置換イオンの価数よりも高い価数を有するドナイオンを添加したPZTでは、PZTよりも圧電性能が向上することが知られている。Bサイトの元素を置換するドナイオンとして、V5+、Nb5+、Ta5+、Sb5+、Mo6+、およびW6+等が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、圧電体中のNb量が13%以上で、かつXRD(X‐ray diffraction,X線回折法)によって測定される(200)面のピーク強度I(200)と(100)面のピーク強度I(100)との比I(200)/I(100)が、I(200)/I(100)≦0.8である圧電素子が開示されている。この圧電素子によれば、結晶中の不安定なPbイオンの含有量が減少するため連続駆動耐久性が向上でき、圧電特性も良好に維持できることが記載されている。
【0005】
また特許文献2には、ペロブスカイト型酸化物において、X線吸収微細構造解析によるPb4+とPb2+の信号比が規定された圧電体が開示されている。この圧電体によれば、圧電特性と耐久性を両立させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−9677号公報
【特許文献2】特開2010−182717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
圧電素子の上部電極には、安定性の高いIrまたはPtなどが使用される。しかし、このような材料を用いると圧電体膜と上部電極との密着性が悪く、上部電極が剥がれるため、圧電体膜と上部電極との間に密着層が配置される。密着層には酸化されやすい材料が使用される。本発明者らの研究結果から、上記特許文献1に記載のピーク強度比がI(200)/I(100)≦0.8である圧電体を用いた圧電素子では、半田リフロー工程などの熱処理をした場合は、リーク電流が増加するという問題が新たにわかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、圧電特性を良好に維持し、かつリーク電流を抑制することが可能な圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの鋭意検討の結果、密着層を有し、熱処理を行う圧電素子において、Nb含有量とX線回折法によって測定されたペロブスカイト(100)面からの回折ピーク強度I(100)とペロブスカイト(200)面からの回折ピーク強度I(200)の比であるI(200)/I(100)を特定の値にすることによって、圧電特性を良好に維持し、かつ、リーク電流を抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、基板上に、下部電極、圧電体膜、密着層、および上部電極をこの順に備える圧電素子であって、
圧電体膜が、(100)面に優先配向したペロブスカイト構造を有し、組成式Pb[(ZrTi1−x1−yNb]Oで表される複合酸化物であり、式中、xは0<x<1であり、yは0.10≦y≦0.13であり、かつ、X線回折法によって測定されたペロブスカイト(100)面からの回折ピーク強度I(100)とペロブスカイト(200)面からの回折ピーク強度I(200)の比であるI(200)/I(100)が、0.85≦I(200)/I(100)≦1.00であり、かつ、
密着層が、イオン化エネルギー0.34eV以下の金属を含む。
【0011】
(200)/I(100)は、0.90≦I(200)/I(100)≦1.00が好ましい。
【0012】
圧電体膜の膜厚は、2.0μm以上が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の圧電素子によれば、圧電特性を良好に維持し、かつリーク電流を抑制することが可能な圧電素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の圧電素子の一実施形態を示す概略断面図である。
図2】本発明の圧電素子の作製に用いるスパッタ装置の一例の概略構成図である。
図3】本発明の一実施例の圧電素子のX線回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[圧電素子]
本発明の圧電素子について、図1を参照しながら説明する。図1は本発明の圧電素子の一実施形態の概略断面図である。
圧電素子10は、基板11の表面に、下部電極12、圧電体膜13、密着層14、および上部電極15を備える。圧電体膜13は、下部電極12と上部電極15とにより膜厚方向に電界が印加されるようになっている。
【0016】
基板11としては特に制限なく、シリコン、ガラス、ステンレス(例えば、SUS304)、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、SrTiO、アルミナ、サファイヤ、およびシリコンカーバイド等の基板が挙げられる。基板としては、シリコン基板上にSiO膜とSi活性層とが順次積層されたSOI(Silicon on Insulator)基板等の積層基板を用いてもよい。また、基板と下部電極との間に、格子整合性を良好にするためのバッファ層や、電極と基板との密着性を良好にするための密着層等を設けてもよい。
【0017】
下部電極12は、圧電体膜13に電圧を加えるための電極である。下部電極としては、特に制限がなく、Au、Pt、Ir、IrO、RuO、LaNiO、SrRuO、ITO、およびTiN(窒化チタン)等の金属、金属酸化物、または透明導電性材料で構成されている。下部電極として、例えば、Ir電極を用いることが好ましい。
【0018】
圧電体膜は、(100)面に優先配向したペロブスカイト構造を有し、組成式Pb[(ZrTi1−x1−yNb]Oで表される複合酸化物であり、式中、xは0<x<1であり、yは0.10≦y≦0.13であり、かつ、X線回折法によって測定されたペロブスカイト(100)面からの回折ピーク強度I(100)とペロブスカイト(200)面からの回折ピーク強度I(200)の比であるI(200)/I(100)が、0.85≦I(200)/I(100)≦1.00である。
本発明の圧電体膜は、上記組成式Pb[(ZrTi1−x1−yNb]Oで表しているが、詳しくは、組成式Pb1+δ[(ZrxTi1−x)1−yNby]Ozで表され、δ=0およびz=3が標準であるが、これらの値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。
【0019】
ここで、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。具体的には、「(100)面に優先配向する」とは、X線回折広角法によって、圧電体膜を測定した際に生じる(100)面、(110)面および(111)面の回折強度の比率(100)/((100)+(110)+(111))が0.5より大きいことを意味する。
【0020】
Nbの含有量を0.10(百分率で10%)以上とすることにより圧電特性を高くすることできる。また、Nb含有量を0.13(百分率で13%)以下とすることによりPb含有量の増大によるリーク電流の増大を抑制することができる。
また、ピーク強度比を上記範囲にすることにより圧電体膜中の酸素欠陥を抑制することができ、リーク電流を抑制することができる。
【0021】
ピーク強度比I(200)/I(100)は、0.90≦I(200)/I(100)≦1.00を満たすことがより好ましい。
【0022】
熱処理によってリーク電流が増大するメカニズムは明らかではないが、密着層は酸化されやすい金属から構成されているため、密着層が圧電体膜の結晶中から酸素を引き抜いてn型半導体化することによると推測される。I(200)/I(100)比を規定することによってリーク電流を制御できる理由は明確ではないが、I(200)/I(100)比は結晶中の酸素欠陥量や格子歪みなどを反映しており、酸素が引き抜かれ易い指標となっていると考えられる。
【0023】
すなわち、上記の圧電体膜とすることにより、圧電体膜の上に密着層が形成されて熱処理がされても、圧電体膜が酸素イオンが移動しにくい結晶であるため、リーク電流の増大が抑制される。
また、Nb含有量が10%以上13%以下であるため、良好な圧電特性を維持することができる。
【0024】
圧電体膜の膜厚は、2.0μm以上が好ましい。このような厚膜の圧電体膜は、後述する気相成長法によって成膜可能である。
【0025】
密着層14は、イオン化エネルギー0.34eV以下の金属を含む。密着層14は、圧電体膜と上部電極との密着性を向上させる。イオン化エネルギー0.34eV以下の金属としては、例えば、Ti、Al、Cu、およびTiW等を挙げることができる。
【0026】
上部電極15は、圧電体膜に電圧を加えるための電極である。上部電極は、IrまたはPt、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0027】
下部電極12および上部電極15の厚みには特に制限はなく、50〜500nmであることが好ましい。
【0028】
(圧電素子の製造方法)
圧電体膜の成膜方法としては、特に限定されず、スパッタ法、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、およびPLD(Pulse Laser Deposition)法などの気相成長法、ゾルゲル法および有機金属分解法などの液相法、およびエアロゾルデポジション法などが挙げられる。成膜中に成膜条件を変えやすいことから気相成長法が好ましい。また、気相成長法で行なうことにより、成膜時の横スジの発生を抑制することができ、耐久性の高い圧電体膜を成膜することができる。
【0029】
次に、圧電素子の製造方法の一実施形態について図2を参照しながら説明する。図2に、スパッタ装置の一例の概略構成図を示す。
スパッタ装置(高周波スパッタリング装置)200は、基板Bが装着可能である。装着された基板Bを所定温度に加熱することが可能な基板ホルダー211と、ターゲットTが装着可能なターゲットホルダ212とが備えられた真空容器210から概略構成されている。図2における装置では、真空容器210が成膜チャンバとなっている。基板Bは、下部電極が成膜された基板である。
【0030】
真空容器210内において、基板ホルダー211とターゲットホルダ212とは互いに対向するように離間配置されている。ターゲットホルダ212は真空容器210の外部に配置された高周波(RF)電源213に接続されており、ターゲットホルダ212がプラズマを発生させるためのプラズマ電源(カソード電極)となっている。図2においては、真空容器210内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段214として、高周波電源213およびプラズマ電極(カソード電極)として機能するターゲットホルダ212が備えられている。ターゲットTの組成は、成膜する膜の組成に応じて選定される。
【0031】
成膜装置200には、真空容器210内にプラズマ化させるガスGを導入するガス導入手段217と、真空容器210内のガスの排気Vを行なうガス排出管218が備えられている。ガスGとしては、Ar、またはAr/O混合ガスなどが使用される。
【0032】
図2においては、真空容器210の内側にフローティング壁220を設け、フローティング壁220をフローティング電位としている。壁面をフローティング電位とすることで、プラズマ電位と同電位となるため、プラズマ成分が真空容器210の壁面に到達しにくくなり、基板Bに対するイオンの衝突エネルギーを高くすることができる。したがって、Pbイオンをペロブスカイト構造(ABO)のAサイトに配置することができ、結晶中の不安定なPbイオンの量を減らすことができるので、形成された圧電体膜は高い圧電性能を得ることができる。
【0033】
図2においては、真空容器210の壁面をフローティング電位とすることで、基板Bへのイオンの衝突エネルギーを高くしているが、他の方法として、真空容器210内のアノード面積を小さくする、あるいは、真空容器の壁面を絶縁体で被覆する、基板Bのインピーダンスを変化させることにより、制御を行なうこともできる。
【0034】
成膜温度は、400℃以上450℃未満が好ましく、410℃以上440℃以下がより好ましい。成膜温度とは、基板温度を意味する。このような温度とすることにより、圧電体膜のピーク強度比を0.85≦I(200)/I(100)≦1.00とすることができる。
【0035】
成膜ガス中の酸素の割合は、0.5%以下が好ましい。0.5%以下とすることにより、膜中の過剰な酸素を抑制できるため、熱処理後のリークを抑制可能である。
【0036】
圧電体膜上に、密着層、および上部電極を順次スパッタ装置で積層することによって圧電素子を作製することができる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、添加剤、物質量とその割合、および操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
300mmφターゲットを搭載したスパッタリング装置を用いて、図2に示すように、成膜チャンバ側壁面をフローティング電位とした。基板にはインピーダンスが可変なLCR(L(インダクタンス),C(キャパシタンス),R(レジスタンス))回路を接続し、基板のインピーダンスを変化させることで、成膜中のVsub(成膜中の基板電位)を変更できるようにした。ターゲットとしてPb1.3(Zr0.46Ti0.42Nb0.10)Oを用い、投入電力3kWのRfスパッタリングを行い、PZT薄膜2.0μm(圧電体膜)を作製した。成膜温度は440℃とし、成膜ガスは99.5%Arと0.5%Oの混合ガスとした。
得られた薄膜のXRD回折パターンを図3に示す。圧電体膜は(100)単一配向を有しており、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.85であった。
【0039】
次に、圧電体膜が積層された基板に、密着層にTi、上部電極にPtをスパッタリングし、リソグラフィーにより上部電極がパターニングされた圧電素子を作製した。
得られた圧電素子を350℃で5分熱処理をした。熱処理前後において、250KV/cmの電界強度における電流密度を測定した。
【0040】
[実施例2]
ターゲットとして、BサイトにNb11%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の条件でPZT薄膜を作製した。なお、Zr:Tiは、46:42となるように調整して添加した。なお、以下の実施例および比較例においても、Nbのドープ量に関わらず、ジルコニウムとチタンの組成比は、Zr:Ti=46:42で固定して行なった。
得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.85であった。
【0041】
[実施例3]
ターゲットとして、BサイトにNb12%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の条件でPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.85であった。
【0042】
[実施例4]
ターゲットとして、BサイトにNb13%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の条件でPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.85であった。
【0043】
[実施例5]
ターゲットとして、BサイトにNb10%をドープしたPZTを用いて、成膜温度430℃、成膜ガスは99.5%Arと0.5%Oの混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100は0.90であった。
【0044】
[実施例6]
ターゲットとして、BサイトにNb12%をドープしたPZTを用いて、成膜温度430℃、成膜ガスは99.5%Arと0.5%Oの混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.90であった。
【0045】
[実施例7]
ターゲットとして、BサイトにNb13%をドープしたPZTを用いて、成膜温度430℃、成膜ガスは99.5%Arと0.5%Oの混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.90であった。
【0046】
[実施例8]
ターゲットとして、BサイトにNb12%をドープしたPZTを用いて、成膜温度420℃、成膜ガスは99.5%Arと0.5%Oの混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.95であった。
【0047】
[実施例9]
ターゲットとして、BサイトにNb12%をドープしたPZTを用いて、成膜温度410℃、成膜ガスは99.5%Arと0.5%Oの混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は1.00であった。
【0048】
[比較例1]
ターゲットとして、BサイトにNb16%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の条件でPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.85であった。
【0049】
[比較例2]
ターゲットとして、BサイトにNb10%をドープしたPZTを用いて、成膜温度450℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%Oの混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.80であった。
【0050】
[比較例3]
ターゲットとして、BサイトにNb13%をドープしたPZTを用いて、成膜温度450℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%Oの混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.80であった。
【0051】
[比較例4]
ターゲットとして、BサイトにNb15%をドープしたPZTを用いて、成膜温度450℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%Oの混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折測定を行ったところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.80であった。
【0052】
[比較例5]
ターゲットとして、BサイトにNb13%をドープしたPZTを用いて、成膜温度470℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%Oの混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを示す。得られた薄膜のXRD回折測定を行ったところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.70であった。
【0053】
[比較例6]
ターゲットとして、BサイトにNb14%をドープしたPZTを用いて、成膜温度440℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%Oの混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折測定を行ったところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.85であった。
【0054】
[比較例7]
ターゲットとして、BサイトにNb15%をドープしたPZTを用いて、成膜温度440℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%O2の混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを示す。圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I(200)/I(100)は0.85であった。
【0055】
[比較例8]
ターゲットとして、BサイトにNb12%をドープしたPZTを用いて、成膜温度400℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%Oの混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピークの強度比I(200)/I(100)は1.10であった。
【0056】
実施例および比較例の、熱処理前後のリーク電流密度の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0057】
熱処理前後のリーク電流密度の増大量を以下の評価基準に基づいて評価した。
【0058】
<評価基準>
A:熱処理によるリーク電流密度の増大量が1.5×10−8未満
B:熱処理によるリーク電流密度の増大量が1.5×10−8以上
C:熱処理によるリーク電流密度の増大量が5.5×10−7以上
【0059】
表1に示す実施例から、Nb含有量が10%以上13%以下であり、かつピーク強度比I(200)/I(100)が0.85以上1.00以下の場合、熱処理前後でのリーク電流の増大は抑制できることがわかる。なお、実施例の圧電素子は、良好な圧電定数を有することを確認している。
一方、Nb含有量およびピーク強度比I(200)/I(100)の一方または両方が本発明の範囲から外れる比較例は、熱処理によってリーク電流が増大することがわかる。特に、ピーク強度比I(200)/I(100)が0.85以上1.00以下であってもNb含有量が13%より大きい比較例1、6および7は、結晶中の不安定なPbイオンの増加により、リーク電流が増加したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の圧電体膜は、インクジェット式記録ヘッド、磁気記録再生ヘッド、MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)デバイス、マイクロポンプ、超音波探触子等に搭載される圧電アクチュエータ、および強誘電体メモリ等の強誘電体素子に好ましく利用できる。
【符号の説明】
【0061】
10 圧電素子
11 基板
12 下部電極
13 圧電体膜
14 密着層
15 上部電極
200 スパッタ装置
210 真空容器
211 基板ホルダー
212 ターゲットホルダ
213 高周波電源
220 フローティング壁
G ガス
B 基板
217 ガス導入管
218 ガス排出管
図1
図2
図3