【実施例】
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、添加剤、物質量とその割合、および操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
300mmφターゲットを搭載したスパッタリング装置を用いて、
図2に示すように、成膜チャンバ側壁面をフローティング電位とした。基板にはインピーダンスが可変なLCR(L(インダクタンス),C(キャパシタンス),R(レジスタンス))回路を接続し、基板のインピーダンスを変化させることで、成膜中のV
sub(成膜中の基板電位)を変更できるようにした。ターゲットとしてPb
1.3(Zr
0.46Ti
0.42Nb
0.10)O
xを用い、投入電力3kWのRfスパッタリングを行い、PZT薄膜2.0μm(圧電体膜)を作製した。成膜温度は440℃とし、成膜ガスは99.5%Arと0.5%O
2の混合ガスとした。
得られた薄膜のXRD回折パターンを
図3に示す。圧電体膜は(100)単一配向を有しており、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.85であった。
【0039】
次に、圧電体膜が積層された基板に、密着層にTi、上部電極にPtをスパッタリングし、リソグラフィーにより上部電極がパターニングされた圧電素子を作製した。
得られた圧電素子を350℃で5分熱処理をした。熱処理前後において、250KV/cmの電界強度における電流密度を測定した。
【0040】
[実施例2]
ターゲットとして、BサイトにNb11%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の条件でPZT薄膜を作製した。なお、Zr:Tiは、46:42となるように調整して添加した。なお、以下の実施例および比較例においても、Nbのドープ量に関わらず、ジルコニウムとチタンの組成比は、Zr:Ti=46:42で固定して行なった。
得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.85であった。
【0041】
[実施例3]
ターゲットとして、BサイトにNb12%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の条件でPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.85であった。
【0042】
[実施例4]
ターゲットとして、BサイトにNb13%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の条件でPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.85であった。
【0043】
[実施例5]
ターゲットとして、BサイトにNb10%をドープしたPZTを用いて、成膜温度430℃、成膜ガスは99.5%Arと0.5%O
2の混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100は0.90であった。
【0044】
[実施例6]
ターゲットとして、BサイトにNb12%をドープしたPZTを用いて、成膜温度430℃、成膜ガスは99.5%Arと0.5%O
2の混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.90であった。
【0045】
[実施例7]
ターゲットとして、BサイトにNb13%をドープしたPZTを用いて、成膜温度430℃、成膜ガスは99.5%Arと0.5%O
2の混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.90であった。
【0046】
[実施例8]
ターゲットとして、BサイトにNb12%をドープしたPZTを用いて、成膜温度420℃、成膜ガスは99.5%Arと0.5%O
2の混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.95であった。
【0047】
[実施例9]
ターゲットとして、BサイトにNb12%をドープしたPZTを用いて、成膜温度410℃、成膜ガスは99.5%Arと0.5%O
2の混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は1.00であった。
【0048】
[比較例1]
ターゲットとして、BサイトにNb16%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の条件でPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.85であった。
【0049】
[比較例2]
ターゲットとして、BサイトにNb10%をドープしたPZTを用いて、成膜温度450℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%O
2の混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.80であった。
【0050】
[比較例3]
ターゲットとして、BサイトにNb13%をドープしたPZTを用いて、成膜温度450℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%O
2の混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.80であった。
【0051】
[比較例4]
ターゲットとして、BサイトにNb15%をドープしたPZTを用いて、成膜温度450℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%O
2の混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折測定を行ったところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.80であった。
【0052】
[比較例5]
ターゲットとして、BサイトにNb13%をドープしたPZTを用いて、成膜温度470℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%O
2の混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを示す。得られた薄膜のXRD回折測定を行ったところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.70であった。
【0053】
[比較例6]
ターゲットとして、BサイトにNb14%をドープしたPZTを用いて、成膜温度440℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%O
2の混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折測定を行ったところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.85であった。
【0054】
[比較例7]
ターゲットとして、BサイトにNb15%をドープしたPZTを用いて、成膜温度440℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%O2の混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを示す。圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピーク強度比I
(200)/I
(100)は0.85であった。
【0055】
[比較例8]
ターゲットとして、BサイトにNb12%をドープしたPZTを用いて、成膜温度400℃、成膜ガスは98.5%Arと1.5%O
2の混合ガスとしてPZT薄膜を作製した。得られた薄膜のXRD回折パターンを測定したところ、圧電体膜は、(100)単一配向を有し、ピークの強度比I
(200)/I
(100)は1.10であった。
【0056】
実施例および比較例の、熱処理前後のリーク電流密度の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0057】
熱処理前後のリーク電流密度の増大量を以下の評価基準に基づいて評価した。
【0058】
<評価基準>
A:熱処理によるリーク電流密度の増大量が1.5×10
−8未満
B:熱処理によるリーク電流密度の増大量が1.5×10
−8以上
C:熱処理によるリーク電流密度の増大量が5.5×10
−7以上
【0059】
表1に示す実施例から、Nb含有量が10%以上13%以下であり、かつピーク強度比I
(200)/I
(100)が0.85以上1.00以下の場合、熱処理前後でのリーク電流の増大は抑制できることがわかる。なお、実施例の圧電素子は、良好な圧電定数を有することを確認している。
一方、Nb含有量およびピーク強度比I
(200)/I
(100)の一方または両方が本発明の範囲から外れる比較例は、熱処理によってリーク電流が増大することがわかる。特に、ピーク強度比I
(200)/I
(100)が0.85以上1.00以下であってもNb含有量が13%より大きい比較例1、6および7は、結晶中の不安定なPbイオンの増加により、リーク電流が増加したと考えられる。