(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
いわゆるローター・ステータータイプのミキサーは、一般的に、
図1に示すように、複数個の開口部1を備えているステーター2と、ステーター2の内側に所定の隙間δを空けて配置されるローター3とからなるミキサーユニット4を備えている。このようなローター・ステータータイプのミキサーは、高速で回転するローター3と、固定されているステーター2との間の隙間近傍で、高い剪断応力が発生することを利用して、流体などに対して、乳化、分散、微粒化、混合などの処理を行うものであり、食品、医薬品、化学品などの分野において、処理液の調合、調製などの用途で広く使用されている。
【0003】
ローター・ステータータイプのミキサーは、処理される流体の循環方式に応じて、
図2の矢印5aで示すように処理液が循環する外部循環式ミキサー、
図2の矢印5bで示すように処理液が循環する内部循環式ミキサーに分類されることがある。
【0004】
このようなローター・ステータータイプのミキサーに関して多種多様な形状や循環方式が提供されている。例えば、特許文献1(粒子形成のための回転子固定子装置および方法)には、複数個の開口部を備えているステーターと、当該ステーターの内側に所定の隙間を空けて配置されるローターとを備えているミキサーを薬剤、栄養補助食品、食品、化学品、化粧品などの幅広い分野で利用される、粒子の形成に適用する微細粒子の生成のための装置、方法が提案されている。これによれば、効率的で、簡単で、容易にスケールアップすることができるとされている。
【0005】
また、以前から種々の形状のミキサーの性能評価方法として、幾つかの指標(理論)が報告されている。
【0006】
例えば、前述したローター・ステータータイプのミキサーに限らず、液-液分散操作に着目してみると、液滴径の寸法は、平均的なエネルギー消散率の計算値(大小)で議論できることが報告されている(非特許文献1、2)。ただし、非特許文献1、2では、平均的なエネルギー消散率の計算方法は殆ど明らかにされていない。
【0007】
個別のミキサーに適用でき、その実験結果を整理した研究例は幾つか報告されている(非特許文献3〜6)。ただし、これらの研究例(非特許文献3〜6)では、ミキサーの微粒化効果に対して、ローターとステーターの隙間(ギャップ)のみの影響や、ステーターの開口部(ホール)のみの影響などを考察しており、各ミキサーで異なる内容しか報告されていない。
【0008】
ローター・ステータータイプのミキサーの微粒化機構(メカニズム)を考察した研究例は幾つか報告されている(非特許文献7、8)。これらでは、液滴の微粒化効果には、乱流のエネルギー消散率が寄与することや、その微粒化効果には、処理液の剪断応力を受ける頻度(剪断頻度)が影響することが示唆されている。
【0009】
ローター・ステータータイプのミキサーの スケールアップ方法では、長時間で運転して得られる最終的な液滴径(最大安定の液滴径)に関して幾つか報告されている(非特許文献9)。しかし、実際の製造現場では実用的ではなく、あまり有用ではない。つまり、ミキサーの処理(撹拌、混合)時間を考慮し、所定の時間で運転して得られる液滴径を推定した有用な研究例は殆ど報告されていない。仮に、ミキサーの処理時間を考慮して、液滴径を推定していても、それは単なる実測値(実験値)に基づく現象(事実)を報告しているのみであり、理論的に解析した研究例は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2005−506174号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Davies, J. T.; “Drop Sizes of Emulsions Related to Turbulent Energy Dissipation Rates,” Chem. Eng. Sci., 40, 839−842 (1985)
【非特許文献2】Davies, J. T.; “A Physical Interpretation of Drop Sizes in Homogenizers and Agitated Tanks, Including the Dispersion of Viscous Oils,” Chem. Eng. Sci., 42, 1671−1676 (1987)
【非特許文献3】Calabrese, R. V., M. K. Francis, V. P. Mishra and S. Phongikaroon; “Measurement and Analysis of Drop Size in Batch Rotor-Stator Mixer,” Proc. 10th European Conference on Mixing, pp. 149−156, Delft, the Netherlands (2000)
【非特許文献4】Calabrese, R. V., M. K. Francis, V. P. Mishra, G. A. Padron and S. Phongikaroon; “Fluid Dynamics and Emulsification in High Shear Mixers,” Proc. 3rd World Congress on Emulsions, pp. 1−10, Lyon, France (2002)
【非特許文献5】Maa, Y. F., and C. Hsu; “Liquid−Liquid Emulsification by Rotor/Stator Homogenization,” J. Controlled. Release, 38, 219−228 (1996)
【非特許文献6】Barailler, F., M. Heniche and P. A. Tanguy; “CFD Analysis of a Rotor-Stator Mixer with Viscous Fluids,” Chem. Eng. Sci., 61, 2888−2894 (2006)
【非特許文献7】Utomo, A. T., M. Baker and A. W. Pacek; “Flow Pattern, Periodicity and Energy Dissipation in a Batch Rotor-Stator Mixer,” Chem. Eng. Res. Des., 86, 1397−1409 (2008)
【非特許文献8】Porcelli, J.; “The Science of Rotor/Stator Mixers,” Food Process, 63, 60−66 (2002)
【非特許文献9】Urban K.; “Rotor-Stator and Disc System for Emulsification Processes,” Chem. Eng. Technol., 29, 24−31 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述した特許文献1には所定のミキサーの優位性(性能)や設計の数値範囲などが記載されているが、高性能なミキサーの設計の数値範囲などに関して理論的な根拠が記載されておらず、高性能なミキサーの種類や形状などに関して記載されていない。
【0013】
前述したように、以前から種々の形状のミキサーの性能評価方法として、幾つかの指標(理論)が報告されているが、これらの指標は、あくまでも形状の同じ個別のミキサーにしか適用できない場合が多く、実際には形状の異なる多種多様なミキサーには適用できない場合が殆どである。例えば、ローターとステーターの隙間(ギャップ)が微粒化効果に大きく影響するミキサーのみに適用できる指標や、ステーターの開口部(ホール)が微粒化効果に大きく影響するミキサーのみに適用できる指標などは存在するものの、あらゆる形状のミキサーに適用できる包括的な指標は議論されておらず、それらを考慮した指標は殆ど存在していない。
【0014】
このように、ローター・ステータータイプのミキサーの性能評価方法やスケールアップ方法に関する研究例は殆ど存在せず、形状の異なる多種多様なミキサーに適用でき、その実験結果を包括的に整理した研究例も殆ど存在していない。
【0015】
ローター・ステータータイプのミキサーの 性能評価方法やスケールアップ方法に関して、従来技術では、(1)個別のミキサー毎に、(2)小規模の装置を使用し、(3)長時間で運転して得られる最終的な液滴径(最大安定の液滴径)を評価している場合が殆どであった。つまり、従来技術では、(A)多種多様なミキサーに、(B)大規模(実製造規模)の装置を適用し、(C)所定の時間で運転して得られる液滴径や、所定の液滴径が得られるまでの処理(撹拌)時間を評価や推定していなかった。
【0016】
例えば、ローターとステーターの隙間(ギャップ)の寸法が微粒化効果や乳化効果に大きく影響するミキサーのみに適用できる指標や、ステーターの開口部(ホール)の寸法や形状が微粒化効果や乳化効果に大きく影響するミキサーのみに適用できる指標などは存在するものの、あらゆる形状のミキサーに適用できる包括的な指標 (多種多様なミキサーを統一して比較や評価できる理論)は議論されておらず、それらを考慮した指標は存在していなかった。
【0017】
そのため、現実的には、実際の処理液を使用して試行錯誤しながら、ミキサーを性能評価し、スケールアップしていた。
【0018】
そこで、本発明では、多種多様な形状や循環方式のミキサーに適用できる包括的な性能評価方法を確立すること、そのミキサーの運転条件(処理時間)を考慮したスケールアップ方法を確立すること、さらに、それらの性能評価方法やスケールアップ方法を利用した食品、医薬品、化学品などの製造方法(微粒化方法)を確立することを課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1記載の発明は、
複数個の開口部を備えているステーターと、
前記ステーターの中心側から径方向の外側に向かって伸びる複数枚の撹拌羽根によって
形成され、各撹拌羽根の径方向外側の面と前記ステーターの内周壁面との間に所定の隙間
を空けて前記ステーターの内側に配置されるローターと
を備えていて、被処理流体に対して、乳化、分散、微粒化あるいは混合の処理を施す、
ローター・ステータータイプのミキサー
の製造方法であって、
次の計算式で求められる前記ミキサー全体の形状依存項:Kc(m
5)の大きさ
を3.
14×10
−2以上
とし、かつ、
前記ステーターが備えている複数の開口部による開口面積比
を15〜50%
とするミキ
サー
の製造方法
である。
【数1】
【0020】
ここで、
前記の計算式中、
N
p :動力数 [-]
N
qd :流量数 [-]
n
r :ローターブレードの枚数 [-]
D :ローターの直径 [m]
b :ローターの翼先端の厚み [m]
δ :ローターとステーターの隙間 [m]
n
s :ステーターの孔数 [-]
d :ステーターの孔径 [m]
l :ステーターの厚み [m]
K
c :ミキサー全体の形状依存項 [m
5]
である。
【0025】
【0026】
【発明の効果】
【0027】
本発明によるローター・ステータータイプのミキサーの性能評価方法とスケールアップ・スケールダウン方法では、総括エネルギー消散率:ε
a という指標を適用する。各社から提供される多種多様な形状や循環方式のミキサーの総括エネルギー消散率:ε
a は、ローター(回転子)とステーター(固定子)の幾何学的な寸法、運転の動力と流量の測定値から個別に計算される。そして、この総括エネルギー消散率:ε
a は、各ミキサーの形状依存項と運転条件依存項とに分離して表現される。
【0028】
各ミキサーの性能評価方法、例えば、液滴径の微粒化傾向によって把握する性能評価方法では、形状依存項の計算値(大小)を使用することができる。
【0029】
また、各ミキサーのスケールアップ・スケールダウン方法では、形状依存項と運転条件依存項とを併せた総括エネルギー消散率:ε
aの計算値を使用し、その計算値を一致させることで設計することができる。
【0030】
そして、ローター・ステータータイプのミキサーを利用し、被処理流体に対して、乳化、分散、微粒化あるいは混合の処理を施すことにより、食品、医薬品あるいは化学品を製造する方法において、総括エネルギー消散率:ε
a を導き出す本発明の計算式によって計算することにより、当該ミキサーの運転時間と、これによって得られる被処理流体の液滴径を推定して、望ましい液滴径を有している食品、医薬品あるいは化学品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本願発明は、ローター・ステータータイプのミキサーの性能評価方法及びスケールアップ(スケールダウン)方法である。特に、ミキサーの性能を液滴径の微粒化傾向によって把握して、性能評価を行うものである。
【0033】
本願発明においては、以下の式1により総括エネルギー消散率:ε
a を求める。
【数5】
【0034】
ここで、式1中、
ε
a :総括エネルギー消散率 [m
2/s
3]
ε
g:ローターとステーターの隙間における局所剪断応力[m
2/s
3]
ε
s:ステーターの局所エネルギー消散率[m
2/s
3]
N
p :動力数 [-]
N
qd :流量数 [-]
n
r :ローターブレードの枚数 [-]
D :ローターの直径 [m]
b :ローターの翼先端の厚み [m]
δ :ローターとステーターの隙間 [m]
n
s :ステーターの孔数 [-]
d :ステーターの孔径 [m]
l :ステーターの厚み [m]
N :回転数 [1/s]
t
m :混合時間 [s]
V :液量 [m
3]
K
g :隙間における形状依存項 [m
2]
K
s :ステーターにおける形状依存項 [m
2]
K
c :ミキサー全体の形状依存項 [m
5]
である。
【0035】
本発明においては、前記の計算式に含まれる、ローター・ステーターの寸法と、運転時の動力・流量を測定することにより得られる、各ミキサーに固有の数値であるミキサー全体の形状依存項の値の多寡を評価することにより、ミキサーの性能を評価している。
【0036】
総括エネルギー消散率:ε
a を導き出す前述した本発明の計算式に明らかなように、隙間における形状依存項:K
g [-]は、ローターとステーターの隙間:δ [m]、ローターの直径:D [m]、ローターの翼先端の厚み:b [m]に基づく各ミキサーに固有の数値である。
【0037】
また、ステーターにおける形状依存項:K
s [-]は、流量数:N
qd [-]、ステーターの孔数:n
s [-]、ステーターの孔径:d [m]、ステーターの厚み:l [m]、ローターとステーターの隙間:δ [m]、ローターの直径:D [m] に基づく各ミキサーに固有の数値である。
【0038】
そして、ミキサー全体の形状依存項:K
c は、動力数:N
p [-]、流量数:N
qd [-]、ローターブレードの枚数:n
r [-]、ローターの直径:D [m]、及び隙間における形状依存項:K
g [-]と、ステーターにおける形状依存項:K
s [-]とに基づく各ミキサーに固有の数値である。
【0039】
なお、動力数:N
p [-]、流量数:N
qd [-]は化学工学の分野では一般的に使われる無次元数で以下のように定義される。
【0040】
Q=N
qd・N・D
3 (Q:流量、N:回転数、Dミキサー直径)
P=N
p・ρ・N
3・D
5(ρ:密度、N:回転数、Dミキサー直径)
つまり、流量数と動力数は、実験で測定した流量、ならびに動力から導き出せる無次元数である。
【0041】
すなわち、ミキサー全体の形状依存項:K
c は、ローター・ステーターの寸法と、運転時の動力・流量を測定することにより得られる各ミキサーに固有の値である。
【0042】
そこで、この値の大きさを比較(評価)することで、多種多様なミキサーの性能を評価できる。
【0043】
すなわち、本発明は、前述した本発明の計算式により総括エネルギー消散率:ε
a を求め、この計算式に含まれる、ローター・ステーターの寸法と運転時の動力・流量を測定することにより得られる各ミキサーに固有の数値であるミキサー全体の形状依存項の値の多寡を評価することにより、ミキサーの性能を評価するものである。
【0044】
また、本発明が提案するローター・ステータータイプのミキサーのスケールアップあるいはスケールダウン方法は、上記の計算式で求められる実験機規模及び/又はパイロットプラント規模における総括エネルギー消散率:ε
aの値と、スケールアップあるいはスケールダウンする実製造機における総括エネルギー消散率:ε
aの計算値とを一致させることにより、スケールアップあるいはスケールダウンするものである。
【0045】
上記の本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
a は、より具体的には、複数個の開口部を備えているステーターと、ステーターの内側に所定の隙間:δを空けて配置されるローターとからなるミキサーユニットを備えているローター・ステータータイプのミキサーの混合部分における総括エネルギー消散率である。
【0046】
本願発明者の実験によれば、ローター・ステータータイプのミキサーにおける微粒化効果(微粒化傾向)は、ローターの形状、ステーターの形状、その運転条件(処理時間など)、そのスケール(規模、寸法)などが異なる場合においても、上記の本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
a を適用することで、一括(統一)して議論(比較や評価)することができた。
【0047】
この総括エネルギー消散率:ε
a は、上記の本発明の計算式に表されているように、ローターとステーターの隙間(ギャップ)における局所剪断応力:ε
g と、ステーターの局所エネルギー消散率:ε
s の合計(和)として表現できる。
【0048】
本願発明者は、実験により、総括エネルギー消散率:ε
a を計算する計算式中の形状依存項:K
c の数値(大きさ)を評価することで、各種のミキサーの性能を比較(評価)できることを見出した。
【0049】
ミキサー全体の形状依存項:K
c は、ローター・ステーターの寸法と、運転時の動力・流量(例えば、水運転時の動力・流量)を測定することにより得られる、各ミキサーに固有の値である。この値の大きさを比較(評価)することで、多種多様なミキサーの性能を評価できることを見出して、本願発明を完成させたものである。
【0050】
また、上記の本発明の計算式により求められる総括エネルギー消散率:ε
aと、液滴径の関係(微粒化傾向)を検討したところ、総括エネルギー消散率:ε
aを横軸にして、実験結果を整理すると、液滴径の変化(液滴の微粒化傾向)を一括して表現(評価)できることが分かった。
【0051】
すなわち、実施例2として後述する検討の結果、本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
aと、液滴径の関係(微粒化傾向)は、添付の
図9に示されるように、本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
aを横軸にして、液滴径の変化(液滴の微粒化傾向)を一括して表現(評価)できる。
【0052】
このように本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
aと、液滴径はほぼ直線的な関係があることが発明者の検討によって認められている。
【0053】
ただし、統計的に信頼できる実験式を導きだすことは困難であるため、液滴径の推定は、実験から得られた液滴径と本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
aの関係を用いて行うこととした。
【0054】
上述したように、本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
aは形状依存項とそれ以外の製造条件項(時間を含む)とに分けられる。よって製造条件項(時間)を固定して形状依存項が大きくなれば、総括エネルギー消散率:ε
aは大きくなり、結果的に同じ製造条件(時間)においても液滴径は小さくなる。
【0055】
具体的には、ある製造条件下で得られる粒子径を実際に測定し、そのときのε
aを計算する。この実験によって所定の液滴径を得るために必要なε
aがわかる。
【0056】
次にミキサー形状を変更した際に計算されるε
aと変更する前のε
aの大きさを比較することによって、変更後の液滴径の減少傾向を推定する。
【0057】
つまり、前述した計算式と液滴径を推定する統計的信頼性が高い実験式はないものの、実験結果を利用することによって、ミキサー形状の影響を考慮した液滴径の減少傾向の推定が可能である。
【0058】
そこで、本発明によれば、ローター・ステータータイプのミキサーを利用し、被処理流体に対して、乳化、分散、微粒化あるいは混合の処理を施すことにより、食品(乳製品・飲料などを含む)、医薬品(医薬部外品などを含む)あるいは化学品(化粧品などを含む)を製造する方法において、総括エネルギー消散率:ε
aを導き出す上記の本発明の計算式を用いて計算することにより、当該ミキサーの運転時間と、これによって得られる被処理流体の液滴径を推定して、望ましい液滴径を有している食品、医薬品あるいは化学品を製造することができる。
【0059】
なお、実施例で実証された通り、本発明に基づいて、栄養組成物(流動食、乳幼児用調製粉乳などの組成に相当する)を製造すると、風味、食感、物性、品質などが良好であり、衛生面や作業性などにも優れていたことから、本発明は、食品や医薬品へ適用することが好ましく、食品へ適用することがより好ましく、栄養組成物や乳製品へ適用することが更に好ましく、高濃度で配合された栄養組成物や乳製品へ適用することが特に好ましい。
【0060】
本発明によれば、多種多様な形状や循環方式のローター・ステータータイプのミキサー(回転子・固定子型の混合機)に関して、形状の異なる多種多様なミキサーに適用でき、その運転条件を考慮した性能評価方法を提供することができる。
【0061】
また、形状の異なる多種多様なミキサーに適用でき、その運転条件を考慮したスケールアップ・スケールダウン方法を提供することができる。
【0062】
更に、前記の性能評価方法や前記のスケールアップ・スケールダウン方法を利用した、食品(他に、医薬品、化学品など)の製造方法(微粒化方法)を提供することができる。
【0063】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について幾つかの実施例を説明するが、本発明は、これらの実施形態、実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。
【実施例1】
【0064】
微粒子化の評価を行う対象として、乳製品を想定した模擬液を準備した。この乳化製品疑似液は、ミルクタンパク質濃縮物(MPC、TMP(トータルミルクプロテイン))、ナタネ油、水から構成されている。その配合や比率などを表1に示した。
【表1】
【0065】
ミキサーの性能は、液滴径の微粒化傾向を実験的に検討して評価した。
図3に示すように、外部循環式のユニットを準備し、流路の途中で液滴径を、レーザー回折式粒度分布計(島津製作所:SALD−2000)により計測した。
【0066】
なお、本発明において、液滴径の微粒化傾向を実験的に検討して、ミキサーの性能を評価するにあたり、内部循環式ミキサーに関しては、液滴径の微粒化傾向を把握することが難しい。しかし、内部循環式ミキサーも、外部循環式ミキサーも、
図1に示すように、複数個の開口部1を備えているステーター2と、ステーター2の内側に所定の隙間δを空けて配置されるローター3とからなるミキサーユニット4を備えている点で共通している。そこで、内部循環式ミキサーについて評価する場合には、
図4に示すように、外部循環式ミキサーに備えられているミキサーユニットと同一の寸法(サイズ)、形状、構造を有するローター、ステーターからなるミキサーユニットが内部循環式ミキサーに配備されていると考えて、当該外部循環式ミキサーを評価した試験の結果を内部循環式ミキサーの評価に用いた。
【0067】
この実施例では、ローター3とステーター2の隙間(ギャップ)δが小さく(δ ≦ 1mm、例えば、δ = 0.05〜0.5mm)、ステーター2の開口部(ホール、孔)1の数が少ない(開口部1の数:n
s ≦ 20個、例えば、n
s = 1〜10個)3種類のミキサーに関して、その性能を比較した。なお、ここで使用したミキサーの概要を表2に示した。
【表2】
【0068】
ミキサーA−1、A−2は、いずれも収容量が1.5リットルで、同一のメーカー品であるが、その寸法(サイズ)に相違があるものである。
【0069】
表2中、隙間容積:ν
gは、
図1におけるギャップδの部分の容積である。
【0070】
ミキサーA−1、A−2(いずれも収容量:1.5リットル)、B(収容量:9リットル)が備えているローター3の攪拌羽根の数は、ミキサーA−1:4枚、ミキサーA−2:4枚、ミキサーB:4枚である。
【0071】
実験条件と総括エネルギー消散率:ε
aの計算値は、表3の通りであった。
【表3】
【0072】
表3において、K
g /(K
g+K
s)の値が0.5以上であることから、ステーターにおける形状依存項であるK
sよりも、隙間における形状依存項であるK
gが大きいこととなり、ミキサーA−1、A−2、Bでは、その隙間とステーター2の開口(孔)部1の微粒化効果を比較した場合、ミキサーの隙間δの微粒化効果が大きくて支配的であることが分かった。
【0073】
また、表3において、ε
a の値から、ミキサーの隙間δが狭い程に、また、ローター3の回転数が大きい程に、微粒化効果が高くなることが推定された。
【0074】
表2のミキサーA−1、A−2について、表3の運転条件における処理(混合)時間と、液滴径の関係(微粒化傾向)を
図5に示した。
【0075】
表3の ε
a による推定値(理論値)と同様な傾向を示し、あらゆる回転数において、ミキサーの隙間δが小さい場合に、微粒化効果(微粒化の性能)の高いことが分かった。一方、運転条件における処理(混合)時間の妥当性などを考えると、ローター先端速度として15m/s、好ましくは17m/s以上、より好ましくは20m/s以上、さらに好ましくは30m/s以上、特に好ましくは40〜50m/sが良いことが分かった。
【0076】
なお、処理(混合)時間を横軸にして、実験結果を整理すると、液滴径の変化(液滴の微粒化傾向)を一括して表現(評価)できないことが分かった。
【0077】
次に、表2のミキサーA−1、A−2について、本発明で提案しているε
a と、液滴径の関係(微粒化傾向)を
図6に示した。総括エネルギー消散率:ε
aを横軸にして実験結果を整理すると、液滴径の変化(液滴の微粒化傾向)を一括して表現(評価)できることが分かった。
【0078】
具体的には、運転条件(回転数、混合時間)と、ミキサーの形状(隙間δ、ローター3の直径)が異なっても、液滴径は同じように減少する傾向を辿ることが分かった。
【0079】
すなわち、本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
aは、ローター・ステータータイプのミキサーにおいて、運転条件や形状の違いを包括的に考慮して、その性能を評価できる指標であることを確認できた。
【0080】
次に、表2のミキサーBについて、本発明で提案している総括エネルギー消散率:ε
a と、液滴径の関係(微粒化傾向)を
図7に示した。ミキサーの規模(寸法)が異なっても、液滴径はε
a の値(大きさ)に依存していることが分かった。
【0081】
また、
図6、
図7より、ミキサーの規模が異なっても、同様の微粒化傾向を示すことが分かった。
【0082】
以上より、ローター3とステーター2の隙間(ギャップ)δが小さく(δ ≦ 1mm、例えば、δ = 0.05〜0.5mm)、ステーター2の開口(ホール、孔)部1の数が少ない(開口部1の数:n
s ≦ 20個、例えば、n
s = 1〜10個)ローター・ステータータイプのミキサーでは、本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
aの値(大きさ)を一致させることで、運転条件や形状の違いを包括的に考慮して、スケールアップやスケールダウンできると考えられる。
【0083】
この実施例で確認できたように、総括エネルギー消散率:ε
aを横軸にして、実験結果を整理すると、液滴径の変化(液滴の微粒化傾向)を一括して表現(評価)できたことから、この実施例で行ったように、ローター・ステータータイプのミキサーを利用し、被処理流体に対して、乳化、分散、微粒化あるいは混合の処理を施すことにより、食品、医薬品あるいは化学品を製造する場合に、本発明の計算式を用いて計算することにより、当該ミキサーの運転時間と、これによって得られる被処理流体の液滴径を推定し、望ましい液滴径を有している食品、医薬品あるいは化学品を製造することが可能になる。
【実施例2】
【0084】
この実施例では、ローター3とステーター2の隙間(ギャップ)δが大きく(δ> 1mm、例えば、δ = 2〜10mm)、ステーター2の開口部(ホール、孔)1の数が多い(開口部1の数:例えば、n
s > 20個、例えば、n
s = 50〜5000個)3種類のミキサーに関して、その性能を比較した。
【0085】
なお、実施例1と同じく、微粒子化の評価を行う対象として乳製品を想定した表1の配合比率の模擬液を用い、実施例1と同じく、
図3に図示したように、外部循環式のユニットを準備し、流路の途中で液滴径を、レーザー回折式粒度分布計(島津製作所:SALD−2000)により計測し、液滴径の微粒化傾向を調査して評価した。
【0086】
なお、ここで使用したミキサーC(収容量:100リットル)、D(収容量:500リットル)、E(収容量:10キロリットル)の概要を表4に示した。これら3種類のミキサーは、同一のメーカー品であり、市場に提供されているものである。そして、ミキサーCに関しては、隙間(ギャップ)δの寸法(大きさ)、開口部1の数が相違する5種類のミキサー(ステーターNo.1〜ステーターNo.5)について検討した。
【表4】
【0087】
なお、表4中、開口面積比Aは、「すべての開口部面積(=1孔面積×個数)/ステーターの表面積」で計算される無次元数である。
【0088】
実験条件と総括エネルギー消散率:ε
aの計算値は表5の通りであった。
【表5】
【0089】
表5において、K
g /(K
g+K
s)の値が0.1〜0.3であることから、隙間における形状依存項であるK
gよりも、ステーターにおける形状依存項であるK
sが大きいこととなり、表4のミキサーCでは、その隙間とステーター2の開口(孔)部1の微粒化効果を比較した場合、ステーター2の開口部1の微粒化効果が大きくて支配的であることが分かった。
【0090】
また、表5において、ステーター番号4のK
cで正規化したK
c / K
c _stdの値から、ステーター番号が大きくなるに従い、微粒化効果が高くなることが推定された。
【0091】
表4のミキサーC(ステーターNo.1〜ステーターNo.5)について、表5の運転条件における処理(混合)時間と、液滴径の関係(微粒化傾向)を
図8に示した。
【0092】
表5の K
c / K
c _stdによる推定値(理論値)と同様な傾向を示し、ステーターNo.1〜ステーターNo.5のいずれにおいても、K
c / K
c _std の値が大きい場合に、微粒化効果(微粒化の性能)の高いことが分かった。一方、運転条件における処理(混合)時間の妥当性などを考えると、開口面積比として0.15(15%)以上、好ましくは0.2(20%)以上、より好ましくは0.3(30%)以上、さらに好ましくは0.4(40%)以上、特に好ましくは0.4〜0.5(40〜50%)が良いことが分かった。このとき、ステーターの開口部の強度を勘案すると良い。
【0093】
また、同程度のK
c / K
c _stdの値であるステーターNo.3とNo.4では、ほぼ同等の微粒化傾向を示していることから、K
c / K
c _std と本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
aによりミキサーの性能を予測すると、定性的な傾向を捉えるだけでなく、定量的な傾向を説明(評価)できることが分かった。
【0094】
なお、処理(混合)時間を横軸にして、実験結果を整理すると、液滴径の変化(液滴の微粒化傾向)を一括して表現(評価)できないことが分かった。
【0095】
次に、表4のミキサーC(ステーターNo.1〜ステーターNo.5)について、本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
aと、液滴径の関係(微粒化傾向)を
図9に示した。
【0096】
本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
aを横軸にして、実験結果を整理すると、液滴径の変化(液滴の微粒化傾向)を一括して表現(評価)できることが分かった。具体的には、運転条件(回転数、混合時間)と、ミキサーの形状(隙間、ステーターの孔径、ステーターの開口面積比)が異なっても、液滴径は同じように減少する傾向を辿ることが分かった。
【0097】
すなわち、本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
aは、ローター・ステータータイプのミキサーにおいて、運転条件や形状の違いを包括的に考慮して、その性能を評価できる指標であることを確認できた。
【0098】
次に、表4のミキサーD、Eについて、本発明の計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
aと、液滴径の関係(微粒化傾向)を
図10に示した。 ミキサーの規模(寸法)が容量で200〜700リットルと異なっても、液滴径は ε
a の値(大きさ)に依存していることが分かった。また、ミキサーの規模が異なっても、同様の微粒化傾向を示すことが分かった。
【0099】
以上より、ローター3とステーター2の隙間(ギャップ)δが大きく(δ > 1mm、例えば、δ = 2〜10mm)、ステーターの開口部(ホール、孔)1の数が多い(開口部1の数:n
s > 20個、例えば、n
s = 50〜5000個)ローター・ステータータイプのミキサーでは、本発明で提案している計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
a の値(大きさ)を一致させることで、運転条件や形状の違いを包括的に考慮して、スケールアップできると考えられた。
【0100】
また、この実施例においても、本発明で提案している計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
aを横軸にして、実験結果を整理すると、液滴径の変化(液滴の微粒化傾向)を一括して表現(評価)できたことから、この実施例で行ったように、ローター・ステータータイプのミキサーを利用し、被処理流体に対して、乳化、分散、微粒化あるいは混合の処理を施すことにより、食品、医薬品あるいは化学品を製造する場合に、本発明で提案している計算式を用いて計算することにより、当該ミキサーの運転時間と、これによって得られる被処理流体の液滴径を推定し、望ましい液滴径を有している食品、医薬品あるいは化学品を製造することが可能になる。
【実施例3】
【0101】
本発明で提案している計算式で求められる総括エネルギー消散率:ε
a を適用して、処理時間を考慮したスケールアップ方法(スケールダウン方法)の詳細について述べる。
【0102】
パイロットプラント規模で得られた液滴径を、実製造規模で得るために必要な処理時間(等価混合時間)を推定することは、実際の製造工程を設計する上で必要不可欠であるとも言える。この等価混合時間を推定する手順を、表6に示した数値に基づいて説明する。
【表6】
【0103】
パイロットプラント規模(容積:500リットル)において、ミキサーの回転数が27/sec の場合、ε
a は4.73×10
4である。一方、実製造規模(容積:7000リットル)において、ミキサーの回転数が17/secの場合、ε
a は1.94×10
4である。このとき、実製造規模のε
a を、パイロットプラント規模のε
a と同等にするためには、2.49倍の処理(混合)時間が必要となる。従って、実製造規模の等価混合時間は、パイロットプラント規模の等価混合時間の2.49倍に相当すると推定(予測)される。
【0104】
この推定の妥当性を評価するために、推定値と実測値を比較して
図11に示した。ここで、パイロットプラント規模の実測値から推定した実製造規模の微粒化傾向(微粒化効果)は、実製造規模の微粒化傾向と一致することが分かった。
【0105】
以上より、本発明で提案している ε
a を適用することで、ミキサーの形状の違い(規模)を包括的に考慮して、ミキサーの性能を評価できることと、処理時間を考慮してスケールアップできることが分かった。
【0106】
従来技術では、ローターとステーターの隙間(ギャップ)が微粒化効果や乳化効果に大きく影響するミキサーのみに適用できる理論や、ステーターの開口部(ホール)が微粒化効果や乳化効果に大きく影響するミキサーのみに適用できる理論は存在していたが、多種多様のミキサーに適用できる包括的な理論は存在せず、それら両方を考慮した理論は存在しなかった。
【0107】
本発明では、隙間依存や開口部依存のミキサーについて、その微粒化効果や乳化効果を包括的に考慮しながら、その性能評価やスケールアップできるようになった。つまり、本発明では、これまで限定的にしか使用できなかった性能評価方法とスケールアップ方法に基づいて、より広範囲のミキサーに適用できる理論を開発した。
【実施例4】
【0108】
明治乳業(株)の栄養調製食品(メイバランス 1.0 HP(商標))を用いて、微粒化試験を行った。このメイバランス 1.0 HP(商標)の組成や物性は表7の通りである。
【表7】
【0109】
この実施例では、2種類のミキサー(収容量:9キロリットルと、400リットル)を用いて、ローターの回転速度、積算時間を変化させて実験を行った。これら2種類のミキサーは、実施例1や実施例2のミキサーA、B、Cと同じメーカー品である。
【0110】
実験条件と総括エネルギー消散率:ε
aの計算値などを表8に示した。
【表8】
【0111】
総括エネルギー消散率:ε
aと、液滴径の関係(微粒化傾向)を
図12に示した。
【0112】
本発明で提案している総括エネルギー消散率:ε
aを横軸にして実験結果を整理すると、液滴径の変化(液滴の微粒化傾向)を一括して表現(評価)できることが分かった。