(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エポキシ基含有塩化ビニル樹脂は、スルホン酸基およびその塩からなる群から選ばれる基を含有する請求項1に記載の塗布型磁気記録媒体製造用カーボンブラック組成物。
前記2級モノアミンは、ピペリジン環、シクロヘキサン環、および分岐メチル基を有するアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗布型磁気記録媒体製造用カーボンブラック組成物。
前記2級モノアミンを、カーボンブラック100.0質量部に対して2.0〜10.0質量部含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の塗布型磁気記録媒体製造用カーボンブラック組成物。
前記エポキシ基含有塩化ビニル樹脂を、カーボンブラック100.0質量部に対して20.0〜50.0質量部含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の塗布型磁気記録媒体製造用カーボンブラック組成物。
前記磁性層を、強磁性六方晶フェライト粉末および結合剤を含む磁性層形成用組成物を、前記非磁性層上に塗布し乾燥させることにより形成することを含む、請求項11に記載の塗布型磁気記録媒体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、カーボンブラックと結合剤と溶媒とを含む組成物においてカーボンブラックの分散性を高めることは、この組成物を用いて形成される非磁性層の表面平滑性を高めるために望ましい。また、塗布型磁気記録媒体において、カーボンブラックは、非磁性支持体の磁性層や非磁性層を設けた側とは反対側に設けられることがあるバックコート層における非磁性粉末としても広く用いられている。バックコート層を形成するための組成物においてカーボンブラックの分散性を高めることができれば、表面平滑性の高いバックコート層を形成することができる。バックコート層の表面平滑性を高めることは、例えば、テープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)において、巻き取られた状態で磁性層表面とバックコート層表面とが接触し磁性層表面に凹み(裏写りと呼ばれる。)が形成されることを抑制する(または深い凹みの形成を抑制する)うえで望ましい。
【0008】
一方、塗布型磁気記録媒体を製造するための組成物に関しては、カーボンブラック等の粉末成分の分散性が高いことに加えて、液安定性が高いことも求められる。これは、組成物の製造時には高い分散性が達成されていたとしても、製造後から実際にこの組成物(液)を用いて層を形成するまでの間に組成物の粘度が大きく上昇したり組成物が固化してしまっては、この組成物を用いて形成される層の表面平滑性は低下してしまうからである。この点からは、カーボンブラックと結合剤と溶媒とを含む組成物においてカーボンブラックの分散性を向上し、かつ組成物の安定性を向上することが求められる。
【0009】
ところで、エポキシ基を含有する塩化ビニル樹脂は、先に記載したように、磁気記録媒体の高性能化のために有用な結合剤である。そこで本発明者らが、カーボンブラックと結合剤と溶媒とを含む組成物において、エポキシ基を含有する塩化ビニル樹脂を結合剤として用いることを検討したところ、カーボンブラックの分散性と組成物の安定性をともに向上することは容易ではないことが判明した。
【0010】
そこで本発明の目的は、カーボンブラックとエポキシ基含有塩化ビニル樹脂と溶媒とを含む塗布型磁気記録媒体製造用組成物(カーボンブラック組成物)において、カーボンブラックの分散性および組成物の安定性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の塗布型磁気記録媒体製造用カーボンブラック組成物(以下、「カーボンブラック組成物」または「組成物」とも記載する):
カーボンブラックと、
エポキシ基含有塩化ビニル樹脂と、
下記一般式1で表される2級モノアミンと、
溶媒と、
を含む塗布型磁気記録媒体製造用カーボンブラック組成物、
を見出した。即ち、上記カーボンブラック組成物は、エポキシ基含有塩化ビニル樹脂を結合剤として含み、かつカーボンブラックの分散性および組成物の安定性の向上が可能である。
【0012】
【化1】
(一般式1中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、アミン窒素原子のα位の炭素原子において分岐し且つ主骨格炭素数が7以下のアルキル基を表し、上記アルキル基は環構造を形成してもよく、R
1で表されるアルキル基とR
2で表されるアルキル基とが連結して環構造を形成してもよく、ただしR
1およびR
2はヒドロキシル基を含まない。)
【0013】
アミン窒素原子とは、一般式1中、R
1とR
2との間に存在する窒素原子Nである。アミン窒素原子のα位の炭素原子とは、R
1、R
2において、このアミン窒素原子に隣接する炭素原子(α炭素)である。そして、R
1、R
2における主骨格炭素数とは、分岐により2つ以上存在するアルキル基の中で、最も炭素数が大きいアルキル基の炭素数(置換基を有するアルキル基については、置換基を除く部分の炭素数)をいう。
【0014】
本発明および本明細書において、「樹脂」とは、同一または異なる2つ以上の繰り返し単位を有する重合体であって、単一重合体(ホモポリマー)であっても共重合体(コポリマー)であってもよい。エポキシ基含有塩化ビニル樹脂は、構造中に1つ以上のエポキシ基を含む塩化ビニル樹脂である。また、「結合剤」とは、一種以上の樹脂である。
【0015】
本発明者らは、一般式1で表される2級モノアミンにより、エポキシ基含有塩化ビニル樹脂を溶媒とともに含むカーボンブラック組成物の分散性および分散安定性の向上が可能になる理由について、以下のように推察している。
【0016】
(1)本発明者らは、アミン化合物によるカーボンブラックの分散性向上には、塩基性化合物であるアミン化合物がカーボンブラック表面に存在する酸性基(例えば一例としてカルボキシ基)に吸着することで、カーボンブラック表面の極性が変化することが寄与していると考えている。そしてアミン化合物のカーボンブラック表面への吸着性は、化合物の塩基性とアミン窒素原子周辺の立体障害が影響し決定されると、本発明者らは推察している。各種アミン化合物の中でも、一般式1で表される2級モノアミンは、塩基性とアミン窒素原子周辺の立体障害のバランスが優れていることが、カーボンブラックの分散性向上を達成できる理由ではないかと本発明者らは考えている。特許文献3の段落0015に、2級アミノ基を有する化合物(2級アミン)はカーボンブラックの分散性を低下させると記載されていることからは、一般式1で表される2級モノアミンによってカーボンブラックの分散性向上が可能になることは、予想外である。
【0017】
(2)本発明者らは、組成物の安定性については、エポキシ基含有塩化ビニル樹脂を含む組成物では、エポキシ基と反応しやすい化合物が含まれることにより組成物中でこの化合物とエポキシ基含有塩化ビニル樹脂のエポキシ基が反応することが、組成物の粘度の大きな上昇や組成物の固化を引き起こすと考えている。この点に関して、一般式1で表される2級モノアミンは、R
1、R
2がいずれもα位の炭素原子に分岐構造を有すること、主骨格炭素数が7以下であること、およびヒドロキシル基を含まないことが、エポキシ基と反応し難いことに寄与していると考えられる。これにより組成物の安定性向上が可能になると、本発明者らは推察している。
【0018】
以上が、上記カーボンブラック組成物に関する本発明者らによる推察であるが、推察に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
【0019】
一態様では、上記エポキシ基含有塩化ビニル樹脂は、スルホン酸基およびその塩からなる群から選ばれる基を含有する。ここでスルホン酸基(−SO
3H)の塩とは、−SO
3−M
+で表される塩である。上記において、M
+はアルカリ金属イオン等のカチオンを表す。以下において、「スルホン酸(塩)基」とは、スルホン酸基とスルホン酸の塩とを包含する意味で用いるものとする。
【0020】
一態様では、上記2級モノアミンの分子量は、85〜300の範囲である。
【0021】
一態様では、上記2級モノアミンは、ピペリジン環、シクロヘキサン環、および分岐メチル基を有するアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0022】
一態様では、上記2級モノアミンは、テトラメチルピペリジン、イソプロピルヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジ−sec−ブチルアミンおよびジイソプロピルアミンからなる群から選択される。
【0023】
一態様では、上記2級モノアミンの沸点は、100℃以上である。なお沸点とは、JIS K2233−1989 7.1.1に規定されている沸点測定装置を用いて測定される値とする。
【0024】
一態様では、上記溶媒は、ケトン溶媒を含む。
【0025】
一態様では、上記カーボンブラック組成物は、上記2級モノアミンを、カーボンブラック100.0質量部に対して2.0〜10.0質量部含む。
【0026】
一態様では、上記カーボンブラック組成物は、上記エポキシ基含有塩化ビニル樹脂を、カーボンブラック100.0質量部に対して20.0〜50.0質量部含む。
【0027】
一態様では、上記カーボンブラック組成物は、塗布型磁気記録媒体の非磁性層形成用組成物である。
【0028】
本発明の更なる態様は、
非磁性支持体上に非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有し、非磁性層上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する塗布型磁気記録媒体の製造方法であって、
非磁性層を、上記カーボンブラック組成物を、非磁性支持体上に塗布し乾燥させることにより形成することを含む塗布型磁気記録媒体の製造方法、
に関する。
【0029】
一態様では、上記製造方法は、磁性層を、強磁性六方晶フェライト粉末および結合剤を含む磁性層形成用組成物を、非磁性層上に塗布し乾燥させることにより形成することを含む。
【0030】
本発明の更なる態様は、上記製造方法により製造された塗布型磁気記録媒体に関する。かかる塗布型磁気記録媒体は、上記の本発明の一態様にかかるカーボンブラック組成物を用いて形成された非磁性層を有し、従来の磁気記録媒体にはない新規な構成および/または物性を有し得る磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一態様によれば、カーボンブラックの分散性および組成物の安定性に優れる、塗布型磁気記録媒体の製造に好適なカーボンブラック組成物を提供することができる。更に本発明の一態様によれば、かかるカーボンブラック組成物を用いる塗布型磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[塗布型磁気記録媒体製造用カーボンブラック組成物]
本発明の一態様は、
カーボンブラックと、
エポキシ基含有塩化ビニル樹脂と、
下記一般式1で表される2級モノアミンと、
溶媒と、
を含む塗布型磁気記録媒体製造用カーボンブラック組成物、
に関する。
【0033】
【化2】
(一般式1中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、アミン窒素原子のα位の炭素原子において分岐し且つ主骨格炭素数が7以下のアルキル基を表し、上記アルキル基は環構造を形成してもよく、R
1で表されるアルキル基とR
2で表されるアルキル基とが連結して環構造を形成してもよく、ただしR
1およびR
2はヒドロキシル基を含まない。)
【0034】
以下に、上記カーボンブラック組成物について、更に詳細に説明する。
【0035】
<一般式1で表される2級モノアミン>
上記カーボンブラック組成物に含まれる2級モノアミンは、上記一般式1で表される。
一般式1中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、アミン窒素原子のα位の炭素原子において分岐し且つ主骨格炭素数が7以下のアルキル基を表す。かかる構造を有することが、カーボンブラックの分散性向上および組成物の安定性向上に寄与していると本発明者らは推察している。これらの点から、上記の主骨格炭素数は、好ましくは2〜6の範囲である。
【0036】
即ち、一般式1を、アミン窒素原子のα位の炭素原子(α炭素)を明記して示すと、下記一般式1−1となる。
【0038】
一般式1−1中、R
11R
12R
13C−が、一般式1中のR
1であり、R
21R
22R
23が、一般式1中のR
2である。R
11、R
12およびR
13の少なくとも2つはアルキル基であり、R
21、R
22、R
23の少なくとも2つはアルキル基である。そして、R
11、R
12およびR
13に2つ以上含まれるアルキル基の中で最も炭素数が大きいアルキル基について、このアルキル基の炭素数(置換基を有するアルキル基については、置換基を除く部分の炭素数)にα炭素の炭素数として1を追加した炭素数が、上記の主骨格炭素数である。同様に、R
21、R
22およびR
23に2つ以上含まれるアルキル基の中で最も炭素数が大きいアルキル基について、このアルキル基の炭素数(置換基を有するアルキル基については、置換基を除く部分の炭素数)にα炭素の炭素数として1を追加した炭素数が、上記の主骨格炭素数である。
【0039】
一般式1中、α位の炭素原子において、主骨格を構成するアルキル基から分岐した分岐アルキル基は、1つであってもよく、2つであってもよい。即ち、一般式1−1において、R
11、R
12およびR
13中、主骨格を構成するアルキル基をR
11とすると、R
12およびR
13の一方がアルキル基であり他方は水素原子またはアルキル基以外の置換基であってもよく、両方がアルキル基であってもよい。同様に、R
21、R
22およびR
23中、主骨格を構成するアルキル基をR
21とすると、R
22およびR
23の一方がアルキル基であり他方は水素原子またはアルキル基以外の置換基であってもよく、両方がアルキル基であってもよい。上記分岐アルキル基は、主骨格を構成するアルキル基より炭素数の小さいアルキル基であり、例えば炭素数1〜3の直鎖または分岐のアルキル基であり、炭素数1または2の直鎖アルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。また、上記のアルキル基以外の置換基とは、例えばハロゲン原子(例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等を挙げることができる。なお特記しない限り、本発明および本明細書に記載の各種の基は無置換であっても置換されていてもよい。置換されている場合、置換基としては上記のものを例示できる。ただし、置換基はヒドロキシル基ではない。この点については、更に後述する。
【0040】
一般式1中、R
1で表されるアルキル基は、R
1の中で環構造を形成してもよい。即ち、一般式1−1においては、R
11、R
12およびR
13中の2つまたは3つが連結して環構造を形成してもよい。同様に、一般式1中、R
2で表されるアルキル基は、R
2の中で環構造を形成してもよい。即ち、一般式1−1においては、R
21、R
22およびR
23中の2つまたは3つが連結して環構造を形成してもよい。形成される環構造は、単環であっても縮合環であってもよく、単環が好ましい。上記環構造は、炭素数1〜7のシクロアルカン環であることが好ましく、シクロヘキサン環がより好ましい。
【0041】
または、一般式1中、R
1で表されるアルキル基とR
2で表されるアルキル基とが連結して環構造を形成してもよい。即ち、一般式1−1において、R
11、R
12およびR
13中の1つ以上と、R
21、R
22およびR
23中の1つ以上とが連結して環構造を形成してもよい。これにより、アミン窒素原子を環構造を形成する原子の1つとして含む含窒素環構造が形成される。形成される含窒素環構造は、単環であっても縮合環であってもよく、単環が好ましい。上記含窒素環構造は、ピペリジン環、ピロリジン環が好ましく、ピペリジン環がより好ましい。
【0042】
一般式1で表される2級モノアミンは、R
1、R
2で表されるアルキル基に置換基を含んでもよいが、エポキシ基との反応性を高める要因となるヒドロキシル基を、化合物中に含まないものとする。この点が、組成物の安定性向上に寄与すると本発明者らは考えている。
【0043】
以上記載した一般式1で表される2級モノアミンは、塩基性が高く、かつエポキシ基との反応性に乏しいことが、カーボンブラックの分散性向上と組成物の安定性向上に寄与していると、本発明者らは推察している。塩基性に関しては、後述の実施例に記載の方法で測定されるpHが、10.2以上であることが好ましい。また、エポキシ基との反応性については、後述の実施例に記載の方法により評価されるエポキシ反応性が「無」であることが好ましい。
【0044】
また、化合物の取り扱いの容易性の観点からは、一般式1で表される2級モノアミンの沸点は、110℃以上であることが好ましい。ただし、110℃未満の場合には製造時の雰囲気温度や組成物の液温を調整すればよいため、一般式1で表される2級モノアミンの沸点は、110℃未満であってもよい。この点からは、一般式1で表される2級モノアミンの沸点は、例えば80℃以上であってもよい。また、一般式1で表される2級モノアミンの沸点は、例えば300℃以下であることができるが、これに限定されるものではない。
【0045】
一般式1で表される2級モノアミンは、組成物の安定性のより一層の向上の観点からは、その分子量が、300以下であることが好ましく、200以下であることがより好ましい。上記分子量は、例えば85以上であるが、これを下回ってもよい。
なお本発明および本明細書において、分子量とは、重合体については、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記測定条件により測定されるポリスチレン換算による値である。一般式1で表される2級モノアミンは、重合体ではなく、単量体であることが好ましい。
GPC装置:HLC−8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL−M(東ソー社製、7.8mmID(内径)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0046】
以上説明した一般式1で表される2級モノアミンは、市販品として入手可能であり、または公知の方法で合成することもできる。一般式1で表される2級モノアミンの具体例としては、テトラメチルピペリジン、イソプロピルヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−tert−ブチルアミン、2,5−ジメチルピロリジン等を挙げることができる。ただし本発明は、これら具体例に限定されるものではない。
【0047】
上記カーボンブラック組成物における一般式1で表される2級モノアミンの含有量は、カーボンブラックの分散性向上の観点から、カーボンブラック100.0質量部に対して2.0〜10.0質量部の範囲であることが好ましく、4.0〜6.0質量部の範囲であることがより好ましい。一般式1で表される2級モノアミンは、上記カーボンブラック組成物に一種のみ含まれていてもよく、二種以上が含まれていてもよい。二種以上が含まれる場合、これらの合計含有量が、上記含有量である。本発明および本明細書において、記載されている成分は、一種のみ用いてもよく二種以上を用いてもよい。二種以上を用いる場合、その成分についての含有量とは、二種以上の合計含有量である。
【0048】
<カーボンブラック>
上記カーボンブラック組成物に含まれるカーボンブラックとしては、特に限定されるものではなく、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック等の各種カーボンブラックを適宜選択して使用することができる。使用可能なカーボンブラックについては、例えば、「カーボンブラック便覧」(カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。
【0049】
塗布型磁気記録媒体に用いられるカーボンブラックは、例えば、比表面積は通常、50〜500m
2/g、好ましくは70〜400m
2/gである。なお比表面積とは、窒素吸着法(BET(Brunauer−Emmett−Teller)1点法とも呼ばれる。)により求められる値であって、一次粒子について測定する値とする。以下において、かかる方法により求められる比表面積を、BET比表面積とも記載する。DBP(ジブチルフタレート)吸油量は通常、20〜400ml/100g、好ましくは30〜400ml/100gである。平均一次粒子サイズは、通常、5〜80nm、好ましくは10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。また、pHは、例えば2.0〜11.0の範囲である。
【0050】
DBP吸油量とは、JIS K 6217−4:2008にしたがい測定される値とする。また、カーボンブラックのpHとは、JIS6221−1982にしたがい測定される値とする。
【0051】
本発明および本明細書において、カーボンブラック等の粉末についての平均粒子サイズとは、透過型電子顕微鏡を用いて以下の方法により測定される値とする。なお粉末とは、複数の粒子の集合を意味するものとする。集合とは、これを構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、結合剤や添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。なお粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。以上の点は、強磁性粉末等の、本発明および本明細書における各種粉末についても同様とする。
【0052】
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて行うことができる。
本発明および本明細書において、各種粉末についての平均粒子サイズとは、特記しない限り、上記方法により求められる平均粒子サイズをいうものとする。後述の実施例に示す平均粒子サイズの測定は、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H−9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて行った。
【0053】
本発明および本明細書において、粉末を構成する粒子のサイズ(以下、「粒子サイズ」と言う)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚さまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0054】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径であり、平均板状比とは、(最大長径/厚さまたは高さ)の算術平均である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0055】
<エポキシ基含有塩化ビニル樹脂>
上記カーボンブラック組成物は、以上記載した一般式1で表される2級モノアミン、カーボンブラックおよび詳細を後述する溶媒とともに、エポキシ基含有塩化ビニル樹脂を含む。先に記載したように、エポキシ基含有塩化ビニル樹脂は、磁気記録媒体の高性能化に寄与する結合剤として有用な樹脂である。エポキシ基含有塩化ビニル樹脂としては、一般に塗布型磁気記録媒体の結合剤として用いられているエポキシ基含有塩化ビニル樹脂を何ら制限なく使用することができる。それらの詳細については、特開昭61−53367号公報および特開昭60−238306号公報の全記載を参照できる。また、エポキシ基含有塩化ビニル樹脂は、公知の方法で合成可能であり、市販品としても入手可能である。市販品としては、例えば、カネカ社製MR樹脂(例えばMR104、MR110)を挙げることができる。
【0056】
エポキシ基含有塩化ビニル樹脂の好ましい態様としては、カーボンブラックの分散性を更に向上する観点からは、スルホン酸(塩)基、リン酸基(−P=O(OH)
2)およびリン酸基の塩(−P=O(O
−M
+)
2;M
+は前述の通りである。)からなる群から選ばれる一種以上の基を含むものが好ましく、スルホン酸(塩)基を含むものがより好ましい。
【0057】
上記カーボンブラック組成物は、エポキシ基含有塩化ビニル樹脂を、カーボンブラック100.0質量部に対して、例えば10.0〜80.0質量部含むことができ、15.0〜60.0質量部含むことが好ましく、20.0〜50.0質量部含むことがより好ましい。また、上記カーボンブラック組成物は、結合剤として、エポキシ基含有塩化ビニル樹脂のみを含んでもよく、他の一種以上の樹脂を含んでもよい。他の一種以上の樹脂が含まれる場合、上記カーボンブラック組成物を用いて形成される磁気記録媒体の高性能化の観点からは、樹脂全量100.0質量部に対して。50.0質量部以上をエポキシ基含有塩化ビニル樹脂が占めることが好ましい。樹脂全量がエポキシ基含有塩化ビニル樹脂であることも、好ましい。他の一種以上の樹脂が含まれる場合、かかる樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアルキラール樹脂等の、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を、何ら制限なく用いることができる。上記カーボンブラック組成物に含まれる樹脂の合計含有量は、カーボンブラック100.0質量部に対して、例えば20.0〜100.0質量部とすることができ、30.0〜80.0質量部とすることが好ましい。
【0058】
<溶媒>
上記カーボンブラック組成物に含まれる溶媒としては、一般に塗布型磁気記録媒体の製造に用いられる各種有機溶媒を単独で、または二種以上を任意の割合で混合して用いることができる。溶媒としては、中でも、塗布型磁気記録媒体の製造に広く用いられているケトン溶媒が好ましい。ケトン溶媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。溶媒全量100.0質量部に対するケトン溶媒の含有量は、60.0質量部以上であることが好ましく、75.0質量部以上であることが好ましい。また、溶媒全量100.0質量部に対するケトン溶媒の含有量は、例えば90.0質量部以下であるが、全量がケトン溶媒であってもよい。ケトン溶媒以外の有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、イソホロン等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を、ケトン溶媒とともに、またはケトン溶媒に代えて、溶媒として使用して上記カーボンブラック組成物を調製することができる。
【0059】
<任意成分>
上記カーボンブラック組成物は、以上記載した各種成分を含み、任意に一種以上の他の成分を含むことができる。任意に添加される成分(任意成分)には特に制限はなく、塗布型磁気記録媒体の製造に用いられる各種成分を挙げることができる。また、カーボンブラック以外の非磁性粉末の一種以上が任意の量で含まれていてもよい。この場合、非磁性粉末全量の中で最も多くを占める粉末がカーボンブラックであることが好ましく、非磁性粉末全量100.0質量部に対して50.0質量部以上がカーボンブラックであることが好ましく、70.0質量部以上がカーボンブラックであることがより好ましく、80.0質量部以上がカーボンブラックであることが更に好ましい。併用される非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011−216149号公報の段落0146〜0150を参照できる。
【0060】
任意成分の一例としては、ポリイソシアネート等の硬化剤を挙げることができる。硬化剤を含むカーボンブラック組成物を用いて磁気記録媒体の、例えば非磁性層やバックコート層を形成することは、磁気記録媒体の耐久性向上の観点から好ましい。ポリイソシアネート化合物としては、2官能以上、好ましくは3官能以上のポリイソシアネートを使用することが好ましい。ポリイソシアネートとしては磁気記録媒体において硬化剤として使用される公知のものを、樹脂全量100.0質量部に対して、例えば5.0〜100.0質量部の量で使用することができる。
【0061】
<組成物の調製方法>
上記カーボンブラック組成物は、以上記載した成分を同時または順次混合し分散することによって調製することができる。分散には、ビーズミル、ボールミル、サンドミルまたはホモミキサー等、せん断力を利用した各種公知の分散機を使用することができる。例えば、分散を、分散ビーズを用いるビーズ分散によって行うことができる。分散ビーズとしては、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズ、アルミナビーズが好適である。これら分散ビーズは、ビーズ径と充填率を最適化して用いることが好ましい。分散機は公知のものを使用することができる。上記カーボンブラック組成物の固形分濃度は、例えば5.0〜15.0質量%の範囲とすることができる。なお固形分濃度とは、上記カーボンブラック組成物における溶媒を除く全成分の合計の濃度をいうものとする。
【0062】
以上説明した本発明の一態様にかかるカーボンブラック組成物は、塗布型磁気記録媒体の製造のために用いることができ、詳しくは、塗布型磁気記録媒体に含まれる層を形成するための組成物(塗布液)として用いることができる。上記カーボンブラック組成物は、表面平滑性に優れる層の形成を可能にすることができ、非磁性層形成用組成物またはバックコート層形成用組成物として用いることが好ましく、非磁性層形成用組成物として用いることがより好ましい。
【0063】
[塗布型磁気記録媒体の製造方法]
本発明の一態様は、
非磁性支持体上に非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有し、非磁性層上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する塗布型磁気記録媒体の製造方法であって、
非磁性層を、上記カーボンブラック組成物を、非磁性支持体上に塗布し乾燥させることにより形成することを含む塗布型磁気記録媒体の製造方法、
に関する。以下に、上記製造方法について、更に詳細に説明する。
【0064】
<非磁性層の形成>
非磁性層の形成に用いるカーボンブラック組成物については、先に記載した通りである。かかるカーボンブラック組成物を、非磁性支持体上に、磁性層形成用組成物と逐次または同時に重層塗布することにより、非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体を製造することができる。こうして形成される磁気記録媒体の非磁性層は、結合剤としてエポキシ基含有塩化ビニル樹脂を含み、非磁性粉末としてカーボンブラックを含む。なお非磁性層においては、エポキシ基含有塩化ビニル樹脂に含まれるエポキシ基はエポキシ基として存在してもよく、その一部が非磁性層に含まれる他の成分と反応した形態で含まれていてもよい。
一態様では、非磁性層の結合剤には、非磁性層の形成のために電子線の照射を要する電子線硬化型の結合剤が含まれないことが好ましい。また、一態様では、非磁性層の形成工程は、電子線の照射工程を含まないことが好ましい。
なお、本発明における磁気記録媒体の非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0065】
<磁性層の形成>
磁性層は、強磁性粉末と結合剤を含む磁性層形成用組成物を、非磁性層形成用組成物(上記カーボンブラック組成物)と逐次または同時に重層塗布することにより形成することができる。
【0066】
(強磁性粉末)
強磁性粉末としては、磁気記録媒体の磁性層において強磁性粉末として通常用いられる各種粉末を使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは、磁気記録媒体の記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末としては、平均粒子サイズが50nm以下の強磁性粉末を用いることが好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは10nm以上であることが好ましい。
【0067】
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性六方晶フェライト粉末を挙げることができる。強磁性六方晶フェライト粉末の平均粒子サイズ(例えば平均板径)は、記録密度向上と磁化の安定性の観点から、10nm以上50nm以下であることが好ましく、20nm以上50nm以下であることがより好ましい。強磁性六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011−225417号公報の段落0012〜0030、特開2011−216149号公報の段落0134〜0136、特開2012−204726号公報の段落0013〜0030を参照できる。
【0068】
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の平均粒子サイズ(例えば平均長軸長)は、記録密度向上と磁化の安定性の観点から、10nm以上50nm以下であることが好ましく、20nm以上50nm以下であることがより好ましい。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011−216149号公報の段落0137〜0141、特開2005−251351号公報の段落0009〜0023を参照できる。
【0069】
磁性層は、高密度記録化された磁気記録媒体における電磁変換特性向上の観点からは、強磁性粉末として強磁性六方晶フェライト粉末を含むことがより好ましく、強磁性六方晶バリウムフェライト粉末を含むことがより好ましい。
【0070】
磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50〜90質量%の範囲であり、より好ましくは60〜90質量%の範囲である。上記充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0071】
(結合剤)
磁性層形成用組成物に含まれる結合剤は、一般に塗布型磁気記録媒体の製造に用いられる各種の樹脂を何ら制限なく用いることができる。上記エポキシ基含有塩化ビニル樹脂を用いることも好ましい。結合剤については、特開2010−24113号公報の段落0028〜0031も参照できる。また、上記結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤としては、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011−216149号公報の段落0124〜0125を参照できる。硬化剤は、結合剤100.0質量部に対して例えば0〜80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0〜80.0質量部の量で使用することができる。
【0072】
(その他添加剤、溶媒)
磁性層形成用組成物には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤や突起形成剤として機能し得る各種非磁性粉末、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、カーボンブラック等を挙げることができる。なおカーボンブラックを含む磁性層形成用組成物に、先に記載した一般式1で表される2級モノアミンが含まれていることも、好ましい。この場合、結合剤としてエポキシ基含有塩化ビニル樹脂が含まれることも好ましい。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができ、または公知の方法で合成したものを使用することもできる。また、磁性層形成用組成物は、通常溶媒を含む。溶媒としては、磁気記録媒体の製造に通常使用される各種有機溶媒を何ら制限なく使用することができる。
【0073】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体について説明する。非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。これらの非磁性支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
【0074】
<各層および非磁性支持体の厚み>
上記製造方法により製造される磁気記録媒体の非磁性支持体および各層の厚みについては、非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.0〜80.0μmである。
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化することができ、一般には10nm〜150nmであり、好ましくは20nm〜120nmであり、更に好ましくは30nm〜100nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.1〜2.0μmであることが好ましく、0.1〜1.5μmであることが更に好ましい。
また、製造される磁気記録媒体が、非磁性支持体の磁性層および非磁性層を有する側とは反対側にバックコート層を有する場合、バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1〜0.7μmであることが更に好ましい。バックコート層は、カーボンブラックおよび/または無機粉末および結合剤を含み、通常溶媒も含むバックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の磁性層および非磁性層を形成した(またはこれらの層が追って設けられる)側とは反対側の表面上に塗布し乾燥させることにより形成することができる。バックコート層に含まれる結合剤、任意に含まれ得る各種添加剤については、磁性層や非磁性層の処方に関する公知技術を適用することができる。一態様では、上記カーボンブラック組成物は、バックコート層形成用組成物として用いることもできる。
【0075】
<製造工程>
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも分散工程を含み、例えば、混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含む。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる各種成分はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。上記磁気記録媒体の製造工程では、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。分散機としては、ビーズミル、ボールミル、サンドミルまたはホモミキサー等、せん断力を利用した各種公知の分散機を使用することができる。分散には、好ましくは分散ビーズを用いることができる。分散ビーズについては、先に記載した通りである。分散ビーズのビーズ径およびビーズ充填率は、特に限定されるものではなく、分散対象の粉末に応じて設定すればよい。
【0076】
(塗布工程)
非磁性層および磁性層は、非磁性層形成用組成物および磁性層形成用組成物を、逐次または同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の非磁性層および磁性層を有する(またはこれらの層が追って設けられる)側とは反対側に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010−231843号公報の段落0066を参照できる。
【0077】
(その他工程)
磁気記録媒体製造のためのその他の各種工程については、特開2010−231843号公報の段落0067〜0070を参照できる。
【0078】
以上記載した本発明の一態様にかかる製造方法により製造される磁気記録媒体は、高い表面平滑性を有する非磁性層を有することができ、これにより優れた表面平滑性を有することができる。
【実施例】
【0079】
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。なお、以下に記載の室温とは20〜25℃の範囲である。
【0080】
[カーボンブラック組成物の調製例]
<実施例1>
以下に記載の成分:
下記カーボンブラック:1.0質量部、
表1に示すアミン化合物:0.040質量部、
樹脂(1):1.0質量部、
を、メチルエチルケトン:12.0質量部、シクロヘキサノン:8.0質量部の混合溶媒中に懸濁させて懸濁液を得た。この懸濁液にビーズ径0.1mmφジルコニアビーズ(ニッカトー製)120gを添加し、15時間分散させてカーボンブラック組成物(分散液)を得た。
使用したカーボンブラックは、三菱化学社製#950B(平均粒子サイズ(平均一次粒子サイズ):18nm、BET比表面積:260m
2/g、DBP吸油量:79ml/100g、pH:7.5)である。
樹脂(1)は、エポキシ基およびスルホン酸塩基含有塩化ビニル樹脂溶液(カネカ社製MR104、固形分濃度約30質量%)である。
【0081】
<実施例2〜4、
参考例1、比較例1〜4>
アミン化合物として、表1に示すアミン化合物を使用した点以外、実施例1と同様の方法でカーボンブラック組成物を調製した。
【0082】
<実施例5>
アミン化合物として、表1に示すアミン化合物を使用し、かつ樹脂成分を、下記樹脂成分:
樹脂(1):0.5質量部、
樹脂(2):0.5質量部、
に変更した点以外、実施例1と同様の方法でカーボンブラック組成物を調製した。樹脂(2)は、スルホン酸塩基含有ポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR4800、固形分濃度約30質量%)である。
【0083】
[カーボンブラック組成物の評価方法]
1.分散性の評価
上記カーボンブラック組成物(分散液)をシリンジに5mL程度採取し、このシリンジの先端に開孔径0.1mmのろ布を取り付けた後に、シリンジから上記ろ布を通して分散液を排出することによりろ過を行った。このろ過により、分散に用いたビーズを分散液から取り除くことができる。
ろ過後のカーボンブラック組成物を、帝人社製PEN(ポリエチレンナフタレート)フィルム(非磁性支持体)上に2.5μmのギャップを持つドクターブレードを用いて塗布し、室温で60分放置して乾燥させて塗膜を作製した。ZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5022による走査型白色光干渉法にてScan Length:5μm、対物レンズ:20倍、中間レンズ:1.0倍、測定視野:260μm×350μmの条件にて、塗膜の表面粗さを測定した。測定結果を、HPF(ハイパスフィルタ):1.65μm、LPF(ローパスフィルタ):50μmでフィィルタ処理し、中心線平均表面粗さRa値を求めた。
カーボンブラック組成物におけるカーボンブラックの分散性が高いほど、作製された塗膜の表面平滑性は高まるため、測定されたRa値は、カーボンブラック組成物におけるにおけるカーボンブラックの分散性の指標とすることができる。測定されたRa値に基づき、下記基準により分散性を評価した。分散性の評価結果はAまたはBが好ましく、Aがより好ましい。
Ra値が1.6nm以下:A
Ra値が1.6nm超2.0nm以下:B
Raが2.0nm超:C
【0084】
2.組成物の安定性(液安定性)の評価
組成物の安定性(液安定性)を以下の方法により評価した。
上記カーボンブラック組成物を、調製後3日間室温にて静置して保存し、保存後のカーボンブラック組成物を、上記1.でのろ過と同様にシリンジおよびろ布を用いてろ過を行った。上記保存により増粘や固化が起こると、スムーズにろ過ができない現象やろ過した分散液の液面が平滑にならない現象が確認される。そこで、上記ろ過時の挙動から、以下の評価基準により液安定性を評価した。
OK:スムーズにろ過でき、ろ過した分散液の液面はすぐに平滑になった。
NG:スムーズにろ過ができない、またはろ過した分散液の液面が平滑にならない。
【0085】
以上の評価結果を、表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示す結果から、実施例のカーボンブラック組成物は、カーボンブラックの分散性に優れ、かつ組成物の安定性にも優れることが確認できる。
【0088】
[塗布型磁気記録媒体(磁気テープ)の製造例]
<実施例7〜
10、参考例2、比較例5〜8>
(磁性層形成用組成物の処方)
強磁性板状六方晶フェライト粉末:100.0部
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
保磁力Hc:160kA/m(2000Oe)
平均粒子サイズ(平均板径):20nm
平均板状比:2.7
BET比表面積:60m
2/g
飽和磁化σs:46A・m
2/kg(46emu/g)
ポリウレタン樹脂(東洋紡績株式会社製バイロン(登録商標)UR4800、SO
3Na濃度:70eq/ton、重量平均分子量70,000):4.0部
塩化ビニル樹脂(カネカ社製MR104、重量平均分子量55,000):10.0部α−Al
2O
3(平均粒子サイズ0.1μm):8.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ:0.08μm):0.5部
シクロヘキサノン:110.0部
【0089】
(磁性層形成用組成物の調製)
上記の各成分をオープンニーダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に下記の成分を加え撹拌した後、超音波処理し、1μmの平均孔径を有するフィルタを用いて濾過し、磁性層形成用組成物を得た。
ブチルステアレート:1.5部
ステアリン酸:0.5部
ステアリン酸アミド0.2部
メチルエチルケトン:50.0部
シクロヘキサノン:50.0部
トルエン:3.0部
ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041):2.5部
【0090】
(非磁性層形成用組成物(カーボンブラック組成物)の処方)
非磁性粉末(αFe
2O
3 ヘマタイト):80.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm
BET比表面積:52m
2/g
pH:6
タップ密度:0.8
DBP吸油量:27〜38g/100g
表面処理剤:Al
2O
3およびSiO
2
カーボンブラック:20.0部
平均粒子サイズ:0.020μm
DBP吸油量:80ml/100g
pH:8.0
BET比表面積:250m
2/g
揮発分:1.5%
表2に示すアミン化合物:0.8部
樹脂(1):19.0部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系
SO
3Na濃度:100eq/ton
メチルエチルケトン:150.0部
シクロヘキサノン:150.0部
【0091】
(非磁性層形成用組成物の調製)
上記各成分をオープンニーダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に下記の成分を加え撹拌した後、1μmの平均孔径を有するフィルタを用いて濾過し、非磁性層形成用組成物を得た。
ブチルステアレート:1.5部
ステアリン酸:1.0部
メチルエチルケトン:50.0部
シクロヘキサノン:50.0部
トルエン:3.0部
ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041):5.0部
【0092】
(バックコート層形成用組成物の処方)
カーボンブラック(平均粒子サイズ40nm):85.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ100nm):3.0部
ニトロセルロース:28.0部
ポリウレタン樹脂:58.0部
銅フタロシアニン系分散剤:2.5部
ニッポラン2301(日本ポリウレタン工業社製):0.5部
メチルイソブチルケトン:0.3部
メチルエチルケトン:860.0部
トルエン:240.0部
【0093】
(バックコート層形成用組成物の調製)
上記成分をロールミルで予備混練した後サンドミルで分散し、ポリエステル樹脂(東洋紡績株式会社製バイロン500)4.0部、ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041)14.0部、およびα−Al
2O
3(住友化学社製)5.0部を添加し、攪拌および濾過してバックコート層形成用組成物を得た。
【0094】
(磁気テープの作製)
厚み5.0μmのポリエチレンナフタレート支持体の両表面にコロナ放電処理を施した。
上記ポリエチレンナフタレート支持体の一方の表面に、上記の非磁性層形成用組成物を乾燥後の厚みが0.7μmになるように塗布し、更にその直後にその上に磁性層の厚みが60nmになるように磁性層形成用組成物を同時重層塗布した。両層が湿潤状態にあるうちに0.5T(5000G)の磁力をもつコバルト磁石と0.4T(4000G)の磁力をもつソレノイドにより垂直配向処理を施した後に乾燥処理を施した。
その後、上記ポリエチレンナフタレート支持体のもう一方の表面に上記のバックコート層形成用組成物を、乾燥後の厚みが0.5μmとなるように塗布した。次いで、金属ロールから構成される7段のカレンダでカレンダロールの表面温度100℃にて速度80m/minでカレンダ処理を行い、1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットして磁気テープを作製した。
【0095】
[磁気テープの評価方法]
<テープの平均表面粗さ>
実施例7〜
10、参考例2および比較例5〜8の各磁気テープの磁性層表面(測定面積:40μm×40μm)の中心線平均表面粗さRaを、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM):BRUKER社製のNanoScope V)を用い、コンタクトモードで測定した。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示す結果から、実施例の磁気テープは、磁性層の表面平滑性に優れることが確認できる。実施例の磁気テープが磁性層の表面平滑性に優れる理由は、磁性層の下層に位置する非磁性層を形成するために用いた組成物(カーボンブラック組成物)においてカーボンブラックの分散性が良好であったためと考えられる。
【0098】
[アミン化合物の物性評価]
実施例で使用したアミン化合物は、一般式1で表される2級モノアミンである。
これに対し、
・比較例1および比較例5で使用したアミン化合物は、3級アミンである。
・比較例2および比較例6で使用したアミン化合物は、一般式1で表される2級モノアミンに該当しない2級モノアミン(アミン窒素原子に結合するアルキル基が、α炭素での分岐構造を含まない炭素数が8以上の直鎖アルキル基である)である。
・比較例3および比較例7で使用したアミン化合物は、ヒドロキシル基を含有する2級モノアミンである。
・比較例4および比較例8で使用したアミン化合物は、一般式1で表される2級モノアミンに該当しない2級モノアミンである。
各アミン化合物としては、市販品を用いた。以上の各種アミン化合物の物性を、以下の方法によって評価した。
【0099】
1.沸点の測定
先に記載の方法により、各種アミン化合物の沸点を測定した。
【0100】
2.pHの測定
テトラヒドロフラン(THF)と水とを、体積比が前者/後者=60/40になるように混合した混合溶媒に、各アミン化合物の濃度が5mmol/Lとなるようにアミン化合物を添加して調製したpH測定用溶液のpHを、アミン化合物のpHとする。
表2に示すpHは、調製したpH測定用溶液をマグネティックスターラーで撹拌しながら、滴定装置(京都電子工業社製AT−510)にて測定したpHである。なおここでは上記滴定装置を用いたが、pH測定が可能な装置であればよく、この装置に限定されるものではない。
【0101】
3.エポキシ基との反応性の評価
エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE:東京化成製)のエポキシ基とアミン化合物の窒素数がモル比1:1となるように秤量してよく振り混ぜたサンプルを約5mg採取してアルミニウムパンに入れ、0℃〜200℃の温度域で10℃/min.の昇降温速度にて示差走査熱量測定を2サイクル実施した。EGDGEのみの場合と比較して2サイクル行う昇温の1サイクル目の昇温時の発熱ピークの有無にて反応性を確認した。ここで発熱ピークが確認されない場合を反応性「無」、確認された場合を反応性「有」として評価した。上記示差走査熱量測定は、DSC(Differential scanning calorimetry:メトラー社製)を用いて実施した。
【0102】
以上の結果を、表3に示す。塩基性の高い化合物はエポキシ基との反応性が高いと一般に言われているが、表3に示すように、実施例で用いたアミン化合物は、塩基性が高いにもかかわらず、エポキシ基との反応性を示さなかった。これは、実施例で用いたアミン化合物が、一般式1で表される構造を有するためと本発明者らは推察している。
【0103】
【表3】
【0104】
比較例2〜4のカーボンブラック組成物の調製において、樹脂(1)に代えて、樹脂(2)を用いて調製した試料溶液について、前述の方法で液安定性を評価したところ、いずれも評価結果はOKであった。この結果および表3に示す結果から、エポキシ基との反応性が、エポキシ基含有塩化ビニル樹脂を含むカーボンブラック組成物の液安定性の低下をもたらしていると考えられる。