【実施例】
【0059】
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
まず、第1の実施例として、DC鋳造法によって鋳造したアルミニウム合金を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の実施例について説明する。表1〜3に示す成分組成の各合金素材を常法に従って溶解し、アルミニウム合金溶湯を溶製した(ステップS101)。表1〜3中「−」は、測定限界値未満を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
次に、アルミニウム合金溶湯をDC鋳造法により鋳造し、厚さ400mmの鋳塊を作製した(ステップS102)。均質化処理前に、鋳塊の両面を15mm面削した。
【0065】
次に、No.A2以外は380℃で10時間の均質化処理を施した(ステップS103)。次に、熱間圧延開始温度370℃、熱間圧延終了温度230℃の条件で熱間圧延を行ない、板厚3.0mmの熱間圧延板とした(ステップS104)。
【0066】
熱間圧延後に、No.A3、A5及びAC1の合金の熱間圧延板は300℃で2時間の条件で焼鈍(バッチ式)を行った。このようにして作製した全ての熱間圧延板は、冷間圧延(圧延率73.3%)により最終板厚の0.8mmまで圧延し、アルミニウム合金板とした(ステップS105)。このアルミニウム合金板から外径96mm、内径24mmの円環状に打抜き、ディスクブランクを作製した(ステップS106)。
【0067】
このようにして作製したディスクブランクを230℃で3時間加圧焼鈍(加圧平坦化処理)を施した(ステップS107)。端面加工(切削加工)を行い外径95mm、内径25mmとし、グラインディング加工(表面25μm研削加工)を行った(ステップS108)。その後、表4〜6に示す条件で加熱処理を実施した(ステップS109)。なお、表6の比較例12において、130〜280℃の範囲における保持時間が「0.0h」とは、加熱保持温度が130℃未満であることを表している。
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
冷間圧延(ステップS105)後のアルミニウム合金板、加熱処理(ステップS109)後のアルミニウム合金基板について以下の評価を行った。なお、各試料については、冷間圧延後に外観検査を行った。その結果、実施例17及び18では、長さ30〜50mmの割れが表面に沿って発生し、実施例43〜50では長さ50mmを超える割れが表面に沿って発生したが、割れが発生していない部分をサンプルとして使用して試作及び評価を実施した。また、各試料については、加熱処理工程直後と加熱処理工程から1週間経過した後に平坦度を測定した。ここで、比較例12及び14では、加熱処理工程から1週間経過後の平坦度が20μm以上悪化しており、磁気ディスク用アルミニウム合金基板としては不適であるため、以下の評価は行わなかった。
【0072】
〔損失係数×板厚〕
加熱処理(ステップS109)工程後のアルミニウム合金基板から、60mm×8mmのサンプルを採取し、減衰法により損失係数を測定し、損失係数×板厚(mm)を算出した。損失係数の測定は、日本テクノプラス株式会社製のJE−RT型の装置を用い室温で行った。減衰性能の評価は、損失係数×板厚が0.9×10
−3mm以上の場合をA(優)、0.8×10
−3mm以上0.9×10
−3mm未満をB(良)、0.7×10
−3mm以上0.8×10
−3mm未満をC(可)、0.7×10
−3mm未満はD(劣)とした。なお、加熱処理後の磁気ディスクやアルミニウム合金基盤のめっきを剥離し、表面を10μm研削した基板から試験片を採取し、評価を行ってもよい。結果を表7〜9に示す。
なお、表7〜9において、損失係数×板厚の単位はmmである。
【0073】
【表7】
【0074】
【表8】
【0075】
【表9】
【0076】
〔ヤング率〕
加熱処理(ステップS109)工程後のアルミニウム合金基板から、60mm×8mmのサンプルを採取し、共振法によりヤング率を測定した。ヤング率の測定は、日本テクノプラス株式会社製のJE−RT型の装置を用い室温で行った。ヤング率の評価は、ヤング率が72GPa以上の場合をA(優)、71GPa以上72GPa未満をB(良)、70GPa以上71GPa未満をC(可)、70GPa未満はD(劣)とした。なお、加熱処理後の磁気ディスクやアルミニウム合金基盤のめっきを剥離し、表面を10μm研削した基板から試験片を採取し、上記評価を行ってもよい。結果を表7〜9に示す。
【0077】
〔耐力〕
耐力は、JISZ2241に準拠し、冷間圧延(ステップS105)後のアルミニウム合金板に230℃で3時間の焼鈍(加圧焼鈍模擬加熱)を行った後に、表4〜6に示す条件で加熱処理を行い、圧延方向に沿ってJIS5号試験片を採取してn=2にて測定した。強度の評価は、耐力が90MPa以上の場合をA(優)、80MPa以上90MPa未満をB(良)、70MPa以上80MPa未満をC(可)、70MPa未満はD(劣)とした。結果を表7〜9に示す。なお、加熱処理後のアルミニウム合金基板から、或いは、アルミニウム合金基盤や磁気ディスクのめっきを剥離して表面を10μm研削した基板から試験片を採取し、耐力を評価することも可能である。その際の試験片の寸法は、平行部の幅5±0.14mm、試験片の原標点距離10mm、肩部の半径2.5mm、平行部長さ15mmとする。
【0078】
〔生産性〕
冷間圧延(ステップS105)後のアルミニウム合金板を用い外観検査を行った。表面に沿った割れが、長さ30mm未満の場合をAとし、長さ30〜50mmの割れが表面に沿って発生した場合をBとし、50mmを超える割れが表面に沿って発生した場合をCとした。結果を表7〜9に示す。
【0079】
表7、8に示すように実施例1〜56ではいずれも、減衰性能、ヤング率、耐力及び生産性が優れ、良好な耐衝撃性を得ることが出来た。
【0080】
これに対して、表9に示すように比較例1〜20では、減衰性能、ヤング率及び耐力のいずれかが劣っていたため、良好な耐衝撃性を得ることが出来なかった。
【0081】
具体的には、比較例1では、アルミニウム合金のFe含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0082】
比較例2では、アルミニウム合金のMn含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0083】
比較例3では、アルミニウム合金のSi含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0084】
比較例4では、アルミニウム合金のNi含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0085】
比較例5では、アルミニウム合金のCu含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0086】
比較例6では、アルミニウム合金のMg含有量が多過ぎたため、減衰性能及びヤングが劣った。
【0087】
比較例7では、アルミニウム合金のFe含有量及びSi含有量が少な過ぎ、また、Mg含有量が多過ぎたため、減衰性能及びヤングが劣った。
【0088】
比較例8では、Cr含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0089】
比較例9では、Zr含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0090】
比較例10では、Zn含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0091】
比較例11では、加熱処理工程における加熱保持温度が高過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0092】
比較例12では、加熱処理工程における加熱保持温度が低過ぎ、かつ、加熱保持時間が短過ぎたため、加熱処理工程から1週間経過後の平坦度が20μm以上悪化し評価を行なわなかった。
【0093】
比較例13では、加熱処理工程における加熱保持時間が長過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0094】
比較例14では、加熱処理工程における加熱保持時間が短過ぎたため、加熱処理工程から1週間経過後の平坦度が20μm以上悪化し評価を行なわなかった。
【0095】
比較例15では、加熱処理工程における加熱保持温度が高過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0096】
比較例16では、加熱処理工程における加熱保持時間が長過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0097】
比較例17では、アルミニウム合金のFe含有量が少な過ぎたため、また、加熱処理工程における加熱保持温度が高過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0098】
比較例18では、アルミニウム合金のFe含有量が少な過ぎたため、また、加熱処理工程における加熱保持時間が長過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0099】
比較例19では、加熱処理工程における加熱保持温度が高過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0100】
比較例20では、加熱処理工程における加熱保持時間が長過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0101】
次に、第2の実施例として、CC鋳造法によって鋳造したアルミニウム合金を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の実施例について説明する。第1の実施例と同じく、表1〜3に示す成分組成の各合金素材を常法に従って溶解し、アルミニウム合金溶湯を溶製した(ステップS101)。
【0102】
次に、アルミニウム合金溶湯をCC鋳造法により鋳造し、厚さ8mmの鋳造板を作製した(ステップS102)。
【0103】
次に、No.A1以外の合金の鋳造板は、450℃で2時間の条件で焼鈍(バッチ式)を行った。このようにして作製した全ての鋳造板は、冷間圧延(圧延率90.0%)により最終板厚の0.8mmまで圧延し、アルミニウム合金板とした(ステップS105)。このアルミニウム合金板から外径96mm、内径24mmの円環状に打抜き、ディスクブランクを作製した(ステップS106)。
【0104】
このようにして作製したディスクブランクを230℃で3時間加圧焼鈍(加圧平坦化処理)を施した(ステップS107)。端面加工(切削加工)を行い外径95mm、内径25mmとし、グラインディング加工(表面25μm研削加工)を行った(ステップS108)。その後、表10〜12に示す条件で加熱処理を実施した(ステップS109)。なお、表12の比較例32において、130〜280℃の範囲における保持時間が「0.0h」とは、加熱保持温度が130℃未満であることを表している。
【0105】
【表10】
【0106】
【表11】
【0107】
【表12】
【0108】
冷間圧延(ステップS105)後のアルミニウム合金板、加熱処理(ステップS109)後のアルミニウム合金基板について以下の評価を行った。なお、各試料については、冷間圧延後に外観検査を行った。その結果、実施例73及び74では、長さ30〜50mmの割れが表面に沿って発生し、実施例99〜106では長さ50mmを超える割れが表面に沿って発生したが、割れが発生していない部分をサンプルとして使用して試作及び評価を実施した。また、各試料については、加熱処理工程直後と加熱処理工程から1週間経過した後に平坦度を測定した。ここで、比較例32及び34では、加熱処理工程から1週間経過後の平坦度が20μm以上悪化しており、磁気ディスク用アルミニウム合金基板としては不適であるため、以下の評価は行わなかった。
【0109】
〔損失係数×板厚〕
加熱処理(ステップS109)工程後のアルミニウム合金基板から、60mm×8mmのサンプルを採取し、減衰法により損失係数を測定し、損失係数×板厚(mm)を算出した。損失係数の測定は、日本テクノプラス株式会社製のJE−RT型の装置を用い室温で行った。減衰性能の評価は、損失係数×板厚が0.9×10
−3mm以上の場合をA(優)、0.8×10
−3mm以上0.9×10
−3mm未満をB(良)、0.7×10
−3mm以上0.8×10
−3mm未満をC(可)、0.7×10
−3mm未満はD(劣)とした。なお、加熱処理後の磁気ディスクやアルミニウム合金基盤のめっきを剥離し、表面を10μm研削した基板から試験片を採取し、評価を行ってもよい。結果を表13〜15に示す。
なお、表13〜15において、損失係数×板厚の単位はmmである。
【0110】
【表13】
【0111】
【表14】
【0112】
【表15】
【0113】
〔ヤング率〕
加熱処理(ステップS109)工程後のアルミニウム合金基板から、60mm×8mmのサンプルを採取し、共振法によりヤング率を測定した。ヤング率の測定は、日本テクノプラス株式会社製のJE−RT型の装置を用い室温で行った。ヤング率の評価は、ヤング率が72GPa以上の場合をA(優)、71GPa以上72GPa未満をB(良)、70GPa以上71GPa未満をC(可)、70GPa未満はD(劣)とした。なお、加熱処理後の磁気ディスクやアルミニウム合金基盤のめっきを剥離し、表面を10μm研削した基板から試験片を採取し、上記評価を行ってもよい。結果を表13〜15に示す。
【0114】
〔耐力〕
耐力は、JISZ2241に準拠し、冷間圧延(ステップS105)後のアルミニウム合金板に230℃で3時間の焼鈍(加圧焼鈍模擬加熱)を行った後に、表10〜12に示す条件で加熱処理を行い、圧延方向に沿ってJIS5号試験片を採取してn=2にて測定した。強度の評価は、耐力が90MPa以上の場合をA(優)、80MPa以上90MPa未満をB(良)、70MPa以上80MPa未満をC(可)、70MPa未満はD(劣)とした。結果を表13〜15に示す。なお、加熱処理後のアルミニウム合金基板から、或いは、アルミニウム合金基盤や磁気ディスクのめっきを剥離して表面を10μm研削した基板から試験片を採取し、耐力を評価することも可能である。その際の試験片の寸法は、平行部の幅5±0.14mm、試験片の原標点距離10mm、肩部の半径2.5mm、平行部長さ15mmとする。
【0115】
〔生産性〕
冷間圧延(ステップS105)後のアルミニウム合金板を用い外観検査を行った。表面に沿った割れが、長さ30mm未満の場合をAとし、長さ30〜50mmの割れが表面に沿って発生した場合をBとし、50mmを超える割れが表面に沿って発生した場合をCとした。結果を表13〜15に示す。
【0116】
表13、14に示すように実施例57〜112ではいずれも、減衰性能、ヤング率、耐力及び生産性が優れ、良好な耐衝撃性を得ることが出来た。
【0117】
これに対して、表15に示すように比較例21〜40では、減衰性能、ヤング率及び耐力のいずれかが劣っていたため、良好な耐衝撃性を得ることが出来なかった。
【0118】
具体的には、比較例21では、アルミニウム合金のFe含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0119】
比較例22では、アルミニウム合金のMn含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0120】
比較例23では、アルミニウム合金のSi含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0121】
比較例24では、アルミニウム合金のNi含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0122】
比較例25では、アルミニウム合金のCu含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0123】
比較例26では、アルミニウム合金のMg含有量が多過ぎたため、減衰性能及びヤングが劣った。
【0124】
比較例27では、アルミニウム合金のFe含有量及びSi含有量が少な過ぎ、また、Mg含有量が多過ぎたため、減衰性能及びヤングが劣った。
【0125】
比較例28では、Cr含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0126】
比較例29では、Zr含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0127】
比較例30では、Zn含有量が少な過ぎたため、減衰性能、ヤング率及び耐力が劣った。
【0128】
比較例31では、加熱処理工程における加熱保持温度が高過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0129】
比較例32では、加熱処理工程における加熱保持温度が低過ぎ、かつ、加熱保持時間が短過ぎたため、加熱処理工程から1週間経過後の平坦度が20μm以上悪化し評価を行なわなかった。
【0130】
比較例33では、加熱処理工程における加熱保持時間が長過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0131】
比較例34では、加熱処理工程における加熱保持時間が短過ぎたため、加熱処理工程から1週間経過後の平坦度が20μm以上悪化し評価を行なわなかった。
【0132】
比較例35では、加熱処理工程における加熱保持温度が高過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0133】
比較例36では、加熱処理工程における加熱保持時間が長過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0134】
比較例37では、アルミニウム合金のFe含有量が少な過ぎたため、また、加熱処理工程における加熱保持温度が高過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0135】
比較例38では、アルミニウム合金のFe含有量が少な過ぎたため、また、加熱処理工程における加熱保持時間が長過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0136】
比較例39では、加熱処理工程における加熱保持温度が高過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。
【0137】
比較例40では、加熱処理工程における加熱保持時間が長過ぎたため、減衰性能及び耐力が劣った。