(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
食物の噛み方、味わい方などの食べ方は子どもの時から育まれていく。食べ方は、乳幼児期、学齢期に歯・口の成長とともに発達する。味わいとしておいしさを感じるためには、五感を意識した食べ方をすることが重要である。特に、おいしさの重要な情報は、風味および食感によって脳にもたらされる。
【0003】
ここで、風味とは、「味覚」と、「舌根部、咽頭に存在する被咀嚼物から出る香りが呼気とともに咽頭から鼻に抜けるときの香り(戻り香)に対する嗅覚」との複合感覚をいう。味覚を脳に伝える役割を担うのは、舌や喉の粘膜に広く分布する味蕾である。そして、この味蕾は、舌背に特に多く分布している。さらに、左右の奥歯で食物をしっかり噛むことは味わいの面からとても大切になる。したがって、「味わい」のメカニズムを有効に働かせるためには、しっかりと噛んで、味覚と臭覚を十分に働かせる必要がある。
【0004】
ところで、平成21年7月には、しっかり噛んで食べることの重要性を日本国民に周知するために、一口30回の咀嚼を目指そうとする「噛ミング30(カミングサンマル)」運動が厚生労働省「歯科保健と食育の在り方に関わる検討会」から提唱され、食育の場でその運動が推進されている。幼児は、乳離れする頃になると、歯を使った咀嚼が可能になる。1歳半前後に生える奥歯は、まだ噛む面が小さく、食物を押し潰せても、食物をすり潰すには十分でない。したがって、幼児期には、幼児の口にあった硬さ、大きさ、粘調性などを兼ね備える食形態を提供する必要がある。
【0005】
従来、咀嚼強化を目的とした製品としては、例えば、顎の筋力強化を目的としたガムベースを主剤とするチューイングガム(特許文献1)、コンニャクの弾力を利用した咀嚼機能強化用の健康食品(特許文献2)、グルコマンナンを必須成分として凍結後脱水乾燥により製造される口腔内未発達組織の発達に有用な食品組成物(特許文献3)、カードランを必須成分として凍結後脱水乾燥により製造される食品組成物(特許文献4)、ゼラチンを主剤とするグミゼリー等の食品、食品組成物が提案されている。
【0006】
また、凝固剤または増粘剤としてゼラチンまたはゼラチンと卵白とを主原料に添加して焼成することにより、スポンジ状の食感を保ち、容易には噛み切れないような粘性を与えて咀嚼強化の機能を付加した咀嚼強化焼き菓子(特許文献5)が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、チューイングガムは、誤嚥・窒息のリスクがあるため幼児には不適切である。また、このようなチューイングガムは、咀嚼強化を目的とする日常食品とはなり難い。同様にゼリー、グミやコンニャクも、本来備える弾力を強化するだけに過ぎず、また幼児の誤嚥・窒息のリスクを完全に排除することは難しい。
【0009】
また、咀嚼強化焼き菓子(特許文献5)は、幼児が摂取する食形態であるビスケットなどの焼き菓子であって、咀嚼強化を目的としているものの、単に食感のソフト化という現代の嗜好に合うように、柔らかくスポンジ状の食感を保ちながら、容易には噛み切れない粘性を付与したものに過ぎない。つまり、この咀嚼強化焼き菓子は、満1歳半前後の幼児の口にあった硬さ、大きさ、粘調性に主眼を置いて十分に検証されたものとはいえない。
【0010】
本発明の課題は、満年齢1歳から5歳11か月までの幼児、特に乳離れして歯を使った咀嚼が可能になる満1歳半前後の幼児の口にあった硬さ、粘調性などを兼ね備える食形態を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る
焼き菓子は、小麦粉、米粉、澱粉の粉類から選択される少なくとも一種の主原料に、ソルビトール及びグリセロールの少なくとも一種からなる副原料
、大豆タンパク質または乳タンパク質、糖類、油脂、鶏卵の乾燥物を添加して焼成することにより得られる
。なお、ここで、副原料は、原料全体の質量に対して0.5質量%以上16質量%以下の範囲内の割合を占める。また、鶏卵の乾燥物は、原料全体の質量に対して1質量%以上10質量%以下の割合を占める。そして、この
焼き菓子では、破断応力、破断歪み、もろさ応力および凝集性といった物理特性が調整されている。
具体的には、破断応力が0.3×107N/m2以上4.5×107N/m2以下の範囲内であり、破断歪みが20%以上65%以下の範囲内であり、もろさ応力が0N/m2以上2×106N/m2以下の範囲内であり、凝集性が0.1以上0.5以下の範囲内である。その結果、この
臼磨運動促進焼き菓子は、一般的な焼き菓子に比べて、破断応力もしくはもろさ応力が低い、または破断歪みもしくは凝集性が高いという、これまでに無い食感を実現することができる。なお、この
臼磨運動促進焼き菓子は、満年齢1歳から5歳11か月までの幼児
に対して咀嚼時に臼磨運動を行わせる機能を有する。
すなわち、本発明に係る焼き菓子は臼磨運動促進焼き菓子であると言える。また、本発明は、上記焼き菓子を満年齢1歳から5歳11か月までの幼児に対して咀嚼時に臼磨運動を行わせる食品として使用する方法であると言い換えることもできる。
【0012】
ところで、乳歯列完成前から永久歯萌出開始時期(満年齢1歳頃〜5歳11か月頃)の幼児に対して、本発明に係る
焼き菓子を摂取させた場合の幼児の咀嚼運動を一口量の咀嚼回数により評価したところ、本発明に係る
焼き菓子は、一般的な焼き菓子に比べて、幼児の咀嚼回数を多くし、幼児の咀嚼運動を活発にさせることが明らかとなった。一方、成人に対して同じ検討を行ったところ、驚くべきことに幼児の場合のように咀嚼運動の指標に相違は認められなかった。すなわち、本願発明者らは、乳歯列完成前から永久歯萌出開始時期(満年齢1歳頃〜5歳11か月頃)の幼児用の咀嚼運動を強化する焼き菓子を提供するには、永久歯が生え揃った成人での検討や評価結果を適用することはできず、対象となる年齢の幼児に対して実際に食品を摂取させて咀嚼運動の評価を行うことが必須であることを新たに見いだした。
【0013】
また、本発明に係る
焼き菓子は、破断応力もしくはもろさ応力が低い、または破断歪みもしくは凝集性が高いため、口腔内で食塊が形成しにくく、咀嚼能力が未発達な幼児においてのみ、より咀嚼に伴う顎運動を要することが確認された。すなわち、本発明に係る
焼き菓子は、特に幼児の咀嚼を強化することができる全く新規な焼き菓子である。
【0014】
このような方法によって幼児向けの
焼き菓子の提供を検討した例はこれまでにない。
【0015】
また、本発明に係る
焼き菓子を乳歯列完成前から永久歯萌出開始時期(満年齢1歳頃〜5歳11か月頃)の幼児に摂取させた場合の咀嚼運動評価である一口量の咀嚼回数は、一般的な焼き菓子を摂取させた場合に比べて多いだけでなく、30回以上となることが確認された。したがって、本発明に係る
焼き菓子は、一口30回の咀嚼を目指そうとする「噛ミング30」運動に合致した食形態を提供することを可能にするものである点においても、これまでの一般的な焼き菓子とは異なっている。
【0016】
なお、上述の
焼き菓子には、ビタミン・ミネラル類がさらに含有されることが好ましい。
【0017】
なお、上述の
焼き菓子において、副原料の含有量は、原料全体の質量に対し
て1質量%以上10質量%以下の範囲内であること
が好ましい。
【0018】
また、上述の
焼き菓子は、破断応力
が0.6×10
7N/m
2以上4.0×10
7N/m
2以下の範囲内であること
が好ましい。
【0019】
また、上述の
焼き菓子は、破断応力が上述の範囲内であり、さらに破断歪み
が25%以上50%以下の範囲内であること
が好ましい。
【0020】
また、上述の
焼き菓子は、破断応力および破断歪みが上述の範囲であり、さら
にもろさ応力が0N/m
2以上1×10
6N/m
2以下の範囲内であり且つ凝集性が0.2以上0.4以下の範囲内であること
が好ましい。
【0021】
また、上述の
焼き菓子は、幅が18mm以上28mm以下の範囲内であり、厚みが7mm以上14mm以下の範囲内であり、長さが50mm以上100mm以下の範囲内であることが好ましい。なお、この寸法は、生後1歳6月から生後3歳までの幼児の平均口角間距離(31.0±2.4〜34.5±3.8mm)、平均最大開口量(28.1±3.3〜33.6±4.0mm)および平均手掌幅(47.0±1.6〜50.4±2.1mm)を考慮して決定されている。具体的には、幅は幼児の平均口角間距離の3分の2以下であって口角により食物を捕捉するのに適している程度であることが好ましく(食物を摂取するのに適した距離)、厚みは幼児の平均最大開口量の3分の1以下(噛み切る力が顎に適切に伝わる距離)であって噛み応えがある程度であることが好ましく、長さは幼児の平均手掌幅以上(棒状の食品を持って食べる際に適当な長さ)であって一食分として適量となる程度であることが好ましい。
【0022】
なお、生後1歳6月から生後2歳までの幼児の平均最大開口量は「社会福祉・医療事業団子育て支援金助成事業 乳幼児の口腔容積調査報告 平成14年3月発行」に記載のデータを参照している。また、生後1歳6月から生後3歳までの幼児の平均口角間距離および平均手掌幅は「倉本絵美、田村文誉、大久保真衣、石川光、向井美惠 スプーンの形態が幼児の捕食動作に及ぼす影響 小児保健研究 第61巻、第1号、2002」に記載のデータを参照している。
【発明の効果】
【0023】
上述したように、本発明によれば、乳歯列完成前から永久歯萌出開始時期(満年齢1歳頃〜5歳11か月頃)の幼児の口にあった硬さ、粘調性などを兼ね備える
焼き菓子を提供することが可能となる。さらに、本発明による
焼き菓子により、一口30回の咀嚼を目指そうとする「噛ミング30」運動に合致した食形態を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0026】
本発明の実施の形態に係る
焼き菓子は、主原料として小麦粉、米粉および澱粉などの粉類を含み、特定の副原料としてソルビトール、グリセロール、またはこれらの混合物を含む。また、この
焼き菓子は、必要に応じて油脂、糖類、鶏卵、乳製品などを含む。
【0027】
この
焼き菓子は、主原料と副原料とを混合し、その混合物を常法により成形した後、所定の焼成条件で焼成することにより得られる。例えば、
焼き菓子がビスケットである場合、その
焼き菓子は、主原料と副原料とをミキサーで混合して生地をつくり、その生地を成形して冷蔵庫で約1時間休ませた後にカッティングし、カッティングされた生地をオーブンにて140℃〜200℃、5〜10分間焼成することにより得られる
。以下、
焼き菓子の構成要素、成分、製法についてさらに詳細に説明する。
【0028】
例えば、本発明の実施の形態に係る
焼き菓子は、小麦粉、米粉、澱粉などの粉類を主原料とすればよい。また、本発明の実施の形態に係る
焼き菓子が「ビスケット」である場合、小麦粉、米粉、澱粉などの原料粉の他に、油脂、糖類、鶏卵、乳製品、ベーキングパウダー等を加えて混合したものを原料とすればよい。なお、「焼き菓子」としては、例えば、ビスケット、クッキー、サブレー、パイ、プレッツェル等が挙げられる。特に、本発明の実施の形態に係る
焼き菓子では、幼児の口にあった硬さ、粘調性などを得ることを目的として、大豆タンパク質や乳タンパク質といったタンパク質を加えることができる。
【0029】
また、本発明の実施の形態に係る
焼き菓子の主原料としては、小麦粉、米粉または澱粉などが挙げられる。さらに具体的には、薄力粉、中力粉、強力粉、ライ麦粉、上新粉、白玉粉、キャッサバ澱粉、くず澱粉、米澱粉、小麦澱粉、さつまいも澱粉、じゃがいも澱粉、とうもろこし澱粉、そば粉などの穀類や穀類加工品などの粉類を主原料として用いることができる。
【0030】
副原料としては、ソルビトール、グリセロール、これらの混合物が挙げられる。その他の任意の副原料としては、油脂、糖類、鶏卵、乳製品、ベーキングパウダー等の一般的な焼き菓子製造に用いる副原料が挙げられる。なお、これらの副原料は、単独または適宜組み合わせて用いられてもよい。さらに具体的な副原料としては、例えば、バター、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、精製油脂、落花生油、やし油、綿実油、ひまわり油、パーム核油、パーム油、なたね油、コーン油、大豆油、魚油、サフラワー油、ごま油、オリーブ油、ラード、牛脂等の油脂、レシチン、全卵、卵黄、卵白等の鶏卵類、大豆タンパク質、乳タンパク質等のタンパク質、砂糖、グラニュー糖、黒砂糖、水あめ、ぶどう糖、果糖、異性化液糖、はちみつ、メープルシロップ等の糖類、生乳、全粉乳、脱脂粉乳、牛乳、練乳、生クリーム等の乳製品、きな粉、ピスタチオ、ヒマワリ種、ヘーゼルナッツ、ペカン、マカデミアナッツ、落花生、アーモンド、エゴマ、カシューナッツ、かぼちゃ種、栗、クルミ、けし、ココナッツ、ごま、乾燥果実等の他の穀類・種子類、ココアパウダー、食物繊維、食塩、果汁、ビタミン類、ミネラル類およびアスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア等の甘味料、重曹、炭酸アンモニウム、ベーキングパウダー等の膨張剤、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナン等の増粘剤等が挙げられる。また、必要に応じて、副原料に色素、香料、乳化剤、酵素、酵母等を加えることも可能である
【0031】
本発明において重要なことは、幼児の口にあった硬さ、粘調性などを得ることを目的として、原材料に所定量のソルビトール及びグリセロールの少なくとも一種を添加することである。例えば、薄力粉および大豆タンパク質からなる原料粉に適量の油脂と糖類を添加し、さらに原料全体の質量に占める副原料の含有量が0.5質量%以上16質量%以下の範囲内となるように原料粉に副原料を添加した後、その原料から生地を作製して焼成することにより、乳歯列完成前から永久歯萌出開始時期(満年齢1歳頃〜5歳11か月頃)の幼児の咀嚼を強化する焼き菓子、すなわち本発明の実施の形態に係る
焼き菓子が得られる。
【0032】
本発明による
焼き菓子は、通常の焼き菓子製造方法に従って製造することができる。
【0033】
例えば、
焼き菓子がビスケットである場合、先ず、所定量の主原料および副原料を混合してドウ(生地)を調製する。ドウの調製方法としては、シュガーバッター法、フラワーバッター法などが挙げられる。そして、得られたドウを所定の形状、大きさに成形して焼成する。焼成時、ドウは、ドウの表面温度が100℃以上となるように加熱される。なお、
焼き菓子がビスケットである場合には、ドウの表面温度が140℃から200℃の範囲内となるように加熱される。
【0034】
なお、本発明の実施の形態に係る
焼き菓子の製造では、水蒸気などによる蒸焼、加熱油などによる油揚げ等の一般的な食品加熱方法も用いることができる。
【0035】
ところで、本発明の実施の形態に係る
焼き菓子の物理特性を測定することにより、本発明の実施の形態に係る
焼き菓子の効果を発現することができる硬さ、粘調性などの具体的な指標を数値化することができる。例えば、レオメーターにより
焼き菓子を圧縮して、
図1に例示した応力−歪み特性曲線を得ることができる。そして、その応力−歪み特性曲線に基づいて破断応力、破断歪み及びもろさ応力の指標値を導出することができる。また、クリープメーターで
焼き菓子を圧縮する操作を繰り返すことにより、
図2に例示した応力−歪み特性曲線を得ることができる。そして、その応力−歪み特性曲線に基づいて凝集性の指標値を導出することができる。
【0036】
本発明の実施の形態に係る
焼き菓子において、破断応力は、0.3×10
7N/m
2以上4.5×10
7N/m
2以下の範囲内であることが好ましく、0.6×10
7N/m
2以上4.0×10
7N/m
2以下の範囲内であることがより好ましい。また、破断歪みは、20%以上65%以下の範囲内であることが好ましく、25%以上50%以下の範囲内であることがより好ましい。もろさ応力は、0N/m
2以上2×10
6N/m
2以下の範囲内であることが好ましく、0N/m
2以上1×10
6N/m
2以下の範囲内であることがより好ましい。また、凝集性は、0.1以上0.5以下の範囲内であることが好ましく、0.2以上0.4以下の範囲内であることがより好ましい。
【0037】
なお、これらの物理特性において、破断応力が上述の範囲内であることが好ましく、破断応力および破断歪みの双方が上述のそれぞれの範囲内であることがより好ましく、上述の4種の物理特性、すなわち、破断応力、破断歪み、もろさ応力、凝集性の全てが上述のそれぞれの範囲内であることがさらに好ましい。
【0038】
なお、これらの物理特性は以下の方法により求めることができる。
【0039】
破断応力、破断歪み及びもろさ応力は、レオメーターとしてSUN RHEO METER CR−500DX(株式会社サン科学社製)を用いて測定される。具体的には、幅2cm×高さ1cm×長さ7cmの試料を作製した後、幅1cm、刃の厚み1mm(接触面積:1mm
2)のくさび型プランジャーを進入速度60mm/minでこの試料に侵入させて応力−歪み特性曲線を得、その応力−歪み特性曲線から破断応力、破断歪み及びもろさ応力を求める。
【0040】
また、凝集性は、クリープメーターとしてRE2−3305B(山電株式会社製)を用いて測定される。具体的には、幅2cm×高さ1cm×長さ7cmの試料を作製した後、直径10mmの円柱プランジャーを用いてクリアランス66.6%、圧縮速度300mm/minの条件下でその試料に対して2バイト法に基づくテクスチャー測定を行う。
【0041】
<実施例および比較例>
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
<クッキーの作製>
先ず、薄力粉31.8質量部に対して、6.5質量部のタンパク質、35.6質量部の糖類、14.7質量部の油脂、1.0質量部の鶏卵(乾燥品)、2.4質量部のビタミン・ミネラル類、3.0質量部のグリセロールおよび5.0質量部のソルビトールを添加して原料を調合した後、この原料からドウを調製した(表1参照)。次いで、焼き上げ後のクッキーの寸法が20.5mm×9.5mm×70.0mmとなるようにこのドウを成形した後に165℃で焼成して目的のクッキーを作製した。
【0043】
<クッキーの特性評価>
(1)物理特性評価
上述のクッキーの破断応力、破断歪み(歪み率)、もろさ応力および凝集性を、前述のレオメーターにより前述の条件で測定した。その結果、そのクッキーの破断応力は1.5×10
7N/m
2であり、歪み率は41.1%であり、もろさ応力は0N/m
2であり、凝集性は0.33であった(表2参照)。
【0044】
(2)咀嚼評価1
上述のクッキーを、成人および生後2歳8か月の幼児(以下、まとめて「被験者」という場合がある)に一口量(成人では2cm×2cm×1cm、幼児では2cm×1cm×1cm)を与えた時と、被験者に一口を自由に噛み取らせた時の咀嚼評価を行った。観察時には、被験者の顔面の皮膚上に顔料マーカーまたはシールを張り付け、被験者の顔面に8点の計測点を設定した。被験者の顔面の画像は2台ないし3台のデジタルビデオカメラで録画し、その録画データから三次元動作解析システム(株式会社ライブラリー製ひまわりGV1401k)にて被験者の顎、口唇の動きを解析して被験者の咀嚼回数を求めた。
【0045】
その結果、一口を自由に噛み取らせた時の幼児の咀嚼回数は40回であり、成人の咀嚼回数は16回であった(表3参照)。また、一口量を与えた時の幼児の咀嚼回数は46回であり、成人の咀嚼回数は16回であった(表4参照)。
【0046】
(3)咀嚼評価2
生後5歳8か月男児(歯数:20,歯齢:IIA,カウプ指数:13.9)、5歳4か月男児(歯数:19,歯齢:IIA,カウプ指数:14.7)、4歳10か月男児(歯数:20,歯齢:IIA,カウプ指数:16.1)、3歳6か月男児(歯数:20,歯齢:IIA,カウプ指数:16.1)、2歳6か月男児(歯数:20,歯齢:IC,カウプ指数:18.9)、2歳3か月男児(歯数:16,歯齢:IC,カウプ指数:16.6)、1歳6か月男児(歯数:16,歯齢:IC,カウプ指数:15.2)、1歳4か月男児(歯数:12,歯齢:IC,カウプ指数:16.0)の計8名を被験者として選定した。なお、ここで、歯齢はHellmanの歯齢をいい、「IIA」は被験者が乳歯咬合完成期であることを示し、「IC」は乳歯咬合完成前期であることを示す。また、カウプ指数とは、「乳幼児の発育、栄養状態の評価に用いられる指数」であり、22以上が太りすぎ、13未満が痩せすぎとされるが、被験者は標準ないしはやせぎみの範囲に入る者である。
【0047】
被験者が上述のクッキーを一口咬断し嚥下するまでの様子を、上述の咀嚼評価1と同様に2台ないし3台のデジタルビデオカメラで録画した。なお、この際、
図3に示されるように、被験者の左頬骨弓(基準点A)、右頬骨弓(基準点B)、鼻尖(基準点N)、左口角(計測点R)、右口角(計測点L)およびオトガイ(計測点P)に、咀嚼評価1と同様に、顔料マーカーまたはシールを張り付けた。
【0048】
前述の三次元解析システムを用いて上述の録画データを解析し、基準点A、BおよびNからなる平面を基準とする各計測点R、LおよびPの変位量を導出した。具体的には、被験者がクッキーを咬断した直後の画像(1シーン)を基準とし、5回咀嚼運動中(5サイクル)の計測点R、計測点Lおよび計測点Pの変位量を求めた。
【0049】
代表例として、生後5歳8か月の幼児の計測点R、LおよびPの変位量を
図4、
図5および
図6にそれぞれ示した。なお、ここで、被験者の顔面を正面視した場合、左右方向がX方向であり、奥行き方向がY方向であり、高さ方向がZ方向である。被験者が上述のクッキーを咀嚼するとき、被験者の左口角、右口角およびオトガイは、3方向全てへ変位しやすいことが明らかとなった。すなわち、このクッキーは、被験者に対してチョッパー咀嚼(歯を数回上下するだけの単純上下運動)ではなく、グラインディング咀嚼(上下運動に臼歯の横の動きを加えた臼磨運動)を行わせやすいことが明らかとなった。
【0050】
ところで、グラインディング咀嚼は、顎骨の成長を促して、乳歯が永久歯に生え変わる際に乳歯よりも本数が増える歯を受け入れるスペースを形成し、叢生歯列(でこぼこのある歯ならび)を予防すると考えられている。また、グラインディング咀嚼では顎の筋肉だけでなく首の筋肉も使われる。このため、グラインディング咀嚼は、頭をしっかり支え、正しい姿勢をつくることにも役立つ。さらに、グラインディング咀嚼を行うことによって、唾液やホルモンの分泌を促され、脳への血流が促進され、延いては幼児の健全な成長および発育に寄与することが知られている。
【実施例2】
【0051】
薄力粉を38.8質量部とし、グリセロールを0.5質量部とし、ソルビトールを0.5質量部とした以外は、実施例1と同様にしてクッキーを作製し、実施例1と同様にしてクッキーの物理特性評価を行った(表1参照)。
【0052】
その結果、クッキーの破断応力は3.8×10
7N/m
2であり、歪み率は28.5%であり、もろさ応力は0N/m
2であり、凝集性は0.24であった(表2参照)。
【実施例3】
【0053】
薄力粉を37.8質量部とし、グリセロールを1.0質量部とし、ソルビトールを1.0質量部とした以外は、実施例1と同様にしてクッキーを作製し、実施例1と同様にしてクッキーの物理特性評価を行った(表1参照)。
【0054】
その結果、クッキーの破断応力は3.7×10
7N/m
2であり、歪み率は27.3%であり、もろさ応力は0N/m
2であり、凝集性は0.26であった(表2参照)。
【実施例4】
【0055】
薄力粉を35.8質量部とし、グリセロールを2.0質量部とし、ソルビトールを2.0質量部とした以外は、実施例1と同様にしてクッキーを作製し、実施例1と同様にしてクッキーの物理特性評価を行った(表1参照)。
【0056】
その結果、クッキーの破断応力は2.7×10
7N/m
2であり、歪み率は32.1%であり、もろさ応力は0N/m
2であり、凝集性は0.32であった(表2参照)。
【実施例5】
【0057】
薄力粉を31.8質量部とし、グリセロールを6.6質量部とし、ソルビトールを1.4質量部とした以外は、実施例1と同様にしてクッキーを作製し、実施例1と同様にしてクッキーの物理特性評価を行った(表1参照)。
【0058】
その結果、クッキーの破断応力は1.1×10
7N/m
2であり、歪み率は41.3%であり、もろさ応力は0N/m
2であり、凝集性は0.36であった(表2参照)。
【実施例6】
【0059】
薄力粉を29.5質量部とし、ビタミン・ミネラル類を2.7質量部とし、グリセロールを5.0質量部とした以外は、実施例1と同様にしてクッキーを作製し、実施例1と同様にしてクッキーの物理特性評価を行った(表1参照)。
【0060】
その結果、クッキーの破断応力は0.76×10
7N/m
2であり、歪み率は45.9%であり、もろさ応力は0N/m
2であり、凝集性は0.37であった(表2参照)。
【実施例7】
【0061】
薄力粉を27.8質量部とし、グリセロールを12.0質量部とし、ソルビトールを0質量部とした以外は、実施例1と同様にしてクッキーを作製し、実施例1と同様にしてクッキーの物理特性評価を行った(表1参照)。
【0062】
その結果、クッキーの破断応力は0.81×10
7N/m
2であり、歪み率は48.2%であり、もろさ応力は0N/m
2であり、凝集性は0.42であった(表2参照)。
【実施例8】
【0063】
薄力粉を23.8質量部とし、グリセロールを8.0質量部とし、ソルビトールを8.0質量部とした以外は、実施例1と同様にしてクッキーを作製し、実施例1と同様にしてクッキーの物理特性評価を行った(表1参照)。
【0064】
その結果、クッキーの破断応力は0.57×10
7N/m
2であり、歪み率は64.7%であり、もろさ応力は0N/m
2であり、凝集性は0.43であった(表2参照)。
【0065】
(比較例1)
(1)物理特性評価および咀嚼評価1
薄力粉を53.5質量部とし、タンパク質を0質量部とし、糖類を17.6質量部とし、油脂を17.1質量部とし、鶏卵(乾燥品)を0質量部とし、ビタミン・ミネラル類を0.9質量部とし、グリセロールを0質量部とし、ソルビトールを0質量部とし、粉乳を10.9質量部加えた以外は、実施例1と同様にしてクッキーを作製し、実施例1と同様にしてクッキーの物理特性評価および咀嚼評価1を行った(表1参照)。
【0066】
その結果、クッキーの破断応力は4.9×10
7N/m
2であり、歪み率は15.8%であり、もろさ応力は3.5N/m
2であり、凝集性は0であった(表2参照)。また、一口を自由に噛み取らせた時の幼児の咀嚼回数は20回であり、成人の咀嚼回数は13回であった(表3参照)。
【0067】
(2)咀嚼評価2
比較例1のクッキーを用いた以外は、実施例1と同様に咀嚼評価2を行った。
【0068】
代表例として、生後5歳8か月の幼児の計測点R、LおよびPの変位量を
図7、
図8および
図9にそれぞれ示した。被験者が比較例1のクッキーを咀嚼するとき、被験者の左口角、右口角およびオトガイは、3方向全てへ変位しにくいことが明らかとなった。すなわち、このクッキーは、被験者に対してチョッパー咀嚼を行わせることはできるが、グラインディング咀嚼を行わせにくいことが明らかとなった。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
上述の結果から明らかなように、実施例1に係るクッキーは、幼児に摂取させた場合、比較例1に係るクッキーに比べて咀嚼回数が著しく多くなることが判る。なお、これは、幼児に一口量のクッキーを摂取させた時、幼児にクッキーを自由に噛み取らせた時の双方において見られる現象であった。一方、成人に一口量のクッキーを摂取させた時と、成人にクッキーを自由に噛み取らせた時とでは、大きな変化は見られなかった。
【0074】
すなわち、本発明の実施例1に係るクッキーは、対照とした一般的なクッキーに比べて破断応力およびもろさ応力が低く、破断歪みおよび凝集性が高いため、幼児の口腔内で食塊形成がしにくく、幼児に対してより多くの咀嚼を行わせたと考えられる。また、同様の理由から、本発明の実施例1に係るクッキーは、比較例1に係るクッキーよりもグライディング咀嚼を引き出しやすくなっていると考えられる。この結果、実施例1に係るクッキーが、幼児の咀嚼を強化するのに適した焼き菓子であることが確認された。また、実施例1に係るクッキーを幼児に与えたとき、一口30回以上の咀嚼が確認されている。このため、実施例1に係るクッキーは、「噛ミング30」運動に適したものであることが実証された。
【実施例9】
【0075】
実施例1と同様の方法で目的のクッキーを作製し、このクッキーを1歳児、2歳児、3歳児、4歳児および5歳児それぞれに摂食させ、各幼児の一口咬断量および咬断長さを測定した。その結果、1歳児の平均一口咬断量および平均咬断長さは各々1.8gおよび13.1mmであった。また、2歳児の平均一口咬断量および平均咬断長さは各々1.7gおよび13.1mmであった。また、3歳児の平均一口咬断量および平均咬断長さは各々1.4gおよび10.1mmであった。また、4歳児の平均一口咬断量および平均咬断長さは各々1.7gおよび12.7mmであった。また、5歳児の平均一口咬断量および平均咬断長さは各々2.2gおよび15.8mmであった(表5および表6参照)。
【0076】
(比較例2)
焼き上げ後のクッキーの寸法が13.5mm×8.4mm×74.0mmとなるようにドウを成形した以外は、比較例1と同様にして目的のクッキーを作製した。
【0077】
そして、このクッキーを1歳児、2歳児、3歳児、4歳児および5歳児それぞれに摂取させ、各幼児の一口咬断量および咬断長さを測定した。その結果、1歳児の平均一口咬断量および平均咬断長さは各々0.7gおよび14.4mmであった。また、2歳児の平均一口咬断量および平均咬断長さは各々0.9gおよび16.8mmであった。また、3歳児の平均一口咬断量および平均咬断長さは各々0.6gおよび12.8mmであった。また、4歳児の平均一口咬断量および平均咬断長さは各々0.7gおよび15.0mmであった。また、5歳児の平均一口咬断量および平均咬断長さは各々1.0gおよび22.4mmであった(表5および表6参照)。
【0078】
【表5】
【0079】
【表6】
【0080】
なお、実施例9に係るクッキーに対する平均一口咬断量は、いずれの年齢の幼児においても、比較例2に係るクッキーに対する平均一口咬断量よりも有意に多かったが、年齢間で有意差は認められなかった。
【0081】
また、実施例9に係るクッキーに対する平均咬断長さは、いずれの年齢の幼児においても、比較例2に係るクッキーに対する平均咬断長さよりも有意に長かったが、年齢間で有意差は認められなかった。
【0082】
このため、実施例9に係るクッキーは、幼児の咀嚼を強化するのに適するだけでなく、幼児が食しやすい焼き菓子である。