(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427338
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】スプレッド食品
(51)【国際特許分類】
A23C 1/00 20060101AFI20181112BHJP
A23C 9/152 20060101ALI20181112BHJP
A23C 3/08 20060101ALI20181112BHJP
A23D 7/015 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
A23C1/00
A23C9/152
A23C3/08
A23D7/015
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-104731(P2014-104731)
(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公開番号】特開2015-216905(P2015-216905A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】浅田 千鶴
【審査官】
市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第96/033619(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 1/00−23/00
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径20μm以下の乳糖結晶を保持しているスプレッド様食品であって、
乳固形22%以上の乳類と、
グリセリンと、
ゲル化剤と、を含有し、
前記乳類の含有率が50%〜95%、前記グリセリンの含有率が1%〜30%、かつ、前記ゲル化剤の含有率が0.05%〜5%であることを特徴とするスプレッド様食品。
【請求項2】
前記乳類が、練乳であることを特徴とする請求項1に記載のスプレッド様食品。
【請求項3】
脂肪含有率が20%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスプレッド様食品。
【請求項4】
製品水分中に含まれる乳糖が飽和状態であり、かつ製品中に含まれる乳糖のうち、10%以上が結晶化していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスプレッド様食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳類を原料として用いたスプレッド食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マーガリンやファットスプレッドといったスプレッド食品は、バターの代替として開発され、バターより安価であることや、より展延性が高いこと、また、植物性油脂であることに由来する健康イメージにより、広く一般に普及している。
しかしながらこれらのスプレッド食品は、主な成分が油分であることから、高脂肪であり、近年の健康志向、特にメタボリックシンドロームへの懸念を背景に徐々に需要が低下しているという現状にある。このような背景にともない、より低脂肪であるスプレッド食品の開発が進められており、例えば特許文献1や特許文献2などのスプレッド食品が知られている。
このような低脂肪スプレッドは、使用する油脂の量を低減した分を、水分で補い、乳化剤を用いることで油脂と水分を混合させて固化させ、スプレッド食品としている。
しかしながら、これらのスプレッド食品は、従来のものに比較すると低脂肪ではあるものの、油脂を一定量以下にすると、乳化が不安定となり、保存中に水相が分離したり、あるいは高水分としたことによって保存性が悪化したりする等の問題が生じるため、現実的には20%以上の脂肪分を含有させる必要があり、結果として市場のニーズを十分に満たすものではなかった。
一方、牛乳などの乳製品を原料としたスプレッド食品として、引用文献3に記載されるような、いわゆるミルクジャムと呼ばれる製品が上市されている。ミルクジャムには明確な定義はなく、引用文献3に記載されたミルク風味のジャムは、生乳、練乳にグラニュー糖を加え、加熱濃縮を繰り返すことによって製造されている。このほかにもミルクジャムの製造方法として、ゲル化剤を添加して粘性を持たせるといった方法も知られている。しかし、このようなミルクジャムは、低脂肪ではあるものの、粗大結晶が生じ易く、ジャリジャリとした不快な食感が発生しやすいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−178361号公報
【特許文献2】特開2000−270768号公報
【特許文献3】特開2009−027996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の状況に鑑み、本願発明は従来のものに比べ、より低脂肪で、かつ安定に乳糖結晶を保持しているスプレッド食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の態様を含むものである。
(1)平均粒子径20μm以下の乳糖結晶を保持していることを特徴とするスプレッド様食品。
(2)乳固形22%以上の乳類と、グリセリンとを含有することを特徴とする(1)記載のスプレッド様食品。
(3)さらにゲル化剤を含有することを特徴とする(2)記載のスプレッド様食品。
(4)前記乳類の含有率が50%〜95%であることを特徴とする(3)記載のスプレッド様食品。
(5)前記グリセリンの含有率が1%〜30%、かつ、前記ゲル化剤の含有率が0.05%〜5%であることを特徴とする(4)記載のスプレッド様食品。
(6)前記乳類が、練乳であることを特徴とする(5)記載のスプレッド様食品。
(7)脂肪含有率が20%以下であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のスプレッド様食品。
(8)製品水分中に含まれる乳糖が飽和状態であり、かつ製品中に含まれる乳糖のうち、10%以上が結晶化していることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のスプレッド様食品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、従来のものに比べ、より低脂肪なスプレッド食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
一般にスプレッド食品は油脂を原料としているため、低脂肪を訴求した商品の開発に限界があったが、本発明では、乳固形22%以上の乳類、特に濃縮乳や練乳を主原料として用いることで、より低脂肪のスプレッド食品とすることを特徴としている。このように、乳固形22%以上の乳類を原料とし、比較的小さい乳糖結晶を保持したスプレッド食品はこれまでになく、新規なスプレッド食品である。なお、特許文献3に記載されるようないわゆるミルクジャムと呼ばれる製品は、一般的に牛乳を煮詰めて濃縮して製造されるため、乳糖は完全に溶解し、製品中に乳糖結晶がほとんど含まれない。そして、このように溶解された乳糖は、保存時等において粗大な結晶として析出し易いという課題がある。これに対し本願のスプレッド食品は、平均粒子径20μm以下の比較的小さな乳糖結晶を保持している。
【0008】
本発明では、より低脂肪なスプレッド食品を開発するにあたり、乳固形22%以上の乳類を原料とし、これに砂糖、水、ゲル化剤を添加して固化するという方法を見出した。しかしながら、砂糖、水、ゲル化剤を添加して固形化しようとした場合、乳固形22%以上の乳類中で過飽和となっている乳糖が粗大な乳糖結晶として保存期間中に析出することになり、結果、スプレッド食品としては不快なジャリジャリとした食感が生じてしまうという課題が発生した。
そこで本発明では、さらにグリセリンの添加によって、乳糖の過飽和状態を維持し、乳糖が溶解し粗大化することを防ぐことで乳糖をスプレッド食品全体に分散させた状態にする。これにより、保存期間中においても乳糖結晶の粗大化や析出を抑制し、前述のようなジャリジャリとした不快な食感を抑制することができる。
また、グリセリンを添加することにより、スプレッド食品の水分活性を低下させることができ、これにより保存性を向上させることにもなる。
【0009】
本願において、乳類とは、生乳、加工乳、濃縮乳、脱脂乳、練乳等を指し、脂肪含量の調製や糖類含量の調製などを行ったものをすべて包含する。本願では、乳固形が22%以上の乳類を原料として用いるが、これは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に定義される濃縮乳のほか、生乳に他の乳原料を粉または濃縮物の状態で添加したり、生乳を直接濃縮したりする等の方法により適宜乳固形を22%以上に調製したものも使用可能である。
【0010】
また、本願発明で使用する乳類は、脱脂濃縮乳や脱脂練乳などの脂肪分を調整したものであってもよく、またこれらを組み合わせて使用しても良い。なお、より低脂肪のスプレッド食品とする場合には、当然ではあるが脱脂濃縮乳、脱脂練乳等の脱脂した乳類のほうが有利となる。乳類としては、加糖練乳のようにすでに加糖されたもの、無糖練乳のように砂糖が添加されていないもののいずれも使用可能であり、求めるスプレッド食品の風味に応じて使い分けるか、あるいは併用して用いればよいが、最終的に乳糖結晶を保持するために、使用する乳類にあわせて必要に応じて砂糖等の糖類を使用する。
【0011】
なお、乳固形22%以上の乳類の配合量は、50%以上95%以下とすることが好ましい。これは、最終配合として50%未満の場合は水分中に乳糖が溶解してしまい、結果として粗大結晶が発生し易くなるとともに、スプレッド食品の風味が低下することになり、また、95%より多い場合は、ゲル化剤の量が不足したり、あるいは水分が不足したりすることでスプレッド食品として必要とされる硬度やスプレッド性が失われるためである。
【0012】
本願のスプレッド食品の製造方法は、生乳等を原料とし、濃縮後に砂糖等の糖類を添加して練乳状組成物(乳固形22%以上の乳類)とし、ゲル化剤、グリセリンを混合し固化させる方法、生乳等を原料とし、粉乳及び/又は砂糖等の糖類を添加し、濃縮して乳固形22%以上の乳類を得た後、ゲル化剤、グリセリンを混合し固化させる方法、ゲル化剤とグリセリンを濃縮前にあらかじめ乳類に添加混合し、真空釜等によって濃縮固化させる方法等を用いることができる。
【0013】
なお、加糖練乳以外の乳類を用いる場合は、シーディングを行うことによる乳糖結晶の安定化が必要となる。シーディングは、乳類自体に行ってもよいし、乳類にゲル化剤やグリセリン、水を混合した後に行ってもよい。なお、乳糖結晶の過飽和状態を維持するために、シーディングを行った乳類とゲル化剤、グリセリン等は65℃以下の条件で混合することが好ましい。このほか、必要に応じて適宜殺菌等を行っても良い。
【0014】
本願で使用するゲル化剤としては、一般的に食品の製造に用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、寒天、ゼラチン、カラギーナン、ペクチン等の増粘多糖類、加工デンプン、デンプンなどの澱粉類等も使用可能である。
ゲル化剤は、スプレッド食品に求める硬度に応じて適宜配合すればよいが、0.05%から5%が好ましい。なお、ゲル化剤を増やす場合には、必然的に溶解させるための水分を増やす必要があるが、水分量については、ゲル化剤を溶解できる程度含まれていれば、他の原料の添加量に応じて適宜調製すればよい。
【0015】
また、本願ではグリセリンを添加することを特徴としている。グリセリンの添加量は1%〜30%とすることが好ましく、30%より多く添加した場合にはグリセリン特有の甘味が強くなるために好ましくない。また、1%未満であると、粗大結晶の発生を抑制する効果が低下する。なお、本願のスプレッド食品においては、風味調製を目的として、各種の香料や調味料等、他の食品や原材料を添加することも可能である。香料や調味料は、一般に食品製造で使用されるものであれば特に限定はなく、1種類または複数種類を組み合わせて使用しても良い。また、チョコレート等の食品を調味料として用いることもできる。これらの添加量については、目的とする風味に合わせて適宜使用すればよい。
【0016】
なお、本願のスプレッド食品の充填形態としては、樹脂製カップ、ビン、チューブ形態、ボトル形態など一般的なスプレッド食品の充填形態を適宜選択することができる。
【実施例1】
【0017】
表1に示す割合でゼラチン、グリセリンを水に溶解してゲル化剤溶液を調製し、95℃で10分間加熱して殺菌を行った後、50℃まで冷却した。一方、表1に示す割合の加糖脱脂練乳(雪印メグミルク株式会社製、乳固形29%)を50℃に加温し、調製したゲル化剤溶液を添加した後、高速攪拌装置を用いて600rpmで混合した。得られた混合溶液を容器に充填後、4℃まで冷却・固化し、本発明のスプレッド食品を得た。
【0018】
【表1】
【0019】
[比較例1]
表2に示す割合でゼラチン、グリセリンを水に溶解してゲル化剤溶液を調製し、95℃で10分間加熱して殺菌を行った後、50℃まで冷却した。一方、表2に示す割合の加糖脱脂練乳(雪印メグミルク株式会社製、乳固形28%)を50℃に加温し、調製したゲル化剤溶液を添加した後、高速攪拌装置を用いて600rpmで混合した。得られた混合溶液を容器に充填後、4℃まで冷却・固化し、比較例品のスプレッド食品を得た。
【0020】
【表2】
[試験例1]
【0021】
実施例で製造したスプレッド食品と、比較例で製造したスプレッド食品について、製造10日後のサンプルを用いて官能評価を行った。官能評価は、訓練されたパネラー5人によって、各項目5段階評価(5:良い〜1:悪い)で行った。官能評価は評価点3以上のものであれば一般的に良好である。なお、合わせて顕微鏡観察も実施し、乳糖結晶の状態も確認した。乳糖結晶の状態については、平均粒子径20μm以下のものを正常(○)とし、それより大きいものについては、粗大結晶と表記した。結果を表3に示す。
【0022】
【表3】
【0023】
表3の結果から、ゼラチン、加糖脱脂練乳、グリセリンの配合量を本願の請求項記載の範囲とすることで、風味、組織、展延性の良好なスプレッド食品が得られた。一方、ゼラチンの添加量が少ない場合は、スプレッド食品として必要な硬度を持たせることが出来ず、また過剰な場合は、極端に硬くなることで展延性が悪化した。また、脱脂練乳、グリセリンの添加量が少ない場合には、スプレッド食品中に粗大結晶が発生し、不快な食感が生じた。グリセリン添加量が過剰な場合には、グリセリン特有の甘味が発生し、風味が悪化した。
【実施例2】
【0024】
表4に示す割合でタピオカ澱粉、グリセリンを水に溶解してゲル化剤溶液を調製し、95℃で10分間加熱して殺菌を行った後、50℃まで冷却した。一方、表4に示す割合の加糖練乳(雪印メグミルク株式会社製、乳固形28%)を50℃に加温し、調製したゲル化剤溶液を添加した後、高速攪拌装置を用いて600rpmで混合した。得られた混合溶液を容器に充填後、4℃まで冷却・固化し、本発明のスプレッド食品を得た。得られたスプレッド食品について、製造から10日目のサンプルを用いて試験例1と同様に官能評価、乳糖結晶状態の評価を行ったところ、いずれも良好であった。
【0025】
【表4】
【実施例3】
【0026】
表5に示す割合でペクチン、グリセリンを水に溶解してゲル化剤溶液を調製し、95℃で10分間加熱して殺菌を行った後、50℃まで冷却した。一方、生乳に脱脂粉乳、砂糖を添加して乳固形を22%に調製した乳類を調製し、50℃に加温した。表4に示す割合で調製したゲル化剤溶液と乳類を混合し、高速攪拌装置を用いて600rpmで攪拌した後、得られた混合溶液をシーディングした。シーディング工程の後、容器に充填し、4℃まで冷却・固化して、本発明のスプレッド食品を得た。得られたスプレッド食品について、製造から10日目のサンプルを用いて試験例1と同様に官能評価、乳糖結晶状態の評価を行ったところ、いずれも良好であった。
【0027】
【表5】
【実施例4】
【0028】
表6に示す割合でローカストビーンガム(LBG)、グリセリンを水に溶解してゲル化剤溶液を調製し、95℃で10分間加熱して殺菌を行った後、50℃まで冷却した。一方、生乳に砂糖、脱脂粉乳を添加して乳固形を30%に調製した乳類を調製し、50℃に加温した。表6に示す割合で調製したゲル化剤溶液と乳類とを混合し、高速攪拌装置を用いて600rpmで攪拌混合した。得られた混合溶液をシーディングした後、混合溶液を容器に充填し、4℃まで冷却・固化して、本発明のスプレッド食品を得た。得られたスプレッド食品について、製造から10日目のサンプルを用いて試験例1と同様に官能評価、乳糖結晶状態の評価を行ったところ、いずれも良好であった。
【0029】
【表6】