(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリ(メタ)アクリレートが、前記有機半導体膜形成用組成物の全質量に対して0.05質量%以上0.3質量%以下で含まれる、請求項1に記載の有機半導体膜形成用組成物。
前記ポリ(メタ)アクリレートが、前記有機半導体膜形成用組成物中の全固形分量に対して5質量%以上30質量%以下で含まれる、請求項1または2に記載の有機半導体膜形成用組成物。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[有機半導体膜形成用組成物]
本発明の有機半導体膜形成用組成物は、
後述する式(1)で表される繰り返し単位を有する分子量2,000以上の有機半導体化合物と、
沸点が150℃以上である溶媒と、
後述する式(W)で表される繰り返し単位を有し、珪素原子およびフッ素原子をいずれも有しないポリ(メタ)アクリレートと、を含有することを特徴とする。
【0016】
発明者らは鋭意検討を重ねた結果、D-A型ポリマーを有機半導体化合物とする有機半導体膜を形成するに際して上記有機半導体膜形成用組成物を用いることで、塗布面に対する濡れ性が改良されて製膜の際の溶媒揮発工程において膜の収縮を抑制できるとともに、有機半導体化合物が良好に結晶化し、キャリア移動度に優れた有機半導体膜を形成できることを見出した。特に、D-A型ポリマー中、電子アクセプターユニット(「A」)がジケトピロロピロール骨格の場合において、より顕著な効果が得られることを知見した。
なお、表面張力調整剤として膜の改質に通常用いられる珪素原子およびフッ素原子の少なくともいずれかを有する化合物は、有機半導体化合物の結晶形成/成長を阻害する要因となるため、本発明の組成物中には含有されないことが望ましい。すなわち、例えば、珪素原子およびフッ素原子の少なくともいずれかを有する化合物を用いた場合には、低表面自由エネルギーによってこれらの化合物が塗膜の空気側表面に浮上しやすい。一方、上記有機半導体化合物の結晶化についても塗膜の空気側界面から開始すると考えられ、つまり結晶形成/成長場における不純物濃度が高まることになる。このため、有機半導体化合物の結晶成長がうまく進行せず、キャリア移動度が低くなる傾向にある。なお、「珪素原子およびフッ素原子をいずれも有さない」とは、これらの原子が実質的に含まれないことを意味し、具体的にはこれらの原子のポリ(メタ)アクリレート中に対する含有量が1質量%未満である。
以下、本発明の有機半導体膜形成用組成物に使用される各成分について詳述する。
【0017】
<式(1)で表される繰り返し単位を有する有機半導体化合物>
本発明の有機半導体膜形成用組成物は、有機半導体化合物として、式(1)で表される繰り返し単位を有する分子量2,000以上の化合物(以下、単に「式(1)で表される有機半導体化合物」と称する。)を含有する。
【0019】
式(1)中、Aは、sp2窒素原子、カルボニル基、および、チオカルボニル基のうち少なくとも1つを環構造内に有する部分構造を含む電子アクセプターユニットを表す。
Dは、少なくとも1つのN原子、O原子、S原子、もしくはSe原子を環構造内に有する2価の芳香族複素環基、または、2環以上の縮環構造からなる2価の芳香族炭化水素基を部分構造として含む電子ドナーユニットを表す。
【0020】
(電子アクセプターユニット(式(1)の「A」))
上記式(1)中、Aはsp2窒素原子、カルボニル基およびチオカルボニル基のうち少なくとも1つを環構造内に有する部分構造を含む電子アクセプターユニットを表す。
Aは下記式(A−1)〜式(A−12)で表される構造よりなる群から選ばれた少なくとも1つの構造を部分構造として有することが好ましく、Aが下記式(A−1)〜式(A−12)よりなる群から選ばれた少なくとも1つにより表される構造であることがより好ましい。
【0022】
式(A−1)〜式(A−12)中、Xはそれぞれ独立に、O原子、S原子、Se原子、または、NR
A1を表す。Yはそれぞれ独立に、O原子またはS原子を表す。Z
aはそれぞれ独立に、CR
A2またはN原子を表す。Wはそれぞれ独立に、C(R
A2)
2、NR
A1、N原子、CR
A2、O原子、S原子、または、Se原子を表す。R
A1はそれぞれ独立に、−O−、−S−、および、−NR
A3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基、下記式(1−1)で表される1価の基、または、他の構造との結合部位を表す。R
A2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、−O−、−S−、および、−NR
A3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基、下記式(1−1)で表される1価の基、または、他の構造との結合部位を表す。R
A3はそれぞれ独立に、水素原子、または、置換基を表す。*はそれぞれ独立に、他の構造との結合部位を表す。
【0024】
式(1−1)中、Arは、芳香族複素環基または炭素数5〜18の芳香族炭化水素基を表す。L
aは、−O−、−S−、および、−NR
1S−のうち少なくとも1つを含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を表す。L
bは、−O−、−S−、および、−NR
2S−のうち少なくとも1つを含んでいてもよい炭素数1〜100のアルキル基を表す。R
1SおよびR
2Sはそれぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。lは、1〜5の整数を表す。lが2以上のとき、複数のL
bは、互いに同一でも異なっていてもよい。*は、他の構造との結合部位を表す。
【0025】
式(A−1)〜式(A−12)中、Xはそれぞれ独立に、O原子、S原子、Se原子、または、NR
A1を表し、S原子またはNR
A1が好ましい。
Yはそれぞれ独立に、O原子またはS原子を表し、O原子が好ましい。
Z
aはそれぞれ独立に、CR
A2またはN原子を表し、CR
A2が好ましい。
Wはそれぞれ独立に、C(R
A2)
2、NR
A1、N原子、CR
A2、O原子、S原子、または、Se原子を表し、C(R
A2)
2、CR
A2、または、S原子が好ましい。
R
A1はそれぞれ独立に、−O−、−S−、および、−NR
A3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基、上記式(1−1)で表される1価の基、または、他の構造との結合部位を表し、−O−、−S−、および、−NR
A3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基、または、上記式(1−1)で表される1価の基が好ましい。
R
A1が−O−、−S−、および、−NR
A3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基を表す場合、炭素数2〜30のアルキル基が好ましく、炭素数8〜25のアルキル基がより好ましい。また、上記アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。
ここで、アルキル基が−O−を含むとは、アルキル基の炭素−炭素結合の途中に−O−が導入されている場合や、アルキル基の一端に−O−が導入されている場合(アルコキシ基)を意味する。アルキル基に−S−や−NR
A3−を含む場合も同様の意味である。
なお、R
A1における他の構造との結合部位とは、上記式(A−1)〜式(A−12)中の*で表される他の構造との結合部位である。
R
A2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、−O−、−S−、および、−NR
A3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基、上記式(1−1)で表される1価の基、または、他の構造との結合部位を表し、水素原子または他の構造との結合部位が好ましい。
R
A2が−O−、−S−、および、−NR
A3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基を表す場合、炭素数2〜30のアルキル基が好ましく、炭素数8〜25のアルキル基がより好ましい。また、上記アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。
ここで、アルキル基が−O−を含むとは、アルキル基の炭素−炭素結合の途中に−O−が導入されている場合や、アルキル基の一端に−O−が導入されている場合(アルコキシ基)を意味する。アルキル基に−S−や−NR
A3−を含む場合も同様の意味である。
R
A2がハロゲン原子を表す場合、F原子、Cl原子、Br原子、I原子が好ましく、F原子がより好ましい。
なお、R
A2における他の構造との結合部位とは、上記式(A−1)〜式(A−12)中の*で表される他の構造との結合部位である。
R
A3はそれぞれ独立に、水素原子、または、置換基を表す。R
A3における置換基は、後述するR
1SおよびR
2Sにおける置換基と同義である。
【0026】
式(1−1)中、Arは、芳香族複素環基または炭素数5〜18の芳香族炭化水素基を表す。
Arにおける炭素数5〜18の芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環基、ビフェニル基、ナフタレン環基、または、3環が縮合した芳香族炭化水素(例えば、フルオレン環)から2以上の水素原子を取り除いた基が挙げられる。これらの中でも、キャリア移動度がより優れたものになるという観点から、ベンゼン環基、ビフェニル基、または、ナフタレン環基であることが好ましく、ベンゼン環基であることが好ましい。
Arにおける芳香族複素環基は、単環であっても、2環以上の縮環構造を有していてもよいが、キャリア移動度がより優れたものになるという観点から単環であることが好ましい。Arにおける芳香族複素環基は、5〜7員環であることが好ましい。また、芳香族複素環基に含まれるヘテロ原子としては、N原子、O原子、S原子またはSe原子であることが好ましく、S原子であることがより好ましい。
L
aは、−O−、−S−、および、−NR
1S−のうち少なくとも1つを含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を表す。ここで、アルキレン基が−O−を含むとは、アルキレン基の炭素−炭素結合の途中に−O−が導入されている場合や、アルキレン基の一端または両端に−O−が導入されている場合を意味する。アルキレン基に−S−や−NR
1S−を含む場合も同様の意味である。
L
aを表すアルキレン基は、直鎖状、分岐鎖、環状のいずれであってもよいが、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であることが好ましい。
L
aを表すアルキレン基の炭素数は、1〜20であるが、キャリア移動度がより優れたものとなるという観点から、1〜15であることが好ましく、1〜10であることがさらに好ましい。
なお、L
aを表すアルキレン基が分岐鎖状である場合には、分岐部分の炭素数については、L
aを表すアルキレン基の炭素数に含むものとする。ただし、L
aが−NR
1S−を含み、かつ、このR
1Sが炭素原子を含む場合には、R
1Sの炭素数は、L
aを表すアルキレン基の炭素数に含めないものとする。
L
bは、−O−、−S−、および、−NR
2S−のうち少なくとも1つを含んでいてもよい炭素数1〜100のアルキル基を表す。ここで、アルキル基が−O−を含むとは、アルキル基の炭素−炭素結合の途中に−O−が導入されている場合や、アルキル基の一端(すなわち、上記「Ar」との接続部分)に−O−が導入されている場合を意味する。アルキル基に−S−や−NR
2S−を含む場合も同様の意味である。
L
bを表すアルキル基は、直鎖状、分岐鎖、環状のいずれであってもよいが、キャリア移動度および高温高湿下での経時安定性がより優れたものになるという観点から、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であることが好ましく、分岐鎖状のアルキル基がより好ましい。また、L
bを表すアルキル基は、置換基としてハロゲン原子(好ましくは、F原子、Cl原子、Br原子、I原子、より好ましくは、F原子)を有するハロゲン化アルキル基であってもよい。
L
bを表すアルキル基の炭素数は、1〜100であり、2〜60であることが好ましく、2〜30であることがより好ましく、8〜25であることが更に好ましい。
なお、L
bを表すアルキル基が分岐鎖状である場合には、分岐部分の炭素数については、L
bを表すアルキル基の炭素数に含むものとする。ただし、L
bが−NR
2S−を含み、かつ、このR
2Sが炭素原子を含む場合には、R
2Sの炭素数は、L
bを表すアルキレン基の炭素数に含めないものとする。
R
1SおよびR
2Sはそれぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。置換基としては、アルキル基(好ましくは、炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖状のアルキル基)、ハロゲン原子(好ましくは、F原子、Cl原子、Br原子、I原子)、アリール基(好ましくは炭素数6〜20のアリール基)を表す。これらの中でも、R
1SおよびR
2Sはそれぞれ独立に、水素原子またはアルキル基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。
lは、1〜5の整数を表すが、1または2であることが好ましい。lが2以上のとき、複数のL
bは、互いに同一でも異なっていてもよい。
また、lが5未満の整数である場合には、Arは他の置換基を有していてもよい。置換基としては、上記R
1SおよびR
2Sと同様の置換基が挙げられる。
*は、他の構造との結合部位を表す。
【0027】
式(1)で表される有機半導体化合物は、式(1)中のAが下記式(A−1)〜式(A−12)で表される構造よりなる群から選ばれた少なくとも1つの構造を部分構造として有することが好ましく、式(A−1)、式(A−3)、式(A−4)、式(A−5)、式(A−6)、式(A−8)および式(A−12)で表される構造よりなる群から選ばれた少なくとも1つの構造を部分構造として有することがより好ましく、式(A−1)、式(A−3)、式(A−5)、式(A−6)、式(A−8)および式(A−12)で表される構造よりなる群から選ばれた少なくとも1つの構造を部分構造として有することがより一層好ましく、式(A−1)および式(A−3)で表される構造よりなる群から選ばれた少なくとも1つの構造を部分構造として有することが特に好ましく、式(A−3)で表される構造が最も好ましい。
また、式(1)で表される有機半導体化合物は、上記それぞれの態様において、式(1)中のAが各式により表される構造を部分構造として有する態様よりも、式(1)中のAが各式により表される構造である態様の方が好ましい。
【0028】
式(A−1)〜式(A−12)で表される構造の例を以下に示すが、本発明は以下の例示により限定されるものではない。下記構造式中、R
A1は式(A−1)〜式(A−12)中のR
A1と同義であり、好ましい態様も同様である。
また、*は他の構造との結合部位を表す。
【0030】
(電子ドナーユニット(式(1)の「D」))
Dは少なくとも1つのN原子、O原子、S原子、もしくはSe原子を環構造内に有する2価の芳香族複素環基、または、2環以上の縮環構造からなる2価の芳香族炭化水素基を部分構造として含む電子ドナーユニットである。
【0031】
少なくとも1つのN原子、O原子、S原子またはSe原子を環構造内に有する2価の芳香族複素環基としては、少なくとも1つのS原子を環構造内に有する2価の芳香族複素環基が好ましい。
また、上記2価の芳香族複素環基は、単環であっても、2環以上の縮環構造を有していてもよく、単環の2価の芳香族複素環基を2以上組み合わせた構造であるか、2以上の単環の2価の芳香族複素環基と、1以上の2環以上の縮環構造を有する2価の芳香族複素環基を組み合わせた構造であることが好ましい。
上記2価の芳香族複素環基は更に置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては、−O−、−S−、および、−NR
D3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基(例えば、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜20のアルキル基がより好ましい)、アルケニル基(炭素数2〜30が好ましい。)、アルキニル基(炭素数2〜30が好ましい。)、芳香族炭化水素基(炭素数6〜30が好ましい。)、芳香族複素環基(5〜7員環が好ましい。ヘテロ原子としては、O原子、N原子、S原子、Se原子が好ましい。)、ハロゲン原子(F原子、Cl原子、Br原子、I原子が好ましく、F原子またはCl原子がより好ましく、F原子が特に好ましい。)、上記式(1−1)で表される1価の基が挙げられる。
R
D3は後述する式(D−1)におけるR
D3と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0032】
上記2価の芳香族複素環基の例を以下に示すが、本発明は以下の例示により限定されるものではない。下記構造式中、水素原子は−O−、−S−、および、−NR
D3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、ハロゲン原子、または、上記式(1−1)により表される基により置換されていてもよく、R
D1は後述する式(D−1)中のR
D1と同義であり、好ましい態様も同様であり、*は他の構造との結合部位を表す。上記−O−、−S−、および、−NR
D3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基としては、炭素数1〜30のアルキル基が好ましく、炭素数1〜20のアルキル基がより好ましい。R
D3は後述する式(D−1)におけるR
D3と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0034】
2環以上の縮環構造からなる芳香族炭化水素基としては、炭素数10〜20の芳香族炭化水素基が好ましく、フルオレン基、ナフチレン基、若しくは、3環または4環が縮合した芳香族炭化水素から水素原子を2つ除いた基がより好ましく、フルオレン基、ナフチレン基、若しくは、アントラセン環、フェナントレン環、クリセン環、またはピレン環から水素原子を2つ除いた基が更に好ましい。
上記芳香族炭化水素基はさらに置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては、−O−、−S−、および、−NR
D3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基、ハロゲン原子、上記式(1−1)で表される1価の基が挙げられる。−O−、−S−、および、−NR
D3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基およびハロゲン原子の好ましい例は、上記の2価の芳香族複素環基で説明したものと同様である。R
D3は後述する式(D−1)におけるR
D3と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0035】
また、式(1)において、Dは式(D−1)で表される構造であることが好ましい。
【0037】
上記式(D−1)中、X’はそれぞれ独立に、O原子、S原子、Se原子、または、NR
D1を表す。R
D1はそれぞれ独立に、上記式(1−1)で表される1価の基であってもよい1価の有機基を表す。Z
dはそれぞれ独立に、N原子またはCR
D2を表す。R
D2はそれぞれ独立に、水素原子、または、上記式(1−1)で表される1価の基であってもよい1価の有機基を表す。Mは、単結合、2価の芳香族複素環基、2価の芳香族炭化水素基、アルケニレン基、アルキニレン基、または、これらを組み合わせてなる2価の基を表す。Mは、−O−、−S−、および、−NR
D3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基、または、上記式(1−1)で表される1価の基で置換されていてもよい。R
D3はそれぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。pおよびqはそれぞれ独立に、0〜4の整数を表す。*はそれぞれ独立に、他の構造との結合部位を表す。
なお、上記式(D−1)において、各繰り返し単位および上記Mは、結合軸において回転可能に結合している。
すなわち、例えば、式(D−1)(および後述する式(2)〜式(6)の表記)では、p個連結する5員環の繰り返し単位と、q個連結する5員環の繰り返し単位とが互いに逆方向を向いているが、式(D−1)(および後述する式(2)〜式(6)の表記)は、これらが互いに同じ方向を向く構造体も包含する意味である。
【0038】
式(D−1)中、X’はそれぞれ独立に、O原子、S原子、Se原子、または、NR
D1を表し、O原子、S原子、または、Se原子であることが好ましく、S原子であることがより好ましい。
Z
dはそれぞれ独立に、N原子またはCR
D2を表し、CR
D2であることがより好ましい。
R
D1はそれぞれ独立に、1価の有機基を表し、−O−、−S−、および、−NR
D3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基(例えば、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましく、炭素数8〜30のアルキル基がより好ましい。)、アルキニル基(炭素数2〜30が好ましい。)、芳香族炭化水素基(炭素数6〜30が好ましい。)、芳香族複素環基(5〜7員環が好ましい。ヘテロ原子としては、O原子、N原子、S原子、Se原子が好ましい。)、ハロゲン原子(F原子、Cl原子、Br原子、I原子が好ましく、F原子またはCl原子がより好ましく、F原子が特に好ましい。)、または、上記式(1−1)で表される1価の基であることが好ましく、アルキル基、ハロゲン原子、または上記式(1−1)で表される1価の基であることがより好ましい。
R
D2はそれぞれ独立に、水素原子または1価の有機基を表し、水素原子、−O−、−S−、および、−NR
D3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基(例えば、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜20のアルキル基がより好ましい。)、アルキニル基(炭素数2〜30が好ましい。)、アルケニル基(炭素数2〜30が好ましい。)、芳香族炭化水素基(炭素数6〜30が好ましい。)、芳香族複素環基(5〜7員環が好ましい。ヘテロ原子としては、O原子、N原子、S原子、Se原子が好ましい。)、ハロゲン原子(F原子、Cl原子、Br原子、I原子が好ましく、F原子またはCl原子がさらに好ましく、F原子が特に好ましい。)、または、上記式(1−1)で表される1価の基であることが好ましく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、または上記式(1−1)で表される1価の基であることがより好ましい。
Mは、単結合、2価の芳香族複素環基、2価の芳香族炭化水素基、アルケニレン基、アルキニレン基、またはこれらを組み合わせてなる2価の基を表す。Mは、−O−、−S−、および、−NR
D3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基、または、式(1−1)で表される1価の基で置換されていてもよい。
上記Mにおける2価の芳香族複素環基は、単環であっても、2環以上の縮環構造を有していてもよい。本発明に好ましく用いられる2価の芳香族複素環基の例は、上述した2環以上の縮環構造を有する2価の芳香族複素環基の例と同様である。
Mにおける2価の芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基が好ましく、フェニレン基、ビフェニレン基、フルオレン基、ナフチレン基、または、3環若しくは4環が縮合した芳香族炭化水素から水素原子を2つ除いた基がより好ましく、フルオレン基、ナフチレン基、アントラセン環、フェナントレン環、クリセン環、若しくはピレン環から水素原子を2つ除いた基が更に好ましい。
Mにおける2価の芳香族複素環基、または、2価の芳香族炭化水素基、は、さらに置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては、−O−、−S−、および、−NR
D3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基(例えば、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜20のアルキル基がより好ましい。)、ハロゲン原子(F原子、Cl原子、Br原子、I原子が好ましく、F原子またはCl原子がさらに好ましく、F原子が特に好ましい。)、上記式(1−1)で表される1価の基が挙げられる。
Mにおけるアルケニレン基としては、炭素数2〜10のアルケニレン基が好ましく、炭素数2〜4のアルケニレン基がより好ましく、エテニレン基がさらに好ましい。
Mにおけるアルキニレン基としては、炭素数2〜10のアルキニレン基が好ましく、炭素数2〜4のアルキニレン基がより好ましく、エチニレン基がさらに好ましい。
R
D3はそれぞれ独立に、水素原子、または、置換基を表す。R
D3における置換基は、上記R
1SおよびR
2Sにおける置換基と同義である。
pおよびqはそれぞれ独立に、0〜4の整数であり、1〜3の整数であることが好ましく、1〜2の整数であることがより好ましい。pとqは同じ値であることが好ましい。また、p+qが2〜4であることが好ましい。
ただし、p+qが0の場合には、Mは、少なくとも1つのN原子、O原子、S原子、もしくはSe原子を環構造内に有する2価の芳香族複素環基、または、2環以上の縮環構造からなる2価の芳香族炭化水素基を部分構造として含むことが好ましい。
【0039】
Dの構造の例を以下に示すが、本発明は以下の例示により限定されるものではない。下記構造式中、水素原子は−O−、−S−、および、−NR
D3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基、または、上記式(1−1)により表される基により置換されていてもよく、R
D1は上記式(D−1)中のR
D1と同義であり、好ましい態様も同様であり、*は他の構造との結合部位を表す。上記−O−、−S−、および、−NR
D3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基としては、例えば、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましく、炭素数8〜30のアルキル基がより好ましい。R
D3は上記式(D−1)におけるR
D3と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0043】
(式(2)〜式(6)で表される繰り返し単位)
上記式(1)で表される繰り返し単位が、下記式(2)〜(6)のいずれかで表される繰り返し単位であることが好ましく、下記式(2)または下記式(3)のいずれかで表される繰り返し単位であることがさらに好ましく、下記式(3)で表される繰り返し単位であることが特に好ましい。
【0045】
上記式(2)〜(6)中、Xはそれぞれ独立に、O原子、S原子、Se原子、または、NR
A1を表す。
R
A1はそれぞれ独立に、−O−、−S−、および、−NR
A3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基、上記式(1−1)で表される1価の基、または、他の構造との結合部位を表す。
Yはそれぞれ独立に、O原子またはS原子を表す。
Z
aはそれぞれ独立に、CR
A2またはN原子を表す。
R
A2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、−O−、−S−、および、−NR
A3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基、上記式(1−1)で表される1価の基、または、他の構造との結合部位を表す。
R
A3はそれぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
X’はそれぞれ独立に、O原子、S原子、Se原子、または、NR
D1を表す。
R
D1はそれぞれ独立に、上記式(1−1)で表される1価の基であってもよい1価の有機基を表す。
Z
dはそれぞれ独立に、N原子またはCR
D2を表す。R
D2はそれぞれ独立に、水素原子または上記式(1−1)で表される1価の基であってもよい1価の有機基を表す。
Mは、単結合、2価の芳香族複素環基、2価の芳香族炭化水素基、アルケニレン基、アルキニレン基、または、これらを組み合わせてなる2価の基を表す。Mは、−O−、−S−、および、−NR
D3−のうち少なくとも1つを含んでいてもよいアルキル基、または、上記式(1−1)で表される1価の基で置換されていてもよい。
R
D3はそれぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
pおよびqはそれぞれ独立に、0〜4の整数を表す。
【0046】
式(2)〜式(6)中、X、Y、Z
a、R
A1、R
A2、および、R
A3は、上記式(A−1)〜式(A−12)におけるX、Y、Z
a、R
A1、R
A2、および、R
A3とそれぞれ同義であり、好ましい態様も同様である。
また、式(2)〜式(6)中、X’、Z
d、R
D1、R
D2、R
D3、M、p、および、qは上記式(D−1)におけるX’、Z
d、R
D1、R
D2、R
D3、M、p、および、qとそれぞれ同義であり、好ましい態様も同様である。
【0047】
本発明の有機半導体膜形成用組成物における、式(1)で表される有機半導体化合物の含有量は、固形分総量の5〜98質量%であることが好ましく、10〜95質量%であることがより好ましく、20〜80質量%であることが更に好ましい。
【0048】
本発明の有機半導体膜形成用組成物における式(1)で表される有機半導体化合物の含有量は、有機半導体膜形成用組成物の全質量に対して、0.3質量%以上15質量%未満であることが好ましい。式(1)で表される有機半導体化合物の含有量が0.3質量%以上であると、高いキャリア移動度の有機半導体膜および有機半導体素子が得られる。一方、式(1)で表される有機半導体化合物の含有量が15質量%未満であると、有機半導体膜形成用組成物をインクジェット印刷用および/またはフレキソ印刷用として好適に使用できる。
有機半導体膜形成用組成物における式(1)で表される有機半導体化合物の含有量は、有機半導体膜形成用組成物の全質量に対して、0.3〜10質量%であることがより好ましい。
なお、本発明の有機半導体膜形成用組成物は、式(1)に該当しない有機半導体化合物を更に含有していてもよいが、有機半導体化合物の総含有量に対して、式(1)で表される有機半導体化合物の含有量が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、本発明の有機半導体膜形成用組成物が含有する有機半導体化合物の全量が式(1)で表される有機半導体化合物であることが特に好ましい。
また、有機半導体化合物は、式(1)で表される繰り返し単位を1種単独で含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0049】
式(1)で表される有機半導体化合物は、式(1)で表される繰り返し単位を2以上有する化合物であり、繰り返し単位数nが2〜9のオリゴマーであってもよく、繰り返し単位数nが10以上の高分子(ポリマー)であってもよい。これらの中でも、繰り返し単位数nが10以上の高分子であることが、キャリア移動度および得られる有機半導体膜の物性の観点から好ましい。
【0050】
式(1)で表され有機半導体化合物の分子量は、キャリア移動度の観点から、2,000以上であり、5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、20,000以上であることが更に好ましく、30,000以上であることが特に好ましい。また、溶解度の観点から、1,000,000以下であることが好ましく、300,000以下であることがより好ましく、150,000以下であることが更に好ましく、100,000以下であることが特に好ましい。
【0051】
本発明において、化合物が分子量分布を有する場合、その化合物の分子量とは重量平均分子量を意味する。
本発明において、式(1)で表される有機半導体化合物の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC(Gel Permeation Chromatography))法にて測定され、標準ポリスチレンで換算して求められる。具体的には、例えば、GPCは、HLC−8121GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel GMH
HR−H(20) HT(東ソー(株)製、7.8mmID×30cm)を2本用い、溶離液として1,2,4−トリクロロベンゼンを用いる。また、条件としては、試料濃度を0.02質量%、流速を1.0ml/min、サンプル注入量を300μl、測定温度を160℃とし、IR(infrared)検出器を用いて行う。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−128」、「F−80」、「F−40」、「F−20」、「F−10」、「F−4」、「F−2」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「A−500」の12サンプルから作製する。
【0052】
有機半導体膜中には、式(1)で表される有機半導体化合物が1種のみで含まれていてもよく、式(1)で表される有機半導体化合物が2種以上含まれていてもよい。
また、式(1)で表される有機半導体化合物の末端の構造は、特に制限はなく、他の構成単位の有無や、合成時に使用した基質の種類、合成時のクエンチ剤(反応停止剤)の種類にもよるが、例えば、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、エチレン性不飽和基、アルキル基等、芳香族複素環基(チオフェン環が好ましい。)、芳香族炭化水素基(ベンゼン環が好ましい。)が挙げられる。
【0053】
式(1)で表される有機半導体化合物の合成方法は、特に限定されず、公知の方法を参照して合成すればよい。例えば、特表2010−527327号、特表2007−516315号、特表2014−515043号、特表2014−507488号、特表2011−501451号、特開2010−18790号、WO2012/174561号、特表2011−514399号、特表2011−514913号等の文献を参考に、電子アクセプターユニットの前駆体と電子ドナーユニットの前駆体を合成して、それぞれの前駆体を鈴木カップリングやStilleカップリング等のクロスカップリング反応させることにより合成することができる。
【0054】
以下に、式(1)で表される有機半導体化合物の好ましい具体例を示すが、本発明は以下の例示により限定されるものではない。
【0059】
<沸点が150℃以上である溶媒>
本発明の有機半導体膜形成用組成物は、沸点が150℃以上である溶媒(以下「特定溶媒」と称する)を含有する。
特定溶媒は、沸点が150℃以上である。沸点が150℃以上であると、有機半導体膜形成用組成物の保存安定性に優れ、また、インクジェット印刷用および/またはフレキソ印刷用として好適に使用できる。
キャリア移動度をより高め、更に製膜性をより優れたものとする観点から、特定溶媒の沸点は165℃以上であることが好ましく、175℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましい。また、溶媒を除去する観点から、特定溶媒の沸点は、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、250℃以下であることが更に好ましい。
なお、沸点(℃)は、1気圧下でのものを意図する。
【0060】
特定溶媒は、芳香族溶媒であることが好ましい。芳香族溶媒は、芳香族炭化水素溶媒であってもよく、また、複素原子を有する複素芳香族溶媒であってもよい。特定溶媒が芳香族溶媒であると、有機半導体化合物の溶解性に優れるので好ましい。
【0061】
本発明において、特定溶媒として用いることができる溶媒を、沸点と共に以下に示す。
特定溶媒としては、例えば、テトラリン(沸点:208℃)、1−メチルナフタレン(沸点:241℃)、1,2−ジクロロベンゼン(沸点:181℃)、1−フルオロナフタレン(沸点:212℃)、2,5−ジクロロチオフェン(沸点:162℃)、2,5−ジブロモチオフェン(沸点:211℃)が挙げられる。
これらの中でも、テトラリン、1−メチルナフタレンがより好ましく、テトラリンが更に好ましい。
【0062】
特定溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
特定溶媒は、有機半導体膜形成用組成物における有機半導体化合物および後述する式(W)で表される繰り返し単位を有するポリ(メタ)アクリレートの含有量、並びに、後述する全固形分量が所望の範囲となるように、適宜添加すればよい。
なお、本発明において、有機半導体膜形成用組成物は、溶媒として特定溶媒以外の溶媒を含有していてもよいが、溶媒の総含有量を100質量部としたとき、特定溶媒の含有量が50質量部以上であることが好ましく、70質量部以上であることがより好ましく、90質量部以上であることが更に好ましく、有機半導体膜形成用組成物が含有する溶媒の全てが特定溶媒であることが特に好ましい。
【0063】
<式(W)で表される繰り返し単位を有し、珪素原子およびフッ素原子をいずれも有しないポリ(メタ)アクリレート>
本発明の有機半導体膜形成用組成物は、下記式(W)で表される繰り返し単位を有し、珪素原子およびフッ素原子をいずれも有しないポリ(メタ)アクリレート(以下、単に「下記式(W)で表されるポリ(メタ)アクリレート」と称する。)を含有する。
【0065】
式(W)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、R
2は炭素数2以上のアルキル基、ポリエーテル基またはポリエステル基を表す。
【0066】
上記式(W)において、R
1は水素原子またはメチル基を表す。
R
2は、炭素数2以上のアルキル基、ポリエーテル基またはポリエステル基を表す。
R
2で表されるアルキル基は、塗布面への濡れ性をより高めて膜の収縮を抑制する観点から、炭素数が5以上のアルキル基であることが好ましく、炭素数8〜20のアルキル基であることがより好ましく、炭素数12〜20のアルキル基であることが更に好ましい。上記アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状または分岐状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
R
2で表されるポリエーテル基は、ポリエーテル鎖を含有する基であれば特に限定されない。ここで、ポリエーテル鎖とは、エーテル結合を2以上有する鎖であり、例えば、ポリアルキレンオキサイド基を挙げることができる。アルキレン基の炭素数は1〜10であることが好ましく、2〜6であることがより好ましい。例えば、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基等を挙げることができる。
R
2で表されるポリエステル基は、ポリエステル鎖を含有する基であれば特に限定されない。ここで、ポリエステル鎖とは、エステル結合を2以上有する鎖であり、例えば、多価カルボン酸とポリオールとの重縮合体部分を有する基が挙げられる。多価カルボン酸の炭素数は3〜30であることが好ましく、3〜15であることがより好ましい。また、1分子中のカルボキシル基数は2〜6であることが好ましく、2または3であるものをより好ましく用いることができる。ポリオールの炭素数は1〜30であることが好ましく、2〜15であることがより好ましい。また、1分子中のヒドロキシル基数は2〜6であることが好ましく、2または3であるものをより好ましく用いることができる。
【0067】
R
2は、上記の中でも炭素数2以上のアルキル基が好ましく、炭素数が5以上のアルキル基であることが好ましく、炭素数8〜20のアルキル基であることがより好ましく、炭素数12〜20のアルキル基であることが更に好ましい。
【0068】
R
2で表されるアルキル基、ポリエーテル基およびポリエステル基は、置換基を有していてもよい。
置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、または、芳香族ヘテロ環基が挙げられる。アルキル基は、直鎖状、分岐状、または、環状のいずれでもよく、直鎖状であることが好ましく、炭素数1〜20であることが好ましく、炭素数1〜12であることがより好ましく、炭素数1〜8であることが更に好ましい。アルケニル基は、炭素数2〜20であることが好ましく、炭素数2〜12であることがより好ましく、炭素数2〜8であることが更に好ましい。アルキニル基は、炭素数2〜20であることが好ましく、炭素数2〜12であることがより好ましく、炭素数2〜8であることが更に好ましい。アルケニル基およびアルキニル基は、直鎖状、分岐状または環状のいずれでもよく、直鎖状であることが好ましい。芳香族炭化水素基は、炭素数6〜30であることが好ましく、炭素数6〜20であることがより好ましく、炭素数6〜10であることが更に好ましく、フェニル基であることが特に好ましい。芳香族ヘテロ環基としては、ヘテロ原子として硫黄原子、酸素原子、窒素原子、および、セレン原子よりなる群から選択されるヘテロ原子を少なくとも1つ有することが好ましく、硫黄原子、窒素原子または酸素原子よりなる群から選択されたヘテロ原子を有することがより好ましい。ヘテロ環基は、単環または多環であってもよく、5員環〜30員環であることが好ましく、5員環〜20員環であることがより好ましく、5員環〜10員環であることが更に好ましい。
なお、R
2がアルキル基である場合には、置換基としてアルキル基を有することはない。
【0069】
上記ポリ(メタ)アクリレート中、式(W)で表される繰り返し単位の含有量は、キャリア移動度をより高め、更に製膜性をより優れたものとする観点から、ポリマー中の全繰り返し単位に対して、5〜100モル%が好ましく、10〜100モル%がより好ましく、70〜100モル%であることが更に好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
なお、ポリマーには式(W)で表される繰り返し単位以外の他の繰り返し単位を含んでいてもよい。他の繰り返し単位としては、特に限定はないが、例えば、(メタ)アクリルモノマー等のエチレン性二重結合を有する化合物由来の繰り返し単位が挙げられる。
【0070】
上記ポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、特に限定はないが、キャリア移動度をより高め、更に製膜性をより優れたものとする観点から、10,000以上が好ましく、50,000以上がより好ましく、100,000以上が更に好ましく、150,000以上が特に好ましい。その上限は、溶解性の観点から、2,000,000以下が好ましく、1,000,000以下がより好ましく、500,000以下が特に好ましい。
ポリ(メタ)アクリレートとしては、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体も好ましく用いることが出来る。
式(W)で表される化合物は、公知の方法により合成することができる。
【0071】
本発明において式(W)で表されるポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィ法(GPC(Gel Permeation Chromatography))法にて測定され、標準ポリスチレンで換算して求められる。具体的には、例えば、GPCは、HLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgeL SuperHZ4000(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を用い、溶離液としてTHF(Tetrahydrofuran)を用いる。また、条件としては、試料濃度を0.02質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR(infrared)検出器を用いて行う。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0072】
本発明の有機半導体膜形成用組成物における上記式(W)で表されるポリ(メタ)アクリレートの含有量は、有機半導体膜形成用組成物の全質量に対して0.01質量%以上0.3質量%以下であることが好ましい。上記範囲とすることで、有機半導体膜および有機半導体素子とした際により良好なキャリア移動度と製膜性が得られる。キャリア移動度をより高め、更に製膜性をより優れたものとする観点から、有機半導体膜形成用組成物の全質量に対する上記ポリ(メタ)アクリレートの含有量は、0.05質量%以上0.3質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上0.1質量%以下であることが更に好ましい。
【0073】
また、本発明の有機半導体膜形成用組成物の全固形分量に対して、上記式(W)で表されるポリ(メタ)アクリレートの含有量は1質量%以上35質量%以下で含まれることが好ましい。上記範囲とすることで、有機半導体膜および有機半導体素子とした際により良好なキャリア移動度と製膜性が得られる。キャリア移動度をより高め、更に製膜性をより優れたものとする観点から、有機半導体膜形成用組成物の全固形分量に対する上記ポリ(メタ)アクリレートの含有量は、5質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが特に好ましい。
【0074】
<その他の成分>
本発明の有機半導体膜形成用組成物は、上述した成分以外に他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、公知の添加剤等を用いることができる。
本発明の有機半導体膜形成用組成物における全固形分濃度は、1質量%以上であることが好ましい。なお、固形分とは、溶媒等の揮発性成分を除いた成分の量である。固形分濃度が1質量%以上であると、各種印刷法での膜形成性に優れるので好ましい。
有機半導体膜形成用組成物における全固形分濃度は、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。また、その上限は限定されないが、有機半導体化合物の溶解性等の観点から、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。上記範囲であると、保存安定性および膜形成性に優れ、得られる有機半導体膜および有機半導体素子のキャリア移動度により優れる。
【0075】
本発明の有機半導体膜形成用組成物の粘度は、特に制限されないが、各種印刷適性、特に、インクジェット印刷適性およびフレキソ印刷適性がより優れる点で、10mPa・s以上であることが好ましく、10〜100mPa・sがより好ましく、10〜50mPa・sが更に好ましく、10〜40mPa・sが特に好ましい。なお、本発明における粘度は、25℃での粘度である。粘度の測定方法としては、JIS Z8803に準拠した測定方法であることが好ましい。
【0076】
[有機半導体膜の形成方法]
本発明の有機半導体膜は、上述した本発明の有機半導体膜形成用組成物を用いて製造されたものである。また、本発明の有機半導体素子は、上述した本発明の有機半導体膜形成用組成物を用いて形成された有機半導体膜を有して製造されたものである。
本発明の有機半導体膜形成用組成物を用いて有機半導体膜や有機半導体素子を製造する方法は、特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、組成物を所定の基材上(例えば、ソース電極、ドレイン電極、および、ゲート絶縁膜上)に付与して、必要に応じて乾燥処理を施して、有機半導体膜を製造する方法が挙げられる。
基材上に組成物を付与する方法は特に制限されず、公知の塗布方法を採用でき、例えば、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、バーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ドクターブレード法などが挙げられ、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法が好ましい。
なお、フレキソ印刷法としては、フレキソ印刷版として感光性樹脂版を用いる態様が好適に挙げられる。態様によって、組成物を基板上に印刷して、パターンを容易に形成することができる。
中でも、本発明の有機半導体素子の製造方法は、本発明の有機半導体膜形成用組成物を基板上に塗布する塗布工程、を含むことが好ましく、本発明の有機半導体膜形成用組成物を基板上に塗布する塗布工程、および、塗布された組成物から溶媒を除去する除去工程を含むことがより好ましい。
【0077】
上記除去工程における乾燥処理は、必要に応じて実施される処理であり、使用される化合物および溶媒の種類により適宜最適な条件が選択される。中でも、得られる有機半導体膜および有機半導体素子のキャリア移動度および製膜性により優れ、また、生産性に優れる点で、加熱温度としては30℃〜100℃が好ましく、40℃〜80℃がより好ましく、加熱時間としては10〜300分が好ましく、30〜180分がより好ましい。
【0078】
形成される有機半導体膜の厚さは、特に制限されないが、得られる有機半導体膜および有機半導体素子のキャリア移動度および製膜性の観点から、10〜500nmが好ましく、30〜200nmがより好ましい。
【0079】
[有機半導体素子]
有機半導体素子としては、特に制限はないが、2〜5端子の有機半導体素子であることが好ましく、2または3端子の有機半導体素子であることがより好ましい。
また、有機半導体素子としては、光電変換素子でないことが好ましい。
更に、本発明の有機半導体素子は、非発光性有機半導体素子であることが好ましい。
2端子素子としては、整流用ダイオード、定電圧ダイオード、PIN(p-intrinsic-n)ダイオード、ショットキーバリアダイオード、サージ保護用ダイオード、ダイアック、バリスタ、トンネルダイオード等が挙げられる。
3端子素子としては、バイポーラトランジスタ、ダーリントントランジスタ、電界効果トランジスタ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、ユニジャンクショントランジスタ、静電誘導トランジスタ、ゲートターンサイリスタ、トライアック、静電誘導サイリスタ等が挙げられる。
これらの中でも、整流用ダイオード、および、トランジスタ類が好ましく挙げられ、電界効果トランジスタがより好ましく挙げられる。
【0080】
本発明の有機半導体素子の一態様である有機薄膜トランジスタ(有機TFT)について図面を参照して説明する。
図1に、有機薄膜トランジスタ(有機TFT)の一態様としてボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタの断面模式図を示す。
図1において、有機薄膜トランジスタ100は、基板10と、基板10上に配置されたゲート電極20と、ゲート電極20を覆うゲート絶縁膜30と、ゲート絶縁膜30のゲート電極20側とは反対側の表面に接するソース電極40およびドレイン電極42と、ソース電極40とドレイン電極42との間のゲート絶縁膜30の表面を覆う有機半導体膜50と、各部材を覆う封止層60とを備える。すなわち、有機薄膜トランジスタ100は、ボトムゲート−ボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタである。
なお、
図1においては、有機半導体膜50が、上述した本発明の有機半導体膜形成用組成物より形成される膜に該当する。
以下、基板、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極、ドレイン電極、有機半導体膜および封止層並びにそれぞれの形成方法について詳述する。
【0081】
<基板>
基板は、後述するゲート電極、ソース電極、ドレイン電極などを支持する役割を果たす。
基板の種類は特に制限されず、例えば、プラスチック基板、ガラス基板、セラミック基板などが挙げられる。中でも、各デバイスへの適用性およびコストの観点から、ガラス基板またはプラスチック基板であることが好ましい。
【0082】
<ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極>
ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極の材料としては、例えば、金(Au)、銀、アルミニウム(Al)、銅、クロム、ニッケル、コバルト、チタン、白金、タンタル、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属;InO
2、SnO
2、酸化インジウムスズ(ITO(Tndium Tin Oxide))等の導電性の酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン等の導電性高分子;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素等の半導体;フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料などが挙げられる。中でも、金属であることが好ましく、銀またはアルミニウムであることがより好ましい。
ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極の厚みは特に制限されないが、20〜200nmであることが好ましい。
【0083】
ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極を形成する方法は特に制限されないが、例えば、基板上に、電極材料を真空蒸着またはスパッタする方法、電極形成用組成物を塗布または印刷する方法などが挙げられる。また、電極をパターニングする場合、パターニングする方法としては、例えば、フォトリソグラフィー法;インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法;マスク蒸着法などが挙げられる。
【0084】
<ゲート絶縁膜>
ゲート絶縁膜の材料としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリベンゾキサゾール、ポリシルセスキオキサン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー;二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物;窒化珪素等の窒化物などが挙げられる。これらの材料のうち、有機半導体膜との相性から、ポリマーであることが好ましい。
ゲート絶縁膜の材料としてポリマーを用いる場合、架橋剤(例えば、メラミン)を併用することが好ましい。架橋剤を併用することで、ポリマーが架橋されて、形成されるゲート絶縁膜の耐久性が向上する。
ゲート絶縁膜の膜厚は特に制限されないが、100〜1,000nmであることが好ましい。
【0085】
ゲート絶縁膜を形成する方法は特に制限されないが、例えば、ゲート電極が形成された基板上に、ゲート絶縁膜形成用組成物を塗布する方法、ゲート絶縁膜材料を蒸着またはスパッタする方法などが挙げられる。ゲート絶縁膜形成用組成物を塗布する方法は特に制限されず、公知の方法(バーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ドクターブレード法)を使用することができる。
ゲート絶縁膜形成用組成物を塗布してゲート絶縁膜を形成する場合、溶媒除去、架橋などを目的として、塗布後に加熱(ベーク)してもよい。
【0086】
<バインダーポリマー層>
本発明の有機半導体素子は、上記有機半導体膜とゲート絶縁膜との間に上述したバインダーポリマーから形成されるバインダーポリマー層を有してもよく、バインダーポリマー層を有する場合、上記有機半導体膜とゲート絶縁膜との間に上記バインダーポリマー層を有することが好ましい。上記バインダーポリマー層の膜厚は特に制限されないが、20〜500nmであることが好ましい。上記バインダーポリマー層は、上記ポリマーを含む層であればよいが、上記バインダーポリマーからなる層であることが好ましい。
【0087】
バインダーポリマー層を形成する方法は特に制限されないが、公知の方法(バーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ドクターブレード法、インクジェット法)を使用することができる。
バインダーポリマー層形成用組成物を塗布してバインダーポリマー層を形成する場合、溶媒除去、架橋などを目的として、塗布後に加熱(ベーク)してもよい。
【0088】
<封止層>
本発明の有機半導体素子は、耐久性の観点から、最外層に封止層を備えることが好ましい。封止層には公知の封止剤を用いることができる。
封止層の厚さは特に制限されないが、0.2〜10μmであることが好ましい。
【0089】
封止層を形成する方法は特に制限されないが、例えば、ゲート電極とゲート絶縁膜とソース電極とドレイン電極と有機半導体膜とが形成された基板上に、封止層形成用組成物を塗布する方法などが挙げられる。封止層形成用組成物を塗布する方法の具体例は、ゲート絶縁膜形成用組成物を塗布する方法と同じである。封止層形成用組成物を塗布して有機半導体膜を形成する場合、溶媒除去、架橋などを目的として、塗布後に加熱(ベーク)してもよい。
【0090】
また、
図2に、有機薄膜トランジスタ(有機TFT)の別の一態様として、トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタの断面模式図を示す。
図2において、有機薄膜トランジスタ200は、基板10と、基板10上に配置されたゲート電極20と、ゲート電極20を覆うゲート絶縁膜30と、ゲート絶縁膜30上に配置された有機半導体膜50と、有機半導体膜50上に配置されたソース電極40およびドレイン電極42と、各部材を覆う封止層60を備える。ここで、ソース電極40およびドレイン電極42は、上述した本発明の組成物を用いて形成されたものである。すなわち、有機薄膜トランジスタ200は、ボトムゲート-トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタである。
基板、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極、ドレイン電極、有機半導体膜および封止層については、上述のとおりである。
【0091】
上記では
図1および
図2において、ボトムゲート−ボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタ、および、ボトムゲート−トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタの態様について詳述したが、本発明の有機半導体素子は、トップゲート−ボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタ、および、トップゲート−トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタにも好適に使用できる。
なお、上述した有機薄膜トランジスタは、電子ペーパー、ディスプレイデバイスなどに好適に使用できる。
【実施例】
【0092】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0093】
[有機半導体化合物(OSC)]
有機半導体膜に用いた化合物1〜6の構造を以下に示す。
合成した化合物については、高速液体クロマトグラフィー(東ソー(株)、TSKgel ODS−100Z)により純度(254nmの吸収強度面積比)が99.8%以上であることを確認した。また、構造は
1H−NMR(プロトン核磁気共鳴)により同定した。
なお、重量平均分子量については、上述のGPCによる方法により測定を行った。
【0094】
【化20】
【0095】
以下、化合物1〜6の各合成手順について、詳細に説明する。
<化合物1の合成>
モノマーである中間体1は、Tetrahedron,2010,66,3173.およびOrganic Electronics,2011,12,993.を参考に、スキームX1に示す合成ルートにより合成した。
【0096】
【化21】
【0097】
合成中間体1(244mg、200mmol)、5,5’−ビス(トリメチルスタンニル)−2,2’−ビチオフェン(98.4mg、200mmol)、トリ(o−トリル)ホスフィン(9.8mg、32mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(3.7mg、4mmol)、脱水クロロベンゼン(17mL)を混合し、窒素雰囲気下、130℃で24時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、メタノール(240mL)/濃塩酸(10mL)混合液に注ぎ、2時間撹拌した。析出物を濾過、メタノール洗浄した後、メタノール、アセトン、酢酸エチルで順次ソックスレー抽出し、可溶性の不純物を取り除いた。続いて、クロロホルムでソックスレー抽出し、得られた溶液を減圧濃縮した後、メタノールを添加し、析出した固形分を濾過、メタノール洗浄し80℃で12時間真空乾燥することで化合物1を201mg得た(収率82%、重量平均分子量 Mw=75000)。
【0098】
【化22】
【0099】
<化合物2の合成>
化合物2について以下のスキームで合成した。
【0100】
【化23】
【0101】
(中間体7の合成)
4−ブロモフェノール(41.6g、240mmol)、2−オクチル−1−ドデシルブロミド(174g、480mmol)、炭酸カリウム(100g、720mmol)、メチルエチルケトン(480mL)を混合し、窒素雰囲気下、100℃で72時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却し、セライトろ過し、ヘキサンでセライトを洗浄した。ろ液を減圧濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン)に供することで精製し、中間体7(80g)を得た。
【0102】
(中間体2の合成)
中間体7(30g、66mmol)、4−ペンチン−1−オール(18.3mL、198mmol)、ヨウ化銅(630mg、3.3mmol)、ジエチルアミン(90mL)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(1.9g、1.7mmol)を混合し、窒素雰囲気下、70℃で4時間攪拌した。反応溶液に酢酸エチル(200mL)を加え、セライトろ過し、不溶物を除去した。ろ液を減圧濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=4:1〜1:1)に供することで精製し、中間体2(17.5g)を得た。
【0103】
(中間体3の合成)
オートクレーブ容器中に、中間体2(5.0g、11mmol)、10wt%Pd/C(3.6g)、エタノール(25mL)を混合した。水素を0.9Mpa充填し、30℃で4時間攪拌した。反応容器を大気下に戻し、反応溶液をセライト濾過し、テトラヒドロフランでセライトを洗浄した。ろ液を減圧濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=4:1〜2:1)に供することで精製し、中間体3(4.2g)を得た。
【0104】
(中間体4の合成)
中間体3(8.5g、18mmmol)、イミダゾール(1.5g、22mol)、トリフェニルホスフィン(5.8g、22mol)、ジクロロメタン(54mL)を混合し、窒素雰囲気下、0℃に冷却した。次いで、ヨウ素(5.6g、22mol)を少量ずつ加えた。反応溶液を室温まで上昇させ、1時間攪拌した。亜硫酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止させた後、分液し、水層を除去した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン)に供することで精製し、中間体4(8.7g)を得た。
【0105】
(中間体5の合成)
3,6−ジ(2−チエニル)−2,5−ジヒドロピロロ[3,4−c]ピロール−1,4−ジオン(1.53g,5.1mmol)、炭酸カリウム(2.1g、15.3mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(75mL)を混合し、窒素雰囲気下、100℃で1時間攪拌した。その後、中間体4(8.7g,15mmol)を加え、100℃でさらに6時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却し、セライトろ過し、酢酸エチルでセライトを洗浄した。ろ液を減圧濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=19:1〜9:1)に供することで精製し、中間体5(3.2g)を得た。
【0106】
(中間体6の合成)
1)リチオ化剤(TMPLi)の調製
窒素雰囲気下、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(2.4mL、14mmol)、脱水テトラヒドロフラン(13mL)を混合し、−78℃に冷却した。2.6Mのノルマルブチルリチウム ヘキサン溶液(5.2mL、13mmol)を滴下し、0℃まで昇温し、リチオ化剤(TMPLi)を調製した。
2)中間体6の調製
窒素雰囲気下、中間体5(800mg、0.67mmol)、脱水テトラヒドロフラン(3.6mL)を混合し、−78℃に冷却した。上記で調製したリチオ化剤(4.1mL,4.2mmol相当)を滴下した。−78℃で1時間攪拌した後、1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラクロロエタン(439mg、1.3mmol)を加えた。その後、反応溶液を室温まで昇温し、1時間攪拌した後、水を加えて、反応を停止させた。反応溶液をヘキサンで抽出した後、有機層を1Mの塩酸、ついで飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=19:1〜9:1)に供することで精製し、中間体6(390mg)を得た。
【0107】
(化合物2の合成)
中間体6(130mg、97μmol)、5,5’−ビス(トリメチルスタンニル)−2,2’−ビチオフェン(48mg、97μmol)、トリ(o−トリル)ホスフィン(2.4mg、7.7μmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(1.8mg、1.9μmol)、脱水クロロベンゼン(3mL)を混合し、窒素雰囲気下、130℃で24時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、メタノール(40mL)/濃塩酸(2mL)混合液に注ぎ、2時間撹拌し、析出物をろ過、メタノール洗浄した。得られた粗生成物をメタノール、アセトン、ヘキサンで順次ソックスレー抽出し、可溶性の不純物を取り除いた。続いて、クロロベンゼンでソックスレー抽出し、得られた溶液を減圧濃縮した後、メタノールを添加し、析出した固形分をろ過、メタノール洗浄し80℃で12時間真空乾燥することで化合物2(130mg)を得た(重量平均分子量 Mw=50000)。
【0108】
<化合物3の合成>
モノマーである1、3−ジブロモ−5−(2−オクチルドデシル)−4H−チエノ[3,4−c]ピロール−4,6(5H)−ジオンはJ.Mater.Chem.,2012,22,14639.に記載の方法により合成した。もう一方のモノマーである中間体8は特表2008−504379号公報およびJ.Polym.Sci.PartA:Polym.Chem.,2013,51,424.を参考に、下記スキームX3に示す合成ルートにより合成した。
【0109】
【化24】
【0110】
1,3−ジブロモ−5−(2−オクチルドデシル)−4H−チエノ[3,4−c]ピロール−4,6(5H)−ジオン(296mg、500mmol)、中間体8(485mg、500mmol)、トリ(o−トリル)ホスフィン(30.4mg,100mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(22.9mg,25mmol)、脱水トルエン(25mL)を混合し、窒素雰囲気下、100℃で60時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、メタノール(480mL)/濃塩酸(20mL)混合液に注ぎ、2時間撹拌した。析出物を濾過、メタノール洗浄した後、メタノール、アセトン、ジクロロメタンで順次ソックスレー抽出し、可溶性の不純物を取り除いた。続いて、ジクロロベンゼンでソックスレー抽出し、得られた溶液を減圧濃縮した後、メタノールを添加し、析出した固形分を濾過、メタノール洗浄し80℃で12時間真空乾燥することで化合物3を344mg得た(収率64%、重量平均分子量 Mw=47000)。
【0111】
【化25】
【0112】
<化合物4の合成>
J. Am. Chem.Soc.,2014,136,9477.に記載の方法を参考に合成した(重量平均分子量 Mw=63000)。
【0113】
<化合物5の合成>
J. Am. Chem.Soc.,2007,129,3472.に記載の方法を参考に合成した(重量平均分子量 Mw=31000)。
【0114】
<化合物6の合成>
Aldrich 製(製品番号:698989)の市販品を用いた(重量平均分子量 Mw=15000−45000)。
【0115】
[ポリ(メタ)アクリレートおよび比較例成分]
実施例で使用したポリ(メタ)アクリレートを以下に示す。
珪素原子およびフッ素原子をいずれも有しないポリ(メタ)アクリレート(C−1を繰り返し単位として構成されるポリ(メタ)アクリレート、および、C−2を繰り返し単位として構成されるポリ(メタ)アクリレート)については、下記の合成法によりそれぞれ合成した。
【0116】
【化26】
【0117】
<ポリマーC−1の合成>
100mLの三口フラスコに、メタクリル酸ドデシル(東京化成工業社製)(10.0g)およびトルエン20.0gを入れ、窒素気流下、80℃まで加熱した。得られた反応液に、アゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業社製)0.49gおよびトルエン1.0g(アゾビスイソブチロニトリル0.49gとトルエン1.0gの溶液)を加え、80℃で16時間攪拌した。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、トルエン18.0gで希釈した。反応物をヘキサンで再沈した後、分取クロマトグラフィーで分子量分画分取を行い、ポリマーC−1を9.2g得た。
ポリマーC−1の重量平均分子量(Mw=158000)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法で測定された標準ポリスチレン換算値である。重量平均分子量および数平均分子量のGPC法による測定は、ポリマーC−1をTHF(Tetrahydrofuran)に溶解させ、高速GPC(HLC−8220GPC、東ソー社製)を用い、カラムとして、TSKgel SuperHZ4000(TOSOH製、4.6mmI.D.×15cm)を用い、溶離液としてTHFを用いて行った。
【0118】
<ポリマーC−2の合成>
メタクリル酸ドデシル(東京化成工業社製)をアクリル酸ブチル(東亞合成社製)に、反応時間を65℃に変更した以外は、上記C−1と同様の方法によりポリマーC−2を合成した(重量平均分子量 Mw=120000)。
【0119】
また、比較用有機半導体膜形成用組成物には、ポリ(メタ)アクリレートの比較ポリマーとして下記の化合物を用いた。
PMMA:Poly(methyl methacrylate)、Aldrich製(製品番号:182230、重量平均分子量 Mw=〜120000)
FL−5:フッ素系シリコーンオイル、信越化学工業(株)製
【0120】
[溶媒]
実施例および比較例で使用した溶媒を以下に示す。
・テトラリン(沸点:208℃、シグマアルドリッチ社製)
・クロロベンゼン(沸点:131℃、シグマアルドリッチ社製)
【0121】
[有機半導体膜形成用組成物の調製]
有機半導体化合物と添加物とを表1の組成となるように所定の溶媒に溶解させて、有機半導体膜形成用組成物をそれぞれ調製した。
【0122】
(TFT素子の形成)
以下の要領で、ボトムゲートボトムコンタクトTFT素子を形成した。
ガラス基板(イーグルXG:コーニング社製)上にゲート電極となるAlを蒸着した(厚み:50nm)。その上にゲート絶縁膜形成用組成物(ポリビニルフェノール/メラミン=1/1(w/w)のPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)溶液(溶液濃度:2質量%))をスピンコートし、150℃で60分間ベークを行い、ゲート絶縁膜を形成した。その上にAuをマスク蒸着し、チャネル長45μm、チャネル幅250μmのソース電極およびドレイン電極を形成した。その上に上記で調製した有機半導体膜形成用組成物をインクジェット法またはフレキソ印刷法により塗布して、有機半導体膜を形成し、ボトムゲートボトムコンタクトの有機半導体トランジスタ(有機薄膜トランジスタ)を得た。
以下、インクジェット法およびフレキソ印刷法の各形成条件についてそれぞれ説明する。
【0123】
(有機半導体膜:インクジェット法)
上記ソース電極およびドレイン電極が形成された基板上に、調製した有機半導体膜形成用組成物をインクジェット法によりコートした。インクジェット装置としては、DPP2831(富士フイルムグラフィックシステムズ社製)、10pLヘッドを用い、吐出周波数2Hz、ドット間ピッチ25μmの条件でベタ膜を形成した。
【0124】
(有機半導体膜:フレキソ印刷法)
上記ソース電極およびドレイン電極を形成した基板上に、調製した有機半導体膜形成用組成物をフレキソ印刷法によりコートした。印刷装置として、フレキソ適性試験機F1(アイジーティ・テスティングシステムズ(株)製)を用い、フレキソ樹脂版として、AFP DSH1.70%(旭化成(株)製)/ベタ画像を用いた。版と基板との間の圧は60N、搬送速度0.4m/秒で印刷を行った後、そのまま、150℃下で15分乾燥することで、有機半導体膜を作製した。
【0125】
以下において、製膜性評価は、インクジェット法で作製した有機半導体膜を有するTFTによって行い、キャリア移動度評価は、フレキソ印刷で作製した有機半導体膜を有するTFTによって行った。
【0126】
[評価]
(移動度)
得られた有機薄膜トランジスタの各電極と、半導体パラメータ・アナライザ(4155C、Agilent Technologies社製)に接続されたマニュアルプローバの各端子とを接続して、電界効果トランジスタ(FET)の評価を行なった。具体的には、ドレイン電流−ゲート電圧(Id‐Vg)特性を測定することにより電界効果移動度([cm
2/V・sec])を算出した。移動度の値に応じて、A〜Eのランク付けを行った。
【0127】
「A」:0.1cm
2/Vs以上
「B」:0.07cm
2/Vs以上、0.1cm
2/Vs未満
「C」:0.04cm
2/Vs以上、0.07cm
2/Vs未満
「D」:0.01cm
2/Vs以上、0.04cm
2/Vs未満
「E」:0.01cm
2/Vs未満
【0128】
(製膜性(被膜率))
有機半導体膜形成用組成物の製膜性については、上記で得たインクジェット法による有機半導体膜を用いて評価した。すなわち、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極およびドレイン電極を形成したガラス基板(イーグルXG:コーニング社製)の表面上に形成した有機半導体薄膜の面積から濡れ性を評価し、上記積層体の表面を覆った面積(被膜率)に応じて、下記評価基準に従い、A〜Eのランク付けを行った。
【0129】
「A」:被膜率85%以上
「B」:被膜率70%以上85%未満
「C」:被膜率55%以上70%未満
「D」:被膜率40%以上55%未満
「E」:被膜率40%未満
【0130】
表1中、OSC(成分A)の濃度は、「有機半導体膜形成用組成物の組成物全質量に対する固形分濃度」を意味する。
【0131】
【表1】
【0132】
表1に示すように、本発明の有機半導体膜形成用組成物は製膜性に優れ、形成される有機半導体膜および有機半導体素子が高いキャリア移動度を示すことが確認された。
【0133】
また、実施例3、4を対比すると、珪素原子およびフッ素原子をいずれも有しないポリ(メタ)アクリレートに含まれる側鎖のアルキル基の炭素数が5以上である場合(好ましくは炭素数8〜20のアルキル基である場合、より好ましくは炭素数12〜20のアルキル基である場合)において、製膜性がより優れ、形成される有機半導体膜および有機半導体素子がより高いキャリア移動度を示すことが確認された。
また、実施例1、2、3、8、9を対比すると、OSCとして化合物1および化合物2(いずれもアクセプターユニットが(A−3)構造)並びに化合物3(アクセプターユニットが(A−1)構造)を用いた場合(好ましくは化合物1および化合物2を用いた場合)において、製膜性がより優れ、形成される有機半導体膜および有機半導体素子がより高いキャリア移動度を示すことが確認された。
また、実施例3、5、6、7を対比すると、有機半導体膜形成用組成物中、珪素原子およびフッ素原子をいずれも有しないポリ(メタ)アクリレートが有機半導体膜形成用組成物の全質量に対して0.05質量%以上0.3質量%以下で含まれる場合(より好ましくは0.05質量%以上0.1質量%以下で含まれる場合)に、製膜性により優れ、形成される有機半導体膜および有機半導体素子がより高いキャリア移動度を示すことが確認された。また、有機半導体膜形成用組成物の全固形分量に対して、上記ポリ(メタ)アクリレートの含有量が5質量%以上30質量%以下で含まれる場合に、製膜性に優れ、形成される有機半導体膜および有機半導体素子がより高いキャリア移動度を示すことが確認された。
【0134】
一方、比較例の有機半導体膜形成用組成物は、いずれも製膜性が悪く、また有機半導体膜および有機半導体素子としたときにキャリア移動度が低い結果となった。