特許第6427862号(P6427862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6427862圧粉磁心、その製造方法、該圧粉磁心を用いたインダクタンス素子および回転電機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427862
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】圧粉磁心、その製造方法、該圧粉磁心を用いたインダクタンス素子および回転電機
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20181119BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20181119BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20181119BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20181119BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20181119BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20181119BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20181119BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20181119BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20181119BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   H01F1/26
   H01F1/153 108
   H01F1/153 175
   H01F27/255
   H01F41/02 C
   H01F41/02 D
   B22F3/00 B
   B22F3/02 M
   B22F1/00 Y
   B22F3/02 P
   B22F1/02 C
   B22F3/24 B
   C22C33/02 M
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-221938(P2013-221938)
(22)【出願日】2013年10月25日
(65)【公開番号】特開2015-84353(P2015-84353A)
(43)【公開日】2015年4月30日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田口 真実
(72)【発明者】
【氏名】谷川 茂穂
(72)【発明者】
【氏名】野口 伸
【審査官】 久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−021807(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/016275(WO,A1)
【文献】 特開2008−169466(JP,A)
【文献】 特開2009−293099(JP,A)
【文献】 特開昭62−074032(JP,A)
【文献】 特開平02−090601(JP,A)
【文献】 特開昭62−226603(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/042692(WO,A1)
【文献】 特開2008−133516(JP,A)
【文献】 特開平10−270226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/12−1/38、3/08、27/24−27/26
H01F 41/00−41/02
H02K 1/02、15/02
B22F 1/00−8/00
C22C 1/04−1/05、5/00−25/00
C22C 27/00−28/00、30/00−30/06
C22C 33/02、35/00−45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe基アモルファス金属の球状粒子からなる粉末と樹脂バインダとを主体とし、温間成形してなる圧粉磁心であって、
前記樹脂バインダは、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドおよびポリアミド66のいずれかであり、
前記Fe基アモルファス金属は、結晶化温度Tx(K)が763 K以下のFe-Si-B-Cr-Cアモルファス金属、Fe-Si-B-Coアモルファス金属およびFe-Si-B-Cu-Nbアモルファス金属のいずれかであり、かつ前記樹脂バインダの融点Tm(K)との関係がTm/Tx ≧0.70であり、
前記圧粉磁心は、前記温間成形によって前記Fe基アモルファス金属粉末の前記球状粒子同士が互いに押し合って塑性変形した結果、隣り合う2つの前記球状粒子同士の界面が前記樹脂バインダを介して平行になった領域を形成しており、その結果、前記Fe基アモルファス金属粉末の占積率が80%超99%以下であり、鉄損が70 kW/m3以下であり、焼結軸受−圧環強さ試験法に準じて圧環強さを測定した場合の該圧環強さが20 MPa超であることを特徴とする圧粉磁心。
【請求項2】
圧粉磁心を用いたインダクタンス素子であって、
前記圧粉磁心の少なくとも一部が、請求項1に記載の圧粉磁心であることを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項3】
請求項に記載のインダクタンス素子において、
前記インダクタンス素子は、リアクトルまたはチョークコイルであることを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項4】
圧粉磁心を用いた回転電機であって、
前記圧粉磁心の少なくとも一部が、請求項1に記載の圧粉磁心であることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項に記載の回転電機において、
前記圧粉磁心は、ステータコアおよび/またはロータコアであることを特徴とする回転電機。
【請求項6】
Fe基アモルファス金属の球状粒子からなる粉末と樹脂バインダとを主体とする圧粉磁心の製造方法であって、
前記樹脂バインダは、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドおよびポリアミド66のいずれかであり、
前記Fe基アモルファス金属は、結晶化温度Tx(K)が763 K以下のFe-Si-B-Cr-Cアモルファス金属、Fe-Si-B-Coアモルファス金属およびFe-Si-B-Cu-Nbアモルファス金属のいずれかであり、かつ前記樹脂バインダの融点Tm(K)との関係がTm/Tx ≧0.70であり、
前記Fe基アモルファス金属粉末に対して前記樹脂バインダを1体積%以上15体積%以下の範囲で混合し、前記Fe基アモルファス金属粉末の前記球状粒子の表面上に前記樹脂バインダを被覆する樹脂被覆工程と、
前記樹脂バインダが被覆された前記Fe基アモルファス金属粉末に対して、該Fe基アモルファス金属が軟化しかつ該樹脂バインダの融点以上の所定の温度および所定の圧力で成形体を形成する温間成形工程と、
前記成形体における前記Fe基アモルファス金属粉末に蓄積した歪みを緩和する歪み緩和熱処理工程とを有し
記温間成形工程は、前記所定の温度が前記結晶化温度の0.75超0.95以下かつ693 K以下であり、前記所定の圧力が500 MPa以上1000 MPa以下であり、前記Fe基アモルファス金属粉末の前記球状粒子同士が互いに押し合って塑性変形することで隣り合う2つの前記球状粒子同士の界面が前記樹脂バインダを介して平行になった領域を形成するとともに、前記成形体における前記Fe基アモルファス金属粉末の占積率を80%超99%以下とする工程であり、
その結果、前記圧粉磁心は、鉄損が70 kW/m3以下となり、焼結軸受−圧環強さ試験法に準じて圧環強さを測定した場合の該圧環強さが20 MPa超となることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の圧粉磁心の製造方法において、
前記温間成形工程および/または前記歪み緩和熱処理工程における加熱がマイクロ波加熱によってなされることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心に関し、特に、アモルファス合金粉末を用いた圧粉磁心およびその製造方法に関するものである。また、当該圧粉磁心を用いたインダクタンス素子および回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境保護や省エネルギーへの意識の高まりにより、エコ製品(例えば、太陽光発電、ハイブリッド自動車、電気自動車など)が広く普及し始めている。それらエコ製品では、高効率化のためにDC-DCコンバータやインバータが使用されており、該コンバータやインバータ内には、電圧変換や電流変動(交流成分やノイズ成分)阻止のためのインダクタンス素子(例えば、リアクトル、チョークコイル)が搭載されている。また、モータ等の回転電機においては、ステータやロータの鉄心の磁気特性が回転電機の効率に大きな影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
エコ製品にとって、あらゆる部品の小型化は至上命題の一つである。インダクタンス素子への小型化要求に応えるため、使われる磁心に関して、形状自由度の高い圧粉磁心の重要性が高まっている。コンバータやインバータの高効率化のため、インダクタンス素子に使われる圧粉磁心には、高い磁気特性と高い機械的強度とが求められている。また、回転電機のステータコアやロータコアとして磁気特性の高い圧粉磁心を用いることで、回転電機の小型化・高効率化が可能とされている。
【0004】
ここで、圧粉磁心とは、表面に電気的絶縁処理を施した軟磁性金属粉末をプレス成形した磁心である。軟磁性金属としては、従来から、Fe(純鉄)、Fe-Si(鉄−ケイ素)系合金、Fe-Si-Al(鉄−ケイ素−アルミニウム)系合金、Fe-Ni(鉄−ニッケル)系合金などの金属材料が用いられてきた。強磁性元素(Fe、Ni、Co(コバルト)など)を主成分とするアモルファス金属(アモルファス相になっている合金)は、優れた磁気特性(例えば、高い飽和磁束密度、高い透磁率、非常に低い鉄損)を示すことから磁心材料として期待されており、なかでもFe-Si-B(鉄−ケイ素−ホウ素)系アモルファス金属は、近年注目を集めている。
【0005】
アモルファス金属は、一般的に、溶融した合金を超急冷することにより作製される(例えば、単ロール液体急冷法、超急冷水アトマイズ法)。アモルファス金属は、強靱性や高耐食性や軟磁性などの利点を有する一方、非常に硬く塑性変形しづらいため成形加工性に劣るという欠点も有する。このことから、アモルファス金属粉末を圧粉磁心に適用するために、成形加工性を向上させる技術が種々検討されてきた。
【0006】
例えば、特許文献1(特開2010−141183)には、平均粒径が異なる2種類以上の非晶質軟磁性合金粉末と軟化点が前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度より低い低融点ガラス粉末(ビスマス系ガラスまたはリン酸系ガラス)とを混合し、その後結着性絶縁樹脂で被覆し、さらに潤滑性樹脂を混合した後、加圧成形して成形体を作製し、その成形体に対して前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度より低い温度の焼鈍処理を大気中で行うことを特徴とする圧粉磁心が開示されている。特許文献1によると、前記焼鈍処理により非晶質軟磁性合金粉末の表面が酸化して、低融点ガラスと軟磁性合金粉末の結着強度が増加するので、常温で低圧成形を行っても機械的強度に優れた圧粉磁心を提供することができるとされている。
【0007】
一方、インダクタンス素子(例えば、リアクトル、チョークコイル)への高性能化・小型化要求により、圧粉磁心に対しても高密度化・高強度化が求められている。そのような要求に応じるため、アモルファス金属を用いた圧粉磁心においてアモルファス金属自体の成形加工性の改善を目指して、広い温度領域で過冷却液体状態を示すアモルファス金属(ガラス転移が明確に観察されるアモルファス金属)を利用した技術も種々開発されている。
【0008】
例えば、特許文献2(特開2002−184616)には、ΔTx=Tx−Tg(ただしTxは結晶化開始温度、Tgはガラス遷移温度を示す)の式で表される過冷却液体の温度間隔ΔTxが20 K以上であって、Al、Gaのいずれか一方または両方の元素Xと、P、C、Si、Bのうちの1種以上の元素Qと、Feとを含む非晶質相を主相とする組織からなる金属ガラス合金の粉末に、シリコーンエラストマーからなる結着剤とステアリン酸アルミニウムからなる潤滑剤とが添加され、加熱して固化成形されてなることを特徴とする圧粉磁心が開示されている。特許文献2によると、圧縮成形の際に金属ガラス合金粉末同士が相互に滑りやすく、圧粉磁心内部の応力・歪みを緩和しながら圧粉磁心の相対密度を向上させることができ、かつ結晶質相を析出させることがなく、高透磁率で低鉄損の圧粉磁心を構成することができるとされている。
【0009】
また、特許文献3(特開2009−120927)には、不可避不純物を除いた組成が、組成式:(Fe1-aMa)100-w-x-y-zSiwBxCyLzで表され、前記組成式の構成元素のうち、MはCo、Niの中から選択される1種類以上の元素であり、LはAl、Cr、Moの中から選択される1種類以上の元素であり、0≦a≦0.3、4原子%≦w≦10原子%、10原子%≦x≦18原子%、1原子%≦y≦7原子%、0.3原子%≦z≦5原子%の組成比率の軟磁性非晶質合金であって、結晶化開始温度Txとガラス遷移温度Tgの温度差ΔTx(ΔTx=Tx−Tg)が20℃以上であり、かつ飽和磁束密度が1.2T以上であることを特徴とする軟磁性非晶質合金が開示されている。また、前記軟磁性非晶質合金の粉末と結合材とを含む混合物を成形してなる圧粉磁芯が開示されている。特許文献3によると、前記軟磁性非晶質合金は、非晶質形成能に優れていることから、冷却速度がさほど大きくない(103℃/秒程度)場合でも非晶質相を形成することが可能であり、また、その非晶質構造の均一性が高いことから磁気異方性を持たず、優れた軟磁気特性を有するとされている。さらに、当該軟磁性非晶質合金粉末を用いた圧粉磁芯は、小型化に適しているとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−141183号公報
【特許文献2】特開2002−184616号公報
【特許文献3】特開2009−120927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、アモルファス金属は非常に硬く室温でほとんど塑性変形しないため、圧粉成形体の密度を高めるには非常に高い成形圧力(例えば、1500〜2000 MPa)が必要であった。しかしながら、高い成形圧力は、それに要するプレス成形装置と金型とのコストを増大させ、圧粉磁心の製造コストを増大させるという問題がある。また、このように高い成形圧力を負荷しても、室温ではアモルファス金属を塑性変形させることが極めて困難なため、その相対密度(アモルファス金属の占積率)はせいぜい80%に留まる。
【0012】
特許文献1に記載の圧粉磁心は、常温で低圧成形を行っても機械的強度に優れた圧粉磁心を提供することができるとされているが、1300 MPaの成形圧力を要しており、絶対的には十分高い圧力と言える。また、高い圧力で成形した割には圧粉磁心の密度が高まっておらず、その結果、圧粉磁心の機械的強度も十分高いとは言えない。圧粉磁心の機械的強度が不十分であると、インダクタンス素子製造時の巻線工程で、圧粉磁心が破損する要因となる。
【0013】
一方、特許文献2や特許文献3に記載の圧粉磁心では、金属ガラスを用いて加熱成形しているため、成形加工性が良く比較的容易に密度を高めることができる。しかしながら、軟磁性材料として重要な磁気特性(高透磁率、低保持力、高磁束密度など)は、Fe-Si-B系アモルファス金属よりも金属ガラスの方が劣る傾向にある。これは、金属ガラスでは広い過冷却液体領域を得るために、強磁性元素以外の添加元素が多量に添加されるためである。また、金属ガラスによって高密度な成形体ができたとしても、粉末間の絶縁性の低下や、金型からの抜き作業の際に、成形体が破損するなどの問題がある。これは、金属ガラスの過冷却温度域が400℃以上の高温であり、金型と試料間の潤滑が困難になることに起因する。
【0014】
近年、エコ製品に対する高効率化・高出力化・小型化・低コスト化の要求はますます高まっており、エコ製品に使われる各部品に対する要求も強まる一方である。そのため、従来の圧粉磁心では、各種要求に応じられなくなってきた。
【0015】
したがって、本発明の目的は、それらの要求を満たすべく、磁気特性に優れたFe基アモルファス金属粉末を利用した上で、圧粉磁心の更なる高密度化(例えば、アモルファス金属の占積率80%超)を実現し、優れた磁気特性と高い機械的強度とを有する圧粉磁心を提供することにある。また、そのような圧粉磁心を低コストで製造する方法を提供することにある。さらに、当該圧粉磁心を用いることによって、エコ製品部品に求められる要求を満たすインダクタンス素子および回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様によると、Fe(鉄)基アモルファス金属の粉末と樹脂バインダとを主体とし、温間成形してなる圧粉磁心であって、前記Fe基アモルファス金属の結晶化温度Tx(K、ケルビン)と前記樹脂バインダの融点Tm(K)との関係が「Tm/Tx ≧0.70」であり、前記Fe基アモルファス金属粉末は、前記温間成形において塑性変形されており、その占積率が80%超99%以下である圧粉磁心を提供する。
【0017】
また本発明は、Fe基アモルファス金属の粉末と樹脂バインダとを主体とする圧粉磁心の製造方法であって、前記Fe基アモルファス金属粉末の粒子表面上に前記樹脂バインダを被覆する樹脂被覆工程と、前記樹脂バインダが被覆された前記Fe基アモルファス金属粉末に対して所定の温度・圧力で成形体を形成する温間成形工程と、前記成形体における前記Fe基アモルファス金属粉末に蓄積した歪みを緩和する歪み緩和熱処理工程とを有し、前記Fe基アモルファス金属の結晶化温度Tx(K、ケルビン)と前記樹脂バインダの融点Tm(K)との関係が「Tm/Tx ≧0.70」であり、前記温間成形工程における前記所定の温度が前記結晶化温度の0.75超0.95以下であり、前記所定の圧力が500 MPa以上1000 MPa以下であり、前記成形体における前記Fe基アモルファス金属粉末の占積率が80%超99%以下である圧粉磁心の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、磁気特性に優れたFe基アモルファス金属粉末を利用した上で、圧粉成形する際にFe基アモルファス金属の粉末粒子間の絶縁を維持しながら該粉末粒子を塑性変形させることによって、従来よりも高密度化(例えば、アモルファス金属の占積率80%超)を実現することができる。その結果、優れた磁気特性と高い機械的強度とを有する圧粉磁心を提供することができる。また、そのような圧粉磁心を低コストで製造する方法を提供することができる。さらに、当該圧粉磁心を用いることによって、エコ製品部品に求められる要求を満たすインダクタンス素子および回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るインダクタンス素子の一例(チョークコイル)を示す斜視模式図である。
図2】本発明に係るインダクタンス素子の他の一例(リアクトル)を示す斜視模式図である。
図3A】温間成形工程(成形温度533 K)における時間-温度チャートおよび時間-成形圧力チャートである。
図3B】温間成形工程(成形温度693 K)における時間-温度チャートおよび時間-成形圧力チャートである。
図4A】使用したFe基アモルファス金属粉末(温間成形前)を示すSEM観察像である。
図4B】作製した圧粉磁心の断面組織の一例を示すSEM観察像である。
図5】実験1の圧粉磁心におけるFe基アモルファス金属の占積率と成形温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(本発明の基本思想)
球体の充填率は、該球体が変形しない真球である場合、球径分布を最適に制御したとしても理論的に78%程度が上限とされている。圧粉磁心においてアモルファス金属の占積率(相対密度)を高めるためには、原理的にアモルファス金属粒子自体を塑性変形させてアモルファス金属粒子の充填率(占積率)を高めることが望ましい。
【0021】
アモルファス金属粒子は、結晶化温度(Tx)の手前近傍の温度領域で圧粉成形することで、塑性変形させられる可能性がある。例えば特許文献2では、金属ガラス合金の粉末(球状粒子)と結着剤と潤滑剤の混合物を所定の温度まで加熱して圧縮成形している。特許文献2によると、所定量の潤滑剤の添加によって潤滑剤無添加の場合に比して、圧粉磁心の密度が上昇するとされている。
【0022】
しかしながら、その密度を金属ガラス合金の占積率(相対密度)に換算すると80%未満と考えられ、金属ガラス合金の粉末粒子自体は塑性変形していないと考えられる(もしも金属ガラス合金の粉末粒子が十分に塑性変形した場合、相対密度が真球の理論充填率を大きく超えると考えられる)。言い換えると、特許文献2の結果は、圧粉磁心においてアモルファス金属粒子を塑性変形させることの難しさを示していると見ることができる。
【0023】
一方、圧粉磁心では、渦電流損低減のために圧粉成形する各粒子を電気絶縁する必要がある。そのため、アモルファス金属粒子の表面に粒子間の潤滑と電気絶縁とを兼ねる層を形成して、圧粉成形が行われる。
【0024】
一般的に、樹脂バインダ(例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂)は、薄い被膜でも潤滑性・電気絶縁性に優れ、アモルファス金属粒子以外の物の体積を最小化できる利点を有するが、耐熱性の観点から温間プレス温度が制約される弱点がある(言い換えると、温間プレス温度を十分に上げられないため、アモルファス金属粒子を塑性変形させることが困難である)。無機バインダ(例えば、酸化物粉末)は、耐熱性に優れることから温間プレス温度を十分に高められる利点を有するが、潤滑性・電気絶縁性を確保するためにある程度の厚さが必要となり、アモルファス金属粒子の占積率向上の観点で弱点がある。すなわち、従来技術では、すべての要件(占積率・潤滑性・電気絶縁性)を満たす解が見出されていなかった。
【0025】
そこで、本発明者らは、磁気特性に優れたFe基アモルファス金属粉末を利用した上で、圧粉磁心を従来よりも高密度化し、かつ圧粉成形後も粉末粒子間の電気絶縁を確保できる手段について鋭意検討を行った。その結果、Fe基アモルファス金属の結晶化温度Tx(K、ケルビン)と樹脂バインダの融点Tm(K)との関係Tm/Txが所定の値以上(Tm/Tx ≧0.70)となるようにFe基アモルファス金属と樹脂バインダとを選択し、温間プレス温度を制御することに一つの解を見出した。本発明は、該知見に基づくものである。
【0026】
前述したように、本発明に係る圧粉磁心は、Fe基アモルファス金属の粉末と樹脂バインダとを主体とし、温間成形してなる圧粉磁心であって、前記Fe基アモルファス金属の結晶化温度Tx(K)と前記樹脂バインダの融点Tm(K)との関係が「Tm/Tx ≧0.70」であり、前記Fe基アモルファス金属粉末は、前記温間成形において塑性変形されており、その占積率が80%超99%以下であることを特徴とする。圧粉成形するアモルファス金属粒子がほぼ真球であると仮定すると、圧粉成形体における占積率80%超は、アモルファス金属粒子の少なくとも一部に塑性変形が生じたものと考えることができる。なお、該占積率は、圧粉磁心の磁気特性および機械的特性の観点から82%以上がより好ましく、85%以上が更に好ましい。
【0027】
本発明は、上記の本発明に係る圧粉磁心において、次のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記Fe基アモルファス金属の結晶化温度Txが823 K以下であり、前記樹脂バインダの融点Tmが533 K以上である。
(ii)前記Fe基アモルファス金属は、Fe-Si-B(鉄−ケイ素−ホウ素)系アモルファス金属であり、前記樹脂バインダは、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドおよびポリアミド66のいずれかである。
【0028】
本発明の他の一態様によると、本発明に係るインダクタンス素子は、圧粉磁心を用いたインダクタンス素子であって、前記圧粉磁心の少なくとも一部が、上記の本発明に係る圧粉磁心であることを特徴とする。
【0029】
本発明は、上記の本発明に係るインダクタンス素子において、次のような改良や変更を加えることができる。
(iii)前記インダクタンス素子は、リアクトルまたはチョークコイルである。
【0030】
本発明の更に他の一態様によると、本発明に係る回転電機は、圧粉磁心を用いた回転電機であって、前記圧粉磁心の少なくとも一部が、上記の本発明に係る圧粉磁心であることを特徴とする。
【0031】
本発明は、上記の本発明に係る回転電機において、次のような改良や変更を加えることができる。
(iv)前記圧粉磁心は、ステータコアおよび/またはロータコアである。
【0032】
また、前述したように、本発明に係る圧粉磁心の製造方法は、Fe基アモルファス金属の粉末と樹脂バインダとを主体とする圧粉磁心の製造方法であって、前記Fe基アモルファス金属粉末の粒子表面上に前記樹脂バインダを被覆する樹脂被覆工程と、前記樹脂バインダが被覆された前記Fe基アモルファス金属粉末に対して所定の温度・圧力で成形体を形成する温間成形工程と、前記成形体における前記Fe基アモルファス金属粉末に蓄積した歪みを緩和する歪み緩和熱処理工程とを有し、前記Fe基アモルファス金属の結晶化温度Tx(K)と前記樹脂バインダの融点Tm(K)との関係が「Tm/Tx ≧0.70」であり、前記温間成形工程における前記所定の温度が前記結晶化温度の0.75超0.95以下であり、前記所定の圧力が500 MPa以上1000 MPa以下であり、前記成形体における前記Fe基アモルファス金属粉末の占積率が80%超99%以下であることを特徴とする。該占積率は、82%以上がより好ましく、85%以上が更に好ましい。
【0033】
本発明は、上記の本発明に係る圧粉磁心の製造方法において、次のような改良や変更を加えることができる。
(v)前記Fe基アモルファス金属は、Fe-Si-B系アモルファス金属であり、前記樹脂バインダは、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドおよびポリアミド66のいずれかである。
(vi)前記温間成形工程および/または前記歪み緩和熱処理工程における加熱がマイクロ波加熱によってなされる。
【0034】
以下、本発明に係る実施形態を製造手順に沿って詳細に説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されるものではなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
【0035】
(圧粉磁心およびその製造方法)
上述したように、本発明に係る圧粉磁心は、Fe基アモルファス金属の結晶化温度Tx(K)と樹脂バインダの融点Tm(K)との関係が「Tm/Tx ≧0.70」となるように、Fe基アモルファス金属および樹脂バインダを選択する。なお、本発明において、アモルファス金属は「金属ガラス」と表現されるアモルファス材料を含むものと定義する。
【0036】
一般に、Fe基アモルファス金属の結晶化温度Txは723〜1023 K程度(450〜750℃程度)の範囲にあり、塑性加工が可能となる軟化点はおよそ573〜873 K(およそ300〜600℃)の範囲である。軟化点は結晶化温度Txに依存し、結晶化温度Txの100〜130 K低い温度にある場合が多い。すなわち、結晶化温度Txの低いFe基アモルファス金属ほど、低温での塑性加工が可能となる。例えば、結晶化温度Txが723 KのFe基アモルファス金属では593〜623 K程度から塑性加工が可能となり、結晶化温度Txが1023 KのFe基アモルファス金属では893〜923 K程度から塑性加工が可能となる。
【0037】
Fe基アモルファス金属と樹脂バインダとの組合せが「Tm/Tx ≧0.70」の関係であると、圧粉磁心の成形加工温度において、樹脂バインダを熱劣化させることなしにFe基アモルファス金属粒子を塑性変形させることができる。その結果、優れた磁気特性と高い機械的強度とを有する圧粉磁心が得られる。Fe基アモルファス金属と樹脂バインダとの組合せが「Tm/Tx <0.70」の関係になると、Fe基アモルファス金属粒子の塑性変形と樹脂バインダの熱劣化防止とを両立させることが困難になる。なお、樹脂バインダの融点を勘案すると、「Tm/Tx」の上限は0.85程度と考えられる。
【0038】
圧粉磁心においてアモルファス金属粒子間を電気絶縁する樹脂バインダが熱劣化すると、圧粉磁心の渦電流損失が著しく増大するため、選択するFe基アモルファス金属は、できる限り低温で塑性変形可能な結晶化温度Txの低いアモルファス金属材料が好ましい。例えば、Fe基アモルファス金属の結晶化温度Txは、823 K以下が好ましく、743 K以下がより好ましい。そのようなFe基アモルファス金属として、Fe-Si-B系は優れた磁気特性(高い飽和磁束密度、高い透磁率、非常に低い鉄損)を示すことから特に好ましく、例えば、Fe-Si-B-Cr-Cアモルファス金属、Fe-Si-B-Coアモルファス金属、Fe-Si-B-Cu-Nbアモルファス金属を用いることができる。より具体的には、2605HB1(Metglas, Inc. 製、Tx=739 K)の破砕粉や同組成のアトマイズ粉末、2605SA1(Metglas, Inc.製、Tx=763 K)の破砕粉や同組成のアトマイズ粉末、あるいはKUAMET(登録商標、エプソンアトミックス株式会社、Tx=813 K)を好適に用いることができる。
【0039】
Fe基アモルファス金属の粉末粒径に特段の限定はないが、圧粉磁心用としては、平均粒径で10μm以上200μm以下が好ましい。
【0040】
選択する樹脂バインダは、圧粉磁心の成形加工温度で熱劣化しないように、高い耐熱性を有するものが好ましい。そのような樹脂バインダとしては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、Tm=613 K)、ポリフェニレンサルファイド(PPS、Tm=563 K)またはポリアミド66(PA66、Tm=538 K)を好適に用いることができる。特にPEEKは高耐熱性であり、かつ優れた摺動特性と機械的強度とを示すので好ましい。
【0041】
製造方法としては、まず、選択したFe基アモルファス金属の粉末と樹脂バインダとを混合し、Fe基アモルファス金属粉末の粒子表面上に樹脂バインダを被覆する樹脂被覆工程を行う。Fe基アモルファス金属粉末と樹脂バインダとの混合体積比率は、「85:15」〜「99:1」とすることが好ましい。樹脂バインダの体積比が15体積%超になると、Fe基アモルファス金属粒子の塑性変形が阻害され、圧粉磁心が十分に高密度化されず磁気特性の向上効果が得られない場合がある。樹脂バインダの体積比が1体積%未満だと、樹脂バインダが少な過ぎてアモルファス金属粒子間の電気絶縁が困難になる場合がある。
【0042】
混合・樹脂被覆方法に特段の限定はなく、公知の方法(例えば、機械的混合法)を用いることができる。
【0043】
次に、樹脂バインダが被覆されたFe基アモルファス金属粉末に対して所定の温度・圧力でホットプレスを行って成形体を形成する温間成形工程を行う。本発明の温間成形工程は、昇温前に加圧し、昇温・保持した後、除荷・冷却する工程からなる。
【0044】
成形温度Tは「0.75Tx<T≦0.95Tx」が好ましい。前述したように、アモルファス金属は、結晶化温度(Tx)の手前近傍の温度領域で応力付加することで、塑性変形させられる可能性がある。そこで、前述の2605HB1および2605SA1に対して、高温引張試験を行った。
【0045】
高温引張試験は、次のようにして行った。まず、あらかじめ用意したアモルファス金属リボン(厚さ0.025 mm)に対して放電加工を施し、ダンベル形状(平行部寸法50 mm×12.5 mm×0.025 mm)の試験片を切り出した。高温引張試験条件としては、万能試験機(株式会社島津製作所製)を用い、大気雰囲気中で目標温度を室温〜693 Kの範囲とし、目標温度到達後5 min以内に引っ張り(クロスヘッド速度5 mm/min)を開始した。
【0046】
高温引張試験の結果、各試験片は「0.75Tx」の温度辺りから塑性変形が開始した。この高温引張試験の結果から、Fe基アモルファス金属粒子は、成形温度Tが「T≦0.75Tx」の場合、塑性変形が困難であると考えられる。一方、成形温度Tが「0.95Tx<T」になると、一部のFe基アモルファス金属粒子が結晶化し始める場合がある。また、成形温度Tは、樹脂バインダの融点直下温度(例えば、Tm−10 K)以上で熱分解温度未満であることが好ましい。
【0047】
成形加工における加熱方法に特段の限定はなく公知の方法を利用できるが、300 MHz〜300 GHzの電磁波によるマイクロ波加熱によってなされることがより好ましい。アモルファス金属粒子は、主に粒子の表面領域で塑性変形する。マイクロ波加熱は、Fe基アモルファス金属の各粒子の表面領域を同時にかつ優先的に加熱することができるため、昇温時間の短縮(すなわち製造コストの低減)に貢献する。また、輻射加熱に比して、樹脂バインダの過熱(樹脂バインダへの過剰の入熱)を抑制することができる。
【0048】
成形圧力は500 MPa以上1000 MPa以下が好ましい。成形圧力が500 MPa未満だと、Fe基アモルファス金属粒子の塑性変形が不十分になる。成形圧力が1000 MPa超では、プレス成形装置と金型とのコストが増大する。
【0049】
温間成形工程時の雰囲気としては、非酸化性雰囲気(実質的に酸素が非常に少ない雰囲気、例えば、窒素中、アルゴン中)が好ましい。
【0050】
次に、成形体におけるFe基アモルファス金属粉末に蓄積した歪みを緩和する歪み緩和熱処理工程を行う。本工程の加熱方法にも特段の限定はなく公知の方法を利用できるが、上述と同様のマイクロ波加熱によってなされることがより好ましい。なお、歪み緩和熱処理工程の熱処理温度・時間は、Fe基アモルファス金属粒子が結晶化しない限り特段の限定はない。また、歪み緩和熱処理工程時の雰囲気としては、非酸化性雰囲気でもよいし大気中でもよい。
【0051】
以上の製造手順により、本発明に係る圧粉磁心が得られる。
【0052】
(インダクタンス素子・回転電機)
前述した本発明に係る圧粉磁心を利用することによって、従来よりも小型化・高効率化が可能なインダクタンス素子や回転電機を提供することができる。図1は、本発明に係るインダクタンス素子の一例(チョークコイル)を示す斜視模式図である。図2は、本発明に係るインダクタンス素子の他の一例(リアクトル)を示す斜視模式図である。
【0053】
図1に示したように、本発明に係るチョークコイル10は、本発明の圧粉磁心11に導体線12を巻き付けたものであり、導体線12の両端には、端子13が形成されている。圧粉磁心11は、環状(いわゆるレーストラック状)の連続体になっており、その断面形状は角形でもよいし円形でもよい。チョークコイル10は、例えば、家電機器などの昇圧回路として用いられる。
【0054】
図2に示したように、本発明に係るリアクトル20は、本発明の圧粉磁心21に導体線12を巻き付けたものであり、導体線12の両端には、端子13が形成されている。圧粉磁心21は環形状を有しているが、2個のストレート部材22と2個のU字部材23とが連結された構造となっている。部材の連結・固定は、接着剤(例えば、樹脂系接着剤)で行ってもよいし、機械的治具(例えば、バンド)で行ってもよい。リアクトル20は、例えば、ハイブリッド自動車や太陽光発電の昇圧回路として用いられる。
【0055】
圧粉磁心21は、全体(ストレート部材22およびU字部材23)に本発明の圧粉磁心を用いてもよいし、透磁率を調整するためにストレート部材22に本発明の圧粉磁心を用い、U字部材23に従来の圧粉磁心(例えば、Fe-Si系圧粉磁心、Fe-Al-Si系圧粉磁心)を用いてもよい。言い換えると、本発明に係るインダクタンス素子は、その一部に本発明の圧粉磁心を用いていればよい。
【0056】
また、回転電機(例えば、モータ)においては、ステータやロータの鉄心の磁気特性が回転電機の効率に大きな影響を及ぼすことが知られている。本発明に係る圧粉磁心は、優れた磁気特性と高い機械的強度とを有することから、所望形状のステータコアやロータコアに成形することができる。すなわち、回転電機のステータコアやロータコアとして本発明の圧粉磁心を用いることで、回転電機の小型化・高効率化が可能となる。
【実施例】
【0057】
以下に具体的な実施例を示して、本発明の内容を更に詳細に説明する。ただし、以下の実施例は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
[実験1]
(圧粉磁心の作製)
Fe基アモルファス金属の粉末として、Metglas, Inc. 製の2605HB1アモルファスリボン相当の組成を有し水アトマイズ法で作製したFe-Si-B系アモルファス金属粉末(結晶化温度Tx=739 K)を用意した。該アモルファス金属粉末をふるいにより分級し、粒径100μm以下の粉末を実験に供した。次に、樹脂バインダとしてポリエーテルエーテルケトン(PEEK、融点Tm=613 K)を用意し、10体積%となるようにアモルファス金属粉末に加え、ラボプラストミル装置(ブラベンダー社製、型式:W50EHT)で混練を行った。得られた混練粉(混練によって凝集している)を乳鉢で解砕し、平均サイズ0.5 mm以下の粒とした。
【0059】
該解砕粒1.5 gを超硬製の金型(外径13 mm、内径8 mm)に入れ、ホットプレス装置(株式会社東京真空製、型式:GP-2300)により温間成形工程を行った。温間成形工程における時間-温度チャートおよび時間-成形圧力チャートを図3A図3Bに示す。図3A図3Bに示したように、成形圧力は800 MPaとして昇温前に負荷し、所定の成形温度まで60分間で昇温し、昇温後に20分間保持したのち直ちに除荷した。成形温度は533〜693 Kとし、雰囲気は窒素ガスとした。
【0060】
得られた成形体(外径13 mm、内径8 mm、厚さ3 mmの円環ペレット)に対し、歪み緩和熱処理工程(大気中673 Kで1時間保持)を行い、圧粉磁心を得た。また、比較試料として市販のFe基アモルファス金属圧粉磁心を用意した。
【0061】
(圧粉磁心の特性評価)
(1)Fe基アモルファス金属の占積率の評価
作製した圧粉磁心の断面組織を走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社日立製作所製、型式:S-2380N)で観察し、Fe基アモルファス金属の占積率を算出した。Fe基アモルファス金属の占積率の算出には、以下の式を用いた。結果を後述する表1に示す。
「Fe基アモルファス金属の占積率(%)=(視野に占めるFe基アモルファス金属の面積)/(視野の面積)×100」
なお、「視野の面積」は、顕微鏡(例えば、走査型電子顕微鏡や光学顕微鏡)の1視野の観察像の全面積であり、Fe基アモルファス金属の粒子が100〜300個程度含まれる面積(拡大倍率としては200〜500倍程度)に調整されることが望ましい。また、「Fe基アモルファス金属の面積」は、例えば、当該観察像を画像解析することにより求めることができる。
【0062】
図4Aは、使用したFe基アモルファス金属粉末(温間成形前)を示すSEM観察像であり、図4Bは、作製した圧粉磁心の断面組織の一例を示すSEM観察像である。図4Aに示したように、温間成形前のFe基アモルファス金属粉末は、個々の粒子がいわゆる球状粒子(真球に限定されず、いびつな楕円体なども含む。表面の大部分が外に凸の曲面で構成されている粒子)であることが判る。これに対し、図4Bに示したように、本発明に係る圧粉磁心(例えば、Fe基アモルファス金属の占積率が85%以上)では、元々球状であったアモルファス金属粒子が塑性変形されている様子(略一定厚さの樹脂バインダを介して、隣り合う2つの金属粒子の界面が平行になっている領域が存在する様子)が明確に観察された。また、圧粉磁心には、空隙の残存が観察された。
【0063】
SEM観察によるアモルファス金属粒子の塑性変形の有無を後述する表1に併記する。なお、塑性変形が生じていると観察され、アモルファス金属粒子の占積率が80%超の試料に対して「有」と表記し、観察した範囲では塑性変形が認められなかった試料に対しては「無」と表記した。
【0064】
(2)機械的強度の評価
作製した圧粉磁心の機械的強度を評価した。本発明では、機械的強度の指標として圧環強さを測定した。圧環強さの測定は、焼結軸受−圧環強さ試験法(JIS Z 2507)に準じて行った。圧環強さは「K=F(D-e)/(L・e2)」で与えられる。Kは圧環強さ(単位:MPa)、Fは破壊した時の最大荷重(単位:N)、Lは円環ペレットの厚さ(単位:mm)、Dは円環ペレットの外径(単位:mm)、eは円環ペレットの外径/内径差(単位:mm)である。結果を後述する表1に併記する。
【0065】
(3)磁気特性の評価
作製した圧粉磁心の磁気特性を評価した。本実験では、磁気特性の指標として、一定の外部磁場を印加したときの磁束密度を測定した。磁束密度の測定は、試料振動型磁力計(VSM)を用いて行い、印加磁界10000 Oe(約795800 A/m)における磁束密度を「B100」(単位:T)と表した。結果を後述する表1に併記する。
【0066】
【表1】
【0067】
図5は、実験1の圧粉磁心におけるFe基アモルファス金属の占積率と成形温度との関係を示すグラフである。図5、表1に示したように、Fe基アモルファス金属粉末の占積率は、成形温度の上昇に伴って増大し、約563 K以上の成形温度において望まれる高密度化(占積率80%超)が得られ、約603 K以上の成形温度において更に望まれる高密度化(占積率85%以上)が得られることが確認された。また、該占積率は、PEEKの融点である613 Kで最大となり、該融点を超えると僅かに減少するものの成形温度693 Kまで略一定の値が得られた。
【0068】
従来のアモルファス金属圧粉磁心(市販品)は、占積率が約70%であり、圧環強度が10〜20 MPa程度であり、磁束密度(B100)が0.4 T程度であり、鉄損(W1/10k)が100 kW/m3程度であった。なお、鉄損については後述する。
【0069】
市販品の圧粉磁心に対し、表1に示したように、2605HB1相当組成の水アトマイズ粉末とPEEKとを用いてアモルファス金属粉末の塑性変形が認められ占積率80%超の圧粉磁心(本発明の実施例に相当)は、当該市販品の圧粉磁心に比して圧環強度が約2.5倍以上に向上し、磁束密度(B100)が約1.5倍以上に向上することが実証された。なお、アモルファス金属粉末の塑性変形が確認できなかった試料(本発明での比較例に相当)は、市販品の特性よりは高いが、その度合が小さく期待されるレベルには到達していなかった。
【0070】
[実験2]
(圧粉磁心の作製)
Fe基アモルファス金属の粉末として、2605HB1アモルファスリボン相当の組成を有し水アトマイズ法で作製したFe-Si-B系アモルファス金属粉末(結晶化温度Tx=739 K)及びKUAMET(登録商標、エプソンアトミックス株式会社製、結晶化温度Tx=813 K)を用意した。該アモルファス金属粉末をふるいにより分級し、粒径100μm以下の粉末を実験に供した。樹脂バインダとして、PEEK(融点Tm=613 K)、ポリフェニレンサルファイド(PPS、融点Tm=563 K)及びポリアミド66(PA66、融点Tm=538 K)を用意した。それら以外は実験1と同様にして圧粉磁心を作製した。
【0071】
なお、Fe基アモルファス金属として2605HB1相当組成の水アトマイズ粉末を用いたものは成形温度を613〜693 Kとし、圧粉成形後の歪み緩和熱処理は大気中673 Kで1時間保持とした。Fe基アモルファス金属としてKUAMET(登録商標)を用いたものは成形温度を693〜773 Kとし、圧粉成形後の歪み緩和熱処理は大気中698 Kで3時間保持とした。圧粉磁心の諸元を後述する表2に示す。
【0072】
(圧粉磁心の特性評価)
作製した実験2の圧粉磁心に対して、実験1と同様に、Fe基アモルファス金属の占積率の評価および機械的強度の評価を行った。磁気特性の評価については、本実験では鉄損を測定した。鉄損の測定は、B-Hアナライザ(岩通計測株式会社製)を用いて行い、0.1 T中、10 kHzにおける鉄損を「W1/10k」(単位:kW/m3)と表した。結果を表2に併記する。
【0073】
また、総合評価として、「占積率80%超」、「圧環強さ20 MPa超」および「鉄損100 kW/m3未満」のすべてを満たしたものを「合格」と評価し、すべてを満たせなかったものを「不合格」と評価した。結果を表2に併記する。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示したように、実験2の温間成形条件は、いずれも「T/Tx ≧0.75」であったことから、すべての試料においてFe基アモルファス金属の占積率が80%超となった。Tm/Txが本発明で規定する範囲内(Tm/Tx ≧0.70)である場合には、樹脂バインダを熱劣化させることなしにFe基アモルファス金属粒子を塑性変形させることができるため、市販品の圧粉磁心よりも優れた磁気特性と高い機械的強度とを有する圧粉磁心が得られ、総合評価が「合格」となった(すなわち、本発明の実施例に相当)。一方、Tm/Txが本発明で規定する範囲外であるものは、樹脂バインダが熱劣化し始めることから、機械的強度および/または磁気特性が市販品の圧粉磁心のそれらと同等以下となり、総合評価が「不合格」となった(すなわち、本発明での比較例に相当)。
【0076】
なお、KUAMET(登録商標)における成形温度T=773 Kは「T/Tx=773/813=0.9507…」であり、小数点以下第3位を四捨五入すると「T/Tx=0.95」と見なすことができる。また、樹脂バインダはFe基アモルファス金属よりも高い(約1桁高い)熱膨張係数を有することから、成形温度の上昇と共にFe基アモルファス金属の占積率が低下する傾向が見られた。
【0077】
より詳細に見ると、Fe基アモルファス金属として2605HB1相当組成の水アトマイズ粉末を用いた場合、いずれの樹脂バインダでも市販品の圧粉磁心よりも優れた磁気特性と高い機械的強度とが得られることが確認された。
【0078】
Fe基アモルファス金属としてKUAMET(登録商標)を用いた場合、樹脂バインダとしてPEEKを用いれば、市販品の圧粉磁心よりも優れた磁気特性と高い機械的強度とが得られることが確認された。これは、PEEKの高い耐熱性(PEEKの熱分解温度は約773 K)が寄与していると考えられた。なお、PEEKを用い成形温度が773 K の試料は、熱分解温度に近いため、他の実施例に比して圧環強さが低下し鉄損が増大する傾向が見られた。
【0079】
一方、Fe基アモルファス金属としてKUAMET(登録商標)を用い、樹脂バインダとしてPPSまたはPA66を用いた試料は、機械的強度および/または磁気特性が市販品の圧粉磁心のそれらと同等以下となった。これは、PPSおよびPA66はPEEKよりも耐熱性が低いことから、樹脂バインダの熱劣化に起因すると考えられた。なお、樹脂バインダの熱分解に伴って樹脂バインダの体積が減少することから、これらの試料では、成形温度の上昇と共にFe基アモルファス金属の占積率が上昇する傾向が見られた。
【0080】
[実験3]
(圧粉磁心の作製)
Fe基アモルファス金属粉末の粒度分布が二峰分布となるように、2605HB1アモルファスリボンの粉砕粉末(平均粒径100μm、75質量%)とAW2-08(エプソンアトミックス株式会社製、結晶化温度Tx=813 K、平均粒径6μm、25質量%)とを混合した。樹脂バインダとしてPEEKを用い0.5〜16体積%となるように、該混合粉末に添加した。温間成形工程における成形温度は673 Kとした。それら以外は実験1と同様にして圧粉磁心を作製した。
【0081】
なお、2605HB1の粉砕粉末は、2605HB1アモルファスリボン(厚さ25μm)を粉砕したものであり、その平均粒径は、粉砕粉末を電子顕微鏡観察したときの長手方向長さの平均値である。また、本発明においては、複数のアモルファス金属粉末を混合した場合、混合したアモルファス金属粉末の内の最も低い結晶化温度を、その混合粉末の結晶化温度Txとする。同様に、複数の樹脂バインダを混合した場合、混合した樹脂バインダの内の最も低い融点を、その混合バインダの融点Tmとする。
【0082】
すなわち、実験3においては、「Tm/Tx =0.83」および「T/Tx=0.91」となる。作製した圧粉磁心のその他の諸元を後述する表3に示す。
【0083】
(圧粉磁心の特性評価)
作製した実験3の圧粉磁心に対して、実施例1と同様に、Fe基アモルファス金属の占積率の評価および機械的強度の評価を行った。磁気特性の評価については、本実験では磁束密度評価および鉄損評価の両方を行った。結果を表3に併記する。
【0084】
【表3】
【0085】
表3に示したように、粒度の異なるアモルファス金属粉末を混合し樹脂バインダを1〜15体積%の範囲で混合すると、実験1において成形温度を673 Kとした場合と比較して占積率をより高められることが確認された(すなわち、本発明の実施例に相当)。この結果から、結晶化温度が異なる複数種のFe基アモルファス金属の粉末を混合した場合であっても、最も結晶化温度が低いFe基アモルファス金属が塑性変形することで高密度化が可能であることが判った。
【0086】
より詳細に見ると、PEEKの添加量が16体積%の場合は、鉄損は低いもののFe基アモルファス金属の占積率が80%以下になり、その結果、磁束密度が大きく低下した(本発明での比較例に相当)。一方、PEEKの添加量が0.5体積%の場合は、Fe基アモルファス金属の占積率が高く、圧環強度と磁束密度も高いが、鉄損が大きく上昇した(本発明での比較例に相当)。これは、樹脂バインダの添加量が少な過ぎてアモルファス金属粒子間の電気絶縁を十分確保することができず、渦電流損が増大したためと考えられた。
【0087】
[実験4]
本実験では、温間成形工程後の歪み緩和熱処理の方法として、マイクロ波加熱を利用した実験・評価を行った。加熱装置には2.45 GHzのシングルモード炉を用い、磁場中で圧粉磁心の加熱を行った。マイクロ波の初期出力は0.7 kWとし、 Fe基アモルファス金属として2605HB1相当組成の水アトマイズ粉末を用いた圧粉磁心の目標温度は673 K、KUAMET(登録商標)を用いた圧粉磁心の目標温度は698 Kとした。保持時間は20分間とした。温度の測定は、放射温度計(株式会社チノー社製、型式:IR-CAI)を用いて行った。
【0088】
実験の結果、いずれの試料においてもマイクロ波照射と同時に20〜30℃/sの急速加熱が可能であった。さらに、マイクロ波加熱による熱処理では20分間保持でも、輻射加熱で1〜3時間保持した場合と同様に鉄損を下げることができた。すなわち、マイクロ波を加熱源とした熱処理は従来の輻射加熱に比して、処理時間を1/3以下に短縮できることが確認された。
【0089】
なお、上記した実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0090】
10…チョークコイル、11…圧粉磁心、12…導体線、13…端子、
20…リアクトル、21…圧粉磁心、22…ストレート部材、23…U字部材。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5