(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429139
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】木質系磁性成形材
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20181119BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20181119BHJP
B27N 3/02 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
H05K9/00 W
B32B27/18 H
B27N3/02 C
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-184349(P2013-184349)
(22)【出願日】2013年9月5日
(65)【公開番号】特開2015-53338(P2015-53338A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年8月31日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 配布日:平成25年3月8日 刊行物:第63回日本木材学会大会研究発表要旨集 CD−ROM版
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514304603
【氏名又は名称】エア・ウォーター・エコロッカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】三浦 健司
(72)【発明者】
【氏名】関野 登
(72)【発明者】
【氏名】岡 英夫
(72)【発明者】
【氏名】大友 祐晋
(72)【発明者】
【氏名】小林 正彦
(72)【発明者】
【氏名】木口 実
【審査官】
久松 和之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−187671(JP,A)
【文献】
特開2005−28756(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/076783(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B27N 3/02
B32B 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木粉を含まず、樹脂、磁性粉、相溶化剤と滑剤を含有する混練物の成形材を内面層とし、この内面層の表面に、木粉、樹脂、磁性粉、相溶化剤と滑剤を含有する混練物の成形材が表面層として積層されており、前記表面層における前記木粉の配合量が成形前の各材料の前記混練物の総重量の10質量%〜60質量%、前記樹脂の配合量が総体積の20%(vоl%)〜60%(vоl%)、前記磁性粉の配合量が前記混練物の総重量の5質量%〜70質量%、前記相溶化剤の添加量が前記混練物の総重量に対して0.5質量%〜1.0質量%であり、前記滑剤の添加量が前記混練物の総重量に対して0.5質量%〜1.0質量%であり、積層後の板厚が4〜15mmであって、1GHz〜8GHz帯域内で40dB以上の電波吸収性能を有することを特徴とする木質系磁性成形材。
【請求項2】
請求項1に記載の木質系磁性成形材が、相対湿度90%においてEMCが6%以下であることを特徴とする請求項1に記載の木質系磁性成形材。
【請求項3】
前記相溶化材が、無水マレイン酸編成ポリプロピレンであることを特徴とする請求項1または2に記載の木質系磁性成形材。
【請求項4】
前記滑剤として、低分子量ポリエチレンおよびステアリン酸カルシウムを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の木質系磁性成形材。
【請求項5】
前記樹脂が再生ポリプロピレン樹脂、フェノール樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の木質系磁性成形材。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
近年、スマートフォン等小型情報端末が急激に普及する中で、公共空間での無線LANアクセスポイント乱立が顕著であり、乱立したアクセスポイント間での電波輻輳によるインターネットへのつながりにくさが問題化している。
【0002】
このような問題に対して、従来より、ケイ酸カルシウム板やモルタル板等の窯業系材料を用いた電波吸収機能を有する建材を設置することによって、外部からの電波伝搬を所望の箇所で防ぎ、最適な無線カバーエリアを構築することが提案されている(非特許文献1)。
【0003】
一方、建材に対する最近のニーズとして、木質材の優しい素材感と自然感が求められている。このため、周囲と違和感のない木質感を備えた内装用電波吸収体の開発が求められている。このような内装用電波吸収体に利用可能である、高付加価値化した木質材の開発例として、磁性を木材に付与した磁性木材が提案されている(特許文献1)。これは、磁性体が有する磁気吸着効果に加えて、磁気損失によるGHz帯電波吸収効果が付加された複合材である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】木村健一ほか、電子情報通信学会論文誌B Vol.J88-B、 No.6. p.1130-1138(2005)
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3135829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、磁性木材を用いた電波吸収体の問題点として、高湿度環境下での含水率の増加による磁性の低下や電波吸収特性の劣化が起こることが指摘されており、木質感を生かしながら高湿度条件下での磁性の低下や電波吸収特性の劣化を抑制することは必ずしも容易ではない。
【0007】
また、従来の磁性木材を用いた電波吸収体は、無線LANに用いられている2.4GHz帯域または5GHz帯域のように単一の周波数帯域のみを対象としたものが多い。
【0008】
そこで、本発明は、高湿度条件下であっても磁性の低下や電波吸収特性が劣化することがなく、広い周波数帯域の電波に対する電波吸収特性を備えた木質系磁性成形材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものとして、以下のことを特徴としている。
【0010】
すなわち、本発明は、木質系磁性成形材であって、
木粉を含まず、樹脂、磁性粉、相溶化剤と滑剤を含有する混練物の成形材を内面層とし、この内面層の表面に、木粉、樹脂、磁性粉、相溶化剤と滑剤を含有する混練物の成形材
が表面層として積層されており、前記表面層における前記木粉の配合量が成形前の各材料の前記混練物の総重量の10質量%〜60質量%、前記樹脂の配合量が総体積の20%(vоl%)〜60%(vоl%)、前記磁性粉の配合量が前記混練物の総重量の5質量%〜70質量%、前記相溶化剤の添加量が前記混練物の総重量に対して0.5質量%〜1.0質量%であり、前記滑剤の添加量が前記混練物の総重量に対して0.5質量%〜1.0質量%であり、
積層後の板厚が4〜15mmであって、1GHz〜8GHz帯域内で40
dB以上の電波吸収性能を有することを特徴とする。
本発明の木質系磁性成形材では、前記木質系磁性成形材が、相対湿度90%においてEMCが6%以下であることが好ましく考慮される。
【0011】
相溶化剤は、無水マレイン酸変性ポリプロピレンであることが好ましい。
【0012】
滑剤としては、低分子量ポリエチレンおよびステアリン酸カルシウムを含むことが好ましい。
【0013】
また、樹脂は、再生ポリプロピレン樹脂、フェノール樹脂のいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高湿度条件下であっても磁性の低下や電波吸収特性が劣化することがなく、広い周波数帯域の電波に対する電波吸収特性を備えた木質系磁性成形材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】磁性粉の配合量の異なる木質系磁性成形材のブリネル硬さ試験の結果を示したグラフである。
【
図2】磁性粉の配合量の異なる木質系磁性成形材の曲げ強度試験における破壊係数(MOR)を示したグラフである。
【
図3】磁性粉の配合量の異なる木質系磁性成形材の曲げ強度試験における曲げヤング係数(MOE)を示したグラフである。
【
図4】磁性粉の配合量の異なる木質系磁性成形材の曲げ強度試験における比例限度応力を示したグラフである。
【
図5】磁性粉の配合量の異なる木質系磁性成形材の吸脱湿過程における平行含水率(EMC)を示したグラフである。
【
図6】二層構造の木質系磁性成形材において、各層厚さに対する最大反射減衰量 のカラーマップである。
【
図7】二層構造の木質系磁性成形材において、各層厚さに対する反射減衰量の周波数特性の変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の木質系磁性成形材は、木粉、樹脂、磁性粉、相溶化剤と滑剤を含有する成形体である。一般に、木粉と樹脂を含有する成形体は、木材・プラスチック複合材(Wood plastic composites, WPC)と呼称されている。WPCは、木材と比較して、耐久性、耐候性が高く、乾燥による収縮が少ない、成形性が高い等のメリットを有している。
【0019】
本発明の木質系磁性成形材では、木粉、樹脂に加え、磁性粉、相溶化剤と滑剤を所定の割合で配合し、攪拌機等により混練して混練物を調製する。
【0020】
木粉の配合量は、成形前の各材料の混練物の総重量の10質量%〜60質量%の範囲内であることが好ましい。木粉の添加量が増加するほど、得られる木質系磁性成形材の木質感は向上し、また、従来の電波吸収体と比較して軽量でありながら、充分な電波吸収能を発揮することが可能である。
【0021】
木粉としては、例えば、カツラ、トウヒ、ラワン等の木材由来のものが例示される。これらの木粉は、単独または2種類以上の併用が可能である。木粉の選択は、木質系磁性成形材の施工場所等に応じて適宜選択することができる。
【0022】
磁性粉の配合量は、成形前の各材料の混練物の総重量の5質量%〜70質量%の範囲内であることが好ましい。
【0023】
磁性粉としては、例えば、センダスト、ニッケル、純鉄、モリブデンパーマロイ、フェライト、Mn−Znフェライト等が例示される。これらの磁性粉は、単独または2種類以上の併用が可能である。磁性粉の選択は、所望の磁性や電波吸収特性等を考慮することができる。特に、Mn−Znフェライトを用いることが好ましい。磁性粉は、粉体表面を酸化防止処理を施したものであってもよい。
【0024】
相溶化剤の添加量は、成形前の各材料の混練物の総重量に対して0.5質量%〜1.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0025】
相溶化剤としては、例えば、スチレンブタジエンゴム、無水マレイン化変性ポリオレフィン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等が例示される。これらの相溶化剤は、単独または2種類以上の併用が可能である。特に、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0026】
滑剤の添加量は、成形前の各材料の混練物の総重量に対して0.5質量%〜1.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0027】
滑剤としては、例えば、低分子量ポリエチレンおよびステアリン酸カルシウムを含むことが好ましい。滑剤を添加することにより、各材料の混練物中における磁性粉の分散性、流動性が高まり、得られる木質系磁性成形材の電波吸収能の向上が可能となる。
【0028】
樹脂の配合量は、成形前の各材料の混練物の総体積の20質量%〜60質量%の範囲内であることが好ましい。
【0029】
樹脂の種類は、液状の熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。例えば、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、TDI(トリレンジイソシアネート)、MDIプレポリマー、TDIプレポリマー等よりなるイソシアネート樹脂等が例示される。また、ポリプロピレン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ユリア・メラミン共縮合樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フルフラール樹脂等が例示される。特に、再生ポリプロピレン樹脂またはフェノール樹脂のいずれかであることが好ましい。これらの樹脂は、単独または2種類以上の併用が可能である。樹脂の選択には、木質系磁性成形材の耐水性や、シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドの放出量等を考慮することができる。また、樹脂には、必要に応じて、含量やサイズ剤等を添加することができる。木質系磁性成形材に、このような樹脂を混練することによって、木質系磁性成形材の強度を向上させ、また、耐水性の向上を通じて、高湿度条件下においても磁性および電波吸収能の低下を抑制することができる。
【0030】
これらの各材料を所定の割合で配合し、攪拌機等により混練して混練物を調製する。
【0031】
木粉、樹脂、磁性粉、相溶化剤と滑剤の混練は、100℃〜250℃の範囲内で加熱しながら行うことが好ましい。また、混練時間は、1分〜30分の範囲内であることが好ましい。混練方法は、市販の混練機や攪拌装置を適宜選択することができる。後述の実施例においては、ラボプラストミルを用いている。
【0032】
木質系磁性成形材を作製する際には、各材料の混練物を所望の形状の金型等に注型し、熱圧締して、樹脂を硬化させる。熱圧締による成形では、例えば、加熱した一対のスチールベルトの隙間に、圧力を加えながら積層体を搬送させる連続プレス装置や、加熱した複数の熱盤間に混練物を挟んで加圧する多段プレス装置等を用いることができる。成形条件は、特に限定されるものではなく、例えば、成形温度80℃〜220℃、成形圧力0.5MPa〜4MPaの範囲が例示される。成形時間は、板厚や成形温度等を考慮して適宜設定することができる。
【0033】
硬化後の木質系磁性成形材の板厚としては、例えば、4mm〜15mmの範囲内が例示される。
【0034】
また、木質系磁性成形材は、板厚および磁性粉の含有量の異なる木質系磁性成形材を二層以上積層して成形することができる。
【0035】
本発明の木質系磁性成形材においては、木質感と電波吸収能の両立を目的としているため、表面層には、木粉の含有量の高い木質系磁性成形材を用いることが好ましく、内面層には、磁性粉の含有量の高い木質系磁性成形材を用いることが好ましい。
【0036】
二層以上の多層構成からなる木質系磁性成形材を作製する際には、磁性粉の含有量が異なる混練物を、内面層用の混練物、表面層用の混練物の順に2層に積層し、積層体を熱圧締して、樹脂剤を硬化させる。熱圧締の条件は、単層構造の木質系磁性成形材と同様の温度・圧力条件から適宜設定することができる。また、内面層には、木粉を含有していない樹脂成形体など非木質系磁性体を用いても構わない。
【0037】
積層後の木質系磁性成形材の板厚としては、例えば、4mm〜15mmの範囲内が例示される。特に、本発明は、従来品である石膏スペーサを用いた電波吸収体が2.4GHz帯域の電波吸収能を発揮するために厚さ30mmを必要とするのに対し、厚さ10mmで同等の性能を発揮する。このため、本発明の木質系磁性成形材は、内装材として施工された際、居住空間が狭くなるのを防ぐことができる。また、積層成形された木質系磁性成形材は、1GHz〜8GHz帯域内で40
dB以上の電波吸収性能を有することができる。
【0038】
以下、実施例を示し、さらに詳しく説明する。
【0039】
もちろん、本発明は以下の例に限定されることはない。
【実施例】
【0040】
<木質系磁性成形材の製造>
木粉、再生ポリプロピレン、Mn−Znフェライト磁性粉(直径45〜75μm)を表1に示す体積割合で混合し、さらに相溶化剤(0.5質量%〜1.0質量%)、顔料(0.5質量%)、滑剤(0.5質量%)を加えて、ラボプラストミル(東洋精機製)を用いて混練温度180℃で5分間混練することで、3種類のコンパウンドを300gずつ作製した。M0は、木粉を81vol%(47.52質量%)、再生ポリプロピレンを19vol%(44.45質量%)を含有し、磁性粉を含有していない。M2は、木粉を76vol%(37.44質量%)、再生ポリプロピレンを22vol%(44.33質量%)、磁性粉を2vol%(9.85質量%)含有している。M5は、木粉を64vol%(23.65質量%)、再生ポリプロピレンを30vol%(44.33質量%)、磁性粉を5vol%(23.65質量%)含有している。これらを5mm厚に熱圧締して平板型試料に成形した。平板型試料から、幅20mm、長さ60mm以上で切り出したものを力学強度特性の評価用試験片とした。
【0041】
【表1】
<力学強度特性の評価>
各試料における力学強度特性として、表面硬さ試験と曲げ強度試験を行った。表面硬さ試験として、圧子直径10mmの金属球を用いるブリネル硬さ試験を行った。その際、圧入深さを各試験片で1/π(=0.32)mm一定とし、そのときの荷重からブリネル硬さを算出した。
図1に各試料のブリネル硬さを示す。図中において、エラーバーは各試験片で9点ずつ測定した際のばらつきを示したものである。表面硬さは磁性粉割合が高いほど硬くなることが認められた。
【0042】
次に曲げ強度試験の結果を示す。
図2に各試料の破壊係数(MOR)を示す。木質系磁性成形材(M2、M5)のMORは磁性粉を含有していないM0に対し、±10%の範囲に収まっており、有意な差は認められなかった。すなわち、木粉割合の低下や磁性粉混入による影響は、MORには現れなかった。
図3、4には曲げヤング係数(MOE)と比例限度応力を示す。木粉を減らす、あるいは混入しないと剛性は上がり、変形しにくいが、許容できる応力は若干低下することが明らかとなった。
<吸脱湿過程における平衡含水率(Equilibrium moisture content, EMC)の測定>
スギチップを対照区として、各試料のEMC測定を行った。製造後の気乾状態試料を米粒程度に破砕して約3gを秤量ビンに入れたものを1試験体とし、各試料において6試験体用意した。これらを、85、75、62、53、43、33%の各相対湿度に調湿された6つの飽和塩入りデシケータに分配して調湿を行った。なお、デシケータは20℃の恒温下に設置した。すべての試験体を相対湿度95%から各湿度に脱湿させるために、4週間程度調湿した後、平衡重量の測定を行った。また、すべての試験体を105℃で全乾操作し、上記6条件の相対湿度に再び4週間程度調湿することで吸湿過程でのEMCを算出した。
【0043】
吸脱湿過程におけるEMCの測定結果を
図5に示す。スギチップと同様に、木質系磁性成形材においても吸脱着ヒステリシスが認められた。ここで、木質系磁性成形材では、中湿度域から高湿度域(概ね80%RH以上)に向かう際の水分収着量の増加が、スギチップに比べて小さかった。この理由として木質系磁性成形材製造時に180℃程度の熱履歴を受け、これが吸湿性低下を招いたと考えられる。また、スギチップに対する平衡収着量(吸脱両過程での平均値)の比を求めると、M0、M2ともに34%程度、M5で18%となった。この比は木粉含有量を考慮した複合則から見た場合、若干の低めの値であり、熱履歴の影響が作用したと考えられる。この効果もあり、最も高いEMCを示すM0においても相対湿度90%においてEMCが6%にとどまる結果が得られた。これは、従来品であるモルタル等の窯業系材料の含水率と比較して半分程度の値であり、高湿度条件下でも電波吸収特性が変化しないものと期待される。
<電波吸収特性の評価>
二層構造としたときの電波吸収特性について試験を行った。ここでは、木質感があるM5を表面層とし、下層には木粉を含有せず、樹脂として再生ポリプロピレンを60vol%(31.58質量%)、磁性粉を40vol%(62.46質量%)含有するM40により電波吸収層としての役割を担わせる構造を検討した。磁性材料の反射減衰量RLは、電波吸収体の入力インピーダンスから算出される反射係数Γを用い、RL=−20log
10Γ(dB)として求められる。
図6には、層1厚d
1、層2厚d
2に対する最大反射減衰量RL
MAXのカラーマップを示す。同図において、RL
MAXが10、20、30dBの等高線を実線で併せて示す。同図において、d
1とd
2の和が約10mm以下の領域に着目すると、半円弧状にRL
MAXが40dBを超える領域が存在することがわかる。これは、両層の適切な膜厚の組み合わせにより、整合しほぼ無反射(Γ≒0)となることを意味する。ここで同図に示すように、上述の無反射を満たす領域2について、反射減衰量の周波数特性を示したのが
図7である。M5とM40の二層構造のときは、各層厚さを調整することにより、整合周波数を1.7〜8GHzまで制御可能であることが明らかになった。この周波数範囲は無線LAN規格である2.45GHz帯、5GHz帯を包含する範囲である。このことから、表面層で木質感を有し、内部の層で主に電波吸収を行う二層構造とすることにより、混練型磁性WPCは無線LAN等の高速通信用電波の吸収体材料として有効であることが明らかになった。