(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429325
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】ブリルアン散乱測定装置及びブリルアン散乱測定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 11/00 20060101AFI20181119BHJP
G01M 11/02 20060101ALI20181119BHJP
G01D 5/353 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
G01M11/00 Q
G01M11/02 J
G01D5/353 B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-115411(P2015-115411)
(22)【出願日】2015年6月8日
(65)【公開番号】特開2017-3339(P2017-3339A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2017年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】岡本 圭司
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 哲也
(72)【発明者】
【氏名】戸毛 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】岡本 達也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 央
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文彦
【審査官】
横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0263069(US,A1)
【文献】
特開平02−251729(JP,A)
【文献】
特開2009−198300(JP,A)
【文献】
特開2008−020226(JP,A)
【文献】
特開2010−216877(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/165587(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/061718(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00−11/08
G01D 5/353
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定光ファイバで後方散乱光を発生させる第1の光パルスの後に、前記被測定光ファイバにおける前記第1の光パルスのブリルアン後方散乱光をブリルアン増幅するための第2の光パルスが続く光パルス列を生成する光パルス発生部と、
前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの周波数差を前記被測定光ファイバのブリルアン利得スペクトルの周波数幅以上に変動させる光周波数変調部と、
前記光パルス列を前記被測定光ファイバへと入射するとともに、前記被測定光ファイバにおける前記光パルス列の後方散乱光を分離する光サーキュレータと、
前記光サーキュレータで分離された後方散乱光の波形を用いて、前記被測定光ファイバにおけるブリルアン散乱を測定する演算処理部と、
を備え、
前記光パルス発生部は、さらに、前記第1の光パルスのみを生成し、
前記光サーキュレータは、さらに、前記第1の光パルスのみを前記被測定光ファイバへと入射するとともに、前記被測定光ファイバにおける前記第1の光パルスのみの後方散乱光を分離し、
前記演算処理部は、前記光パルス列の後方散乱光から得られる第1の波形と前記第1の光パルスのみの後方散乱光から得られる第2の波形との差分を用いて、前記被測定光ファイバにおけるブリルアン散乱を測定する、
ブリルアン散乱測定装置。
【請求項2】
被測定光ファイバで後方散乱光を発生させる第1の光パルスの後に、前記被測定光ファイバにおける前記第1の光パルスのブリルアン後方散乱光をブリルアン増幅するための第2の光パルスが続く光パルス列を生成する光パルス発生部と、
前記光パルス列を前記被測定光ファイバへと入射するとともに、前記被測定光ファイバにおける前記光パルス列の後方散乱光を分離する光サーキュレータと、
前記光サーキュレータで分離された後方散乱光の波形を用いて、前記被測定光ファイバにおけるブリルアン散乱を測定する演算処理部と、
を備え、
前記光パルス発生部は、さらに、前記第1の光パルスのみを生成し、
前記光サーキュレータは、さらに、前記第1の光パルスのみを前記被測定光ファイバへと入射するとともに、前記被測定光ファイバにおける前記第1の光パルスのみの後方散乱光を分離し、
前記演算処理部は、前記光パルス列の後方散乱光から得られる第1の波形と前記第1の光パルスのみの後方散乱光から得られる第2の波形との差分を用いて、前記被測定光ファイバにおけるブリルアン散乱を測定する、
ブリルアン散乱測定装置。
【請求項3】
被測定光ファイバで後方散乱光を発生させる第1の光パルスの後に、前記被測定光ファイバにおける前記第1の光パルスのブリルアン後方散乱光をブリルアン増幅するための第2の光パルスが続く光パルス列を生成し、前記光パルス列を前記被測定光ファイバへと入射し、前記被測定光ファイバにおける前記光パルス列の後方散乱光の波形を測定する波形測定手順と、
前記光パルス列の後方散乱光の波形を用いて、前記被測定光ファイバにおけるブリルアン散乱を測定するブリルアン散乱測定手順と、
を順に実行し、
前記波形測定手順において、さらに、前記第1の光パルスのみを生成し、前記第1の光パルスのみを前記被測定光ファイバへと入射し、前記被測定光ファイバにおける前記第1の光パルスのみの後方散乱光の波形を測定し、
前記ブリルアン散乱測定手順において、前記光パルス列の後方散乱光から得られる第1の波形と前記第1の光パルスのみの後方散乱光から得られる第2の波形との差分を用いて、前記被測定光ファイバにおけるブリルアン散乱を測定し、
前記第1の光パルスと前記第2の光パルスとの周波数差を前記被測定光ファイバのブリルアン利得スペクトルの周波数幅以上に変動させながら、前記波形測定手順と前記ブリルアン散乱測定手順とを繰り返す、
ブリルアン散乱測定方法。
【請求項4】
被測定光ファイバで後方散乱光を発生させる第1の光パルスの後に、前記被測定光ファイバにおける前記第1の光パルスのブリルアン後方散乱光をブリルアン増幅するための第2の光パルスが続く光パルス列を生成し、前記光パルス列を前記被測定光ファイバへと入射し、前記被測定光ファイバにおける前記光パルス列の後方散乱光の波形を測定する波形測定手順と、
前記光パルス列の後方散乱光の波形を用いて、前記被測定光ファイバにおけるブリルアン散乱を測定するブリルアン散乱測定手順と、
を順に実行し、
前記波形測定手順において、さらに、前記第1の光パルスのみを生成し、前記第1の光パルスのみを前記被測定光ファイバへと入射し、前記被測定光ファイバにおける前記第1の光パルスのみの後方散乱光の波形を測定し、
前記ブリルアン散乱測定手順において、前記光パルス列の後方散乱光から得られる第1の波形と前記第1の光パルスのみの後方散乱光から得られる第2の波形との差分を用いて、前記被測定光ファイバにおけるブリルアン散乱を測定する、
ブリルアン散乱測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバのブリルアン散乱を測定する測定装置及びその測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの長手方向にわたる歪み分布や損失分布の測定・評価手段として、B−OTDA(Brillouin Optical Time Domain Analysis)やB−OTDR(Brillouin Optical Time Domain Refrectometry)が開発されている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。これらは光ファイバ中で発生するブリルアン散乱現象を測定原理としている。
【0003】
非特許文献1記載のB−OTDAは、被測定光ファイバの両端にポンプパルス用光源とプローブ(連続光)用光源を配置し、両光源からの出射光を被測定光ファイバ中に対向して伝搬させる構成となる。このとき、ポンプパルスからプローブ光への光電変換過程により、プローブ光は被測定光ファイバ中でブリルアン増幅される。例えば、ブリルアン増幅の周波数シフト量の変化をモニターすることで被測定光ファイバ中に加わった歪み量を評価することができ、またプローブ光が光検出器に到達する時間差から、歪みの位置を特定することができる。このような方式は、効率よくブリルアン増幅を発生することができるためダイナミックレンジに優れているが、被測定ファイバの両端に装置を接続する必要がある。
【0004】
一方、非特許文献2記載のB−OTDRは、被測定光ファイバの片端からパルス光を入射し、被測定光ファイバで発生した自然ブリルアン散乱の後方散乱光を同じく入射端側より検出する構成となる。このような方式は、片端のみを用いた測定により歪み量等の評価とその位置特定を行うことができるが、自然ブリルアン散乱を用いるため後方散乱光が少なく、ダイナミックレンジが小さいという課題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Horiguchi and M. Tateda, “BOTDA−Nondestructive measurement of single−mode optical fiber attenuation characteristics using Brillouin interaction: Theory,” J. Lightw. Technol., vol. 7, no. 8, pp. 1170−1176, 1989.
【非特許文献2】T. Horiguchi, K. Shimizu, T. Kurashima, M. Tateda, and Y. Koyamada, “Development of a distributed sensing technique using Brillouin scattering,” J. Lightw. Technol., vol. 13, no.7, pp. 1296−1302. 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、上記問題を鑑み、被測定光ファイバの片端のみを用いて高感度にブリルアン散乱が測定可能な光ファイバのブリルアン散乱測定装置及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るブリルアン散乱測定装置は、
被測定光ファイバで後方散乱光を発生させる第1の光パルスの後に、前記被測定光ファイバにおける前記第1の光パルスのブリルアン後方散乱光をブリルアン増幅するための第2の光パルスが続く光パルス列を生成する光パルス発生部と、
前記光パルス列を前記被測定光ファイバへと入射するとともに、前記被測定光ファイバにおける前記光パルス列の後方散乱光を分離する光サーキュレータと、
前記光サーキュレータで分離された後方散乱光の波形を用いて、前記被測定光ファイバにおけるブリルアン散乱を測定する演算処理部と、
を備える。
【0008】
本発明に係るブリルアン散乱測定装置では、
前記光パルス発生部は、前記第1の光パルスのみを生成し、
前記光サーキュレータは、前記第1の光パルスのみを前記被測定光ファイバへと入射するとともに、前記被測定光ファイバにおける前記第1の光パルスのみの後方散乱光を分離し、
前記演算処理部は、前記光パルス列の後方散乱光から得られる第1の波形と前記第1の光パルスのみの後方散乱光から得られる第2の波形との差分を用いて、前記被測定光ファイバにおけるブリルアン散乱を測定してもよい。
【0009】
本発明に係るブリルアン散乱測定方法は、
被測定光ファイバで後方散乱光を発生させる第1の光パルスの後に、前記被測定光ファイバにおける前記第1の光パルスのブリルアン後方散乱光をブリルアン増幅するための第2の光パルスが続く光パルス列を生成し、前記光パルス列を前記被測定光ファイバへと入射し、前記被測定光ファイバにおける前記光パルス列の後方散乱光の波形を測定する波形測定手順と、
前記光パルス列の後方散乱光の波形を用いて、前記被測定光ファイバにおけるブリルアン散乱を測定するブリルアン散乱測定手順と、
を順に有する。
【0010】
本発明に係るブリルアン散乱測定方法では、
前記波形測定手順において、さらに、前記第1の光パルスのみを生成し、前記第1の光パルスのみを前記被測定光ファイバへと入射し、前記被測定光ファイバにおける前記第1の光パルスのみの後方散乱光の波形を測定し、
前記ブリルアン散乱測定手順において、前記光パルス列の後方散乱光から得られる第1の波形と前記第1の光パルスのみの後方散乱光から得られる第2の波形との差分を用いて、前記被測定光ファイバにおけるブリルアン散乱を測定してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被測定光ファイバの片端のみを用いて高感度にブリルアン散乱が測定可能な光ファイバのブリルアン散乱測定装置及びその方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係るブリルアン散乱測定装置の構成例を示す。
【
図2】本実施形態におけるブリルアン散乱光の発生原理の一例を示す。
【
図3】本実施形態における波長配置の一例であり、(a)はプローブ光発生用パルスP1及びその後方散乱光であるプローブ光R1を示し、(b)はポンプパルスP2及びそのブリルアン利得スペクトルR2を示し、(c)はブリルアン利得スペクトルR23及びブリルアン増幅されたプローブ光R13を示す。
【
図4】本実施形態において得られる波形の一例であり、(a)は第1のプローブ光波形F
R(z)を示し、(b)は第2のプローブ光波形F
P(z)を示し、(c)はブリルアン利得波形の一例を示す。
【
図5】被測定光ファイバ2の長手方向にわたるブリルアン利得スペクトルのイメージを示す。
【
図6】本実施形態における波形解析手順の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0014】
図1に、本実施形態に係るブリルアン散乱測定装置の構成例を示す。本実施形態に係るブリルアン散乱測定装置は、光源11と、光パルス化部12と、電気パルス発生部13と、光サーキュレータ14と、光バンドパスフィルタ15と、光検出部16と、A/D変換部17と、演算処理部18と、光周波数変調部19と、周波数信号発生部20と、を備える。光源11、光周波数変調部19、周波数信号発生部20、光パルス化部12及び電気パルス発生部13は、光パルス発生部として機能する。
【0015】
光源11は光周波数ν1を有する連続光を発振する。周波数信号発生部20は、周波数ν1の電気信号と、周波数ν1+Δνの電気信号と、を発生する。光周波数変調部19は、光源11から出射された連続光を周波数ν1で変調し、光源11から出射された連続光を周波数ν1+Δνで変調する。光パルス化部12は、周波数変調された光周波数変調部19からの連続光を強度変調し、第1の光パルス(プローブ光発生用パルスP1)および第2の光パルス(ポンプパルスP2)を生成する。これにより、プローブ光発生用パルスP1の後にポンプパルスP2が続く光パルス列を生成する。電気パルス発生部13は、光パルス化部12にて変調を行うための電気パルスを生成する。
【0016】
光サーキュレータ14は、被測定光ファイバ2の入射端に接続される。光サーキュレータ14は、光パルス化部12で発生した光パルス列を被測定光ファイバ2に入射する。プローブ光発生用パルスP1は被測定光ファイバ2で後方散乱され、その後方散乱光が光サーキュレータ14に入射される。光サーキュレータ14は、被測定光ファイバ2から入射端側に戻ってくる後方散乱光を分離して光バンドパスフィルタ15に出力する。光バンドパスフィルタ15は、後方散乱光の中から第1の光パルス(プローブ光発生用パルスP1)の後方散乱光(プローブ光R1)を抽出する。
【0017】
以下、
図1の構成により被測定光ファイバ2のブリルアン利得波形が測定できることを理論的に説明する。
【0018】
光源11から発振された光周波数νを有する連続光は、周波数信号発生部20により制御された光周波数変調部19によって周波数変調される。時間的に先に生成され周波数ν1をもつ第1の光信号をプローブ光発生用に用い、次に生成される周波数ν1+Δνをもつ第2の光信号をポンプ光に用いるとする。
【0019】
上記ポンプ光ならびにプローブ光は、電気パルス発生部13からの電気信号により光パルス化部12にて変調されパルス化される。このとき、時間的に先に生成される周波数ν1をもつ光パルスを第1の光パルス(プローブ光発生用パルスP1)とし、次に生成される周波数ν1+Δνをもつ第2の光パルスをポンプパルスP2とする。このようにして生成された1組の光パルス列を被測定光ファイバ2の一端より入力する。
【0020】
光周波数変調部19は、ポンプパルスP2の周波数をプローブパルスP1の周波数に対してΔνだけ変更することが目的であり、この目的を達成する限りにおいて具体的な構成法は限定されない。また、光パルス化部12は、ポンプ光並びにプローブ光を一定のパルス幅に切りだすためのものであり、そのパルス幅の設定方法については後述する。
【0021】
被測定光ファイバ2に上記光パルス列を入射すると、まず、先に入射されたプローブ光発生用パルスP1により後方ブリルアン散乱光が発生する。このプローブ光発生用パルスP1によって生じた後方ブリルアン散乱光をプローブ光R1と呼ぶ。
【0022】
続いて、プローブ光発生用パルスP1を追いかける形でポンプパルスP2が被測定ファイバ2に入力される。ポンプパルスP2とプローブ光R1が出会ったとき、ポンプパルスP2からプローブ光R1への光電力変換過程(誘導ブリルアン散乱)によりプローブ光R1はブリルアン増幅される。
【0023】
増幅され被測定光ファイバ2の入射端へと戻ってきたプローブ光R1は、光バンドパルスフィルタ15を通過した後、光検出部16で電気信号に変換され、A/D変換部17で数値化され、演算処理部18で解析される。光バンドパスフィルタ15の中心周波数は、プローブ光R1(プローブ光発生用パルス)の光周波数ν
1に一致させる。これにより、光バンドパスフィルタ15は、プローブ光発生用パルスP1およびポンプパルスP2により発生する後方レイリー散乱光を分離・除去する。
【0024】
被測定光ファイバ2の入力端をz=0としたとき、被測定光ファイバ2の入力端からの距離がzである地点において第1の光パルス(プローブ光発生用パルスP1)により発生する後方ブリルアン散乱光(プローブ光R1)のパワーP(z)は次式で表される。
【数1】
【0025】
ここで、P
0はプローブ光発生用パルスP1のピークパワー、αは被測定光ファイバ2の伝送損失であるR
BRは後方ブリルアン散乱発生効率であり、またプローブ光発生用パルスP1のパルス幅ΔT
probeと以下のような比例関係にある。
【数2】
【0026】
このように、プローブ光R1のパワーはプローブ光発生用パルスP1のパルス幅ΔT
probeに依存し、一方で距離分解能は後述するようにポンプパルスP2のパルス幅ΔT
pumpによって決定される。したがって、本測定では、できるだけ時間的に長いパルス幅のプローブ光発生用パルスP1を使用することが望ましい。
【0027】
本装置の受信部(z=0)で観測されるプローブ光パワーP
probeは、以下のように表される。
【数3】
ここで、P
b(z,Δν)がブリルアン利得成分であり、演算処理部18が最終的に解析したい信号である。
【0028】
図2は、被測定光ファイバ2中において第1の光パルス(プローブ光発生用パルスP1)に生じる後方ブリルアン散乱光(プローブ光R1)と第2の光パルス(ポンプパルスP2)の相互作用を示すイメージ図である。
【0029】
被測定光ファイバ2に時間的に先に入射される第1の光パルス(プローブ光発生用パルスP1)の後方ブリルアン散乱光がプローブ光R1となる。このプローブ光R1が、続いて入射される第2の光パルス(ポンプパルスP2)と出会った際、相互作用によりブリルアン増幅されてR13となり、被測定光ファイバ2の入射端側へと戻ってくる。
【0030】
図3に、プローブ光発生用パルスP1、ポンプパルスP2およびプローブ光R1,R13の光周波数の配置関係を模式的に示す。プローブ光発生用パルスP1によって生じる後方ブリルアン散乱光、すなわちプローブ光R1は、被測定光ファイバ2のブリルアン周波数シフトν
bだけダウンシフトした光周波数ν
1−ν
bを有す。同様に、光周波数ν
1+Δνを有すポンプパルスP2のブリルアン利得スペクトルも、被測定光ファイバ2のブリルアン周波数シフトν
bだけダウンシフトしたν
1−ν
b+Δνを中心とした概ね数十MHz程度の利得幅を持つ。したがって、光周波数ν
1−ν
bを有すプローブ光R1とポンプパルスP2が衝突した際、プローブ光R1は被測定光ファイバ2中でブリルアン増幅され、プローブ光R13のようになる。本実施形態に係る発明は、解析信号として、このプローブ光R13を用いる。なお、図では、理解が容易になるよう、Δν=0の場合を示している。
【0031】
周波数差Δνを変化させると、ブリルアン利得スペクトルR2はR23のように変化する。被測定光ファイバ2のブリルアン利得スペクトルを得るために、周波数差Δνの変化幅は、被測定光ファイバ2のブリルアン利得スペクトルの周波数幅以上であることが好ましい。例えば、被測定光ファイバ2のブリルアン利得スペクトルの周波数幅は略数十MHzである場合、周波数差Δνの変化幅は、略数十MHz以上であることが好ましい。
【0032】
図4に、本装置で観測されるプローブ光の時間波形を模式的に示す。(a)に示すL41は、ポンプパルスP2を入力していない状態で取得されたプローブ光R1の波形F
R(z)である。これがリファレンス波形となる。(b)に示すL42は、ポンプパルスP2を入力しプローブ光R1がブリルアン増幅された状態で取得されたプローブ光R13の波形F
P(z)である。(c)に示すL43は、波形F
P(z)からF
R(z)を差し引くことで算出されるブリルアン利得波形F
G(z)である。
【0033】
波形F
G(z)、すなわち上記式(3)におけるP
b(z,Δν)は以下のように表される。
【数4】
【0034】
式(4)により特定の光周波数におけるブリルアン利得の長手方向にわたる分布を知ることができる。
【0035】
光周波数変調部19によりΔνを変化させながら、ブリルアン利得を逐次測定することで、以下のように被測定光ファイバの長手方向にわたるブリルアン利得スペクトルを得ることができる。
【数5】
【0036】
図5に、本実施形態に係るブリルアン利得スペクトルの一例を示す。
図6に示すブリルアン利得スペクトルは、プローブ光発生用パルスP1とポンプパルスP2の時間間隔ΔTを一定にし、Δνを変化させた場合に得られたブリルアン利得スペクトルである。L61〜L64は、それぞれ、
図4に示す距離z1,z2、z3及びz4の各地点におけるブリルアン利得スペクトルを示す。
【0037】
なお、プローブ光発生用パルスP1とポンプパルスP2の時間間隔をΔTとしたとき、プローブ光R1がポンプパルスP2によってブリルアン増幅される距離z1は次式で求められる。
【数6】
【0038】
ここで、ν
probeは被測定光ファイバ2中におけるプローブ光発生用パルスP1およびプローブ光R1の群速度を表す。このように、プローブ光発生用パルスP1とポンプパルスP2の時間間隔ΔTを制御することで任意の距離からプローブ光R1の増幅が可能となる。
【0039】
図6は、演算処理部18における波形解析手順を説明するフローチャートである。本実施形態に係るブリルアン散乱測定方法は、波形測定手順と、ブリルアン散乱測定手順と、を順に有する。
波形測定手順では、本実施形態に係るブリルアン散乱測定装置が、ステップS101〜S102を実行する。
ブリルアン散乱測定手順では、本実施形態に係るブリルアン散乱測定装置が、ステップS103を実行する。
【0040】
まず初めに、ポンプパルスP2を入力しない状態でプローブ用発生パルスP1のみを生成し、プローブ用発生パルスP1のみを被測定光ファイバ2へと入射し、プローブ用発生パルスP1の後方ブリルアン散乱光(プローブ光R1)の波形F
R(z)を取得する(S101)。
次に、ポンプパルスP2を入力しプローブ光R1がブリルアン増幅された状態でプローブ光R13の波形F
P(z)を取得する(S102)。
最後に、これらの波形の差分をとることで、ブリルアン利得波形F
G(z)を取得する(S103)。これにより、被測定光ファイバ2におけるブリルアン増幅の大きさ(利得)を算出することができる。
【0041】
Δνを変更しながら、すなわちポンプパルスP2の周波数を変更しながら、ステップS102及びS103を繰り返すことで、被測定光ファイバ2におけるブリルアン散乱の利得スペクトラムを測定することができる。このため、本実施形態に係る発明は、被測定光ファイバ2におけるブリルアン散乱を解析することができる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係る発明は、被測定光ファイバ2に対し、光周波数ν1のプローブ光発生用パルスP1を入射し、続いて光周波数ν1+ΔνのポンプパルスP2を入射し、プローブ光発生用パルスP1の後方ブリルアン散乱光(プローブ光R1)とポンプパルスP2との相互作用によって発生する誘導ブリルアン散乱のΔνに対する変化を観測することにより、被測定光ファイバ2の長さ方向zにわたるブリルアン利得スペクトルの分布を取得することができる。
【0043】
精確に波形F
G(z)を算出するために、波形F
R(z)から波形F
P(z)を測定する間は、ブリルアン散乱が安定であることが好ましく、例えば被測定光ファイバ2に加わっている歪み等が変化しないことが好ましい。
【0044】
なお、本手法の距離分解能Δzは、ポンプパルスのパルス幅ΔT
pumpに応じて以下のように決定される。
【数7】
ここで、ν
pumpは被測定光ファイバ2中におけるポンプパルスP2の群速度を表す。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
11:光源
12:光パルス化部
13:電気パルス発生部
14:光サーキュレータ
15:光バンドパルフィルタ
16:光検出部
17:A/D変換部
18:演算処理部
19:光周波数変調部
20:周波数信号発生部