特許第6429492号(P6429492)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハーの特許一覧

<>
  • 特許6429492-イオンの質量選択判定装置 図000002
  • 特許6429492-イオンの質量選択判定装置 図000003
  • 特許6429492-イオンの質量選択判定装置 図000004
  • 特許6429492-イオンの質量選択判定装置 図000005
  • 特許6429492-イオンの質量選択判定装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6429492
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】イオンの質量選択判定装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/42 20060101AFI20181119BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20181119BHJP
   H01J 37/252 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   H01J49/42
   H01J37/244
   H01J37/252 B
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-100369(P2014-100369)
(22)【出願日】2014年5月14日
(65)【公開番号】特開2014-225453(P2014-225453A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2017年5月10日
(31)【優先権主張番号】10 2013 208 959.7
(32)【優先日】2013年5月15日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(72)【発明者】
【氏名】アルブレヒト グラスマッヒャーズ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル アリマン
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−326321(JP,A)
【文献】 特開昭63−276863(JP,A)
【文献】 実開昭59−091712(JP,U)
【文献】 特開2011−171296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/34 −49/42
H01J 37/05
H01J 37/244
H01J 37/252−37/256
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のイオンの質量選択判定装置(1400)であって、
・少なくとも1つの第1開口を有する少なくとも1個の環状電極(1401)、及び前記第1開口に配置された少なくとも1個の第1電極(1402)を含む、少なくとも1個のイオンを蓄積するための少なくとも1つのイオントラップ(1404)と、
・高周波蓄積信号を前記イオントラップ(1404)に提供するための少なくとも1個の増幅器(1408)と、
・前記高周波蓄積信号が前記第1電極(1402)に結合されるよう、前記増幅器(1408)及び前記第1電極(1402)に接続される少なくとも1個の第1変圧器(1411)と、
を備え
・前記装置(1400)は、少なくとも1個の一次変圧器(1409)を備え、
・前記一次変圧器(1409)及び前記第1変圧器(1411)は、同一の変圧器コア及び同一の一次巻線(1428)を含み、該一次巻線は前記増幅器(1408)と接続されており、
・前記一次変圧器(1409)は、第1二次巻線(1429)を含み、該第1二次巻線(1429)は、前記環状電極(1401)と接続されており、
・前記第1変圧器(1411)は、前記第1二次巻線(1429)とは異なる第2二次巻線(1430)を含み、該第2二次巻線(1430)は、前記第1電極(1402)に接続され、更に、
・前記第1二次巻線(1429)の巻線方向と、前記第2二次巻線(1430)の巻線方向とは異なっている装置
【請求項2】
請求項1に記載の装置(1400)であって、前記第1電極(1402)は少なくとも1個の第1水晶フィルタユニット(1414)に接続されている装置。
【請求項3】
請求項に記載の装置(1400)であって、
・前記第1変圧器(1411)及び前記第1電極(1402)の間には、少なくとも1個の第1可変コンデンサ(1410)が接続され、更に、
・前記第1水晶フィルタユニット(1414)は、前記第1可変コンデンサ(1410)及び前記第1電極(1402)も接続された第1回路ノードに接続されている装置。
【請求項4】
請求項1〜の何れか一項に記載の装置(1400)であって、
・前記装置(1400)は、前記第1電極(1402)の第1測定信号を増幅するための少なくとも1個の第1測定増幅器(1416)を備え、更に、
・前記第1電極(1402)と、第1励起信号を前記第1電極(1402)に発生させるための第1励起ユニット(1417)とは、前記第1測定増幅器(1416)の入力端に接続されている装置。
【請求項5】
請求項に記載の装置(1400)であって、該装置(1400)は、
・前記第1電極(1402)及び前記第1励起ユニット(1417)の間に第1スイッチ(1418)が配置されているか、又は、
・前記第1励起ユニット(1417)及び前記第1測定増幅器(1416)の間に第2スイッチ(1419)が配置されているか、
という特徴の少なくとも1つを有している装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の装置(1400)であって、前記環状電極(1401)は、少なくとも1つの第2開口を有し、また、前記イオントラップ(1404)は、前記第2開口に配置された少なくとも1個の第2電極(1403)を含み
少なくとも1個の第2変圧器(1413)を備え、前記高周波蓄積信号が前記第2変圧器(1413)を介して前記第2電極(1403)に結合されるよう、前記第2変圧器(1413)が前記増幅器(1408)及び前記第2電極(1403)に接続され、
・前記一次変圧器(1409)及び前記第2変圧器(1413)は、同一の前記変圧器コア及び同一の前記一次巻線(1428)を含み、
・前記第2変圧器(1413)は、前記第1二次巻線(1429)とは異なる第3二次巻線(1431)を含み、該第3二次巻線(1431)は、前記第2電極(1403)に接続され、更に、
・前記第1二次巻線(1429)の巻線方向と、前記第3二次巻線(1431)の巻線方向とは異なっている装置。
【請求項7】
請求項に記載の装置(1400)であって、前記第2電極(1403)は、少なくとも1個の第2水晶フィルタユニット(1415)に接続されている装置。
【請求項8】
請求項に記載の装置(1400)であって、
・前記第2変圧器(1413)及び前記第2電極(1403)の間には、少なくとも1個の第2可変コンデンサ(1412)が接続され、更に、
・前記第2水晶フィルタユニット(1415)は、前記第2可変コンデンサ(1412)及び前記第2電極(1403)も接続された第2回路ノードに接続されている装置。
【請求項9】
請求項6〜8の何れか一項に記載の装置(1400)であって、
・前記装置(1400)は、前記第2電極(1403)の第2測定信号を増幅するための少なくとも1個の第2測定増幅器(1422)を備え、更に、
・前記第2電極(1403)と、第2励起信号を前記第2電極(1403)に発生させるための第2励起ユニット(1423)とは、前記第2測定増幅器(1422)の入力端に接続されている装置。
【請求項10】
請求項に記載の装置(1400)であって、該装置(1400)は、
・前記第2電極(1403)及び前記第2励起ユニット(1423)の間に第3スイッチ(1424)が配置されているか、又は、
・前記第2励起ユニット(1423)及び前記第2測定増幅器(1422)の間に第4スイッチ(1425)が配置されているか、
という特徴の少なくとも1つを有している装置。
【請求項11】
少なくとも1個のイオンの質量選択判定装置(1400)であって、
・少なくとも1つの第1開口を有する少なくとも1個の環状電極(1401)、及び前記第1開口に配置された少なくとも1個の第1電極(1402)を含む、少なくとも1個のイオンを蓄積するための少なくとも1つのイオントラップ(1404)と、
・高周波蓄積信号を前記イオントラップ(1404)に提供するための少なくとも1個の増幅器(1408)と、
・前記高周波蓄積信号が前記第1電極(1402)に結合されるよう、前記増幅器(1408)及び前記第1電極(1402)に接続される少なくとも1個の第1変圧器(1411)と、
を備え、
前記第1電極(1402)は少なくとも1個の第1水晶フィルタユニット(1414)に接続されている装置。
【請求項12】
請求項11に記載の装置(1400)であって、
・前記第1変圧器(1411)及び前記第1電極(1402)の間には、少なくとも1個の第1可変コンデンサ(1410)が接続され、更に、
・前記第1水晶フィルタユニット(1414)は、前記第1可変コンデンサ(1410)及び前記第1電極(1402)も接続された第1回路ノードに接続されている装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載の装置(1400)であって、前記環状電極(1401)は、少なくとも1つの第2開口を有し、また、前記イオントラップ(1404)は、前記第2開口に配置された少なくとも1個の第2電極(1403)を含んでいる装置。
【請求項14】
測定機器(1)であって、
・少なくとも1個のイオン発生ユニット(2)と、
・請求項1〜13の何れか一項に記載のイオンの質量選択判定装置(1400)と、
を備えている測定機器。
【請求項15】
請求項14に記載の測定機器(1)であって、前記イオン発生ユニット(2)は、
・荷電粒子を含む粒子ビーム又は光ビームを発生させる少なくとも1個のビーム発生器(27)と、粒子ビーム又は光ビームを対象物(16)上に入射させて少なくとも1個のイオンが発生するよう、粒子ビーム又は光ビームを前記対象物(16)上に収束させる少なくとも1個の対物レンズ(31)とを有する、少なくとも1個の照射ユニット(2)を含むか、又は、
・プラズマによってイオンを発生させる少なくとも1個のプラズマユニット含む、
という特徴の少なくとも1つを有している測定機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1個又は複数個のイオンの質量選択判定装置に関する。本発明の装置は、特に、少なくとも1個又は複数個のイオンを判定するために機能するものである。本発明に係る装置は、例えば、イオントラップを備える粒子ビーム機器に使用される。イオンは、電界又は磁界によってイオントラップ内に蓄積されるものである。イオントラップ内に蓄積されたこれらイオンは、質量分析法によって検査することができる。この場合の検査は、例えば、イオンに作用する電界及び磁界の種類や強度に応じて行われる。代替的には、特定の質量を有するイオンは、電界及び磁界を変化させることにより、推測し分析することができる。
【背景技術】
【0002】
粒子ビームは、特定条件化における対象物の特性及び挙動に関する情報を得るために、既に長らく使用されている。このような粒子ビーム機器の1つには、電子ビーム機器、特に走査電子顕微鏡(以下、SEMとも称する)がある。
【0003】
SEMの場合、電子ビーム(以下、一次電子ビームとも称する)は、ビーム発生器を使用して発生され、ビームガイドシステム、特に対物レンズによって検査対象(試料とも称する)上に収束されるものである。この場合に一次電子ビームは、偏向装置を使用することにより、検査対象の表面上でラスター状にガイドされる。その際、一次電子ビームの電子は、検査対象の材料と相互に作用する。この相互作用により、特に相互作用粒子が発生する。即ちこの場合、特に、電子が検査試料の表面から放出し(いわゆる二次電子)、一次電子ビームの電子は後方に散乱する(いわゆる後方散乱電子)。これら二次電子及び後方散乱電子は、検出されて画像の生成に使用される。このようにして、検査対象の画像を得ることができる。
【0004】
また、従来技術においては、対象物の検査をするために、電子及びイオンの両方が検査対象にガイドされるコンビネーション機器の使用が既知である。この場合、例えばSEMにイオンビームカラムを付加的に設けることが既知である。この場合、イオンビームカラム内に配置されるイオンビーム発生器によりイオンが発生し、これらイオンは、対象物の前処理(例えば、対象物の表面の除去又は対象物への材料の堆積)だけでなく、代替的には画像を得るためにも使用される。この場合のSEMは、特に、前処理した対象物の観察をするために機能するが、前処理後又は未処理の対象物を更に検査するためにも機能するものである。
【0005】
上述した画像の生成に加えて、相互作用粒子のエネルギ及び/又は質量をより詳細に分析することも可能である。例えば、質量分析法との関連においては、二次イオンをより詳細に検査する方法が知られており、SIMS(二次イオン質量分析法)の略称で知られている。この方法においては、検査対象の表面が、収束された一次イオンビーム又はレーザビームで照射される。その際、試料の表面から二次イオンとして放出された相互作用粒子は、分析ユニットで検出され、質量分析法によって検査される。この場合に二次イオンは、イオン質量やイオン電荷に基づいて選択かつ同定されるため、対象物の組成に関する推測が可能である。
【0006】
従来技術においては、例えば、イオントラップ・質量分析器として構成される分析ユニットが既知である。この既知のイオントラップ・質量分析器においては、蓄積セルがポールトラップとして構成される。このポールトラップは、環状電極、第1端部キャップ電極、及び第2端部キャップ電極を有する。この場合に環状電極は、第1軸線周りに回転対称的に配置される。同様に、第1端部キャップ電極及び第2端部キャップ電極も、第1軸線周りに回転対照的に配置される。これら環状電極、第1端部キャップ電極、及び第2端部キャップ電極は、蓄積セルの内部空間を包囲するものである。環状電極は、二次イオンを蓄積セルの内部空間内に取り込むための開口を有する。イオンは、交流電界により、イオントラップ・質量分析器内で動的に蓄積される。一般的に、この場合の交流電界としては電気的四重極によるものが利用される。質量電荷比を測定するためには、励起信号によってイオンを振動させ、また、その際の周波数はイオン質量に依存するものである。この振動情報は、第1端部キャップ電極及び第2端部キャップ電極で取り出され、評価される。この目的のため、誘導された鏡像電荷によって生じる測定電流が、端部キャップ電極で測定される。
【0007】
しかしながら、上述したイオントラップ・質量分析器においては、干渉効果がクロストーク電流として生じる。即ち、交流電界と第1端部キャップとの第1相互作用により、第1クロストーク電流が生じるだけでなく、交流電界と第2端部キャップとの第2相互作用により、第2クロストーク電流が生じる。第1クロストーク電流は、第1周波数、第1振幅及び第1位相を有し、第2クロストーク電流は、第2周波数、第2振幅及び第2位相を有する。通常、クロストーク電流は、正味(実際)の測定電流に比べて遥かに大きい。正味の測定電流及びクロストーク電流から成る電流(以下、測定信号とも称する)は、第1端部キャップ電極及び第2端部キャップ電極で取り出され、一般的には、測定増幅器によって増幅される。この場合、測定増幅器には、大きなクロストーク電流に起因して過負荷が生じることが多く、従って測定増幅器の増幅信号は、蓄積されたイオンに関して、利用可能な情報を提供することがない。
【0008】
従来技術には、この問題の解決法が既知である。この解決法では、測定信号が第1端部キャップ電極で測定され、また、上述したのと同様の第1周波数及び第1振幅を有する第1補償電流がもたらされる。更に、第1補償電流は、第1クロストーク電流の第1位相に対して180°ずらした第1補償位相を有する。その後、第1補償電流は、第1合成信号が生じるよう第1測定信号に重畳される。この場合、第1合成信号をフィルタリングすれば、第1フィルタ信号を得ることができ、その第1フィルタ信号は、第1測定電流、即ち実質的には正味の測定信号を含むものである。その後、第1フィルタ信号は、測定増幅器によって増幅され、イオン又は複数個のイオンを判定するために増幅された上述のフィルタ信号の評価が行われる。この過程は、第2測定信号に関しても第2端部キャップ電極で同様に行われる。
【0009】
一般的に、上述した過程は、ソフトウェアを使用した複雑な操作によって行われるものである。この操作においては、ダイレクトデジタル合成(DDS)が適用される。これらは、デジタル信号処理において、周期的で帯域制限された信号を生成するための方法である。しかしながら、この場合に使用するソフトウェアのプログラミングは複雑であるだけでなく、エラーを含んでいることも多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、補償電流と、合成信号の後発的なフィルタリングとによって、クロストーク電流の補償をより容易に行うことのできるイオンの質量選択判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、この課題は、請求項1の特徴を有すると共に、少なくとも1個又は複数個のイオンの質量選択判定装置によって解決される。このような装置を備える測定機器は、請求項14の特徴を有する。本発明の更なる特徴は、以下の記載、添付の特許請求の範囲及び/又は添付図面のとおりである。
【0012】
本発明に係る、少なくとも1個又は複数個のイオンの質量選択判定装置は、少なくとも1個又は複数個のイオンを蓄積するための少なくとも1個のイオントラップを備える。イオンの発生については、以下においてより詳細に説明する。イオンは、例えば帯電した原子又は分子として構成されるものである。イオントラップは、少なくとも1つの開口を有する少なくとも1個の環状電極を含む。イオントラップには更に、第1開口に配置される少なくとも1個の第1電極(第1端部キャップ電極とも称する)が設けられる。これに加えて、本発明に係る装置には、高周波蓄積信号をイオントラップに提供するための増幅器が設けられる。この場合の高周波蓄積信号は、イオンを、環状電極及び第1電極(及び場合により、以下において更に説明する第2電極)によって形成される内部空間内に蓄積するために機能する。換言すれば、環状電極及び第1電極(及び場合により第2電極)は、内部空間を画定するものである。蓄積周波数は、10kHz〜10MHzの範囲にあり、交流静電界を発生させるために使用される交流電圧に含まれる。この交流電圧は、例えば10V〜10kVの範囲にある。
【0013】
更に、本発明に係る装置は、高周波蓄積信号が第1電極に結合されるよう、増幅器及び第1電極に接続される第1変圧器を備える。換言すれば、第1電極及び増幅器の接続は、高周波蓄積信号が第1変圧器によって結合されるものとする。
【0014】
本発明は、複雑なソフトウェア制御が、イオントラップ内における潜在的なクロストーク電流を補償するために必ずしも必要ではないという驚くべき認識に基づいている。むしろ、潜在的なクロストーク電流は、構成簡単な電子部品を使用すれば、より容易に補償することができる。なぜなら、本発明に係る装置においては、第1変圧器によって、高周波蓄積信号を逆位相、例えば位相を180°回転させた状態で第1電極に結合することができるという利点を有するからである。これにより、環状電極及び第1電極又は環状電極及び第2電極の間で電圧が生じることはほぼない。従って、環状電極及び第1電極の間(又は、(以下において更に説明する)環状電極及び第2電極の間)でクロストーク電流が生じることもほぼない。そのため、潜在的なクロストーク電流は、高周波蓄積信号の位相を180°回転させた状態で結合することによって、基本的には最初からほぼ補償される。この場合に使用される補償電流の振幅は、第1変圧器によって、増幅器が提供する電流の振幅に比例するものとする。また、第1変圧器によって、増幅器が提供する電流及び補償電流の間で位相のシフトが生じる。更に、第1変圧器は、高周波蓄積信号が生じる装置内の領域と、イオンを検出するための測定電流が確認される領域とをガルバニック絶縁するために機能する。これに加えて、第1変圧器は、電力を、高周波蓄積信号が生じる装置内の領域から、測定電流が確認される装置内の領域へと伝達するためにも機能する。
【0015】
本発明に係る装置の実施形態において、環状電極は、少なくとも1つの第2開口を付加的又は代替的に有する。更に、イオントラップは、第2開口に配置される少なくとも1個の第2電極(第2端部キャップ電極とも称する)を含む。
【0016】
上述した利点を特に良好に達成するため、本発明に係る装置の他の実施形態において、装置は、少なくとも1個の一次変圧器を付加的又は代替的に備える。更に、一次変圧器及び第1変圧器は、同一の変圧器コア及び同一の一次巻線を含む。換言すれば、一次変圧器及び第1変圧器は何れも、同一の変圧器コア及び同一の一次巻線を使用するものである。一次変圧器は、第1二次巻線を含む。更に、第1変圧器は、第1二次巻線とは異なる第2二次巻線を含む。換言すれば、一次変圧器及び第1変圧器は、異なる二次巻線を使用するものである。この場合、第1二次巻線の巻線方向と、第2二次巻線の巻線方向とは異なる。
【0017】
本発明に係る装置の実施形態において、第1電極は、少なくとも1個の第1水晶フィルタユニットに付加的又は代替的に接続される。上述した補償が行われるにも関わらず、数mA(例えば1mA〜20mA)の(僅かな)第1クロストーク電流が第1電極(及び/又は場合により(以下において更に説明する)第2クロストーク電流が第2電極)で生じる可能性があるため、この実施形態では、第1水晶フィルタユニットが設けられる。この第1水晶フィルタユニットは、第1電極で測定される第1電極電流のフィルタリングをするために機能する。第1電極電流とは、正味の第1測定電流(第1測定信号とも称する)及び第1クロストーク電流から成るものである。第1電極電流のフィルタリングに際しては、依然として残留しているクロストーク電流がフィルタで除去される。第1水晶フィルタユニットは、一方では、第1測定電流に対して高インピーダンスを有するよう構成され、他方では、第1クロストーク電流を実質的に短絡させるという利点を有する。第1水晶フィルタユニットは更に、例えば、水晶振動子を有する電気機械フィルタとして構成される。この水晶振動子は、信号における特定の周波数成分を抑制するものである。このようにして、クロストーク電流はフィルタで除去され、また、第1電極で取り込まれると共に、イオントラップに蓄積された1個又は複数個のイオンに関する情報を含む第1測定電流を、干渉信号をなくした状態で評価することができる。第2クロストーク電流をフィルタで除去する点については、以下において説明する。
【0018】
本発明に係る装置の他の実施形態において、第1変圧器及び第1電極の間には、少なくとも1個の第1可変コンデンサが付加的又は代替的に配置される。更に、第1水晶フィルタユニットは、第1可変コンデンサ及び第1電極も接続される第1回路ノードに接続される。第1可変コンデンサは、基本的には共振同調コンデンサとして機能し、第1水晶フィルタユニットの共振周波数を蓄積周波数に同調させるものである(例えばこの場合、共振周波数は、蓄積周波数に正確に同調される)。基本的には、第1可変コンデンサを使用すれば、生じる可能性のある第1クロストーク電流の補償を調整することができる。本発明に係る装置においては、第1変圧器により、第1クロストーク電流に対する第1の粗補償が行われる。この第1の補償により、第1クロストーク電流が僅かな量に低減される。その後、第1の補償後に依然として残留している第1クロストーク電流は、第1可変コンデンサ及び第1水晶フィルタユニットによって完全に補償される。
【0019】
本発明に係る装置の他の実施形態において、装置は、第1電極で取り込まれる第1測定電流(即ち、第1測定信号)を増幅するための少なくとも1個の第1測定増幅器を備える。更に、この実施形態においては、第1励起ユニットが設けられる。この場合、第1電極と、第1励起信号を第1電極に発生させるための第1励起ユニットとは、第1測定増幅器の入力端に接続される。この第1励起信号により、内部空間内に蓄積された1個又は複数個のイオンは振動を生じ、また、その際の周波数は個々のイオンの質量に依存する。この場合の振動により、第1電極において、第1測定電流をもたらす鏡像電荷が誘導される。第2測定電流については、以下において説明する。
【0020】
本発明に係る装置の他の構成において、装置は、以下の特徴の少なくとも1つを有する。即ち、
・第1電極及び第1励起ユニットの間に第1スイッチが配置されるか、又は、
・第1励起ユニット及び第1測定増幅器の間に第2スイッチが配置される。
【0021】
第1スイッチ及び/又は第2スイッチによって、イオントラップにおける第1動作モード(即ち、通常の動作モード)と、第2動作モード(即ち、適合動作モード)との間で切り替えを行うことが可能である。この場合の通常動作モードは、測定動作モードに相当する。また、適合動作モードは励起動作モードに相当する。例えば、第1動作モードにおいて、第1スイッチは第1切り替え状態にあり、及び/又は、第2スイッチは第2切り替え状態にある。第1動作モードでは、内部空間内に蓄積される1個又は複数個のイオンに関する情報を得るために、第1電極電流の測定、フィルタリング及び評価が行われる。例えば、第2動作モードにおいて、第1スイッチは第3切り替え状態にあり、及び/又は、第2スイッチは第2切り替え状態にある。適合動作モードでは、例えば第1励起信号(例えばその振幅及び周波数)の設定が行われる。この第1励起信号は、任意の時間的プロファイルを有することができる。この場合のプロファイルは、例えば正弦波状又はデルタ波状である。ただし本発明は、これら実施形態に限定されるものではなく、時間的プロファイルは、任意かつ適切なものとすることができる。
【0022】
本発明に係る装置の他の実施形態において、装置は、高周波蓄積信号が第2電極に結合されるよう、増幅器及び第2電極に接続される少なくとも1個の第2変圧器を付加的又は代替的に備える。換言すれば、増幅器及び第2電極の接続は、高周波蓄積信号が第2変圧器によって結合されるものとする。この場合、上述したのと同様の利点が達成される。高周波蓄積信号は、逆位相、例えば位相を180°回転させた状態で第2電極に結合することができる。これにより、環状電極及び第2電極の間で電圧が生じることはほぼない。従って、環状電極及び第2電極の間で第2クロストーク電流が生じることもほぼない。そのため、潜在的な第2クロストーク電流は、高周波蓄積信号の位相を180°回転させた状態で結合することによって、基本的には最初からほぼ補償される。
【0023】
本発明に係る装置の他の実施形態において、一次変圧器及び第2変圧器は、同一の変圧器コア及び同一の一次巻線を付加的又は代替的に含む。従ってこの場合、一次変圧器及び第2変圧器は何れも、同一の変圧器コア及び同一の一次巻線を使用するものである。上述したように、一次変圧器は、第1二次巻線を含む。更に、第2変圧器は、第1二次巻線とは異なる第3二次巻線を含む。この場合、第1二次巻線の巻線方向と、第3二次巻線の巻線方向とは異なる。上述した利点を特に良好に達成するため、本発明に係る装置のこの実施形態も、上述した実施形態に加えて適用されるものとする。
【0024】
本発明に係る装置の実施形態において、第2電極は、少なくとも1個の第2水晶フィルタユニットに付加的又は代替的に接続される。上述した補償が行われるにも関わらず、第2電極で(僅かな)第2クロストーク電流が生じる可能性があるため、本発明に係る粒子ビーム機器のこの実施形態では、第2水晶フィルタユニットが設けられる。この第2水晶フィルタユニットは、第2電極で測定される第2電極電流のフィルタリングをするために機能する。第2電極電流とは、正味の第2測定電流及び第2クロストーク電流から成るものである。第2電極電流のフィルタリングに際しては、依然として残留している第2クロストーク電流がフィルタで除去される。第2水晶フィルタユニットは、例えば第1水晶フィルタユニットと同じ構成とする。従って、第1水晶フィルタユニットに関する記載を参照されたい。
【0025】
本発明に係る装置の他の実施形態において、第2変圧器及び第2電極の間には、少なくとも1個の第2可変コンデンサが配置される。更に、第2水晶フィルタユニットは、第2可変コンデンサ及び第2電極も接続される第2回路ノードに接続される。第2可変コンデンサは、基本的には共振同調コンデンサとして機能し、第2水晶フィルタユニットの共振周波数を蓄積周波数に同調させるものである(例えばこの場合、共振周波数は、蓄積周波数に正確に同調される)。
【0026】
基本的には、第2可変コンデンサを使用すれば、生じる可能性のある第2クロストーク電流の補償を調整することができる。本発明に係る装置においては、第2変圧器により、第2クロストーク電流に対する第1の粗補償が行われる。この第1の補償により、第2クロストーク電流が僅かな量に低減される。その後、第1の補償後に依然として残留している第2クロストーク電流は、第2可変コンデンサ及び第2水晶フィルタユニットによって完全に補償される。
【0027】
本発明に係る装置の他の実施形態において、装置は、第2電極で取り込まれる第2測定電流を増幅するための少なくとも1個の第2測定増幅器を備える。更に、第2励起信号を第2電極に発生させるための第2励起ユニットが設けられる。この場合、第2電極と、第2励起信号を第2電極に発生させるための第2励起ユニットとは、第2測定増幅器の入力端に接続される。この第2励起信号により、内部空間内に蓄積された1個又は複数個のイオンは振動を生じ、また、その際の周波数は個々のイオンの質量に依存する。この場合の振動により、第2電極において、第2測定電流をもたらす鏡像電荷が誘導される。
【0028】
本発明に係る装置の他の構成において、装置は、以下の特徴の少なくとも1つを有する。即ち、
・第2電極及び第2励起ユニットの間に第3スイッチが配置されるか、又は、
・第2励起ユニット及び第2測定増幅器の間に第4スイッチが配置される。
【0029】
第3スイッチ及び/又は第4スイッチによって、イオントラップにおける第1動作モード(即ち、通常の動作モード)と、第2動作モード(即ち、適合動作モード)との間で切り替えを行うことが可能である。例えば、第1動作モードにおいて、第3スイッチは第5切り替え状態にあり、及び/又は、第4スイッチは第6切り替え状態にある。第1動作モードでは、内部空間内に蓄積される1個又は複数個のイオンに関する情報を得るために、第2電極電流の測定、フィルタリング及び評価が行われる。例えば、第2動作モードにおいて、第3スイッチは第7切り替え状態にあり、及び/又は、第4スイッチは第8切り替え状態にある。適合動作モードでは、例えば第2励起信号、特にその振幅及び周波数の設定が行われる。この第1励起信号は、任意の時間的プロファイルを有することができる。この場合のプロファイルは、例えば正弦波状又はデルタ波状である。ただし本発明は、これら実施形態に限定されるものではなく、時間的プロファイルは、任意かつ適切なものとすることができる。
【0030】
本発明は、イオン発生ユニットを少なくとも1個と、少なくとも1個又は複数個のイオンの質量選択判定装置を少なくとも1個備える測定機器にも関し、この場合にイオンの質量選択判定装置は、本明細書に記載の特徴を少なくとも1つ有するか、又は本明細書に記載の少なくとも2つの特徴の組み合わせを有するものである。例えば、イオン発生ユニットは、少なくとも1個の照射ユニットを含み、この場合に照射ユニットは、荷電粒子を含む粒子ビーム又は光ビームを発生させる少なくとも1個のビーム発生器と、粒子ビーム又は光ビームを対象物上に入射させて少なくとも1個のイオンが発生するよう、粒子ビーム又は光ビームを対象物上に収束させる少なくとも1個の対物レンズとを有する。
【0031】
ただし、イオン発生ユニットは、イオンを対象物で発生させるための粒子ビーム又は光ビームの使用に限定されるものではない。対象物におけるイオンは、任意かつ適切な手段、例えばプラズマユニットによって発生させることも可能である。イオンは、例えば、本発明に係る装置に隣接する空間で発生させ、その後に本発明に係る装置内に導くことができる。
【0032】
以下、本発明を図面に関連する例示的な実施形態に基づいて詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】電子ビームカラム及びイオンを発生させるためのイオン発生ユニットを備える測定機器を示す第1概略図である。
図2図1に係る測定機器の実施形態を正面図として示す第2概略図である。
図3】粒子分析装置を示す概略図である。
図4】イオントラップの蓄積セルを示す概略断面図である。
図5図4に係るイオントラップを制御及び測定ユニットと共に示す詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、本発明に係る、イオンの質量選択判定装置を備える測定機器1の実施形態を示す。
【0035】
測定機器1は、イオンを発生させるための第1ビームカラム2、及び粒子ビームカラムとして構成された第2ビームカラム3を備える。この場合に第2ビームカラム3は、電子ビームカラムとして構成されている。第1ビームカラム2は、例えば、レーザビームユニットとして、イオンビームカラムとして又はプラズマユニットとして構成されている。更に、第1ビームカラム2及び第2ビームカラム3は、検査対象物16が配置された試料チャンバ49に配置されている。対象物16をレーザビーム又はイオンで照射することにより、二次イオンが発生する。この点は、以下においてより詳細に説明する。
【0036】
本発明は、第1ビームカラム2がイオンビームカラム又はレーザビームユニットとして構成され、第2ビームカラム3が電子ビームカラムとして構成されることに限定されるわけではなく、測定機器1は、イオンを対象物16で発生させるのに適した任意の構成とすることができる。
【0037】
本発明における他の実施形態において、第1ビームカラム2は電子ビームカラムとして、また第2ビームカラム3はイオンビームカラムとして構成することもできる。本発明における他の実施形態において、第1ビームカラム2及び第2ビームカラム3の何れもは、イオンビームカラムとして構成することができる。更に他の実施形態において、測定機器1には、1個のビームカラム、例えば第1ビームカラム2だけを設けることができる。この場合の第1ビームカラム2は、二次イオンを対象物16で発生させるために、例えばイオンビームカラム又はレーザビームユニットとして構成される。
【0038】
図2は、図1に係る測定機器1の実施形態を詳細図として示す。この場合に試料チャンバ49は、明瞭性を高める見地から図示していない。図2の実施形態において、第1ビームカラム2は、第1光軸4を有するイオンビームカラムとして構成されている。更に、電子ビームカラムとして構成された第2ビームカラム3は、第2光軸5を有する。
【0039】
以下においては、電子ビームカラムとして構成された第2電子ビームカラム3について先に説明する。第2ビームカラム3は、第2ビーム発生器6、第1電極7、第2電極8及び第3電極9を含む。この場合、例えば第2ビーム発生器6は、熱電界エミッタとする。第1電極7は、抑制電極としての機能を有するのに対して、第2電極8は、抽出電極としての機能を有する。第3電極9は、アノードとして構成されると共に、ビームガイド管10における一方の端部を構成している。第2ビーム発生器6によって、電子ビームである第2粒子ビームが発生される。この場合に第2ビーム発生器6から放出される電子は、第2ビーム発生器6及び第3電極9の間における電位差により、アノード電位、例えば1kV〜30kVの範囲で加速する。電子ビームである第2粒子ビームは、ビームガイド管10を通過して対象物16上に収束される。この点は、以下においてより詳細に説明する。
【0040】
ビームガイド管10は、第1環状コイル12及びヨーク13を含むコリメータアセンブリ11(図示の実施形態ではコンデンサ)を有する。第2ビーム発生器6から対象物16方向に見て、コリメータアセンブリ11の下方には、ピンホール絞り14と、ビームガイド管10内に中央開口17を有する検出器15とが第2光軸5に沿って配置されている。更に、ビームガイド管10は、第2対物レンズ18内の孔を通って延在している。この第2対物レンズ18は、第2粒子ビームを対象物16上に収束させるために機能する。この目的のため、第2対物レンズ18は、磁気レンズ19及び静電レンズ20を含む。磁気レンズ19には、第2環状コイル21,内側磁極片22及び外側磁極片23が設けられている。静電レンズ20は、ビームガイド管10における一方の端部24及び終端レンズ25を含む。ビームガイド管10の端部24及び終端レンズ25は、静電遅延ユニットを構成している。ビームガイド管10の端部24は、ビームガイド管10と共にアノード電位にあるのに対して、終端電極25及び対象物16は、アノード電位に比べてより低い電位にある。このようにして、第2粒子ビームの電子は、対象物16の検査に所望のエネルギに減速させることができる。更に、第2ビームカラム3は、第2ビームを偏向させて対象物16上で走査するための走査ユニット26を含む。
【0041】
ビームガイド管10内に配置された検出器15は、画像を得るために、二次イオン及び/又は第2粒子ビームと対象物16との相互作用によって生じる後方散乱電子を検出するのに使用される。検出器15が発生させる信号は、電子ユニット(図示せず)に伝送される。試料16は、試料キャリア(図示せず)上に配置され、その試料キャリアによって、互いに直交する3つの軸線(即ちx軸線、y軸線及びz軸線)で自由に移動可能である。更に、試料キャリアは、互いに直交する2つの回転軸線周りで回転させることができる。これにより、試料16を任意の位置に設定することが可能になる。
【0042】
上述したように、イオンビームカラムとして構成された第1ビームカラムは、参照符号2で表している。この場合に第1ビームカラム2は、イオン源として構成された第1ビーム発生器27を含む。第1ビーム発生器27は、イオンビームである第1粒子ビームを発生させるために機能する。更に、第1ビームカラム2には、抽出電極28及びコリメータ29が設けられている。対象物16方向におけるコリメータ29の下方には、可変絞り30が第1光軸4に沿って配置されている。第1粒子ビームは、収束レンズとして構成された第1対物レンズ31によって、対象物16上に収束される。更に、第1粒子ビームを対象物16上で走査するために、走査電極32が設けられている。
【0043】
図2は更に、図3においても概略側面図として示す粒子分析装置1000を示す。粒子分析装置1000は、抽出ユニット1100として構成された収集装置、エネルギ伝達装置1200、イオン伝達ユニット1300及び分析ユニット1400を含む。イオン伝達ユニット1300及び分析ユニット1400は、接続要素1001によって、試料チャンバ49に着脱可能に配置されている。これにより、異なる分析ユニットの使用が可能である。
【0044】
対象物16を第1粒子ビームで照射したときに放出される二次イオンは、抽出ユニット1100によって抽出される。その後、二次イオンは、エネルギ伝達装置1200に到達する。このエネルギ伝達装置1200は、2つの機能を満たすものである。即ち、一方では、二次イオンを抽出ユニット1100から分析ユニット1400方向に搬送する。他方では、二次イオンのエネルギを中性ガス粒子に伝達することにより、二次イオンを減速することも可能である。二次イオンは、エネルギ伝達装置1200を通過し、場合によって行われるその後の減速に引き続き、イオン伝達ユニット1300によって分析ユニット1400内に搬送される。図示の実施形態における分析ユニット1400(即ち検出ユニット)は、イオントラップ・質量分析器として構成されている。このイオントラップ・質量分析器については、図4においてより詳細に説明する。
【0045】
図4は、イオントラップ・質量分析器の蓄積セル1404を示す概略図である。図示の蓄積セル1404は、ポールトラップとして構成され、環状電極1401、第1端部キャップ電極1402及び第2端部キャップ電極1403を含む。この場合に環状電極1401は、第1軸線1407周りに回転対称的に配置されている。第1端部キャップ電極1402及び第2端部キャップ電極1403も、やはり第1回転軸線1407周りに回転対称的に配置されている。環状電極1401は開口1406を有し、二次イオンは、その開口1406を通過してイオン伝達ユニット1300から蓄積セル1404の内部空間1405内に取り込まれる。内部空間1405は、環状電極1401により、第1端部キャップ電極1402により、そして第2端部キャップ電極1403により包囲されている。
【0046】
図5は、制御ユニット及び測定ユニットを含めて、イオントラップの構造を詳細図として示す。まず、イオントラップが含む個々のユニット及びその配置について簡単に説明する。その後、個々のユニットの機能をより詳細に説明する。
【0047】
図5は、蓄積セル1404を示す。環状電極1401、第1端部キャップ電極1402及び第2端部キャップ電極1403を再度図示する。更に、本発明に係る測定機器1は、一次変圧器1409に接続された増幅器1408を備える。一次変圧器1409は、環状電極1401に接続されている。この場合の増幅器1408は、高周波蓄積信号を増幅するために機能する。この高周波蓄積信号は、一次変圧器1409によって環状電極1401に伝送される。その後、内部空間1405内に交流磁界が発生し、その交流磁界によって、1個又は複数個のイオンが蓄積セル1404の内部空間1405内に蓄積される。
【0048】
第1端部キャップ電極1402は、第1コンデンサ1410に接続され、その第1コンデンサ1410は、第1変圧器1411に接続されている。第2端部キャップ電極1403は、第2コンデンサ1412に接続され、その第2コンデンサ1412は、第2変圧器1413に接続されている。
【0049】
一次変圧器1409、第1変圧器1411及び第2変圧器1413は、同一の変圧器コア及び同一の一次巻線1428を有する。即ち図示の実施形態において、一次変圧器1409のみならず、第1変圧器1411及び第2変圧器1413にも同一の変圧器コア及び一次巻線1428が使用されている。一次変圧器1409は、第1二次巻線1429を有する。また、第1変圧器1411は、第1二次巻線1429とは異なる第2二次巻線1430を有する。更に、第2変圧器1413は、第1二次巻線1429及び第2二次巻線1430とは異なる第3二次巻線1431を有する。一方における第1二次巻線1429の巻線方向と、他方における第2二次巻線1430及び第3二次巻線1431の巻線方向とは異なっており、これら巻線は、例えば極性が逆になるよう巻かれている。
【0050】
更に、第1端部キャップ電極1402は、第1水晶フィルタユニット1414に接続され、第2端部キャップ電極1403は、第2水晶フィルタユニット1415に接続されている。
【0051】
これに加えて、本発明に係る測定機器1においては、第1端部キャップ電極1402に接続された第1測定増幅器1416が設けられている。第1端部キャップ電極1402及び第1測定増幅器1416の間には、第1励起ユニット1417が接続され、また第1端部キャップ電極1402及び第1励起ユニット1417の間には、第1スイッチ1418が接続されている。更に、第2スイッチ1419が、一方を第1端部キャップ電極1402及び第1励起ユニット1417の間に、他方を第1測定増幅器1416に、接続されている。第1測定増幅器1416には、第1フィルタ1420が後続接続され、その第1フィルタ1420には更に、第1信号増幅器1421が後続接続されている。なお、上述したスイッチは、本明細書に記載の測定特性及び励起特性が保証される限りは、他の位置に配置することも可能である。例えば、第2スイッチ1419は、第1測定増幅器1416及び第1信号増幅器1421の間に配置してもよい。
【0052】
本発明に係る測定機器1においては、第2端部キャップ電極1403に接続された第2測定増幅器1422が設けられている。第2端部キャップ電極1403及び第2増幅器1422の間には、第2励起ユニット1423が接続され、また第2端部キャップ電極1403及び第2励起ユニット1423の間には、第3スイッチ1424が接続されている。更に、第4スイッチ1425が、一方を第2端部キャップ電極1403及び第2励起ユニット1423の間に、他方を第2測定増幅器1422に、接続されている。第2測定増幅器1422には、第2フィルタ1426が後続接続され、その第2フィルタ1426には更に、第2信号増幅器1427が後続接続されている。
【0053】
高周波蓄積信号(即ち蓄積周波数)は、第1変圧器1411によって、位相を180°回転させた状態で第1端部キャップ電極1402に結合される。これにより、環状電極1401及び第1端部キャップ電極1402の間で電圧が生じることはほぼない。従って、環状電極1401及び第1端部キャップ電極1402の間でクロストーク電流が生じることもほぼない。そのため、潜在的なクロストーク電流は、高周波蓄積信号の位相を180°回転させた状態で結合することによって、基本的には最初からほぼ補償されている。ただしこのことは、(僅かな)第1クロストーク電流が依然として生じる可能性を排除するものではない。以下に説明するように、この場合の第1クロストーク電流は、フィルタで除去される。
【0054】
更に、高周波蓄積信号(即ち、蓄積周波数)は、第2変圧器1413によって、位相を180°回転させた状態で第2端部キャップ電極1403に結合される。これにより、環状電極1401及び第2端部キャップ電極1403の間で電圧が生じることはほぼない。従って、環状電極1401及び第2端部キャップ電極1403の間でクロストーク電流が生じることもほぼない。そのため、潜在的なクロストーク電流は、高周波蓄積信号の位相を180°回転させた状態で結合することによって、基本的には最初からほぼ補償されている。ただしこの場合も、(僅かな)第2クロストーク電流が依然として生じる可能性を排除することはできない。以下に説明するように、この場合の第2クロストーク電流は、フィルタで除去される。
【0055】
第1励起ユニット1417は、第1励起信号を発生させるために機能する。この第1励起信号により、内部空間1405内に蓄積された1個又は複数個のイオンは振動を生じ、また、その際の周波数は個々のイオンの質量に依存する。この場合の振動により、第1端部キャップ電極1402において、第1測定電流をもたらす鏡像電荷が誘導される。
【0056】
第2励起ユニット1423は、第2励起信号を発生させるために機能する。この第2励起信号により、内部空間1405内に蓄積された1個又は複数個のイオンはやはり振動を生じ、また、その際の周波数は個々のイオンの質量に依存する。この場合の振動により、第2端部キャップ電極1403において、第2測定電流をもたらす鏡像電荷が誘導される。
【0057】
上述したように、補償が行われるにも関わらず、第1端部キャップ電極1402で(僅かな)第1クロストーク電流が生じる可能性がある。その第1クロストーク電流をフィルタで除去するために、第1水晶フィルタユニット1414が測定機器1のイオントラップに配置されている。第1水晶フィルタユニット1414は、第1端部キャップ電極1402で測定される第1電極電流のフィルタリングをするために機能する。この場合の第1電極電流は、正味の第1測定電流(第1測定信号)及び第1クロストーク電流から成るものである。第1電極電流のフィルタリングに際しては、依然として残留しているクロストーク電流がフィルタで除去される。第1水晶フィルタユニット1414は、第1クロストーク電流を短絡させると共に、第1測定電流に対しては高インピーダンスを有するものである。第1水晶フィルタユニット1414は、例えば、水晶振動子を有する電気機械フィルタとして構成される。第1クロストーク電流をフィルタで除去すれば、第1電極電流には、イオントラップ内に蓄積されたイオンの情報を含む第1測定電流だけが残留することになる。
【0058】
更に、上述したように、補償が行われるにも関わらず、第2端部キャップ電極1403で(僅かな)第2クロストーク電流が生じる可能性がある。その第2クロストーク電流をフィルタで除去するために、第2水晶フィルタユニット1415が測定機器1のイオントラップに配置されている。第2水晶フィルタユニット1415は、第2端部キャップ電極1403で測定される第2電極電流のフィルタリングをするために機能する。この場合の第2電極電流は、正味の第2測定電流(第2測定信号)及び第2クロストーク電流から成るものである。第2電極電流のフィルタリングに際しては、依然として残留している第2クロストーク電流がフィルタで除去される。第2水晶フィルタユニット1415は、第2クロストーク電流を短絡させると共に、第2測定電流に対しては高インピーダンスを有するものである。第2水晶フィルタユニット1415は、例えば、水晶振動子を有する電気機械フィルタとして構成される。第2クロストーク電流をフィルタで除去すれば、第2電極電流には、イオントラップ内に蓄積されたイオンの情報を含む第2測定電流だけが残留することになる。
【0059】
第1可変コンデンサ1410は、基本的には共振同調コンデンサとして機能し、第1水晶フィルタユニット1414の共振周波数を蓄積周波数に同調させるものである。基本的には、第1可変コンデンサ1410を使用すれば、生じる可能性のある第1クロストーク電流の補償を調整することができる。同様のことは、第2可変コンデンサ1412についても当てはまる。即ち、第2可変コンデンサ1412は、基本的には共振同調コンデンサとして機能し、第2水晶フィルタユニット1415の共振周波数を蓄積周波数に同調させるものである。基本的には、第2可変コンデンサ1412を使用すれば、生じる可能性のある第2クロストーク電流の補償を調整することができる。
【0060】
本発明に係る測定機器1においては、第1変圧器1411により、第1クロストーク電流にに対する第1の粗補償が行われる。この第1の補償により、第1クロストーク電流が僅かな量に低減される。その後、第1の補償後に依然として残留している第1クロストーク電流は、第1可変コンデンサ1410及び第1水晶フィルタユニット1414によって補償される。本発明に係る測定機器1においては、第2変圧器1413により、第2クロストーク電流に対する第1の粗補償が行われる。この第1の補償により、第2クロストーク電流が僅かな量に低減される。その後、第1の補償後に依然として残留している第2クロストーク電流は、第2可変コンデンサ1412及び第2水晶フィルタユニット1415によって補償される。
【0061】
第1測定増幅器1416は、第1測定電流(第1測定信号)を増幅させるために機能する。増幅された第1測定電流は、その後、第1フィルタ1420によってフィルタリングされる。この第1測定電流のフィルタリングに際しては、高周波蓄積信号におけるクロストーク信号がフィルタで除去される。その後、第1フィルタ1420によってフィルタリングされた信号は、第1信号増幅器1421によって再び増幅され、評価(即ち、イオンの種類の確認)用の評価ユニット(図示せず)に伝送される。
【0062】
第2測定増幅器1422は、第2測定電流(第2測定信号)を増幅させるために機能する。増幅された第2測定電流は、その後、第2フィルタ1426によってフィルタリングされる。この場合も、第2測定電流のフィルタリングに際しては、高周波蓄積信号におけるクロストーク信号がフィルタで除去される。その後、第2フィルタ1426によってフィルタリングされた信号は、第2信号増幅器1427によって再び増幅され、評価(即ち、イオンの種類の確認)用の評価ユニット(図示せず)に伝送される。
【0063】
第1スイッチ1418及び/又は第2スイッチ1419によって、イオントラップにおける第1動作モード(即ち、通常の動作モード)と、第2動作モード(即ち、適合動作モード)との間で切り替えを行うことができる。例えば、第1動作モードでは、第1スイッチ1418は開いた状態にあるのに対して、第2スイッチ1419は閉じた状態にある。この第1動作モードでは、第1電極電流の測定、フィルタリング及び評価が行われる。
【0064】
第1動作モード(即ち、通常動作モード)において、第3スイッチ1424は開いた状態にあるのに対して、第4スイッチ1425は閉じた状態にある。この第1動作モードでは、第2電極電流の測定、フィルタリング及び評価が行われる。
【0065】
第2動作モード(即ち、適合動作モード)において、第1スイッチ1418は閉じた状態にあるのに対して、第2スイッチ1419は開いた状態にある。同様のことは、第3スイッチ1424及び第4スイッチ1425についても当てはまる。即ち、第2動作モード(即ち、適合動作モード)において、第3スイッチ1424は閉じた状態にあるのに対して、第4スイッチ1425は開いた状態にある。適合動作モードでは、第1励起信号及び第2励起信号(例えばその振幅及び周波数)の設定が行われる。上述したように、第1励起信号及び第2励起信号は、任意の時間的プロファイルを有することができる。
【0066】
本明細書、図面及び特許請求の範囲に開示された本発明の特徴は、種々の実施形態の実現にとって、個別のものとしてのみならず、任意の組み合わせとしても重要であり得る。
【符号の説明】
【0067】
1 測定機器
2 第1ビームカラム
3 第2ビームカラム
4 第1光軸
5 第2光軸
6 第2ビーム発生器
7 第1電極
8 第2電極
9 第3電極
10 ビームガイド管
11 コリメータアセンブリ
12 第1環状コイル
13 ヨーク
14 ピンホール絞り
15 検出器
16 対象物
17 中央開口
18 第2対物レンズ
19 磁気レンズ
20 静電レンズ
21 第2環状コイル
22 内側磁極片
23 外側磁極片
24 ビームガイド管の端部
25 終端電極
26 走査ユニット
27 第1ビーム発生器
28 抽出電極
29 コリメータ
30 可変絞り
31 第1対物レンズ
32 走査電極
49 試料チャンバ
1000 粒子分析装置
1001 試料チャンバの接続要素
1100 抽出ユニット
1200 エネルギ伝達装置
1300 イオン伝達ユニット
1400 分析ユニット
1401 環状電極
1402 第1端部キャップ電極
1403 第2端部キャップ電極
1404 蓄積セル
1405 第2内部空間(蓄積セル)
1406 開口
1407 第1軸線
1408 増幅器
1409 一次変圧器
1410 第1コンデンサ
1411 第1変圧器
1412 第2コンデンサ
1413 第2変圧器
1414 第1水晶フィルタユニット
1415 第2水晶フィルタユニット
1416 第1測定増幅器
1417 第1励起ユニット
1418 第1スイッチ
1419 第2スイッチ
1420 第1フィルタ
1421 第1信号増幅器
1422 第2測定増幅器
1423 第2励起ユニット
1424 第3スイッチ
1425 第4スイッチ
1426 第2フィルタ
1427 第2信号増幅器
1428 一次巻線
1429 第1二次巻線
1430 第2二次巻線
1431 第3二次巻線
図1
図2
図3
図4
図5