(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0012】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、ポリオレフィン多孔質フィルム(以下、多孔質フィルムということがある)を含む非水電解液二次電池用セパレータ(以下、セパレータということがある)と、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(以下、PVDF系樹脂とも称する)を含有する多孔質層と、測定面積900mm
2当たりの静電容量が、1nF以上、1000nF以下である正極板と、測定面積900mm
2当たりの静電容量が、4nF以上、8500nF以下である負極板と、を備え、前記ポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下したジエチルカーボネート(以下、DECということがある)の減少速度(以下、減少速度ということがある)が、15秒/mg〜21秒/mgであり、前記ポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下して10秒後のジエチルカーボネートのスポット径(以下、スポット径ということがある)が20mm以上であり、かつ、前記多孔質層は、前記非水電解液二次電池用セパレータと前記正極板及び/または前記負極板(前記正極板及び前記負極板の少なくともいずれか)との間に配置されており、前記多孔質層に含まれる前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、前記α型結晶の含有量が、35.0モル%以上である。
(ここで、α型結晶の含有量は、前記多孔質層の
19F−NMRスペクトルにおける、−7
8ppm付近にて観測される(α/2)の波形分離、および、−95ppm付近にて観測される{(α/2)+β}の波形分離から算出される。)
本明細書において、「測定面積」とは後述する静電容量の測定方法において、LCRメーターの測定用電極(上部(主)電極またはプローブ電極)における、測定対象(正極板または負極板)と接している箇所の面積を意味する。従って、測定面積Xmm
2当たりの静電容量の値とは、LCRメーターにおいて、測定対象と測定用電極とを、両者が重なっている箇所の当該測定用電極の面積がXmm
2となるように、接触させて静電容量を測定した場合の測定値を意味する。
【0013】
<静電容量>
本発明において、正極板の静電容量は、後述する電極板の静電容量の測定方法において、正極板の正極活物質層側の面に測定用電極(プローブ電極)を接触させて測定する値であり、主に正極板の正極活物質層の分極状態を表す。
【0014】
また、本発明において、負極板の静電容量は、後述する電極板の静電容量の測定方法において、負極板の負極活物質層側の面に測定用電極を接触させて測定する値であり、主に負極板の負極活物質層の分極状態を表す。
【0015】
非水電解液二次電池においては、放電時、負極板から電荷担体としてのイオンが、放出され、当該イオンは、非水電解液二次電池用セパレータを通過し、その後、正極板に取り込まれる。このとき、前記イオンは、負極板中および負極板の表面で電解液溶媒によって溶媒和され、正極板中および正極板の表面で脱溶媒和される。なお、前記イオンは、例えば非水電解液二次電池がリチウムイオン二次電池である場合は、Li
+である。
【0016】
そのため、上述のイオンの溶媒和の程度は、負極板の負極活物質層の分極状態に影響され、また、上述のイオンの脱溶媒和の程度は、正極板の正極活物質層の分極状態に影響される。
【0017】
従って、負極板および正極板の静電容量を好適な範囲に制御すること、すなわち、負極活物質層および正極活物質層の分極状態を好適な状態に調整することによって、上述の溶媒和および脱溶媒和を適度に促進させることができる。これにより、電荷担体としてのイオンの透過性を向上させることができるとともに、非水電解液二次電池の内部抵抗を低減させ、とりわけ時間率が3C以上の大電流の放電電流を印加した場合において、当該非水電解液二次電池の放電出力特性を高くすることができる。
【0018】
上述の観点から、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池における負極板においては、測定面積900mm
2当たりの静電容量が、4nF以上、8500nF以下であり、4nF以上、3000nF以下であることが好ましく、4nF以上、2600nF以下であることがより好ましい。また、前記静電容量の下限値は、100nF以上でもよく、200nF以上でもよく、1000nF以上でもよい。
【0019】
具体的には、前記負極板における、測定面積900mm
2当たりの静電容量が4nF未満の場合、当該負極板の分極能が低く、上述の溶媒和の促進にほとんど寄与しない。それゆえに、当該負極板を組み込んだ非水電解液二次電池において出力特性の向上は起こらない。一方、前記負極板における、測定面積900mm
2当たりの静電容量が8500nFより大きい場合、当該負極板の分極能が高くなり過ぎ、当該負極板の空隙の内壁とイオンとの親和性が高くなり過ぎるため、当該負極板からのイオンの移動(放出)が阻害される。それゆえに、当該負極板を組み込んだ非水電解液二次電池において、その出力特性はかえって低下する。
【0020】
また、上述の観点から、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池における正極板においては、測定面積900mm
2当たりの静電容量が、1nF以上、1000nF以下であり、2nF以上、600nF以下であることが好ましく、2nF以上、400nF以下であることがより好ましい。また、前記静電容量の下限値は、3nF以上でもよい。
【0021】
具体的には、前記正極板において、測定面積900mm
2当たりの静電容量が1nF未満である場合、当該正極板の分極能が低く、前記脱溶媒和にほとんど寄与しない。それゆえに、当該正極板組み込んだ非水電解液二次電池において出力特性の向上は起こらない。一方、前記正極板において、測定面積900mm
2当たりの静電容量が1000nFより大きい場合、当該正極板の分極能が高くなり過ぎ、前記脱溶媒和が過剰に進行し、正極板内部を移動するための溶媒が脱溶媒和されると共に、正極板内部の空隙内壁と脱溶媒和したイオンとの親和性が高くなり過ぎるため、正極板内部におけるイオンの移動が阻害される。それゆえに、当該正極板を組み込んだ非水電解液二次電池において、その出力特性はかえって低下する。
【0022】
<静電容量の調整方法>
正極板および負極板の前記静電容量は、それぞれ、正極活物質層および負極活物質層の表面積を調整することによって制御することができる。具体的には、例えば、正極活物質層および負極活物質層の表面を紙やすり等にて削ることによって、前記表面積を増大させ、静電容量を増大させることができる。あるいは、正極板および負極板の前記静電容量は、正極板および負極板の各々を構成する材料の比誘電率を調整することによって調整することもできる。前記比誘電率は、正極板および負極板の各々において、空隙の形状、空隙率、および空隙の分布を変えることにより、調整することができる。また、比誘電率は、正極板および負極板の各々を構成する材料を調整することによっても制御し得る。
【0023】
<電極板の静電容量の測定方法>
本発明の一実施形態における、測定面積900mm
2当たりの電極板(正極または負極)の静電容量は、LCRメーターを用いて、CV:0.010V、SPEED:SLOW2、AVG:8、CABLE:1m、OPEN:All,SHORT:All DCBIAS 0.00Vに設定し、周波数:300KHzの条件下で、測定される。
【0024】
なお、前記測定においては、非水電解液二次電池に組み込む前の電極板の静電容量を測定している。一方、静電容量は固体絶縁材料(電極板)の形状(表面積)、構成材料、空隙の形状、空隙率、および空隙の分布等によって決定される、固有の値であるため、非水電解液二次電池に組み込んだ後の電極の静電容量もまた、非水電解液二次電池に組み込む前に測定した静電容量の値と同等の値となる。
【0025】
また、非水電解液二次電池に組み込んだ後に充放電の履歴を経た電池から正極板および負極板を取り出し、当該正極板および当該負極板の静電容量を測定することもできる。具体的には、例えば、非水電解液二次電池について外装部材から電極積層体(非水電解液二次電池用部材)を取り出して展開し、1枚の電極板(正極板または負極板)を取り出し、前述の電極板の静電容量の測定方法において測定対象とする電極板と同様のサイズに切りだして試料片を得る。その後、当該試験片をジエチルカーボネート(以下、DECということがある)中にて数回(例えば、3回)洗浄する。上述の洗浄は、DEC中に試験片を加えて洗浄した後、DECを新たなDECに入れ替えて試験片を洗浄する工程を数回(例えば、3回)繰り返すことで、電極板の表面に付着する電解液および電解液分解生成物、リチウム塩などを除去する工程である。得られた洗浄済みの電極板を十分乾燥させた後に、測定対象電極として用いる。取り出し対象となる電池の外装部材、積層構造の種類を問わない。
【0026】
<ポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下したジエチルカーボネートの減少速度>
本明細書において、「ポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下したジエチルカーボネートの減少速度」とは、ポリオレフィン多孔質フィルム上にDECを滴下した場合の、当該DECの蒸発速度を示し、以下の測定条件の下、以下の方法によって測定される。
測定条件:大気圧;室温(約25℃);湿度60〜70%;風速0.2m/s以下;
測定方法:
(i)多孔質フィルムを50mm×50mm角の正方形に切り出し、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板上に載せ、前記多孔質フィルムを載せたPTFE板を分析天秤に載せてゼロ点補正する。
(ii)先端にピペットチップを装着したマイクロピペットを用いて、DEC20mLを測り取る。
(iii)(i)にてゼロ点補正した前記分析天秤に載せた多孔質フィルムの上方、高さ5mmの位置から、前記多孔質フィルムの中心部に向けて、(ii)にて測り取ったDECを20μL滴下した後、分析天秤の目盛、すなわちDECの重量を測定する。
(iv)(iii)にて測定したDECの重量が15mgから5mgになるまでの時間を測定し、測定された時間をDECの重量変化量(10mg)にて割ることにより、「ポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下したジエチルカーボネートの減少速度」(秒/mg)を算出する。
【0027】
本発明の一実施形態に係る多孔質フィルムは、前記多孔質フィルム上に滴下したジエチルカーボネートの減少速度が、15秒/mg〜21秒/mgであり、好ましくは、16秒/mg〜20秒/mgであり、より好ましくは、17秒/mg〜19秒/mgである。
【0028】
多孔質フィルム上に滴下したジエチルカーボネートの減少速度が、15秒/mgよりも小さいことは、当該多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータまたは後述する当該多孔質フィルムを含む積層セパレータを用いて、非水電解液二次電池を構成した場合に、多孔質フィルムの保液性が乏しいことを示す。その結果、非水電解液二次電池内にて液枯れが発生し易くなる。また、多孔質フィルム上に滴下したジエチルカーボネートの減少速度が、21秒/mgよりも大きいことは、当該多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータまたは後述する当該多孔質フィルムを含む積層セパレータを用いて非水電解液二次電池を構成した場合に、多孔質フィルムの空孔(空隙)内における、流体(DEC等の電解液、充放電時に電池内にて電解液から発生するガス)の移動速度が遅いことを示す。その結果、充放電時の電極への電解液供給不足による液枯れ、および前記発生ガスの前記空隙内への滞留に伴う、当該セパレータのイオン透過抵抗の増大(イオン透過性の減少)を招く。
【0029】
<ポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下して10秒後のジエチルカーボネートのスポット径>
本明細書において、「ポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下して10秒後のジエチルカーボネートのスポット径」とは、多孔質フィルム上にDECを20μL滴下してから10秒間経過後に、当該多孔質フィルムに残るDECの滴下跡の直径を示し、以下の測定条件の下、以下の方法によって測定される。
測定条件:大気圧;室温(約25℃);湿度60〜70%;風速0.2m/s以下;
測定方法:上述の「ポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下したジエチルカーボネートの減少速度」の測定方法における工程(i)〜(iii)と同様の工程を行い、多孔質フィルムの上方、高さ5mmの位置から、前記多孔質フィルムの中心部に向けて、DECを20μL滴下し、10秒間経過後に、当該多孔質フィルムに残るDECの滴下跡の直径を測定する。
【0030】
本発明の一実施形態における多孔質フィルムは、多孔質フィルム上に滴下して10秒後のジエチルカーボネートのスポット径が、20mm以上であり、好ましくは21mm以上、より好ましくは22mm以上である。また、前記スポット径は、30mm以下であることが好ましい。
【0031】
多孔質フィルム上に滴下して10秒後のジエチルカーボネートのスポット径が、20mmより小さいことは、滴下したDECが多孔質フィルム内部の空隙に取り込まれる速度が遅く、多孔質フィルムの電解液(DECなど)との親和性が低いことを示し、従って、当該多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータまたは後述する当該多孔質フィルムを含む積層セパレータを用いて非水電解液二次電池を構成した場合に、多孔質フィルム内におけるDEC等の電解液の移動速度、特に充放電時の電極合材層から多孔質フィルム内部への取り込み速度が遅くなるとともに、多孔質フィルム内部への電解液浸透力低下にともない、多孔質フィルム内部における保液量が低下するため、電池充放電を繰り返す事で、セパレータと電極との界面や多孔基材内部に局所的な電解液枯渇部が発生し易くなる。その結果、電池内部の抵抗値の増大を招き、非水電解液二次電池のサイクル特性が低下する。また、多孔質フィルム上に滴下して10秒後のジエチルカーボネートのスポット径が、30mmより大きいことは、当該多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータまたは後述する当該多孔質フィルムを含む積層セパレータを用いて非水電解液二次電池を構成した場合に、多孔質フィルムと電解液との親和性が高くなり過ぎ、多孔質フィルム内部に電解液が保持され易くなり過ぎることを示す。その結果、充放電時の電極への電解液供給不足による液枯れが生じ易くなる。
【0032】
尚、多孔質フィルムに多孔質層などのその他の層が積層されている場合、当該多孔質フィルムの物性値は、多孔質フィルムとその他の層とを含む積層体から、当該その他の層を取り除いて測定することができる。積層体からその他の層を取り除く方法としては、N−メチルピロリドンまたはアセトン等の溶剤によってその他の層を構成する樹脂を溶解除去する方法などが挙げられる。
【0033】
また、上述のジエチルカーボネートの減少速度、および上述のスポット径の測定において、多孔質フィルム表面に樹脂粉や無機物等の付着物が存在する場合などは、必要に応じ測定前に多孔質フィルムをDEC等の有機溶剤および/または水に浸漬し、前記付着物等を洗浄除去した後、溶剤や水を乾燥する等の前処理を行ってもよい。
【0034】
上述のジエチルカーボネートの減少速度、および上述のスポット径を制御する方法としては、後述するポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法において、「Tダイ押出温度」および「延伸後熱固定温度」を特定の範囲とする方法が挙げられる。
【0035】
<非水電解液二次電池用セパレータ>
本発明の一実施形態における非水電解液二次電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムを含む。
【0036】
前記多孔質フィルムは、単独で非水電解液二次電池用セパレータとなり得る。また、後述する多孔質層が積層された非水電解液二次電池用積層セパレータの基材ともなり得る。前記多孔質フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とし、その内部に連結した細孔を多数有しており、一方の面から他方の面に気体および液体を通過させることが可能となっている。
【0037】
本発明の一実施形態における非水電解液二次電池用セパレータは、少なくとも一方の面上に、後述するポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する多孔質層が積層され得る。この場合、前記非水電解液二次電池用セパレータの少なくとも一方の面上に、前記多孔質層が積層されてなる積層体を、本明細書において、「非水電解液二次電池用積層セパレータまたは積層セパレータ」と称する。また、本発明の一実施形態における非水電解液二次電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムの他に、接着層、耐熱層、保護層等のその他の層をさらに備えていてもよい。
【0038】
(ポリオレフィン多孔質フィルム)
多孔質フィルムに占めるポリオレフィンの割合は、多孔質フィルム全体の50体積%以上であり、90体積%以上であることがより好ましく、95体積%以上であることがさらに好ましい。また、前記ポリオレフィンには、重量平均分子量が5×10
5〜15×10
6の高分子量成分が含まれていることがより好ましい。特に、ポリオレフィンに重量平均分子量が100万以上の高分子量成分が含まれていると、非水電解液二次電池用セパレータの強度が向上するのでより好ましい。
【0039】
熱可塑性樹脂である前記ポリオレフィンとしては、具体的には、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン等の単量体を(共)重合してなる、単独重合体(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン)または共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体)が挙げられる。
【0040】
このうち、過大電流が流れることをより低温で阻止(シャットダウン)することができるため、ポリエチレンがより好ましい。当該ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン−α−オレフィン共重合体)、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレン等が挙げられ、このうち、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンがさらに好ましい。
【0041】
多孔質フィルムの膜厚は、4〜40μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましく、6〜15μmであることがさらに好ましい。
【0042】
多孔質フィルムの単位面積当たりの目付は、強度、膜厚、重量、およびハンドリング性を考慮して適宜決定すればよいものの、多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用積層セパレータを非水電解液二次電池に用いた場合の当該電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができるように、4〜20g/m
2であることが好ましく、4〜12g/m
2であることがより好ましく、5〜10g/m
2であることがさらに好ましい。
【0043】
多孔質フィルムの透気度は、ガーレ値で30〜500sec/100mLであることが好ましく、50〜300sec/100mLであることがより好ましい。多孔質フィルムが前記透気度を有することにより、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0044】
多孔質フィルムの空隙率は、電解液の保持量を高めると共に、過大電流が流れることをより低温で確実に阻止(シャットダウン)する機能を得ることができるように、20〜80体積%であることが好ましく、30〜75体積%であることがより好ましい。また、多孔質フィルムが有する細孔の孔径は、充分なイオン透過性を得ることができ、かつ、正極や負極への粒子の入り込みを防止することができるように、0.3μm以下であることが好ましく、0.14μm以下であることがより好ましい。
【0045】
(ポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法)
本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法としては、特に限定されず、種々の方法が挙げられる。
【0046】
例えば、ポリオレフィン系樹脂組成物を特定のTダイ押出温度にて、Tダイからシート状に押し出す工程、および特定の熱固定温度にて熱固定を行い、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするポリオレフィン多孔質フィルムを得る工程と、前記工程以外の工程として、ポリオレフィン多孔質フィルム(多孔質膜)を製造するための一般的な方法に含まれ得る適当な工程を組み合わせた方法であり得る。前記適当な工程としては、例えば、ポリオレフィン等の樹脂に可塑剤を加えて膜を成形した後、可塑剤を適当な溶媒で除去してポリオレフィン多孔質フィルムを形成する方法が挙げられる。
【0047】
具体的には、例えば、超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量が1万以下の低分子量ポリオレフィンとを含むポリオレフィン樹脂を用いてポリオレフィン多孔質フィルムを製造する場合には、製造コストの観点から、以下に示す方法によって当該ポリオレフィン多孔質フィルムを製造することが好ましい。
(1)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量が1万以下の低分子量ポリオレフィン5〜200重量部と、孔形成剤100〜400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、
(2)前記ポリオレフィン樹脂組成物を用いて、特定のTダイ押出温度にて、Tダイからシートを成形する工程、
次いで、
(3)工程(2)で得られたシートから孔形成剤を除去する工程、
(4)工程(3)で孔形成剤を除去したシートを延伸する工程、
(5)工程(4)にて延伸されたシートに対して、特定の熱固定温度にて熱固定を行い、ポリオレフィン多孔質フィルムを得る工程。
或いは、
(3’)工程(2)で得られたシートを延伸する工程、
(4’)工程(3’)にて延伸されたシートから孔形成剤を除去する工程、
(5’)工程(4’)にて得られたシートに対して、特定の熱固定温度にて熱固定を行い、ポリオレフィン多孔質フィルムを得る工程。
【0048】
前記孔形成剤としては、無機充填剤および可塑剤などが挙げられる。
【0049】
前記無機充填剤としては特に限定されるものではなく、酸を含有する水系溶剤、アルカリを含有する水系溶剤、主に水からなる水系溶剤にそれぞれ溶解しうる無機フィラーなどが挙げられる。酸を含有する水系溶剤に溶解しうる無機フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられ、安価で微細な粉末が得やすい点から炭酸カルシウムが好ましい。アルカリを含有する水系溶剤に溶解しうる無機フィラーとしては、例えば、珪酸、酸化亜鉛等が挙げられ、安価で微細な粉末が得やすいので珪酸が好ましい。主に水からなる水系溶剤に溶解しうる無機フィラーとしては、例えば、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
【0050】
前記可塑剤としては特に限定されるものではなく、流動パラフィン等の低分子量の炭化水素が挙げられる。
【0051】
前記工程(2)におけるTダイ押出温度は、ポリオレフィン樹脂組成物をシート状に押し出す際のTダイの温度であり、245℃以上、280℃以下が好ましく、245℃以上、260℃以下がより好ましい。
【0052】
Tダイ押出温度が上述の範囲であることが、得られるシートを構成する樹脂が適度に酸化され、電解液に対する親和性が向上する面において好ましい。より詳細には、Tダイ押出温度を高くする、例えば、245℃以上とすることによって、前記シートを構成する樹脂の酸性度を向上させ、電解液との親和性を向上させ、得られる多孔質フィルムの電解液に対する保液性を向上させることができる。一方、Tダイ押出温度を低くする、例えば、280℃以下とすることによって、前記シートを構成する樹脂の酸性度の向上を抑制し、電解液との親和性を低下させ、得られる多孔質フィルムの電解液に対する保液性が過度に向上することを抑制することができる。従って、Tダイ押出温度を適当な範囲に調節することによって、前記樹脂と電解液との親和性を適切に調節することができ、その結果、得られる多孔質フィルムの電解液に対する保液性が適度に向上する。
【0053】
前記工程(5)および(5’)における熱固定温度は、100℃以上、125℃以下が好ましく、100℃以上、120℃以下がより好ましい。
【0054】
熱固定温度が上述の範囲であることが、得られる多孔質フィルム内部の空孔(空隙)の孔径、孔路(くねり度)が制御され、多孔質フィルム内部における電解液の蒸発速度(電解液の移動)が制御される面において好ましい。より詳細には、熱固定温度を高くする、例えば、100℃以上とすることによって、多孔質フィルム内部の空孔の孔径を大きく、孔路を短くすることができ、多孔質フィルム内部における電解液の蒸発速度(電解液の移動速度)を大きくする、すなわち、得られる多孔質フィルムの電解液に対する保液性が過度に向上することを抑制することができる。一方、熱固定温度を低くする、例えば、125℃以下とすることによって、多孔質フィルム内部の空孔の孔径を小さく、孔路を長くすることができ、多孔質フィルム内部における電解液の蒸発速度(電解液の移動速度)を小さくする、すなわち、得られる多孔質フィルムの電解液に対する保液性を向上させることができる。従って、熱固定温度を適当な範囲に調節することによって、前記樹脂と電解液との親和性を適切に調節することができ、その結果、得られる多孔質フィルムの保液性、前記空隙における流体の移動速度を、規定範囲に抑えることができる。
【0055】
前記Tダイ押出温度および熱固定温度が上述の範囲であることによって、製造される多孔質フィルムの電解液に対する保液性、内部の空隙における流体移動速度が好ましい範囲に制御され、多孔質フィルム上に滴下したジエチルカーボネートの減少速度が、15秒/mg〜21秒/mgであり、かつ、多孔質フィルム上に滴下して10秒後のジエチルカーボネートのスポット径が20mm以上である多孔質フィルムが製造され得る。
【0056】
(多孔質層)
多孔質層は、非水電解液二次電池を構成する部材として、前記非水電解液二次電池用セパレータと、前記正極板および前記負極板の少なくともいずれかとの間に配置されている。前記多孔質層は、非水電解液二次電池用セパレータの片面または両面に形成され得る。或いは、前記多孔質層は、前記正極板および前記負極板の少なくともいずれかの活物質層上に形成され得る。或いは、前記多孔質層は、前記非水電解液二次電池用セパレータと、前記正極板および前記負極板の少なくともいずれかとの間に、これらと接するように配置されてもよい。非水電解液二次電池用セパレータと、正極板および負極板の少なくともいずれかと、の間に配置される多孔質層は、1層でもよく2層以上であってもよい。
【0057】
多孔質層は、樹脂を含む絶縁性の多孔質層であることが好ましい。
【0058】
前記多孔質層に含まれ得る樹脂は、電池の電解液に不溶であり、また、その電池の使用範囲において電気化学的に安定であることが好ましい。多孔質フィルムの片面に多孔質層が積層される場合には、当該多孔質層は、好ましくは、多孔質フィルムにおける非水電解液二次電池の正極板と対向する面に積層され、より好ましくは、前記正極板と接する面に積層される。
【0059】
本発明の一実施形態における多孔質層は、PVDF系樹脂を含有する多孔質層であって、前記PVDF系樹脂中の、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、前記α型結晶の含有量が、35.0モル%以上である。
【0060】
ここで、α型結晶の含有量は、前記多孔質層の
19F−NMRスペクトルにおける、−7
8ppm付近にて観測される(α/2)の波形分離、および、−95ppm付近にて観測される{(α/2)+β}の波形分離から算出される。
【0061】
多孔質層は、内部に多数の細孔を有し、これら細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体或いは液体が通過可能となった層である。また、本発明の一実施形態における多孔質層が非水電解液二次電池用積層セパレータを構成する部材として使用される場合、前記多孔質層は、当該セパレータの最外層として、電極と接着する層となり得る。
【0062】
PVDF系樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデンのホモポリマー;フッ化ビニリデンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体;これらの混合物;が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、トリクロロエチレン、フッ化ビニル等が挙げられ、1種類または2種類以上を用いることができる。PVDF系樹脂は、乳化重合または懸濁重合で合成し得る。
【0063】
PVDF系樹脂は、その構成単位としてフッ化ビニリデンが通常、85モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上含まれている。フッ化ビニリデンが85モル%以上含まれていると、電池製造時の加圧や加熱に耐え得る機械的強度と耐熱性とを確保し易い。
【0064】
また、多孔質層は、例えば、ヘキサフルオロプロピレンの含有量が互いに異なる2種類のPVDF系樹脂(下記第一の樹脂と第二の樹脂)を含有する態様も好ましい。
・第一の樹脂:ヘキサフルオロプロピレンの含有量が0モル%を超え、1.5モル%以下であるフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、またはフッ化ビニリデン単独重合体。
・第二の樹脂:ヘキサフルオロプロピレンの含有量が1.5モル%を超えるフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体。
【0065】
前記2種類のPVDF系樹脂を含有する多孔質層は、何れか一方を含有しない多孔質層に比べて、電極との接着性が向上する。また、前記2種類のPVDF系樹脂を含有する多孔質層は、何れか一方を含有しない多孔質層に比べて、非水電解液二次電池用セパレータを構成する他の層(例えば、多孔質フィルム層)との接着性が向上し、これら層間の剥離力が向上する。第一の樹脂と第二の樹脂との質量比は、15:85〜85:15の範囲が好ましい。
【0066】
PVDF系樹脂は、重量平均分子量が20万〜300万の範囲であることが好ましく、より好ましくは20万〜200万の範囲であり、さらに好ましくは50万〜150万の範囲である。重量平均分子量が20万以上であると、多孔質層と電極との十分な接着性が得られる傾向がある。一方、重量平均分子量が300万以下であると、成形性に優れる傾向がある。
【0067】
本発明の一実施形態における多孔質層は、PVDF系樹脂以外の他の樹脂として、スチレン−ブタジエン共重合体;アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のビニルニトリル類の単独重合体または共重合体;ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル類;等を含み得る。
【0068】
本発明の一実施形態における多孔質層は、フィラーを含み得る。前記フィラーは、無機フィラーまたは有機フィラーであり得る。前記フィラーの含有量は、前記PVDF系樹脂および前記フィラーの総量に占める前記フィラーの割合が、1質量%以上、99質量%以下であることが好ましく、10質量%以上、98質量%以下であることがより好ましい。前記フィラーの割合の下限値は、50質量%以上でもよく、70質量%以上でもよく、90質量%以上でもよい。有機フィラー及び無機フィラーは、従来公知のものを使用することができる。
【0069】
本発明の一実施形態における多孔質層の平均膜厚は、電極との接着性および高エネルギー密度を確保する観点から、一層あたり0.5μm〜10μmの範囲であることが好ましく、1μm〜5μmの範囲であることがより好ましい。
【0070】
多孔質層の膜厚は、一層あたり0.5μm未満であると、非水電解液二次電池の破損等による内部短絡を抑制することができ、また、多孔質層における電解液の保持量が充分となるため好ましい。
【0071】
一方、多孔質層の膜厚が一層あたり10μmを超えると、非水電解液二次電池において、非水電解液二次電池用積層セパレータ全域におけるリチウムイオンの透過抵抗が増加するので、サイクルを繰り返すと非水電解液二次電池の正極が劣化し、レート特性やサイクル特性が低下する。また、正極および負極間の距離が増加するので非水電解液二次電池の内部容積効率が低下する。
【0072】
本実施形態における多孔質層は、非水電解液二次電池用セパレータと正極板が備える正極活物質層との間に配置されるのが好ましい。多孔質層の物性に関する下記説明においては、非水電解液二次電池としたときに、非水電解液二次電池用セパレータと正極板が備える正極活物質層との間に配置された多孔質層の物性を少なくとも指す。
【0073】
多孔質層の単位面積当たりの目付は、非水電解液二次電池用積層セパレータの強度、膜厚、重量、およびハンドリング性を考慮して適宜決定すればよい。非水電解液二次電池用積層セパレータにおける多孔質層の単位面積当たりの目付は、通常、一層あたり0.5〜20g/m
2であることが好ましく、0.5〜10g/m
2であることがより好ましい。
【0074】
多孔質層の単位面積当たりの目付をこれらの数値範囲とすることにより、当該多孔質層を備えた非水電解液二次電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができる。多孔質層の目付が前記範囲を超える場合には、非水電解液二次電池が重くなる。
【0075】
多孔質層の空隙率は、充分なイオン透過性を得ることができるように、20〜90体積%であることが好ましく、30〜80体積%であることがより好ましい。また、多孔質層が有する細孔の孔径は、1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。細孔の孔径をこれらのサイズとすることにより、当該多孔質層を含む非水電解液二次電池用積層セパレータを備える非水電解液二次電池は、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0076】
前記非水電解液二次電池用積層セパレータの透気度は、ガーレ値で30〜1000 sec/100mLであることが好ましく、50〜800 sec/100mLであることがより好ましい。非水電解液二次電池用積層セパレータは、前記透気度を有することにより、非水電解液二次電池において、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0077】
透気度が前記範囲
未満の場合には、非水電解液二次電池用積層セパレータの空隙率が高いために非水電解液二次電池用積層セパレータの積層構造が粗になっていることを意味し、結果として非水電解液二次電池用積層セパレータの強度が低下して、特に高温での形状安定性が不充分になるおそれがある。一方、透気度が前記範囲
を超える場合には、非水電解液二次電池用積層セパレータは、充分なイオン透過性を得ることができず、非水電解液二次電池の電池特性を低下させることがある。
【0078】
(PVDF系樹脂の結晶形)
本発明の一実施形態に使用される多孔質層に含まれるPVDF系樹脂において、α型結晶およびβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合のα型結晶の含有量は、35.0モル%以上であり、好ましくは37.0モル%以上であり、より好ましくは40.0モル%以上であり、さらに好ましくは44.0モル%以上である。また、好ましくは90.0モル%以下である。前記α型結晶の含有量が上述の範囲である前記多孔質層は、ハイレート放電後の充電容量の維持に優れた非水二次電池、特に非水二次電池用積層セパレータまたは非水電解液二次電池用電極を構成する部材として好適に利用される。
【0079】
非水電解液二次電池は、充放電時に電池の内部抵抗により発熱し、発熱量は電流が大きい程、換言すると高レート条件ほど大きくなる。PVDF系樹脂の融点は、α型結晶の方が、β型結晶よりも高く、熱による塑性変形を起し難い。また、β型結晶はF原子が一方に並ぶ構造をとるため、α型結晶に比べ分極性が高いことが知られている、
本発明の一実施形態における多孔質層では、多孔質層を構成するPVDF系樹脂のα型結晶の割合を一定以上の割合にする事により、充放電時、とくに高レート条件での作動時の発熱によるPVDF系樹脂の変形に起因した多孔質層内部構造の変形や空隙の閉塞等を低減させるとともに、LiイオンとPVDF系樹脂との相互作用によるLiイオンの偏在化を回避することができ、結果として電池の性能低下を抑制することができる。
【0080】
α型結晶のPVDF系樹脂は、PVDF系樹脂を構成する重合体に含まれるPVDF骨格において、前記骨格中の分子鎖にある1つの主鎖炭素原子に結合するフッ素原子(または水素原子)に対し、一方の隣接する炭素原子に結合した水素原子(またはフッ素原子)がトランスの位置に存在し、かつ、もう一方(逆側)に隣接する炭素原子に結合する水素原子(またはフッ素原子)がゴーシュの位置(60°の位置)に存在し、その立体構造の連鎖が2つ以上連続する
【0082】
であることを特徴とするものであって、分子鎖が、
【0084】
型でC−F
2、C−H
2結合の双極子能率が分子鎖に垂直な方向と平行な方向とにそれぞれ成分を有している。
【0085】
α型結晶のPVDF系樹脂は、
19F−NMRスペクトルにおいて、−95ppm付近、−78ppm付近に特徴的なピークを有する。
【0086】
β型結晶のPVDF系樹脂は、PVDF系樹脂を構成する重合体に含まれるPVDF骨格において、前記骨格中の分子鎖の1つの主鎖炭素に隣り合う炭素原子に結合したフッ素原子と水素原子がそれぞれトランスの立体配置(TT型構造)、すなわち隣り合う炭素原子に結合するフッ素原子と水素原子とが、炭素−炭素結合の方向から見て180°の位置に存在することを特徴とする。
【0087】
β型結晶のPVDF系樹脂は、PVDF系樹脂を構成する重合体に含まれるPVDF骨格において、前記骨格全体が、TT型構造を有していてもよい。また、前記骨格の一部がTT型構造を有し、かつ、少なくとも4つの連続するPVDF単量体単位のユニットにおいて前記TT型構造の分子鎖を有するものであってもよい。何れの場合もTT型構造の部分がTT型の主鎖を構成する炭素−炭素結合は、平面ジグザグ構造を有し、C−F
2、C−H
2結合の双極子能率が分子鎖に垂直な方向の成分を有している。
【0088】
β型結晶のPVDF系樹脂は、
19F−NMRスペクトルにおいて、−95ppm付近に特徴的なピークを有する。
【0089】
(PVDF系樹脂におけるα型結晶、β型結晶の含有率の算出方法)
本発明に係る多孔質層における、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、α型結晶の含有率およびβ型結晶の含有率は、前記多孔質層から得られる
19F−NMRスペクトルから算出され得る。具体的な算出方法は、例えば、以下の通りである。
(1)PVDF系樹脂を含有する多孔質層に対して、以下の条件にて
19F−NMRスペクトルを測定する。
測定条件
測定装置:Bruker Biospin社製 AVANCE400
測定方法:シングルパルス法
観測核:19F
スペクトル幅:100kHz
パルス幅:3.0s(90°パルス)
パルス繰り返し時間:5.0s
基準物質:C
6F
6(外部基準:−163.0ppm)
温度:22℃
試料回転数:25kHz
(2)(1)にて得られた
19F−NMRスペクトルにおける−78ppm付近のスペクトルの積分値を算出し、α/2量とする。
(3)(2)と同様に、(1)にて得られた
19F−NMRスペクトルにおける−95ppm付近のスペクトルの積分値を算出し、{(α/2)+β}量とする。
(4)(2)および(3)にて得られた積分値から、以下の式(1)にて、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合のα型結晶の含有率(α比とも称する)を算出する。
α比(モル%)=〔(−78ppm付近の積分値)×2/{(−95ppm付近の積分値)+(−78ppm付近の積分値)}〕×100 (1)
(5)(4)にて得られたα比の値から、以下の式(2)にて、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合のβ型結晶の含有率(β比とも称する)を算出する。
β比(モル%)=100(モル%)−α比(モル%) (2)。
【0090】
(多孔質層、非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法)
本発明の一実施形態における多孔質層および非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法としては、特に限定されず、種々の方法が挙げられる。
【0091】
例えば、基材となる多孔質フィルムの表面上に、以下に示す工程(1)〜(3)の何れかの1つの工程を用いて、PVDF系樹脂および任意でフィラーを含む多孔質層を形成する。工程(2)および(3)の場合においては、多孔質層を析出させた後にさらに乾燥させ、溶媒を除去することによって、製造され得る。なお、工程(1)〜(3)における塗工液は、フィラーを含む多孔質層の製造に使用する場合には、フィラーが分散しており、かつ、PVDF系樹脂が溶解している状態であることが好ましい。
【0092】
本発明の一実施形態における多孔質層の製造方法に使用される塗工液は、通常、前記多孔質層に含まれる樹脂を溶媒に溶解させると共に、前記多孔質層に含まれるフィラーを分散させることにより調製され得る。
【0093】
(1)前記多孔質層を形成するPVDF系樹脂および任意でフィラーを含む塗工液を、多孔質フィルム上に塗工し、前記塗工液中の溶媒(分散媒)を乾燥除去することによって多孔質層を形成させる工程。
【0094】
(2)(1)に記載の塗工液を、前記多孔質フィルムの表面に塗工した後、その多孔質フィルムを前記PVDF系樹脂に対して貧溶媒である、析出溶媒に浸漬することによって、多孔質層を析出させる工程。
【0095】
(3)(1)に記載の塗工液を、前記多孔質フィルムの表面に塗工した後、低沸点有機酸を用いて、前記塗工液の液性を酸性にすることによって、多孔質層を析出させる工程。
【0096】
前記塗工液における溶媒(分散媒)としては、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、および水が挙げられる。
【0097】
前記析出溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコールまたはt−ブチルアルコールを用いることが好ましい。
【0098】
前記工程(3)において、低沸点有機酸としては、例えば、パラトルエンスルホン酸、酢酸等を使用することができる。
【0099】
なお、前記基材には、多孔質フィルムの他に、その他のフィルム、正極板および負極板などを用いることができる。
【0100】
前記塗工液は、前記樹脂およびフィラー以外の成分として、分散剤や可塑剤、界面活性剤、pH調整剤等の添加剤を適宜含んでいてもよい。
【0101】
塗工液の多孔質フィルムへの塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、例えば、グラビアコーター法、ディップコーター法、バーコーター法、およびダイコーター法等が挙げられる。
【0102】
(PVDF系樹脂の結晶形の制御方法)
本発明の一実施形態における多孔質層に含まれるPVDF系樹脂の結晶形は、上述の方法における乾燥温度、乾燥時の風速および風向などの乾燥条件、並びにPVDF系樹脂を含む多孔質層を析出溶媒または低沸点有機酸を用いて析出させる場合の析出温度で制御することができる。
【0103】
前記PVDF系樹脂において、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、α型結晶の含有量を35.0モル%以上とするための前記乾燥条件および前記析出温度は、前記多孔質層の製造方法、使用する溶媒(分散媒)、析出溶媒および低沸点有機酸の種類等によって適宜変更され得る。
【0104】
前記工程(1)のように単に塗工液を乾燥させる場合には、前記乾燥条件は、塗工液における、溶媒、PVDF系樹脂の濃度、および、フィラーが含まれる場合には、含まれるフィラーの量、並びに、塗工液の塗工量などによって適宜変更され得る。前記工程(1)にて多孔質層を形成する場合は、乾燥温度は30℃〜100℃であることが好ましく、乾燥時における熱風の風向は塗工液を塗工した多孔質基材または電極シートに対して垂直方向であることが好ましく、風速は0.1m/s〜40m/sであることが好ましい。具体的には、PVDF系樹脂を溶解させる溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン、PVDF系樹脂を1.0質量%、無機フィラーとしてアルミナを9.0質量%含む塗工液を塗布する場合には、前記乾燥条件を、乾燥温度:40℃〜100℃とし、乾燥時における熱風の風向:塗工液を塗工した多孔質基材または電極シートに対して垂直方向とし、風速:0.4m/s〜40m/sとすることが好ましい。
【0105】
また、前記工程(2)にて多孔質層を形成する場合は、析出温度は−25℃〜60℃であることが好ましく、乾燥温度は20℃〜100℃であることが好ましい。具体的には、PVDF系樹脂を溶解させる溶媒としてN−メチルピロリドンを使用し、析出溶媒としてイソプロピルアルコールを使用して、工程(2)にて多孔質層を形成する場合は、析出温度は−10℃〜40℃とし、乾燥温度は30℃〜80℃とすることが好ましい。
【0106】
<正極板>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池における正極板は、測定面積900mm
2当たりの静電容量が、上述の範囲であれば特に限定されないが、例えば、正極活物質層として、正極活物質、導電剤および結着剤を含む正極合剤を正極集電体上に担持したシート状の正極板が用いられる。なお、正極板は、正極集電体の両面上に正極合剤を担持してもよく、正極集電体の片面上に正極合剤を担持してもよい。
【0107】
前記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、V、Mn、Fe、CoおよびNi等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0108】
前記導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。前記導電剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
前記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、およびポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、並びに、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。尚、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0110】
前記正極集電体としては、例えば、Al、Ni、ステンレス等の導電体が挙げられ、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0111】
シート状の正極の製造方法としては、例えば、正極活物質、導電剤および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電剤および結着剤をペースト状にした後、当該ペーストを正極集電体に塗工し、乾燥した後に加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0112】
<負極板>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池における負極板は、測定面積900mm
2当たりの静電容量が、上述の範囲であれば特に限定されないが、例えば、負極活物質層として、負極活物質を含む負極合剤を負極集電体上に担持したシート状の負極が用いられる。シート状の負極板には、好ましくは前記導電剤、及び、前記結着剤が含まれる。なお、負極板は、負極集電体の両面上に負極合剤を担持してもよく、負極集電体の片面上に負極合剤を担持してもよい。
【0113】
前記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金等が挙げられる。当該材料としては、例えば、炭素質材料等が挙げられる。炭素質材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、および熱分解炭素類等が挙げられる。導電剤、結着剤としては、前記正極活物質層に含まれ得る導電剤、結着剤として記載したものを使用することができる。
【0114】
前記負極集電体としては、例えば、Cu、Ni、ステンレス等が挙げられ、特にリチウムイオン二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0115】
シート状の負極の製造方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にした後、当該ペーストを負極集電体に塗工し、乾燥した後に加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。前記ペーストには、好ましくは前記導電剤、および、前記結着剤が含まれる。
【0116】
<非水電解液>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池に含まれ得る非水電解液は、一般に非水電解液二次電池に使用される非水電解液であれば特に限定されない。前記非水電解液としては、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、Li
2B
10Cl
10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩およびLiAlCl
4等が挙げられる。前記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
非水電解液を構成する有機溶媒としては、例えば、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、アミド類、カーバメート類および含硫黄化合物、並びにこれらの有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒等が挙げられる。前記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0118】
<非水電解液二次電池の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池を製造する方法として、例えば、前記正極、非水電解液二次電池用セパレータ、および負極をこの順で配置して非水電解液二次電池用部材を形成した後、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れ、次いで、当該容器内を非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉する方法を挙げることができる。
【0119】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、上述したように、ポリオレフィン多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータと、多孔質層と、正極板と、負極板と、を備えている。特に、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、以下の(i)〜(iv)の要件を充足する。
(i)多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂は、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、前記α型結晶の含有量が、35.0モル%以上である。
(ii)正極板の、測定面積900mm
2当たりの静電容量が1nF以上、1000nF以下である。
(iii)負極板の、測定面積900mm
2当たりの静電容量が4nF以上、8500nF以下である。
(iv)ポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下したジエチルカーボネートの減少速度が、15秒/mg〜21秒/mgであり、ポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下して10秒後のジエチルカーボネートのスポット径が20mm以上である。
【0120】
(i)の要件によって、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池では、高レート条件での充放電後の多孔質層の構造安定性が良好となる。また、(iv)の要件によって、ポリオレフィン多孔質フィルムにおける非水電解液の保液性、およびその内部の空隙における流体移動速度が好ましい範囲に制御される。そして、(ii)及び(iii)の要件によって、正極板の正極活物質層の分極状態及び負極板の負極活物質層の分極状態が共に適度な状態となり、イオンは、負極板中および負極板と非水電解液二次電池用セパレータとが接触する場所において電解質溶媒への溶媒和が促進するとともに、正極板中および正極板と非水電解液二次電池用セパレータとが接触する場所において電解液溶媒からの脱溶媒和が促進する。このため、イオンの透過性が向上する。
【0121】
したがって、前記(i)〜(iv)の要件を充足する非水電解液二次電池では、(a)多孔質層の高レート条件での充放電後の多孔質層の構造安定性が良好であり、(b)ポリオレフィン多孔質フィルム内での非水電解液の移動が良好であり、さらに、(c)正極板の正極活物質層の分極状態及び負極板の負極活物質層の分極状態が共に適度な状態となる。それゆえ、ハイレート放電時に、イオンの電解液溶媒に対する溶媒和から脱溶媒和への進行がスムーズとなり、ハイレート放電による電極板における面方向の容量の不均一化が抑制(すなわち、イオンの濃度ムラが解消)される。このため、再充電時において、電極板における面方向の容量の不均一化の是正(すなわち容量の再均一化)が可能となる。その結果、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池では、電池のハイレート放電(3C放電)後の1C充電時の充電容量が向上する。
【0122】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0123】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0124】
[測定方法]
実施例および比較例における各測定を以下の方法で行った。
【0125】
(1)活物質層の膜厚(単位:μm):
正極活物質層および負極活物質層の厚さは、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機(VL−50)を用いて測定した。なお、正極活物質層の厚さは、正極板の厚さから集電体であるアルミニウム箔の厚さを差し引くことで算出し、また、負極活物質層の厚さは、負極板の厚さから集電体である銅箔の厚さを差し引くことで算出した。
【0126】
(2)ポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下したジエチルカーボネートの減少速度
実施例および比較例において得られた多孔質フィルムを50mm×50mm角の正方形に切り出し、大気圧、室温(約25℃)、湿度60〜70%、風速0.2m/s以下の条件下、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板上に、測定する多孔質フィルムを載せ、それらを分析天秤(株式会社島津製作所製、形名:AUW220)に載せてゼロ点補正した。また、先端にピペットチップ(エッペンドルフ株式会社製、品名:スタンダード、0.5〜20μL用イエローチップ)を装着したマイクロピペット(エッペンドルフ株式会社製、形名:リファレンス、20μL用)でジエチルカーボネート(DEC)を測り取った。ゼロ点補正後、測り取ったDECを多孔質フィルム中心部に、高さ5mmの位置から、20μL滴下し、重量変化を測定した。即ち、DECの重量が15mgから5mgになるまでの時間(以下、「蒸発時間」とも称する)を測定した。そして測定された「蒸発時間」を、DECの重量変化量(10mg)にて割ることにより、得られた値を「減少速度」の測定値とした。
【0127】
(3)ポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下して10秒後のジエチルカーボネートのスポット径
前記「減少速度」の測定と同様の測定条件、測定方法にて、測り取ったDECを実施例および比較例において得られた多孔質フィルムの中心部に、高さ5mmの位置から、20μL滴下し、10秒間経過後に、当該多孔質フィルムに残るDECの滴下跡の直径を測定した。そしてその値を「スポット径」の測定値とした。
【0128】
上述の「減少速度」および「スポット径」の測定を、実施例および比較例において得られた、それぞれの多孔質フィルムに対して、計3回ずつ実施し、得られた3つの測定値を平均することによって、前記「減少速度」および前記「スポット径」の値を算出した。
【0129】
(4)α比算出法
以下の実施例および比較例において得られた積層セパレータを約2cm×5cmの大きさに切り出し、前記(PVDF系樹脂におけるα型結晶、β型結晶の含有率の算出方法)の項の(1)〜(4)の手順に沿って、切り出された積層セパレータに含まれるPVDF系樹脂におけるα型結晶の含有率(α比)を測定した。
【0130】
(5)電極板の静電容量の測定
実施例および比較例にて得られた正極板および負極板の、測定面積900mm
2当たりの静電容量を、日置電機製LCRメーター(型番:IM3536)を用いて測定した。このとき、測定条件は、CV:0.010V、SPEED:SLOW2、AVG:8、CABLE:1m、OPEN:All,SHORT:All DCBIAS 0.00Vに設定し、周波数:300KHzとした。測定された静電容量の絶対値を本実施形態における静電容量とした。
【0131】
測定対象とする、電極板から、3cm×3cmの正方形の電極合剤が積層された部位と、1cm×1cmの正方形の電極合剤が積層されていない部位とを、一体として切り出した。切り出された電極板の、電極合剤が積層されていない部位に、長さ6cm、幅0.5cmのタブリードを超音波溶接して、静電容量の測定用の電極板を得た(
図1)。正極板のタブリードには、アルミ製のタブリードを用い、負極板のタブリードにはニッケル製のタブリードを用いた。
【0132】
集電体から、5cm×4cmの正方形と、タブリード溶接用部位としての1cm×1cmの正方形とを、一体として切り出した。切り出された集電体のタブリード溶接用部位に、長さ6cm、幅0.5cmのタブリードを超音波溶接して、プローブ電極(測定用電極)を得た(
図2)。正極板の静電容量の測定用のプローブ電極には、厚さ20μmのアルミ製のプローブ電極を用い、負極板の静電容量の測定用のプローブ電極には厚さ20μmの銅製のプローブ電極を用いた。
【0133】
前記プローブ電極と、前記測定用の電極板の電極合剤が積層された部位(3cm×3cmの正方形の部分)とを重ね合わせて積層体を作製した。得られた積層体を2枚のシリコンゴムで挟み込み、さらにそれぞれのシリコンゴムの上から2枚のSUS板で0.7MPaの圧力で挟み込んで測定に供する積層体を得た。タブリードは測定に供する積層体から外に出し、当該タブリードの電極板に近い方から、LCRメーターの電圧端子と、電流端子とを接続した。
【0134】
(6)正極活物質層の空隙率の測定
下記実施例1における正極板が備える正極活物質層の空隙率を下記の方法を用いて測定した。下記実施例におけるその他の正極板が備える正極活物質層の空隙率も同様の方法によって測定した。
【0135】
正極合剤(LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2/導電剤/PVDF(重量比92/5/3))が、正極集電体(アルミニウム箔)の片面に積層された正極板を14.5cm
2(4.5cm×3cm+1cm×1cm)の大きさに切り出した。切り出された正極板の質量は0.215g、厚さ58μmであった。前記正極集電体を同サイズに切り出したところ、その質量は0.078g、厚さ20μmであった。
【0136】
正極活物質層密度ρは、(0.215−0.078)/{(58-20)/10000×14.5}=2.5g/cm
3と算出された。
【0137】
正極合剤を構成する材料の真密度はそれぞれ、LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2は4.68g/cm
3であり、導電材は1.8g/cm
3であり、PVDFは1.8g/cm
3であった。
【0138】
これらの値を用いて下記式に基づいて算出した正極活物質層の空隙率εは、40%であった。
ε=[1−{2.5×(92/100)/4.68+2.5×(5/100)/1.8+2.5×(3/100)/1.8}]*100=40%
(7)負極活物質層の空隙率の測定
下記実施例1における負極板が備える負極活物質層の空隙率を下記の方法を用いて測定した。下記実施例におけるその他の負極板が備える負極活物質層の空隙率も同様の方法によって測定した。
【0139】
負極合剤(黒鉛/スチレン−1,3−ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量比98/1/1))が、負極集電体(銅箔)の片面に積層された負極板を18.5cm
2(5cm×3.5cm+1cm×1cm)の大きさに切り出した。切り出された負極板の質量は0.266g、厚さ48μmであった。前記負極集電体を同サイズに切り出したところ、その質量は0.162g、厚さ10μmであった。
【0140】
負極活物質層密度ρは、(0.266−0.162)/{(48-10)/10000×18.5}=1.49g/cm
3と算出した。
【0141】
負極合剤を構成する材料の真密度はそれぞれ、黒鉛は2.2g/cm
3であり、スチレン−1,3−ブタジエン共重合体は1g/cm
3であり、カルボキシメチルセルロースナトリウムは1.6g/cm
3であった。
【0142】
これらの値を用いて下記式に基づいて算出した負極活物質層空隙率εは、31%であった。
ε=[1−{1.49×(98/100)/2.2+1.49×(1/100)/1+1.49×(1/100)/1.6}]*100=31%
(8)非水電解液二次電池の電池特性
以下の工程(A)〜工程(B)に示す方法によって、実施例、比較例にて製造された非水電解液二次電池(設計容量:20.5mAh)のハイレート放電後の充電容量特性を測定した。
【0143】
(A)初期充放電試験
実施例、比較例にて製造された充放電サイクルを経ていない新たな非水電解液二次電池に対して、電圧範囲;2.7〜4.1V、充電電流値0.2CのCC−CV充電(終止電流条件0.02C)、放電電流値0.2CのCC放電(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下も同様)を1サイクルとして、4サイクルの初期充放電を25℃にて実施した。ここでCC−CV充電とは、設定した一定の電流で充電し、所定の電圧に到達後、電流を絞りながら、その電圧を維持する充電方法である。またCC放電とは設定した一定の電流で所定の電圧まで放電する方法であり、以下も同様である。
【0144】
(B)ハイレート放電後の充電容量特性(mAh)
前記初期充放電を行った非水電解液二次電池に対して、充電電流値1CのCC−CV充電(終止電流条件0.02C)、放電電流値0.2C、1C、3Cの順によりCC放電を実施した。各レートにつき充放電を3サイクル、55℃にて実施した。このとき、電圧範囲は2.7V〜4.2Vとした。
【0145】
前記3C放電の3サイクル目の1C充電のときの充電容量をハイレート放電後の充電容量(mAh)とし表1に示した。
【0146】
[実施例1]
[非水電解液二次電池用積層セパレータの製造]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製、重量平均分子量497万)の割合が70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞社製)の割合が30重量%となるように両者を混合した。この超高分子量ポリエチレン粉末とポリエチレンワックスとの合計を100重量部として、この混合物100重量部に、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量部、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量部、ステアリン酸ナトリウム1.3重量部を加え、さらに全体積に対して36体積%となるように平均粒径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合し、混合物1を得た。
【0147】
その後、混合物1を、二軸混練機にて溶融混練して、ポリオレフィン樹脂組成物1を得た。ポリオレフィン樹脂組成物1を、250℃に設定したTダイからシート状に押し出し、表面温度が150℃の一対のロールを用いて圧延し、圧延シート1を作成した。続いて、圧延シート1を塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることにより、圧延シート1から炭酸カルシウムを除去した。その後、前記圧延シートを6.2倍に延伸し、さらに120℃で熱固定を行い、多孔質フィルム1を得た。
【0148】
PVDF系樹脂(ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー)のN−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」と称する場合もある。)溶液(株式会社クレハ製;商品名「L#9305」、重量平均分子量;1000000)を塗工液とし、多孔質フィルム1上に、ドクターブレード法により、塗工液中のPVDF系樹脂が1平方メートル当たり6.0gとなるように塗布した。
【0149】
得られた塗布物を、塗膜が溶媒湿潤状態のままで2−プロパノール中に浸漬し、−10℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム1を得た。得られた積層多孔質フィルム1を、浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム1aを得た。得られた積層多孔質フィルム1aを30℃で5分間乾燥させて、積層セパレータ1を得た。得られた積層セパレータ1の評価結果を表1示す。
【0150】
[非水電解液二次電池の作製]
(正極板の作製)
LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2/導電材/PVDF(重量比92/5/3)をアルミニウム箔に塗布することにより製造された市販の正極板を用いた。前記正極板を、正極活物質層が形成された部分の大きさが45mm×30mmであり、かつその外周に幅13mmで正極活物質層が形成されていない部分が残るように、アルミニウム箔を切り取って正極板1とした。正極活物質層の厚さは38μm、密度は2.50g/cm
3であった。
【0151】
(負極板の作製)
黒鉛/スチレン−1,3−ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量比98/1/1)を銅箔に塗布することにより製造された市販の負極板を用いた。前記負極板を、負極活物質層が形成された部分の大きさが50mm×35mmであり、かつその外周に幅13mmで負極活物質層が形成されていない部分が残るように、銅箔を切り取って負極板1とした。負極活物質層の厚さは38μm、の密度は1.49g/cm
3であった。
【0152】
(非水電解液二次電池の組み立て)
正極板1、負極板1および積層セパレータ1を使用して、以下に示す方法にて非水電解液二次電池を製造した。
【0153】
具体的には、ラミネートパウチ内で、正極板1、多孔質層側を正極側に対向させた積層セパレータ1、および負極板1をこの順で積層(配置)することにより、非水電解液二次電池用部材1を得た。このとき、正極板1の正極活物質層における主面の全部が、負極板1の負極活物質層における主面の範囲に含まれる(主面に重なる)ように、正極板1および負極板1を配置した。
【0154】
続いて、非水電解液二次電池用部材1を、予め作製していた、アルミニウム層とヒートシール層とが積層されてなる袋に入れ、さらにこの袋に非水電解液を0.25mL入れた。前記非水電解液は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートを3:5:2(体積比)で混合してなる混合溶媒に、LiPF
6を1mol/Lとなるように溶解して調製した。そして、袋内を減圧しつつ、当該袋をヒートシールすることにより、非水電解液二次電池1を作製した。
【0155】
その後、上述の方法にて得られた非水電解液二次電池1のハイレート放電後の充電容量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0156】
[実施例2]
[非水電解液二次電池用積層セパレータの製造]
熱固定温度を110℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、多孔質フィルム2を得た。
【0157】
多孔質フィルム2上に、実施例1と同様に塗工液を塗布した。得られた塗布物を、塗膜が溶媒湿潤状態のままで2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム2を得た。得られた積層多孔質フィルム2を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム2aを得た。得られた積層多孔質フィルム2aを65℃で5分間乾燥させて、積層セパレータ2を得た。得られた積層セパレータ2の評価結果を表1に示す。
【0158】
[非水電解液二次電池の作製]
積層セパレータ1の代わりに、積層セパレータ2を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を作製した。作製した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池2とした。
【0159】
その後、上述の方法にて得られた非水電解液二次電池2のハイレート放電後の充電容量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0160】
[実施例3]
[非水電解液二次電池用積層セパレータの製造]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製)の使用量を71.5重量%とし、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞社製)の使用量を28.5重量%とし、平均粒径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)の添加量を、全体積に対して37体積%となるようにし、延伸倍率を7.0倍とし、そして、熱固定温度を123℃とした以外は、実施例1と同様にして、多孔質フィルム3を得た。
【0161】
多孔質フィルム3上に、実施例1と同様に塗工液を塗布した。得られた塗布物を、塗膜が溶媒湿潤状態のままで2−プロパノール中に浸漬し、−5℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム3を得た。得られた積層多孔質フィルム3を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム3aを得た。得られた積層多孔質フィルム3aを30℃で5分間乾燥させて、積層セパレータ3を得た。得られた積層セパレータ3の評価結果を表1に示す。
【0162】
[非水電解液二次電池の作製]
積層セパレータ1の代わりに、積層セパレータ3を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を作製した。作製した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池3とした。
【0163】
その後、上述の方法にて得られた非水電解液二次電池3のハイレート放電後の充電容量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0164】
[実施例4]
(正極板の作製)
正極板1と同一の正極板の正極合剤層側の表面を、永塚工業株式会社製 研摩布シート(型番TYPE AA GRIT No100)を用いて3回研磨し、正極板2を得た。正極板2の正極合剤層の厚さは38μm、空隙率は40%であった。
【0165】
[非水電解液二次電池の作製]
負極板として、負極板1を用いた。また、積層セパレータ1の代わりに、積層セパレータ3を使用し、正極板1の代わりに、正極板2を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を作製した。作製した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池4とした。
【0166】
その後、上述の方法にて得られた非水電解液二次電池4のハイレート放電後の充電容量特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0167】
[実施例5]
(正極板の作製)
正極板1と同一の正極板の正極合剤層側の表面を、永塚工業株式会社製 研摩布シート(型番TYPE AA GRIT No100)を用いて5回研磨し、正極板3を得た。正極板3の正極合剤層の厚さは38μm、空隙率は40%であった。
【0168】
[非水電解液二次電池の作製]
負極板として、負極板1を用いた。また、積層セパレータ1の代わりに、積層セパレータ3を使用し、正極板1の代わりに、正極板3を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を作製した。作製した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池5とした。
【0169】
その後、上述の方法にて得られた非水電解液二次電池5のハイレート放電後の充電容量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0170】
[実施例6]
(負極板の作製)
負極板1と同一の負極板の負極合剤層側の表面を、永塚工業株式会社製 研摩布シート(型番TYPE AA GRIT No100)を用いて3回研磨し、負極板2を得た。負極板2の負極合剤層の厚さは38μm、空隙率は31%であった。
【0171】
[非水電解液二次電池の作製]
正極板として、正極板1を用いた。また、積層セパレータ1の代わりに、積層セパレータ3を使用し、負極板1の代わりに、負極板2を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を作製した。作製した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池6とした。
【0172】
その後、上述の方法にて得られた非水電解液二次電池5のハイレート放電後の放電容量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0173】
[実施例7]
(負極板の作製)
負極板1と同一の負極板の負極合剤層側の表面を、永塚工業株式会社製 研摩布シート(型番TYPE AA GRIT No100)を用いて7回研磨し、負極板3を得た。負極板3の負極合剤層の厚さは38μm、空隙率は31%であった。
【0174】
[非水電解液二次電池の作製]
正極板として、正極板1を用いた。また、積層セパレータ1の代わりに、積層セパレータ3を使用し、負極板1の代わりに、負極板3を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を作製した。作製した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池7とした。
【0175】
その後、上述の方法にて得られた非水電解液二次電池7のハイレート放電容量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0176】
[実施例8]
[多孔質層、積層セパレータの作製] PVDF系樹脂(株式会社アルケマ製;商品名「Kynar LBG」、重量平均分子量:590,000)を、固形分が10質量%となるように、N−メチル−2−ピロリドンに、65℃で30分間かけて撹拌し、溶解させた。得られた溶液をバインダー溶液として用いた。フィラーとして、アルミナ微粒子(住友化学株式会社製;商品名「AKP3000」、ケイ素の含有量:5ppm)を用いた。前記アルミナ微粒子、バインダー溶液、および溶媒(N−メチル−2−ピロリドン)を、下記割合となるように混合した。即ち、前記アルミナ微粒子90重量部に対してPVDF系樹脂が10重量部となるように、バインダー溶液を混合すると共に、得られる混合液における固形分濃度(アルミナ微粒子+PVDF系樹脂)が10重量%となるように溶媒を混合することで分散液を得た。実施例2にて作製した多孔質フィルム3上に、ドクターブレード法により、塗工液中のPVDF系樹脂が1平方メートル当たり6.0gとなるように塗布することにより、積層多孔質フィルム4を得た。積層多孔質フィルム4を65℃で5分間乾燥させることにより、積層セパレータ4を得た。乾燥は、熱風風向を基材に対して垂直方向とし、風速を0.5m/sとして実施した。得られた積層セパレータ4の評価結果を表1に示す。
【0177】
[非水電解液二次電池の作製]
積層セパレータ1の代わりに、積層セパレータ4を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を作製した。作製した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池8とした。
【0178】
その後、上述の方法にて得られた非水電解液二次電池8のハイレート放電後の充電容量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0179】
[比較例1]
(正極板の作製)
正極板1と同一の正極板の正極合剤層側の表面を、永塚工業株式会社製 研摩布シート(型番TYPE AA GRIT No100)を用いて10回研磨し、正極板4を得た。正極板4の正極合剤層の厚さは38μm、空隙率は40%であった。
【0180】
[非水電解液二次電池の作製]
負極板として、負極板1を用いた。また、積層セパレータ1の代わりに、積層セパレータ3を使用し、正極板1の代わりに、正極板4を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池を作製した。得られた非水電解液二次電池を非水電解液二次電池9とした。
【0181】
その後、上述の方法にて得られた非水電解液二次電池9のハイレート放電後の充電容量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0182】
[比較例2]
(負極板の作製)
負極板1と同一の負極板の負極合剤層側の表面を、永塚工業株式会社製 研摩布シート(型番TYPE AA GRIT No100)を用いて10回研磨し、負極板4を得た。負極板4の負極合剤層の厚さは38μm、空隙率は31%であった。
【0183】
[非水電解液二次電池の作製]
正極板として、正極板1を用いた。また、積層セパレータ1の代わりに、積層セパレータ3を使用し、負極板1の代わりに、負極板4を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池を作製した。得られた非水電解液二次電池を非水電解液二次電池10とした。
【0184】
その後、上述の方法にて得られた非水電解液二次電池10のハイレート放電後の充電容量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0185】
[比較例3]
[非水電解液二次電池用積層セパレータの作製]
実施例3と同様の方法で得られた塗布物を、塗膜が溶媒湿潤状態のままで2−プロパノール中に浸漬し、−78℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム5を得た。得られた積層多孔質フィルム5を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム5aを得た。得られた積層多孔質フィルム5aを30℃で5分間乾燥させて、積層セパレータ5を得た。得られた積層セパレータ5の評価結果を表1に示す。
【0186】
[非水電解液二次電池の作製]
積層セパレータ1の代わりに、積層セパレータ5を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池を作製した。得られた非水電解液二次電池を非水電解液二次電池11とした。
【0187】
その後、上述の方法にて得られた非水電解液二次電池11のハイレート放電後の充電容量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0188】
【表1】
【0189】
表1に記載の通り、実施例1〜8にて製造された非水電解液二次電池は、比較例1〜3にて製造された非水電解液二次電池よりも、ハイレート放電後の充電容量特性に優れている。
【0190】
従って、非水電解液二次電池において、(i)多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂は、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、前記α型結晶の含有量が、35.0モル%以上、(ii)正極板の、測定面積900mm
2当たりの静電容量が1nF以上、1000nF以下、(iii)負極板の、測定面積900mm
2当たりの静電容量が4nF以上、8500nF以下、(iv)ポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下したジエチルカーボネートの減少速度が15秒/mg〜21秒/mg、およびポリオレフィン多孔質フィルム上に滴下して10秒後のジエチルカーボネートのスポット径が20mm以上、との4つの要件を充足することにより、当該非水電解液二次電池のハイレート放電後の充電容量特性を向上させることができることが分かった。
当たりの静電容量が、4nF以上、8500nF以下である負極板と、を備え、所定のジエチルカーボネートの減少速度が、15秒/mg〜21秒/mgであり、所定のジエチルカーボネートのスポット径が20mm以上であり、かつ、前記多孔質層は、前記非水電解液二次電池用セパレータと、前記正極板及び前記負極板の少なくともいずれかと、の間に配置されており、前記多孔質層に含まれる前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、α型結晶の含有量が、35.0モル%以上である非水電解液二次電池。