(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第二領域及び前記第三領域の前記キャビティに面する金型表面は、算術平均粗さが0.5μm以上、6μm以下であり、かつ、十点平均粗さが2μm以上、50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の食品用容器の製造方法。
前記第二領域及び前記第三領域の前記キャビティに面する金型表面に施された前記凹凸形状は、前記樹脂注入口に対して対称となるように配置されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の食品用容器の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の食品用容器の製造方法は、超臨界流体と樹脂組成物とを含む溶融樹脂を金型内のキャビティに射出成形して深さのある食品用容器を製造する方法であって、上記キャビティは、樹脂注入口から流動末端に向かって、上記深さのある食品用容器の底面部を形成する第一領域と、曲面部を形成する第二領域と、側面部を形成する第三領域とを含み、上記第二領域及び上記第三領域の上記キャビティに面する金型表面は、算術平均粗さが0.5μm以上、10μm以下であり、かつ、十点平均粗さが2μm以上、60μm以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明では、超臨界流体と樹脂組成物とを含む溶融樹脂を射出成形して食品用容器を製造する。上記溶融樹脂としては、例えば、溶融した樹脂組成物に超臨界流体を含浸させたものが挙げられ、樹脂組成物と超臨界流体との単一相溶解物であることが好ましい。このような溶融樹脂は、従来公知の超臨界流体発生機により生成した超臨界流体を、溶融した樹脂組成物に高圧力下で注入し、更に攪拌することで作製できる。超臨界流体としては、例えば、二酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスの超臨界流体が用いられる。なかでも、二酸化炭素又は窒素の超臨界流体が好ましい。発泡性に優れることから、窒素の超臨界流体がより好ましい。超臨界流体を含浸させるための樹脂組成物については、後で詳しく述べる。
【0020】
上記超臨界射出成形では、超臨界流体と樹脂組成物とを含む溶融樹脂を金型のキャビティ内に充填した後、冷却固化させることにより、金型内のキャビティの形状に応じた、精密な形状、及び、多彩な形状の成形品を製造することができる。また、射出成形の際に、超臨界流体と樹脂組成物とを含む溶融樹脂が減圧されると、超臨界流体が気体へ相転移するため、溶融樹脂が発泡し、微細な気泡を含有する食品用容器が得られる。溶融樹脂中に発泡起点(発泡核)を均一に多数存在させておくことで、気泡の量を増加させることができる。
【0021】
本発明の食品用容器の製造方法は、上記キャビティに充填された上記溶融樹脂が固化し終わる前に、上記金型の一部を移動させて上記キャビティの容積を拡大させる工程(以下、「コアバック」ともいう)を含むことが好ましい。溶融樹脂の一部又は全部が溶融している状態でキャビティを強制的に広げることにより、急激な圧力減少が引き起こされ、発泡量を大幅に増大させることができる。これにより、キャビティに充填された溶融樹脂の内部全体にわたって気泡を形成することができる。金型は、通常、凸形状を有する雄型と凹形状を有する雌型を有し、雄型と雌型を嵌合させた状態で形成される空隙が、溶融樹脂が充填されるキャビティとなる。キャビティの容積を拡大する際には、雄型及び/又は雌型の少なくとも一部分を移動させるが、雄型が可動側であり、かつ雌型が固定側である場合等には、雄型全体を移動させてキャビティの容積を拡大することが好ましい。
【0022】
上記コアバックは、キャビティへの溶融樹脂の充填が完了した直後(充填完了後0秒)〜充填完了後5秒以内に開始されることが好ましい。金型の移動速度(コアバック速度)は、0.1mm/秒以上であることが好ましい。コアバックによる金型の隙間距離の拡大量(コアバック量)は、0.5mm〜10mmであることが好ましい。
【0023】
超臨界流体と樹脂組成物とを含む溶融樹脂を作製すること、及び、溶融樹脂を発泡させつつ成形することは、例えば、射出成形機と超臨界流体発生機とが連結された超臨界射出成形装置を用いて行うことができる。超臨界射出成形装置としては、例えば、MuCell射出成形機(「MuCell」はTrexel.Inc.の登録商標)等が挙げられる。上記超臨界流体としては、例えば、二酸化炭素、窒素、アルゴン、及び、ヘリウム等の不活性ガスの超臨界流体が挙げられる。なかでも、二酸化炭素、又は、窒素の超臨界流体が好ましく、窒素の超臨界流体がより好ましい。
【0024】
図1は、超臨界射出成形装置を用いて食品用容器を製造する方法の一例を説明する模式図である。
図1に示した超臨界射出成形装置20では、ホッパ21、加熱シリンダ22、スクリュ23及びノズル24を備える射出成形機に、ボンベ25、超臨界流体発生部26及び注入制御部27を備える超臨界流体発生機が連結されている。
【0025】
ホッパ21は、投入された樹脂材料を貯蔵する容器を備えており、容器底部の開閉式の開口部から樹脂材料を加熱シリンダ22内に落下させる。樹脂材料は、スクリュ23を回転させることによって、加熱シリンダ22内で適量が移送及び融解される。ホッパ21に投入される樹脂材料としては、例えば、押出機を用いて、複数種の原料の混合物を溶融混練して作製した樹脂組成物のペレットが挙げられる。押出機としては特に限定されず、単軸又は多軸の各種押出機を用いることができるが、例えば、200℃以上の設定温度とした二軸押出機が好ましい。混練方法としては、すべての原料を一括して混練してもよく、任意の原料を混練した後、残りの原料を添加して混練してもよい。加熱シリンダ22は、円筒状の空間内部を加熱できるものであり、樹脂材料を溶融させることができる。
【0026】
ボンベ25には、超臨界流体の原料となる不活性ガスが封入されている。不活性ガスは、ボンベ25から超臨界流体発生部26に送られ、超臨界流体となる。超臨界流体は、超臨界流体発生部26から注入制御部27を介して加熱シリンダ22内に投入される。注入制御部27において、加熱シリンダ22内で溶融した樹脂材料に対する超臨界流体の充填量を制御する。
【0027】
スクリュ23は、加熱シリンダ22内を回転しながら移動可能に構成されており、溶融した樹脂材料及び超臨界流体を混合しながら加熱シリンダ22の先端に向けて押し出す。この混合により、溶融した樹脂材料と超臨界流体との単一相溶解物(超臨界流体と樹脂組成物とを含む溶融樹脂)が形成される。超臨界流体と樹脂組成物とを含む溶融樹脂は、スクリュ23によって押し出されてノズル24側に搬送され、ノズル24から適量ずつ、金型30に射出される。
【0028】
金型30は、凸形状を有する雄型31と凹形状を有する雌型32を有し、雄型31と雌型32の間にキャビティ33が形成される。ノズル24から注入された溶融樹脂は、ランナ34を通って樹脂注入口35から、キャビティ33に充填される。金型30内での圧力損失により、超臨界流体は臨界圧力に達した時点で気体へ相転移し、溶融樹脂内で気泡が発生することになる。更に、
図2に示したように、溶融樹脂の冷却固化が進行する前に雄型31を後退させ、キャビティ33を拡張するコアバックを行うことで圧力低下を加速させ、キャビティ33内での溶融樹脂の発泡を促進することができる。
図2は、コアバックを説明するために
図1の金型のキャビティ周辺を拡大して示した断面模式図であり、(a)は、コアバック前の初期状態を示し、(b)は、コアバック後の拡張状態を示す。
【0029】
図3は、
図1に示した超臨界射出成形装置で用いる金型の一例を拡大して示した断面模式図であり、
図4は、
図3に示した金型の雌型の平面模式図である。
図5は、
図1に示した超臨界射出成形装置で用いる金型の他の一例を拡大して示した断面模式図であり、
図6は、
図5に示した金型の雌型の平面模式図である。
図3及び
図4は、樹脂注入口35が雄型31に形成された金型の模式図であり、
図5及び
図6は、樹脂注入口35が雌型32に形成された金型の模式図である。
図4及び
図6は、金型を樹脂注入口側から見た平面図である。
図3〜
図6に示したように、キャビティ33に通じる樹脂注入口35の数は、キャビティ33の1つ当たり1つであることが好ましい。これによって、別々の注入口から注入された溶融樹脂同士が、キャビティ33内で衝突することがなくなるので、成形品表面の膨れや発泡不良が広範囲で発生することをより効果的に防止できる。また、樹脂注入口35は、
図4及び
図6に示したように、底面部に対応する位置に設けることが好ましい。これにより、樹脂注入口35から放射状に均一な速度で、キャビティ33内の全体に溶融樹脂を拡散させることができるので、食品用容器10の表面のシワや膨れをより効果的に防止することができる。樹脂注入口35は、底面部の中心に対応する位置に設けることがより好ましい。
【0030】
キャビティ33は、樹脂注入口35から流動末端Eに向かって、深さのある食品用容器の底面部を形成する第一領域33aと、曲面部を形成する第二領域33bと、側面部を形成する第三領域33cとを含む。
図3に示したように、第一領域33aは、平面状であってもよいし、全体又は一部が雄型31側に湾曲していてもよい。例えば、第一領域33aの湾曲部分の中心が、雄型31の樹脂注入口35の中心と同じであってもよい。キャビティ33は、更に、側面部から流動末端Eに向かって、上記側面部と角度を成すように配置された外縁部を形成する第四領域33dを含んでもよい。上記流動末端Eとは、樹脂注入口35から最も離れたキャビティ33の端部をいう。第三領域33cと第四領域33dとのなす角θ1は、例えば、95°〜135°である。
図3〜
図6のように、底面部の中央(底面部の中心)に樹脂注入口35が配置された場合、第四領域33dの末端が流動末端Eである。キャビティ33が第四領域33dを含まない場合は、第三領域33cの末端が流動末端Eである。樹脂注入口35から流動末端Eまでの距離が実質的に等しいことが好ましい。
【0031】
詳細については後述するが、本発明の食品用容器の製造方法を用いて製造される深さのある食品用容器10は、平らでなければよく、例えば、容器の上方が解放されており、
図8に示したように、底面部10aと側面部10cと、底面部10aと側面部10cとの間に配置された曲面部10bとを含む。本発明者らの検討によると、超臨界射出成形により樹脂組成物を発泡させた食品用容器10は、曲面部10b及び側面部10cで、シワ及び膨れが発生しやすい。より具体的には、曲面部10bの内側でシワ及び膨れが発生しやすく、曲面部10bの外側及び側面部10cの外側で膨れが発生しやすい。そのため、曲面部10bに対応する第二領域33b及び側面部10cに対応する第三領域33cのキャビティに面する表面に凹凸形状(シボ加工)を施すことで、外観不良の発生を顕著に抑制できる。これは、キャビティの表面に凹凸形状が施された領域では、溶融樹脂が対流しやすいこと、キャビティの表面積が増大し、食品用容器10の外表面(例えば、スキン層)において、溶融樹脂の固化速度が上昇することで、シワ及び膨れの発生が抑制できるものと考えられる。第一〜第四領域33a、33b、33c及び33dのそれぞれにおいて、上記凹凸形状は、食品用容器10の内面に接する雄型31の表面、及び、食品用容器10の外面に接する雌型32の表面の少なくとも一方に形成されていればよい。よりシワ及び膨れの発生を抑制することができることから、各領域において、上記凹凸形状は、雄型31の表面及び雌型32の表面の両方に形成されることが好ましい。
【0032】
金型30は、
図4及び
図6に示したように、雌型32を上面から見た場合に、開口の形状が円形であってもよい。雄型31の凸形状の直径φ1(
図3及び5参照)は、例えば、80mm〜180mmである。上記φ1は、得られた食品用容器10の開口部の直径φ2(
図9参照)に対応する。雄型31の凸形状の高さH1(
図3及び5参照)は、例えば、35mm〜100mmである。上記高さH1は、得られた食品用容器10の高さH2(
図8参照)に対応する。第一領域33a及び第三領域33cのそれぞれに直線部分があることが好ましく、第一領域33aに沿った直線と第三領域33cに沿った直線とのなす角θ2は、例えば、95°〜135°である。第二領域33bは、曲率半径R1が10mm以上、50mm以下であることが好ましい。上記角θ2は、上記角θ1と同じ角度であってもよい。
【0033】
第二領域33b及び第三領域33cのキャビティに面する金型表面の算術平均粗さRaは、0.5μm以上、10μm以下であり、かつ、第二領域33b及び第三領域33cのキャビティに面する金型表面の十点平均粗さRzは、2μm以上、60μm以下である。上記算術平均粗さ及び上記十点平均粗さを上記範囲とすることで、シワ及び膨れをより確実に抑制できる。上記第二領域33b及び第三領域33cの算術平均粗さRaが0.5μm未満であるか、又は、十点平均粗さRzが2μm未満であると、シワ及び膨れの発生を充分に抑制できない。これは、キャビティ表面の表面粗さが小さく、溶融樹脂の対流が充分に起こらないためであると考えられる。一方、第二領域33b及び第三領域33cの算術平均粗さRaが10μmを超えるか、又は、十点平均粗さRzが60μmを超えると、溶融樹脂を金型に射出する際に未充填の部分が生じる、離型性が低下する等、成形性が低下する。第二領域33b及び第三領域33cのキャビティに面する金型表面は、算術平均粗さRaが0.5μm以上、6μm以下であり、かつ、十点平均粗さRzが2μm以上、50μm以下であることが好ましい。上記十点平均粗さRzの好ましい下限は、3μmである。上記算術平均粗さRaの好ましい下限は、0.9μmである。本明細書中、「算術平均粗さ」は、JIS B 0601に準拠した方法で測定される値を指す。「十点平均粗さ」は、JIS B 0601に準拠した方法で測定される値を指す。
【0034】
図8に示したように、本発明の食品用容器10は、更に、上記側面部からの上端から、容器の外側に向かって、上記側面部と角度を成すように配置された外縁部10dを含んでもよい。キャビティ33は、外縁部10dを形成する第四領域33dを含んでもよい。第一領域33aのキャビティに面する表面及び第四領域33dのキャビティに面する表面は、鏡面仕上げであってもよい。鏡面仕上げである場合、第一領域33aのキャビティに面する金型表面は、算術平均粗さRaが、例えば0.01μm〜0.1μmであってもよく、十点平均粗さRzが、例えば0.03μm〜0.5μmであってもよい。また、第四領域33dのキャビティに面する金型表面は、算術平均粗さRaが、例えば0.01μm〜0.1μmであってもよく、十点平均粗さRzが、例えば0.03μm〜0.5μmであってもよい。
【0035】
シワ及び膨れの発生をより効果的に抑制できる観点からは、第一領域33aのキャビティに面する表面及び第四領域33dのキャビティに面する表面は、凹凸形状が施されてもよい。第一領域33aのキャビティに面する金型表面は、算術平均粗さRaが0.5μm以上、10μm以下であることが好ましい。第一領域33aのキャビティに面する金型表面は、算術平均粗さRaが0.5μm以上、6μm以下であることがより好ましい。上記第一領域33aの算術平均粗さRaのより好ましい下限は、0.9μmである。また、第一領域33aのキャビティに面する金型表面の十点平均粗さRzは、2μm以上、60μm以下であることが好ましい。第一領域33aのキャビティに面する金型表面の十点平均粗さRzは、2μm以上、50μm以下であることがより好ましい。上記第一領域33aの算術平均粗さRaのより好ましい下限は、3μmである。第四領域33dのキャビティに面する金型表面の算術平均粗さRaは、0.5μm以上、10μm以下であることが好ましい。第四領域33dのキャビティに面する金型表面の算術平均粗さRaは、0.5μm以上、6μm以下であることがより好ましい。上記第四領域33dの算術平均粗さRaのより好ましい下限は、0.9μmである。また、第四領域33dのキャビティに面する金型表面の十点平均粗さRzは、2μm以上、60μm以下であることが好ましい。第四領域33dのキャビティに面する金型表面の十点平均粗さRzは、2μm以上、50μm以下であることがより好ましい。上記第四領域33dの算術平均粗さRaのより好ましい下限は、3μmである。
【0036】
上記凹凸形状は、金型30のキャビティに面する金型表面を粗面にするために形成するものであり、例えば艶消し程度に目視で確認できる程度の微細凹凸によって構成されるものである。上記微細凹凸は、不規則(ランダム)に配置されることが好ましい。また、上記微細凹凸は、複数の点状に配置されることが好ましい。線状の微細凹凸では、シワ及び膨れの発生を充分に抑制できないことがある。
【0037】
上記凹凸形状は、樹脂注入口35から実質的に等しい流動距離に配置されることが好ましい。上記凹凸形状は、樹脂注入口35に対して対称に配置されることが好ましい。例えば、金型の開口が円形である場合、樹脂注入口35を中心に同心円状に配置されることが好ましい。上記凹凸形状は、第一領域33a、第二領域33b、第三領域33c及び第四領域33dのすべてに施されてもよいが、樹脂注入口35と対向する位置には配置しないことが好ましい。上記凹凸形状の形成方法としては、例えば、金型の凹凸形状を施さない領域をマスキングし、サンドブラスト、レーザー加工等により形成する方法が挙げられる。
【0038】
上記深さのある食品用容器の断面における発泡粒子の平均粒子径は、100μm以下であることが好ましい。上記発泡粒子の平均粒子径が100μmを超えると、断熱性及び強度が低下することがある。上記発泡粒子の平均粒子径の好ましい下限は10μmであり、より好ましい下限は20μmであり、より好ましい上限は90μmであり、更に好ましい上限は80μmである。
【0039】
溶融樹脂を充填するとき(コアバック前)のキャビティ33内の金型30の隙間距離の最小値は、0.2mm以上とされることが好ましい。食品用容器10の形状を規定するキャビティ33において、金型30の隙間距離Wは、食品用容器10の肉厚を規定することになる。上記金型の隙間距離が0.2mm未満の部分では、溶融樹脂を充分に発泡させることができず、気泡が存在しない無発泡部分が形成されることがある。無発泡部分では、気泡による断熱効果がないので、充分な断熱性が得られない。また、着色がされていない食品用容器10の外観は、通常、気泡による光の散乱のため白色に見えるが、無発泡部分は透明に見えるため、無発泡部分が形成されると食品用容器10の外観が不均一なものになってしまう。上記金型30の隙間距離Wは、3mm以下であることが好ましい。上記金型30の隙間距離Wが3mmを超える部分では、冷却固化時間が長くなるため、金型30からの成形品の取り出し動作や、発泡残渣(発泡力が残っており、かつ樹脂の固化が不充分な状態の部分)により食品用容器10が変形してしまうことがあり、また、溶融樹脂の発泡を比較的生じさせやすいことから、本発明の金型構成を採用する利点が少なくなる。上記金型の隙間距離Wは、0.2〜3.0mmの範囲内であることが好ましい。上記隙間距離Wのより好ましい上限は、1.2mmである。上記隙間距離Wを1.2mm以下とし、薄肉の食品用容器を従来の発泡射出成形方法で形成すると、シワ及び膨れが発生しやすいため、本発明の食品用容器の製造方法を用いることで、より効果的にシワ及び膨れの発生を抑制できる。本発明によれば、肉厚を薄くしても表面のシワ及び膨れの発生を抑制することができるので、従来よりも軽量で断熱性に優れた食品用容器10を製造できる。
【0040】
上記溶融樹脂のキャビティ33への射出速度は、20〜200mm/秒であることが好ましい。上記射出速度が200mm/秒を超えると、射出成形時に金型内圧が高まり、金型寿命が短くなるおそれがある。また、得られる食品用容器にバリが発生しやすくなる。充填性及び金型の転写性を向上させる観点からは、上記溶融樹脂が成形途中で固化せずに流れる程度の速さに設定することが好ましい。上記射出速度は、60〜140mm/秒であることがより好ましく、100〜120mm/秒であることが更に好ましい。
【0041】
金型温度は、離型性、金型表面の転写性、及び、溶融樹脂の流動性をバランスよく向上させるように設定することが好ましい。上記金型温度は、30〜90℃であることが好ましく、40〜80℃であることがより好ましく、50〜60℃であることが更に好ましい。
【0042】
本発明の食品用容器の製造方法により製造される深さのある食品用容器10は、気泡による断熱効果を発揮できることから、耐熱容器として好適に用いることができる。以下に、
図7〜9を用いて、本発明の食品用容器の製造方法により製造される深さのある食品用容器の一例として、丼型形状を例に説明する。
図7は、本発明の食品用容器の製造方法により製造される深さのある食品用容器の一例を示した斜視図である。
図8は、
図7中のX―Y線での断面模式図であり、
図9は、
図7に示した食品用容器の平面模式図である。食品用容器10は、底面部10aと側面部10cと、底面部10aと側面部10cとの間に配置された曲面部10bとを含む。底面部10aは食品用容器10を使用する際に接地する部分であり、食品用容器の内側に向かって窪んでいてもよい。そのような形状とすることで食品用容器10を保持しやすくすることができる。また、側面部10cは直線部分を有することが好ましい。側面部10cの内側には、容器内の水位を示す喫水線が形成されてもよい。曲面部10bは、底面部10aから側面部10cが立ち上がる部分に対応し、食品用容器10の外側に向かって湾曲している。
【0043】
更に、食品用容器10は、側面部10cの上端から、容器の外側に向かって、側面部10cと角度を成すように形成された外縁部10dを含んでもよい。側面部10cと外縁部10dとのなす角θ3は、例えば、95°〜135°である。
【0044】
食品用容器10は、
図9に示したように、食品用容器10を上面から見た場合に、開口の形状が円形であってもよい。側面部10cの上端の内径(開口部の直径)φ2は、例えば、80mm〜180mmである。食品用容器10の高さH2は、例えば、35mm〜100mmである。上記高さH2とは、
図8に示したように、底面部10aから側面部10cの上端に向かう垂線と、開口を挟んで対向する側面部10c同士を結んだ直線との交点との距離である。側面部10c及び底面部10aのそれぞれに直線部分があることが好ましく、側面部10cに沿った直線と底面部10aに沿った直線とのなす角θ4は、例えば、95°〜135°である。上記角θ4は、上記角θ3と同じ角度であってもよい。曲面部10bは、曲率半径R2が10mm以上、50mm以下であることが好ましい。食品用容器10は、側面部10cを有するものであればよく、側面部10cの大きさは特に限定されず、例えば、
図11に示したように、浅型の丼型形状の食品用容器であってもよい。
【0045】
図10は、
図8の断面を拡大して示した断面模式図である。
図10に示した食品用容器10は、食品用容器10の表面に位置するスキン層(外皮層)11によって発泡層12が挟み込まれた構造を有する。発泡層12は、樹脂中に多数の気泡(発泡粒子)を包含する領域を指し、スキン層11は、気泡を包含しない領域を指す。食品用容器10は、表面に無発泡となるスキン層11が存在することで、高い強度を有し、また、その表面は金型表面がそのまま転写される。食品用容器10は、中心部分に発泡層12が存在することで、軽量化できるだけではなく、熱が伝わり難くなるため、断熱性に優れている。なお、
図10に示した食品用容器10は、本発明により製造される食品用容器の一例である。本発明により製造される食品用容器の構造は、スキン層11/発泡層12/スキン層11の3層構造に限定されない。
【0046】
上記発泡層12は、食品用容器10の断面を観察した場合に、発泡層12の1mm×1mmの範囲に発泡粒子を100個以上有することが好ましく、任意に選択した100個の発泡粒子の平均粒子径が100μm以下であることが好ましい。発泡粒子の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)で行うことができ、例えば、日立ハイテクノロジーズ社製の「S−4800」等を用いることができる。
【0047】
上記食品用容器の曲面部に対応する第二領域及び側面部に対応する第三領域において、超臨界射出成形に用いる金型のキャビティに面する金型表面の算術平均粗さを、0.5μm以上、10μm以下とすることで、シワ及び膨れの発生を抑制できる。
【0048】
超臨界流体を含浸させるための樹脂組成物について、以下に詳述する。
上記樹脂組成物としては、例えば、主成分として熱可塑性樹脂を含むものが用いられ、なかでも、ポリオレフィン、ポリ乳酸及び分子内にカルボニル基を含む変性ポリオレフィンの混合物が好適に用いられる。ポリオレフィンとポリ乳酸とは互いに溶解しない非相溶系のポリマー同士であるため、混合しても互いに溶解せず、界面が形成される。したがって、超臨界流体を用いた発泡において、その界面を発泡起点(発泡核)として用いることができる。一方で、均一に発泡した食品用容器を製造するためには、発泡させる前の樹脂組成物を均一に分散することが求められる。このため、カルボニル基を含む変性ポリオレフィンを添加することで、ポリオレフィンとポリ乳酸を相溶化し、分散性を向上させる。これにより、食品用容器の内部に、多数の微細な気泡(粒子径の小さい発泡粒子)を均一に存在させることができ、断熱性、強度及び軽量性等の特性に優れた食品用容器を製造できる。
【0049】
上記ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン及びポリエチレンのいずれか一方又は両方を用いることが好ましい。ポリプロピレンのメルトマスフローレート(MFR)は、好ましくは5〜100g/10分、より好ましくは10〜50g/10分である。ポリプロピレンのMFRは、JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重21.2Nで測定した数値である。ポリエチレンのMFRは、好ましくは5〜100g/10分、より好ましくは10〜50g/10分である。ポリエチレンのMFRは、JIS K7210に準拠し、温度190℃、荷重21.2Nで測定した数値である。
【0050】
上記ポリオレフィンは、ポリプロピレン及び/又はポリエチレンのみを含むものであってもよいが、ポリプロピレン及びポリエチレン以外の他のポリオレフィンを含んでもよい。
上記他のポリオレフィンとしては、例えば、α−オレフィンの単重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、及び、プロピレン−αオレフィン共重合体等が挙げられる。上記α−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、及び、1−ウンデセン等の炭素数4〜12のα−オレフィンが挙げられる。
【0051】
上記ポリオレフィンの溶融粘度(220℃)は、150Pa・S以上、400Pa・S以下であることが好ましい。上記ポリオレフィンの溶融粘度のより好ましい下限は200Pa・Sであり、より好ましい上限は300Pa・Sである。上記溶融粘度は、例えば、株式会社島津製作所製の「フローテスター CFT−500D」を用いて測定することができる。具体的には、測定対象となる樹脂を所定温度に加熱し流動化させ、キャピラリーダイ(内径φ1mm、長さ10mm)を通して、所定面圧を1MPaとしたピストンによってシリンダから押し出し、ピストンの移動量と、かかった時間により粘度特性を評価することができる。
【0052】
上記ポリオレフィンの樹脂組成物全体に対する含有量は、30重量%以上、80重量%以下であることが好ましい。上記含有量が、30重量%未満であると、樹脂組成物の流動性、固化速度が低下し、成形性が悪くなることがある。上記含有量が80重量%を超えると、発泡性が悪くなり、得られる食品用容器の表面に凹凸が生じ、外観を損なうことや、樹脂組成物と超臨界流体とを混合した際に樹脂組成物に超臨界流体が含浸しにくくなることがある。ポリオレフィンの樹脂組成物全体に対する含有量の好ましい下限は35重量%、好ましい上限は70重量%である。
【0053】
上記ポリ乳酸は、L−乳酸の単重合体、D−乳酸の単重合体、L−乳酸及びD−乳酸の共重合体、又は、それらの混合物である。乳酸の鏡像異性体比率を調整すること、鏡像異性体を共重合する方法(ランダム、ブロック、グラフトなど)、結晶核剤を添加する方法等、乳酸の製造方法を変えることによって、得られるポリ乳酸の結晶性を調整できる。
【0054】
上記ポリ乳酸の溶融粘度(220℃)は、150Pa・S以上、400Pa・S以下であることが好ましい。上記ポリ乳酸の溶融粘度のより好ましい下限は200Pa・Sであり、より好ましい上限は300Pa・Sである。上記ポリ乳酸の溶融粘度は、上記ポリオレフィンの溶融粘度と同様に測定することができる。
【0055】
上記ポリ乳酸の樹脂組成物全体に対する含有量は、3重量%以上、40重量%以下であることが好ましい。上記含有量が3重量%未満であると、樹脂組成物を発泡させて成形した食品用容器の発泡性が不充分となることがある。上記含有量が40重量%を超えると、樹脂組成物の流動性、固化速度が低下し、成形性が悪くなることがある。上記ポリ乳酸の樹脂組成物全体に対する含有量のより好ましい下限は8重量%、より好ましい上限は30重量%である。
【0056】
上記ポリオレフィンの含有量を30重量%〜80重量%の範囲内とし、上記ポリ乳酸の含有量を3重量%〜40重量%の範囲内とすることで樹脂組成物の流動性を調整し、成形性を良好にすることができる。
【0057】
また、上記ポリオレフィンとポリ乳酸との溶融粘度差は、200Pa・S以下であることが好ましい。上記溶融粘度差が200Pa・S以下であると、両成分が混合しやすい。上記溶融粘度差のより好ましい上限は150Pa・Sである。
【0058】
非相溶系のポリマー同士を混合する方法としては、両成分間に化学結合を形成させる方法、又は、同一ポリマー間で架橋構造を形成させる方法等を用いることがあり、ポリ乳酸を用いて食品用容器を得る場合には、例えば、金属錯体等の合成触媒、ラジカル発生剤等を用いて、ポリ乳酸を合成しながら混練を行う反応押出(リアクティブプロセッシング)が用いられることがある。ポリオレフィンとポリ乳酸との界面を発泡核として作用させる場合には、ポリ乳酸を合成しながら混練を行う反応押出とは異なり、樹脂組成物中に合成触媒、ラジカル発生剤等を添加する必要はない。なお、ポリ乳酸の反応押出としては、例えば、合成触媒として2−エチルへキサン酸スズを用い、酸化防止剤(例えば、チバスペシャルティケミカルズ社製の「イルガノックス1010」)を添加してL−ラクチドとε−カプロラクトンを反応させる方法;ジクミルパーオキサイド等のラジカル発生剤を用いて、ポリ乳酸とポリエチレングリコールを反応させる方法;ラジカル発生剤を用いて、ポリ乳酸にポリカーボネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)等をグラフト重合させる方法等が挙げられる。
【0059】
上記分子内にカルボニル基を含む変性ポリオレフィンとしては、例えば、ポリオレフィンに不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、又は、不飽和カルボン酸の無水物を付加反応することによって得られるものが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、及び、イタコン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸のエステルとしては、例えば、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、及び、フマル酸モノメチルエステル等が挙げられる。不飽和カルボン酸の無水物としては、例えば、無水イタコン酸、及び、無水マレイン酸等が挙げられる。上記分子内にカルボニル基を含む変性ポリオレフィンとしては、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、グリシジルメタクリレート変性ポリオレフィン等が好適に用いられる。上記分子内にカルボニル基を含む変性ポリオレフィンは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
上記分子内にカルボニル基を含む変性ポリオレフィンは、オレフィンとビニルモノマーとの共重合体であってもよい。オレフィンとビニルモノマーとの共重合体としては、例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、及び、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸のいずれであってもよい。
【0061】
上記分子内にカルボニル基を含む変性ポリオレフィンのMFRは、好ましくは0.1〜100g/10分、より好ましくは0.3〜50g/10分である。MFRは、JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重21.2Nで測定した数値である。
【0062】
上記分子内にカルボニル基を含む変性ポリオレフィンの樹脂組成物全体に対する含有量は、1重量%以上、20重量%以下であることが好ましい。この範囲内であれば、非相溶系であるポリオレフィンとポリ乳酸との間に界面を形成し、両成分の分散性を効果的に向上させることができる。上記含有量が1重量%未満であると、得られる食品用容器の発泡性が低下することがある。上記含有量が20重量%を超えると、臭気の発生、着色、成形性の悪化、吸水率の増大等が引き起こされることがある。上記分子内にカルボニル基を含む変性ポリオレフィンの樹脂組成物全体に対する含有量のより好ましい下限は3重量%、より好ましい上限は12重量%である。
【0063】
上記樹脂組成物は、層状ケイ酸塩を含有してもよい。ポリオレフィンとポリ乳酸とカルボニル基を含む変性ポリオレフィンとを混合しただけでは、混合時のせん断力が不足する場合に、層状ケイ酸塩を添加することで、ポリオレフィンとポリ乳酸との分散性を向上し、樹脂組成物中に発泡核を高分散させることができる。
【0064】
上記層状ケイ酸塩としては、例えば、パイロフィライト、タルク、カオリン(カオリナイト)、モンモリロナイト、魚眼石、マーガライト、プレナイト、マイカ(雲母)等が挙げられ、特に、タルク、カオリン、モンモリロナイト、マイカ(雲母)が好適に用いられる。上記層状ケイ酸塩は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
上記層状ケイ酸塩の樹脂組成物全体に対する含有量は、10重量%以上、40重量%以下であることが好ましい。上記含有量が10重量%未満であると、混合時のせん断力を向上させる効果が充分に得られないことがある。上記含有量が40重量%を超えると、樹脂組成物の成形性が低下することがある。上記層状ケイ酸塩の樹脂組成物全体に対する含有量のより好ましい下限は15重量%、より好ましい上限は35重量%である。
【0066】
上記樹脂組成物は、層状ケイ酸塩以外のフィラーを含有してもよい。無機材料から構成されるフィラーとしては、例えば、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化カルシウム等)、グラファイト、カーボンブラック、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、炭酸カルシウム、シリカ、シリカゲル、ゼオライト、窒化ホウ素、アルミナ等を用いることができる。有機材料から構成されるフィラーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、超高分子量ポリエチレン、電子線架橋型ポリエチレン、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、炭化ケイ素、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等を用いることができる。層状ケイ酸塩以外のフィラーの配合量は特に限定されないが、例えば、樹脂組成物全体に対して1重量%を超えない範囲とされる。
【0067】
上記食品用容器は、その表面等に、模様、色彩又は文字等の装飾を施してもよい。このような装飾を施す場合、上記樹脂組成物に顔料フィラー、カラーマスターバッチ等を添加してもよい。
【0068】
本発明の食品用容器の製造方法により製造された食品用容器は、耐熱性及び断熱性に優れ、軽量である。上記食品用容器の耐熱性は、JIS S2029の7.4耐熱性試験(表示耐熱温度120℃)、7.10電子レンジ高周波適正性試験、及び、7.11電子レンジ耐久性試験に適合させることができる。そのため、上記食品用容器は、電子レンジによる加熱又は調理に用いてもよい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明について実施例を掲げてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0070】
(製造例1)
ポリプロピレン(PP)50重量%、ポリ乳酸(PLA)20重量%、分子内にカルボニル基を含む変性ポリオレフィン10重量%及びタルク20重量%をドライブレンドし、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、「TEX30」)を使って温度設定220℃で混練し、ペレット状の発泡用樹脂組成物Aを得た。得られた発泡用樹脂組成物Aは、ポリ乳酸の粒子がポリプロピレン中に分散した樹脂組成物であった。
【0071】
(製造例2)
ポリエチレン(PE)50重量%、ポリ乳酸(PLA)20重量%、分子内にカルボニル基を含む変性ポリオレフィン10重量%及びタルク20重量%をドライブレンドし、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、「TEX30」)を使って温度設定220℃で混練し、ペレット状の発泡用樹脂組成物Bを得た。得られた発泡用樹脂組成物Bは、ポリ乳酸の粒子がポリエチレン中に分散した樹脂組成物であった。
【0072】
下記表1に、製造例1及び2で用いた各材料の入手先及び物性を示した。
【0073】
【表1】
【0074】
(実施例1)
製造例1で得られたペレット状の発泡用樹脂組成物Aを、超臨界発生装置を搭載した射出成形機(東芝機械株式会社製)に投入した。発泡用樹脂組成物は、温度200℃に設定したシリンダ内で溶融させつつ、窒素(N
2)の超臨界流体を、充填量0.3重量%、充填圧力16MPaの条件で混入させた。なお、超臨界流体の充填量(単位:重量%)は、下記式(1)で計算することができる。
超臨界流体の充填量(単位:重量%)=[(超臨界流体の流量×超臨界流体の流入時間×換算係数27.8)÷発泡用樹脂組成物の重量]×100 (1)
【0075】
超臨界流体を混入して得られた溶融樹脂は、射出速度120mm/秒、スクリュ背圧15MPaの条件で、
図3及び
図4に示した形状を有する金型内のキャビティ33に注入した。コアバック前のキャビティ33における金型の隙間距離の最小値は、0.8mmであった。金型温度は50℃とした。実施例1では、雄型31及び雌型32の第一領域33a、第二領域33b、第三領域33c及び第四領域33dのキャビティに面する表面に、サンドブラストにより凹凸形状(シボ加工)を施した。第一〜第四領域のキャビティに面する表面算術平均粗さRaは1.41μmであり、十点平均粗さRzは8.48μm以下であった。上記凹凸形状の粗さは、凹凸形状を形成した。第一〜第四領域において、任意で選んだ3か所で算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzを測定し、それぞれの領域での平均値を算出した。
【0076】
また、溶融樹脂のキャビティ33への充填が完了した直後のタイミングで、コアバックを実施した。具体的には、金型の雄型31を3.0mm後退させ、キャビティ33の容積を拡大させることにより、溶融樹脂の発泡を促進した。溶融樹脂の固化が完了した後、発泡成形品である食品用容器を取り出した。
【0077】
実施例1で作製した深さのある食品用容器は丼型形状であり、
図7〜
図9に示した構成を有し、底面部10aと側面部10cと、底面部10aと側面部10cとの間に配置された曲面部10bとで構成されるものであった。食品用容器10は、開口部の直径φ2が120mm、高さH2が80mm、曲率半径R2が30mm、側面部10cと外縁部10dとのなす角θ3が100°、側面部10cに沿った直線と底面部10aに沿った直線とのなす角θ4が100°であった。角θ3と角θ4とは同じ角度となるようにした。
【0078】
(実施例2〜6、9及び比較例1〜7)
実施例2〜6、9及び比較例1〜7は、下記表2に示したように、金型のキャビティに面する表面に施した凹凸形状の形成位置、上記凹凸形状の算術平均粗さRa、及び、十点平均粗さRzを変更したこと以外は、実施例1と同様にして丼型形状の食品用容器を作製した。なお、凹凸形状を施した以外の領域は、算術平均粗さRaが0.03μm、十点平均粗さRzが0.27μmの鏡面加工を施した。
【0079】
(実施例7及び8)
実施例7及び8は、製造例2で得られたペレット状の発泡用樹脂組成物Bを用いたこと、下記表2に示したように、凹凸形状の形成位置、上記凹凸形状の算術平均粗さRa、及び、十点平均粗さRzを変更したこと以外は、実施例1と同様にして丼型形状の食品用容器を作製した。
【0080】
(比較例8)
比較例8では、上記凹凸加工を施さず、第一、第二、第三及び第四領域のすべてに鏡面加工を施したこと以外は、実施例1と同様にして丼型形状の食品用容器を作製した。
【0081】
(評価)
実施例及び比較例の食品用容器の作製に用いた金型について、以下の方法により、成形性として(1)充填性、及び、(2)離型性を評価し、(3)固化速度を測定した。また、実施例及び比較例で作製した食品用容器について、以下の方法により(4)発泡性(5)断熱性及び(6)外観を評価した。(6)外観の評価は、(6−1)表面のシワの有無と(6−2)表面の膨れの有無に分けて評価した。その結果を下記表2に示した。
【0082】
(1)充填性評価
実施例及び比較例の各々について、上記超臨界射出成形により上記溶融樹脂を1000ショットずつ充填し、上記溶融樹脂の固化が完了した後、食品用容器を取り出し、目視にて充填不良の有無を確認した。1000ショット中、充填不良が発生しなかった場合を○、1回以上の充填不良が発生した場合を×とした。なお、上記充填不良とは、キャビティの一部に溶融樹脂が行き渡らず、得られた食品用容器に欠損が生じることをいう。
【0083】
(2)離型性評価
実施例及び比較例の各々について、上記超臨界射出成形により上記溶融樹脂を1000ショットずつ充填し、上記溶融樹脂の固化が完了した後、食品用容器を取り出し、離型不良の有無を確認した。1000ショット中、離型不良が発生しなかった場合を○、1回以上の離型不良が発生した場合を×とした。なお、上記離型不良とは、金型から食品用容器を取り出す際に、キャビティに食品用容器の一部若しくは全部が残ること、又は、金型からの抜けが悪く、成形品が変形してしまうことをいう。
【0084】
(3)固化速度
実施例及び比較例の各々について、50℃に設定した金型に、上記超臨界射出成形により上記溶融樹脂を1000ショットずつ充填し、30秒冷却した後、食品用容器を金型から取り出す際に目視で変形の有無を確認した。1000個中、変形が確認されなかった場合を○、1個以上の食品用容器で変形が確認された場合を×とした。
【0085】
(4)発泡性
食品用容器の断面を、SEM(日立ハイテクノロジーズ社製、S−4800)で観察し、発泡層における発泡粒子の状態を確認した。
発泡性の評価は、食品用容器を断面から観察し、発泡層の縦1mm、横1mmの範囲に、発泡粒子が100個以上存在し、かつ、任意に選択した100個の発泡粒子の平均粒子径が100μm以下である場合を適合、発泡粒子の平均粒子径が100μmより大きい場合を不適合とした。
【0086】
(5)断熱性評価
食品用容器に、黒体スプレー(タスコジャパン株式会社製、「THI−1B」)を吹き付けた後、黒体スプレーに含まれる溶剤を室内で12時間以上24時間以下の条件で乾燥し、黒く着色された測定用試料を作製した。そして、測定用試料中に100mlの沸騰した熱水を入れ、3分後に測定用試料の外表面の温度を、放射率0.94に調整した赤外放射温度計(日本アビオニクス株式会社製の「TVS−200」)を用いて測定した。測定された表面温度が65℃以下であった場合を○とし、65℃より高かった場合を×とした。
【0087】
(6)外観評価
実施例及び比較例の各々について、食品用容器を100個ずつ準備し、それらの外観を目視で確認した。下記判定が◎及び○の場合を合格とし、×の場合を不合格とした。
(6−1)表面のシワの有無
食品用容器の表面を目視で観察し、すべての食品用容器において表面のシワが確認されなかった場合を◎とし、1〜2個の食品用容器で表面のシワが確認された場合を○とし、3個以上の食品用容器で表面のシワが確認された場合を×とした。
(6−2)表面の膨れの有無
食品用容器の表面を目視で観察し、すべての食品用容器において表面の膨れが確認されなかった場合を◎とし、1〜2個の食品用容器で表面の膨れが確認された場合を○とし、3個以上の食品用容器で表面の膨れが確認された場合を×とした。
【0088】
下記表2中、「金型の構成」の「凹凸形状の加工領域」は、凹凸加工を施した領域が、第一領域のキャビティに面する表面である場合を「a」、第二領域のキャビティに面する表面である場合を「b」、第三領域のキャビティに面する表面である場合を「c」、第四領域のキャビティに面する表面である場合を「d」とした。たとえば、第二領域と第三領域に凹凸加工を施した場合は「b+c」とした。
【0089】
【表2】
【0090】
表2から分かるように、実施例1〜9で用いた金型のキャビティ表面の、少なくとも丼型形状の食品用容器の曲面部を形成する第二領域と、側面部を形成する第三領域とに凹凸形状を形成し、第二領域及び第三領域のキャビティに面する金型表面の算術平均粗さを0.5μm以上、10μm以下、かつ、十点平均粗さを2μm以上、60μm以下とすることで、得られた丼型形状の食品用容器の断熱性を充分なものとし、外観不良であるシワ及び膨れの発生を抑制できることが分かった。また、実施例1〜9で用いた金型は、充填性及び離型性に優れたものであった。実施例1〜3の結果から、凹凸形状の形成領域が広いほど、シワ及び膨れの発生を抑制できることが分かった。一方で、金型のキャビティの第二領域と第三領域の両方に凹凸形状を形成しなかった比較例1〜5では、シワ及び膨れの発生を充分に抑制できなかった。また、金型のキャビティの第二領域と第三領域の両方に凹凸形状を形成し、凹凸形状を粗くした比較例7では、金型の充填性及び離型性が低下し、得られた食品用容器にはシワが発生した。第一〜第四領域のいずれにも凹凸形状を形成しなかった比較例8では、金型の離型性が低下し、得られた食品用容器にはシワ及び膨れが発生した。
本発明は、超臨界射出成形を用いて、シワ及び膨れの発生を抑制することができ、断熱性に優れた深さのある食品用容器を製造できる食品用容器の製造方法を提供する。本発明の食品用容器の製造方法は、超臨界流体と樹脂組成物とを含む溶融樹脂を金型内のキャビティに射出成形して深さのある食品用容器を製造する方法であって、上記キャビティは、樹脂注入口から流動末端に向かって、上記深さのある食品用容器の底面部を形成する第一領域と、曲面部を形成する第二領域と、側面部を形成する第三領域とを含み、上記第二領域及び上記第三領域のキャビティに面する金型表面は、算術平均粗さが0.5μm以上、10μm以下であり、かつ、十点平均粗さが2μm以上、60μm以下である。