【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 The 20th OptoElectronics and Communications Conference(OECC 2015)(第20回光電子工学、通信会議2015)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
環状に光ノードを接続する光リングネットワークにおいては,各ノードにおいて光信号の分岐・挿入を可能とするROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)システムが導入されてきており、このような光リングネットワークをROADMリングと呼んでいる。
【0003】
ROADMリングの各ノードは、任意の波長信号を任意のポートに接続する機能が必要であるが、この機能を実現するための装置として、空間光学系に光回折素子と光偏向素子を組み込んだ波長選択スイッチ(WSS:Wavelength Selective Switch)が用いられている。
【0004】
空間光学系のWSSは、導波路系のWSSと比較すると、広帯域性や低損失性に優れているため、最近急激に普及しつつある。この空間光学系のWSSで用いられる光偏向素子は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により作製された鏡面反射型と、LCOS(Liquid crystal on silicon)技術により作製された波面整形型に大別され、前者は主に大規模用、後者は主に帯域可変用というように、目的に応じて使い分けられている。
【0005】
なお、以下において、空間光学系のWSSを単に「WSS」と呼ぶ。また、現在普及しているWSSは、入力ポートが1つで出力ポートが複数のいわゆるDROP型と、入力ポートが複数で出力ポートが1つのいわゆるADD型があるが、これらを総称して「1xN型WSS」と呼ぶ。
【0006】
今後、ROADMリングは、複数のROADMリングを連結した全光WDMメッシュネットワークに発展していくと予想されるが、ROADMリング間の接続ノードに用いられる波長クロスコネクトスイッチ(Wavelength cross-connect switch 以下、「WXC」と呼ぶ。)は、入力ポートも出力ポートも複数有することになるため、複数の入力ポートから同一波長信号が入力されてもその信号をブロックさせない機能(以下、「コンテンションレス機能」と呼ぶ。)が必要になる。ところが、WXCを1xN型WSSで構成すると多数のWSSが必要になるため、サイズ、コストが増大してしまう。そこで今後は、複数の入力ポートと複数の出力ポートを有し、複数の1xN型WSSの機能を単一の光学系に統合した次世代WSSへの需要が高まると予想される。なお、以下において、この次世代WSSを「MxN型WSS」と呼ぶ。
【0007】
一例として、WXCが2つの入力ポートと4つの出力ポートを必要とする場合について説明する。これを、1xN型WSSで実現しようとする場合には、
図1に示すように、入力ポートが1つ、出力ポートが4つの1x4DROP型WSS1001,1002と、入力ポートが2つ、出力ポートが1つの2x1ADD型WSS1011〜1014という、6つの1xN型WSSが必要となる。
【0008】
これに対して、MxN型WSSを主要光学部品を共有した単一光学系に統合した場合は、
図2に示すように、入力ポートが2つ、出力ポートが4つの2x4型WSS1021のみで実現することができる。したがってこの場合、MxN型WSSでは、1xN型WSSと比較して、主要光学部品数を約1/6、モジュールサイズを約1/6に削減することができ、また、ファイバ余長処理スペースを大幅に削減可能であるので、結果として、WXCのサイズ、コストを劇的に低減させることができる。
【0009】
また、このような複数の入力ポートと複数の出力ポート間の任意のポート間を接続する光クロスコネクトスイッチ(Optical cross-connect switch 以下、「OXC」と呼ぶ。)は、任意の波長信号に対する制御機能がなくとも、ファイバー間の接続切り替えに有用である。
【0010】
現在までに、MxN型WSSを単一の光学系で実現する検討の報告はなされているが、複数の入力光を独立して制御するため、光偏向素子に複数回入力する必要があることから光学系が複雑になり、主要光学部品数やモジュールサイズの削減には限界があった(非特許文献1)。
【0011】
また、1xN型WSSの高機能化の試みとして、一つの入力ポートから入力された同一波長信号を、複数の出力ポートに分岐して出力する機能の実現が報告されている。この技術はWSS内の位相変調素子での位相変調により、複数の角度へ同時に光を回折させることで実現されている(非特許文献2)。本発明は、この複数角度への同時回折を利用した小型のWXCおよびOXCに関するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
低コスト・低消費電力なROADMリング、特に複数のROADMリングを連結した光ネットワークを実現するために、小型で簡易な構成を持つWXCは非常に有効なデバイスである。しかしながら、従来報告されている空間光学型のWXCでは、方路数に対応した数の偏向部を用意する必要があり、装置の大型化・複雑化の原因となっていた。
【0014】
本発明は上記従来の問題に鑑みなされたものであって、本発明の課題は、従来のWSSと同様の構成を持ってWXCの機能を実現することにより、小型のWXC機能をもつ光入出力装置を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、一実施形態に記載の発明は、信号光の入出力を行う、複数の入力ポートおよび複数の出力ポートと、光偏向部を持ち、前記偏向部は前記複数の入力ポートと複数の出力ポートのうち任意の組み合わせに基づいて、2つ以上の角度に光を偏向することを特徴とする光入出力装置である。
【0016】
具体的には、以下のような発明の構成により前記の課題を解決することができる。
【0017】
(発明の構成1)
信号光の入出力を行う、複数の第1のポートと複数の第2のポートと、
一つの第1のポートからの入射光を複数の偏向角に同時に出射可能な偏向素子を備え、
前記複数の第1のポートのうち任意の2つのポートX、X’からの前記偏向素子への入射角をθinX,θinX’、
前記複数の第2のポートのうち任意の2つのポートY、Y’へ結合するための前記偏向素子からの出射角をθoutY,θoutY’としたとき、
全てのX,X’,Y,Y’の組み合わせにおいて
θinX - θinX’ ≠ θoutY - θoutY’
を満たしており、
前記複数の第1のポートのうち所定のポートからの前記偏向素子への入射光の前記複数の偏向角を、その出射光が、前記複数の第2のポートのうち所定のポートに光結合するように選択できる
ことを特徴とする光入出力装置。
【0018】
(発明の構成2)
発明の構成1に記載の光入出力装置において、
前記偏向素子がマトリックス状に平面配列された複数の画素を有し、前記第1のポートから入力された信号光に対して、画素位置に応じて設定された位相値に基づいた位相変化量を前記各画素で与えて空間位相変調することにより光を偏向する位相変調素子であり、
前記位相変調素子の各画素に設定する位相パタンを生成するパタン生成部と
前記生成した位相パタンを前記位相変調素子の各画素の駆動信号に変換して、該駆動信号に従い前記位相変調素子の画素を駆動する駆動部とをさらに備える
ことを特徴とする光入出力装置。
【0019】
(発明の構成3)
発明の構成2に記載の光入出力装置において、
前記位相変調素子の各画素に設定する位相パタンを
生成する前記パタン生成部が、前記第1のポートからの入射光を前記複数の偏向角に同時に出射するために2つ以上の周期性位相パタンを重畳した位相パタンを生成する
ことを特徴とする光入出力装置。
【0020】
(発明の構成4)
発明の構成3に記載の光入出力装置において、
前記パタン生成部は、前記第1のポートのうち1つの基準となるポートから入射する信号光が位相変調素子の法線方向に対する角度をθin、前記第2のポートのうち1つの任意のポートに光結合するために位相変調素子の法線方向に対する出射する信号光のなすべき角度をθo、回折次数をm、入射光の波長をλとしたときに、sinθin+sinθo=m・λ/Λを満たすΛを、前記周期性位相パタンの基準の周期Λと決定し、
前記第1のポートのうち基準ポート以外の1つ以上の追加のポートから入射する信号光が位相変調素子の法線方向に対する角度をθin_k、
前記第2のポートのうち、前記第1のポートのうち基準ポートと光結合しているポート以外のポートに光結合するために位相変調素子の法線方向に対する出射する信号光のなすべき角度をθo_l、入力光の波長をλ、m,nを回折次数としたときに、
sinθin_k + sinθo_l = m・λ/Λ + n・λ/wn
を満たすwnを前記周期性位相パタンの追加する周期wnと決定し、
前記決定された異なる周期Λ、wnを有する1つ以上の周期性位相パタンを重畳することにより前記位相変調素子の各画素に設定する前記位相パタンを生成する
ことを特徴とする光入出力装置。
【0021】
(発明の構成5)
発明の構成3乃至4のいずれかに記載の光入出力装置において、
前記位相変調素子の平面内の領域毎に異なる周期を有する周期性の位相パタンが重畳されることを特徴とする光入出力装置。
【0022】
(発明の構成6)
発明の構成1乃至5のいずれかに記載の光入出力装置において、
前記偏向素子が反射型または透過型であることを特徴とする光入出力装置。
【0023】
(発明の構成7)
発明の構成3乃至6のいずれかに記載の光入出力装置において、
前記複数の周期性位相パタンの各振幅の比が、光結合するポートの光結合比により決定されることを特徴とする光入出力装置。
【0024】
(発明の構成8)
発明の構成1乃至7のいずれかに記載の光入出力装置において、
前記ポートと前記偏向素子の間に波長分散素子を設けたことを特徴とする光入出力装置。
【0025】
(発明の構成9)
発明の構成1乃至8のいずれかに記載の光入出力装置において、
前記第1のポートおよび前記第2のポートと異なるポートであって信号光の入出力を行う、一つないし複数の第3のポートと一つないし複数の第4のポートを備え、
前記第1のポートのうちポートXからの前記偏向素子への入射角をθinX、
前記第2のポートのうちポートYへ結合するための前記偏向素子からの出射角をθoutY、
前記第3のポートのうちポートWからの前記偏向素子への入射角をθinW、
前記第4のポートのうちポートZへ結合するための前記偏向素子からの出射角をθoutZ、
としたとき、
θinX - θinW = θoutY - θoutZ
を満たしている
ことを特徴とする光入出力装置。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
[光入出力装置の構成]
まず、本実施形態の光入出力装置について説明する。
図3は、第1の実施形態の入出力装置についてx軸方向から見た概略構成を示す図である。
図3に示す例では、信号光を入出力するポートが配列する方向をy軸、信号光が伝搬する方向をz軸としている。入力光(信号光)は入力ポート11-1〜11−Nを介して空間に出射され、光学素子13に与えられる。光学素子13からの出射光は光偏向部14によって偏向角を与えられた後反射され、再び光学素子13を経由して、出力ポート16−1〜16−Mへ入力される。信号光は、光偏向部14により反射する角度および強度が選択され、複数の出力ポート16−1〜16−Мのうちの所定の出力ポート16−i(ただし、1≦i≦M)から任意の強度で出力される。
【0029】
光学素子13としては、入力ポート11−1〜11−N、を介して光学素子13に入力された光の、y軸上の位置により光偏向部14に入射する際の角度が変化するように変換する手段を用いることができ、例えばレンズや、プリズムや、凹面ミラー、回折格子などを用いることができる。
【0030】
異なる入力ポート11−1〜11−Nからの入射光を独立に制御する為、後述する位相変調素子での光回折制御による制約により入力ポート11−1〜11−Nから入射される信号光の光偏向部への入射角θ
in1〜θ
inN、及び出力ポート16−1〜16−Mへ結合するための光偏向部からの回折角θ
out1,〜θ
outMについて、
θ
i12=θ
in1-θ
in2,・・・,θ
i1N=θ
in1-θ
inN ,・・・,θ
i(N-1)N=θ
in(N-1)-θ
inN
式(1)
θ
o12=θ
out1-θ
out2,・・・,θ
o1M=θ
out1-θ
outM,・・・,θ
o(M-1)M=θ
out(M-1)-θ
outM
式(2)
とすると、x,yはN以下の、w,zはM以下の自然数として、以下の式(3)のような関係を持つように、入出力ポート11−1〜11−N、16−1〜16−Mを配置する。
【0031】
θ
i xy ≠ θ
o wz
→ θ
inX - θ
inY ≠ θ
outW - θ
outZ 式(3)
式(3)によって決められたポート配置と、下に記す光偏向部による複数方向への同時偏向により、各入力からの入力信号光を独立に制御することが可能である。
【0032】
[光偏向部の構成]
次に、この光入出力装置で用いられる光偏向部14について詳細に説明する。
【0033】
光偏向部14での複数の角度への偏向と、ポート配置の条件により、任意の入力ポートから任意の出力ポートへのパスを作成する手法を以下に述べる。
【0034】
前述した光入出力装置の構成において、以下の二つの条件を満たすことで複数ある入力ポートを独立して、任意の出力ポートに結合させることが可能になる。
1. 光偏向部での一つの偏向角では、同時に光が入力される入力ポートのうち、特定の一つのポートからの入射光のみが出力ポートに結合すること。
2. 光偏向部において、一つの入射光に対し、任意の複数の角度に偏向することが可能であること。
【0035】
本発明は、上記二つの条件を満たすことで、複数の入力ポートからの入力光を独立してスイッチングすることが可能な光入出力装置を提案するものである。
【0036】
最初に、条件の一つ目である「偏向部での一つの偏向角では、同時に光が入力される入力ポートのうち、特定の一つのポートからの入射光のみが出力ポートに結合する」設計手法について述べる。
【0037】
図4(a)に示すように、入力ポート1〜Nからの光偏向部への入射角をθin1,..,θinN、出力ポート1〜Mへ結合する際の光偏向部14からの出射角をθout1,...,θoutMとする。この時、
図4(b)に示すように、光偏向部への入射角が0°の時に光が偏向される角度をθLとすると、入力ポート1〜Nからの入射光の光偏向部14からの出射角θio1,...,θioNは以下の式(4)ようになる。
θio1=-θin1+θL ,..., θioN=-θinN+θL 式(4)
この時、例えばθio1=θout1となるようにθLを選ぶことで、入力ポート1からの信号光が出力ポート1に結合することができる。
また、式(1)(2)より、
θio1 - θio2 = -θi12 , ・・・, θio1- θioN = -θi1N , ・・・, θio(N-1)-θioN = -θi(N-1)N
式(5)
となる。
つまり、任意の二つの入力ポートからの信号光の光偏向部への入射角の差と、それら信号光が光偏向部から出射する出射角の差は等しくなる。
【0038】
このとき、X,WはN以下、Y,ZはM以下の任意の自然数とすると、θioX=θoutYの時、θioW ≠ θoutZ であること、つまりθioX = θoutY から-θiXWだけ離れた角度に回折した際に、結合する出力ポートθoutZ がないことが、一つの偏向角で結合できる入力ポートと出力ポートの組み合わせを一つに限定するためのポート配列条件となり、式(3)が全ての入出力ポートで成り立つことがポート配置の条件となる。
【0039】
式(3)の関係を満たす位置に入出力ポートを配置した上で、θio1〜θioNがθout1〜θoutMのうち任意の値になるよう複数のθLを選ぶことができれば、任意の入力ポートからの光を独立して任意の出力ポートへ結合することが可能になる。
【0040】
次に条件の二番目である「光偏向部において、一つの入射光に対し、任意の複数の角度に偏向することが可能」とする手法について述べる。
【0041】
一つの入射光を複数の角度に回折させる手法として、光偏向素子の一つである位相変調素子の位相パタンの設計により、複数の角度に光を回折する手法が提案されており、それによる複数の出力ポートの所望のチャンネルに光結合を行う1xN型WSSが報告されている(非特許文献2)。
【0042】
図5は、反射型の位相変調素子をz軸方向から見た場合の構成(光照射領域)を示す図である。位相変調素子はxy平面上にマトリックス状に配列されたp×q個の各画素において光の位相を独立に制御可能とされた多数の画素41−11〜41−pqと、各画素の位相を制御するドライバ素子42と、裏面に反射部43とを具備する。上記の光入出力装置において、位相変調素子に光を入射した場合の光照射領域は
図5に示す領域Rのようになる。領域R内の各画素41−11〜41−pqに特定の位相パタンを与えることによって出射光(信号光)の波面を制御し、出射光の進行方向及びその方向の光パワーの制御を行うことが出来る。
【0043】
位相変調素子は、例えば前述のLCOS(Liquid Crystal On Silicon)を用いて実現可能である。本素子では、液晶材料の配向方向を、ドライバ電極に印加する電圧で制御可能であり、これによって入力信号が感じる液晶の屈折率を変化させることにより出射する光の位相を制御することが可能である。表面電極を透明電極とし、裏面電極を反射電極とすることで反射型の位相変調器が実現可能である。液晶材料の代わりに電気光学効果を示す材料を用いても構わない。
【0044】
位相変調素子はまた、前述のMEMS(MicroElectro Mechanical System)ミラーを用いても実現可能である。例えば電圧を印加することで、各画素の位置に対応するミラーをz軸方向へ変位させることで画素ごとに光路長を変化させ、位相を制御することが可能である。
【0045】
図示されていないが、ドライバ素子42に接続された位相パタン生成手段が設けられている。位相パタン生成手段が位相パタンを生成し、ドライバ素子42がこの生成した位相パタンを駆動信号に変換して、変換した駆動信号に基づいて位相変調素子の各画素を駆動することにより、信号光の回折角度を制御することができる。
【0046】
[位相変調素子での位相パタンの生成方法]
任意の複数の角度に光を偏向可能な光偏向素子として位相変調素子を利用する際の、位相パタンの生成方法について述べる。
【0047】
位相変調素子によって任意の複数の角度に光を偏向する位相パタンの生成方法について説明する。まず、基準となる特定の角度に偏向する手法について説明する。
【0048】
図6は、基準となる特定の角度に光を偏向する位相パタンの例と、反射型の位相変調素子からの回折の例を示す図である。偏向角の制御は、例えば位相変調素子に入射される光の回折角を制御することによって行われる。
【0049】
設定する位相を
図6のようにのこぎり形状51にすることで、
図6のように位相変調素子からの出射波の回折角を制御可能である。ここで、回折角度θ
0、すなわち位相変調素子の法線方向に対する出射光のなす角度θ
0は、
sinθ
in+sinθ
0=m・λ/Λ 式(6)
で与えられる。ただし、式(6)においてθ
inは位相変調素子の法線方向に対する入力ポートからの入射光のなす角度、mは回折次数、λは入射光の波長、Λは位相パタンの1周期の長さとする。
【0050】
この時、θoが出力ポートの任意のポートに結合する角度となるようにΛを選ぶことで、光をスイッチすることができる。
【0051】
ここで、位相変調を受けた際の光の波面を考える。簡単のため、θ
in=0で考える。
上記のような位相変調を受けた場合には、位相変調素子に入射した光に、式(7)のような線形の位相シフトが空間的に与えられる。
E(y)=exp[iθo y] 式(7)
これにより波面が傾き、光が偏向される。
【0052】
実際のチャンネルの配置は、式(6)に応じて設定されればよく、上記式(6)により決定される位置よりも多少のズレがあってもよい。ズレがある場合、上記位置からのズレが多いほど接続損失が増加することになる。
【0053】
[複数の角度に同時に信号光を偏向する手法]
次に、基準となる偏向角以外の角度に同時に偏向する手法を説明する。
上記式(6)を用いて基準となる偏向角に基づいて決定された基準となる周期Λの周期性位相パタンに対し、異なる周期wの周期性位相パタンを重畳させた位相パタンを設定することにより、複数の角度に信号光を偏向することができる。基準となる周期Λの周期性位相パタンも異なる周期wの周期性位相パタンも共にのこぎり波である場合を例に挙げて説明する。
【0054】
基準となる偏向角に信号光が回折する位相パタンは、例えば、
図7(a)の上段に示すようなのこぎり形状の周期性位相パタン61であり、のこぎり波は周期がΛ、振幅が2πである。この位相パタンのみが存在する場合、
図7(a)の下段に示すようにθoへのみ光が出射する。
【0055】
この周期性位相パタンに対して、
図7(b)の上段に示すように、重畳するのこぎり波の1周期中の位相φが
φ=k×y%w 式(8)
(%は剰余演算子を表す)
となるような周期性位相パタン62を重畳すると、
図7(b)の下段に示すようにθsの角度方向にピーク64が現れ、ピーク63の光パワーを分配することが出来る。
【0056】
ここで、wは重畳する周期性位相パタンの1周期の長さ、kは定数とすると、
θoとθsの角度差をΔθs=θs−θoとして、式(6)の議論でθ
in=0の場合と同様に考えることができ、sinΔθs=n・λ/w と表すことができる。
【0057】
この式にΔθs=θs−θoを代入して変形すると、偏向角θsは、次式(9)で表すことが出来る。
θs=θo+arcsin(n・λ/w)
→ sinθs + sinθo = mλ/Λ + nλ/w 式(9)
m,nは回折の次数であり、整数である。
【0058】
この時、1番目の入射光とは異なる入力ポートからの入射光が位相変調素子の法線方向に対してなす角をθin2、式(9)のθ
0で結合する出力ポートとは異なる出力ポートへ結合するために位相変調素子の法線方向に対して出射光のなす角度θo2とすると、
θs=θo2 式(10)
となるように式(8)のwを選ぶことで、複数の角度で位相変調素子に入射される入力光を、複数の出力ポートにそれぞれ光結合させることができ、その為の条件は式(11)である。この時、|θin1|、|θin2|、|θo1|、|θo2|<<1としている。
θo2=m・λ/Λ+arcsin(m・λ/w)-θin2
式(11)
【0059】
実際のチャンネルの配置は、式(10)および式(11)に応じて設定されればよく、上記式(9)により決定される位置よりも多少のズレがあってもよい。ズレがある場合、上記位置からのズレが多いほどアッテネーション量が増加することになる。
【0060】
式(8)により決定した基準の周期Λを有する周期性位相パタンに追加する周期w
1を有する周期性位相パタンを重畳したうえに、更に異なる周期w
2を持つ1周期中の位相φ
2が、
φ
2=k
2×(y%w
2) 式(12)
で表される周期性位相パタンを重畳して生成した位相パタンを設定することにより
θ
s2=θ
o+arcsin(λ/w
2) 式(13)
の角度方向にも、更に光を偏向することが可能となり、3つ以上の角度への同時偏向が可能となる。
【0061】
同様に、互いに異なる周期を持った4つ以上の周期性位相パタンを重畳することにより4つ以上の角度への同時偏向が可能である。すなわち、上記のとおり信号光を偏向したい角度に基づいて周期性位相パタンの周期を決定し、この決定した互いに異なる周期の複数の周期性位相パタンを重畳して位相変調素子に設定する位相パタンを生成すればよい。
【0062】
なお周期性位相パタンはのこぎり波だけでなく、正弦波、矩形波のいずれか、あるいはこれらを組み合わせた波形でもよい。また重畳する周期性位相パタンごとに波形が異なっていてもよい。
【0063】
[出力光強度比の調整]
次に複数の角度に偏向した際の、出力強度比を調整する手法について説明する。
【0064】
式(8)のk、および式(12)のk
2を変化させて重畳する周期性位相パタンの振幅、及び重畳される前の基準となる周期性位相パタンの振幅を制御することで、基準となる周期性位相パタンによる出射方向の光パワーと重畳した周期性位相パタンによる出射方向の光パワーの比を制御することが可能である。すなわち、複数ある偏向角の分岐比を設定することが可能となる。これは、3つ以上の周期性位相パタンを重畳する場合にも同様に第2のポートのチャンネル毎の分岐比を設定できる。
【0065】
また、位相変調素子を複数の領域に分け、各領域に異なる周期の周期性位相パタンを設定することで複数の角度へ偏向することも可能である。
図8では、領域AにΛ1の周期を持つ周期性位相パタンを、領域BにΛ2の周期を持つ周期性位相パタンを設定することで、下記の式(14)、式(15)で決まるθ
o1とθ
o2に同時に光を回折する。
sinθin+sinθ
o1 =m・λ/Λ1 式(14)
sinθin+sinθ
o2 =m・λ/Λ2 式(15)
【0066】
図8の領域Aと領域Bそれぞれの広さと位置を変更することにより、θ
o1とθ
o2それぞれに回折される光の強度を調整可能である。同じ広さであれば、光強度の強い位置に存在するほどその領域に応じた回折光が強くなり、光強度が同じであれば、範囲が広いほどその領域に応じた回折光が強くなる。
【0067】
上記のような位相変調パタンの設計により、複数の周期性位相パタンを重畳することで、その周期に対応した方向へ光パワーを分配して複数の角度へ信号光の偏向が可能になる。また、重畳する周期性位相パタンの振幅を制御することにより、高精度な光強度の制御を行うことができる。
【0068】
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態の入出力装置についてx軸方向から見た概略構成を示す図である。この実施形態では、入力ポート11−1〜11−Nから光偏向部14の間に波長分散素子17を配置した点で第1の実施形態とは異なっている。第1の実施形態の入出力装置と異なる部分のみ説明する。波長分散素子17は、入出力ポート11−1〜11−N、16−1〜16−Mと光学素子13との間か、または光学素子13と光偏向部14との間かのいずれの位置に配置してもよい。
【0069】
この実施形態では、入力する信号光は、例えば波長λ1〜λnまでの光を束ねるWDM(Wavelength Division Multiplexing、波長分割多重)光を用いることができる。
図9に示す例では、入出力ポート11−1〜11−N、16−1〜16−M及び光学素子13の間に波長分散素子17を配置し、波長ごとに紙面垂直方向(x方向)に集光位置が異なるようにし、波長ごとに異なる出力ポートや光強度を選択可能としている。波長分散素子17は紙面垂直方向(x方向)に回折性能を有しており、入力光の波長により光偏向部14の紙面垂直方向に異なる位置に光を照射している。
【0070】
光偏向部14として領域ごとに偏向角を独立して制御可能な偏向素子を用いることで、波長チャンネルごとに異なる偏向角、出力光強度を設定可能である。たとえば、LCOSであれば、
図10に示すように、複数の領域ごとに、位相パタンを独立に制御する構成とすることができる。
【0071】
また、入射光をWDM信号とし、回折格子でx軸方向(例えば
図9の紙面垂直方向)に分散させる場合、その入射領域は、
図10に示すように波長チャンネル毎に異なり、x軸方向に並列した領域Rl〜Rnのようになる。この場合、領域R1〜Rnの位相パタンを前述の位相パタンの生成手法に基づき独立に制御することで波長チャンネルごとに異なる偏向角、出力光強度を、設定可能である。
【0072】
(第3の実施形態)
図11は、第3の実施形態の入出力装置についてx軸方向から見た概略構成を示す図である。第1の実施形態では、反射型の光偏向部を用いていたが、この実施形態3では、透過型の光偏向部を用いて光入出力装置を構成している。
図11は、x軸方向から見た透過型光偏向部を用いた光入出力装置の構成例を示すものである。第3の実施形態の入出力装置について第1の実施形態の入出力装置と異なる部分のみ説明する。
【0073】
本実施形態の光入出力装置では、
図11に示すように、入力側から、入力ポート21−1〜21−Nと、光学素子23と、光偏向部24と、光学素子25と、出力ポート27−1〜27−Mとが配置されて構成されている。
【0074】
光偏向部24は、透過型の光偏向部で構成されている。すなわち、第1の実施形態の光偏向部14とは異なり、ドライバ素子42の裏面に反射部43が設けられていないため、入力ポート21−1〜21−N側から入射された光は、位相変化を与えられた後、出力ポート27−1〜27−M側に透過する。光偏向部24には、第1の実施形態の光偏向部14と同様に表面および裏面には電極が設けられているが、光偏向部24では表面及び裏面電極の両方を透明電極とすることで、透過型位相変調器が実現可能である。反射型である光偏向部14では、上述したとおり、光偏向部14に入射した光が、入射面における法線方向に対して所定の角度(θ
0、θs)で出射されていたが、透過型である光偏向部24では、光偏向部24に入射した光が、入射面とは反対の面における法線方向に対して所定の角度(θ
0、θs)で出射される点が異なるが、それ以外は反射型の光偏向部14と同様に機能する。
【0075】
図11の構成では、図示左手の入力ポート21−1〜21−Nからの入力光が、出力されるチャンネルおよび出力光強度が調整された後、図示右手の複数の出力ポート27−1・・・27−Mのうちの所定のものに出力される。入力光は入力ポート21−1〜21−Nを介して空間に出射され、第1の光学素子23に入射される。第1の光学素子23からの出射光は光偏向部24によってその入射位置に応じた位相変化が与えられた後、第2の光学素子25へと透過する。光偏向部24を透過した光は、出力ポート27−1〜27−Mへ接続する。信号光は、光偏向部24により第2の光学素子25に接続する出力ポート及び光強度が選択されることにより、複数の出力ポート27−1〜27−Mのうちの所定の出力ポート27−i(ただし、1≦i≦M)から任意の強度で出力される。
【0076】
(第4の実施形態)
図12は、第4の実施形態の入出力装置についてx軸方向から見た概略構成を示す図である。この実施形態では、入力ポート21−1〜21−Nから光偏向部24の間および光偏向部24から出力ポート27−1〜27−Mの間に波長分散素子28、29を配置した点で第3の実施形態とは異なっている。第4の実施形態の入出力装置について第3の実施形態の入出力装置と異なる部分のみ説明する。
【0077】
この実施形態でも第2の実施形態と同様に、入力する信号光は、例えば波長λ1〜λnまでを束ねるWDM(Wavelength Division Multiplexing)光を用いることができる。
図12に示すように、入力ポート21−1〜21−Nおよび光学素子23の間に波長分散素子28を配置するとともに出力ポート27−1〜27−Mおよび光学素子25の間に波長分散素子29を配置して、波長ごとに集光位置を異なるようにし、波長ごとに異なる出力ポートや光強度を選択可能とすることができる。
【0078】
図12では、波長分散素子は紙面垂直方向(X方向)に回折性能を有しており、入力光の波長により光偏向部14の紙面垂直方向に異なる位置に光を照射している。波長分散素子28、29は光学素子23と光偏向部24の間、および光偏向部24と光学素子25の間に配置してもよい。
【0079】
(第5の実施形態)
図13は、第5の実施形態の入出力装置についてx軸方向から見た概略構成を示す図である。この実施形態では、入力ポート11−1〜11−Nの他に入力ポート100−1〜100−Kが、出力ポート16−1〜16−Mの他に出力ポート200−1〜200−Jが存在することが第1の実施形態とは異なっている。第5の実施形態の光入出力装置について、第1の実施形態の光入出力装置とは異なる部分のみ説明する。
【0080】
第1の実施形態では、式(3)に従うことで、入力ポート11−1〜11−Nのうち任意の入力ポートと出力ポート16−1〜16−Mのうち任意の出力ポートを結合させることが可能である。しかしこの実施形態では、全ての入力光をM分岐する必要があり、出力ポート数Mに比例した損失が発生する。
本実施形態では、光偏向部14において位相変調素子の位相パタンを制御することによって複数のポートの接続状態を一括で切り替える事を許容することにより、上記の分岐数を抑制する手法である。
【0081】
ここで、入力ポート11−1〜11−Nからの光偏向部への入射角をθin1,..,θinN、
入力ポート100−1〜100−Kからの光偏向部への入射角をθin1_2,..,θinK_2、
出力ポート16−1〜16−Mへ結合する際の光偏向部14からの出射角をθout1,...,θoutM、
200−1〜200−Jへ結合する際の光偏向部14からの出射角をθout1_2,...,θoutJ_2とする。
【0082】
この時、光偏向部への入射角が0°の時に光が偏向される角度をθLとすると、入力ポート11−1〜11−Nからの入射光の光偏向部14からの出射角θio1,...,θioNは以下に再掲する式(4)ようになる。
θio1=-θin1+θL ,..., θioN=-θinN+θL 式(4)
この時、例えばθio1=θout1となるようにθLを選ぶことで、入力ポート1からの信号光が出力ポート1に結合することができる。
【0083】
この時、入力ポート100−1〜100−Kからの入射光の光偏向部14からの出射角θio1_2,...,θioK_2は以下の式(16)ようになる。
θio1_2=-θin1_2+θL ,..., θioK_2=-θinK_2+θL 式(16)
【0084】
また、式(1)(2)より、
θio1 - θio1_2 = -(θin_1 -θin_1_2), ・・・, θio1- θioK_2 = - (θin_1 -θin_K_2), ・・・, θioN-θioK_2 = - (θin_N -θin_K_2)
式(17)
となる。
【0085】
つまり、入力ポート11−1〜11−Nのうち任意の入力ポートと入力ポート100−1〜100−Kのうち任意の入力ポートからの信号光の光偏向部への入射角の差と、それら信号光が光偏向部から出射する出射角の差は等しくなる。
【0086】
このとき、XはN以下、YはM以下、WはK以下、ZはJ以下の自然数とすると、
θioX=θoutYの時、θioW_2 = θout Z_2 であること、つまりθioX = θoutY から-(θin_X -θin_W_2)だけ離れた角度に回折した際に、結合する出力ポートθoutZ_2が配置されている事
により、偏向角を増やすことなく、つまりは分岐数を増やすことなく入出力ポート数を増やすことが可能となる。
【0087】
この時、入力ポート11−Xと入力ポート100−Wは独立ではなく、セットでスイッチ状態が切り替わることになる。
出力ポート数がMからM+Jに増えたが、分岐数はMのままであるため、出力ポート数増加に伴う分岐数増加による損失を抑制可能である。
【0088】
同様の手法により、3つ以上の入力ポートをセットで切り替える事が可能であり、その際には同一の入力ポート数に対して、より分岐数と損失を抑制できる。
【0089】
上記のような入出力ポートを追加しても分岐数が増加しないことは第2から第4の実施形態の光入出力装置においても不変であり、本手法によりポート数に対して必要な分岐数を減らして損失を抑制する事は、第2から第4の実施形態の光入出力装置においても同様に可能である。
【0090】
なお、本実施形態5の
図13では光偏向部14は反射型の構成を例示したが、実施形態3、4のように透過型の光偏向部でも構成可能であることは自明である。
【0091】
また、全ての実施形態において、説明のため光信号の進行方向を仮定し、入力ポートと出力ポートを区別して記載している部分もあるが、光信号の可逆性、双方向性により出力ポート側から光信号を入力し、入力ポート側から出力する構成も可能であることは、各図の光信号の双方向の矢印にも示すように当然のことであり、入力ポート、出力ポートはそれぞれ入出力ポートということができる。