【実施例】
【0041】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
ショウジョウバエにおける(UGGAA)expの発現によるRNA凝集および毒性誘導の実証
SCA31におけるプルキンエ細胞変性にin vivoで関与し得る(UGGAA)
expの毒性の特徴を明らかにするために、本発明者等は、UAS/GAL4システムを用いて、疾患に特異的な(UGGAA)
expリピート、または正常集団に見られるUAGAAおよびUAAAAUAGAA(配列番号5)複合体からなる対照リピートを発現するトランスジェニックショウジョウバエの系を作製するための発現構築物を作製した(
図1−1)。
【0043】
ゲノムDNAからのPCRによってSCA31または対照リピート挿入DNAを増幅した。完全なリピートの増幅のために、pUASTベクターの転写産物の領域を増幅するようにプライマーを設計した(フォワードプライマー:5’-TCTACGGAGCGACAATTCAA-3'(配列番号6)、リバースプライマー:5'-TGCTCCCATTCATGAG-3'(配列番号7))。(UGGAA)
exp領域(
図1−1 Part 1)のPCR増幅のためには、フォワードプライマー:5'-AGGGAATTGGGAATTCGTTAACA-3'(配列番号8)およびリバースプライマー:5'-TCCATTCCATTCTATTCTATTCCCAT-3'(配列番号9)を用いた。PCRによって増幅されたリピートのおおよそのサイズはゲル電気泳動で確認した。正確なリピート長の特定のために、PCR産物を1% アガロースゲル上の電気泳動で分離し、PCRII TAベクター(Invitrogen)にクローニングし、DNA配列決定によってリピート長を決定した。得られたPCR産物は、およそ80-100個のTGGAAリピートを含む(UGGAA)
expと、22個のTGGAAを含む(UGGAA)
22を含んでいた。
【0044】
PCR産物をHaeIIIで消化し、精製して、pBluescript KS(+)ベクター(Stratagene)中にクローニングした。ショウジョウバエの発現構築物は、ショウジョウバエの形質転換ベクターpUASTのNotIおよびXhoIクローニング部位の間にpBluescript KS(+)中のDNA断片を挿入することによって作製した。これらの構築物はリピート配列のすぐ上流にTAG-またはTAA-翻訳終止コドンを含む。形質転換ショウジョウバエはy,w株(Bestgene Inc.)を用い、標準的な方法で作成した。
【0045】
他に記載のない限り、実験は全て25℃で行った。羽化1-2日後のショウジョウバエの眼の表現型をSZX10型実体顕微鏡(Olympus)および走査型電子顕微鏡(Miniscope TM1000, Hitachi)で評価した。
【0046】
ショウジョウバエゲノム中の導入遺伝子について、TGGAA特異的PCRによって確認して、およそ80-100個のTGGAAリピートを有するいくつかのショウジョウバエの系((UGGAA)
expの強発現系(S)、弱発現系(W)、および最も強く発現した系(L))と、22個のTGGAAリピートを有する(UGGAA)
22系とを確立した。(UGGAA)
exp長の効果を評価するために、ショウジョウバエの複眼で(UGGAA)
exp、(UGGAA)
22または対照リピートを発現させた。
【0047】
定量的リアルタイムPCRのためには、20匹の三齢幼虫の全RNAをRNeasy kit(Quiagen)を用いて抽出し、PrimeScriptTM RT Master Mix(Takara Bio)を用いてcDNAを取得した。PCRに先立って、cDNAをDNase I(Invitrogen)で処理してゲノムDNAを除去した。リアルタイムPCRはLightCycler 480(Roche)を用いて3回行い、データはΔΔCt法または標準曲線法(Rp49レベル)を用いて行った。SCA31リピートまたは対照リピートの挿入のために使用したプライマーは以下の通りである。フォワードプライマー:5'-AGGGAATTGGGAATTCGTTAACA-3'(配列番号8)、リバースプライマー:5'-CTGGAGTGCAGTGACGTGATCT-3'(配列番号10)。
【0048】
その結果、(UGGAA)
22と対照リピートの発現は眼の形態に大きな影響を与えなかった(
図1−2 AおよびB)が、(UGGAA)
expの強発現(S)系では眼のサイズが小さくなり、かつ個眼の異常を有する眼の形態の崩壊を生じ、弱い発現(W)系ではやや乱れた表現型をもたらした(
図1−2 CおよびD)。(UGGAA)
expを最も強く発現した系では初期の発達段階で致死を誘導した(L系)(
図1−3 A)。全転写産物を増幅するプライマーを用いたRT-PCRでは、全ての系で導入遺伝子が転写されていることが示された。ホモ接合性のトランスジェニック(UGGAA)
expショウジョウバエはヘテロ接合性のトランスジェニック(UGGAA)
expショウジョウバエと比較してより重篤な複眼変性を示していた(
図1−2 I)。従って(UGGAA)
expは用量依存的に作用していることが示される。
【0049】
(UGGAA)
expがどのようにして眼における神経毒性を示すのかを調べるために、本発明者等は、(UGGAA)
expを発現する網膜の発達の初期イベントを追跡した。光受容体の分化は三齢幼虫の複眼原基で生じるため、GMR-GAL4システムにより、導入遺伝子を分化中の光受容体のみに誘導した。
【0050】
(UGGAA)
exp由来のRNA凝集がショウジョウバエの複眼原基中に存在するか否かを決定するために、本発明者等は、DIG-コンジュゲートロックト核酸(LNA)プローブを用い、yellow-white(yw)、(UGGAA)
22、(UGGAA)
expの弱発現系および強発現系に対するRNA蛍光in situハイブリダイゼーション(RNA FISH)を行った(
図1−2 E-H)。センス鎖の凝集(赤色)を検出するためのRNA FISHを、DAPI(青色)での核DNA染色と組み合わせた。その結果、対照リピートまたは(UGGAA)
22を発現する系ではRNA凝集は検出されなかったが(EおよびF)、(UGGAA)
exp(W)および(S)系の複眼原基では(UGGAA)
expRNAの凝集(矢じり)が観察され、ヒトSCA31の病理と類似していた(
図1−2 GおよびH)。RNAの凝集は核(矢印)および細胞質の双方に存在しているようであるが、組織の変性が非常に重篤であるために、細胞質内に存在しているように観察されるRNA凝集も、本来は核内に存在していた可能性がある。重要なことは、RNA凝集の量が(UGGAA)
expの発現レベルおよび複眼変性の重篤度と相関していたことである(
図1−3)。また、(UGGAA)
expの強発現系である(S)系では、発現量の差以上に複眼原基内のRNA凝集体量が増加していることが示された(
図1−3 B )。凝集は、RNaseによる前処理をした場合には減少し、RNAによるものであることは明らかである(
図1−2 J)。
【0051】
上記の結果から、(UGGAA)
expは、用量および長さに依存して、異常凝集した構造の形成を介して毒性を発揮することが実証された。
【0052】
[実施例2]
ショウジョウバエ成虫での(UGGAA)expの発現による毒性誘導の実証
次に、本発明者等は、ショウジョウバエの中枢神経系(CNS)での(UGGAA)
expの発現の影響を調べるためにelav-GAL4システムを用いた。elav-GAL4を用いたCNSでの(UGGAA)
expの持続的発現は蛹を致死させたため、本実施例においては誘導性Gene-Switch発現系を用い、羽化後のショウジョウバエのCNSで(UGGAA)
exp発現を誘導した。
【0053】
寿命分析およびクライミング試験はFeany, M.B. and Bender, W.W., Nature, 404, 394-398, 2000に記載された方法に若干の修正を加えて行った。具体的には、20匹のショウジョウバエをプラスチックバイアル内に入れ、バイアルを軽くたたいてショウジョウバエをバイアルの底に落としてから、クライミングの様子を観察した。15秒経過した時点で、バイアルの頂部(10cm超)に到達したショウジョウバエを計数した。各時点で20回以上の試験を行い、各群について100匹以上のショウジョウバエを試験した。
【0054】
elav-GeneSwitchを用いた寿命分析によって(UGGAA)
expの神経毒性を分析した結果、(UGGAA)
exp(S)ショウジョウバエはEGFP、対照リピート、および(UGGAA)
22を発現するショウジョウバエよりも寿命が短かく、対照では80〜90日間生存したのに対して、(UGGAA)
exp(S) ショウジョウバエの生存の平均は34日間であった(p < 0.001, log-rank 試験, n = 100-120 匹/群)(
図2A)。
【0055】
更に、クライミング試験において、(UGGAA)
exp(S)を発現するショウジョウバエはより進行性の運動機能障害を示し、28日目にはわずか34.4±11.7%のショウジョウバエしか登ることができなかった。これに対し、EGFPを発現するショウジョウバエの80.2±6.9%、対照リピートを発現するショウジョウバエの79.1±8,1%、および(UGGAA)
22を発現するショウジョウバエの72.1±9.2%が28日目にバイアルの頂部まで登ることができた(平均±s.d, n = 100-120, ***p < 0.001, two-way ANOVA)(
図2B)。
【0056】
これらのデータから、(UGGAA)
expを発現するショウジョウバエがヒトのSCA31の神経学的・病理学的性質を再現していることが示された。
【0057】
[実施例3]
in vitroおよびin vivoにおけるTDP-43とUGGAA RNAとの相互作用
in vitro RNAプルダウンアッセイによって、潜在的(UGGAA)
exp結合パートナーのスクリーニングを行った。具体的には、(UGGAA)
expまたは対照リピートを含むビオチン化RNAをT7 RNAポリメラーゼ(Roche)を用いてin vitro転写によって合成し、PC12細胞またはマウス脳の核画分(NE-PER抽出試薬(Pierce)を用いて細胞を溶解させて分画した)と共にインキュベートした。次いで、ストレプトアビジンコートした磁気ビーズ(Dynabeads M-280 Streptavidin (Invitrogen))を用いてプルダウンし、捕捉されたタンパク質-(UGGAA)
exp複合体をSDS-PAGEによって分離し、クマシーブルーによって染色した。目的のバンドをゲルから切り出し、LC-MS分析によってタンパク質を同定した。
【0058】
ヒトの脳組織(患者1:80歳男性、患者2:74歳男性)の調製およびFISHによるプルキンエ細胞中のリピート転写産物の検出は、ジゴキシゲニン(DIG)-コンジュゲートロックト核酸(LNA)プローブ(5nM、Exiqon)、(TTCCA)
5または(TTTTATTCTA)
2.5(配列番号11)を用いて行った。ヒト脳切片のスライド上への固定、洗浄等の操作は一般的な手法で行った。染色は、一次抗体として抗TBP-43抗体(1/100希釈、Abcam AB41972)、二次抗体としてAlexa-Fluor 488にコンジュゲートさせたヤギ抗ウサギ抗体(1/500、Fisher)を用いた。
【0059】
その結果、RNAの輸送、スプライシング、編集において機能する数種のRNA結合タンパク質および核パラスペックル(paraspeckle)の成分が同定された。本発明者等は同定されたタンパク質の中で最も量の多いタンパク質の一つであるTDP-43に着目し、SCA31の病理におけるその役割を詳細に解析した。
【0060】
ウエスタンブロット解析結果から、TDP-43がin vitroにおいて(UGGAA)
expと特異的に相互作用することが確認された(
図3A)。更に、ヒトSCA31プルキンエ細胞におけるRNA FISHおよびRBP免疫蛍光分析から、TDP-43が(UGGAA)
expRNA病巣と共局在していることが示され、in vivoにおいてもTDP-43が(UGGAA)
expに結合していることが示唆された(
図3B)。これらの結果から、TDP-43がSCA31の発症において役割を果たしていることが強く示唆された。
【0061】
[実施例4]
TDP-43による(UGGAA)exp誘導毒性の抑制
(UGGAA)
exp誘導毒性におけるTDP-43の役割を調べるために、本発明者等は(UGGAA)
exp発現ショウジョウバエをヒト野生型TDP-43発現ショウジョウバエと交配した。TDP-43の発現のために使用した構築物の模式図を
図4Aに示す。
【0062】
ヒトTDP-43を発現するトランスジェニックショウジョウバエは、pUASTベクターを用い、標準的技法で作製した。pUAST-TDP-43ΔNおよびpUAST-TDP-43ΔC構築物は、それぞれアミノ酸1-89およびアミノ酸276-414をコードする領域を欠失させることによって作製した。TDP-43 RRM変異体構築物は、QuikChange Multi Site-Directed Mutagenesis kit(Stratagene)を用い、フェニルアラニン残基147、149、194、229および231をロイシンに変異させることによって作製した。
【0063】
その結果、ALS/FTDのショウジョウバエモデルにおけるTDP-43毒性を示唆する先行研究の結果と一致して、ヒト野生型TDP-43(TDP-43 WT)の発現によって、眼の変性がわずかに認められた(
図4B)。しかしながら、(UGGAA)
expを発現するショウジョウバエにおいて、TDP-43 WTの共発現は、複眼変性を劇的に抑制した(
図4C)。一方、内在性のショウジョウバエTDP-43(dTDP-43)(Lin, M.J. et al., PloS one 6, e20371, 2011)のRNA干渉(RNAi)-介在型ノックダウンは、(UGGAA)
exp(W)系で複眼変性を大きく増大させ、(UGGAA)
exp(S)系では致死的表現型を誘導した(
図4C)。これらのデータから、TDP-43はin vivoにおいて(UGGAA)
expの毒性に関わる重要な役割を果たしていることが示される。
【0064】
(UGGAA)
exp誘導毒性を抑制するためにTDP-43のどの部分が必要であるのかを決定するために、本発明者等はN-末端(ΔN)またはC-末端(ΔC)領域を欠き、スプライシング制御およびマイクロRNA(miRNA)生合成/サイレンシングのための他のタンパク質との相互作用ができない(Buratti, E. et al., The Journal of Biological Chemistry 280, 37572-37584, 2005; Ling, S.C. et al., Neuron 79, 416-438, 2013)、あるいはRNA認識モチーフに5個のアミノ酸置換を有し(TDP-43 RRM変異体)、そのRNA標的に対する結合能が低下したTDP-43変異体(Buratti, E. and Baralle, F.E., The Journal of Biological Chemistry 276, 36337-36343, 2001; Elden, A.C. et al., Nature 466, 1069-1075, 2010)を発現するトランスジェニックショウジョウバエを作製した(
図4A)。
【0065】
N-末端(ΔN)およびC-末端(ΔC)を欠くTDP-43断片のみを発現するショウジョウバエの一部も軽度の複眼変性を示したため(
図4B)、本発明者等は各遺伝子型についてこの比較的弱い表現型を有する系を選択して(UGGAA)
exp発現ショウジョウバエと交配した。
【0066】
その結果、驚くべきことに、2つのTDP-43欠失変異体のいずれかを共発現させても、(UGGAA)
exp発現ショウジョウバエの表現型が顕著に軽減されたが、RRM領域に変異を生じさせたTDP-43 RRM変異型は変性を軽減することができなかった(
図4C)。これらの結果から、TDP-43と(UGGAA)
expとの直接的相互作用が、(UGGAA)
exp誘導毒性を軽減する役割を有し得ることが示された。
【0067】
[実施例5]
(UGGAA)expRNAのフォールディングのATP非依存型RNAシャペロンとしてのTDP-43の機能
TDP-43がそのRNA結合能を介して(UGGAA)
exp誘導毒性を抑制するメカニズムを解析するために、本発明者等は(UGGAA)
expとTDP-43とを共発現するショウジョウバエにおける(UGGAA)
exp転写産物の発現レベルおよびRNAの凝集を検討した。
【0068】
その結果、TDP-43 WTの共発現は(UGGAA)
exp転写産物の発現レベルに有意な影響をもたらさなかった(
図5A)が、RNAの凝集は(UGGAA)
exp-TDP-43の相互作用によって大きく抑制された(
図5B-5D)。(UGGAA)
exp(W)系では、TDP-43の共発現によりRNA凝集体量が複眼原基の面積あたり2.08%から0.37%に減少し、約82%の凝集阻害活性が示された。また、(UGGAA)
exp(S)系では、RNA凝集体量が12.9%が4.3%に減少し、約67%の凝集阻害活性があることが示された (
図5D)。
【0069】
一方、TDP-43 RRM突然変異体の共発現は(UGGAA)
expを発現するショウジョウバエにおけるRNA凝集を抑制することができなかった(
図5B-5D)。また、(UGGAA)
exp(W)系の複眼原基におけるRNA FISHおよびRBPの蛍光免疫染色から、TDP-43が核内の(UGGAA)
expRNA転写産物と結合していることが明らかになった(
図5E)。更に、複眼の形態の増悪と一致して、dTDP-43のノックダウンがRNA凝集を劇的に増大させた(
図5C−5D)。これらの結果から、TDP-43は(UGGAA)
exp転写産物の分解を促進するのではなく、in vivoにおけるRNA-TDP-43の相互作用を介してRNAの凝集を消失させ、それによってRNAの毒性を中和することが示された。
【0070】
[実施例6]
in vitroにおけるTDP-43と(UGGAA)expとの相互作用
実施例5のデータから、TDP-43が(UGGAA)
expと直接相互作用して異常なRNAのin vivoにおける非機能的コンフォメーションの形成を抑制する可能性が示唆された。本発明者等は次いで、TDP-43がin vitroにおける(UGGAA)
exp凝集を直接抑制するか否かを原子間力顕微鏡(High-speed AFM, NanoExplorer, RIBM)を用いて試験した。
【0071】
溶液中で熱変性させた直後、T7 RNAポリメラーゼを用いてin vitroで転写された(UGGAA)
expRNAは、その多くが、大きなRNA凝集体(高さ > 1.5nm、幅 > 40nm、星印、3.2±1.9%)としてよりも一本鎖RNA(ssRNA、高さ < 0.9nm、矢印、19.5±2.6%)として、または小さな凝集体(高さ > 1.5nm、幅 > 15nm、< 40nm、矢じり、77.3±3.4%)として存在していたが、RNAのみの条件で室温で10分間インキュベーションした後、大きな凝集体の比率が顕著に増加した(38.9±9.5%、**p < 0.01)。しかしながら、それ自体の凝集傾向を失くした精製組換えTDP-43ΔC(Wang, I.F. et al., Nature Communications 3, 766, 2012)と共にインキュベーションした結果、(UGGAA)
expRNAが一本鎖として維持され(20.6 ± 5.0%, **p < 0.01)、RNAのみの条件と比較すると大きなRNA凝集形成(6.1±3.1%, ** p < 0.01)を抑制した(
図6A-6B)。
【0072】
実施例5の結果と合わせると、TDP-43が標的RNAである(UGGAA)
expの凝集を直接結合することによって抑制し、その結果として(UGGAA)
expの毒性を消失させ得ることが示された。このプロセスは、ATP依存的にCUGリピート二本鎖をほどくDEAD-boxヘリカーゼDDX6等とは異なり、アデノシン三リン酸(ATP)または他のタンパク質を必要とせず、RNAの品質管理におけるTDP-43の新たな機能を明らかにするものである。
【0073】
[実施例7]
リピートがコードするペンタペプチドリピートタンパク質産生のTDP-43による抑制
イントロンTGGAAリピートがRAN翻訳メカニズムによってペンタペプチドリピート(PPR)タンパク質に異常に翻訳され得るとの仮説に基づけば、
図7Aに示すように、全てのフレームで、TGGAAリピートの翻訳は1種のPPRタンパク質、ポリ-(Trp-Asn-Gly-Met-Glu)(配列番号12)を生じる。本発明者等は、[H]CMEWNGMEWMGMEWNG[OH](配列番号13)ペプチドに対するポリクローナル抗体(抗-WNGME SGJ1705およびSGJ1706)を常法により作製した。アフィニティー精製したPPR抗体の特異性を、組換えペンタペプチドを含む小脳組織切片の処理によって確認したところ、PPRタンパク質の封入量が減少し、アフィニティー精製PPR抗体はGST融合物として細菌中に生成した組換えポリ-(WNGME)ペプチドを検出した。
【0074】
次いで、PPRタンパク質がSCA31患者の脳に存在するか否かを評価するために、小脳組織切片における免疫組織化学分析を行った。SCA31患者の組織切片において、ポリ-WNGME-特異抗体が、対照には見られないプルキンエ細胞の細胞体および樹状突起内の点状の顆粒(黒矢印)を検出し、PPRタンパク質がSCA31患者の脳に存在することが示唆された(
図7B)。
【0075】
次に、ポリ-WNGMEペプチドが(UGGAA)
expを発現するショウジョウバエでも発現されているか否かを検討した。抗-WNGME-抗体を用いた免疫染色から、対照リピートあるいは(UGGAA)
22を発現するショウジョウバエの系ではPPRタンパク質生成の証拠は見られなかったが、(UGGAA)
exp(W)および(S)系の双方の三齢幼虫の複眼原基でPPRタンパク質が合成されていることが明らかになった(
図7Cおよび7D、矢印)。
【0076】
(UGGAA)
exp誘導毒性の抑制に対するRNAシャペロンとしてのTDP-43の顕著な効果から、本発明者等は、TDP-43がショウジョウバエにおけるPPRタンパク質の産生にも影響するか否かを検討した。その結果、TDP-43のアップレギュレーションは(UGGAA)
exp(W)および(S)系双方でのPPRタンパク質の産生並びにRNA凝集を有意に低下させた(**P < 0.01、PPRタンパク質レベルは複眼原基あたり2.5±0.38および4.1±0.48 %から0.1±0.02および0.9±0.23 %にそれぞれ低下した)(
図7Dおよび7E)。しかしながら、RNAの蓄積および(UGGAA)
exp誘導毒性を抑制できないTDP-43 RRM変異体の共発現によっても(UGGAA)
exp発現ショウジョウバエにおけるPPRタンパク質の合成が抑制された(PPRタンパク質レベルは複眼原基あたり0.9±0.15および1.0±0.38 % にそれぞれ低下した。*p < 0.05, **p < 0.01)。更に、dTDP-43のサイレンシングは(UGGAA)
exp(W)系におけるPPRタンパク質の合成を統計的に有意には増加させなかった(複眼原基あたり3.3±0.68 %)。
【0077】
これらのデータから、PPRタンパク質の量は(UGGAA)
expを発現するショウジョウバエにおけるRNA凝集の度合いおよび量とは必ずしも相関せず、PPRタンパク質はこのショウジョウバエモデルにおいてRNAから翻訳されるものではないことが示唆された。
【0078】
一方、(UGGAA)
expを発現するショウジョウバエの溶解物のウェスタンブロット分析からWNGMEとの免疫反応性を有する分子種が明らかになり、TDP-43がin vivoにおけるPPR産生の阻害に関与していることが確認された(相対PPRタンパク質レベルは複眼原基あたり1.0および6.7±1.36 %から0.1±0.05 および1.3±0.33 % にそれぞれ低下した。*p < 0.05, *** p < 0.001)(
図7Fおよび7G)。
【0079】
[実施例8]
FUS/TLSによる(UGGAA)exp誘導毒性の抑制効果
ショウジョウバエにおける(UGGAA)
exp毒性に対するFUS/TLSの効果を評価した。ヒトFUS/TLSをアップレギュレーションすると、TDP-43と同様に(UGGAA)
exp(S)系での複眼変性を劇的に軽減した(
図8A)。また、FUS/TLSは、TDP-43と同様に、(UGGAA)
expを発現する三齢幼虫におけるRNAの凝集およびリピートRNAをコードするPPRタンパク質の生成を抑制した。FUS/TLSを(UGGAA)
expと共発現させても(UGGAA)
exp転写産物の発現レベルには影響しなかった(
図8B)が、それらの発現はRNA凝集(**p < 0.01, 複眼原基あたり12.4±0.76 から4.1±0.26%に減少、約67%の凝集阻害活性 )およびPPRタンパク質(**p < 0.001, 複眼原基あたり4.1±0.48から1.3±0.16 %に減少)の統計的に有意な減少をもたらした(
図8Cおよび8D)。また、免疫ブロット解析から、FUS/TLSがPPRタンパク質の合成を阻害していることが明らかとなった(***p < 0.001, 相対PPRタンパク質レベルは複眼原基あたり1.0から0.5±0.05 %に減少)(
図8E)。