(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の測定チップは、製造にあたり、金属蒸着膜を有するガラス基材上にチオール、アビジンを段階的に固定化しなければならず、加えて、金属蒸着膜上へのチオールの固定化はガラス基材をチオール溶液に24時間浸漬させる必要があり、分子認識表面を作製するのに時間も手間もかかる非効率的な製造方法であることが課題であった。
また、特許文献2では、シラン、ポリエチレンオキシド及びビオチンを有する化合物の溶液を基材上にスピンコーティングで塗布することにより、比較的短時間で分子認識表面を作製することが可能であるが、該化合物のシラン部分と反応可能なシラノール部分を有するシリコンウエハやガラスなどの基材でなければアビジンを固定化することが出来ない。このため、ポリスチレンなどの安価で軽量なプラスチック基材に本文献で開示された上記化合物を固定化するためには、ポリスチレン表面に対してプラズマ処理などを行い、予めヒドロキシ基を作製する工程が必要となり、基材の選択自由性に乏しいことが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、生体分子部位を有する含フッ素高分岐ポリマー及び熱可塑性樹脂を含む樹脂ブレンドが、スピンコーティングなどの短時間で薄膜を作製可能な塗布方法により、プラスチックをはじめとする各種基材上に簡便に分子認識表面を形成可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、第1観点として、分子内にアルキレンオキシド及び2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAのモル数に対して5〜200モル%の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる含フッ素高分岐ポリマーであって、その分子末端に、ビオチンとアビジン、抗原と抗体、ポリヌクレオチドとその相補的塩基配列を持つポリヌクレオチド、cDNAとmRNA、酵素(活性部位)と基質、酵素(活性部位)と生産物、酵素(活性部位)と競争阻害剤、酵素(補酵素結合部位)と補酵素、酵素(補酵素結合部位)とトリアジン色素、プロテアーゼとプロテアーゼインヒビター、Fc部位とプロテインA、Fc部位とプロテインG、レクチンと糖、ホルモンレセプターとホルモン、DNAとDNA結合タンパク質、ヘパリンとフィブロネクチン、及びヘパリンとラミニンとの組合せの対からなる群から選ばれる少なくとも何れか一種の対の一方の生体分子部位を有する、生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーに関する。
第2観点として、前記モノマーAが、ビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方又は双方を有する化合物である、第1観点に記載の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーに関する。
第3観点として、前記モノマーAが、ジビニル化合物又はジ(メタ)アクリレート化合物である、第2観点に記載の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーに関する。
第4観点として、前記モノマーAが下記式[1]で表される化合物である、第3観点に記載の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーに関する。
【化1】
(式中、R
1はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、L
1は炭素原子数2乃至6のアルキレン基を表し、nは1乃至30の整数を表す。)
第5観点として、前記モノマーBが、ビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方を少なくとも1つ有する化合物である、第1観点乃至第4観点のうち何れか一項に記載の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーに関する。
第6観点として、前記モノマーBが下記式[2]で表される化合物である、第5観点に記載の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーに関する。
【化2】
(式中、R
2は水素原子又はメチル基を表し、R
3はヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素原子数2乃至12のフルオロアルキル基を表す。)
第7観点として、前記モノマーBが下記式[3]で表される化合物である、第6観点に記載の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーに関する。
【化3】
(式中、R
2は前記式[2]における定義と同じ意味を表し、Xは水素原子又はフッ素原子を表し、mは1又は2を表し、nは0乃至5の整数を表す。)
第8観点として、前記重合開始剤Cがアゾ系重合開始剤である、第1観点乃至第7観点のうち何れか一項に記載の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーに関する。
第9観点として、前記重合開始剤Cが4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)である、第8観点に記載の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーに関する。
第10観点として、第1観点乃至第9観点のうち何れか一項に記載の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーを含有するワニスに関する。
第11観点として、第1観点乃至第9観点のうち何れか一項に記載の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーより作製される薄膜に関する。
第12観点として、(a)第1観点乃至第9観点のうち何れか一項に記載の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマー、及び(b)熱可塑性樹脂を含む樹脂ブレンドに関する。
第13観点として、第12観点に記載の樹脂ブレンドより作製される薄膜に関する。
第14観点として、第1観点乃至第9観点のうち何れか一項に記載の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーより作製される薄膜の製造方法であって、
該生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーを溶媒中に含む液をスピンコート法により基材上に塗布し、塗膜を形成する工程、及び
該塗膜を乾燥し溶媒を除去する工程
を含む、薄膜の製造方法に関する。
第15観点として、第12観点に記載の樹脂ブレンドより作製される薄膜の製造方法であって、
該樹脂ブレンドを溶媒中に含む液をスピンコート法により基材上に塗布し、塗膜を形成する工程、及び
該塗膜を乾燥し溶媒を除去する工程
を含む、薄膜の製造方法に関する。
第16観点として、上記塗膜を乾燥し溶媒を除去する工程後に、さらに、親水性媒体の雰囲気下で、得られた塗膜のアニーリングを行う工程を含む、第15観点に記載の薄膜の製造方法に関する。
第17観点として、第11観点又は第13観点に記載の薄膜を基材上に備え、これにより、ビオチンとアビジン、抗原と抗体、ポリヌクレオチドとその相補的塩基配列を持つポリヌクレオチド、cDNAとmRNA、酵素(活性部位)と基質、酵素(活性部位)と生産物、酵素(活性部位)と競争阻害剤、酵素(補酵素結合部位)と補酵素、酵素(補酵素結合部位)とトリアジン色素、プロテアーゼとプロテアーゼインヒビター、Fc部位とプロテインA、Fc部位とプロテインG、レクチンと糖、ホルモンレセプターとホルモン、DNAとDNA結合タンパク質、ヘパリンとフィブロネクチン、及びヘパリンとラミニンとの組合せの対からなる群から選ばれる少なくとも何れか一種の対の一方の生体分子を認識可能な、分子認識表面チップに関する。
第18観点として、分子内にアルキレンオキシド及び2個以上のラジカル重合性二重結
合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAのモル数に対して5〜200モル%の分子内にカルボキシ基を有する重合開始剤の存在下で重合させることにより得られるカルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーを、N−ヒドロキシコハク酸イミドと反応させることにより得られる、該カルボキシ基の一部又は全部がヒドロキシコハク酸イミドエステル化された、活性化カルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーに関する。
第19観点として、第18観点に記載の活性化カルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーと、
該活性化カルボキシ基と反応し得る官能基、並びにビオチンとアビジン、抗原と抗体、ポリヌクレオチドとその相補的塩基配列を持つポリヌクレオチド、cDNAとmRNA、酵素(活性部位)と基質、酵素(活性部位)と生産物、酵素(活性部位)と競争阻害剤、酵素(補酵素結合部位)と補酵素、酵素(補酵素結合部位)とトリアジン色素、プロテアーゼとプロテアーゼインヒビター、Fc部位とプロテインA、Fc部位とプロテインG、レクチンと糖、ホルモンレセプターとホルモン、DNAとDNA結合タンパク質、ヘパリンとフィブロネクチン、及びヘパリンとラミニンとの組合せの対からなる群から選ばれる少なくとも何れか一種の対の一方の生体分子部位を有する化合物とを反応させることを特徴とする、第1観点乃至第9観点のうち何れか一項に記載の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーの製造方法に関する。
第20観点として、前記活性化カルボキシ基と反応し得る官能基がアミノ基である、第19観点に記載の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の生体分子認識部位を有する含フッ素高分岐ポリマーは、該ポリマーを含有するワニスや該ポリマーを含有する樹脂ブレンド等を用いて、スピンコーティングにより容易に膜を形成でき、短時間で基材上に分子認識表面を作製することが可能となる。
また本発明の生体分子認識部位を有する含フッ素高分岐ポリマーは、積極的に枝分かれ構造を導入しているため、線状高分子と比較して分子間の絡み合いが少なく微粒子的挙動を示す。さらにフルオロアルキル基により低表面エネルギー化された含フッ素高分岐ポリマーは、マトリクスとなる熱可塑性樹脂中においては、空気などの自由界面である表面側への移動が容易となり、樹脂表面に活性を付与しやすい。従って、本発明の生体分子認識部位を有する含フッ素高分岐ポリマーと上記熱可塑性樹脂等を含む樹脂ブレンドから膜などの成形体を作製する際、微粒子状の該含フッ素高分岐ポリマーは界面(膜表面)に容易に移動することができ、その表面において該含フッ素高分岐ポリマーの存在量が高められた成形体(膜)を形成可能である。すなわち、本発明の生体分子認識部位を有する含フッ素高分岐ポリマーに熱可塑性樹脂等を配合した樹脂ブレンドから、その表面が分子認識可能な表面である成形体(膜)等を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマー>
本発明の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーは、分子内にアルキレンオキシド及び2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAのモル数に対して5〜200モル%の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる含フッ素高分岐ポリマーであって、その分子末端に、ビオチンとアビジン等の相補的な生体分子部位の対のうち、一方の生体分子部位を有する、生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーである。
詳細には、本発明の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーは、その分子末端に、結合基を介して生体分子部位を有するポリマーである。
上記生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーはいわゆる開始剤断片組込み(IFIRP)型高分岐ポリマーであり、その末端に重合に使用した重合開始剤Cの断片を有している。
さらに、上記生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーは、本発明の効果を損なわない限り、後述のモノマーA及びモノマーBに属さない多官能モノマー及び/又は単官能モノマーを、必要に応じて共重合させてもよい。
【0013】
[モノマーA]
上記分子内にアルキレンオキシド及び2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAは、ビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方又は双方を有することが好ましく、特にジビニル化合物又はジ(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。特に前記式[1]で表される化合物がより好ましい。なお、本発明では(メタ)アクリレート化合物とは、アクリレート化合物とメタクリレート化合物の両方をいう。例えば(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸をいう。
【0014】
このようなモノマーAとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(分子量:200,300,400,600,1000など)ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(分子量:400,500,700など)ジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコール(分子量:650など)ジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコール(分子量:700など)ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0015】
これらのうち好ましいものは、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートである。これらの中でもポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレー
ト及びポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、特にポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0016】
[モノマーB]
本発明において、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBは、好ましくはビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方を少なくとも1つ有することが好ましく、特に前記式[2]で表される化合物が好ましく、より好ましくは前記式[3]で表される化合物であることが望ましい。
【0017】
このようなモノマーBとしては、例えば、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート、1H−1−(トリフルオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
本発明において、モノマーBの使用量は、反応性や表面改質効果の観点から、前記モノマーAの使用モル数に対して5〜300モル%、特に10〜150モル%の量で、より好ましくは20〜100モル%の量で使用することが好ましい。
【0019】
[重合開始剤C]
上記重合開始剤Cとしては、好ましくはアゾ系重合開始剤が用いられる。アゾ系重合開始剤としては、例えば以下の(1)〜(5)に示す化合物を挙げることができる。
(1)アゾニトリル化合物:
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等;
(2)アゾアミド化合物:
2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等;
(3)環状アゾアミジン化合物:
2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド
、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジスルフェートジヒドレート、2,2’−アゾビス[2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2'−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジヒドロクロリド等;
(4)アゾアミジン化合物:
2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]テトラヒドレート等;
(5)その他:
2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)等。
【0020】
上記アゾ系重合開始剤の中でも、後述する含フッ素高分岐ポリマー末端に生体分子部位の導入のしやすさの観点から、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)が好ましい。
【0021】
前記重合開始剤Cは、前記モノマーAのモル数に対して、5〜200モル%の量で使用され、好ましくは20〜200モル%の量で、より好ましくは20〜100モル%の量で使用される。
【0022】
[含フッ素高分岐ポリマーの製造方法]
前述のモノマーAと、モノマーBとを、該モノマーAに対して所定量の重合開始剤Cの存在下で重合させる重合方法としては公知の方法、例えば溶液重合、分散重合、沈殿重合、及び塊状重合等が挙げられ、中でも溶液重合又は沈殿重合が好ましい。特に分子量制御の点から、有機溶媒中での溶液重合によって反応を実施することが好ましい。
【0023】
このとき用いられる有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素類;塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン化物類;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類又はエステルエーテル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ−n−ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、並びにこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。
【0024】
これらのうち好ましいのは、芳香族炭化水素類、ハロゲン化物類、エステル類、エステルエーテル類、エーテル類、ケトン類、アルコール類、アミド類等であり、特に好ましいものはベンゼン、トルエン、キシレン、オルトジクロロベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメ
チルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等である。
【0025】
上記重合反応を有機溶媒の存在下で行う場合、前記モノマーAの1質量部に対する前記有機溶媒の質量は、通常5〜120質量部であり、好ましくは10〜110質量部である。
重合反応は常圧、加圧密閉下、又は減圧下で行われ、装置及び操作の簡便さから常圧下で行うのが好ましい。また、N
2等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
重合温度は、反応混合物の沸点以下であれば任意であるが、重合効率と分子量調節の点から、好ましくは50〜200℃であり、さらに好ましくは80〜150℃であり、80〜130℃がより好ましい。
反応時間は、反応温度や、モノマーA、モノマーB及び重合開始剤Cの種類及び割合、重合溶媒種等によって変動するものであるため一概には規定できないが、好ましくは30〜720分、より好ましくは40〜540分である。
重合反応の終了後、得られた含フッ素高分岐ポリマーを任意の方法で回収し、必要に応じて洗浄等の後処理を行う。反応溶液から高分子を回収する方法としては、再沈殿等の方法が挙げられる。
【0026】
上記含フッ素高分岐ポリマーのゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)は、1,000〜400,000、好ましくは2,000〜200,000、より好ましくは2,000〜50,000である。
【0027】
[結合基]
本発明の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーの構造中に含まれる結合基としては、上記含フッ素高分岐ポリマーの末端官能基と後述の生体分子部位を結合可能な二価の有機基であれば特に制限はないが、共有結合を形成しやすいエステル結合、アミド結合、エーテル結合等で該末端官能基及び該生体分子部位と結合する基が好ましい。例えば、該末端官能基及び該生体分子部位が有する官能基が共にカルボキシ基又はその誘導体の場合、このような結合基としては、ヘキサメチレンジアミノ基などのアルキレンジアミノ基等を挙げることができる。
【0028】
[生体分子部位]
本発明の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーの分子末端に存在する生体分子部位とは、ビオチンとアビジン等の相補的な生体分子部位の対のうちの一方の生体分子部位である。このような対としては、ビオチンとアビジン、抗原と抗体、ポリヌクレオチドとその相補的塩基配列を持つポリヌクレオチド、cDNAとmRNA、酵素(活性部位)と基質、酵素(活性部位)と生産物、酵素(活性部位)と競争阻害剤、酵素(補酵素結合部位)と補酵素、酵素(補酵素結合部位)とトリアジン色素、プロテアーゼとプロテアーゼインヒビター、Fc部位とプロテインA、Fc部位とプロテインG、レクチンと糖、ホルモンレセプターとホルモン、DNAとDNA結合タンパク質、ヘパリンとフィブロネクチン、そしてヘパリンとラミニンとの組合せの対を挙げることができる。
本発明の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーにおいて、これらの対のうち何れか一方をその分子末端に有していればよく、2種以上の複数の対の一方を有していてもよい。またこれらの対のうち、前記含フッ素高分岐ポリマーの分子末端に結合する生体分子部位は、何れの一方であってもよい。
これらの対の中でも、特にビオチンとアビジンが好ましい。
【0029】
<生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーの製造方法>
本発明の上記生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーは、その前駆体といえる活性化カルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーと、該活性化カルボキシ基と反応し得る官能基並びに相補的な生体分子部位の対のうちの一方の生体分子部位を有する化合物、すなわち、ビオチンとアビジン、抗原と抗体、ポリヌクレオチドとその相補的塩基配列を持つポリヌクレオチド、cDNAとmRNA、酵素(活性部位)と基質、酵素(活性部位)と生産物、酵素(活性部位)と競争阻害剤、酵素(補酵素結合部位)と補酵素、酵素(補酵素結合部位)とトリアジン色素、プロテアーゼとプロテアーゼインヒビター、Fc部位とプロテインA、Fc部位とプロテインG、レクチンと糖、ホルモンレセプターとホルモン、DNAとDNA結合タンパク質、ヘパリンとフィブロネクチン、及びヘパリンとラミニンとの組合せの対からなる群から選ばれる少なくとも何れか一種の対の一方の生体分子部位を有する化合物とを反応させることにより得られる。
なお本製造方法、並びに上記活性化カルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーもまた本発明の対象である。
【0030】
前記活性化カルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーは、分子内にアルキレンオキシド及び2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAのモル数に対して5〜200モル%の分子内にカルボキシ基を有する重合開始剤の存在下で重合させることにより得られるカルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーを、公知の活性エステル化剤と反応させることにより、該カルボキシ基の一部又は全部を活性エステル化させてなるポリマーである。
公知の活性エステル化剤としては、ニトロフェノール、ペンタフルオロフェノール、N−ヒドロキシコハク酸イミド等が挙げられる。
【0031】
上記カルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーは、前述の[含フッ素高分岐ポリマーの製造方法](段落[0022]〜[0026])に記載の方法を用いて製造可能であり、上記モノマーA及びモノマーBとしては、前述の[モノマーA](段落[0013]〜[0015])[モノマーB](段落[0016]〜[0018]参照)に記載のモノマーA、モノマーBを、また上記重合開始剤としては、前述の[重合開始剤C](段落[0019]〜[0021]参照)のうち、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)等のカルボキシ基を有する重合開始剤を好適に使用可能である。
【0032】
前記カルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーと、活性エステル化剤との反応は、化合物を溶解可能な溶媒中で実施することができ、該含フッ素高分岐ポリマーのカルボキシ基の一部又は全部に活性エステル化剤を結合させて、活性化カルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーを得る。前記溶媒としては、例えば前述の含フッ素高分岐ポリマーの製造に用いる溶媒(段落[0023][0024]参照)を挙げることができる。
上記反応を促進させるために、縮合剤を使用することが好ましい。このような縮合剤としては、カルボン酸の活性化により、アミノ基等と縮合反応を促進することのできる化合物であれば特に制限はない。例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)塩酸塩、カルボニルジイミダゾール、亜リン酸トリフェニル、ジフェニルジクロロリン酸、ジフェニル(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾキサゾリル)ホスホナート等が挙げられる。
【0033】
上記反応において、活性エステル化剤の使用量は、該カルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーのカルボキシ基量に対して、例えば、0.1〜10モル倍量である。活性エステル化剤の使用量を変更することで、全カルボキシ基に対する活性化カルボキシ基の割合を調節することができる。
また上記反応は常圧、加圧密閉下、又は減圧下で行われ、装置及び操作の簡便さから常
圧下で行うのが好ましい。また、N
2等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
このとき、反応温度は−80〜200℃、好ましくは0〜100℃、より好ましくは10〜50℃にて行うことが望ましく、反応時間は0.1〜48時間、好ましくは0.2〜40時間にて行うことが望ましい。
縮合反応の終了後、得られた活性化カルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーを任意の方法で回収し、必要に応じて洗浄等の後処理を行う。反応溶液から高分子を回収する方法としては、再沈殿等の方法が挙げられる。
【0034】
上記活性化カルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーに反応させる、活性化カルボキシ基と反応し得る官能基並びに相補的な生体分子部位の対のうちの一方の生体分子部位を有する化合物において、活性化カルボキシ基と反応し得る官能基としては、例えばヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基等が挙げられ、好ましくはアミノ基を挙げることができる。
前記相補的な生体分子部位の対としては、例えば、ビオチンとアビジン、抗原と抗体、ポリヌクレオチドとその相補的塩基配列を持つポリヌクレオチド、cDNAとmRNA、酵素(活性部位)と基質、酵素(活性部位)と生産物、酵素(活性部位)と競争阻害剤、酵素(補酵素結合部位)と補酵素、酵素(補酵素結合部位)とトリアジン色素、プロテアーゼとプロテアーゼインヒビター、Fc部位とプロテインA、Fc部位とプロテインG、レクチンと糖、ホルモンレセプターとホルモン、DNAとDNA結合タンパク質、ヘパリンとフィブロネクチン、そしてヘパリンとラミニンとの組合せの対を挙げることができ、中でもビオチンとアビジンが好ましい。
なお、前記活性化カルボキシ基と反応し得る官能基並びに相補的な生体分子部位の対のうちの一方の生体分子部位を有する化合物は市販品を用いることができ、或いは、公知の方法により上述の生体分子を誘導体化することにより得ることができる。
また前記活性化カルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマーと前記活性化カルボキシ基と反応し得る官能基並びに相補的な生体分子部位の対のうちの一方の生体分子部位を有する化合物との反応は、ペプチド形成に用いられる活性エステル法等の公知の方法を適用することができる。
【0035】
<生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーを含有するワニス及び薄膜の製造方法>
本発明の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーより作製される薄膜を形成する具体的な方法としては、まず、生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーを溶媒に溶解又は分散してワニスの形態(膜形成材料)とし、該ワニスを基材上にキャストコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、インクジェット法、印刷法(凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等)等によって塗布し、その後、ホットプレート又はオーブン等で乾燥して製膜する。
これらの塗布方法の中でもスピンコート法が好ましい。スピンコート法を用いる場合には、単時間で塗布することができるために、揮発性の高い溶液であっても利用でき、また、均一性の高い塗布を行うことができるという利点がある。
【0036】
上記ワニスの形態において使用する溶媒としては、上記生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーを溶解するものであればよく、例えば、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテル、乳酸エチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ブチルセロソルブ、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。これら溶媒は単独で使用してもよく、2種類以上の溶媒を混合してもよい。
また上記溶媒に溶解又は分散させる濃度は任意であるが、生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーと溶媒の総質量(合計質量)に対して、生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマ
ーの濃度は0.01〜90質量%であり、好ましくは0.05〜50質量%であり、より好ましくは0.1〜20質量%である。
【0037】
形成された生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーからなる薄膜の厚さは特に限定されないが、通常0.005〜50μm、好ましくは0.01〜20μmである。
【0038】
<生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーを含有する樹脂ブレンド>
本発明はまた、前述の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマー、及び熱可塑性樹脂を含む樹脂ブレンドに関する。
【0039】
[熱可塑性樹脂]
本発明の樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は特に限定されないが、例えばPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、EEA(エチレン−アクリル酸エチル共重合体)などのポリオレフィン系樹脂;PS(ポリスチレン)、HIPS(ハイインパクトポリスチレン)、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、MS(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)などのポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;PMMA(ポリメタクリル酸メチル)などの(メタ)アクリル樹脂;PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、PLA(ポリ乳酸)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペートなどのポリエステル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリグルコール酸;変性でんぷん;酢酸セルロース、三酢酸セルロース;キチン、キトサン;リグニン等が挙げられる。
中でもポリスチレン樹脂又はポリメタクリル酸メチル樹脂であることが好ましい。
【0040】
上記樹脂ブレンドにおいて、熱可塑性樹脂に対する生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーの配合量は、好ましくは0.01〜50質量%であり、特に0.1〜40質量%であることが好ましい。
【0041】
<樹脂ブレンドより作製される薄膜及びその形成法>
本発明の樹脂ブレンドは、該樹脂ブレンドを溶媒に溶解又は分散してワニスの形態(膜形成材料)とし、該ワニスを基材上に塗布(コーティング)することにより、薄膜、さらには成形体を形成できる。
前記基材上への塗布方法は、キャストコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、インクジェット法、印刷法(凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等)等を適宜選択し得、中でも短時間で塗布できることから揮発性の高い溶液であっても利用でき、また、均一性の高い塗布を行うことができるという利点より、スピンコート法を用いることが望ましい。なお事前に孔径が0.2μm程度のフィルタなどを用いて樹脂ブレンドを濾過した後、塗布に供することが好ましい。
【0042】
上記ワニスの形態において使用する溶媒としては、上記樹脂ブレンドを溶解するものであればよく、これら溶媒の具体例としては、前記<生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーを含有するワニス及び薄膜の製造方法>に挙げた溶媒と同じものが挙げられる。
上記ワニスにおける固形分は、例えば0.01〜50質量%、0.05〜30質量%、又は0.1〜20質量%である。ここで固形分とはワニスの全成分から溶媒成分を除いたものである。
【0043】
前記基材としては、例えば、シリコン/二酸化シリコン被覆基板、シリコンウエハ、シリコンナイトライド基板、ガラス基板、ITO基板、プラスチック基板(ポリイミド、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ、メラミン、トリアセチルセルロース、ABS、AS、ノルボルネン系樹脂等)、金属、木材、紙、ガラス、スレート等を挙げることができる。これら基材の形状は板状、フィルム状又は3次元成形体でもよい。
【0044】
塗布後、必要であれば続いてホットプレート又はオーブン等で乾燥し、溶媒を除去する。この時の乾燥温度及び乾燥時間は、使用する溶媒にもよるが、室温(およそ25℃)〜400℃、10秒間〜48時間の間で適宜選択可能である。
【0045】
溶媒を除去した塗膜は、続いて親水性媒体の雰囲気下で、得られた塗膜のアニーリングをおこなうこと、所謂“溶媒アニーリング”を行うことが好ましい。
ここで用語「溶媒アニーリング(solvent annealing)」は、溶媒蒸気処理を指し、密閉容器中、室温又はさらに高い温度において、溶媒蒸気を含む空気に曝すことを指す。溶媒アニーリングは、一般に膜の表面状態を変化せしめることができ、本発明においては、膜表面の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーの存在量をより一層高めることができる。
【0046】
本発明において、上記親水性媒体(溶媒アニーリングに使用する溶媒)としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類等が挙げられ、中でもメタノールが好ましい。
また、アニーリング時の温度及びアニーリング時間(溶媒蒸気に曝す時間)は特に限定されないが、例えば室温(およそ25℃)乃至使用溶媒の沸点、10秒間〜48時間の間で適宜選択可能である。
【0047】
なお、塗布による膜の厚さは、乾燥、溶媒アニーリング後において、通常0.005〜50μm、好ましくは0.01〜20μmである。
【0048】
<分子認識表面チップ>
本発明の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーは、分子認識表面チップの材料として、特にビオチンとアビジン、抗原と抗体、ポリヌクレオチドとその相補的塩基配列を持つポリヌクレオチド、cDNAとmRNA、酵素(活性部位)と基質、酵素(活性部位)と生産物、酵素(活性部位)と競争阻害剤、酵素(補酵素結合部位)と補酵素、酵素(補酵素結合部位)とトリアジン色素、プロテアーゼとプロテアーゼインヒビター、Fc部位とプロテインA、Fc部位とプロテインG、レクチンと糖、ホルモンレセプターとホルモン、DNAとDNA結合タンパク質、ヘパリンとフィブロネクチン、及びヘパリンとラミニンとの組合せの対からなる群から選ばれる少なくとも何れか一種の対の一方の生体分子を認識可能な分子認識表面チップの材料として好適に使用可能である。
【0049】
すなわち本発明の分子認識表面チップは、前述の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーのワニスより作製される薄膜、或いは、前述の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーを含有する樹脂ブレンドより作製される薄膜を、基材の少なくとも一方の面に備えるチップである。
【0050】
上記本発明の分子認識表面チップは、前述の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーのワニスを基材上に塗布し、塗膜を形成する工程と、該塗膜を乾燥し溶媒を除去する工程を経ることによって形成可能である。
また本発明の分子認識表面チップは、前述の生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーを含有する樹脂ブレンド(該樹脂ブレンドを溶媒中に含む液)を基材上に塗布し、塗膜を形
成する工程、該塗膜を乾燥し溶媒を除去する工程、そして親水性媒体の雰囲気下で、得られた塗膜のアニーリングを行う工程を経ることによって形成可能である。
これらの詳細な手順は、前述の<生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマーを含有するワニス及び薄膜の製造方法>及び<樹脂ブレンドより作製される薄膜及びその形成法>を適用可能である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明について合成例及び実施例を挙げて詳述するが、本発明は下記記載に何ら限定されるものではない。
【0052】
(1)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
装置:東ソー(株)製 HLC−8220GPC
カラム:昭和電工(株)製 Shodex(登録商標)GPC KF−804L、GPC KF−805L
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
検出器:RI
(2)
1H NMRスペクトル
装置:BRUKER社製 AVANCE(登録商標)III 600(合成例1)
日本電子データム(株)製 JNM−ECP400(合成例2、実施例1,2)
溶媒:CDCl
3(合成例1,2、実施例1)、(CD
3)
2SO(実施例2)
基準:CHCl
3(7.26ppm)(合成例1,2、実施例1)
テトラメチルシラン(0.00ppm)(実施例2)
(3)
13C NMRスペクトル
装置:BRUKER社製 AVANCE(登録商標)III 600
溶媒:CDCl
3
基準ピーク:CDCl
3(77.0ppm)
(4)スピンコーター
装置:ミカサ(株)製 1H−D7
(5)乾燥器
装置:(株)いすゞ製作所製 ISUZU−SVK−10S
(6)X線光電子分光測定(XPS)
装置:アルバック・ファイ(株)製 ESCA 5800
測定条件:14.0kV、14mA
中和条件:bias(V)6.00
Extractor(V)30
X=19.5
Y;角度により変更
(7)蛍光顕微鏡
装置:株式会社キーエンス製 標準タイプBiozero蛍光顕微鏡BZ−8100シリーズ
励起波長:470nm
吸収波長:535nm
【0053】
また、略記号は以下の意味を表す。
4DMA:ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレンオキシド数≒4)[日油(株)製 ブレンマー(登録商標)PDE−200]
C1FA:2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート[大阪有機化学工業(株) ビスコート3F]
ACVA:4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)[和光純薬工業(株)製 V−
501]
NHS:N−ヒドロキシコハク酸イミド[和光純薬工業(株)製]
DCC:ジシクロヘキシルカルボジイミド[東京化成工業(株)製]
BAHA:6−[(+)−ビオチンアミド]ヘキシルアミン
PMMA:ポリメタクリル酸メチル[Polymer Source社製 重量平均分子量:315,000]
IPA:2−プロパノール
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
PGEEA:プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート
THF:テトラヒドロフラン
【0054】
[合成例1]末端にカルボキシ基を有する含フッ素高分岐ポリマー1の製造
300mLの反応フラスコに、PGME106gを仕込み、撹拌しながら5分間窒素を流し込み、内液が還流するまで(およそ118℃)加熱した。
別の200mLの反応フラスコに、4DMA13.2g(40mmol)、C1FA8.3g(54mmol)、ACVA5.6g(20mmol)及びPGME106gを仕込み、撹拌しながら5分間窒素を流し込み窒素置換を行った。
前述の300mLの反応フラスコ中の還流してあるPGME中に、4DMA、C1FA及びACVAが仕込まれた前述200mLの反応フラスコから、滴下ポンプを用いて、内容物を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間撹拌した。
次に、この反応液からロータリーエバポレーターを用いてPGME170gを留去後、水418gに添加してポリマーを再沈殿させた。この沈殿物をデカンテーションにより単離し、THF20gに再溶解させた。さらに上記一連の操作(水で再沈殿−デカンテーション−THFに再溶解)を3回繰り返し精製した。最後に得られたTHF溶液を減圧留去、真空乾燥して、無色透明液体の目的物(含フッ素高分岐ポリマー1)9.3gを得た。
得られた含フッ素高分岐ポリマー1の
1H NMRスペクトルを
図1に、
13C NMRスペクトルを
図2にそれぞれ示す。
13C NMRスペクトルから算出した、下記構造式に示す含フッ素高分岐ポリマー1の単位構造組成(モル比)は、4DMAユニット[A]:C1FAユニット[B]:ACVAユニット[C]=1.0:0.9:0.1であった。また、該ポリマーのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは3,500、分散度:Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は1.9であった。
【0055】
【化4】
式中、黒点は結合端を表す。
【0056】
[合成例2]BAHAの製造
50mLの反応フラスコに、ビオチン[和光純薬工業(株)製]1.0g(4.1mmol)、NHS0.59g(5.1mmol)及びDMF19gを仕込み、50℃で撹拌して溶解させた。この溶液にDCC1.0gを加え、窒素雰囲気下、50℃で24時間撹拌した。次に、この反応液からろ過により不溶物を除去し、DMFを留去した。得られた残渣をジエチルエーテル3gで洗浄した後、IPA15gから再結晶させた。得られた白色結晶を減圧ろ過、真空乾燥して、ビオチンN−ヒドロキシコハク酸イミドエステル1.0gを得た。
このエステル1.0gをDMF24gに溶解させた溶液を、ヘキサメチレンジアミン[和光純薬工業(株)製]2.4g(21mmol)をDMF10gに溶解させた溶液中に、滴下漏斗を用いて40分間かけて滴下した。滴下終了後さらに18時間撹拌した。次に、この反応液からDMFを留去した。得られた残渣をエタノール10gで洗浄し、真空乾燥して、白色粉末の目的物(BAHA)0.82gを得た。
得られたBAHAの
1H NMRスペクトルを
図3に示す。
【0057】
[実施例1]末端にヒドロキシコハク酸イミドエステルを有する含フッ素高分岐ポリマー2の製造
25mLの反応フラスコに、合成例1で得られた含フッ素高分岐ポリマー1 0.25g、NHS0.07g及びDMF3.8gを仕込み、撹拌して溶解させた。この溶液にDCC0.13gを加え、窒素雰囲気、遮光下、室温(およそ25℃)で20時間撹拌した。
次に、この反応液からろ過により不溶物を除去し、DMFを留去した。得られた残渣をTHF4.4gに溶解させ、この溶液をジエチルエーテル43gに添加した。析出した粘稠物をデカンテーションにより単離し、クロロホルム3.5gに再溶解後、減圧留去、真空乾燥して、白色粉末の目的物(含フッ素高分岐ポリマー2:活性化カルボキシ基含有含フッ素高分岐ポリマー)0.20gを得た。
得られた含フッ素高分岐ポリマー2の
1H NMRスペクトルを
図4に示す。なお、このポリマーのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは、測定中に活性エステル部分が分解してしまうため測定できなかった。
【0058】
[実施例2]末端にビオチンを有する含フッ素高分岐ポリマー3の製造
25mLの反応フラスコに、実施例1で得られた含フッ素高分岐ポリマー2 0.05g及びTHF1.3gを仕込み含フッ素高分岐ポリマー溶液を調製した。
別の50mLの反応フラスコに、合成例2で得られたBAHA0.04g及びメタノール4.7gを仕込み、60℃で撹拌して溶解させた。この溶液へ上述の含フッ素高分岐ポリマー溶液を加え、窒素雰囲気、遮光下、室温(およそ25℃)で18時間撹拌した。
次に、ロータリーエバポレーターを用いてこの反応液の溶媒を留去し、乾固させた。この残渣をメタノール2gに溶解させ、ジエチルエーテル36gに添加してポリマーをスラリー状態で沈殿させた。このスラリーを減圧ろ過し、再度メタノール4gに溶解、ジエチルエーテル36gに添加してポリマーをスラリー状態で沈殿させた。このスラリーを減圧ろ過し、真空乾燥して、白色の目的物(含フッ素高分岐ポリマー3:生体分子親和性含フッ素高分岐ポリマー)0.04gを得た。
得られた含フッ素高分岐ポリマー3の
1H NMRスペクトルを
図5に示す。なお、このポリマーのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは、ポリマーの溶媒溶解度が低く測定できなかった。
【0059】
[実施例3]含フッ素高分岐ポリマー3及びPMMAを用いた分子認識膜の作製
実施例2で得られた含フッ素高分岐ポリマー3及びPMMAを質量比5:95で混合した。この混合物を、2質量%濃度となるようにPGEEA−メタノール混合溶液(質量比9:1)に溶解させ、フィルタろ過し、ワニスを調製した。このワニスを、シリコンウエハ上にスピンコーティング(3,000rpm×60秒間)した。この塗布膜を、室温(およそ25℃)で24時間真空乾燥することで溶媒を除去し、分子認識膜を得た。この膜を、メタノール1mLを入れた内容積およそ50mLの密閉容器内にメタノールに浸漬しないように収め、室温(およそ25℃)で5時間溶媒アニーリング処理を施した後、乾燥した。
得られた膜に対して角度分解XPS測定を実施し、X線の入射角に対する炭素原子とフッ素原子の強度比で表される膜の表面組成を評価した。結果を
図6に示す。sinθの値が小さいほど膜表面近傍の強度比を表す。
図6に示すように、膜表面付近において、炭素原子に対するフッ素原子の割合が増加する結果が得られ、すなわち、フッ素原子を含有する末端にビオチンを有する前記含フッ素高分岐ポリマー3が膜の表面近傍に多く存在していることが確認された。
【0060】
[実施例4]分子認識膜によるストレプトアビジンの認識
シリコンウエハをガラス基板に変更した以外は実施例3と同様に製膜、溶媒アニーリングした分子認識膜を、10nmol/L、25nmol/L、50nmol/Lに調製したフルオレセイン標識ストレプトアビジン[和光純薬工業(株)製]/超純水(milliQ水)溶液それぞれに、室温(およそ25℃)で5分間浸漬した。この分子認識膜を水洗、乾燥して得られた膜を蛍光顕微鏡で観察し、当該膜へのストレプトアビジンの吸着を評価した。蛍光顕微鏡写真の結果を
図7(a)(10nmol/L)、(b)(25nmol/L)、(c)(50nmol/L)に、また、前記(a)〜(c)の蛍光顕微鏡写真の輝度をハイブリッドセルカウント機能[株式会社キーエンス製ソフトウェア]を用いて数値化した値を、フルオレセイン標識ストレプトアビジン水溶液の濃度に対してプロットした図を
図8に、それぞれ示す。
【0061】
[比較例1]PMMA膜によるストレプトアビジンの認識
含フッ素高分岐ポリマー3を添加しなかった以外は実施例4と同様に、操作、評価した。蛍光顕微鏡写真の結果を
図7(d)(10nmol/L)、(e)(25nmol/L)、(f)(50nmol/L)に、また、前記(d)〜(f)の蛍光顕微鏡写真の輝度を同様に数値化処理して得られた値を、フルオレセイン標識ストレプトアビジン水溶液の濃度に対してプロットした図を
図8に、それぞれ示す。
【0062】
図7及び
図8に示すように、本発明の分子認識膜においてフルオレセインに起因する蛍光(図中:白色部分)が観測された。この結果より、分子認識膜表面にストレプトアビジンが固定(認識)されていることが確認された。