(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コーティング剤により被覆又は表面処理される基材が、ガラスクロス、ガラステープ、ガラスマット、ガラスペーパーから選ばれるガラス繊維製品である請求項9記載の物品。
一対のガラス基板間に液晶が封入された液晶セルと、この液晶セルの片面又は両面に貼着された請求項13記載の粘着偏光板とを有する液晶パネルを含むことを特徴とする液晶表示装置。
【背景技術】
【0002】
シランカップリング剤は、分子中に2つ以上の異なる官能基を有し、通常では結合させにくい有機質材料と無機質材料とを連結させる仲介役として作用している。官能基の一方は加水分解性シリル基であり、水の存在によりシラノール基を生成し、このシラノール基が無機材質表面の水酸基と反応することで、無機材質表面と化学結合を形成する。また、他の官能基は、各種合成樹脂のような有機質材料と化学結合を形成するビニル基、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基、イソシアネート基等の有機反応基である。このような特性を用いて、有機・無機樹脂の改質剤、接着助剤、各種添加剤等として幅広く用いられている。
【0003】
シランカップリング剤の中でもイソシアネート基を有するものは、水酸基1級及び2級のアミノ基、カルボン酸基等活性水素構造基との反応性に優れるため、接着向上剤としての用途にのみならず、有機ポリマーへ加水分解性シリル基を導入するといった樹脂改質剤として有用である。
【0004】
一方で、シランカップリング剤は低分子であるが故に塗布後の揮発で有効成分が処理表面から減少してしまう他、シリル基の加水分解によるアルコール成分の発生が問題視される場合がある。こういった点を改善したものとして、シランカップリング剤の部分加水分解縮合物であるヒドロカルビルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン化合物が挙げられる。尚こういったオルガノポリシロキサン化合物はシリコーンアルコキシオリゴマーと別称される。
【0005】
シリコーンアルコキシオリゴマーは、上述のように加水分解縮合反応により合成することが一般的であるが、導入したい反応性有機官能基が加水分解性を有する場合、本製法が適用できない。そのため、酸無水物基やイソシアネート基といった加水分解性を有する反応性有機基を導入する方法としては、ヒドロシリル基と不飽和二重結合構造基のヒドロシリル化反応が挙げられ、特開2013−129691号公報、特開2013−129809号公報(特許文献1,2)では、ヒドロシリル化による酸無水物基含有オルガノポリシロキサンが開示されている。
しかしながら、イソシアネート基の場合、重合性基含有イソシアネートの工業品として代表的なアリルイソシアネートは高い毒性を有する他、窒素含有化合物であり、ヒドロシリル化反応触媒である白金錯体の付加毒となることから、ヒドロシリル化反応は現実的では無いと言える。
【0006】
また、アミノ基やメルカプト基といった活性水素含有構造基を有するオルガノポリシロキサンの官能基1モルあたり工業的に入手容易なジイソシアネート化合物1モルを反応させることでも、未反応イソシアネート基が残存したオルガノポリシロキサン化合物を得ることができるが、この場合イソシアネートと活性水素含有構造基の反応性に選択性が無いことから、原料のジイソシアネートが架橋剤として振る舞い、オルガノポリシロキサン化合物の不要な高分子量化、ゲル化が生じてしまう。また、反応により生成する尿素結合、チオウレタン結合のNH構造と残存イソシアネートが反応するといった副反応が生じることから、得られる反応物も安定性確保に課題が残る。
【0007】
ところで、粘着剤の接着性改質剤としての用途もシランカップリング剤の代表的なものであり、例えば、液晶セルと光学フィルムを貼り付ける際の粘着剤は、液晶表示装置(LCD)のサイズの大型化、ワイド化に伴い、求められている接着性能が高度なものとなっている。LCDの場合、20インチ以上の大型化が困難であるといった当初の予想とは異なり、急速な大型化が進んでいる。主要メーカーは、これまで20インチ以下の小型パネルの生産を主力としてきたが、近年の流れを受けて最新技術を積極的に導入し、製品範囲を20インチ以上の大型サイズへと展開している。
【0008】
このように、諸般の光学フィルムにおいて、液晶表示板の製造時に使用されるガラスは大型化される趨勢である。ところが、初期貼り付け時に不良製品が発生して、液晶セルから光学用フィルムを除去し、液晶セルを洗浄した後に再使用する場合、従来の高粘着力を有する粘着剤を使用していたならば、光学フィルムの再剥離の際に強い接着力によって光学フィルムを除去することが困難であるだけでなく、高価な液晶セルを破壊する可能性が大きいため、結果的に生産コストを大幅に上げてしまうこととなっている。
【0009】
従って、LCDの大型化に伴い、接着性、リワーク性等の諸粘着性能を両立する高機能性の粘着剤を開発しようとする試みが継続している。例えば、特許第3022993号公報、特許第5595034号公報(特許文献3,4)には、高温多湿の環境下における耐久性に優れた偏光板を提供する目的で、エポキシシラン、イソシアネートシランを含有するアクリル系粘着剤組成物が提案されている。
【0010】
また、特開2014−152321号公報、特開2013−79320号公報(特許文献5,6)には、初期接着力は低く、リワーク性に優れ、貼り付け後は高温多湿下で接着力が増強され、長期的に耐久性に優れる粘着剤として、ポリエーテル基、エポキシ基又は酸無水物基を持ったヒドロカルビルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン化合物を含むアクリル系粘着剤が提案されている。
【0011】
このようなシラン化合物を含有することによって、基板と偏光板は、実際使用される環境で要求される程度の適切な接着強度を保持することができ、接着強度は加熱等によって過度に高くならず、液晶素子に損傷を与えることなく、容易に偏光板を剥離することができるとされている。
【0012】
さらに近年の技術動向としては、タッチセンサーLCDの普及に伴い、粘着剤層とインジウムスズオキサイド(ITO)に代表される透明電極層が直接接触するような設計が主流となってきている。このような製品設計においては粘着剤として主流であったカルボン酸基含有型アクリルポリマーベースだとITOの腐食が懸念されるため、代替にOH基含有型のアクリルポリマーをベースとした粘着剤組成に技術変遷している。
【0013】
しかしながら、このような酸フリーのベースポリマー組成の粘着剤においては従来の粘着剤で有効であったシランカップリング剤では効果が限定的であり、同水準以上の性能を発現するに寄与するシランカップリング剤は見つかっていない。その中でもイソシアネート基を有するシランカップリング剤は有望な候補の1つである。
【0014】
以上のことから、イソシアネート基を有するオルガノポリシロキサン化合物及び該化合物を与える簡便且つ汎用性に富む製法が望まれており、またイソシアネート基含有のヒドロカルビルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン化合物の用途においては初期のリワーク性及び高温多湿下における高い接着強度を保持するバランスの取れた酸フリーベースポリマー型粘着剤の開発が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、簡便且つ汎用性に富むイソシアネート基含有有機基を含有するオルガノポリシロキサン化合物の製法ならびにそれにより得られるイソシアネート基を有するオルガノポリシロキサン化合物、該化合物を用いた接着剤、粘着剤及びコーティング剤を提供することを目的とする。また、ガラス繊維製品、粘着偏光板、液晶表示装置等の各種物品を提供することを他の目的とする。
該オルガノポリシロキサン化合物をシランカップリング剤として含む粘着剤は、ITO等の易腐食性被接着体を腐食させることなく貼り付ける際に初期接着力が低くてリワーク性に優れ、貼り付けた後に高温又は高温多湿処理を経た後は被接着体との接着力が増加し、長期的耐久性に優れた粘着剤層を提供可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、メルカプト基を有するオルガノポリシロキサン化合物と重合性基を有するイソシアネート化合物のエン−チオール付加反応により、相当するイソシアネート基を有するオルガノポリシロキサン化合物が得られることを知見した。該化合物は水酸基を有するマトリックス樹脂との結合力、相互作用に優れる。さらに、ポリエーテル基を導入したイソシアネート基及びヒドロカルビルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン化合物は、初期リワーク性と、高温又は高温多湿下での高接着力とを両立可能となる粘着剤が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0018】
従って、本発明は、下記オルガノポリシロキサン化合物とその製造方法、接着剤、粘着剤、コーティング剤、及び各種物品を提供する。
〔1〕
下記平均組成式(1)
Y
aR
1bR
2cSi(OR
3)
d(OH)
eO
(4-a-b-c-d-e)/2 ・・・ (1)
〔式中、Yは一般式(2)
−Q−NCO ・・・ (2)
(式中、Qは硫黄原子を
チオエーテル連結
基として必ず含み、エステル結合を介してもよい2価の炭化水素基である。)
で表されるチオエーテル連結基及びイソシアネート基を含有する有機基であり、R
1はチオエーテル連結基及びポリエーテル基を官能基として含む炭素原子数1〜18の一価炭化水素基又はチオエーテル連結基及びβ−ケトエステル基を官能基として含む炭素原子数1〜18の一価炭化水素基であり、R
2は非置換の炭素原子数1〜18の一価炭化水素基であり、R
3は炭素原子数1〜4の一価炭化水素基であり、a,b,c,d及びeは、それぞれ、0.01≦a≦1、0.1≦b<1、0≦c≦2、0≦d≦2及び0≦e≦1で示される数であって、かつ2≦a+b+c+d+e≦3を満たす。〕で表される、イソシアネート基含有有機基を含有するオルガノポリシロキサン化合物。
〔2〕
bが0.125≦b<1であることを特徴とする〔1〕記載のオルガノポリシロキサン化合物。
〔3〕
Yが一般式(3)で表される〔1〕記載のオルガノポリシロキサン化合物。
【化6】
(式中、Aは炭素数1〜10の二価炭化水素基である。)
〔4〕
Yが一般式(4)で表される〔1〕のオルガノポリシロキサン化合物。
【化7】
(式中、Aは炭素数1〜10の二価炭化水素基であり、Xは水素原子又はメチル基である。)
〔5〕
〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のイソシアネート基含有有機基を含有するオルガノポリシロキサン化合物の製造方法であって
(i)下記一般式(5)で示されるメルカプト基含有有機基を含有するオルガノポリシロキサン化合物と
B
aR
1bR
2cSi(OR
3)
d(OH)
eO
(4-a-b-c-d-e)/2 ・・・ (5)
(式中、Bはメルカプトメチル基、メルカプトプロピル基又はメルカプトオクチル基であり、R
1、R
2、R
3、a,b,c,d及びeは上記と同義であり、かつ2≦a+b+c+d+e≦3を満たす。)
(ii)下記一般式(6)で示される不飽和二重結合含有イソシアネート化合物とを
【化3】
(式中、Zは不飽和二重結合を含みエステル結合を介してもよい炭素数2〜10の一価炭化水素基である。)
ラジカル発生剤の存在下においてエン−チオール付加反応させることを特徴とするイソシアネート基含有有機基を含有するオルガノポリシロキサン化合物の製造方法。
〔6〕
〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のイソシアネート基含有有機基を含有するオルガノポリシロキサン化合物を含む接着剤。
〔7〕
〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のイソシアネート基含有有機基を含有するオルガノポリシロキサン化合物を含む粘着剤であって、
(A)アルコール性水酸基含有アクリル系ポリマー 100質量部
(B)該イソシアネート基含有有機基を含有するオルガノポリシロキサン化合物 0.001〜10質量部
(C)多官能架橋剤 0.01〜10質量部
を含有することを特徴とする粘着剤。
〔8〕
〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のイソシアネート基含有有機基を含有するオルガノポリシロキサン化合物を含むコーティング剤。
〔9〕
〔8〕記載のコーティング剤で被覆又は表面処理されてなる物品。
〔10〕
コーティング剤により被覆又は表面処理される基材が、ガラスクロス、ガラステープ、ガラスマット、ガラスペーパーから選ばれるガラス繊維製品である〔9〕記載の物品。
〔11〕
コーティング剤により被覆又は表面処理される基材が、無機フィラーである〔9〕記載の物品。
〔12〕
コーティング剤により被覆又は表面処理される基材が、セラミック又は金属である〔9〕記載の物品。
〔13〕
偏光フィルムと、この偏光フィルムの片面又は両面に〔7〕記載の粘着剤から形成される粘着剤層とを有することを特徴とする粘着偏光板。
〔14〕
一対のガラス基板間に液晶が封入された液晶セルと、この液晶セルの片面又は両面に貼着された〔13〕記載の粘着偏光板とを有する液晶パネルを含むことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、入手容易な既存の工業原料を使用しながら、簡便にイソシアネート基含有のオルガノポリシロキサン化合物を得ることができる。得られたオルガノポリシロキサン化合物はイソシアネート基と好ましくは加水分解性シリル基を持った低揮発の高分子材料である。更にポリエーテル基を併せ持った化合物は、粘着剤用途において接着改質剤の必須成分として配合することにより、初期リワーク性と、高温又は高温多湿下での高接着力とを両立可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本発明において「有機ケイ素化合物」は「オルガノポリシロキサン化合物」に含まれる。
【0022】
本発明のオルガノポリシロキサン化合物は、下記平均組成式(1)
Y
aR
1bR
2cSi(OR
3)
d(OH)
eO
(4-a-b-c-d-e)/2 ・・・ (1)
で表される。該オルガノポリシロキサン化合物は、反応性基としてイソシアネート基と好ましくはヒドロカルビルオキシ基を一分子内に含有する化合物である。
【0023】
上記式(1)において、Yはチオエーテル連結基及びイソシアネート基含有有機基を示し、例えば、一般式:(2)
−Q−NCO ・・・ (2)
(式中、Qは硫黄原子を連結鎖に必ず含み、エステル結合を介してもよい2価の炭化水素基である。)で表される。
【0024】
ここで、Qとしてはより詳しくは下記一般式(3)
【化2】
(式中、Aは炭素数1〜10の二価炭化水素基である。)
又は下記一般式(4)
【化3】
(式中、Aは上記と同義であり、Xは水素原子又はメチル基である。)で示される。
尚、上記式(4)の場合、Xが水素原子であることが後述する製造時の生産効率の観点から好ましい。
【0025】
上記のAにおける炭素数1〜10の二価炭化水素基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノナレン基、デシレン基等のアルキレン基が挙げられ、鎖状、分岐状、環状の何れでもよい。好ましくはプロピレン基、ヘキシレン基、オクチレン基であり、更に好ましくはプロピレン基であり、これは後述する反応原料となるメルカプト基含有オルガノポリシロキサン化合物の入手が容易なためである。
【0026】
R
1は、炭素原子数1〜18、好ましくは1〜8の一価炭化水素基であり、場合によっては少なくとも1種のメルカプト基、エポキシ基、ハロゲン原子、β−ケトエステル基、ポリエーテル基、及びチオエーテル基より選ばれる特定官能基で置換されていてもよい。炭素原子数1〜18の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などが挙げられる。特にプロピル基が好ましい。本発明で用いられるオルガノポリシロキサン化合物にイソシアネート基含有有機基(Y)の特性のみが期待される場合には特定官能基は含まれていなくてもよい。しかし、イソシアネート基含有有機基の特性に加え、更に他の特性を付与させる場合には、前記特定官能基を分子内に含ませることができる。特定官能基は該オルガノポリシロキサン化合物に付与させたい特性に応じて選択される。特にエポキシ基及び/又はβ−ケトエステル基及び/又はポリエーテル基を含んでいることが好ましい。
【0027】
R
2は官能基を含まず、かつR
1とは異なる炭素原子数1〜18、好ましくは1〜8の一価炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などが挙げられる。特にメチル基が好ましい。
【0028】
R
3は炭素原子数1〜4の一価炭化水素基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基が挙げられる。この中で、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0029】
a,b,c,d及びeはそれぞれ0.01≦a≦1、0≦b<1、0≦c≦2、0≦d≦2、及び0≦e≦1の数であって、かつ2≦a+b+c+d+e≦3を満たす。
【0030】
ここで、aは、上記オルガノポリシロキサン化合物において、ケイ素原子数に対するイソシアネート基含有有機基(Y)数の比を表す数値である。このaが0.01より小さいと、本オルガノポリシロキサン化合物の使用時に、所望のイソシアネート基含有有機基の反応性による特性が発揮されない。一方、aを1より大きくすることは合成法上やコスト面から困難である。そのためaは、0.01≦a≦1の範囲とすることが必要であり、好ましくは0.1≦a≦1の範囲、より好ましくは0.1≦a≦0.8の範囲である。
【0031】
また、bは、該オルガノポリシロキサン化合物において、ケイ素原子数に対する特定官能基を含んでいてもよい炭素原子数1〜18の一価炭化水素基(R
1)数の比を表す数値であり、これが0あるいは比較的小さい場合は相対的にアルコキシ基等のヒドロカルビルオキシ基(OR
3)の含有量が増加して加水分解反応やシリル化反応が起こり易くなるし、場合によってはオルガノポリシロキサン化合物の水に対する親和性が向上する。一方、このbが比較的大きい場合には、R
1が前記特定官能基を有するときは、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等の有機系樹脂との反応性が向上するし、また該特定官能基を有しないときには、該一価炭化水素基(R
1)の種類によっては、該オルガノポリシロキサン化合物に疎水性が付与され(R
1が例えばアルキル基である場合)、また、該オルガノポリシロキサン化合物の有機化合物や有機系樹脂との親和性ないしは相溶性が向上する(R
1が例えばフェニル基である場合)などの効果が発揮される。この場合、相対的にアルコキシ基等のヒドロカルビルオキシ基の含有量が減少するため、ヒドロカルビルオキシシリル基等の反応性は低下する。従って、bの値は該オルガノポリシロキサン化合物の使用目的に応じて0≦b<1の範囲内で選択する必要があり、好ましくは0≦b≦0.8の範囲、より好ましくは0≦b≦0.5の範囲である。
【0032】
cは、該オルガノポリシロキサン化合物において、ケイ素原子数に対する官能基を含まずかつR
1とは異なる炭素原子数1〜18の一価炭化水素基(R
2)数の比を表す数値である。cが0あるいは比較的小さい場合は相対的にアルコキシ基等のヒドロカルビルオキシ基(OR
3)の含有量が増加して加水分解反応やシリル化反応が起こり易くなり、場合によっては該オルガノポリシロキサン化合物の水に対する親和性が向上する。一方、このcが比較的大きい場合、該オルガノポリシロキサン化合物に疎水性が付与されたり、該オルガノポリシロキサン化合物の硬化物に柔軟性や離型性が付与されるなどの効果が得られる。しかし、この場合、相対的にヒドロカルビルオキシ基の含有量が減少するときにはヒドロカルビルオキシシリル基等の反応性は低下する。従って、cの数値は使用目的に応じて0≦c<2の範囲内で選択することが必要であり、好ましくは0≦c≦1の範囲、より好ましくは0≦c≦0.8の範囲である。
【0033】
dは、該オルガノポリシロキサン化合物において、ケイ素原子数に対するヒドロカルビルオキシ基(OR
3)数の比を表す数値であり、使用目的に応じて適切に設定することができる。その範囲は0≦d≦2であって、この数値が0又は0に近い場合には該オルガノポリシロキサン化合物の無機材料に対する反応性が低くなり、2に近ければ逆に無機材料への反応性が高くなる。好ましくは、0≦d≦1.8の範囲であり、d>0であることがより好ましく、更に好ましくは、1≦d≦1.6である。
【0034】
eは、該オルガノポリシロキサン化合物において、ケイ素原子数に対する水酸基(OH)数の比、換言するとシラノール基の含有率を表す数値である。このシラノール基はシリル化反応や縮合反応にあずかることができ、該オルガノポリシロキサン化合物に親水性を付与する作用を有する。しかし該オルガノポリシロキサン化合物の保存安定性を良好に保つという観点からはできるだけ少なくすることが好ましい。従って0≦e≦1の範囲とすることが必要であり、好ましくは0≦e≦0.5の範囲、より好ましくは0≦e≦0.2の範囲である。
【0035】
a+b+c+d+eの合計は、上記平均組成式(1)で表されるオルガノポリシロキサン化合物の縮合度を表す〔4−(a+b+c+d+e)〕/2を決定する数値であり、2≦a+b+c+d+e≦3の範囲とすることが必要である。
【0036】
また、該オルガノポリシロキサン化合物の個々の分子の重合度は2〜数100の範囲とすることができる。即ち、ケイ素原子2個のダイマーからケイ素原子数百個程度のポリマーまであり得る。しかし、平均重合度が2の場合は該オルガノポリシロキサン化合物中のモノマー含有量が多くなって、シリコーンオリゴマー本来の使用目的(即ち、低揮発性)が損なわれる。一方、平均重合度が大きすぎると該オルガノポリシロキサン化合物は高粘度状態、ペースト状、又は固体状となって取り扱いが困難となる。そのため平均重合度を3〜100の範囲とすることが好ましく、さらには3〜50の範囲、特には6〜20とすることがより好ましい。この様な観点から上述した(a+b+c+d+e)の数値は、好ましくは2.02≦a+b+c+d+e≦2.67の範囲、より好ましくは2.04≦a+b+c+d+e≦2.67の範囲である。なお、平均重合度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均重合度として求めることができる。
【0037】
本発明で用いられるオルガノポリシロキサン化合物の分子構造は直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、これらが組み合わさった構造を持っていてもよい。該オルガノポリシロキサン化合物は通常単一構造ではなく、種々の構造を有する分子の混合物である。
【0038】
本発明のイソシアネート基含有有機基を含有するオルガノポリシロキサン化合物は、
(i)下記一般式(2)で示されるメルカプト基含有有機基と好ましくはヒドロカルビルオキシ基とを一分子内に含有するオルガノポリシロキサン化合物と
B
aR
1bR
2cSi(OR
3)
d(OH)
eO
(4-a-b-c-d-e)/2 ・・・ (2)
(式中、Bはメルカプト基を含有する有機基であり、R
1、R
2、R
3、a,b,c,d及びeは上記と同義であり、かつ2≦a+b+c+d+e≦3を満たす。)
(ii)下記一般式(3)で示される不飽和二重結合含有イソシアネート化合物とを
【化4】
(式中、Zは不飽和二重結合を含みエステル結合を介してもよい炭素数2〜10の一価炭化水素基である。)
ラジカル発生剤の存在下においてエン−チオール付加反応させることにより合成される。
【0039】
更に詳述すると、下記のような反応式によってメルカプト基と炭素−炭素二重結合が付加反応し、チオエーテル結合が形成されることで、イソシアネート構造と、d>0の場合は加水分解性シリル基を含むオルガノポリシロキサン化合物が得られる。
【0041】
本反応に使用する式(2)のメルカプト基含有オルガノポリシロキサン化合物において、R
1、R
2、R
3、a、b、c、d、eは上述したとおりであり、Bはメルカプトメチル基、メルカプトプロピル基、メルカプトオクチル基などが挙げられるが、工業原料の入手の容易さからメルカプトプロピル基が好ましい。
【0042】
本反応に使用する式(3)の不飽和炭化水素二重結合構造基含有のイソシアネート化合物は、入手の容易なものとしてはアリルイソシアネート、2−イソシアナトエチルアクリラート、2−イソシアナトエチルメタクリラートなどが挙げられ、その中でも毒性の観点から低毒性で取り扱いのしやすい2−イソシアナトエチルアクリラート、2−イソシアナトエチルメタクリラートが挙げられ、さらに好ましくはエン−チオール反応性に富んだ2−イソシアナトエチルアクリラートが用いられる。
【0043】
上記メルカプト基含有オルガノポリシロキサン化合物と不飽和炭化水素二重結合構造基含有のイソシアネート化合物との反応割合は、不飽和炭化水素二重結合構造基含有のイソシアネート化合物1モルに対し、メルカプト基含有オルガノポリシロキサン化合物が0.9〜1.1モル、特に0.95〜1.05モルとなるように反応させることが好ましい。
【0044】
本反応に使用するラジカル発生剤としては熱ラジカル発生剤、光ラジカル発生剤が挙げられ、好ましくはアゾ化合物や過酸化物などの熱ラジカル発生剤である。
【0045】
熱ラジカル発生剤としては、ジアルキルパーオキサイド類(ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなど)、ジアシルパーオキサイド類[ジアルカノイルパーオキサイド(ラウロイルパーオキサイドなど)、ジアロイルパーオキサイド(ベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルトルイルパーオキサイド、トルイルパーオキサイドなど)など]、過酸エステル類[過酢酸t−ブチル、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどの過カルボン酸アルキルエステルなど]、ケトンパーオキサイド類、パーオキシカーボネート類、パーオキシケタール類などの有機過酸化物;アゾニトリル化合物[2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)など]、アゾアミド化合物{2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}など}、アゾアミジン化合物{2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩など}、アゾアルカン化合物[2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)など]、オキシム骨格を有するアゾ化合物[2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)など]などのアゾ化合物などが挙げられる。熱ラジカル発生剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0046】
光ラジカル発生剤としては例えば、ベンゾイン類(ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類など);アセトフェノン類(アセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−フェニル−2−ヒドロキシ−アセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなど);プロピオフェノン類(p−ジメチルアミノプロピオフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンなど);ブチリルフェノン類[1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オンなど];アミノアセトフェノン類[2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジエチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルホリノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルフェニル)プロパン−1−オン、1−(4−ブチルフェニル)−2−ジメチルアミノ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−メトキシフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−ジメチルアミノフェニル)−ブタン−1−オンなど];ベンゾフェノン類(ベンゾフェノン、ベンジル、N,N’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(ミヒラーズケトン)、3,3−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノンなどのN,N’−ジアルキルアミノベンゾフェノンなど);ケタール類(アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなど);チオキサンテン類(チオキサンテン、2−クロロチオキサンテン、2,4−ジエチルチオキサンテンなど);アントラキノン類(2−エチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2,3−ジフェニルアントラキノンなど);(チオ)キサントン類(チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなど);アクリジン類(1,3−ビス−(9−アクリジニル)プロパン、1,7−ビス−(9−アクリジニル)ヘプタン、1,5−ビス−(9−アクリジニル)ペンタンなど);トリアジン類(2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4−ビス−トリクロロメチル−6−(3−ブロモ−4−メトキシ)スチリルフェニル−s−トリアジンなど);スルフィド類(ベンジルジフェニルサルファイドなど);アシルフォスフィンオキサイド類(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドなど);チタノセン類;オキシムエステル類などが例示できる。これらの光ラジカル発生剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0047】
ラジカル発生剤の使用量は、メルカプト基含有オルガノポリシロキサン化合物と不飽和炭化水素二重結合構造基含有のイソシアネート化合物の総量100質量部に対して、0.01〜15質量部、好ましくは0.1〜10質量部の範囲から選択できる。
【0048】
反応温度は25〜120℃が好ましく、より好ましくは60〜100℃である。25℃より低温だと反応速度が低くなる場合があり、120℃よりも高いとオレフィン化合物同士の重合等の副反応が生じる可能性がある。なお、反応時間は特に制限されないが、通常10分〜24時間である。
【0049】
本反応はメルカプト基含有オルガノポリシロキサン化合物とラジカル発生剤の存在下に不飽和炭化水素二重結合構造基含有のイソシアネート化合物を滴下して反応させることを特徴とする。仕込みと滴下の原料を逆にしてしまうと不飽和炭化水素二重結合構造基含有のイソシアネート化合物の単独重合が生じるのみであり、目的の化合物が得られない。
【0050】
反応させる際に溶媒を使用してもよく、メルカプト基、イソシアネート基ならびに不飽和炭素−炭素二重結合と反応しない溶媒であればいずれを使用してもよい。具体的には炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒等が挙げられ、より具体的には炭化水素系溶媒としてペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等、芳香族系溶媒としてベンゼン、トルエン、キシレン等、ケトン系溶媒としてアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等、エステル系溶媒として酢酸エチル、酢酸ブチル、ラクトン等、エーテル系溶媒としてジエチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。この中でも工業的に入手が容易なトルエン、キシレンなどが好ましい。
【0051】
本発明のイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン化合物をコーティング剤、プライマーとして使用する場合には、必要に応じて溶剤を含有してもよい。この場合、上記イソシアネート基含有オルガノポリシロキサン化合物の含有量は、全体の0.1〜90質量%、特に1〜50質量%であることが好ましく、残部は上記任意成分としての溶剤である。溶剤としては上述した反応溶媒と同じもので構わない。
【0052】
被覆及び処理する基材としては、一般に加水分解性シリル基と反応し結合を形成する無機材質及びイソシアネート基と反応して結合する有機樹脂であれば適用可能であり、基材の形状については特に指定されない。その中でも代表的な無機材質としては、シリカ等の無機フィラーやガラス繊維をはじめとしたガラスクロス、ガラステープ、ガラスマット、ガラスペーパー等のガラス繊維製品、セラミック、金属基材等が挙げられる。また、代表的な有機樹脂としてはポリエーテル、ポリビニルアルコール、水酸基含有アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられるが、ここに例示されたものに限らない。
【0053】
次に本発明のイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン化合物を含む粘着剤について説明すると、該粘着剤は、
(A)アルコール性水酸基含有アクリル系ポリマー〔(メタ)アクリル系共重合体〕 100質量部
(B)上記イソシアネート基含有オルガノポリシロキサン化合物 0.001〜10質量部
(C)多官能架橋剤 0.01〜10質量部
を含有するものが好ましい。
【0054】
このように本発明のイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン化合物を含む粘着剤の組成としては、(A)アルコール性水酸基含有アクリル系ポリマー100質量部に対し、(B)イソシアネート基含有オルガノポリシロキサン化合物を0.001〜10質量部配合することが好ましく、より好ましくは0.01〜1質量部である。0.001質量部未満である場合には所望とする接着性改質効果が発現せず、10質量部を超える場合には効果が飽和し、対費用効果が低下する他、密着性向上効果の影響が大きくなり、初期の密着性が高くなりすぎてしまうおそれがあり好ましくない。
【0055】
ここで、アルコール性水酸基含有アクリル系ポリマーとしては、アルコール性水酸基含有(メタ)アクリルモノマーと(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとの共重合体が挙げられ、公知の共重合手順を用いて製造できる。アルコール性水酸基含有(メタ)アクリルモノマーとしては一般工業品として入手可能なものでよく、一例としてはヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルも同様に一般工業品として入手可能なものでよく、一例としてはアルキル基がメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のものが挙げられる。上記共重合体中の全モノマー単位に対するアルコール性水酸基含有(メタ)アクリルモノマー単位の含有割合は0.1〜50モル%の範囲であればよく、好ましくは1〜20モル%である。0.1モル%未満であると、所望の粘着性が得られない場合があり、50モル%を超えると粘着剤の粘度の上昇や凝集により粘着剤シート等への成形が困難となる場合がある。
【0056】
本発明にかかる粘着剤における(C)成分は、多官能架橋剤である。(C)成分の多官能架橋剤は、カルボキシル基や、水酸基等と反応することで粘着剤の凝集力を高める役割をする。架橋剤の含量は、(A)成分100質量部に対して0.01〜10質量部で使用され、好ましくは0.05〜5質量部である。0.01質量部未満であると所望の凝集力向上効果が得られず、10質量部を超えると凝集を引き起こし、粘着剤シート等への成形が困難となる場合がある。
【0057】
多官能架橋剤は、イソシアネート系、エポキシ系、アジリジン系、金属キレート系架橋剤等を使用でき、その中でもイソシアネート系架橋剤が使用上容易である。イソシアネート系架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフォルムジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、これらとトリメチロールプロパン等のポリオールとの反応物(トリメチロールプロパントリレンジイソシアネート付加物等)等が挙げられる。
【0058】
エポキシ系架橋剤としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジルエチレンジアミン、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0059】
アジリジン系架橋剤としては、N,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキサイド)、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキサイド)、トリエチレンメラミン、ビスイソプロタロイル−1−(2−メチルアジリジン)、トリ−1−アジリジニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0060】
金属キレート系架橋剤としては、アルミニウム、鉄、亜鉛、スズ、チタン、アンチモン、マグネシウム、バナジウム等の多価金属がアセチルアセトン又はアセト酢酸エチルに配位した化合物等が挙げられる。
【0061】
粘着剤の製造方法は特に限定されず、前記した(A)〜(C)成分を通常の方法で混合して得られる。混合条件は、10〜150℃で10分〜10時間とすることが好ましい。この場合、上記イソシアネート基含有オルガノポリシロキサン化合物は、(メタ)アクリル系共重合体の重合の後、配合工程で添加して使用することができ、(メタ)アクリル系共重合体の製造工程中に添加しても同一な効果を示す。また、多官能架橋剤は、粘着剤を硬化させて得られる粘着剤層形成のために実施する配合過程において、架橋剤の官能基架橋反応が殆ど生じない場合に均一なコーティングが可能となる。コーティングした後に乾燥及び熟成過程を経ると架橋構造が形成されて、弾性があり、凝集力の強い粘着剤層が得られる。
【0062】
このようにして得られた粘着剤は、ガラス板、プラスチックフィルム、紙等の被接着体に塗布し、25〜150℃、20〜90%RHで5分〜5時間、特に40〜80℃、25〜60%RHで10分〜3時間硬化させることで粘着剤層を形成することができる。
【0063】
前記粘着剤を偏光フィルム等の片面又は両面に塗布・硬化させた粘着剤層を含む粘着偏光板は、偏光フィルム又は偏光素子とこの偏光フィルム又は偏光素子の片面又は両面に上記粘着剤から形成される粘着剤層とを有するものである。偏光板を構成する偏光フィルム又は偏光素子については特に限定されない。偏光フィルムの例を挙げると、ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムにヨウ素又は異色性染料等の偏光成分を含有させて延伸することによって得られるフィルム等があり、これらの偏光フィルムの厚さも限定されず、通常の厚さに成形することができる。
【0064】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルフォルマール、ポリビニルアセタール及びエチレン・酢酸ビニル共重合体の鹸化物等が使用される。
【0065】
また、粘着剤層を有する偏光フィルムの両面に、トリアセチルセルロース等のセルロース系フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム、ポリエーテルスルホン系フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの共重合体のようなポリオレフィン系フィルム等の保護フィルムが積層された多層フィルム等を形成することができる。この際、これら保護フィルムの厚さも特に限定されず通常の厚さに成形することができる。
【0066】
偏光フィルムに粘着剤層を形成する方法には特に制限はなく、この偏光フィルムの表面に直接バーコーター等を使用して上記粘着剤を塗布して乾燥させる方法、上記粘着剤を一旦剥離性基材表面に塗布して乾燥させた後、この剥離性基材表面に形成された粘着剤層を偏光フィルム表面に転写し、次いで熟成させる方法等を採用することができる。この場合、乾燥は25〜150℃、20〜90%RHで5分〜5時間が好ましく、熟成は25〜150℃、20〜90%RHで5分〜5時間が好ましい。
【0067】
粘着剤層の厚さは特に制限されないが、通常0.01〜100μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜50μmである。粘着剤層の厚さが上記範囲より小さいと粘着剤層としての効果が不十分となる場合があり、上記範囲より大きいと粘着剤層の効果が飽和し、コストが大きくなる場合がある。
【0068】
このようにして得られた粘着剤層を有する偏光フィルム(粘着偏光板)には、保護層、反射層、位相差板、光視野角補償フィルム、輝度向上フィルム等の追加機能を提供する層を1種以上積層することができる。
【0069】
粘着偏光板は、特に、通常の液晶表示装置全般に応用可能であり、その液晶パネルの種類は特に限られない。特に、本発明の粘着偏光板を、一対のガラス基板間に液晶が封入された液晶セルの片面又は両面に貼合した液晶パネルを含めて液晶表示装置を構成することが好ましい。
【0070】
本発明の粘着剤は、上記した偏光フィルム以外に、産業用シート、特に反射シート、構造用粘着シート、写真用粘着シート、車線表示用粘着シート、光学用粘着製品、電子部品用等、用途に限らず使用できる。また、多層構造のラミネート製品、つまり一般商業用粘着シート製品、医療用パッチ、加熱活性用等、作用概念が同一である応用分野にも適用することができる。
【0071】
本発明の粘着剤は、連結鎖に硫黄原子を含むイソシアネート基と好ましくはヒドロカルビルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン化合物を含む(メタ)アクリル系粘着剤であって、ガラス、ITO等に貼り付け時に初期接着力は低いため、リワーク性に優れ、貼り付け後の湿熱処理後の接着力が十分に高いものとなり長期耐久性に優れる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記例中、粘度、比重、屈折率は、25℃において測定した値である。また、IRは赤外吸収分光法の略であり、装置はThermo sientific製NICOLET6700を使用した。NMRは核磁気共鳴分光法の略であり、装置はBruker製AVANCE400Mを使用した。粘度は毛細管式動粘度計による25℃における測定に基づく。
なお、以下の例において、実施例1〜6および実施例11は「参考例」である。
【0073】
[実施例1]
〔平均組成式(1)においてa=0.25、b=0、c=0.75、d=1.33、そしてe=0の構造を有するオルガノポリシロキサン化合物の合成〕
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコにメルカプト量483g/モルであるメルカプトプロピル基、メチル基及びメトキシ基含有オルガノポリシロキサン化合物483g(メルカプト基量:1モル、a=0.25、b=0、c=0.75、d=1.33、そしてe=0)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)2gを仕込み、90℃に加熱した。その中に2−イソシアナトエチルアクリラート141.1g(1モル)を滴下した。反応により発熱が生じ、内温が95℃を超えないように滴下速度を調整した。滴下終了後、90℃にて1時間加熱撹拌し、プロトンNMR測定により原料の2−イソシアナトエチルアクリラート由来のアクリル部位のピークが消失したことを確認し、反応終了とした。得られた反応生成物は淡黄色液体、粘度21.9mm
2/s、比重1.17、屈折率1.444であった。反応物のIRスペクトル、
1H−NMRスペクトルを
図1、
図2に示す。
【0074】
[実施例2〜6]
実施例1で使用したメルカプトプロピル基含有オルガノポリシロキサン化合物を以下表1に示す別のメルカプトプロピル基含有オルガノポリシロキサン化合物に変更した他は、反応官能基比など同じ条件として、対応するイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン化合物を得た。
【0075】
【表1】
【0076】
[実施例7]
〔平均組成式(1)においてa=0.125、b=0.125、c=0.75、d=1.33、そしてe=0の構造を有するオルガノポリシロキサン化合物の合成〕
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコにメルカプト量483g/モルであるメルカプトプロピル基、メチル基及びメトキシ基含有オルガノポリシロキサン化合物483g(メルカプト基量:1モル、a=0.25、b=0、c=0.75、d=1.33、そしてe=0)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)2gを仕込み、90℃に加熱した。その中にビニル量550g/モルであるポリエチレングリコールメチルアリルエーテル275g(ビニル基量:0.5モル)を滴下した。反応により発熱が生じ、内温が95℃を超えないように滴下速度を調整した。滴下終了後、続いて2−イソシアナトエチルアクリラート70.5g(0.5モル)を滴下した。反応により発熱が生じ、内温が95℃を超えないように滴下速度を調整した。滴下終了後、90℃にて1時間加熱撹拌し、プロトンNMR測定により滴下原料由来のオレフィンのピークが消失したことを確認し、反応終了とした。得られた反応生成物は淡黄色液体、粘度51.3mm
2/s、比重1.14、屈折率1.450であった。反応物のIRスペクトル、
1H−NMRスペクトルを
図3、
図4に示す。
【0077】
[実施例8、9]
実施例7で使用する2−イソシアナトエチルアクリラートとポリエチレングリコールメチルアリルエーテルの官能基比率を変更した他は、同じ条件として下記表2で示すイソシアネート基及びポリエーテル基含有オルガノポリシロキサン化合物を得た。
【0078】
【表2】
【0079】
[実施例10]
実施例7で使用するポリエチレングリコールメチルアリルエーテルをアリルアセチルアセテートに変更した他は、同じ条件として表3で示すイソシアネート基及びβ−ケトエステル基含有オルガノポリシロキサン化合物を得た。
【0080】
【表3】
【0081】
接着性試験用ポリウレタンエラストマーの調製
数平均分子量1,000のポリオキシテトラメチレングリコール150質量部、1,6−
ヘキシレングリコール100質量部、水0.5質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート200質量部及びジメチルホルムアミド800質量部を撹拌しつつ混合して90℃に加熱し、そのまま2時間撹拌して反応させた後、ジブチルアミンを3質量部添加して反応を停止させ、次いで過剰量のアミンを無水酢酸で中和してポリウレタンエラストマーを得た。
【0082】
プライマーの接着試験
ガラス板に対し本実施例のオルガノポリシロキサン化合物又は比較例の有機ケイ素化合物を10wt%含むトルエン溶液をプライマーとして刷毛で塗布し、80℃で5分間乾燥した後、更にポリウレタンエラストマーを刷毛で塗布し、100℃で10分間乾燥した。次いで、得られた塗膜に1mm間隔で縦横に切れ目を入れて100個の碁盤目を形成させた後、セロハンテープで圧着してから剥離させて、剥離した碁盤目の数からプライマーのウレタン樹脂及び無機基材との接着性を評価した。実施例で得たプライマーに関してはいずれの基材の場合にも剥離した碁盤目はまったく無く、極めて接着性能が良好であった。結果を表4に示す。
【0083】
【表4】
【0084】
比較例1:イソシアネートプロピルトリエトキシシラン
比較例2:イソシアネートプロピルトリメトキシシラン
【0085】
上記プライマー接着性試験により本発明のイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン化合物が既存のイソシアネート基含有シランカップリング剤と比較してプライマーとして有用であることが実証された。このような接着性が発現した要因として、本発明はヒドロカルビルオキシ基含有のポリシロキサンであるため、無機材との反応性を有しながら、ポリマーであることによる皮膜形成性が良好なことが挙げられる。
【0086】
[実施例11〜15、比較例3〜7]
粘着剤試験用アクリル系ポリマーの調製
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、n−ブチルアクリレート(BA)98.1g、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4−HBA)0.6g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)1.3gを納め、溶剤として酢酸エチル100gを仕込み、溶解させた。その後、酸素を除去するために窒素ガスバブリングを1時間行い、反応系中を窒素置換して62℃に保持した。この中に、撹拌しながら重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを0.03g投入し、62℃で8時間反応させることでアクリル系ポリマー(ベースポリマー)である(メタ)アクリル系共重合体を得た。
【0087】
粘着剤の調製
上記で得られた(A)アクリル系ポリマー:(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対して、(B)接着性改質剤:、実施例1、7〜10で得られたオルガノポリシロキサン化合物又は比較例1〜2の有機ケイ素化合物、(C)架橋剤としてトリメチロールプロパントリレンジイソシアネート付加物(TDI)を表5、6に示す配合組成でそれぞれ混合し、粘着剤実施例、比較例とした。
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
得られた粘着剤を離型紙にコーティングして乾燥した後、25μmの均一な粘着剤層を得た。このように製造された粘着剤層を、厚さ185μmのヨード系偏光板に粘着加工した後、得られた偏光板を適切な大きさに切断し、各評価に使用した。
【0091】
製造した偏光板のテストピースについては、以下に示す評価試験方法を通じて耐久信頼性、ガラス接着力、リワーク性、耐熱又は耐湿熱条件での接着力の変化について評価し、その結果を表7に示した。
【0092】
評価試験
〈耐久性信頼性〉
粘着剤がコーティングされた偏光板(90mm×170mm)をガラス基板(110mm×190mm×0.7mm)に両面で光学吸収軸がクロスされた状態で貼り付けた。この際、加えた圧力は約5kgf/cm
3であり、気泡や異物が生じないようにクリーンルームにて作業を行った。
【0093】
この試験片の耐湿耐熱特性を評価するために、60℃/90%RHの条件下で1000時間放置した後、気泡や剥離の生成の有無を確認した。耐熱特性は、80℃/30%RHで1000時間放置した後、気泡や剥離の様子を観察した。なお、試験片の状態を評価する前に、室温(23℃/60%RH)で24時間静置している。
耐久性評価についての評価基準は以下の通りである。
○:気泡や剥離現象無し
△:気泡や剥離現象僅かにあり
×:気泡や剥離現象多数有り
【0094】
〈ガラス接着力〉
粘着剤がコーティングされた偏光板を、室温(23℃/60%RH)において7日間熟成させた後、該偏光板をそれぞれ1インチ×6インチサイズに切断し、2kgのゴムローラーを使用して0.7mm厚の無アルカリガラスに貼り付けた。室温で1時間保管後、初期接着力を測定し、次いで50℃で4時間エージングさせ、その後室温で1時間保管後、接着力を測定した。
【0095】
〈リワーク性〉
粘着剤がコーティングされた偏光板(90mm×170mm)をガラス基板(110mm×190mm×0.7mm)に貼り付けた後、室温(23℃/60%RH)で1時間放置後、50℃×4時間エージングし、更に室温で1時間放冷した後、偏光板をガラスから剥離した。
偏光板やガラス板を破壊せず、粘着材をガラス表面に残さずに剥離可能か否かを基準とし、以下の通り評価した。
○:容易に再剥離可能
△:再剥離は若干困難(粘着剤がガラス表面に残存)
×:剥離不能、ガラス又は偏光板が破損
【0096】
【表7】
【0097】
比較例3は接着性改質剤を含有せず、熱キュア後に十分な接着性が発現しない。比較例4、5は既存技術であるイソシアネートプロピル基含有シランカップリング剤を使用した場合であり、初期接着力のリワーク性が発現するものの、樹脂とのなじみが相対的に不十分であるため、キュア後の最終密着強度が不十分である。比較例6は使用する(B)成分が少なすぎるため、効果が不十分である。一方、比較例7は(B)成分の使用量が多すぎるため、初期から過剰な密着性が発現し、リワーク性不十分となってしまった。
以上より、本発明の粘着剤が初期リワーク性に優れ、高温及び高温多湿処理することで十分なガラスとの接着力を発現し、長期的耐久性に優れた粘着剤であることを証明するものである。