【実施例1】
【0014】
図1(a)は、実施例1の半導体発光素子(以下、単に発光素子又は素子と称する場合がある)10の構造を示す断面図である。半導体発光素子10は、搭載基板(以下、単に基板と称する場合がある)11上に半導体構造層SLが形成された構造を有している。半導体構造層SLは、搭載基板11上に形成されたn型半導体層(第1の半導体層)12、n型半導体層12上に形成された発光機能層13、発光機能層13上に形成された電子ブロック層14、電子ブロック層14上に形成されたp型半導体層(第2の半導体層、第1の半導体層12とは反対の導電型を有する半導体層)15を含む。
【0015】
本実施例においては、搭載基板11は、例えば半導体構造層SLの成長に用いる成長用基板からなり、例えばサファイアからなる。また、半導体構造層SLは、窒化物系半導体からなる。半導体発光素子10は、例えば、サファイア基板のC面を結晶成長面とし、サファイア基板上に有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD法)を用いて半導体構造層SLを成長することによって、作製することができる。なお、図示していないが、発光素子10は、n型半導体層12上及びp型半導体層15上にそれぞれ電圧を印加するn電極及びp電極を有している。
【0016】
なお、本実施例においては、発光素子10が搭載基板11としての成長用基板上に半導体構造層SLが形成された構造を有する場合について説明するが、搭載基板11は成長用基板である場合に限定されるものではない。例えば、半導体発光素子10は、成長用基板上に半導体構造層SLを成長した後、半導体構造層SLを他の基板に貼り合わせ、成長用基板を除去した構造を有していてもよい。この場合、貼り合わせた他の基板はp型半導体層15上に形成される。当該貼り合わせ用の基板としては、例えばSi、AlN、Mo、W、CuWなどの放熱性の高い材料を用いることができる。
【0017】
なお、図示していないが、搭載基板11とn型半導体層12との間にバッファ層(下地層)が設けられていてもよい。当該バッファ層は、例えば、成長用基板と半導体構造層SLとの界面及び半導体構造層SL内の各層の界面に生じ得る歪の緩和を目的として設けられる。本実施例においては、サファイア基板(搭載基板11)上にバッファ層としてGaN層を成長した後、n型半導体層12を積層した。
【0018】
n型半導体層12は、例えば、n型ドーパント(例えばSi)を含むGaN層からなる。電子ブロック層14は、例えばAlGaN層からなる。p型半導体層15は、例えば、p型ドーパント(例えばMg)を含むGaN層からなる。なお、n型半導体層12は、異なるドーパント濃度を有する複数のn型半導体層から構成されていてもよい。また、電子ブロック層14は、p型ドーパントを含んでいてもよい。
【0019】
本実施例においては、n型半導体層12として第1及び第2のn型半導体層部分(図示せず)を形成した。具体的には、基板11上に第1のn型半導体層を形成し、第1のn型半導体層上に、第1のn型半導体層よりも小さなドーパント濃度を有する第2のn型半導体層を形成した。また、電子ブロック層14として、p型ドーパントを含むAlGaN層を形成した。
【0020】
発光機能層13は、第1及び第2の発光層13A及び13Bを有している。第1の発光層13Aはn型半導体層12上に形成され、第2の発光層13Bは第1の発光層13Aよりもp型半導体層15側(本実施例においては第1の発光層13A上)に形成されている。電子ブロック層14は第2の発光層13B上に形成されている。第1及び第2の発光層13A及び13Bの各々は、量子井戸(QW)構造を有している。
【0021】
第1の発光層13Aは、n型半導体層12とは異なる組成を有するベース層BLを有している。ベース層BLは、n型半導体層12から応力歪を受けてランダムな網目状に形成された溝(以下、第1の溝と称する)GR1を有している。すなわち、第1の溝GR1は、n型半導体層12とベース層BLとの間の異なる組成によってベース層BLに生じた応力(歪)によって生じた複数の溝が結合したメッシュ形状として形成されている。なお、ベース層BLに生じた応力歪とは、n型半導体層12とベース層BLとの間の格子定数の差によって、ベース層BLの結晶構造が歪むことをいう。
【0022】
また、第1の発光層13Aは、ベース層BL上に形成された第1の量子井戸層WA及び第1の障壁層BAからなる量子井戸構造層(以下、第1の量子井戸構造層と称する)QW1を有している。第1の量子井戸層WAはベース層BL上に形成され、第1の障壁層BAは第1の量子井戸層WA上に形成されている。なお、ベース層BLは、第1の量子井戸層WAに対して障壁層として機能する。第1の量子井戸層WAは、歪み量子井戸層として形成されている。
【0023】
ここで、
図1(b)を参照して、ベース層BLについて説明する。
図1(b)は、ベース層BLの上面を模式的に示す図である。また、ベース層BLは、第1の溝GR1によって区画され、かつランダムなサイズで形成された多数の微細なベースセグメントBSを有している。ベースセグメントBSの各々は、ベース層BLにおいて、ベース層がn型半導体層12によって応力歪を受けることによって、ランダムな網目状に区画されている。
【0024】
第1の溝GR1は、互いにランダムにかつ異なる長さ及び形状の溝部から構成されている。第1の溝GR1は、ベース層BLの表面において網目状(メッシュ状)に張り巡らされるように形成されている。ベースセグメントBSの各々は、この第1の溝GR1によってベース層BL内にランダムに区画形成された部分(セグメント)である。なお、ベースセグメントBSの各々は、略円形や略楕円形、多角形状など、様々な上面形状を有している。
【0025】
第1の溝GR1は、
図1(a)に示すように、例えばV字形状を有し、ライン状の底部BPを有している。本実施例においては、ベースセグメントBSの各々は、第1の溝GR1における底部BPをその端部とする。ベースセグメントBSの各々は、底部BPにおいて他のベースセグメントBSに隣接している。
【0026】
また、ベース層BLは、ベースセグメントBSの各々に対応する平坦部(以下、第1の平坦部と称する)FL1を有している。ベース層BLの表面は、第1の平坦部FL1と第1の溝GR1の内壁面によって構成されている。第1の平坦部FL1の各々は、第1の溝GR1によってベースセグメントBS毎に区画されている。ベースセグメントBSは、第1の平坦部FL1からなる上面と第1の溝GR1の内壁面からなる側面とを有している。
【0027】
すなわち、第1の平坦部FL1はベースセグメントBSの各々における上面を構成し、第1の溝GR1の内壁面はベースセグメントBSの側面を構成する。従って、ベースセグメントBSの各々は、傾斜した側面を有し、またその断面において例えば略台形の形状を有している。
【0028】
第1の発光層13Aは、その表面において第1の溝GR1の形状を引き継いで(保持して)形成され、第1の溝GR1と同一のメッシュ形状を有する溝(以下、第2の溝と称する)GR2を有している。具体的には、第1の量子井戸層WA及び第1の障壁層BAは、
図1(a)に示すように、ベースセグメントBSのセグメント形状を残存しつつベース層BL上に形成されている。従って、第1の量子井戸層WA及び第1の障壁層BAは、ベース層BLの第1の溝GR1の各溝部に対応する位置に溝を有している。すなわち、最もp型半導体層15側の層である第1の障壁層BAに形成された溝が第2の溝GR2となる。
【0029】
第1の発光層13Aの表面、すなわち第1の障壁層BAの表面は、第2の溝GR2以外の部分が平坦部(以下、第2の平坦部と称する)FL2として形成されている。第2の平坦部FL2の各々は第1の平坦部FL1の各々に対応する位置及び形状で形成されている。
【0030】
換言すれば、第1の発光層13Aは、その表面に第2の平坦部FL2及び第2の溝GR2を有している。第2の溝GR2は、第1の発光層13Aを島状の複数の発光セグメントESに区画するように形成されている。発光セグメントESの各々は、ベースセグメントBSの各々に対応して形成されている。従って、第1の発光層13Aは、ランダムな網目状に区画された複数の発光セグメントESを有している。発光セグメントESの各々は、サイズ及び形状にランダムなばらつき又は分布を有し、第1の発光層13Aの表面においてランダムに配置(並置)されている。
【0031】
第2の発光層13Bは、第1の発光層13A上に形成され、2つの障壁層(以下、第2の障壁層)BB1及びBB2と量子井戸層(以下、第2の量子井戸層と称する)WBとからなる量子井戸構造層(以下、第2の量子井戸構造層)QW2を有している。第2の障壁層BB1及びBB2の各々は、第1の発光層13Aにおけるベース層BLと第1の量子井戸構造層QW1における第1の障壁層BAとは異なる組成を有している。また、本実施例においては、第2の障壁層BB1及びBB2は、n型半導体層12及びp型半導体層15と同一の組成を有している。第2の量子井戸層WBは、歪み量子井戸層として形成されている。
【0032】
第2の障壁層BB1及びBB2のうち、最も第1の発光層13A側に位置する端部障壁層(以下、第1の端部障壁層と称する)BB1は、第2の溝GR2の形状を引き継いで(保持して)形成された溝(以下、第3の溝と称する)GR3を有している。第3の溝GR3は、第1及び第2の溝GR1及びGR2よりも小さなサイズ及び深さの溝部を有している。すなわち、第1の端部障壁層BB1の表面には、ベースセグメントBSのセグメント形状を残存する第3の溝GR3が形成されている。また、第1の端部障壁層BB1は、ベースセグメントBSの各々に対応する平坦部(以下、第3の平坦部と称する)FL3を有している。
【0033】
また、第2の発光層13Bは、その表面において第3の溝GR3の形状を引き継いで形成された溝(以下、第4の溝と称する)GR4を有している。すなわち、第2の発光層13Bの第2の量子井戸層WB並びに第2の障壁層BB2は、第1の端部障壁層BB1の形状を引き継いで形成されている。第4の溝GR4は、第3の溝GR3よりも小さなサイズ及び深さを有している。第2の発光層13Bの表面、すなわち第2の障壁層BB2の表面は、第4の溝GR4以外の部分が平坦部(以下、第4の平坦部と称する)FL4として形成されている。
【0034】
上記したように、第1乃至第4の溝GR1〜GR4の各々は、上面視において(すなわち結晶成長面に垂直に見たとき)、互いに同一の位置にその溝の底部を有している。すなわち、第1の発光層13Aに形成された発光セグメントESのセグメント形状は、第2の発光層13Bにおいてもほぼ引き継がれている。従って、本実施例においては、発光機能層13は、その全体が第1乃至第4の溝GR1〜GR4によって複数の発光セグメントESに区画されている。
【0035】
図2は、発光機能層13の構造を示す断面図である。
図2を用いて発光機能層13の第1及び第2の発光層13A及び13Bについてより詳細に説明する。第1の発光層13Aにおいて、ベース層BL及び第1の障壁層BAは、AlN又はAlGaNの組成を有している。本実施例においてはベース層BL及び第1の障壁層BAとしてAlN層を形成した。また、第1の発光層13Aの第1の量子井戸層WAは、InGaNの組成を有している。ベース層BLは、第1の量子井戸構造層QW1の障壁層として機能する。
【0036】
第2の発光層13Bにおいて、第2の障壁層BB1及びBB2の各々は、GaNの組成を有している。第2の量子井戸層WBは、InGaNの組成を有している。すなわち、第1及び第2の発光層13A及び13Bは、その各々が量子井戸構造を有し、互いに異なる組成の障壁層を有している。従って、第2の量子井戸層WBは、第1の発光層WAとは異なるバンドギャップを有している。なお、量子井戸構造についてのバンドギャップとは、その量子井戸層の量子準位間のエネルギーをいう。
【0037】
また、第1の端部障壁層BB1は、第2の障壁層BB1及びBB2のうち、最もp型半導体層15側に位置する端部障壁層(以下、第2の端部障壁層と称する)BB2よりも小さな層厚T1を有している。具体的には、第1の端部障壁層BB1の層厚T1は、第2の端部障壁層BB2の層厚T2よりも小さい。また、第3の溝GR3は、第1及び第2の溝GR1及びGR2よりも小さなサイズ及び深さを有している。従って、同一の発光セグメントES内において、第3の平坦部FL3は、第2の平坦部FL2よりも大きなサイズを有している。
【0038】
ここで、第1の発光層13Aについて説明する。本実施例においては、ベース層BLはAlN層からなる。ベース層BLのベースセグメントBS(すなわち第1の溝GR1)は、例えばベース層BLとしてのAlN層の成長温度を比較的低温でn型半導体層12上に成長することで形成することができる。
【0039】
より具体的には、n型半導体層12上に、これとは異なる結晶組成のベース層BLを成長した場合、ベース層BLには応力(歪)が生ずる。例えばn型半導体層12としてのGaN層にベース層BLとしてのAlN層を成長する場合、AlN層にはGaN層によって伸張歪が生ずる。従って、AlN層にはその成長時に引張応力が生ずる。GaN層上にAlN層を成長すると、成長開始時又は成長途中でAlN層に溝が生じ、AlN層は3次元的に成長する。すなわち、AlN層は立体的に成長し、複数の微細な凹凸が形成される。この溝の形成開始点が第1の溝GR1の底部BPとなる。
【0040】
さらに、GaN層上に低温でAlN層を成長する場合、AlN層における3次元的な成長が促進される。従って、AlN層の表面に無数の溝部が互いに結合しながら形成され(第1の溝GR1)、これによってAlN層の表面が複数のセグメントに区画されていく。このようにして複数のベースセグメントBSを有するベース層BLを形成することができる。なお、本実施例においては、780℃の成長温度でベース層BLとしてのAlN層を形成した。
【0041】
このベース層BL上に第1の量子井戸層WAとしてのInGaN層を形成すると、第1の量子井戸層WAは、歪み量子井戸層として形成される。また、第1の量子井戸層WA内におけるInの含有量に分布が生ずる。すなわち、第1の量子井戸層WAのうち、第1の平坦部FL1上の領域と第1の溝GR1上の領域とでIn組成が異なるように形成される。また、ベースセグメントBSの上面上と側面上とでは第1の量子井戸層WAの層厚が異なる。従って、第1の量子井戸層WAの層内においてはバンドギャップが一定では無い。
【0042】
また、第1の溝GR1の形状を維持するように、第2の溝GR2を有する第1の障壁層BA(AlN層)を形成することで、第1の発光層13Aが形成される。従って、第1の発光層13Aにおいて区画された発光セグメントESの各々は、そのランダムな形状及びバンドギャップの構成により、様々な波長の光を放出する。本実施例においては、第1の発光層13Aからは、緑色に近い領域において広範囲に亘る波長の光が放出される。このようにして微細な島状の凹凸を有する第1の発光層13Aからは、様々な色の光が放出されることとなる。発明者らは、本実施例における第1の発光層13Aによっておよそ450〜650nmの広い波長範囲のスペクトル帯域を有する光が放出されていることを確認した。
【0043】
また、本実施例においては、ベース層BLが第1の平坦部FL1を有し、第1の発光層13Aの表面が第2の平坦部FL2を有している。第1の発光層13Aが第1の平坦部FL1上の領域に第2の平坦部FL2を有することによって、第1の発光層13A内における良好な結晶性が確保される。
【0044】
なお、本実施例においてはベース層BL及び第1の発光層13Aの表面が平坦部及び溝からなる場合について説明したが、ベース層BL及び第1の発光層13Aの表面形状はこの場合に限定されない。例えば、ベース層BLはベースセグメントBSの上面に曲面部を有していてもよい。
【0045】
なお、ベースセグメントBSのサイズが小さくなるほど、ベース層BL内におけるInの取り込み量が増加し、発光波長は長波長側にシフトしていく。さらに、ベース層部分BLであるAlN層上に量子井戸層WAであるInGaN層を形成する場合、InGaN層はAlN層によって圧縮応力(圧縮歪)を受ける。InGaN層が圧縮歪を受けると、第1の量子井戸層WA内にInが取り込まれ易くなる。これによって、InGaN層におけるバンドギャップ、すなわち量子準位間のエネルギーは小さくなると考えられる。従って、第1の量子井戸層WAからは、より長波長側の発光波長を有する光が放出される。
【0046】
なお、発明者らは、第1の発光層13Aのような発光層ではなく、一面が平坦であり、互いにIn組成を変化させた複数の量子井戸層を有する多重量子井戸構造を形成することを検討した。しかし、形成できるIn組成範囲には限界があり、In組成を変化させた多重量子井戸構造の発光層を有する発光素子の場合、本実施例の発光素子10のような広範囲に亘る波長帯域を有するスペクトルを得ることはできなかった。具体的には、広範囲に亘って一定の波長及びその強度を有する光は取出されなかった。
【0047】
従って、単純にIn組成を大きくするだけでは高い演色性の光を得ることができなかった。さらに、In組成を広範囲に亘って変化させるために過剰にIn組成の大きい量子井戸層を形成すると、Inの偏析が顕著となり、Inが析出して黒色化し、発光層として機能しない部分が形成された。従って、In組成によって発光スペクトルの広域化と発光強度の両立を図ることには限界があるといえる。
【0048】
また、発明者らは、他の検討例として、異種材料によって形成された異なるバンドギャップを有する発光層を積層した発光素子を作製した。しかし、単純に異種の材料で発光層を積層した場合、そのバンドギャップに対応するピーク波長の光が取出されるに過ぎず、ピーク間のスペクトル強度は小さいものであった。また、混色のバランスが不安定となり、白色光を得ることは困難であった。また、異種の材料の発光層を形成する工程が追加されるのみならず、その結晶性は好ましいものではなかった。一方、本実施例においては、微細構造の第1の量子井戸層WAを有する発光機能層13を形成することで、容易にかつ確実に可視域の広範囲に亘って発光波長帯域(半値幅)を有する光を得ることができた。
【0049】
次に、第2の発光層13Bについて説明する。第1の発光層13Bは、第1の発光層13A上に形成され、第1の発光層13Aの形状を引き継いだ形状を有している。具体的には、第1の端部障壁層BB1は、障壁層としての一般的な層厚(例えば第2の端部障壁層BB2の層厚T2)よりも小さな層厚T1を有している。
【0050】
従って、第1の端部障壁層BB1の表面には、その第2の溝GR2に対応する第3の溝GR3が形成される。また、第2の発光層13Bの表面には第4の溝GR4が形成されている。すなわち、第2の発光層13Bは、ベースセグメントBSに対応する発光セグメントESのセグメント形状を引き継いだ形状を有している。従って、第2の発光層13Bにおいても、ランダムに形成された表面上の溝を有している。従って、単純に平坦な発光層を形成する場合に比べ、そのスペクトル幅は広域化されたものとなる。
【0051】
なお、本実施例においては、第2の障壁層BB1及びBB2はn型半導体層12と同一の組成を有し、第1の発光層13Aにおける第1の障壁層BAとは異なる組成を有している。従って、第1の発光層13Aにおいてn型半導体層12から受けた伸張歪は、第2の発光層13Bにおいて緩和される。従って、第2の発光層13Bにおいては、その端部障壁層BB1は、第1の障壁層BAに形成された第2の溝GR2の形状を引き継いでいるが、第2の溝GR2をある程度埋め込むように形成される。従って、第1の端部障壁層BB1においては、その表面に形成された第3の溝GR3は、第2の溝GR2よりも浅くかつ小さく形成される。第1の発光層13A上に第2の発光層13Bを形成することで、発光機能層13全体としてn型半導体層12から受ける歪の影響を抑制することができる。
【0052】
また、第2の障壁層BB1及びBB2は、第1の発光層13Aにおける第1の障壁層BAとは異なる組成を有している。従って、第1の発光層13A及び第2の発光層13Bにおいては、その量子井戸層WAとWBとの間で、バンドギャップ、すなわち量子準位間のエネルギーが異なる。従って、互いに異なる発光強度のピークを有し、かつそのピークの近傍で広範囲に亘るスペクトル幅を持つ光を放出させることが可能となる。例えば本実施例においては、第1の発光層13Aからは緑色領域の光を、第2の発光層13Bからは青色領域の光を、それぞれ広範囲の波長帯域で発する構成となる。
【0053】
なお、本実施例においては、第2の障壁層BB1及びBB2の各々はGaNの組成を有し、第2の量子井戸層WBはInGaNの組成を有している。発明者らは、このような構成の第2の発光層13Bからは420〜450nmの範囲内のスペクトル幅を有する光が放出されることを確認した。一方、単純に平坦な発光層を形成する場合においては、当該発光層からは青色領域(420nm辺り)に強度のピークを有する光が放出され、その近傍の波長領域においては極端に小さな強度の光が放出された。
【0054】
なお、本実施例においては、第2の発光層13Bの表面に第4の溝GR4を有する場合について説明した。しかし、第2の発光層13Bは、その表面に第4の溝GR4を有する場合に限定されない。第2の発光層13は、その第1の端部障壁層BB1に、ベースセグメントBSのセグメント形状を残存する溝(第3の溝GR3)が形成されていればよい。例えば、第2の量子井戸層WB及び第2の端部障壁層BB2は、その表面が平坦な形状を有していてもよい。例えば、第2の量子井戸層WB及び第2の端部障壁層BB2の層厚を大きくすることなどによって平坦面を形成することが可能である。
【0055】
なお、第1の発光層13A及び第2の層厚の一例として、発明者らは以下の層厚を有する発光層13を形成した。ベース層BLは4nmの層厚を有している。第1の量子井戸層WAは3nmの層厚を有している。第1の障壁層WBは4nmの層厚を有している。第1の端部障壁層BB1は3nm又は6nmの層厚T1を有している。第2の量子井戸層WBは3nmの層厚を有している。第2の端部障壁層BB2は12nmの層厚を有している。また、ベースセグメントBSのサイズ、すなわち発光セグメントESの面内方向におけるサイズは、およそ数十nm〜数μmの大きさである。
【0056】
また、本実施例においては、n型半導体層12としてのn−GaN層を1130℃の成長温度で形成し、第1の発光層13Aを780℃の成長温度で形成し、第2の発光層13Bを780℃の成長温度で形成した。また、電子ブロック層14としてのAlGaN層を980℃の成長温度で形成し、p型半導体層15としてのp−GaN層を1020℃の成長温度で形成した。
【0057】
なお、一般に、発光機能層13のうちのp型半導体層15に近い位置で電子と正孔とが結合する。具体的には、電子の方が正孔よりも移動しやすく、より正孔の注入側、すなわちp型半導体層15に近い側で両者が結合しやすいからである。従って、p型半導体層15に近い第2の発光層13Bにおいては比較的高い発光強度を得ることができ、第1の発光層13Aにおいては電子の結合確率が小さいことが懸念される。
【0058】
しかし、本実施例においては、第1の端部障壁層BB1の層厚T1は比較的小さくすることでこの懸念は解消される。具体的には、この層厚T1を小さくしておくことで、正孔が第1の端部障壁層BB1を越えて第1の発光層13A側に注入されやすくなる。従って、第1の発光層13Aにおいても高い強度の光を放出させることが可能となる。
【0059】
図3は、実施例1の変形例1に係る半導体発光素子30の構造を示す断面図である。発光素子30は、発光機能層33の構造を除いては、発光素子10と同様の構成を有している。発光素子30の発光機能層33は、多重量子井戸(MQW)構造を有する第1及び第2の発光層33A及び33Bを有している。第1の発光層33Aは、例えば2つの第1の量子井戸層WAを有し、第2の発光層33Bは、2つの第2の量子井戸層WBを有している。
【0060】
具体的には、第1の発光層33Aは、ベース層BL上に、2つの第1の量子井戸層WA及び第1の障壁層BAがそれぞれ交互に積層された多重量子井戸構造の第1の量子井戸構造層QW1を有している。また、第2の発光層33Bは、2つの第2の量子井戸層WBが3つの第2の障壁層BB1、BB2及びBB3にそれぞれ挟まれるように形成された多重量子井戸構造の第2の量子井戸構造層QW2を有している。第2の障壁層BB3は第2の障壁層BB2と同様の構成を有している。
【0061】
なお、本実施例においては、第2の発光層33Bにおける第2の障壁層BB1〜BB3のうち、最もn型半導体層12側(第1の発光層33A側)に位置する第2の障壁層BB1が第1の端部障壁層であり、最もp型半導体層15側に位置する第2の障壁層BB3が第2の端部障壁層である。
【0062】
本変形例においては、第1及び第2の発光層33A及び33Bが多重量子井戸構造を有している。従って、発光層33から放出される光の波長帯域が広域化する。すなわち、発光層33から放出される光の波長のスペクトルのピーク個数が増加する。本変形例においては4つのピークを示すスペクトルを得ることができる。従って、発光波長の広域化及びその強度の増大の効果はさらに大きなものとなる。
【0063】
なお、本変形例においては、第1及び第2の発光層33A及び33Bの両方が多重量子井戸構造を有する場合について説明したが、第1及び第2の発光層33A及び33Bの両方が多重量子井戸構造を有している必要は無い。例えば、第1の発光層が本変形例の第1の発光層33Aのように多重量子井戸構造を有し、第2の発光層が実施例1の第1の発光層13Bのように単一量子井戸構造を有していてもよい。また、各量子井戸層の層数は3層以上であってもよい。
【0064】
換言すれば、第1の発光層は、ベース層BL上に少なくとも1つの第1の量子井戸層及び第1の障壁層が積層された量子井戸構造を有していればよい。また、第2の発光層は、少なくとも1つの第2の量子井戸層が複数の第2の障壁層によって挟まれるように積層された量子井戸構造を有していればよい。そして、第2の発光層における複数の第2の障壁層のうち、最もn型半導体層12側に位置する第1の端部障壁層が第1の発光層における第1及び第2の溝GR1及びGR2に対応する第3の溝GR3を有していればよい。
【0065】
また、本変形例においては、
図3に示すように、第2の発光層33Bの表面には溝は形成されておらず、その表面全体が平坦部FL4から構成されている。すなわち、第2の発光層33Bは、その表面においては、第1の発光層33Aに形成された第1及び第2の溝GR1及びGR2を埋設して形成されている。これは、第2の発光層33Bにおける第2の障壁層BB1、BB2及びBB3のうち、第1の端部障壁層BB1以外の第2の障壁層BB2及びBB3が比較的大きな層厚を有することに起因する。
【0066】
図4は、実施例1の変形例2に係る半導体発光素子50の構造を示す断面図である。発光素子50は、発光機能層53の構造を除いては発光素子10又は30と同様の構成を有している。発光素子50の発光機能層53は、n型半導体層12と発光素子10における第1の発光層13Aとの間に、少なくとも1つ(本変形例においては2つ)の第3の量子井戸層WCと少なくとも1つ(本変形例においては2つ)の第3の障壁層WCとからなる多重量子井戸構造の第3の量子井戸構造層QW3を有する第3の発光層53Aを有している。
【0067】
本変形例においては、第3の発光層53Aは、n型半導体層13上に、第3の量子井戸層WC及び第3の障壁層BCを1セットとし、これが2セット積層された構造を有している。最もp型半導体層15側に位置する第3の障壁層BC上には第1の発光層13A(ベース層BL)が形成されている。第3の量子井戸層WCの各々は、第2の量子井戸層WBと同一の組成、例えばInGaNの組成を有している。第3の障壁層BCの各々は、第2の障壁層BB1〜BB2と同一の組成、例えばGaNの組成を有している。すなわち第3の発光層53Aは、第2の発光層13B又は33Bと同一の組成を有している。
【0068】
本変形例においては、実施例1の発光素子10における発光機能層13のn型半導体層12側に第3の量子井戸構造層QW3が追加された構成となる。従って、実施例1に比べて、純粋な青色領域に発光波長のピークを有する光を追加で放出させることが可能となる。本変形例は、例えば青色領域の光の強度を大きくしたい場合に有利な構成となる。
【0069】
図5(a)〜(c)は、本変形例における発光素子50から得られたスペクトルを示す図である。
図5(a)〜(c)に、実施例1の変形例2の素子50で得られたスペクトルと比較例のスペクトルを示している。なお、比較例として実施例1の変形例2から第2の発光層13Bを除いた素子を準備した。まず、本変形例では第2の発光層13Bと第3の発光層53Aの両方から青色発光が行われるが、比較例では青色発光は第3の発光層53Aに相当の層からの発光のみとなる。
【0070】
図5(a)は、青色発光の強度で規格化したスペクトル図面である。同じ組成でありながら実施例1では青色発光のスペクトルが長波長側にシフトしていることがわかる。
図5(b)は、第1の発光層13Aからの発光強度で規格化したスペクトル図面である。青色発光と発光層13Aからの発光の強度比において、実施例1の変形例2の方が青色成分を多くなっていることがわかる。
図5(c)は、青色発光の強度で規格化すると共にピーク位置を一致させた図面である。これにより実施例1の変形例2は半値幅が広くなっていることがわかる。以上のような特徴から比較例に比べ本発明ではより演色性の高い白色素子となっていることが確認された。
【0071】
なお、本変形例は、変形例2と組み合わせることが可能である。すなわち、多重量子井戸構造を有する第1及び第2の発光層33A及び33Bを有する発光素子30に、さらに第3の発光層53Aを設けることが可能である。変形例1及び2を組み合わせることで、スペクトルの調整を高い自由度で行うことが可能となる。従って、様々な用途に適用する素子を構成することが可能となる。
【0072】
なお、本実施例においては、発光層13(又は33及び53)とp型半導体層15との間に電子ブロック層14を形成する場合について説明したが、電子ブロック層14を設ける場合に限定されるものではない。例えば発光層13上にp型半導体層15が形成されていてもよい。なお、電子ブロック層14は、n型半導体層12、発光層13及びp型半導体層15よりも大きなバンドギャップを有している。従って、電子が発光層13を越えてp型半導体層15側にオーバーフローすることを抑制することが可能となる。従って、大電流駆動時及び高温動作時においては電子ブロック層14を設けることが好ましい。
【0073】
本実施例及びその変形例においては、第1の発光層13Aは、n型半導体層12から応力歪を受ける組成を有してランダムな網目状に区画された複数のベースセグメントBSを有するベース層BLと、複数のベースセグメントBSのセグメント形状を残存しつつベース層BL上に形成された少なくとも1つの量子井戸層WA及び少なくとも1つの障壁層BAからなる第1の量子井戸構造層QW1と、を有し、第2の発光層13Bは、第1の量子井戸構造層QW1の障壁層BAとは異なる組成を有する複数の障壁層BB1及びBB2と少なくとも1つの量子井戸層WBとからなる第2の量子井戸構造層QW2を有し、複数の障壁層BB1及びBB2のうち、最も第1の発光層13A側に位置する端部障壁層BB1の表面には、セグメント形状を残存する溝GR3を有する。従って、可視域の広範囲に亘って高い発光強度を有する光を放出することが可能な発光素子を提供することが可能となる。
【0074】
なお、本実施例においては、第1の導電型がp型の導電型であり、第2の導電型がp型とは反対の導電型のn型である場合について説明したが、第1の導電型がn型であり、第2の導電型がp型であっていてもよい。