(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6433867
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】水素ガス回収システムおよび水素ガスの分離回収方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/56 20060101AFI20181126BHJP
C01B 33/035 20060101ALI20181126BHJP
C01B 39/44 20060101ALI20181126BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20181126BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20181126BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20181126BHJP
B01D 53/68 20060101ALN20181126BHJP
B01D 53/72 20060101ALN20181126BHJP
B01D 53/78 20060101ALN20181126BHJP
B01D 53/82 20060101ALN20181126BHJP
B01D 53/75 20060101ALN20181126BHJP
B01D 53/96 20060101ALN20181126BHJP
【FI】
C01B3/56 Z
C01B33/035
C01B39/44
B01J20/20 B
B01J20/18 D
B01J20/34 B
B01J20/34 F
!B01D53/68 100
!B01D53/68 120
!B01D53/72
!B01D53/78
!B01D53/82
!B01D53/75
!B01D53/96
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-169231(P2015-169231)
(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公開番号】特開2017-43523(P2017-43523A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2017年6月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100117444
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 健一
(72)【発明者】
【氏名】石田 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】祢津 茂義
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀二
【審査官】
小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−084422(JP,A)
【文献】
特開平02−184501(JP,A)
【文献】
特開2004−284875(JP,A)
【文献】
特開2002−003208(JP,A)
【文献】
特開2010−184831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/56
B01J 20/18
B01J 20/20
B01J 20/34
C01B 33/035
C01B 39/44
B01D 53/68
B01D 53/72
B01D 53/75
B01D 53/78
B01D 53/82
B01D 53/96
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリクロロシランを原料として多結晶シリコンを製造する装置からの反応排ガスから水素ガスを分離回収するための水素ガス回収システムであって、
A:多結晶シリコン製造工程からの、水素を含む反応排ガスからクロロシラン類を凝縮分離する凝縮分離装置と、
B:前記凝縮分離装置を経た、水素を含む反応排ガスを圧縮する圧縮装置と、
C:前記圧縮装置を経た、水素を含む反応排ガスを吸収液と接触させて塩化水素を吸収分離する吸収装置と、
D:前記吸収装置を経た、水素を含む反応排ガスに含まれる、メタン、塩化水素、およびクロロシラン類の一部を吸着除去するための活性炭を充填した吸着塔からなる第1の吸着装置と、
E:前記第1の吸着装置を経た、水素を含む反応排ガスに含まれるメタンを吸着除去する合成ゼオライトを充填した吸着塔からなる第2の吸着装置と、
F:前記第2の吸着装置から排出されたメタン濃度を低減させた精製水素ガスを回収するガスライン、
を備え、
前記第2の吸着装置に充填される合成ゼオライトは、主成分であるシリカ(SiO2)とアルミナ(Al2O3)の分子比(SiO2/Al2O3)が2以上で30以下であり、
前記第2の吸着装置によるメタンの吸着を、温度範囲−30℃〜+100℃で且つ圧力範囲0.4MPa〜2MPaの下で行い、
前記合成ゼオライトは、陽イオンとして、バリウムの陽イオンを含む、
ことを特徴とする水素ガス回収システム。
【請求項2】
前記第1の吸着装置は、前記活性炭を充填した吸着塔を複数備えている、請求項1に記載の水素ガス回収システム。
【請求項3】
前記第2の吸着装置は、前記合成ゼオライトを充填した吸着塔を複数備えている、請求項1に記載の水素ガス回収システム。
【請求項4】
前記第2の吸着装置で精製した水素ガスを、前記第1の吸着装置および前記第2の吸着装置の少なくとも一方が備える吸着塔の再生時のキャリアガスとして利用するガスラインを備えている、請求項1に記載の水素ガス回収システム。
【請求項5】
前記第2の吸着装置で精製した水素ガスを、前記第2の吸着装置が備える吸着塔の再生時のキャリアガスとして利用し、該吸着塔の再生時排ガスを、前記第1の吸着装置が備える吸着塔の再生時のキャリアガスとして利用するガスラインを備えている、請求項1に記載の水素ガス回収システム。
【請求項6】
トリクロロシランを原料として多結晶シリコンを製造する装置からの反応排ガスから水素ガスを分離回収する方法であって、
請求項1〜5の何れか1項に記載の水素ガス回収システムを用い、
前記第2の吸着装置により、前記水素ガス中のメタン濃度を1ppm以下に精製して回収する、水素ガスの分離回収方法。
【請求項7】
前記第1の吸着装置により、前記水素ガス中の塩化水素濃度を100ppmv以下、且つ、クロロシラン類濃度を100ppmv以下に精製する、請求項6に記載の水素ガスの分離回収方法。
【請求項8】
前記第2の吸着装置が備える吸着塔の再生時の塔内圧力を0.3MPaA以下で行う、請求項6に記載の水素ガスの分離回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素ガス回収システムおよび水素ガスの分離回収方法に関し、より詳細には、トリクロロシランを原料とする多結晶シリコン製造装置の反応排ガスから水素を分離して回収し、高純度に精製された水素ガスの循環利用を可能とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロロシラン(HSiCl
3)を原料とする多結晶シリコンの製造工程では、主として下式で表される反応が進行し、式1により多結晶シリコンが生成する。
HSiCl
3 + H
2 → Si + 3HCl ・・・(式1)
HSiCl
3 + HCl → SiCl
4 + H
2 ・・・(式2)
【0003】
シーメンス法で多結晶シリコンを製造する際、原料ガスであるトリクロロシランと水素を、反応器内で加熱した鳥居型(逆U字型)のシリコン芯線に接触させ、該シリコン芯線表面に多結晶シリコンをCVD(Chemical Vapor Deposition)法により気相成長させる。
【0004】
シリコン芯線の加熱は通電加熱によるため、反応器内の部材には、導電性と耐熱性が高く金属汚染の少ないカーボンが用いられる。このようなカーボン部材には、例えば、シリコン芯線に通電するための芯線ホルダや高純度の高抵抗シリコン芯線に通電させるために初期加熱するためのヒータなどがある。
【0005】
非特許文献1(「新・炭素工業」石川敏功、長沖通著)によると、カーボンは900℃以上の温度で水素と反応するとされる。多結晶シリコン析出時の反応器内のカーボン部材は、通電加熱しているシリコン芯線からの熱伝導又は輻射熱を受けて900℃以上の高温となるから、供給ガスの水素とカーボンが反応して、下式3に従い、微量のメタンが生成する。
C + 2H
2 → CH
4 ・・・(式3)
【0006】
この反応に加え、原料ガスであるトリクロロシランには沸点の近いメチルジクロロシランが微量含まれているため、多結晶シリコンの析出反応条件下では、これらはメタンに分解される(特許文献1(特許第3727470号明細書)を参照)。
【0007】
従って、多結晶シリコン製造装置からの反応排ガスには、上記式1及び式2に示されているテトラクロロシラン、水素、微量の塩化水素(HCl)、及び未反応のトリクロロシラン以外に、微量のメタンが含まれることとなる。
【0008】
これらに加え、上記反応排ガスには、その他の副生ガスとして、微量のモノクロロシラン(SiH
3Cl)、ジクロロシラン(SiH
2Cl
2)も含まれる。
【0009】
なお、以下では、テトラクロロシラン、トリクロロシラン、ジクロロシランを総称してクロロシラン類と称し、その液体をクロロシラン液と称することとする。
【0010】
ところで、シーメンス法でトリクロロシランをシリコンに転換する場合、その転換率は数〜10%前後と低いため、反応器に供給する原料ガス量は、析出シリコン1kg当たり15〜50Nm
3と大量とならざるを得ない。反応器に供給した原料ガスの多くは反応排ガスとして反応器から排出されることとなるから、製造コストを抑えるためには、原料ガスのロスを抑えることが必要となる。つまり、反応排ガスを回収し、トリクロロシランと水素を高純度化したうえで、再び、多結晶シリコン製造装置へ原料ガスとして供給する技術が必要不可欠である。
【0011】
このような水素ガス回収システムでは、一般に、多結晶シリコン製造装置からの反応排ガスが先ず、多結晶シリコン製造装置に直結する水素回収循環装置により水素とそれ以外の成分に分離され、この分離水素を回収して、再び多結晶シリコン製造装置へと導入される。このようなシステムの例は、例えば、非特許文献2(「昭和55〜62年度新エネルギー総合開発機構委託業務成果報告書 太陽光発電システム実用化技術開発 低コストシリコン実験精製検証(クロルシランの水素還元工程の技術開発) 総括版」)、特許文献2(特開2008−143775号公報)、特許文献3(特開2011−84422号公報)などに開示され、公知となっている。
【0012】
このような従来の水素ガス回収システムでは、先ず、クロロシラン類を凝縮分離し、その後、低温のクロロシラン液により塩化水素ガスの吸収分離を行い、最後に、微量に残ったクロロシラン類や塩化水素を活性炭で吸着分離するという方法が採用されているが、排ガス中に含まれているメタンを積極的に除去することを目的として構成されてはいない。
【0013】
クロロシラン類や塩化水素を活性炭で吸着分離する際に、メタンも、この活性炭で僅かには吸着除去されるが、大量の水素中のメタン濃度は数百ppb〜数ppmと極めて希薄であるため、活性炭による吸着量は極僅かで、事実上、ほとんど除去されることなく再び多結晶シリコン製造装置へと供給されてしまう。その結果、水素の回収率を高くすれば、それにつれて回収水素中のメタン濃度も上昇してしまう。
【0014】
このような回収水素が多結晶シリコン製造装置へと再供給されると、メタンの構成元素である炭素が、析出する多結晶シリコン中へ取り込まれ易くなり(例えば、特許文献1を参照)、高純度の多結晶シリコンを製造する際の大きな障害となる。従って、回収水素中のメタン濃度制御は、高純度多結晶シリコンを製造する上での重要な課題となる。
【0015】
このような観点から、メタン発生対策として、反応器内のカーボン部材と水素との反応による生成量を抑えるべく、カーボン部材の表面処理などが提案されている(例えば、特許文献4(特開平5−213697号公報)や特許文献5(特開2009−62252号公報)を参照)。しかし、消耗材であるカーボン部材の表面処理は非常に高価であるため、ランニングコストの大幅アップとなることに加え、例えカーボン部材に表面処理を施しても微量のメタンは発生するし、原料であるトリクロロシラン中に含まれる微量炭化水素化合物の熱分解によりメタンが発生することから、結局のところ、反応排ガス中のメタン除去が必要となる。
【0016】
また、トリクロロシランに含まれるメチルジクロロシラン等の炭化水素含有不純物の分解によるメタン発生への対処として、特許文献1(特許第3727470号明細書)に、活性炭吸着層を通過するメタン濃度の管理及び活性炭の平均細孔半径等についての報告がある。しかし、回収水素中のメタン濃度は数百ppb〜数ppmと希薄であることに加え、メタンは活性炭に吸着し難い性質をもつことから、大量の回収水素中のメタン濃度を1ppm以下に抑えるためには、工業的スケールにおいて極めて大きな活性炭充填槽が必要となり、設備コストが増大するという問題がある。
【0017】
その他にも、特許文献6(特開2010−184831号公報)には、反応排ガスの凝縮器における滞留時間を長くし、凝縮液であるクロロシラン類へのメタンの溶解を促進し、回収水素中のメタン濃度を低減する方法が提案されている。しかし、この方法では、メタンを吸収したクロロシラン類を反応装置に再供給すると、溶解しているメタンも再び反応装置に供給されてしまうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特許第3727470号明細書
【特許文献2】特開2008−143775号公報
【特許文献3】特開2011−84422号公報
【特許文献4】特開平5−213697号公報
【特許文献5】特開2009−62252号公報
【特許文献6】特開2010−184831号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】「新・炭素工業」石川敏功、長沖通著
【非特許文献2】「昭和55〜62年度新エネルギー総合開発機構委託業務成果報告書 太陽光発電システム実用化技術開発 低コストシリコン実験精製検証(クロルシランの水素還元工程の技術開発) 総括版」((独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 昭和63年11月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
このように、回収水素中のメタン濃度制御は、高純度多結晶シリコンを製造する上での重要な課題であるにもかかわらず、従来の手法はそれぞれに難点があり、かかる難点のない新たな技術の提供が望まれる。
【0021】
本発明は、斯かる課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、多結晶シリコン製造工程からの反応排ガス中のメタンを、複雑なシステム構成とすることなく、効率的に除去し、回収水素の高純度化を図り、これを再び多結晶シリコン製造工程へと供給することにより、炭素不純物の少ない高純度多結晶シリコンを得ることを可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、本発明に係る水素ガス回収システムは、トリクロロシランを原料として多結晶シリコンを製造する装置からの反応排ガスから水素ガスを分離回収するための水素ガス回収システムであって、A:多結晶シリコン製造工程からの、水素を含む反応排ガスからクロロシラン類を凝縮分離する凝縮分離装置と、B:前記凝縮分離装置を経た、水素を含む反応排ガスを圧縮する圧縮装置と、C:前記圧縮装置を経た、水素を含む反応排ガスを吸収液と接触させて塩化水素を吸収分離する吸収装置と、D:前記吸収装置を経た、水素を含む反応排ガスに含まれる、メタン、塩化水素、およびクロロシラン類の一部を吸着除去するための活性炭を充填した吸着塔からなる第1の吸着装置と、E:前記第1の吸着装置を経た、水素を含む反応排ガスに含まれるメタンを吸着除去する合成ゼオライトを充填した吸着塔からなる第2の吸着装置と、F:前記第2の吸着装置から排出されたメタン濃度を低減させた精製水素ガスを回収するガスライン、を備えていることを特徴とする。
【0023】
好ましくは、前記第2の吸着装置に充填される合成ゼオライトは、主成分であるシリカ(SiO
2)とアルミナ(Al
2O
3)の分子比(SiO
2/Al
2O
3)が2以上で30以下である。
【0024】
また、好ましくは、前記合成ゼオライトは、陽イオンとして、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、リチウムの何れかの陽イオンを含む。
【0025】
ある態様では、前記第1の吸着装置は、前記活性炭を充填した吸着塔を複数備えている。
【0026】
また、ある態様では、前記第2の吸着装置は、前記合成ゼオライトを充填した吸着塔を複数備えている。
【0027】
また、ある態様では、前記第2の吸着装置で精製した水素ガスを、前記第1の吸着装置および前記第2の吸着装置の少なくとも一方が備える吸着塔の再生時のキャリアガスとして利用するガスラインを備えている。
【0028】
さらに、ある態様では、前記第2の吸着装置で精製した水素ガスを、前記第2の吸着装置が備える吸着塔の再生時のキャリアガスとして利用し、該吸着塔の再生時排ガスを、前記第1の吸着装置が備える吸着塔の再生時のキャリアガスとして利用するガスラインを備えている。
【0029】
本発明に係る水素ガスの分離回収方法は、トリクロロシランを原料として多結晶シリコンを製造する装置からの反応排ガスから水素ガスを分離回収する方法であって、上述の水素ガス回収システムを用い、前記第2の吸着装置により、前記水素ガス中のメタン濃度を1ppm以下に精製して回収する。
【0030】
好ましくは、前記第1の吸着装置により、前記水素ガス中の塩化水素濃度を100ppmv以下、且つ、クロロシラン類濃度を100ppmv以下に精製する。
【0031】
また、好ましくは、前記第2の吸着装置が備える吸着塔の再生時の塔内圧力を0.3MPaA以下で行う。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、多結晶シリコン製造工程からの反応排ガス中のメタンを、複雑なシステム構成とすることなく、効率的に除去し、回収水素の高純度化を図り、これを再び多結晶シリコン製造工程へと供給することにより、炭素不純物の少ない高純度多結晶シリコンを得ることを可能とする技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の水素ガス回収システムの構成例を説明するためのブロック図である。
【
図2】本発明の水素ガス回収システムの他の構成例を説明するためのブロック図である。
【
図3】本発明の水素ガス回収システムの他の構成例を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0035】
図1は、本発明の水素ガス回収システムの構成例を説明するためのブロック図である。この図で示した例では、多結晶シリコン製造工程からの、水素を含む反応排ガスからクロロシラン類を凝縮分離する凝縮分離装置(A)と、凝縮分離装置(A)を経た、水素を含む反応排ガスを圧縮する圧縮装置(B)と、圧縮装置(B)を経た、水素を含む反応排ガスを吸収液と接触させて塩化水素を吸収分離する吸収装置(C)と、吸収装置(C)を経た、水素を含む反応排ガスに含まれる、メタン、塩化水素、およびクロロシラン類の一部を吸着除去するための活性炭を充填した吸着塔からなる第1の吸着装置(D)と、第1の吸着装置(D)を経た、水素を含む反応排ガスに含まれるメタンを吸着除去する合成ゼオライトを充填した吸着塔からなる第2の吸着装置(E)と、第2の吸着装置(E)から排出されたメタン濃度を低減させた精製水素ガスを回収するガスライン(F)により、水素ガス回収システムが構成されている。
【0036】
このシステムでは、先ず、多結晶シリコン製造装置(不図示)からの反応排ガスが凝縮分離装置(A)に供給され、クロロシラン類の凝縮分離が行われる(S101)。この凝縮分離工程は、次工程の圧縮装置(B)の内部でガスが液化して機器を損傷しないようにするためのみならず、次々工程における第1の吸着装置(D)を用いた吸着除去工程における熱負荷を軽減するために設けられており、この凝縮分離工程により、反応排ガス中の水素に含まれるクロロシラン類の一部が除去されて系外に回収される。
【0037】
具体的には、多結晶シリコン製造装置からの反応排ガスを冷却し、クロロシラン類の一部を反応排ガスから除外する。冷却温度は、圧縮装置(B)を用いての圧縮工程における圧縮後圧力下において、クロロシラン類が凝縮しない温度以下であれば良い。従って、冷却温度は−10℃以下であればよく、好ましくは−20℃以下である。
【0038】
凝縮分離工程(S101)に続く、圧縮装置(B)を用いての圧縮工程(S102)では、凝縮後の排ガスを後工程に送気・循環するために必要な圧力まで昇圧する。ここで圧縮した反応排ガスは、水素の他に未分離のクロロシラン類、モノシラン、塩化水素、窒素とメタンに加え、微量の一酸化炭素や二酸化炭素も含まれる。
【0039】
圧縮工程(S102)に続く、吸収装置(C)を用いての塩化水素の吸収分離工程では、反応排ガス中に含まれているクロロシラン類及び塩化水素を吸収液に吸収させる工程(S103)と塩化水素の蒸留工程(S104)を適宜繰返し、塩化水素を反応排ガスから除外して系外に回収する。
【0040】
吸収装置(C)は、ステップS103を実行する塩化水素吸収部とステップS104を実行する塩化水素蒸留部を備えており、塩化水素蒸留部から液体のクロロシラン類を主体とする吸収液が塩化水素吸収部に供給され、反応排ガスがこの吸収液と気液接触することにより、反応排ガス中のクロロシラン類及び塩化水素が吸収液に吸収される。
【0041】
図示はしないが、塩化水素吸収部は、効率良く気液接触できるような充填物やトレイを備えている。また、効率的な吸収のためには、低温・高圧下で気液接触を行うことが好ましい。具体的には、温度は−30℃〜−60℃、圧力は0.4MPa〜2MPaで行うことが好ましい。
【0042】
吸収装置(C)でクロロシラン類及び塩化水素が除去された水素を主成分とする反応排ガスは、活性炭を充填した吸着塔からなる第1の吸着装置(D)に導入される。ここでは、活性炭の充填層を通過させることで、未分離のクロロシラン類、モノシラン、塩化水素が吸着除去され、系外に回収乃至廃棄とされる(S105)。これに対し、メタンは、活性炭には吸着し難い性質をもつため、極一部は吸着により除去されるものの大部分は吸着されずに吸着装置(D)から排出されることになる。窒素や一酸化炭素、二酸化炭素も、メタンと同様である。
【0043】
第1の吸着装置(D)は、活性炭を充填した吸着塔を複数備えていることが好ましい。吸着塔を複数備えていると、ある吸着塔を再生させている間に、他の吸着塔に排ガスを供給し、活性炭吸着工程(S105)を中断することなく、連続して実行することができる。なお、吸着剤としての活性炭は、例えばヤシ殻や石油ピッチ系の成型品で、平均細孔半径は、例えば5μm〜20μmのものを使用することができる。また、効率的な吸着のためには、低温・高圧下で行うことが好ましい。具体的には、温度は−30℃〜+100℃、好ましくは−10℃〜+50℃であり、圧力は0.4MPa〜2MPaで行うことが好ましい。
【0044】
活性炭の再生(脱着)は、高温・低圧が効率的なため、先ず、圧力を−0.1MPa〜+0.2MPa以下に迄降圧し、その後加熱して温度を80℃〜300℃、好ましくは140℃〜200℃とする。再生中はキャリアガスとして水素を通気し、吸着しているクロロシラン類、モノシラン、塩化水素、メタン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素を脱着させる。脱着ガスは、他のプロセスで使用してもよいし、前工程で使用する吸収装置(C)に戻すなどして回収するか、或いは廃棄しても良い。
【0045】
第1の吸着装置(D)でクロロシラン類、モノシラン、塩化水素を除去した水素を主成分とする反応排ガスは、合成ゼオライトを充填した吸着塔からなる第2の吸着装置(E)に導入される。この吸着装置(E)では、反応排ガスを合成ゼオライトの充填層を通過させることで、前工程の活性炭で除去しきれなかったメタン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素が吸着除去される(S106)。
【0046】
第2の吸着装置(E)もまた、合成ゼオライトを充填した吸着塔を複数備えていることが好ましい。吸着塔を複数備えていると、ある吸着塔を再生させている間に、他の吸着塔に排ガスを供給し、合成ゼオライト吸着工程(S106)を中断することなく、連続して実行することができる。また、効率的な吸着のためには、低温・高圧下で行うことが好ましい。具体的には、温度は−30℃〜+100℃、好ましくは−10℃〜+50℃であり、圧力は0.4MPa〜2MPaで行うことが好ましい。
【0047】
吸着剤として使用する合成ゼオライトは、希薄濃度のメタン吸着能力が高いものを選定する。好ましくは、主成分であるシリカ(SiO
2)とアルミナ(Al
2O
3)の分子比(SiO
2/Al
2O
3)が2以上で30以下である合成ゼオライトを用いる。また、このような合成ゼオライトは、陽イオンとして、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、リチウムの何れかの陽イオンを含むことが好ましい。
【0048】
本発明で用いるに好適な合成ゼオライトの具体例としては、シリカ(SiO
2)とアルミナ(Al
2O
3)の分子比(SiO
2/Al
2O
3)が2〜4で、主な陽イオンがCaであり、X型の結晶構造をもつゼオラム(登録商標)SA−600A(東ソー(株))や、分子比(SiO
2/Al
2O
3)が15〜20で、陽イオンにK、Mg、Baを含み、フェリエライト型の結晶構造をもつゼオライトなどがある。これらはメタン分圧5〜10ppmの水素ガスにおいて、メタン吸着量が非常に大きく、具体的には特許文献1に記載されている活性炭(平均細孔半径8Å)に比較して数十倍と非常に大きいため、メタン吸着装置(E)の小型化を図ることができる。
【0049】
合成ゼオライトの再生(脱着)は、活性炭と同様、高温・低圧が効率的であり、吸着塔の再生時の塔内圧力については、0.3MPaA以下とすることが好ましい。例えば、先ず、圧力を−0.1MPa〜+0.2MPa以下迄降圧し、その後加熱して温度を30℃〜200℃としながらキャリアガスとして水素を流す上述の2段階手順によるか、或いは、加熱せずに圧力を−0.1MPa〜+0.2MPa以下迄降圧した後に、加熱なしにキャリアガスを流すだけでも容易に脱着することができる。
【0050】
脱着ガスは、他のプロセスで使用するか、または前述の活性炭吸着装置(D)の脱着用キャリアガスとして使用するか、或いは廃棄しても良い。
【0051】
図2および
図3に、本発明の水素ガス回収システムの他の構成例を説明するためのブロック図を示した。
【0052】
図2に示した態様のものは、第2の吸着装置(E)で精製した水素ガスを、第1の吸着装置(D)および第2の吸着装置(E)の少なくとも一方が備える吸着塔の再生時のキャリアガスとして利用するガスライン(G1、G2)を備えている。
【0053】
また、
図3に示した態様のものは、第2の吸着装置(E)で精製した水素ガスを、第2の吸着装置(E)が備える吸着塔の再生時のキャリアガスとして利用し、該吸着塔の再生時排ガスを、第1の吸着装置(D)が備える吸着塔の再生時のキャリアガスとして利用するガスライン(G1、G2)を備えている。
【0054】
図1〜3に例示した何れの態様の水素ガス回収システムにおいても、第2の吸着装置(E)により、水素ガス中のメタン濃度が1ppm以下に精製され、回収される。
【0055】
合成ゼオライトは、無極性で分子径の小さなメタン、ひいては数百ppb〜数ppmの希薄濃度域のメタンに対しても吸着能力が高い一方で、極性の強い塩化水素やクロロシラン類の脱着が困難である。従って、一度塩化水素やクロロシラン類を吸着すると、以後はメタンの吸着能力が低下する。このため、合成ゼオライト吸着装置(E)に導入するガス中の塩化水素やクロロシラン類の濃度を管理する必要がある。
【0056】
具体的には、塩化水素濃度及びクロロシラン類の濃度を、何れも100ppmv以下とすることが好ましい。より好ましくは10ppm以下とし、更に好ましくは0.1ppm以下とする。
【0057】
基本的には、前工程の活性炭吸着装置(D)で、塩化水素やクロロシラン類が上述の濃度以下となるように設計乃至運転するが、念の為、合成ゼオライト吸着装置(E)に導入されるガス中の塩化水素やクロロシラン類の濃度を監視することが望ましい。
【0058】
濃度監視の方法は、インラインの赤外吸収分析装置や、ガスの一部を水に吸収させ、そのイオン濃度や導電率などを連続で監視する方法、またはガスをフェノールフタレイン液に吸収させ色彩の変化を確認するといった簡易的な方法であっても良い。そして塩化水素やクロロシラン類の濃度が規定以上の場合は、活性炭吸着塔を切り替えるなどの措置をする。
【0059】
また、合成ゼオライトを充填塔に初期充填する際は、外気の水分吸着にも配慮する必要がある。水もまた極性が強く容易に脱着できないため、露点−10℃以下、好ましくは−60℃以下で管理された容器内に、露点管理されたガスを通気しながら充填するなどの注意が必要である。
【0060】
合成ゼオライト吸着装置(E)のガス出口には、ゼオライトの微粉末を捕集するためのフィルタを設ける。初期充填や使用中の圧力変動により成形ゼオライトが崩れ、発生する微粉末が後工程に流出することを防ぐために目開き10μm以下のフィルタを設ける。
【実施例】
【0061】
[実施例1]
多結晶シリコン製造装置の反応排ガスからクロロシラン類、モノシラン、及び塩化水素を分離し、メタンを0.5ppm含む回収水素を合成ゼオライト充填層に導入し、メタンの吸着除去と脱着を行った。
【0062】
メタン吸着剤として、シリカとアルミナの分子比(SiO
2/Al
2O
3)が17、陽イオンとしてK、Mg、Baを含むフェリエライト型結晶のφ1.5mmペレット成形ゼオライトを使用した。充填槽のサイズは内径φが22mmで高さHが1,500mmである。合成ゼオライト充填槽のガス入口とガス出口でのガス中メタン濃度は、ガスクロマトグラフィ(検出器FID、定量下限0.01ppm)で分析した。破過は、導入したメタン濃度の1/10を出口で検出した時点とした。飽和吸着量は導入したメタンの98%以上の濃度を出口で検出した時点とした。
【0063】
脱着は飽和吸着した合成ゼオライトに、キャリアガスとして水素を流した。脱着終了は充填層出口のメタン濃度が0.01ppm以下を確認した時点とした。
【0064】
結果を、実験条件とともに、表1A(吸着)および表1B(脱着)に示す。吸着と脱着を繰り返し行い、10回目の吸着におけるメタンの飽和吸着量は1,620μg、再生に要したキャリア水素量は900NLであった。尚、1回目の吸着と10回目の吸着結果に差はなく、脱着が問題無く施されていることを確認した。
【0065】
【表1A】
【0066】
【表1B】
【0067】
メタンを吸着精製した回収水素を原料に、シーメンス法で多結晶シリコンを製造した。その多結晶シリコン中のカーボン濃度は0.04ppma以下であった。カーボン濃度分析は、SEMI MF1391−0704に記載されている80Kにおける607.5cm
-1赤外吸収スペクトルの吸収係数から算出した。尚、メタン除去を行わなかった回収水素(メタン濃度0.5ppm)を原料として製造した多結晶シリコン中のカーボンは0.15ppmaであった。
【0068】
[比較例1]
実施例1と同じ条件で、吸着剤を活性炭(特許文献1に記載されている平均細孔半径12Å以下の、詳細には平均細孔径8Å、比表面積550〜600m
2/g、ヤシ殻、ペレット成形)として、メタンの吸着除去と脱着を行った。
【0069】
その結果を、実験条件とともに、表2A(吸着)および表2B(脱着)に示す。メタンの飽和吸着量は68μg、再生に要したキャリア水素量は48NLであった。
【0070】
【表2A】
【0071】
【表2B】
【0072】
活性炭のメタン吸着量は実施例1に示す合成ゼオライトの1/20にも至らない。また、脱着に要する水素原単位(表中の[キャリア総量]/[処理ガス総量])も、活性炭は合成ゼオライトの1.5倍を要すことから経済的に劣る。メタンを吸着精製した回収水素を原料に、シーメンス法で多結晶シリコンを製造した。その結晶中のカーボン濃度は、実施例1と同様、0.04ppma以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、多結晶シリコン製造工程からの反応排ガス中のメタンを、複雑なシステム構成とすることなく効率的に除去し、回収水素の高純度化を図ることを可能とする技術を提供する。
【符号の説明】
【0074】
A 凝縮分離装置
B 圧縮装置
C 吸収装置
D 第1の吸着装置
E 第2の吸着装置
F、G1、G2 ガスライン