特許第6434194号(P6434194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6434194調味料成形体、食品及び調味料成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6434194
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】調味料成形体、食品及び調味料成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20181126BHJP
   A23L 27/50 20160101ALI20181126BHJP
【FI】
   A23L27/00 D
   A23L27/50 111
【請求項の数】7
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-525489(P2018-525489)
(86)(22)【出願日】2017年12月5日
(86)【国際出願番号】JP2017043623
(87)【国際公開番号】WO2018105604
(87)【国際公開日】20180614
【審査請求日】2018年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2016-235610(P2016-235610)
(32)【優先日】2016年12月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】勝川 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】岡部 弘美
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭47−006388(JP,B1)
【文献】 特開2013−066433(JP,A)
【文献】 特開昭60−019478(JP,A)
【文献】 特開2007−195518(JP,A)
【文献】 特表平09−504700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 27/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含む含水性の成形体であって、
液体調味料と、
寒天と、
澱粉類及び増粘多糖類のいずれか一方又は両方と、
を含有し、
含水率が1.6〜48.8質量%であり、
乾燥固形分全質量あたり、
塩分量が15〜45質量%
前記寒天が0.13質量%以上、
前記澱粉類及び前記増粘多糖類の合計が0.28質量%以上、
かつ前記寒天、前記澱粉類及び前記増粘多糖類の総量が7.4〜62.0質量%である調味料成形体。
【請求項2】
前記液体調味料が醤油であり、
乾燥固形分中の全窒素量が1.5〜5.3質量%である請求項1に記載の調味料成形体。
【請求項3】
厚さ5mm以下のシート状成形体である請求項1又は2に記載の調味料成形体。
【請求項4】
クリープメータにより直径1mmの円柱型プランジャーを用いて、押し込み距離を15mmとして測定した破断歪率が3.1%以上である請求項1〜のいずれか1項に記載の調味料成形体。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の調味料成形体を用いた食品。
【請求項6】
水分を含む含水性の成形体を製造する方法であって、
液体調味料:100質量部に対して、水:0〜2440質量部と、寒天:1〜25.4質量部と、澱粉類:1〜24質量部及び増粘多糖類:1〜30質量部のいずれか一方又は両方とを配合して調味料組成物を調製する工程と、
前記調味料組成物を、所定形状に成形した後又は成形しながら乾燥して、含水率が1.6〜48.8質量%であり、乾燥固形分全質量あたり、塩分量が15〜45質量%、前記寒天が0.13質量%以上、前記澱粉類及び前記増粘多糖類の合計が0.28質量%以上、かつ前記寒天、前記澱粉類及び前記増粘多糖類の総量が7.4〜62.0質量%である調味料成形体を得る工程と、
を有する調味料成形体の製造方法。
【請求項7】
前記液体調味料として醤油を使用し、乾燥固形分中の全窒素量が1.5〜5.3質量%である調味料成形体を得る請求項に記載の調味料成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体調味料を含有する可食性調味料成形体、この調味料成形体を用いた食品及び調味料成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、醤油や塩などの調味料をシート状に成形した調味料成形体が提案されている。例えば、特許文献1には、醤油層とプルラン層からなる醤油フィルムが開示されている。この醤油フィルムは、湿ったプルランフィルムに粉末状の醤油を振りかけるか、又は乾燥したプルランフィルムに醤油ペーストを塗布した後、加熱されたロールで加圧する方法で製造されている。また、特許文献2には、醤油などの調味料成分とプルランなどの水溶性の賦形剤を含有する調味料層に、紙やプラスチックシートなどの剥離層を積層した調味料シートが開示されている。
【0003】
一方、特許文献3には、塩化ナトリウムとその他の調味料に、澱粉、多糖類、タンパク質などの水溶性有機高分子化合物を添加し、水を加えて混練した後、乾燥させてフィルム状にした調味料成形体が開示されている。また、特許文献4には、唐辛子や胡椒などの粉末調味料に、タンパク質などの食品用結着剤を添加し、混練したものを、シート状に成形して乾燥した調味料シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−19478号公報
【特許文献2】特開2013−66433号公報
【特許文献3】特開昭61−257157号公報
【特許文献4】特開2007−195518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の調味料成形体は、水やスープに溶解させることを前提にしているため、吸湿しやすく、食品に巻いたり、包んだりするような用途には不向きである。また、従来の方法で製造された調味料成形体は、醤油のような液体調味料を配合すると、液体成分が浸みだし、表面がべたつくといった問題がある。一方、原料に粉末醤油などのように乾燥により固形化又は粉末化した調味料を使用した場合、液体調味料に比べて風味が劣るという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、液体調味料本来の風味を有し、取り扱い性に優れ、そのままの状態で食することが可能な調味料成形体、食品及び調味料成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る調味料成形体は、水分を含む含水性の成形体であり、液体調味料と、寒天と、澱粉類及び増粘多糖類のいずれか一方又は両方とを含有し、含水率が1.6〜48.8質量%であり、乾燥固形分全質量あたり、塩分量が15〜45質量%、前記寒天が0.13質量%以上、前記澱粉類及び前記増粘多糖類の合計が0.28質量%以上、かつ前記寒天、前記澱粉類及び前記増粘多糖類の総量が7.4〜62.0質量%である。
前記液体調味料は醤油でもよく、その場合、乾燥固形分中の全窒素量は例えば1.5〜5.3質量%である。
本発明の調味料成形体は、例えば厚さ5mm以下のシート状成形体とすることができる。
本発明の調味料成形体は、例えばクリープメータにより直径1mmの円柱型プランジャーを用いて、押し込み距離を15mmとして測定した破断歪率が3.1%以上となる。
【0008】
本発明に係る食品は、前述した調味料成形体を用いたものである。
【0009】
本発明に係る調味料成形体の製造方法は、水分を含む含水性の成形体を製造する方法であり、
〔i〕 液体調味料:100質量部に対して、水:0〜2440質量部と、寒天:1〜25.4質量部と、澱粉類:1〜24質量部及び増粘多糖類:1〜30質量部のいずれか一方又は両方とを配合して調味料組成物を調製する工程と、
〔ii〕 前記調味料組成物を、所定形状に成形した後又は成形しながら乾燥して、含水率が1.6〜48.8質量%であり、乾燥固形分全質量あたり、塩分量が15〜45質量%、前記寒天が0.13質量%以上、前記澱粉類及び前記増粘多糖類の合計が0.28質量%以上、かつ前記寒天、前記澱粉類及び前記増粘多糖類の総量が7.4〜62.0質量%である調味料成形体を得る工程と、
を行う。
この調味料成形体の製造方法では、前記液体調味料として醤油を使用し、乾燥固形分中の全窒素量が1.5〜5.3質量%である調味料成形体を得てもよい。
【0010】
本発明において、単に「醤油」と記載した場合は液体状の醤油を指し、特に断りのない限り、以下の説明においても同様である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液体調味料本来の風味を維持しつつ、液体成分の浸みだしを抑制することができ、取り扱い性に優れ、溶解などしなくてもそのままの状態で食することが可能な液体調味料含有調味料成形体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】A,Bは本発明の実施形態の調味料成形体の形状例を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施形態の調味料成形体の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態の調味料成形体は、液体調味料を含有する可食性成形体であり、液体調味料と、寒天と、澱粉類及び/又は増粘多糖類を少なくとも含有する。そして、本実施形態の調味料成形体は、含水率が1.6〜48.8質量%であり、乾燥固形分全質量あたり、塩分量が15〜45質量%であり、かつ前記寒天、前記澱粉類及び前記増粘多糖類の総量が7.4〜62.0質量%である。
【0015】
また、本実施形態の調味料成形体では、液体調味料として醤油を使用することができる。その場合、乾燥固形分中の全窒素量が1.5〜5.3質量%となるようにすることが好ましい。
【0016】
[液体調味料]
液体調味料は、本実施形態の調味料成形体の主要成分であり、例えば、醤油、小麦発酵調味液、アミノ酸液、みりん、液体だし、各種つゆ類、ぽんず、ウスターソースや中濃ソースなどのソース類、ケチャップ、オイスターソースなどの中華調味料、魚醤など、液体状の種々の調味料を用いることができる。これらの液体調味料は、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、液体調味料には、本発明の効果を損なわない範囲で、粉末状や顆粒状の調味料が添加されていてもよい。
【0017】
本実施形態の調味料成形体には、各種液体調味料の中でも、特に醤油が好ましい。醤油は、穀物原料のものであればその種類は特に限定されず、生醤油又は火入れ醤油のいずれでもよく、例えば溜醤油、濃口醤油、淡口醤油、白醤油、再仕込み醤油及び減塩醤油などを用いることができ、2種以上の醤油を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本実施形態の調味料成形に用いられる醤油の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば本醸造方式、新式醸造方式、アミノ酸液混合方式及び酵素処理液混合方式などにより製造されたものを用いることができる。また、醤油の原料に穀類以外のものが含まれていてもよい。穀物以外の原料としては、例えば「しょうゆの日本農林規格」(農林水産省告示第1218号)に記載されている食塩、砂糖類、アルコール、焼酎、清酒、米発酵調味料、醸造酢、みりん、みりん風調味料、増粘安定剤、酸味料、アミノ酸、核酸、有機酸、無機塩、甘味料、着色料、保存料、製造用剤、日持向上剤及びpH調整剤などが挙げられる。
【0019】
[寒天]
寒天は、テングサやオゴノリなど紅藻類から抽出される多糖類であり、本実施形態の調味料成形体の形状を維持するための成分である。なお、大豆タンパクなどのタンパク質でも成形体を形成することは可能であるが、タンパク質の風味により醤油の風味が変化したり、口溶けが悪くなったりする。これに対して、寒天は、醤油の風味に影響することがなく、成形体の形状を保持したまま食した場合の口溶けや歯切れがよい。
【0020】
本実施形態の調味料成形体に用いる寒天の種類は、特に限定されるものではなく、粉末状、フレーク状、固形状、棒状及び糸状など、各種形態のものを使用することができる。
【0021】
[澱粉類]
澱粉類を添加すると、寒天のみで形成した場合に比べて、醤油などの液体成分の浸みだしを抑制することができる。本実施形態の調味料成形体に用いる澱粉類は、特に限定されるものではなく、例えば穀類澱粉、いも類澱粉、豆類澱粉、野草類澱粉及び幹茎澱粉などを使用することができ、天然澱粉でも加工澱粉でもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
各種澱粉類の中でも、浸みだし抑制の観点から、特に馬鈴薯のアセチル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンのアセチル化アジピン酸架橋澱粉、馬鈴薯又はタピオカのヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉などを使用することが好ましい。
【0023】
[増粘多糖類]
増粘多糖類も、醤油などの液体成分の浸みだしを抑制する効果があり、前述した澱粉類に代えて又は澱粉類と共に添加される。本実施形態の調味料成形体に用いる増粘多糖類は、食品への添加が認められているものであればよく、例えばグアーガム、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、ペクチン、プルラン、大豆多糖類、アラビアガム及びウェランガムなどを使用することができ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
[その他の成分]
本実施形態の調味料成形体には、前述した各成分に加えて、本発明の効果に影響を与えない範囲で、塩分調整用の食塩や水分調整用の水が添加されていてもよい。また、糖類、香辛料、酸味料及び粉末エキスなどの液体以外の調味料、ごま、わさび、椎茸、鰹節、海苔、昆布、梅干し、スルメなどの薬味を添加することもできる。ただし、薬味を添加する際は、小片状や粉末状のものを用いることが好ましい。更に、本実施形態の調味料成形体は、つゆ類、たれ類及びドレッシングなどの各種調味料組成物に用いられる副原料や添加剤を含有していてもよい。
【0025】
本実施形態の調味料成形体には、ゴマ油やオリーブオイルなどの油脂が、例えば乳化した状態で含まれていてもよい。これにより、脂特有の香味を有する調味料成形体が得られる。なお、油脂は、調味料に直接添加して乳化させてもよいが、乳化剤と共に添加してもよい。更に、本実施形態の調味料成形体には、着色のために着色料や天然色素などが添加されていてもよい。
【0026】
[含水率:1.6〜48.8質量%]
調味料成形体に含まれる水分としては、醤油などの原料由来の水や製造時に調整のために添加された水などがある。調味料成形体の含水率が1.6質量%未満の場合、柔軟性がなくなり、取り扱い性が低下すると共に、食感も悪くなる。一方、含水率が48.8質量%を超えると、液体成分が表面に浸みだし、取り扱い性が低下する。よって、本実施形態の調味料成形体では、含水率を1.6〜48.8質量%とする。
【0027】
調味料成形体の含水率は、水の添加量や製造時の乾燥条件を変更することで調整することができる。なお、調味料成形体の含水率は、常圧加熱乾燥法、減圧加熱乾燥法及びカールフィッシャー法などにより測定することができる。
【0028】
[塩分量:乾燥固形分全質量の15〜45%]
調味料成形体に含まれる塩分としては、醤油などの液体調味料に含まれる食塩の他に、製造時に調整のために添加された食塩などが挙げられる。調味料成形体中の塩分量は、風味や柔軟性に影響する。具体的には、乾燥固形分中の塩分量が15質量%未満の場合、塩味が弱くなり、その調味料本来の風味が得られない。
【0029】
また、乾燥固形分中の塩分量が45質量%を超えると、製造時の乾燥時間が長くなる上、塩味が強くなりすぎて風味が損なわれる。よって、本実施形態の調味料成形体における塩分量は、乾燥固形分全質量あたり15〜45質量%とする。なお、調味料成形体の塩分量は、液体調味料の種類を変更したり、別途食塩を添加したりすることで調整可能であり、電位差滴定法やモール法などにより測定することができる。
【0030】
[寒天、澱粉類及び増粘多糖類の総量:乾燥固形分全質量の7.4〜62.0%]
前述したように、寒天、澱粉類及び増粘多糖類は、調味料成形体の形状を維持し、液体成分の浸みだしを防止する成分であるが、これらの総量(合計量)が乾燥固形分全質量の7.4質量%未満であると、成形性が低下し、所望の形状の成形体が得られないことがある。また、寒天、澱粉類及び増粘多糖類の総量が乾燥固形分全質量の62.0質量%を超えると、液体調味料本来の風味が弱くなると共に、成形体の柔軟性が低下する。よって、寒天、澱粉類及び増粘多糖類は、総量が、乾燥固形分全質量あたり7.4〜62.0質量%になるようにする。
【0031】
[全窒素量:乾燥固形分全質量の1.5〜5.3%]
乾燥固形分中の窒素は、主に醤油に由来し、醤油の配合量を変更することで、その量を調整することが可能である。即ち、液体調味料に醤油を用いた場合、調味料成形体における全窒素量は、醤油の含有量の指標となる。醤油を用いた調味料成形体において、乾燥固形分中の全窒素量が1.5質量%未満の場合、醤油本来の風味が弱くなり、また、5.3質量%を超えると、えぐみが強くなって醤油本来の風味が損なわれることがある。よって、全窒素量は、乾燥固形分全質量あたり1.5〜5.3質量%とする。
【0032】
なお、調味料成形体の全窒素量は、例えば醤油の配合量から計算により求めることができるが、ケルダール法や燃焼法などにより直接測定することもできる。また、調味料成形体の全窒素量は、鰹節などのタンパク源が添加されている鰹節入り醤油などでは、一般的な醤油よりもタンパク源の分だけ値が高くなる。このため、前述した全窒素量の範囲は、タンパク源が添加されていない醤油を用いた場合又はタンパク源由来の値を引いた値とする。
【0033】
[形状・厚さ]
図1A,Bは本実施形態の調味料成形体の形状例を模式的に示す図である。本実施形態の調味料成形体の形状としては、例えば図1Aに示す調味料成形体1のようなシート状、図1Bに示す調味料成形体2のようなカップ状などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、用途や目的に応じて適宜選択することができる。また、調味料成形体の厚さも、特に限定されるものではないが、製造容易性の観点から、5mm以下とすることが好ましい。
【0034】
[破断歪率]
本実施形態の調味料成形体は、クリープメータにより直径1mmの円柱型プランジャーを用いて、押し込み距離15mmで測定した破断歪率が3.1%以上であることが好ましく、より好ましくは8.5%以上である。破断歪率を前述した範囲にすることで、成形体の柔軟性及び取り扱い性が向上し、食材に巻いたり、食材を包んだりすることも可能となる。
【0035】
ここで、「破断歪率」は、調味料成形体の柔軟性を示す値であり、プランジャーが測定対象試料に接触してから試料が破断するまでの距離をA(mm)、プランジャーの押し込み距離をB(mm)としたとき、下記数式1から算出される。なお、本発明においては、試料厚さにかかわらず、押し込み距離B=15mmである。
【0036】
【数1】
【0037】
[製造方法]
次に、本実施形態の調味料成形体の製造方法について説明する。図2は本実施形態の調味料成形体の製造工程を示すフローチャートである。図2に示すように、本実施形態の調味料成形体を製造する場合は、先ず、原料を配合して調味料組成物を調製する(ステップS1)。次に、型などを用いて調味料組成物を所定の形状に成形し、乾燥させる(ステップS2)。
【0038】
<ステップS1:調味料組成物の調製>
調味料組成物の調製工程では、液体調味料:100質量部に対して、水:0〜2440質量部と、寒天:1〜25.4質量部と、澱粉類:1〜24質量部及び増粘多糖類:1〜30質量部のいずれか一方又は両方を配合して調味料組成物を得る。
【0039】
このとき、液体調味料:100質量部に対して、水の配合量が2440質量部を超えると、乾燥に長時間を要する。また、液体調味料:100質量部に対して、寒天の配合量が1質量部未満であると強度が低下して形状を維持することができなくなり、また、25.4質量部を超えると、成形性が低下して各種形状に成形しにくくなる上に、柔軟性が低下し、食感も劣化する。
【0040】
液体調味料:100質量部に対して、澱粉類の配合量が1質量部未満であると液体成分の浸みだし抑制効果が低下し、また、24質量部を超えると、液体調味料本来の風味が弱くなると共に、成形体の柔軟性が低下する。同様に、液体調味料:100質量部に対して、増粘多糖類の配合量が1質量部未満であると、液体成分の浸みだし抑制効果が低下し、また、30質量部を超えると、液体調味料本来の風味が弱くなると共に、成形体の柔軟性が低下する。
【0041】
なお、ここで用いる液体調味料は、ペースト状又はジュレ状でもよく、また液体調味料自体に、寒天、澱粉類及び増粘多糖類が添加されている場合は、液体調味料とは別に添加する、寒天、澱粉類及び増粘多糖類の量を適宜調整すればよい。
【0042】
<ステップS2:成形・乾燥>
成形・乾燥工程では、ステップS1で調製した調味料組成物を、所定形状に成形した後又は成形しながら乾燥して、含水率が1.6〜48.8質量%であり、乾燥固形分全質量あたり、塩分量が15〜45質量%、かつ寒天、澱粉類及び増粘多糖類の総量が7.4〜62.0質量%である調味料成形体を得る。また、液体調味料が醤油である場合は、乾燥固形分中の全窒素量が1.5〜5.3質量%の調味料成形体が得られる。
【0043】
ステップS2における成形及び乾燥方法は、特に限定されるものではなく、調味料組成物の状態や成形体の形状などに応じて、適宜選択することができる。例えば、調味料組成物を型に流し込んで所定時間乾燥させる方法、調味料組成物を乾燥させながらロールなどで圧延する方法、ベルト上に塗布して乾燥させる方法などを適用することができる。
【0044】
[使用方法]
本実施形態の調味料成形体は、味付けとして食材の上に載せたり、食材に挟み込んだり又は食材を挟んだりするだけでなく、海苔のように食材に巻いたり、ライスペーパーのように食材を包んだり、容器代わりに食材を入れたりすることができる。また、本実施形態の調味料成形体は、裁断したり、各種形状に切り出し又は変形したりして使用してもよい。
【0045】
そして、本実施形態の調味料成形体は、例えばおにぎり、寿司、パン、サンドイッチ、ハンバーガー、カナッペ、麺類、サラダ、春巻き、煮物・炒め物・揚げ物へのトッピングの他、現在液体調味料を使用している各種食品に用いることができる。また、塩分量を調整したり、出汁や薬味などを添加したりすると、例えば酒のつまみとして、調味料成形体単独で食することもできる。更に、本実施形態の調味料成形体は、従来の液体調味料と同様に調理の際の味付けに用いることもできる。
【0046】
以上詳述したように、本実施形態の調味料成形体は、寒天と、澱粉類及び/又は増粘多糖類とを組み合わせて使用し、含水率と、乾燥固形分中の塩分量と、寒天、澱粉類及び増粘多糖類の総量を特定の範囲にしているため、醤油などの液体調味料を含有しているにも関わらず、液体成分の浸みだしを抑制することができる。その結果、液体調味料本来の風味を維持しつつ、取り扱い性に優れ、そのままの状態で食することが可能な液体調味料含有調味料成形体を実現することができる。
【0047】
本実施形態の調味料成形体は、液体成分が漏出しにくいだけでなく、一定量の水分を含んでいるため、吸湿しにくく、形態保持性に優れている。また、本実施形態の調味料成形体は、柔軟性があり、加工も容易であるため、調味料としてだけでなく、そのまま食せる味付き容器や、料理の盛りつけ時に使用する飾りなど、様々な用途に使用することができる。これらに加えて、本実施形態の調味料成形体は、べたつきがないため、歯や口腔内に付着しにくく、また、食感に優れ、歯切れや口溶けも良好であるため、そのままの状態で食することに適したものである。
【0048】
このように、本発明は、従来にはなかった調味料の新たな形態を提案するものであり、本発明に係る調味料成形体は、今後様々な食品への展開が期待される。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。
【0050】
(第1実施例)
先ず、本発明の第1実施例として、下記表1〜4に示す配合の調味料組成物を用いて、以下に示す方法で、液体調味料を含有するシート状の調味料成形体を作製し、「風味」、「柔軟性」、「液体成分の浸みだし」について評価した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
なお、上記表1に示す「超脱塩醤油」は、市販の醤油(キッコーマン食品株式会社製)を塩分が4%以下になるよう脱塩処理したものであり、表1,2に示す「減塩醤油」はキッコーマン食品株式会社製 キッコーマン減塩しょうゆであり、表3に示す「濃口醤油」は、キッコーマン食品株式会社製 キッコーマンPこいくちしょうゆである。また、表4に示す「味液」は、味の素株式会社製のアミノ酸液であり、「小麦発酵調味料」は、キッコーマン食品株式会社製 発酵うまみ調味料Fである。
【0056】
一方、上記表1〜4に示す澱粉類の「馬鈴薯A」は馬鈴薯の造粒生澱粉、「馬鈴薯B」は馬鈴薯澱粉をヒドロキシプロピル化リン酸架橋したもの、「馬鈴薯C」は馬鈴薯澱粉をアセチル化リン酸架橋したもの、「タピオカA」はタピオカ澱粉をヒドロキシプロピル化リン酸架橋したもの、「タピオカB」はタピオカ澱粉をアセチル化リン酸架橋したもの、「ワキシーコーンA」はワキシーコーン澱粉をアセチル化アジピン酸架橋したものである。
【0057】
<試料の作製>
液体調味料と水の混合溶液に寒天などの粉末原料を添加し撹拌した後、容器を湯煎にかけて液温が85℃になるまで加熱しながら撹拌し、粉末原料を溶解させた。その後、湯煎から容器を取り出し、調製した調味料組成物30gを、底面が136cmのトレイに流し込み、厚さを均一にして、凝固するまで室温で冷却した。更に、凝固物を別のトレイに移し、通風乾燥機を用いて、80℃の温度条件下で、2時間乾燥させて、シート状成形体を得た。
【0058】
<評価方法>
(1)風味
液体調味料本来の風味は、専門パネル2名(訓練期間:10〜39年)により官能試験を行い、香り、旨み、塩味、摂食した際にパネルが感じた味に関するコメントにより評価した。具体的には、「香り」、「旨み」、「塩味」については、実施例及び比較例の各シート状成形体を約1g摂食し、2名とも用いた液体調味料に近いと判断したものを○(良)、1名だけ液体調味料に近いと判断したものを△(可)、2名とも液体調味料から遠いと判断したものを×(不可)とした。また、「味に関するコメント」において、えぐみが強いとされたものは、液体調味料本来の風味を有しないため、総合評価において×(不可)とした。
【0059】
なお、官能試験を実施するにあたり、専用パネルに対して、本評価項目の討議と評価訓練を行った。具体的には、各評価項目の特性に対しては、パネル間で討議してもらい、すり合わせを行うことで、各パネリストが共通認識を持つようにした。また、官能試験の妥当性を担保するために、いくつかの調味料成形体を用いて、本パネルに評価訓練をさせ、各パネリストにおける評価の再現性を確認した。これらを行った後、本パネルを用いて、実施例及び比較例のサンプルについて官能試験を行った。
【0060】
(2)柔軟性
柔軟性は、実施例及び比較例の各シート状成形体から縦3cm、横1cmの大きさの試料を切り出し、その試料の両端を手で持って折り曲げたときの状態で評価した。具体的には、V字状に折り曲げることができたものを○(良)、U字状に折り曲げることはできたが、V字状に(折り目を付けるように)折り曲げると割れたものを△(可)、折り曲げることができずに割れたものを×(不可)とした。
【0061】
(3)液体成分の浸みだし
液体成分の浸みだしは、実施例及び比較例の各シート状成形体を、温度が25〜27℃、相対湿度が70〜75%の条件下に2.5時間静置した後、各シート状成形体の上に濾紙を置き、指で軽く押し当てた後、濾紙への醤油の浸みだし(付着)の有無を確認した。その結果、濾紙に醤油の付着が認められなかったものを○(良)、濾紙に斑点状に醤油が付着していたものを△(可)、濾紙のシート状成形体が載置されていた部分全面に醤油が付着していたものを×(不可)とした。
【0062】
(4)含水率
実施例及び比較例の各シート状成形体から1〜2g程度の試料を切り出し、それを減圧下にて、60℃の温度条件で3時間加熱して、加熱前後の質量変化量を測定した。そして、この質量変化量を水分量として、各シート状成形体の含水率を算出した。
【0063】
(5)乾燥固形分中の塩分量
乾燥固形分中の塩分量は、表1〜4に示す各原料の配合量から算出した。具体的には、実施例及び比較例の各シート状成形体の作製に用いた醤油、塩、その他の調味料に含まれる塩分量を計算により求め、それを別途算出したその他の成分(寒天、澱粉類、増粘多糖類など)も含む乾燥固形分量で除して求めた。
【0064】
(6)乾燥固形分中の寒天・澱粉類・増粘多糖類の総量
乾燥固形分中の寒天・澱粉類・増粘多糖類の総量は、表1〜4に示す各原料の配合量から算出した。具体的には、実施例及び比較例の各シート状成形体の作製に用いた寒天、澱粉類及び増粘多糖類の乾燥質量を計算により求め、それを別途算出したその他の成分(液体調味料や塩分など)も含む乾燥固形分量で除して求めた。
【0065】
(7)乾燥固形分中の全窒素量
乾燥固形分中の全窒素量は、表1〜4に示す各原料の配合量から算出した。具体的には、実施例及び比較例の各シート状成形体の作製に用いた液体調味料に含まれる窒素量を計算により求め、それを別途算出したその他の成分(寒天、澱粉類、増粘多糖類、塩分など)も含む乾燥固形分量で除して求めた。
【0066】
以上の結果を、下記表5〜9にまとめて示す。
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
【表7】
【0070】
【表8】
【0071】
【表9】
【0072】
表5に示すNo.1〜3の成形体は、塩分量が本発明の範囲よりも低いため醤油本来の風味が失われていた。一方、塩分量が本発明の範囲を超えているNo.10,11の成形体は、塩味がかなり強く、醤油本来の風味は得られなかった。また、表6に示すNo.12,13の成形体は、寒天・澱粉類・増粘多糖類の総量が本発明の範囲を超えているため、柔軟性がなく、折り曲げると割れてしまった。更に、No.12,13の成形体は、全窒素量が低いため、醤油本来の風味も有しないものであった。
【0073】
表7に示すNo.25,26の成形体は、寒天・澱粉類・増粘多糖類の総量が本発明の範囲に満たないが、シート状成形体の形成は可能であった。しかし、これらの成形体は、全窒素量が高く、強いえぐみがあり、醤油本来の風味が得られなかった。一方、寒天・澱粉類・増粘多糖類の総量が本発明の範囲を超えているNo.27の成形体は、香りが低減していた。また、表8に示すNo.32の成形体は、寒天のみを配合し、澱粉類及び増粘多糖類を含有していないため、全面から醤油の浸みだしが確認された。
【0074】
これに対して、本発明の実施例であるNo.4〜9,14〜24,28〜31,33〜43の成形体は、醤油本来の風味を有し、柔軟性があり、液体成分の浸みだしもほとんどみられなかった。また、表9に示す醤油以外の液体調味料を用いた実施例No.44〜46の成形体も同様に、調味料本来の風味を有し、柔軟性があり、液体成分の浸みだしもほとんどみられなかった。
【0075】
(第2実施例)
次に、本発明の第2実施例として、下記表10に示す配合組成I,IIで、含水率が異なるシート状の調味料成形体を作製し、「柔軟性」及び「液体成分の浸みだし」について評価した。
【0076】
【表10】
【0077】
<試料の作製>
前述した第1実施例と同様の方法で作製したシート状成形体を、更に、60℃の温度条件下で3時間減圧乾燥し、水分量が0%の試料を得た。これを、温度が27.1℃、相対湿度が70〜75%の環境下に一定時間放置して吸湿させ、含水量が異なるシート状成形体を得た。
【0078】
前述した方法で作製したNo.101〜121の成形体を、第1実施例と同様の方法で評価した。各調味料成形体の塩分量、寒天・澱粉類・増粘多糖類の総量、全窒素量については、各シート状成形体の作製に用いた原料から、塩分量、寒天・増粘多糖類の総量、窒素量を計算により求め、水分を含む調味料成形体の質量で除することで算出した。配合組成Iの結果を下記表11に、配合組成IIの結果を下記表12にそれぞれ示す。
【0079】
【表11】
【0080】
【表12】
【0081】
上記表11,12に示すように、含水率が本発明の範囲に満たないNo.101,102,112の成形体は、柔軟性がなく、折り曲げることができなかった。一方、含水率が本発明の範囲を超えているNo.111,121の成形体は、全面から醤油の浸みだしが確認された。これに対して、本発明の実施例であるNo.103〜110,113〜120の成形体は、柔軟で、液体成分の浸みだしはほとんどなかった。
【0082】
(第3実施例)
次に、本発明の第3実施例として、前述した第1実施例及び第2実施例で作製した調味料成形体の一部、並びに下記表13に示す配合組成で、厚さを変えて作製したシート状の調味料成形体(サンプルNo.201〜209)について、破断歪率を測定し、柔軟性との関係を調べた。
【0083】
【表13】
【0084】
<評価方法>
(1)破断歪率
破断歪率の測定は、クリープメータ(株式会社山電製 RE2−33005)により、2kgf(19.62N)のロードセル(株式会社山電製)及び直径1mmの円柱型プランジャーを用いて行った。具体的には、測定対象のシート状成形体を、外直径48mm、孔径10mmのプランジャーガイドで挟んでクリープメータに設置し、プランジャーの押し込み距離(設定値)を15mmとし、成形体上方から1mm/秒の速度でプランジャーを押し込み、成形体が破断するまでの距離を測定した。その測定結果を用いて、解析ソフトウエア(破断強度解析 BAS−3305W ver.1.2(α))により、各成形体の破断歪率を算出した。
【0085】
(2)厚さ
評価に用いた各成形体の厚さは、マイクロメータ(株式会社ミツトヨ製 MDC−25PXT)を用いて実測した。
【0086】
以上の結果を下記表14及び表15に示す。なお、表14及び表15では、参考のために第1実施例と同様の方法で行った柔軟性の評価結果も併せて示す。
【0087】
【表14】
【0088】
【表15】
【0089】
上記表14及び表15に示すように、破断歪率が3.1%以上である成形体は、柔軟性が良好であった。
【0090】
(第4実施例)
次に、本発明の第4実施例として、液体調味料の種類を変えて、それ以外は前述した第1〜第3実施例と同様の方法で調味料成形体を作製した。下記表16及び表17に各成形体の配合組成を示す。
【0091】
【表16】
【0092】
【表17】
【0093】
次に、サンプルNo.301〜316の成形体を、前述した第1〜第3実施例と同様の方法及び条件で評価した。その結果を、下記表18及び表19に示す。
【0094】
【表18】
【0095】
【表19】
【0096】
上記表18及び表19に示すように、醤油以外の液体調味料を用いた場合でも、含水率と、乾燥固形分中の塩分量と、寒天、澱粉類及び/又は増粘多糖類の総量を特定の範囲にすることで、風味が良好で、柔軟性を有し、液体成分の浸みだしがない調味料成形体が得られることが確認された。一方、塩分量が本発明の範囲に満たないNo.309,311,315の成形体は、柔軟性及び液体成分の浸みだしについてはその他の成形体と同等であったが、塩味が弱く、調味料としては不適であった。
【0097】
以上の結果から、本発明によれば、液体調味料本来の風味を有し、取り扱い性に優れ、そのままの状態で食することが可能な調味料成形体を実現できることが確認された。
【符号の説明】
【0098】
1、2 調味料成形体
図1
図2