(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の位相パタンは、前記出射光の強度を減衰させる第3の位相パタンと前記出力ポートに出射光を集光させる第4の位相パタンのいずれか、あるいは両方とをさらに重畳した位相パタンであることを特徴とする請求項1に記載の光入出力装置。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0028】
[光入出力装置の基本構成]
まず、本発明にかかる光入出力装置の構成について説明する。本発明にかかる光入出力装置10は、光ファイバ通信ネットワークで用いられる光入出力装置であり、位相変調素子を用いて、出力光の方路および光強度を制御する機能を有している。
【0029】
まず、本発明が適用される光入出力装置10の基本的な構成について説明する。本発明が適用される光入出力装置10には、位相変調素子の種別に応じて、次のような2種類の基本構成がある。
【0030】
[第1の基本構成]
まず、本発明が適用される光入出力装置10にかかる第1の基本構成について説明する。
図5は、本発明が適用される光入出力装置にかかる第1の基本構成を示す説明図である。
【0031】
第1の基本構成の特徴は、位相変調素子として反射型を用いている点にある。
図5には、x軸方向から見た第1の基本構成が示されている。ただし、出力ポートが配列する方向をy軸、光信号が伝搬する方向をz軸とし、これらx,y,z軸は互いに直交しているものとする。
【0032】
第1の基本構成において、光入出力装置10内の自由空間には、主な光学系素子として、入力ポートを構成する光ファイバ11、コリメートレンズ(アレイ)12,15
1〜15
n、光学素子13、位相変調素子14、および、出力ポートを構成する光ファイバ16
1〜16
nが配置されている。また、位相変調素子14の各画素に駆動信号を印加する駆動回路DRVが設けられている。
【0033】
位相変調素子14は、マトリックス状に平面配列された複数の画素を有する反射型位相変調素子からなり、入力ポートである光ファイバ11からコリメートレンズ12および光学素子13などの光学系素子を介して入力された入射光に対して、画素位置に応じて変化する位相量を各画素で与えることにより空間位相変調し、得られた出射光を出力ポートである光ファイバ16
1〜16
nのうち、指定された対象出力ポートに対応する光ファイバの角度方向へ出射する機能を有している。
【0034】
また、駆動回路DRVは、画素位置と位相量との関係を表す位相パタンを示す駆動信号を位相変調素子14の各画素に印加することにより、位相変調素子14での空間位相変調による出射光の出射角および光強度を制御する機能を有している。この駆動回路DRVは、位相変調素子14が形成された半導体チップの外部に配置してもよく、当該半導体チップ内に配置してもよい。
【0035】
入力光(信号光)は、光ファイバ11を介して自由空間に出射され、コリメートレンズ12を介し、光学素子13に与えられる。光学素子13からの出射光は、位相変調素子14によって反射され、再び光学素子13を介し、コリメートレンズ12,15
1〜15
n、光ファイバ11,16
1〜16
nへ与えられる。光信号は、位相変調素子14へ与えられた位相パタンによって出力ポート及び出力光強度が選択される。
【0036】
これにより、位相変調素子14によって反射された光信号が、第1〜第nチャンネル(光学素子13とコリメートレンズ12,15
1〜15
nと、光ファイバ11,16
1〜16
nとで構成される各経路)のうちの任意の出力ポートへ、任意の強度で出力される。
【0037】
光学素子13としては、入力された光を位相変調素子14に向けて出射するように信号光の出射方向を変換する手段を用いることができ、例えばレンズやプリズムや、回折格子を用いることができる。
【0038】
図6は、第1の基本構成にかかる他の構成例を示す説明図である。光入出力装置10に入力する信号光は、例えば波長λ
p〜λ
qまでを束ねるWDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)光でもよい。この場合、
図6に示すように、コリメートレンズ12,15
1〜15
n及び光学素子13の間に波長分散素子17を配置し、波長ごとに集光位置を異なるようにし、波長ごとに異なる出力ポートや光強度を選択可能としてもよい。
【0039】
波長分散素子17はx軸方向に沿って回折性能を有しており、入力光の波長に応じて、位相変調素子14のうちx軸方向に異なる位置に光を照射する。なお、波長分散素子17は、光学素子13と位相変調素子14の間や光学素子13の中間に配置してもよい。また、位相変調素子14は、偏向機能だけでなくレンズ機能を有する位相パタンを重畳してもよい。
【0040】
[第2の基本構成]
次に、本発明が適用される光入出力装置20にかかる第2の基本構成について説明する。
図7は、本発明が適用される光入出力装置にかかる第2の基本構成を示す説明図である。
【0041】
第2の基本構成の特徴は、位相変調素子として透過型を用いている点にある。
図7には、x軸方向から見た第2の基本構成が示されている。ただし、出力ポートが配列する方向をy軸、光信号が伝搬する方向をz軸とし、これらx,y,z軸は互いに直交しているものとする。
【0042】
第2の基本構成において、光入出力装置20内の自由空間には、主な光学系素子として、入力ポートを構成する光ファイバ21、コリメートレンズ(アレイ)22、第1の光学素子23、位相変調素子24、第2の光学素子25、コリメートレンズ(アレイ)26
1〜26
n、および、出力ポートを構成する光ファイバ27
1〜27
nが配置されている。また、位相変調素子24の各画素に駆動信号を印加する駆動回路DRVが設けられている。
【0043】
位相変調素子24は、マトリックス状に平面配列された複数の画素を有する透過型位相変調素子からなり、入力ポートである光ファイバ21からコリメートレンズ22および第1の光学素子23などの光学系素子を介して入力された入射光に対して、画素位置に応じて位相量を各画素で与えることにより空間位相変調し、得られた出射光を出力ポートである光ファイバ27
1〜27
nのうち、指定された対象出力ポートに対応する光ファイバの角度方向へ出射する機能を有している。
【0044】
また、駆動回路DRVは、画素位置と位相量との関係を表す位相パタンを示す駆動信号を位相変調素子24の各画素に印加することにより、位相変調素子24での空間位相変調による出射光の出射角および光強度を制御する機能を有している。この駆動回路DRVは、位相変調素子24が形成された半導体チップの外部に配置してもよく、当該半導体チップ内に配置してもよい。
【0045】
入力光(信号光)は、光ファイバ21を介して自由空間に出射され、コリメートレンズ22を介し、第1の光学素子23に入射される。第1の光学素子23からの出射光は位相変調素子24、第2の光学素子25を介し、コリメートレンズ26
1〜26
n、光ファイバ27
1〜27
nへ与えられる。
【0046】
この際、光信号は、位相変調素子24へ与えられた位相パタンによって出力ポート及び光強度が選択されることにより、例えば第1〜第nチャンネル(コリメートレンズ26
1〜26
nと、光ファイバ27
1〜27
nとで構成される各経路)のうちの任意の出力ポートへ、任意の強度で出力される。
【0047】
図8は、第2の基本構成にかかる他の構成例を示す説明図である。入力する信号光は、例えば波長λ
p〜λ
qまでを束ねるWDM光でもよい。この場合、
図8に示すように、コリメートレンズ22および光学素子23の間に波長分散素子28を配置するとともに、コリメートレンズ26
1〜26
nおよび光学素子25の間に波長分散素子29を配置して、波長ごとに集光位置を異なるようにし、波長ごとに異なる出力ポートや光強度を選択可能としてもよい。
【0048】
波長分散素子28はx軸方向に沿って回折性能を有しており、入力光の波長に応じて、位相変調素子24のうちx軸方向に異なる位置に光を照射する。なお、波長分散素子28は、光学素子23と位相変調素子24の間や光学素子23の中間に配置してもよい。また、波長分散素子29は、位相変調素子24と光学素子25の間や光学素子25の中間に配置してもよい。また、位相変調素子24は、偏向機能だけでなくレンズ機能を有していてもよい。
【0049】
[その他の基本構成]
本発明の光入出力装置10にかかる前述した第1および第2の基本構成については、前述した構成に限定されるものではない。例えば、第1および第2の基本構成において、光ファイバ11、21,16
1〜16
n、27
1〜27
nは、平面光導波路に置き換えてもよい。また、平面光導波路がコリメートレンズ12,15
1〜15
n、22、26
1〜26
nの機能を集積化していても構わない。また、位相変調素子14,24は、偏向機能だけでなく、例えばレンズ機能を有する位相パタンをさらに重畳してもいてもよい。また、結果として最終的に印加される位相変調素子の位相量は画素位置に対して周期的に変化していなくてもよい。
【0050】
また、本実施形態の各基本構成において、入力ポートが一つ、出力ポートが複数となる構成例を示したが、入力ポートが複数、出力ポートが一つ、あるいは複数となる構成でも良い。その場合も位相変調素子24へ与えられた位相パタンによって任意の入力ポートからの入射光は任意の出力ポートに任意の強度で出力される。
【0051】
[位相変調器の構成]
次に、本発明の光入出力装置10で用いられる位相変調素子14、24について詳細に説明する。
図9は、位相変調素子の構成例(単波長)を示す説明図である。
図10は、位相変調素子の構成例(WDM)を示す説明図である。これら
図9および
図10では、位相変調素子z軸方向から見た場合の構成が示されている。
【0052】
反射型の位相変調素子14は、xy平面上にマトリクス状に配列された多数の画素41
11〜41
pqと、裏面に配置された反射部42とを具備する。これら画素41
11〜41
pqは、駆動回路DRVからの駆動信号に応じて、画素位置に応じて位相量を各画素で与えることにより空間位相変調する機能を有している。なお、透過型の位相変調素子24は、
図9、
図10に示した裏面の反射部42が設けられていない構成を備えており、基本的には、反射型の位相変調素子14と同様に動作する。
【0053】
本発明の光入出力装置10,20において、単波長からなる入力光を位相変調素子14,24に照射する場合、光照射領域は、
図9に示すように、1つの領域R内となる。これにより、領域R内の各画素に対して、駆動回路DRVから特定の位相パタンを与えることによって、これら素子からの出射光の波面を制御し、出射光の進行方向及びその方向の光強度の制御を行うことができる。
【0054】
一方、入射光をWDM信号とし、第1の光学素子23の回折格子、あるいは波長分散素子17、28でx軸方向に分散させる場合、その入射領域は、
図10に示すように波長チャンネルごとに異なり、複数の領域R1〜Rnのようになる。この場合、駆動回路DRVにより、領域R1〜Rnの位相パタンを独立に制御することで、波長チャンネルごとに異なる出力ポートおよび出力光強度を設定可能である。
【0055】
位相変調素子14、24は、例えばLCOS−SLMを用いて実現可能である。本素子では、液晶材料の配向方向を、ドライバ電極に印加する電圧で制御可能であり、これによって入力信号が感じる液晶の屈折率を変化させ位相を制御することが可能である。表面電極を透明電極とし、裏面電極を反射電極とすることで反射型の位相変調器が実現可能である。また、表面及び裏面電極の両方を透明電極とすることで、透過型位相変調器が実現可能である。また、液晶材料の代わりに電気光学効果を示す材料を用いても構わない
【0056】
[クロストーク抑制の基本概念]
位相変調素子に対し、出射角制御等のために印加する位相パタンの自然数分の1の周期を有する任意位相量の位相パタンを重畳することにより、クロストークの要因となる不要な高次光の発生を抑制する。
【0057】
図11は、位相変調素子の出射光強度と出射光角度との関係を表すグラフである。位相変調素子に入射した光は、周期的な位相パタンを設定することにより、設定された角度の方向に出射される。ここで、位相パタンの周期は、出射光の主ビーム1101の光強度ピークが対象出力ポートの角度方向と一致する角度方向に位置するように光強度分布を発生するように設定される。
【0058】
位相変調素子より出射される光は、主ビーム1101以外にも高次光(1102〜1106)が発生する。高次光の発生要因としては、ディスクリネーション、正反射及び多重反射等の原因があるが、ディスクリネーションによる高次光1105、1106は、主ビームのN(Nは整数)倍方向の角度を有する。ディスクリネーションが生じると、設定位相の周期で周波数変調されるのと同様だからである。また、正反射による高次光1102及び多重反射による高次光(2回反射:1103、3回反射:1104)についても、主ビームのN(Nは整数)倍方向の角度を有する。設定位相のN倍の位相量で変調されるからである。これらの高次光がクロストーク光となり、クロストークを発生させる。
【0059】
本発明においては、出射角制御用の位相パタン(以下、「偏向用パタン」とする)等の設定位相の自然数分の1周期の不要光低減用の位相パタン(以下、「クロストーク抑制用パタン」とする)を設定して、偏向用パタン等と共に、位相変調素子にクロストーク抑制用パタンを重畳して印加することで、主ビームのN倍角方向に光パワーを分配することができる。
【0060】
具体的には、ディスクリネーションによって発生する2次光1105及び3次光1106、正反射によって発生する0次光1102、2回反射によって発生する2次光1103および3回反射によって発生する3次光1104等を打ち消す光1107〜1109を発生させるために位相変調素子に印加する位相パタンを決定し、位相変調素子に重畳する。ここで、2次光1103と1105に対しては光1107、3次光1104と1106に対しては光1108を発生させる位相パタンを設定する。
【0061】
高次光を打ち消す光を発生させる位相パタンは、以下のように決定する。
1.偏向用パタンの1つの周期において、位相変調素子上の各画素の光強度をベクトル長さとし、設定位相量により位相角が決定される方向ベクトルを合成させて、各高次光の光強度と位相角を示す合成方向ベクトルを算出する。
2.位相変調素子上の任意の2つ以上の画素を選択し、選択した画素ごとの設定位相を調整した方向ベクトルを作成し、設定位相を調整した画素ごとの方向ベクトルを合成することにより、算出した各高次光の合成方向ベクトルと反対方向の方向ベクトル(位相角がπずれた方向ベクトル)を作成する。
3.選択した画素のそれぞれに、調整した画素ごとの位相量を印加する位相パタンを決定する。この位相パタンを偏向用パタンの周期内で繰り返す位相パタンがクロストーク抑制用の位相パタンとなる。
【0062】
上記1〜3の手順により決定した位相パタンをクロストーク抑制用パタンとして偏向用パタン等の位相パタンに重畳して印加する。
【0063】
ただし、偏向用パタン等にクロストーク抑制用パタンを重畳すると、主ビーム1101に対しても逆位相の光1110が発生し、主ビーム1101の光強度も減少してしまうという懸念もあるが、後述するシミュレーション結果により、2次光強度の減少度に対して主ビームの光強度の減少度は少ないことがわかる。
【0064】
[第1の実施形態]
次に、位相変調素子におけるクロストーク抑制方法について説明する。
図12は、位相変調素子に印加する位相パタン設定例であり、
図12(a)は偏向用位相パタンであり、
図12(b)はクロストーク抑制用パタンである。第1の実施形態においては、位相変調素子に偏向用パタン1201を印加した際に生じる高次光によるクロストークを抑制する方法を示している。第1の実施形態においては、反射型位相変調素子14を例として説明するが、透過型位相変調素子24についても同様である。
【0065】
クロストーク抑制用パタン1202、1203は、それぞれ位相量が異なる2つのパルス波であり、第1のパルス波1202は位相量が−nπ−kπであり、第2のパルス波1203は位相量がnπ−kπである(n、kは任意の変数)。また、偏向用パタン1201と2つのクロストーク抑制用パタン1202、1203とは周期が同一である。偏向用パタン1201にクロストーク抑制用パタン1202、1203を重畳することにより、高次光を変調して、高次光の低減を可能としている。
【0066】
図13は、位相変調素子の出射光強度と偏向角との関係を示すグラフである。
図13においては、位相変調素子に偏向用パタン(
図12(a)の偏向用パタン1201)とクロストーク抑制用パタン(
図12(b)のクロストーク抑制用パタン1202及び1203)を共に重畳した結果を、クロストーク抑制用パタンを重畳しない場合と比較している。ここで、
図13においては、偏向角を1度として設定している。
【0067】
図13の曲線1301は、偏向用パタンにクロストーク抑制用パタンを重畳した場合の位相変調素子の出射光強度と偏向角との関係を示す曲線であり、曲線1302は、偏向用パタンにクロストーク抑制用パタンを重畳しない場合の位相変調素子の出射光強度と偏向角との関係を示す曲線である。
図13から、偏向用パタン1201にパルス波のクロストーク抑制用パタン1202、1203を重畳した場合、パルス波を重畳しない場合に比べて2次光(偏向角2度の光)が低減されていることがわかる。2次光が低減されることにより、クロストークが抑制される。
【0068】
図14は、パルス波(クロストーク抑制用パタン)の位相量と2次光強度との関係を示す図である。
図12(a)の偏向用パタンに
図12(b)のようなパルス波を重畳した場合、k=0.05とすると、
図14の曲線の値から、n=0.17〜0.19で2次光が著しく低減されることがわかる。
【0069】
上記は位相量が2nπずれた抑制パタンを例として利用したが、偏向用パタンと同一な周期を有するパタンを1つ以上重畳すれば、その位相量の振幅と偏向用パタンとの位相差を最適化することによって同様な効果が得られる。例えば、sin波やのこぎり波の位相量を重畳し、各波形の位相量の振幅と偏向用パタンとの位相差を最適化すればよい。
【0070】
次に、クロストーク抑制用パタンの決定法について説明する。本実施例においては、偏向用パタンの各画素ごとの位相量を方向ベクトルに変換し、高次光の合成方向ベクトルを算出し、また、クロストーク抑制用パタンの各画素ごとの方向ベクトルを作成し、さらに高次光の合成方向ベクトルを打ち消す方向に、クロストーク抑制用パタンの各画素ごとの方向ベクトルを設定することにより、クロストーク抑制用パタンを決定するものである。本実施例においては、10画素で2π折り返す偏向用位相パタンの高次光を消去する手段を考える。
【0071】
ここで、ディスクリネーションが生じた場合の偏向用パタンの高次光による方向ベクトルを算出する前に、それぞれの方向ベクトルの設定方法について説明する。
図15は、偏向用パタンの方向ベクトルを示す図であり、
図15(a)は偏向用パタンの方向ベクトルを複素平面上に表示したグラフであり、
図15(b)は位相変調素子における偏向用パタンの位相量と変調素子上の位置との関係を表すグラフである。
図15(b)における偏向用パタンは、ディスクリネーションが生じていない、理想的な偏向用パタンである。
【0072】
まず、複素平面の座標を設定し、10画素それぞれの位相量を表す方向ベクトル(方向ベクトルA〜J)を設定する。
図15(a)のRe軸上の任意の1点をプロットし(A点とする)、原点からA点へ向かうベクトルを、
図15(b)の1番目の画素の方向ベクトル(方向ベクトルA)とする。ここで、1番目の画素の位相量は0である。また、A点の値は反射光強度を示す。
【0073】
次に、2番目の画素の方向ベクトルを決定する。理想的な偏向用パタンの場合、1の周期(10画素)において各画素(1番目の画素〜10番目の画素)の位相量が0から2πまで直線状に変化するため、本実施形態においては、
図15(b)の2番目の画素の位相量はπ/5である。そこで、Re軸から半時計回りに位相角π/5の方向に、半径が方向ベクトルAの長さと同一の長さのベクトルを設定する。このベクトルが2番目の画素の方向ベクトル(方向ベクトルB)となる。
【0074】
その次に、3番目の画素の方向ベクトルを決定する。
図15(b)の3番目の画素の位相量は2π/5である。そこで、Re軸から半時計回りに位相角2π/5の方向に、半径が方向ベクトルAの長さと同一の長さのベクトルを設定する。このベクトルが3番目の画素の方向ベクトル(方向ベクトルC)となる。
【0075】
このようにして、さらに4番目〜10番目の画素の方向ベクトル(方向ベクトルD〜J)を設定する。
【0076】
図15(b)のような理想的な位相パタンの場合、偏向用パタンはディスクリネーション等による所望の位相からのずれが起きないので、1番目から10番目の画素の方向ベクトル(方向ベクトルA〜J)による合成ベクトルは0ベクトルとなり、これは、高次光が発生しないことを示している。
【0077】
しかし、ディスクリネーションがある場合、偏向用パタンが理想のパタンに対してずれてしまう。特に位相量が0から2πに折り返す際に離散的に2πで折り返しが行われるのではなく、アナログ的に位相量が変化する有限幅の領域が生じることになる。この領域による光信号は、2πから0への線形なスロープの位相量変化を生じさせる。この、位相変化のスロープにより高次光の方向ベクトルが生じる。
【0078】
まず、第1のステップとして、ディスクリネーションが生じた場合の偏向用の位相パタンの方向ベクトルを算出する。
【0079】
図16は、ディスクリネーションが生じた場合の偏向用パタンの方向ベクトルを示す図であり、
図16(a)はディスクリネーションが生じた場合の偏向用パタンの方向ベクトルを複素平面上に表示したグラフであり、
図16(b)はディスクリネーションが生じた場合の偏向用パタンの位相量と変調素子上の位置との関係を表すグラフである。
【0080】
図16(a)において、1番目から10番目の画素の方向ベクトル(方向ベクトルA〜J)を設定していく際、1番目から9番目の画素の方向ベクトル(方向ベクトルA〜I)までは、
図15(a)と同一の方向ベクトルになるが、ディスクリネーションが生じている場合、
図16(b)の9番目の画素から0への折り返しが始まるため、10番目の画素の位相量は9π/5にはならず、例えば9π/10となる。したがって、方向ベクトルAから反時計回りに位相角9π/10の方向に、方向ベクトルAの長さと同じ長さのベクトルが生じる(方向ベクトルJ´)。そして、方向ベクトルA〜I、J´の合成ベクトルを算出すると、
図16(a)の方向ベクトルKとなり、これがディスクリネーションが生じた場合の偏向用パタンの合成方向ベクトル(高次光の合成方向ベクトル)となる。
【0081】
第2のステップとして、クロストーク抑制用パタンの方向ベクトルをグラフに記入する。
図17は、クロストーク抑制用パタンを表す図であり、
図17(a)はクロストーク抑制用パタンの方向ベクトルを記入したグラフであり、
図17(b)は偏向用の位相パタンとクロストーク抑制用パタンの位相量と位相変調素子上の位置との関係を表すグラフである。
【0082】
まず、
図16(a)のグラフ中の方向ベクトルのうち、位相角がπ異なる2つの画素の方向ベクトルを選択する。本実施形態においては、方向ベクトルC及びHを選択する。次に、選択した2つの画素位置に、適当なパルス波状の位相パタン(説明の簡略化のため、以降は単に「パルス波」と呼ぶこともある)を印加して位相を変更する。本実施形態においては、
図17(b)のように3番目の画素に−nπの位相を印加、8番目の画素にnπの位相を印加する。すると、
図16(a)の方向ベクトルCは時計回りにnπ回転し、
図17(a)の方向ベクトルC´となり、
図16(a)の方向ベクトルHは反時計周りにnπ回転し、
図17(a)の方向ベクトルH´となる。そして、方向ベクトルC´と方向ベクトルH´の合成ベクトルを算出する。すると、パルス波の合成ベクトルLが算出される。
【0083】
第3のステップとして、パルス波の合成ベクトルLを強度(長さ)一定で位相角を調整することにより、つまり合成ベクトルLを回転させることにより、高次光の合成方向ベクトルと反対方向の合成ベクトルを算出する。
図18は、回転させたクロストーク抑制用パタンを示す図であり、
図18(a)は回転させたパルス波の合成ベクトルLを記入したグラフであり、
図18(b)は偏向用パタンと回転させたクロストーク抑制用パタンの位相量と変調素子上の位置との関係を表すグラフであり、
図18(c)はパルス波の合成ベクトルの回転量と高次光強度との関係を示す図である。
【0084】
図17(a)の方向ベクトルC´と方向ベクトルH´とを、共に時計回りにkπだけ回転させる(この場合、方向ベクトルC´と方向ベクトルH´との間の角度は変わらない)。すると、方向ベクトルLは、長さが一定のまま回転し、高次光の合成方向ベクトルと反対方向の向きの方向ベクトルL´となる(
図18(b))。ここで、方向ベクトルL´の向きが、高次光強度を最小とする方向である(
図18(c))。
【0085】
第4のステップとして、パルス波の合成ベクトルL´を方向一定のまま、強度(長さ)を調整することにより、合成ベクトルL´の長さを高次光の合成方向ベクトルと一致させた合成ベクトルを算出する。
図19は、強度を調整したクロストーク抑制用パタンを示す図であり、
図19(a)は、強度を調整したパルス波の合成ベクトルを記入したグラフであり、
図19(b)は偏向用パタンと強度を調整したクロストーク抑制用パタンの位相量と変調素子上の位置との関係を表すグラフであり、
図19(c)はパルス波の合成ベクトルの強度と高次光強度との関係を示す図である。
【0086】
図18(a)の方向ベクトルC´を反時計回りにmπ回転させ、方向ベクトルH´を時計回りにmπ回転させる。すると、方向ベクトルC´と方向ベクトルH´との合成ベクトルL´は、
図19(a)のように高次光の合成方向ベクトルKと反対方向で強度(長さ)が同一の反対方向のベクトルL´´となる。ここで、方向ベクトルL´´の強度が、高次光強度を最小とする強度である(
図19(c))。
【0087】
この方向ベクトルL´´を生じさせる方向ベクトルC´と方向ベクトルH´とが、クロストーク抑制用のパルス波の方向ベクトルである。
【0088】
したがって、本実施例においては、
図19(b)のように、3番目の画素に−nπ−kπ−mπの位相量のパルス波を重畳し、8番目の画素にnπ−kπ+mπの位相量のパルス波を重畳することで、ディスクリネーションが生じた場合に発生する高次光によるクロストークを抑制することができる。
【0089】
また、他の高次光(3次光以上の高次光)によるクロストークについても、クロストーク抑制用パタンを、偏向パタンの2以上の自然数分の1の周期として同様の方法を適用することにより抑制することができる。
【0090】
図15から
図19では、偏向パタンの周期と同じ周期を持つ抑制用パタンを用いて2次光を抑制する方法を説明するために、偏向用パタン自身の位相量を2次元平面上に描いて合成ベクトルを求めた。偏向用パタンの自然数分の1の周期の抑制用パタンを用いて一般の高次光を抑制するには、それぞれの高次光方向の出力ポートに結合する電界分布を2次元平面に描いて合成ベクトルを求めて、それを打ち消す条件を決める必要がある。
【0091】
出力ポートに結合する電界分布Eは、入力ポートから伝搬し位相変調素子面上に入射する電界分布をE
in、出力ポートに結合する基本モードの電界分布をE
out、位相変調素子での設定位相量をφ
lcos(x)、Cを定数として、以下の式で表される。
【0093】
n次光の方向の出力ポートへ結合する基本モードの位相項φ
outは、nを整数、wを偏向用パタンの周期として、φ
out=2πnx/wである。よってEは、次式となる。
【0095】
この式は、位相変調素子の位相量と2πnx/wの差分を積算することを意味する。
【0096】
例えば、3次光(n=3)の場合のクロストークの抑制は、以下のようにして行う。
図20は、3次光クロストーク抑制用パタンを表す図であり、
図20(a)はクロストーク抑制用パタンの方向ベクトルを記入したグラフであり、
図20(b)は偏向用パタンとクロストーク抑制用パタンと出力ポート結合電界それぞれの位相量と変調素子上の位置との関係を表すグラフである。ここで10番ピクセルがディスクリネーションにより位相誤差を発生させた場合、4番と9番ピクセルと2番と7番ピクセルそれぞれの設定位相を調整する事で高次光を抑制できることが分かる。
【0097】
さらに、複数の周期パタンを同時に重畳することによって、複数の高次光を同時に抑制することも可能である。例として2次光と3次光を同時に抑制する場合について述べる。
図21は、3次光クロストーク抑制パタンを印加したことによる2次光位相空間での位相パタンの変化について説明する図である。
図21(a)は2次光クロストーク抑制後の3次光の複素空間を示すものであり、
図21(b)は
図21(a)に示した状態に更に3次光クロストーク抑制位相を印加した場合の複素空間を示し、
図21(c)は
図21(b)の操作を行った後の2次光の複素空間を示す。2次光については
図15から
図19で説明した手法を用いることで消去することが出来る。一方でこの合成ベクトルを3次光の複素空間で見ると、
図21(a)のように合成されたベクトルは必ずしも釣り合ってはおらず3次光は新たな合成ベクトルL+Kで表される複素振幅を有する。ここで、3次光を消去するためには
図21(b)のように位相シンボルをペアにして(例えば2番と7番ピクセルのペアと4番と9番の位相ペア)それぞれ調整して新たなベクトルすることで3次光を消去できる。ここで、この操作を行った後の2次光の複素空間を鑑みると、
図21(c)に示すように上記の操作の場合はベクトルが打ち消しあうように位相シンボルが推移しているため、2次光の複素ベクトルは打ち消しあった状態を保っている。以上から、上記の操作によって2次光及び3次光を同時に抑制することが可能である。また、同様の考え方を繰り返しさらに高次の光に適応していくことで、さらに高次の成分を同時に抑制していくことも可能である。
【0098】
[第1の実施形態のシミュレーション]
図22は、位相変調素子の出射光強度と偏向角との関係を示すグラフにおいて、本実施形態における光強度の偏向角依存性のシミュレーション結果を表すグラフである。本実施形態においては、ディスクリネーションが生じた場合の2次光によるクロストークを抑制するために、2次光強度を低減させることが目的である。ここで、
図22において、偏向用パタンにパルス波を重畳した場合の位相変調素子の出射光強度と偏向角との関係を示す曲線2201と、偏向用パタンにパルス波を重畳しない場合の位相変調素子の出射光強度と偏向角との関係を示す曲線2202とを比較して示している。パルス波を重畳すると、パルス波を重畳しない場合に比べて、大幅に2次光強度を低減することが確認できる(
図22の+2の光強度参照)。
【0099】
ここで、
図11において説明したとおり、パルス波を重畳することにより、主ビームに対しても逆位相の光1110が発生し、主ビーム1101の光強度も減少してしまうという懸念もある。しかし、
図22からもわかるとおり、本実施形態における第1のステップ〜第4のステップによって算出されたパルス波を重畳しても、主ビームの光強度は0.1dB程度しか減少していない(
図22の+1の光強度参照)。
【0100】
ただし、クロストーク抑制用のパルス波の重畳によって、さらにディスクリネーションが生じるため、完全には2次光の強度が0にはならないと考えられる。
【0101】
[第1の実施形態の補足]
本実施形態においては、ディスクリネーションが生じた場合の偏向用パタンの2次光によるクロストークを減少させる場合について述べているが、3次光以上の高次光においても、偏向用パタンにパルス波を重畳することにより、高次光のクロストークを抑制させることが可能となる。
図23はクロストーク抑制用のパルス波による変調の様子を示す図であり、
図23(a)は、クロストーク抑制用のパルス波による位相パタンを示す図であり、
図23(b)は、位相変調素子の出射光の光強度と偏向角度との関係を示す図であり、
図23(c)は、集光用パタンが偏向用パタンに付加されている場合のクロストーク抑制の様子を表す図である。
【0102】
図23(a)においては、2πの位相量で折り返す周期Γの偏向用パタン2301による2次光(及び0次光)を低減させるために、m
1πの位相量を有する周期Γのパルス波2302を偏向用パタン2301に重畳する。また、3次光(及び−1次光)を低減させるために、m
2πの位相量を有する周期Γ/2のパルス波2303を偏向用パタン2301に重畳する。さらに、また、4次光(及び−2次光)を低減させるために、m
3πの位相量を有する周期Γ/3のパルス波2304を偏向用パタン2301に重畳する。すると、
図23(b)のグラフのように、高次光を変調し、低減させることができる。
【0103】
本実施形態では、クロストーク抑制用パタンとして、パルス波を重畳する例を示したが、パルス波だけでなく、sin波、のこぎり波、及び三角波等によるクロストーク抑制用パタンを重畳してもよい。また、同一形状の位相パタンを複数組み合わせてもよいし、異なる形状の位相パタンを複数組み合わせてもよい。また、
図23(c)のように集光用パタンを偏向用パタンに重畳した場合、レンズ効果で高次成分の半値幅が広がるため、クロストーク抑制用パタンの周期成分にもレンズ項をさらに設けて、高次光と同じ幅を持たせることによりクロストークを抑制する。
【0104】
[第2の実施形態]
第1の実施形態においては、偏向用パタンの2次光によるクロストーク抑制用パタンを説明したが、位相変調素子においては、偏向用パタンだけでなく、さまざまな位相パタンが印加される。
図24は、位相変調素子に印加する位相パタンの例を示す図であり、
図24(a)は偏向用パタンφ
sw、
図24(b)は減衰用の位相パタン(減衰用パタン)φ
ATT、
図24(c)は集光用のレンズ位相パタン(集光用パタン)φ
lensを示す図である。
【0105】
減衰用パタン2402は、光を出力する出力ポートに近接する出力ポートへの光の漏れを防止すべく、出射光を減衰させ、光の漏れを減少させるために偏向用パタン2401に重畳する位相パタンである。集光用のレンズパタン2403は、レンズ機能の一部をLCOS−SLMが担う場合に出射光を出力する出力ポートに近接する出力ポートへの出射光の漏れを防止すべく、1の出力ポートに出射光を集光させるために偏向用パタン2401に重畳するパタンである。位相変調素子において、偏向用パタン2401のほかに、
図24(b)及び
図24(c)に示した減衰用パタン2402及びレンズパタン2403を適宜組み合わせて光スイッチ機能を実現している。しかし、これらの位相パタンは、折り返し付近、特に偏向用パタン2401及び集光用パタン2403の2πの折り返し付近で位相歪みによる位相誤差が発生し、高次光を発生させ、クロストークを引き起こしている。
【0106】
第2の実施形態は、位相変調素子に偏向用パタン2401、減衰用パタン2402及び集光用パタン2403を重畳した場合に発生する高次光によるクロストーク抑制用パタンの算出方法である。
【0107】
図25は、位相変調素子に印加する位相パタンを示す図であり、
図24における偏向用パタンφ
sw、減衰用パタンφ
ATT及び集光用パタンφ
lensを重畳して印加した場合の位相パタン2501の位相量と変調素子上の位置との関係を示す図である。
【0108】
図25の位相パタン(2501)φ
sw+φ
ATT+φ
lensによる高次光のクロストークを抑制するためには、以下のようなsin波のクロストーク抑制用パタンを重畳する。
φ=A(x)×sin(φ
sw+φ
ATT+φ
lens+φ
0) (式1)
ここで、A(x)は位相変調素子上のスイッチ軸方向(x軸方向)の関数であり、
A(x)=ax
2+bx+c (式2)
とする。φ
0は
図25の位相パタンとクロストーク抑制用パタンの相対位置関係を示す位相差を表す定数である。式1の位相パタンを設定することにより、クロストーク抑制用パタンを、
図25の位相パタンφ
sw+φ
ATT+φ
lensの折り返し周期に合わせることが可能となる。
【0109】
式(1)は減衰用パタンの周期によって変調された高次光成分も考慮しているが、その高次光成分がポートが配置される角度範囲内に存在しない場合はこの周期は無視しても構わない。この場合、抑制用パタンの式は次のようになる。
φ=A(x)×sin(φ
sw+φ
lens+φ
0) (式3)
【0110】
図26及び
図27は、位相変調素子の出射光の強度と偏向角との関係を示すグラフにおいて、
図25の位相パタンにクロストーク抑制用パタン2501を重畳した場合と重畳しない場合との比較を示す図である。ここで、
図26はa=0,b=0.002,c=0,φ
0=πの場合の例であり、
図27はa=0.001,b=0,c=0,φ
0=πの場合の例である。
図26及び
図27において、主ビーム以外の偏向角における出射光(高次光)が低減されていることが分かる。高次光の低減により、本実施形態においてもクロストークを抑制することができる。
【0111】
また、
図25の位相パタン(2501)φ
sw+φ
ATT+φ
lensによる高次光のクロストークを抑制するためには、クロストーク抑制用パタンを以下ののこぎり波ように設定してもよい。
φ=A(x)×mod(φ
sw+φ
ATT+φ
lens+φ
0) (式4)
【0112】
[第3の実施形態]
第1の実施形態においては、複数のパルス波を用いた2次光によるクロストーク抑制用パタンを説明したが、位相変調素子においては、sin波やのこぎり波をクロストーク抑制用パタンに使用することもできる。以下では、偏向パタンの周期がw、傾きをk(k=2π/w)であるとき、
φ=Asin(2πx/w+φ
O) (式5)
からなるsin波を偏向パタンに印加することにより、高次光を打ち消す場合を説明する。
【0113】
ここで、本実施形態によるクロストーク抑制用パタンの決定方法について説明する。まず、第1のステップとして、
図15に記載の偏向用パタンと同一の偏向用パタンに、周期が偏向用パタンと同一で、振幅がA、偏向用パタンとの位相差φ
0=0のsin波
φ=Asin(2πx/w) (式6)
を重畳する。
図28は、クロストーク抑制用パタンを表す図であり、
図28(a)は偏向用パタンの方向ベクトルにクロストーク抑制用パタンの方向ベクトルを記入したグラフであり、
図28(b)は偏向用パタンとクロストーク抑制用パタン(式6のsin波)との位相量と位相変調素子上の位置との関係を表すグラフである。
【0114】
本ステップにおいては、
図28(b)のように、偏向用パタンに、式6のsin波を重畳する。すると、偏向用パタンの方向ベクトルは、
図16に記載の状態から、
図28(a)のようにA−J全ての方向ベクトルが、Re軸負の方向に移動してA´−J´となり、A´−J´の合成ベクトルLがRe軸負の方向に生じる。
【0115】
第2のステップとして、式6のsin波の位相にφ
0(位相差)を加えた式(式5)のsin波において、位相振幅一定のままφ
0の値を調整して高次光の合成ベクトル(
図16(a)の方向ベクトルK)と反対方向の合成ベクトルL´を算出する。
図29は、クロストーク抑制用パタンを表す図であり、
図29(a)は偏向用パタンの方向ベクトルにクロストーク抑制用パタンの方向ベクトルを記入したグラフであり、
図29(b)は偏向用パタンとクロストーク抑制用パタン(式5のsin波)との位相と位相変調素子上の位置との関係を表すグラフであり、
図29(c)は式5の位相差φoと高次光強度との関係を示す図である。
【0116】
本ステップにおいては、
図29(b)のように、クロストーク抑制用パタンのsin波を、振幅一定として位相差φ
0を変化させる。そうすると、
図29(a)のように、合成方向ベクトルLは位相差φ
0だけ回転する。ここで、φ
0を調整して、合成方向ベクトルLが高次光の合成ベクトル(
図16(a)の方向ベクトルK)と反対方向を向くようにする。φ
0を調整した合成方向ベクトルLが、合成方向ベクトルL´となる。方向ベクトルL´の位相差φ
0は、高次光強度を最小とする位相差である(
図29(c))。
【0117】
第3のステップとして、式5のsin波を、位相差φ
0一定のまま、振幅Aを変化させ、合成ベクトルの大きさが最少となる合成ベクトルL´´を算出する。
図30は、クロストーク抑制用パタンを表す図であり、
図30(a)は偏向用パタンの方向ベクトルにクロストーク抑制用パタンの方向ベクトルを記入したグラフであり、
図30(b)は偏向用パタンとクロストーク抑制用パタンとの位相と位相変調素子上の位置との関係を表すグラフであり、
図30(c)は振幅と高次光強度との関係を示す図である。
【0118】
本ステップにおいて、
図30(b)のように、クロストーク抑制用パタンのsin波を、位相差φ
0一定で、振幅Aを変化させる。そうすると、
図30(a)のように、方向ベクトルL´は、向きが一定のまま大きさが変化し、大きさが最少となる合成方向ベクトルL´´となる。方向ベクトルL´´の位相差φ
0及び振幅Aは、高次光強度を最小とする(
図30(c))。
【0119】
なお、sin波の周期がwのm分の1としてもよく、また、sin波の代わりにのこぎり波φ=A×mod(mkx,2π)+φ
0としてもよい。ただし、mは整数、mod(a,b)はbを除数とした時のaの剰余である。
【0120】
[第4の実施形態]
高次光を抑制する位相パタンとして、
図16に記載の偏向用パタン、または、第2の実施形態における、偏向用パタンと集光用パタンを重畳した位相パタン等と、これらの位相パタンを1画素分シフトした位相パタンとの差分により構成された、微分位相パタンがある。通常、微分位相パタンをクロストーク抑制パタンとして用いるためには、微分位相パタンに係数をかける。ここで、微分位相パタンのシフト量は1画素とは限らず、2画素や−1画素、−2画素といったシフト量を用いることもあるし、マトリクス状に配列された画素の2次元の配列方向それぞれについて、位相パタンをシフトした微分位相パタンを用いる場合もある。また、画素のシフト量及びシフト方向の異なる微分位相パタンに、異なる係数を掛けて足し合わせてクロストーク抑制パタンとして用いる場合もある。微分位相パタンに掛ける係数は、配列方向やシフト量により異なるだけでなく、微分位相パタンの正負により異なる値を用いる場合もある。
【0121】
微分位相パタンは、例えば、隣接する画素間の設定位相差が大きい場合、すなわち設定位相の微分量が大きい場合に用いる。設定位相の微分量が多い場合、液晶で生じるディスクリネーションが大きく発生するためである。また、画素のシフト量及びシフト方向の異なる微分位相パタンに、異なる係数を用いるのは、液晶の配向方向によってディスクリネーションの発生する度合いが異なってくるためである。
【0122】
また、本発明の実施例で示したパルス波、sin波及びのこぎり波などのクロストーク抑制用パタンに、さらに微分位相パタンを重畳して、クロストーク抑制用パタンを作製してもよい。ここで、クロストーク抑制用パタンに微分位相パタンを重畳することにより、位相量は2πを超える場合がある。このような場合は、位相量が2πで折り返すようなラッピング処理は行わず、位相量の値を上限値で一定にするクリッピング処理をする方が好ましい。これはラッピング処理により位相パタンの折り返しが更に発生し、この位相パタンの折り返しが新たな高次光を発生する要因と成りうるからである。
【0123】
微分位相パタンを用いたクロストーク抑制用パタンは、その他のクロストーク抑制用パタンを偏向用パタンや集光用パタンに重畳した後の位相パタンに対して、微分位相パタンを算出し、求めることが望ましい。その他のクロストーク抑制用パタンを重畳することにより発生するディスクリネーションを抑制する効果が期待できるためである。