特許第6434983号(P6434983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6434983
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】新規α−グルコシダーゼの用途
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20181126BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20181126BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20181126BHJP
   A23L 19/12 20160101ALI20181126BHJP
   A23L 29/212 20160101ALI20181126BHJP
   C12N 9/26 20060101ALI20181126BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20181126BHJP
   A23L 13/60 20160101ALI20181126BHJP
   A23L 2/38 20060101ALN20181126BHJP
   C12G 3/02 20060101ALN20181126BHJP
   A21D 2/26 20060101ALN20181126BHJP
   C12C 5/00 20060101ALN20181126BHJP
   A23L 7/109 20160101ALN20181126BHJP
【FI】
   A23L5/00 J
   A23L29/00
   A23L7/10 Z
   A23L19/12 Z
   A23L29/212
   C12N9/26 ZZNA
   A23L17/00 101C
   A23L13/60 Z
   !A23L2/38 102
   !C12G3/02 119H
   !A21D2/26
   !C12C5/00
   !A23L7/109 A
【請求項の数】17
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2016-554963(P2016-554963)
(86)(22)【出願日】2014年10月20日
(86)【国際出願番号】JP2014077854
(87)【国際公開番号】WO2016063332
(87)【国際公開日】20160428
【審査請求日】2017年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(72)【発明者】
【氏名】安武 望
(72)【発明者】
【氏名】松本 雄治
(72)【発明者】
【氏名】河野 敦
(72)【発明者】
【氏名】富永 陽大
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−199873(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/115894(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/096839(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/021372(WO,A1)
【文献】 特開2008−072956(JP,A)
【文献】 石原 聡,トランスグルコシダーゼの機能改変と将来展開,第15回酵素応用シンポジウムプログラム 報告講演,2014年 6月13日
【文献】 RecName: Full=Alpha-glucosidase; AltName: Full=Maltase; Flags: Precursor,[2014.10.01](online); [retrieved on 2014.12.12]; UniProt Accession No. P56526; <URL: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/3023267?sat=18&satkey=225441364>
【文献】 Database GenBank [online], Accession No.EED50195.1, 2009, [検索日:2018.08.16],URL,https://ncbi.nlm.nih.gov/protein/2206938507?sat=21&satkey=5474764
【文献】 Database GenBank [online], Accession No.EIT77388.1, 2012, [検索日:2018.08.16],URL,https://ncbi.nlm.nih.gov/protein/eit77388
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12N 9/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−グルコシダーゼを用いて処理する工程を含む、飲食品の製造方法であって、
飲食品が、多糖類を含む原料を加工して製造されるものであり、α−グルコシダーゼが、α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成するものであり、
α−グルコシダーゼが、(1)配列番号3との同一性が95%以上であるアミノ酸配列を有するか、(2)配列番号3で示されるアミノ酸配列において1〜50個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有しており、
α−グルコシダーゼが、DALWIDMNEPANFX[式中、XおよびXは任意のアミノ酸、Xはヒスチジン以外のアミノ酸である]で示されるアミノ酸配列を含んでなる、上記方法。
【請求項2】
多糖類を含む原料が、澱粉または澱粉加工品を含有するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
飲食品が、米加工品、小麦加工品、大麦加工品、または、じゃがいも加工品である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
α−グルコシダーゼが、アスペルギルス属由来のα−グルコシダーゼである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
α−グルコシダーゼが、α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、3つ以上の連続するα−1,6結合を有する糖質を生成するものである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
α−グルコシダーゼが、以下の酵素化学的性質:
(a)分子量:SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により、65000ダルトンおよび76000ダルトン;
(b)等電点:pI4.9〜5.5(中心値5.2)
(c)至適温度:pH6.0、30分間反応で、55℃;
(d)至適pH:40℃、30分間反応で、pH5.5;
(e)温度安定性:pH6.0、1時間保持で、50℃では初期活性の90%以上の残存;
(f)pH安定性:4℃、24時間保持で、pH6.0〜10.0では初期活性の90%以上の残存;
をさらに有する、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
澱粉または澱粉加工品を含有する原料をα−グルコシダーゼで処理したものを加工食品に添加する工程を含む、加工食品を製造する方法であって、
α−グルコシダーゼが、α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成するものであり、
α−グルコシダーゼが、(1)配列番号3との同一性が95%以上であるアミノ酸配列を有するか、(2)配列番号3で示されるアミノ酸配列において1〜50個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有しており、
α−グルコシダーゼが、DALWIDMNEPANFX[式中、XおよびXは任意のアミノ酸、Xはヒスチジン以外のアミノ酸である]で示されるアミノ酸配列を含んでなる、上記方法。
【請求項8】
加工食品が畜肉加工食品または水産加工食品である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
α−グルコシダーゼが、アスペルギルス属由来のα−グルコシダーゼである、請求項またはに記載の方法。
【請求項10】
α−グルコシダーゼが、α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、3つ以上の連続するα−1,6結合を有する糖質を生成するものである、請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
α−グルコシダーゼが、以下の酵素化学的性質:
(a)分子量:SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により、65000ダルトンおよび76000ダルトン;
(b)等電点:pI4.9〜5.5(中心値5.2)
(c)至適温度:pH6.0、30分間反応で、55℃;
(d)至適pH:40℃、30分間反応で、pH5.5;
(e)温度安定性:pH6.0、1時間保持で、50℃では初期活性の90%以上の残存;
(f)pH安定性:4℃、24時間保持で、pH6.0〜10.0では初期活性の90%以上の残存;
をさらに有する、請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
α−グルコシダーゼを含んでなる、飲食品の改良剤であって、
飲食品が、多糖類を含む原料を加工して製造されるものであり、α−グルコシダーゼが、α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成するものであり、
α−グルコシダーゼが、(1)配列番号3との同一性が95%以上であるアミノ酸配列を有するか、(2)配列番号3で示されるアミノ酸配列において1〜50個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有しており、
α−グルコシダーゼが、DALWIDMNEPANFX[式中、XおよびXは任意のアミノ酸、Xはヒスチジン以外のアミノ酸である]で示されるアミノ酸配列を含んでなる、上記改良剤。
【請求項13】
がチロシン、Xがアスパラギン、Xがアルギニンである、請求項12に記載の改良剤。
【請求項14】
α−グルコシダーゼが、アスペルギルス属由来のα−グルコシダーゼである、請求項12または13に記載の改良剤。
【請求項15】
α−グルコシダーゼが、α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、3つ以上の連続するα−1,6結合を有する糖質を生成するものである、請求項1214に記載の改良剤。
【請求項16】
α−グルコシダーゼが、配列番号3との同一性が97%以上であるアミノ酸配列を有する、請求項1215のいずれかに記載の改良剤。
【請求項17】
α−グルコシダーゼが、以下の酵素化学的性質:
(a)分子量:SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により、65000ダルトンおよび76000ダルトン;
(b)等電点:pI4.9〜5.5(中心値5.2)
(c)至適温度:pH6.0、30分間反応で、55℃;
(d)至適pH:40℃、30分間反応で、pH5.5;
(e)温度安定性:pH6.0、1時間保持で、50℃では初期活性の90%以上の残存;
(f)pH安定性:4℃、24時間保持で、pH6.0〜10.0では初期活性の90%以上の残存;
をさらに有する、請求項1216のいずれかに記載の改良剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
多糖類を含む原料を加工して飲食品を製造するための新規α−グルコシダーゼの用途に関する。さらに詳しくは、多糖類を含む原料を加工して飲食品を製造するための、α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成するα−グルコシダーゼの使用に関する。また、前記α−グルコシダーゼを使用することを含む飲食品の改良方法、前記α−グルコシダーゼを含む飲食品の改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食感は、食品の品質や価値に大きな影響を及ぼす。また、近年、食品の健康機能に対する消費者の要求も大きくなっている。多糖類を含む原料を加工して製造する飲食品において、その食感や健康機能性に大きな影響を及ぼす要因の1つに、飲食品に含まれる糖の結合様式とその割合がある。
【0003】
たとえば澱粉は、α−1,4結合によってグルコースが直鎖状に結合したアミロースと、α−1,4結合が連なった直鎖の途中でα−1,6結合で分岐した構造を有するアミロペクチンとの混合物である。澱粉に水を加えて加熱すると糊化して、飲食品として利用した場合に食感が向上する。しかし、糊化澱粉を冷却すると、澱粉の組織から水が分離してしまい、「澱粉の老化」と呼ばれる現象が生じる。米飯やパンなどの澱粉を含む食品の食感が、冷めると固くなるのは、澱粉の老化が原因であると考えられている。
【0004】
澱粉の老化を抑制する方法として酵素の使用が提案されており、澱粉の老化を抑制することにより保存性を高めるなどの効果が得られる。糖転移活性を有するα−グルコシダーゼとして知られている、主に基質よりも重合度が1つ大きい糖質を生成するトランスグルコシダーゼ(アスペルギルス・ニジュール(Aspergillus niger)由来のα−グルコシダーゼ)を、例えば、米飯、米麺、パン、うどん、ポテトサラダ(特許文献1)、畜肉・水産加工食品(特許文献2)、改質澱粉(特許文献3)の製造に使用することが提案されている。しかしながら、いずれも得られた飲食品の食感改良効果が低く、品質の良い食品を製造するには不十分であった。
【0005】
また、α−1,6結合を多く有する分岐オリゴ糖や、水溶性食物繊維は、消化酵素によって分解されにくい一方、腸内細菌によって資化されやすいため、整腸作用等の健康機能性が期待される。清酒醸造に際して、α−アミラーゼ、上述したトランスグルコシダーゼおよび、酸性プロテアーゼを添加することにより、非発酵性オリゴ糖を主として含むことを特徴とする清酒の製造方法が提案されている(特許文献4)。
【0006】
連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する酵素としては、主に細菌由来の酵素が知られており、デキストリンデキストラナーゼ(特許文献5、6、7、8)、α−グルカノトランスフェラーゼ(特許文献9)、デキストラングルカナーゼ(特許文献10)等がある。しかしながら、いずれも耐熱性や、pHの変動に対する安定性が低く、工業的な飲食品の製造に使用するためには不十分であった。飲食品を工業的に製造する場合、衛生上の理由により、高い温度使用できる酵素が求められている。また、種々の飲食品の製造に使用するために、幅広いpH下でも活性が失われない酵素が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2005/096839
【特許文献2】WO2008/156126
【特許文献3】WO2011/021372
【特許文献4】特公昭62−10635
【特許文献5】特開平4−293493
【特許文献6】特開平5−236982
【特許文献7】特開2001−258589
【特許文献8】WO2006/054474
【特許文献9】特表2012−525840
【特許文献10】特開2012−95606
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、多糖類を含む原料を加工して飲食品を製造するための、α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成するα−グルコシダーゼの使用を提供することである。また、前記α−グルコシダーゼを使用することを含む飲食品の改良方法、前記α−グルコシダーゼを含む飲食品の改良剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌の一種であるアスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae)に存在するα−グルコシダーゼが、種々のα型のオリゴ糖類、およびα型の多糖類に作用して、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する高い活性を有することを見出した。また、このα−グルコシダーゼを用いて製造した、多糖類を含む原料を加工した飲食品は、冷めても食感が良好であり、保存しても食感が良好に保たれることを見出した。さらに、このα−グルコシダーゼを用いて製造した、多糖類を含む原料を加工して製造した飲食品は、水溶性食物繊維の含有量が多いものであることを見出した。そして、このα−グルコシダーゼを50℃において1時間保持しても、90%以上が残存するという高い耐熱性を示し、さらに、pH4.5〜10において1時間保持しても、80%以上が残存し、pH6〜10では90%以上が残存するという高いpH安定性を示すことを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、限定されるものではないが、以下に関する。
[1]
多糖類を含む原料を加工して飲食品を製造するためのα−グルコシダーゼの使用であって、ここでα−グルコシダーゼはα型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成するものである、使用。
[2]
多糖類が澱粉または澱粉加工品である、[1]に記載の使用。
[3]
飲食品が米加工品である、[1]または[2]に記載の使用。
[4]
飲食品が小麦加工品である、[1]または[2]に記載の使用。
[5]
飲食品が大麦加工品である、[1]または[2]に記載の使用。
[6]
飲食品がじゃがいも加工品である、[1]または[2]に記載の使用。
[7]
α−グルコシダーゼが、アスペルギルス(Aspergillus)属菌由来のα−グルコシダーゼであって、以下の酵素化学的性質:
(1)作用:α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する;
(2)基質特異性:マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、マルトテトラオース、イソマルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、アミロース、可溶性澱粉、デキストランに作用する;
を有し、かつ、α型のオリゴ糖類、およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用して連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する、α−グルコシダーゼである、[1]〜[6]のいずれかに記載の使用。
[8]
α−グルコシダーゼが、以下の酵素化学的性質をさらに有するものである、[7]に記載の使用:
(3)分子量:SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により、65,000ダルトンおよび76,000ダルトン;
(4)等電点:pI4.9〜5.5(中心値5.2)
(5)至適温度:pH6.0、30分間反応で、55℃;
(6)至適pH:40℃、30分間反応で、pH5.5;
(7)温度安定性:pH6.0、1時間保持で、50℃では初期活性の90%以上の残存;
(8)pH安定性:4℃、24時間保持で、pH6.0〜10.0では初期活性の90%以上の残存。
[9]
多糖類を含む原料を加工して製造する飲食品の製造において、α−グルコシダーゼを使用することを含む飲食品の改良方法であって、ここでα−グルコシダーゼはα型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成するものである、方法。
[10]
多糖類を含む原料が澱粉または澱粉加工品を含有するものである、[9]に記載の方法。
[11]
飲食品が米加工品である、[9]または[10]に記載の方法。
[12]
飲食品が小麦加工品である、[9]または[10]に記載の方法。
[13]
飲食品が大麦加工品である、[9]または[10]に記載の方法。
[14]
飲食品がじゃがいも加工品である、[9]または[10]に記載の方法。
[15]
α−グルコシダーゼが、アスペルギルス(Aspergillus)属菌由来のα−グルコシダーゼであって、以下の酵素化学的性質:
(1)作用:α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する;
(2)基質特異性:マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、マルトテトラオース、イソマルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、アミロース、可溶性澱粉、デキストランに作用する;
を有し、かつ、α型のオリゴ糖類、およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用して連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する、α−グルコシダーゼである、[9]〜[14]のいずれかに記載の方法。
[16]
α−グルコシダーゼが、以下の酵素化学的性質をさらに有するものである、[15]に記載の方法:
(3)分子量:SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により、65,000ダルトンおよび76,000ダルトン;
(4)等電点:pI4.9〜5.5(中心値5.2)
(5)至適温度:pH6.0、30分間反応で、55℃;
(6)至適pH:40℃、30分間反応で、pH5.5;
(7)温度安定性:pH6.0、1時間保持で、50℃では初期活性の90%以上の残存;
(8)pH安定性:4℃、24時間保持で、pH6.0〜10.0では初期活性の90%以上の残存。
[17]
澱粉または澱粉加工品を含有する原料をα−グルコシダーゼで処理したものを加工食品に添加する工程を含む、加工食品の品質の改良方法であって、ここでα−グルコシダーゼはα型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成するものである、方法。
[18]
加工食品が畜肉加工食品または水産加工食品である、[17]に記載の方法。
[19]
α−グルコシダーゼが、アスペルギルス(Aspergillus)属菌由来のα−グルコシダーゼであって、以下の酵素化学的性質:
(1)作用:α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する;
(2)基質特異性:マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、マルトテトラオース、イソマルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、アミロース、可溶性澱粉、デキストランに作用する;
を有し、かつ、α型のオリゴ糖類、およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用して連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する、α−グルコシダーゼである、[17]または[18]に記載の方法。
[20]
α−グルコシダーゼが、以下の酵素化学的性質をさらに有するものである、[19]に記載の方法:
(3)分子量:SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により、65,000ダルトンおよび76,000ダルトン;
(4)等電点:pI4.9〜5.5(中心値5.2)
(5)至適温度:pH6.0、30分間反応で、55℃;
(6)至適pH:40℃、30分間反応で、pH5.5;
(7)温度安定性:pH6.0、1時間保持で、50℃では初期活性の90%以上の残存;
(8)pH安定性:4℃、24時間保持で、pH6.0〜10.0では初期活性の90%以上の残存。
[21]
α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成するα−グルコシダーゼを含む、多糖類を含む原料を加工して製造する飲食品の改良剤。
[22]
α−グルコシダーゼが、アスペルギルス(Aspergillus)属菌由来のα−グルコシダーゼであって、以下の酵素化学的性質:
(1)作用:α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する;
(2)基質特異性:マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、マルトテトラオース、イソマルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、アミロース、可溶性澱粉、デキストランに作用する
を有し、かつ、α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用して連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する、α−グルコシダーゼである、[21]に記載の改良剤。
[23]
α−グルコシダーゼが、以下の酵素化学的性質をさらに有するものである、[22]に記載の改良剤:
(3)分子量:SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により、65,000ダルトンおよび76,000ダルトン;
(4)等電点:pI4.9〜5.5(中心値5.2)
(5)至適温度:pH6.0、30分間反応で、55℃;
(6)至適pH:40℃、30分間反応で、pH5.5;
(7)温度安定性:pH6.0、1時間保持で、50℃では初期活性の90%以上の残存;
(8)pH安定性:4℃、24時間保持で、pH6.0〜10.0では初期活性の90%以上の残存。
【発明の効果】
【0011】
本発明のα−グルコシダーゼの使用により、多糖類を含む原料を加工する飲食品の製造において、得られた飲食品の食感を改善することが可能になる。さらに、本発明のα−グルコシダーゼの使用により、澱粉の老化を抑制することができるため、改善された食感が、製造後時間が経過しても維持される飲食品の提供が可能となる。
また、本発明のα−グルコシダーゼの使用により、水溶性食物繊維の含有量が増加した飲食品の提供が可能となる。
【0012】
さらに、本発明で使用するα−グルコシダーゼは、50℃という高温においても高い残存活性を維持することができるため、高温での工業的な飲食品の製造や加工が可能となる。また、本発明で使用するα−グルコシダーゼは、pH4.5〜10においても高い残存活性を維持することができるため、幅広い範囲のpHでの工業的な飲食品の製造や加工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、アスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae) NBRC4239株由来推定α−グルコシダーゼ遺伝子を組み込んだプラスミドベクターの構造を示す。
図2図2は、NBRC4239株由来α−グルコシダーゼの精製画分をNative−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した結果(左のパネル)およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した結果(右のパネル)を示す。
図3図3は、NBRC4239株由来α−グルコシダーゼの酵素活性に対する温度の影響を示す。
図4図4は、NBRC4239株由来α−グルコシダーゼの酵素活性に対するpHの影響を示す。
図5図5は、NBRC4239株由来α−グルコシダーゼの酵素活性の温度安定性を示す。
図6図6は、NBRC4239株由来α−グルコシダーゼの酵素活性のpH安定性を示す。
図7A図7Aは、トランスグルコシダーゼL「アマノ」をマルトースに反応させた場合の、反応開始後の72時間までの反応生成物の重合度分布の経時変化を示す。
図7B図7Bは、トランスグルコシダーゼL「アマノ」をマルトースに反応させた場合の、反応開始後の72時間までの反応生成物の2、3、4糖成分の異性体組成の経時変化を示す。
図8A図8Aは、アスペルギルス・ニジェール(Aspergillus niger) ATCC10254株から特許第4830031号に記載の方法で取得した粗酵素液をマルトースに反応させた場合の、反応開始後の72時間までの反応生成物の重合度分布の経時変化を示す。
図8B図8Bは、アスペルギルス・ニジェール(Aspergillus niger) ATCC10254株から特許第4830031号に記載の方法で取得した粗酵素液をマルトースに反応させた場合の、反応開始後の72時間までの反応生成物の2、3、4糖成分の異性体組成の経時変化を示す。
図9図9は、NBRC4239株由来α−グルコシダーゼをマルトースに反応させた場合の、反応後72時間における反応生成物の重合度分布のクロマトグラムを示す。
図10図10は、NBRC4239株由来α−グルコシダーゼをマルトースに反応させた場合の、反応後72時間における反応生成物の異性体組成のクロマトグラムを示す。
図11A図11Aは、NBRC4239株由来α−グルコシダーゼをマルトースに反応させた場合の、反応開始後の72時間までの反応生成物の重合度分布の経時変化を示す。
図11B図11Bは、NBRC4239株由来α−グルコシダーゼをマルトースに反応させた場合の、反応開始後の72時間までの反応生成物の2、3、4糖成分の異性体組成の経時変化を示す。
図12図12は、各酵素をマルトースに反応させた場合の、反応開始後の72時間までの、反応生成物の4糖以上の連続α1,6結合含有量の経時変化を示す。
図13図13は、NBRC4239株由来α−グルコシダーゼをマルトースに72時間反応させ、得られた反応生成物から5糖成分を分画し、H−NMRで解析した結果を示す。
図14図14は、NBRC4239株由来α−グルコシダーゼをマルトペンタオースに反応させた場合の、反応後72時間における反応生成物の重合度分布のクロマトグラムを示す。
図15図15は、各酵素をマルトペンタオースに反応させた場合の、反応開始後の72時間までの6糖以上成分含有量の経時変化を示す。
図16図16は、各酵素をマルトペンタオースに反応させた場合の、反応開始後の72時間までの6糖以上の連続α−1,6結合含有量の経時変化を示す。
図17図17は、GH31ファミリーに属する種々の酵素の、活性中心付近の保存配列から3残基下流までの配列を比較したものを示す。
図18図18は、米飯に酵素を添加した場合の効果を示す。
図19図19は、もちに酵素を添加した場合の効果を示す。
図20図20は、パンに酵素を添加した場合の効果を示す。
図21図21は、澱粉の老化性測定条件を示す。
図22図22は、酵素処理澱粉の老化性の評価を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<多糖類を含む原料>
本発明は、多糖類を含む原料を加工して飲食品を製造するためのα−グルコシダーゼの使用に関する。
【0015】
本発明において、多糖類とは、分子内にグルコシド結合を有する10糖以上の糖質をいう。
【0016】
本発明において、多糖類を含む原料は、多糖類を含むものであれば特に限定されないが、たとえば澱粉を含有する原料であることができる。澱粉を含有する原料としては、特に限定されないが、米、小麦、大麦、じゃがいも等、さらに、これらの原料から公知の方法で抽出した澱粉などがあげられる。公知の方法で抽出した澱粉の例としては、特に限定されないが、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ等が挙げられる。澱粉加工品を含有する原料としては、抽出した澱粉に物理的処理または化学的処理または酵素的処理を、単独または2種以上組合せて行った加工澱粉等が挙げられる。物理的に処理した加工澱粉の例としては、α化澱粉、湿熱処理澱粉等が挙げられ、化学的に処理した加工澱粉の例としては、ヒドロキシプロピル澱粉等のエーテル化誘導体、酢酸澱粉等のエステル化誘導体、リン酸架橋澱粉等の架橋誘導体等が挙げられる。
【0017】
<飲食品>
本発明において、飲食品は、多糖類を含む原料を加工し製造するものであれば特に限定されないが、たとえば米加工品、小麦加工品、大麦加工品、じゃがいも加工品、コーン加工品を挙げることができる。また、前記の公知の方法で抽出した澱粉や澱粉加工品を含有する原料を加工した飲食品も含まれる。米加工品の例としては、米飯、もち、清酒、甘酒、米粉を原料とする和菓子等を挙げることができるが、これらに限定されない。小麦加工品の例としては、パン、麺、中華饅頭や餃子の皮、ビザ生地、パイ生地、焼菓子、生菓子等を挙げることができるが、これらに限定されない。大麦加工品の例としては、ビール、ビール様飲料等が挙げられるが、これらに限定されない。じゃがいも加工品の例としては、マッシュポテト、フライドポテト、ハッシュドポテト、ニョッキ、ポテトチップス等が挙げられるが、これらに限定されない。コーン加工品の例としては、コーンミール、コーンフレーク、コーンウィスキー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
<α−グルコシダーゼ>
本発明は、α型のオリゴ糖類、およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成することのできる、耐熱性および幅広い範囲のpHに対する安定性が高いα−グルコシダーゼの使用等に関する。
【0019】
本発明において、α型のオリゴ糖類とは、分子内にα−グルコシド結合を有する2糖〜9糖の糖質をいう。α型のオリゴ糖類の例としては、マルトース、コージビオース、ニゲロース、イソマルトース、トレハロース、マルトトリオース、パノース、イソマルトトリオース、マルトテトラオース、イソマルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、α−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン、γ−サイクロデキストリン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本発明において、α型の多糖類とは、分子内にα−グルコシド結合を有する10糖以上の糖質をいう。α型の多糖類の例としてはグリコーゲン、デキストラン、アミロース、可溶性澱粉等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明で使用するα−グルコシダーゼは、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成することができる。連続するα−1,6結合を有する糖質とは、分子内にα−1,6結合を連続して2個所以上含む糖質をいい、α−1,6結合のみからなる糖質のほか、α−1,6結合とそれ以外の結合とからなる糖質も含む。糖質が連続するα−1,6結合を有するかどうかは、たとえば、デキストラナーゼ分解による評価法、NMR分析法、メチル化分析法(Journal of Biochemistry 第55巻 第205項 1964年)等によって判断することができる。具体的には、実施例に示す方法により、糖質が連続するα−1,6結合を有するかどうかを判断することができる。本発明で使用するα−グルコシダーゼは、4糖以上の糖質であって3つ以上の連続するα−1,6結合を有する糖質を生成することもできる。また、本発明で使用するα−グルコシダーゼは、マルトペンタオースに作用させると、6糖以上の連続するα−1,6結合の含有量が5%以上、より好ましくは8%以上、さらに好ましくは10%以上である糖質を生成することができる。
【0022】
本発明で使用するα−グルコシダーゼは、50℃で1時間保持しても90%以上の残存活性を有する耐熱酵素である。
【0023】
本発明で使用するα−グルコシダーゼは、たとえばアスペルギルス(Aspergillus)属に属する糸状菌(以下、単にアスペルギルス属菌と表記する)から、以下の酵素化学的性質を有する酵素として得ることができる:
(1)作用:α型のオリゴ糖類、およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα1,6結合を有する糖質を生成する;
(2)基質特異性:マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、マルトテトラオース、イソマルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、アミロース、可溶性澱粉、デキストランに作用する。
【0024】
本発明で使用するα−グルコシダーゼは、以下の酵素化学的性質をさらに有する酵素であってもよい:
(3)分子量:SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により、65,000ダルトンおよび76,000ダルトン;
(4)等電点:pI4.9〜5.5(中心値5.2);
(5)至適温度:pH6.0、30分間反応で、55℃;
(6)至適pH:40℃、30分間反応で、pH5.5;
(7)温度安定性:pH6.0、1時間保持で、50℃では初期活性の90%以上の残存;
(8)pH安定性:4℃、24時間保持で、pH6.0〜10.0では初期活性の90%以上の残存。
【0025】
本発明で使用するα−グルコシダーゼを得るためのアスペルギルス属菌としては、アスペルギルス属フラビ節(Aspergillus section Flavi)に属するアスペルギルス属菌を好適に用いることができる。アスペルギルス属フラビ節(Aspergillus section Flavi)に属するアスペルギルス属菌としては、アスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)等を好適に用いることができる。また、本発明で使用するα−グルコシダーゼを得るためのアスペルギルス属菌として、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)も好適に用いることができる。
【0026】
上記のアスペルギルス属菌を、液体培養および固体培養等の公知の培養方法を用いて培養し、その培養物から公知の方法によってα−グルコシダーゼ活性を有する酵素を採取することで、本発明で使用するα−グルコシダーゼを得ることができる。
【0027】
アスペルギルス属菌の培養に際して用いられる培地の炭素源としては、例えば、グルコース、フルクトース、ショ糖、乳糖、澱粉、グリセリン、デキストリン、レシチン等が、単独で又は組み合わせて用いられ、また、窒素源としては、有機および無機の窒素源の何れもが利用可能であり、そのうち、有機窒素源としては、例えば、ペプトン、酵母エキス、大豆、きなこ、米ぬか、コーンスティープリカー、肉エキス、カゼイン、アミノ酸等が用いられ、一方、無機窒素源としては、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸二アンモニウム、塩化アンモニウム等が用いられることとなる。更に、そのような培地に添加される無機塩や微量栄養素としては、例えば、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、鉄、亜鉛、カルシウム、マンガンの塩類の他、ビタミン等を挙げることができる。また、上記の各種成分を含有する培地成分として小麦ふすま等の天然物を用いることも可能である。
【0028】
アスペルギルス属菌の培養は、一般に10〜40℃の温度で行なわれるが、好ましくは25〜30℃の培養温度が有利に採用され、更に、培地pHは2.5〜8.0であれば良い。そして、必要な培養期間は、菌体濃度、培地pH、培地温度、培地の構成等によって異なるが、通常、3日〜9日程度であり、目的物であるα−グルコシダーゼが最大に達した頃に、その培養が停止される。
【0029】
このようにして、アスペルギルス属菌を培養した後、本発明で使用するα−グルコシダーゼを回収する。本発明で使用するα−グルコシダーゼの活性は、培養物の菌体と培地の両方に認められ、公知の方法によって精製して利用することができる。一例として、培養液の処理物を濃縮した粗酵素液を、カラムクロマトグラフィー等に供してグルコシダーゼ活性の高い画分を回収することによって精製し、続いて、精製画分をNative−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(たとえばGEヘルスケア社製「PhastSystem」)に供して単一バンドを回収して精製することにより、単一の精製されたα−グルコシダーゼを得ることができる。
【0030】
<α−グルコシダーゼのアミノ酸配列>
本発明はまた、配列番号3で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、上記の酵素化学的性質を有するα−グルコシダーゼの使用を提供する。また、本発明は、α−グルコシダーゼであって、配列番号3で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、α型のオリゴ糖類、およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用して連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する、α−グルコシダーゼの使用も提供する。
【0031】
具体的には、配列番号3で示されるアミノ酸配列と80%、90%、さらに好ましくは95%以上、より一層好ましくは、97%(例えば、98%、さらには、99%)以上の同一性を有するアミノ酸配列等があげられる。
【0032】
2つのアミノ酸配列の同一性%は、視覚的検査および数学的計算によって決定することができる。また、コンピュータープログラムを用いて同一性%を決定することもできる。そのようなコンピュータープログラムとしては、例えば、BLAST、FASTA(Altschulら、 J. Mol. Biol., 215:403-410(1990))、及びClustalW(http://www.genome.jp/tools/clustalw/)等があげられ、デフォルトのパラメーターを用いることができる。また、BLASTプログラムによる同一性検索の各種条件(パラメーター)は、「Altschulら(Nucl. Acids. Res., 25, p.3389-3402, 1997)」に記載されたもので、米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)やDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のウェブサイトから公的に入手することができる(BLASTマニュアル、Altschulら NCB/NLM/NIH Bethesda, MD 20894)。また、遺伝情報処理ソフトウエアGENETYX (ゼネティックス社製)、DNASIS Pro(日立ソフト社製)、Vector NTI(Infomax社製)等のプログラムを用いて決定することもできる。
【0033】
複数のアミノ酸配列を並列させる特定のアラインメントスキームは、配列のうち、特定の短い領域のマッチングをも示すことができるため、用いた配列の全長配列間に有意な関係がない場合であっても、そのような領域において、特定の配列同一性が非常に高い領域を検出することもできる。さらに、BLASTアルゴリズムは、BLOSUM62アミノ酸スコア付けマトリックスを用いることができるが、選択パラメーターとしては、以下のものを用いることができる:(A)低い組成複雑性を有するクエリー配列のセグメント(WoottonおよびFederhenのSEGプログラム(Computers and Chemistry, 1993)により決定される;Wootton及びFederhen, 1996「配列データベースにおける組成編重領域の解析(Analysis of compositionally biased regions in sequence databases)」Methods Enzymol., 266: 544-71も参照されたい)、又は、短周期性の内部リピートからなるセグメント(ClaverieおよびStates(Computers and Chemistry, 1993)のXNUプログラムにより決定される)をマスクするためのフィルターを含むこと、および(B)データベース配列に対する適合を報告するための統計学的有意性の閾値、又はE−スコア(KarlinおよびAltschul, 1990)の統計学的モデルにしたがって、単に偶然により見出される適合の期待確率;ある適合に起因する統計学的有意差がE−スコア閾値より大きい場合、この適合は報告されない。
【0034】
配列番号3で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質は、公知の手法によって適宜調製することができるが、たとえば配列番号3で示されるアミノ酸配列に1若しくは複数個(例えば1〜190個、1〜90個、1〜50個、1〜30個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、さらに好ましくは10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1個)のアミノ酸を欠失、置換若しくは付加して調製することができる。
【0035】
上記のうち、置換は、好ましくは保存的置換である。保存的置換とは、特定のアミノ酸残基を類似の物理化学的特徴を有する残基で置き換えることであるが、もとの配列の構造に関する特徴を実質的に変化させなければいかなる置換であってもよく、例えば、置換アミノ酸が、もとの配列に存在するらせんを破壊したり、もとの配列を特徴付ける他の種類の二次構造を破壊したりしなければいかなる置換であってもよい。
【0036】
保存的置換は、一般的には、生物学的合成や化学的ペプチド合成で導入されるが、好ましくは、化学的ペプチド合成による。この場合、置換基には、非天然アミノ酸残基が含まれていてもよく、ペプチド模倣体や、アミノ酸配列のうち、置換されていない領域が逆転している逆転型又は同領域が反転している反転型も含まれる。
【0037】
以下に、アミノ酸残基を置換可能な残基ごとに分類して例示するが、置換可能なアミノ酸残基は以下に記載されているものに限定されるものではない。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2−アミノブタン酸、メチオニン、O−メチルセリン、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニンおよびシクロヘキシルアラニン
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2−アミノアジピン酸および2−アミノスベリン酸
C群:アスパラギンおよびグルタミン
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸および2,3−ジアミノプロピオン酸
E群:プロリン、3−ヒドロキシプロリンおよび4−ヒドロキシプロリン
F群:セリン、スレオニンおよびホモセリン
G群:フェニルアラニンおよびチロシン
【0038】
非保存的置換の場合は、上記種類のうち、ある1つのメンバーと他の種類のメンバーとを交換することができるが、この場合は、本発明で使用するタンパク質の生物学的機能を保持するために、アミノ酸のヒドロパシー指数(ヒドロパシーアミノ酸指数)を考慮することが好ましい(Kyteら, J. Mol. Biol., 157:105-131(1982))。
【0039】
また、非保存的置換の場合は、親水性に基づいてアミノ酸の置換を行うことができる。
【0040】
本明細書および図面において、塩基やアミノ酸およびその略語は、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclature に従うか、又は、例えば、Immunology--A Synthesis(第2版, E.S. GolubおよびD.R. Gren監修, Sinauer Associates,マサチューセッツ州サンダーランド(1991))等に記載されているような、当業界で慣用されている略語に基づく。またアミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示す。
【0041】
D−アミノ酸等の上記のアミノ酸の立体異性体、α,α−二置換アミノ酸等の非天然アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸、およびその他の非慣用的なアミノ酸もまた、本発明で使用するタンパク質を構成する要素となりうる。
【0042】
上述したように、配列番号3で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質は、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 3rd ed.」(Cold Spring Harbor Press (2001))、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons (1987-1997)、「Kunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488-92、Kunkel (1988) Method. Enzymol. 85: 2763-6」等に記載の部位特異的変異誘発法等の方法に従って調製することができる。このようなアミノ酸の欠失、置換若しくは付加等の変異がなされた変異体の作製は、例えば、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。
【0043】
なお、タンパク質のアミノ酸配列に、その活性を保持しつつ1又は複数個のアミノ酸の欠失、置換、若しくは付加を導入する方法としては、上記の部位特異的変異誘発法の他にも、遺伝子を変異源で処理する方法、および遺伝子を選択的に開裂して選択されたヌクレオチドを除去、置換若しくは付加した後に連結する方法があげられる。
【0044】
なお、本明細書で用いるタンパク質の表記法は、標準的用法および当業界で慣用されている標記法に基づき、左方向はアミノ末端方向であり、そして右方向はカルボキシ末端方向である。
【0045】
当業者であれば、当業界で公知の技術を用いて、本明細書に記載したα−グルコシダーゼの適当な変異体を設計し、作製することができる。例えば、本発明で使用するα−グルコシダーゼの生物学的活性にさほど重要でないと考えられる領域をターゲティングすることにより、本発明で使用するタンパク質の生物学的活性を損なうことなくその構造を変化させることができる。タンパク質分子中の適切な領域を同定することができる。また、類似のタンパク質間で保存されている残基および領域を同定することもできる。さらに、本発明で使用するタンパク質の生物学的活性又は構造に重要と考えられる領域中に、生物学的活性を損なわず、かつ、タンパク質のポリペプチド構造に悪影響を与えずに、保存的アミノ酸置換を導入することもできる。
【0046】
また、配列番号3で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質は、α−グルコシダーゼ活性を有するアスペルギルス属菌等の微生物から単離してもよいし、公開されている配列データベース(たとえばNCBIデータベースhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を用いて配列番号3で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する微生物を検索し、その微生物から単離してもよい。また、後述するように、α−グルコシダーゼをコードする核酸をアスペルギルス属菌からクローニングし、その核酸をもとに、配列番号3で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質を得てもよい。さらに、後述するように、公開されている配列データベース(たとえばNCBIデータベースhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を用いて、α−グルコシダーゼをコードする核酸を検索し、その核酸をもとに、配列番号3で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質を得てもよい。
【0047】
本発明者らは、本発明で使用するα−グルコシダーゼをコードするアミノ酸配列中に「DALWIDMNEPANFX3」で示される配列を有し、ここでXは任意のアミノ酸であり、X3はヒスチジン以外のアミノ酸、好ましくはアルギニンであることが、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する活性を示すために重要であることを見出した。ここで、Xはチロシンであり、Xはアスパラギンであることが好ましい。したがって、本発明で使用するα−グルコシダーゼの変異体は、上記の配列が保存され、かつ、本発明で使用するα−グルコシダーゼの上記活性が損なわれない限り、いかなる変異体でもよい。
【0048】
当業者であれば、本発明で使用するタンパク質の生物学的活性又は構造に重要であり、同タンパク質のペプチドと類似するペプチドの残基を同定し、この2つのペプチドのアミノ酸残基を比較して、本発明で使用するタンパク質と類似するタンパク質のどの残基が、生物学的活性又は構造に重要なアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基であるかを予測する、いわゆる、構造−機能研究を行うことができる。さらに、このように予測したアミノ酸残基の化学的に類似のアミノ酸置換を選択することにより、本発明で使用するタンパク質の生物学的活性が保持されている変異体を選択することもできる。また、当業者であれば、本タンパク質の変異体の三次元構造およびアミノ酸配列を解析することもできる。さらに、得られた解析結果から、タンパク質の三次元構造に関する、アミノ酸残基のアラインメントを予測することもできる。タンパク質表面上にあると予測されるアミノ酸残基は、他の分子との重要な相互作用に関与する可能性があるが、当業者であれば、上記したような解析結果に基づいて、このようなタンパク質表面上にあると予測されるアミノ酸残基を変化させないような変異体を作製することができる。さらに、当業者であれば、本発明で使用するタンパク質を構成する各々のアミノ酸残基のうち、一つのアミノ酸残基のみを置換するような変異体を作製することもできる。このような変異体を公知のアッセイ方法によりスクリーニングし、個々の変異体の情報を収集することができる。それにより、ある特定のアミノ酸残基が置換された変異体の生物学的活性が、本発明で使用するタンパク質の生物学的活性に比して低下する場合、そのような生物学的活性を呈さない場合、又は、本タンパク質の生物学的活性を阻害するような不適切な活性を生じるような場合を比較することにより、本発明で使用するタンパク質を構成する個々のアミノ酸残基の有用性を評価することができる。また、当業者であれば、このような日常的な実験から収集した情報に基づいて、単独で、又は他の突然変異と組み合わせて、本発明で使用するタンパク質の変異体としては望ましくないアミノ酸置換を容易に解析することができる。
【0049】
<α−グルコシダーゼの使用、及び飲食品の改良方法>
本発明は、上記α−グルコシダーゼの、多糖類を含む原料を加工する飲食品の製造における使用に関する。また、本発明は、上記α−グルコシダーゼを、多糖類を含む原料を加工する飲食品の製造に使用することを含む飲食品の改良方法にも関する。
【0050】
本発明の使用及び改良方法により、澱粉の老化を抑制することができるため、改善された食感を有する飲食品の提供が可能となる。また、水溶性食物繊維を多く含む飲食品の提供が可能となる。
【0051】
本発明の使用又は改良方法において、目的又は効果を考慮して、多糖類を含む原料を加工する飲食品の製造のいずれの段階においてもα−グルコシダーゼを適用してよい。たとえば、飲食品の原料にα−グルコシダーゼを作用させたものを、それに続く製造又は加工の工程に供してよい。また、飲食品の中間製造物または中間加工品にα−グルコシダーゼを作用させたものを、それに続く製造又は加工の工程に供してもよい。さらに、飲食品の製造又は加工の最終段階でα−グルコシダーゼを添加して、飲食品が消費者の使用に供されるまでの間にα−グルコシダーゼが作用するようにしてもよい。
【0052】
また、本発明は、澱粉または澱粉加工品を含有する原料をα−グルコシダーゼで処理したものを加工食品に添加する工程を含む、加工食品の品質の改良方法にも関する。加工食品は、原料になんらかの加工を施して得られる食品であれば何でもよいが、たとえば畜肉加工食品、水産加工食品、乳加工食品、調味料等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
<α−グルコシダーゼを含む、多糖類を含む原料を加工して製造する飲食品の改良剤>
本発明は、上記α−グルコシダーゼを含む、多糖類を含む原料を加工して製造する飲食品の改良剤にも関する。
【0054】
本発明の改良剤は、上記α−グルコシダーゼの効果を損なわない範囲で、賦形剤、保存剤、香味料、抗酸化剤、ビタミン類等の追加の成分を含むものであってよい。
【0055】
本発明の改良剤は、上記α−グルコシダーゼを乾燥重量として1〜99%含むものであってよく、5%〜80%含むものであってよく、10%〜50%含むものであってよい。
【0056】
本発明の改良剤は、調製後、必要に応じて殺菌処理を行った後、飲食品の食感や物性の改良剤として、種々の飲食品に使用することができる。
【0057】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に記載の範囲に限定されるものではない。
【実施例1】
【0058】
1)酵素活性の分析方法
<α―グルコシダーゼ活性の分析方法>
酵素のα―グルコシダーゼ活性は、マルトースを基質とした加水分解活性にて評価した。
【0059】
マルトースを基質とした加水分解活性は、以下のように分析した。20mM MES緩衝液(pH6.0)に溶解した20mM マルトース 50μLと、同緩衝液で希釈した酵素溶液50μLとを混合し、40℃で30分間反応させた後、10%シュウ酸溶液を1μL添加し100℃で10分加熱処理をすることで反応を停止した。反応液に生成したグルコース量をグルコースCIIテストワコー(和光純薬工業社製)にて分析した。1分間に1μmolのマルトースを分解する酵素量を1Uと定義した。
【0060】
2)酵素を各種基質に作用させた際の反応生成物の分析方法
<反応生成物の重合度分布の分析方法>
反応生成物の重合度(DP)は、反応液を以下の条件でゲルろ過カラムにより分析した。
HPLC測定条件 :
カラム: MCI GEL CK04S(三菱化学社製)
カラム温度 : 65℃
移動層組成 : 超純水
検出器 : RI(示差屈折検出器)
流速 : 0.35mL/分
【0061】
<反応生成物の異性体組成の分析方法>
反応生成物の2、3、4糖成分中の、α−1,2、α−1,3、α−1,4、α−1,6結合を有するオリゴ糖の組成は、反応液を以下の条件でアミノカラムにより分析した。
【0062】
各ピークは、あらかじめ同条件で分析した標準糖の溶出時間と比較して同定し、ピーク面積より生成量を算出した。
標準糖:
2糖類のマルトース、コージビオース、ニゲロース、イソマルトースは市販試薬を用いた。
【0063】
3糖類のマルトトリオース、イソマルトトリオース、パノースは市販試薬を用い、3−O−α−D−glucosyl−nigerose、3−O−α−D−glucosyl−maltoseは(Biochimica et Biophysica Acta 第1700巻 189ページ 2004年)を参考に同定した。
【0064】
4糖類のマルトテトラオース、イソマルトテトラオースは市販試薬を用い、イソマルトトリオシルグルコースは(The Japanese Society of Applied Glycoscience 第53巻 215ページ 2006年)を参考に、3−O−α−nigerosyl−maltose、3−O−α−D−maltosyl−maltose、4−O−α−D−nigerosyl−maltoseは(Biochimica et Biophysica Acta 第1700巻 189ページ 2004年)を参考に同定した。
HPLC分析条件 :
カラム: Unison UK−Amino 250×3mm (インタクト社製)
カラム温度 : 50℃
溶媒グラディエント:
【0065】
【表1】
検出器 : NQAD検出器(QUANT社製)
流速 : 0.4mL/分
【0066】
<反応生成物の連続α−1,6結合含有量の分析方法>
反応生成物の連続α−1,6結合含有量は、デキストラナーゼ分解による簡易評価法により分析した。
【0067】
デキストラナーゼL「アマノ」(天野エンザイム社製)は連続α−1,6結合糖質であるデキストランを分解する酵素として知られている。デキストラナーゼL「アマノ」の生産菌である糸状菌由来のデキストラナーゼは、デキストランを分解しイソマルトース、イソマルトトリオースと少量のグルコースを主に生成することが知られている(MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY REVIEWS 第69巻 306ページ 2005年)。本発明者は、デキストラナーゼL「アマノ」が、4糖以上の連続α−1,6結合糖質(イソマルトテトラオース、イソマルトペンタオース、イソマルトヘキサオース、デキストラン)に作用し、3糖以下の成分が生成することを確認した。そこで当該酵素を、本発明で使用するα−グルコシダーゼを作用させて得られた反応生成物に作用させることにより、4糖以上の連続α1,6結合を含有する糖質が生成しているかどうかを調べた。
【0068】
具体的には、反応液30μL(DS:固形分濃度30%)、1,000倍希釈のデキストラナーゼL「アマノ」30μL、20mM(pH6.0)リン酸緩衝液390μLを混合し、50℃16時間反応させた後に、100℃で10分加熱処理をすることで反応を停止した。そしてデキストラナーゼ未処理の反応液およびデキストラナーゼ処理後の反応液の重合度分布を前述<反応生成物の重合度分布の分析方法>にてそれぞれ分析した。デキストラナーゼ未処理の反応液中の4糖以上成分の割合に対する、デキストラナーゼ処理後の反応液中の4糖以上成分の割合の減少量(Δ%)を4糖以上の連続α−1,6結合含有量とした。
【0069】
<反応生成物の構造解析>
反応生成物の分画物に含まれるα−1,6結合の割合は、H-NMRの積分値によって確認した。
【0070】
反応生成物の分画物中の結合様式の組成は、メチル化分析法(Journal of Biochemistry 第55巻 第205項 1964年)によって評価した。
3)本発明で使用するα―グルコシダーゼの取得
【0071】
<α―グルコシダーゼの遺伝子配列の定義>
公開されているアスペルギルス属菌のゲノム配列から、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)由来のGH31ファミリーに属するα―グルコシダーゼと推定されているagdCの配列(Accession no.XP_001825390)と同一性が90%以上となる配列を探索し、アスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae)NBRC4239株のゲノム配列(Accession no. BACA00000000)より抽出した(配列番号:1)。
4)NBRC4239株由来推定α―グルコシダーゼの遺伝子組換え株の取得
【0072】
<染色体DNAの抽出>
50mL容のチューブに、滅菌したYPD培地5mLを入れ、アスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae) NBRC4239株を植菌し、30℃24時間培養した。そして培養菌体を回収し、DNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社製)で染色体DNAを抽出した。なお菌体は前述のキットのAP1緩衝液を添加し、マルチビーズショッカー(安井器械社製)で破砕した。
【0073】
<遺伝子組換え株の作成>
定義した遺伝子配列の、終始コドンの前に10残基のヒスチジンタグを挿入したPCR産物を得るためのプライマーセットを設計した。抽出した染色体DNAをテンプレートとして、上記プライマーセットを用いてPCRを行った。PCR産物はIn Fusion
HD Cloning Kit(クロンテック社製)を用いて、高発現プロモーターとしてアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae) RIB40由来の翻訳伸長因子TEF1のプロモーター領域、ターミネーターとして本酵素の遺伝子配列の終始コドンより下流300bpの領域とともに、制限酵素KpnI、HindIIIで消化したpPTRII(タカラバイオ社製)に導入しベクターを構築した。ベクターの設計を図1に示す。そしてアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans) ATCC38163株を宿主にプロトプラスト−PEG法(Agricultural and Biological Chemistry 第51巻 2549ページ 1987年)を行い、遺伝子組換え株を作成した。
【0074】
上記アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae) RIB40由来の翻訳伸長因子TEF1のプロモーター領域、α−グルコシダーゼ遺伝子、およびターミネーター領域を増幅するために用いたプライマーは以下のとおりである。
プロモーターF
5‘−TGATTACGCCAAGCTTGATTTTCACTGTGGACCAGACA−3’
プロモーターR
5‘−TTTGAAGGTGGTGCGAACT−3’
α−グルコシダーゼF
5‘−CGCACCACCTTCAAAATGTATCTTAAGAAGCTGCTCACTTC−3’
α−グルコシダーゼR
5‘−CAGAATCGTAATCTCATTCTCGC−3’
ターミネーターF(ヒスチジンタグを含む)
5‘−GAGATTACGATTCTGCACCACCACCACCACCACCACCACCACCACTGAATGATTTGGTTGGTGAGATAG−3’
ターミネーターR
5‘−GTGAATTCGAGCTCGGTACCAGGTGATGAACGGAGCTTTAA−3’
【0075】
<cDNAの配列解析>
得られた酵素の遺伝子のcDNA配列を確認するために、上記遺伝子組み換え株から、前述した染色体DNA抽出時と同様の操作で菌体を取得し、RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社製)でRNAの抽出を行った。得られたRNAから、Rever Tra Ace(東洋紡社製)を用いて逆転写反応でcDNAを合成し、PCR反応で酵素遺伝子のcDNAを得た。得られたcDNAをTOPO TA Cloning KitでPCR2.1 TOPO(いずれもインビトロジェン社製)に導入した後にシークエンス解析を行い、cDNAの全長配列を決定した(配列番号:2、ヒスチジンタグ部分は除いた)。得られたcDNAから本酵素のアミノ酸配列を決定した(配列番号:3、ヒスチジンタグ部分は除いた)。
【0076】
得られた酵素のアミノ酸配列は、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus
oryzae)由来のGH31ファミリーに属するα―グルコシダーゼと推定されているagdCの配列(Accession no.XP_001825390)と同一性が99%であり、かつGH31ファミリーが共通に持つ2つの保存領域(PROSITE:PS00129,PS00707)における配列がagdCと完全に一致するため、本酵素はGH31ファミリーに属する酵素と考えられる。
【0077】
5)NBRC4239株由来転移酵素の生産・精製
<NBRC4239株由来推定α―グルコシダーゼの生産>
2L容の三角フラスコに、ツァペック ドックス培地1Lを入れて、蒸気滅菌した後、ピリチアミンを添加し、上記の遺伝子組換え株を植菌し、37℃の温度で4日間、振とう培養を行なった。そして、ミラクロス(メルク・ミリポア社製)で集菌、蒸留水で洗浄し、水分をよく搾った。
【0078】
得られた菌体のうち100gに、0.5M NaCl、20mMイミダゾールを含んだ20mM Tris緩衝液(pH7.4)を200mL加え、ヒスコトロン(日音医理科器械製作所社製)で20,000rpm、30秒の破砕を5回繰り返した。そして10,000rpm、20分遠心分離を行って上清をとり、粗酵素液とした。得られた粗酵素液の酵素活性を上記<α―グルコシダーゼ活性の分析方法>に記載した方法で評価した結果、97Uの活性を得た。その結果、この酵素がα―グルコシダーゼ活性を有することがわかった。
【0079】
<NBRC4239株由来α―グルコシダーゼの精製>
得られた粗酵素液を、以下の2段階のクロマト分離に供した。
【0080】
(1)Ni−NTAアフィニティークロマトグラフィー:粗酵素液を0.2μmのフィルターを通過させたサンプルをHis−Trap HP(GEヘルスケア社製)に通し、0.5M NaCl、500mMイミダゾールを含んだ20mM Tris緩衝液(pH7.4)で溶出した。これにより、ヒスチジンタグが付加されたタンパク質を選択的に回収することができる。
【0081】
(2)ゲルろ過クロマトグラフィー: (1)で得られた溶出液を、限外ろ過により20mM MES緩衝液(pH6.0)に置換し、Hiload 16/60 Superdex Prepgrade(GEヘルスケア社製)による分離を行い、α―グルコシダーゼ活性の高い画分を回収した。得られた画分から、17Uのα―グルコシダーゼ活性を得た。
【0082】
(2)で得られた画分をNative−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(GEヘルスケア社製、「PhastSystem」)に供した結果を図2(左方)に示す。110,000ダルトンの単一バンドであった。この結果より、単一の精製された酵素を含む画分が得られたと考えられる。
6)NBRC4239株由来α―グルコシダーゼの性質
酵素の性質は、5)で得られた精製酵素を用いて評価した。
【0083】
<NBRC4239株由来α―グルコシダーゼの分子量>
得られた精製酵素をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(GEヘルスケア社製、「PhastSystem」)に供した結果を図2(右方)に示す。分子量65,000、76,000ダルトンの2本のバンドが検出された。Native−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による結果と比較すると、本酵素はヘテロダイマーの構造を持つと考えられた。
【0084】
また、等電点電気泳動(GEヘルスケア社製、「PhastSystem」)に供した結果、本酵素の等電点は4.9〜5.5(中心値は5.2)であった。
【0085】
<至適温度、至適pH>
本酵素のα―グルコシダーゼ活性に対する温度、pHの影響を調べた。酵素の活性は、<α―グルコシダーゼ活性の分析方法>に準じて分析した。その結果を図3(温度の影響)、図4(pHの影響)に示す。本酵素の至適温度はpH6.0、30分間反応で55℃、至適pHは40℃、30分間反応で5.5であった。
【0086】
なお、pHの影響の評価では、pH3,0〜5.0はフタル酸緩衝液、pH5.5〜7.0はMES緩衝液、pH7.5〜8.0はMOPS緩衝液、pH9.0〜11.0はCAPS緩衝液を使用した。
【0087】
<温度安定性、pH安定性>
本酵素のα―グルコシダーゼ活性について温度、pH安定性を調べた。酵素の活性は、<α―グルコシダーゼ活性の分析方法>に準じて分析した。その結果を図5(温度安定性)、図6(pH安定性)に示す。本酵素の温度安定性は、50℃で活性が90%以上残存していた。また、pH安定性は、pH4.5〜10の範囲で活性が80%以上、pH6.0〜10.0の範囲で活性が90%以上残存していた。
【0088】
温度安定性は酵素溶液(20mM MES緩衝液、pH6.0、1mM CaCl2含有)を各温度に1時間保持し、氷水にて冷却後、残存する酵素活性を評価した。pH安定性は酵素溶液(各pHの40mM緩衝液)を4℃、24時間保持し、pHを6.0に調整した後、残存する酵素活性を評価した。
【0089】
なお、pHの安定性の評価では、pH2.0〜5.0はフタル酸緩衝液、pH6.0〜7.0はMES緩衝液、pH8.0はMOPS緩衝液、pH9.0〜12.0はCAPS緩衝液を使用した。
【0090】
<基質特異性>
本酵素の基質特異性を40℃、pH6.0の条件にて評価した。結果を下記表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
マルトースや、コージビオース、ニゲロース、イソマルトースなどの2糖類、および、マルトテトラオースを除く重合度2〜7のマルトオリゴ糖、重合度2〜4のイソマルトオリゴ糖、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、アミロース、可溶性澱粉などには良好に作用してグルコースを生成した。特にα−1,6結合を有する重合度2〜4のイソマルトオリゴ糖が最も良好な基質であった。
【0093】
マルトテトラオース、γ−シクロデキストリンについては作用性がやや低かった。トレハロース、グリコーゲン、デキストランについてはわずかに反応がみられた。
【0094】
<金属イオンの影響>
本酵素の各金属イオンの影響を調べた。酵素活性は、<α―グルコシダーゼ活性の分析方法>に準じて分析した。各種イオンを反応系に添加して分析した結果を下記表3に示す。
【0095】
本酵素はカルシウムによって活性がやや増加した。亜鉛イオン、銅イオン、鉄イオンによりその活性を阻害された。ナトリウムイオン、EDTAによっても活性がやや阻害された。
【0096】
【表3】
7)NBRC4239株由来α−グルコシダーゼと既存の酵素との比較
NBRC4239株由来α−グルコシダーゼの活性と、既存のα−グルコシダーゼを主活性とする酵素の活性とを、マルトース(グルコース重合度(Degree of Polymerization、DP)2)およびマルトペンタオース(DP5)を基質とした際の反応生成物について比較した。
【0097】
<トランスグルコシダーゼL「アマノ」によるマルトース(DP2)の転移物>
α−グルコシダーゼを主活性とし、同じアスペルギルス属(アスペルギルス・ニジェール(Aspergillus niger))由来の市販の酵素製剤であるトランスグルコシダーゼL「アマノ」(天野エンザイム社製)0.2mL(1.8U/mL)を、45%マルトース溶液0.4mLに加え(最終濃度30%)、40℃で反応を行った。所定時間反応後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。
【0098】
得られた反応生成物の重合度分布および、2、3、4糖成分の異性体の組成を、上記<反応生成物の重合度分布の分析方法>および、<反応生成物の異性体組成の分析方法>に記載した方法にて分析した。また、反応生成物の4糖以上の連続α−1,6結合含有量を<反応生成物の連続α−1,6結合含有量の分析方法>に記載した方法にて分析した。
反応開始後の72時間までの反応生成物の経時変化について、重合度分布を図7A、2、3、4糖成分の異性体組成を図7Bに示す。重合度分布では、基質であるマルトース(DP2)の減少と共に3糖成分が生成し、続いてさらに重合度の高い成分が増加した。2、3、4糖成分の異性体組成では、α−1,4結合とα−1,6結合をともに有する低分子糖質(パノース、イソマルトトリオシルグルコース、以降はα−1,4・1,6結合オリゴ糖と記載)、α−1,6結合のみを有する低分子糖質(イソマルトース、イソマルトトリオース、イソマルトテトラオース、以後はα−1,6結合オリゴ糖と記載)が増加した。
【0099】
反応開始後72時間での分子量分布は、単糖29.0%、2糖30.9%、3糖25.9%、4糖以上14.2%であった。また、α−1,4・1,6結合オリゴ糖またはα−1,6結合オリゴ糖のうち2糖類であるイソマルトースが20.8%、3糖類であるパノースが10.0%、イソマルトトリオースが11.1%、4糖類であるイソマルトトリオシルグルコースが5.0%、イソマルトテトラオースが2.8%であった。
【0100】
反応開始後の72時間までの、反応生成物の4糖以上の連続α−1,6結合含有量の経時変化を図12に示す。反応開始後72時間までに、4糖以上の連続α−1,6結合含有量は、0%から3%まで増加した。
【0101】
<アスペルギルス・ニジェール(Aspergillus niger) ATCC10254株由来粗酵素液によるマルトース(DP2)の転移物>
α−グルコシダーゼを粗酵素液中に分泌することが知られているアスペルギルス・ニジェール(Aspergillus niger) ATCC10254株から特許第4830031号に記載の方法で粗酵素液を取得し、0.2mL(1.8U/mL)を、45%マルトース溶液0.4mLに加え(最終濃度30%)、40℃で反応を行った。所定時間反応後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。
【0102】
得られた反応生成物の重合度分布および、2、3、4糖成分の異性体の組成を、上記<反応生成物の重合度分布の分析方法>および、<反応生成物の異性体組成の分析方法>に記載した方法にて分析した。また、反応生成物の4糖以上の連続α−1,6結合含有量を<反応生成物の連続α−1,6結合含有量の分析方法>に記載した方法にて分析した。
【0103】
反応開始後の72時間までの反応生成物の経時変化について、重合度分布を図8A、2、3、4糖成分の異性体組成を図8Bに示す。重合度分布では、基質であるマルトース(DP2)の減少と共に3糖成分が生成し、続いてさらに重合度の高い成分が増加した。2、3、4糖成分の異性体組成では、反応初期にα−1,3結合を有する低分子糖質(以降はα1,3結合オリゴ糖と記載)が増加し、平衡に達したまま維持された。
【0104】
反応開始後72時間での分子量分布は、単糖29.2%、2糖31.0%、3糖19.5%、4糖以上20.2%であった。また、α−1,4・1,6結合オリゴ糖またはα−1,6結合オリゴ糖のうち2糖類であるイソマルトースが3.2%、3糖類であるパノースが1.3%得られた。イソマルトトリオース、イソマルトトリオシルグルコース、イソマルトテトラオースは得られなかった。
【0105】
反応開始後の72時間までの、反応生成物の4糖以上の連続α−1,6結合含有量の経時変化を図12に示す。反応開始後72時間までに、4糖以上の連続α−1,6結合含有量の増加は全く認められなかった。
【0106】
<NBRC4239株由来のα−グルコシダーゼによるマルトース(DP2)の転移物>
5)に記載の方法で得られた精製酵素0.2mL(1.8U/mL)を、45%マルトース溶液0.4mLに加え(最終濃度30%)、40℃で反応を行った。所定時間反応後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。
【0107】
得られた反応生成物の重合度分布および、2、3、4糖成分の異性体の組成を、上記<反応生成物の重合度分布の分析方法>および、<反応生成物の異性体組成の分析方法>に記載した方法にて分析した。また、反応生成物の4糖以上の連続α−1,6結合含有量を<反応生成物の連続α−1,6結合含有量の分析方法>に記載した方法にて分析した。さらに、5糖成分に含まれるα−1,6結合の割合を<反応生成物の構造解析>の手法に従い、H−NMRで分析を行った。
【0108】
反応生成物の重合度分布のクロマトグラムを図9、異性体組成のクロマトグラムを図10に示す。
【0109】
反応開始後の72時間までの反応生成物の経時変化について、重合度分布を図11A、2、3、4糖成分の異性体組成を図11Bに示す。重合度分布では、基質であるマルトース(DP2)の減少と共に3糖成分が生成し、続いてさらに重合度の高い成分が増加した。2、3、4糖成分の異性体組成では、反応初期はα−1,4・1,6結合オリゴ糖、α−1,3結合オリゴ糖が増加したが、その後減少に転じた。一方、α−1,6結合オリゴ糖は、反応初期から中期にかけて増加し平衡に達したまま維持された。
【0110】
反応開始後72時間での分子量分布は、単糖27.9%、2糖25.6%、3糖18.4%、4糖以上28.1%であった。また、α−1,4・1,6結合オリゴ糖またはα−1,6結合オリゴ糖のうち2糖類であるイソマルトースが17.8%、3糖類であるパノースが2.7%、イソマルトトリオースが10.8%、4糖類であるイソマルトトリオシルグルコースが1.0%、イソマルトテトラオースが7.8%得られた。
【0111】
反応開始後の72時間までの、反応生成物の4糖以上の連続α−1,6結合含有量の経時変化を図12に示す。反応開始後72時間までに、4糖以上の連続α−1,6結合含有量は、14%までに増加した。本発明の酵素をマルトースに作用させた場合、トランスグルコシダーゼL「アマノ」やアスペルギルス・ニジェール(Aspergillus niger) ATCC10254株由来の粗酵素液を作用させた場合と比較して、反応生成物の4糖以上の連続α−1,6結合含有量が顕著に多かった。
【0112】
上記と同じ反応条件でマルトースに、本発明の精製酵素を72時間作用させ、得られた反応生成物から5糖成分を分画し、H−NMRで解析したところ、α−1,6結合は81%含まれていた(図13)。また、2、3、4糖成分は、上記に記載した通りα−1,6結合の成分(α−1,6結合オリゴ糖)が多くを占めており、6糖以上の成分も同様にα−1,6結合の割合が高いと推測される。以上より、本発明の酵素をマルトースに作用させると、生成する糖質の大部分はα−1,6結合で連結していることが分かった。
【0113】
<マルトペンタオース(DP5)の転移物>
5)に記載の方法で得られた精製酵素、0.2mL(7.2U/mL)を、45%マルトペンタオース溶液0.4mLに加え(最終濃度30%)、40℃で反応を行った。所定時間反応後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。
【0114】
得られた反応生成物の重合度分布を上記<反応生成物の重合度分布の分析方法>に記載した方法で分析した。また、反応生成物の連続α−1,6結合含有量を<反応生成物の連続α−1,6結合含有量の分析方法>に記載した方法に準じて分析した。ここでは、デキストラナーゼ処理による6糖以上成分の割合の減少量を6糖以上の連続α−1,6結合含有量とし、経時的に評価した。
【0115】
反応開始後72時間における、反応生成物の重合度分布のクロマトグラムを図14に示す。
【0116】
また、トランスグルコシダーゼL「アマノ」、アスペルギルス・ニジェール(Aspergillus niger) ATCC10254株由来の粗酵素液についても同様に反応し、分析を行った。
【0117】
反応開後の72時間までの6糖以上成分含有量の経時変化を図15に示す。本発明の酵素をマルトペンタオースに作用させた場合、トランスグルコシダーゼL「アマノ」やアスペルギルス・ニジェール(Aspergillus niger) ATCC10254株由来の粗酵素液を作用させた場合と比較して、反応生成物中の6糖以上の成分量が、反応時間を通して常に多かった。
【0118】
6糖以上の連続α−1,6結合含有量の経時変化を図16に示す。本発明の酵素は、反応開始後72時間までに、6糖以上の連続α−1,6結合含有量が13%まで増加した。トランスグルコシダーゼL「アマノ」やアスペルギルス・ニジェール(Aspergillus niger) ATCC10254株由来の粗酵素液を作用させた場合と比較して、6糖以上の連続α−1,6結合含有量が顕著に多かった。
【0119】
上記と同じ反応条件でマルトペンタオースに、本発明の精製酵素を72時間作用させ、得られた反応生成物から6糖以上の成分を分画し、メチル化分析で分析した結果を下記表4に示す。非還元末端のグルコース以外の、反応生成物を構成するグルコースのうち、62%がα−1,6結合を含有しており、α−1,4結合のみを含有しているグルコースは30%であった。上述した、マルトースに作用させて得られた反応生成物の解析結果から、本発明の酵素はほとんどα−1,4転移をしないことが明らかであるので、上記マルトペンタオースの反応生成物に含まれるα−1,4結合は基質のマルトペンタオース由来であり、転移反応で新たに生成する結合様式は大部分がα−1,6結合であると考えられた。
【0120】
【表4】
【0121】
8)その他のアスペルギルス属由来のα−グルコシダーゼの調製と評価
上記アスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae) NBRC4239株由来の酵素の他に、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans) ATCC38163株由来のagdB(accession number EAA63748)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae) RIB601株由来のagdCに関して、4)と同様の手法で、遺伝子組換え株を作成し、粗酵素液を得た。また、QuikChange Site−Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)を用い、アスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae) NBRC4239株由来酵素のアミノ酸配列の450番目のアルギニンをヒスチジンに変換した遺伝子、および、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae) RIB601株由来のagdCの450番目のヒスチジンをアルギニンに変換した遺伝子の遺伝子組換え株を作成し、粗酵素液を得た。
【0122】
これらの粗酵素液を、7)<マルトペンタオース(DP5)の転移物>と同様の方法でマルトペンタオースに作用させ、その反応生成物の連続α−1,6結合含有量の分析を行った。その結果、反応24時間における、6糖以上の連続α−1,6結合含有量は、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans) ATCC38163株由来のagdBは8%、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus
oryzae) RIB601株由来のagdCの点変異導入酵素は10%となり、アスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae) NBRC4239株由来の酵素(11%)と同程度の連続α1,6結合を生成した。一方、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae) RIB601株由来のagdC、アスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae) NBRC4239株の点変異導入酵素は、α−グルコシダーゼ活性はあるものの連続α−1,6結合が全く生成しなかった。後者2種の酵素をマルトースに作用させ、<反応生成物の異性体組成の分析方法>に記載した方法で2、3、4糖成分の異性体の組成を分析したところ、α1,6結合を有するオリゴ糖の含有量は少なく、α−1,3またはα−1,4結合を有するオリゴ糖が多く生成した。
【0123】
9)アスペルギルス属由来のα−グルコシダーゼ配列の比較
GH31ファミリーに属する酵素は活性中心に保存性の高い配列を持つことが知られている(Plant Molecular Biology 第37巻1ページ 1998年、PROSITE:PS00129)。アスペルギルス属由来のさまざまなα−グルコシダーゼ配列における活性中心付近の保存配列から3残基下流までの配列、および各α−グルコシダーゼの連続α−1,6転移活性の有無を図17に示す。連続α−1,6転移活性を有する酵素の遺伝子配列は保存配列の全てのアミノ酸が一致していた。また、保存配列は共通するものの、活性中心の10残基下流がアルギニンではなくヒスチジンであるアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae) RIB601株由来のagdCは連続α−1,6転移活性を持っていなかった。また、アスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae) NBRC4239株由来の酵素に点変異導入をして、活性中心の10残基下流がアルギニンではなくヒスチジンとした酵素も、連続α−1,6転移活性を持っていなかった。さらに、同じα―グルコシダーゼであるが連続α−1,6転移酵素ではないことが知られている他の既知の酵素は、保存配列のアミノ酸が一致していなかった。したがって活性中心付近に「DALWIDMNEPANF」の配列を持っており、かつ活性中心の10残基下流がヒスチジンではないことが連続α−1,6転移活性を持つために重要であることが分かった。
【0124】
つまり、上記の条件にあうアミノ酸配列、すなわちDALWIDMNEPANFXからなる配列を含有し、ここでXは任意のアミノ酸であり、Xはヒスチジン以外のアミノ酸であり、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する活性を有するα−グルコシダーゼが、アスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae) RIB601株由来の変異酵素から見出された。またアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae) 3.042株、およびアスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus) NRRL3357株は、ゲノム配列上、GH31ファミリーに属する酵素と予測される配列を有している(それぞれ、Accession no. EIT77388、およびAccession no.XP_002380576)。そして、これらの酵素のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と98%の同一性を有しており、連続するα−1,6結合を有する糖質を生成する活性を有する酵素を生産すると推測される。アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、およびアスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)は、アスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae)と同様にアスペルギルス属フラビ節(Aspergillus section Flavi)に属する菌種である。さらに、データベース上ではペニシリウム・クリソゲヌム(Penicillium chrysogenum) 、ネクトリア・ヘマトコッカ(Nectria haematococca)、スタキボトリス・クロロハロナタ(Stachybotrys chlorohalonata)、スタキボトリス・カルタルム(Stachybotrys chartarum)、フザリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)、フザリウム・フジクロイ(Fusarium fujikuroi)、フザリウム・ベルチシリオイデス(Fusarium verticillioides)も活性中心付近に「DALWIDMNEPANF」の配列を持っており、かつ活性中心の10残基下流がヒスチジンではない、GH31ファミリーに属する酵素を有しており、これらの糸状菌は、本発明で使用するα−グルコシダーゼ同様、連続α−1,6転移活性を有する酵素を生産する可能性が高い。
【0125】
アスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae) NBRC4239株由来のα−グルコシダーゼのアミノ酸配列(配列番号3)、ゲノム遺伝子配列(配列番号1)、およびcDNA配列(配列番号2)と比較した場合の、各種アスペルギルス属由来のα−グルコシダーゼ配列の同一性は以下の表5に示すとおりである。なお、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae) RIB601株についてはゲノム配列が解読されていなかったものであるため、本株由来のagdCの配列は、発明者等が独自に解析した(配列番号4)。また、配列同一性は、clustalW(http://www.genome.jp/tools/clustalw/)プログラムを用いて評価した。
【0126】
【表5】
【実施例2】
【0127】
1)米飯での添加効果
試験は、「応用糖質科学 第4巻 p.93−102 2014年」を参照して行った。市販の米一粒(約20mg)に、原料生米1g当り25Uとなるよう酵素を添加した緩衝液(12mM MES緩衝液pH6.0)を70μL加え、常温で2時間浸漬した。その後、GeneAmp PCR System9700(Applied Biosystems社製)を使用して、表6に示す条件で炊飯した。酵素はNBRC4239株由来のα−グルコシダーゼ(以下、本酵素と記載する。:試験例1)及びトランスグルコシダーゼL「アマノ」(天野エンザイム社製、以下TGLともいう。比較例1)を用いた。また、コントロールとして酵素を添加せずに同様の条件で炊飯した米飯(参考例1)を作製した。
【0128】
本酵素は、[実施例1]の5)に記載の<NBRC4239株由来α−グルコシダーゼの精製>で得た、精製酵素を用いた。添加した酵素の活性は、[実施例1]の1)に記載の<α−グルコシダーゼ活性の分析方法>によって定義した。
【0129】
【表6】
【0130】
炊飯後、30℃まで放冷して米飯の硬さを測定した。測定にはテクスチャーアナライザーTA.XT Plus(Stable Micro Systems社製、以下TAともいう。)を用い、直径20mmの円柱プランジャー、プランジャースピード2mm/s、ロードセル5kgの条件で90%圧縮による応力(N)を測定し、その値を米一粒の硬さとした。各サンプルについて10粒を測定し、その平均値を求めた。結果を図18に示す。 酵素無添加(参考例1)に比べ、本酵素(試験例1)及びTGL(比較例1)を添加することにより、炊飯米の柔らかさは増していた。また、本酵素(試験例1)とTGL(比較例1)添加の比較では、本酵素の方が柔らかい結果であった。これらの結果より、本酵素を添加することで、柔らかく好ましい食感の米飯を得ることができる。
【0131】
2)もちでの添加効果
もち米250gに、原料生米1g当り0.02Uとなるよう酵素を添加した緩衝液(12mM MES緩衝液pH6.0)を180mL加え、常温で30分間浸漬した。その後、ホームベーカリー SD―BMS102(Panasonic社製)のもちコースにて、もちを作製した。本酵素を用いたもちを試験例2とし、TGLを用いたもちを比較例2とした。また、コントロールとして酵素を添加せずに同様の条件で作製したもちを参考例2とした。
【0132】
本酵素は、[実施例1]の5)に記載の<NBRC4239株由来α−グルコシダーゼの精製>で得た、精製酵素を用いた。添加した酵素の活性は、[実施例1]の1)に記載の<α−グルコシダーゼ活性の分析方法>によって定義した。
【0133】
作製したもちは、20gずつプラスチック製のシャーレに詰めて成形後、常温まで放冷したもの、及びその後4℃24時間保存したものについて硬さを測定した。測定には、TAを用い、直径40mmの円柱プランジャー、プランジャースピード2mm/s、ロードセル5kgの条件で、放冷後のものは30%圧縮、1日保存したものは10%圧縮による応力(N)を測定し、その値をもちの硬さとした。各サンプルについて10点測定し、その平均値を求めた。結果を図19に示す。
【0134】
放冷後において、無添加(参考例2)に比べ、本酵素(試験例2)を添加することによりもちの柔らかさは増していた。一方、TGL(比較例2)の添加では変化はみられなかった。また、1日保存後においても同様に、本酵素を添加して作製したもち(試験例2)は酵素無添加(参考例2)および、TGL添加区(比較例2)より顕著に柔らかかった。これらの結果より、本酵素を添加することで、作製後も柔らかく、しかもその柔らかさが持続するもちを得ることができる。
【0135】
3)甘酒、清酒での添加効果
乾燥米麹200gに、原料米麹1g当り0.3U又は1.5Uとなるよう酵素を添加した緩衝液(12mM MES緩衝液pH6.0)を800mL加え、50℃で6時間浸漬し、甘酒を得た。本酵素を用いた甘酒を試験例3及び4とし、TGLを用いた甘酒を比較例3及び4とした。また、コントロールとして酵素を添加せずに同様の条件で得た甘酒を参考例3とした。
【0136】
本酵素は、[実施例1]の5)に記載の<NBRC4239株由来α−グルコシダーゼの精製>で得た、精製酵素を用いた。添加した酵素の活性は、[実施例1]の1)に記載の<α−グルコシダーゼ活性の分析方法>によって定義した。
【0137】
得られた甘酒は、遠心して上清を回収し、液中の水溶性食物繊維含有量を酵素−HPLC法(AOAC 2001.03)により求めた。その結果を表7に示す。
【0138】
【表7】
【0139】
得られた甘酒中の水溶性食物繊維含有量は、酵素無添加区(参考例3)で0.4%であったが、本酵素0.3U添加区(試験例3)、1.5U添加区(試験例4)では顕著に増加した。また、本酵素(試験例3、4)とTGL(比較例3、4)を比較すると本酵素を添加した場合の方が水溶性食物繊維含有量は高かった。これらの結果より、本酵素を添加することで、水溶性食物繊維が増量した甘酒を得ることができる。
【0140】
清酒の仕込み工程に添加することを想定し、低温にて同様の試験を行った。原料米麹1g当り2.5Uとなるように、乾燥米麹と酵素溶液を混合したものを、10℃で2週間保持した。その結果を表8に示す。
【0141】
【表8】
【0142】
水溶性食物繊維含有量は、酵素無添加区(参考例4)で0.3%であった。一方、本酵素2.5U添加区(試験例5)では顕著に水溶性食物繊維含有量が増加した。また、TGL添加区(比較例5)では水溶性食物繊維含有量の変化はみられなかった。
【0143】
食物繊維は酵母により資化されないため、仕込み工程に本酵素を添加することで、水溶性食物繊維が増量した清酒を得ることができる。
【0144】
4)パンでの添加効果
表9に示す配合の製パン原料を用いて、ホームベーカリー SD―BH105(Panasonic社製)の食パン・早焼きコースにて、食パンを作製した。本酵素を添加して作製した食パンを試験例6とし、TGLを添加して作製した食パンを比較例6とした。また、コントロールとして酵素を添加せずに同様の条件で作製した食パンを参考例5とした。添加量は本酵素、TGLともに強力粉1g当り0.2Uとした。
【0145】
本酵素は、[実施例1]の5)に記載の<NBRC4239株由来α−グルコシダーゼの精製>で得た、精製酵素を用いた。添加した酵素の活性は、[実施例1]の1)に記載の<α−グルコシダーゼ活性の分析方法>によって定義した。
【0146】
【表9】
【0147】
作製した食パンは、常温まで放冷し、25℃で1日及び2日保存したものを厚さ10mmにスライスし、クラム部分を33mm四方にカットして物性測定を行った。測定には、SUN SCIENTIFIC社製SUN RHEO METER COMPAC―100IIを用い、直径40mmのフラットプランジャー、架台スピード60mm/minの条件で、厚さ5mmまで圧縮したときの応力を測定し、食パンの硬さとした。各サンプルについて10点測定し、その平均値を求めた。結果を図20に示す。
【0148】
1日保存後において、無添加(参考例5)に比べ、本酵素(試験例6)及びTGL(比較例6)を添加することにより食パンの柔らかさは増していた。また、2日保存後においても、本酵素(試験例6)及びTGL(比較例6)を添加した食パンは柔らかさを保っていた。また、本酵素(試験例6)とTGL(比較例6)添加区とを比較すると、1日及び2日保存後、ともに本酵素を添加したパンの方が柔らかい結果であった。本酵素を添加することで、柔らかが持続する食パンを得ることができる。
【0149】
5)ビール、ビール様飲料での添加効果
麦芽200gに対して、麦芽1g当り1U又は5Uの酵素を添加した酵素溶液800mLを加え、50℃で1時間、更に60℃で1時間、その後80℃で10分間の加熱処理を行った。本酵素を添加したものを試験例7及び8とし、TGLを添加した物を比較例7及び8とした。また、コントロールとして酵素を添加せずに同様の条件で加熱処理を行ったものを参考例6とした。
【0150】
本酵素は、[実施例1]の5)に記載の<NBRC4239株由来α−グルコシダーゼの精製>で得た、精製酵素を用いた。添加した酵素の活性は、[実施例1]の1)に記載の<α−グルコシダーゼ活性の分析方法>によって定義した。
【0151】
加熱処理後、遠心にて上清を回収し、液中の水溶性食物繊維含有量を酵素−HPLC法(AOAC 2001.03)により求めた。その結果を表10に示す。
【0152】
【表10】
【0153】
水溶性食物繊維含有量は、酵素無添加区(参考例6)で0.8%であったが、本酵素1U添加区(試験例7)、5U添加区(試験例8)では顕著に増加した。また、本酵素(試験例7、8)とTGL(比較例7、8)を比較すると本酵素を添加した場合の方が水溶性食物繊維含有量は高かった。ビールの製造では、前述の処理である糖化工程の後にビール酵母による醗酵工程がある。食物繊維はビール酵母により資化されないため、本酵素添加により、水溶性食物繊維を増量したビールを得ることができる。
【0154】
また、原料の麦芽に大麦を混ぜ同様の試験を行った。麦芽20g、大麦180gに対して、原料1g当り1U又は5Uの酵素を添加した酵素溶液800mLを加え、前述の加熱処理を行った。その結果を表11に示す。
【0155】
【表11】
【0156】
水溶性食物繊維含有量は、酵素無添加区(参考例7)で1.2%であったが、本酵素1U添加区(試験例9)、5U添加区(試験例10)では顕著増加した。また、本酵素(試験例9、10)とTGL(比較例9、10)を比較すると本酵素を添加した場合の方が水溶性食物繊維含有量は高かった。これらの結果から、麦芽の配合率に関わらず本酵素の添加により水溶性食物繊維を増量することができる。
【0157】
6)うどんでの添加効果
表12に示す配合の製麺原料を用いて、市販の製麺機(PHILIPS社製 Noodle MakerHR2365/01)にて2mm丸麺用製麺キャップを使用し、製麺した。本酵素を添加したものを試験例11とし、TGLを添加したものを比較例11とした。また、コントロールとして酵素を添加せずに同様の条件で製麺したものを参考例8とした。添加量は本酵素、TGLともに中力粉1g当り2Uとした。
【0158】
【表12】
【0159】
本酵素は、NBRC4239株を培養して得られた酵素液より調製した。酵素液の製造方法および精製方法を以下に示す。
【0160】
500ml容の三角フラスコ10本に、小麦ふすま各10gを入れて、蒸気滅菌した後、NBRC4239株をYPD培地で培養した前培養液を各10mL添加し、水分が均一になるようによく撹拌した後、30℃で4日間、固体培養を行なった。培養終了後、各100mLの20mM Tris緩衝液(pH7.4)で小麦ふすまを洗浄し、ミラクロス(メルク・ミリポア社製)によるろ過、3,500rpm、20分間で2回遠心分離後、上清を回収し、粗酵素液とした。
【0161】
得られた粗酵素液を0.2μmのフィルターでろ過したものを陰イオン交換クロマトグラフィーに供した。分離樹脂はTOYOPEARL DEAE−650M(東ソー社製)を用い、樹脂量(以降はCVと記載)は100mLとした。0.12M 塩化ナトリウムを含む20mM Tris緩衝液(pH7.4)500mLで洗浄、0.22M塩化ナトリウムを含む20mM Tris緩衝液(pH7.4)500mLで溶出し、デキストラン分解活性が高い画分を回収した。
【0162】
回収した画分を限外ろ過により20mM Tris緩衝液(pH7.4)に置換し、再度陰イオン交換クロマトグラフィーに供した。分離樹脂はHiLoad 26/10 Q
Sepharose HP(GEヘルスケア社製)を用いた。初発の緩衝液として20mM Tris緩衝液(pH7.4)を用いて、0→0.5M 塩化ナトリウムの直線的濃度勾配(20CV)で溶出し、デキストラン分解活性の高い画分を回収した。
【0163】
回収した画分を限外ろ過により濃縮、20mM リン酸緩衝液(pH6.0)に置換し、Hiload 16/60 Superdex Prepgrade(GEヘルスケア社製)による分離を行い、デキストラン分解活性の高い画分を回収し、精製酵素を得た。得られた精製酵素を本酵素として使用した。
【0164】
デキストラン分解活性は、2%デキストラン溶液(20mM MES緩衝液:pH6.0)50μLと、同緩衝液で希釈した酵素溶液50μLとを混合し、40℃で30分間反応させた後、10%シュウ酸溶液を1μL添加し100℃で10分加熱処理をすることで反応を停止した。反応液中に生成したグルコース量をグルコースCIIテストワコー(和光純薬工業製)にて測定した。1分間に1μmolのグルコースを生成する酵素量を1Uと定義した。
【0165】
各段階における精製の結果を表13に示す。得られた精製酵素を、[実施例1]の7)<NBRC4239株由来の精製酵素によるマルトース(DP2)の転移物>、<マルトペンタオース(DP5)の転移物>、それぞれに記載した方法と同様にマルトース、マルトペンタオースに作用させたところ、[実施例1]の5)に記載の<NBRC4239株由来α−グルコシダーゼの精製>で得た、精製酵素を作用させた場合と同等の反応生成物が得られた。
【0166】
うどんに添加した酵素の活性は、[実施例1]の1)に記載の<α−グルコシダーゼ活性の分析方法>によって定義した。
【0167】
【表13】
【0168】
うどんは、茹でた後に冷水で締めたものを評価した。結果を表14に示す。なお、評価は10人の被験者に試食してもらい、無添加に対して良いと答えた人数とした。
【0169】
【表14】
【0170】
無添加(参考例8)に比べ、本酵素(試験例11)及びTGL(比較例11)添加することで、うどんは好ましい硬さになり、弾力感、粘りのある好ましい食感となった。また、本酵素(試験例11)及びTGL(比較例11)添加区を比較すると、本酵素を添加した場合の方が好ましい結果であった。これらの結果より、本酵素を添加することで、好ましい硬さで弾力感、粘りのある好ましい食感のうどんを得ることができる。
【0171】
7)マッシュポテトでの添加効果
じゃがいも1個を、皮をむいて1.5cmの厚さに切り、じゃがいも1g当り2Uとなるよう酵素を添加した緩衝液(12mM リン酸緩衝液pH6.0)を180mL加え、常温で2時間浸漬した。その後、じゃがいもを茹で、水を切ってマッシャ―でつぶしマッシュポテトを作製した。本酵素を用いたものを試験例12とし、TGLを用いたものを比較例12とした。また、コントロールとして酵素を添加せずに同様の条件で作製したマッシュポテトを参考例9とした。
【0172】
本酵素としては、上記試験例11で使用したものと同じものを用いた。添加した酵素の活性は、[実施例1]の1)に記載の<α−グルコシダーゼ活性の分析方法>によって定義した。
【0173】
作製したマッシュポテトは、作製直後、及びその後2時間25℃で静置後、しっとり感および柔らかさを評価した。結果を表15に示した。評価は10人の被験者に試食してもらい、無添加に対して良いと答えた人数をとした。
【0174】
【表15】
【0175】
作製直後のマッシュポテトでは、酵素無添加(参考例9)に比べ、本酵素(試験例12)及びTGL(比較例12)添加により、しっとり感及び柔らかさが増し、好ましい食感であった。本酵素(試験例12)及びTGL(比較例12)添加区を比較すると、食感の差は見られなかった。しかし、2時間静置後では本酵素を添加した場合の方がより好ましい結果となった。これらの結果より、本酵素を添加することで、作製直後の食感が良く、さらに、しっとり感が持続し、柔らかい食感が続くマッシュポテトを得ることができる。
【0176】
8)酵素処理澱粉の製造
小麦澱粉10gに、原料小麦澱粉1g当り0.2Uとなるよう酵素を添加した緩衝液(12mM リン酸緩衝液pH6.0)を20mL加え、25℃で24時間撹拌し、酵素反応を行った。反応終了後、反応液をろ過し、ろ物を100mLの水で洗浄後、乾燥させ、酵素処理澱粉を得た。本酵素を用いたものを試験例13とし、TGLを用いたものを比較例13とした。また、コントロールとして酵素を添加せずに同様の条件で得た酵素処理澱粉を参考例10とした。
【0177】
本酵素としては、上記試験例11で使用したものと同じものを用いた。添加した酵素の活性は、[実施例1]の1)に記載の<α−グルコシダーゼ活性の分析方法>によって定義した。
【0178】
作製した酵素処理澱粉は、固形分6%の老化性をRVA4500(Perten Instruments社製)を用いて評価した。図21に示す条件で処理し、セットバック値(最終粘度と糊化後の最小粘度の差)を算出した。結果を図22に示す。
【0179】
無添加(参考例10)に比べ、本酵素(試験例13)及びTGL(比較例13)で処理した澱粉のセットバック値は小さい値であった。また、本酵素(試験例13)及びTGL(比較例13)で処理した澱粉のセットバック値を比較すると、本酵素で処理した澱粉(試験例13)の方が小さい値を示した。本酵素を添加することで、老化しにくい澱粉を得ることができた。
【0180】
得られた酵素処理澱粉は澱粉含有食品の原料に使用することもできる。表16の組成で畜肉加工品、表17の組成で水産加工食品を作製し良好な製品を得た。また、澱粉含有食品の製造工程中に酵素を添加し、酵素処理澱粉を生成しても良い。
【0181】
【表16】
【0182】
【表17】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]