(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明の具体的な実施形態に係る新規な構造のアゾ単量体およびこれを重合して得られたアゾ重合体と前記アゾ重合体を用いた金属イオンセンサおよび捕集剤などについて説明する。
【0020】
発明の一実施形態によれば、下記化学式1で表されるアゾ単量体が提供される。
[化学式1]
【化3】
前記化学式1において、R
1は、水素またはメチル基であり、
R
2は、炭素数1〜4のアルキレン基であり、
R
3は、炭素数8〜18のアルキル基であり、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ独立に、炭素数6〜12のアリーレン基であり、
mは、1〜5の整数である。
【0021】
前記化学式1のアゾ単量体は、優れた耐熱性はもちろん、特定大きさの金属イオンのみを選択的に捕集して分離または感知できるアゾ重合体を提供することができる。このような効果は、前記アゾ単量体に起因するアゾ重合体の特定構造から発現する。
【0022】
前記アゾ単量体において、(メタ)アクリロイルグループ(CH
2=CR
1−CO−)は重合性官能基で、前記アゾ単量体から製造されたアゾ重合体の主鎖を形成する。
【0023】
前記(メタ)アクリロイルグループに連結されたアルキレンオキシグループ(−O−R
2−)は、アゾ重合体が特定大きさの金属イオンと選択的に結合されるように誘導することができる。このようなアルキレンオキシグループにおいて、R
2は、例えば、メチレン、1,2−エチレン、1,2−プロピレン、1,3−プロピレン、または1,2−ブチレンなどであってもよい。一例として、R
2として1,2−エチレンを採用して、リチウムイオンと強く結合可能なアゾ重合体を提供することができる。
【0024】
このようなアルキレンオキシグループの長さは、後述する製造例2〜4のように、適切な前駆体を用いて容易に調節することができる。
図1を参照すれば、アルキレンオキシグループの長さが長くなるほど、アゾ重合体のガラス転移温度、ネマチック液晶転移温度および溶融温度が減少する傾向を示す。したがって、化学式1のアルキレンオキシグループの長さを調節して、アゾ重合体の耐熱性などを容易に調節することができる。
【0025】
前記化学式1において、mは、1〜5の整数であってもよいし、mが2以上の時、2以上のR
2は全て同一であるか、あるいは2以上のR
2の少なくとも1つ以上は異なっていてもよい。より好適には、前記mは、1〜3の整数、あるいは1の整数であってもよい。後述する試験例を参照すれば、アルキレンオキシグループの長さが短いほど、アゾ重合体と特定金属イオンとの結合力が強くなり得る。反面、アルキレンオキシグループの長さ(つまり、化学式1のm)に関係なく、アゾ重合体は特定大きさの金属イオンと選択的に結合することができる。
【0026】
前記アゾ単量体において、アゾグループ(−N=N−)は、光に敏感に反応して、特定金属イオンと結合したアゾ重合体を検出することができる。このような機能のために、前記アゾグループに連結されるAr
1およびAr
2は、炭素数6〜12のアルキレン基であってもよく、より好適には、フェニレン基であってもよい。
【0027】
また、前記アゾ単量体は、末端(R
3)に導入された炭素数8〜18のアルキル鎖によって、アルキルグループ間の相互引力による分散力(dispersion forceまたはvan der waals force)がますます増加して分子が会合する(aggregation)傾向、つまり、セルフアセンブリ(selfassembly)の挙動を示す。特に、R
3が炭素数10〜16のアルキル基の場合、セルフアセンブリの挙動が最もよく起こり得る。
【0028】
このようなセルフアセンブリの挙動は、アゾ単量体から得られるアゾ重合体においても現れる。特に、アゾ重合体内では、前記セルフアセンブリの挙動によって重合体の側鎖の鎖(side chain)が規則的に配列される。これにより、前記アゾ重合体の主鎖(main chainまたはbackbone)はもちろん、金属陽イオンを捕集できるアルキレンオキシグループの動きも抑制され、重合体鎖が固定化される効果が現れる。本出願人は、このような固定化効果によって、前記アゾ単量体から提供された重合体が低濃度でも金属イオンを容易に捕集できると予想する。
【0029】
つまり、前記化学式1の単量体は、特定大きさの金属陽イオンを捕集できるアルキレンオキシグループと、セルフアセンブリの挙動によって固定された構造を提供可能な長いアルキル鎖を有し、特定金属陽イオンを高感度で検出または捕集できる重合体を提供することができる。
【0030】
付加して、前記化学式1のアゾ単量体は、既にアゾ重合体として知られた液晶高分子の単量体と一部類似する構造を有するが、全く異なる性質を示す。既に知られた液晶高分子を提供可能な単量体は、一方の末端に重合性官能基が存在し、他方の末端に分子内電子密度の勾配を起こし、nematic、smecticまたはcholestericのような液晶相の構造の差をもたらしたり、あるいは液晶高分子の相転移温度(T
g、T
mまたは液晶転移温度)などを調節するための官能基が存在する構造を有する。具体的には、既存の液晶高分子を提供可能な単量体は、前記化学式1のR
3位置に、長いアルキル鎖でない、−OCH
3、−NH
2、またはalkyl group(methyl、ethyl、butyl、またはchiral carbonが導入されたalkyl group)のようなelectrodonatingグループや、または−CN、−C(=O)H、−CO−、−COO−、または−CONH−グループのようなelectrowithdrawingグループが主に導入された構造を有する。特に、primaryアルキルグループは、炭素数が増加しても電子を押す能力に大差がなく、液晶高分子を提供するための単量体では、前記化学式1のR
3位置に長いアルキル鎖が導入されたことがなかった。
【0031】
一方、発明の他の実施形態によれば、下記化学式2で表される繰り返し単位を含むアゾ重合体が提供される。
[化学式2]
【化4】
前記化学式2において、R
1、R
2、R
3、Ar
1、Ar
2およびmの定義は、化学式1と同一である。
【0032】
前記アゾ重合体は、上述した化学式1のアゾ単量体を、本発明の属する技術分野で知られた多様な方法で重合して得ることができる。非制限的な例として、前記化学式1のアゾ単量体をラジカル開始剤の存在下でラジカル重合して、アゾ重合体を提供することができる。
【0033】
このように提供されるアゾ重合体は、化学式2のように、側鎖に特定金属イオンと結合可能なリガンドグループ、光敏感性を有するアゾグループ、およびセルフアセンブリの挙動を示す長いアルキル鎖が導入された構造を有する。
【0034】
前記アゾ重合体は、既存のリガンドとは異なり、側鎖にリガンドグループを含有して特定大きさの金属イオンのみを選択的に捕集することができ、アゾグループを含有して紫外線または可視光線領域の特定波長の光に対する感度が非常に高い。また、アゾ重合体が特定金属イオンと錯体を形成すると、純粋なアゾ重合体とは異なるNMRスペクトルが得られる。これにより、前記アゾ重合体を用いると、非常に低濃度の特定金属イオンも感知することができる。
【0035】
より具体的には、純粋なアゾ重合体のアゾグループは、熱力学的に安定したトランス構造と不安定なシス構造で存在し得る。アゾグループのトランス構造とシス構造は、常温で約95:5の比率で存在する。このようなアゾグループを含むアゾ重合体に約360nmの波長の紫外線を照射すると、アゾグループの光異性化反応(photoisomerization)によってトランス(trans)構造がシス(cis)構造に転換される。
【0036】
このようなアゾ重合体が特定金属イオンと錯体を形成すると、アゾ重合体の構造が固定され、紫外線を照射してもアゾ重合体の光異性化反応が自由に起こらない。したがって、後述する試験例2を参照すれば、アゾ重合体が特定金属イオンと錯体を形成した場合には、純粋なアゾ重合体に比べて、紫外線の照射時間に応じた吸収スペクトルの変化が少なく、
図2〜
図7のように、アゾ重合体錯体は、紫外線の照射前後に同一のNMR結果を得る。
【0037】
そして、アゾ重合体が特定金属イオンと錯体を形成すると、後述する試験例2に示しているように、アゾグループのシス構造による最大吸収波長が長波長に移動するred shift現象が発生し、アゾグループのシス構造による吸収強度が急激に増加するという変化が現れる。
【0038】
また、アゾ重合体が特定金属イオンと錯体を形成すると、純粋なアゾ重合体と異なるNMRスペクトルを得る。より具体的には、アゾ重合体の錯体の水素は純粋なアゾ重合体よりde−shieldingされ、アゾ重合体錯体の水素ピークは純粋なアゾ重合体よりもdown fieldで現れるようになる。また、後述する試験例を参照すれば、本出願人は、アゾグループの非共有電子対とアルキレンオキシグループが特定大きさの金属イオンと選択的に結合することを見出した。これにより、アゾ重合体錯体のアゾグループ周辺の水素ピークは、純粋なアゾ重合体とは異なってsplittingされて現れ、アゾ重合体錯体のアルキレンオキシグループの水素ピークは、純粋なアゾ重合体とは異なってde−shieldingされる傾向がある。
【0039】
したがって、アゾ重合体の吸収スペクトルおよび/またはNMRスペクトルにより特定金属イオンの存在を感知することができる。
【0040】
また、前記アゾ重合体を用いると、金属イオンの混合物から特定金属イオンを分離することができる。より具体的には、前記アゾ重合体を金属イオンの混合物に投入してアゾ重合体と特定金属イオンの錯体を形成した後、これを非溶媒(nonsolvent)と混合して錯体を沈殿させることによって、金属イオンの混合物から特定金属イオンを分離することができる。
【0041】
このような機能のために、前記アゾ重合体は、約10,000〜50,000g/molの数平均分子量を有し、1.2〜4.0の分子量分布を有するように重合される。
【0042】
また、前記アゾ重合体は、上述した化学式1のアゾ単量体から重合された単独重合体であってもよい。しかし、前記説明したアゾ重合体の固有物性に影響を与えない水準で前記化学式1のアゾ単量体を、これと共重合反応(copolymerization)が可能なスチレン、メチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、またはビニルクロライドのようなビニル単量体(vinyl monomer)と共重合して、前記アゾ重合体を提供することができる。
【0043】
上述したアゾ重合体は、上述した特徴だけでなく、優れた熱的安定性を示すことができる。より具体的には、前記アゾ重合体は、ガラス転移温度(T
g、glass transition temperature)が60℃〜120℃で、ネマチック液晶転移温度(T
N、nematic liquid crystalline transition temperature)が90℃〜160℃で、融点(T
m、melting temperature)が110℃〜210℃で、優れた耐熱性を示すことができる。
【0044】
一方、本発明のさらに他の実施形態によれば、前記アゾ重合体を用いる金属イオンセンサおよび金属イオン捕集剤が提供される。
【0045】
前記アゾ重合体は、上述のように、特定金属イオンと選択的に結合して錯体を形成することができ、このような錯体は、UV−Vis吸収スペクトルまたはNMRスペクトルにより検出することができ、優れた耐熱性を有して多様な環境条件で使用可能な金属イオンセンサおよび金属イオン捕集剤を提供することができる。
【0046】
一例として、前記アゾ重合体は、アルカリ金属イオンの中でも、リチウムイオンおよびナトリウムイオンと選択的に結合することができ、なかでもリチウムイオンと強く結合して錯体を形成することができる。したがって、このようなアゾ重合体を用いた金属イオンセンサを用いると、多様なアルカリ金属、重金属、遷移金属などの混合物にリチウムイオン、ナトリウムイオンまたはこれらの全てが存在するかを感知することができる。また、このようなアゾ重合体を用いた金属イオン捕集剤を用いると、多様なアルカリ金属、重金属、遷移金属などの混合物からリチウムイオンやナトリウムイオンまたはこれら2つのイオンを全て選択的に分離することができる。
【0047】
以下、発明の具体的な実施例により発明の作用、効果をより具体的に説明する。ただし、これは発明の例として提示されたものであり、これによって発明の権利範囲がいかなる意味でも限定されない。
【0048】
製造例1:4−ドデシル−4'−ヒドロキシアゾベンゼン(DHAB)の合成
p−dodecylaniline(97%、5.00g、18.60mmol)、HCl(4.85mL、55.00mmol)、NaNO
2(1.32g、18.60mmol)、THF156mLおよび蒸留水39mLを500mLの三口丸底フラスコに入れて、この溶液を0℃の窒素雰囲気で2時間撹拌させた。次に、前記フラスコに、phenol(1.77g、18.60mmol)、K
2CO
3(1.30g、19.10mmol)、Na
2CO
3(1.44g、27.10mmol)およびTHF128mLとH
2O32mLを添加して、常温で12時間さらに撹拌した。以降、回転蒸発器を用いて、反応溶液から溶媒を除去した。このように得られた固体を、メチレンクロライド(MC)300mLと蒸留水300mLが入っている分別漏斗に入れて激しく振とうした後、未反応の塩が溶けている水溶液層を除去した。残りのMC溶液に無水マグネシウムスルフェート10.0gを入れて30分間撹拌した後、ろ過して、有機層に溶けている微量の水を除去した。その後、MC溶液の溶媒を蒸発させ、得られた固体をノルマルヘキサン300mLに入れた後、40℃に加熱して溶かした後、冷却させて再結晶した。再結晶された固体生成物をろ過した後、真空オーブンにて24時間減圧しながら乾燥させて、黄色のDHABを得た(収率:65%;T
m:90℃)。
【0049】
合成したDHABの化学的構造は水素核磁気共鳴(
1H−NMR)スペクトルで確認し、その結果は次の通りである。
【化5】
1H−NMR(CDCl
3,ppm):a,7.86(d,2H);b,7.79(d,2H);c,7.30(d,2H);d,6.94(d,2H);e,5.04(d,1H);f,2.67(t,2H);g,1.65(q,2H);h,1.32(s,2H);i,1.26(m,16H);j,0.88(t,3H)。
【0050】
製造例2:2−(4−ドデシルアゾベンゼン−4'−オキシ)エタノール(DAEA−S1)の合成
製造例1で合成したDHAB(5.00g、13.60mmol)、K
2CO
3(1.14g、8.25mmol)およびdiglyme50mLを二口丸底フラスコに入れた後、常温および窒素雰囲気で30分間撹拌した。この溶液に2−クロロエタノール(2.20g、27.28mmol)を入れて、140℃で48時間さらに撹拌した。反応溶液をH
2O1Lに注いで沈殿させ、1時間撹拌して未反応のK
2CO
3を溶かした後、ろ過して、未反応のDHABと生成物が混合された固体沈殿物を得た。この沈殿物をクロロホルム200mLに溶かした後、無水マグネシウムスルフェート10.0gを入れて30分間撹拌した後、ろ過して、沈殿物に溶けている微量の水を除去した。ろ過したクロロホルム溶液の溶媒を蒸発させた後、得られた固体混合物を、展開溶媒としてノルマルヘキサン/エチルアセテート(EA)=1/1(体積比)の混合溶媒を用いて、カラムクロマトグラフィー法で分離して、黄色の純粋な固体生成物2−(4−dodecylazobenzene−4'−oxy)ethanol(DAEA−S1)を得た(収率:70%;T
m:119℃)。
【0051】
合成したDAEA−S1の化学的構造は水素核磁気共鳴スペクトル(
1H−NMR spectrum)で確認し、その結果は次の通りである。
【化6】
1H−NMR(CDCl
3,ppm):7.90(d,ArH,2H),7.80(d,ArH,2H),7.30(d,ArH,2H),7.04(d,ArH,2H),4.17(t,Ar−OCH
2,2H),4.01(d,COOCH
2,2H),2.67(t,Ar−CH
2,2H),2.07(t,OH,H),1.63(q,ArCH
2CH
2,2H),1.32(s,CH
3CH
2,2H),1.26(m,−CH
2−,16H),0.88(t,CH
2CH
3,3H)。
【0052】
製造例3:2−[2−(4−ドデシルアゾベンゼン−4'−オキシ)エトキシ]エタノール(DAEA−S2)の合成
製造例2において、2−クロロエタノールの代わりに2−(2−クロロエトキシ)エタノール(3.40g、27.28mmol)を入れることを除けば、前述した製造例2と同様の方法で黄色の純粋な固体生成物2−[2−(4−dodecylazobenzene−4'−oxy)ethoxy]ethyl alcohol(DAEA−S2)を得た(収率:87%;T
m:106℃)。
【0053】
合成したDAEA−S2の化学的構造は
1H−NMRスペクトルで確認し、その結果は次の通りである。
【化7】
1H−NMR(CDCl
3,ppm):7.90(d,ArH,2H),7.80(d,ArH,2H),7.30(d,ArH,2H),7.03(d,ArH,2H),4.23(t,Ar−OCH
2,2H),3.92(t,COOCH
2,2H),3.79 and 3.70(t,CH
2OCH
2,4H),2.67(t,Ar−CH
2,2H),2.07(t,OH,H),1.63(q,ArCH
2CH
2,2H),1.32(s,CH
3CH
2,2H),1.26(m,−CH
2−,16H),0.88(t,CH
2CH
3,3H)。
【0054】
製造例4:2−{2−[2−(4−ドデシルアゾベンゼン−4'−オキシ)エトキシ]エトキシ}エタノール(DAEA−S3)の合成
製造例2において、2−クロロエタノールの代わりに2−[2−(2−クロロエトキシ)エトキシ]エタノール(4.60g、27.28mmol)を入れることを除けば、前述した製造例2と同様の方法で黄色の純粋な固体生成物2−{2−[2−(4−dodecylazobenzene−4'−oxy)ethoxy]ethoxy}ethyl alcohol(DAEA−S3)を得た(収率:71%;T
m:92℃)。
【0055】
合成したDAEA−S3の化学的構造は
1H−NMRスペクトルで確認し、その結果は次の通りである。
【化8】
1H−NMR(CDCl
3,ppm):7.89(d,ArH,2H),7.79(d,ArH,2H),7.30(d,ArH,2H),7.03(d,ArH,2H),4.23(t,Ar−OCH
2,2H),3.91(t,COOCH
2,2H),3.73 and 3.63(t,CH
2OCH
2,8H),2.67(t,Ar−CH
2,2H),2.31(s,OH,H),1.63(q,ArCH
2CH
2,2H),1.32(s,CH
3CH
2,2H),1.26(m,−CH
2−,16H),0.88(t,CH
2CH
3,3H)。
【0056】
製造例5:アゾ単量体[2−(4−ドデシルアゾベンゼン−4'−オキシ)エチルメタクリレート(DAEMA−S1)]の製造
製造例2で製造したDAEA−S1(2.00g、4.87mmol)、triethylamine(0.59g、5.85mmol)およびanhydrous THF100mLを一口丸底フラスコに入れて、常温および窒素雰囲気で30分間撹拌した。次に、前記フラスコにmethacryloyl chloride(0.61g、5.85mmol)を入れて、常温で24時間さらに撹拌した。以降、蒸発器を用いて、前記反応溶液から溶媒を除去した。このように得られた固体をMC300mLに溶かし、NaHCO
3水溶液(5wt%in H
2O)300mLと共に分別漏斗に入れて激しく振とうした後、水溶液層を分離して、未反応のmethacryloyl chlorideを除去した。分離されたMC溶液に無水マグネシウムスルフェート1.0gを入れて30分間撹拌した後、ろ過して、微量の水を除去した。ろ過したクロロホルム溶液の溶媒を蒸発させた後、ノルマルヘキサン/EA=3:1(体積比)の混合溶媒を用いて、カラムクロマトグラフィー法で分離して、黄色の固体生成物2−(4−dodecylazobenzene−4'−oxy)ethyl methacrylate(DAEMA−S1)単量体を得た(収率:73%;T
m:61℃)。
【0057】
合成したDAEMA−S1単量体の化学的構造は
1H−NMRスペクトルで確認し、その結果は次の通りである。
【化9】
1H−NMR(CDCl
3,ppm):7.90(d,ArH,2H),7.80(d,ArH,2H),7.30(d,ArH,2H),7.03(d,ArH,2H),6.17 and 5.61(s,=CH
2,2H),4.53(t,Ar−OCH
2,2H),4.31(t,COOCH
2,2H),2.67(t,Ar−CH
2,2H),1.97(s,CCH
3,3H),1.65(q,ArCH
2CH
2,2H),1.32(s,CH
3CH
2,2H),1.26(m,−CH
2−,16H),0.88(t,CH
2CH
3,3H)。
【0058】
製造例6:アゾ単量体[2−[2−(4−ドデシルアゾベンゼン−4'−オキシ)エトキシ]エチルメタクリレート(DAEMA−S2)]の製造
製造例5において、製造例3のDAEA−S2(2.00g、4.40mmol)を用いることを除けば、前述した製造例5と同様の方法で黄色の2−[2−(4−dodecylazobenzene−4'−oxy)ethyleneoxy]ethyl methacrylate(DAEMA−S2)単量体を得た(収率:28%;T
m:53℃)。
【0059】
合成したDAEMA−S2単量体の化学的構造は
1H−NMRスペクトルで確認し、その結果は次の通りである。
【化10】
1H−NMR(CDCl
3,ppm):7.89(d,ArH,2H),7.80(d,ArH,2H),7.30(d,ArH,2H),7.02(d,ArH,2H),6.13 and 5.58(s,=CH
2,2H),4.35(t,Ar−OCH
2,2H),4.22(t,COOCH
2,2H),3.91 and 3.85(t,CH
2OCH
2,4H),2.67(t,Ar−CH
2,2H),1.95(s,CCH
3,3H),1.65(q,ArCH
2CH
2,2H),1.32(s,CH
3CH
2,2H),1.26(m,−CH
2−,16H),0.88(t,CH
2CH
3,3H)。
【0060】
製造例7:アゾ単量体[2−{2−[2−(4−ドデシルアゾベンゼン−4'−オキシ)エトキシ]エトキシ}−エチルメタクリレート(DAEMA−S3)]の製造
製造例5において、製造例4のDAEA−S3(2.00g、4.01mmol)を用いることを除けば、前述した製造例5と同様の方法で黄色の2−{2−[2−(4−dodecylazobenzene−4'−oxy)ethyleneoxy]ethyloxy}ethyl methacrylate(DAEMA−S3)単量体を得た(収率:73%;T
m:50℃)。
【0061】
合成したDAEMA−S3単量体の化学的構造は
1H−NMRスペクトルで確認し、その結果は次の通りである。
【化11】
1H−NMR(CDCl
3,ppm):7.89(d,ArH,2H),7.80(d,ArH,2H),7.30(d,ArH,2H),7.02(d,ArH,2H),6.14 and 5.57(s,=CH
2,2H),4.32(t,Ar−OCH
2,2H),4.21(t,COOCH
2,2H),3.90 and 3.74(t,CH
2OCH
2,8H),2.67(t,Ar−CH
2,2H),1.95(s,CCH
3,3H),1.65(q,ArCH
2CH
2,2H),1.32(s,CH
3CH
2,2H),1.26(m,−CH
2−,16H),0.88(t,CH
2CH
3,3H)。
【0062】
実施例1:アゾ重合体(PDAEMA−S1)の製造
製造例5のDAEMA−S1(0.50g、1.04mmol)、Anisole(2.25mL)およびラジカル開始剤(Azoisobutyronitrile、AIBN5.00mg)を15mLのアンプルに入れた後、凍結−解凍方法(freeze−thawing method)で溶液内に存在する酸素を除去した後、アンプルを密封し、48時間、70℃でラジカル重合反応を進行させた。重合反応を終結した後、重合溶液にTHF(5mL)を入れて希釈させた後、重合溶液を300mLのメタノールに注いで沈殿させた。得られる混合物をろ過し、乾燥させて、重合体を得た。製造した重合体を再びTHF溶媒に溶かした後、過剰のメタノールに再沈殿させ、これをろ過した後、常温の真空オーブン中にて24時間乾燥させて、アゾ重合体PDAEMA−S1を得た。重合転換率は64%であり、数平均分子量(M
n)は37,600g/molであった。重合体の分子量分布は3.26であり、溶融温度(T
m)は192〜194℃であった。
【0063】
アゾ重合体PDAEMA−S1の化学的構造は
1H−NMRスペクトルで確認し、その結果は次の通りである。
1H−NMR(CDCl
3,ppm):7.72(m,ArH,4H),7.18(m,ArH,2H),6.77(m,ArH,2H),4.12(m,OCH
2CH
2,4H),2.57(m,Ar−CH
2,2H),1.85(m,CCH
2,3H),1.57(m,ArCH
2CH
2,2H),1.23(m,−CH
2−,18H),1.05(m,−CH
2−,3H),0.86(m,CH
2CH
3,3H)。
【0064】
実施例2:アゾ重合体(PDAEMA−S2)の製造
実施例1において、製造例5のDAEMA−S1(0.50g、1.04mmol)およびAnisole(2.25mL)の代わりに製造例6のDAEMA−S2(0.50g、0.96mmol)およびTHF(2.25mL)を用いることを除けば、前述した実施例1と同様の方法でアゾ重合体PDAEMA−S2を得た。重合転換率は58%であり、数平均分子量(M
n)は27,400g/molであった。重合体の分子量分布は2.10であり、溶融温度(T
m)は157〜159℃であった。
【0065】
アゾ重合体PDAEMA−S2の化学的構造は
1H−NMRスペクトルで確認し、その結果は次の通りである。
1H−NMR(CDCl
3,ppm):7.79(d,ArH,2H),7.72(d,ArH,2H),7.19(d,ArH,2H),6.91(m,ArH,2H),4.04(m,Ar−OCH
2,COOCH
2,4H),3.69 and 3.62(m,CH
2OCH
2,2H),2.58(m,Ar−CH
2,2H),1.88(m,CCH
2,3H),1.58(m,ArCH
2CH
2,2H),1.22(m,−CH
2−,18H),1.07(m,−CH
2−,3H),0.85(m,CH
2CH
3,3H)。
【0066】
実施例3:アゾ重合体(PDAEMA−S3)の製造
実施例1において、製造例5のDAEMA−S1(0.50g、1.04mmol)およびラジカル開始剤(Azoisobutyronitrile、AIBN5.00mg)の代わりに製造例7のDAEMA−S3(0.50g、0.88mmol)と開始剤BPO(5.00mg)を用いることを除けば、前述した実施例1と同様の方法でアゾ重合体PDAEMA−S3を得た。重合転換率は32%であり、数平均分子量(M
n)は33,500g/molであった。重合体の分子量分布は1.78であり、溶融温度(T
m)は132℃であった。
【0067】
アゾ重合体PDAEMA−S3の化学的構造は
1H−NMRスペクトルで確認し、その結果は次の通りである。
1H−NMR(CDCl
3,ppm):7.81(d,ArH,2H),7.74(d,ArH,2H),7.22(d,ArH,2H),6.93(d,ArH,2H),4.08(m,Ar−OCH
2,COOCH
2,4H),3.79,3.64 and 3.60(m,CH
2OCH
2,8H),2.59(m,Ar−CH
2,2H),1.88(m,CCH
2,3H),1.58(m,ArCH
2CH
2,2H),1.23(m,−CH
2−,18H),1.07(m,−CH
2−,3H),0.85(m,CH
2CH
3,3H)。
【0068】
試験例1:アゾ重合体の物性評価
前記実施例1、2および3で合成したアゾ重合体のガラス転移温度(T
g、glass transition temperature)、ネマチック液晶転移温度(T
N、nematic liquid crystalline transition temperature)および溶融温度(T
m、melting temperature)は示差スキャニング熱分析器(DSC)で測定され、その結果は
図1に示した。
【0069】
図1を参照すれば、実施例1〜3で合成したアゾ重合体が安定した相転移を示し、末端に導入されたアルキル鎖によるセルフアセンブリの挙動を確認することができ、アゾ重合体内のエチレンオキシグループの長さが増加するほど、アゾ重合体のガラス転移温度、ネマチック液晶転移温度および溶融温度が減少する傾向を確認することができた。
【0070】
試験例2:アゾ重合体錯体の光学的特性評価
<アゾ重合体の錯体の製造>
実施例1〜3で合成したアゾ重合体とLiPF
6、NaPF
6およびKPF
6の金属塩を、下記表1に記載された含有量でクロロホルム/アセトニトリル=3/1の体積比の混合溶媒100mLに入れて、1時間撹拌して、アゾ重合体が金属塩から遊離したLi
+、Na
+またはK
+陽イオンと錯体を形成するように誘導した。
【0072】
前記表1において、LiPF
6、NaPF
6およびKPF
6の含有量単位は「当量」であって、重合体1当量に対する金属塩の「当量」を意味する。
【0073】
錯体1、錯体2、錯体4、錯体5、錯体7および錯体8の場合、金属塩添加後、錯体の色が薄い黄色から濃い橙色に変わった。また、LiPF
6塩を添加して得られた錯体1、錯体4および錯体7からNaPF
6塩を添加して得られた錯体2、錯体5および錯体8に対比してより濃い色が発現した。
【0074】
しかし、実施例1〜3で合成したアゾ重合体溶液にKPF
6塩を添加して得られた錯体3、錯体6および錯体9では、溶液の色が変化しなかった。
【0075】
これから、実施例1〜3で合成したアゾ重合体がLi
+およびNa
+陽イオンとは錯体を形成することができ、K
+陽イオンとは錯体を形成することができず、実施例1〜3で合成したアゾ重合体は、Na
+陽イオンより、Li
+陽イオンに対してより高い選択性を有することが確認される。
【0076】
この結果は、下記の光学的特性評価およびNMR評価を通しても確認される。
【0077】
一般に、アゾベンゼングループは、常温で約95対5の比率で熱力学的に安定したトランス構造と不安定なシス構造を含む。したがって、アゾベンゼングループが導入された単分子または重合体を含む溶液の吸収スペクトルでは、約360nm付近で安定したトランス構造による強い吸収バンドが現れ、約450nm付近で不安定なシス構造による弱い吸収バンドが現れる。この溶液に約360nmの波長を有する紫外線を照射すると、アゾベンゼングループの光異性化反応によってトランス構造がシス構造に転換される。この時、構造転換の速度は、紫外線の強度と照射時間に比例する。しかし、不安定なシス構造は、外部の刺激が無くなると、自発的にトランス構造に戻る。
【0078】
この原理を利用して、本発明の一実施形態に係るアゾ重合体のアルカリ金属イオンセンサへの応用性を調べた。このために、錯体1〜9に紫外線−可視光線分光器(UV−Vis spectrophotometer)を用いて吸収スペクトルを測定し、前記錯体1〜9に365nmの波長の紫外線を5分間照射した後、同一の方法により吸収スペクトルを測定した。
【0079】
そして、錯体の吸収スペクトルの測定結果と比較するために、実施例1〜3で合成したアゾ重合体の溶液を製造し、純粋なアゾ重合体溶液に上述した方法と同様の方法で365nmの波長の紫外線を照射する前と後の吸収スペクトルをそれぞれ測定した。
【0080】
一方、溶液の紫外線−可視光線スペクトルに対する、与えられた波長における吸収強度(absorbance(A)、単位なし)は、溶媒に溶けている試料のモルあたりの吸光係数(molar absorptivity(ε)、L*mol
−1*cm
−1)、試料の濃度(c、mol/L)および光が通過する溶液の距離(b,cm)にそれぞれ比例し、A=εbcの式で与えられる。
【0081】
したがって、錯体または純粋なアゾ重合体溶液で存在するアゾグループのトランスおよびシス構造の比率は、最大吸収波長における吸収強度に対する相対的な比率(%)、つまり、次の式から計算することができる。
トランスまたはシス構造の比率(%)=[(A
トランスまたはA
シス)/(A
トランス+A
シス)]X100
【0082】
下記表2には、実施例1〜3で合成したアゾ重合体の溶液を用いて得られた吸収スペクトルにおいて、紫外線照射前後のトランス構造によって強い吸収バンドが現れる波長、その波長における吸光度(absorbance)および前記吸光度から計算したトランス構造の比率と、紫外線照射前後のシス構造によって強い吸収バンドが現れる波長、その波長における吸光度および前記吸光度から計算したシス構造の比率を示した。
【0084】
前記表2を参照すれば、実施例1〜3で合成されたアゾ重合体は、エチレンオキシグループの長さに関係なく、約350nmおよび445nmの波長においてアゾベンゼングループのトランスおよびシス構造による強い吸収バンドと弱い吸収バンドがそれぞれ現れた。
【0085】
これらアゾ重合体の溶液に紫外線を照射すると、前述したアゾベンゼンの光異性化反応により、アゾベンゼンのトランス構造が紫外線の照射時間(irradiation time)に比例してシス構造に転換される。これにより、紫外線の照射時間に比例して、約350nmで現れるトランス構造による吸収バンドの強度は減少し、約445nmで現れるシス構造による吸収バンドの強度は非常に少しずつ増加することが確認される。
【0086】
下記表3には、実施例1〜3で合成したアゾ重合体の溶液にLiPF
6を添加した錯体を用いて得られた吸収スペクトルにおいて、紫外線照射前後のトランス構造によって強い吸収バンドが現れる波長、その波長における吸光度(absorbance)および前記吸光度から計算したトランス構造の比率と、紫外線照射前後のシス構造によって強い吸収バンドが現れる波長、その波長における吸光度および前記吸光度から計算したシス構造の比率を示した。
【0088】
前記表2の実施例1の結果を参照すれば、純粋なアゾ重合体PDAEMA−S1溶液の場合、前述した方法で計算した紫外線が照射される前のトランス構造に対するシス構造の相対的な比率(最大吸収波長の強度に対する比率)が3%となった。しかし、前記表3の錯体1の結果を参照すれば、LiPF
6金属塩が導入されたアゾ重合体PDAEMA−S1溶液の場合、紫外線が照射される前のトランス構造に対するシス構造の相対的な比率(最大吸収波長の強度に対する比率)が24%となった。これにより、アゾ重合体がLi
+陽イオンと錯体を形成すると、アゾベンゼングループのトランス構造に対するシス構造の相対的な比率が急激に増加するだけでなく、吸収バンドの幅が約100nmから150nmに広くなることが確認される。
【0089】
また、前記表3の錯体1の結果を参照すれば、純粋なアゾ重合体と比較して、錯体1においてトランス構造に対する最大吸収波長(λ
max)は変化がないものの、シス構造に対する最大吸収波長は442nm〜445nmから468nm〜470nmに約23nm〜27nm長波長に移動するred shift現象が発見された。また、錯体が形成された後、紫外線を5分まで照射した場合、シス構造の比率が照射前の24%から最大31%まで増加する傾向を示した。
【0090】
そして、前記表2の実施例1の結果および前記表3の錯体1の結果を比較すると、錯体1の吸収スペクトルにおいて、金属塩が導入されていない紫外線照射前のアゾ重合体溶液の吸収強度に比べて、紫外線照射前後のトランス構造の吸収強度は21〜28%程度減少する結果を示すのに対し、シス構造の吸収強度は8〜10.3倍程度急激に増加する結果を示した。
【0091】
この結果は、エチレンオキシグループの長さが増加したアゾ重合体(PDAEMA−S2およびPDAEMA−S3)の溶液(錯体4および7)の試験結果とも一致した。具体的には、前記表3の錯体4および7を参照すれば、アゾ重合体(PDAEMA−S2およびPDAEMA−S3)も、Li
+陽イオンと錯体を形成する時、紫外線照射前後のシス構造の最大吸収波長が最小23nmから最大29nmまで長波長に移動した。また、吸収強度も最小3.4倍から最大6.2倍まで急激に増加する結果からみると、シス構造のモルあたりの吸光係数の値が大きく増加すると考えられる。
【0092】
下記表4には、実施例1〜3で合成したアゾ重合体の溶液にNaPF
6を添加した錯体を用いて得られた吸収スペクトルにおいて、紫外線照射前後のトランス構造によって強い吸収バンドが現れる波長、その波長における吸光度(absorbance)および前記吸光度から計算したトランス構造の比率と、紫外線照射前後のシス構造によって強い吸収バンドが現れる波長、その波長における吸光度および前記吸光度から計算したシス構造の比率を示した。
【0094】
前記表4を参照すれば、NaPF
6金属塩が導入されたアゾ重合体錯体溶液の場合には、アゾ重合体自体溶液と比較する時、アゾベンゼンのトランス構造による最大吸収波長の変化はほとんど観察されなかった。しかし、紫外線照射前後のNaPF
6金属塩が導入されたアゾ重合体錯体溶液の場合には、単にアゾベンゼンのトランス構造の吸収強度が紫外線照射前のアゾ重合体自体溶液の値と比較する時、前述したLi
+と形成された錯体溶液とは異なり、最大10%(PDAEMA−S1)、8%(PDAEMA−S2)および11%(PDAEMA−S3)と比較的に少し減少した。その他、紫外線照射前後の錯体に対するシス構造の最大吸収波長はほとんど変化がなく、吸収強度は約2倍増加した。
【0095】
下記表5には、実施例1〜3で合成したアゾ重合体の溶液にKPF
6を添加した錯体を用いて得られた吸収スペクトルにおいて、紫外線照射前後のトランス構造によって強い吸収バンドが現れる波長、その波長における吸光度(absorbance)および前記吸光度から計算したトランス構造の比率と、紫外線照射前後のシス構造によって強い吸収バンドが現れる波長、その波長における吸光度および前記吸光度から計算したシス構造の比率を示した。
【0097】
前記表5を参照すれば、KPF
6金属塩が導入されたアゾ重合体溶液の場合、Li
+またはNa
+陽イオンが導入されたアゾ重合体錯体溶液の吸収スペクトルとは異なり、紫外線の照射時間が増加するほど、アゾベンゼンの安定したトランス構造の吸収強度が急激に減少しながらシス構造に最大65%転換されるのはもちろん、シス構造の最大吸収波長の変化も全く観察されなかった。その結果、KPF
6金属塩が導入されたアゾ重合体溶液の吸収スペクトルは、金属塩が全く添加されていないアゾ重合体自体溶液の吸収スペクトルとほぼ一致した。この結果から、本発明の一実施形態に係るアゾ重合体は、これに導入されたエチレンオキシグループの長さに関係なく、K
+陽イオンと錯体を形成できないことを確認することができた。
【0098】
以上の結果に基づき、アゾ重合体と結合された金属イオンの少なくとも一部は、下記のようなメカニズムでアゾ重合体のシス−アゾグループと結合して錯体を形成すると予想することができる。
【化12】
【0099】
つまり、アゾ重合体内に存在するアゾグループは、常温で熱力学的に安定したトランス構造と不安定なシス構造の比率が95%対5%の比率で存在する(誤差範囲±2%)。この時、LiPF
6金属塩から遊離したLi
+陽イオンが存在すると、不安定なシス構造を構成する窒素原子の非共有電子対と強く結合して新たな錯体構造を形成する。しかし、NaPF
6金属塩から遊離したNa
+陽イオンが存在すると、Li
+陽イオンから誘導された錯体より結合力が弱い錯体が形成される。その理由は、陽イオンの半径がはるかに小さいだけでなく、電子に対する親和度が大きいLi
+陽イオンがNa
+より結合力がはるかに強いシス錯体を形成するからである。その結果、Li
+陽イオンが存在する場合、シス構造から誘導された最大吸収波長が、金属塩の含まれていないアゾ重合体自体溶液より、紫外線照射前後20nm以上長波長に移動するだけでなく、錯体のモルあたりの吸光係数の値が大きく増加して吸収強度の値も急激に増加した。しかし、Na
+から誘導された錯体溶液の場合、紫外線照射前後のトランス構造が単に7%減少しながらシス構造が約2倍増加しただけで、最大吸収波長と吸収強度の値は、金属塩の含まれていないアゾ重合体自体溶液の波長または値とほぼ同一であった。反面、K
+陽イオンの場合、錯体を形成しなかった。
【0100】
この結果から、本発明の一実施形態に係るアゾ重合体が、アルカリ金属陽イオンのうち、Li
+陽イオンに対して最も優れた選択性を示すという事実を発見した。そして、導入されたエチレンオキシグループの長さは、陽イオンの選択性と無関係であるという事実も確認した。結論的に、アルカリ金属陽イオンの大きさに応じた選択性は、アゾ重合体に導入されたエチレンオキシグループの長さに関係なく、Li
+>>Na
+>>K
+(選択性なし)の順序であることを確認することができた。
【0101】
試験例4:アゾ重合体錯体のNMR評価
実施例1〜3で合成したアゾ重合体(PDAEMA−S1、PDAEMA−S2またはPDAEMA−S3、7.5x10
−3M)と、アルカリ金属塩のLiPF
6、NaPF
6またはKPF
6(重合体1当量に対して100当量)を、CDCl
3(0.60mL)とCD
3CN(0.20mL)との混合溶媒に入れて10分間撹拌して、金属塩が導入された溶液を製造した。以降、常温でそれぞれの溶液に対する
1H−NMR(400MHz)スペクトルを測定し、これを
図2〜
図4に示した。
【0102】
図2(a)を参照すれば、純粋なアゾ重合体(PDAEMA−S1)のNMRスペクトルでは、常温で主に(約95±2%)存在するトランス−アゾベンゼングループの水素ピークが確認される。具体的には、純粋なアゾ重合体(PDAEMA−S1)において、トランス−アゾベンゼングループに存在する8個の水素のうち、アゾグループ−N=N−のortho位置に存在する4個の水素は7.68ppm(1番および2番の水素、4H)で単一ピーク(singlet peak)として現れ、アゾグループ−N=N−のmeta位置に存在する4個の水素は7.15ppm(3番の水素、2H)および6.76ppm(4番の水素、2H)で2つの単一ピーク(singlet peak)として現れた。
【0103】
しかし、
図2(b)および
図2(c)を参照すれば、LiPF
6またはNaPF
6金属塩から遊離したLi
+またはNa
+陽イオンがPDAEMA−S1と錯体を形成した場合、前記結果とは異なり、アゾベンゼン(トランス−アゾベンゼン含有量:94−75%、シス−アゾベンゼン含有量:6−25%)に存在する8個の水素のうち、アゾグループのortho位置に存在する4個の水素が約8.0ppm(1番の水素、2H)および7.8ppm(2番の水素、2H)で2つの単一ピークとして分離されて現れた。そして、前記アゾグループのmeta位置に存在する4個の水素も7.3ppm(
図2(b)および
図2(c)の3番の水素、2H)、7.1ppm(
図2(b)および
図2(c)の4番の水素、2H)で2つの単一ピーク(singlet peak)として現れた。また、アゾ重合体の錯体では、純粋なアゾ重合体対比、トランス−アゾベンゼンの水素ピークの位置が全て0.2〜0.4ppmずつdown fieldに移動した。そして、錯体の場合、金属陽イオンと結合可能なリガンドとして導入したエチレンオキシ[−CH
2CH
2O−]グループの水素ピークの位置(
図2(b)および
図2(c)の5番の水素4H、4.43ppmおよび4.41ppm)も、金属イオンが結合しない純粋なアゾ重合体の水素ピークの位置(
図2(a)の5番の水素4H、3.99ppm)と比較する時、約0.4ppm down fieldに移動した。つまり、アゾ重合体が錯体を形成すると、アゾ重合体のアゾ基周辺の水素とエチレンオキシグループ内の水素がde−shieldingされる結果から、アゾ重合体のアゾ基およびエチレンオキシグループに金属イオンが結合されて錯体が形成されることを確認することができた。
【0104】
図3(b)、
図3(c)、
図4(b)および
図4(c)を参照すれば、エチレンオキシグループの長さが異なるPDAEMA−S2またはPDAEMA−S3アゾ重合体が、Li
+またはNa
+陽イオンと形成した錯体においても、PDAEMA−S1アゾ重合体の錯体と一致する結果となった。ただし、Li
+またはNa
+陽イオンが結合されたエチレンオキシグループの長さが増加するにつれ、エチレンオキシグループ内に存在する水素によって、4.4ppm〜3.6ppmの間で現れる二重(doublet)ピークが、四重(quartet)または多重(multiplet)ピークとしてさらにsplittingされて現れた。
【0105】
反面、
図2(d)、
図3(d)および
図4(d)を参照すれば、アゾ重合体溶液にKPF
6金属塩を添加した場合には、金属塩が添加されていないアゾ重合体と同一のNMR結果が得られた。これから、本発明の一実施形態に係るアゾ重合体は、エチレンオキシグループの長さに関係なく、KPF
6金属塩から遊離したK
+陽イオンと錯体を形成できないことが確認される。
【0106】
試験例5:アゾ重合体錯体の紫外線照射後のNMR評価
本発明の一実施形態に係るアゾ重合体溶液と金属塩が導入されたアゾ重合体溶液に365nmの波長を有する紫外線を5分間照射した後、
1H−NMRスペクトルを測定した。
【0107】
前記表2の実施例1の結果を参照すれば、紫外線を5分間照射した後、純粋なアゾ重合体溶液内に存在するトランス−アゾベンゼンとシス−アゾベンゼンの比率はそれぞれ34%対66%と確認される。これにより、
図5(a)を参照すれば、トランス−アゾベンゼンによって引き起こされる水素ピークが、7.72ppm(1番および2番の水素)、7.15ppm(3番の水素)、6.76ppm(4番の水素)で弱く現れ、シス−アゾベンゼンによって引き起こされる新たな水素ピークが、7.01ppm(1番の水素)および6.73ppm(2、3、4番の水素)で多重ピークとして現れた。この結果から、紫外線によってアゾベンゼングループの安定したトランス構造が不安定なシス構造に転換される光異性化反応が起こることが確認される。
【0108】
しかし、
図5(b)および
図5(c)を
図2(b)および
図2(c)と比較すると、Li
+またはNa
+陽イオンと錯体を形成したアゾ重合体PDAEMA−S1の場合、アゾベンゼングループ内に存在する水素による水素ピークが、位置およびsplittingが紫外線照射前(
図2(b)および
図2(c))と紫外線照射後(
図5(b)および5(c))に同一に現れた。
【0109】
この結果から、アゾ重合体がLi
+またはNa
+陽イオンと錯体を形成することによってアゾ重合体鎖が硬直し、重合体鎖間の自由体積(free volume)が減少し、紫外線を照射しても、陽イオンの種類に関係なく、光異性化反応が自由に起こらないことを確認することができた。前記表3および表4を参照すれば、アゾ重合体錯体では、光異性化反応が最大8%以下と非常に少なく起こることが確認される。
【0110】
同様に、LiPF
6またはNaPF
6金属塩を、エチレンオキシグループの長さが異なるアゾ重合体PDAEMA−S2またはPDAEMA−S3の溶液に添加した後、紫外線を照射した結果も、PDAEMA−S1溶液から得られた結果と同一であった(
図6(b)、
図6(c)、
図7(b)および
図7(c)参照)。
【0111】
反面、
図5(d)を参照すれば、アゾ重合体PDAEMA−S1にKPF
6金属塩を添加した場合、紫外線を照射した後に金属塩を添加しない純粋なアゾ重合体PDAEMA−S1と同一の
1H−NMRスペクトルを得た。これから、アゾ重合体PDAEMA−S1は、K
+陽イオンと錯体を形成しないことが確認される。同様に、KPF
6金属塩を、エチレンオキシグループの長さが異なるアゾ重合体PDAEMA−S2またはPDAEMA−S3の溶液に添加した後、紫外線を照射した結果も、PDAEMA−S1溶液から得られた結果と同一であった(
図6(d)および
図7(d)参照)。
【0112】
結論的に、金属塩から遊離したLi
+およびNa
+陽イオンの場合、アゾ重合体のアゾグループおよびアゾ重合体の側鎖に導入されたエチレンオキシグループと同時に結合して新たな錯体を形成することを確認することができた。また、リガンドとして導入したエチレンオキシグループの長さが最も短いPDAEMA−S1が、長さが相対的に長いPDAEMA−S2またはPDAEMA−S3より、Li
+またはNa
+陽イオンと強く結合することを確認することができた。前記結果から導出されたアゾ重合体と金属陽イオンとの間の結合力は、Li
+>>Na
+>>>K
+の順序であった。
【0113】
上記の実験結果から、本発明の一実施形態に係るアゾ重合体を、Li
+またはNa
+陽イオンを選択的に感知できるセンサの材料として活用可能であることを確認することができた。それだけでなく、前記アゾ重合体は、多様なアルカリ金属、重金属および/または遷移金属などが含まれている混合溶液から、Li
+および/またはNa
+陽イオンを選択的に捕集できる新機能性高分子材料として応用可能であることを確認することができた。