(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6435915
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】エナメル線の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
H01B 13/16 20060101AFI20181203BHJP
B05C 9/14 20060101ALI20181203BHJP
B05D 7/20 20060101ALI20181203BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20181203BHJP
H01B 13/00 20060101ALN20181203BHJP
【FI】
H01B13/16 B
B05C9/14
B05D7/20
B05D3/02 F
B05D3/02 E
!H01B13/00 517
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-34307(P2015-34307)
(22)【出願日】2015年2月24日
(65)【公開番号】特開2016-157573(P2016-157573A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100099597
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 賢二
(74)【代理人】
【識別番号】100124235
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100124246
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 和光
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】船山 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】大森 研
【審査官】
和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−252870(JP,A)
【文献】
上嶋由紀夫,,ハロゲンヒータを用いた赤外線加熱の特長と加熱事例,,ライトエッジ,日本,2013年 6月,No.39,p.10−p.19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
B05C 9/14
B05D 3/02
B05D 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に塗布したエナメル線塗料中の溶剤のみを、当該溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長に合致する波長を持つ光を当てることにより蒸発させる工程と、前記光を照射させた後の前記導体の温度が前記エナメル線塗料の温度よりも高くなるように前記導体を誘導加熱する工程と、誘導加熱した後の前記エナメル線塗料中の樹脂を硬化させる工程と、を有するエナメル線の製造方法。
【請求項2】
前記ピーク波長は、0.5〜3.5μmの範囲内である請求項1に記載のエナメル線の製造方法。
【請求項3】
前記光は、前記ピーク波長に合致するピーク波長を持つ光である請求項1又は請求項2に記載のエナメル線の製造方法。
【請求項4】
前記光は、近赤外線である請求項1〜3のいずれか1項に記載のエナメル線の製造方法。
【請求項5】
前記光は、レーザ光である請求項1〜3のいずれか1項に記載のエナメル線の製造方法。
【請求項6】
4μm未満にピーク波長を持つ光をエナメル線塗料が塗布された走行導体に照射することにより前記エナメル線塗料中の溶剤のみを蒸発させる蒸発炉と、前記光を照射させた後の前記走行導体の温度が前記エナメル線塗料の温度よりも高くなるように前記走行導体を誘導加熱する誘導加熱炉と、誘導加熱した後の前記エナメル線塗料中の樹脂を硬化させる硬化炉と、が設置された焼付炉を備えたエナメル線の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナメル線の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エナメル線は、通常、導体に塗布されたエナメル線塗料中の溶剤を蒸発させてエナメル線塗料を乾燥させる工程と、エナメル線塗料中の樹脂を硬化させて導体に皮膜を焼き付ける工程とを経て製造される。従来、これらの工程は1つの装置の中で行われていた。
【0003】
エナメル線塗料中の溶剤を蒸発させてエナメル線塗料を乾燥させる方法としては、熱風、誘導加熱、赤外線等により加熱する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−252868号公報(段落〔0052〕)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法によれば、導体の外周に皮膜を短時間で形成しようとする場合、乾燥させたエナメル線塗料の表面に波形が生じたり、エナメル線塗料の表面のみが乾燥(いわゆる皮張り)して溶剤が蒸発せずに残留してしまい、残留した溶剤に起因した発泡が皮膜に生じたりする問題があった。そのため、導体の外周に外観が良好な皮膜を形成するには、エナメル線塗料中の溶剤を蒸発させて乾燥させるのに時間をかける必要があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、エナメル線塗料中の溶剤を短時間で蒸発させてエナメル線塗料を乾燥させても外観が良好な皮膜を形成することのできるエナメル線の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、下記のエナメル線の製造方法及び製造装置を提供する。
【0008】
[1]導体に塗布したエナメル線塗料中の溶剤
のみを、当該溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長に合致する波長を持つ光を当てることにより蒸発させる工程と、
前記光を照射させた後の前記導体の温度が前記エナメル線塗料の温度よりも高くなるように前記導体を誘導加熱する工程と、誘導加熱した後の前記エナメル線塗料中の樹脂を硬化させる工程と、を有するエナメル線の製造方法。
[2]前記ピーク波長は、0.5〜3.5μmの範囲内である前記[1]に記載のエナメル線の製造方法。
[3]前記光は、前記ピーク波長に合致するピーク波長を持つ光である前記[1]又は前記[2]に記載のエナメル線の製造方法。
[4]前記光は、近赤外線である前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のエナメル線の製造方法。
[5]前記光は、レーザ光である前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のエナメル線の製造方法。
[
6]4μm未満にピーク波長を持つ光をエナメル線塗料が塗布された走行導体に照射する
ことにより前記エナメル線塗料中の溶剤のみを蒸発させる蒸発炉と、前記光を照射させた後の前記走行導体の温度が前記エナメル線塗料の温度よりも高くなるように前記走行導体を誘導加熱する誘導加熱
炉と、誘導加熱した後の前記エナメル線塗料中の樹脂を硬化させる硬化炉と、が設置された焼付炉を備えたエナメル線の製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エナメル線塗料中の溶剤を短時間で蒸発させてエナメル線塗料を乾燥させても外観が良好な皮膜を形成することのできるエナメル線の製造方法及び製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係るエナメル線の製造装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図1の製造装置の主要部を示す上面図である。
【
図3A】
図1の蒸発炉の1実施形態を示す概略図(導体進行方向に垂直な断面図)である。
【
図3B】
図3Aの蒸発炉(一部)を示す概略図(導体進行方向と平行な側面図)である。
【
図4A】
図1の蒸発炉の別の1実施形態を示す概略図(導体進行方向に垂直な断面図)である。
【
図4B】
図4Aの蒸発炉を示す概略図(導体進行方向と平行な断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔エナメル線の製造方法〕
本発明の実施の形態に係るエナメル線の製造方法は、導体に塗布したエナメル線塗料中の溶剤を、当該溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長に合致する波長を持つ光を当てることにより蒸発させる工程と、前記導体を誘導加熱により加熱する工程とを有することを特徴とする。これらの工程の後、エナメル線塗料中の樹脂を硬化させる工程を経ることにより、エナメル線が得られる。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係るエナメル線の製造装置の一例を示す概略図であり、
図2は、
図1の製造装置の主要部を示す上面図である。
【0013】
図1に示されるように、導体1がプーリ11を介して焼鈍炉12に供給され、焼鈍しが行われる。焼鈍しは、必要が無ければ省略可能である。その後、導体1は、ターンプーリ13を介して塗料塗布部14へ走行され、導体1の外周にエナメル線塗料が塗布される。
【0014】
エナメル線塗料が塗布された導体1は、焼付炉10を構成する蒸発炉15、誘導加熱炉16及び硬化炉17の中を走行し、エナメル線塗料中の溶剤の蒸発(すなわちエナメル線塗料の乾燥)及びエナメル線塗料中の樹脂の硬化(すなわち皮膜の焼付)が行われる。蒸発炉15、誘導加熱炉16及び硬化炉17は、この順番で走行されることが好ましいが、蒸発炉15と誘導加熱炉16の順序を逆にすることも可能である。
【0015】
図2に示されるように、エナメル線2は、下流側のターンプーリ13を介して上流側のターンプーリ13に戻り、エナメル線塗料の塗布、エナメル線塗料中の溶剤の蒸発及びエナメル線塗料中の樹脂の硬化が所望の皮膜厚さとなるまで繰り返し行われる。
【0016】
皮膜の焼付が終了したエナメル線2は、巻取機18に巻き取られる。
【0017】
(溶剤の蒸発工程)
エナメル線塗料中の溶剤の蒸発は、蒸発炉15中で、前述の通り、導体1に塗布したエナメル線塗料中の溶剤を、当該溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長に合致する波長を持つ光を当てることにより蒸発させることで行われる。
【0018】
上記ピーク波長は、0.5〜3.5μmの範囲内であることが好ましく、0.7〜3.3μmの範囲内であることがより好ましく、0.9〜3.2μmの範囲内であることがさらに好ましい。溶剤の種類によっても異なるが、エナメル線塗料(例えばポリイミド塗料)中の溶剤としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を用いた場合、2.1〜2.5μm及び/又は2.8〜3.2μmの範囲内であることが好ましい。すなわち、塗料中の溶剤が有する4μm未満の吸収ピーク波長±0.2μmの範囲内にピーク波長を持つ光を照射することが好ましい。
【0019】
エナメル線塗料が塗布された導体1に当てる上記光は、上記ピーク波長に合致するピーク波長を持つ光であって、かつ、それ以外にピーク波長を持たない光であることがより好ましい。溶質である樹脂には吸収が無く、溶媒である溶剤にのみ吸収のある光を当てることにより、エナメル線塗料の表面の皮張りを抑制し、作業性が良化する。導体に塗布されたエナメル線塗料の表面の皮張りは、樹脂の架橋反応等の硬化反応が一因であるが、樹脂を加熱しないように溶剤のみが吸収する波長の光を照射することにより、樹脂の硬化反応を抑制でき、皮張りを抑制することができる。また、溶剤のみが吸収する波長の光を照射することにより、溶剤を低温で効率よく乾燥させることができる。このため、従来のように、短時間で乾燥させる場合に乾燥温度を高温にする必要が無く、溶剤の沸騰、突沸現象で生じる発泡を抑制することができる(発泡のリスクが減る)ため、導体の外周に形成した皮膜の外観が良好になる。
【0020】
例えば、溶剤として上記のDMAcを用いた場合、DMAcは、4μm未満において波長2.3μm及び3.0μmに吸収ピークを有しているため、2.3μm前後(2.3±0.2μm)又は3.0μm前後(3.0±0.2μm)にピーク波長を持つ光を照射することが好ましく、2.3μmか3.0μmにピーク波長を持つ光を照射することがより好ましく、かつそれら以外にピーク波長を持たない光を照射することがさらに好ましい。このとき、塗料中に溶けているポリアミック酸(硬化後にポリイミドとなる)には3.3μm以上にしか吸収が無いため、上記ピーク波長を持つ光を選ぶことにより、ポリアミック酸の閉環反応を抑制できるので、エナメル線塗料の表面を皮張りしにくくすることができる。
【0021】
上記の通り、蒸発炉15では、導体1に塗布された塗料中の溶剤に熱を与えて蒸発させ、塗料を乾燥させる。これにより導体1の温度も上昇するが、皮膜(乾燥された塗料)の温度よりも低い状態である。なお、蒸発炉15内で完全に又は大部分の溶剤を蒸発させることが好ましいが、残量(例えば全溶剤のうちの20質量%以下程度の溶剤)を次の工程以降において完全に蒸発させてもよい。
【0022】
以下、蒸発炉の具体例を挙げて説明する。
【0023】
図3Aは、
図1の蒸発炉の1実施形態を示す概略図(導体進行方向に垂直な断面図)であり、
図3Bは、
図3Aの蒸発炉(一部)を示す概略図(導体進行方向と平行な側面図)である。
【0024】
蒸発炉の1実施形態である蒸発炉150には近赤外線ヒータ151及び集光板152が設置されており、蒸発炉150の炉開口部153を走行する導体1ないしエナメル線2に対し、近赤外線ヒータ151からの近赤外線を集光板152で集光して照射光151Aを当てることができる。
【0025】
また、
図4Aは、
図1の蒸発炉の別の1実施形態を示す概略図(導体進行方向に垂直な断面図)であり、
図4Bは、
図4Aの蒸発炉を示す概略図(導体進行方向と平行な断面図)である。
【0026】
蒸発炉の別の1実施形態である蒸発炉250にはレーザ照射ユニット251が設置されており、蒸発炉250の炉開口部252を走行する導体1ないしエナメル線2に対し、レーザ照射ユニット251からのレーザ光(照射光251A)を当てることができる。
【0027】
エナメル線塗料中の溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長に合致する波長を照射する光源としては、上記の近赤外線ヒータや半導体レーザ光に限られない。例えば、LED(発光ダイオード)、高輝度放電ランプ、EL(エレクトロルミネセンス)ライトであってもよい。
【0028】
近赤外線は、近赤外線ヒータ151のみならず、石英管とタングステンフィラメントで赤外線を発生し、冷却により遠赤外線領域をカットすることで近赤外線のみを照射することができる波長制御ヒータを用いて照射することもできる。
【0029】
レーザ照射ユニット251としては、例えば半導体レーザ照射ユニットが好適である。
【0030】
近赤外線ヒータ151やレーザ照射ユニット251は、導体の進行方向に対し垂直な方向に、複数個(例えば12個)、配列されている。また、近赤外線ヒータ151は、導体進行方向に対し平行な方向に、走行する導体を挟むように互いに対向する位置(
図3A、
図3Bでは走行する導体の上下)に1つずつ50〜800cmの長さのものが設けられており、レーザ照射ユニット251は、導体の進行方向に対し平行な方向に、走行する導体を挟むように互いに対向する位置(
図4A、
図4Bでは走行する導体の上下)にそれぞれ複数個(例えば2個)、配列されている。近赤外線ヒータ151の長さ・設置個数、及びレーザ照射ユニット251の設置個数は、適宜設定すればよく、これらに限定されるものではない。
【0031】
(導体の加熱工程)
本実施の形態における誘導加熱炉16は、蒸発炉15と硬化炉17の間に設けられ、或いは、塗料塗布部14と蒸発炉15の間に設けられ、走行導体1を誘導加熱により加熱し、走行導体1に効率良く熱量を与える。これにより、硬化炉17で走行線に与える熱量を低減することができる。
【0032】
溶剤の蒸発工程は、発泡等により塗膜の外観を損ねないために塗膜の温度が溶剤の沸点未満で実施されることが好ましい。そのため、樹脂の硬化に必要な熱量を走行線に与えるためには、多くの熱量を溶剤の蒸発工程後に与えることが必要となる。例えば、熱風を利用した硬化炉17を用いる場合において、硬化に必要とされる熱量を走行線に与えつつ、製造速度を向上させるためには、硬化炉17の温度や熱風の風速を上げ、熱の伝達効率を上げたり、炉の長さを長くし、炉内での滞在時間を確保したりする必要がある。前者の場合、塗膜の表面から熱伝達するので、重ね塗りにより形成された複数層の皮膜の厚さ方向に温度勾配が生じ、塗膜表面が熱劣化を受けることで、層間の密着性が低下してしまうため、エナメル線が曲げや伸長を受けた際に層間で剥離し、さらには亀裂に進展してしまう。後者の場合、縦型炉では建屋の天井高さを高くする必要が生じ、横型炉では走行線が自重によってカテナリーの形状となることを考慮して炉の縦幅を大きくする必要が生じてしまい、装置やインフラのコストが非常に高くなってしまう。そこで、硬化炉17で与える熱量を抑え、塗膜の厚さ方向に温度勾配を与えないよう導体側から線を加熱するため、硬化炉17の前に誘導加熱を実施することとした。
【0033】
以上より、導体を誘導加熱により加熱する工程は、溶剤の蒸発工程後に、導体1の温度が導体1に塗布されたエナメル線塗料の温度よりも高くなるように導体1を加熱する工程であることが好ましい。導体1の温度が上がることで、皮膜も導体側から温められるため、誘導加熱により皮膜の温度も上昇していく。硬化炉17に走行線が入る直前において、導体1の温度が溶剤沸点未満まで上昇していることが好ましい。
【0034】
また、導体を誘導加熱により加熱する工程は、高周波誘導加熱(例えば100KHzから400KHz)により加熱する工程であることが好ましい。誘導加熱を行なう誘導加熱炉16は、例えば誘導加熱電源、加熱用コイルを構成要素とする誘導加熱装置を有する。所望の速度で導体を所定温度まで温度上昇させるべく、電源の出力やコイルの形状を適宜、調整する。
【0035】
(樹脂の硬化工程)
エナメル線塗料中の樹脂の硬化の方法は、特に限定されるものではなく、熱風、近赤外線ヒータ、誘導加熱等により加熱することで行なうことができる。熱風で硬化させることが到達温度の調整が容易であり、焼付けを均一化し易い点で好ましい。
【0036】
本実施の形態において使用される導体1の素材は、銅、銅合金等、特に限定されることなく使用できる。また、導体1の形状としては、丸線、平角導体等が挙げられるが、特に平角導体の場合に従来方法に比べてメリットがある。
【0037】
平角エナメル線に塗布すると従来の方法では、乾燥させる速度が遅く、短時間で乾燥させることができないことにより、塗膜(平角導体に塗布したエナメル線塗料)が乾燥する前に流れてしまう、特に平角導体の角部に塗布したエナメル線塗料が角部の周辺へと流れてしまうため、皮膜の付き回りが悪くなる。つまり、皮膜の厚さが均一にならなかった。これに対して、本発明の実施形態に係る方法によれば、短時間(例えば3秒以内)で(かつ好ましい実施形態では低温で)乾燥できるため、塗膜が流れるのを抑制した状態で乾燥させることができる。このため、皮膜の付き回りが悪くなるのを抑制することができる。このように、本発明の実施形態では、乾燥速度を速くすることができるため、塗膜が垂れにくくなり、良好な皮膜状態の太線や平角線が製造できるようになる。
【0038】
本実施の形態において使用されるエナメル線塗料としては、エナメル線に使用可能なものであれば特に限定されることなく用いることができる。例えば、エナメル線塗料中の溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、クレゾール、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、シクロヘキサノン等が挙げられる。また、エナメル線塗料中の樹脂としては、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステルイミド等が挙げられる。
【0039】
〔エナメル線の製造装置〕
本発明の実施の形態に係るエナメル線の製造装置は、4μm未満にピーク波長を持つ光をエナメル線塗料が塗布された走行導体に照射する照射装置及び前記走行導体を誘導加熱により加熱する誘導加熱装置が設置された焼付炉を備えることを特徴とする。
【0040】
エナメル線の製造装置の具体的な構成例は、
図1〜4に示す通りであり、前述した焼付炉10〜巻取機18の通りである。
【0041】
本実施形態においては、別々の蒸発炉15と誘導加熱炉16と硬化炉17とからなる焼付炉10とし、蒸発炉15に上記照射装置を設け、誘導加熱炉16に上記誘導加熱装置を設けたが、蒸発炉15と誘導加熱炉16と硬化炉17とが一体となった焼付炉としてもよく、当該焼付炉の最上流側(導体入口側)に上記照射装置を設け、中間に上記誘導加熱装置を設ける構成としてもよい。また、蒸発炉15と誘導加熱炉16のみを一体としてもよいし、誘導加熱炉16と硬化炉17のみを一体としてもよい。硬化炉17における硬化処理(熱風等)の影響を受けにくくする点においては、本実施形態のようにそれぞれの炉を別々にすることが好ましい。これにより、外観がより良好な皮膜を形成することができる。各炉の間隔は、それぞれ5cm〜1m程度であることが好ましい。
【0042】
また、本実施形態においては、焼付炉を横型炉としたが、前述の特許文献1に示されるような縦型炉としてもよい。
【0043】
〔本発明の実施の形態の効果〕
(1)本発明の実施の形態によれば、エナメル線塗料中の溶剤を短時間で蒸発させてエナメル線塗料を乾燥させても外観が良好な皮膜を形成することのできるエナメル線の製造方法及び製造装置を提供することができる。すなわち、熱風等を利用してエナメル線塗料を乾燥させる場合に比べ、短時間で溶剤を蒸発させてエナメル線塗料を乾燥できるため、エナメル線の製造速度がアップし、製造コストダウンが可能となる。また、焼付炉を短くできるため、製造装置の設置場所の省スペース化が可能となる。さらに、溶剤分子を振動させて溶剤を揮散させることにより溶剤を均一的に蒸発させてエナメル線塗料を乾燥させることを可能としたため、熱を利用する場合に比べて、発泡や皮張り等を抑制できる。
(2)本発明の実施の形態によれば、誘導加熱により短時間で導体を加熱できるため、熱風による硬化炉の長所を生かしつつ、エナメル線の製造速度がアップし、製造コストダウンが可能となる。また、焼付炉を短くできるため、製造装置の設置場所の省スペース化が可能となる。
【0044】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず種々に変形実施が可能である。例えば、本発明の効果を奏する限りにおいて、蒸発炉15において、熱風(好ましくは低温・低風速)を併用することもできる。
【符号の説明】
【0045】
1:導体、2:エナメル線
10:焼付炉、11:プーリ、12:焼鈍炉、13:ターンプーリ
14:塗料塗布部、15:蒸発炉、16:誘導加熱炉、17:硬化炉
18:巻取機
150:蒸発炉、151:近赤外線ヒータ、151A:照射光
152:集光板、153:炉開口部
250:蒸発炉、251:レーザ照射ユニット、251A:照射光
252:炉開口部