(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記焼結磁石体を加温ないし加熱し、上記スラリーを塗布し、乾燥させる塗布プロセスを複数回繰り返して重ね塗りを行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
上記粉末を塗着させた焼結磁石体に対し、当該焼結磁石体の焼結温度以下の温度で、真空又は不活性ガス中で熱処理を施す請求項1〜7のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
上記乾燥手段が、焼結磁石体に赤外線を照射して加熱する赤外線ヒータと、赤外線照射によって気化した溶媒を焼結磁石体周囲から除去する排気手段とを具備したものである請求項10又は11記載の希土類化合物の塗布装置。
上記事前加熱手段及び上記乾燥手段のいずれか一方又は両方の赤外線ヒータが、波長0.8〜5μmの近赤外線を照射するものである請求項11又は12記載の希土類化合物の塗布装置。
上記スラリー塗布手段が、塗布ローラにより上記焼結磁石体表面に上記スラリーを塗布するものである請求項10〜13のいずれか1項に記載の希土類化合物の塗布装置。
上記スラリー塗布手段によるスラリー塗布位置の搬送方向上流側に設けられ、エアナイフからシート状薄層気流を吹き付けて上記焼結磁石体表面をクリーニングするクリーニング手段を具備する請求項10〜14のいずれか1項に記載の希土類化合物の塗布装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体に、R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末を溶媒に分散したスラリーを塗布し乾燥させて、上記粉末を上記焼結磁石体表面に塗着させ、これを熱処理して上記R
2を焼結磁石体に吸収させ希土類永久磁石を製造する際に、粉末を均一かつ効率的に塗布することができ、しかも塗着量をコントロールして緻密な粉末の塗膜を密着性よく形成することができ、より磁気特性に優れた希土類磁石を効率的に得ることができる希土類磁石の製造方法、及びこの希土類磁石の製造方法に好適に用いられる希土類化合物の塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、下記請求項1〜9の希土類磁石の製造方法を提供する。
請求項1:
R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体に、R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末を溶媒に分散したスラリーを塗布し、乾燥させてスラリーの溶媒を除去することにより上記粉末を上記焼結磁石体表面に塗着させ、これを熱処理して上記R
2を焼結磁石体に吸収させる希土類磁石の製造方法において、
上記スラリーの塗布前に上記焼結磁石体を加温ないし加熱することを特徴とする希土類磁石の製造方法。
請求項2:
上記焼結磁石体の加温ないし加熱の温度が、上記スラリーの溶媒の沸点から20℃を減じた温度以下である請求項1記載の希土類磁石の製造方法。
請求項3:
上記スラリーの溶媒が水であり、上記焼結磁石体を40〜80℃に加温ないし加熱した後にスラリーを塗布する請求項2記載の希土類磁石の製造方法。
請求項4:
上記焼結磁石体に赤外線を照射することにより、上記加温ないし加熱を行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
請求項5:
上記赤外線が、波長0.8〜5μmの近赤外線である請求項4記載の希土類磁石の製造方法。
請求項6:
スラリーの塗布がローラ塗布である請求項1〜5のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
請求項7:
上記焼結磁石体を加温ないし加熱し、上記スラリーを塗布し、乾燥させる塗布プロセスを複数回繰り返して重ね塗りを行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
請求項8:
上記粉末を塗着させた焼結磁石体に対し、当該焼結磁石体の焼結温度以下の温度で、真空又は不活性ガス中で熱処理を施す請求項1〜7のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
請求項9:
上記熱処理後、更に低温で時効処理を施す請求項1〜8のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
【0008】
また本発明は、上記目的を達成するため、下記請求項10〜15の希土類化合物の塗布装置を提供する。
請求項10:
R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる四角板状又は四角ブロック状の焼結磁石体に、R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末を溶媒に分散したスラリーを塗布し乾燥させて、上記粉末を上記焼結磁石体表面に塗着させ、これを熱処理して上記R
2を焼結磁石体に吸収させ希土類永久磁石を製造するに際し、上記焼結磁石体に上記粉末を塗布する希土類化合物の塗布装置であって、
上記焼結磁石体を載せて搬送する搬送コンベアと、
該搬送コンベア上の焼結磁石体に上記スラリーを塗布するスラリー塗布手段と、
該塗布手段によるスラリー塗布位置の搬送方向上流側に設けられ、上記搬送コンベア上の焼結磁石体を所定温度に加温ないし加熱する事前加熱手段と、
上記塗布手段によるスラリー塗布位置の搬送方向下流側に設けられ、上記搬送コンベア上の焼結磁石体を加温して乾燥させる乾燥手段とを具備してなり、
上記搬送コンベアの上流側から上記焼結磁石体を供給して搬送し、この焼結磁石体を上記事前加熱手段により所定温度に加温ないし加熱し、この所定温度に加温ないし加熱された焼結磁石体に上記スラリー塗布手段により上記スラリーを塗布し、このスラリーが塗布された焼結磁石体を上記乾燥手段により加熱し乾燥させてスラリーの溶媒を除去することにより上記粉末を焼結磁石体表面に塗着させ、この焼結磁石体を上記搬送コンベアの下流側から回収することを特徴とする希土類化合物の塗布装置。
請求項11:
上記事前加熱手段が、赤外線ヒータにより赤外線照射して加温ないし加熱を行うものである請求項10記載の希土類化合物の塗布装置。
請求項12:
上記乾燥手段が、焼結磁石体に赤外線を照射して加熱する赤外線ヒータと、赤外線照射によって気化した溶媒を焼結磁石体周囲から除去する排気手段とを具備したものである請求項10又は11記載の希土類化合物の塗布装置。
請求項13:
上記事前加熱手段及び上記乾燥手段のいずれか一方又は両方の赤外線ヒータが、波長0.8〜5μmの近赤外線を照射するものである請求項11又は12記載の希土類化合物の塗布装置。
請求項14:
上記スラリー塗布手段が、塗布ローラにより上記焼結磁石体表面に上記スラリーを塗布するものである請求項10〜13のいずれか1項に記載の希土類化合物の塗布装置。
請求項15:
上記スラリー塗布手段によるスラリー塗布位置の搬送方向上流側に設けられ、エアナイフからシート状薄層気流を吹き付けて上記焼結磁石体表面をクリーニングするクリーニング手段を具備する請求項10〜14のいずれか1項に記載の希土類化合物の塗布装置。
【0009】
上記本発明の製造方法及び塗布装置は、上記のとおり、焼結磁石体に希土類化合物の粉末を分散したスラリーを塗布し、乾燥させてスラリーの溶媒を除去することにより、上記粉末を上記焼結磁石体表面に塗着させる際、スラリー塗布前に焼結磁石体を所定温度に加温ないし加熱し、この加温ないし加熱した焼結磁石体にスラリーを塗布し、乾燥させて希土類化合物の粉末の塗膜を形成するものである。このように、スラリー塗布の前に焼結磁石体を温めておくことにより、スラリー塗布後の加熱乾燥の際に極めて短時間に乾燥を完了することができ、場合によっては殆ど瞬時にスラリーの溶媒を蒸発させて乾燥させることができるので、スラリーのタレなどを生じることなく、均一な塗膜を効率よく確実に形成することができるものである。
【0010】
また、例えば上記請求項6や請求項14のように、上記スラリーをローラ塗布することにより、磁石の使用形態に応じて焼結磁石体の必要箇所のみに部分的にスラリー塗布を行って当該必要箇所に部分的に塗膜を形成することにより、貴重な希土類化合物を含む上記粉末の処理用を効果的に削減することができるが、この場合に本発明によれば、上記のようにスラリー塗布後の乾燥を極めて短時間に完了することができるので、例えば保磁力増大を必要としない側面部などへのスラリーのダレを可及的に防止して、貴重な希土類化合物を含む粉末を無駄に消費することを防止して、極めて効率的に保磁力の増大を図ることができる。
【0011】
更に、上記請求項4,5や請求項11,13のように、スラリー塗布前の事前加熱(加温)や塗布後の加熱乾燥を、赤外線照射、特に波長0.8〜5μmの短波長の近赤外線を照射する輻射加熱によって行うことにより、短時間で効率的に事前加熱(加温)や加熱乾燥を行うことでき、しかもひび割れ等を生じることなく上記粉末による均一な塗膜を確実に得ることができ、更に塗布装置の小型化を図ることもできる。
【0012】
即ち、波長0.8〜5μmの短波長の近赤外線を照射するヒータは、立ち上がりが速く1〜2秒で有効な加熱を開始することができると共に、10秒以内で100℃まで加熱することも可能であり、極めて短時間で加熱や加温を完了することができる。更に、誘導加熱を行う場合に比べて安価に構成することができ、電力消費の点でも有利である。従って、より安価に効率よくスラリーを乾燥させて上記粉体の塗布を行うことができる。また、上記近赤外線照射による輻射加熱によれば、近赤外線がスラリー塗膜の内部にも透過・吸収して加熱や加温を行うことができるので、例えば外部から熱風を当てて加熱/加温や乾燥を行った場合のように塗膜の外側から乾き始めることによりひび割れが生じることを可及的に防止することができ、均一で緻密な粉体の塗膜を形成することができる。
【0013】
また、上記短波長の近赤外線を発生するヒータ管は比較的小さく、乾燥器や塗布装置を小型化することができ、小規模な設備で効率的に希土類磁石を製造することができる。この場合、中波長の赤外線照射を用いても速い加熱速度を達成することは可能であるが、長いヒータ管が必要となり、省スペースの点で大きく不利であり、また電力消費の点でも劣るものとなりやすい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、焼結磁石体に希土類化合物の粉末を分散したスラリーを塗布し、これを効率よく乾燥させて希土類磁石の粉末からなる均一で緻密な塗膜を確実に形成することができる。従って、塗着量のコントロールも正確に行うことでき、焼結磁石体表面にムラのない均一で緻密な希土類化合物粉末の塗膜を効率よく形成することができ、しかもこの塗布工程を実施する希土類化合物の塗布装置を小型化することができるものである。
【0015】
よって、本発明の製造方法及び塗布装置によれば、このように希土類化合物の粉末を均一かつ緻密に焼結磁石体表面に塗布することができるので、保磁力が良好に増大された磁気特性に優れた希土類磁石を効率的に製造することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の希土類磁石の製造方法は、上記のとおり、R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体に、R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末を溶媒に分散したスラリーを塗布し乾燥させて、上記粉末を上記焼結磁石体表面に塗着させ、これを熱処理して上記R
2を焼結磁石体に吸収させ希土類永久磁石を製造するものである。
【0018】
上記R
1−Fe−B系焼結磁石体は、公知の方法で得られたものを用いることができ、例えば常法に従ってR
1、Fe、Bを含有する母合金を粗粉砕、微粉砕、成形、焼結させることにより得ることができる。なお、R
1は上記のとおり、Y及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上で、具体的にはY、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuが挙げられる。
【0019】
本発明では、このR
1−Fe−B系焼結磁石体を、必要に応じて研削等によって所定形状に成形し、表面にR
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物、水素化物の1種又は2種以上を含有する粉末を塗布し、熱処理して焼結磁石体に吸収拡散(粒界拡散)させ、希土類磁石を得る。
【0020】
上記R
2は、上記のように、Y及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上であり、上記R
1と同様にY、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuが例示される。この場合、特に制限されるのではないが、R
2中の1又は複数に合計で10原子%以上、より好ましくは20原子%以上、特に40原子%以上のDy又はTbを含むことが好ましい。このようにR
2に10原子%以上のDy及び/又はTbが含まれ、かつR
2におけるNdとPrの合計濃度が前記R
1におけるNdとPrの合計濃度より低いことが本発明の目的からより好ましい。
【0021】
本発明において上記粉末の塗布は、該粉末を溶媒に分散したスラリーを調製し、このスラリーを焼結磁石体表面に塗布して乾燥させることにより行われる。この場合、粉末の粒径は、特に制限されるものではなく、吸収拡散(粒界拡散)に用いられる希土類化合物粉末として一般的な粒度とすることができ、具体的には、平均粒子径100μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以下である。その下限は特に制限されないが1nm以上が好ましい。この平均粒子径は、例えばレーザー回折法などによる粒度分布測定装置等を用いて質量平均値D
50(即ち、累積質量が50%となるときの粒子径又はメジアン径)などとして求めることができる。なお、粉末を分散させる溶媒は水でも有機溶媒でもよく、有機溶媒としては、特に制限はないが、エタノール、アセトン、メタノール、イソプロピルアルコール等が例示され、これらの中ではエタノールが好適に使用される。
【0022】
上記スラリー中の粉末の分散量に特に制限はないが、本発明においては、良好かつ効率的に粉末を塗着させるために分散量が質量分率1%以上、特に10%以上、更には20%以上のスラリーとすることが好ましい。なお、分散量が多すぎても均一な分散液が得られないなどの不都合が生じるため、上限は質量分率70%以下、特に60%以下、更には50%以下とすることが好ましい。
【0023】
上記スラリーを上記焼結磁石体に塗布する方法については、特に制限は無く適宜選定すればよく、例えばスラリーに焼結磁石体を浸漬する浸漬法、スラリーをスプレーして塗布するスプレー法、スラリーを含浸させた塗布ローラを焼結磁石体表面で転がしてスラリーを塗布するローラ塗布法などを好適に採用することができる。この場合、ローラ塗布法は、浸漬法やスプレー法に比べて容易に部分塗布を行うことができ、保磁力増大が求められる箇所が部分的である場合にはローラ塗布法が好適に採用され、ローラ塗布法によれば必要箇所のみ対して均一なスラリー塗布を部分的に行うことが可能である。
【0024】
本発明では、上述のように、このスラリー塗布の前に焼結磁石体を所定温度に加温ないし加熱して焼結磁石体を予め温めておく。この場合、焼結磁石体の加温ないし加熱温度は、特に制限されるものではないが、通常は上記スリラーを調製する上記溶媒の沸点未満の温度とされ、特に溶媒の沸点から20℃を減じた温度以下とすることが好ましく、例えば水を溶媒としてスラリーを調製した場合には、80℃以下の温度に加温ないし加熱することが好ましい。なお、加温ないし加熱温度の下限値は特になく、室温以上に加温または加熱すれば上述した本発明の効果を得ることができるが、その効果の程度はスラリーの溶媒の種類によって変化する。例えば、室温20〜25℃の環境下であれば、水を溶媒とした場合、30℃の加温で有意な効果を得ることができ、特に40℃以上とすることにより、非常に良好な効果を得ることができ、特に制限されるものではないが、水を溶媒とした場合には40〜80℃に加温ないし加熱することが好ましい。
【0025】
本発明は、このように事前に加温ないし加熱させた焼結磁石体に上述のスラリー塗布を行い、加熱乾燥させてスラリーの溶媒を除去して上記粉末の塗膜を焼結磁石体表面に形成するものである。その際、特に制限されるものではないが、このスラリー塗布前の加温ないし加熱や、スラリー塗布後の加熱乾燥は、赤外線照射によって行うことが好ましく、特に波長0.8〜5μmの近赤外線を照射して行うことが好ましい。
【0026】
このような近赤外線を照射するヒータとしては、上記波長の近赤外線を発生することができるものであればよく、市販の赤外線ヒーターユニットを使用することができる。例えば、ヘレウス社のTwin Tube透明石英ガラス製短波長赤外線ヒーターユニット(ZKBシリーズやZKCシリーズ)などを用いることができる。なお、加温ないし加熱条件や乾燥条件は、焼結磁石体の大きさや形状、スラリーの濃度、室温などに応じて、ヒータ出力、加熱時間、冷却時間などを適宜設定すればよい。
【0027】
ここで、近赤外線照射は、非常に効率よく対象物を加熱することができるが、スラリーの乾燥に用いる場合には、蒸発分を持ち去ることはできないので、適宜な排気手段などにより焼結磁石体の周囲から溶媒の蒸発分を排除することが好ましく、これにより更に効率的に乾燥を行うことができる。
【0028】
上記焼結磁石体を事前に加温ないし加熱し、上記スラリーを塗布し、乾燥させる上記粉末塗布工程は、例えば
図1〜3に示した塗布装置を用いて行うことができる。
【0029】
即ち、
図1〜3は、本発明の一実施例にかかる希土類化合物の塗布装置を示す概略図であり、この塗布装置は、四角ブロック状の焼結磁石体の片面のみに上記スラリーをローラ塗布するものである。図中1は、上記焼結磁石体mを載置して搬送する搬送コンベアであり、図示しない駆動源により、間欠駆動されて上面に載置した焼結磁石体mを間欠的に水平搬送するようになっている。そして、この搬送コンベア1の上流側端部(
図1,2の右側端部)に焼結磁石体mを供給して搬送し、その搬送中に焼結磁石体を加温ないし加熱し、上記スラリーを塗布し、乾燥させて上記希土類化合物を含む粉末を塗布し、該搬送コンベア1の下流側端部(
図1,2の右側端部)から粉末が塗布された焼結磁石体mをするようになっている。
【0030】
図中2は、上記搬送コンベア1の搬送方向中間部に存して、該搬送コンベア1上に載置された上記焼結磁石体mの上面に上記スラリーを塗布するスラリー塗布手段であり、このスラリー塗布手段2は、塗布ローラ21と該塗布ローラ21に随時スラリーを含浸させるスラリー供給機構部22を具備している。
【0031】
上記塗布ローラ21は、水平軸211及び鉛直軸212に懸架され、図中に矢印で示したように、搬送方向中間部において上記搬送コンベア1の上方で水平方向及び鉛直方向に移動可能になっている。
【0032】
上記スラリー供給機構部22は、スラリー流出槽221とスラリー受入槽222を浅底のスラリー供給バット223で連結したものであり、上記塗布ローラ21の配設位置に存して上記搬送コンベア1の一側方に近接して配設されている。上記スラリー流出槽221の上端開口面はスラリー受入槽222の上端開口面よりも高い位置に配置されており、このスラリー流出槽221から溢れ出たスラリーsが上記スラリー供給バット223を介して上記スラリー受入槽222に流入し、スラリーsはポンプ224及び返送管225によってスラリー受入槽222から上記スラリー流出槽221へと戻され、スラリーsが循環するようになっている。このとき、上記スラリー供給バット223には層状にゆっくりと流れるスラリー溜まりが形成されるようになっている。
【0033】
そして、上記塗布ローラ21が水平及び上下に移動することにより、上記スラリー供給バット223にローラ部が浸漬されて塗布ローラ21にスラリーsが含浸され、塗布ローラ21が再び上下及び水平に移動して上記搬送コンベア1上に戻り、該搬送コンベア1上の焼結磁石体mにスラリーをローラ塗布するようになっている。なお、図中23は、上記塗布ローラ21の配設位置に存して上記搬送コンベア1の他側方に近接して配設された超音波洗浄器であり、上記ローラ21を随時この超音波洗浄器で洗浄して、粉末の固着などによってスラリー塗布が不均一になることを防止するようになっている。このローラ洗浄は、通常は塗布操作の休止時に行われる。
【0034】
ここで、上記塗布ローラ21に特に制限は無く、多種多彩な毛が植毛された所謂塗布用ローラ、スポンジローラ、ゴムローラ、樹脂ローラ、金属ローラなどの公知のローラから選択することができる。なお本例では、スラリーを含浸しやすく定期的な洗浄も容易なスポンジローラが採用されている。また、ローラの幅は、焼結磁石体mの大きさや形状に応じて適宜設定すればよいが、均一なスラリー塗布をより確実に行うためには、10mm〜300mmとすることが好ましく、より好ましくは30mm〜100mmである。
【0035】
図中3は、上記スラリー塗布手段2よりも搬送方向上流側に存して上記搬送コンベア1上に配設された事前加熱手段であり、この事前加熱手段3は赤外線ヒータ31により搬送コンベア1上の焼結磁石体mに赤外線を照射して該焼結磁石体mを上述した所定温度に加温ないし加熱するようになっている。
【0036】
この事前加熱手段3の下流側近傍には、上記事前加熱手段3の下を搬送される焼結磁石体mにシート状薄層気流を吹き付けて焼結磁石体m表面に付着した粉塵等を除去するエアナイフ41が配設されている共に、事前加熱手段3の下流側近傍に除去した粉塵等を含む気流を吸引して搬送コンベア1上から排除する集塵ダクト42が配設されており、これらエアナイフ41と集塵ダクト42とで焼結磁石体m表面をクリーニングするクリーニング手段4が構成されている。
【0037】
図中5は、上記スラリー塗布手段2よりも搬送方向下流側に存して上記搬送コンベア1上に配設された乾燥手段であり、赤外線ヒータ51とその上下流両側に配設された排気ダクト52,52とで構成されている。この乾燥手段5は、上記赤外線ヒータ51から搬送コンベア1上の焼結磁石体mに赤外線を照射して加熱し、該焼結磁石体mに塗布された上記スラリーの溶媒を蒸発させて除去し希土類化合物を含む粉末を塗着させるものであり、このとき蒸発した溶媒を上記排気ダクト52,52で排気することにより、気化した溶媒を焼結磁石体mの周囲から除去して効果的に乾燥を行うようになっている。
【0038】
ここで、上記事前加熱手段3や乾燥手段5を構成する赤外線ヒータ31,51としては、特に制限されるものではないが、波長0.8〜5μmの近赤外線を照射するのが好ましく、本例の装置では、赤外線ヒータ31,51のいずれについても、ヘレウス社Twin Tubeの透明石英ガラス製短波長赤外線ヒーターユニット(ZKB1500/200G 冷却ファン付き、出力1500W、加熱長200mm)が用いられている。
【0039】
この波長0.8〜5μmの短波長の赤外線を照射するヒータは、立ち上がりが速く1〜2秒で有効な加熱を開始することができると共に、10秒以内で100℃まで加熱することも可能であり、極めて短時間で焼結磁石体を加温ないし加熱することができる。更に、誘導加熱を行う場合に比べて安価に構成することができ、電力消費の点でも有利である。また、上記近赤外線照射による輻射加熱によれば、加熱乾燥の際に近赤外線がスラリー塗膜の内部にも透過・吸収して加熱乾燥を行うことができるので、例えば外部から熱風を当てて乾燥を行った場合のように塗膜の外側から乾き始めることによりひび割れが生じることを可及的に防止することができ、均一で緻密な粉体の塗膜を形成することができる。更に、上記短波長の近赤外線を発生するヒータ管は比較的小さく、塗布装置の小型化にも寄与する。
【0040】
この塗布装置を用いて、上記焼結磁石体mの表面に上記R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末(希土類化合物の粉末)を塗布する場合は、上記搬送コンベア1の上流側端部に焼結磁石体mを供給して該搬送コンベア1により間欠的に水平方向に搬送する。
【0041】
搬送コンベア1上に載置され間欠的に水平搬送される焼結磁石体mは、上記事前加熱手段3の下で間欠的に停止した際に、該事前加熱手段3の上記赤外線ヒータ31より赤外線が照射され、上述した所定温度に加温ないし加熱される。また、このとき上記クリーニング手段4により、上述したとおりにして焼結磁石体m表面の粉塵等が除去され、焼結磁石体mが加温ないし加熱されると共に、その表面がクリーニングされる。
【0042】
次に、上記スラリー塗布手段2の塗布ローラ21の下に移動し停止した際に、該塗布ローラ21の上下動及び水平移動により、予め上記事前加熱手段3によって所定温度に加温ないし加熱された焼結磁石体mの表面に塗布される。このとき、塗布ローラ21には上記スラリー供給機構部22によって上述した手順により随時スラリーsが供給含浸され、常に一定量のスラリーsが確実に塗布される。
【0043】
スラリーsが塗布された焼結磁石体mは、次いで上記乾燥手段5の下に搬送され間欠的に停止し、上記乾燥手段5の赤外線ヒータ51により赤外線が照射され加熱乾燥されて、スラリーsの溶媒が蒸発して上記粉末が塗着し、焼結磁石体mの表面に該粉末の塗膜が形成される。このとき蒸発して気化した溶媒が、上記排気ダクト52により排気されて焼結磁石体mの周囲から除去され、効率的に上記乾燥処理が行われる。
【0044】
そして、乾燥後の焼結磁石体mは更に水平搬送され、上記搬送コンベア1の下流側端部で、作業員やロボットアームなどにより回収される。
【0045】
ここで、上記搬送コンベア1の下流側端部から回収した焼結磁石体mを、再び搬送コンベア1の上流側端部に供給して上記希土類化合物の塗布操作を複数回繰り返して希土類化合物の粉末を重ね塗りすることにより、より厚い塗膜を得ることができると共に、塗膜の均一性をより向上させることもできる。塗布操作の繰り返しは、同一の塗布装置を用いて複数回の塗布処理を行ってもよく、また複数台の塗布装置を並設して塗布操作を繰り返するようにしてもよい。これにより、薄く重ね塗りを行って所望の厚さの塗膜とすることができ、良好に粉末の塗布量を調節することができる。また、薄く重ね塗りすることにより乾燥時間を短縮して時間的効率を向上させることも可能となる。この場合、塗布操作の繰り返しでは、必ずしも事前加熱処理をその都度行う必要はなく、事前加熱処理を行った後に複数回のスラリー塗布/乾燥を繰り返すようにしてもよい。
【0046】
更に、焼結磁石体mの表裏両面に粉末の塗布を行う場合には、上記搬送コンベア1の下流端部で回収した焼結磁石体mを作業員やロボットアームなどによって裏返して、再び搬送コンベア1の上流側端部に供給し、同様に粉末の塗布を行えばよい。この場合も、同一の塗布装置を用いて表裏両面の塗布処理を行ってもよく、また表面用の塗布装置と裏面用の塗布装置を並接して表裏両面の塗布操作を行うようにしてもよい。勿論、表裏両面についてそれぞれ上記重ね塗りを行ってもよい。
【0047】
このように、上記塗布装置を用いて希土類化合物の粉末の塗布が行われる本発明の製造方法によれば、スラリー塗布前に焼結磁石体mを所定温度に加温ないし加熱し、この加温ないし加熱した焼結磁石体mにスラリーsを塗布し、乾燥させて希土類化合物の粉末の塗膜を形成するものである。そして、事前に焼結磁石体mを温めておくことにより、スラリー塗布後の加熱乾燥の際に極めて短時間に乾燥を完了することができ、赤外線照射による本例装置の乾燥手段5によれば、殆ど瞬時にスラリーの溶媒を蒸発させて乾燥させることができるので、スラリーsが不要な側面部にタレるようなことがなく、均一な塗膜を効率よく確実に形成することができるものである。
【0048】
即ち、本例の装置では、上記スラリーsをローラ塗布することにより、焼結磁石体m表面の必要箇所のみに部分的にスラリー塗布を行って当該必要箇所に部分的に塗膜を形成することができるので、貴重な希土類化合物を含む上記粉末の処理用を効果的に削減することができ
る。この場合に本発明によれば、上記のようにスラリー塗布後の乾燥を極めて短時間に完了することができるので、保磁力増大を必要としない側面部などへのスラリーのダレを可及的に防止して、貴重な希土類化合物を含む粉末を無駄に消費することを防止して、極めて効率的に保磁力の増大を図ることができる。
【0049】
また、本例では、スラリー塗布前の事前加熱(加温)や塗布後の加熱乾燥を、波長0.8〜5μmの短波長の近赤外線を照射する輻射加熱によって行うことにより、短時間で効率的に事前加熱(加温)や加熱乾燥を行うことでき、しかもひび割れ等を生じることなく上記粉末による均一な塗膜を確実に得ることができ、更に塗布装置の小型化を図ることもできる。
【0050】
即ち、上記短波長の近赤外線を照射する赤外線ヒータ31,51は、立ち上がりが速く、極めて短時間で加熱や加温を完了することができる。更に、誘導加熱を行う場合に比べて安価に構成することができ、電力消費の点でも有利である。従って、より安価に効率よく焼結磁石体sを加温ないし加熱し、またスラリーsを乾燥させて上記粉体の塗布を行うことができる。更に、上記近赤外線照射による輻射加熱による乾燥処理によれば、近赤外線がスラリー塗膜の内部にも透過・吸収して加熱や加温を行うことができるので、例えば外部から熱風を当てて加熱/加温や乾燥を行った場合のように塗膜の外側から乾き始めることによりひび割れが生じることを可及的に防止することができ、均一で緻密な粉体の塗膜を形成することができる。また、上記短波長の近赤外線を発生するヒータ管は比較的小さく、乾燥器や塗布装置を小型化することができ、小規模な設備で効率的に希土類磁石を製造することができる。
【0051】
なお、本発明の塗布装置は、上記
図1〜3の装置に限定されるものではなく、例えば図では搬送コンベア1としてベルトコンベアを示したが、ローラコンベアを用いることもでき、また
図2に一点鎖線で示したように、コンベアベルトの裏側に反射シート32を配設して赤外線を反射させ、より効率よく焼結磁石体mを加温ないし加熱するようにしてもよい。更に、
図1〜3の装置では塗布ローラ21を用いてローラ塗布を行うように構成したが、場合によってはスプレー塗布や浸漬塗布を行うようにすることも可能であり、事前加熱手段3、乾燥手段5、スラリー供給機構部22など、その他の構成についても、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して差し支えない。
【0052】
本発明の希土類磁石の製造方法では、このようにして上記粉末を塗布した焼結磁石体を熱処理し、粉末中の上記R
2で示される希土類元素を吸収拡散させる。上記R
2で示される希土類元素を吸収拡散させる上記熱処理は、公知の方法に従って行えばよい。また、上記熱処理後、適宜な条件で時効処理を施したり、更に実用形状に研削するなど、必要に応じて公知の後処理を施すこともできる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明のより具体的な態様について実施例をもって詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0054】
[実施例1〜4及び比較例]
Ndが14.5原子%、Cuが0.2原子%、Bが6.2原子%、Alが1.0原子%、Siが1.0原子%、Feが残部からなる薄板状の合金を、純度99質量%以上のNd、Al、Fe、Cuメタル、純度99.99質量%のSi、フェロボロンを用いてAr雰囲気中で高周波溶解した後、銅製単ロールに注湯するいわゆるストリップキャスト法により薄板状の合金とした。得られた合金を室温にて0.11MPaの水素化に曝して水素を吸蔵させた後、真空排気を行ないながら500℃まで加熱して部分的に水素を放出させ、冷却してから篩いにかけて、50メッシュ以下の粗粉末とした。
【0055】
上記粗粉末を、高圧窒素ガスを用いたジェットミルで粉末の重量中位粒径5μmに微粉砕した。得られたこの混合微粉末を窒素雰囲気下15kOeの磁界中で配向させながら、約1ton/cm
2の圧力でブロック状に成形した。この成形体をAr雰囲気の焼結炉内に投入し、1060℃で2時間焼結して磁石ブロックを得た。この磁石ブロックをダイヤモンドカッタ−を用いて全面研削加工した後、アルカリ溶液、純水、硝酸、純水の順で洗浄し乾燥させて、20mm×45mm×5mm(磁気異方性化した方向)のブロック状磁石体を得た。
【0056】
次いで、フッ化ディスプロシウムの粉末を質量分率40%で水と混合し、フッ化ディスプロシウムの粉末をよく分散させてスラリーを調製し、
図1〜3に示された上記塗布装置を用いて、このスラリーを上記磁石体に塗布し乾燥させて、フッ化ディスプロシウム粉末を塗着させた。その際、
図1に示したように、事前加熱手段3による事前加熱(加温)の温度を変化させて粉末塗布処理を行った(実施例1〜4)。また、比較例として事前加熱手段3による事前加熱(加温)を行わずに同様の粉末塗布処理を行った(比較例)。なお、いずれの例でも、回収した焼結磁石体を再び塗布処理に供して、3回の重ね塗りを行った。この場合、実施例1〜4においてはスラリー塗布処理/乾燥処理を3回繰り返し、事前加熱処理は最初の1回のみとした。
【0057】
得られた各焼結磁石体の塗布面全体から、粉末をスクレーパーで剥ぎ取り、その重量を測定した。保磁力増大効果がピ−クとなる塗着量を1.00とした時の単位面積当たりの比率を表1に示した。
【0058】
【表1】
【0059】
表1のとおり、焼結磁石体を
事前に加温ないし加熱しておくことにより、塗布面以外にスラリーがダレたりせず瞬時に溶媒が乾燥し、塗膜が形成されることにより、粉末の塗着量が増大することが確認された。それに対し、比較例では同様にローラー塗布しているにもかかわらず塗布量が少なく、その理由は、その分だけ焼結体磁石側面部にスラリーがタレたことによる。
【0060】
[実施例5]
また、実施例3と同様にしてフッ化ディスプロシウム粉末の薄膜を形成した磁石体をAr雰囲気中、900℃で5時間熱処理して吸収処理を施し、更に500℃で1時間時効処理して急冷することにより希土類磁石を得た。
図4に示された9点の場所から2mm×2mm×2mmに磁石体を切り出し、その保磁力を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2のとおり、塗布前に磁石体を温めることで、スラリーが塗布面以外にタレることなく粉末の塗膜が均一に塗着形成されて、更にローラー塗布により面内が均一化され、高価な希土類化合物分をムダなく有効利用できると共に、塗布面での保磁力増大効果もムラなく非常に安定している。