特許第6435992号(P6435992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6435992エピタキシャル成長装置、エピタキシャルウェーハの製造方法およびエピタキシャル成長装置用リフトピン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6435992
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】エピタキシャル成長装置、エピタキシャルウェーハの製造方法およびエピタキシャル成長装置用リフトピン
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20181203BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20181203BHJP
   C23C 16/24 20060101ALI20181203BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20181203BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20181203BHJP
   C30B 25/12 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
   H01L21/205
   H01L21/68 N
   C23C16/24
   C23C16/44 F
   C30B29/06 504L
   C30B25/12
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-109937(P2015-109937)
(22)【出願日】2015年5月29日
(65)【公開番号】特開2016-225444(P2016-225444A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2017年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 雅哉
【審査官】 桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−026192(JP,A)
【文献】 特表2011−505691(JP,A)
【文献】 特開2007−189222(JP,A)
【文献】 特表2009−513027(JP,A)
【文献】 特開2003−142407(JP,A)
【文献】 特開2004−343032(JP,A)
【文献】 特開2002−299260(JP,A)
【文献】 特開2016−092129(JP,A)
【文献】 特開2016−092130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 21/683
C23C 16/24
C23C 16/44
C30B 25/12
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーの内部に、シリコンウェーハを載置するサセプタと、該サセプタを下方から支持し、前記サセプタの中心と同軸上に位置する主柱と該主柱から放射状に延びる支持アームとを有する支持シャフトと、前記サセプタに設けられた貫通孔および前記支持アームに設けられた貫通孔の双方に挿通されて鉛直方向に移動自在に配設された、リフトピンとを備え、該リフトピンを昇降させて前記シリコンウェーハを前記サセプタ上に脱着させるエピタキシャル成長装置において、
前記リフトピンの少なくともその表層域は前記サセプタよりも硬度が低い材料で構成され、
前記サセプタの貫通孔内を通過する前記リフトピンの直胴部上部領域の表面粗さが0.1μm以上0.3μm以下であり、かつ、
前記支持アームの貫通孔内を通過する前記リフトピンの直胴部下部領域の表面粗さが1μm以上10μm以下であることを特徴とするエピタキシャル成長装置。
【請求項2】
前記リフトピンの少なくともその表層域がガラス状カーボンからなり、前記サセプタは少なくともその表層域が炭化珪素(SiC)からなり、前記支持アームは石英からなる、請求項1に記載のエピタキシャル成長装置。
【請求項3】
前記リフトピンの下端部が丸み加工されている、請求項1または2に記載のエピタキシャル成長装置。
【請求項4】
請求項1〜3に記載のエピタキシャル成長装置を用いてシリコンウェーハ上にエピタキシャル膜を成長させることを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項5】
シリコンウェーハ上にエピタキシャル層を気相成長させるエピタキシャル成長装置内に設置するサセプタに設けられた貫通孔および前記サセプタの下部を支持する支持アームに設けられた貫通孔の双方に挿通され、前記シリコンウェーハを前記エピタキシャル成長装置内に搬入する際または前記エピタキシャル成長装置から取り出す際に前記シリコンウェーハの裏面を支持して昇降されるリフトピンであって、
少なくとも表層域が前記サセプタよりも硬度が低い材料で構成され、かつ前記サセプタの貫通孔内を通過する前記リフトピンの直胴部上部領域の表面粗さよりも、前記支持アームの貫通孔内を通過する前記リフトピンの直胴部下部領域の表面粗さが大きいことを特徴とするエピタキシャル成長装置用リフトピン。
【請求項6】
前記直胴部上部領域の表面粗さが0.1μm以上0.3μm以下であり、かつ、前記直胴部下部領域の表面粗さが1μm以上10μm以下である、請求項5に記載のエピタキシャル成長装置用リフトピン。
【請求項7】
少なくとも表層域がガラス状カーボンからなる、請求項5または6に記載のエピタキシャル成長装置用リフトピン。
【請求項8】
前記リフトピンの下端部が丸み加工されている、請求項5〜7のいずれか一項に記載のエピタキシャル成長装置用リフトピン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル成長装置、エピタキシャルウェーハの製造方法およびエピタキシャル成長装置用リフトピンに関し、特に、エピタキシャルシリコンウェーハ裏面への疵発生を低減できるとともに、ウェーハ表面へのパーティクルの付着を低減できるエピタキシャル成長装置、エピタキシャルウェーハの製造方法およびエピタキシャル成長装置用リフトピンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリコンウェーハは、チョクラルスキー(Czochralski、CZ)法等により単結晶シリコンを育成し、該シリコン単結晶をブロックに切断した後、薄くスライスし、平面研削(ラッピング)工程、エッチング工程および鏡面研磨(ポリッシング)工程を経て最終洗浄することにより得られる。その後、各種品質検査を行って異常が確認されなければ製品として出荷される。
【0003】
ここで、結晶の完全性がより要求される場合や抵抗率の異なる多層構造を必要とする場合などには、前記シリコンウェーハ上に単結晶シリコン薄膜を気相成長(エピタキシャル成長)させてエピタキシャルウェーハを製造する。
【0004】
エピタキシャルウェーハの製造には、例えば枚葉式エピタキシャル成長装置を用いる。ここで、一般的な枚葉式エピタキシャル成長装置について、図1を参照して説明する。図1に示すように、エピタキシャル成長装置100は、上部ドーム11、下部ドーム12およびドーム取付体13に囲まれたチャンバー2を有する。このチャンバー2は、その側面の対向する位置に反応ガスの供給及び排出を行うガス供給口31及びガス排出口32が設けられる。
【0005】
一方、チャンバー2内には、シリコンウェーハWが載置されるサセプタ4が配置される。サセプタ4は、回転可能な主柱7aに連結された支持アーム7bによってその下面の外周部が嵌合支持され、支持アーム7bとともに回転する。また、サセプタ4および支持アーム7bには、シリコンウェーハWの昇降を行うためのリフトピン5を通過させる貫通孔4hおよび7hが形成されている。また、リフトピン5は、その基端を昇降シャフト6により支持されて昇降される。
【0006】
すなわち、チャンバー2内に導入したシリコンウェーハWは、サセプタ4の貫通孔4hおよび支持アーム7bの貫通孔7hに挿通したリフトピン5をサセプタ4の上方に向けて移動し、リフトピン5の頭部をシリコンウェーハWの裏面に当接させてシリコンウェーハWをリフトピン5で一旦支持する。ここで、前記リフトピン5の上昇移動は、該リフトピン5の基端を支持する昇降シャフト6の上昇移動を介して行う。
【0007】
次いで、前記サセプタ4を支持する支持シャフト7を上昇させてサセプタ4をシリコンウェーハWの位置まで移動し、シリコンウェーハWをサセプタ4上に載置する。この状態において、リフトピン5の頭部は、サセプタ4の貫通孔4hの拡径部(図示せず)内に収められる。かように、シリコンウェーハWをサセプタ4上に載置し、例えばサセプタ4の上方および下方に配置した複数台の加熱ランプ14によりシリコンウェーハWを1000℃以上の温度に加熱する一方、エピタキシャル膜形成室2内に反応ガスを供給して、所定の厚さのエピタキシャル膜を成長させてエピタキシャルウェーハを製造する。
【0008】
その後、支持アーム7bの下降によってサセプタ4を下降する。この下降は、リフトピン5が昇降シャフト6に支持されサセプタ4から突出する位置まで行い、シリコンウェーハWをリフトピン5にて支持しておく。そして、チャンバー2内に図示しない搬送ブレードを導入し、リフトピン5を下降して搬送ブレード上にシリコンウェーハWを載置することにより、シリコンウェーハWをリフトピン5から搬送ブレードに受け渡す。その後、搬送ブレードとともにシリコンウェーハWを成長装置100から退出させる。
【0009】
近年の半導体デバイスの微細化・高集積化に伴って、結晶欠陥やウェーハの表面に付着したパーティクルの低減が要求されている。こうした背景の下、特許文献1には、リフトピンが摺動して生じる摩耗分に注目し、リフトピンおよびサセプタの表面を炭化シリコン(SiC)で形成し、サセプタと接触するリフトピンの領域を研磨して0.2μmから5μmの表面粗さとすることにより、エピタキシャル成長中に生じるパーティクルの付着や結晶欠陥の形成を低減できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−299260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載された発明では、リフトピン表面の材質がSiCで構成されることから、リフトピン昇降時にリフトピンの頂部と接するウェーハの裏面部位において、接触疵が発生してしまう問題がある。
すなわち、特許文献1に記載される発明に限らず、一般的に、サセプタ4は、耐熱性および耐酸性の観点から、カーボン基材をSiCで被覆したもの、あるいは基材そのものをSiC製としたもの等が用いられ、リフトピンも同様にカーボン基材をSiCで被覆したもの、あるいは基材そのものをSiC製としたものが用いられている。
【0012】
しかし、SiCは耐熱性・耐酸性に優れるものの、その硬度は高いため、SiC製のリフトピンを用いた場合、リフトピン5の先端部とシリコンウェーハWの裏面とが接触した際に、ウェーハWの裏面に接触疵や接触痕を発生させてしまう問題がある。現況の高集積化デバイスにおいては、シリコンウェーハWの裏面とリフトピン5との接触によるウェーハW裏面への接触疵を可及的に低減することが希求される状況下にあり、裏面疵が低減されたエピタキシャルシリコンウェーハの提供が必要とされる。
【0013】
本発明の目的は、エピタキシャルシリコンウェーハ裏面への疵発生を低減できるとともに、ウェーハ表面へのパーティクルの付着を低減できるエピタキシャル成長装置、エピタキシャルウェーハの製造方法およびエピタキシャル成長装置用リフトピンを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は、リフトピン5の材質をSiCよりも硬度が低い材質で構成することにより、シリコンウェーハ裏面への疵発生を低減させるとともに、リフトピン5の表面粗さを調整することにより、パーティクルの発塵を低減させることを想起し、様々な実験を重ねたところ、以下の知見を得た。
【0015】
まず、サセプタ4よりも硬度が低い材質でリフトピン5を作製してエピタキシャル成長処理を行ったところ、シリコンウェーハWの裏面への接触疵の発生を大幅に低減できることが確認されたが、ウェーハ表面へのパーティクルの付着量が増加することが確認された。
【0016】
発明者は、ウェーハ表面にパーティクルが付着する原因は、サセプタ4とリフトピン5との接触によるパーティクルの発生が原因と推察し、サセプタ4と接触する領域の表面粗さをできるだけ小さくした平坦性に優れるリフトピン5を使用して実験を行った。その結果、ウェーハ表面へのパーティクルの付着量の低減効果は確認されたが、ウェーハ表面へのパーティクルの付着量が急激に増加する異常現象が度々発生することが新たに確認された。
【0017】
このパーティクルの急激な増加は突発的に発生することから、エピタキシャル成長処理中に、何らしかのトラブルが発生していることが予想される。このため、発明者は、エピタキシャル成長処理中に、リフトピン5の昇降動作が正常に行われているとどうかの確認を行った。具体的には、チャンバー2を開放した状態で原料ガスなどは流さずに、室温のサセプタ4上にシリコンウェーハWを載置した状態で、昇降シャフト6を駆動してリフトピン5を上下に昇降させる操作を繰り返して行い、リフトピン5の昇降動作を目視で確認する実験を行った。
【0018】
その結果、昇降シャフト6を下降させてリフトピン5を下方に降した際、一部のリフトピン5が支持アーム7bの貫通孔4h内で引っかかり、リフトピン5が下がりきらず、その後、引っかかりが開放されてリフトピン5が下方に勢いよく落ちる現象が確認された。
【0019】
おそらく、エピタキシャル成長処理中も、このリフトピン5が落ちるという異常動作が発生しているものと推察され、このリフトピン5の落下現象により、リフトピン5とサセプタ4との接触により発生した粉塵がサセプタ4より上方に舞い上げられてしまい、シリコンウェーハWの表面に回り込むパーティクル量を突発的に増大させているものと推測される。
【0020】
そこで、発明者は、リフトピン5と支持アーム7bとの引っかかりを抑制してウェーハ表面へのパーティクルの付着を抑制できる方途について鋭意検討した結果、リフトピン5における支持アーム7bの貫通孔7h内を移動する部分のリフトピン5の外表面の表面粗さを小さくするのではなく、逆に表面粗さを大きくすることが有効であることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0021】
本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)チャンバーの内部に、シリコンウェーハを載置するサセプタと、該サセプタを下方から支持し、前記サセプタの中心と同軸上に位置する主柱と該主柱から放射状に延びる支持アームとを有する支持シャフトと、前記サセプタに設けられた貫通孔および前記支持アームに設けられた貫通孔の双方に挿通されて鉛直方向に移動自在に配設された、リフトピンとを備え、該リフトピンを昇降させて前記シリコンウェーハを前記サセプタ上に脱着させるエピタキシャル成長装置において、前記リフトピンの少なくともその表層域は前記サセプタよりも硬度が低い材料で構成され、前記サセプタの貫通孔内を通過する前記リフトピンの直胴部上部領域の表面粗さが0.1μm以上0.3μm以下であり、かつ、前記支持アームの貫通孔内を通過する前記リフトピンの直胴部下部領域の表面粗さが1μm以上10μm以下であることを特徴とするエピタキシャル成長装置。
【0022】
(2)前記リフトピンの少なくともその表層域がガラス状カーボンからなり、前記サセプタは少なくともその表層域が炭化珪素(SiC)からなり、前記支持アームは石英からなる、前記(1)に記載のエピタキシャル成長装置。
【0023】
(3)前記リフトピンの下端部が丸み加工されている、前記(1)または(2)に記載のエピタキシャル成長装置。
【0024】
(4)前記(1)〜(3)に記載のエピタキシャル成長装置を用いてシリコンウェーハ上にエピタキシャル膜を成長させることを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
【0025】
(5)シリコンウェーハ上にエピタキシャル層を気相成長させるエピタキシャル成長装置内に設置するサセプタに設けられた貫通孔および前記サセプタの下部を支持する支持アームに設けられた貫通孔の双方に挿通され、前記シリコンウェーハを前記エピタキシャル成長装置内に搬入する際または前記エピタキシャル成長装置から取り出す際に前記シリコンウェーハの裏面を支持して昇降されるリフトピンであって、少なくとも表層域が前記サセプタよりも硬度が低い材料で構成され、かつ前記サセプタの貫通孔内を通過する前記リフトピンの直胴部上部領域の表面粗さよりも、前記支持アームの貫通孔内を通過する前記リフトピンの直胴部下部領域の表面粗さが大きいことを特徴とするエピタキシャル成長装置用リフトピン。
【0026】
(6)前記直胴部上部領域の表面粗さが0.1μm以上0.3μm以下であり、かつ、前記直胴部下部領域の表面粗さが1μm以上10μm以下である、前記(5)に記載のエピタキシャル成長装置用リフトピン。
【0027】
(7)少なくとも表層域がガラス状カーボンからなる、前記(5)または(6)に記載のエピタキシャル成長装置用リフトピン。
【0028】
(8)前記リフトピンの下端部が丸み加工されている、前記(5)〜(7)のいずれか一項に記載のエピタキシャル成長装置用リフトピン。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、エピタキシャルシリコンウェーハ裏面への疵発生を低減できるとともに、ウェーハ表面へのパーティクルの付着を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】一般的なエピタキシャル成長装置を示す図である。
図2】本発明によるエピタキシャル成長装置を示す図である。
図3】本発明によるエピタキシャル成長装置におけるリフトピンの周辺領域を示す図である。
図4】支持アームの貫通孔内を通過するリフトピンの領域(直胴部下部領域)の表面粗さとリフトピンの昇降不具合発生率との関係を示す図である。
図5】サセプタの貫通孔内を通過するリフトピンの領域(直胴部上部領域)の表面粗さとウェーハ1枚当たりの平均LPDの個数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明について詳しく説明する。
図2は、本発明によるエピタキシャル成長装置1を示している。また、図3は、エピタキシャル成長装置1におけるリフトピン15の周辺領域を示している。なお、図1と同じ構成には同じ符号が付されており、説明を省略する。図2および3に示すように、本発明によるエピタキシャル成長装置1は、サセプタ4よりも硬度が低い材料、すなわち柔らかい材料で構成されたリフトピン15を有しており、このリフトピン15は、サセプタ4の貫通孔4hおよび支持アーム17bの貫通孔17hに挿通され、鉛直方向に移動自在に配設されている。
【0032】
図3に示すように、リフトピン15は、棒状の直胴部15aと、該直胴部15aおよび貫通孔4hより太径の頭部15bとを有しており、頭部15bがサセプタ4の貫通孔4hの拡径部4wに係合するように構成されている。なお、リフトピンは、棒状の直胴部の先端にシリコンウェーハを直接支持する頭部を有するものであれば、形状は限定する必要はなく、従って、図示の形状に限定されない。
【0033】
上述のように、リフトピン15は、サセプタ4よりも硬度が低い材料、すなわち柔らかい材料で構成する。これにより、ウェーハWの裏面への接触疵の発生を大幅に低減できる。リフトピン15は、具体的には、ガラス状カーボン、黒鉛、石英、窒化アルミニウム、フォルステライト、コージェライト、イットリア、ステアタイト等を用いることができる。中でも、ガラス状カーボンは成型加工に優れ、高純度かつ耐熱性、耐酸性に優れる。なお、リフトピン15全体を上記材料で構成する必要はなく、少なくともその表層域がサセプタの表面材質よりも柔らかい材料で構成されていればよい。例えば、SiC等の硬度が高い基材の表面に上記材料を被覆してリフトピン15を構成することができる。
【0034】
サセプタ4は、高純度かつ高温環境下での使用に耐え得る耐熱性、耐酸性の観点から、カーボン基材の表面をSiCで被覆したものや、基材そのものをSiC製としたもの等で構成するのが通例である。
【0035】
本発明においては、支持アーム17bの貫通孔17h内を通過するリフトピン15の直胴部15a上の領域(以下、「直胴部下部領域」と称する)15cの表面粗さが1μm以上であることが肝要である。上述のように、リフトピンをサセプタよりも柔らかい材料で構成した場合に、昇降シャフトを下降させてリフトピンを下方に降した際、一部のリフトピンが支持アームの貫通孔内で引っかかることが判明した。
【0036】
この原因は必ずしも明らかではないが、リフトピン表層域の粗さが大きい方が、支持アームの貫通孔を区画する壁面に対する接触面積が低下するため、貫通孔内における摺動性が高められる結果、引っかかりの発生を抑制できるものと推測される。
【0037】
そこで、本発明においては、支持アーム17bの貫通孔17h内を通過するリフトピン15の直胴部下部領域15cの表面粗さを1μm以上とする。ここで、直胴部下部領域15cの表面粗さが1μm未満場合には、上記引っかかりの発生を十分に抑制することができなかった。
【0038】
また、上記支持アーム17bの貫通孔17h内を通過するリフトピン15の直胴部下部領域15cの表面粗さの上限は、上記引っかかりの発生の防止の点では特に限定されるものではないが、表面粗さの調整加工の容易性の観点から10μm以下にすることが望ましい。なお、本発明において、「表面粗さ」とは、JIS B 0601(2001年)に規定の算術平均粗さRaを意味している。
【0039】
このような、リフトピン15の表面粗さは、機械加工などの研磨処理により調整することができる。また、支持アーム17bの貫通孔17h内の壁面17sの表面粗さは、一般的に機械加工、エッチング、焼入れ、ブラスト処理等により調整され、概ね0.5μm以下の表面粗さに調整される。
【0040】
また、本発明において、サセプタ4の貫通孔4h内を通過するリフトピン15の直胴部15a上の領域(以下、「直胴部上部領域」と称する)15dの表面粗さは0.1μm以上0.3μm以下とする。本発明においては、リフトピン15をサセプタ4よりも柔らかい材料で構成するため、サセプタ4の貫通孔4h内を通過するリフトピン15の直胴部上部領域15dの表面粗さを0.3μm以下とすることにより、上記した発塵を抑制する効果を達成することができる。また、表面粗さを0.1μm以上とすることにより、加工コストが嵩むことなく発塵の発生を効果的に抑制することができる。
なお、リフトピンの頭部15bの下面部は、サセプタ4の貫通孔4hの拡径部4wと接触するため、頭部15bの下面部の表面粗さは0.3μm以下にすることが好ましい。
【0041】
このように、本発明によるリフトピン15は、サセプタ4の貫通孔4h内を通過する直胴部上部領域15dと、支持アーム17bの貫通孔17h内を通過する直胴部下部領域15cとでは異なる表面粗さを有しており、直胴部上部領域15dの表面粗さよりも、直胴部下部領域15cの表面粗さの方が大きく構成されている。
【0042】
なお、サセプタ4の貫通孔4hを区画する壁面4sの表面粗さについても0.1μm以上0.3μm以下であることが好ましい。これにより、発塵の抑制効果をより高めることができる。
【0043】
また、リフトピン15の下端部が丸み加工されていることが好ましい。上述のように、リフトピン15は、サセプタ4の貫通孔4hおよび支持アーム17bの貫通孔17hの双方に挿通されており、上下方向に移動可能に構成されている。その際、リフトピン15と貫通孔4hおよび17hとの間には、リフトピン15が貫通孔4hおよび17h内をスムーズに移動可能なように、わずかな隙間(クリアランス)が設けられている。
【0044】
そのため、リフトピン15が昇降運動する際に、リフトピン15が傾斜して、リフトピン15が昇降運動する際の軌道から外れる場合があるが、リフトピン15の下端部に対して丸み加工を施して丸みを有するようにすることにより、リフトピン15の軌道を回復させることができ、軌道からの逸脱により生じたリフトピン15とサセプタ4との摺動による粉塵の発生を抑制できる。
【0045】
こうして、本発明により、エピタキシャルシリコンウェーハ裏面への疵発生を低減できるとともに、ウェーハ表面へのパーティクルの付着を抑制することができる。
【実施例】
【0046】
<リフトピンの作製>
表1に示す直胴部上部領域および直胴部下部領域の表面粗さを有する8水準のリフトピン(発明例1〜4、比較例1〜4)を作製した。その際、全てのリフトピンをガラス状カーボンで作製した。
【0047】
【表1】
【0048】
<リフトピン昇降不具合動作確認実験>
作製した発明例1〜4および比較例1〜4のリフトピンのそれぞれを、図2に示したエピタキシャル成長装置1に適用し、サセプタ上にシリコンウェーハWを載置した状態でリフトピンを昇降動作させた場合に、動作に不具合が発生するか否かを確認する動作確認実験を行った。この動作確認実験は、エピタキシャル成長装置1の上部ドーム11を開放した室温状態で行い、動作不具合発生の確認は目視で行った。昇降動作の回数は100回とし、往復の動作を1回としてカウントした。
【0049】
図4は、直胴部下部領域の表面粗さとリフトピンの昇降不具合発生率との関係を示している。図4から明らかなように、リフトピンの昇降不具合発生率は、直胴部下部領域の表面粗さが増加するにつれて減少し、表面粗さが1μm以上の場合にはリフトピンの昇降動作に不具合が発生しなかった。これに対して、直胴部下部領域の表面粗さが1μm未満の場合には、リフトピンの昇降動作に不具合が観察された。このように、直胴部下部領域の表面粗さが1μm以上である場合には、リフトピンの昇降動作の不具合の発生を防止できることが分かる。
【0050】
<エピタキシャルウェーハ製造実験1>
発明例1および2、並びに比較例1および2のリフトピンのそれぞれを図2に示したエピタキシャル成長装置1に適用して、エピタキシャルウェーハを製造した。ここで、サセプタ4は、カーボン基材の表面にSiCコートしたものを用いた。また、エピタキシャルウェーハの基板としては、ボロンがドープされた直径300mmのシリコンウェーハWを用いた。
【0051】
エピタキシャルウェーハの製造は、まず、シリコンウェーハWをエピタキシャル成長装置1内に導入し、リフトピン15を用いてサセプタ4上に載置した。続いて、水素ガス雰囲気下で1150℃の温度で水素ベークを行った後、1150℃にて、シリコンウェーハWの表面上にシリコンエピタキシャル膜を4μm成長させてエピタキシャルシリコンウェーハを得た。ここで、原料ソースガスとしてはトリクロロシランガスを用い、また、ドーパントガスとしてジボランガス、キャリアガスとして水素ガスを用いた。エピタキシャルウェーハは、発明例および比較例のそれぞれに対して50枚ずつ製造した。
【0052】
<表面品質の評価>
得られたエピタキシャルウェーハについて、エピタキシャル層に形成されたエピタキシャル欠陥の数を評価した。具体的には、表面欠陥検査装置(KLA−Tencor社製:Surfscan SP−2)を用いてDWOモード(Dark Field Wide Obliqueモード:暗視野・ワイド・斜め入射モード)でエピタキシャル層表面を観察評価し、サイズ(直径)が0.25μm以上のLPD(Light Point Defect)の発生状況を調べた。この評価を、それぞれ50枚ずつ作製した発明例1および2、並びに比較例1および2のウェーハに対して行い、ウェーハ1枚当たりのLPDの個数を求めた。その結果、直胴部下部領域の表面粗さが1μmを超える発明例1および2については、突発的なLPD増加の発生が確認されず、リフトピンの昇降動作に不具合が発生しなかったものと推認できる。これら発明例1および2については、製造された全てのエピタキシャルウェーハにおいて、観察されたLPDの個数は1個/wf以下であった。
【0053】
これに対して、直胴部下部領域の表面粗さが1μm未満である比較例1および2については、突発的なLPD増加の発生が確認され、リフトピンの昇降動作に不具合が発生したと推認できる。これら比較例1および2について、観察されたLPDの個数が10個/wfを超えたエピタキシャルウェーハの枚数は、比較例1では2枚、比較例2では2枚であった。
【0054】
<エピタキシャルウェーハ製造実験2>
発明例1および2、並びに比較例1および2と同様に、発明例3および4、並びに比較例3および4のリフトピンを、図2に示したエピタキシャル成長装置1に適用してエピタキシャルウェーハを製造した。ここで、製造条件は、発明例1および2、並びに比較例1および2の場合と全て同じである。
【0055】
上記エピタキシャルウェーハの製造の際、発明例3および4、並びに比較例3および4のいずれについても、直胴部下部領域の表面粗さが1μm以上であるため、突発的なLPD増加の発生は確認されなかった。図5は、発明例1、3および4、並びに比較例3および4に対する、直胴部上部領域の表面粗さとウェーハ1枚当たりの平均LPDの個数との関係を示している。図5から、リフトピンの直胴部上部領域の表面粗さが0.3μm以下である発明例1(表面粗さ:0.15μm)、発明例3(表面粗さ:0.2μm)および発明例4(表面粗さ:0.3μm)については、平均LPDの個数が1個/wf以下を達成しているのに対して、リフトピンの直胴部上部領域の表面粗さが0.3μmを超える比較例3(表面粗さ:0.5μm)および比較例4(表面粗さ:1μm)については、平均LPDの個数が1個/wf以下を達成できないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、エピタキシャルシリコンウェーハ裏面への疵発生を低減できるとともに、ウェーハ表面へのパーティクルの付着を低減できるため、半導体ウェーハ製造業に有用である。
【符号の説明】
【0057】
1,100 エピタキシャル成長装置
2 チャンバー
4 サセプタ
4h,7h,17h 貫通孔
4s,17s 壁面
4w 拡径部
5,15 リフトピン
6 昇降シャフト
7 支持シャフト
7a,17a 主柱
7b,17b 支持アーム
11 上部ドーム
12 下部ドーム
13 ドーム取付体
14 加熱ランプ
15a 直胴部
15b 頭部
15c 直胴部下部領域
15d 直胴部上部領域
31 ガス供給口
32 ガス排出口
W シリコンウェーハ
図1
図2
図3
図4
図5