特許第6436082号(P6436082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6436082圧粉磁心、これを用いたコイル部品および圧粉磁心の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6436082
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】圧粉磁心、これを用いたコイル部品および圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/22 20060101AFI20181203BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20181203BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20181203BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20181203BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20181203BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20181203BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20181203BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20181203BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20181203BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20181203BHJP
   C22C 9/02 20060101ALN20181203BHJP
【FI】
   H01F1/22
   H01F1/24
   H01F1/153 108
   H01F27/255
   H01F41/02 D
   B22F9/04 C
   B22F1/00 Y
   B22F1/02 E
   B22F3/00 B
   C22C45/02 A
   B22F9/04 E
   !C22C9/02
【請求項の数】13
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-527326(P2015-527326)
(86)(22)【出願日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】JP2014068985
(87)【国際公開番号】WO2015008813
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2017年7月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-148393(P2013-148393)
(32)【優先日】2013年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】野口 伸
(72)【発明者】
【氏名】西村 和則
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/139368(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/084812(WO,A1)
【文献】 特開2009−280907(JP,A)
【文献】 特開2010−010529(JP,A)
【文献】 特開2010−114222(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/057153(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/22
B22F 1/00
B22F 1/02
B22F 3/00
B22F 9/04
C22C 45/02
H01F 1/153
H01F 1/24
H01F 27/255
H01F 41/02
C22C 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe系軟磁性合金の軟磁性材料粉とCu粉と用いて構成され、
前記軟磁性材料粉は薄帯の粉砕粉とアトマイズ粉とを含み、
前記粉砕粉は、厚さが10μmから50μmであって、厚さ方向に垂直な方向での粒径は厚さの2倍超であり、
前記アトマイズ粉は、平均粒径が3μm以上であって、前記粉砕粉の厚さの50%以下であり、
前記Cu粉は粒状で、平均粒径が2μm以上であって、前記粉砕粉の厚さ以下であり、
前記薄帯の粉砕粉の間にCu粉とアトマイズ粉とが分散し、バインダーで結着されたことを特徴とする圧粉磁心。
【請求項2】
前記軟磁性材料粉と前記Cu粉との総量を100質量%として、Fe系軟磁性合金のアトマイズ粉の含有量が1質量%以上20質量%以下で、Cu粉の含有量が0.1質量%以上5質量%以下で、残部がFe系軟磁性合金の粉砕粉であることを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記粉砕粉と前記アトマイズ粉とは、アモルファス組織を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記粉砕粉は、アモルファス組織の一部にα−Fe結晶相を備えることを特徴とする請求項3に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記粉砕粉はナノ結晶組織を有し、前記アトマイズ粉はアモルファス組織を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉磁心。
【請求項6】
少なくとも前記Fe系軟磁性合金の粉砕粉の表面にシリコン酸化物の絶縁被膜を備えることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の圧粉磁心。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれかに記載の圧粉磁心と、前記圧粉磁心の周囲に巻装されたコイルとを有することを特徴とするコイル部品。
【請求項8】
薄帯の粉砕粉およびアトマイズ粉を含むFe系軟磁性合金の軟磁性材料粉と、Cu粉と、バインダーとを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合工程後の混合物を加圧成形して、前記粉砕粉の間にCu粉とアトマイズ粉とが分散した成形体を得る成形工程と、前記成形工程後の成形体を焼鈍する熱処理工程とを有し、
前記粉砕粉は、厚さが10μmから50μmであって、厚さ方向に垂直な方向での粒径は厚さの2倍超であり、前記アトマイズ粉は、平均粒径が3μm以上であって、前記粉砕粉の厚さの50%以下であり、前記Cu粉は、平均粒径が2μm以上であって、前記粉砕粉の厚さ以下であり、
粉砕粉とアトマイズ粉とCu粉とがバインダーで結着されたことを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理工程において焼鈍する温度が、前記粉砕粉のアモルファス基地の一部にα−Fe結晶相を生じさせる温度以上であることを特徴とする請求項8に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項10】
前記混合工程は、軟磁性材料粉とCu粉と、シリコーン系の絶縁樹脂とを混合する第1の混合工程と、前記第1の混合工程で得られた第1の混合物に、水で希釈された水溶性のアクリル系樹脂又はポリビニルアルコールを加えて混合する第2の混合工程とを有することを特徴とする請求項又はに記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項11】
更に、前記第2の混合工程で得られた第2の混合物を乾燥する乾燥工程を有することを特徴とする請求項10に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項12】
前記Fe系軟磁性合金の粉砕粉は、Fe基アモルファス合金を加温して脆化する脆化処理工程を経た後、粉砕して得ることを特徴とする請求項乃至11のいずれかに記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項13】
粉砕粉にシリコン酸化物の絶縁被覆を設ける絶縁被膜形成工程を有することを特徴とする請求項乃至12のいずれかに記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、テレビやエアコンなど家電機器で採用されているPFC回路や、太陽光発電、ハイブリッド車・電気自動車などの電源回路等に使用される圧粉磁心と、これを用いたコイル部品および圧粉磁心の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電機器の電源回路の初段部は、AC(交流)電圧からDC(直流)電圧に変換するAC/DCコンバータ回路で構成されている。このコンバータ回路には、無効電力及び高調波ノイズを低減するためにPFC回路が設けられる。該回路で使用されるチョークを小型化・低背化等するために、それに用いられる磁心には、高飽和磁束密度、低磁心損失、優れた直流重畳特性(高い増分透磁率)が要求されている。
【0003】
また、近年、急速に普及しはじめたハイブリッド車等のモータ駆動の車両や太陽光発電装置などに搭載されている電源装置では、大電流に耐えるリアクトルが用いられている。かかるリアクトル用の磁心においても、同様に高飽和磁束密度等が要求されている。
【0004】
上記要求に応えるものとして、高飽和磁束密度と低損失のバランスに優れる圧粉磁心が採用されている。圧粉磁心は、たとえばFe−Si−Al系やFe−Si系などの軟磁性粉を用い、その表面を絶縁処理したのち成形して得られるもので、絶縁処理により電気抵抗が高められ、渦電流損失が抑制されている。
これに関連する技術として、特許文献1には、第1の磁性アトマイズ粉と、それよりも小さな粒径を有する第2の磁性アトマイズ粉を用いた圧粉磁心が提案されている。第1の磁性アトマイズ粉の表面に、結着剤により第2の磁性アトマイズ粒子を被覆した複合磁性粉末を形成し、それを加圧成形することで、密度が向上し、渦電流損失が抑制された圧粉磁心を得ている。更に特許文献1の[0029]段落には、本実施の形態として、銅粉などの粉末等をさらに備えていてもよいといった記載がある。但し、銅粉などの粉末等がいかなる作用効果をもたらすものであるかについての記載はない。なお、第1及び第2の磁性アトマイズ粉は、例えば、軟磁性材料として、鉄(Fe)、鉄(Fe)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)系合金、鉄(Fe)−窒素(N)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)系合金、鉄(Fe)−炭素(C)系合金、鉄(Fe)−ホウ素(B)系合金、鉄(Fe)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−リン(P)系合金、鉄(Fe)ニッケル(Ni)−コバルト(Co)系合金および鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−シリコン(Si)系合金などから形成されている。
【0005】
また特許文献2には、純鉄、Fe−Si−Al系、Fe−Si系、パーマロイ、パーメンジュールなどの軟磁性材料と、A群金属としてFe、Al、Ti、Sn、Si、Mn、Ta、Zr、Ca、Znのうちの少なくとも1種以上と、更に酸化物B(A群金属よりも酸化生成エネルギーが高い酸化物)のそれぞれ1種類以上とを含む混合物を、成形した後500℃以上で熱処理することにより得られる圧粉磁心が提案されている。A群金属として延性の大きなものを用いることで、磁性材料と混合して成形したときにA群金属が塑性変形を起こすので、成形圧力を低減することが出来て磁性材料への歪も小さくなって、ヒステリシス損失を低減する。A群金属よりも酸化生成エネルギーが高い酸化物BはCu、Bi、V等の酸化物である。
【0006】
また特許文献3には、いっそうの磁心損失の低減、強度向上等のために、磁性材料としてFe基アモルファス合金を用いた圧粉磁心が提案されている。Fe基アモルファス合金の薄帯の粉砕粉と、Crを含むFe基アモルファス合金のアトマイズ粉とを主成分とし、それらの粒径と混合割合を規定することで、圧密度を向上して、Fe基アモルファス合金薄帯の特長である、低い磁心損失、優れた直流重畳特性が得られるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2010/084812号公報
【特許文献2】特開平10−208923号公報
【特許文献3】国際公開2009/139368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3に記載の構成の如く性状の異なる磁性材料を複合することで、単一の磁性粉末で構成される圧粉磁心に比べて低い磁心損失が得られるとともに、成形密度・強度の向上も期待される。
しかしながら、特許文献1,2の結晶質の磁性材料の内、Fe−Al−Si合金やパーマロイ(80Ni−Fe合金)は磁歪は小さいものの飽和磁束密度が小さく、他の磁性材料は、高い飽和磁束密度を有するが、結晶構造に由来する結晶磁気異方性や磁歪によるヒステリシス損失が大きく、高飽和磁束密度と低磁心損失の両方を実現するのは容易では無い。
一方、特許文献3のようにFe基アモルファス合金を磁性材料とすれば、磁歪が大きいものの飽和磁束密度は大きく結晶磁気異方性は小さいので、応力歪を熱処理(焼鈍)によって低減することでヒステリシス損失が改善されて、高飽和磁束密度を得ながら磁心損失を低減することが出来る。
しかしながら各種電源装置の高効率化、小型化への要請が強く、それに用いる圧粉磁心においてもさらなる磁心損失の低減、強度の向上が必要とされている。
【0009】
そこで、上記問題点に鑑み、本発明は、磁心損失の低減、強度向上に好適な構成を有する圧粉磁心、これを用いたコイル部品および圧粉磁心の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の圧粉磁心は、Fe系軟磁性合金の粉砕粉とFe系軟磁性合金のアトマイズ粉とを含む軟磁性材料粉に、Cu粉を分散させて圧密化してなることを特徴とする圧粉磁心である。
【0011】
また本発明の圧粉磁心は、前記軟磁性材料粉と前記Cu粉との総量を100質量%として、Fe系軟磁性合金のアトマイズ粉の含有量が1質量%以上20質量%以下で、Cu粉の含有量が0.1質量%以上5質量%以下で、残部がFe系軟磁性合金の粉砕粉であるのが好ましい。
【0012】
また本発明の圧粉磁心では、前記粉砕粉と前記アトマイズ粉とは、アモルファス組織を有するのが好ましい。
【0013】
また本発明の圧粉磁心では、前記粉砕粉はアモルファス組織の一部にα−Fe結晶相を備えているのが好ましい。
【0014】
また本発明の圧粉磁心では、少なくとも前記Fe系軟磁性合金の粉砕粉の表面にシリコン酸化物の絶縁被膜を備えるのが好ましい。
【0015】
また本発明は、前記いずれかの圧粉磁心と、前記圧粉磁心の周囲に巻装されたコイルとを有するコイル部品である。
【0016】
また本発明は、Fe系軟磁性合金の薄片状の粉砕粉およびFe系軟磁性合金のアトマイズ粉を含む軟磁性材料粉と、Cu粉と、バインダーとを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合工程後の混合物を加圧成形する成形工程と、前記成形工程後の成形体を焼鈍する熱処理工程とを有することを特徴とする圧粉磁心の製造方法である。
【0017】
本発明の製造方法において、前記熱処理工程において焼鈍する温度が、前記粉砕粉のアモルファス基地の一部にα−Fe結晶相を生じさせる温度であるのが好ましい。
【0018】
前記混合工程は、軟磁性材料粉とCu粉と、シリコン系の絶縁樹脂とを混合する第1の混合工程と、前記第1の混合工程で得られた第1の混合物に、水で希釈された水溶性のアクリル系樹脂又はポリビニルアルコールを加えて混合する第2の混合工程とを有するのが好ましい。
【0019】
更に、前記第2の混合工程で得られた第2の混合物を乾燥する乾燥工程を有するのが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法において、前記Fe系軟磁性合金の粉砕粉は、Fe基アモルファス合金を加温して脆化する脆化処理工程を経た後、粉砕して得るのが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、前記粉砕工程後の粉砕粉にシリコン酸化物の絶縁被覆を設ける絶縁被膜形成工程を有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、磁心損失が低減でき、強度も高い圧粉磁心およびこれを用いたコイル部品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る圧粉磁心の概念を示すための、圧粉磁心断面の模式図である。
図2】本発明に係る圧粉磁心に用いるFe基アモルファス合金の粉砕粉の外観を示すSEM写真である。
図3】本発明に係る圧粉磁心に用いるFe基アモルファス合金のアトマイズ粉の外観を示すSEM写真である。
図4】本発明に係る圧粉磁心に用いるCu粉の外観を示すSEM写真である。
図5】本発明に係る圧粉磁心に用いるFe基アモルファス合金の粉砕粉の粒度分布図である。
図6】本発明に係る圧粉磁心に用いるFe基アモルファス合金の粉砕粉の示差熱分析図である。
図7】本発明に係る圧粉磁心に用いるFe基アモルファス合金のアトマイズ粉の粒度分布図である。
図8】本発明に係る圧粉磁心に用いるCu粉の粒度分布図である。
図9】本発明に係る圧粉磁心に用いる混合粉(造粒粉)の外観を示すSEM写真である。
図10】本発明に係る圧粉磁心の断面のSEM写真である。
図11A】本発明に係る圧粉磁心の断面のSEM写真である。
図11B】本発明に係る圧粉磁心のFeの分布を示すマッピング図である。
図11C】本発明に係る圧粉磁心のSiの分布を示すマッピング図である。
図11D】本発明に係る圧粉磁心のCuの分布(Cu粉)を示すマッピング図である。
図12】熱処理温度が425℃、455℃の圧粉磁心のX線回折パターン図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る圧粉磁心およびコイル部品の実施形態を、具体的に説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。図1は本発明に係る圧粉磁心の断面を示す模式図である。圧粉磁心100は、軟磁性材料粉(Fe系軟磁性合金の粉砕粉1、Fe系軟磁性合金のアトマイズ粉2)と非磁性材料粉であるCu粉3と絶縁樹脂とを含む混合粉を圧縮成形し、所定の熱処理が施され、前記軟磁性材料粉と前記Cu粉が、例えばシリコーン樹脂や低温ガラス等の結着材(バインダ)で結着されて構成される。結着材は軟磁性材料粉、Cu粉の間に介在し、それらを相互に結合するとともに、絶縁物としても機能する。図1において、その上下方向が成形時の圧縮方向となる。
【0025】
軟磁性材料粉は、Fe系軟磁性合金の粉砕粉1とFe系軟磁性合金のアトマイズ粉2とを含む。図2はFe系軟磁性合金の粉砕粉1の外観を示すSEM写真である。粉砕粉1は薄く形成された箔体状、帯状のFe基アモルファス合金を粉砕して得られ、対向する二平面と前記二平面を繋ぐ側面を有する薄片状となっている。また粉砕粉1は、その粒子形状によって、成形時に作用する図の上下方向からの応力によって前記二平面が応力が作用する方向と垂直な方向に配向し易く、図1中では前記側面が揃って現れる様子として断面を矩形状に示している。
【0026】
図3はFe系軟磁性合金のアトマイズ粉2の外観を示すSEM写真である。ここで示すFe系軟磁性合金はFe基アモルファス合金であって、そのアトマイズ粉2は粉砕粉1よりも球形状に近い粒子であるので、図1中では断面を球形状として示している。
【0027】
さらに、軟磁性材料粉の間にCu粉3が分散している。なおここで言う分散とは、Cu粉3を構成する粒のそれぞれが分かれて存在する場合の他に、複数の粒が凝集して凝集体となり、それ等が軟磁性材料粉の間に分かれて存在する場合も含む。かかる構成は、Cu粉3と軟磁性材料粉との混合粉を圧密化することで得ることができる。図4はCu粉の外観を示すSEM写真である。Cu粉はアトマイズ法や化学的プロセスである酸化物還元法等により得られ、図中では粒子断面を球形状として示している。
【0028】
混合されたCu粉は、軟磁性材料粉の間に介在し、該構成によって、圧粉磁心の磁心損失の低減、強度向上が実現されるのである。以下、この点について詳述する。
【0029】
まず、本発明に係る圧粉磁心に用いる軟磁性材料粉について説明する。軟磁性材料粉はFe系軟磁性合金の粉砕粉1とFe系軟磁性合金のアトマイズ粉2とを含む。粉砕粉とアトマイズ粉を構成するFe系軟磁性合金は組成の異同は問わず、必要な機械的、磁気的特性に応じて適宜選定することが出来る。軟磁性材料粉としてFe基アモルファス合金を用いれば、結晶質の軟磁性材料粉を用いる場合よりも、低磁気損失な圧粉磁心が得られ易い。
【0030】
Fe系軟磁性合金の粉砕粉1は、アモルファス合金やナノ結晶合金の薄帯や箔体から作製される。例えば合金薄帯は、所定の組成になるように秤量した素原料を高周波誘導溶解等の手段で溶解した後、合金溶湯を単ロールを用いた公知の急冷法により得られる薄帯であり、板厚が十数μm〜30μm程度のアモルファス合金薄帯やナノ結晶合金薄帯が好適である。
【0031】
また、Fe系軟磁性合金のアトマイズ粉は、合金溶湯をアトマイズ法により急冷して得られる粉末である。Fe系軟磁性合金は必要とされる磁気特性に応じて適宜選定され得る。
【0032】
Fe系軟磁性合金の粉砕粉は板状であるため、粉砕粉のみでは、粉体の流動性が悪く、空隙が生じやすい。そのため、圧粉磁心の高密度化が困難である。一方、アトマイズ粉は粒状であるため、粉砕粉間の空隙を充填し、軟磁性材料粉の占積率の向上、磁気特性の向上に寄与する。アトマイズ粉の粒径は密度・強度向上のためには、粉砕粉の厚さの50%以下とするのが好ましい。一方、アトマイズ粉の粒径が小さくなると、凝集しやすく、分散しにくくなるため、アトマイズ粉の粒径は、3μm以上が好ましい。アトマイズ粉の粒径は、レーザー回折・散乱法によって測定され、平均粒径はメジアン径D50(累積50体積%に相当し、小粒径のものからカウントし、換算して全体の50体積%となったときの粒子径)として評価できる。
【0033】
アトマイズ粉を存在させることで、粉砕粉のみの場合に対して強度や磁気特性が向上する傾向を示す。そのため、本発明においてはアトマイズ粉が存在していれば、粉砕粉とアトマイズ粉の比率はこれを特に限定するものではない。ただし、アトマイズ粉の比率を必要以上に高めても強度向上は飽和する。粉体間を相互に結合するに必要な絶縁樹脂が増えるため磁気特性向上は飽和し、さらに比率を高めると磁気損失の増加、初透磁率の低下を招く。アトマイズ粉は粉砕粉よりもコストが高い。そのため、前記アトマイズ粉の含有量は、前記軟磁性材料粉と前記Cu粉との総量を100質量%として1〜20質量%であることがより好ましい。
【0034】
上述のように粉砕粉にアトマイズ粉を混合することのみによって強度や磁気特性の向上を図ることには限界がある。これに対して、本発明者らは、本来、軟磁性粉末間の絶縁性確保にとって不利なはずのCu粉の存在が、一層磁心損失を低減できて、更に強度も高めることを見出した。
【0035】
Cu粉を軟磁性粉末間に分散させることによってもたらされる効果の理由は明確ではないが、以下のように推測する。
Cu粉は軟磁性材料粉よりも柔らかいため圧密化の際に塑性変形しやすく、密度・強度向上に寄与する。また、かかる塑性変形によって、軟磁性材料粉への応力も緩和される。詳細は後述するが、軟磁性材料粉の間にCu粉が分散している構成は、軟磁性材料粉を圧密化する前にCu粉を添加して、Fe系軟磁性合金の粉砕粉の表面にFe系軟磁性合金のアトマイズ粉とCu粉とが有機バインダーにより結着した二次粒子とする方法で実現できる。二次粒子とすれば圧密までの間に軟磁性材料粉とCu粉とは分離することが無く、加圧成形する際の粉体の流動性の改善も期待できる。
【0036】
また本発明においては軟磁性材料粉として、Fe系軟磁性合金の粉砕粉とアトマイズ粉以外の軟磁性材料粉を含むことも可能である。但し、粉砕粉およびアトマイズ粉のみで軟磁性材料粉を構成することが磁心損失の低減等に有利である。また、本発明においては、Cu粉以外の非磁性金属粉を含むことも可能である。しかし、Cu粉の効果を最大限に発揮させるためには、非磁性金属粉はCu粉のみであることがより好ましい。また、Fe系軟磁性合金の粉砕粉の表面にサブミクロンオーダーの厚さの無機絶縁物を形成する場合もある。
【0037】
ここで、本発明の重要な特徴について、さらに説明する。Cu粉の添加によるCu粉の分散は、密度・強度の向上のみならず、低損失化に顕著な効果を示す。薄片状の粉砕粉の間にCu粉を分散させることで、Cu粉を含まない、すなわちCu粉が分散していない場合に比べて磁心損失が低下する。Cu粉は微量でも磁心損失の顕著な低減の効果を発揮することが確認されたため、その使用量も少なく抑えることができる。逆に使用量を多くすれば、磁心損失の大幅な低減の効果が得られる。したがって、Cu粉を含有し、軟磁性材料粉の間にCu粉を分散させる構成は、磁心損失の低減に好適な構成であると言える。
【0038】
本発明において、軟磁性材料粉の間にCu粉が分散している、とは、必ずしも全ての軟磁性材料粉同士の間にCu粉が介在している必要はなく、少なくとも一部の軟磁性材料粉同士の間、即ち粉砕粉と粉砕粉との間、粉砕粉とアトマイズ粉との間、アトマイズ粉とアトマイズ粉との間においてCu粉が介在していれば良いという趣旨であり、図1では粒子が単独で存在する場合をモデル化して示しているが、凝集して存在する場合もある。
【0039】
また、Cu粉は金属銅(Cu)やCu合金であるが、不可避不純物を含んでもよい。また、Cu合金は、例えばCu−Sn、Cu−P、Cu−Znなどであり、Cuを主成分とする(Cuを50%原子以上含む)粉末である。CuおよびCu合金のうちの少なくとも一種を用いることができるが、なかでも柔らかいCuがより好ましい。
【0040】
分散しているCu粉が多いほど強度等が改善されるため、かかる観点からはCuの含有量を規定するものではない。ただし、Cu粉自体は非磁性体であるため、圧粉磁心としての機能を考慮すれば、Cu粉の含有量は軟磁性材料粉100質量%に対して、例えば20質量%以下が実用的な範囲である。Cu粉は微量でも十分な低ロス化の効果を発揮する一方、Cu粉の含有量が多くなりすぎると透磁率が減少する傾向を示す。
【0041】
さらに、Cu粉含有による十分な効果を享受する観点からは、前記軟磁性材料粉と前記Cu粉との総量を100質量%として、Cu粉の含有量は0.1質量%以上がより好ましい。一方、増分透磁率等の磁気特性の維持の観点からは、Cu粉の含有量は5質量%以下がより好ましい。さらに、好ましくは、Cu粉の含有量は0.3〜3質量%である。より好ましくは0.3〜1.4質量%である。
【0042】
分散されているCu粉の形態は特に限定されるものではない。また、混合に供するCu粉の形態も、これを限定するものではない。しかし、加圧形成時の流動性向上の観点からは、Cu粉は、粒状、特に球状であることがより好ましい。かかるCu粉は、例えばアトマイズ法によって得られるが、これに限定するものではない。
【0043】
Cu粉の粒径は、少なくとも薄板状の粉砕粉の間に分散させることができる程度の大きさであればよい。Cu粉のように軟磁性材料粉よりも柔らかい粒状粉は、軟磁性材料粉の流動性を高めるとともに、圧密化の際に塑性変形し、それによって軟磁性材料粉間の空隙を低減することができる。たとえば、粉砕粉間における空隙をより確実に低減するためには、Cu粉の粒径は粉砕粉の厚さ以下であることが好ましく、粉砕粉の厚さの50%以下がより好ましい。
【0044】
薄片状の粉砕粉は例えば薄帯状の軟磁性合金を粉砕することで得られるが、粉砕前の軟磁性合金の薄帯等の厚さとして通常のアモルファス合金薄帯やナノ結晶合金薄帯の厚さを考慮すると、8μm以下のCu粉が、汎用性が高く、より好ましい。粒径が小さくなりすぎると、粉同士の凝集力が大きくなり、分散しにくくなるため、Cu粉の粒径は2μm以上がより好ましい。原料として使用するCu粉の粒径は、レーザー回折・散乱法によって測定されたメジアン径D50(累積50体積%に相当する粒子径;以下平均粒径という)として評価できる。
【0045】
軟磁性合金の薄帯には、例えば、単ロール法のように合金溶湯を急冷することによって得られる急冷薄帯を用いる。合金組成はこれを特に限定するものではなく、必要とされる特性に応じて選定することができる。アモルファス合金薄帯であれば、1.4T以上の高い飽和磁束密度Bsを有するFe基アモルファス合金薄帯を用いることが好ましい。例えば、Metglas(登録商標)2605SA1材に代表されるFe−Si−B系等のFe基アモルファス合金薄帯を用いることができる。さらに他の元素を含むFe−Si−B−C系、Fe−Si−B−C−Cr系等の組成を採用することもできる。また、Feの一部を、CoやNiで置換してもよい。
【0046】
一方、ナノ結晶合金薄帯であれば、1.2T以上の高い飽和磁束密度Bsを有するFe基ナノ結晶合金薄帯を用いることが好ましい。ナノ結晶合金薄帯は、粒径が100nm以下の微結晶組織を有する、従来から知られている軟磁性合金薄帯を用いることができる。具体的には、例えば、Fe−Si−B−Cu−Nb系、Fe−Cu−Si−B系、Fe−Cu−B系、Fe−Ni−Cu−Si−B系等のFe基ナノ結晶合金薄帯を用いることができる。また、これらの元素の一部を置換した系および他の元素を添加した系を用いてもよい。
このように磁性体にFe基ナノ結晶合金を用いる場合、最終的に得られる圧粉磁心において粉砕粉がナノ結晶組織を有していればよい。したがって、粉砕または混合に供する時点では、軟磁性合金薄帯がFe基ナノ結晶合金薄帯でもよいし、Fe基ナノ結晶組織を発現するFe基合金薄帯でもよい。Fe基ナノ結晶組織を発現する合金薄帯とは、粉砕時にはアモルファス合金の状態であっても、結晶化処理を経た最終的な圧粉磁心において粉砕粉がFe基ナノ結晶組織を有しているものをいう。例えば、結晶化熱処理を粉砕後の粉砕粉に行う場合、または成形後の成形体に行う場合などが、これに該当する。
【0047】
軟磁性合金薄帯の厚さは、10〜50μmの範囲が好ましい。10μm未満では、合金薄帯自体の機械的強度が低いため、安定に長尺の合金薄帯を鋳造することが困難である。また、50μmを超えると合金の一部が結晶化しやすくなり、特性が劣化する場合がある。軟磁性合金薄帯の厚さは、より好ましくは13〜30μmである。
【0048】
また、軟磁性合金薄帯の粉砕粉の粒径を小さくすることは、それだけ粉砕によって導入される加工歪が大きくなることを意味し、磁心損失の増加の原因になる。一方、粒径が大きいと流動性が低下して、高密度化しにくくなる。そこで、軟磁性合金薄帯の粉砕粉の、厚さ方向に垂直な方向(主面の面内方向)での粒径は、厚さの2倍超から6倍以下が好ましい。
【0049】
圧粉磁心においては、軟磁性材料粉間の絶縁のための手段をとることにより、渦電流損失を抑制し、低い磁気損失を実現することができる。そのため、粉砕粉の表面に薄い絶縁被膜を設けることが好ましい。粉砕粉自体を酸化させて表面に酸化被膜を形成することも可能である。粉砕粉へのダメージを抑えながら、均一かつ信頼性の高い酸化物被膜を形成するためには、軟磁性材料粉の合金成分の酸化物とは別の酸化物被膜を設けることがより好ましい。
【0050】
次に、Cu粉を分散する圧粉磁心の製造工程について説明する。本発明の製造方法は、軟磁性材料粉を用いて構成された圧粉磁心の製造方法であって、前記軟磁性材料粉としてFe系軟磁性合金の粉砕粉とFe系軟磁性合金のアトマイズ粉とを含み、前記軟磁性材料粉とCu粉を混合する第1の工程と、前記第1の工程で得られた混合粉を加圧成形する第2の工程とを有する。かかる第1の工程と第2の工程を経て、前記軟磁性材料粉の間にCu粉が分散している圧粉磁心を得る。Cu粉の含有量は、軟磁性材料粉とCu粉との総量100質量%に対して0.1〜5質量%が好ましい点は上述のとおりである。第1の工程と第2の工程以外の部分は従来から知られている圧粉磁心の製造方法に係る構成を、必要に応じて適宜適用すればよい。
【0051】
まず、前記第1の工程に供するFe系軟磁性合金の粉砕粉の作製方法について、軟磁性合金薄帯を用いる場合を例にして説明する。軟磁性合金薄帯の粉砕をするにあたって、あらかじめ脆化処理を行うことで粉砕性を高めることができる。例えば、Fe基アモルファス合金薄帯は300℃以上の熱処理により脆化が起こり、粉砕しやすくなる性質を持っている。かかる熱処理の温度を上げると、より脆化し、粉砕しやすくなる。ただし、380℃を超えると結晶化が始まり、粉砕の著しい結晶化は圧粉磁心の磁心損失Pcvの増加に影響するので、好ましい脆化熱処理温度は、320℃以上380℃以下である。脆化処理は薄帯を巻回したスプールの状態で行うこともできるし、巻回されていない状態の薄帯、あるいは箔体を所定形状にプレスして得られた、整形された塊の状態で行うこともできる。但し、かかる脆化処理は必須ではない。例えば、そのままでも脆いナノ結晶合金薄帯あるいはナノ結晶組織を発現する合金薄帯の場合は、脆化処理を省略してもよい。
【0052】
尚、一回の粉砕だけで粉砕粉を得ることも可能であるが、所望の粒径にするために、粉砕工程は、粗粉砕後、微粉砕する場合のように、少なくとも2工程に分けて行い、段階的に粒径を落とすことが、粉砕能力及び粒径の均一性の点で好ましい。粗粉砕、中粉砕、微粉砕の3工程で行うことがより好ましい。薄帯をスプールの状態、整形された塊の状態とした場合には、粗粉砕の前に解砕するのが望ましい。解砕から粉砕の各工程では異なる機械装置を用い、拳の大きさまでの解砕は圧縮減容機で行い、2〜3cm角の薄片とする粗粉砕はユニバーサルミキサで行い、2〜3mm角の薄片とする中粉砕ではパワーミルで行い、100μm角程度の薄片とする微粉砕にはインパクトミルを用いるのが望ましい。
【0053】
最後の粉砕工程を経た粉砕粉は粒径をそろえるために分級することが好ましい。分級の方法はこれを特に限定するものではないが、篩による方法が簡易であり、好適である。
【0054】
Fe系軟磁性合金のアトマイズ粉は、ガスアトマイズ、水アトマイズなどのアトマイズ法により得られる。アトマイズ粉の組成も上記Fe系軟磁性合金の粉砕粉と同様、各種組成系のものを用いることができる。粉砕粉の組成とアトマイズ粉の組成を同じにしてもよいし、異なるものにしてもよい。
【0055】
Fe系軟磁性合金の粉砕粉、アトマイズ粉の内の少なくとも粉砕粉に対して、損失を低減するために絶縁被膜を形成することが好ましい。その形成方法をFe系軟磁性合金薄帯の粉砕粉を例に以下に説明する。粉砕粉を湿潤雰囲気において100℃以上で熱処理することにより、粉砕粉のFeが酸化または水酸化され、酸化鉄または水酸化鉄の絶縁被膜を形成することができる。
【0056】
絶縁被膜に関しては、軟磁性材料粉の表面に、シリコン酸化物被膜が設けられている構成がより好ましい。シリコン酸化物は絶縁性に優れるとともに、後述する方法によって均質な被膜を形成するのが容易である。絶縁を確実にするためには、シリコン酸化物被膜の厚さは50nm以上が好ましい。一方、シリコン酸化物被膜が厚くなりすぎると、軟磁性材料粉粒子間の距離が大きくなり、透磁率が低下するため、かかる被膜は500nm以下が好ましい。
【0057】
粉砕粉をTEOS(テトラエトキシシラン)、エタノール、アンモニア水の混合溶液に浸漬、撹拌後、乾燥することで、粉砕粉の表面に、上記シリコン酸化物被膜を形成することができる。この方法によれば、粉砕粉の表面に平面状かつネットワーク状にシリコン酸化被膜が形成されるため、粉砕粉の表面に均一な厚さの絶縁被膜を形成できる。
【0058】
次に、粉砕粉とアトマイズ粉を含む軟磁性材料粉とCu粉を混合する第1の工程について説明する。軟磁性材料粉とCu粉との混合方法はこれを特に限定するものではないが、例えば乾式撹拌混合機を用いることができる。さらに、第1の工程において、以下の有機バインダー等を混合する。軟磁性材料粉、Cu粉、有機バインダー、高温用バインダー等を同時に混合することができる。但し、軟磁性材料粉とCu粉とを均一に、かつ効率よく混合する観点からは、第1の工程では、軟磁性材料粉とCu粉と高温用バインダーが先に混合され、その後に、有機バインダーを加えてさらに混合されることがより好ましい。こうすることで、より短時間で均一な混合が可能となり、混合時間の短縮化が図られる。
【0059】
混合後の混合物は、Fe系軟磁性合金の粉砕粉の表面にFe系軟磁性合金のアトマイズ粉とCu粉と高温用バインダーとが有機バインダーにより結着した状態となっている。有機バインダーが混合された状態では、有機バインダーの結着作用により、混合粉は広い粒度分布をもった凝集粉となっている。振動篩等を用いて、篩に通して解砕することによって調整された造粒粉(二次粒子)が得られる。
【0060】
前記有機バインダーは、軟磁性材料粉とCu粉の混合粉を、プレスで成形する際、室温で粉体同士を結着させるために用いることができる。一方、粉砕や成形の加工歪を除去するために、後述する成形後熱処理(焼鈍)の適用が有効である。該熱処理を適用する場合、有機バインダーは熱分解によって概ね消失してしまう。したがって、有機バインダーのみの場合、熱処理後に軟磁性材料粉及びCu粉の各粉末粒子同士の結着力が失われ、圧粉磁心の強度が維持できなくなる場合がある。そこで、かかる熱処理後においても各粉末同士を結着させるために、高温用バインダーを有機バインダーと共に添加することが有効である。無機バインダーに代表される高温用バインダーは、有機バインダーが熱分解する温度領域で流動性を発現し始め、粉末表面に濡れ広がり、粉末粒子同士を結着させるものが好ましい。高温用バインダーの適用により、室温に冷却後も結着力を保持することが可能である。
【0061】
有機バインダーは、成形工程および熱処理前のハンドリングで、成形体に欠けやクラックが発生することがないように粉体間の結着力を維持し、かつ、成形後の熱処理で容易に熱分解するものが好ましい。成形後熱処理で熱分解が概ね終了するバインダーとしてはアクリル系樹脂や、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0062】
高温用バインダーとしては、比較的低温で流動性が得られる低融点ガラスや、耐熱性、絶縁性に優れるシリコーンレジンが好ましい。シリコーンレジンとしては、メチルシリコーンレジンやフェニルメチルシリコーンレジンがより好ましい。添加する量は、高温用バインダーの流動性や粉末表面との濡れ性や接着力、金属粉末の表面積と熱処理後の圧粉磁心に求められる機械的強度、更には求められる磁心損失により決定すればよい。高温用バインダーの添加量を増やすと、圧粉磁心の機械的強度は増加するが、軟磁性材料粉への応力も同時に増加する。このため、磁心損失も増加する傾向を示す。よって、低い磁心損失と高い機械的強度はトレードオフの関係となっている。要求される磁心損失と機械的強度に鑑み、添加量は適正化される。
【0063】
さらに、加圧成形時の粉末と金型との摩擦を低減させるために、二次粒子にステアリン酸、またはステアリン酸亜鉛等のステアリン酸塩を、軟磁性材料粉とCu粉、有機バインダー、高温用バインダーの合計質量に対して0.3〜2.0質量%添加して混合するのが好ましい。
【0064】
第1の工程で得られた混合粉は上述のように造粒されて、加圧成形する第2の工程に供される。造粒された混合粉は、成形金型を用いて、トロイダル形状、直方体形状等の所定形状に加圧成形される。典型的には1GPa以上、かつ3GPa以下の圧力で、数秒程度の保持時間で成形できる。前記有機バインダーの含有量や必要な成形体強度によって圧力及び保持時間は適正化される。圧粉磁心は、強度・特性の観点から、実用的には5.3×103 kg/m3 以上に圧密化しておくことが好ましい。
【0065】
磁気特性を得るためには、前述の粉砕工程及び成形に係る第2の工程での応力歪を緩和することが好ましい。Fe基アモルファス合金薄帯を粉砕して得られたアモルファス組織を有する粉砕粉の場合であれば、熱処理温度が低いと、粉砕時や成形時に残留している応力が十分に緩和されず、磁心損失は減少するものの不十分な場合がある。応力歪の緩和の効果を得るには、350℃以上で熱処理するのが好ましい。熱処理温度が上がるにつれて圧粉磁心の強度も増す。一方で熱処理温度が上がると、ナノ結晶組織を発現する組成ではない粉砕粉では、アモルファス基地から粗大な結晶粒(α−Fe結晶相)が析出してヒステリシス損失が起こるため、磁気損失が増加し始める。しかしながら、アモルファス基地に析出するα−Fe結晶相が僅かであれば、残留応力の低減効果の方が結晶化に伴う磁心損失の増加を上回る熱処理温度領域がある。そのため、熱処理温度の上下限は磁気損失を含む望ましい磁気特性と強度が得られる温度範囲に適宜設定すれば良い。好ましくは、熱処理温度の上限は結晶化温度Tx−50℃以下である。
【0066】
なお結晶化温度Txはアモルファス合金の組成によって異なる。また、粉砕粉には応力歪が大きく加えられており、その歪エネルギーによって、結晶化温度Txは粉砕前の軟磁性合金薄帯よりも数十℃低下する場合もある。ここで、結晶化温度TxはJISH7151のアモルファス金属の結晶化温度測定方法に従い、粉砕粉を示差走査熱量測定にて昇温速度を10℃/min.として昇温した時の発熱開始温度を指すものとする。なお、アモルファス基地への結晶相の析出は、結晶化温度Txよりも低温で徐々に始まっているが、結晶化温度Tx以降で急速に進行する。
【0067】
熱処理時のピーク温度の保持時間は、圧粉磁心の大きさ、処理量、特性ばらつきの許容範囲などによって適宜設定されるものであるが、0.5〜3時間が好ましい。上記熱処理温度はCu粉の融点よりもはるかに低いため、熱処理後もCu粉は分散状態に維持される。
【0068】
一方、軟磁性合金薄帯がナノ結晶合金薄帯またはFe基ナノ結晶組織を発現する合金薄帯の場合、工程のいずれかの段階で結晶化処理を行い、粉砕粉をナノ結晶組織を有するものとする。つまり、粉砕前に結晶化処理してもよいし、粉砕後に結晶化処理してもよい。なお、結晶化処理には、ナノ結晶組織の比率を上げる、結晶化促進のための熱処理も含む。結晶化処理は加圧成形後の歪緩和の熱処理を兼ねてもよいし、歪緩和の熱処理とは別工程として行うこともできる。ただし、製造工程の簡略化の観点からは、結晶化処理が加圧成形後の歪緩和の熱処理を兼ねることが好ましい。例えば、Fe基ナノ結晶組織を発現する合金薄帯の場合であれば、結晶化処理を兼ねた、加圧成形後の熱処理は、390℃〜480℃の範囲で行えばよい。アトマイズ粉においてナノ結晶組織を発現させる場合も上記と同様の工程を適用すればよい。
【0069】
本発明のコイル部品は、上記のようにして得られた圧粉磁心と、前記圧粉磁心の周囲に巻装されたコイルとを有する。コイルは導線を圧粉磁心に巻回して構成してもよいし、ボビンに巻回して構成してもよい。コイル部品は、例えばチョーク、インダクタ、リアクトル、トランス等である。例えば、該コイル部品は、テレビやエアコンなど家電機器で採用されているPFC回路や、太陽光発電やハイブリッド車・電気自動車などの電源回路等に使用され、これらの機器、装置における低損失、高効率化に寄与する。
【実施例】
【0070】
(実施例1、比較例1)
(Fe系軟磁性合金の粉砕粉の作製)
平均厚さ25μm、幅200mmの日立金属株式会社製Metglas(登録商標)2605SA1材を用いた。該2605SA1材は、Fe−Si−B系材料のFe基アモルファス合金薄帯である。このFe基アモルファス合金薄帯を、巻回して巻径がφ200mmのスプール状態の巻き体とした。それを乾燥した大気雰囲気のオーブンで360℃、2時間加熱し、脆化させた。オーブンから取り出した巻き体を冷却後、粗粉砕、中粉砕、微粉砕を異なる粉砕機により順次行った。得られたFe基アモルファス合金薄帯の粉砕粉(以下単に粉砕粉ともいう)を目開き106μm(対角150μm)の篩に通し、篩に残った大きな粉砕粉を取り除いた。得られた粉砕粉を目開きの異なる複数の篩で分級して粒度分布を評価した。図5は粉砕粉の粒度分布図である。得られた粒度分布から算出した平均粒径(D50)は98μmであった。また、示差走査熱量測定にて得られた示差熱分析の結果を図6に示す。410℃から発熱が観察され始め、510℃と550℃で2つの発熱ピークが確認された。得られた結果から結晶化温度Txは495℃であった。また、Fe基アモルファス合金の粉砕粉を350℃〜500℃で熱処理すると、410℃以上の熱処理温度でX線回折の回折パターンにて、アモルファス組織が主体であるが合金α−Fe結晶が確認された。
【0071】
(粉砕粉表面へのシリコン酸化物被膜形成)
前記粉砕粉5kgと、TEOS(テトラエトキシシラン、Si(OC2 H54)200gと、アンモニア水溶液(アンモニア含有量28〜30容量%)200gと、エタノール800gを混合し、3時間撹拌した。次に、粉砕粉を分離し、100℃のオーブンで乾燥した。乾燥後、粉砕粉の断面をSEMで観察したところ、その表面にはシリコン酸化物被膜が形成され、その厚さは80〜150nmであった。
【0072】
一方、Fe系軟磁性合金のアトマイズ粉として、Fe基アモルファス合金アトマイズ粉(組成式:Fe74B11Si11C2Cr2)(以下単にアトマイズ粉ともいう)を準備した。このアトマイズ粉は510℃以下の熱処理であれば結晶化しない。粒度分布と平均粒径をレーザ回折散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製;マイクロトラック)を用いて測定した。図7はアトマイズ粉の粒度分布図である。計測されたアトマイズ粉の平均粒径(D50)は6μmであった。
【0073】
また、Cu粉は日本アトマイズ加工株式会社製HXR−Cu、平均粒径(D50)5μmの球状アトマイズ粉を用いた。図8はCu粉の粒度分布図である。
【0074】
(第1の工程(軟磁性材料粉とCu粉の混合))
表1に示すような粉砕粉、アトマイズ粉およびCu粉をその総量が100質量%となるように、表1に示す質量比率にて秤量した。さらに、粉砕粉、アトマイズ粉およびCu粉合計100質量%に対して、高温用バインダーとしてフェニルメチルシリコーン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製SILRES H44)0.66質量%、有機バインダーとしてアクリル樹脂(昭和高分子株式会社製ポリゾールAP−604)1.5質量%とを混合した後、120℃で10時間乾燥し混合粉とした。図9に混合粉の外観を示すSEM写真を示す。混合粉は粉砕粉の周囲に、アトマイズ粉およびCu粉等が有機バインダーによって結着された状態となっていた。
尚、比較のため、Cu粉を添加せずに、アトマイズ粉の添加量を変えて作製した混合粉(No1〜7)も準備した。
【0075】
(第2の工程(加圧成形)及び熱処理)
第1の工程により得られたそれぞれの混合粉を目開き425μmの篩を通して最大径が約600μm以下の造粒粉を得た。この造粒粉100質量%にステアリン酸亜鉛0.4質量%を混合した後、プレス機を使用して、外径14mm、内径8mm、高さ6mmのトロイダル形状になるように、室温(25℃)にて、圧力2.4GPaでプレス成形した。得られた成形体に、オーブンにて、大気雰囲気中、粉砕粉の結晶化温度Txよりも低温の420℃で、1時間の熱処理(焼鈍)を施した。
【0076】
焼鈍後、走査型電子顕微鏡(SEM/EDX:Scanning Electron Microscope/energy dispersive X-ray spectroscopy)を用いて圧粉磁心を成形圧縮方向に切断した断面の観察と各粉の分布を調べた。図10は圧粉磁心の断面のSEM写真である。また、図11Aは圧粉磁心の断面のSEM写真、図11Bは圧粉磁心の断面のFeの分布を示すマッピング図、図11Cは圧粉磁心の断面のSiの分布を示すマッピング図、図11Dは圧粉磁心の断面のCuの分布(Cu粉)を示すマッピング図である。SEM写真において、粉砕粉はその厚み断面が現れ配向していた。また、アトマイズ粉とCu粉は、観察視野にて粉砕粉間に分散しているのが確認された。
【0077】
(磁気特性等の測定)
以上の工程により作製したトロイダル形状の圧粉磁心に直径0.25mmの絶縁被覆導線を用いて、一次側と二次側それぞれ29ターンの巻線を施した。岩通計測株式会社製B−HアナライザーSY−8232により、最大磁束密度50mT、周波数50kHz、最大磁束密度150mT、周波数20kHzの条件で磁心損失Pcvを測定した。また、初透磁率μiは、圧粉磁心に30ターンの巻線を施し、ヒューレット・パッカード社製HP4284Aを用い、周波数100kHzの条件で測定し、増分透磁率μΔは直流印加磁界10kA/m、周波数100kHzの条件で測定した。
【0078】
また、トロイダル形状の圧粉磁心の径方向に荷重をかけ、コア破壊時の最大加重P(N)を測定し、次式から圧環強度σr(MPa)を求めた。
σr=P(D−d)/(Id2
(ここで、D:コアの外径(mm)、d:コアの肉厚(mm)、I:コアの高さ(mm)である。)これらの結果を表1に示す。なお、表中*を付したNoの試料は比較例である。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示すようにCu粉を含まないNo1〜7の比較例の圧粉磁心において、アトマイズ粉の添加量の増加に伴い、圧環強度および増分透磁率は増加する傾向を示した。また、磁心損失Pcvは、アトマイズ粉の添加量の増加に伴い、減少する傾向を示した。しかしながら、アトマイズ粉の添加量の増加に対して圧環強度および増分透磁率が飽和または減少する傾向を示し、圧環強度等の向上に限界があることもわかった。
【0081】
No8〜11の圧粉磁心は、Fe基アトマイズ粉の添加量を5質量%とし、Cu粉の含有量を変えて作製した圧粉磁心である。表1に示すように、Cu粉の含有量が増えるにしたがい、圧環強度が高くなった。すなわち、軟磁性材料粉の間にCu粉を分散させることで、Fe基アトマイズ粉の添加による場合(No4)よりも、さらに高水準の圧環強度が得られることが分かった。特に、Cu粉の含有量が1.1質量%以上で圧環強度向上の顕著な効果が得られた。
【0082】
また、表1の結果から明らかなように、Cu粉の含有量の増加とともに、磁心損失も改善された。Cu粉は導体であるため絶縁の効果は期待されないにもかかわらず、磁心損失は顕著に減少している点が特徴的な点である。1.1質量%以上のCu粉含有量で低減の効果が特に大きいことがわかる。また、Cu粉の含有量を0.3〜1.4質量%とすることで、低磁心損失化と高強度化の効果を高めながらも、Cuを含有しない場合に対して増分透磁率の減少を1.5%以内に抑えられている。すなわち、増分透磁率μΔはCu含有量の増加に対して大きな変化を示していないことから、Cu粉を添加、分散させる構成が、磁気特性の低下を抑えつつ、圧環強度の向上、さらには磁心損失の低減に特に有効であることが明らかとなった。
【0083】
(実施例2)
前記実施例とFe基アモルファス合金の粉砕粉を同じとし、アトマイズ粉として、同じ組成で粒度分布が異なるもの(D50が6.4μm、12.3μm)、Cu粉は日本アトマイズ加工株式会社製HXR−Cu(表2中D50が4.8μm)、SFR−Cu(表2中D50が7.7μm)の球状アトマイズ粉を用いて、高温用バインダーとしてフェニルメチルシリコーン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製SILRES H44)1質量%、熱処理温度を425℃とし、他の条件は実施例1と同じで圧粉磁心を作製した。得られた試料の磁気特性と強度を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
得られた圧粉磁心は、高温用バインダーが多い分、実施例1と比較して圧環強度が向上し、初透磁率、増分透磁率は低下、磁心損失は増加した。表2に示した範囲では、試料間にて強度、磁気特性に大差はなかった。
【0086】
(実施例3、比較例2)
実施例3として、実施例1とFe基アモルファス合金の粉砕粉を同じとし、実施例1と組成は同じでD50が6.4μmのアトマイズ粉、非磁性材料粉はCuSn合金である日本アトマイズ加工株式会社製SF−Br9010(Cu90質量%Sn10質量% D50:4.7μm)、SF−Br8020(Cu80質量%Sn20質量% D50:5.0μm)、SF−Br7030(Cu70質量%Sn30質量% D50:5.2μm)のアトマイズ粉を用いた。高温用バインダーとしてフェニルメチルシリコーン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製SILRES H44)1質量%を添加し、熱処理温度は425℃とした。他の条件は実施例1と同じである。
【0087】
また比較例2として、Fe基アモルファス合金の粉砕粉を同じとし、アトマイズ粉を含まず、非磁性材料粉として、Sn粉(日本アトマイズ加工株式会社製SFR−Sn)、Ag粉(日本アトマイズ加工株式会社製HXR−Ag)、Ag粉(ミナルコ株式会社#600F)を用いた圧粉磁心を作製した。No20の試料で、高温用バインダーとしてフェニルメチルシリコーン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製SILRES H44)1.4質量%、有機バインダーとしてアクリル樹脂(昭和高分子株式会社製ポリゾールAP−604)2.0質量%とした以外は、実施例3と同じである。
実施例3と比較例2で得られた試料の強度と磁気特性を表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
非磁性材料粉としてCu合金を使用しても、優れた圧環強度と磁気特性が得られた。
【0090】
(実施例4、比較例3)
実施例4、比較例3として、実施例1とFe基アモルファス合金の粉砕粉を同じとし、組成は実施例1と同じでD50が6.4μmのアトマイズ粉、Cu粉は日本アトマイズ加工株式会社製HXR−Cu(D50:4.8μm)の球状アトマイズ粉を用いた。高温用バインダーとしてフェニルメチルシリコーン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製SILRES H44)1質量%を添加し、熱処理温度は360℃〜455℃とした。他の条件は実施例1と同じである。
【0091】
【表4】
【0092】
Cu−Kα線によるX線回折測定の結果、410℃以上の熱処理温度では回折パターンにα−Fe結晶が確認された。図12に熱処理温度を425℃、455℃とした圧粉磁心のX線回折測定の結果を示す。Cu−Kα線によるX線回折測定において、Cuの(220)面のピーク強度I220 に対するFeの(002)面のピーク強度I002 の比I002 /I220 は、熱処理温度が425℃で0.76、455℃で1.02であった。
熱処理温度が上がるほどに圧環強度は上がるが、初透磁率μiは熱処理温度415℃をピークに、熱処理温度が上がるほどに低下した。また、磁心損失は熱処理温度425℃を底に増加した。
【0093】
(実施例5、比較例4)
Fe基アモルファス合金の粉砕粉、アトマイズ粉、Cu粉の混合比を変えた。Fe系軟磁性合金の粉砕粉は同じ粉砕粉であり、アトマイズ粉は実施例1と組成が同じでD50が6.4μmであり、Cu粉は日本アトマイズ加工株式会社製HXR−Cu(表2中のD50が4.8μm)の球状アトマイズ粉を用いた。
高温用バインダーとしてフェニルメチルシリコーン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製SILRES H44)1質量%とし、熱処理温度を425℃とした。他の条件は、No40を除き実施例1と同じである。No40では金型、成形前の混合粉を130℃に加温し成形を行っている。
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
Cu粉の割合を増していくと圧環強度が増し、磁心損失は低下するが初透磁率が低下した。Fe系軟磁性合金のアトマイズ粉の割合を増していくと初透磁率が増加するが、圧環強度が低下し、磁心損失が増加する傾向にあった。
【符号の説明】
【0097】
1 Fe系軟磁性合金の粉砕粉
2 Fe系軟磁性合金のアトマイズ粉
3 Cu粉

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12