(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
以下に示す樹脂(A)と樹脂(B)とをブレンドした樹脂であって、かつ質量比が(A)/(B)=50/50〜95/5である樹脂からなる難燃性繊維を用いて染色することにより、
染色後の色のCIE色度座標(x,y)が、(0.624,0.374),(0.589,0.366),(0.609,0.343)および(0.655,0.345)によって境界を定められた色空間の範囲内であり、かつ輝度係数βが0.40以上であること、
または、染色後の色のCIE色度座標(x,y)が、(0.450,0.549),(0.420,0.483),(0.375,0.528)および(0.395,0.602)によって境界を定められた色空間の範囲内であり、かつ輝度係数βが0.70以上であることを満足し、
下記キセノンランプ照射試験前後において欧州高視認性規格EN471の要求基準を満足する色を有する難燃布帛。
(A)ポリエーテルイミド系樹脂。
(B)樹脂(A)よりも低いガラス転移温度を有するとともに完全相溶性のある、有機リン系難燃成分をリン原子の重量濃度ベースで0.1〜3.5%含有する熱可塑性樹脂。
キセノンランプ照射試験:ISO 105−B02:1994における第3露光法に従って行う。オレンジ−レッド系では、5級のブルースケール制御基準からグレースケールの3レベルに変わるまで照射し、イエロー系では、4級のブルースケール制御基準からグレースケールの4レベルに変化するまで照射する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明においては、難燃性を有するポリエーテルイミド系樹脂と特定の熱可塑性樹脂とをブレンドした樹脂からなる難燃性繊維を用いて染色することにより、得られる難燃布帛が、欧州高視認性規格EN471の要求基準を満足する色を有することを特徴のひとつとしている。
【0018】
(ポリエーテルイミド系樹脂)
本発明において用いられるポリエーテルイミド系樹脂(A)としては、例えば、下記式に示す反復構成単位の組み合わせからなるポリマーが挙げられる。但し、式中R1は、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基であり;R2は、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、2〜20個の炭素原子を有するアルキレン基、2〜20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基、および2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基で連鎖停止されたポリジオルガノシロキサン基からなる群より選択された2価の有機基である。
【0019】
【化1】
前記R1、R2としては、例えば、下記式群に示される芳香族残基やアルキレン基(例えば、m=2〜10)を有するものが好ましく使用される。
【0021】
本発明では、非晶性、溶融成形性、コストの観点から、下記式で示される構造単位を主として有する、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミンとの縮合物が好ましく使用される。このようなポリエーテルイミドは、「ウルテム」の商標でサービックイノベイティブプラスチックス社から市販されている。
【0023】
本発明において用いられるポリエーテルイミド系樹脂(A)は、分子量分布(Mw/Mn)が2.5未満であることが好ましい。分子量分布が2.5以上である場合には、紡糸性が不調となり好ましくない。
【0024】
(熱可塑性樹脂)
本発明において、前記ポリエーテルイミド系樹脂(A)と特定の熱可塑性樹脂(B)とをブレンドした樹脂からなる難燃性繊維を用いることが重要である。このようなブレンドした樹脂からなる繊維を用いることで、前記ポリエーテルイミド系繊維(A)単独の場合に比べて低い温度で染色することができ、高視認性と十分な繊維強度を兼ね備えた難燃布帛が得られる。前記熱可塑性樹脂(B)は、ポリエーテルイミド系樹脂(A)よりも低いガラス転移温度を有する樹脂であり、ポリエーテルイミド系樹脂(A)とのブレンド樹脂が繊維形成能を有することが必要である。
【0025】
熱可塑性樹脂(B)は、上述のようにポリエーテルイミド系樹脂(A)のガラス転移点よりも低いガラス転移点を有しているため、従来高温での紡糸や染色が必要であったポリエーテルイミド系樹脂を用いた場合でも、その紡糸温度や染色温度を低下することができるだけでなく、剛直で強固な分子構造を有しているポリエーテルイミド系樹脂(A)に対して、機能性添加剤による機能性を良好に付与することが可能である。
【0026】
熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは、160℃以下(例えば50〜160℃程度)、より好ましくは130℃以下、さらに好ましくは100℃以下であってもよい。なお、ガラス転移温度は、例えば、レオロジ社製固体動的粘弾性装置レオスペクトラDVE−V4」を用い、周波数10Hz、昇温速度10℃/minで損失正接(tanδ)の温度依存性を測定し、そのピーク温度から求めることができる。
【0027】
熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、ポリエステル系樹脂(好ましくはポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂等が挙げられる。これらのうち、より好ましい熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が低い観点から、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂であり、中でもポリエーテルイミド系樹脂との間の熱安定性に優れる結晶性ポリエステル系樹脂(例えば、結晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂、結晶性ポリエチレンナフタレート系樹脂、特に結晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂)が好ましい。
【0028】
結晶性ポリエチレンテレフタレートは、示差走査熱量測定(DSC)において255℃付近で結晶融解ピークを有するポリエチレンテレフタレートを指し、極限粘度[η]が0.5〜0.8であることが紡糸性の点から好ましい。
【0029】
熱可塑性樹脂(B)は、ブレンド性を良好にする観点から、ポリエーテルイミド系樹脂(A)と完全相溶性のある樹脂であることが重要である。この場合、該熱可塑性樹脂は、完全相溶性を満たす範囲で、分子鎖中で部分変性してあってもよい。
【0030】
なお、ここで、ポリエーテルイミド系樹脂(A)との完全相溶性は、紡糸可能な温度領域(例えば室温〜450℃)での完全相溶性を意味しており、このような完全相溶性は、動的粘弾性測定において単一のガラス転移温度を有することを確認することによって判断することが可能である。
【0031】
ポリエーテルイミド系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)との質量比は50/50〜95/5であることが必要であり、好ましくは55/45〜90/10程度、より好ましくは60/40〜85/15程度であってもよい。
【0032】
(難燃成分)
本発明の難燃布帛において、前記熱可塑性樹脂(B)が有機リン系難燃成分を含有することが重要である。該有機リン系難燃成分は、リン原子の重量濃度ベースで0.1〜3.5%含有されることが必要で、好ましくは0.3〜2.5%、より好ましくは0.5〜1.5%である。該有機リン系難燃成分が、リン原子の重量濃度ベースで0.1%未満である場合には難燃性が不足し、3.5%を超えると紡糸性が低下するため適さない。
【0033】
難燃成分を含有する態様としては、熱可塑性樹脂(B)に有機リン系化合物が混合されていてもよく、あるいは、熱可塑性樹脂(B)に有機リン系化合物からなる構成単位が共重合されていてもよい。難燃性の効果をより発揮できることから、熱可塑性樹脂(B)に有機リン系化合物からなる構成単位が共重合されている態様がより好ましい。
【0034】
熱可塑性樹脂(B)に有機リン系化合物からなる構成単位が共重合されている態様において、該構成単位を形成する有機リン系化合物としては、一般にリン原子を含有するエステル形成化合物であれば限定されない。例えば、下記一般式(1)〜(5)で表されるような化合物が挙げられる。
【0040】
上記一般式(1)〜(5)において、Rは1価の有機基または金属原子、Aは2価もしくは3価の有機残基、Bは1価のエステル形成官能基、qは1または2を表す。
【0041】
一般式(1)の化合物の好ましい例としては、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェートなどがあげられる。
【0042】
一般式(2)の化合物の好ましい例としては、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジフェニルなどがあげられる。
【0043】
一般式(3)の化合物の好ましい例としては、2−カルボキシエチル−メチルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−エチルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−プロピルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−フェニルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−m−トルイルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−p−トルイルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−キシリルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−ベンジルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−m−エチルベンジルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−メチルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−エチルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−プロピルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−フェニルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−m−トルイルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−p−トルイルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−キシリルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−ベンジルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−m−エチルベンジルホスフィン酸、及びこれらの環状酸無水物、あるいはこれらのメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、エチレングリコールエステル、プロピオングリコールエステル、ブタンジオールとのエステルなどが挙げられる。
【0044】
一般式(4)の化合物の好ましい例としては、例えばビス−(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)m−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)p−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)キシリルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)ベンジルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)m−エチルベンジルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)フェニルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)m−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)p−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)キシリルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)ベンジルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)m−エチルベンジルホスフィンオキシド、及び、これらの環状酸無水物、あるいはこれらのメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、エチレングリコールエステル、プロピオングリコールエステル、ブタンジオールとのエステルなどが挙げられる。
【0045】
一般式(5)のR’,R”は同一または異なる1価の有機残基を表し、互いに環を形成していても構わない。さらに、これら化合物のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、プロピオングリコールエステル、ブタンジオールとのエステルなどのアルキルエステル、シクロアルキルエステル、アリールエステル、または、エチレングリコールエステルなどのアルキレングリコールエステル、またはこれらの環状酸無水物、エステルオリゴマーなど、その誘導体が挙げられるがこれに限定されるものではない。さらに、これらの混合物をもちいることも可能である。
【0046】
上述した有機リン系化合物からなる構成単位の中で、一般式(5)に含まれる以下の一般式(6)で表される化合物が特に好ましい。
【0048】
一般式(6)において、R1は1価のエステル形成性官能基であり、R2,R3は同じかまたは異なる基であって、それぞれハロゲン原子、炭素原子数1〜10の炭化水素基、R1より選ばれ、Aは2価もしくは3価の有機残基を表す。また、mは1または2を表し、n,pはそれぞれ0〜4の整数を表す。
【0049】
ここでR2,R3は、例えば塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、炭素数1〜10のアリキル基、アルコキシル基、フェニル基、フェノキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシ基、アラルキル基、アラルキルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基が挙げられ、その具体例としては、例えば、メチル、メトキシ、エチル、エトキシ、プロピル、プロポキシ、ペンチル、ペントキシ、フェニル、フェノキシ、トリル、トリロキシ、キシリル、キシリロキシ、クメニル、クメニロキシ、ナフチル、ナフチロキシなどが好ましく、メチル、フェニル、メトキシ、フェノキシ、トリル、トリロキシ、キシリル、キシリロキシなどが好ましい。
【0050】
式中R1としては、具体的にはカルボキシル基、カルボキシル基の炭素原子数が1〜6のアルキルエステル、シクロアルキルエステル、アリールエステル、アルキレングリコールエステル、ヒドロキシル基、炭素原子数2〜7のヒドロキシルアルコキシカルボニル基及び、下記(化10)で示される基などが挙げられる。
【0052】
一方、Aとして好ましいものには、メチレン、エチレン、1,2−プロピレン、1,3−プロピレンなどの低級アルキレン基、1,3−フェニレン、1,4−フェニレンなどのアリーレン基、1,3−キシリレン、1,4−キシリレン、下記(化11)などの2価の基、下記(化12)(R4は水素原子またはメチル、エチルなどの低級アルキル基、rは0または1を表す。)で示される3価の基、下記(化13)などが挙げられる。
【0056】
なお、上記の炭化水素基は塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0057】
また、一般式(6)で表される上記化合物のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、プロピオングリコールエステル、ブタンジオールとのエステルなどのアルキルエステル、シクロアルキルエステル、アリールエステル、または、エチレングリコールエステルなどのアルキレングリコールエステル、またはこれらの環状酸無水物など、その誘導体が挙げられるがこれに限定されるものではない。さらに、これらの混合物をもちいることも可能である。
【0058】
上記有機リン系化合物からなる構成単位が熱可塑性樹脂(B)に共重合されている態様において、好ましくは熱可塑性樹脂(B)がポリエステル系樹脂であり、より好ましくはポリエチレンテレフタレートであり、さらに、結晶性ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。そのような熱可塑性樹脂(B)として、東洋紡社製「ハイム」など市販の有機リン系化合物含有ポリエステル系樹脂を用いることができる。
【0059】
一方、熱可塑性樹脂(B)に有機リン系化合物が混合されている態様において、本発明で用いられる有機リン系化合物としては、代表的には、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィネート、ホスフィンオキシド、ホスファイト、ホスホナイト、ホスフィナイト、ホスフィンなどが挙げられる。このような有機リン系化合物の具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、フェニルジクレジルホスフェート、ジー2−エチルヘキシルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニルー2ーメタクリロイルオキシエチルホスフェート、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリストリデシルホスファイト、ジブチルハイドロジエンホスファイト、トリフェニルホスフィンオキシド、トリクレジルホスフィンオキシド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどが挙げられる。
【0060】
これらの有機リン系化合物は単独であるいは2種以上組み合わせて用いられる。2種以上組み合わせて使用する場合には、その組み合わせは特に限定されない。例えば、構造の異なるもの、分子量の異なるものなどが任意に組み合わせられる。
【0061】
(紫外線吸収剤)
本発明において、紫外線吸収剤を1〜10%owf加えて染色することが好ましい。より好ましくは4〜8%owf、さらに好ましくは5〜7%owfである。紫外線吸収剤が1%owf未満である場合には変退色が起こり、10%owfを超えると繊維強度が低下するため好ましくない。
【0062】
前記紫外線吸収剤としては、ヒドロキシフェニルトリアジン系やベンゾフェノン系、あるいはベンゾトリアゾール系化合物等の有機系、または酸化亜鉛や酸化セリウム系等の無機系の紫外線吸収剤が用いられる。紫外線吸収剤は、上述した樹脂のエマルジョンや溶液に均一に分散させた状態で用いるために、水や有機溶剤に溶解あるいは分散させた状態で樹脂と混合させることが好ましい。前記ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤は、「チヌビン1600」(BASF社製)等として入手することができる。他に、紫外線吸収剤を含有する染色助剤を用いてもよく、例えば「ブリアンFOK−3」(松本油脂製薬社製)等を用いてもよい。
【0063】
(染料)
本発明において用いられる染料としては、通常のポリエステル繊維の染色に用いられる分散染料であればいずれの染料も使用可能であり、特に限定されるものではない。特にポリエーテルイミド系繊維に好適な分散染料としては、拡散性がよく、無機性/有機性比において無機性が高い染料であり、一般的に水酸基やハロゲンを含む染料である。ポリエーテルイミド系繊維に好適な染料としては、例えば、イエロー系「Dianix Yellow AM−42」、「Dianix Luminous Yellow GN」、「Dianix Luminous Yellow 10G」、オレンジ系「Kayalon Brilliant Orange HL−SF200」、「Reform Brilliant Orange CV−N」、「Dianix Orange AM−SLR」、レッド系「Dianix Br.Scarlet SF」等が挙げられる。上述した染料の中には特にキャリアを使用せずとも良好に繊維を染着させることができるものも存在するが、キャリアを使用した場合には濃染色ができるうえに洗濯堅牢度が高くなる。また、キャリアを使用しない場合には良好に染着できない染料についても、キャリアを使用することにより良好に染色できるため、本発明において用いることができる染料は特に前記に限定されるものではない。
【0064】
(キャリア)
本発明において、キャリアとしてベンジルアルコール系化合物やフタル酸イミド系化合物、クロロベンゼン系化合物、メチルナフタレン系化合物等を用いることが好ましい。これらのキャリアは単独で用いることもできるが、併用した場合にはなお濃色に染色することが可能である。前記ベンジルアルコール系キャリアは「ベンジルアルコール」(東京化成工業社製)等、フタル酸イミド系は「ダイキャリアTN−55」(大和化学工業社製)等、クロロベンゼン系は「IPC−71PキャリアC−71」(一方社油脂工業社製)等、メチルナフタレン系は「テトロシンAT−M」(山川薬品工業社製)等として入手することができる。
【0065】
(染色方法)
本発明において、ポリエーテルイミド系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とをブレンドした樹脂からなる難燃性繊維を染色する方法としては、通常のポリエステルと同様の分散染料で染色することができる。プレセット、ファイナルセット温度は160℃以下にすることが好ましい。染色温度は、所望の染色濃度、染料の種類、キャリア(フタルイミド等)の有無等に応じて、適宜好ましい範囲を設定することが可能であるが、繊維の強度低下を抑制する目的から、好ましくは95〜120℃であり、より好ましくは100〜115℃である。染色温度が95℃未満の場合には濃色に染めることができず、120℃を超えた場合には繊維が硬くなるため好ましくない。
【0066】
(色)
本発明の難燃布帛は、欧州高視認性規格EN471の要求基準を満足する色を有することを特徴とする。
EN471では、材料に用いられる色の種類ごとに、CIE色度座標、およびCIE三刺激値といった条件から要求基準が定められている。すなわち、オレンジ−レッド系の材料に対しては、CIE色度座標(x,y)が(0.610,0.390),(0.535,0.375),(0.570,0.340),および(0.655,0.345)によって定められた色空間の範囲内で、かつ輝度係数βが0.40以上であることが規定されている。また、イエロー系の材料は、CIE色度座標(x,y)が(0.387,0.610),(0.356,0.494),(0.398,0.452)および(0.460,0.540)によって定められた色空間の範囲内で、かつ輝度係数βが0.70以上でなければならない。
【0067】
高視認性を要する用途に用いる上で、繊維製品としては、染色直後の状態でEN471の要求基準を満たしていることが不可欠だが、様々な環境的要因、例えば光によって材料が変色しにくいこと、あるいは変色した場合でもEN471の要求基準を満たす状態を保っていることが必要である。従って、本発明の難燃布帛は、特定のキセノンランプ照射試験後でも欧州高視認性規格EN471の要求基準を満足する色を有することを特長のひとつとする。なお、該キセノンランプ照射試験は、ISO 105−B02:1994における第3露光法に従って行う。オレンジ−レッド系で、5級のブルースケール制御基準からグレースケールの3レベルに変わるまで照射し、イエロー系では、4級のブルースケール制御基準からグレースケールの4レベルに変化するまで照射する。
【0068】
従って、本発明の難燃布帛は、オレンジ−レッド系として、染色後の色のCIE色度座標(x,y)が、(0.624,0.374),(0.589,0.366),(0.609,0.343)および(0.655,0.345)によって境界を定められた色空間の範囲内であり、かつ輝度係数βが0.40以上であることが好ましい。この色空間の範囲内の色に染色された本発明の難燃布帛は、光に曝された場合でも、布帛の色度がEN471のオレンジ−レッド系に定められた色空間の範囲内におさまることができる。
【0069】
また、本発明の難燃布帛は、イエロー系として、染色後の色のCIE色度座標(x,y)が、(0.450,0.549),(0.420,0.483),(0.375,0.528)および(0.395,0.602)によって境界を定められた色空間の範囲内であり、かつ輝度係数βが0.70以上であることが好ましい。この色空間の範囲内の色に染色された本発明の難燃布帛は、光に曝された場合でも、布帛の色度がEN471のイエロー系に定められた色空間の範囲内におさまることができる。
【0070】
(繊維形成方法)
次に、繊維形成方法について述べる。繊維形成樹脂であるポリエーテルイミド系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とのブレンド樹脂を、単軸あるいは2軸押出機を用いて溶融押出しを行い、0.1〜10.0mm径のノズルより押し出し繊維状にする。この繊維を300〜3000m/分で巻き取ることにより0.1〜1000dtexの繊維を得ることができる。
【0071】
(難燃成分を含有させる方法)
本発明の熱可塑性樹脂(B)に難燃成分を含有させる方法について説明する。本発明の熱可塑性樹脂(B)に前記有機リン系化合物からなる構成単位が共重合される態様では、熱可塑性樹脂(B)の重合時に該有機リン系化合物を共重合すればよい。例えば、熱可塑性樹脂(B)がポリエステル系樹脂である場合、特別な重合条件を採用する必要はなく、ジカルボン酸及び/またはそのエステル形成性誘導体とグリコールとの反応生成物を重縮合して、ポリエステルを得るといった通常の方法で合成する際に、前記有機リン系化合物をメタノール、エタノールなどの1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどの2価アルコールに溶解もしくは分散させて反応系に添加することにより、有機リン系化合物からなる構成単位をポリエステル系樹脂に共重合することができる。一方、熱可塑性樹脂(B)に有機リン系化合物が混合されている態様では、例えば、熱可塑性樹脂(B)を溶融して有機リン系化合物を練り込む方法が挙げられる。
【0072】
(紫外線吸収剤の添加方法)
本発明における難燃性繊維に紫外線吸収剤を含有させる場合、紫外線吸収剤は、予め前記樹脂に練り込まれ、練り込まれた樹脂を溶融紡糸して繊維を形成するか、または繊維形成後、後加工により紫外線吸収剤を繊維に含浸させることにより、欧州高視認性規格EN471の要求基準を満足する色を有する難燃繊維を形成することができる。
【0073】
紫外線吸収剤を予め樹脂に練り込む方法において、繊維形成樹脂に紫外線吸収剤を配合しながら溶融紡糸する、または予め配合した樹脂組成物を用いて溶融紡糸することで、紫外線吸収剤が特定量付与された繊維を得ることができる。有機系の紫外線吸収剤を用いる場合は、紡糸時に練り込むことが、熱履歴が少なく熱分解が抑制されるため好ましい。一方、無機系の紫外線吸収剤を用いる場合は、樹脂と紫外線吸収剤を溶融混合してマスターバッチを作製し、前記マスターバッチと残りの繊維形成樹脂とを溶融混練して行うことが、無機物の分散性を向上させるためには好ましい。
【0074】
また、繊維形成後、後加工により紫外線吸収剤を繊維に含浸させる場合には、紫外線吸収剤を水に分散させて、繊維を分散液中で処理することにより繊維中に紫外線吸収剤を含浸させることができる。紫外線吸収剤を水に分散させる場合には、キャリアを加えて行ってもよい。
【0075】
(布帛)
本発明において、前記ポリエーテルイミド系樹脂と特定の熱可塑性樹脂とをブレンドした樹脂からなる難燃性繊維を用いて高視認性を有する難燃布帛が得られるが、織物、編み物、不織布等いずれの布帛も得ることができる。
【0076】
(用途)
本発明の高視認性を有する難燃布帛は、欧州高視認性規格EN471の要求基準を満足する色を有することから、防護衣類等として広範囲に使用される。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、難燃性評価、強度評価、色度・輝度評価、は、下記の方法により行った。
【0078】
[難燃性評価]
JIS K7201試験法に準拠して、繊維を三つ編みにした試長18cmの試料を作り、試料の上端に着火したとき、試料の燃焼時間が3分以上継続して燃焼するか、または着火後の燃焼長さが5cm以上燃えつづけるのに必要な最低の酸素濃度(限界酸素指数値(LOI))を測定し、n=3の平均値を採用した。LOI≧27の場合、難燃性を有する材料と判断した。
【0079】
[強度評価]
フィラメントの筒編地を作成し、繊維をほどいてフィラメントの繊維強度を島津製作所社製オートグラフにて引張試験を行い、染色前後で強度の評価を行った。
【0080】
[色度・輝度評価]
染色後、およびキセノンランプ照射後の筒編地それぞれに関して、ミノルタ社製spectrophotometer 3700dを用いて、反射光のCIE色度座標(x,y)および輝度係数βを測定し、色度・輝度を評価した。
なお、前述したように、キセノンランプ照射試験は、ISO 105−B02:1994における第3露光法に従って行い、オレンジ−レッド系で、5級のブルースケール制御基準からグレースケールの3レベルに変わるまで照射した。
【0081】
<実施例1>
有機リン系化合物をリン原子の重量濃度ベースで0.6%含有するポリエチレンテレフタレート樹脂(東洋紡社製「ハイムRH416」)(ガラス転移温度が68℃)(これ以降P−PET樹脂と略す)25質量部と、ポリエーテルイミド樹脂(サービックイノベイティブプラスチックス社製「ウルテム9011」)(重量平均分子量(Mw)が32000、数平均分子量(Mn)が14500、分子量分布が2.2、ガラス転移温度が217℃である非晶性ポリエーテルイミド系樹脂)(これ以降U−PEI樹脂と略す)75質量部を2軸押出機にて混錬して押出、そのままギヤポンプにて計量し、340℃にてΦ0.2mmのノズルより吐出させ、1500m/minの速度で巻き取り、84dtex/24fのブレンド樹脂からなる繊維を得、筒編地を作成した。
【0082】
得られた筒編地を下記に示す染料、染料分散剤およびキャリア等を含む染色液とともに密閉可能な耐圧ステンレス容器に入れ、115℃にて40分間染色した。オレンジ−レッド系に染色された筒編地を、下記還元洗浄浴にて80℃で20分間還元洗浄を行い、繊維表面に付着している不純物を除去した。
【0083】
(染色液組成および液量)
U−PEIとP−PETとのブレンド繊維からなる筒編地 7g
ウルトラMTレベル[pH調整剤](ミテジマ化学社製) 1g/L
ディスパーTL[染料分散剤](日華化学社製) 1g/L
Reform Brilliant Orange CV−N [染料](ニッカファインテクノ社製) 4.0%owf
ブリアンFOK−3[紫外線吸収剤を含む染色助剤](松本油脂製薬社製) 5%owf
ダイキャリアTN−55[キャリア](大和化学工業社製) 4%owf
全液量 210cc
【0084】
(還元洗浄液組成)
炭酸ナトリウム 1g/L
ハイドロサルファイト 1g/L
アミラジンD(第一工業製薬社製) 1g/L
液量 200cc
【0085】
<実施例2>
実施例1のP−PET樹脂を、有機リン系化合物をリン原子の重量濃度ベースで1.05%含有するポリエチレンテレフタレート(東洋紡社製「ハイムGH401」)(ガラス転移温度が68℃)に替えた以外は実施例1と同条件で繊維化、筒編地を作成し、染色、還元洗浄を行った。
【0086】
<比較例1>
実施例1のP−PET樹脂を、リン原子を含まないポリエチレンテレフタレートに替えた以外は実施例1と同条件で繊維化、筒編地を作成し、染色、還元洗浄を行った。
【0087】
<比較例2>
実施例1の条件で繊維化を行い、筒編地を作成した後、ブリアンFOK−3の替わりに蛍光増白剤「Uvitex EBF 250%」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)3%を用いた以外は実施例1と同様にして、染色、還元洗浄を行った。
【0088】
<比較例3>
U−PEI樹脂を2軸押出機にて混錬して押出、そのままギヤポンプにて計量し、400℃にてΦ0.2mmのノズルより吐出させ、1500m/minの速度で巻き取り、84dtex/24fのブレンド樹脂からなる繊維を得、筒編地を作成し、実施例1と同様の条件で染色温度を135℃にて染色を行った。
【0089】
前記の実施例1〜2および比較例1〜3により得られた筒編地の評価結果を表1に示す。実施例1〜2で得られた筒編地は難燃性、染色後の強度の点で優れた結果となり、さらに、いずれも染色後およびキセノンランプ照射後の色度・輝度が欧州高視認性規格EN471を満足するものとなった。一方、比較例1はリン原子を含まないために、難燃性が劣り、比較例2はキセノンランプ照射後に色度がEN471を満たさなかった。また、比較例3は、ポリエーテルイミド樹脂単独であるために染色温度を低くすることができず、染色後に繊維強度が著しく低下する結果となった。
【0090】
【表1】