特許第6437856号(P6437856)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6437856
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子用活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20181203BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20181203BHJP
   C01G 33/00 20060101ALN20181203BHJP
   C01G 45/00 20060101ALN20181203BHJP
【FI】
   H01M4/485
   H01M4/505
   !C01G33/00 A
   !C01G45/00
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-55468(P2015-55468)
(22)【出願日】2015年3月19日
(65)【公開番号】特開2016-103456(P2016-103456A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-232519(P2014-232519)
(32)【優先日】2014年11月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(72)【発明者】
【氏名】市川 慎之介
(72)【発明者】
【氏名】竹内 三恵
(72)【発明者】
【氏名】藪内 直明
(72)【発明者】
【氏名】駒場 慎一
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−295290(JP,A)
【文献】 特開平07−006761(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/156153(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
C01G 25/00−47/00、49/10−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エックス線回折図において,空間群Fm−3mに帰属可能なピークを有し、組成式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質蓄電素子用活物質。
Li1+xNbMe ・・・ (1)
(MeはVを含む遷移金属、Meを構成するVの元素比率V/Me比が0.5以上、0<x<1、0<y≦0.35、0.3≦z<1、AはNb、Me、O以外の元素、0≦p≦0.2)
【請求項2】
0.8≦2y+z≦1.2である請求項1に記載の非水電解質蓄電素子用活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非水電解質蓄電素子用活物質を含有する非水電解質蓄電素子用電極。
【請求項4】
請求項3に記載の非水電解質蓄電素子用電極を備えた非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子用活物質及びそれを用いた非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、LiNbOとLiMeO(MeはFe又はMn)の固溶体であり、空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を有し、組成式Li1+xNbMe(MeはFe及び/又はMnを含む遷移金属、0<x<1、0<y<0.5、0.25≦z<1、AはNb、Me以外の元素、0≦p≦0.2)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として含有する非水電解質二次電池が記載されている。
【0003】
非特許文献1には、LiVOとLiTiOの固溶体であり、空間群R−3mに帰属可能な結晶構造を有し、組成式(1−x)LiVO・xLiTiOで表されるリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として含有する非水電解質二次電池が記載されている。
【0004】
非特許文献2には、LiVOにおけるVの一部をCrに置換した固溶体であり、空間群R−3mに帰属可能な結晶構造を有し、組成式LiCr1−xで表されるリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として含有する非水電解質二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2014/156153
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Power Sources,174, 1007 (2007)
【非特許文献2】J. Electrochem.Soc.,160, A279 (2013)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、非特許文献1、2に記載されたリチウム遷移金属複合酸化物を含有する電極は、初期の数サイクルにおいて放電容量が大きく低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を有し、組成式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質蓄電素子用活物質である。
Li1+xNbMe ・・・ (1)
(MeはVを含む遷移金属、0<x<1、0<y<0.5、0<z<1、AはNb、Me、O以外の元素、0≦p≦0.2)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い放電容量と優れた充放電サイクル性能を兼ね備えた非水電解質蓄電素子用活物質を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る非水電解質二次電池の一実施形態を示す外観斜視図
図2】本発明に係る非水電解質二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図
図3】実施例に係る非水電解質蓄電素子用活物質のエックス線回折図
図4】実施例に係る非水電解質二次電池の充放電カーブ
図5】実施例に係る非水電解質二次電池の充放電カーブ
図6】実施例に係る非水電解質蓄電素子用電極のエックス線回折図
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の構成及び効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限しない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施の形態若しくは実験例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内である。
【0012】
本発明に係る非水電解質蓄電素子用活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物が、LiNbO−LiMeO(MeはNb以外の遷移金属)の固溶体を含む点に特徴を有する。従って、前記リチウム遷移金属複合酸化物において、Nbの価数はおよそ+5であることが理解される。また、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、エックス線回折図において,空間群Fm−3mに帰属可能なピークを有することを特徴とする。本願明細書の実施例の欄にも記載するように、LiNbOは空間群I−43mに帰属可能なピークを有し、LiVOは空間群R−3mに帰属可能なピークを有する。これに対して、両者の固溶体を含むと考えられる本発明に係る非水電解質蓄電素子用活物質は、空間群Fm−3mに帰属可能なピークを有する。本発明に係る非水電解質蓄電素子用活物質は、空間群Fm−3mに帰属可能なピーク以外の回折ピークを含んでいてもよい。なかでも、空間群Fm−3mに帰属可能なピーク及び空間群R−3mに帰属可能なピークを有するものは好ましい。
なお、空間群「R−3m」「Fm−3m」における「−3」、空間群「I−43m」における「−4」はそれぞれ3回回反軸、4回回反軸の対称要素を表し、本来「3」「4」の上にバー「−」を施して表記すべきものである。
【0013】
LiNbO−LiMeO(MeはVを含む遷移金属)の固溶体は、酸素の係数を整理して次式で表される。
aLiMeO・(1−a)Li3/2Nb1/2(0<a<1)
これを変形して次式が得られる。
Li1+(1−a)/2Nb(1−a)/2Me
従って、これを次式
Li1+xNbMe
で表したとき、yが取りうる範囲は、0<y<0.5である。
上記式は、任意元素Aを加え、次式で表現することができる。
Li1+xNbMe ・・・ (1)
(MeはVを含む遷移金属、0<x<1、0<y<0.5、0<z<1、AはNb、Me以外の元素、0≦p≦0.2)
ここで、上記式の変形過程に従えば、x=yであるから、0<x<0.5が導かれる。しかしながら、合成時にLi原料を理論組成比率よりも過剰に加えることが一般に行われること、充放電によってLiの組成比率が大きく変動すること、放電末状態では合成時よりもLiの組成比率が大きくなる可能性があることから、0<x<1と表記した。
【0014】
本発明者らは、上記式(1)において、MeがVを含み、zの値が0.3以上であることにより、高い放電容量と優れた充放電サイクル性能を兼ね備えた非水電解質蓄電素子用活物質が得られることを見出し、本発明に至った。この観点から、zの値は0.4以上がより好ましい。また、zの値は0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。また、yは0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.2以上がさらに好ましい。また、yは0.4以下が好ましい。
【0015】
前記固溶体がaLiMeO・(1−a)Li3/2Nb1/2(0<a<1)の関係式を満たすとき、2y+z=1の関係式及びx=yの関係式が導かれる。従って、実用的には、0.8≦2y+z≦1.2の範囲であれば、高い放電容量と優れた充放電サイクル性能を兼ね備えた非水電解質蓄電素子用活物質とすることが可能であり、本発明の技術思想を逸脱することなく本発明を実施できる。なかでも、0.9≦2y+z≦1.1であることがより好ましい。また、電極作製前の原料としての非水電解質蓄電素子用活物質としては、実用的には|x−y|≦0.2が好ましく、0≦x−y≦0.03がより好ましい。
【0016】
組成式(1)において、MeはVを必須とする。Meを構成するV以外の遷移金属としては、限定されないが、Mn、Fe、Ni、Co、Cu等の遷移金属が好ましい。Meを構成するVの元素比率V/Me比は、0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上がさらに好ましい。任意元素Aとしては、限定されないが、Na,Ca等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属、Zn,In,Al等の元素が挙げられる。
【0017】
本発明の非水電解質蓄電素子用活物質は、正極活物質として用いることができる。また、他の活物質と混合して用いてもよい。
【0018】
本願発明の非水電解質蓄電素子用活物質の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが好ましい。特に、非水電解質蓄電素子の出力特性を向上させる目的で30μm以下であることが望ましい。また、リチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子の大きさは、その平均が0.5〜3μmであることが好ましい。
【0019】
次に、本発明の非水電解質蓄電素子用活物質を製造する方法について説明する。
本発明の非水電解質蓄電素子用活物質は、基本的に、活物質を構成する金属元素(Li,Nb,Me)を、目的とする活物質(リチウム遷移金属複合酸化物)の組成通りに含有するように原料を調整し、最終的にこの原料を焼成すること、によって得ることができる。但し、Li原料の量については、焼成中にLi原料の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に含有させることが好ましく、3%程度過剰に含有させることがより好ましい。
【0020】
目的とする組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を作製するための方法として、Li、Nb、Meのそれぞれの塩を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめNb、Meを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」、このほかにも、「蒸発乾固法」、「スプレードライ法」等が挙げられる。
本発明では、実施例に後述するように「固相法」を採用している。「固相法」を採用することにより、特別な装置を必要とせず、合成工程の簡易化が可能となり、活物質の合成コストを削減することができるので好ましい。
【0021】
前述の「固相法」等による合成における焼成温度は、目的とするリチウム遷移金属複合酸化物が生成する温度であれば特に限定はされないが、原料として用いるリチウム塩が溶融する温度以上とすることで、結晶化が進行するため充放電容量が大きくなるので好ましい。具体的には、用いるリチウム塩の種類にもよるが、焼成温度は500℃以上とすることが好ましい。さらに、生成したリチウム遷移金属複合酸化物の結晶性を適度に上げて、充放電特性を向上させる目的で800℃以上とすることがより好ましい。
【0022】
前述の方法で作製したリチウム遷移金属複合酸化物は、粉体を所定の形状で得るために粉砕機や分級機を用いることができる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等が用いられる。粉砕時には水、アセトン、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0023】
また、本発明では、リチウム遷移金属複合酸化物の電子伝導性を補う目的で非水電解質蓄電素子用活物質の粒子の表面に、導電性物質を備えていても良い。導電性物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物よりも電子伝導性に優れるならば、特に限定されることは無い。例えば、金属、金属酸化物、アセチレンブラック等の黒鉛性炭素、カーボンナノチューブ、有機物の熱分解由来の炭素、導電性高分子等が挙げられるが、本発明においては、黒鉛性炭素が好ましい。
【0024】
非水電解質蓄電素子用活物質の粒子の表面に導電性物質を備えるための方法としては、メカノフュージョン等のように、物理的に活物質粒子表面に導電性物質を圧着させる方法が好ましい。本発明では、後述の実施例に記載するように、非水電解質蓄電素子用活物質を焼成した後に、ボールミルによる粉砕工程を設けている。この工程に導電性物質を共存させることで、導電性物質を粒子の表面に備えることができる。
【0025】
非水電解質蓄電素子用活物質の粒子の表面に導電性物質を備えるための方法としては、有機化合物の熱分解を利用する方法もある。この方法では、焼成後の非水電解質蓄電素子用活物質と有機化合物を混合して、不活性或いは還元雰囲気中において、有機物の熱分解温度を超えて加熱することにより、非水電解質蓄電素子用活物質の粒子の表面に炭素を被覆させることができる。但し、リチウム遷移金属複合酸化物に含まれる遷移金属の種類によっては、加熱中に金属まで還元されて、目的とするリチウム遷移金属複合酸化物の組成が変化する可能性があるため注意が必要である。
【0026】
本発明に係る非水電解質二次電池の負極に用いる負極材料としては、限定されず、リチウムイオンを吸蔵・放出することのできる形態の負極材料であればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料;SiやSb,Sn系などの合金系材料;リチウム金属;リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム等のリチウム合金;リチウム−チタンなどのリチウム複合酸化物;酸化珪素;リチウムを吸蔵・放出可能な合金;グラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等の炭素材料等が挙げられる。
【0027】
負極材料の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0028】
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極活物質及び負極材料について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0029】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等の天然黒鉛;人造黒鉛;カーボンブラック;アセチレンブラック;ケッチェンブラック;カーボンウイスカー;炭素繊維;銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等の金属粉;金属繊維;導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極又は負極の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、特に0.5重量%〜30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0031】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂;エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種又は2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極又は負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0032】
フィラーとしては、蓄電素子性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極又は負極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
【0033】
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極活物質又は負極材料)を含有し、N−メチルピロリドン、トルエン等の有機溶媒又は水を分散溶媒とする塗布液を作製し、正極集電体又は負極集電体に塗布し、前記分散溶媒を加熱除去すること等により好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されない。
【0034】
本発明に係る非水電解質蓄電素子に用いる非水電解質が含有する非水溶媒は、限定されず、一般にリチウム電池等への使用が提案されている非水溶媒が使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフラン又はその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソラン又はその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトン又はその誘導体等の単独又はそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0035】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO,LiBF,LiAsF,LiPF,LiSCN,LiBr,LiI,LiSO,Li10Cl10,NaClO,NaI,NaSCN,NaBr,KClO,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO),LiC(CFSO,LiC(CSO,(CHNBF,(CHNBr,(CNClO,(CNI,(CNBr,(n−C、NClO,(n−CNI,(CN−maleate,(CN−benzoate,(CN−phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0036】
さらに、LiPF又はLiBFと、LiN(CSOのようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より望ましい。
【0037】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0038】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い蓄電素子特性を有する非水電解質蓄電素子を確実に得るために、0.1mol/L〜5mol/Lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/L〜2.5mol/Lである。
【0039】
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂;ポリフッ化ビニリデン;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体;フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体;フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体;フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体;フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体;フッ化ビニリデン−エチレン共重合体;フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体;フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体;フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体;フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0040】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0041】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0042】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0043】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0044】
図1に、本発明に係る非水電解質二次電池の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池1の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す非水電解質二次電池1は、電極群2が電池容器3に収納されている。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0045】
本発明に係る非水電解質二次電池の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質二次電池を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【0046】
なお、本発明に係る非水電解質蓄電素子用活物質及びその合成に用いる原料は、三価のバナジウム(V)を含んでいるため、酸化されやすい。従って、活物質の合成工程や電極の作製工程は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
炭酸リチウム(LiCO)(ナカライテスク社製)、五酸化二ニオブ(Nb)(高純度化学社製)及び三酸化二バナジウム(V)(高純度化学社製)をLi:Nb:Vのモル比が135:35:30となるように秤取し、直径5mmのジルコニア製ボール(商品名:YTZボール)が90g(約250個)入った内容積80mLのジルコ
ニア製ポットに投入した。出発物質の投入量は約18gであった。このポットにさらにアセトン10mLを投入し、蓋をして、遊星型ボールミル(FRITSCH社製、型番pulverisette 5)にセットし、公転回転数300rpmで9分混合した後に1分間の休止を入れる操作を計6回繰り返した。この混合物を乾燥機の75℃で3時間以上乾燥することで、Li:Nb:Vのモル比が135:35:30である混合粉体を調製した。この混合粉体を、容量30mLのアルミナ製るつぼ(型番:1−7745−07)に載置し、卓上真空・ガス置換炉(型番:KDF75)に設置し、窒素気流中、常圧下、昇温速度10℃/minで常温から1050℃まで約100minかけて昇温し、1050℃で5min保持した。焼成後の粉末を取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、組成式Li1.35Nb0.350.3で表される実施例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0048】
(実施例2〜4)
混合粉体の調製工程において、Li:Nb:Vのモル比が、実施例2については130:30:40、実施例3については125:25:50、実施例4については120:20:60となるように、炭酸リチウム、五酸化二ニオブ及び三酸化二バナジウムを秤取したことを除いては、実施例1と同様の手順で、表1に記載のそれぞれの組成式で表される実施例2〜4に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0049】
(実施例5)
混合粉体の調製工程において、Li:Nb:V:Mnのモル比が、130:30:30:10となるように、炭酸リチウム、五酸化二ニオブ、三酸化二バナジウム及び三酸化二マンガン(Mn)(高純度化学社製)を秤取したこと、並びに、アルゴン気流中で焼成したことを除いては、実施例1と同様の手順で、組成式Li1.3Nb0.300.3Mn0.1で表される実施例5に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0050】
(実施例6〜10)
混合粉体の調製工程において、Li:Nb:Vのモル比が、実施例6については115:15:70、実施例7については110:10:80、実施例8については120:30:50、実施例9については125:15:60、実施例10については130:10:60となるように、炭酸リチウム、五酸化二ニオブ及び三酸化二バナジウムを秤取したことを除いては、実施例1と同様の手順で、表1に記載のそれぞれの組成式で表される実施例6〜10に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0051】
(比較例1)
混合粉体の調製工程において、Li:Nb:Mnのモル比が、130:30:40となるように、炭酸リチウム、五酸化二ニオブ及び三酸化二マンガンを秤取したこと、並びに、アルゴン気流中で焼成したことを除いては、実施例1と同様の手順で、組成式Li1.30Nb0.30Mn0.4で表される比較例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0052】
(比較例2)
混合粉体の調製工程において、Li:Nb:Mn:Feのモル比が、1215:215:380:190となるように、炭酸リチウム、五酸化二ニオブ、三酸化二マンガン及び三酸化二鉄(Fe)(ナカライテスク社製)を秤取したこと、並びに、アルゴン気流中で焼成したことを除いては、実施例1と同様の手順で、組成式Li1.215Nb0.215Mn0.38Fe0.19で表される比較例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0053】
(比較例3)
混合粉体の調製工程において、Li:Nbのモル比が、30:10となるように、炭酸リチウム及び五酸化二ニオブを秤取したこと、並びに、焼成の工程において、空気の気流中、常圧下、昇温速度1.5℃/minで常温から950℃まで約600minかけて昇温し、950℃で240min保持したことを除いては、実施例1と同様の手順で、組成式LiNbOで表される比較例3に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0054】
(比較例4)
混合粉体の調製工程において、Li:Vのモル比が、10::10となるように、炭酸リチウム及び三酸化二バナジウムを秤取したことを除いては、実施例1と同様の手順で、組成式LiVOで表される比較例4に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0055】
(比較例5)
混合粉体の調製工程において、Li:Nb:Vのモル比が140:40:20となるように、炭酸リチウム、五酸化二ニオブ及び三酸化二バナジウムを秤取したことを除いては、実施例1と同様の手順で、組成式Li1.40Nb0.400.2で表される比較例5に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0056】
なお、前記2y+zの値は、実施例1〜7ついては1.0であり、実施例8については1.1であり、実施例9については0.9であり、実施例10については0.8である。
【0057】
(エックス線回折測定)
エックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlex II)を用いて粉末エックス線回折測定を行った。線源はCuKα線、管電圧及び管電流はそれぞれ30kV及び15mAとし、回折エックス線は厚み30μmのKβフィルターを通り高速一次元検出器(型番:D/teX Ultra 2)にて検出される。サンプリング幅は0.01°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとする。得られたエックス線回折図及びエックス線回折データについて、統合粉末X線解析ソフトウェア「PDXL」(Rigaku社製)を用いて解析を実施した。
【0058】
その結果、実施例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、空間群Fm−3mに帰属可能なピークと空間群I−43mに帰属可能なピークが観測され、実施例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、空間群Fm−3mに帰属可能なピークが観測され、実施例3、実施例4、実施例6及び実施例7に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、空間群Fm−3mに帰属可能なピークと空間群R−3mに帰属可能なピークが観測され、実施例5に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、空間群Fm−3mに帰属可能なピークとLiVOに帰属可能な弱い不純物ピークが観測され、実施例8に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、空間群Fm−3mに帰属可能なピーク、空間群R−3mに帰属可能なピーク及びLiNbOに帰属可能な不純物ピークが観測され、実施例9に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、空間群Fm−3mに帰属可能なピーク、空間群R−3mに帰属可能なピーク及びLiVOに帰属可能な弱い不純物ピークが観測され、実施例10に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、空間群Fm−3mに帰属可能なピーク、空間群R−3mに帰属可能なピーク及びLiVOに帰属可能な不純物ピークが観測された。ここで空間群Fm−3mに帰属可能なピークは、カチオンが不規則に配列したNaCl型構造に由来するものであり、空間群R−3mに帰属可能なピークは、カチオンが規則的に配列したα−NaFeO型構造に由来するものであると解釈される。また、比較例1及び比較例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、空間群Fm−3mに帰属可能なピークが観測され、比較例3に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、空間群I−43mに帰属可能なピークが観測され、比較例4に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、空間群R−3mに帰属可能なピークとLiVに帰属可能な弱い不純物ピークが観測され、比較例5に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、空間群Fm−3mに帰属可能なピークと空間群I−43mに帰属可能なピークが観測された。図3に、実施例1〜10に係るリチウム遷移金属複合酸化物のエックス線回折図)を示す。
【0059】
(非水電解質二次電池の作製)
実施例1〜10及び比較例1〜5のそれぞれのリチウム遷移金属複合酸化物を非水電解質電池の正極活物質として用いて、以下の手順で非水電解質二次電池を作製し、電池特性を評価した。
【0060】
正極活物質2.275gとアセチレンブラック(AB)0.700gをそれぞれ秤取し、直径5mmのジルコニア製ボール(商品名:YTZボール)が90g(約250個)入った内容積80mLのジルコニア製ポットに投入した。このポットにさらにアセトン10mLを投入し、蓋をして、遊星型ボールミル(FRITSCH社製、型番pulverisette 5)にセットし、公転回転数300rpmで9分混合した後に1分間の休止を入れる操作を計6回繰り返した。この混合物を75℃の乾燥機で3時間以上乾燥することで、混合粉体を調製した。この混合粉体とポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)の質量比が65:20:15となるように混合した。この混合物を、分散媒としてN−メチルピロリドンを加えて混練分散し、塗布液を調製した。なお、PVdFについては、固形分が溶解分散された液を用いることによって、固形質量換算した。該塗布液を厚さ20μmのアルミニウム箔集電体に塗布した後、分散媒を蒸発させるために80℃のホットプレート上で60分の乾燥を行い、ロールプレスを行うことで正極板を作製した。合剤層のプレス後の厚みは18μm、塗布重量は2.5mg/cmであった。
【0061】
負極には、正極の単独挙動を観察するため、リチウム金属を用いた。このリチウム金属は、ニッケル箔集電体に密着させた。ただし、非水電解質二次電池の容量が十分に正極規制となるように調整した。
【0062】
電解液として、エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート(EMC)の体積比が30:35:35である混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させて用いた。セパレータとして、ポリプロピレン製の微孔膜を用いた。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用いた。この外装体に、正極端子及び負極端子の開放端部が、外部に露出するように電極を収納した。前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を、注液孔となる部分を除いて、気密封止した。注液孔から、作製した電池が液不足とならない十分な量の上記電解液を、各電池に対して同じ量注液した後、電池を減圧しながら注液孔を熱封孔することでリチウム二次電池を作製した。
【0063】
(充放電サイクル試験A)
上記のようにして作製された非水電解質二次電池を、25℃に設定した恒温槽に移し、4サイクルの充放電を実施した。充電は定電流定電圧(CVCC)充電とし、放電は定電流(CC)放電とした。充電及び放電の定電流値は、正極板が含有する正極活物質の質量に対して10mA/gとした。充電上限電圧及び放電終止電圧は4.8V及び1.5Vとし、充電終止条件は、充電電流が2mA/gに減衰した時点又は充電上限電圧に到達して
から3時間を経過した時点とした。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に10分間の休止時間を設定した。
【0064】
充放電サイクル試験Aの結果、比較例4の電池は、1サイクル目の充電過程で充電電圧が4.8Vに到達しなかったため、以降の試験を中止した。比較例4を除く全ての実施例及び比較例について、2サイクル目の活物質質量あたりの放電容量(mAh/g)、及び、4サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で除した値である容量維持率(%)を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1からわかるように、比較例1〜3の電池は容量維持率(%)が95%以下であるのに対し、実施例1〜10及び比較例5の電池は容量維持率(%)が96%以上であった。なかでも、バナジウムの組成比率が高く、空間群Fm−3mに帰属可能なピークと空間群R−3mに帰属可能なピークの両方が観測された実施例3、実施例4、実施例6、実施例7及び実施例9においては特に高い放電容量を兼ね備えていた。比較例5の電池は容量維持率(%)が100%以上であるが、放電容量が小さかった。
【0067】
実施例に係る非水電解質蓄電素子用活物質が、従来の非水電解質蓄電素子用活物質に比べて、優れた放電容量と優れた充放電サイクル性能を兼ね備えていることについて、以下に述べる試験結果に基づいてさらに詳細に説明する。
【0068】
(充放電サイクル試験B)
実施例2のリチウム遷移金属複合酸化物を用いて、上記と同一の手順で新たに非水電解質二次電池を作製し、25℃に設定した恒温槽に移し、4サイクルの充放電サイクル試験を行った。充電条件及び放電条件は、実施例2−1については上記充放電サイクル試験Aと同一であり、実施例2−2については充電上限電圧を4.2Vとしたこと、及び、充電終止条件を充電電流が2mA/gに減衰した時点としたことを除いては上記充放電サイクル試験Aと同一である。
【0069】
比較例1のリチウム遷移金属複合酸化物を用いて、上記と同一の手順で新たに非水電解質二次電池を作製し、25℃に設定した恒温槽に移し4サイクルの充放電サイクル試験を行った。充電条件及び放電条件は、比較例1−1については上記充放電サイクル試験Aと同一であり、比較例1−2、比較例1−3、比較例1−4、比較例1−5及び比較例1−6については充電上限電圧をそれぞれ4.4V、4.35V、4.3V、4.25V及び4.2Vとしたこと、及び、充電終止条件を充電電流が2mA/gに減衰した時点とした
ことを除いては上記充放電サイクル試験Aと同一である。
【0070】
充放電サイクル試験Bについて、2サイクル目の活物質質量あたりの放電容量(mAh/g)及び4サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で除した値である容量維持率(%)を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
従来のLiNbOとLiMeO(MeはFe又はMn)の固溶体では、充電終止電圧を低く設定した場合、比較例1−4〜比較例1−6の結果からわかるように、高い容量維持率を示すものの、放電容量が低い。これは、O(酸素)の酸化還元反応を使用せずにMnの酸化還元反応を使用するため、容量維持率が高いが、Mnの反応電子数が少ないため、放電容量が低いと考えられる。また、充電終止電圧を高く設定した場合、比較例1−1〜比較例1−3の結果からわかるように、高い放電容量を示すものの、容量維持率が低い。これは、Mnの酸化還元反応に加えてOの酸化還元反応を使用するため、高い放電容量を示すが、容量維持率は低いと考えられる。これに対して、本発明に係るLiNbOとLiMeO(MeはVを含む遷移金属)の固溶体では、実施例2−1、実施例2−2の結果からわかるように、Oの酸化還元反応を使用せずにVの酸化還元反応を使用し、かつVの反応電子数が多いため、優れた放電容量と優れた充放電サイクル性能を兼ね備えた非水電解質蓄電素子用活物質を提供できると考えられる。
【0073】
(充放電サイクル試験C)
実施例2のリチウム遷移金属複合酸化物を用いて、上記と同一の手順で新たに非水電解質二次電池を作製し、充電上限電圧を4.8V又は4.2Vとし、上記充放電サイクル試験Bと同一の充放電条件にて10サイクルの充放電サイクル試験を行った。充電上限電圧を4.8Vとした電池の2サイクル目及び10サイクル目の充放電カーブを図4に、充電上限電圧を4.2Vとした電池の2サイクル目及び10サイクル目の充放電カーブを図5に示す。
【0074】
充放電サイクル試験後の電池をそれぞれアルゴン雰囲気を維持したグローブボックス中で解体して正極を取り出し、ジメチルカーボネート(DMC)にて洗浄した後、十分に乾燥させた。これを、アルゴン雰囲気を維持するための専用の装置(汎用雰囲気セパレータ)(Rigaku社製)に設置し、エックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlex II)を用いて粉末エックス線回折測定を行った。線源はCuKα線、管電圧及び管電流はそれぞれ30kV及び15mAとし、回折エックス線は厚み30μmのKβフィルターを通り高速一次元検出器(型番:D/teX Ultra 2)にて検出される。サンプリング幅は0.01°、スキャンスピードは2°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとする。得られたエックス線回折図及びエックス線回折データについて、統合粉末X線解析ソフトウェア「PDXL」(Rigaku社製)を用いて解析を実施した。
【0075】
図6の上は、充電終止電圧及び放電終止電圧を4.8V及び1.5Vとする10サイクルの充放電サイクル試験後の電池から取り出した正極板のエックス線回折図であり、図6の下は、充電終止電圧及び放電終止電圧を4.2V及び1.5Vとする10サイクルの充放電サイクル試験後の電池から取り出した正極板のエックス線回折図である。ここで、正極集電体に用いたアルミニウムに由来するピークが38°付近、65°付近及び78°付近に現れている。活物質に由来するピークは37°付近、43°付近、63°付近、75°付近及び79°付近のピークである。充放電サイクル後の電極は、いずれも、これに用いた活物質と同様のエックス線回折図を示しており、充放電サイクル後においても空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造が維持されていた。従って、本発明に係る非水電解質蓄電素子用活物質は、空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を維持しながら可逆的に充放電サイクルが進行すると考えられ、従って高い容量維持率を示すと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の非水電解質蓄電素子用活物質は、エネルギー密度、放電容量に優れているから、電気自動車用電源、電子機器用電源、電力貯蔵用電源等の非水電解質用蓄電素子に有効に利用できる。
【0077】
(符号の説明)
1 非水電解質二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6