特許第6439064号(P6439064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6439064磁気ディスク、並びに、磁気ディスク用のアルミニウム合基板及び該アルミニウム合金基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6439064
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】磁気ディスク、並びに、磁気ディスク用のアルミニウム合基板及び該アルミニウム合金基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/73 20060101AFI20181210BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20181210BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20181210BHJP
   C22C 21/12 20060101ALI20181210BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20181210BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20181210BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20181210BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20181210BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20181210BHJP
【FI】
   G11B5/73
   G11B5/65
   C22C21/00 M
   C22C21/00 L
   C22C21/12
   C22C21/10
   C22F1/04 A
   G11B5/82
   G11B5/84 Z
   !C22F1/00 661D
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 686Z
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】6
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-30238(P2018-30238)
(22)【出願日】2018年2月23日
【審査請求日】2018年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155572
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 恵視
(72)【発明者】
【氏名】村田 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】北脇 高太郎
(72)【発明者】
【氏名】米光 誠
(72)【発明者】
【氏名】畠山 英之
(72)【発明者】
【氏名】中山 賢
(72)【発明者】
【氏名】坂本 遼
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕己
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−310376(JP,A)
【文献】 特開2009−279696(JP,A)
【文献】 特開2000−105915(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/188320(WO,A1)
【文献】 特開2017−031507(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/068293(WO,A1)
【文献】 特開平05−247659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/73
C22C 21/00
C22C 21/10
C22C 21/12
C22F 1/04
G11B 5/65
G11B 5/82
G11B 5/84
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気ディスク用のアルミニウム合金基板であって、
無電解Ni−Pめっきが施されたアルミニウム合金からなり、
当該アルミニウム合金は、Fe:0.4〜3.0mass%、Mn:0.1〜3.0mass%、Cu:0.005〜1.0mass%、Zn:0.005〜1.0mass%を含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からなり、
その表面において、波長が0.4〜5.0mmのうねりの最大振幅が5.0nm以下であり、波長が0.08〜0.45mmのうねりの最大振幅が1.5nm以下であり、
300℃で3h保持した後の耐力が100MPa以上であることを特徴とする磁気ディスク用のアルミニウム合金基板。
【請求項2】
前記アルミニウム合金は、更に、Si:0.1〜0.4mass%、Ni:0.1〜3.0mass%、Cr:0.01〜1.00mass%、Zr:0.01〜1.00mass%から選択される1又は2以上の元素を含有する請求項記載の磁気ディスク用のアルミニウム合金基板。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、更に、Ti、B、Vから選択される1又は2以上の元素を合計で0.005〜0.5mass%含有する請求項1又は請求項2記載の磁気ディスク用のアルミニウム合金基板。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の磁気ディスク用のアルミニウム合金基板上に磁性層を含む磁性媒体を備え、その表面において、波長が0.4〜5.0mmのうねりの最大振幅が5.0nm以下であり、波長が0.08〜0.45mmのうねりの最大振幅が1.5nm以下である磁気ディスク。
【請求項5】
請求項〜請求項のいずれかに記載の磁気ディスク用のアルミニウム合金基板の製造方法であって、
アルミニウム合金の鋳造板を製造する鋳造工程、
前記アルミニウム合金の鋳造板から冷間圧延によりアルミニウム合金板を製造する圧延工程、
前記アルミニウム合金板から円環状アルミニウム合金板を加工し、前記円環状アルミニウム合金板を加圧平坦化しつつ焼鈍する加圧焼鈍工程、
加圧焼鈍工程後の円環状アルミニウム合金板に対する、研削加工段階と、歪取り加熱処理段階と、をこの順序で含む基板調製工程と、
基板調整工程後の円環状アルミニウム合金板に対する、アルカリ脱脂処理段階と、酸エッチング処理段階と、少なくとも1回のジンケート処理段階と、をこの順序で含むめっき前処理工程、
前記めっき前処理工程を実施した円環状アルミニウム合金板の表面に無電解Ni−Pめっき処理を実施する無電解Ni−Pめっき処理工程、を備え、
更に、前記基板調製工程の研削加工段階の後であって、前記めっき前処理工程の最初のジンケート処理段階の前に行う化合物除去工程を備え、
前記鋳造工程は、連続鋳造によりアルミニウム合金の鋳造板を製造する工程であり、
前記化合物除去工程は、10〜30℃の10〜60mass%のHNO溶液であって、10〜80g/LのHFを含有するHNO/HFの混合溶液に、前記円環状アルミニウム合金板を5〜60秒浸漬する工程である磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【請求項6】
基板調製工程の研削加工段階の前に、切削加工段階を備える請求項5記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク及び磁気ディスク用のアルミニウム合基板に関する。詳細には、高強度でディスクフラッタが小さく、かつ、うねりの小さいアルミニウム合金製の磁気ディスクと、この磁気ディスクを構成するアルミニウム合基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータやデータセンターの記憶装置に用いられる磁気ディスクとして、アルミニウム合金製磁気ディスクが用いられている。この磁気ディスクを構成するアルミニウム合金基板は、良好なめっき性を有すると共に機械的特性や加工性に優れるアルミニウム合金を用いて製造される。かかるアルミニウム合金としては、例えば、JIS5086アルミニウム合金(Mg:3.5〜4.5mass%、Fe:0.50mass%以下、Si:0.40mass%以下、Mn:0.20〜0.70mass%、Cr:0.05〜0.25mass%、Cu:0.10mass%以下、Ti:0.15mass%以下、Zn:0.25mass%、残部Al及び不可避的不純物)が適用されており、この合金を基本としてアルミニウム合金基板が製造されている。
【0003】
一般的なアルミニウム合金製磁気ディスクは、まず、円環状のアルミニウム合金基板を作製し、このアルミニウム合金基板にめっきを施し、次いで、その表面に磁性体を付着させることにより製造されている。
【0004】
また、磁気ディスク用のアルミニウム合金基板の製造工程は、以下の製造工程により製造される。ここでは前記で例示したJIS5086合金からなるアルミニウム合金基板は、以下の製造工程により製造される。
【0005】
まず、所望の化学成分としたアルミニウム合金の鋳造板を鋳造し、この鋳造板に均質化処理を施した後に熱間圧延する。次いで、冷間圧延を施して、磁気ディスクとして必要な厚さを有する圧延材を作製する。この圧延材には、冷間圧延の途中等で必要に応じて焼鈍を施すことが好ましい。次に、この圧延材を円環状に打抜いた後、それまでの製造工程により生じた歪み等を除去するための加圧焼鈍を行う。加圧焼鈍は、円環状に打抜いたアルミニウム合金板を積層し、上下の両面から加圧しつつ焼鈍を施して平坦化する工程である。この加圧焼鈍を行うことにより、円環状のアルミニウム合金のディスクブランクが作製される。
【0006】
このようにして作製されたディスクブランクに前処理及び下地処理を施した後に、磁性層等の磁性媒体を形成することで磁気ディスクが製造される。前処理では、切削加工や研削加工、脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理、ジンケート処理(Zn置換処理)が順次施される。前処理に次ぐ下地処理では、硬質非磁性金属であるNi−Pを無電解めっきした後、めっき表面を研磨し平滑とする。そして、平滑化された基板表面に磁性体をスパッタリング等することでアルミニウム合金製の磁気ディスクが製造される。
【0007】
ところで、近年、HDD等の磁気ディスクが使用される記憶装置を取り巻く環境において、これまでにない大きな変化が起こりつつある。この環境変化とは、クラウドサービスの発展に伴うデータセンターの記憶容量の大容量化や、新しい記憶装置であるSSDの登場である。SSDは、衝撃や熱に強く、読み取り速度が速い等の利点があり、データセンターでは、記憶装置をHDDからSSDへと置き換える動きが進んでいる。そのため、HDDが今後生き残るためには、その利点である大容量化及び高密度化の進展に加えて、高速化への対応が不可欠である。
【0008】
HDDの大容量化には、記憶装置1台あたりの磁気ディスクの枚数を増加させることが最も効果的である。そのためには、磁気ディスク用のアルミニウム合金基板の薄肉化が必要となる。しかし、基板の薄肉化は、剛性低下による変形の要因となる。また、HDDの高速化に伴い、回転時の流体力の増加によって励振力が増大するため、基板の剛性低下はディスクフラッタリング発生の問題を招く。
【0009】
ディスクフラッタリングは、磁気ディスクの振動(フラッタリング)に起因する現象である。フラッタリングは、磁気ディスクを高速で回転させたときに発生するディスク間の不安定な気流によって発生する。アルミニウム合金基板の剛性が小さい場合、フラッタリングによる変位量が大きくなり、読み取り部であるヘッドがその変化に追従し難くなる。そのようなディスクフラッタリングが発生すると、ヘッドの位置決め誤差が増加するため、フラッタリングの発生が抑制され、その変位量(フラッタリング特性)が低い基板及び磁気ディスクが強く求められている。
【0010】
ディスクフラッタリングの問題に関しては、アルミニウム合金基板以外の基板の適用も考えることができる。磁気ディスク用の基板としては、アルミニウム合金の他にガラスが用いられている。ガラス基板は、アルミニウム合金基板よりもフラッタリングが発生し難いことが知られている。そのため、アルミニウム合金基板はガラス基板に置き換えられる可能性がある。従って、磁気ディスク用のアルミニウム合金基板は、上記したHDDに対する環境変化とガラス基板の存在の2つの面で存続の危機に直面している。
【0011】
もっとも、フラッタリングに関するガラス基板の利点を考慮しても、アルミニウム合金基板には依然、優位性がある。ガラス基板は高価であり、より安価なアルミニウム合金基板の需要は依然として高い。また、アルミニウム合金基板においては、その構成材料となるアルミニウム合金の組成調整や製造工程変更等によってフラッタリング特性に関して改良の余地もある。
【0012】
ここで、磁気ディスク用のアルミニウム合金基板の構成材料に対する改良に関する従来技術について説明する。これまで、磁気ディスク用のアルミニウム合金基板の構成材料の改良は、従来から使用されているアルミニウム合金、例えば、上記したJIS5086等のAl−Mg系合金を基本にして、その組成を僅かに調整する改良が主体であった(特許文献1)。磁気ディスク用のアルミニウム合金基板は、これまで、合金成分の微調整が続けられ今日に至っている。そして、製品として、5000系合金から別合金への変更は行われなかった。
【0013】
しかし、従来の組成の微調整の程度の改良では、アルミニウム合金基板の大幅な強度向上を望むことはできず、ディスクフラッタリングの抑制は困難である。特に、大容量化のために薄肉化された基板にとって、従来の改良には限界がある。そこで、ディスクフラッタの課題に直面した先行技術として、例えば、特許文献2には、従来材に対し、比較的多量のSiを添加したアルミニウム合金基板の組成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平2−205651号公報
【特許文献2】特許第6014785号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ディスクフラッタリングの抑制のため、アルミニウム合金基板の強度を向上させるためには、アルミニウム合金中に化合物を分布させることが効果的である。特許文献2記載のアルミニウム合金基板は、この着想のもとに合金のSi含有量を高くし、Si粒子を析出させることで高剛性を確保している。しかしながら、この特許文献2のアルミニウム合金基板は、多量のSiが添加されているため研削加工が困難である。また、これに加えて、基板表面のSi粒子の影響により、無電解Ni−Pめっき後の表面の欠陥が増加して基板表面にうねりの問題が生じる可能性がある
【0016】
磁気ディスクの基板表面のうねりは、それがnmオーダーの微小なものであっても、HDDの高速化の実現のためには重要な問題となる。HDDにおいて、データの読み書きを担うヘッドと磁気ディスク表面との距離は、わずか数nm〜数十nmである。ディスク表面のうねり大きい場合、ヘッドとディスク表面との距離が変動することで出力変動が発生し、読み書きが不安定となり処理の遅れが生じる。従って、大きなうねりの存在は、HDDの高速化の障害となる。
【0017】
そして、磁気ディスク用のアルミニウム合金基板において、うねりの発生は、基板に無電解Ni−Pめっきした後の表面の欠陥に起因する。そのため、特許文献2記載のアルミニウム合金基板のように、合金中にSi粒子等の化合物が分布するアルミニウム合金を適用する基板においては、表面の化合物によってうねりが大きくなる可能性がある。
【0018】
これまで説明したように、磁気ディスクの大容量化・高密度化及び高速化を図るためには、高強度でディスクフラッタリングが小さく、その上で、表面のうねりが小さいものの開発が急務である。
しかしながら、ディスクフラッタリングを低減すべく強度を向上させると共に、うねりを小さくするために無電解Ni−Pめっき表面の欠陥を低減する、という両方の特性を満たすためには、相反する二つの課題を解決する必要がある。上記のとおり、アルミニウム合金中に分散する化合物は、剛性向上に寄与するものの、うねりを大きくする可能性があるからである。
【0019】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高強度でディスクフラッタリングが小さく、且つ、うねりが小さいアルミニウム合金製の磁気ディスクと、これを構成するアルミニウム合金基板の提供を目的とする。また、前記の課題、特にうねりに関してはアルミニウム合金基板の材料の改良と共に、製造方法の改良が有用であったことから、改良されたアルミニウム合金基板の製造方法についても開示する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、アルミニウム合金製磁気ディスクのディスクフラッタリング低減に関して研究を重ねた。その結果、アルミニウム合金基板の強度を向上させるため、その構成材料として、Feを添加したAl−Fe系合金を適用することとした。本発明者等による、Al−Fe系合金からなるアルミニウム合金基板においては、Feによる第二相粒子(Al−Fe系化合物等の化合物)が分布し、これにより基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を有する。つまり、アルミニウム合金に化合物(第二相粒子)を分布させてフラッタリングを抑制する点においては、上記した特許文献2と同様の材質改良を行うこととした。
【0021】
一方、合金中の化合物(第二相粒子)は、基板表面において無電解Ni−Pめっきの表面欠陥を引起す可能性がある。Al−Fe系合金からなるアルミニウム合金基板でも同様の問題は生じ得る。但し、本発明者等の検討によれば、Al−Fe系合金からなるアルミニウム合金基板においては、その製造プロセスにいくつかの改良を加えてその表面状態を最適化することができ、基板の高強度化によるフラッタリングの抑制と、無電解Ni−Pめっき後の欠陥のないアルミニウム合金基板とすることがきることが確認された。
【0022】
そして、以上の検討結果から、本発明者等は、大容量化及び高速化に対応するための、ディスクフラッタリング抑制とうねり低減がなされた、理想的ともいうべきアルミニウム製磁気ディスク及びアルミニウム合金基板を完成し本発明を完成するに至った。
【0023】
上記目的を達成する本発明は、後述の磁気ディスク用のアルミニウム合金基板上に磁性層を含む磁性媒体を備え、その表面において、波長が0.4〜5.0mmのうねりの最大振幅が5.0nm以下であり、波長が0.08〜0.45mmのうねりの最大振幅が1.5nm以下である磁気ディスクである。
【0025】
そして、上記の磁気ディスクを構成する本発明のアルミニウム合金基板は、無電解Ni−Pめっきが施されたアルミニウム合金からなり、当該アルミニウム合金は、Fe:0.4〜3.0mass%、Mn:0.1〜3.0mass%、Cu:0.005〜1.0mass%、Zn:0.005〜1.0mass%を含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からなり、その表面において、波長が0.4〜5.0mmのうねりの最大振幅が5.0nm以下であり、波長が0.08〜0.45mmのうねりの最大振幅が1.5nm以下であり、300℃で3h保持した後の耐力が100MPa以上であることを特徴とするものである
【0027】
また、本発明のアルミニウム合金は、更に、Si:0.1〜0.4mass%、Ni:0.1〜3.0mass%、Cr:0.01〜1.00mass%、Zr:0.01〜1.00mass%から選択される1又は2以上の元素を含有することができる。
【0028】
更に、アルミニウム合金は、更に、Ti、B、Vから選択される1又は2以上の元素を合計で0.005〜0.5mass%含有しても良い。
【0029】
そして、本発明のアルミニウム合金基板の製造方法は、アルミニウム合金の鋳造板を製造する鋳造工程、前記アルミニウム合金の鋳造板から冷間圧延によりアルミニウム合金板を製造する圧延工程、前記アルミニウム合金板から円環状アルミニウム合金板を加工し、前記円環状アルミニウム合金板を加圧平坦化しつつ焼鈍する加圧焼鈍工程、加圧焼鈍工程後の円環状アルミニウム合金板に対する、研削加工段階と、歪取り加熱処理段階と、をこの順序で含む基板調製工程と、基板調整工程後の円環状アルミニウム合金板に対する、アルカリ脱脂処理段階と、酸エッチング処理段階と、デスマット処理段階と、少なくとも1回のジンケート処理段階と、をこの順序で含むめっき前処理工程、前記めっき前処理工程を実施した円環状アルミニウム合金板の表面に無電解Ni−Pめっき処理を実施する無電解Ni−Pめっき処理工程、を備え、更に、前記基板調製工程の研削加工段階の後であって、前記めっき前処理工程の最初のジンケート処理段階の前に行う化合物除去工程を備え、前記鋳造工程は、連続鋳造によりアルミニウム合金の鋳造板を製造する工程であり、前記化合物除去工程は、10〜30℃の10〜60mass%のHNO溶液であって、10〜80g/LのHFを含有するHNO/HFの混合溶液に、前記円環状アルミニウム合金板を5〜60秒浸漬する工程である磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法とした。
【0030】
尚、基板調製工程の研削加工段階の前に、切削加工段階を備えるようにしても良い。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る磁気ディスク及びこれを構成するアルミニウム合金基板は、高強度でディスクフラッタ抑制され、更に無電解Ni−Pめっき表面の欠陥が低減されておりうねりが小さい、という特徴を有する。これにより、磁気ディスクの薄肉化による搭載枚数の増加と1枚当たりの記憶容量の増加を可能とし、HDDの高容量化と高速化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】アルミニウム合金製の磁気ディスク基板のめっき前処理及び無電解Ni−Pめっきの工程の説明図である。
図2】無電解Ni−Pめっき後の表面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。上記したように、本発明に係る磁気ディスクは、ガラス基板にも適用できるが、アルミ合金基板の構成において特徴を有する。このアルミ合金基板は、化合物が発生し得るAl−Fe系合金を構成材料としつつも、製造プロセスによって表面状態の最適化がなされている。以下の説明では、(A)本発明に係るアルミ合金基板、(B)その製造方法について、それらの構成及び効果を詳細なメカニズムに言及しながら説明する。そして、それらを踏まえて、(C)本発明に係る磁気ディスクについて説明する。
【0034】
A.本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板
A−1.アルミニウム合金の合金組成
本発明に係るアルミニウム合金基板を構成するアルミニウム合金の合金組成は、Fe:0.4〜3.0mass%、Mn:0.1〜3.0mass%、Cu:0.005〜1.000mass%及びZn:0.005〜1.000mass%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避不純物からなる。(以下、mass%を「%」と略記する)。また、本発明のアルミニウム合金は、任意的な添加元素として、Si:0.1〜0.4%、Ni:0.1〜3.0%、Mg:0.1〜6.0%、Cr:0.01〜1.00%及びZr:0.01〜1.00%から選択される1種又は2種以上の元素を更に含有しても良い(以下、これらの添加元素と第1選択元素と称するときがある)。更に、本発明のアルミニウム合金は、Ti、B、Vから選択される1又は2以上の元素を合計で0.005〜0.5%含有しても良い(以下、これらの添加元素と第2選択元素と称するときがある)。以上の必須元素及び第1、第2選択元素について説明する。
【0035】
(i)必須添加元素
・Fe:0.4〜3.0%
Feは、主として第二相粒子(Al−Fe系化合物等)として析出し、アルミニウム合金基板の強度を向上させてフラッタリング特性を向上させる効果を有する。また、Feの一部は、母相に固溶して存在して基板の強度を向上させることができる。第二相粒子は、合金の強度向上を通じたフラッタリング特性の改善効果と共に、フラッタリングの振動エネルギー吸収の作用によってもフラッタリング特性の改善効果を発揮する。この作用は、磁気ディスク基板に振動を加えると、第二相粒子と母相との界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収されることにより発揮される。
【0036】
Feの含有量が0.4%未満では、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性の改善効果が不十分となる。一方、Feの含有量が3.0%を超えると、粗大なAl−Fe系化合物が多数生成し、無電解Ni−Pめっき表面に欠陥を生じさせ易くなる。本発明では、化合物除去工程で表面の化合物を除去することで表面状態が好適化される。この化合物除去工程によれば、粗大な化合物であっても除去することは可能である。ただ、粗大な化合物については、除去後に過大な窪みが形成される傾向があり、無電解Ni−Pめっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が生じるおそれがある。そのため、Feの含有量は0.4〜3.0%の範囲とする。Feの含有量は、好ましくは0.8〜1.8%の範囲とする。
【0037】
・Mn:0.1〜3.0%
Mnは、主として第二相粒子(Al−Mn系化合物等)として存在し、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を有する。この化合物粒子の効果発生の機構は、上記Fe(Al−Fe系化合物等)と同様である。
【0038】
Mnの含有量が0.1%未満では、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性が不十分である。一方、Mnの含有量が3.0%を超えると、粗大なAl−Mn系化合物が多数生成し、無電解Ni−Pめっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が生じるおそれがある。従って、Mnの含有量は0.1〜3.0%の範囲とする。Mnの含有量は、好ましくは0.1〜1.0%の範囲である。
【0039】
・Cu:0.005〜1.000%
Cuは、主として第二相粒子(Al−Cu系化合物等)として存在し、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を有する。また、ジンケート皮膜を均一に、薄く緻密に生成させ、無電解Ni−Pめっきの平滑性を向上させる効果も発揮する。
【0040】
Cuの含有量が0.005%未満では、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性が不十分であり、且つ、ジンケート皮膜が不均一となり、無電解Ni−Pめっきの平滑性が低下する。一方、Cuの含有量が1.0%を超えると、粗大なAl−Cu系化合物が多数生成し、無電解Ni−Pめっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が生じるおそれがある。従って、Cuの含有量は0.005〜1.000%の範囲とする。Cuの含有量は、好ましくは0.005〜0.400%の範囲である。
【0041】
・Zn:0.005〜1.000%
Znは、ジンケート皮膜を均一に、薄く緻密に生成させ、無電解Ni−Pめっきの平滑性及び密着性を向上させる効果を有する。また、他の添加元素と第二相粒子を形成し、磁気ディスク基板のフラッタリング特性を向上させる効果も発揮する。
【0042】
Znの含有量が0.005%未満では、ジンケート皮膜が不均一となり無電解Ni−Pめっきの平滑性が低下する。一方、Znの含有量が1.000%を超えると、母相の電位が卑になり過ぎ、化合物除去工程及び無電解Ni−Pめっき工程において母相の溶解速度が速くなる。その結果、アルミニウム合金基板表面の凹凸が大きくなることで、無電解Ni−Pめっき表面の平滑性が低下する。従って、Znの含有量は0.005〜1.000%の範囲とする。Znの含有量は、好ましくは0.100〜0.700%の範囲である。
【0043】
(ii)第1選択元素
・Si:0.1〜0.4%
Siは、主として第二相粒子(Si粒子等)として存在し、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を有する。この化合物粒子の効果発生の機構は、上記Fe(Al−Fe系化合物等)と同様である。
【0044】
Siの含有量が0.1%未満では、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性が不十分である。一方、Siの含有量が0.4%を超えると、粗大なSi粒子が多数生成して無電解Ni−Pめっき表面の平滑性の低下及びめっきの剥離が生じる。また、Siの含有量が0.4%を超えると、表面に存在するAl−Si系化合物により研削性が低下してしまう。更に、Al−Si系化合物は、母相との電気化学反応が進行し難いため、化合物除去工程後にも表面に化合物が残存しやすい。以上のような理由から、Siの含有量は、0.1〜0.4%の範囲とするのが好ましい。Siの含有量は、0.1〜0.3%の範囲とするのがより好ましい。
【0045】
・Ni:0.1〜3.0%
Niは、主として第二相粒子(Al−Ni系化合物等)として存在し、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を有する。Niの含有量が0.1%未満では、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性が不十分である。一方、Niの含有量が3.0%を超えると粗大なAl−Ni系化合物が多数生成する。従って、Niの含有量は、0.1〜3.0%の範囲とするのが好ましい。Niの含有量は、0.1〜1.0%の範囲とするのがより好ましい。
【0046】
・Mg:0.1〜6.0%
Mgは、主として第二相粒子(Mg−Si系化合物等)として存在し、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を有する。Mgの含有量が0.1%未満では、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性が不十分である。一方、Mgの含有量が6.0%を超えると圧延が困難となる。従って、Mgの含有量は、0.1〜6.0%の範囲とするのが好ましい。Mgの含有量は、0.3〜1.0%の範囲とするのがより好ましい。
【0047】
・Cr:0.01〜1.00%
Crは、主として第二相粒子(Al−Cr系化合物等)として存在し、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を有する。Crの含有量が0.01%未満では、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性が不十分である。一方、Crの含有量が1.00%を超えると、粗大なAl−Cr系化合物が多数生成する。従って、Crの含有量は、0.01〜1.00%の範囲とするのが好ましい。Crの含有量は、0.10〜0.50%の範囲とするのがより好ましい。
【0048】
・Zr:0.01〜1.00%
Zrは、主として第二相粒子(Al−Zr系化合物等)として存在し、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を有する。Zrの含有量が0.01%未満では、磁気ディスク基板の強度とフラッタリング特性が不十分である。一方、Zrの含有量が1.00%を超えると、粗大なAl−Zr系化合物が多数生成する。従って、Zrの含有量は、0.01〜1.00%の範囲とするのが好ましい。Zrの含有量は、0.10〜0.50%の範囲とするのがより好ましい。
【0049】
(iii)第2選択元素
・Ti、B、V:合計0.005〜0.500%
Ti、B及びVは、鋳造時の凝固過程において、第2相粒子(TiBなどのホウ化物、或いは、AlTiやTi−V−B粒子等)を形成し、これらが結晶粒核となるため結晶粒を微細化する効果を有する。結晶粒が微細化することで、第二相粒子のサイズの不均一性を抑制し、磁気ディスク基板における強度とフラッタリング特性のバラつきを低減させる効果が得られる。
【0050】
Ti、B及びVの含有量の合計が0.005%未満では、上記効果が得られない。Ti、B及びVの含有量の合計が0.500%を超えてもその効果は飽和するので、顕著な改善効果が得られない。従って、V含有量の合計は、0.005〜0.500%の範囲とするのが好ましい。V含有量の合計は、0.005〜0.100%の範囲とするのがより好ましい。なお、Ti、B及びVの含有量の合計とは、これら元素が全て含有される場合は三元素の合計であり、二元素のみ含有される場合はこれら二元素の合計であり、一元素のみ含有される場合はこの一元素の合計である。
【0051】
・その他の元素
本発明に係るアルミニウム合金基板を構成するアルミニウム合金の残部は、Al及び不可避的不純物である。不可避的不純物としては、Sr、Pb、Ga、Snなどが挙げられ、各々が0.1%未満で、且つ、合計で0.2%未満であれば、本発明で得られるアルミニウム合金基板としての特性を損なうことはない。
【0052】
A−2.本発明に係るアルミニウム合金基板の表面状態(うねり)
本発明に係る磁気ディスク用のアルミニウム合金基板は、化合物粒子を生成する可能性のあるAl−Fe系合金を適用しつつ、無電解Ni−Pめっき後の表面欠陥が抑制されている。これは、後に詳細を説明する化合物除去処理を施し、基板表面の化合物を除去して表面状態を好適化したことの効果である。そして、本発明のアルミニウム合金基板はその表面において、所定範囲のうねりを有する。以下、このうねり発生のメカニズムを説明すると共に、本発明の基板表面もうねりについて説明する。
【0053】
無電解Ni−Pめっき後のアルミニウム合金基板を表面研磨すると、見かけ上平滑な表面が得られるが、微小なうねりが残存している。うねりは、例えば、μ−XAM等の装置を用いることで測定することができる。具体的には、表面粗さのプロファイルを異なる波長の波に分解した際の、各波長における振幅がうねりの大きさである。この振幅は数nmである。つまり、研磨工程後の磁気ディスク基板表面には、数nmの凹凸が残存していると言い換えることが出来る。
【0054】
うねりは、無電解Ni−Pめっき後のアルミニウム合金基板の表面に存在するノジュールと称される凹凸に関連する。ノジュールは半球状の凸形状であることが多く、無電解Ni−Pめっきをしたときのめっき反応(特に、初期段階における基板表面のZnとNi−Pとの置換反応)が不均一となったときに発生数が多くなる。ノジュールは、めっき後の研磨工程で除去可能ではあるが、ノジュールの有無による高度差により、研磨に差が生じてうねりとして微小な凹凸を生じさせる。
【0055】
そして、ノジュールの発生は、無電解Ni−Pめっき前の基板表面における化合物粒子の存在の影響を受ける。本発明の基板は、化合物粒子を生成し得るAl−Fe系合金を適用しつつも、無電解Ni−Pめっき処理を行う段階で基板表面の化合物粒子が除去されている。その結果、無電解Ni−P後の基板表面のうねりは、所定の範囲となっている。具体的には、波長が0.4〜5.0mmのうねりの最大振幅が5nm以下であり、波長が0.08〜0.45mmのうねりの最大振幅が1.5nm以下となっている。
【0056】
HDDにおいて、読み取りヘッドと磁気ディスク表面との距離は、十数nmを保って浮上しており、現在では数nmともいわれている。磁気ディスクは高速で回転しているため、うねりの振幅が大きい場合、うねりにヘッドが追従しきれず、ディスク表面とヘッドとの距離が変動することで出力変動が発生し、読み書きが不安定となってしまう。また、磁気ディスク表面のうねりに対するヘッドの追従性は、うねりの波長にも左右され、長波長であれば追従しやすいが、短い波長では追従し難くなる。このように、うねりの振幅及び波長は、読み取りヘッドの追従性に影響を及ぼし、HDDの高速化の支障となることがある。
【0057】
本発明に係るアルミニウム合金基板表面おけるうねりの範囲であれば、磁気ディスクとしたときに好適な動作可能であり、高速化されたHDD等にも対応できる。即ち、波長が0.4〜5.0mmのうねりの最大振幅を5nm以下とし、波長が0.08〜0.45mmのうねりの最大振幅を1.5nm以下とすることで、ヘッドが追従のできる磁気ディスクにできる。うねりについては、より好ましくは、波長が0.4〜5.0mmのうねりの最大振幅が2.5nm以下であり、波長が0.08〜0.45mmのうねりの最大振幅が1nm以下である。
【0058】
尚、磁気ディスクに生じるうねりは、磁性体がスパッタされる前のアルミニウム合金基板、若しくは、Ni−Pめっき後で磁性体がスパッタされる前のアルミニウム合金基板のうねりが支配的である。磁性体は、アルミニウム合金基板の表面にスパッタされるだけであるので、アルミニウム合金基板が元々有するうねりへの影響は無い。
【0059】
A−3.本発明に係るアルミニウム合金基板のフラッタリング特性
上述したとおり、磁気ディスクは高速で回転するため、ディスク間に不安定な気流が発生し、その気流により磁気ディスクのフラッタリングが起こる。フラッタリングが大きくなると、ヘッドがその変化に追従できなくなる。
【0060】
ここで、フラッタリングは、特定の周波数における変位として測定される。周波数が高くなるに従い、最大変位は小さくなっていくため、低周波数での最大変位を低減することが、フラッタリング低減に繋がる。尚、フラッタリングは、HDD装置内に粘性の低いヘリウムガスを充満することでも低減できるが、コストの増大を招くため、大気中でのフラッタリング低減が必須である。
【0061】
本発明に係る磁気ディスク用のアルミニウム合金基板は、強度向上効果を発揮すると共に、フラッタリングの振動エネルギーの吸収作用を発揮する化合物粒子を発生し得るAl−Fe系合金を適用する。これにより、好適な強度を有し、所定のフラッタリング特性を示すことができる。具体的には、本発明に係るアルミニウム合金基板は、空気中において周波数が100Hz以上での最大変位が200nm以下のものが好ましい。かかるフラッタリング特性であれば十分な性能ということができる。本発明では、より小さい最大変位とすることも可能であり、フラッタリング特性を150nm以下とすることがより望ましい。
【0062】
A−4.本発明に係るアルミニウム合金基板の耐力
詳細は後述するが、磁気ディスク用基板の製造工程においては、加圧焼鈍工程がある。この段階での焼鈍温度が高ければ、磁気ディスクの平坦性は精度が向上する。ディスクの平坦性が良ければ、めっきの平坦性も向上する。平坦性を安定的に良くするためには300℃程度で加圧平坦化焼鈍を実施することが望ましいが、焼鈍温度を高くするに従い、アルミニウム合金基板の耐力は低下する。
【0063】
300℃で加圧焼鈍を実施した後のアルミニウム合金基板の耐力が100MPaに足りなければ、その後の工程間でのサンプル移動において、内径を固定する際に変形が生じる可能性がある。100MPaを超えていれば、その懸念は少なくなり、120MPa以上であれば変形の可能性は排除できる。従って、本発明に係るアルミニウム合金基板において、300℃で3hの熱処理を施した後の耐力が120MPa以上であることが好ましい。より好ましくは、150MPaとする。
【0064】
B.本発明に係るアルミニウム合金基板の製造方法
次に、本発明に係るアルミニウム合金基板の製造方法について説明する。本発明に係るアルミニウム合金基板の製造方法は、基本的な工程としては、従来のアルミニウム合金基板の製造方法と同様である。即ち、所定の合金組成となるように調整した溶湯を鋳造してアルミニウム合金の鋳造板を製造する鋳造工程、鋳造板に対して適宜に均質化処理及び熱間圧延を行いつつ、冷間圧延でアルミニウム合金板を製造する圧延工程を含む。そして、アルミニウム合金板から円環状アルミニウム合金板を加工した後、円環状アルミニウム合金板を加圧平坦化焼鈍する工程がなされる。加圧焼鈍工程後の円環状アルミニウム合金板には、研削加工段階、歪取り加熱処理段階をこの順序で含む基板調製工程を経て、アルカリ脱脂処理段階、酸エッチング処理段階、デスマット処理段階、及び少なくとも1回のジンケート処理段階をこの順序で含むめっき前処理工程がなされる。最後に、めっき前処理工程後の円環状アルミニウム合金板の表面に無電解Ni−Pめっき処理を実施することで、磁気ディスク用のアルミニウム合金基板が製造できる。
【0065】
尚、本発明における磁気ディスクは、外径95〜97mmのものを対象とするのが好ましい。この大きさの磁気ディスクは、外径が大きく、特にフラッタリングが問題となりやすい。
【0066】
そして、本発明に係るアルミニウム合金基板の製造方法は、好適な強度と表面状態を得るために、2つの特徴を含む。これらの特徴は、鋳造工程において連続鋳造でアルミニウム合金の鋳造板を製造すること、及び、研削加工段階とジンケート処理段階との間のタイミングで所定の化合物除去工程を施すことである。以下、これらの特徴の内容と共に、本発明に係るアルミニウム合金基板の製造方法について説明する。
【0067】
B−1.鋳造工程
まず、所定の合金組成範囲となるようにアルミニウム合金溶湯を常法に従って加熱・溶融することによって調製する。鋳造工程では、このようにして調製されたアルミニウム合金素材の溶湯からアルミニウム合金の鋳造板を製造する。
【0068】
ここで、本発明では、鋳造工程で連続鋳造法(CC法)によりアルミニウム合金を製造する。これは、製造されるアルミニウム合金基板の強度や耐力を確保するためである。この点について説明すると、本発明者等は、上記した合金組成のアルミニウム合金の検討過程において、連続鋳造法と半連続鋳造法(DC法)による合金の検討を重ねていた。その結果、DC法で製造したアルミニウム合金基板には、強度や耐力の不足が生じることがあり、ディスクフラッタリングの低減や取扱中に変形の問題に関して好適な特性を有していないことが確認された。本発明者等は、その要因は、DC法による鋳造工程には冷却速度の限界があるので、各元素の固溶量をこれ以上増やすことができないことにあると考察した。
【0069】
そこで、本発明者等は、CC法によりアルミニウム合金を製造することで、DC法よりも冷却速度を大きく出来ることで各元素の固溶量を増やすことができると考察した。そして、本発明者等は、CC法を適用することによって、ディスクフラッタの低減を可能とする強度を有するアルミニウム合金を製造できることを確認した。
【0070】
CC法では、一対のロール(又は、ベルトキャスタ、ブロックキャスタ)の間に鋳造ノズルを通して溶湯を供給し、ロールからの抜熱でアルミニウム合金の鋳造板を直接鋳造する。CC法によるアルミニウム合金の鋳造板の鋳造では、鋳造後から1分経過後における鋳造板の温度を230〜350℃とする。更に、鋳造後から10分経過後における鋳造板の温度を150℃以上230℃未満とする。このように、鋳造後から1分経過後における鋳造板の温度を230〜350℃とし、更に鋳造後から10分経過後の鋳造板の温度を150℃以上230℃未満とすることによって、微細な第二相粒子(主にAl−Fe系化合物)を多数分布させ、強度向上の効果を得ることができる。このCC法により、2.0〜10.0mm程度のアルミニウム合金の鋳造板を鋳造する。
【0071】
CC法において鋳造板を冷却する方法としては、例えばファン空冷、ミスト冷却、シャワー冷却及び水冷等の方法を採用することができる。
【0072】
尚、上記のとおり、本発明では鋳造工程をCC法で行うが、本発明の組成範囲のアルミニウム合金に関し、例えば、300℃で3hの熱処理を施した後の耐力を鋳造法に基づき対比すると、DC法で製造した場合では60MPa程度である。これに対し、CC法で製造した場合には100MPaを超え、150MPaを超えるものも製造可能である。
【0073】
B−2.圧延工程
次に、鋳造されたアルミニウム合金の鋳造板に対して、適宜に均質化処理を行いつつ、冷間圧延でアルミニウム合金板を製造する
【0074】
任意の工程である均質化処理の加熱処理条件は、300〜450℃で0.5〜24時間である。これにより、第二相粒子のサイズの不均一性を小さくし、アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性のバラつきを低減する効果が得られる。
【0075】
そして、CC法による鋳造板、若しくは、均質化処理された鋳造板を、所要の製品板厚に仕上げるため冷間圧延する。冷間圧延段階のでは、0.45〜1.8mm程度のアルミニウム合金板に加工する。
【0076】
冷間圧延段階の条件は、特に限定されるものではなく、必要な製品板強度や板厚に応じて定めれば良い。圧延率については10〜95%とするのが好ましい。冷間圧延の前又は冷間圧延の途中において、冷間圧延加工性を確保するために焼鈍処理段階を設けても良い。焼鈍処理を実施する場合、例えば、バッチ式焼鈍では200℃以上380℃未満の温度で0.1〜10時間の条件で行うことが好ましい。
【0077】
B−3.加圧焼鈍工程
上記のようにして作製したアルミニウム合金板を、円環状に打ち抜き加工して、円環状のアルミニウム合金板を調製する。そして、調整した円環状アルミニウム合金板を加圧平坦化しつつ焼鈍する。この加圧焼鈍工程では、加圧しつつ200〜350℃、30分以上の熱処理を実施し、平坦化した円環状アルミニウム合金板を調製する。尚、このようにして加圧焼鈍工程を経て平坦化された状態の円環状アルミニウム合金板をディスクブランクと称するときがある。
【0078】
B−4.基板調製工程
平坦化した円環状アルミニウム合金板は、研削加工段階と歪取り加熱処理段階とからなる基板調整工程が施される。研削加工段階では、加工により形状・寸法が微調整される。このとき、切削加工を必要に応じて実施しても良い。但し、切削加工の有無により、ディスクフラッタリングやうねり等の物性に影響は生じない。
【0079】
研削加工段階に次いで、歪取り加熱処理段階がなされる。この加熱処理は、好ましくは、250〜400℃の温度で5〜15分加熱して行われる。
【0080】
B−5.めっき前処理工程
基板調整工程を経た円環状アルミニウム合金板は、無電解NI−Pめっき工程前に、めっき前処理工程での処理を受ける。また、上記した基板調整工程とめっき前処理工程との間で行う処理段階のいずれかにおいて、本発明の特徴である化合物除去工程がなされる。
【0081】
ここで、各工程・処理段階の関連性を理解易くするため、図1にめっき前処理工程の好適な内容を示す。図1において、段階−0の処理前サンプルとは、基板調整工程後の円環状アルミニウム合金板(ディスクブランク)である。この処理前サンプルは、上記のとおり、加圧焼鈍工程後、研削加工段階と歪取り加熱処理が施された状態のものである。この処理前サンプルには、通常、表面に汚れが付着し、また、サンプル毎に酸化皮膜の厚さが異なっている。
【0082】
そして、図1の段階−1から段階−6までが本発明のめっき前処理工程である。めっき前処理は、アルカリ脱脂処理段階(段階−1)、酸エッチング処理段階(段階−2)、デスマット処理段階(段階−3)、ジンケート処理段階(段階−4〜段階−6)をこの順序で実施する。尚、図1の例では、ジンケート処理を2回(1st、2nd)行うこととしている。
【0083】
段階−1のアルカリ脱脂処理段階において、材料表面に付着している汚れを除去する。アルカリ脱脂処理段階は、市販の脱脂液(例えば、AD−68F(上村工業製)脱脂液等)を用いることができる。脱脂処理の条件としては、温度40〜70℃、処理時間3〜10分、濃度200〜800mL/Lで行うことが好ましい。
【0084】
段階−2の酸エッチング処理段階では、アルミニウム合金基板の表面の酸化皮膜を除去する。酸エッチング処理段階は、市販のエッチング液(例えば、AD−107F(上村工業製)エッチング液等)を用いることができる。酸エッチング処理の条件としては、温度50〜75℃、処理時間0.5〜5分、濃度20〜100mL/Lとすることが好ましい。
【0085】
段階−3のデスマット処理段階では、アルミニウム合金板の表面に薄い酸化皮膜を生成させて、サンプル毎の酸化皮膜の厚さをほぼ一定にする。通常のデスマット処理として、HNO溶液を用い、温度15〜40℃、処理時間10〜120秒、濃度:10〜60%の条件でデスマット処理を行うことが好ましい。
【0086】
尚、デスマット処理段階は、化合物除去工程がなされるタイミングによっては、省略できる場合がある。即ち、酸エッチング処理段階が終わった時点で化合物除去工程が既になされている場合には、デスマット処理を行う。一方、酸エッチング処理段階が終わった時点で化合物除去工程が未だ適用されていない場合、デスマット処理に代えて化合物除去工程を行うことでデスマット処理を省略できる。但し、これらの処理段階は重畳的に実施可能であり、デスマット処理に加えて化合物除去処理を実施しても良い。そして、ここまでの処理により、アルミニウム合金板の表面は好適な状態に調整される。また、サンプル毎の表面状態も一律に調整されている。
【0087】
デスマット処理段階を経たアルミニウム合金板は、ジンケート処理を受け、表面にジンケート皮膜が形成される。ジンケート処理は、少なくとも1回なされ、2回以上行っても良い。複数回のジンケート処理を行うことで、微細なZnを析出させて均一なジンケート皮膜を形成することができる。
【0088】
図1の段階−4の1stジンケートの段階では、微細なFeをアルミニウム合金板の表面に析出させた後に、Feとアルミニウム合金板との電池反応により、アルミニウム合金を溶解し、置換反応によりZnを析出させてジンケート皮膜を形成する。1stジンケート処理段階は、市販のジンケート処理液(例えば、AD−301F−3X(上村工業製)のジンケート処理液等)を用いることができる。1stジンケート処理は、温度10〜35℃、処理時間0.1〜5分、濃度100〜500mL/Lの条件で行うことが好ましい。
【0089】
段階−5のZn剥離の処理は、1stジンケート処理段階で析出させたZnを溶解させてFeを残存させる。このZn剥離処理は、HNO溶液を用い、温度15〜40℃、処理時間10〜120秒、濃度:10〜60%の条件で行うことが好ましい。
【0090】
そして、2回目のジンケート処理である、段階−6の2ndジンケートの段階を行う。この処理では、1stジンケートの段階と同じ反応が生起するが、Feが再度析出することで電池反応の起点が増え、それによって、析出するZnは微細になり均一なジンケート皮膜が形成される。2ndジンケート処理は、1stジンケート処理と同様の条件で実施することが好ましい。
【0091】
以上説明した、ジンケート処理段階までのめっき前処理工程を経たアルミニウム合金板は、無電解Ni−Pめっき処理(段階−7)を施すことで磁気ディスク用アルミニウム基板となる。ここで、図1で示すとおり、本発明では、無電解Ni−Pめっきの表面欠陥を抑制するため、従来工程にはない化合物除去工程を行う。そこで、化合物除去工程の詳細について説明する。
【0092】
B−6.化合物除去工程
まず、この処理工程の技術的意義について説明する。化合物除去工程とは、アルミニウム合金板材の表面近傍の化合物粒子を所定の溶液によって除去する工程である。その目的は、無電解Ni−Pめっきを施した後の表面欠陥を抑制することにある。ここで、アルミニウム合金板材表面の化合物粒子と無電解Ni−Pめっきの欠陥との関係は、以下のように考察されている。
【0093】
アルミニウム合金板に施される無電解Ni−Pめっきは、めっき間処理工程で形成されたジンケート皮膜を構成するZnとの置換反応で進行する。よって、無電解Ni−Pめっきの欠陥は、ジンケート皮膜の不均一性によって引き起こされる。ここで、上述したジンケート処理は、アルミニウム合金板の表面に析出させた微細Feと母相(アルミニウム合金)との電池反応により進行する。そして、アルミニウム合金板の表面に化合物粒子が存在している場合、そこでも母相との間で局部電池反応が進行する。その結果、アルミニウム合金板全体での反応は不均一となり、Znの析出が不均一である。これによって後の無電解Ni−Pめっき工程においても、初期反応が極めて不均一となり、欠陥が発生する。
【0094】
無電解Ni−Pめっきの欠陥は、めっき表面の凹凸(ノジュール)として発現し、化合物粒子の密度が高いと大量に発生する。既に述べたように、ノジュールはアルミニウム合金基板及び磁気ディスクのうねりに影響する。以上の理由から、アルミニウム合金基板の表面に残存する化合物を少なくする必要がある。
【0095】
この点、従来から使用されているアルミニウム合金基板(JIS5086Al−Mg系合金や特許文献1記載の合金等)においても、上記のような化合物粒子とめっきの欠陥との関係は認識されていた。もっとも、従来のアルミニウム合金基板では、化合物粒子の影響が認識されていた故に、FeやSiの添加量が極めて少ないアルミニウム合金を適用していた。そのようなアルミニウム合金基板では、化合物は小さく、且つ、存在密度が低い。また、従来のアルミニウム合金基板では、上記した製造工程、特に、酸エッチング処理(段階−2)で対処することが可能であった。酸エッチング処理では、アルミニウム合金表面の酸化皮膜を溶解除去するが、このとき母相もわずかながら溶解するので、少量の化合物粒子が除去されるからである。このように、従来のアルミニウム合金基板では、化合物の除去のみを目的とする処理は不要であった。
【0096】
これに対して。本発明に係るアルミニウム合金基板は、構成するアルミニウム合金としてFeを比較的多く含むAl−Fe系合金を適用する。そして、Feを含有するため、比較的大きい化合物粒子が高い存在密度で形成される可能性ある。尚、本発明における化合物とは、Al−Fe、Al−Fe−Mn等のAl−Fe系の金属間化合物である。また、アルミニウム合金の組成によっては、Al−Mn系の金属間化合物やAl−Cu系の金属間化合物が形成する場合もある。
【0097】
また、本発明においては、アルミニウム合金基板の強度、耐力を確保するため、その鋳造工程においてCC法が適用される。CC法によって製造されるアルミニウム合金板材においては、化合物粒子の分布が不均一となる傾向があり、板材の表面近傍の存在密度が高くなるおそれもある。
【0098】
このように、本発明のアルミニウム合金基板は、アルミニウム合金の組成と製法の双方の要因から、化合物粒子が高密度で形成され、そのサイズも大きいことが予測される。このようなアルミニウム合金板に対しては、母相を少量溶解する程度の酸エッチング処理では、化合物を除去することができない。よって、本発明では、従来法にはない、化合物の除去を目的とした工程を備えることとした。尚、化合物除去工程の有無における無電解Ni−Pめっき表面の写真は図2に示すとおりであり、ノジュール発生の差異は明確である。
【0099】
次に、化合物除去工程の処理内容について説明する。化合物除去工程では、アルミニウム合金板の表面に残存する化合物を薬液によって除去する。使用する薬液としては、10〜30℃の10〜60mass%(以下、「%」と略記する)のHNO溶液であって、10〜80g/LのHFを含有するHNO/HFの混合溶液(以下、単に「混合溶液」と略記する)が用いられる。この混合溶液は、エッチング力が強く特に化合物周辺のアルミニウム合金基板の溶解速度を大きくする。化合物周辺のアルミニウム合金基板が溶解することで化合物が除去され、アルミニウム合金基板の表面の化合物のみを選択的に除去することができる。
【0100】
上記混合溶液において、HFの濃度が10g/L未満、ならびに、HNOの濃度が10%未満の場合は、エッチング力が弱くアルミニウム合金基板表面の化合物を十分に除去できない。一方、HFの濃度が80g/Lを超え、ならびに、HNOの濃度が60%を超える場合は、エッチング力が強過ぎアルミニウム合金板の母相の溶解が進行する。その結果、アルミニウム合金基板表面の凹凸が大きくなり、無電解Ni−Pめっき表面の平滑性が得られず、うねりが大きくなってしまう。HF濃度は、好ましくは20〜60g/Lであり、HNO濃度は、好ましくは25〜50%である。
【0101】
また、混合溶液の温度は10〜30℃とする。10℃未満では反応速度が遅く、アルミニウム合金基板表面の化合物を十分に除去できない。一方、30℃を超えると、反応速度が速過ぎてアルミニウム合金板の母相の溶解が進行することで、アルミニウム合金表面の凹凸が大きくなり、それに伴いうねりも大きくなる。混合溶液の温度は、好ましくは15〜25℃である。更に、化合物除去工程における処理時間は5〜60秒とする。5秒未満では反応時間が短過ぎてアルミニウム合金基板表面の化合物を十分に除去できない。一方、60秒を超えると反応時間が長過ぎてアルミニウム合金の母相の溶解が進行することで、アルミニウム合金基板表面の凹凸が大きくなり、うねりが大きくなる。処理時間は、好ましくは10〜30秒である。
【0102】
化合物除去工程の実施のタイミングに関しては、上記した基板調整工程の研削加工段階の後であって、上記しためっき前処理工程のジンケート処理段階の前において実施される。ジンケート処理段階を2回以上行う場合には、最初のジンケート処理段階の前とする。図1を使用しつつ化合物除去工程の実施のタイミングについて説明すると、例えば、段階−4の1stジンケート段階の前であって、段階−3のデスマット段階の後に実施しても良い。また、このデスマット段階に代えて化合物除去工程を実施しても良い。更に、めっき前処理工程前の研削加工段階の後から、段階−1のアルカリ脱脂処理段階の前までのいずれかのタイミングで実施しても良い。この場合、化合物除去工程の前に酸エッチング段階と同じ処理を行い、アルミニウム合金板表面の酸化皮膜を除去しても良いが、それは必須ではない。
【0103】
B−7.無電解Ni−Pめっき処理工程
以上説明した化合物除去工程を経て、ジンケート処理したアルミニウム合金板について、磁性ディスクの下地めっき処理として無電解でのNi−Pめっき処理工程が施される(図1の段階−7)。無電解Ni−Pめっき工程では、アルミニウム合金板の表面のZnとNi−Pの置換反応が最初に進行し、表面がNi−Pで覆われ、その後、自己触媒反応によりNi−P上にNi−Pが析出する。
【0104】
無電解Ni−Pめっき処理工程は、市販のニムデンHDX(上村工業製)めっき液等を用い、温度80〜95℃、処理時間30〜180分、Ni濃度3〜10g/Lの条件でめっき処理を行うことが好ましい。
【0105】
上記のNi−Pめっき処理工程によって、本発明に係る磁気ディスク用のアルミニウム合金基板が得られる。Ni−Pめっき処理後のアルミニウム合金基板については研磨を実施する。この研磨の条件は、特に限定されないが、片面1μm以上の研磨量とするのが好ましい。このときの研磨剤としては、コロイダルシリカ等を使用できる。
【0106】
C.本発明に係る磁気ディスク
以上説明した、本発明に係る磁気ディスク用のアルミニウム合金基板に基づき、本発明に係る磁気ディスクは、ディスクフラッタリングが小さく、且つ、うねりが小さいという特性を有する。
【0107】
即ち、本発明に係るアルミニウム合金基板は、Ni−Pめっき表面の欠陥が抑制されており、波長が0.4〜5.0mmのうねりの最大振幅が5.0nm以下であり、波長が0.08〜0.45mmのうねりの最大振幅が1.5nm以下となっている。本発明の磁気ディスクは、この基板上に磁性層等からなる磁性媒体を備え、その表面において同等の波長及び振幅のうねりを示す。
【0108】
また、本発明に係るアルミニウム合金基板は、強度の高いAl−Fe系合金からなり、周波数が100Hz以上の最大変位(ディスクフラッタリング)が200nm以下となっている。本発明の磁気ディスクは、この基板と同じディスクフラッタリング特性を有する。
【0109】
本発明に係る磁気ディスクの製造は、本発明に係るアルミニウム合金基板の表面に下地層、磁性層、保護膜及び潤滑層等からなる磁性媒体をスパッタリングにより形成して製造できる。尚、磁性媒体の形成前に、アルミニウム合金基板の表面を研磨しても良い。
【0110】
第1実施形態:以下、本発明を実施例と比較例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、表1及び表2に示す成分組成の各アルミニウム合金を常法に従って溶解し、アルミニウム合金溶湯を溶製した。次に、アルミニウム合金溶湯をCC法により鋳造し厚さ6mmの薄板(鋳造板)を作製した。次ぎに、薄板を冷間圧延により板厚0.8mmまで圧延して最終圧延板とした。このようにして得たアルミニウム合金板を外径96mm、内径24mmの円環状に打抜き、円環状アルミニウム合金板を作製した。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
上記のようにして得た円環状アルミニウム合金板に、加圧焼鈍工程として、1.5MPaの圧力下において300℃で3時間の加熱処理を行って、ディスクブランクを作製した。このディスクブランクの端面に切削加工を施して外径95mm、内径25mmとした。更に、表面を片面につき10μm研削する研削加工を行った。
【0114】
本実施形態では、上記研削加工段階の後に化合物除去工程を行った。化合物除去工程は、HF濃度が40g/L、HNO濃度が50%の溶液により25℃で20秒処理を実施した。
【0115】
化合物除去工程の後、ディスクブランクをめっき前処理工程に供した。まず、アルカリ脱脂処理段階として、AD−68F(上村工業製)により60℃で5minの脱脂処理を行った後、酸エッチング処理段階として、AD−107F(上村工業製)により65℃で3minの酸エッチング処理を行った。更に、デスマット処理段階として、室温の30%HNO水溶液(室温)で50秒デスマット処理を行なった。
【0116】
次いで、25℃ジンケート処理液(AD−301F、上村工業製)によって50秒ジンケート処理を行った(1stジンケート処理段階)。この1stジンケート処理後、30%HNO水溶液(室温)で60秒ジンケート層の剥離(Zn剥離)を行い、25℃ジンケート処理液(AD−301F、上村工業製)によって60秒ジンケート処理を再度行った(2ndジンケート処理段階)。
【0117】
上記2度目のジンケート処理を行い、めっき前処理工程を実施したディスクブランクに、90℃の無電解Ni−Pめっき処理液(ニムデンHDX、上村工業製)を用いてNi−Pを17μm厚さに無電解めっきを150min施し、次いで羽布により仕上げ研磨(片面研磨量4μm)を行い、本実施形態における磁気ディスク用アルミニウム合金基板を得た。
【0118】
本実施形態では、上記したアルミニウム合金の耐力測定と、製造した各アルミニウム合金基板のうねり、めっき平滑性及びフラッタリング性の測定・評価を行った。これらの各特性の測定・評価方法は、以下のとおりとした。
【0119】
[評価1:耐力の測定]
耐力は、JIS Z2241に準拠し、冷間圧延後のアルミニウム合金板を300℃で3時間の焼鈍(加圧焼鈍模擬加熱)を行った後、圧延方向に沿ってJIS5号試験片を採取してn=2にて測定した。強度の評価は、耐力が120MPa以上の場合を「◎」、100MPa以上120MPa未満を「○」、100MPa未満を「×」とした。
【0120】
[評価2:うねりの測定]
製造した各アルミニウム合金基板について、μ−XAM(KLA−Tencor製)を用い2.5mm×3.3mmの測定範囲で5箇所測定し、各種波長のうねりの最大振幅を算出した。
【0121】
測定結果について、波長が0.4〜5.0mmのうねりの最大振幅が2.5nm以下であり、波長が0.08〜0.45mmのうねりの最大振幅が1nm以下であれば「◎」、波長が0.4〜5.0mmのうねりの最大振幅が5nm以下であり、波長が0.08〜0.45mmのうねりの最大振幅が1.5nm以下であれば「○」、波長が0.4〜5.0mmのうねりの最大振幅が5nmより大きいもしくは波長が0.08〜0.45mmのうねりの最大振幅が1.5nmより大きければ「×」とした。
【0122】
[評価3:めっき平滑性]
製造した各アルミニウム合金基板を、50℃の50vol%硝酸に7分間浸漬して、Ni−Pめっき表面をエッチングした。エッチング後のNi−Pめっき表面を、光学顕微鏡により倍率1000倍で30視野観察し、めっき欠陥数の算術平均値を求めた。この算術平均値が、3個未満/視野を「◎」、3個以上10個未満/視野を「○」、10個以上/視野を「×」とした。◎と○を合格とし、×を不合格とした。
【0123】
[評価4:フラッタリング特性]
製造した各アルミニウム合金基板を、市販のハードディスクドライブに空気の存在下で設置し、フラッタリング特性の評価を行った。ハードディスクドライブはSeagate製ST2000(商品名)を用い、モーター駆動はテクノアライブ製SLD102(商品名)をモーターに直結することにより駆動させた。回転数は7200rpmとし、ディスクは常に複数枚設置してその上部の磁気ディスクの表面にレーザードップラー計である小野測器製LDV1800(商品名)にて表面の振動を観察した。観察した振動を小野測器製FFT解析装置DS3200(商品名)にてスペクトル分析した。観察はハードディスクドライブの蓋に孔を開け、その孔からディスク表面を観察して行った。尚、市販のハードディスクに設置されていたスクイーズプレートは外して評価を行った。
【0124】
フラッタリング特性の評価は、フラッタリングが現れる300Hzから1500Hzの付近のブロードなピークの最大変位(ディスクフラッタリング(nm))にて行った。このブロードなピークはNRRO(Non−Repeatable Run Out)と呼ばれ、ヘッドの位置決め誤差に対して大きな影響を及ぼすことがわかっている。フラッタリング特性の評価は、空気中にて150nm以下の場合を「◎」、150nmを超え200nm以下を「○」、200nmより大きい場合は「×」とした。◎と○を合格とし、×を不合格とした。
【0125】
以上の各種特性の測定・評価結果について、表3及び表4に示す。表1〜表4から、各実施例・比較例について、以下のような考察がなされる。
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
【0128】
本実施形態(実施例1〜13、16〜21、23、24、26、29、30及び比較例1〜10、12、13、17〜19)は、アルミニウム合金の組成を変化させた実施例と比較例である。本実施形態では、合金組成と各種特性との関係を検討することができる。表から、アルミニウム合金の各構成元素を好適にした実施例1〜13、16〜21、23、24、26、29、30(合金A1〜13、16〜21、23、24、26、29、30)は、うねり測定値及び強度とフラッタリング性の評価結果が合格であった。めっき平滑性も良好な結果となった。
【0129】
これに対して、比較例1〜10、12、13、17〜19(合金B1〜10、12、13、17〜19)は、以下のとおり、いずれかの特性において不合格となった。
比較例1は、フラッタリング性が不合格であった。この合金(B1)は、Feの含有量が少ないため、第二相粒子が少ないことが要因であると考えられる。
比較例2は、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。この合金(B2)は、Feの含有量が多いため、粗大なAl−Fe系化合物が多く、化合物除去工程により除去したが、除去後の孔がめっき欠陥の要因となったと考えられる。
比較例3は、Mnの含有量が少ないため、フラッタリング性が不合格であった。この合金(B3)は、Mnの含有量が少ないため、第二相粒子が少ないことが要因であると考えられる。
比較例4は、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。この合金(B4)は、Mnの含有量が多いため、粗大なAl−Mn系化合物が多く、除去後の孔がめっき欠陥の要因となったと考えられる。
比較例5は、Cuの含有量が少ないため、フラッタリング性が不合格であった。また、ジンケート皮膜が不均一であり、めっき表面に欠陥が発生し、めっき平滑性が不合格であった。
比較例6は、Cuの含有量が多いため、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。
比較例7は、Znの含有量が少ないため、フラッタリング性が不合格であった。またジンケート皮膜が不均一であり、めっき表面に欠陥が発生し、めっき平滑性が不合格であった。
比較例8は、Znの含有量が多いため母相の電位が卑になりすぎたため、めっき処理の各工程において母相の溶解が激しく凹凸が多数発生した。そのため、めっき表面に欠陥が発生し、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。
【0130】
比較例9は、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。Siの含有量が多いため粗大なSi粒子が多く、化合物除去工程を適用しても除去できなかったことが要因であると考える。
比較例10は、Niの含有量が多いためめっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。粗大なAl−Ni系化合物が多く生じ、除去はできたが除去後の孔がめっき欠陥となったと考えられる
比較例12では、Crの含有量が多く、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。粗大なAl−Cr系化合物の生成に起因すると考えられる。
比較例13は、Zrの含有量が多いため、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。粗大なAl−Zr系化合物の生成に起因すると考えられる
比較例17は、SiとCrの含有量が多いため、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。粗大な化合物粒子の生成によると考えられる。
比較例18は、Mnの含有量が多いため、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。
比較例19は、Fe、Mn、Cuの含有量が多いため、めっき平滑性が不合格であった。また、この合金の場合、Znの含有量も多いため母相の電位が卑になりすぎたため、めっき処理の各工程において母相の溶解が激しく凹凸が多数発生した。そのため、めっき表面に欠陥が発生し、めっき平滑性が不合格であった。そして、これに伴いうねりも大きかった。
【0131】
第2実施形態:この実施形態では、第1実施形態の実施例1(合金A1)と同じ合金組成のアルミニウム合金からなるアルミニウム合金基板を、製造条件を変更しつつ製造した。この実施形態で調整した製造条件は下記のとおりである。
【0132】
[鋳造条件]
第1実施形態と同様、CC法で製造したアルミニウム合金薄板を適用したが、一部、DC法で製造したアルミニウム合金薄板を使用した。
【0133】
[表面加工]
第1実施形態と同様、端面に切削加工を施した同寸法のディスクブランクについて、第1実施形態と同じく、表面を片面につき10μm研削する表面加工(研削)と、ディスクブランクの片面について、5μm切削加工した後に5μmの研削加工する表面加工を行った(切削+研削)。尚、一部、端面を切削加工したディスクブランクの片面を10μmの切削のみしたサンプルを製造した(切削)。更に、端面の切削加工のみで表面加工を実施しないサンプルも用意した。
【0134】
[化合物除去工程のタイミングと条件]
表5で示すとおり、化合物除去工程を行うタイミングの異なる工程を設定した。
表5の工程No.C1〜C9及び工程D1〜D8では、上記の表面加工後に化合物除去工程を実施し、その後、第1実施形態と同じ工程により、めっき前処理(アルカリ脱脂〜ジンケート処理)を行い、無電解Ni−Pめっきを行いアルミニウム合金基板とした。
一方、表5の工程No.C10〜C18及び工程D9〜D17では、上記の表面加工を行ったディスクブランクについて、第1実施形態と同じアルカリ脱脂処理、酸エッチング処理及びデスマット処理を実施し、ここで化合物除去工程を実施した。その後第1実施形態と同じジンケート処理と無電解Ni−Pめっきを行いアルミニウム合金基板とした。
また、表5に示すとおり、化合物処理の条件である混合溶液におけるHF濃度、HNO濃度、溶液温度及び処理時間を調整しつつ処理した。
尚、全工程において化合物除去工程を行わない工程によってもアルミニウム合金基板を製造した(表5の工程D17)。
【0135】
【表5】
【0136】
製造した各アルミニウム合金基板について、第1実施形態と同様の方法で、耐力、うねり、めっき平滑性及びフラッタリング性の測定・評価を行った。この測定・評価結果について、表6、表7に示す。これらの表より、各実施例・比較例について、以下のような考察がなされる。
【0137】
【表6】
【0138】
【表7】
【0139】
実施例31〜65は、好適な組成のアルミニウム合金(合金A1)を、好適な製造工程(特に、化合物除去工程)で製造した基板であり、めっき平滑性及びフラッタリング性の評価結果が合格となった。
【0140】
これに対して、比較例20〜59のアルミニウム合金基板は、合金組成に問題はないが、その製造工程・条件に起因し、いずれかの特性で不合格となった。
比較例20、28、37、45は、化合物除去工程に使用した薬液のHF濃度が低かったため、化合物が十分に除去されておらず、めっき表面の欠陥が生じ、めっき平滑性が不合格であった。
比較例21、29、38、46は、化合物除去工程に使用する薬液のHF濃度が高すぎたため、基板の溶解が激しく凹凸が多数発生した。そのため、めっき表面に欠陥が発生し、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。
比較例22、30、39、47は、化合物除去工程に使用する薬液のHNO濃度が低かったため化合物が十分に除去されておらず、めっき表面の欠陥が生じ、めっき平滑性が不合格であった。
比較例23、31、40、48は、化合物除去工程に使用する薬液のHNO濃度が高すぎたため化合物が十分に除去されておらず、めっき表面の欠陥が生じ、めっき平滑性が不合格であった。
比較例24、32、41、49は、化合物除去工程に使用する薬液の温度が低かったために反応速度が遅く、化合物が十分に除去されておらず、めっき表面の欠陥が生じ、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。
比較例25、33、42、50は、化合物除去工程に使用する薬液の温度が高かったために反応速度が速く、基板の溶解が激しく凹凸が多数発生した。そのため、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。
比較例26、34、43、51は、化合物除去工程の時間が短かったために反応時間が十分でなく、化合物が十分に除去されておらず、めっき表面の欠陥が生じ、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。
比較例27、35、44、52は、化合物除去工程の時間が長かったために反応が進行しすぎにより、基板の溶解が激しく凹凸が多数発生した。そのため、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。
【0141】
比較例36、53は、化合物除去工程を適用しない従来の無電解Ni−Pめっき工程であったために、化合物が十分に除去されておらず、めっき表面の欠陥が生じ、めっき平滑性が不合格であった。また、それに伴いうねりも大きかった。
【0142】
比較例54と比較例56は、表面加工を切削のみとしたため、うねりが大きく不合格であった。
比較例55と比較例57は、表面加工を実施しなかったため、うねりが大きく不合格であった。
【0143】
比較例58、59は、DC法でサンプルを製造したため、強度が低くなり、取扱時に変形が生じたため、不合格とした。
【産業上の利用可能性】
【0144】
表面のうねりが小さく、ディスクフラッタが低減され、且つ、無電解Ni−Pめっき表面の欠陥が低減されるという特徴を有するアルミニウム合金基板の提供により、磁気ディスクの薄肉化による搭載枚数の増加と1枚当たりの記憶容量の増加と読み書きの高速化を可能とし、HDDの高容量化と高速度化に寄与する磁気ディスクを提供が得られる。
【要約】
【課題】高強度であり、ディスクフラッタ及びうねりの小さいアルミニウム合金基板とその製造方法を提供する。
【解決手段】Fe:0.4〜3.0mass%(以下、単に「%」)、Mn:0.1〜3.0%、Cu:0.005〜1.000%、Zn:0.005〜1.000%を含有し、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなるCC法で製造したアルミニウム合金板に化合物除去工程を適用し、この表面に形成された無電解Ni−Pめっき層を備え、波長が0.4〜5.0mmのうねりの最大振幅が5nm以下であり、波長が0.08〜0.45mmのうねりの最大振幅が1.5nm以下であることを特徴とする磁気ディスクとその製造方法。
【選択図】図2
図1
図2