特許第6439530号(P6439530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6439530
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】スカンジウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20181210BHJP
   C22B 1/04 20060101ALI20181210BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20181210BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20181210BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   C22B59/00
   C22B1/04
   C22B3/08
   C22B3/24 101
   C22B3/44 101A
   C22B3/44 101B
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-60627(P2015-60627)
(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-180151(P2016-180151A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2017年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀昌
(72)【発明者】
【氏名】工藤 敬司
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸也
(72)【発明者】
【氏名】小林 宙
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【審査官】 坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−089904(JP,A)
【文献】 特開2004−175652(JP,A)
【文献】 特開2014−218719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカンジウムを含有する酸性溶液を用いて、以下の[A]〜[C]の工程を含む硫酸複塩沈殿工程により精製後のスカンジウム溶解液を得て、次いで、得られた該スカンジウム溶解液からスカンジウムを回収するスカンジウムの回収方法。
[A]前記スカンジウムを含有する酸性溶液に硫酸ナトリウムを添加し、スカンジウム硫酸複塩の沈殿を得て、その後、得られた該スカンジウム硫酸複塩の沈殿に対し硫酸ナトリウム溶液を洗浄液として用いて洗浄する沈殿工程。
[B]前記沈殿工程で得られたスカンジウム硫酸複塩の沈殿に純水を添加して溶解させ、得られた溶解液に中和剤を添加して水酸化スカンジウムを得る中和工程。
[C]前記中和工程で得られた水酸化スカンジウムに酸を添加し、該水酸化スカンジウムを溶解させた精製後のスカンジウム溶解液を得る再溶解工程。
【請求項2】
前記スカンジウムを含有する酸性溶液から該スカンジウムの沈殿物を生成させ、該沈殿物に酸を添加して溶解させる濃縮工程を有し、
前記濃縮工程により得られた酸性溶液を、前記硫酸複塩沈殿工程における処理に付す
ことを特徴とする請求項1に記載のスカンジウムの回収方法。
【請求項3】
前記濃縮工程では、前記スカンジウムを含有する酸性溶液に中和剤又はシュウ酸を添加してスカンジウムの沈殿物を生成させ、該沈殿物に酸を添加して溶解させる
ことを特徴とする請求項2に記載のスカンジウムの回収方法。
【請求項4】
前記濃縮工程では、
前記スカンジウムを含有する酸性溶液に中和剤を添加してスカンジウムの沈殿物を生成させ、該沈殿物に酸を添加して溶解させる第1の濃縮工程と、
前記第1の濃縮工程で得られた溶解液にシュウ酸を添加してシュウ酸スカンジウムの沈殿物を生成させ、該沈殿物に酸を添加して溶解させる第2の濃縮工程と
を有することを特徴とする請求項2に記載のスカンジウムの回収方法。
【請求項5】
前記精製後のスカンジウム溶解液にシュウ酸を添加してシュウ酸スカンジウムの結晶を得るシュウ酸化工程を有し、
前記シュウ酸化工程にて得られたシュウ酸スカンジウムの結晶を、前記焙焼工程における処理に付す
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスカンジウムの回収方法。
【請求項6】
記中和工程では、前記溶解液に中和剤を添加してpHを6〜7の範囲に調整することによって水酸化スカンジウムを得る
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載にスカンジウムの回収方法。
【請求項7】
前記スカンジウムを含有する酸性溶液は、
前記ニッケル酸化鉱を高温高圧下で硫酸により浸出して浸出液を得る浸出工程と、
前記浸出液に中和剤を添加して不純物を含む中和澱物と中和後液とを得る中和工程と、
前記中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る硫化工程と、
前記硫化後液をキレート樹脂に接触させることによって該硫化後液に含まれるスカンジウムを該キレート樹脂に吸着させてスカンジウム溶離液を得るイオン交換工程と
を経て得られた溶液である
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のスカンジウムの回収方法。
【請求項8】
前記沈殿工程における洗浄処理では、200g/L〜400g/Lの濃度の硫酸ナトリウム溶液を洗浄液として用いて洗浄する
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のスカンジウムの回収方法。
【請求項9】
前記沈殿工程における洗浄処理では、洗浄時におけるスラリー濃度を100g/L〜300g/Lの範囲とする
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のスカンジウムの回収方法。
【請求項10】
前記沈殿工程では、pHが0〜1の範囲である前記スカンジウムを含有する酸性溶液に対して硫酸ナトリウムを添加してスカンジウム硫酸複塩の沈殿物を得る
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のスカンジウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スカンジウムの回収方法に関し、より詳しくは、ニッケル酸化鉱石等から抽出したスカンジウムを含有する酸性溶液を用いて、スカンジウムを硫酸複塩の形態で析出させて不純物と分離し、高純度なスカンジウムを回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スカンジウムは、高強度合金の添加剤や燃料電池の電極材料として極めて有用である。しかしながら、生産量が少なく、高価であるため、広く用いられるには至っていない。
【0003】
ところで、ラテライト鉱やリモナイト鉱等のニッケル酸化鉱石には、微量のスカンジウムが含まれている。しかしながら、ニッケル酸化鉱石はニッケル品位が低いため、長らくニッケル酸化鉱石をニッケル原料として工業的に利用されてこなかった。そのため、ニッケル酸化鉱石からスカンジウムを工業的に回収することも殆ど研究されていなかった。
【0004】
しかしながら、近年、ニッケル酸化鉱石を硫酸と共に加圧容器に装入し、240℃〜260℃程度の高温に加熱してニッケルを含有する浸出液と浸出残渣とに固液分離するHPALプロセスが実用化されている。このHPALプロセスでは、得られた浸出液に対して中和剤を添加することで不純物が分離され、次いで硫化剤を添加することでニッケルをニッケル硫化物として回収することができる。そして、得られたニッケル硫化物を既存のニッケル製錬工程で処理することで電気ニッケルやニッケル塩化合物を得ることができる。
【0005】
上述したようなHPALプロセスを用いる場合、ニッケル酸化鉱石に含まれるスカンジウムは、ニッケルと共に浸出液に含まれることになる(特許文献1参照)。そして、HPALプロセスで得られた浸出液に対して中和剤を添加して不純物を分離し、次いで硫化剤を添加すると、ニッケルはニッケル硫化物として回収される一方で、スカンジウムは硫化剤添加後の酸性溶液(硫化後液)に含まれるようになるため、HPALプロセスを使用することによってニッケルとスカンジウムとを効果的に分離することができる。
【0006】
上述した酸性溶液からスカンジウムを回収する方法としては、イミノジ酢酸塩を官能基とするキレート樹脂等にスカンジウムを吸着させて不純物と分離し、濃縮することによって回収する方法が、例えば特許文献2において提案されている。
【0007】
特許文献2には、スカンジウムを微量に含有する物質から高純度の酸化スカンジウムを製造する方法が開示されている。具体的には、スカンジウムを微量含有する酸化物からスカンジウム含有溶液を得る浸出工程と、液調整工程と、スカンジウムを吸着したキレート樹脂を形成する抽出工程と、スカンジウム吸着キレート樹脂を希酸で洗浄する洗浄工程と、スカンジウム吸着キレート樹脂を強酸で溶離してスカンジウム含有溶液を得る逆抽出工程と、スカンジウム含有溶液から沈殿剤によりスカンジウム沈殿物を得る沈殿工程と、沈殿物を焼成する工程とを含む高純度酸化スカンジウムの製造法が開示されている。
【0008】
しかしながら、この特許文献2に記載の方法を単独で用いた場合、鉄、アルミ、クロム等の溶離液中への分配は非常に小さいものの、原料中に含まれるスカンジウムに比べると多量に含まれているため、複数回の吸着・溶離を繰り返すといった手間がかかる。また、一部の不純物については、スカンジウムと同程度に溶離液中に分配されるため、分離が困難となることもあった。
【0009】
さらに特許文献3には、含スカンジウム溶液から溶媒抽出法を用いて高純度な酸化スカンジウムを回収する方法が開示されている。具体的には、先ず、スカンジウムの他に少なくとも鉄、アルミニウム、カルシウム、イットリウム、マンガン、クロム、マグネシウムの1種以上を含有する水相の含スカンジウム溶液に、2−エチルヘキシルスルホン酸−モノ−2−エチルヘキシルをケロシンで希釈した有機溶媒を加えて、スカンジウム成分を有機溶媒中に抽出する。次いで、有機溶媒中にスカンジウムと共に抽出されたイットリウム、鉄、マンガン、クロム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムを分離するために、塩酸水溶液を加えてスクラビングを行い、イットリウム、鉄、マンガン、クロム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムを除去した後、有機溶媒中に水酸化ナトリウム水溶液を加えて、有機溶媒中に残存するスカンジウムをSc(OH)を含むスラリーとする。そして、このスラリーを濾過して得られたSc(OH)を塩酸で溶解し、塩化スカンジウム水溶液を得て、これにシュウ酸を加えてシュウ酸スカンジウム沈殿とし、沈殿を濾過し、鉄、マンガン、クロム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムを濾液中に分離した後、仮焼することによって高純度な酸化スカンジウムを得るという方法である。
【0010】
しかしながら、溶媒抽出方法を用いた場合、ニッケル酸化鉱石に含まれるスカンジウムは非常に微量で濃度が低いため、大量の溶媒を取り扱う必要があり、回収率や設備容量が大きくなるためにコストの点で困難であった。
【0011】
このように、ニッケル酸化鉱石に含有されるスカンジウム、あるいは酸化スカンジウムを、効率的に取り出して利用する技術は見出されなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平3−173725号公報
【特許文献2】特開平9−176756号公報
【特許文献3】特開平9−291320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、上述したような実情に鑑みて提案されたものであり、スカンジウム含有する酸性溶液から高品位のスカンジウムを簡便に且つ効率よく回収することを可能にするスカンジウムの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、スカンジウムを含有する酸性溶液を原料として硫酸複塩生成反応を生じさせ、得られたスカンジウムの硫酸複塩を溶解させて、その精製後のスカンジウム溶解液からスカンジウムを回収することによって、高品位のスカンジウムを簡便に且つ効率よく回収することができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明では、以下のものを提供する。
【0015】
(1)本発明の第1の発明は、スカンジウムを含有する酸性溶液を用いて、以下の[A]〜[C]の工程を含む硫酸複塩沈殿工程により精製後のスカンジウム溶解液を得て、次いで、得られた該スカンジウム溶解液からスカンジウムを回収するスカンジウムの回収方法である。
[A]前記スカンジウムを含有する酸性溶液に硫酸ナトリウムを添加し、スカンジウム硫酸複塩の沈殿を得る沈殿工程。
[B]前記沈殿工程で得られたスカンジウム硫酸複塩の沈殿に純水を添加して溶解させ、得られた溶解液に中和剤を添加して水酸化スカンジウムを得る中和工程。
[C]前記中和工程で得られた水酸化スカンジウムに酸を添加し、該水酸化スカンジウムを溶解させた精製後のスカンジウム溶解液を得る再溶解工程。
【0016】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記スカンジウムを含有する酸性溶液から該スカンジウムの沈殿物を生成させ、該沈殿物に酸を添加して溶解させる濃縮工程を有し、前記濃縮工程により得られた酸性溶液を、前記硫酸複塩沈殿工程における処理に付すスカンジウムの回収方法である。
【0017】
(3)本発明の第3の発明は、第2の発明において、前記濃縮工程では、前記スカンジウムを含有する酸性溶液に中和剤又はシュウ酸を添加してスカンジウムの沈殿物を生成させ、該沈殿物に酸を添加して溶解させるスカンジウムの回収方法である。
【0018】
(4)本発明の第4の発明は、第2の発明において、前記濃縮工程では、前記スカンジウムを含有する酸性溶液に中和剤を添加してスカンジウムの沈殿物を生成させ、該沈殿物に酸を添加して溶解させる第1の濃縮工程と、前記第1の濃縮工程で得られた溶解液にシュウ酸を添加してシュウ酸スカンジウムの沈殿物を生成させ、該沈殿物に酸を添加して溶解させる第2の濃縮工程とを有するスカンジウムの回収方法である。
【0019】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記精製後のスカンジウム溶解液にシュウ酸を添加してシュウ酸スカンジウムの結晶を得るシュウ酸化工程を有し、前記シュウ酸化工程にて得られたシュウ酸スカンジウムの結晶を、前記焙焼工程における処理に付すスカンジウムの回収方法である。
【0020】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記硫酸複塩沈殿工程における前記中和工程では、前記溶解液に中和剤を添加してpHを8〜9の範囲に調整することによって水酸化スカンジウムを得るスカンジウムの回収方法である。
【0021】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明において、前記スカンジウムを含有する酸性溶液は、前記ニッケル酸化鉱を高温高圧下で硫酸により浸出して浸出液を得る浸出工程と、前記浸出液に中和剤を添加して不純物を含む中和澱物と中和後液とを得る中和工程と、前記中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る硫化工程と、前記硫化後液をキレート樹脂に接触させることによって該硫化後液に含まれるスカンジウムを該キレート樹脂に吸着させてスカンジウム溶離液を得るイオン交換工程とを経て得られた溶液であるスカンジウムの回収方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱から高品位のスカンジウムを簡便に且つ効率よく回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】スカンジウムの回収方法の流れを示す工程図である。
図2】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れを示す工程図である。
図3】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにより得られた硫化後液に対してイオン交換処理を行い、得られたスカンジウム溶離液を原料としてスカンジウムを回収する流れを示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0025】
≪1.スカンジウムの回収方法≫
本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法は、スカンジウムを含有する酸性溶液(以下、「スカンジウム含有酸性溶液」ともいう)から高純度のスカンジウムを回収する方法である。具体的に、このスカンジウムの回収方法では、スカンジウム含有酸性溶液を用いて、以下の[A]〜[C]の工程を含む硫酸複塩沈殿工程により精製後のスカンジウム溶解液を得て、次いで、得られたスカンジウム溶解液を焙焼して酸化スカンジウムとする。
[A]前記スカンジウムを含有する酸性溶液に硫酸ナトリウムを添加し、スカンジウム硫酸複塩の沈殿を得る沈殿工程。
[B]前記沈殿工程で得られたスカンジウム硫酸複塩の沈殿に純水を添加して溶解させ、得られた溶解液に中和剤を添加して水酸化スカンジウムを得る中和工程。
[C]前記中和工程で得られた水酸化スカンジウムに酸を添加し、該水酸化スカンジウムを溶解させた精製後のスカンジウム溶解液を得る再溶解工程。
【0026】
このように、本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法は、スカンジウムを精製して回収するにあたって、硫酸複塩の沈殿物を形成させることを特徴としている。このような方法によれば、スカンジウムを回収する始液に含まれるアルミニウム、鉄、ニッケル、マグネシウム、マンガン等の不純物をより効率よく分離することができ、例えばニッケル酸化鉱石のような多くの不純物を含有する原料からであっても、コンパクトな設備で効率的に、かつ安定した操業を行うことができる。
【0027】
図1は、本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法の流れを示す工程図である。この図1の工程図に示すように、このスカンジウムの回収方法は、スカンジウム含有溶液酸性溶液から硫酸複塩沈殿を生成させて精製する硫酸複塩沈殿工程S11と、精製後のスカンジウム溶解液からスカンジウムを回収するスカンジウム回収工程S12とを有する。以下、それぞれの工程について具体的に説明する。
【0028】
<1−1.硫酸複塩沈殿工程>
(1)硫酸複塩沈殿工程について
硫酸複塩沈殿工程S11は、スカンジウムを回収する回収始液となるスカンジウム含有酸性溶液から硫酸複塩沈殿を生成させ、溶液を精製させる工程である。
【0029】
具体的に、硫酸複塩沈殿工程S11は、スカンジウム含有酸性溶液から硫酸複塩の沈殿物を生成させる沈殿工程S101と、硫酸複塩沈殿を溶解して得られた溶解液を中和する中和工程S102と、中和により得られた水酸化スカンジウムを再溶解する再溶解工程S103とを有することを特徴としている。
【0030】
[A]沈殿工程
沈殿工程S101では、スカンジウム含有酸性溶液に硫酸ナトリウムの結晶を添加し、硫酸複塩生成反応に基づき、スカンジウムを含む硫酸複塩(スカンジウム硫酸複塩)の形態の結晶(沈殿)を析出生成させる。この沈殿工程S101における処理により、スカンジウム含有酸性溶液に含まれる不純物と、スカンジウムと分離することができる。
【0031】
硫酸ナトリウムを添加する前のスカンジウム含有酸性溶液のpHとしては、0〜1の範囲にあることが好ましく、pH0.5前後であることがより好ましい。溶液のpHが1を超えると、スカンジウム硫酸複塩の溶解度が増加し、生成したスカンジウム硫酸複塩が再溶解してスカンジウムの回収率が低下する可能性がある。また、スカンジウム硫酸複塩の粘性が増加することで、固液分離時の濾過性が悪化する可能性もある。一方で、溶液のpHが0未満だと、後工程(中和工程S102)にて必要な中和剤量が増加するため、経済的に不利となる。
【0032】
硫酸ナトリウムの添加量としては、スカンジウム含有酸性溶液の液量に対して200g/L〜400g/Lとし、300g/L前後の量とすることが特に好ましい。添加量が200g/Lを下回ると、スカンジウム硫酸複塩の溶解度が増加し、生成したスカンジウム硫酸複塩が再溶解するため、スカンジウムの回収率が低下する可能性がある。一方で、添加量が400g/Lを超えると、生成したスカンジウム硫酸複塩の粘性が増加し、固液分離やハンドリング性が低下する原因となる。
【0033】
硫酸複塩生成反応で析出させたスカンジウム硫酸複塩は、公知の方法により固液分離して、濾過後液(母液)と分離する。
【0034】
そして、硫酸ナトリウム溶液を洗浄液としてスカンジウム硫酸複塩に添加し、レパルプ洗浄する。このとき、洗浄液の硫酸ナトリウムの添加量は、スカンジウム硫酸複塩を生成させるときと同様に、200g/L〜400g/Lの範囲とすることが好ましく、300g/L前後とすることが特に好ましい。硫酸ナトリウムの濃度が200g/L未満となると、濃度が薄くなりすぎて、スカンジウム硫酸複塩が溶解してスカンジウムの回収ロスが生じる可能性がある。一方で、濃度が400g/Lを超えると、濃度が濃くなりすぎて、コストが増加したり粘性が増加する等、洗浄効果が低下する。
【0035】
また、レパルプ洗浄時のスラリー濃度としては、100〜300wet−g/Lの範囲とすることが好ましい。スラリー濃度が100g/L未満であると、スカンジウムのロスが多くなる可能性があり、一方で、300g/Lを超えると、洗浄液量が増加して洗浄効果が低くなる。
【0036】
[B]中和工程
中和工程S102では、沈殿工程S101で得られたスカンジウム硫酸複塩の沈殿に純水を添加して溶解させ、得られた溶解液(硫酸複塩溶解液)に中和剤を添加することによって水酸化スカンジウムを得る。沈殿工程S101で得られたスカンジウム硫酸複塩は、不純物成分を分離して得られた沈殿物であり、このスカンジウム硫酸複塩を溶解して得られた溶解液は不純物が除去された溶液となっている。
【0037】
得られたスカンジウム硫酸複塩に純水を添加して溶解する際には、スカンジウム硫酸複塩と撹拌に必要な最低限の液量となる純水を混合して撹拌する。撹拌処理を施しながら溶解させることにより、スカンジウム硫酸複塩の未溶解物の残留を防ぐことができる。
【0038】
液量の目安としては、スカンジウム硫酸複塩のスラリー濃度が例えば50g/L〜100g/L程度となる量とする。スラリー濃度が50g/Lよりも低くなると、液量が増加するために操作性が低下する。一方で、スラリー濃度が100g/Lよりも高くなると、スカンジウム硫酸複塩が溶解しきれずに未溶解物が残留する等、スカンジウムの回収率が低下することがあり、好ましくない。
【0039】
そして、中和工程S102では、スカンジウム硫酸複塩を溶解させた硫酸複塩溶解液に対して中和剤を添加して精製後の水酸化スカンジウムの沈殿物を生成させる。pH条件としては、中和剤を添加することによって6〜7の範囲に調整する。これにより、精製後の水酸化スカンジウムの沈殿物を効率的に得ることができる。
【0040】
中和剤としては、特に限定されないが、添加した中和剤に起因する生成物が不純物として混入することを避ける観点から、水溶性中和剤、具体的には水酸化ナトリウムを使用することが好ましい。
【0041】
[C]再溶解工程
再溶解工程S103では、中和工程S102で得られた精製後の水酸化スカンジウムに硫酸又は塩酸を添加して溶解させ、精製後のスカンジウム溶解液を得る。中和工程S102で得られた水酸化スカンジウムは、さらに不純物成分を分離して得られた精製沈殿物であり、この水酸化スカンジウムを酸で溶解して得られた溶解液中には、より一層に不純物が除去された精製溶液となっている。
【0042】
水酸化スカンジウムの酸による溶解の目安としては、後工程(スカンジウム回収工程S12)で例えばシュウ酸塩を生成させることができる溶解度を確保し、また同時に不純物の分離等を考慮して、pHが0〜0.5の範囲となるようにする。pHが0未満のように低すぎると、後工程で生成するスカンジウムのシュウ酸塩(シュウ酸スカンジウム)の溶解度が増加し、スカンジウム回収率が低下する可能性がある。一方でpHが0.5を超えると、水酸化スカンジウムを溶解して得られる溶解液中の不純物が後工程で沈殿を形成し、スカンジウム純度を下げてしまう可能性があり、好ましくない。
【0043】
具体的には、例えば硫酸を用いて溶解する場合において、水酸化スカンジウムに対して水を加えてスラリーとしながら、濃度が約60重量%の硫酸を添加し、pH0〜0.5の範囲に維持されるようにして溶解し、これにより精製後のスカンジウム溶解液を得る。
【0044】
以上のように、本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法では、スカンジウム含有酸性溶液を用いてスカンジウムの硫酸複塩沈殿を生成させ、スカンジウムと、ニッケルやアルミニウム等の不純物とを分離する。このような方法によれば、高価な薬剤や溶媒等を用いる必要がなく、効率的にスカンジウムと不純物とを分離して、高純度なスカンジウムを回収することができる。
【0045】
(2)濃縮工程について
ここで、上述した硫酸複塩沈殿工程S11における各処理を実行するに先立ち、硫酸複塩生成反応の反応始液となるスカンジウム含有酸性溶液に対して濃縮処理を施すようにしてもよい。具体的には、硫酸複塩沈殿工程S11における各処理に供給する前のスカンジウム含有酸性溶液を用い、その溶液に含まれるスカンジウムを沈殿物とすることによって、スカンジウム以外の不純物と分離し、その後、生成させたスカンジウムの沈殿物を硫酸、塩酸、硝酸等の酸で溶解してスカンジウム濃縮液を得る濃縮処理を施すようにすることができる。
【0046】
このように、スカンジウム含有酸性溶液に対して濃縮処理を施すことによって、その酸性溶液に含まれる不純物を大幅に除去することができ、その後の硫酸複塩沈殿工程S11における処理の手間等を節減してコストを削減することができる。具体的には、不純物を大幅に除去できるため、硫酸複塩沈殿工程S11における硫酸ナトリウムの添加量を低減でき、また処理設備の規模をコンパクト化でき、設備投資を削減することができる。また、硫酸複塩沈殿工程S11における処理の始液濃度を一定の範囲に管理することが可能となり、このスカンジウム回収操業をより安定化させることができる。
【0047】
なお、この濃縮工程で得られた沈殿物の溶解に際しては、上述のように硫酸、塩酸、硝酸のいずれの酸を用いてもよいが、硫酸を用いることがより好ましい。
【0048】
濃縮工程における濃縮処理方法としては、例えば、水酸化中和、シュウ酸化の手法を挙げることができ、または水酸化中和とシュウ酸化との両方を行うようにしてもよい。このようにいずれの濃縮方法を採用することもできるが、得られる沈殿物(例えば、水酸化物やシュウ酸塩)の溶解度付近で溶解させることが好ましい。得られた沈殿物の溶解度付近で溶解することで、一度固体を析出させて任意の濃度になるように再溶解できるため、スカンジウム濃度を任意に選択できて可能な限り高めることができる。このことにより、次工程となる硫酸複塩沈殿工程S11での処理における液量、延いては設備規模を縮減することができるという点で、工業的に極めて好ましい。
【0049】
以下では、濃縮処理方法として、水酸化中和、シュウ酸化、並びに、水酸化中和及びシュウ酸化の併用の3つの手法を例に挙げ、スカンジウム硫酸複塩を生成させる原料となるスカンジウム含有溶液を濃縮させる方法について具体的に説明する。
【0050】
[水酸化中和]
水酸化中和による方法では、スカンジウム含有酸性溶液(例えば後述するようなイオン交換工程での処理により得られたスカンジウム溶離液)に中和剤を添加して、水酸化物(水酸化スカンジウム)の沈殿物を得て固液分離し、得られた水酸化物沈殿を酸で溶解して濃縮後酸性溶液を得る。
【0051】
中和剤としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、炭酸カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム等が挙げられる。なお、イオン交換工程で得られたスカンジウム溶離液が硫酸溶液である場合には、カルシウム分を含む中和剤であると石膏(硫酸カルシウム)が生成し、スカンジウムに混在する可能性がある。そのため、中和剤としては、水酸化ナトリウム等の固形物を生成しない種類であるものが好ましい。
【0052】
pH条件としては、中和剤を添加することによって6〜9の範囲に調整されることが好ましい。pHが6未満であると、中和が不十分となってスカンジウムを十分に回収できない可能性がある。一方で、pHが9を超えると、中和剤の使用量が増加してコスト増となる点で好ましくない。
【0053】
[シュウ酸化]
また、シュウ酸化による方法では、スカンジウム含有酸性溶液にシュウ酸を添加して、シュウ酸塩(シュウ酸スカンジウム)の結晶を得る。
【0054】
このとき、スカンジウム含有酸性溶液のpH条件としては、0〜0.5の範囲に調整し維持しつつ、シュウ酸を添加することが好ましい。pHが0未満のように強酸性領域であると、スカンジウムのシュウ酸塩の溶解度が増加し、生成したシュウ酸塩が再溶解することによりスカンジウム回収率が低下する可能性がある。一方で、pHが0.5を超えて高すぎると、スカンジウム含有酸性溶液に含まれる不純物が沈殿を形成してスカンジウムのシュウ酸塩の中に混入し、スカンジウムの純度を下げてしまうため、好ましくない。
【0055】
シュウ酸の添加量としては、スカンジウムをシュウ酸塩として析出させるのに必要な当量の1.05倍〜1.2倍の範囲の量であることが好ましい。添加量が必要な当量の1.05倍未満であると、シュウ酸スカンジウムの沈殿生成が不十分となり、スカンジウムの全量を回収できなくなる可能性がある。一方で、添加量が必要な当量の1.2倍を超えると、シュウ酸スカンジウムの溶解度が増加してしまい、その結果として析出したスカンジウムが再溶解して回収率が低下するため好ましくない。
【0056】
このようにしてシュウ酸化により得られたシュウ酸スカンジウムを、上述した水酸化中和の処理と同様に、酸を添加することによって溶解し、濃縮後酸性溶液を得る。
【0057】
[水酸化中和とシュウ酸化との併用]
また、上述した水酸化中和とシュウ酸化とを併用した方法により濃縮処理を行うこともできる。具体的には、先ず、スカンジウム含有酸性溶液に対して上述のようにして中和剤を添加して水酸化スカンジウムを含有する沈殿物を得る(水酸化中和:第1の濃縮工程)。そして、水酸化スカンジウムの沈殿物に塩酸を添加して溶解する。次に、溶解して得られた溶液に対して上述のようにしてシュウ酸を添加してシュウ酸スカンジウムの結晶を沈殿させる(シュウ酸化:第2の濃縮工程)。そして、その結晶に酸を添加して溶解し、濃縮後酸性溶液を得る。
【0058】
このように、濃縮処理において、水酸化中和とシュウ酸化との併用させることにより、より一層に効果的に、酸性溶液に含まれる不純物を除去することができ、その後の硫酸複塩沈殿工程S11における処理の手間等を節減することができる。
【0059】
<1−2.スカンジウム回収工程>
スカンジウム回収工程S12は、上述した硫酸複塩沈殿工程S11を経て得られた精製後のスカンジウム溶解液からスカンジウムを回収する工程である。
【0060】
スカンジウムを回収する方法としては、特に限定されないが、例えば図1の工程図に例示するように、スカンジウム溶解液にシュウ酸を添加してシュウ酸スカンジウムの結晶を得るシュウ酸化工程S201と、得られたシュウ酸スカンジウムの結晶を焙焼して酸化スカンジウムを得る焙焼工程S202とを有する方法が挙げられる。
【0061】
このように、シュウ酸スカンジウムの固体結晶を生成させ、得られたシュウ酸スカンジウムを焙焼に供して酸化スカンジウムとする方法によれば、スカンジウム溶解液中に残留する微量の不純物をここで分離除去することができ、より一層に高純度なスカンジウムを酸化スカンジウムの形態として回収することができる。
【0062】
以下では、スカンジウム回収工程S12として、シュウ酸化工程S201と、酸化スカンジウムを得る焙焼工程S202とを有する例を示して具体的に説明する。
【0063】
(1)シュウ酸化工程(スカンジウム沈殿工程)
シュウ酸化工程S201では、硫酸複塩沈殿工程S11を経て得られたスカンジウム溶解液にシュウ酸を添加して、スカンジウム溶解液中のスカンジウムに基づいてシュウ酸スカンジウムの固体結晶を析出沈殿させるシュウ酸化処理を行う。このシュウ酸化処理によれば、濾過性等のハンドリング性を向上させることができ、スカンジウムを効率的に回収することができる。
【0064】
シュウ酸の添加量としては、スカンジウム溶解液中のスカンジウムをシュウ酸塩として析出させるのに必要な当量の1.05倍〜1.2倍の範囲の量とすることが好ましい。添加量が必要な当量の1.05倍未満であると、スカンジウムを全量回収できなくなる可能性がある。一方で、添加量が必要な当量の1.2倍を超えると、シュウ酸スカンジウムの溶解度が増加することでスカンジウムが再溶解して回収率が低下し、また過剰なシュウ酸を分解するために次亜塩素ソーダのような酸化剤の使用量が増加するため好ましくない。
【0065】
(2)焙焼工程
焙焼工程S202は、シュウ酸化工程で得られたシュウ酸スカンジウムの沈殿物を水で洗浄し、乾燥し、焙焼(焼成)する工程である。この焙焼工程S202における焙焼処理を経ることで、極めて高品位な酸化スカンジウムを得ることができる。
【0066】
焙焼処理の条件としては、特に限定されないが、例えば管状炉に入れて約900℃で2時間程度加熱すればよい。なお、工業的には、ロータリーキルン等の連続炉を用いることによって乾燥と焙焼とを同じ装置で行うことが可能となるため、好ましい。
【0067】
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における浸出液からのスカンジウム回収≫
<2−1.ニッケル酸化鉱石の浸出液の利用>
本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法における回収対象溶液である、スカンジウムを含有する酸性溶液(スカンジウム含有酸性溶液)としては、例えば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスを経て得られる浸出液を用いることができる。
【0068】
図2は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れを示す工程図である。より具体的に、本実施の形態においては、スカンジウム含有酸性溶液としては、ニッケル酸化鉱石を高温高圧下で硫酸により浸出して浸出液を得る浸出工程S1と、浸出液に中和剤を添加して不純物を含む中和澱物と中和後液とを得る中和工程S2と、中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る硫化工程S3とを有するニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにより得られる硫化後液を用いることができる。以下では、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れを説明する。
【0069】
(1)浸出工程
浸出工程S1は、例えば高温加圧容器(オートクレーブ)等を用いて、ニッケル酸化鉱のスラリーに硫酸を添加して240℃〜260℃の温度下で撹拌処理を施し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する工程である。
【0070】
ここで、ニッケル酸化鉱としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、これらのニッケル酸化鉱には、スカンジウムが含まれている。
【0071】
浸出工程S1では、得られた浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを洗浄しながら、ニッケルやコバルト、スカンジウム等を含む浸出液と、ヘマタイトである浸出残渣とに固液分離する。この固液分離処理では、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、凝集剤供給設備等から供給される凝集剤を用いて、シックナー等の固液分離設備により固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。なお、この固液分離処理では、シックナー等の固液分離槽を多段に連結させて用い、浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離することが好ましい。
【0072】
(2)中和工程
中和工程S2は、上述した浸出工程S1により得られた浸出液に中和剤を添加してpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物と中和後液とを得る工程である。この中和工程S2における中和処理により、ニッケルやコバルト、スカンジウム等の有価金属は中和後液に含まれるようになり、鉄、アルミニウム等の不純物の大部分が中和澱物となる。
【0073】
中和剤としては、従来公知のもの使用することができ、例えば、炭酸カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0074】
中和工程S2における中和処理では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、pHを1〜4の範囲に調整することが好ましく、pHを1.5〜2.5の範囲に調整することがより好ましい。pHが1未満であると、中和が不十分となり中和澱物と中和後液とに分離できない可能性がある。一方で、pHが4を超えると、アルミニウム等の不純物のみならず、スカンジウムやニッケル等の有価金属も中和澱物に含まれる可能性がある。
【0075】
(3)硫化工程
硫化工程S3は、上述した中和工程S12により得られた中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る工程である。この硫化工程S3における硫化処理により、ニッケル、コバルト、亜鉛等は硫化物となり、スカンジウム等は硫化後液に含まれることになる。
【0076】
具体的に、硫化工程S3では、得られた中和後液に対して、硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等の硫化剤を吹きこみ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)と、ニッケル濃度を低い水準で安定させ、スカンジウム等を含有させた硫化後液とを生成させる。
【0077】
硫化工程S3における硫化処理では、ニッケル・コバルト混合硫化物のスラリーをシックナー等の沈降分離装置を用いて沈降分離処理してニッケル・コバルト混合硫化物をシックナーの底部より分離回収する一方で、水溶液成分である硫化後液はオーバーフローさせて回収する。
【0078】
本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法では、以上のようなニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける各工程を経て得られる硫化後液を、スカンジウム回収処理の対象の元液原料となるスカンジウム含有酸性溶液として用いることができる。
【0079】
<2−2.イオン交換処理を経て得られたスカンジウム溶離液の利用>
上述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスから得られた硫化後液には、不純物元素として種々のものが含まれており、またその含有量も回収すべきスカンジウムよりもむしろ多い場合が一般である。このため、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにて得られた硫化後液をスカンジウムを回収するための元液原料として用いる場合には、その硫化後液に対してイオン交換等の処理を施し、不純物元素を大まかに分離することが好ましい。
【0080】
以下では、得られた硫化後液に対してイオン交換処理を施す場合を一例として挙げて説明する。本実施の形態においては、このように硫化後液に対してイオン交換処理を施すことによって、溶液中に含まれる種々の不純物元素を分離除去することができ、スカンジウムを濃縮させて、より高純度なスカンジウムを回収することができる。
【0081】
図3は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにより得られた硫化後液に対してイオン交換処理を行い、得られたスカンジウム溶離液を原料としてスカンジウムを回収する流れを示す工程図である。なお、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス(浸出工程S1〜硫化工程S3)においては、上述した流れを同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0082】
図3に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにより得られた硫化後液は、イオン交換工程S4における処理に移送されてイオン交換処理が行われる。イオン交換処理の態様(各工程)としては特に限定されないが、例えば図3に示すように、硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる吸着工程S41と、そのキレート樹脂に硫酸を接触させてキレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去するアルミニウム除去工程S42と、アルミニウム除去工程S42を経たキレート樹脂に硫酸を接触させてスカンジウム溶離液を得るスカンジウム溶離工程S43と、スカンジウム溶離工程S43を経たキレート樹脂に硫酸を接触させて吸着工程S41にてキレート樹脂に吸着したクロムを除去するクロム除去工程S44とを有するものを例示できる。以下、それぞれの工程の概要を説明する。
【0083】
[吸着工程]
吸着工程S41では、硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる。キレート樹脂の種類は特に限定されず、例えばイミノジ酢酸を官能基とする樹脂を用いることができる。
【0084】
[アルミニウム除去工程]
アルミニウム除去工程S42では、吸着工程S21でスカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸を接触させ、キレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去する。なお、アルミニウムを除去する際、pHを1以上2.5以下の範囲に維持することが好ましく、1.5以上2.0以下の範囲に維持することがより好ましい。
【0085】
[スカンジウム溶離工程]
スカンジウム溶離工程S43では、アルミニウム除去工程S22を経たキレート樹脂に0.3N以上3N未満の硫酸を接触させ、スカンジウム溶離液を得る。スカンジウム溶離液を得るに際して、溶離液に用いる硫酸の規定度を0.3N以上3N未満の範囲に維持することが好ましく、0.5N以上2N未満の範囲に維持することがより好ましい。
【0086】
[クロム除去工程]
クロム除去工程S44では、スカンジウム溶離工程S23を経たキレート樹脂に3N以上の硫酸を接触させ、キレート樹脂に吸着したクロムを除去する。クロムを除去する際に、溶離液に用いる硫酸の規定度が3Nを下回ると、クロムが適切にキレート樹脂から除去されないため、好ましくない。
【0087】
このようなイオン交換処理により、アルミニウムやクロム等の種々の不純物元素が除去されてスカンジウムが濃縮されたスカンジウム溶離液を得ることができる。なお、得られたスカンジウム溶離液に対して再び同様のイオン交換処理を繰り返すことで、スカンジウム溶離液の濃度を高めることができる。繰り返し回数としては、その回数が多いほど回収されるスカンジウムの濃度が高まるが、多く繰り返し過ぎても回収されるスカンジウムの濃度上昇の程度は小さくなるため、工業的には8回以下程度であることが好ましい。なお、このイオン交換処理におけるクロム除去工程S44を経て回収されたキレート樹脂は、再びイオン交換処理の樹脂として再利用することができる。
【0088】
<2−3.スカンジウム溶離液からのスカンジウムの回収>
本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法では、上述のようにしてイオン交換処理を経て得られたスカンジウム溶離液を原料とすることができる。すなわち、図3の工程図に示すように、そのスカンジウム含有酸性溶液であるスカンジウム溶離液から硫酸複塩沈殿を生成させて精製する硫酸複塩沈殿工程S6と、精製後のスカンジウム溶解液からスカンジウムを回収するスカンジウム回収工程S7とを経て、スカンジウムを酸化スカンジウムの形態として回収することができる。
【0089】
[硫酸複塩沈殿工程]
硫酸複塩沈殿工程S6は、図1に示す工程図における「硫酸複塩沈殿工程S11」と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略するが、硫酸複塩沈殿工程S6においても同様に、スカンジウム含有酸性溶液であるスカンジウム溶離液から硫酸複塩の沈殿物を生成させる沈殿工程S61と、硫酸複塩沈殿を溶解して得られた溶解液を中和する中和工程S62と、中和により得られた水酸化スカンジウムを再溶解する再溶解工程S63とを有する。
【0090】
このようにして、得られたスカンジウム溶離液からスカンジウムの硫酸複塩を生成させる処理を施すことによって、高価な薬剤や溶媒等を用いることなく、効率的にスカンジウムと不純物とを分離して、高純度なスカンジウムを回収することができる。
【0091】
[濃縮工程]
なお、硫酸複塩沈殿工程S6においてスカンジウム溶離液からスカンジウムの硫酸複塩を生成させるに先立ち、そのスカンジウム溶離液を濃縮させる処理を施すようにしてもよい(濃縮工程S5)。
【0092】
具体的に、濃縮工程S5では、上述したのと同様に、スカンジウム溶離液に含まれるスカンジウムを沈殿物とすることによって、スカンジウム以外の不純物と分離し、生成させたスカンジウムの沈殿物を硫酸、塩酸、硝酸等の酸で溶解してスカンジウム濃縮液を得る濃縮処理を施すようにすることができる。具体的には、例えば、水酸化中和、シュウ酸化の手法を挙げることができ、または水酸化中和とシュウ酸化との両方を行うようにすることができる。このように、濃縮処理を施すことによって、スカンジウム溶離液に含まれる不純物を大幅に除去することができ、その後の硫酸複塩沈殿工程S6における処理の手間等を節減してコストを削減することができる。なお、具体的な濃縮方法については、上述した説明と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0093】
[スカンジウム回収工程]
また、スカンジウム回収工程S7は、図1に示す工程図における「スカンジウム回収工程S12」と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略するが、スカンジウム回収工程S7においても同様に、硫酸複塩沈殿工程S6を経て得られた精製後のスカンジウム溶解液にシュウ酸を添加してシュウ酸スカンジウムの結晶を得るシュウ酸化工程S71と、得られたシュウ酸スカンジウムの結晶を焙焼して酸化スカンジウムを得る焙焼工程S72とを有する。なお、精製後のスカンジウム溶解液からスカンジウムを回収する方法としては、これに限られない。
【0094】
このようにして、硫酸複塩沈殿工程S6を経て得られた精製後のスカンジウム溶解液から、例えばシュウ酸スカンジウムの固体結晶を生成させ、得られたシュウ酸スカンジウムを焙焼に供して酸化スカンジウムとする処理を施すことにより、高純度なスカンジウムを酸化スカンジウムの形態として回収することができる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明の実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0096】
<実施例1>
[スカンジウムを含有する酸性溶液の生成]
ニッケル酸化鉱石を特許文献1に記載の方法等の公知の方法に基づき、硫酸を用いて加圧酸浸出し、得られた浸出液のpHを調整して不純物を除去した後、硫化剤を添加してニッケルを分離して硫化後液を得た。
【0097】
次に、得られた硫化後液に対してキレート樹脂を用いたイオン交換処理を施した。そして、このイオン交換処理によりスカンジウムを吸着させたキレート樹脂に、濃度1Nの硫酸溶液400リットルを(SVが40となる)毎分80リットルの流量で通液した。カラムから排出された溶離液は、スカンジウム溶離液として貯液しサンプリングして分析した。下記表1に、スカンジウム溶離液に含まれる各種元素の組成を分析した結果を示す。なお、Cr、Mn、Caは測定可能な下限以下であった。また、表1において「−」は未分析又は測定下限以下であったことを示す。
【0098】
【表1】
【0099】
[濃縮工程]
次に、表2に示した組成のスカンジウム溶離液に、水酸化ナトリウムを添加してpHを6〜7の範囲に維持して沈殿(水酸化スカンジウムの沈殿)を生成させた。続いて、その沈殿に硫酸を添加して溶解し、水酸化物溶解液(スカンジウム溶解液)を得た。下記表2に、得られた水酸化物溶解液に含まれる各種元素の組成を分析した結果を示す。なお、表2に示す分析値表示において、「−」は測定可能な下限以下であったことを示す。なお、Mg、Mn、Caは測定可能な下限未満であった。また、表2において「−」は未分析又は測定下限以下であったことを示す。
【0100】
【表2】
【0101】
[硫酸複塩沈殿工程]
次に、表3に示した組成のスカンジウム溶解液35mLを硫酸複塩沈殿工程における処理の始液とした。具体的に、このスカンジウム溶解液に、その液量に対して300g/L相当の硫酸ナトリウム約10gを常温にて添加して30分ほど攪拌した。攪拌により、スカンジウムの硫酸複塩が液中に沈殿してくるため、これを固液分離してスカンジウムの硫酸複塩沈殿を回収した後、付着した母液を分離するために300g/Lの硫酸ナトリウム溶液と混合して10分間洗浄し、その後に固液分離した。
【0102】
続いて、洗浄後のスカンジウム硫酸複塩沈殿の約12g(wet)を純水に混合した後に常温で攪拌し、全量が溶解するまで攪拌を継続した。ほぼ全量が溶解できたことを確認後、濾過して未溶解残渣とスカンジウム硫酸複塩溶解液とを固液分離した。なお、このときに添加した純水は100mlであった。
【0103】
続いて、得られたスカンジウム硫酸複塩溶解液に中和剤を添加してpHを6〜7に調整し、中和後のスラリーを固液分離することで、精製後の水酸化スカンジウムを得た。
【0104】
そして、得られた水酸化スカンジウムを硫酸で再溶解することによって、精製後のスカンジウム溶解液を得た。
【0105】
ここで、表3に、スカンジウムの硫酸複塩沈殿を純水で溶解させたスカンジウム硫酸複塩溶解液に含まれる各種元素の組成を分析した結果を示し、また表4に、精製後のスカンジウム溶解液に含まれる各種元素の組成を分析した結果を示す。なお、表3及び表4において「−」は未分析又は測定下限以下であったことを示す。
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
表3及び表4に示す結果から、硫酸複塩沈澱工程における処理を通じて、濃縮工程後のスカンジウム溶解液に含まれていたニッケル等の不純物元素の多くが分離除去されて低減したことが分かる。下記の表5に、その不純物元素の低減率を示す。なお、表5において「−」は未分析又は測定下限以下であったことを示す。
【0109】
【表5】
【0110】
[シュウ酸化工程]
次に、得られた精製後のスカンジウム溶解液(表4)に含まれるスカンジウム量に対して計算量で2倍当量となるシュウ酸・2水和物(三菱ガス化学株式会社製)の結晶を溶解し、60分攪拌混合して、シュウ酸スカンジウムの白色結晶性沈殿を生成させた。
【0111】
[焙焼工程]
シュウ酸化工程で得られたシュウ酸スカンジウムの結晶性沈殿を吸引濾過し、純水を用いて洗浄して、105℃で8時間乾燥させた。そして、そのシュウ酸スカンジウムを管状炉に入れて1000℃〜1100℃に維持して1時間かけて焙焼(焼成)し、酸化スカンジウム(Sc)を得た。
【0112】
焙焼により得られた酸化スカンジウムを、公知のICP分析法を用いて定量分析した。また、X線回折法を用いて、それぞれの存在形態を同定した。下記表6に、酸化スカンジウムに含まれる成分を酸化物に換算した分析値を示す。表6に示すように、スカンジウム以外の不純物、特にアルミニウム、ニッケル、ウラン、銅をほぼ完全に除去することができ、回収したスカンジウムの酸化スカンジウムとしての純度が99.9%を上回る極めて高純度な酸化スカンジウムを得ることができた。
【0113】
【表6】
【0114】
<比較例1>
実施例1と同じニッケル酸化鉱石を用いて同様の処理を施し、キレート溶解液から水酸化物の沈殿を生成させ、それを溶解させた溶解液(濃縮工程後の溶液)を得た。
【0115】
比較例1では、その溶解液に対して硫酸複塩沈殿工程における処理を実施しなかった。すなわち、溶解液をそのまま用いてシュウ酸化工程におけるシュウ酸化処理を施し、得られたシュウ酸スカンジウムの結晶性沈殿を焼成して、酸化スカンジウムを得た。
【0116】
下記表7に、酸化スカンジウムに含まれる成分を酸化物に換算した分析値を示す。表7に示すように、得られた酸化スカンジウムの品位は99.8%程度であり、実施例のように99.9%までの純度は得られなかった。
【0117】
【表7】
【0118】
表6に示す実施例の結果と表7に示す比較例の結果との比較から、実施例での方法によれば、不純物元素であるアルミニウム、鉄、ニッケル、マグネシウム、マンガン、カルシウムを有効に低減させることができ、これにより、純度が安定して99.9%を越える高純度な酸化スカンジウムを得ることができることが分かる。
図1
図2
図3