特許第6440476号(P6440476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6440476アルミニウム合金線材、アルミニウム合金撚線、被覆電線およびワイヤーハーネス、ならびにアルミニウム合金線材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6440476
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金線材、アルミニウム合金撚線、被覆電線およびワイヤーハーネス、ならびにアルミニウム合金線材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20181210BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20181210BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20181210BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20181210BHJP
   H01B 5/08 20060101ALI20181210BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20181210BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20181210BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20181210BHJP
   H01B 13/02 20060101ALI20181210BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20181210BHJP
【FI】
   C22C21/00 A
   C22F1/04 H
   C22F1/04 L
   H01B5/02 Z
   H01B1/02 B
   H01B5/08
   H01B7/02 Z
   H01B7/00 301
   H01B13/00 501D
   H01B13/02 Z
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 606
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630G
   !C22F1/00 630H
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 691A
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-247326(P2014-247326)
(22)【出願日】2014年12月5日
(65)【公開番号】特開2016-108612(P2016-108612A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】関谷 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祥
(72)【発明者】
【氏名】水戸瀬 賢悟
【審査官】 松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/052644(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/155817(WO,A1)
【文献】 特開2015−124409(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/008588(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00
C22F 1/04
H01B 1/02
H01B 5/02
H01B 5/08
H01B 7/00
H01B 7/02
H01B 13/00
H01B 13/02
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金線材であって、
Mg:0.10〜1.00質量%、Si:0.10〜1.00質量%、Fe:0.01〜1.40質量%、Ti:0〜0.100質量%、B:0〜0.030質量%、Cu:0〜1.00質量%、Ag:0〜0.50質量%、Au:0〜0.50質量%、Mn:0〜1.00質量%、Cr:0〜1.00質量%、Zr:0〜0.50質量%、Hf:0〜0.50質量%、V:0〜0.50質量%、Sc:0〜0.50質量%、Sn:0〜0.50質量%、Co:0〜0.50質量%、Ni:0〜0.50質量%、残部:Alおよび不可避不純物である組成を有し、
前記アルミニウム合金線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率が65%超であり、前記アルミニウム合金線材中に存在する、円相当径換算にて直径0.5〜5.0μmのMg−Si系化合物の分散密度が3×10−3個/μm以下であることを特徴とするアルミニウム合金線材。
【請求項2】
前記化学組成が、Ti:0.001〜0.100質量%およびB:0.001〜0.030質量%からなる群から選択された1種または2種を含有する、請求項1に記載のアルミニウム合金線材。
【請求項3】
前記化学組成が、Cu:0.01〜1.00質量%、Ag:0.01〜0.50質量%、Au:0.01〜0.50質量%、Mn:0.01〜1.00質量%、Cr:0.01〜1.00質量%、Zr:0.01〜0.50質量%、Hf:0.01〜0.50質量%、V:0.01〜0.50質量%、Sc:0.01〜0.50質量%、Sn:0.01〜0.50質量%、Co:0.01〜0.50質量%およびNi:0.01〜0.50質量%からなる群から選択された1種または2種以上を含有する、請求項1または2に記載のアルミニウム合金線材。
【請求項4】
ひずみ振幅を±0.09%として両振屈曲疲労試験を行ったときの繰返破断回数が200万回以上である、請求項1、2または3に記載のアルミニウム合金線材。
【請求項5】
表層に存在する酸化層の厚さが100nm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線材。
【請求項6】
直径が0.10〜0.50mmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線材を複数本撚り合わせて得られるアルミニウム合金撚線。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線または請求項7に記載のアルミニウム合金撚線の外周に被覆層を有する被覆電線。
【請求項9】
請求項8に記載の被覆電線と、該被覆電線の、前記被覆層を除去した端部に装着された端子とを具えるワイヤーハーネス。
【請求項10】
溶解、鋳造後に、熱間加工を経て荒引線を形成し、その後、伸線加工をする中で少なくとも一回の結晶方位形成処理を行い、次いで、溶体化処理および時効熱処理の各工程を順次行うことを含むアルミニウム合金線材の製造方法であって、結晶方位形成処理は、150℃以上250℃未満の範囲内の所定温度まで加熱する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気配線体の線材として用いられるアルミニウム合金線材、アルミニウム合金撚線、被覆電線およびワイヤーハーネス、ならびにアルミニウム合金線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、電車、航空機等の移動体の電気配線体、または産業用ロボットの電気配線体として、銅又は銅合金の線材を含む電線に、銅又は銅合金(例えば、黄銅)製の端子(コネクタ)を装着した、いわゆるワイヤーハーネスと呼ばれる部材が用いられてきた。昨今では、自動車の高性能化や高機能化が急速に進められており、これに伴い、車載される各種の電気機器、制御機器などの配設数が増加するとともに、これら機器に使用される電気配線体の配設数も増加する傾向にある。また、その一方で、環境対応のために自動車等の移動体の燃費を向上させるため、移動体の軽量化が強く望まれている。
【0003】
こうした移動体の軽量化を達成するための手段の一つとして、例えば電気配線体の線材を、従来から用いられている銅又は銅合金に代えて、より軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金にする検討が進められている。アルミニウムの比重は銅の比重の約1/3、アルミニウムの導電率は銅の導電率の約2/3(純銅を100%IACSの基準とした場合、純アルミニウムは約66%IACS)であり、アルミニウムの導体に、銅の導体と同じ電流を流すためには、アルミニウムの導体の断面積を、銅の導体の断面積の約1.5倍と大きくする必要があるが、そのように断面積を大きくしたアルミニウムの導体を用いたとしても、アルミニウムの導体の質量は、純銅の導体の質量の半分程度であることから、アルミニウムの導体を使用することは、軽量化の観点から有利である。なお、上記の%IACSとは、万国標準軟銅(International Annealed Copper Standard)の抵抗率1.7241×10−8Ωmを100%IACSとした場合の導電率を表したものである。
【0004】
しかし、送電線用アルミニウム合金線材(JIS規格によるA1060やA1070)を代表とする純アルミニウム線材では、一般に屈曲特性などが劣ることが知られている。そのため、例えば、ドア部などの屈曲部で負荷される繰り返し応力などに耐えることができない。このような課題を解決する手法としては、本出願人が提案した特許文献1に開示されているが、近年では環境対応のために自動車等の移動体の燃費向上のため移動体の軽量化が細部にまで要求されており、より細径サイズ、たとえば断面積が0.5mm(0.5sq相当)以下の細径電線へのアルミ線の適用が望まれている。細径電線においても、例えば、ワイヤーハーネスなどを車体に組付ける作業において作業者が電線を不意に引っ張った際にも断線しないことが要求されることから、より強度の高い電線が望まれている。従来レベルの導電率もまた要求される。
【0005】
そのような特性を有するためには、種々の添加元素を加えて合金化することが一つの解決方法であるが、同時に、アルミニウム中への添加元素の固溶現象により導電率の低下を招くことから添加元素を限定ないしは選択して添加する必要があった。その代表例として例えば、本出願人が提案した特許文献2または特許文献3に開示したような6000系アルミニウム合金(Al−Mg−Si系合金)線材があり、溶体化処理及び時効処理を施すことにより高強度化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5193375号公報
【特許文献2】特許第5607854号公報
【特許文献3】特許第5607855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、開発の最先端では、エンジン部付近のような厳しい使用環境下でも適用できるアルミ電線を開発することがさらに要求されるようになっている。これまでのアルミ電線は、エンジン部付近にて負荷される振動による疲労に耐えることができず断線の恐れがあるため、これまでエンジン部付近には使われていなかった。よって、従来から求められていた導電率および耐屈曲疲労特性を満足することに加えて、より高い引張強度、および優れた耐振動性を具備するアルミニウム電線を開発することが求められている。
【0008】
これに対し、特許文献1〜3に記載の従来のアルミニウム合金線材では、上記のようなより一層厳しい要求には十分応えることができなかった。
【0009】
本発明の目的は、従来から求められていた耐屈曲疲労特性に加えて、高い引張強度および優れた耐振動性も具備する、電気配線体の線材として用いられるアルミニウム合金線材、アルミニウム合金撚線、被覆電線およびワイヤーハーネス、ならびにアルミニウム合金線材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは種々検討を重ね、アルミニウム合金線材を製造する際の熱処理条件を制御し、結晶方位と析出組織を制御することによって、高い耐屈曲疲労性を保ちつつ、高強度および優れた耐振動性を有するアルミニウム合金線材を製造しうることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0011】
より具体的には、本発明者らの検討によれば、特許文献2は中間熱処理温度が300〜480℃と高く、かつ、溶体化熱処理は添加元素をアルミ中に溶け込ませる熱処理であるため高温で処理する必要があり、そのようにすると結晶粒成長が進行し、アルミニウム合金線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域を多く得ることが困難であることが分かった。また特許文献3は中間熱処理温度が溶体化温度帯の480〜620℃であるため、中間熱処理にて線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域が著しく減少してしまい、第二熱処理後の線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域も減少してしまった。そのため耐振動性が低下し、エンジン部付近のような厳しい使用環境下に使用できないことが問題であることが分かった。そこで本発明者らは、これらの新たな知見をもとにさらに検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)アルミニウム合金線材であって、Mg:0.10〜1.00質量%、Si:0.10〜1.00質量%、Fe:0.01〜1.40質量%、Ti:0〜0.100質量%、B:0〜0.030質量%、Cu:0〜1.00質量%、Ag:0〜0.50質量%、Au:0〜0.50質量%、Mn:0〜1.00質量%、Cr:0〜1.00質量%、Zr:0〜0.50質量%、Hf:0〜0.50質量%、V:0〜0.50質量%、Sc:0〜0.50質量%、Sn:0〜0.50質量%、Co:0〜0.50質量%、Ni:0〜0.50質量%、残部:Alおよび不可避不純物である組成を有し、前記アルミニウム合金線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率が65%超であり、前記アルミニウム合金線材中に存在する、円相当径換算にて直径0.5〜5.0μmのMg−Si系化合物の分散密度が3×10−3個/μm以下であることを特徴とするアルミニウム合金線材。なお、上記化学組成に含有範囲が挙げられている元素のうち、含有範囲の下限値が「0質量%」と記載されている元素はいずれも、必要に応じて任意に添加される選択添加元素を意味する。すなわち所定の添加元素が「0質量%」の場合、その添加元素が含まれないことを意味する。
【0013】
(2)前記化学組成が、Ti:0.001〜0.100質量%およびB:0.001〜0.030質量%からなる群から選択された1種または2種を含有する、上記(1)に記載のアルミニウム合金線材。
【0014】
(3)前記化学組成が、Cu:0.01〜1.00質量%、Ag:0.01〜0.50質量%、Au:0.01〜0.50質量%、Mn:0.01〜1.00質量%、Cr:0.01〜1.00質量%、Zr:0.01〜0.50質量%、Hf:0.01〜0.50質量%、V:0.01〜0.50質量%、Sc:0.01〜0.50質量%、Sn:0.01〜0.50質量%、Co:0.01〜0.50質量%およびNi:0.01〜0.50質量%からなる群から選択された1種または2種以上を含有する、上記(1)または(2)に記載のアルミニウム合金線材。
【0015】
(4)ひずみ振幅を±0.09%として両振屈曲疲労試験を行っときの繰返破断回数が200万回以上である、上記(1)、(2)または(3)に記載のアルミニウム合金線材。
【0016】
(5)表層に存在する酸化層の厚さが100nm以下である、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線材。
【0017】
(6)直径が0.10〜0.50mmである、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線材。
【0018】
(7)上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線材を複数本撚り合わせて得られるアルミニウム合金撚線。
【0019】
(8)上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線材または上記(7)に記載のアルミニウム合金撚線の外周に被覆層を有する被覆電線。
【0020】
(9)上記(8)に記載の被覆電線と、該被覆電線の、前記被覆層を除去した端部に装着された端子とを具えるワイヤーハーネス。
【0021】
(10)溶解、鋳造後に、熱間加工を経て荒引線を形成し、その後、伸線加工をする中で少なくとも一回の結晶方位形成処理を行い、次いで、溶体化処理および時効熱処理の各工程を順次行うことを含むアルミニウム合金線材の製造方法であって、結晶方位形成処理は、150℃以上250℃未満の範囲内の所定温度まで加熱する、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線材の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、上記の構成により、高強度により細径線にも使用可能であり、常時生じるエンジン振動に耐久可能な、断線しにくい電気配線体として用いられるアルミニウム合金線材、アルミニウム合金撚線、被覆電線およびワイヤーハーネス、ならびにアルミニウム合金線材の製造方法を提供することが可能になる。本発明は、特に移動体に搭載されるバッテリーケーブル、ハーネスあるいはモータ用導線、産業用ロボットの配線体として有用である。さらに、本発明のアルミニウム合金線材は、従来から求められていた耐屈曲疲労特性にも優れるため、ドア部などの屈曲部位にも使用可能であり、引張強度が高いことから従来の電線よりも電線径を細くすることも可能であり、また、高レベルの耐振動性が求められるエンジン部付近などにも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係るアルミニウム合金線材の長手方向と、結晶の<111>方向とのなす角を説明するための模式図である。
図2】実施例で行った繰り返し破断回数を測定する試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態(以下、単に「本実施形態」という。)のアルミニウム合金線材は、Mg:0.10〜1.00質量%、Si:0.10〜1.00質量%、Fe:0.01〜1.40質量%、Ti:0〜0.100質量%、B:0〜0.030質量%、Cu:0〜1.00質量%、Ag:0〜0.50質量%、Au:0〜0.50質量%、Mn:0〜1.00質量%、Cr:0〜1.00質量%、Zr:0〜0.50質量%、Hf:0〜0.50質量%、V:0〜0.50質量%、Sc:0〜0.50質量%、Sn:0〜0.50質量%、Co:0〜0.50質量%、Ni:0〜0.50質量%、残部:Alおよび不可避不純物である組成を有している。また、本実施形態のアルミニウム合金線材は、長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率が65%超であり、アルミニウム合金線材中に存在する、円相当径換算にて直径0.5〜5μmのMg−Si系化合物の分散密度が3×10−3個/μm以下である。
【0025】
以下に、本実施形態のアルミニウム合金線材の化学組成、結晶方位および析出組織等の限定理由を示す。
【0026】
(1)化学組成
<Mg:0.10〜1.00質量%>
Mg(マグネシウム)は、アルミニウム母材中に固溶して強化する作用を有すると共に、その一部はSiと化合して析出物を形成して引張強度を向上させる作用を有する元素である。しかしながら、Mg含有量が0.10質量%未満だと、上記作用効果が不十分であり、また、Mg含有量が1.00質量%を超えると、導電率が低下する。したがって、Mg含有量は0.10〜1.00質量%とする。なお、Mg含有量は、高強度を重視する場合には0.50〜1.00質量%にすることが好ましく、また、導電率を重視する場合には0.10〜0.50質量%とすることが好ましく、このような観点から総合的に0.30〜0.70質量%が好ましい。
【0027】
<Si:0.10〜1.00質量%>
Si(ケイ素)は、Mgと化合して析出物を形成して引張強度を向上させる作用を有する元素である。Si含有量が0.10質量%未満だと、上記作用効果が不十分であり、また、Si含有量が1.00質量%を超えると、導電率が低下する。したがって、Si含有量は0.10〜1.00質量%とする。なお、Si含有量は、高強度を重視する場合には0.50〜1.00質量%にすることが好ましく、また、導電率を重視する場合には0.10〜0.50質量%とすることが好ましく、このような観点から総合的に0.30〜0.70質量%が好ましい。
【0028】
<Fe:0.01〜1.40質量%>
Fe(鉄)は、主にAl−Fe系の金属間化合物を形成することによって結晶粒の微細化に寄与すると共に、引張強度を向上させる元素である。Feは、Al中に655℃で0.05質量%しか固溶できず、室温では更に少ないため、Al中に固溶できない残りのFeは、Al−Fe、Al−Fe−Si、Al−Fe−Si−Mgなどの金属間化合物として晶出又は析出する。この金属間化合物は、結晶粒の微細化に寄与すると共に、引張強度を向上させる。また、Feは、Al中に固溶したFeによっても引張強度を向上させる作用を有する。Fe含有量が0.01質量%未満だと、これらの作用効果が不十分であり、また、Fe含有量が1.40質量%超えだと、晶出物または析出物の粗大化により伸線加工性が悪くなり、導電率も低下する。したがって、Fe含有量は0.01〜1.40質量%とし、好ましくは0.10〜0.70質量%、更に好ましくは0.10〜0.45質量%とする。
【0029】
本実施形態のアルミニウム合金線材は、Mg、SiおよびFeを必須の含有成分とするが、必要に応じて、さらに、TiおよびBからなる群から選択された1種または2種、Cu、Ag、Au、Mn、Cr、Zr、Hf、V、Sc、Sn、CoおよびNiの1種または2種以上を含有させることができる。
【0030】
<Ti:0.001〜0.100質量%>
Ti(チタン)は、溶解鋳造時の鋳塊の組織を微細化する作用を有する元素である。鋳塊の組織が粗大であると、鋳造において鋳塊割れや線材加工工程において断線が発生して工業的に望ましくない。Ti含有量が0.001質量%未満であると、上記作用効果を十分に発揮することができず、また、Ti含有量が0.100質量%超えだと導電率が低下する傾向があるからである。したがって、Ti含有量は0.001〜0.100質量%とし、好ましくは0.005〜0.050質量%、より好ましくは0.005〜0.030質量%とする。
【0031】
<B:0.001〜0.030質量%>
B(ホウ素)は、Tiと同様、溶解鋳造時の鋳塊の組織を微細化する作用を有する元素である。鋳塊の組織が粗大であると、鋳造において鋳塊割れや線材加工工程において断線が発生しやすくなるため工業的に望ましくない。B含有量が0.001質量%未満であると、上記作用効果を十分に発揮することができず、また、B含有量が0.030質量%超えだと導電率が低下する傾向がある。したがって、B含有量は0.001〜0.030質量%とし、好ましくは0.001〜0.020質量%、より好ましくは0.001〜0.010質量%とする。
【0032】
<Cu:0.01〜1.00質量%>、<Ag:0.01〜0.50質量%>、<Au:0.01〜0.50質量%>、<Mn:0.01〜1.00質量%>、<Cr:0.01〜1.00質量%>および<Zr:0.01〜0.50質量%>、<Hf:0.01〜0.50質量%>、<V:0.01〜0.50質量%>、<Sc:0.01〜0.50質量%>、<Sn:0.01〜0.50質量%>、<Co:0.01〜0.50質量%>および<Ni:0.01〜0.50質量%>の1種または2種以上を含有させること
Cu(銅)、Ag(銀)、Au(金)、Mn(マンガン)、Cr(クロム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、V(バナジウム)、Sc(スカンジウム)、Sn(錫)、Co(コバルト)およびNi(ニッケル)は、いずれも結晶粒を微細化する作用を有する元素であり、さらに、Cu、AgおよびAuは、粒界に析出することで粒界強度を高める作用も有する元素であって、これらの元素の少なくとも1種を0.01質量%以上含有していれば、上述した作用効果が得られ、引張強度および伸びを向上させることができる。一方、Cu、Ag、Au、Mn、Cr、Zr、Hf、V、Sc、Sn、CoおよびNiの含有量のいずれかが、それぞれ上記の上限値を超えると、該元素を含有する化合物が粗大になり、伸線加工性を劣化させるため断線が生じやすく、また、導電率が低下する傾向がある。したがって、Cu、Ag、Au、Mn、Cr、Zr、Hf、V、Sc、Sn、CoおよびNiの含有量の範囲は、それぞれ上記の範囲とする。
【0033】
また、Fe、Ti、B、Cu、Ag、Au、Mn、Cr、Zr、Hf、V、Sc、Sn、CoおよびNiは、多く含有するほど導電率が低下する傾向と伸線加工性が劣化する傾向がある。従って、これらの元素の含有量の合計は、2.00質量%以下とするのが好ましい。本発明のアルミニウム合金線材ではFeは必須元素なので、Fe、Ti、B、Cu、Ag、Au、Mn、Cr、Zr、Hf、V、Sc、Sn、CoおよびNiの含有量の合計は0.01〜2.0質量%とする。これらの元素の含有量は、0.05〜1.0質量%とするのが更に好ましい。ただし、これらの元素を単独で添加する場合は、含有量が多いほど該元素を含有する化合物が粗大になる傾向にあり、伸線加工性を劣化させ、断線が生じやすくなることから、それぞれの元素において上記の規定の含有範囲とする。
【0034】
<残部:Alおよび不可避不純物>
上述した成分以外の残部はAl(アルミニウム)および不可避不純物である。ここでいう不可避不純物は、製造工程上、不可避的に含まれうる含有レベルの不純物を意味する。不可避不純物は、含有量によっては導電率を低下させる要因にもなりうるため、導電率の低下を加味して不可避不純物の含有量をある程度抑制することが好ましい。不可避不純物として挙げられる成分としては、例えば、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)、Bi(ビスマス)、Pb(鉛)などが挙げられる。
【0035】
(2)アルミニウム合金線材の結晶方位
本発明は、上記化学組成を有することに加えて、アルミニウム合金線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率が65%超であることが必要である。
【0036】
本実施形態では、アルミニウム合金線材の長手方向を試料軸として結晶方位を規定する。ここで「結晶方位」とは、試料軸に対して結晶軸がどの方向を向いているのかを表すものである。本実施形態のアルミニウム合金線材は、線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率が65%超である。このような再結晶集合組織とすることにより、高い引張強度と優れた耐振動性を実現できる。本発明者らの検討では、交差すべりのしやすさが耐振動性に影響を与えており、交差すべりのしにくい、線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域が多く出現している方が良いことが分かった。ここで「交差すべり」とは、あるすべり面から別のすべり面に乗り変わるすべりのことである。ここで線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率が、65%以下であると引張強度は低くなり、耐振動性も劣る。
【0037】
図1は、アルミニウム合金線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角を説明するための模式図である。図1に示すように、アルミニウム合金線材15の長手方向11と結晶14の<111>方向12とのなす角度13が、本実施形態における線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角である。なお、本実施形態の線材は、結晶構造が面心立方構造であるアルミニウムを主成分とする合金のため、立方晶を考えた。
【0038】
また、線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域とは、具体的な結晶方向で表せば、<111>方向の他、<121>方向、<122>方向などが長手方向に配向した結晶を含む。
【0039】
(3)アルミニウム合金線材中の析出組織
本発明は、上記化学組成および結晶方位の限定に加えて、さらにアルミニウム合金線材中に存在する、円相当径換算にて直径0.5〜5μmのMg−Si系化合物の分散密度が3×10−3個/μm以下であることが必要である。アルミニウム合金線材中に円相当径換算にて直径0.5〜5μmのMg−Si系化合物が、3×10−3個/μmの分散密度より多く存在すると、アルミニウム中にMgまたはSiが溶け込んで強化する固溶強化の効果を十分に発揮できないばかりか、後の時効熱処理にて析出強化に効果的なサイズのMg、Siなどの集合体または析出が十分に得られず、引張強度および耐振動性が低くなる。よって、アルミニウム合金線材中に存在する、円相当径換算にて直径0.5〜5μmのMg−Si系化合物の分散密度は3×10−3個/μm以下、好ましくは1.5×10−3個/μm以下とする。なお、「円相当径換算にて直径」とは、対象となるMg−Si系化合物の実際の面積と同じ面積となる真円を考えたときの、該真円の直径を意味する。
【0040】
また、本実施形態では、更にアルミニウム線材の表層に存在する酸化層の厚さが100nm以下であることが好ましい。前記酸化層は主にMg酸化層で形成されており、酸化層の厚さが100nm超えであると、アルミニウム中に溶け込んでいたMg固溶量が少なくなり、引張強度が低くなる傾向がある。また、表層に存在する酸化層が破断の起点となり、同様に引張強度が低下する傾向がある。よって、アルミニウム合金線材の表層に存在する酸化層の厚さは100nm以下であることが好ましく、より好ましくは80nm以下とする。
【0041】
このようなアルミニウム合金線材を得るには、アルミ合金線材の製造条件などを以下のように制御することにより実現することができる。以下、本実施形態のアルミニウム合金線の好適な製造方法を説明する。
【0042】
(本実アルミニウム合金線材の製造方法)
本発明のアルミニウム合金線材は、溶解、鋳造後に、熱間加工を経て荒引線を形成し、その後、伸線加工をする中で少なくとも一回の結晶方位形成処理を行い、次いで、溶体化処理および時効熱処理の各工程を順次行うことを含むアルミニウム合金線材の製造方法であって、結晶方位形成処理は、150℃以上250℃未満の範囲内の所定温度まで加熱することによって行なう製造方法によって製造することができる。
【0043】
本実施形態のアルミニウム合金線材の製造方法は、具体的な例としては、[1]溶解、[2]鋳造、[3]熱間加工(溝ロール加工など)、[4]第1伸線加工、[5]第1熱処理(結晶方位形成処理)、[6]第2伸線加工、[7]第2熱処理(溶体化熱処理)、および[8]第3熱処理(時効熱処理)の各工程を順次行うことを含む製造方法が挙げられる。なお、溶体化熱処理前後、または時効熱処理の後に、撚り線とする工程や電線に樹脂被覆を行う工程を設けてもよい。以下、[1]〜[8]の工程について説明する。
【0044】
[1]溶解
溶解は、上述したアルミニウム合金組成になるように各成分の分量を調整して溶製する。
【0045】
[2]鋳造および[3]熱間加工(溝ロール加工など)
次いで、鋳造輪とベルトを組み合わせたプロペルチ式の連続鋳造圧延機を用いて、溶湯を水冷した鋳型で鋳造し、連続して圧延を行い、例えば直径5〜13mmφの適宜の太さの棒材とする。このときの鋳造時の冷却速度は、Fe系晶出物の粗大化の防止とFeの強制固溶による導電率低下の防止の観点から、好ましくは1〜20℃/sであるが、これに制限されるものではない。鋳造および熱間圧延は、ビレット鋳造および押出法などにより行ってもよい。
【0046】
[4]第1伸線加工
次いで、例えば直径5〜12.5mmφの適宜の太さの棒材とし、これを冷間で伸線加工する。伸線加工前に表面の皮むきを行う場合もあり表面の清浄化がなされるが、行わなくてもよい。
【0047】
[5]第1熱処理(結晶方位形成処理)
冷間伸線した加工材に結晶方位形成処理を施す。従来はこの段階で、上述した中間熱処理を行っていたが、これは、伸線加工により硬くなった加工材の柔軟性を取り戻すために再結晶させ軟化させる熱処理として、伸線の中間的工程で実施するものであった。これに対し本発明の結晶方位形成処理は、従来の中間熱処理とは全く異なる考え方に基づいて行なうものであって、所望の結晶方位を形成するための処理を意味する。上記冷間伸線した加工材において中間熱処理した場合、伸線加工にて多く得られる、アルミニウム合金線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率が低下してしまい、その後の溶体化熱処理工程にてその傾向を維持し、線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率が低下してしまい、耐振動性が低くなる傾向がある。ただ、本発明においても、その後の伸線において加工限界による断線を生じさせないためにもひずみの除去を行う必要があり、回復現象を利用することによってその後の伸線工程でも断線しない条件を見出した。結晶方位形成処理は、具体的には、150℃以上250℃未満の範囲内の所定温度まで加熱する熱処理である。結晶方位形成処理の加熱時の所定温度が250℃以上であると、従来の熱処理と同様に再結晶が進行し、線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率が減少して耐振動性が低下し、また、所定温度が150℃よりも低いと、回復がなされずにその後の伸線工程で断線が生じてしまう恐れがある。なお、加熱温度が300℃より低いと、化合物粒子があまり成長せず、溶体化熱処理にて結晶粒成長の抑制が不十分となる傾向にあるが、本発明の場合、溶体化熱処理を500℃以上580℃未満の温度範囲で行なえば粗大な結晶粒成長が抑制でき、高い引張強度と、優れた耐振動性の双方を満足させることができる。
【0048】
結晶方位形成処理を行う方法としては、例えばバッチ式熱処理でも、高周波加熱、通電加熱、走間加熱などの連続熱処理でもよい。
【0049】
高周波加熱や通電加熱を用いた場合、通常は線材に電流を流し続ける構造になっているため、時間の経過と共に線材温度が上昇する。そのため、電流を流し続けると線材が溶融してしまう可能性があるので、適正な時間範囲にて熱処理を行う必要がある。走間加熱を用いた場合においても、短時間の焼鈍であるため、通常、走間焼鈍炉の温度は線材温度より高く設定される。長時間の熱処理では線材が溶融してしまう可能性があるため、適正な時間範囲にて熱処理を行う必要がある。以下、各方法による熱処理を説明する。
【0050】
高周波加熱による連続熱処理は、高周波による磁場中を線材が連続的に通過することで、誘導電流によって線材自体から発生するジュール熱により熱処理するものである。急熱、急冷の工程を含み、線材温度と熱処理時間で制御し線材を熱処理することができる。冷却は、急熱後、水中又は窒素ガス雰囲気中に線材を連続的に通過させることによって行う。この熱処理時間は0.01〜2sであることが好ましく、より好ましくは0.05〜1s、さらにより好ましくは0.05〜0.5sである。
【0051】
連続通電熱処理は、2つの電極輪を連続的に通過する線材に電流を流すことによって線材自体から発生するジュール熱により熱処理するものである。急熱、急冷の工程を含み、線材温度と熱処理時間で制御し線材を熱処理することができる。冷却は、急熱後、水中、大気中又は窒素ガス雰囲気中に線材を連続的に通過させることによって行う。この熱処理時間は0.01〜2sであることが好ましく、より好ましくは0.05〜1s、さらにより好ましくは0.05〜0.5sである。
【0052】
連続走間熱処理は、高温に保持した熱処理炉中を線材が連続的に通過して熱処理させるものである。急熱、急冷の工程を含み、熱処理炉内温度と熱処理時間で制御し線材を熱処理することができる。冷却は、急熱後、水中、大気中又は窒素ガス雰囲気中に線材を連続的に通過させることによって行う。この熱処理時間は0.5〜120sであることが好ましく、より好ましくは0.5〜60s、さらにより好ましくは0.5〜20sである。
【0053】
バッチ式熱処理は、焼鈍炉の中に線材を投入し、所定の設定温度、設定時間にて熱処理される方法である。線材自体が所定の温度にて数10秒程度加熱されればよいが、工業使用上、大量の線材を投入することになるため、線材の熱処理ムラを抑制するために10分以上は所定温度に保持した方が好ましい。熱処理時間は、生産性の観点から、5時間以内とすることが好ましく、より好ましくは3時間以内である。
【0054】
線材温度又は熱処理時間の一方又は両方が上記で定義される条件より低い場合は、その後の伸線工程にて断線が生じてしまう恐れがある。線材温度が上記で定義される条件より高い場合は、従来の熱処理と同様に再結晶が進行し、線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率が減少して耐振動性が低下する。このため、結晶方位形成処理での加熱は、150℃以上250℃未満の範囲内で行なう。
【0055】
[6]第2伸線加工
上記結晶方位形成処理の後、さらに冷間で伸線加工を施す。
【0056】
[7]第2熱処理(溶体化熱処理)
冷間伸線した加工材に溶体化熱処理を行う。溶体化熱処理は、Mg及びSiなどの化合物をアルミニウム中に溶け込ませる工程である。溶体化熱処理は、結晶方位形成処理と同様、バッチ式焼鈍で行っても、また、高周波加熱、通電加熱、走間加熱などの連続焼鈍で行ってもよい。ただ、アルミニウム線材表面における酸化があまり進行しないように、1時間以内の熱処理が好ましい。
【0057】
溶体化熱処理の加熱温度は、500℃以上580℃未満とすることが好ましい。溶体化熱処理の加熱温度が500℃未満だと、溶体化が不完全となりアルミニウム線材中に存在する円相当径換算にて直径0.5〜5μmのMg−Si系化合物の分散密度が3×10−3個/μm以下とならず固溶強化の効果を十分に発揮できないばかりか、後の時効熱処理にて析出強化に効果的なサイズのMg、Siなどの集合体または析出が十分に得られず、引張強度および耐振動性が低下する。また、前記加熱温度が580℃以上であると、粗大結晶粒を形成し、引張強度、耐振動性が劣る。さらに、溶体化熱処理の加熱温度は、より好ましくは500〜560℃である。
【0058】
また、溶体化熱処理における冷却は、少なくとも200℃の温度までは10℃/s以上の平均冷却速度で行うことが好ましい。前記平均冷却速度が10℃/s未満であると、冷却中にMgSiを始めとしたMg、Siなどの析出物が生じてしまい、その後の時効熱処理工程での引張強度の向上効果が制限され、十分な引張強度が得られない傾向があるからである。なお、前記平均冷却速度は、より好ましくは15℃/s以上であり、更に好ましくは20℃/s以上である。
【0059】
さらに、溶体化熱処理における冷却において、少なくとも250℃の温度までは10℃/s以上の平均冷却速度で行うと、Mg及びSiの析出抑制によるその後の時効熱処理工程での引張強度向上効果を発揮する上で好ましい。Mg及びSiの析出温度帯のピークは250〜400℃に位置するため、冷却中にてMg及びSiの析出を抑制するためには少なくとも該温度にて冷却速度を速くすることが好ましい。
【0060】
溶体化熱処理の室温(20℃)から500℃までの昇温速度は、500℃/秒以下が好ましい。昇温速度が500℃/秒超えの場合、線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率が減少して耐屈曲疲労特性ならびに耐振動性が低下する傾向にある。なお、前記昇温速度は、高い生産性を維持するため、100℃/時間以上とすることが好ましい。
【0061】
[8]第3熱処理(時効熱処理)
次いで、時効熱処理を施す。時効熱処理は、MgおよびSiの集合体または析出物を出現させるために行う。時効熱処理における加熱温度は、好ましくは100〜250℃である。前記加熱温度が100℃未満であると、MgおよびSiの集合体または析出物を十分に出現させることができず、引張強度および導電率が不足しがちである。また、前記加熱温度が250℃よりも高いと、MgおよびSiの析出物のサイズが大きくなるため、アルミニウム合金線材中に存在する円相当径換算にて直径0.5〜5μmのMg−Si系化合物の分散密度が3×10−3個/μmよりも高くなって、析出強化に効果的なMg、Siなどの集合体または析出物が十分に得られない結果、導電率は上昇するものの、引張強度および耐振動性が低下する傾向にある。このため、時効熱処理における加熱温度は、好ましくは100〜250℃とし、より好ましくは100〜200℃とする。なお、加熱時間は、温度によって最適な時間が変化する。低温では長時間、高温では短時間の加熱が引張強度を向上させる上で好ましい。生産性を考慮すると短時間が良く、好ましくは15時間以下、更に好ましくは10時間以下である。なお、時効熱処理における冷却は、特性のバラつきを防止するために、可能な限り冷却速度を速くすることが好ましい。しかし、製造工程上、速く冷却できない場合は、冷却中にMgおよびSiの析出物量の変化が起こることも考慮に入れて時効条件を適宜設定することができる。
【0062】
本実施形態のアルミニウム合金線材は、素線径を、特に制限はなく用途に応じて適宜定めることができるが、細物線の場合は0.10〜0.50mmφ、中細物線の場合は0.50〜1.5mmφが好ましい。本実施形態のアルミニウム合金線材は、アルミニウム合金線として、単線で細くして使用できることが利点の一つであるが、複数本束ねて撚り合わせて得られるアルミニウム合金撚線として使用することもでき、上述した本実施形態の製造方法を構成する上記[1]〜[8]の工程のうち、[1]〜[6]の各工程を順次行ったアルミニウム合金線を複数本に束ねて撚り合わせた後に、[7]第2熱処理(溶体化熱処理)および[8]第3熱処理(時効熱処理)の工程を行ってもよい。
【0063】
また、本実施形態では追加の工程として連続鋳造圧延後に、従来法で行われているような均質化熱処理を行なうことも可能である。均質化熱処理は、添加元素の析出物(主にMg−Si系化合物)を均一に分散させることができるため、その後の結晶方位形成処理にて均一な結晶組織が得られやすくなる結果、引張強度、曲げ性がより安定して得られる。均質化熱処理は、加熱温度を450℃〜600℃、加熱時間を1〜10時間にて行なうことが好ましく、より好ましくは500〜600℃である。また、均質化加熱処理における冷却は、0.1〜10℃/分の平均冷却速度で徐冷することが、均一な化合物が得られやすくなる点で好ましい。
【0064】
本実施形態のアルミニウム合金線材は、アルミニウム合金線として、または複数本のアルミニウム合金線を撚り合わせて得られるアルミニウム合金撚線として使用することができるとともに、さらに、アルミニウム合金線またはアルミニウム合金撚線の外周に被覆層を有する被覆電線として使用することもでき、加えて、被覆電線と、この被覆電線の、被覆層を除去した端部に装着された端子とを備えるワイヤーハーネス(組電線)として使用することもまた可能である。また、本実施形態のアルミニウム合金線材は、ひずみ振幅を±0.09%として両振屈曲疲労試験を行っときの繰返破断回数が200万回以上であるように構成することが好適である。
【実施例】
【0065】
本発明を以下の実施例に基づき詳細に説明する。なお本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例、比較例)
Mg、Si、Fe及びAlと、選択的に添加するTi、B、Cu、Ag、Au、Mn、Cr、Zr、Hf、V、Sc、Sn、Co、Niを、表1に示す含有量(質量%)になるようにプロペルチ式の連続鋳造圧延機を用いて、溶湯を調合し、水冷した鋳型で連続的に鋳造しながら圧延を行い、約9.5mmφの棒材とした。このときの鋳造時の冷却速度は約15℃/sとした。次に、第1伸線加工を施し、表2に示す条件で第1熱処理(結晶方位形成処理)を施し、さらに0.31mmφの線径まで第2伸線加工を行った。次に、表2に示す条件で第2熱処理(溶体化熱処理)を施した。第1熱処理及び第2熱処理とも、バッチ式熱処理では、線材に熱電対を巻きつけて線材温度を測定した。連続通電熱処理では、線材の温度が最も高くなる部分での測定が設備上困難であるため、ファイバ型放射温度計(ジャパンセンサ社製)で線材の温度が最も高くなる部分よりも手前の位置にて温度を測定し、ジュール熱と放熱を考慮して最高到達温度を算出した。高周波加熱および連続走間熱処理では、熱処理区間出口付近の線材温度を測定した。溶体化熱処理後に、表2に示す条件で第3熱処理(時効熱処理)を施し、アルミニウム合金線を製造した。
【0067】
作製した各々の実施例および比較例のアルミニウム合金線について、以下に示す方法により各特性を測定、評価した。
【0068】
(A)線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率の測定
本実施例における結晶方位の解析には、電子線後方散乱回折(EBSD)法を用いた。線材の長手方向に垂直な断面において、主に直径約310μmの試料面積に対し、結晶方位を観察した。スキャンステップは試料の平均結晶粒の大きさの約1/10に設定した。線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率(%)は、(線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積/試料測定面積)×100として算出した。
【0069】
(B)Mg−Si系化合物の分散密度の測定
実施例及び比較例の線材を、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて任意の範囲を観察した。Mg―Si系化合物は、EDX(Energy dispersive X-ray spectrometry, エネルギー分散型X線分析)にて組成分析を行い、化合物種を同定した。分析装置としてはそれぞれ、JEM−3010(日本電子株式会社製)、JED−2300(T)(日本電子株式会社製)を使用した。観察されたMg―Si系化合物の断面積を求めて円相当径換算し、直径0.5〜5μmのMg―Si系化合物を観察した。Mg―Si系化合物の分散密度は10個以上をカウントできる範囲を設定して、Mg―Si系化合物の分散密度(個/μm)=Mg―Si系化合物の個数(個)/カウント対象範囲(μm)の式を用いて算出した。カウント対象範囲は場合によっては複数枚の写真を用いた。10個以上カウントできないほど化合物が少ない場合は、1000μmを指定してその範囲の分散密度を算出した。
【0070】
(C)引張強度(TS)の測定
JIS Z 2241に準じて各3本ずつの供試材(アルミニウム合金線)について引張試験を行い、その平均値を求めた。従来同様、断面積が小さい細径線に適用しても断線することなく使用可能とするために、高い引張強度が求められていることから、200MPa以上を合格レベルとした。
【0071】
(D)耐屈曲疲労特性(繰返破断回数)の評価
耐屈曲疲労特性の基準として、常温におけるひずみ振幅は±0.17%とした。耐屈曲疲労特性はひずみ振幅によって変化する。一般に、ひずみ振幅が大きいほど、疲労寿命は短くなり、ひずみ振幅が小さいほど、疲労寿命は長くなる。ひずみ振幅は、図2に示す線材1の線径と、曲げ冶具2、3の曲率半径により決定することができるため、線材1の線径と曲げ冶具2、3の曲率半径は任意に設定して屈曲疲労試験を実施することが可能である。本実施例では、藤井精機株式会社(現株式会社フジイ)製の両振屈曲疲労試験機を用い、0.17%の曲げ歪みが与えられる治具を使用して、繰り返し曲げを実施することにより、繰返破断回数を測定した。繰返破断回数は各4本ずつ測定し、その平均値を求めた。図2に示す説明図のように、線材1を、曲げ治具2及び3の間を1mm空けて挿入し、冶具2及び3に沿わせるような形で繰り返し運動をさせた。線材の一端は繰り返し曲げが実施できるよう押さえ冶具5に固定し、もう一端には約10gの重り4をぶら下げた。試験中は押さえ冶具5が動くため、それに固定されている線材1も動き、繰り返し曲げが実施できる。繰り返しは1分間に100回の条件で行い、線材の試験片1が破断すると、重り4が落下し、カウントを停止する仕組みになっている。繰返破断回数は、20万回以上を合格とした。好ましくは40万回以上であり、更に好ましくは80万回以上である。
【0072】
(E)耐振動性の評価
上記(D)と同様、図2に示す両振屈曲疲労試験機を用い、エンジンでの振動によるアルミ線に負荷される際のひずみを想定し、ひずみ振幅を±0.09%として試験を実施した。アルミ線が破断するまでの繰返回数が200万回以上であったものに関しては、表3に「○」と記載し、合格とした。繰返回数が200万回未満にて断線したものに関しては、表3に「×」と記載し、不合格とした。試験には比較的多くの時間を要するため、200万回を超えた任意のところで試験を打ち切った。
【0073】
(F)アルミニウム合金線材の表層に存在する酸化層の厚さ測定
アルミニウム線材の表層に存在する酸化層の厚さ測定は、オージェ電子分光装置を用いた。具体的には、作製したアルミニウム合金線材の表層25μm×25μmの領域をアルゴンイオンにて照射しながら元素分析を実施した。深さ方向の元素分析が可能であり、得られた元素濃度プロファイルより酸素濃度がピーク時の半分となった時点を酸化層の厚さとして算出した。(SiO換算値)測定はn=2で実施し、n=2の酸化層の平均厚さを、アルミニウム合金線材の表層に存在する酸化層の厚さとした。
【0074】
実施例、比較例を上記方法にて測定、評価した結果を表3に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】
【0078】
表3の結果より、実施例1〜12のアルミニウム合金線はいずれも、線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率が本発明の範囲内であるため、引張強度及び耐振動性の双方に優れていた。一方、比較例1〜10(比較例2を除く。)は、線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角が20°以内である領域の面積率が、本発明の範囲外であるため、耐振動性が劣っており、これらの比較例のうち、比較例1、3〜5および9は、引張強度も低く、さらに、比較例1〜3は耐屈曲疲労特性も劣っていた。また、比較例2は、Mg−Si系化合物の分散密度が、本発明の範囲外であるため、引張強度が低く、耐屈曲疲労特性および耐振動性も劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、上記の構成により、高強度により細径線にも使用可能であり、常時生じるエンジン振動に耐久可能な、断線しにくい電気配線体として用いられるアルミニウム合金線材、アルミニウム合金撚線、被覆電線およびワイヤーハーネスならびにアルミニウム合金線材の製造方法を提供することが可能になる。本発明は、特に移動体に搭載されるバッテリーケーブル、ハーネスあるいはモータ用導線、産業用ロボットの配線体として有用である。さらに、本発明のアルミニウム合金線材は、従来から求められていた耐屈曲疲労特性にも優れるため、ドア部などの屈曲部位にも使用可能であり、引張強度が高いことから従来の電線よりも電線径を細くすることも可能であり、また、高い耐振動性が求められるエンジン部付近などにも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 試験片(線材)
2、3 曲げ治具
4 重り
5 押さえ冶具
11 線材の長手方向
12 結晶の<111>方向
13 線材の長手方向と結晶の<111>方向とのなす角
14 結晶
15 アルミニウム合金線材
図1
図2