【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例
、参考例及び比較例を共に示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0030】
実施例
、参考例及び比較例として、表1に示す種類及び算術平均粗さRaのステンレス鋼基材を準備し、当該Raを有する表面側に電解脱脂、酸洗を行った後、Niめっき、Agめっき、Snめっきをそれぞれ表1に示す順(第1めっき〜第3めっき)で形成した後、熱処理及び後処理を行った。当該ステンレス鋼基材の構成及び電解脱脂、酸洗、Niめっき、Agめっき、Snめっき、熱処理、後処理の詳細は以下の通りである。
【0031】
(ステンレス鋼基材)
ステンレス鋼基材:SUS304(Fe−18質量%Cr−8質量%Ni)、厚み0.30mm
【0032】
(電解脱脂)
めっき液:アルカリ脱脂浴
液温:60℃
電流密度:3A/dm
2(材料を陽極にしての電解)
【0033】
(酸洗)
めっき液:硫酸浴
液温:常温
電流密度:10A/dm
2(材料を陰極にしての電解)
【0034】
(第1めっき:Niめっき)
めっき液:ウッド浴(塩酸+塩化ニッケル浴)
液温:常温
電流密度:4A/dm
2
【0035】
(第2、3めっき:Agめっき)
めっき液:ストライク浴(+厚付け浴)※シアン浴
めっき温度:常温
電流密度:0.2〜0.5A/dm
2
【0036】
(第2、3めっき:Snめっき)
めっき液:メタンスルホン酸浴
めっき温度:40℃
電流密度:4A/dm
2
【0037】
(熱処理)
熱処理はホットプレートにサンプルを置き、ホットプレートの表面が所定の温度になったことを確認して実施した。
【0038】
(後処理)
めっき液:リン酸エステル系液
めっき温度:60℃
〔陽極電解(2V、定電圧電解)〕
【0039】
上述のようにして形成したサンプルについて、以下の各測定を行った。
(Ni、Ag及びSnめっきの厚み)
Ni、Ag及びSnめっきの厚みは、蛍光X線膜厚計(日立ハイテクサイエンス製 SFT9550X)で測定した。測定は任意の5点について評価し平均化した。
【0040】
(上層及び下層の構造[組成]の決定及び厚み)
上層及び下層の構造の決定及び厚み測定は、XPS(X線光電子分光)分析によるDepth分析で行った。分析した元素は、Ag、Sn、Fe及びNiである。これら元素を指定元素とする。また、指定元素の合計を100%として、各元素の濃度(at%)を分析した。厚みは、SiO
2換算の距離に対応する。XPS装置は、アルバック・ファイ株式会社製5600MC(検出面積800μmΦ)を用いた。
測定は、任意の3点について評価を行って平均化した。
なお上層は、最表面からAg濃度が最大を示した後深さ方向に50at%となるまでの領域の範囲とした。一方下層はAg濃度が最大を示した後深さ方向に50at%となるところから深さ方向にFeの原子濃度が50at%となるまでの領域の範囲とした。
【0041】
(上層の算術平均粗さRa)
上層の算術平均粗さRaは、触針式表面形状測定装置DektakXT−Sを用いて測定した。なお、測定条件は次の通りとした。
触針半径:12.5μm
触針圧:3mg
測定距離:1000μm
測定時間:20s
【0042】
また、上記サンプルについて、以下の各評価を行った。
(密着性)
密着性は、得られた各試験片の金めっき表面に1mm間隔で碁盤の目を罫書き、テープ剥離試験を実施した。また、各試験片を任意に180°曲げて元の状態に戻し、曲げ部のテープ剥離試験を行った。剥離が全くない場合を○とし、一部でもある場合には×とした。
【0043】
(ニッケルアレルギー)
ニッケルアレルギーは、欧州規格EN1811によるニッケルの溶出量検査で評価した。50mm×50mmサイズのサンプルを人工汗に浸し、30℃の恒温槽で1週間浸漬した時の溶出量をICP発光分析法で確認した。この試験でニッケルの溶出量が0.5μg/cm
2/week以下であった場合は、ニッケルアレルギーの懸念がないとし評価を○とした。溶出量が0.5μg/cm
2/weekよりも多い場合は、ニッケルアレルギーの懸念があるとし評価を×とした。
〔人工汗:乳酸50g、塩化ナトリウム100gを900mLの水に溶かしこみ、更に水を加え1Lにする。〕
【0044】
(はんだ濡れ性)
はんだ濡れ性はめっき後とPCT(105℃×不飽和100%RH×8h)後のサンプルをそれぞれ評価した。ソルダーチェッカ(レスカ社製SAT−5000)を使用し、フラックスとして市販の25%ロジンメタノールフラックスを用い、メニスコグラフ法にてはんだ濡れ時間を測定した。はんだはSn−3Ag−0.5Cu(250℃)を用いた。サンプル数は5個とし、各サンプルの最小値から最大値の範囲を採用した。目標とする特性は、ゼロクロスタイム1秒(s)以下である。ゼロクロスタイムが目標に達した場合を○、目標に達さなかった場合は×とした。
【0045】
(耐硫化試験)
耐硫化試験は、下記の試験環境で評価した。耐硫化試験の評価は、環境試験を終えた試験後のサンプルの外観である。なお、目標とする特性は、外観が変色していないことである。評価は外観が変化しなかった場合を○、変化した場合は×とした。
硫化水素ガス腐食試験
硫化水素濃度:10ppm
温度:40℃
湿度:80%RH
曝露時間:96h
サンプル数:5個
【0046】
(ウィスカ)
ウィスカは、JEITA RC−5241の荷重試験(球圧子法)にて評価した。すなわち、各サンプルに対して荷重試験を行い、荷重試験を終えたサンプルをSEM(JEOL社製、型式JSM−5410)にて100〜10000倍の倍率で観察して、ウィスカの発生状況を観察した。荷重試験条件を以下に示す。
球圧子の直径:Φ1mm±0.1mm
試験荷重:2N±0.2N
試験時間:120時間
サンプル数:10個
評価はウィスカが1本も発生しなかった場合は○、ウィスカが発生した場合は×とした。
【0047】
【表1】
【0048】
(評価結果)
参考例1、3〜8、11、12、実施例
2、9、10は高耐久はんだ濡れ性を有する電子部品用金属材料であった。
比較例1は、Niめっき及び下層の厚みが目標よりも薄かったので、密着性が悪かった。
比較例2は、Niめっき及び下層の厚みが目標よりも厚かったので、ニッケルアレルギーの評価が×であった。
比較例3は、Agめっきが目標よりも薄かったので、はんだ濡れ性が悪かった。
比較例4は、Agめっきが目標よりも薄かったので、PCT後のはんだ濡れ性が悪かった。
比較例5は、Snめっきが目標よりも薄かったので、耐硫化性が悪かった。
比較例6は、Snめっきが目標よりも厚かったので、ウィスカが発生した。
比較例7は、上層が目標よりも薄かったので、耐硫化性が悪かった。
また、
図2に
参考例12に係るXPS分析結果を示す。
図2より、Niの最大濃度は55at%、最表面から深さ方向に厚み5nmまでの領域を除いた前記上層がAg濃度>Sn濃度、更に好ましくは9×Sn濃度>Ag濃度>Sn濃度であることが分かる。