(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
脂肪族ポリカーボネートからなるバインダー(不可避不純物を含み得る)を含む溶液中に、酸化されたときに金属酸化物となる金属の化合物を分散させた酸化物の前駆体を、基材上又はその上方に層状に形成する前駆体層形成工程と、
前記前駆体の層を加熱することによって前記脂肪族ポリカーボネートの全てが分解する前に、オゾン(O3)雰囲気下において前記前駆体の層を加熱しつつ前記前駆体の層に対して紫外線(UV)を照射する照射工程と、を含む、
酸化物層の製造方法。
脂肪族ポリカーボネートからなるバインダー(不可避不純物を含み得る)を含む溶液中に、酸化されたときに金属酸化物となる金属の化合物を分散させた酸化物の前駆体の層を加熱することによって前記脂肪族ポリカーボネートの全てが分解する前に、オゾン(O3)雰囲気下において前記前駆体の層を加熱しつつ前記前駆体の層に対して紫外線(UV)を照射することにより形成される、
前記オゾン(O3)雰囲気下における前記紫外線(UV)を照射しない場合と比べて、表面平坦性に優れた、
酸化物層。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態である脂肪族ポリカーボネート、酸化物の前駆体、酸化物層、半導体素子、及び電子デバイス並びにそれらの製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0023】
<第1の実施形態>
1.酸化物の前駆体、及び酸化物層の構成、並びにそれらの製造方法
本実施形態においては、脂肪族ポリカーボネートと、酸化されたときに金属酸化物となる金属の化合物(不可避不純物を含み得る。以下、各酸化物について同じ。)とを混在させる代表的な態様が、「酸化物の前駆体」である。従って、この酸化物の前駆体の代表的な例は、酸化されたときに金属酸化物となる金属の化合物を、バインダーの役割を果たすと考えられる脂肪族ポリカーボネートを含む溶液中に分散させたものである。なお、バインダーとしての脂肪族ポリカーボネートは、例えば印刷法によって一旦パターンが形成された後においては、最終的に得られる金属酸化物から見れば不純物であるため、主として加熱処理によって分解又は除去される対象となる。また、本実施形態の金属酸化物の例は、酸化物半導体、酸化物導電体、又は酸化物絶縁体である。
【0024】
(バインダー及び該バインダーを含む溶液について)
次に、本実施形態におけるバインダー(不可避不純物を含み得る。以下、同じ)に着目し、該バインダー及び該バインダーを含む溶液について詳述する。
【0025】
本実施形態においては、バインダーとして、熱分解性の良い吸熱分解型の脂肪族ポリカーボネートが用いられる。なお、バインダーの熱分解反応が吸熱反応であることは、示差熱測定法(DTA)によって確認することができる。このような脂肪族ポリカーボネートは、酸素含有量が高く、比較的低温で低分子化合物に分解することが可能であるため、金属酸化物中の炭素不純物に代表される不純物の残存量を低減させることに積極的に寄与する。
【0026】
また、本実施形態において、バインダーを含む溶液に採用され得る有機溶媒は、脂肪族ポリカーボネートを溶解可能な有機溶媒であれば特に限定されない。有機溶媒の具体例は、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(DEGMEA)、α−ターピネオール、β−ターピネオール、N−メチル−2−ピロリドン、2−ニトロプロパン、イソプロピルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トルエン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどである。これらの有機溶媒の中でも、沸点が適度に高く、室温での蒸発が少なく、酸化物の前駆体を焼成する際に均一に有機溶媒が除去できる観点から、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、α−ターピネオール、N−メチル−2−ピロリドン、2−ニトロプロパン及びプロピレンカーボネートが好適に用いられる。なお、本実施形態においては、形成されたパターン中のバインダーが最終的には不純物として分解又は除去される対象となる。従って、パターンが形成されてから分解又は除去されるまでの比較的短い時間だけ、そのパターンを維持すれば足りるという観点から、DEGMEAと2−ニトロプロパンとの混合溶媒を採用することが好ましい。
【0027】
本実施形態の酸化物の前駆体の製造方法は、特に限定されない。例えば、金属酸化物、バインダー、及び有機溶媒の各成分を、従来公知の攪拌方法を用いて攪拌して均一に分散、溶解する方法が採用され得る。また、金属酸化物を含む有機溶媒とバインダーを有機溶媒に溶解した溶液とを、従来公知の攪拌方法を用いて攪拌して前駆体を得る方法も採用され得る一態様である。
【0028】
上述の公知の攪拌方法には、例えば、攪拌機を用いて混合する方法、あるいはセラミックスボールが充填されたミル等の装置を用いて、回転及び/又は振動させることにより混練する方法が含まれる。
【0029】
また、金属酸化物の分散性を向上させる観点から、バインダーを含む溶液には、所望により分散剤、可塑剤等をさらに添加することができる。
【0030】
上述の分散剤の具体例は、
グリセリン、ソルビタン等の多価アルコールエステル;
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルポリオール;ポリエチレンイミン等のアミン;
ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等の(メタ)アクリル樹脂;
イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体、及びそのアミン塩など
である。
【0031】
上述の可塑剤の具体例は、ポリエーテルポリオール、フタル酸エステルなどである。
【0032】
また、本実施形態の酸化物の前駆体層を形成する方法は、特に限定されない。低エネルギー製造プロセスによる層の形成は、好適な一態様である。より具体的には、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法、又はスピンコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、リバースコート、グラビアコートなどの塗工法などを用いることができる。特に、簡便な方法であるスピンコート法、及びスクリーン印刷によって基板上に層を形成することにより、酸化物の前駆体層を形成することが好ましい。
【0033】
(脂肪族ポリカーボネートについて)
脂肪族ポリカーボネートの代表的な例は、ポリプロピレンカーボネートであるが、本実施形態で用いられる脂肪族ポリカーボネートの種類は特に限定されない。例えば、エポキシドと二酸化炭素とを重合反応させた脂肪族ポリカーボネートも、本実施形態において採用し得る好適な一態様である。このようなエポキシドと二酸化炭素とを重合反応させた脂肪族ポリカーボネートを用いることにより、脂肪族ポリカーボネートの構造を制御することで吸熱分解性を向上させられる、所望の分子量を有する脂肪族ポリカーボネートが得られるという効果が奏される。とりわけ、脂肪族ポリカーボネートの中でも酸素含有量が高く、比較的低温で低分子化合物に分解する観点から言えば、脂肪族ポリカーボネートは、ポリエチレンカーボネート、及びポリプロピレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。上述のいずれの脂肪族ポリカーボネートにおいても、その分子量(数平均分子量)が後述する数値範囲内であれば、本実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。
【0034】
また、上述のエポキシドは、二酸化炭素と重合反応して主鎖に脂肪族を含む構造を有する脂肪族ポリカーボネートとなるエポキシドであれば特に限定されない。例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ペンテンオキシド、2−ペンテンオキシド、1−ヘキセンオキシド、1−オクテンオキシド、1−デセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシド、3−ナフチルプロピレンオキシド、3−フェノキシプロピレンオキシド、3−ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3−ビニルオキシプロピレンオキシド、及び3−トリメチルシリルオキシプロピレンオキシド等のエポキシドは、本実施形態において採用し得る一例である。これらのエポキシドの中でも、二酸化炭素との高い重合反応性を有する観点から、エチレンオキシド、及びプロピレンオキシドが好適に用いられる。なお、上述の各エポキシドは、それぞれ単独で使用されてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられることもできる。
【0035】
上述の脂肪族ポリカーボネートの数平均分子量は、好ましくは5000〜1000000であり、より好ましくは10000〜500000である。脂肪族ポリカーボネートの数平均分子量が5000未満の場合、例えば、粘度の低下による影響等により、バインダーとしての効果が十分に得られなくなるおそれがある。また、脂肪族ポリカーボネートの数平均分子量が1000000を超える場合、脂肪族ポリカーボネートの有機溶媒への溶解性が低下するために取り扱いが難しくなるおそれがある。なお、前述の数平均分子量の数値は、次の方法によって算出することができる。
【0036】
具体的には、上述の脂肪族ポリカーボネート濃度が0.5質量%のクロロホルム溶液を調製し、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定する。測定後、同一条件で測定した数平均分子量が既知のポリスチレンと比較することにより、分子量を算出する。また、測定条件は、以下の通りである。
機種:HLC−8020(東ソー株式会社製)
カラム:GPCカラム(東ソー株式会社の商品名:TSK GEL Multipore HXL−M)
カラム温度:40℃
溶出液:クロロホルム
流速:1mL/分
【0037】
また、上述の脂肪族ポリカーボネートの製造方法の一例として、上述のエポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で重合反応させる方法等が採用され得る。
【0038】
ここで、脂肪族ポリカーボネートの製造例は、次のとおりである。
攪拌機、ガス導入管、温度計を備えた1L容のオートクレーブの系内をあらかじめ窒素雰囲気に置換した後、有機亜鉛触媒を含む反応液、ヘキサン、及びプロピレンオキシドを仕込んだ。次に、攪拌しながら二酸化炭素を加えることによって反応系内を二酸化炭素雰囲気に置換し、反応系内が約1.5MPaとなるまで二酸化炭素を充填した。その後、そのオートクレーブを60℃に昇温し、反応により消費される二酸化炭素を補給しながら数時間重合反応を行った。反応終了後、オートクレーブを冷却して脱圧し、ろ過した。その後、減圧乾燥することによりポリプロピレンカーボネートを得た。
【0039】
また、上述の金属触媒の具体例は、アルミニウム触媒、又は亜鉛触媒である。これらの中でも、エポキシドと二酸化炭素との重合反応において高い重合活性を有することから、亜鉛触媒が好ましく用いられる。また、亜鉛触媒の中でも有機亜鉛触媒が特に好ましく用いられる。
【0040】
また、上述の有機亜鉛触媒の具体例は、
酢酸亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛触媒;あるいは、
一級アミン、2価のフェノール、2価の芳香族カルボン酸、芳香族ヒドロキシ酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸等の化合物と亜鉛化合物とを反応させることにより得られる有機亜鉛触媒など
である。
これらの有機亜鉛触媒の中でも、より高い重合活性を有することから、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒を採用することは好適な一態様である。
【0041】
ここで、有機亜鉛触媒の製造例は、次のとおりである。
まず、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管を備えた四つ口フラスコに、酸化亜鉛、グルタル酸、酢酸、及びトルエンを仕込んだ。次に、反応系内を窒素雰囲気に置換した後、そのフラスコを55℃まで昇温し、同温度で4時間攪拌することにより、前述の各材料の反応処理を行った。その後、110℃まで昇温し、さらに同温度で4時間攪拌して共沸脱水させ、水分のみを除去した。その後、そのフラスコを室温まで冷却することにより、有機亜鉛触媒を含む反応液を得た。なお、この反応液の一部を分取し、ろ過して得た有機亜鉛触媒について、IRを測定(サーモニコレージャパン株式会社製、商品名:AVATAR360)した。その結果、カルボン酸基に基づくピークは認められなかった。
【0042】
また、重合反応に用いられる上述の金属触媒の使用量は、エポキシド100質量部に対して、0.001〜20質量部であることが好ましく、0.01〜10質量部であることがより好ましい。金属触媒の使用量が0.001質量部未満の場合、重合反応が進行しにくくなるおそれがある。また、金属触媒の使用量が20質量部を超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0043】
上述の重合反応において必要に応じて用いられる反応溶媒は、特に限定されるものではない。この反応溶媒は、種々の有機溶媒が適用し得る。この有機溶媒の具体例は、
ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;
ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;
クロロメタン、メチレンジクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、エチルクロリド、トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、クロルベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;
ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒など、
である。
【0044】
また、上述の反応溶媒の使用量は、反応を円滑にさせる観点から、エポキシド100質量部に対して、500質量部以上10000質量部以下であることが好ましい。
【0045】
また、上述の重合反応において、エポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で反応させる方法としては、特に限定されるものではない。例えば、オートクレーブに、上述のエポキシド、金属触媒、及び必要により反応溶媒を仕込み、混合した後、二酸化炭素を圧入して、反応させる方法が採用され得る。
【0046】
加えて、上述の重合反応において用いられる二酸化炭素の使用圧力は、特に限定されない。代表的には、0.1MPa〜20MPaであることが好ましく、0.1MPa〜10MPaであることがより好ましく、0.1MPa〜5MPaであることがさらに好ましい。二酸化炭素の使用圧力が20MPaを超える場合、使用圧力に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0047】
さらに、上述の重合反応における重合反応温度は、特に限定されない。代表的には、30〜100℃であることが好ましく、40〜80℃であることがより好ましい。重合反応温度が30℃未満の場合、重合反応に長時間を要するおそれがある。また、重合反応温度が100℃を超える場合、副反応が起こり、収率が低下するおそれがある。重合反応時間は、重合反応温度により異なるために一概には言えないが、代表的には、2時間〜40時間であることが好ましい。
【0048】
重合反応終了後は、ろ過等によりろ別し、必要により溶媒等で洗浄後、乾燥させることにより、脂肪族ポリカーボネートを得ることができる。
【0049】
<第2の実施形態>
2.本実施形態の薄膜トランジスタの全体構成
図1乃至
図4、及び
図8乃至
図13は、それぞれ、半導体素子の一例である薄膜トランジスタ100の製造方法の一過程を示す断面模式図である。また、
図13は、本実施形態における薄膜トランジスタ100の製造方法の一過程及び全体構成を示す断面模式図である。
図13に示すように、本実施形態における薄膜トランジスタ100においては、基板10上に、下層から、ゲート電極24、ゲート絶縁体34、チャネル44、ソース電極58及びドレイン電極56の順序で積層されている。なお、この半導体素子を備える電子デバイス(例えば、携帯端末や情報家電、あるいはその他の公知の電化製品)の提供ないし実現は、本実施形態の半導体素子を理解する当業者であれば特に説明を要せず十分に理解され得る。また、後述する、各種の酸化物の前駆体の層を形成するための工程は、本願における「前駆体層形成工程」に含まれる。
【0050】
薄膜トランジスタ100は、いわゆるボトムゲート構造を採用しているが、本実施形態はこの構造に限定されない。従って、当業者であれば、通常の技術常識を以って本実施形態の説明を参照することにより、工程の順序を変更することにより、トップゲート構造を形成することができる。また、本願における温度の表示は、基板と接触するヒーターの加熱面の表面温度を表している。また、図面を簡略化するため、各電極からの引き出し電極のパターニングについての記載は省略する。
【0051】
本実施形態の基板10は、特に限定されず、一般的に半導体素子に用いられる基板が用いられる。例えば、高耐熱ガラス、SiO
2/Si基板(すなわち、シリコン基板上に酸化シリコン膜を形成した基板)、アルミナ(Al
2O
3)基板、STO(SrTiO)基板、Si基板の表面にSiO
2層及びTi層を介してSTO(SrTiO)層を形成した絶縁性基板等、半導体基板(例えば、Si基板、SiC基板、Ge基板等)を含む、種々の絶縁性基材が適用できる。なお、絶縁性基板には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、アラミド、芳香族ポリアミドなどの材料からなる、フィルム又はシートが含まれる。また、基板の厚さは特に限定されないが、例えば3μm以上300μm以下である。また、基板は、硬質であってもよく、フレキシブルであってもよい。
【0052】
(1)ゲート電極の形成
本実施形態においては、ゲート電極24の材料として、酸化されたときに酸化物導電体となる金属の化合物(以下、単に「酸化物導電体」ともいう)を採用することができる。この場合、本実施形態のゲート電極24は、酸化物導電体(但し、不可避不純物を含み得る。以下、この材料の酸化物に限らず他の材料の酸化物についても同じ。)を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダーを含む溶液中に分散させた酸化物導電体の前駆体の層(以下、「酸化物導電体の前駆体層」ともいう)を焼成することによって形成される。本実施形態では、
図1に示すように、基材であるSiO
2/Si基板(以下、単に「基板」ともいう)10上に低エネルギー製造プロセス(例えば、印刷法又はスピンコート法)を用いて出発材であるゲート電極用前駆体溶液の層を形成することにより、ゲート電極用前駆体層22を形成することができる。
【0053】
その後、ゲート電極用前駆体層22を、例えば基板10が載置されるステージのヒーターを120〜160℃で加熱しつつ、オゾン(O
3)雰囲気下においてゲート電極用前駆体層22に対して紫外線(UV)を照射する照射工程が約30分間行われる。なお、本実施形態のゲート電極用前駆体層22については、仮に数μm厚の層であっても、約30分間の照射工程が行われる。また、本実施形態においては、株式会社SAMCO製UVオゾンクリーナー(型式:UV−300h−E)が採用された。なお、照射されたUVのスペクトルは、185nmと254nmにピークを持っている。
【0054】
上述の照射工程は、主として、ゲート電極用前駆体溶液について、「液体からゲル状態に至る過程」を担っていると考えられる。この照射工程が、バインダーとしての脂肪族ポリカーボネートの全てが分解する前に行われることによって、予備焼成の時間を大幅に短縮することができる。なお、予備焼成工程の比較例の1つとして、前述の照射工程を行わずに、基板10が載置されるステージのヒーターによる加熱処理のみによって所望のゲート電極用前駆体層22を形成する方法を採用することは可能である。しかしながら、前述の照射工程を行わない場合は、180℃という比較的高温の条件において、より長時間(例えば、数μm厚の膜の場合は、約2時間〜約3時間)の処理を要する。従って、本実施形態のゲート電極用前駆体層22の形成工程においては、前述の照射工程を採用することによって、より低温の加熱を実現するとともに、予備焼成のための時間を50%以上低減することが可能になることを示している。別の見方をすれば、既に述べたとおり、「液体からゲル状態に至る過程」が、バインダーと溶媒を除去する作用を伴うことから、この照射工程を採用すれば、非常に高速にバインダーと溶媒を除去することを実現し得ることができる。
【0055】
ゲル状態となったゲート電極用前駆体層22を、その後、例えば、大気中において、所定時間(例えば、10分間〜1時間)、450℃〜550℃で加熱する焼成(本焼成)工程が行われる。その結果、
図2に示すように、基板10上に、ゲート電極24が形成される。なお、本実施形態のゲート電極24の層の厚みは、例えば、約100nmである。なお、この焼成工程は、いわば、「ゲル状態から固化状態ないし焼結状態に至る過程」を担っている。
【0056】
ここで、上述の酸化物導電体の一例は、酸化されたときに酸化物導電体となる金属に、配位子が配位した構造(代表的には錯体構造)を有する材料である。例えば、金属有機酸塩、金属無機酸塩、金属ハロゲン化物、又は各種の金属アルコキシドも本実施形態の酸化物導電体に含まれ得る。なお、酸化されたときに酸化物導電体となる金属の例は、ルテニウム(Ru)である。本実施形態においては、ニトロシル酢酸ルテニウム(III)を、脂肪族ポリカーボネートからなるバインダーを含むプロピオン酸と2−アミノエタノールとの混合溶媒に溶解した溶液を出発材とするゲート電極用前駆体溶液を、例えば、上述の照射工程の後、大気中において、所定時間(例えば、10分間〜1時間)、約450℃〜約550℃で加熱する焼成工程を行うことにより、酸化物導電体であるルテニウム酸化物が形成されるため、ゲート電極24を形成することができる。
【0057】
本実施形態においては、特に、第1の実施形態の脂肪族ポリカーボネートを採用したゲート電極用前駆体溶液を用いれば、低エネルギー製造プロセスを用いてゲート電極用前駆体層22のパターンを形成した場合に良好なパターンを形成することができる。より具体的には、ゲート電極用前駆体層22の平坦化を実現するとともに、本焼成後の薄くかつ平坦性に優れた酸化物層を実現し得る。加えて、寸法精度の良い酸化物層のパターンを形成することができる。
【0058】
なお、本実施形態においては、上述のゲート電極24の代わりに、例えば、白金、金、銀、銅、アルミ、モリブデン、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、タングステン、などの高融点金属、又はその合金等の金属材料、あるいはp
+−シリコン層やn
+−シリコン層を適用することができる。その場合、ゲート電極24を、公知のスパッタリング法やCVD法により基板10上に形成することができる。
【0059】
(2)ゲート絶縁体の形成
また、本実施形態においては、ゲート絶縁体34の材料として、酸化されたときに酸化物絶縁体となる金属の化合物(以下、単に「酸化物絶縁体」ともいう)を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダーを含む溶液中に分散させた酸化物絶縁体の前駆体の層(以下、「酸化物絶縁体の前駆体層」ともいう)を焼成することによってゲート絶縁体が形成される。
【0060】
具体的には、
図3に示すように、ゲート電極24上に低エネルギー製造プロセス(例えば、印刷法又はスピンコート法)を用いて上述の酸化物絶縁体の前駆体溶液の層を形成することにより、ゲート絶縁体用前駆体層32が形成される。
【0061】
その後、ゲート絶縁体用前駆体層32を、例えば基板10が載置されるステージのヒーターを120〜160℃で加熱しつつ、オゾン(O
3)雰囲気下においてゲート絶縁体用前駆体層32に対して紫外線(UV)を照射する照射工程が約30分間行われる。
【0062】
上述の照射工程は、主として、ゲート絶縁体用前駆体溶液について、「液体からゲル状態に至る過程」を担っていると考えられる。この照射工程が、バインダーとしての脂肪族ポリカーボネートの全てが分解する前に行われることによって、予備焼成の時間を大幅に短縮することができる。なお、予備焼成工程の比較例の1つとして、前述の照射工程を行わずに、基板10が載置されるステージのヒーターによる加熱処理のみによって所望のゲート電極用前駆体層22を形成する方法を採用することは可能である。しかしながら、前述の照射工程を行わない場合は、180℃という比較的高温の条件において、より長時間(例えば、数μm厚の膜の場合は、約2時間〜約3時間)の処理を要する。従って、本実施形態のゲート絶縁体用前駆体層32の形成工程においては、前述の照射工程を採用することによって、より低温の加熱を実現するとともに、予備焼成のための時間を50%以上低減することが可能になることを示している。別の見方をすれば、既に述べたとおり、「液体からゲル状態に至る過程」が、バインダーと溶媒を除去する作用を伴うことから、この照射工程を採用すれば、非常に高速にバインダーと溶媒を除去することを実現し得ることができる。
【0063】
ゲル状態となったゲート絶縁体用前駆体層32を、その後、例えば、大気中において、所定時間(例えば、10分間〜1時間)、約450℃〜約550℃で加熱する焼成(本焼成)工程が行われることにより、例えば、酸化物絶縁体であるランタン(La)とジルコニウム(Zr)とからなる酸化物が形成される。その結果、
図4に示すように、ゲート絶縁体34を形成することができる。なお、本実施形態のゲート絶縁体34の層の厚みは、例えば、約100nm〜約250nmである。
【0064】
ここで、上述の酸化物絶縁体の一例は、酸化されたときに酸化物絶縁体となる金属に、配位子が配位した構造(代表的には錯体構造)を有する材料である。例えば、金属有機酸塩、金属無機酸塩、金属ハロゲン化物、又は各種の金属アルコキシド、あるいは、その他の有機酸塩、無機酸塩、ハロゲン化物、又は各種のアルコキシドも、本実施形態の酸化物絶縁体に含まれ得る。
【0065】
なお、代表的な酸化物絶縁体の例は、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)とからなる酸化物である。この酸化物をゲート絶縁体34として採用し得る。本実施形態においては、酢酸ランタン(III)を、脂肪族ポリカーボネートからなるバインダーを含むプロピオン酸(溶媒)に溶解した第1溶液、並びにジルコニウムブトキシドを、脂肪族ポリカーボネートからなるバインダーを含むプロピオン酸(溶媒)に溶解した第2溶液を準備する。第1溶液と第2溶液との混合した、出発材としてのゲート絶縁体用前駆体溶液を、例えば、上述の照射工程の後、大気中において、所定時間(例えば、10分間〜1時間)、約450℃〜約550℃で加熱する焼成工程を行うことにより、酸化物絶縁体を形成することができる。
【0066】
本実施形態においては、特に、第1の実施形態の脂肪族ポリカーボネートを採用した酸化物絶縁体の前駆体を用いれば、低エネルギー製造プロセスを用いてゲート絶縁体用前駆体層32のパターンを形成した場合に良好なパターンを形成することができる。より具体的には、ゲート絶縁体用前駆体層32の平坦化を実現するとともに、本焼成後の薄くかつ平坦性に優れた酸化物層を実現し得る。加えて、寸法精度の良い酸化物層のパターンを形成することができる。
【0067】
なお、本実施形態においては、上述のゲート絶縁体34の代わりに、例えば、酸化シリコン又は酸窒化シリコンを適用することができる。その場合、ゲート絶縁体34を、公知のCVD法等によりゲート電極24上に形成することができる。
【0068】
(3)チャネルの形成
また、本実施形態においては、チャネル44の材料として、酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物(以下、単に「酸化物半導体」ともいう)を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダーを含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体の層(以下、「酸化物半導体の前駆体層」ともいう)を焼成することによってチャネルが形成される。本実施形態では、
図8に示すように、ゲート絶縁体34上に低エネルギー製造プロセス(例えば、印刷法又はスピンコート法)を用いて出発材であるチャネル用前駆体溶液の層を形成することにより、チャネル用前駆体層42を形成することができる。
【0069】
その後、チャネル用前駆体層42を、後述する紫外線(UV)の照射工程(予備焼成工程)及び焼成工程(本焼成工程)を行うことにより、
図9に示すようにチャネル44が形成される。
【0070】
ここで、上述の金属化合物の一例は、酸化されたときに酸化物半導体となる金属に、配位子が配位した構造(代表的には錯体構造)を有する材料である。例えば、金属有機酸塩、金属無機酸塩、金属ハロゲン化物、又は各種の金属アルコキシドも本実施形態の金属化合物に含まれ得る。なお、代表的な金属化合物の例は、インジウム−亜鉛酸化物(以下、「InZnO」ともいう)である。例えば、インジウムアセチルアセトナートと塩化亜鉛を、脂肪族ポリカーボネートからなるバインダーを含むプロピオン酸に溶解させた溶液を焼成することによって酸化物半導体であるインジウム−亜鉛酸化物(以下、「InZnO」ともいう)を形成することができる。
【0071】
なお、酸化されたときに酸化物半導体となる金属の例は、インジウム、スズ、亜鉛、カドミウム、チタン、銀、銅、タングステン、ニッケル、インジウム−亜鉛、インジウム−スズ、インジウム−ガリウム−亜鉛、アンチモン−スズ、ガリウム−亜鉛、インジウム−ガリウム−亜鉛酸化物、及びジルコニウム−インジウム−亜鉛の群から選択される1種又は2種以上である。但し、素子性能や安定性等の観点から言えば、インジウム−亜鉛酸化物、インジウム−ガリウム−亜鉛酸化物、ジルコニウム−インジウム−亜鉛が、酸化されたときに酸化物半導体となる金属として採用されることが好ましい。
【0072】
本実施形態においては、特に、第1の実施形態の脂肪族ポリカーボネートを採用したチャネル用前駆体溶液を用いれば、低エネルギー製造プロセスを用いてチャネル用前駆体層42のパターンを形成した場合に良好なパターンを形成することができる。より具体的には、チャネル用前駆体溶液におけるバインダーとしての役割を果たし得る脂肪族ポリカーボネートの曳糸性を適切に制御することが可能となるため、良好なチャネル用前駆体層42のパターンを形成することができる。
【0073】
また、本実施形態においては、特に、酸化物半導体の層であるチャネル44を形成する際に、本願発明者らがこれまでに創出した、例えば、国際出願番号PCT/JP2014/067960に開示される金属酸化物の製造方法に係る発明の一部を、好適な例として採用することができる。
【0074】
<TG−DTA(熱重量測定及び示差熱)特性>
より具体的に説明すると、
図5は、本実施形態の薄膜トランジスタのチャネルを形成するための酸化物半導体の前駆体を構成するインジウム−亜鉛含有溶液(以下、「InZn溶液」ともいう。)のTG−DTA特性の一例を示すグラフである。また、
図6は、本実施形態における薄膜トランジスタの構成要素(例えば、チャネル)を形成するためのバインダーのみを溶質とする溶液の一例であるポリプロピレンカーボネート溶液のTG−DTA特性の一例を示すグラフである。なお、
図5及び
図6に示すように、各図中の実線は、熱重量(TG)測定結果であり、図中の点線は示差熱(DTA)測定結果である。なお、
図5及び
図6に示す結果は、基板10を載置するヒーターによる加熱処理のみを行ったものであり、本実施形態の薄膜トランジスタ100の製造方法に採用されている、オゾン(O
3)雰囲気下における紫外線(UV)の照射は行われていない。
【0075】
図5における熱重量測定の結果から、120℃付近には、溶媒の蒸発と考えられる、重量の顕著な減少が見られた。また、
図5の(X)に示すように、InZn溶液の示差熱測定結果のグラフにおける発熱ピークが330℃付近に確認された。従って、330℃付近でインジウム及び亜鉛が、酸素と結合している状態であることが確認される。
【0076】
一方、
図6における熱重量測定の結果から、140℃付近から190℃付近にかけて、ポリプロピレンカーボネート溶液の溶媒の消失とともに、バインダーであるポリプロピレンカーボネート自身の一部の分解ないし消失による重量の顕著な減少が見られた。なお、この分解により、ポリプロピレンカーボネートは、二酸化炭素と水に変化していると考えられる。また、
図6に示す結果から、190℃付近において、該バインダーが90wt%以上分解され、除去されていることが確認された。なお、さらに詳しく見ると、250℃付近において、該バインダーが95wt%以上分解され、260℃付近において、該バインダーがほぼ全て(99wt%以上)分解されていることが分かる。
【0077】
ここで、本願発明者らがこれまでに採用してきた代表的な工程の1つとしての、チャネル44の形成方法は、主として次の(a)及び(b)の工程を含んでいる。
(a)酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダーを含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体を、基板上又はその上方に層状に形成する前駆体層の形成工程と、該前駆体層を、該バインダーを90wt%以上分解させる第1温度(
図6における190℃が該当する)によって加熱する予備焼成工程。
(b)第1温度による加熱の後、その第1温度よりも高く、かつ該金属と酸素とが結合する温度であって、前述の前駆体の示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値である第2温度(
図5における330℃が該当する)以上の温度によって該前駆体層を焼成する焼成(本焼成)工程。
【0078】
一方、上述のとおり、本実施形態においては、薄膜トランジスタ100を構成する各層(ゲート電極、ゲート絶縁体、チャネル等)に対して、基板10を載置するステージのヒーターによる加熱とともに、オゾン(O
3)雰囲気下における紫外線(UV)の照射が行われている。従って、そのような紫外線(UV)の照射を行うことにより、該ヒーターによる加熱処理のみを行ったものと比較して、実質的に上述の第1温度を低下させる作用ないし効果があると、本願発明者らは考えている。換言すれば、オゾン(O
3)雰囲気下における紫外線(UV)の照射が、該バインダーの90wt%以上(あるいは、95wt%以上又は99wt%以上)を分解し、除去するための、いわば積極的な役割を果たしているために、より低い温度(例えば、120℃)であっても、該バインダーを90wt%以上分解させることが可能となると考えられる。加えて、大変興味深いことに、そのような紫外線(UV)の照射を行うことが、単にヒーターによる処理温度を低下させるだけでなく、各前駆体層の平坦化を実現するとともに、本焼成後の薄くかつ平坦性に優れた酸化物層の実現に寄与し得ることは特筆に値する。また、寸法精度の良い酸化物層の実現にも貢献し得ることも大変興味深い。
【0079】
なお、本願発明者らは、既に述べた各種のバインダー(脂肪族ポリカーボネート)及びInZn溶液に代表される、最終的に金属酸化物となる各種の金属含有ペーストについて、第1温度と第2温度との差が、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは100℃以上であることによって、酸化物半導体層中の炭素不純物に代表される不純物の残存が抑えられるとの知見を有している。最終的な酸化物半導体層の厚みの制御性及び/又は薄層化の実現、及び不純物の残存の低減の観点から言えば、第2温度が第1温度に対して100℃以上高いことは最も好適な例である。他方、第2温度と第1温度との最大差については特に限定されない。
【0080】
本実施形態においては、上述の紫外線(UV)の照射工程を行うことにより、比較的低い第1温度による予備焼成によって該バインダーの90wt%以上(あるいは、95wt%以上又は99wt%以上)を分解し、除去することを実現し得る。従って、第2温度以上の温度によって焼成工程(本焼成)を行うことにより、従来よりも確度高く、酸化物層中の炭素不純物に代表される不純物の残存が確度高く抑えられることを示唆している。
【0081】
ところで、酸化物半導体の相状態は、特に限定されない。例えば、結晶状又は多結晶状、あるいはアモルファス状のいずれであってもよい。また、結晶成長の結果として、樹枝状又は鱗片状の結晶の場合も、本実施形態において採用し得る一つの相状態である。加えて、パターニングされた形状(例えば、球状、楕円状、矩形状)にも特定されないことは言うまでもない。
【0082】
<AFMによる酸化物層の表面の平坦性の調査>
図7は、本実施形態におけるチャネル44である酸化物層の表面粗さを示す図である。後述する、紫外線(UV)の照射工程(予備焼成工程)及び焼成工程(本焼成工程)を行うことにより得られたチャネル44の表面の平坦性を、AFM(Atomic Force Microscope:株式会社キーエンス製、ナノスケールハイブリッド顕微鏡、型式VN−8000)を用いて測定した。
【0083】
その結果、
図7及びその結果から算出される結果から、本実施形態のチャネル44の表面粗さ(RMS)は、約6.9nmであった。一方、比較例として、前述の紫外線(UV)の照射工程(予備焼成工程)を行わずに、基板10を載置するステージのヒーター温度を180℃で2時間予備焼成した点以外は、本実施形態のチャネル44と同じ処理を行った試料の表面粗さ(RMS)は、約31.6nmであった。従って、本実施形態のチャネル44の表面粗さ(RMS)が、非常に平坦性に優れた層を形成し得ることを確認した。また、本願発明者らの目視確認によれば、スクリーン印刷法を用いて本実施形態のチャネル用前駆体層42を形成したときの寸法精度、及びその後の本焼成後のチャネル44の寸法精度が、前述の比較例の対応する各寸法精度と比較して明確に向上していることが分かった。
【0084】
(チャネル用前駆体層の焼成工程)
次に、具体的なチャネル44の形成方法について説明する。なお、このチャネル44の形成方法の少なくとも一部は、上述の酸化物導電体又は酸化物絶縁体の製造にも適用し得る。
【0085】
既に述べたとおり、本実施形態では、
図8に示すように、ゲート絶縁体34上に低エネルギー製造プロセス(例えば、印刷法又はスピンコート法)を用いてチャネル用前駆体溶液の層を形成することにより、チャネル用前駆体層42が形成される。なお、酸化物半導体の前駆体層であるチャネル用前駆体層42の厚さ(wet)は特に限定されない。
【0086】
その後、予備焼成(「第1予備焼成」ともいう)工程として、所定時間(例えば、3分間)、例えば150℃で加熱することにより、厚みが約600nmのチャネル用前駆体層42を形成する。この第1予備焼成工程は、主にゲート絶縁体34上のチャネル用前駆体層42の定着を目的とするものであるため、後述する第2予備焼成工程を行う場合は、第1予備焼成工程を省略することもできる。
【0087】
本実施形態では、その後、チャネル用前駆体層42中のバインダーを分解させるために、所定の温度(該バインダーの90wt%以上(あるいは、95wt%以上又は99wt%以上)を分解し、除去する温度)により第2予備焼成工程が行われる。具体的には、チャネル用前駆体層42を、例えば基板10が載置されるステージのヒーターを120〜160℃で加熱しつつ、オゾン(O
3)雰囲気下においてチャネル用前駆体層42に対して紫外線(UV)を照射する照射工程が約30分間行われる。なお、本実施形態のチャネル用前駆体層42については、仮に数μm厚の層であっても、約30分間の照射工程が行われる。
【0088】
上述の照射工程は、主として、チャネル用前駆体溶液について、「液体からゲル状態に至る過程」を担っていると考えられる。この照射工程が、バインダーとしての脂肪族ポリカーボネートの全てが分解する前に行われることによって、予備焼成の時間を大幅に短縮することができる。なお、予備焼成工程の比較例の1つとして、前述の照射工程を行わずに、基板10が載置されるステージのヒーターによる加熱処理のみによって所望のチャネル用前駆体層42を形成する方法を採用することは可能である。しかしながら、前述の照射工程を行わない場合は、180℃という比較的高温の条件において、より長時間(例えば、数μm厚の膜の場合は、約2時間〜約3時間)の処理を要する。従って、本実施形態のチャネル用前駆体層42の形成工程においては、前述の照射工程を採用することによって、より低温の加熱を実現するとともに、予備焼成のための時間を50%以上低減することが可能になることを示している。別の見方をすれば、既に述べたとおり、「液体からゲル状態に至る過程」が、バインダーと溶媒を除去する作用を伴うことから、この照射工程を採用すれば、非常に高速にバインダーと溶媒を除去することを実現し得ることができる。
【0089】
ここで、第2予備焼成工程は、常圧の条件下に限られない。例えば、基板やゲート絶縁体などに悪影響を与えない限り、減圧の条件又は高圧の条件も採用し得る。なお、第2予備焼成工程は、酸化物半導体層の表面粗さの増減に影響を与え得る工程であるが、溶媒によって乾燥中の挙動が異なるため、溶媒の種類によって、適宜、第2予備焼成工程の温度の条件が選定される。
【0090】
また、上述の予備焼成は、例えば、酸素雰囲気中又は大気中(以下、総称して、「酸素含有雰囲気」ともいう。)において行われる。なお、窒素雰囲気中で第2予備焼成工程が行われることも採用し得る一態様である。
【0091】
その後、本焼成、すなわち「焼成工程」として、チャネル用前駆体層42を、例えば、酸素含有雰囲気において、所定時間、200℃以上、より好適には300℃以上、加えて、電気的特性において更に好適には500℃以上の範囲で加熱する。代表的には、10分間〜1時間、450℃〜550℃で加熱する。その結果、
図9に示すように、ゲート絶縁体34上に、酸化物半導体層であるチャネル44が形成される。なお、本焼成後の酸化物半導体層の最終的な厚さは、代表的には0.01μm以上10μm以下である。特に、0.01μm程度(つまり、10nm程度)の極めて薄い層が形成された場合であっても、クラックが生じにくいことは、特筆に値する。
【0092】
ここで、この焼成工程における設定温度は、酸化物半導体の形成過程において酸化物半導体の配位子を分解した上でその金属と酸素とが結合する温度であるとともに、示差熱測定法(DTA)における発熱ピーク値の温度以上の温度(第2温度)が選定される。この焼成工程により、チャネル用前駆体層42中のバインダー、分散剤、及び有機溶媒が、確度高く分解及び/又は除去されることになる。
【0093】
なお、上述の第1予備焼成工程、第2予備焼成工程、及び本焼成(焼成工程)のいずれにおいても、本実施形態において採用されている紫外線(UV)照射の際の各前駆体に対する加熱方法は特に限定されない。例えば、紫外線(UV)照射が妨げられない限り、恒温槽や電気炉などを用いることも可能である。
【0094】
チャネル44の形成過程において、脂肪族ポリカーボネートは、焼成分解後において酸化物半導体層中に残存する分解生成物を低減、又は消失させることができるだけでなく、緻密な酸化物半導体層の形成に寄与することができる。従って、脂肪族ポリカーボネートを採用することは本実施形態の好適な一態様である。
【0095】
なお、本実施形態においては、酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物とバインダーとの重量比を変動させること、あるいは、バインダー又は金属の化合物の濃度を変えることにより、最終的なチャネル44の厚みを制御することが可能であることも、本願発明者らの研究によって確認された。例えば、非常に薄い層といえる、10nm〜50nmの厚みのチャネル44がクラックを発生させることなく形成され得ることが分かった。なお、前述の薄い層のみならず、50nm以上の厚みの層についても、チャネル用前駆体層42の厚みや、前述の重量比などを適宜調整することにより、比較的容易に形成することができる。なお、一般的には、チャネルに用いられる層の厚みは0.01μm(つまり10nm)以上1μm以下であることから、最終的なチャネル44の厚みを制御することが可能な本実施形態の酸化物半導体の前駆体、並びに酸化物半導体層は、薄膜トランジスタを構成する材料として適しているといえる。
【0096】
加えて、本実施形態の酸化物半導体の前駆体を採用すれば、当初はかなり厚膜(例えば、10μm以上)の酸化物半導体の前駆体層を形成したとしても、その後の焼成工程によってバインダー等が高い確度で分解されることになるため、焼成後の層の厚みは、極めて薄く(例えば、10nm〜100nm)なり得る。さらに、そのような薄い層であっても、クラックの発生が無い、又は確度高く抑制されることになる点は、特筆に値する。従って、当初の厚みを十分に確保できる上、最終的に極めて薄い層を形成することも可能な本実施形態の酸化物半導体の前駆体、並びに酸化物半導体層は、低エネルギー製造プロセスや後述する型押し加工によるプロセスにとって極めて適していることが知見された。また、そのような極めて薄い層であってもクラックの発生が無い、又は確度高く抑制される酸化物半導体層の採用は、本実施形態の薄膜トランジスタ100の安定性を極めて高めることになる。
【0097】
さらに、本実施形態においては、上述の酸化物半導体の種類や組み合わせ、バインダーと混合させる比率を適宜調節することにより、チャネルを形成する酸化物半導体層の電気的特性や安定性の向上を図ることができる。
【0098】
(4)ソース電極及びドレイン電極の形成
さらにその後、
図10に示すように、チャネル44上に、公知のフォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜90が形成された後、チャネル44及びレジスト膜90上に、公知のスパッタリング法により、ITO層50を形成する。本実施形態のターゲット材は、例えば、5wt%酸化錫(SnO
2)を含有するITOであり、室温〜100℃の条件下において形成される。その後、レジスト膜90が除去されると、
図11に示すように、チャネル44上に、ITO層50によるドレイン電極56及びソース電極58が形成される。
【0099】
その後、
図12に示すように、ドレイン電極56、ソース電極58、及びチャネル44上に、公知のフォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜90が形成された後、レジスト膜90、ドレイン電極56の一部、及びソース電極58の一部をマスクとして、公知のアルゴン(Ar)プラズマによるドライエッチング法を用いて、露出しているチャネル44を除去する。その結果、
図13に示すように、パターニングされたチャネル44が形成されることにより、薄膜トランジスタ100が製造される。
【0100】
図14は、本実施形態における薄膜トランジスタ100のId−Vg特性測定の結果の一例を示すグラフである。この例は、本実施形態における照射工程において、基板10が載置されるステージのヒーターを120℃で加熱した場合の結果である。
図14に示すように、改善の余地は依然として多く存在するが、低温かつ短時間の処理を実現した薄膜トランジスタ100としての基本的な動作を確認することができた。
【0101】
なお、本実施形態においては、上述のドレイン電極56及びソース電極58の代わりに、例えば、印刷法により、ペースト状の銀(Ag)又はペースト状のITO(酸化インジウムスズ)を用いてドレイン電極及びソース電極のパターンを形成する方法は、採用し得る一態様である。また、ドレイン電極56及びソース電極58の代わりに、公知の蒸着法によって形成された金(Au)又はアルミニウム(Al)のドレイン電極及びソース電極のパターンが採用されてもよい。
【0102】
<第2の実施形態の変形例(1)>
本実施形態の薄膜トランジスタは、第2の実施形態におけるチャネルの焼成工程(本焼成)後に、さらに紫外線を照射する照射工程が行われている点を除き、第2の実施形態の薄膜トランジスタ100の製造工程及び構成と同様である。従って、第2の実施形態と重複する説明は省略する。
【0103】
本実施形態では、第2の実施形態におけるチャネルの焼成工程(本焼成)後に、公知の低圧水銀ランプ(株式会社SAMCO製UVオゾンクリーナー、型式:UV−300h−E)を用いて、波長185nmと254nmにスペクトルのピークを持つ紫外線が照射された。その後、第2の実施形態の薄膜トランジスタ100の製造方法と同様の工程が行われた。なお、本実施形態においては、紫外線の波長は特に限定されるものではない。185nm又は254nm以外の紫外線であっても同様の効果が奏され得る。
【0104】
<第2の実施形態の変形例(2)>
また、第2の実施形態においては、
図12に示すように公知のフォトリソグラフィー法
及びドライエッチングによりパターニングされたチャネル44が形成されている。しかし
ながら、例えばスクリーン印刷法に代表される印刷法が採用される場合は、公知のフォトリソグラフィー法及びドライエッチングを用いることなく、
図15に示すように、チャネル用前駆体層42の所望のパターンが形成され得る。従って、印刷法が採用されることは、
図12に示すパターンの形成工程が不要となるため、好適な一態様である。なお、
図15以降の各工程は、
図12に示す公知のフォトリソグラフィー法及びドライエッチングに基づく工程を除き、第2の実施形態の各工程に準じて行われる。同様に、薄膜トランジスタ100におけるチャネル以外の各層(ゲート電極24、ゲート絶縁体34等)においても、例えばスクリーン印刷法に代表される印刷法が採用される場合は、公知のフォトリソグラフィー法及びドライエッチングを用いることなくパターンの形成が可能である。
【0105】
<その他の実施形態>
ところで、上述の各実施形態においては、いわゆる逆スタガ型の構造を有する薄膜トランジスタが説明されているが、上述の各実施形態はその構造に限定されない。例えば、スタガ型の構造を有する薄膜トランジスタのみならず、ソース電極、ドレイン電極、及びチャネルが同一平面上に配置される、いわゆるプレーナ型の構造を有する薄膜トランジスタであっても、上述の各実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。さらに、上述の各実施形態のチャネル(すなわち、酸化物半導体層)が基板上に形成されることも採用し得る他の一態様である。
【0106】
以上述べたとおり、上述の各実施形態及び実験例の開示は、それらの実施形態及び実験例の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組み合わせを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。