(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441152
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】多孔質ガラス母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/018 20060101AFI20181210BHJP
C03B 8/04 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
C03B37/018 A
C03B8/04 A
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-77505(P2015-77505)
(22)【出願日】2015年4月6日
(65)【公開番号】特開2016-196388(P2016-196388A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2017年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真
(72)【発明者】
【氏名】浦田 佑平
(72)【発明者】
【氏名】松永 祐一
【審査官】
若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−300321(JP,A)
【文献】
特開2014−080354(JP,A)
【文献】
特開昭60−122737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00−37/16
C03B 8/00−8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身の中心軸を回転軸として回転している出発部材を、ガラス原料を含むガスを酸水素火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成するバーナに対して相対的に引き上げながら、前記バーナが生成したガラス微粒子を前記出発部材を起点に前記中心軸に沿って堆積させていくことで多孔質ガラス母材を製造する多孔質ガラス母材の製造方法であって、
前記多孔質ガラス母材のコア部を形成する第1の前記バーナと、
前記コア部の外周に前記多孔質ガラス母材の第1クラッド部を形成する第2の前記バーナと、
前記第1クラッド部の外周に前記多孔質ガラス母材の第2クラッド部を形成する第3の前記バーナと、
を用い、
第1の前記バーナに供給する前記ガスの流量が、堆積開始時の流量から流量を増加させて定常時の流量に到達するまでの時間をTa(min)、第2の前記バーナに供給する前記ガスの流量が、堆積開始時の流量から流量を増加させて定常時の流量に到達するまでの時間をTb(min)、第3の前記バーナに供給する前記ガスの流量が、堆積開始時の流量から流量を増加させて定常時の流量に到達するまでの時間をTc(min)としたとき、Ta<Tb<Tcであり、
前記出発部材の引き上げ速度がv(mm/min)であり、第1の前記バーナの中心軸の延長線と前記出発部材の中心軸との交点と、第2の前記バーナの中心軸の延長線と前記出発部材の中心軸との交点との距離がH1(mm)であり、第1の前記バーナの中心軸の延長線と前記出発部材の中心軸との交点と、第3の前記バーナの中心軸の延長線と前記出発部材の中心軸との交点との距離がH2(mm)であるとき、
(Tb−Ta)<(H1/v)かつ(Tc−Ta)<(H2/v)
の関係を満たすこと
を特徴とする多孔質ガラス母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型の多孔質ガラス母材を製造する場合に、堆積中の母材の割れや外径変動が少ない母材を製造することが可能な多孔質ガラス母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの製造方法として、VAD法(気相軸付け法)がよく知られている。VAD法は、反応容器内に複数のバーナを配置し、四塩化珪素などのガラス原料ガス、水素などの可燃性ガス及び酸素などの助燃性ガスを各バーナに供給して、ガラス原料を酸水素火炎中で加水分解することによりガラス微粒子を生成し、生成したガラス微粒子を、自身の中心軸を回転軸として回転しつつバーナに対し相対的に引き上げられる出発部材を起点に当該中心軸に沿って堆積していくことで、コア層とクラッド層からなる多孔質ガラス母材を製造するものである。
【0003】
具体的には、例えば
図1に示すように、反応容器1内において、吊り下げシャフト6に固定された出発部材2の中心軸の近くから遠くに向かって、かつ、鉛直下側から上側に向かって、順にコア堆積用の第1バーナ3、第1クラッド堆積用の第2バーナ4、第2クラッド堆積用の第3バーナ5が配置され、第1バーナ3には四塩化珪素以外にGeO
2をドープするための四塩化ゲルマニウムが供給される。第1バーナ3、第2バーナ4、第3バーナ5からガラス微粒子を、回転しつつ引き上げられる直径20mm程度の細い出発部材2に噴き付け、
図2に示すように、出発部材2の下部で多孔質ガラス母材を徐々に太らせて直径180mm程度の所望の外径まで成長させ(非製品テーパー部8の形成)、その堆積状態を安定に保持して堆積する(製品直胴部9の形成)ことで、所望の多孔質ガラス母材を製造する。
【0004】
堆積開始時から、製品直胴部9を形成する定常時のガス流量を各バーナに導入した場合、非製品テーパー部8の細い外径に対しガス量が多すぎるために、大きく堆積効率が下がったり、密度が過度に高くなり母材に曲がりや変形が生じたりするという問題が生じる。そこで、このような問題を定常時のガス流量よりも堆積初期のガス流量を少なくすることにより解決する方法が特許文献1、2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平06−015413号公報
【特許文献2】特公平06−017238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、母材の大型化が急速に進んでおり、定常時のガス流量を増やすことにより、外径の太い大型の多孔質ガラス母材を製造している。しかし大型化のために、堆積開始時から定常時に至るまでの時間を従来と変えることなく定常時のガス流量を増やした場合、ガス流量の時間当たりの変化量が大きくなる。ガス流量が変化すると、各バーナの火炎内での堆積量分布や密度分布が変化する。特に、ガス流量の変化が大きい場合には、ガラス微粒子が綺麗なテーパー状に堆積されず、表面が凹凸になりやすい。また、テーパー自体が急峻になるため、内側のバーナで堆積した非製品テーパー部8から製品直胴部9に移行する部分の周囲に、更に外側のバーナで堆積したとき、移行部分の堆積量変化が大きくなり、その部分でも凹凸になりやすい。
【0007】
このようにして非製品テーパー部8の凹凸が大きくなってしまうと、その外径変動が製品直胴部9にも残ってしまい、製品末端部の外径変動不良が増えるといった問題や、凹凸部分に存在する密度差の影響で堆積中に母材が割れてしまうといった問題が発生しやすい。
【0008】
本発明の目的は、VAD法により大型の多孔質ガラス母材を製造する装置において、滑らかなテーパー部を形成し、非有効部の長さを変えることなく母材の割れや外径変動を抑制可能な多孔質ガラス母材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の多孔質ガラス母材の製造方法は、自身の中心軸を回転軸として回転している出発部材を、ガラス原料を含むガスを酸水素火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成するバーナに対して相対的に引き上げながら、バーナが生成したガラス微粒子を出発部材を起点に当該出発部材の中心軸に沿って堆積させていくことで多孔質ガラス母材を製造する多孔質ガラス母材の製造方法であって、多孔質ガラス母材のコア部を形成する第1のバーナと、コア部の外周に第1クラッド部を形成する第2のバーナと、第1クラッド部の外周に第2クラッド部を形成する第3のバーナと、を用い、第1のバーナに供給するガスの流量が、堆積開始時のガスの流量から流量を増加させて定常時のガスの流量に到達するまでの時間をTa(min)、第2バーナに供給するガスの流量が堆積開始時のガスの流量から流量を増加させて定常時のガスの流量に到達するまでの時間をTb(min)、第3のバーナに供給するガスの流量が堆積開始時のガスの流量から流量を増加させて定常時のガスの流量に到達するまでの時間をTc(min)としたとき、Ta<Tb<Tcとする。これにより、非製品テーパー部の表面への凹凸発生を抑制し滑らかなテーパー形状で堆積することができる。
【0010】
更に、出発部材の引き上げ速度がv(mm/min)、第1のバーナの中心軸の延長線と出発部材の中心軸との交点と、第2のバーナの中心軸の延長線と出発部材の中心軸との交点との距離がH1(mm)、第1のバーナの中心軸の延長線と出発部材の中心軸との交点と、第3のバーナの中心軸の延長線と出発部材の中心軸との交点との距離がH2(mm)であるとき、
0<(Tb−Ta)<(H1/v)かつ0<(Tc−Ta)<(H2/v)
を満たすようにTa、Tb、Tcを構成するとよい。これにより、非製品テーパー部の表面を滑らかにするだけでなく、バーナごとに定常時のガスの流量に到達するまでの時間を相違させたことにより生じうる、非製品テーパー部から製品直胴部に移行する部分におけるクラッドの厚さ不足の発生を抑制することができ、よって、より良好な母材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の多孔質ガラス母材の製造方法を実行する製造装置の一例を示す図である。
【
図2】多孔質ガラス母材の概略形状を示す図である。
【
図3】非製品テーパー部の概略形状を示す図である。
【
図4】従来の製造方法の検証に適用したガス流量の時間変化を示す図である。
【
図5】従来の製造方法で大型化した場合の非製品テーパー部の概略形状の一例を示す図である。
【
図6】本発明の製造方法の検証に適用したガス流量の時間変化を示す図である。
【
図7】本発明の製造方法で大型化した場合の非製品テーパー部の概略形状の一例を示す図である。
【
図8】本発明の製造方法の検証に適用したガス流量の時間変化を示す別の図である
【
図9】本発明の製造方法で大型化した場合の非製品テーパー部の概略形状の一例を示す別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に本発明の多孔質ガラス母材の製造方法を実行する製造装置の一例を示す。本発明の多孔質ガラス母材の製造方法は、自身の中心軸を回転軸として回転している出発部材2を、ガラス原料を含むガスを酸水素火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成する複数のバーナに対して相対的に引き上げながら、当該複数のバーナが生成したガラス微粒子を出発部材を起点に当該出発部材の中心軸に沿って堆積させていくことで多孔質ガラス母材を製造する従来の製造方法において、ガラス微粒子の堆積開始時のガスの流量から流量を増加させて定常時のガスの流量に到達するまでの時間をバーナごとに相違させることを特徴とするものである。
【0013】
具体的には例えば、多孔質ガラス母材のコア部を形成する第1のバーナ3、コア部の外周に第1クラッド部を形成する第2のバーナ4、及び第1クラッド部の外周に第2クラッド部を形成する第3のバーナ5を用い、第1のバーナに供給するガスの流量が、堆積開始時のガスの流量から流量を増加させて定常時のガスの流量に到達するまでの時間をTa(min)、第2バーナに供給するガスの流量が堆積開始時のガスの流量から流量を増加させて定常時のガスの流量に到達するまでの時間をTb(min)、第3のバーナに供給するガスの流量が堆積開始時のガスの流量から流量を増加させて定常時のガスの流量に到達するまでの時間をTc(min)としたとき、Ta<Tb<Tcとする。
【0014】
堆積開始時のガス流量から定常時のガス流量への変化の程度に対する母材の太径化の影響は、母材のより外側の層ほど大きいため、母材のより外側の層にガラス微粒子を堆積させるバーナほど、堆積開始時のガスの流量から定常時のガスの流量に到達するまでの時間を長くすることで、外側のバーナのガス流量の時間当たりの変化量を小さくすることができる。これにより、非製品テーパー部の表面への凹凸発生を抑制し滑らかなテーパー形状で堆積することができる。
【0015】
更に、バーナごとに定常時のガスの流量に到達するまでの時間を相違させたことにより生じうる、非製品テーパー部8から製品直胴部9に移行する部分におけるクラッドの厚さ不足を防ぐためには、以下のように構成するとよい。
【0016】
図2に多孔質ガラス母材の概略形状図を、
図3に3つのバーナで堆積したテーパー部分の模式図をそれぞれ示す。多孔質ガラス母材の製品直胴部9は、コア部形成用の第1のバーナ3のガス流量が定常時の流量に到達し、堆積されたコア部11の形状が定常時の形状になった位置(
図3のaのライン)から下側である。そのため実質的には、このaのラインまでに、第1クラッド部形成用の第2のバーナ4と第2クラッド部形成用の第3のバーナ5のガス流量が定常に到達し、堆積された第1クラッド部12と第2クラッド部13の形状が定常時の形状になっていればよいことになる。
【0017】
そこで、出発部材の引き上げ速度がv(mm/min)、第1のバーナの中心軸の延長線と出発部材の中心軸との交点と、第2のバーナの中心軸の延長線と出発部材の中心軸との交点との距離がH1(mm)、第1のバーナの中心軸の延長線と出発部材の中心軸との交点と、第3のバーナの中心軸の延長線と出発部材の中心軸との交点との距離がH2(mm)であるとき、
0<(Tb−Ta)<(H1/v)かつ0<(Tc−Ta)<(H2/v)
を満たすようにTa、Tb、Tcを構成するとよい。
【0018】
これにより、第1のバーナのガス流量が定常時の流量に達しコア部の堆積形状が安定する位置より上方で、第2、第3のバーナのガス流量が定常時の流量に達して第1、第2クラッド部の堆積形状が安定するため、非製品テーパー部から製品直胴部に移行する部分におけるクラッドの厚さ不足を防ぐことができ、よって、より良好な母材を提供することができる。
【0019】
本発明による多孔質ガラス母材の製造方法は、本発明において表現されている技術的思想の範囲内で適宜変更が可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0020】
<効果の確認>
ガラス原料ガス(SiCl
4)、可燃性ガス(H
2)、助燃性ガス(O
2)等を第1バーナ3、第2バーナ4、及び第3バーナ5に供給して火炎加水分解反応によりガラス微粒子を生成し、反応容器1内に配置した出発部材2を回転させながらガラス微粒子を出発部材に堆積させつつ、上方に引き上げていくことにより多孔質ガラス母材の製造を行った。
【0021】
[従来例1]
出発母材2の引き上げ速度を1.0(mm/min)とし、第1のバーナ3、第2のバーナ4、及び第3のバーナ5を、H1=70(mm)、H2=140(mm)となる位置関係に配置し、各バーナには表1に示す流量でSiCl
4を供給して、堆積開始時から定常時に至るまで5時間かけてガス流量を連続的に変化させていった。可燃性ガス及び助燃性ガスは、供給するSiCl
4の流量に応じて適宜ガス流量を調整し、定常時の流量に到達した以後はその流量で堆積させて24時間後に堆積を終了した。同じ条件で多孔質ガラス母材を10本堆積した結果、非製品テーパー部8の表面が滑らかに形成された平均外径180mmの多孔質ガラス母材が製造され、製品直胴部9の外径変動(凹凸)や堆積中の割れといった不良は生じなかった。
【0023】
[従来例2(比較例)]
母材を大型化するために、各バーナに供給する供給するSiCl
4の流量を表2に示すように大幅に増加させた以外は、従来例1と同様に堆積開始時から定常時に至るまで5時間かけてガス流量を
図4に示すように連続的に変化させていった。同じ条件で多孔質ガラス母材を10本堆積した結果、平均外径200mmの多孔質ガラス母材が製造されたが、
図5に示すように非製品テーパー部8の外径変動(凹凸)が大きく、その変動が製品直胴部9にまで影響を与え、製品直胴部9の5%が外径変動を理由に不良と判定された。また、製造した10本中2本が非製品テーパー部8の凹凸の凸部を起点として割れてしまった。
【0025】
[実施例1]
図6に示すように、堆積開始時から定常時に至るまで、第1のバーナ3は5時間、第2のバーナ4は6時間、第3のバーナ5は7時間かけてガス流量を変化させた以外は、従来例2と同様な方法で堆積を行った。ここで、可燃性ガス及び助燃性ガスは、供給するSiCl
4の流量に応じて適宜ガス流量を調整していった。同じ条件で多孔質ガラス母材を10本堆積した結果、
図7に示すような、非製品テーパー部8の表面が滑らかに形成された平均外径200mmの多孔質ガラス母材が製造され、製品直胴部9の外径変動(凹凸)や堆積中の割れといった不良は生じなかった。
【0026】
[実施例2(比較例)]
図8に示すように、堆積開始時から定常時に至るまで、第1のバーナ3は5時間、第2のバーナは7時間、第3のバーナは9時間かけてガス流量を変化させた以外、すなわち、(Tb−Ta)<(H1/v)かつ(Tc−Ta)<(H2/v)の関係を満たさない時間設定に変更した以外は、実施例1と同様な方法で堆積を行った。ここで、可燃性ガス及び助燃性ガスは、供給するSiCl
4の流量に応じて適宜ガス流量を調整した。その結果、
図9に示すような、非製品テーパー部8の表面が滑らかに形成された平均外径200mmの多孔質ガラス母材が製造され、製品直胴部9の外径変動(凹凸)や堆積中の割れといった不良は生じなかったが、堆積されたコア部11の形状が定常時の形状になったaのラインにおいて、堆積された第1クラッド部12と第2クラッド部13の形状が定常時の形状にまで至らず堆積量が不足したため、製品直胴部9の3%が特性不良となってしまった。
【0027】
従来例と実施例との比較から、本発明の製造方法によることで、母材を太径化しても非製品テーパー部の表面が滑らかに形成され、外径変動や堆積中の割れが生じにくい多孔質ガラス母材を製造することができることがわかる。また、実施例1と実施例2の比較から、各バーナのガス流量、各バーナの位置、及び出発部材の引き上げ速度の関係を適正化することで、非製品テーパー部から製品直胴部に移行する部分におけるクラッドの厚さ不足を防ぐことができ、よって、より良好な母材を提供することができることがわかる。
【符号の説明】
【0028】
1 反応容器
2 出発部材
3 第1のバーナ
4 第2のバーナ
5 第3のバーナ
6 吊り下げシャフト
8 非製品テーパー部
9 製品直胴部
11 コア部
12 第1クラッド部
13 第2クラッド部