【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代プリンテッドエレクトロニクス材料・プロセス基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
室井宗一、石村秀一,入門 エポキシ樹脂,(株)高分子刊行会/西口守,1988年 6月20日,p.151-153
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項3記載の導電回路基板の製造方法であって、前記光焼成用樹脂フィルム基材上に回路パターンを形成した後、該回路パターンを光焼成することを特徴とする導電回路基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルム基板やガラス基板等に熱硬化型の導電性樹脂組成物を塗布または印刷して、加熱硬化させることにより、抵抗膜方式タッチパネルの電極やプリント配線板の回路パターン等を形成していた。また、プラズマディスプレイパネル、蛍光表示管、電子部品等における導体パターンの形成には、一般に極めて多量の金属粉またはガラス粉末を含有する導電性ペーストを用いてスクリーン印刷法によってパターン形成が行われていた。
【0003】
しかしながら、このような方法では、高温での加熱や焼成が必要であるため、基板が高温の影響を受けない材料に限定されるという難点がある。例えば、セルロース(紙)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、および他の多くのプラスチック等のコストがより低い、または可撓性の基板の多くは、これらの温度に耐えることができない。同様に、有機半導体等の基板上の他の成分も、高温で分解してしまうおそれがある。
【0004】
このような問題を解決する手段として、近年、いわゆる、光焼成という技術が開発され、注目を集めている。例えば、特許文献1には、少なくとも粒径1μm未満のナノ粒子を含有する分散体を基材上にパターン印刷し、パルス発光を照射することにより、大部分の金属ナノ粒子を含む一部のナノ粒子が言わば黒体としての挙動を示し、高い電磁線吸収率を示し、かつ、粒子の熱質量が小さいことにより粒子が急速に加熱、融着されて硬化した回路パターンを形成する方法が提案されている。この方法の場合、基板の熱伝導率が悪く、かつパルス長が短いことにより、最小限のエネルギーしか基板には伝達されないので、従来の熱硬化や焼成による方法の問題を解決することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているような光焼成技術を用いてプラスチック等の可撓性基材に回路パターンを形成した場合、可撓性基材が焼成時にダメージを受けてしまい回路パターンにクラックや断線を誘発してしまう場合がある。したがって、今日、プラスチック等の可撓性の基材に、光焼成という技術を用いて回路パターンを形成するには、このような問題を解決しなければならない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、光焼成を行っても表面に形成した回路パターンに断線やクラックが生じない光焼成用熱可塑性樹脂フィルム基材、これを用いた導電回路基板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、以下の知見を得るに至った。
図5は、従来の基材に回路パターンを形成する際における光焼成前後の基材の断面図であり、(a)は光焼成前、(b)は光焼成後である。プラスチック等の可撓性の基材1上に回路パターンを形成するに当たって、基材1上に導電性組成物で形成した回路パターンの塗膜2を光焼成すると、導電性組成物中の導電性物質の粒子が急速に加熱、融着して基材1上で固化し、回路パターンに応じた導体3を形成する。この際、導体3は同時に熱により収縮する。一方、導体3の温度上昇に伴い、基材1の温度も上昇するため、プラスチック等の可撓性の基材1を用いた場合、基材1の温度が融点以上に上昇すると、導体3の収縮に伴い、基材1自身も収縮してしまう。
【0009】
図示例においては、導体3の縁部近傍の基材1が導体3の収縮に伴い引っ張られて、凹み4が生じ、基材1がダメージを受けている。これにより、可撓性の基材1に形成した回路パターンに断線が生じてしまうと考えられる。本発明者はかかる知見に基づき、さらに鋭意検討した結果、基材の表層に架橋構造を有する樹脂層を設けることで、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の光焼成用熱可塑性樹脂フィルム基材は、基材の表層に、架橋構造を有する樹脂層が形成されてなることを特徴とするものである。ここで、架橋構造とは、架橋基を有する同一高分子間、異種高分子間、高分子−低分子間、及び、同一または異種の低分子間において、熱、光などの電磁エネルギー等により、互いに結合することで形成された、三次元の網目構造のことである。架橋構造を形成することにより、高分子等のもつ融点は消失し、見かけ上の分子量が無限大となるため、流動性や溶解度に変化が起こり耐薬品性、耐溶剤性、耐候性、耐熱性、耐熱老化性等に優れた特性を示すようになる。なお、本明細書中で示されるガラス転移温度は、公知慣用の測定方法により測定可能であるが、好ましくは示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)により測定された値である。
【0011】
本発明のフィルム基材においては、前記樹脂層は活性エネルギー線の照射により硬化されてなるものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の導電回路基板は、上記本発明の光焼成用熱可塑性樹脂フィルム基材上に回路パターンが形成されてなることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明の導電回路基板の製造方法は、上記本発明の導電回路基板の製造方法であって、前記光焼成用熱可塑性樹脂フィルム基材上に回路パターンを形成した後、該回路パターンを光焼成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光焼成を行っても表面に形成した回路パターンに断線やクラックが生じない光焼成用熱可塑性樹脂フィルム基材、これを用いた導電回路基板およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
[光焼成用熱可塑性樹脂フィルム基材]
本発明の光焼成用熱可塑性樹脂フィルム基材は、基材の表層に、架橋構造を有する樹脂層が形成されてなるものである。
図1は、本発明の基材に回路パターンを形成する際における光焼成前後の基材の断面図であり、(a)は光焼成前、(b)は光焼成後である。図示するように、本発明の基材は、基材1の表層に架橋構造を有する樹脂層5が設けられている。この樹脂層5により、光焼成時に導体3が収縮しても基材1は収縮することはなくなり、光焼成時における回路パターンのクラックや断線を防止することができる。かかる効果を良好に得るためには、基材の表層に形成される架橋構造を有する樹脂層のガラス転移温度は、100℃以上が好ましく、より好ましくは140℃以上250℃以下である。
【0017】
本発明の基材においては、基材1の表面に設けられる樹脂層5については、架橋構造を有するもの、好ましくはガラス転移温度が上記範囲を満足するものであれば特に制限はないが、活性エネルギー線の照射により硬化したものであることが好ましい。これは、架橋構造を有する樹脂層5は、基材1上に樹脂層5となる樹脂組成物を塗布してこれを活性エネルギー線の照射により硬化させることによって、容易に形成することができるためである。
【0018】
上述のとおり、本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物としては、樹脂層5の状態で架橋構造を有するものであれば、特に制限はないが、しかしながら、本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物としては、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が好ましく、活性エネルギー線硬化性樹脂としては、一分子中にひとつ以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物が好ましい。例えば、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、アクリル樹脂の側鎖にエチレン性不飽和二重結合を導入した変性アクリル樹脂等が挙げられる。中でも、二つ以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物がより好ましく、さらに、ジアリルフタレート樹脂が特に好ましい。本発明の基材に係る樹脂層5を形成する樹脂組成物は、(A)ジアリルフタレート樹脂と、(B)多官能モノマーと、(C)光重合開始剤と、を含有する。以下、(A)ジアリルフタレート樹脂と、(B)多官能モノマーと、(C)光重合開始剤と、を有する樹脂組成物について詳細に説明する。
【0019】
なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタアクリレートおよびそれらの混合物を総称する用語で、他の類似の表現についても同様である。
【0020】
<(A)ジアリルフタレート樹脂>
本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物においては、ジアリルフタレート樹脂としては、ジアリルフタレート系繰り返し単位を含むものであればよく、ジアリルフタレート系モノマーの単独重合体、2種以上のジアリルフタレート系モノマーの共重合体の他、ジアリルフタレート系モノマーと、このモノマーと共重合可能な他のモノマー(例えば、エチレン性二重結合を有する芳香族化合物、エチレン性二重結合を有する脂肪族化合物、または(メタ)アリル化合物)との共重合体であってもよい。ジアリルフタレート系モノマーと、このモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体は、通常、ジアリルフタレート系繰り返し単位が主体をなす。
【0021】
ジアリルフタレート樹脂の原料となるジアリルフタレート系モノマーは、ジアリルオルソフタレートモノマー、ジアリルイソフタレートモノマー、およびジアリルテレフタレートモノマーから選択される化合物である。これら化合物の1種または2種以上を用いてのジアリルフタレート樹脂の合成、およびこれらジアリルフタレート系モノマーと、このモノマーと重合可能な他のモノマーを用いてのジアリルフタレート樹脂の合成は既知の手法を用いればよく、例えば、特公平2−024850号公報、特開平11−147917号公報等に記載された重合反応を採用することができる。
【0022】
本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物に用いられるジアリルフタレート樹脂としては、例えば、ダイソー社製の「ダップ−A」(登録商標)のような、単独重合体であるジアリルオルソフタレート樹脂、ダイソー社製の「イソダップ」(登録商標)のような、ジアリルイソフタレート樹脂、ジアリルテレフタレート樹脂が好ましく、ジアリルオルソフタレート樹脂、およびジアリルイソフタレート樹脂がより好ましい。
【0023】
本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物においては、好適に用い得るジアリルフタレート樹脂は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法)で測定した重量平均分子量(ポリスチレン換算)が20,000〜60,000であり、より好ましくは50,000〜60,000である。重量平均分子量が60,000を超えると硬化性が悪くなるおそれがあり、20,000未満であると耐熱性が悪くなるおそれがあるからである。
【0024】
<(B)多官能モノマー>
本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物においては、多官能モノマーとしては、1分子中に少なくとも2つ以上の重合性不飽和基を有する化合物であれば、いかなるものも使用可能である。具体的には、多価アルコールと、α,β−不飽和カルボン酸とを縮合して得られる化合物(例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(ジアクリレートまたはジメタクリレートの意味、以下同様)、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンヘキサアクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(1,2−プロピレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、トリ(1,2−プロピレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、テトラ(1,2−プロピレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等)、スチレン、ジビニルベンゼン、4−ビニルトルエン、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、メチレンビスアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等を挙げることができ、より好ましくは、ジメチロールプロパンヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の3官能以上であることが好ましい。本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物においては、これらは1種または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物においては、多官能モノマーは、ジアリルフタレート樹脂100質量部に対し、1〜100質量部の割合で配合することが好ましく、3〜50質量部の範囲がさらに好ましい。1〜100質量部の範囲を逸脱すると、本発明の所期の効果が得られない場合があり好ましくない。
【0026】
<(C)光重合開始剤>
本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物においては、光重合開始剤としては、活性エネルギー線の照射によりラジカルを発生する公知の化合物が使用可能であり、例えば、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ジクロロアセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、N,N−ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン類;ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン類;ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2,3−ジフェニルアントラキノン等のアントラキノン類;ベンゾイルパーオキシド、クメンパーオキシド等の有機過酸化物;2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体、リボフラビンテトラブチレート、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール等のチオール化合物;2,4,6−トリス−s−トリアジン、2,2,2−トリブロモエタノール、トリブロモメチルフェニルスルホン等の有機ハロゲン化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等を挙げることができる。また、その他の例として、アクリジン化合物類、オキシムエステル類等を挙げることができる。本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物においては、これらは1種または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物においては、上記のような光重合開始剤は、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、ペンチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類、およびβ−チオジグリコール等のチオエーテル類、(ケト)クマリン、チオキサンテン等の増感色素類、およびシアニン、ローダミン、サフラニン、マラカライトグリーン、メチレンブルー等のアルキルホウ酸塩のような光増感剤または促進剤の1種または2種以上と組み合わせて用いることができる。
【0028】
光重合開始剤の好ましい組合せとしては、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン(例えばBASFジャパン社製、イルガキュアー907)と、2−クロロチオキサントン(例えば、日本化薬(株)製カヤキュアーCTX)や2,4−ジエチルチオキサントン(例えば、日本化薬(株)製カヤキュアーDETX)、2−イソプロピルチオキサントン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等との組合せを挙げることができる。
【0029】
本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物においては、光重合開始剤の添加量の好適な範囲は、ジアリルフタレート樹脂100質量部に対して0.01〜30質量部、好ましくは0.1〜20質量部である。光重合開始剤の配合割合が0.01質量部未満の場合には光硬化性が悪くなり、一方、30質量部より多い場合には硬化塗膜の特性が悪くなり、また、保存安定性が悪くなるので好ましくない。
【0030】
<その他添加剤>
本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物においては、上記(A)〜(C)の他に、本発明の所期の効果を損なわない限り、他の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、シリコーン系、フッ素系の消泡剤、レベリング剤、公知慣用の熱重合禁止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、可塑剤、発泡剤、難燃剤、帯電防止剤、老化防止剤、抗菌・防黴剤等を挙げることができる。
【0031】
<フィラー>
本発明の基材の樹脂層5には、公知慣用の無機または有機フィラーを使用することができるが、特に硫酸バリウム、球状シリカが好ましく、球状シリカは平均一次粒径が1〜100nmのものが好ましい。ここで、平均一次粒径とは、レーザ散乱法により測定した値である。具体的には、ナノシリカを溶媒中に分散し、その分散溶媒にレーザ光を当てて得られた散乱光を捕捉し、演算することにより、得られる平均粒子径である。ナノシリカは、シランカップリング剤等により表面処理施されたもの、未処理のものいずれも用いることができる。また、2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物や多官能エポキシ樹脂にナノシリカを分散したHanse−Chemie社製のNANOCRYL(商品名) XP 0396、XP 0596、XP 0733、XP 0746、XP 0765、XP 0768、XP 0953、XP 0954、XP 1045(何れも製品グレード名)や、Hanse−Chemie社製のNANOPOX(商品名) XP 0516、XP 0525、XP 0314(何れも製品グレード名)も使用できる。これらのフィラーを単独でまたは2種以上配合することができる。これらのフィラーは、塗膜の硬化収縮を抑制し、密着性、硬度等の基本的な特性を向上させることができる。
【0032】
本発明の基材の樹脂層5においては、これらフィラーの配合量は、(A)ジアリルフタレート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜300質量部、より好ましくは、0.1〜150質量部である。フィラーの配合量が、0.1質量部未満の場合、硬化塗膜特性が低下するので、好ましくない。一方、300質量部を超えた場合、組成物の粘度が高くなり印刷性が低下たり、硬化物が脆くなるので好ましくない。
【0033】
<有機溶剤>
本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物においては、必要に応じて樹脂組成物を均一に溶解したり、粘度を調整したりするために、有機溶剤を用いてもよい。有機溶剤は、各成分を均一に溶解することができ、かつ、各成分と反応しないものであれば、特に制限はない。
【0034】
これら有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート等のエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のジエチレングリコール類;プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールエチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールプロピルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールブチルエーテルプロピオネート等のプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン等のケトン類;および酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、ヒドロキシ酢酸メチル、ヒドロキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、3−ヒドロキシプロピオン酸メチル、3−ヒドロキシプロピオン酸エチル、3−ヒドロキシプロピオン酸プロピル、3−ヒドロキシプロピオン酸メチル、3−ブトキシプロピオン酸エチル、3−ブトキシプロピオン酸プロピル、3−ブトキシプロピオン酸ブチル等のエステル類を挙げることができる。
【0035】
これらの有機溶剤の中でも、溶解性、各成分との反応性および塗膜の形成のしやすさから、グリコールエーテル類、グリコールアルキルエーテルアセテート類、エステル類およびジエチレングリコール類が好ましく用いることができる。本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物においては、これら有機溶剤を1種でまたは2種類以上混合して用いてもよい。
【0036】
本発明の基材の樹脂層5を形成する樹脂組成物を製造するには、上記ジアリルフタレート樹脂を主成分として、これに適宜必要量の多官能モノマー、および光重合開始剤を加えた後、必要に応じて上記添加剤を添加し混合、攪拌すればよい。
【0037】
[光焼成用熱可塑性樹脂フィルム基材の製造方法]
基材1の表層に架橋構造を有する樹脂層5を形成する方法としては、印刷法等のウェットプロセスを挙げることができる。ウェットプロセスとしては、ディップコート法、フローコート法、ロールコート法、バーコーター法、スクリーン印刷法、カーテンコート法、グラビア印刷法、オフセット印刷法等の既知の方法を採用することができる。
【0038】
本発明の基材に用いる基材1については特に制限はなく、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の可撓性のプラスチックフィルムおよびこれらフィルムにガスバリヤー性、ハードコート層を付けた複合フィルムを、合成樹脂基材として用いることができる。
【0039】
本発明の基材の樹脂層5を活性エネルギー線硬化性樹脂組成物で形成する場合は、照射光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプまたはメタルハライドランプ等を好適に用いることができる。本発明のフィルム基材1の樹脂層5を活性エネルギー線硬化性樹脂組成物以外の樹脂組成物で形成した場合は、その他、レーザー光線、電子線等も活性エネルギー線として利用してもよい。
【0040】
[導電回路基板およびその製造方法]
次に、本発明の導電回路基板およびその製造方法について説明する。本発明の導電回路基板は、上記本発明の基材上に回路パターンが形成されてなるものである。
【0041】
本発明の導電回路基板の回路パターンの形成は、例えば、導電性組成物を塗布、印刷等のウェットプロセスにより形成することができる。ウェットプロセスとして、例えば、インクジェット記録法、スクリーン印刷法、スピンコート法、バーコート法、スリットコート法、ディップコート法、スプレーコート法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、グラビアオフセット法、凸版オフセット法、マイクロコンタクトプリント法、凸版反転印刷法等の既知の方法を採用することができる。
【0042】
本発明の導電回路基板の回路パターンの形成に当たって、印刷法を採用する場合、導電性組成物としては、例えば、適当な溶剤中に、金、銀、銅、ニッケル、亜鉛、アルミ、カルシウム、マグネシウム、鉄、白金、パラジウム、スズ、クロム、鉛等の金属粒子および銀/パラジウム等のこれら金属の合金、酸化銀、有機銀、有機金等の比較的低温で熱分化して導電性金属を与える熱分解性金属化合物、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジュウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物粒子を導電性成分として含んでいてもよいし、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)、ポリアニリン等の導電性高分子を含んでいてもよい。また、導電性組成物の溶剤の種類に制限はなく導電性材料の溶解または分散に適した溶剤を適宜選択できる。例えば、水、炭化水素系、アルコール系、ケトン系、エーテル系、エステル系、フッ素系等の各種有機溶剤を使用できる。
【0043】
導電性組成物には導電性材料の他、必要に応じて樹脂等のバインダー成分、酸化防止剤、皮膜形成促進のための各種触媒、各種表面張力調整剤、レベリング剤、離型促進剤等を添加してもよい。これらの導電性組成物の中でも、特にナノ銀粒子を溶剤に分散し、低分子シリコーン等の離型剤、フッ素系界面活性剤等の表面張力調整剤を混合した導電性組成物は凸版反転印刷法に適しており、優れたパターンニング性および低温焼成で高い導電性を示すことから好適に使用できる。
【0044】
本発明の導電回路基板の製造方法においては、本発明の基材上に形成された回路パターンの焼成には、光焼成を用いる。光焼成は、フラッシュランプを用いた光照射が好ましい。フラッシュランプは、石英やガラス等の管内に発光ガス(Xe・Kr・Ar・Ne等)を封入したランプで、発光時間1μs〜5000μsの極めて短い時間、発光するもので、200nmから1100nmの波長の広帯域のスペクトルにて照射することができる。入手のし易さからXeを封入したキセノンフラッシュランプが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
<実施例1および参考例>
下記表1に示す配合で各成分(単位は質量部)を混合し、各成分を十分に撹拌、溶解させた後、0.45μmメンブレインフィルターを用いて濾過し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を基材である125μm厚のPETフィルム(東洋紡社製:コスモシャインA4300)にバーコーターにて塗布し、90℃で5分間加熱して、溶剤を揮散させた。その後、高圧水銀灯を用いて積算光量2,000mJ/cm
2の活性エネルギー線で樹脂組成物を硬化させて基材上に樹脂層を形成してフィルム基材を作製した。硬化後の樹脂層の膜厚は2〜3μmであった。
【0046】
上記手順で作成した基材に、導電性組成物としてAgペースト(平均粒径20nmの銀粒子をターピネオールに分散させた、銀含有率=40質量%のナノ銀ペースト)を、メッシュ数355(T355B:乳剤厚5μm)のスクリーン版を用いてスクリーン印刷により付与し、膜厚1.0μmの回路パターンを形成した。この回路パターンをキセノンフラッシュランプ(ランプ出力:750V、パルス長2300μ秒、2600μ秒、大気下)にて光焼成して、導電回路基板を作製した。得られた導電回路基板につき、ミリオームハイテスタ3540(日置電機社製)を用いてライン抵抗値を、ロレスタGP(三菱化学アナリテック社製)を用いてシート抵抗値を、ライン抵抗値と線幅、膜厚、配線長より計算された比抵抗値につき評価した。得られた結果を表1に併記する。また、
図2に、実施例1の導電回路基板の回路パターンの一部の電子顕微鏡写真を、
図3に、参考例の導電回路基板の回路パターンの一部の電子顕微鏡写真を示す。これら電子顕微鏡写真をもとに、電極両わきの基材のえぐれを評価した。えぐれが無く、形状も良好なものを〇、えぐれはないが電極にクラックが生じたものは△、両わきがえぐれてしまったものは×とした。
【0047】
<比較例>
基材上に樹脂層を設けなかったこと以外は上記と同様の手順いて導電回路基板を作製し、同様の方法にて、ライン抵抗値、シート抵抗値、比抵抗値につき評価した。得られた結果を表1に併記する。また、
図4に、比較例の導電回路基板の回路パターンの一部の電子顕微鏡写真を示す。
【0048】
【表1】
※1:導通せず
※2:焼結不足のため測定できず
【0049】
上記表1より、本発明の光焼成用熱可塑性樹脂フィルム基材は、光焼成を行っても表面に形成した回路パターンにクラックや断線が生じてないことがわかる。また、実施例1では、電極両わきの基材にえぐれは見られず形状も良好であり、参考例では、電極両わきの基材にえぐれは見られないが、若干電極にクラックが生じていた。比較例は、電極両わきの基材がえぐれてしまっていることがわかる。(
図2〜4参照)