特許第6441330号(P6441330)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6441330熱安定性が改善されたセロビオハイドロラーゼ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441330
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】熱安定性が改善されたセロビオハイドロラーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/56 20060101AFI20181210BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20181210BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20181210BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20181210BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20181210BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20181210BHJP
   C12N 9/42 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   C12N15/56ZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P19/14 A
   C12N9/42
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-523493(P2016-523493)
(86)(22)【出願日】2015年5月26日
(86)【国際出願番号】JP2015064994
(87)【国際公開番号】WO2015182570
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2017年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-109035(P2014-109035)
(32)【優先日】2014年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 一彦
(72)【発明者】
【氏名】岸下 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】中林 誠
(72)【発明者】
【氏名】蒲池 沙織
(72)【発明者】
【氏名】柳本 敏彰
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0203128(US,A1)
【文献】 特開2001−017180(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/103127(WO,A1)
【文献】 Protein Eng. Des. Sel.,2010年,Vol.23, No.2,pp.69-79
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12P 1/00−41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されるアミノ酸配列、配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、或いは配列番号1に示されるアミノ酸配列において1〜50個のアミノ酸が置換、挿入、付加、及び/又は欠失されたアミノ酸配列において、下記(A)、(B)、及び(C)から成る群より選択される1種以上の変異:
(A)S42Q、T43E、K45T、S46A、G47P、N53Q、及びS54N
(B)T262G及び/又はS298P;
(C)配列番号1に示されるアミノ酸配列における第413位〜第416番目のアミノ酸領域の配列番号2で示されるアミノ酸配列との置換;
を有し、且つ、
セロビオハイドロラーゼ活性、及び
改善された熱安定性、
を有する、ポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを組み込んだ発現ベクター。
【請求項4】
請求項3に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項5】
請求項4に記載の形質転換体を培養する工程を含む、請求項1に記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のポリペプチドをセルロースを含む試料に作用させる工程を含む、セロビオースを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性が改善された熱安定性を有するセロビオハイドロラーゼ及びその応用技術等に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースの糖化には様々な手法があるがエネルギー使用量が少なく、かつ糖収率の高い酵素糖化法が開発の主流となっている。セルロース分解酵素であるセルラーゼを大別すると、セルロースの結晶領域に作用するセロビオハイドラーゼ(本書では、「CBH」とも称する)とセルロース分子鎖内部から作用して分子量を低減させるエンドグルカナーゼとに分けられる。またβグルコシダーゼは、水溶性オリゴ糖又はセロビオースに作用し、そのβ−グリコシド結合を加水分解する反応を触媒する酵素である。これらの中で、セロビオハイドラーゼはセルロースの結晶領域に作用してセルロースを末端から加水分解するため、効率的な糖化に最も重要であり、大量に使用される酵素である。CBHは作用様式の違いからCBHIとCBHIIという2種類に分類される。CBHIはGH7に分類される酵素でセルロース鎖の還元性末端からセロビオース単位で切断し、活性部位及び基質結合部位を覆う4つの長いループを持つトンネル構造を形成している。そのため、 セルロース鎖はこのトンネルを通過し末端からセロビオース単位で切断される。CBHIIは、GH6に分類され、セルロース鎖の非還元性末端からセロビオース単位で切断する酵素であり、活性部位を覆う2つのループ構造が存在し、このループによって触媒部位がトンネル状の構造を形成する。
【0003】
これらの酵素群を用いたバイオマスの糖化反応は、その更なる効率化が望まれている。特に、酵素の熱安定性(耐熱性)を向上させることにより、雑菌汚染回避、反応効率の向上、及び酵素の再利用を通した効率化が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-17180
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Inoue et al., J.Ind. Microbiol. Biotechnol. 2013 Aug;40(8):823-30.
【非特許文献2】Kishishita et al., Protein Expr Purif. 2014 Feb;94:40-5.
【非特許文献3】Grassick et al., European Journal of Biochemistry Volume 271, Issue 22, pages 4495-4506, November 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような現状の下、本発明は、より熱安定性に優れたCBHIを提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題等を解決すべく鋭意研究を重ね、本発明者らは、タラロマイセス・セルロィティカス由来のCBHIのアミノ酸配列の特定のアミノ酸を置換することにより、その酵素活性を維持しつつ、熱安定性を顕著の向上させることが可能であることを見出した。本発明者らは、斯かる知見を基に更なる研究を重ね、本発明を完成するに至った。代表的な本発明を下記に示す。
項1.
配列番号1に示されるアミノ酸配列、配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、或いは配列番号1に示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、挿入、付加、及び/又は欠失されたアミノ酸配列において、下記(A)及び/又は(B)の変異:
(A)S42Q、T43E、K45T、S46A、G47P、N53Q、S54N、T262G、S298P、A426P、及びV451Fから成る群より選択される1種以上のアミノ酸置換;
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列における第413位〜第416番目のアミノ酸領域の配列番号2で示されるアミノ酸配列との置換;
を有し、且つ、
セロビオハイドロラーゼ活性、及び
改善された熱安定性、
を有する、ポリペプチド。
項2.
項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
項3.
項2に記載のポリヌクレオチドを組み込んだ発現ベクター。
項4.
項3に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
項5.
項4に記載の形質転換体を培養する工程を含む、項1に記載のポリペプチドの製造方法。項6.
項1に記載のポリペプチドをセルロースを含む試料に作用させる工程を含む、セロビオースを製造する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従えば、熱安定性に優れたセロビオハイドロラーゼが提供される。よって、本発明を利用することにより、効率的にバイオマスの糖化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、熱処理後のCBHIの残存活性を測定した結果を示す。
図2図2は、微結晶性セルロースを基質とした場合の変異体6及び野生型CBHIの最適温度を調べた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、糸状菌であるタラロマイセス・セルロィティカス由来の野生型CBHIを構成するアミノ酸配列であり、当該配列は公知である。
【0011】
熱安定性が改善されたCBHIは、配列番号1に示されるアミノ酸配列、配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、或いは配列番号1に示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、挿入、付加、及び/又は欠失されたアミノ酸配列において、後述する特定のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を有するポリペプチドであることが好ましい。本書において、「配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列」、並びに、「配列番号1に示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、挿入、付加、及び/又は欠失されたアミノ酸配列」を纏めて「配列番号1に相当するアミノ酸配列」と称する場合がある。
【0012】
アミノ酸配列の同一性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、例えば、ClustalW ver2.1 Pairwise Alignment(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/index.php?lang=ja)を使用し、デフォルトのパラメータを用いて算出することができる。また、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、算出することができる。
【0013】
一実施形態において、配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列は、好ましくは配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、より好ましくは配列番号1に示されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有し、更に好ましくは配列番号1に示されるアミノ酸配列と98%以上の同一性を有し、より更に好ましくは配列番号1に示されるアミノ酸配列と99%以上の同一性を有する。
【0014】
上述する「配列番号1に示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、挿入、付加、及び/又は欠失されたアミノ酸配列」における「数個」とは、CBHIがセロビオハイドロラーゼ活性及び改善した熱安定性を有する限り特に制限されず、例えば、50個、45個、30個、25個、20個、15個、10個、5個、3個、又は2個である。尚、ここでいう「数個」には、後述する熱安定性を向上させるために加えられる置換されたアミノ酸の数は含まれない。
【0015】
配列番号1に示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換されている場合、その置換の種類は、特に制限されないが、ポリペプチドの高次構造、表現形又は特性に顕著な負の影響を与えないという観点から保存的アミノ酸置換が好ましい。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)に分類することができる。よって、アミノ酸置換は、もとのアミノ酸配列に存在するアミノ酸と同一の上記カテゴリーに属する他のアミノ酸残基間で置換されることが好ましい。尚、ここでいう「置換」は、後述する熱安定性を向上させるために加えられる置換とは異なる。
【0016】
アミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加等の変異は、ポリペプチドの高次構造に顕著に影響しない領域や触媒活性に直接的に関与しない領域(例えば、活性中心以外の領域)において成されることが好ましい。そのような領域としては、例えば、タンパク質の表面に露出している領域を挙げることができる。
【0017】
1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入若しくは付加といった変異を特定のアミノ酸配列に加える技術は当該技術分野において公知であり、任意の手法を用いて行うことができる。例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法、ランダム突然変異導入法等を利用して行なうことができる。
【0018】
CBHIの熱安定性を改善させるために加えられる置換(上記「特定の置換」)とは、(A)S42Q、T43E、K45T、S46A、G47P、N53Q、S54N、T262G、S298P、A426P、及びV451Fから成る群より選択される1種以上のアミノ酸置換;及び/又は(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列における第413位〜第416番目に相当するアミノ酸領域の配列番号2で示されるアミノ酸配列との置換である。ここで、前記(A)の各置換を表す記号に関して、数字は、配列番号1のアミノ酸配列におけるアミノ酸の位置を意味する。また、数字の前のアルファベットは、その位置に本来存在するアミノ酸の種類を意味する。数字の後のアルファベットは、本来存在するアミノ酸を置換するアミノ酸の種類を意味する。よって、例えば、「S42Q」とは、配列番号1のアミノ酸配列における第42番目のセリン(S)がグルタミン(Q)に置換されることを意味する。他の置換を表す記号についても同様である。
【0019】
前記(B)の置換に関し、配列番号1に示されるアミノ酸配列における第413位〜第416位のアミノ酸配列とは、NATG(配列番号11)であり、この領域を置換する配列番号2で示されるアミノ酸配列とは、DADPTである。
【0020】
上記特定のアミノ酸置換(A)及び(B)は、1種だけが配列番号1のアミノ酸配列又はそれに相当するアミノ酸配列に加えられていてもよく、2種以上の組み合わせで配列番号1のアミノ酸配列又はそれに相当するアミノ酸配列に加えられていてもよい。2種以上のアミノ酸置換が組み合わせて配列番号1のアミノ酸配列又はそれに相当するアミノ酸配列に加えられる場合、その組み合わせは任意である。また、組み合わせられるアミノ酸置換の数も任意であり、例えば、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種全てであり得る。
【0021】
一実施形態において、好ましいアミノ酸置換の組み合わせは、S42Q、T43E、K45T、S46A、G47P、N53Q、及びS54Nである。一実施形態において好ましいアミノ酸置換の組み合わせは、一実施形態において、好ましいアミノ酸置換の組み合わせは、T262G、S298P、及びA426Pである。一実施形態において、好ましいアミノ酸置換の組み合わせは、T262G、S298P、A426P、N413D、T415D、及びG416Pである。
【0022】
上述の特定のアミノ酸置換を配列番号1に示されるアミノ酸配列又はそれに相当するアミノ酸配列に有することにより、ポリペプチドは、改善された熱安定性を有する。改善された熱安定性とは、配列番号1のアミノ酸配列を有する野生型のCBHIと比較して、高い熱安定性を有すること(即ち、同じ温度条件下において、野生型のCBHIよりも失活し難いこと)を意味する。
【0023】
熱安定性は、任意の手法で測定することができる。例えば、後述する実施例で用いたprotein thermal shift assay(Kishishita et al., Protein Expr Purif. 2014 Feb;94:40-5.)で、タンパク質の立体構造が変化する温度を測定して熱安定性を求めることができる。この測定方法を採用する場合、野生型CBHIの変性温度は63℃であるため、熱安定性が改善されたCBHIは、63℃よりも高い変性温度を有することが好ましい。そのような変性温度は、例えば、64℃以上、65℃以上、66℃以上、67℃以上、68℃以上、69℃以上、70℃以上、71℃以上、72℃以上、73℃以上、74℃以上、75℃以上である。
【0024】
熱安定性は、CBHIを一定の温度で所定の時間保持(熱処理)し、その前後の酵素活性を測定して熱処理後の残存活性に基づいて評価することもできる。残存活性が野生型のCBHIの残存活性と比較して高ければ、熱安定性が改善されていると評価することができる。例えば、後述する実施例に示すように、CBHIは、65℃で5分間保持した場合の残存活性が、50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましく、70%以上であることがより更に好ましい。
【0025】
本書において、「活性」及び「酵素活性」とは、別段の表示をする場合を除いて、セロビオハイドロラーゼ活性を意味する。セロビオハイドロラーゼ活性の測定方法は公知であり、任意の方法を選択して測定することができる。例えば、後述する実施例で採用した、合成基質PNP-Lacを基質とし、遊離PNPを測定する方法を挙げることができる。
【0026】
熱安定性が改善したCBHIであるポリペプチドは、それをコードするポリヌクレオチドを利用して遺伝子工学的手法で製造することができる。また、当該ポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の情報に基づいて、一般的なタンパク質の化学合成法(例えば、液相法及び固相法)を用いて製造することも可能である。
【0027】
熱安定性が改善したCBHIであるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を基に、導入された置換及び他の変異の種類及び位置を考慮して設計し、化学的なDNAの合成法(例えば、フォスフォアミダイト法)や遺伝子工学的手法を用いて容易に取得することができる。ポリヌクレオチドは、単離された状態で存在するポリヌクレオチドであることが好ましい。尚、配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列は公知である。
【0028】
上記ポリヌクレオチドを発現可能な状態で任意のベクターに取り込み、それを用いてベクターの種類に適合した宿主に導入し、発現させることにより、上記ポリペプチドを生産することができる。
【0029】
ベクターの種類は、宿主細胞の種類を考慮して適宜選択することができる。例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等)等を挙げることができる。
【0030】
発現ベクターの導入に使用される宿主細胞は、当該ポリペプチドを産生できる限り特に制限されず、原核細胞及び真核細胞のいずれでも良い。具体的には、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア・コリ属細菌(例えば、HB101、MC1061、JM109、CJ236、MV1184等)、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネ型細菌、ストレプトミセス属細菌等の放線菌、バチルス・サブチリス等のバチルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、スタフィロコッカス属細菌等の原核細胞;サッカロミセス属、ピシア属及びクルイベロマイセス属等の酵母、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ属及びアクレモニウム属等の真菌細胞;ドロソフィラS2、スポドプテラSf9、カイコ培養細胞等の昆虫細胞;並びに植物細胞等を挙げることができる。枯草菌、酵母、麹菌、放線菌等のタンパク質分泌能を利用して、ポリペプチドを培地中に生産させることもできる。
【0031】
発現ベクターの宿主細胞内への導入方法は、従来の慣用的に用いられている方法により行うことができる。例えば、コンピテントセル法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポソーム融合法等の種々の方法が挙げられる。コリネ型細菌への導入方法としては、具体的には例えば、プロトプラスト法(Gene, 39, 281−286(1985))、エレクトロポレーション法(Bio/Technology, 7, 1067−1070)(1989))等を使用することができるが、これらに限定されない。
【0032】
発現ベクターを導入した宿主細胞(例えば、形質転換体)は、改善された熱安定性を有するCBHIであるポリペプチドを産生するために用いることが可能である。また形質転換体をそのままセルロースを含むバイオマスの糖化に使用することもできる。
【0033】
上記形質転換体を用いたポリペプチドの製造は、形質転換体を培養し、培養物から当該ポリペプチドを回収することにより実施することができる。培養は、宿主に適した培地を用いて継代培養又はバッチ培養等を行うことができる。また、培養は、形質転換体の内外に生産されたポリペプチドの活性を指標にして、適当量得られるまで実施することができる。
【0034】
培地としては、宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択して利用でき、培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。例えば、大腸菌の培養にはLB培地などの栄養培地や、M9培地などの最少培地に炭素源、窒素源、ビタミン源等を添加した培地を用いることができる。
【0035】
培養条件も宿主の種類に応じて適宜設定することができる。通常、16〜42℃、好ましくは25〜37℃で5〜168時間、好ましくは8〜72時間培養される。宿主に依存して、振盪培養と静置培養のいずれも可能であるが、必要に応じて攪拌を行ってもよく、通気を行ってもよい。誘導型プロモーターを用いる場合は、培地にプロモーター誘導剤を添加して培養を行うこともできる。
【0036】
培養物からのポリペプチドの精製又は単離は、公知の手法を適宜組み合わせて行うことができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、エタノール等の溶媒沈殿、透析、限外濾過、酸抽出、及び各種クロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等)等を用いた手法が挙げられる。アフィニティークロマトグラフィーに用いる担体としては、例えば、当該ポリペプチドに対する抗体を結合させた担体や、当該ポリペプチドにタグを付加した場合は、そのタグに親和性のある物質を結合した担体を利用することもできる。
【0037】
当該ポリペプチドが宿主の細胞内に蓄積される場合は、形質転換細胞を破砕し、破砕物の遠心上清から上記と同様にして精製又は単離することができる。例えば、培養終了後、遠心により集菌した菌体を菌体破砕用バッファー(20〜100 mM Tris−HCl(pH8.0)、5mM EDTA)に懸濁し、超音波破砕し、破砕処理液を10000〜15000rpmで10〜15分間遠心して上清を得ることができる。遠心後の沈殿は、必要に応じて塩酸グアニジウム又は尿素などで可溶化したのち更に精製することもできる。
【0038】
当該ポリペプチドを、セルロースを含む試料(例えば、セルロース系バイオマス資源)に接触させることにより、バイオマス資源を分解し、糖液を製造することができる。当該ポリペプチドを用いてバイオマス資源を糖化する場合、更に他のセルラーゼ等の酵素を併用することで、より効率的に糖液を製造することもできる。
【0039】
セルロース系バイオマスの種類は、CBHIによって分解可能である限り特に制限されないが、例えば、バガス、木材、ふすま、麦わら、稲わら、もみがら、大豆粕、大豆オカラ、コーヒー粕、コメ糠等を挙げることができる。
【0040】
当該ポリペプチドを水溶液中でセルロースに接触させる場合は、反応液のpHおよび温度を、CBHIが失活しない範囲に設定することが好ましい。熱安定性が改善されているため、至適温度又はその付近の温度で反応を行うことが効率的に試料を分解し、糖液を得るという観点から好ましい。例えば、温度条件は、5〜90℃、好ましくは15〜80℃、より好ましくは30〜75℃、より好ましくは50〜70℃又は50〜65℃に設定することができる。また、一実施形態において、温度条件は、63℃以上、64℃以上、65℃以上、66℃以上に設定することができる。pHは、pH4〜9の条件で実施することができる。添加するポリペプチドの量は、特に制限されないが、例えば、0.1〜0.5%(w/w)の範囲とすることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0042】
タラロマイセス・セルロィティカス由来のCBHIの活性ドメインの構造座標データを用いて、タラロマイセス・セルロィティカスCBHIの活性ドメインの立体構造を予測し、モデル構築を行った。次に、タラロマイセス・セルロィティカス由来のCBHIの活性ドメイン構造とタラロマイセス・エマルソーニ由来のCBHIの活性ドメイン構造を比較して、タラロマイセス・セルロィティカス由来のCBHIの安定性に影響していると思われる個所を探索した。得られた比較構造情報及びタンパク質安定化原理(例えば、疎水性相互作用、水素結合の強化、プロリンによるペプチドループ構造の安定化等)を利用して、タラロマイセス・セルロィティカス由来のCBHIのアミノ酸置換をタンパク質工学的に行った。具体的には、後述する変異を導入した。
【0043】
タラロマイセス・セルロィティカス由来のCBHIをコードする遺伝子(ポリヌクレオチド)をクローニングし、同生物由来のデンプン誘導性のグルコアミラーゼプロモーター及び該CBHIのシグナル配列の下流に繋ぎ、発現プラスミドベクターを構築した(Inoue et al., J. Ind. Microbiol. Biotechnol., 2013, 40: 823-830)。この発現ベクターで大腸菌(DH5α)を形質転換した。得られたプラスミドを精製し、これをテンプレートとしてクイックチェンジ法により遺伝子に変異導入を行った。変異の導入には、下記表1に示すプライマーセットを単独又は組み合わせて用いて次の変異体を作製した:配列番号1で示されるアミノ酸配列において、第262位のトレオニンがグリシンに置換された変異体1;第298位のセリンがプロリンに置換された変異体2;第426位のアラニンがプロリンに置換された変異体3;第413位のアスパラギンがアスパラギン酸に置換され、第415位のトレオニンがアスパラギン酸に置換され、且つ、第416位のグリシンがプロリンに置換された変異体4;変異体1〜3の変異を組み合わせた変異体5;変異体1〜4の変異を組み合わせた変異体6;第42位のセリンがグルタミンに置換され、第43位のスレオニンがグルタミン酸に置換され、第45位のリジンがスレオニンに置換され、第46位のセリンがアラニンに置換され、第47位のグリシンがプロリンに置換され、第53位のアスパラギンがグルタミンに置換され、且つ、第54位のセリンがアスパラギンに置換された変異体7;変異体1〜4及び変異体7を組み合わせた変異体8。
【0044】
【表1】
【0045】
変異体7の作成には、第42位〜第47位のアミノ酸の置換に対応するプライマーセット(F1及びF2)と第53位及び54位のアミノ酸の置換に対応するプライマーセット(F2及びF2)を用いた。
【0046】
変異を導入した遺伝子の配列をシークエンシングで確認し、各遺伝子を組み込んだプラスミドでタラロマイセス・セルロィティカスを形質転換した。形質転換体をデンプン培地で培養し、菌体外に変異型CBHIを分泌させた。培養液を回収し60%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加した。沈殿物を遠心分離器で回収し、20mM MES緩衝液(pH6.5)に溶解後、同緩衝液で平衡化した脱塩カラムHiPrep desalting 26/10を用いて脱塩処理を行った。脱塩されたサンプルは20mM MES緩衝液(pH6.5)で平衡化したイオン交換カラムResourceQにアプライされ、1M塩化ナトリウムを含む20mM MES緩衝液(pH6.5)で溶出された。CBH1活性を示す溶出画分は1.2Mになるように硫酸アンモニウムを加えた後、1.2M硫酸アンモニウムを含む20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)で平衡化した疎水カラムResource Isoにアプライされ、20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)によって、溶出し、活性を示す画分を濃縮した。当該か区分についてSDS−PAGEで単一バンドを示すことを確認し、精製を完了した。このようにして精製した酵素について、耐熱性と活性を測定した。
【0047】
酵素活性の測定は、合成基質PNP−Lacを用いて遊離するPNPを測定することにより求めた。耐熱性は、Kishishita et al., (Protein Expr Purif. 2014 Feb;94:40-5.)に記載されるprotein thermal shift assay(TSA)を用いて酵素蛋白質の立体構造が変化する変性温度(Tm)を測定して評価した。TSAは、それぞれのCBHI変異体酵素を20mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)に溶解させたものを用いて行った。測定結果を下記の表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示される通り、変異体1〜8は、いずれも野生型の酵素と比較して耐熱性(熱安定性)が向上していた。特に、複数の変異を導入した変異体4〜6及び8では、熱安定性の向上が顕著であった。一方、変異体1〜8は、野生型と比較して酵素活性が若干低下しているが、改善された熱安定性を考慮すれば、無視できる程度である。
【0050】
次に、野生型CBHI及び変異体1〜8のいずれかを0.02〜0.05mg/mlの濃度で含む20 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)を調製した。これを65℃の温度で維持し、1分後、5分後、10分後、15分後、30分後、60分後、及び90分後に酵素溶液を一部取りだし、その残存活性を45℃で測定した。基質は、1mM PNP-Lactoseを用いて、上記と同様の測定方法で行った。残存活性は、65℃での処理開始時(即ち、0分)の時の活性を100%として算出した。結果を図1に示す。図1に示される通り、加熱5分後の残総活性は、野生型40%であったが、変異体1は55%、変異体2は80%、変異体3と4は80−90%、変異体5、6及び8は100%、変異体7は73%であった。特に、変異体6及び8は60分後も活性の低下は見られなかった。
【0051】
更に、微結晶性セルロース(Avicel)を用いて、変異体6及び野生型CBHIの最適温度を調べた(図2)。変異体6及び野生型CBHIを微結晶性セルロース(Avicel)基質を含む緩衝液(pH5.0)中で、50℃〜75℃、2時間反応させて遊離する可溶化糖を還元力により定量した。その結果、図2に示される通り、変異体6は微結晶性セルロースを基質とした場合においても、野生型よりも高い最適温度を有することが確認された。同様の傾向が他の変異体にも期待される。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]