【文献】
櫻井宏昭ほか,塩素を含有しない前駆体溶液の含浸法により調製した金ナノ粒子触媒とそのCO酸化活性,第108回触媒討論会討論会A予稿集,2011年 9月13日,p.366
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ハロゲン化物イオンを含まない3価の金化合物を水に懸濁又は分散させたpH8以上の溶液中で、弱酸の共役塩基の存在下において、金化合物の加水分解反応を進行させた反応液を調製する工程1と、
前記反応液とpKaが1〜7の範囲の酸である弱酸とを混合する工程2と、
を備え、
前記工程1における前記弱酸の共役塩基が、カルボキシレ−ト陰イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、及びホウ酸イオンからなる群から選ばれた少なくとも1種である、金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液の製造方法。
前記工程2における前記弱酸が、カルボン酸、リン酸、及び炭酸からなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1に記載の金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液の製造方法。
前記工程1における前記ハロゲン化物イオンを含まない3価の金化合物が、金カルボキシラ−ト、酸化金、水酸化金、及び金とアルカリ金属との複酸化物からなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1または2に記載の金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液の製造方法。
前記担体が、金属酸化物、多孔質ケイ酸塩、多孔質金属錯体、多孔質ポリマ−ビ−ズ、炭素材料、セラミックハニカム、及びメタルハニカムからなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項5に記載の金ナノ粒子担持体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、金をナノ粒子として酸化物等の担体表面に担持させた金ナノ粒子触媒の種々の分野への応用が検討されている。例えば、一酸化炭素酸化除去などの室内空気浄化、NOx低減等の大気環境保全、水素中の一酸化炭素選択酸化等の燃料電池関連反応、プロピレンからのプロピレンオキサイド合成反応等の化学プロセス用反応等が代表的な応用分野である。これらの場合、適用する反応の種類に応じて担体の種類を変える必要があるが、金を10nm以下、好ましくは5nm以下の半球状のナノ粒子として担体表面に密着させることで、いずれの触媒の場合もその性能を向上させることが可能である。このため、性能を発揮させるための調製法の選択が特に重要である。
【0003】
白金触媒やパラジウム触媒など、古くから利用されている触媒については、塩化白金酸などの貴金属化合物を水などの溶媒に溶かした溶液に担体を浸漬し、蒸発乾固などの方法で溶媒を除去して担体表面に塩化白金酸を分散担持させ、これを焼成還元して白金微粒子とする、いわゆる含浸法で調製されることが多い。白金の場合には、この方法で粒径5nm以下の白金ナノ粒子を担持することも可能である。この方法によれば、貴金属化合物と担体の組み合わせにより、容易に多種類の触媒が調製でき、量産化も容易であるために広く実施されている。
【0004】
しかしながら、金の場合には、通常の含浸法では高活性な触媒が得られない。例えば、塩化金酸を用いて白金触媒と同様の含浸法で調製しても、金の粒径は30nm程度と大きくなる。これは、原料の塩化金酸に含まれる塩化物イオンが熱分解の際に金を凝集させ粗大化した粒子となるためであると指摘されている。更に、熱分解処理後も、残存した塩化物イオンが多くの触媒反応に対して活性点の被毒を起こすため、金の凝集と併せて二重の負要因となり活性は著しく低くなる。
【0005】
このため、共沈法や析出沈殿法による金触媒の調製手法が確立するまで、金は触媒としては不活性な元素であるとして扱われてきた。金を初めて高活性な触媒とするのに成功した共沈法では、原料としては塩化金酸を用いるものの、塩基を加えて中和し担体酸化物の前駆体と共に沈殿させることにより、塩化物イオンを含まない水酸化金Au(OH)
3の形とし、この段階で共沈物の水洗を行い、塩化物イオンを除去し、その後乾燥焼成して高活性な金触媒を得ている。共沈物を洗浄する操作は特に重要であり、300ppm程度という微量でも塩化物イオンが残存すると焼成時に金の粒径を増大させることが報告されている。このため、洗浄操作は大量の水を用い繰り返し行う必要があるが、表面積の大きな高活性触媒を得るためには担体酸化物も微細粒子とする必要があるため、洗浄操作において通常用いられるろ過法、デカンテ−ション法、遠心分離法のいずれの方法で行った場合にも水と沈殿物の分離は長時間を要する場合が多く、繰り返し洗浄して塩化物イオンが検出されなくなるまで洗浄を行うことは大変手間のかかる操作である。
【0006】
また、液相中に残存している金は洗浄操作により洗い流されるため、仕込み条件の金担持量に比べて最終的に表面に担持された金の量が少なくなることも大きな問題である。金/酸化チタン触媒では、析出沈殿法を用いpH7付近で調製するとCO酸化に活性の高い触媒が調製できるが、例えば3質量%の金の仕込み量で調製しても、調製後の実際の金/酸化チタンに含まれる金は1.5質量%程度であり、仕込み量の約50%しか担持されない。また析出沈殿法で金を担持できる担体は塩基性〜両性酸化物に限定されるため、シリカやシリカ−アルミナ等の酸性酸化物には金を担持することができない。
【0007】
また、下記特許文献1、非特許文献1等には、塩化金酸を酸化チタンに含浸させ、更に炭酸ナトリウムを含浸させることによって細孔内に水酸化金を析出させ、水洗した後、120℃で乾燥することにより高い活性を示す金/酸化チタンとする方法が記載されている。しかしながら、この方法では、水洗により完全な塩化物イオンの除去はできず、析出沈殿法に比して多くの塩化物イオンが検出されており、400℃程度で焼成すると活性が低下する。
【0008】
一方、塩化物イオンを含まない金化合物として酢酸金を用い、通常の析出沈殿法と同じ調製条件でAu/TiO
2を調製する方法が報告されている(下記非特許文献2参照)。この方法では、酢酸金を用いることで洗浄により失われる金の量が減少して金の担持率が向上したが、触媒活性については、塩化金酸を原料とした場合より劣る結果であった。
【0009】
以上のように、液相の金ナノ粒子調製プロセスには各種の欠点があり、このため気相法や固相法による金ナノ粒子触媒調製法も検討されている。気相法の代表的なものとしては、ジメチル金アセチルアセトナト錯体(CH
3)
2Au(acac)を真空ライン内で気化させて担持させる気相グラフティング法があり、また固相法の一種として同じ錯体を担体と乳鉢で混合粉砕し昇華した金前駆体を表面に高分散で担持させる固相混合法がある。これらの方法では、金の原料自体に塩化物イオンが含まれていない上に、従来の液相法では担持できない酸性酸化物、活性炭、ポリマ−、多孔性高分子錯体など種々の担体への担持が可能となる。しかしながら、前駆体の金錯体は高価であり、昇華性の金錯体は人体に有害であり吸引しないよう取り扱う必要があり、装置的にも量産化は必ずしも容易ではない。
【0010】
以上のような液相の金ナノ粒子調製プロセスの種々の問題点を解決する方法としては、例えば、特許文献2に開示された方法が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液の製造方法
本発明の金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液の製造方法は、ハロゲン化物イオンを含まない3価の金化合物を水に懸濁又は分散させたpH8以上の溶液中で、弱酸の共役塩基の存在下において、金化合物の加水分解反応を進行させた反応液を調製する工程1と、前記反応液と弱酸とを混合する工程2とを備えていることを特徴とする。以下、本発明の金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液の製造方法について詳述する。
【0020】
(工程1)
原料化合物
本発明の工程1において使用する原料としては、ハロゲン化物イオンを含まない3価の金を含む金化合物を用いる。一般に、金ナノ粒子触媒の製造原料としては、塩化金酸が用いられることが多いが、塩化金酸を用いる場合には、高分散・高活性の触媒を得るためには、残留する塩化物イオンを除去することが必要である。このため、処理工程が煩雑となり、金の利用率が低いという問題がある。
【0021】
しかも、World Gold Councilの金参照触媒である析出沈殿法Au/TiO
2(Au 1.5質量%))について、塩化物イオンの分析値として47ppmという報告があり(M. Azar et al., Journal of Catalysis 239 (2006) 307−312)、通常の塩化金酸を用いる従来調製法ではこれより大きく塩化物イオンを減らすことは困難である。
【0022】
本発明では、ハロゲン化物イオンを含まない3価の金化合物を原料として用い、後述する方法で、金化合物が均一に溶解した金のヒドロキソ陰イオン錯体溶液を調製し、これを用いて含浸法によって金ナノ粒子触媒を作製することにより、ハロゲン化物イオンの存在による問題点を解消して、高分散・高活性の触媒を得ることが可能である。また、仮に原料の金化合物が0.01質量%の不純物ハロゲン化物イオンを含んでおり、調製後の金触媒中に全て残存したとしても金担持量が1.5質量%であれば、ハロゲン化物イオンは最大でも3ppm以下となり、従来法よりも大幅に塩化物イオンを減らすことが可能である。
【0023】
本発明では、ハロゲン化物イオンを含まない3価の金化合物としては、例えば、下記の(1)〜(4)項に示す金化合物を好適に用いることができる。
(1)金カルボキシラ−ト:Au(CH
3COO)
3,Au(C
2H
5COO)
3等(塩基性塩であるAu(OH)(CH
3COO)
2,Au(OH)
2(CH
3COO)等を含んでいてもよい)
(2)酸化金:Au
2O
3
(3)水酸化金:Au(OH)
3
(4)金とアルカリ金属との複酸化物:NaAuO
2, KAuO
2等
【0024】
反応液の調製
本発明の工程1においては、まず、上記したハロゲン化物イオンを含まない3価の金化合物を原料として用い、これを水に懸濁又は分散させたpH8以上、好ましくはpH10以上の溶液中で、弱酸の共役塩基の存在下において、金化合物の加水分解反応を進行させて反応液を得る。この反応液における金化合物の濃度については特に限定的ではなく、均一な分散液を形成できればよいが、通常、0.001〜10質量%程度の範囲とすればよい。
【0025】
上記溶液中に存在させる弱酸の共役塩基とは、具体的には、弱酸HAの下記電離式で表されるA
-を意味するものである。
【0027】
本発明では、弱酸の共役塩基としては、上記定義に当てはまるものであれば特に限定無く使用できる。このような弱酸の共役塩基の具体例としては、カルボキシレ−ト陰イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、及びホウ酸イオン等を挙げることができる。カルボキシレ−ト陰イオンとしては、好ましくは、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、乳酸イオン、酪酸イオンなどのモノカルボン酸イオン;シュウ酸イオン、コハク酸イオン、リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、フマル酸イオンなどのジカルボン酸イオン;クエン酸イオンなどのトリカルボン酸イオンなどが挙げられる。
【0028】
金化合物を水に懸濁又は分散させた、弱酸の共役塩基を含むpH8以上の反応液を調製するには、予め、弱酸と強塩基との塩を水に溶解しpHが8以上となるように調整した水溶液に3価の金化合物を添加してもよく、或いは、3価の金化合物を水に懸濁又は分散させた溶液に弱酸と強塩基との塩を添加してpHを8以上としてもよい。これらの場合には、弱酸と強塩基との塩の量は、金化合物を水に懸濁又は分散させた溶液のpHが8以上となる量とすればよい。また、金化合物として酢酸金等を用いる場合には、金化合物自体から弱酸の共役塩基である酢酸イオンが生じるので、NaOH等の強塩基を用いてpH調整を行ってもよい。
【0029】
該溶液のpHが8以上であることによって、均一な溶液を得ることができるが、工程1におけるpH値がこれを下回ると、水酸化金Au(OH)
3の沈殿が生じ易く、均一な溶液を得ることが困難である。
【0030】
尚、pHを8以上に調整するために用いる弱酸と強塩基との塩としては、例えば、陽イオン成分としてアルカリ金属イオン(K
+, Na
+等)、アルカリ土類金属イオン(Ca
2+, Ba
2+等)等を含み、上記した共役塩基を生じる弱酸の塩を用いればよく、特に、陽イオン成分としてアルカリ金属イオンを含む弱酸の塩を用いることが好ましい。
【0031】
尚、pHの上限については特に限定はないが、通常14程度以下とすればよい。
【0032】
上記した方法で調製される3価の金化合物を水に懸濁又は分散させた、弱酸の共役塩基を含むpH8以上の溶液は、金化合物の加水分解が徐々に進行して、常温でも長時間をかけると金化合物が金ヒドロキソ陰イオン錯体として完全に溶解して透明な均一溶液(反応液)が得られる。通常は、透明溶液の調製時間を短縮するために、80℃以上に加熱することが好ましく、特に、煮沸還流することが好ましい。また、加熱前に超音波洗浄機などを用いて均一に分散させても直ちに均一な金化合物の水溶液を得ることはできないが、濃度によっては当該金化合物のコロイド溶液とすることができ、その後の加水分解に要する時間を短縮することができる。但し、超音波分散を過度に行うと生成物に黒色沈殿が混じることがある。
【0033】
金化合物として水酸化金、酸化金等を用いる場合には、酢酸金を用いる場合と比較すると、同条件では透明溶液を得るために長時間を要するが、いずれの反応条件を用いた場合でも、原料粉末の溶け残りやコロイドが無くなるまで反応させれば、目的とする透明溶液を得ることができる。尚、原料粉末の溶け残りが存在する場合であっても、上澄み液を分取すれば、金化合物を溶解した透明溶液を得ることができる。
【0034】
具体的な溶液調製方法の例としては、例えば、金化合物として酢酸金を用い、pH調整に炭酸ナトリウムを用いる場合には、酢酸金を脱イオン水に加え、これに炭酸ナトリウム水溶液を加えてpH8以上として、沸騰還流すると、数分で茶色のコロイド液から黄色の透明溶液となり、約10分程度で無色透明の反応液が得られる。
【0035】
反応終了後、室温に戻せば均一透明な反応液が得られる。この反応液を用いて、後述する工程2を行い、その後に金ナノ粒子担持体(金ナノ粒子触媒)を調製することができる。反応液を一日程度放置すると、微量の黒色沈殿が分離することがあるが、メンブランフィルタ−等を用いてろ過して沈殿を除去した溶液を使用することも可能である。
【0036】
上記した方法で調製される反応液(透明溶液)は、塩化物イオンなどのハロゲン化物イオンを含まない金のヒドロキソ陰イオン錯体が均一に溶解した溶液であり、金粒子を粗大化させる要因となり、触媒反応に対して被毒物質となるハロゲン化物イオンを含まない。このため、後述する工程2でこの反応液を弱酸と混合し、得られた溶液を担体に含浸させた後、熱処理する方法によれば、金のナノ粒子を均一に担持した高活性の触媒を容易に得ることができる。なお、前述の特許文献2に開示された技術のように、当該反応液を担体に含浸させた後、熱処理する方法によって、金のナノ粒子を均一に担持した高活性の触媒を容易に得ることもできるが、この方法の場合、担体に含浸させる溶液のpHを8以上に設定する必要があるという制限がある。
【0037】
この金のヒドロキソ陰イオン錯体を含む反応液は、少なくとも一つの配位子がOH
-であって、ハロゲン陰イオンを配位子として含まない平面四角形構造の3価金のヒドロキソ陰イオン錯体と、金に配位していない弱酸の共役塩基を含み、ハロゲン陰イオンを含まない、pHが8以上の透明溶液である。
【0038】
この反応液は、塩化物イオンなどのハロゲ化物イオンンを含まない金のヒドロキソ陰イオン錯体を均一に溶解した溶液であり、金粒子を粗大化させる要因となり、触媒反応に対して被毒物質となるハロゲン化物イオンを含まないために、工程2で弱酸と混合した後、得られた混合液を担体に含浸させ、熱処理する方法によれば、金のナノ粒子を均一に担持した高活性の触媒を容易に得ることができる。また、弱酸の共役塩基が存在するために、工程2において弱酸を加えた後にも、溶液が緩衝作用を持ちpHが安定する。これにより、溶液中の金錯体が一定の条件で担体と相互作用し、均一な金ナノ粒子が生成するのに役立つと考えられる。
【0039】
この反応液に含まれる3価の金のヒドロキソ陰イオン錯体としては、例えば、下記(1)〜(4)の条件を満足するものを好適に用いることができる。
(1)下記式:
【化2】
で表される平面四角形構造を持つ金錯体であること、
(2)金は3価であり、アニオン配位子a,b,c,dの配位により全体として負電荷を持つ陰イオン錯体であること、
(3)配位子a,b,c,dのうち、少なくとも1つはOH
-であること、
(4)配位子a,b,c,dは、いずれもハロゲン陰イオンではないこと、
【0040】
上記した金のヒドロキソ陰イオン錯体において、配位子a,b,c,dのうちOH
-以外の配位子は、ハロゲン陰イオンではないアニオン配位子であればどのようなものでもよい。例えば、酢酸イオンCH
3COO
-、炭酸イオンCO
32-等を例示することができる。
【0041】
尚、上記式において、nの値は、アニオン配位子の種類によって決まる負電荷の価数を示すものであり、アニオン配位子a,b,c,dの合計価数から金の価数である3を引いた値がnの値となる。
【0042】
このような金のヒドロキソ陰イオン錯体としては、下記の化合物を例示できる。
【化3】
【0043】
上記の各式の金のヒドロキソ陰イオン錯体については、[Au(OH)
4]
-,[Au(OH)
2(CH
3COO)
2]
-,[Au(OH)
3(CO
3)]
2-等と略記することができる。
【0044】
これらの金錯体は、含浸液中で単一種である必要はなく、混合物であってもよい。例えば、金のヒロドキソ陰イオン錯体として[Au(OH)
4]
-を90%と、[Au(OH)
3(CH
3COO)]
-を10%含む溶液であってもよい。
【0045】
(工程2)
本発明においては、工程1で得られた反応液と弱酸とを混合する工程2を行う。例えば、前述の特許文献2の技術によれば、pH8以上の溶液を担体に含浸させて金ナノ粒子担持体を製造する必要があるが、本発明の製造方法によれば、工程2において、pH8以上の反応液と弱酸を混合する工程を行うため、当該反応液よりもpHの低い溶液を担体に含浸させて金ナノ粒子担持体を製造することが可能となる。
【0046】
前述の通り、特許文献2のように、従来の知見では、担体に含浸させる金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液のpHは少なくとも8以上に設定する必要があると考えられていたため、この結果は非常に意外なものであった。工程1で得られる反応液中の金錯イオン種は[Au(OH)
4]
-と考えられる。例えば、塩化金酸中の[AuCl
4]
-イオンは、アルカリ性に変化させると、順次Cl
-配位子がOH
-配位子に置換し、[Au(OH)
4]
-に近づくものの、Cl
-は配位子として残りやすいことが知られている。例えば、酢酸金の場合、もともとCl
-を含まないため、pH11程度での支配種は、[Au(OH)
4]
-と考えられる。この溶液に、室温でHClを加えて酸性にすると、直ちに黄色の溶液が生成し、Cl
-がAuに容易に再配位する。すなわち、Au(III)−OH――Cl―系では、Au濃度にもよるが、沈殿は生じ難いといえる。これに対して、Cl―の無いAu(III)−OH―系では、
図1に示されるように、[Au(OH)
4]
-溶液のpHを下げると、Au(OH)
3として沈殿することが報告されている(C.F.B.Jr., R.E.Mesmer, The Hydrolysis of Cations, Wiley, 1976)。このため、例えば、酢酸金などから調製した[Au(OH)
4]
-溶液は、アルカリ性条件でこそ安定であり、pH7付近で調製することは不可能と考えられていた。ところが、本発明者が検討を重ねたところ、前述の工程1において、pH8以上の反応液を調製した後、工程2において、当該反応液と弱酸を混合して得られた金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を担体に含浸させることにより、例えばpHが8未満の金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を用いても、好適に金ナノ粒子担持体を製造できることを見出した。
【0047】
また、本発明者は、この現象を確認する過程において、例えば硝酸などの強酸を混合することも検討を行ったが、強酸を用いた場合には、pHが同じ金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を調製しても、金の粒子径が小さく、CO添加率の高い金ナノ粒子担持体は好適に製造されないことが明らかとなった。
【0048】
弱酸の添加により、pH7付近でも安定な錯体溶液が得られる理由は明らかではないが、例えば次のような機構が考えられる。弱酸の添加により溶液が強いpH緩衝作用を持つようになりpHが安定化すると共に、加えた弱酸が解離して生じる共役塩基である酢酸イオン等の陰イオンが3価の金イオンに配位することにより安定化すると考えられる。また、シュウ酸のようにカルボキシル基を2つ以上持つ弱酸を用いた場合には、共役塩基のカルボキシレートが多座配位しキレート錯体を形成するため、モノカルボン酸を用いる場合に比してより安定な錯体となると考えられる。
【0049】
工程2において混合する弱酸としては、一般的に弱酸と認めうるpK
aが1〜7の範囲の酸を用いればよい。その構造については特に制限されないが、好ましくはカルボン酸、リン酸、炭酸などが挙げられる。好ましいカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸などのモノカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸などのジカルボン酸;クエン酸などのトリカルボン酸などが挙げられる。ジカルボン酸またはトリカルボン酸の使用は、前述のキレート錯体の形成が可能である点から好ましい。但し、クエン酸のようなカルボキシル基と水酸基の両者を有するヒドロキソカルボン酸は、塩化金酸イオンを還元して金コロイド(金粒子径10nm以上)を生成する能力があることが知られている。このため、工程1で得られた塩化物イオンを含まない3価の金のヒドロキソ陰イオン錯体についてもpH7以下の酸性領域においては金コロイドが生成しやすく、10nm以下の小さな金ナノ粒子を得ることが難しくなりやすい。また、シュウ酸の場合は、自身がCO
2に酸化されると同時に金イオンから金属状の金を生成する還元剤として作用することも知られており、このような還元作用はpH7以下で起こりやすく、生成した金は粗大粒子になりやすい。弱酸は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
また、弱酸の混合量としては、特に制限されず、目的とする金ナノ粒子担持体における金の粒子径に応じたpHとなるよう混合量を調節すればよい。この際、例えば工程1において、金化合物に加える物質が炭酸ナトリウムであって、工程2で溶液に加える弱酸が酢酸である場合、陽イオンがNa
+とH
+、陰イオンがCO
32-とCH
3COO
-からなる緩衝液として、各成分の量比からpHの概算が可能である。実際には、これに金化合物に由来するイオンが加わるが、例えば金化合物が酢酸金である場合、そのpHへの影響は大きくないことが分かっている。このようにして、pHを予め設定することにより、調製される金ナノ粒子担持体の金の粒子径を容易に制御することができる。更に、担体のアルカリ性への耐性が十分でない場合にも、弱酸の混合量を調節して、所望のpHとなるように調整すればよい。工程2により得られる金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液のpHとしては、特に制限されず、例えば従来は困難と考えられていたpH8未満に調整することもできるし、pH8以上に調整することもできる。なお、金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液から調製される金ナノ粒子担持体における金の粒子径を小さくする観点からは、好ましくはpH6程度以上、より好ましくはpH6.5程度以上が挙げられる。尚、pHの上限については特に限定はないが、通常14程度以下とすればよい。
【0051】
工程2において得られる金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液は、金ナノ粒子担持体を製造するための含浸液として使用される。
【0052】
2.金ナノ粒子担持体の製造方法
本発明の金ナノ粒子担持体の製造方法は、前述の金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液の製造方法により製造された金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を、担体に含浸させる工程Aと、金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液が含浸された担体から水分を除去し、熱処理を行う工程Bとを備えることを特徴とする。以下、本発明の金ナノ粒子担持体(金ナノ粒子触媒)の製造方法について詳述する。
【0053】
(工程A)担体への含浸
工程Aにおいては、前述の金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液の製造方法により製造された金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を、担体に含浸させる。
【0054】
金ヒドロキソ陰イオン錯体を含む溶液を担体に含浸させる方法については特に限定はなく、担体の体積に対して溶液を過剰に用いて該溶液中に担体を浸漬する方法であってもよく、或いは、担体の細孔容積に見合う量の溶液を担体に滴下させるincipient wetness法によって含浸させてもよい。これらの場合、目的とする金の担持量となるように、金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液の濃度を予め調整することが必要である。
【0055】
次いで、水分を除去して金ヒドロキソ陰イオン錯体を担体表面に固定化する。水分の除去方法としては、特に限定はなく、ホットプレ−ト上での加熱による蒸発乾固、ロ−タリ−エバポレ−タ−での減圧乾燥、凍結乾燥法などの任意の方法を適用できる。
【0056】
この際、弱酸の共役塩基であるCO
32-やCH
3COO
-がアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等と共に存在することによって、溶液が緩衝作用を持ちpHが安定する。これにより、溶液中の金錯体が一定の条件で担体と相互作用し、均一な金ナノ粒子が生成するのに役立つと考えられる。
【0057】
これに対して、弱酸の共役塩基が存在しない場合には、溶液を担体表面に含浸させた後、水分を除去する過程で溶液は濃縮されてpHが次第に高くなり強塩基条件になると考えられる。この間、金錯体の担体表面への吸着状態は変化し不均一な金ナノ粒子を生成する原因になると共に、強アルカリ性により担体酸化物の表面を損傷する原因にもなると考えられる。
【0058】
担体としては、通常貴金属触媒の担体として用いられるものであれば、特に限定なく使用できる。下記に示したような金属酸化物;ゼオライト、メソポ−ラスシリケ−ト、粘土などの多孔質ケイ酸塩;多孔質金属錯体(MOF);多孔質ポリマ−ビ−ズ;カ−ボンナノチュ−ブ、活性炭等の炭素材料;セラミックハニカム、メタルハニカム等を例示できる。どの担体を用いるかは目的とする触媒反応及び使用条件により異なるが、一酸化炭素の酸化反応を例にとると、金ナノ粒子との良好な密着性と接合界面での活性点の形成のしやすさ、耐熱性等の観点から金属酸化物を用いることが好ましい。
【0059】
この様な金属酸化物担体としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、カドミウム、インジウム、スズ、バリウム、ランタノイド元素等の金属元素を含む酸化物を用いることができる。これらの金属酸化物は、上記金属元素を一種のみ含む単一金属の酸化物であってもよく、2種以上の金属元素を含む複合酸化物であってもよい。
【0060】
これらの金属酸化物の内で、特に、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、ジルコニウム、ランタン、セリウム等の金属元素を一種又は二種以上含む金属酸化物又は複合酸化物が好ましい。上記した単一金属の金属酸化物と複合酸化物は、必要に応じて混合して用いることも可能である。なお、周期律第2族元素のベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムについては、製造方法によっては、対応する酸化物の他に、水酸化物、塩基性炭酸塩等が含まれる場合がある。本発明では、金をナノ粒子状に担持する「酸化物」には、これらの水酸化物、塩基性炭酸塩等が含まれていてもよい。
【0061】
本発明において、前述のようなpH8未満の金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を用いる場合には、アルカリ性水溶液に溶解しやすい担体(例えば、シリカ、ゼオライト、メソポーラスシリケート等)を好適に担体とすることができる。
【0062】
本発明の金ナノ粒子担持体において、金の含有量は、金をナノ粒子状態に保持できるよう調製できる限りは特に制限はない。例えば、担体の種類と調製法を適宜選択することにより、金ナノ粒子と担体の合計量を基準として、0.1〜60質量%程度の金含有量を持つ金ナノ粒子担持体を調製できる。
【0063】
本発明の金ナノ粒子担持体の形態は、その使用目的に応じて適宜選択可能である。例えば、粉末状で用いることもできるし、顆粒状、ペレット状に成形して用いることもできる。また支持体上に金ナノ粒子を担持した担体を固定化して、支持体の形状として用いることもできる。支持体については、表面に金ナノ粒子を担持した担体を固定化することができれば形状は特に限定されず、平板状、ブロック状、繊維状、網状、ビ−ズ状、ハニカム状等何でもよい。例えばハニカム状として用いる場合、粉末状で調製した担持体をハニカムの表面に付着させて用いることもできるし、ハニカムの表面に予め担体を固定化しておき、本発明の担持法を適用してこの表面に金ナノ粒子を直接担持することもできる。支持体の材質についても特に限定的ではなく、金ナノ粒子を担持させる条件や反応条件下において安定なものであればよく、例えば、各種のセラミックスを使用することができる。
【0064】
金ナノ粒子を担持した状態における担体の比表面積は、BET法による測定値として、1〜2000m
2/g程度であることが好ましく、5〜1000m
2/g程度であることがより好ましい。このような金ナノ粒子担持体を得るためには、例えば、金ナノ粒子を担持させる担体として上記した範囲の比表面積を有するものを用いればよい。
【0065】
(工程B)熱処理による金ナノ粒子の生成
工程Aにおいて、担体表面に金ヒドロキソ陰イオン錯体を固定化した後、加熱することによって、金を金属ナノ粒子として担持させることができる。加熱雰囲気としては、特に限定はなく、酸素含有雰囲気中、還元性ガス雰囲気中、不活性ガス雰囲気中等の各種の雰囲気中で熱処理を行うことができる。例えば、酸素含有雰囲気としては、大気雰囲気、酸素を窒素、ヘリウム、アルゴン等で希釈した混合気体雰囲気などを利用できる。還元性ガスとしては、例えば、窒素ガスで希釈した1〜10体積%程度の水素ガス、一酸化炭素ガス等を用いることができる。不活性ガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなどを利用できる。
【0066】
熱処理温度は担体の耐熱温度以下で、通常、100〜600℃程度とすればよく、安定かつ微細な金粒子を得るためには、200〜400℃程度とすることが好ましい。熱処理時間については特に限定されないが、上記した温度範囲の所定の熱処理温度に達した後、5分程度以上加熱すればよい。
【0067】
次いで、上記した熱処理後の担持体を水洗することが好ましい。熱処理後の担持体には、酢酸イオン、炭酸イオン等の弱酸の共役塩基がアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の形で残存する。これらの塩類は、ハロゲン陰イオンほど強い被毒の原因とはならないが、塩類が表面に残存すると物理的に活性点を塞ぐなどして活性低下の原因となる。このため、熱処理後の担持体を水洗して残存する塩類を除去することが好ましい。
【0068】
水洗の方法としては、特に限定はなく、例えば、吸引ろ過器を用いてろ紙上で脱イオン水をかけながら洗浄する方法;ビ−カ−に担持体粉末と脱イオン水を入れて上澄み液を入れ替えながら洗浄するデカンテ−ション法;遠心分離機を用いて沈殿と水を分離しながら洗浄する方法など、通常行われている水洗方法を適宜適用できる。
【0069】
水洗後は、乾燥することによって、金ナノ粒子を担持した担持体を得ることができる。乾燥温度は、熱処理による金ナノ粒子の生成の際の温度を下回る温度であればよく、通常、室温〜150℃の間の温度とすればよい。
【0070】
3.金ナノ粒子担持体
上記した方法によれば、ハロゲン化物イオンを含まない3価金化合物を原料として、金ナノ粒子が均一に担持された担持体を得ることができる。
【0071】
本発明方法によって得られる金ナノ粒子担持体は、金ナノ粒子が担体に均一に担持されたものであり、触媒反応に対して被毒物質となるハロゲン化物イオンを含有しないために、各種の触媒反応に対して高い活性を有するものとなる。このため、一酸化炭素酸化除去などの室内空気浄化、NOx低減等の大気環境保全、水素中の一酸化炭素選択酸化等の燃料電池関連反応、プロピレンからのプロピレンオキサイド合成反応等の化学プロセス用反応等の従来から金ナノ粒子触媒が用いられている各種の分野において熱触媒として有効に利用することができる。
【0072】
また、金ナノ粒子担持体は、光触媒としても有効に使用できる。酸化チタンを代表とする光触媒に貴金属を助触媒として担持することにより、水の分解反応、有機物含有水溶液からの水素発生反応、人工光合成のモデル反応としてのCO
2の光還元反応、汚染物質の酸化分解による空気浄化や水質浄化、光照射下での各種有機合成反応などに高い活性を示すことが知られている。助触媒として働く貴金属としてはPtが最も広く用いられているが、Auも有用であることが知られている。また、酸化チタン以外の光触媒としては、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化タンタル等も知られており、これらの酸化物に対しても上記した方法によって金ナノ粒子担持体を得ることができる。
【0073】
金ナノ粒子担持体に担持された金ナノ粒子の粒子径としては、特に制限されないが、好ましくは100nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下が挙げられる。金ナノ粒子の粒子径の下限値としては、通常1nm程度である。なお、金ナノ粒子の粒子径は、粉末X線回折法により測定された体積平均値であり、より具体的には実施例で用いた方法により測定された値である。但し、2nmよりも小さな粒子径については粉末X線回折法によっては測定ができないため、別途に透過型電子顕微鏡観察などの他の測定を行い、粒径を求める必要がある。
【実施例】
【0074】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0075】
<実施例1>
酢酸金[Au(CH
3COO)
3,Alfa Aesar製、メ−カ−の分析証明書に記載の純度99.99%]の茶色粉末96mgを炭酸ナトリウム(0.1mol/L)の水溶液100mLに入れ、マグネチックスターラーで撹拌しつつ、ホットプレ−ト上で加熱し沸騰還流の状態を保ったところ、沸騰後約10分で茶色がほぼ消失した。沸騰後1時間で加熱を止めて室温に戻し、無色透明の溶液(pH11.5)を得た。次に、得られた溶液の20mLに、表1のpHとなるように酢酸水溶液(0.1mol/L)を加えて攪拌して、各金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を得た。
【0076】
一方、酸化セリウム (第一稀元素製、グレ−ドA)の黄色粉末1.0gをPFA製のシャ−レに取り、上記した方法で得た金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を加えて混合した。溶液量は酸化セリウム1gに対し酢酸を加える前の金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液として20mLとし、酢酸を添加した溶液では添加による体積増加分を含め全量を加えた。次いで、PFAシャ−レを約40℃に加熱して水分を蒸発させて蒸発乾固させた後、るつぼに移してマッフル炉で、350℃、1時間焼成することによって、金ナノ粒子が酸化セリウムに担持された黒色〜灰色の粉末(Au/CeO
2担持体)を得た。
【0077】
次いで、残留する可溶性塩類を除去するために、脱イオン水にて洗浄した後、100℃で乾燥して、酸化セリウム上に金ナノ粒子が担持された担持体を得た。得られた担持体における金の担持量は1.0質量%であった。得られた担持体は、ガラス製スクリュ−管瓶に入れ保存した。
【0078】
(金粒子径の測定)
酸化セリウムに金ナノ粒子が担持されたことは粉末X線回折(XRD)測定により確認した。XRD装置としてリガク製UltimaIVを用い、Au(111)回折線の半値幅から以下のシェラーの式により金の体積平均粒子径を計算した。下記式による計算結果を表1及び
図2に示す。
【0079】
D=Kλ/(Bcosθ)
D:結晶子の大きさ(体積平均粒子径に相当)
K:シェラー定数(上記式ではK=0.849を用いた)
λ:CuKαX線の波長0.154nm
B:回折線幅(上記式ではAu(111)の実測半値幅から装置幅の0.18°を差し引いた角を用いた)
θ:Au(111)のブラッグ角19.1°
【0080】
(CO転化率の測定)
上記した方法で得られた金ナノ粒子担持体について、下記の方法で固定床流通反応装置を用いて室温(23℃)における一酸化炭素の酸化反応を行い、触媒活性を評価した。
【0081】
まず、内径6mmの石英反応管に、20mgの担持体粉末を0.5gの石英砂と混合して充填した。この反応管に、CO(1%)+O
2(20%)+He(バランスガス)の混合ガスを100mL/minで流通させ、反応管出口のガスを光音響分析計(PAS)で分析した。安定後のCO,CO
2の濃度分析値からCO転化率を計算した値を表1及び
図3に示す。
【0082】
<実施例2>
実施例1において、得られた無色透明の溶液に、表1のpHとなるようにクエン酸水溶液(0.1mol/L)を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、各金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を得た。次に、実施例1と同様にして、金ナノ粒子担持体を製造し、触媒活性を評価した。また、金の粒子径についても、実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び
図2,3に示す。
【0083】
<実施例3>
実施例1において、得られた無色透明の溶液に、表1のpHとなるようにシュウ酸水溶液(0.1mol/L)を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、各金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を得た。次に、実施例1と同様にして、金ナノ粒子担持体を製造し、触媒活性を評価した。また、金の粒子径についても、実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び
図2,3に示す。
【0084】
<比較例1>
実施例1において、得られた無色透明の溶液に、表1のpHとなるように硝酸水溶液(0.1mol/L)を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、各金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を得た。次に、実施例1と同様にして、金ナノ粒子担持体を製造し、触媒活性を評価した。また、金の粒子径についても、実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び
図2,3に示す。
【0085】
<比較例2>
実施例1において、得られた無色透明の溶液に、酢酸水溶液を加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして、各金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を得た。次に、実施例1と同様にして、金ナノ粒子担持体を製造し、触媒活性を評価した。また、金の粒子径についても、実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び
図2,3に示す。なお、比較例2におけるpHの相異は実験誤差である。
【0086】
【表1】
【0087】
表1及び
図2,3に示したように、硝酸を添加によりした場合は金の粒径が10nmを超えるのに対し、酢酸、クエン酸、シュウ酸では溶液pHが7〜8で10nm以下の小さな金が担持でき、酢酸ではpHを10から4.5まで変えることで20nm以下での金の粒径を制御することができた。CO酸化の触媒活性においても、硝酸を添加すると2%以下の低いCO転化率となるのに対し、酢酸、クエン酸、シュウ酸では溶液pHが7以上で3.5%以上の高いCO転化率を示し、特にシュウ酸を添加しpHを7〜8とした場合には比較例2の弱酸を加えない場合よりも高い触媒活性を示した。
【0088】
図4は、金の粒径とCO酸化触媒活性の関係を示している。金ナノ粒子触媒によるCO酸化反応に関しては、2nm以上の金ナノ粒子であれば、その粒子径が小さいほど触媒活性が高いことが多数報告されている(2nm未満については報告者により違いがある)。金ナノ粒子と担体の界面が活性点であると考えられており、触媒活性はその界面長さに比例する。金の粒径との関係で言えば、金の粒径の逆数と触媒活性が比例することになる。
図4から、多くのデータが比例関係示す直線の近くに分布することが明らかである。なお、破線で囲んだ2点のデータ(クエン酸添加のpH5.8の場合、およびシュウ酸添加のpH5.6の場合)については、直線関係から大きく外れており、粒径(各々16.2nm、96.3nm)から期待されるよりも遥かに高い活性を示した。これは、求めた粒径がX線回折法による体積平均値であり、少数の粗大粒子が混じることにより平均値が大きくなったためと考えられる。体積平均値が15nm以上であっても、多くの数の粒子が10nm以下である場合は、高いCO転化率が期待できる。
【0089】
<実施例4>
実施例1と同様にして酢酸金96mgを炭酸ナトリウム水溶液(0.1mol/L)100mLに溶解しpH10.8の溶液を得た。この溶液1.0mLにpH調整のため酢酸(0.1mol/L)を1.2mL加えて得られた金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液のpHは7.1であった。この溶液をるつぼに取ったシリカ(日本アエロジル、Aerosil 200)粉末50mgに加えたこと以外は、実施例1の酸化セリウムへの担持と同様にして、金/シリカ担持体を得た。得られた担持体における金の担持量は1.0質量%であった。金/シリカ担持体について、粉末X線回折装置(リガク社製のUltimaIV)を用いて、金の粒子径(体積平均値)を測定した。結果を表2に示す。
【0090】
<実施例5>
酢酸の代りにクエン酸(0.1mol/L)0.4mLを加え、溶液のpHを7.4としたこと以外は実施例4と同様にして金/シリカ担持体を調製した。得られた担持体における金の担持量は1.0質量%であった。実施例4と同様にして金の粒子径(体積平均値)を測定した。結果を表2に示す。
【0091】
<実施例6>
酢酸の代りにシュウ酸(0.1mol/L)0.6mLを加え、溶液のpHを7.1としたこと以外は実施例4と同様にして金/シリカ担持体を調製した。得られた担持体における金の担持量は1.0質量%であった。実施例4と同様にして金の粒子径(体積平均値)を測定した。結果を表2に示す。
【0092】
<比較例3>
実施例1と同様にして酢酸金96mgを炭酸ナトリウム水溶液(0.1mol/L)100mLに溶解した後、弱酸を加えなかったこと以外は実施例4と同様にして金/シリカ担持体を調製した。得られた担持体における金の担持量は1.0質量%であった。実施例4と同様にして金の粒子径(体積平均値)を測定した。結果を表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
表2に示すように、金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を用いたシリカへの金ナノ粒子の担持においては、弱酸を用いpHを7〜8に調整した実施例4〜6においては、pHを調製せず10.8のまま用いた比較例3に比べ、より小さい金ナノ粒子を担持することができた。
【0095】
<実施例7>
実施例1と同様にして酢酸金48mgを炭酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)50mLに溶解しpH11.1の溶液を得た。この溶液5.0mLにpH調整のため酢酸(0.1mol/L)を2.8mL加えて得られた金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液のpHは7.4であった。この溶液をPFAシャ−レに取ったSiO
2/Al
2O
3(mol/mol)比500のH型βゼオライト(東ソー製HSZ980HOA)粉末0.25gに加えたこと以外は、実施例1と同様にして、金/βゼオライト担持体を得た。得られた担持体における金の担持量は1.0質量%であった。実施例1と同様に粉末X線回折の測定を行い、金を担持した後もゼオライトの結晶構造を保持しているかどうかについて確認を行うと共に、実施例1と同様にAu(111)回折線の半値幅からシェラーの式により金の体積平均粒子径を計算した。結果を表3及び
図5に示す。
【0096】
<実施例8>
酢酸の代りにクエン酸(0.1mol/L)0.9mLを加え、溶液のpHを7.4としたこと以外は実施例7と同様にして金/βゼオライト担持体を調製した。得られた担持体における金の担持量は1.0質量%であった。実施例4と同様にして粉末X線回折の測定を行い金の粒子径(体積平均値)を計算した。結果を表3及び
図5に示す。
【0097】
<実施例9>
酢酸の代りにシュウ酸(0.1mol/L)1.3mLを加え、溶液のpHを7.6としたこと以外は実施例7と同様にして金/βゼオライト担持体を調製した。得られた担持体における金の担持量は1.0質量%であった。実施例4と同様にして粉末X線回折の測定を行い金の粒子径(体積平均値)を計算した。結果を表3及び
図5に示す。
【0098】
<比較例4>
実施例7と同様にして酢酸金48mgを炭酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)50mLに溶解した後、弱酸を加えなかったこと以外は実施例7と同様にして金/βゼオライト担持体を調製した。得られた担持体における金の担持量は1.0質量%であった。実施例4と同様にして粉末X線回折の測定を行い金の粒子径(体積平均値)を計算した。結果を表3及び
図5に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
図5に示されるように、弱酸を添加し調製した実施例7,8,9のAu/βゼオライトでは強度は弱くなるものの元のHβゼオライトと同じ角度に回折線が見られ、結晶を保持している。これに対して、弱酸を添加せずにpH11.1で含浸した比較例4においては、ゼオライトの結晶構造を示す回折線が非常に弱くなると同時に2θ=22°付近にハローが観測され結晶破壊が起こったことを示唆している。
【0101】
表3はゼオライトの結晶構造の保持の有無と担持された金の粒子径についてまとめた結果である。いずれの場合も10nm以下の金ナノ粒子を担持できているものの、結晶構造を保持するためには金ヒドロキソ錯体溶液に弱酸を添加しpHを7.5付近とすることが大変有効であることが示された。
【0102】
上記した方法で得られたAu/SiO
2とAu/βゼオライトのうち実施例5、比較例3、実施例7、比較例4の金ナノ粒子担持体を選んで、下記の方法で100℃におけるグルコース酸化反応を行い、触媒活性を評価した。これらの金ナノ粒子担持体に用いた担体のみの触媒活性についても検討するため、比較例5としてSiO
2、比較例6としてHβゼオライトについても触媒活性を評価した。結果を表4に示す。
【0103】
(グルコース酸化反応活性の測定)
容量10mLのねじ口試験管に、撹拌子と担持体粉末10mgを入れ、更にグルコース水溶液(グルコース15mgを水3mLに溶解したものを全量)加えた。テフロンコートパッキン付きの蓋を用い密栓し、恒温槽内に設置した耐熱マグネチックスターラー(HP40163、国内総発売元(株)アイシス)により撹拌しつつ100℃で4時間反応を行った。反応後の溶液を室温まで冷却した後に、酵素法による分析キット(F−kit No.428191、国内総発売元(株)J.K.インターナショナル、世界総発売元バイオファーム社)を用い、酸化生成物であるグルコン酸の量を定量し、収率を計算した。
【0104】
【表4】
【0105】
表4から明らかなように、担体のみではグルコン酸はほとんど生じないのに対し、金ナノ粒子の担持によって高いグルコン酸収率が得られた。Au/SiO
2の場合は工程2での弱酸の添加の有無でグルコン酸収率の違いは大きくなかったが、弱酸を添加しなかった比較例3では反応後の溶液の色が赤紫に着色し、担持したAuがコロイドとして脱離しやすいことを示した。実施例5のクエン酸添加の場合には、反応後の液色は完全に無色であった。Au/βゼオライトの実施例7と比較例4では、どちらも反応後の溶液はごくわずかに赤紫の着色が見られるのみで差はみられなかった。グルコース収率を比較すると大きな違いがみられ、酢酸を添加した実施例7では添加しなかった比較例4と比べ2倍以上の高い収率が得られた。これらの比較から、工程2で弱酸を添加した金ヒドロキソ錯体陰イオン溶液を用いた場合には、金ナノ粒子をより安定に担持できたり、触媒活性が高くなるなど、好ましい効果が見られることが明らかとなった。
【0106】
<実施例10>
実施例1と同様にして、酢酸金115mgを炭酸ナトリウム水溶液(0.1mol/L)120mLに溶解し、pH10.8の溶液を得た。次に、得られた溶液の20mLに、表5のpHとなるようにクエン酸水溶液(0.1mol/L)を加えて攪拌して、各金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液を得た。この溶液を、PFAシャ−レに取った酸化チタン(日本アエロジル製P25)粉末1.0gに加えた。次に、約40℃に加熱して水分を蒸発させて蒸発乾固させた後、るつぼに移し、マッフル炉で350℃、1時間焼成することによって、青紫色の金/酸化チタン担持体(Au/TiO
2)を得た。次いで、残留する可溶性塩類を除去するために、脱イオン水にて洗浄した後、100℃で乾燥した。得られた担持体における金の担持量は、1.0質量%であった。得られた担持体は、ガラス製スクリュ−管瓶に入れ、保存した。次に、実施例1と同様にして、粉末X線回折の測定を行なった。実施例1と同様、回折線の半値幅からシェラーの式により金の体積平均粒子径を計算したが、この時、Au(111)回折線は、酸化チタンのピークと重なってしまうため、Au(311)回折線を用いて計算を行った。また、COの酸化活性についても、実施例1と同様にして測定した。結果を表5に示す。
【0107】
<比較例7>
予め調製しておいた塩化金酸の0.1mol/L水溶液0.5mLに水を加えて10mLとし、この溶液(pH2.5)をPFAシャ−レに取った酸化チタン(日本アエロジル製P25)粉末1.0gに加えた。次いで、PFAシャ−レを約40℃に加熱して水分を蒸発させて蒸発乾固させた後、るつぼに移し、マッフル炉で、350℃、1時間焼成することにより、金/酸化チタン担持体(Au/TiO
2)を得た。得られた担持体における金の担持量は、1.0質量%であった。得られた担持体は、ガラス製スクリュ−管瓶に入れて保存した。実施例10と同様、回折線の半値幅からシェラーの式により金の体積平均粒子径を計算し、COの酸化活性についても、実施例10と同様にして測定した。結果を表5に示す。
【0108】
【表5】
【0109】
表5から明らかなように、クエン酸の添加量が少なくpHが上がると金の粒子径は小さくなり、COの転化率は増加した。比較例7では、金ヒドロキソ錯体を用いることなく、塩化金酸を直接担持したところ、金の粒子径は40mnを超え、CO転化の触媒活性は見られなかった。実施例10の金ヒドロキソ錯体にクエン酸を添加した溶液を用いることで、金ナノ粒子の粒子径制御を行いつつ、CO転化活性が高い触媒が得られることが明らかとなった。
【0110】
(光触媒反応活性の測定)
マグネチックスターラーと100W高圧水銀ランプ(SEN特殊光源(株)製 HL100G)を配した反応装置を用い、メタノールを犠牲剤とする水分解水素発生反応に対する担持体粉末の光触媒反応活性を評価した。反応管として用いる試験管(日電理化硝子(株)製 P−18M、内部に水を満たして実測した内容積35.4mL)に、撹拌子と担持体粉末10mgを入れ、更にメタノール水溶液(50vol%)8mLを加えた。次に、ゴム製Wキャップをかぶせ、隙間からテフロンチューブを液中まで差し入れて、そこから窒素ガスを10分間バブリングすることにより、液中の溶存酸素を除去すると共に、試験管上部の空気も窒素置換した。次に、テフロンチューブを引き抜くと同時にWキャップで密栓し、さらにパラフィルムを巻いて空気が入らないようにした。ガスタイトシリンジの針をWキャップに突き刺して内部のガスを0.2mLサンプリングし、TCDガスクロマトグラフ(モレキュラーシーブ13Xカラム)により分析して、酸素がほぼ残っていないことを確認した。次に、予め高圧水銀ランプを点灯しておき、十分安定させた後に、マグネチックスターラーに反応管をセットし、担持体粉末が懸濁状態となるよう反応液を攪拌すると共に、高圧水銀ランプの紫外可視光を試験管側方より照射して反応を開始した。15分ごとに反応管を取り出してガスタイトシリンジで0.2mLのガスをサンプリングし、TCDガスクロによりH
2,O
2,N
2を分析した。得られたピーク面積比から予め求めておいた相対モル感度から、H
2発生量を計算した。H
2発生量を光照射時間に対してプロットした結果を
図6に示す。
【0111】
また、メタノール水溶液の代わりにグリセリン水溶液(0.5wt%)8mLを用いた以外は、上記と同様の手順で、グリセリンを犠牲剤とする水分解水素発生反応に対する担持体粉末の光触媒反応活性の測定を行った。結果を
図7に示す。
【0112】
図6に示したように、実施例10の金ヒドロキソ錯体にクエン酸を添加した溶液を用いることで、メタノールを犠牲剤とする水素発生反応に光触媒活性を示す金ナノ粒子担持体が得られ、従来法である比較例7により調製した場合よりも活性が高くなることが分かった。さらに、調製液のpHを高くし、金の粒子径を小さく制御すると、活性も高くなることが分かった。また、
図7に示したように、犠牲剤としてグリセリンを用いた場合には、メタノール犠牲剤よりもはるかに少ない量でも、十分な水素発生速度の得られることが明らかとなった。