(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441594
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】麺類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20181210BHJP
【FI】
A23L7/109 E
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-114481(P2014-114481)
(22)【出願日】2014年6月3日
(65)【公開番号】特開2015-226527(P2015-226527A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2016年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敦行
(72)【発明者】
【氏名】長井 孝雄
【審査官】
福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−204411(JP,A)
【文献】
特開2009−213354(JP,A)
【文献】
特開2011−000083(JP,A)
【文献】
特開2011−109930(JP,A)
【文献】
特開平05−304915(JP,A)
【文献】
特表2007−514443(JP,A)
【文献】
特開2013−243984(JP,A)
【文献】
特開昭55−068262(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0008496(US,A1)
【文献】
特開2013−226080(JP,A)
【文献】
特開2012−085663(JP,A)
【文献】
特開2007−330160(JP,A)
【文献】
特開2007−082542(JP,A)
【文献】
特開2007−125003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉を用いて麺生地を製造する工程を有する麺類の製造方法であり、
前記穀粉は、
平均粒径が60〜100μmで且つ粒径200μm以下の粒を90質量%以上含むデュラム小麦粉80〜98質量%、並びに
穀類全粒粉、穀類粒の外皮部及び穀類粒の胚芽からなる群から選択される1種以上を含む粒径60〜80μmの微粉原料(但し焙焼したものを除く)を2〜20質量%含有し、
前記麺類が、パスタである、麺類の製造方法。
【請求項2】
前記穀類全粒粉、前記穀類粒の外皮部及び前記胚芽が、小麦全粒粉、小麦ふすま及び小麦胚芽である、請求項1に記載の麺類の製造方法。
【請求項3】
前記微粉原料は、前記穀類全粒粉、前記穀類粒の外皮部及び前記胚芽の何れか1種のみを含む、請求項1又は2に記載の麺類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
うどん、そば、中華麺、パスタなどの麺類は、一般に小麦粉を主体とする麺原料に水を添加し混捏して麺生地を得、該麺生地を麺線に加工して製造されている。そのようにして製造された麺類には、強い小麦風味や滑らかで歯切れの良い食感などが要望されている。
【0003】
例えば特許文献1には、麺のほぐれ、食感及び即席麺とした場合の復元性の向上を目的として、麺生地を製造するための麺原料として、該麺原料中の穀粉100質量%のうち、デュラム小麦粉が10〜60質量%、及び穀粉の全粒粉が3〜40質量%又は穀粉のふすまが1〜30質量%を占める麺原料を用いることが記載されており、全粒粉及びふすまとしてライ麦由来のものが好ましい旨も記載されている。また、特許文献2には、麺類に焼いたような食感や香ばしい風味を付与することを目的として、麺を多層麺とし、その最外層の片側又は両側を構成する層を、小麦ふすま及び/又は小麦胚芽を含有する麺生地から形成することが記載されている。尚、特許文献1及び2には、麺原料に含まれるデュラム小麦粉、ふすまなどの原料粉の粒径については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−226080号公報
【特許文献2】特開2013−106591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、風味に優れた麺類を提供し得る麺類の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、穀粉を用いて麺生地を製造する工程を有し、前記穀粉は、デュラム小麦粉を5〜99.8質量%、並びに穀類全粒粉、穀類粒の外皮部及び胚芽からなる群から選択される1種以上を含む粒径180μm未満の微粉原料を0.2〜95質量%含有する、麺類の製造方法である。
また本発明は、前記製造方法により製造された麺類である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の麺類の製造方法によれば、風味に優れ、喫食した際に小麦などの穀類の風味が口腔に広がるような風味豊かな麺類が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の麺類の製造方法は、穀粉を含む麺原料を用いて麺生地を製造する工程を有する。本発明で用いる穀粉はデュラム小麦粉を含有する。デュラム小麦粉の種類は特に制限されず、1種類のデュラム小麦粉を単独で又は2種類以上のデュラム小麦粉を組み合わせて用いることができる。デュラム小麦粉の含有量は、麺原料に含まれる全穀粉中、5〜99.8質量%であり、好ましくは80〜99質量%、さらに好ましくは90〜98質量%である。穀粉におけるデュラム小麦粉の含有量が5質量%未満では、製造された麺類の食感が低下するおそれがあり、99.8質量%を超えると、デュラム小麦粉と併用される後述する微粉原料の含有量が少なくなりすぎて、該微粉原料による効果(風味の向上効果等)が十分に奏されないおそれがある。
【0009】
本発明で用いるデュラム小麦粉の好ましい一例として、平均粒径が好ましくは60〜100μm、さらに好ましくは60〜80μmで且つ粒径200μm以下の粒を好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは100質量%含む特定デュラム小麦粉が挙げられる。この特定デュラム小麦粉を麺原料として用いることで、通常の小麦粉にない風味付けと食感に関わる弾力性とを麺類に付与することが可能となる。
【0010】
尚、本明細書において、デュラム小麦粉等の穀粉の「平均粒径」は、特に断らない限り、日機装株式会社製「マイクロトラック粒度分布測定装置9200FRA」を用いて乾式で測定した平均粒径を意味する。また、前記「粒径200μm以下の粒の含有量」は、デュラム小麦粉の粒径の頻度であり、前記装置9200FRAを用いて乾式で粒径分布を測定し、該粒径分布を解析し、計算した「検出頻度割合」である(前記装置9200FRAに添付された資料「マイクロトラック粒度分析計測定結果の見方」参照)。
【0011】
本発明で用いる穀粉は、デュラム小麦粉に加えてさらに、穀類全粒粉、穀類粒の外皮部及び胚芽からなる群から選択される1種以上を含む粒径180μm未満の微粉原料を含有する。尚、当然であるが、この微粉原料にはデュラム小麦粉は含有されない。麺生地に用いる穀粉に穀類全粒粉、穀類粒の外皮部又は胚芽を含有させることで、該
麺生地を用いて製造された麺類の風味が向上する。
【0012】
本発明で用いる微粉原料(穀類全粒粉、穀類粒の外皮部、胚芽)は、穀類を原料とする粉体である。穀類としては、従来食材として利用可能な穀類粒(種子)を有する植物であれば特に制限されないが、通常はイネ科植物が用いられる。穀類として利用可能なイネ科植物としては、例えば、小麦、ライ麦、ライ小麦、大麦、オーツ麦、はと麦、トウモロコシ、ヒエ、アワ、キビ等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも特に、小麦が好ましい。
【0013】
本発明で微粉原料として用いる穀類全粒粉は、穀類粒(例えばイネ科植物の頴果)から外皮部、胚芽などを取り除かずに、穀類(穀類粒)全体を粉砕したものであり、例えば穀類粒が小麦粒の場合は、胚乳、胚芽、外皮(果皮、種皮)など、小麦粒の組織全部を含む。穀類全粒粉は、通常、乾燥粉末化されている。また、本発明で微粉原料として用いる穀類粒の外皮部は、穀類粒が小麦粒の場合はいわゆる小麦ふすまである。小麦ふすまとしては、一般的な小麦粉の製造過程で生じる、小麦粒から胚乳及び胚芽を除去した残部を用いることができ、組成や製造過程を問わない。小麦ふすま以外の他の穀類粒の外皮部としては、小麦ふすまの製造方法に準じて製造されたものを用いることができる。
【0014】
本発明で用いる微粉原料は、粒径が180μm未満であり、好ましくは60〜100μm、さらに好ましくは60〜80μmである。微粉原料の粒径が180μmを超えると、製造された麺類において風味の向上効果は得られても、食感が低下するおそれがある。
【0015】
粒径180μm未満の微粉原料は、常法に従って原料である穀類(穀類粒)の粉砕及び分級を行うことで得られ、必要に応じ、穀類の粉砕物の一部又は全部を再度1回以上粉砕しても良い。例えば、粒径180μm未満の穀類全粒粉は、下記工程(1)〜(5)を有する製造方法によって製造することができる。
(1)原料穀類を粗粉砕する工程。
(2)工程(1)で得られた粗粉砕物を、粒径180μm未満の微粉画分と、粒径180μm以上の粗粉画分とに分離する工程。
(3)工程(2)で得られた粗粉画分を微粉砕する工程。
(4)工程(3)で得られた微粉砕物から粒径が180μm未満の微粉画分を分取する工程。
(5)工程(2)で得られた粒径180μm未満の微粉画分と、工程(4)で得られた粒径180μm未満の微粉画分とを混合する工程。
【0016】
微粉原料の含有量は、麺原料に含まれる全穀粉中、0.2〜95質量%であり、好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは2〜10質量%である。穀粉における微粉原料の含有量が0.2量%未満では、製造された麺類の風味が不足するおそれがあり、95質量%を超えると、製造された麺類の食感が低下するおそれがある。
【0017】
本発明で用いる麺原料には、デュラム小麦粉及び微粉原料以外の他の穀粉、並びに穀粉以外の副原料が含有されていても良い。他の穀粉としては澱粉類が挙げられ、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉、及びこれらにα化、アセチル化、エーテル化、エステル化、酸化処理、架橋処理等の処理を施した加工澱粉が挙げられる。副原料としては、例えば、小麦グルテン、大豆蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材;動植物油脂、粉末油脂等の油脂類;かんすい、焼成カルシウム、食物繊維、膨張剤、増粘剤、乳化剤、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料、デキストリン、アルコール、保存剤、酵素剤等が挙げられる。
【0018】
本発明の麺類の製造方法において、麺原料を用いた麺生地の製造は常法に従って行うことができ、通常、麺原料に水を添加し混捏して麺生地を製造する。麺原料への加水量は、麺類の種類等に応じて適宜調整すれば良いが、通常、麺原料100質量部に対し、好ましくは30〜45質量部、さらに好ましくは35〜43質量部である。製造した麺生地を麺線に加工することで、目的とする麺類(生麺線)が得られる。麺生地から麺線への加工は常法に従って行うことができ、例えば、麺生地をロール圧延等の常法により圧延して麺帯を得、この麺帯から常法により麺線を切り出すことで、目的とする麺類が得られる。
【0019】
本発明が適用可能な麺類の種類は特に限定されず、例えば、中華麺、つけめん、焼きそば、素麺、冷麦、うどん、そば、パスタ、麺皮等が挙げられる。
【実施例】
【0020】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0021】
〔実施例1〜9、比較例1〜4及び参考例1〕
下記表1に示す組成の穀粉100質量部に対して食塩1質量部及び水34質量部を加え、高速で2分間混捏した後、さらに高速で8分間混捏して麺生地を得た。得られた麺生地を常法により圧延して麺帯とした後、切り刃(♯20角)を通して1.4mm厚の麺線とし、生麺として生パスタを製造した。
【0022】
〔評価試験〕
評価対象の生麺(生パスタ)を熱湯で3分間茹で、その茹で調理済みの麺の風味及び食感をそれぞれ下記評価基準に基づいて10名のパネラーに評価してもらった。その評価結果(パネラー10名の平均点)を下記表1に示す。
【0023】
(風味の評価基準)
5点:小麦(生パスタに含まれている穀類)の風味を強く感じる。
4点:小麦の風味を感じる。
3点:小麦の風味をやや感じる。
2点:小麦の風味はほぼ感じない。
1点:小麦の風味は感じない。
(食感の評価基準)
5点:滑らかで歯切れが良く、極めて良好。
4点:やや滑らかで歯切れもやや良く、良好。
3点:標準的な滑らかさと歯切れのある食感。
2点:やや硬めで歯切れがやや悪く、やや不良。
1点:硬くて歯切れの悪い、不良。
【0024】
【表1】
【0025】
表1に示す通り、比較例1は、デュラム小麦粉(デュラム小麦粉A)のみを含む穀粉を用いた唯一の例であり、これ以外の例は全て、デュラム小麦粉に加えてさらに、穀類全粒粉(小麦全粒粉)、穀類粒の外皮部(小麦ふすま)又は胚芽(小麦胚芽)(以下、これらを総称して「穀類全粒粉等」ともいう)を含む穀粉(小麦)を用いた例であるところ、比較例1以外の例は全て比較例1に比してパスタの風味に優れていた。このことから、デュラム小麦粉に加えて穀類全粒粉等を麺原料として用いることは、麺類の風味向上に有効であることがわかる。
しかしながら、実施例1と比較例2との対比、実施例4と比較例3との対比、実施例7と比較例4との対比から明らかなように、粒径60μmの穀類全粒粉等を用いた各実施例は、粒径200μmの穀類全粒粉等を用いた各比較例に比してパスタの食感に優れていた。このことから、風味及び食感の両方に優れた麺類を得るためには、単に穀類全粒粉等を用いるだけでは足りず、穀類全粒粉等の粒径を粒径60μm程度に調整する必要があることがわかる。
また、前記特定デュラム小麦粉であるデュラム小麦粉Aと用いた実施例1の方が、前記特定デュラム小麦粉ではないデュラム小麦粉Bを用いた参考例1に比して、評価結果特にパスタの食感が良好であったことから、前記特定デュラム小麦粉、即ち、「平均粒径が60〜100μmで且つ粒径200μm以下の粒を90質量%以上含むデュラム小麦粉」の有効性が明らかである。