特許第6441702号(P6441702)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6441702イオン源、イオンビーム装置および試料の加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441702
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】イオン源、イオンビーム装置および試料の加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 27/02 20060101AFI20181210BHJP
   H01J 27/16 20060101ALI20181210BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20181210BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20181210BHJP
   H01J 37/30 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   H01J27/02
   H01J27/16
   H01J37/08
   H01J37/317 D
   H01J37/30 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-19346(P2015-19346)
(22)【出願日】2015年2月3日
(65)【公開番号】特開2016-143583(P2016-143583A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】杉山 安彦
(72)【発明者】
【氏名】大庭 弘
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006-114241(JP,A)
【文献】 特開2009-170118(JP,A)
【文献】 特開2012-138283(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/123739(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/029929(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/00
H01J 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスを導入する原料ガス導入部と、
前記原料ガス導入部が接続され、前記原料ガスからクラスターを生成するクラスター生成機構を備えるクラスター生成室と、
前記原料ガス導入部および前記クラスター生成室が接続され、プラズマを生成するプラズマ生成機構を備えるプラズマ生成室と、
を有することを特徴とするイオン源。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン源と、
前記プラズマ生成室から引き出されたイオンビームが照射される試料が配置される試料室と、
を有することを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項3】
請求項2に記載のイオンビーム装置を用いた試料の加工方法であって、
前記原料ガスから前記プラズマ生成機構によりプラズマ化してモノマーイオンを生成するステップと、
前記モノマーイオンを前記試料に照射するステップと、
前記原料ガスから前記クラスター生成機構により前記クラスターを生成するステップと、
前記クラスターを前記プラズマ生成機構によりプラズマ化してクラスターイオンを生成するステップと、
前記クラスターイオンを前記試料に照射するステップと、
を有することを特徴とする試料の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源、イオンビーム装置および試料の加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、試料を微細加工する装置として、イオン源を備えたイオンビーム装置が知られている。イオンビーム装置は、イオン源から放出されたイオンビームを試料に照射して試料表面をスパッタリングすることで試料を削ることができ、試料の断面を作製することができる。
【0003】
近年、試料加工のスループット向上を図るため、イオンビームのビーム電流の大電流化が要求されている。この要求に伴い、イオン源として従来の液体金属イオン源と比較して1μA以上の大きなビーム電流が得られるプラズマイオン源が搭載されたイオンビーム装置がある(例えば、特許文献1参照)。このようなイオンビーム装置では、単体の気体原子または分子がイオン化されたモノマーイオンビームが照射される。しかしながら、モノマーイオンビームを照射することにより作製された試料の断面には、試料の形状や構造の局所的な変化によるエッチングレートの差により、凹凸形状が発生することが知られている(カーテン効果)。また、モノマーイオンビームが照射された試料の断面は、高エネルギーを有するアルゴン原子が試料内部に侵入することにより、ダメージを受けた状態となる場合がある。
【0004】
また、近年では、複数個の塊となった気体原子または分子がイオン化されたクラスターイオンを放出するクラスターイオン源を備えたイオンビーム装置が開発されている。例えば、特許文献2には、クラスター発生機構、クラスター発生機構で発生させたクラスターのイオン化機構、イオン化機構でイオン化させたクラスターイオンの加速機構を備えたガスクラスターイオンビーム照射装置が開示されている。特許文献2に記載のガスクラスターイオンビーム照射装置によれば、モノマーイオンビームでは実現し得ない低損傷での平坦化加工が可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−204672号公報
【特許文献2】特開2006−156065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、モノマーイオンビームの照射により形成された試料の断面の凹凸形状は、試料に対するモノマーイオンビームの入射方向を変化させながら試料を加工することで、試料の断面の凹凸形状を軽減させることができる。しかしながら、モノマーイオンビームの入射方向を変化させて加工する場合には、試料の傾斜を適宜変更しながら照射しなければならず、作業量が増大するという課題がある。また、モノマーイオンビームの入射方向を変化させても、試料内部へのアルゴン原子の侵入を抑制することは困難である。
【0007】
また、ガスクラスターイオンは、試料表面を低損傷で平坦化することが可能である一方で、モノマーイオンと比較して大きな質量分布を持つため、小さなビーム径に集束させることが困難であり、モノマーイオン程の大きなビーム電流密度は達成できない。このため、クラスターイオンビームを用いるイオンビーム装置は、試料の断面を作製するにあたって、モノマーイオンビームを用いる場合と比較して効率が低いという課題がある。
【0008】
そこで、モノマーイオンおよびクラスターイオンを併用して、試料の加工の効率を向上させることも考えられる。しかしながら、従来のクラスターイオン源からはモノマーイオンも放出されるが、クラスターイオン源から放出されるモノマーイオンビームは、プラズマイオン源から放出されるモノマーイオンビームと比較してビーム電流が小さい。このため、従来のクラスターイオン源をモノマーイオンのイオン源として併用し、試料の断面の作製における効率を向上させることは困難である。したがって、従来のイオン源およびイオンビーム装置にあっては、モノマーイオンおよびクラスターイオンを有効的に併用して、試料の加工を効率よく行うという点で改善の余地がある。
【0009】
そこで本発明は、モノマーイオンおよびクラスターイオンを有効的に併用できるイオン源、イオンビーム装置および試料の加工方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のイオン源は、原料ガスを導入する原料ガス導入部と、前記原料ガス導入部が接続され、前記原料ガスからクラスターを生成するクラスター生成機構を備えるクラスター生成室と、前記原料ガス導入部および前記クラスター生成室が接続され、プラズマを生成するプラズマ生成機構を備えるプラズマ生成室と、を有することを特徴とする。
本発明によれば、イオン源は、プラズマ生成室において、原料ガスをプラズマ化してモノマーイオンを生成できるとともに、クラスター生成室において生成されたクラスターをプラズマ化してクラスターイオンを生成できる。このため、イオン源は、クラスターイオンビームを放出できるとともに、従来のプラズマイオン源と同様に1μA以上のモノマーイオンビームも放出できる。したがって、モノマーイオンおよびクラスターイオンを有効的に併用できるイオン源とすることができる。
【0011】
本発明のイオンビーム装置は、上記のイオン源と、前記プラズマ生成室から引き出されたイオンビームが照射される試料が配置される試料室と、を有することを特徴とする。
本発明によれば、イオンビーム装置は、モノマーイオンおよびクラスターイオンを生成できるイオン源を有するため、試料室に配置された試料にモノマーイオンビームおよびクラスターイオンビームを照射できる。これにより、イオンビーム装置は、高レートでエッチング可能なモノマーイオンにより試料室内の試料を加工した後、モノマーイオンにより加工された部分を連続してクラスターイオンにより仕上げ加工することができる。したがって、モノマーイオンおよびクラスターイオンを有効的に併用でき、試料の加工を効率よく行うことができる。
【0012】
本発明の試料の加工方法は、上記のイオンビーム装置を用いた試料の加工方法であって、前記原料ガスから前記プラズマ生成機構によりプラズマ化してモノマーイオンを生成するステップと、前記モノマーイオンを前記試料に照射するステップと、前記原料ガスから前記クラスター生成機構により前記クラスターを生成するステップと、前記クラスターを前記プラズマ生成機構によりプラズマ化してクラスターイオンを生成するステップと、前記クラスターイオンを前記試料に照射するステップと、を有することを特徴とする。
本発明によれば、モノマーイオンを試料に照射するステップと、クラスターイオンを試料に照射するステップと、を有するため、モノマーイオンビームによる試料の加工と、クラスターイオンビームによる試料の仕上げ加工と、を連続して行うことができる。したがって、モノマーイオンおよびクラスターイオンを有効的に併用でき、試料の加工を効率よく行うことができる試料の加工方法を提供できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イオン源は、プラズマ生成室において、原料ガスをプラズマ化してモノマーイオンを生成できるとともに、クラスター生成室において生成されたクラスターをプラズマ化してクラスターイオンを生成できる。このため、イオン源は、クラスターイオンビームを放出できるとともに、従来のプラズマイオン源と同様に1μA以上のモノマーイオンビームも放出できる。したがって、モノマーイオンおよびクラスターイオンを有効的に併用できるイオン源とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】集束イオンビーム装置の構成図である。
図2】試料の加工方法を示すフローチャートである。
図3】変形例の集束イオンビーム装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、イオンビーム装置として、集束イオンビーム装置1を例に挙げて説明する。
【0016】
(集束イオンビーム装置の構成)
最初に、集束イオンビーム装置1の構成について説明する。
図1は、集束イオンビーム装置の構成図である。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜変更している。
図1に示すように、集束イオンビーム装置1は、試料が配置される試料室10と、イオンビームを放出するイオン源20と、イオンビーム光学系50と、制御部70と、を備える。
【0017】
(試料室)
試料室10は、イオン源20から照射されるイオンビームの照射位置に試料を移動させる試料ステージ11を収容する。
試料ステージ11は、5軸に変位することができる。すなわち、試料ステージ11は、同一面内で互いに直交するX軸およびY軸、並びにこれらX軸およびY軸に直交するZ軸に沿って試料ステージ11を移動させるXYZ軸機構と、X軸またはY軸回りで試料ステージ11を回転させて傾斜させるチルト軸機構と、Z軸回りで試料ステージ11を回転させる回転機構と、を含む変位機構により支持されている。
【0018】
試料室10には、試料室10内を真空状態にするための第1排気ユニット13が接続されている。第1排気ユニット13は、ロータリーポンプ13aと、ターボ分子ポンプ13bと、を有している。ターボ分子ポンプ13bは、ロータリーポンプ13aと試料室10との間に配置されている。試料室10は、第1排気ユニット13により、真空度を調整することができる。
【0019】
(イオン源)
イオン源20は、試料室10に取り付けられている。イオン源20は、鏡筒21の内部に形成されたクラスター生成室30およびプラズマ生成室40と、原料ガス導入部60と、引出電極26と、ウィーン(E×B)フィルタ27と、を備えている。鏡筒21は、一端部が開口した有底筒状に形成されている。鏡筒21は、一端部の開口において試料室10と連通している。
【0020】
原料ガス導入部60は、不図示のアルゴンガス供給源から、クラスター生成室30およびプラズマ生成室40にアルゴンガス(請求項の「原料ガス」に相当。)を導入する。原料ガス導入部60は、切替弁61と、切替弁61に接続される第1導入管62および第2導入管63と、を有している。原料ガス導入部60は、アルゴンガス供給源から供給されたアルゴンガスを、切替弁61において第1導入管62および第2導入管63の2つの流路に切り替えて通流させることが可能となっている。
【0021】
クラスター生成室30は、鏡筒21の底部と、鏡筒21の内部に配置されたスキマー23と、に挟まれるように形成されている。スキマー23は、クラスター生成室30内の中央部に向かって突き出た円錐状に形成されている。スキマー23の頂部には、クラスター生成室30の内外を連通する孔部が形成されている。
【0022】
クラスター生成室30には、ノズル31が配置されている。ノズル31は、鏡筒21の底部からスキマー23側に向かって突出するように設けられている。ノズル31の先端は、クラスター生成室30内の中央部に位置し、円錐状に広がるように形成されている。ノズル31の基端には、原料ガス導入部60の第1導入管62が接続されている。これにより、クラスター生成室30は、アルゴンガスを導入可能とされている。ノズル31は、原料ガス導入部60とともに、後述するクラスターを生成するクラスター生成機構として機能する。
【0023】
また、クラスター生成室30には、クラスター生成室30内を真空状態にするための第2排気ユニット33が接続されている。第2排気ユニット33は、ロータリーポンプ33aと、ターボ分子ポンプ33bと、を有している。ターボ分子ポンプ33bは、ロータリーポンプ33aとクラスター生成室30との間に配置されている。クラスター生成室30は、第2排気ユニット33により、真空度を調整することができる。
【0024】
プラズマ生成室40は、クラスター生成室30よりも試料室10側において、クラスター生成室30に隣接して形成されている。プラズマ生成室40は、スキマー23と、スキマー23よりも試料室10側に配置されたプラズマ電極25と、に挟まれるように形成されている。プラズマ電極25は、プラズマに加速電位を与える。プラズマ生成室40は、スキマー23の孔部を通じてクラスター生成室30と連通している。プラズマ生成室40には、原料ガス導入部60の第2導入管63が接続されている。これにより、プラズマ生成室40は、アルゴンガスを導入可能とされている。
【0025】
プラズマ生成室40の外周(鏡筒21の外周)には、RFコイル43が巻回されている。RFコイル43は、制御部70が備えるRF電源71に接続されている。RFコイル43は、制御部70のRF電源71とともに、誘導結合プラズマを生成するプラズマ生成機構として機能する。
【0026】
引出電極26は、プラズマ電極25よりも試料室10側に配置されている。引出電極26は、プラズマ電極25近傍にイオンビームを引き出すための電界を形成する。プラズマ電極25と引出電極26への印加電圧は、制御部70が備える加速−引出電圧制御部72により制御される。
【0027】
ウィーン(E×B)フィルタ27は、引出電極26よりも試料室10側に配置されている。ウィーン(E×B)フィルタ27は、入射したイオンを電場および電場に垂直な磁場により偏向させることで、設定された質量またはエネルギーを有するイオンのみを通過させる質量フィルタである。ウィーン(E×B)フィルタ27は、制御部70が備えるフィルタ制御部73に接続され、通過させるイオンの質量またはエネルギーを適宜設定可能となっている。
【0028】
(イオンビーム光学系)
イオンビーム光学系50は、プラズマ生成室40よりも試料室10側に配置されている。イオンビーム光学系50は、イオン源20において生成されたイオンビーム(詳細は後述)を試料に照射する。イオンビーム光学系50は、イオンビームを集束させるコンデンサレンズ電極51と、イオンビームを試料ステージ11上の試料にフォーカスさせる対物レンズ電極52と、を備える。コンデンサレンズ電極51は、引出電極26とウィーン(E×B)フィルタ27との間に配置されている。対物レンズ電極52は、ウィーン(E×B)フィルタ27よりも試料室10側に配置されている。
【0029】
(制御部)
制御部70は、上述したRF電源71、加速−引出電圧制御部72およびフィルタ制御部73を備えるとともに、切替弁61や第1排気ユニット13、第2排気ユニット33、試料ステージ11等を制御可能となっている。
【0030】
(集束イオンビーム装置のイオンビーム照射原理)
次に、集束イオンビーム装置1のイオンビーム照射原理について説明する。
本実施形態の集束イオンビーム装置1は、モノマーイオンビームと、クラスターイオンビームと、を照射可能となっている。
【0031】
最初に、モノマーイオンビームの照射原理について説明する。
モノマーイオンビームを照射する際には、アルゴンガスを原料ガス導入部60の第2導入管63を通してプラズマ生成室40に導入する。次いで、制御部70が備えるRF電源71からRFコイル43に高周波の電力を供給してプラズマ生成室40内に高周波磁場を発生させる。これにより、プラズマ生成室40内のアルゴンガスはプラズマ化する。このとき、プラズマ生成室40内には、アルゴン原子が単体の状態で存在しているため、アルゴンのモノマーイオンが生成される。
【0032】
次いで、プラズマ生成室40内のモノマーイオンを、プラズマ電極25の孔部を通じて、引出電極26により引き出す。プラズマ生成室40から引き出されたモノマーイオンは、モノマーイオンビームとして放出され、コンデンサレンズ電極51により集束される。次いで、モノマーイオンビームは、ウィーン(E×B)フィルタ27を通過する。この際、モノマーイオンビームが単一のイオンにより構成されているため、制御部70は、ウィーン(E×B)フィルタ27の制御を行わずにモノマーイオンビームを通過させる。次いで、モノマーイオンビームは、対物レンズ電極52により、試料室10内の試料ステージ11上の試料にフォーカスされ、試料に照射される。
【0033】
次に、クラスターイオンビームの照射原理について説明する。
クラスターイオンビームを照射する際には、アルゴンガスを原料ガス導入部60の第1導入管62を通してクラスター生成室30に導入する。このとき、クラスター生成室30は、第2排気ユニット33により、クラスターが生成する所定の圧力以下に排気されている。ノズル31から噴出されたアルゴンガスは、断熱膨張により凝集温度以下まで冷却される。冷却されたアルゴンガスの一部は、アルゴン原子同士がファンデルワールス力により結合し、複数個のアルゴン原子が塊となったクラスターとなる。この際、クラスター生成室30内には、様々な個数の原子により構成されたクラスターが存在している。クラスターを構成する原子の個数(以下、「クラスターサイズ」という。)は、例えば大きいもので3000程度となっている。
【0034】
クラスターを含むクラスター生成室30内のアルゴンガスは、スキマー23の孔部を通してプラズマ生成室40内に導入される。プラズマ生成室40内のアルゴンガスは、上記モノマーイオンビーム照射時と同様に、RFコイル43によりプラズマ化させる。これにより、プラズマ生成室40内において、アルゴンのモノマーイオンおよびクラスターイオンが生成される。
【0035】
次いで、上記モノマーイオンビーム照射時と同様に、プラズマ生成室40内のモノマーイオンおよびクラスターイオンを、プラズマ電極25の孔部を通じて、引出電極26により引き出す。プラズマ生成室40から放出されたイオンビームは、コンデンサレンズ電極51により集束される。なお、イオンビームは、プラズマ生成室40から放出された時点で、モノマーイオンとクラスターイオンの両方を含んでいる。次いで、イオンビームは、ウィーン(E×B)フィルタ27を通過する。この際、制御部70は、ウィーン(E×B)フィルタ27の電場および磁場を制御して、所定のクラスターサイズ以上のクラスターイオンのみがウィーン(E×B)フィルタ27を通過するように制御する。これにより、イオンビームは、クラスターイオンのみを含むクラスターイオンビームとなる。次いで、クラスターイオンビームは、対物レンズ電極52により、試料室10内の試料ステージ11上の試料にフォーカスされ、試料に照射される。
【0036】
(集束イオンビーム装置を用いた試料の加工方法)
次に、集束イオンビーム装置1を用いた試料の加工方法について説明する。本実施形態では、例えば走査型電子顕微鏡で観察する試料の断面を作製する方法について説明する。なお、以下の説明における集束イオンビーム装置1の各構成部品の符号については、図1を参照されたい。
【0037】
図2は、試料の加工方法を示すフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態の試料の加工方法は、アルゴンガスからプラズマ生成機構(RFコイル43およびRF電源71)によりプラズマ化してモノマーイオンを生成するモノマーイオン生成ステップS10と、モノマーイオンを試料に照射するモノマーイオン照射ステップS20と、アルゴンガスからクラスター生成機構(ノズル31および原料ガス導入部60)によりクラスターを生成するクラスター生成ステップS30と、クラスターをプラズマ生成機構によりプラズマ化してクラスターイオンを生成するクラスターイオン生成ステップS40と、クラスターイオンを試料に照射するクラスターイオン照射ステップS50と、を有する。
【0038】
まず、モノマーイオン生成ステップS10を行う。
モノマーイオン生成ステップS10では、まず制御部70が、原料ガス導入部60の切替弁61により、第1導入管62へのアルゴンガスの供給を遮断し、第2導入管63を通してプラズマ生成室40にアルゴンガスを導入させる。次いで、制御部70は、制御部70が備えるRF電源71からRFコイル43に高周波の電力を供給させてプラズマ生成室40内に高周波磁場を発生させ、アルゴンガスをプラズマ化させ、アルゴンのモノマーイオンを生成させる。
【0039】
次に、モノマーイオン照射ステップS20を行う。
モノマーイオン照射ステップS20では、試料の加工を行う。モノマーイオン照射ステップS20では、制御部70は、引出電極26によりプラズマ生成室40内のモノマーイオンをモノマーイオンビームとして引き出す。この際、モノマーイオンビームの加速電圧(プラズマ電極25の電位)は、例えば500V以上とする。また、モノマーイオンビームのビーム電流は、例えば1μA以上とする。引出電極26により引き出されたイオンビームは、イオンビーム光学系50により試料室10内の試料ステージ11上に固定された試料の所定箇所に照射される。このとき、試料はモノマーイオンビームの照射方向に沿ってエッチングされるため、観察したい試料の断面の面方向に沿うように、モノマーイオンビームを照射させる。これにより、試料表面の所定箇所には断面が露出する。なお、この時点で試料の断面は、カーテン効果により凹凸形状となる場合があるとともに、高エネルギーを有するアルゴン原子が試料内部に侵入することによりアモルファス化されてダメージを受けた状態となる場合がある。
【0040】
次に、クラスター生成ステップS30を行う。
クラスター生成ステップS30では、制御部70が、原料ガス導入部60の切替弁61により、第2導入管63へのアルゴンガスの供給を遮断し、第1導入管62を通してクラスター生成室30にアルゴンガスを導入させる。このとき、アルゴンガスは、ノズル31から噴出し、その一部が断熱膨張により凝集し、クラスターサイズが1000から3000程度のクラスターとなる。
【0041】
次に、クラスターイオン生成ステップS40を行う。
クラスターイオン生成ステップS40では、まず、クラスター生成ステップS30で生成されたクラスターを含むアルゴンガスを、スキマー23の孔部を通してプラズマ生成室40内に導入する。次いで、制御部70は、制御部70が備えるRF電源71からRFコイル43に高周波の電力を供給させてプラズマ生成室40内に高周波磁場を発生させ、クラスターを含むアルゴンガスをプラズマ化させる。このとき、プラズマ生成室40内のアルゴンガスには、単体のアルゴン原子およびアルゴンのクラスターが両方存在している。このため、プラズマ生成室40では、アルゴンのモノマーイオンおよびクラスターイオンの両方が生成される。
【0042】
次に、クラスターイオン照射ステップS50を行う。
クラスターイオン照射ステップS50では、試料の仕上げ加工として、モノマーイオン照射ステップS20で形成された試料の断面の平坦化加工を行う。クラスターイオン照射ステップS50では、まず制御部70が、引出電極26によりプラズマ生成室40内のモノマーイオンおよびクラスターイオンをイオンビームとして引き出す。このとき、イオンビームの加速電圧(プラズマ電極25の電位)は、例えば500Vとする。
【0043】
引出電極26により引き出されたイオンビームは、コンデンサレンズ電極51に集束された後、ウィーン(E×B)フィルタ27を通過する。このとき、制御部70は、ウィーン(E×B)フィルタ27を制御して、クラスターサイズが例えば100以上のクラスターイオンのみを通過させる。これにより、イオンビームに含まれていたモノマーイオンおよびクラスターサイズの小さなクラスターイオンは除去され、イオンビームは、クラスターサイズが例えば100以上のクラスターイオンのみにより構成されるクラスターイオンビームとなる。ウィーン(E×B)フィルタ27を通過したクラスターイオンビームは、対物レンズ電極52により試料室10内の試料ステージ11上の試料にフォーカスされ、モノマーイオン照射ステップS20で形成された試料の断面に照射される。これにより、モノマーイオンビームにより形成された試料の断面を平坦化できる。
【0044】
また、クラスターイオン照射ステップS50では、クラスターサイズが大きなクラスターイオンのみを照射している。このため、クラスターイオンを構成する各アルゴン原子が有するエネルギーは、同じ加速電圧で加速されたモノマーイオンのアルゴン原子が有するエネルギーよりも十分に小さくなる。これにより、クラスターイオンビームは、試料の断面に衝突したアルゴン原子の試料内部への侵入を抑制できる。しかも、クラスターイオンは、試料に衝突した際に崩壊して、試料に対してアルゴン原子を多重衝突させる。これにより、クラスターイオンビームは、モノマーイオンビームと比較して高いスパッタ率が得られる。このため、クラスターイオンビームは、試料に新たなダメージを加えることを抑制しつつ、モノマーイオンビームの照射により形成された試料断面の被ダメージ領域を除去することができる。
以上により、試料の加工は終了する。
【0045】
このように、本実施形態のイオン源20は、アルゴンガスを導入する原料ガス導入部60と、原料ガス導入部60が接続され、アルゴンガスからクラスターを生成するクラスター生成機構(ノズル31および原料ガス導入部60)を備えるクラスター生成室30と、原料ガス導入部60およびクラスター生成室30が接続され、プラズマを生成するプラズマ生成機構(RFコイル43およびRF電源71)を備えるプラズマ生成室40と、を有する。
この構成によれば、イオン源20は、プラズマ生成室40において、アルゴンガスをプラズマ化してモノマーイオンを生成できるとともに、クラスター生成室30において生成されたクラスターをプラズマ化してクラスターイオンを生成できる。このため、イオン源20は、クラスターイオンビームを放出できるとともに、従来のプラズマイオン源と同様に1μA以上のモノマーイオンビームも放出できる。したがって、モノマーイオンおよびクラスターイオンを有効的に併用できるイオン源とすることができる。
【0046】
また、本実施形態の集束イオンビーム装置1は、モノマーイオンおよびクラスターイオンを生成できるイオン源20を有するため、試料室10に配置された試料にモノマーイオンビームおよびクラスターイオンビームを照射できる。これにより集束イオンビーム装置1は、高レートでエッチング可能なモノマーイオンにより試料室10内の試料を加工した後、モノマーイオンにより加工された部分を連続してクラスターイオンにより仕上げ加工することができる。したがって、モノマーイオンおよびクラスターイオンを有効的に併用でき、試料の加工を効率よく行うことができる。
【0047】
また、集束イオンビーム装置1は、モノマーイオンおよびクラスターイオンを生成できるイオン源20を有する。このため、モノマーイオンビームのイオン源と、クラスターイオンビームのイオン源と、を別に設ける装置構成と比較して、装置サイズを小さくすることができる。したがって、集束イオンビーム装置1の配置スペースを省スペース化できるとともに、装置コストを低減させることができる。
【0048】
また、本実施形態の試料の加工方法は、アルゴンガスからプラズマ生成機構(RFコイル43およびRF電源71)によりプラズマ化してモノマーイオンを生成するモノマーイオン生成ステップS10と、モノマーイオンを試料に照射するモノマーイオン照射ステップS20と、アルゴンガスからクラスター生成機構(ノズル31および原料ガス導入部60)によりクラスターを生成するクラスター生成ステップS30と、クラスターをプラズマ生成機構によりプラズマ化してクラスターイオンを生成するクラスターイオン生成ステップS40と、クラスターイオンを試料に照射するクラスターイオン照射ステップS50と、を有する。
この方法によれば、モノマーイオン照射ステップS20と、クラスターイオン照射ステップS50と、を有するため、モノマーイオンビームによる試料の加工と、クラスターイオンビームによる試料の仕上げ加工と、を連続して行うことができる。したがって、モノマーイオンおよびクラスターイオンを有効的に併用でき、試料の加工を効率よく行うことができる試料の加工方法を提供できる。
【0049】
なお、図1に示す集束イオンビーム装置1では、プラズマ生成室40においてRFコイル43が形成する高周波磁場によりプラズマを生成していたが、これに限定されない。
図3は、変形例の集束イオンビーム装置の構成図である。図3に示すように、プラズマ生成室40の周囲に、例えばネオジム磁石等の磁石45を配置して、プラズマ生成室40内に直流磁場を形成する構成としてもよい。これにより、プラズマ生成室40内において電子がらせん運動を行い、クラスターとの衝突確率が大きくなり、イオン化効率を向上させることができる。
【0050】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態においては、原料ガスとしてアルゴンを用いているが、これに限定されず、例えばネオン、クリプトン、キセノン等であってもよい。
【0051】
また、上記実施形態のイオン源20は、プラズマ生成室40においてRFコイル43およびRF電源71により誘導結合プラズマを生成していたが、これに限定されず、例えばプラズマ生成室において容量結合プラズマを生成する構成であってもよい。
【0052】
また、上記実施形態のイオン源20は、モノマーイオン生成時に、第2導入管63を通してアルゴンガスをプラズマ生成室40に導入していたが、これに限定されるものではない。例えば、イオン源20は、モノマーイオン生成時に、クラスター生成室30を介してアルゴンガスをプラズマ生成室40に導入する構成とされてもよい。この際には、第2排気ユニット33によりクラスター生成室30の真空度を調整してアルゴンガスの断熱膨張を抑制することで、クラスター生成室30内でアルゴンガスのクラスターが生成されることを抑制できる。これにより、単体の状態のアルゴン原子をプラズマ生成室40に導入できる。
【0053】
また、上記実施形態の集束イオンビーム装置1は、イオンビーム光学系50によりイオンビームを試料にフォーカスさせる構成とされていた。しかしながらこれに限定されず、集束イオンビーム装置は、試料上に遮蔽板を配置して、遮蔽板に遮蔽されていない領域をエッチングすることにより試料の断面を作製する構成とされてもよい。
【0054】
また、上記実施形態においては、集束イオンビーム装置1は、試料の断面の平坦化に用いられていたが、これに限定されるものではない。例えば、クラスターイオンビームは、試料をナノメートルオーダーでエッチングすることが可能である特性を利用して、集束イオンビーム装置1を3次元構造解析に用いることも可能である。具体的には、集束イオンビーム装置1に対して、イオンビームを試料に照射した際に試料から生じる二次電子を検出する二次電子検出器を設けて、イオン顕微鏡像を取得可能とする。そして、上記実施形態における試料の仕上げ加工後に、試料の断面像の取得と、クラスターイオンビームの照射による試料の断面の微小エッチングと、を繰り返して行う。これにより、従来の集束イオンビーム装置と同様の試料のスライス加工を低ダメージで行うことができ、より精密な試料の3次元構造解析が可能となる。
【0055】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…集束イオンビーム装置 10…試料室 20…イオン源 30…クラスター生成室 31…ノズル(クラスター生成機構) 40…プラズマ生成室 43…RFコイル(プラズマ生成機構) 60…原料ガス導入部(クラスター生成機構) 71…RF電源(プラズマ生成機構)
図1
図2
図3