(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車に代表されるように、自動車に搭載される機器の電子制御化が近年進んでいる。特に、高電圧で駆動するモーター系の電子制御化が進んでおり、モーターの動作検知や制御を担う磁気センサが必要となっている。これらセンサは高耐圧性と、自動車に特有の環境である高温に耐える信頼性が求められている。現在、動作温度が最大140℃で耐圧が30Vの磁気センサが実用化されている。
【0003】
従来の磁気センサはホール素子であることが一般的であるが、磁気センサの高耐圧化の例として、シリコン(Si)を用いた新しい磁気センサが提案されている(非特許文献1参照)。この磁気センサ素子は、室温で電子濃度が約2×10
12cm
-3のSiからなる層の両面にオーミック電極(電極Aと電極B)を形成している。この磁気センサ素子が、動作温度27℃において、約50Vの印加電圧で動作することが確認されている。
【0004】
この磁気センサの動作原理の概要を説明する。電極AからSi層に電子を注入する際、印加電圧が低く、電極Aから注入する電子濃度がSi層の電子濃度より低い場合は、Si層の伝導特性はオーミック性を示し、電流密度Jと印加電圧Vの間に「J∝V
1」の関係がある。より高い電圧を印加して電極Aから注入する電子濃度をSi層の電子濃度より高くすると、電極AとSi層の界面に電子が滞留し、Si層の伝導特性は空間電荷制限電流の現象を示し、「J∝V
2」となる。
【0005】
空間電荷制限電流が現れる電圧において、電子が走行する方向と垂直な方向に磁場が印加されると、印加された磁場によって電子の軌道が変化し、電極Bに到達する電子数が、磁場が印加されていない場合に比べて減少する。このように、上記磁気センサ素子では、空間電荷制限電流の現象が生じている時に磁場が印加されると抵抗が上がる。伝導特性がオーミック性の時も磁気抵抗効果は生じるが、生じる抵抗変化は伝導特性が空間電荷制限電流の場合と比べて極めて小さい。従って、空間電荷制限電流の伝導特性の際の磁気抵抗効果を利用することで、高感度な磁気センサが実現できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、Siを用いた磁気センサには幾つか問題がある。
【0008】
第1の問題は、電極間距離が0.1mmから5mmの範囲であっても、使用可能な電圧領域がせいぜい100Vであることである。電極間距離をより長くすることで高耐圧化は可能であるが、素子サイズが大きくなってしまう。
【0009】
第2の問題は、動作温度が高くなると真性キャリア濃度が高くなることである。27℃、100℃、200℃の各温度で、真性キャリア濃度は、1×10
10cm
-3、1×10
12cm
-3、1×10
14cm
-3となる。真性キャリア濃度の増加に伴い、オーミック性から空間電荷制限電流に伝導特性が変化する電圧が高電圧側にシフトする。温度によっては、非特許文献2に示すように空間電荷制限電流の現象が現れる前に絶縁破壊に至る可能性があり、Siを用いた素子では、高温における安定動作という点で問題がある。
【0010】
以上述べたように、空間電荷制限電流の伝導特性を使ったSiの磁気センサでは、素子の小型化と高温での安定動作を実現することが困難であった。
【0011】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、空間電荷制限電流の伝導特性を用いた半導体装置が、高温で安定動作し、より小型にできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る半導体装置は、バンドギャップエネルギーが3eV以上の半導体から構成されて空間電荷制限電流によりキャリアの輸送特性が律速される状態とされたキャリア走行層と、キャリア走行層より高い電子濃度とされたバンドギャップエネルギーが3eV以上の半導体から構成され、キャリア走行層の一方の面に接して形成されてキャリア走行層にキャリアを供給する第1キャリア供給層と、キャリア走行層より高い電子濃度とされたバンドギャップエネルギーが3eV以上の半導体から構成され、キャリア走行層の他方の面に接して形成されてキャリア走行層にキャリアを供給する第2キャリア供給層と、第1キャリア供給層に電気的に接続する第1電極と、第2キャリア供給層に電気的に接続する第2電極とを備える。
【0013】
上記半導体装置において、半導体は、窒化物半導体であり、キャリア走行層は、2×10
18cm
-3以上の不純物濃度で炭素が添加されてい
る。また、第2キャリア供給層は、キャリア走行層に接して形成されて主表面をc面とした窒化物半導体からなるキャリア生成層と、キャリア生成層より大きなバンドギャップエネルギーとされてキャリア生成層に接して形成されて主表面をc面とした窒化物半導体からなる障壁層とから構成しても良い。
【0014】
上記半導体装置において、第1キャリア供給層は、電子濃度が1×10
18cm
-3以上とされていればよい。
【0015】
本発明に係る半導体装置の製造方法は、基板の上にバンドギャップエネルギーが3eV以上の半導体から構成された第1キャリア供給層を形成する第1工程と、バンドギャップエネルギーが3eV以上の半導体から構成されて空間電荷制限電流によりキャリアの輸送特性が律速される状態とされたキャリア走行層を第1キャリア供給層の上に接して形成する第2工程と、バンドギャップエネルギーが3eV以上の半導体から構成された第2キャリア供給層をキャリア走行層の上に接して形成する第3工程と、第1キャリア供給層に電気的に接続する第1電極を形成する第4工程と、第2キャリア供給層に電気的に接続する第2電極を形成する第5工程とを備え、第1キャリア供給層および第2キャリア供給層は、キャリア走行層より高いキャリア濃度とされてキャリア走行層にキャリアを供給する状態に形成する。
【0016】
上記半導体装置の製造方法において、半導体は、窒化物半導体から構成し、キャリア走行層は、2×10
18cm
-3以上の不純物濃度で炭素を添加す
る。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したことにより、本発明によれば、空間電荷制限電流の伝導特性を用いた半導体装置が、高温で安定動作し、より小型にできるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施の形態における半導体装置の構成を示す断面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の実施の形態における半導体装置の構成を示す平面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の実施の形態1における半導体装置の製造方法を説明するための製造途中の状態を示す断面図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の実施の形態1における半導体装置の製造方法を説明するための製造途中の状態を示す断面図である。
【
図2C】
図2Cは、本発明の実施の形態1における半導体装置の製造方法を説明するための製造途中の状態を示す断面図である。
【
図2D】
図2Dは、本発明の実施の形態1における半導体装置の製造方法を説明するための製造途中の状態を示す断面図である。
【
図3】
図3は、調査のために作製した窒化物半導体による半導体装置の構成を示す断面図である。
【
図4】
図4は、
図3を用いて説明した半導体装置の2つの電極間に電圧を印加して流れる電流を測定した結果を示す特性図である。
【
図5】
図5は、調査のために作製した窒化物半導体による半導体装置の構成を示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図3を用いて説明した半導体装置の電流・電圧特性を示す特性図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態2における半導体装置の構成を示す断面図である。
【
図8】
図8は、実施の形態2における半導体装置のC濃度4×10
19cm
-3としたキャリア走行層401の厚さを、2μm,9μm,および18μmとした3つの素子における電流電圧特性を示す。
【
図9】
図9は、実施の形態2における半導体装置の、破壊電圧および空間電荷制限電流特性を示す電圧範囲と、キャリア走行層401の厚さの相関を示す相関図である。
【
図10】
図10は、キャリア走行層401の厚さを18μmとした実施の形態2の半導体装置の、25℃および150℃における電流電圧特性を示す特性図である。
【
図11A】
図11Aは、本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法を説明するための製造途中の状態を示す断面図である。
【
図11B】
図11Bは、本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法を説明するための製造途中の状態を示す断面図である。
【
図11C】
図11Cは、本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法を説明するための製造途中の状態を示す断面図である。
【
図11D】
図11Dは、本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法を説明するための製造途中の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0020】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。
図1Aは、本発明の実施の形態における半導体装置の構成を示す断面図である。また、
図1Bは、本発明の実施の形態における半導体装置の構成を示す平面図である。
【0021】
この半導体装置は磁気センサであり、キャリア走行層101と、キャリア走行層101の一方の面に接して形成された第1キャリア供給層102と、キャリア走行層101の他方の面に接して形成された第2キャリア供給層103とを備える。また、第1キャリア供給層102に電気的に接続する第1電極104と、第2キャリア供給層103に電気的に接続する第2電極105とを備える。
【0022】
キャリア走行層101は、バンドギャップエネルギーが3eV以上の半導体から構成されて空間電荷制限電流によりキャリアの輸送特性が律速される状態とされている。第1キャリア供給層102は、キャリア走行層101より高い電子濃度とされたバンドギャップエネルギーが3eV以上の半導体から構成され、キャリア走行層101にキャリアを供給する。第2キャリア供給層103は、キャリア走行層101より高い電子濃度とされたバンドギャップエネルギーが3eV以上の半導体から構成され、キャリア走行層101にキャリアを供給する。
【0023】
実施の形態1において、キャリア走行層101,第1キャリア供給層102,第2キャリア供給層103を構成する半導体は、例えばGaNなどの窒化物半導体である。GaNなどの窒化物半導体から構成した第1キャリア供給層102,第2キャリア供給層103は、シリコンがドープされてn型とされ、キャリア走行層101より高い電子濃度とされている。この場合、電子濃度が1×10
18cm
-3以上とされていれば良い。また、GaNなどの窒化物半導体から構成したキャリア走行層101は、2×10
18cm
-3以上の不純物濃度で炭素(C)が添加され、空間電荷制限電流によりキャリアの輸送特性が律速される状態とされている。
【0024】
なお、窒化物半導体から構成された第1キャリア供給層102は、窒化物半導体から構成されたバッファ層106を介してサファイア基板107の上に形成され、第1キャリア供給層102の上にキャリア走行層101が形成され、キャリア走行層101の上に第2キャリア供給層103が形成されている。また、厚さ方向に一部の第1キャリア供給層102と、キャリア走行層101および第2キャリア供給層103は、平面視円形のメサに形成されている。第1電極104は、リング状とされ、メサ周囲の第1キャリア供給層102の上にオーミック接触(オーミック接続)している。また、第2キャリア供給層103の上にオーミック接触して第2電極105が形成されている。
【0025】
次に、製造方法について説明する。まず、
図2Aに示すように、主表面を(0001)面としたサファイア基板107の上に、アンドープのGaNからなるバッファ層106を形成し、次いで、導電性不純物としてSiをドープしたn型のGaN(電子濃度1×10
18cm
-3以上)からなる第1窒化物半導体層102aを形成する。
【0026】
次に、
図2Bに示すように、第1窒化物半導体層102aの上に、Cをドープ(濃度4×10
19cm
-3)したGaNからなる厚さ2μm程度の第2窒化物半導体層101aを形成する。次に、
図2Cに示すように、第2窒化物半導体層101aの上に、導電性不純物としてSiをドープしたn型のGaN(電子濃度1×10
18cm
-3以上)からなる第3窒化物半導体層103aを形成する。
【0027】
バッファ層106,第1窒化物半導体層102a,第2窒化物半導体層101a,第3窒化物半導体層103aは、よく知られた有機金属化学気相成長(MOCVD)法や、分子線エピタキシー(MBE)法により、エピタキシャル成長することで形成すれば良い。例えば、Ga原料としてトリメチルガリウムを用い、窒素原料としてアンモニアを用いれば良い。また、Cをドープするためには、アセチレンなどの炭化水素ガスを用いてCをGaNに添加することが可能であるが、成長温度や成長圧力を調整することで、有機金属原料に含まれるアルキル基(例えばメチル基)により、ドープするC添加濃度を制御することもできる。
【0028】
このようにして、サファイア基板107の(0001)面上にエピタキシャル成長した各窒化物半導体の層は、c軸方向に結晶成長し、主表面をc面[(0001)面]として形成される。
【0029】
次に、よく知られたフォトリソグラフィー技術およびエッチング技術により、第3窒化物半導体層103a,第2窒化物半導体層101a、および厚さ方向に一部の第1窒化物半導体層102aをパターニングすることで、
図2Dに示すように、メサ形状とされた第2キャリア供給層103,キャリア走行層101,第1キャリア供給層102が、サファイア基板107(バッファ層106)の上に形成された状態とする。このメサの形成においては、メサ周囲に、第1キャリア供給層102の上面を露出させることが重要である。
【0030】
この後、メサ周囲の第1キャリア供給層102の上にオーミック接触する第1電極104を形成し、第2キャリア供給層103の上にオーミック接触する第2電極105を形成する。例えば、電極形成領域に開口部を有するレジストパターン(リフトオフパターン)を形成し、この上より、Ti,Al,Ti,Auを順に蒸着し、次いで、レジストパターンを除去(リフトオフ)する。これにより各電極が形成される。この後、不活性雰囲気(例えばN
2雰囲気)で加熱することで、各電極を、オーミック接触させる。以上のことにより、実施の形態1における半導体装置が得られる。
【0031】
上述したように、本発明では、磁気センサにおける空間電荷制限電流を担うキャリア走行層101を、GaNなどのバンドギャップが3eV以上の半導体(ワイドギャップ半導体)を用い、さらに、この半導体に適切な不純物を添加することにより、キャリア走行層101における残留キャリア濃度を真性キャリア濃度に近づけ、キャリア輸送特性が空間電荷制限電流で律速されるようにした。
【0032】
さらに、キャリア走行層101に対し高濃度のキャリアを供給する層として、非特許文献1にあるように金属からキャリア走行層に直接キャリアを注入する構造ではなく、高濃度ドーピングを施した半導体層による第1キャリア供給層102,第2キャリア供給層103を用い、これらでキャリア走行層101を挟む構造とすることで、キャリア走行層101に多量のキャリアを効率よく注入できるようにした。
【0033】
上述したように、本発明では、高温における真性キャリア濃度が十分に低く、かつ、温度変化に対する真性キャリア濃度の変化が少なく、さらに、破壊電界強度が高い材料を用いることで、従来の問題を解消するようにした。
【0034】
以下、本発明を成し得るに至った経緯について、発明者らによる検討結果を基に説明する。以下では、ワイドギャップ半導体としてGaNを取り上げ、また、添加する不純物として炭素(C)を用いた場合を例に取って説明する。
【0035】
GaNのバンドギャップエネルギーはおよそ3.4eVであり、Siのバンドギャップエネルギーエネルギー(1.1eV)よりも大きい。また、このようにバンドギャップエネルギーが大きなGaNの絶縁破壊電界強度は、3.3MV/cmであり、Siの絶縁破壊電界強度(0.3MV/cm)のおよそ10倍である。
【0036】
従って、GaNを用いることで、同じ耐圧を得るためにはSiに比べて電極間距離を1/10にすることが可能であり、素子の小型化につながる。
【0037】
また、バンドギャップエネルギーの大きいGaNは、真性キャリア濃度が低く、27℃において4×10
-11cm
-3、200℃においてすら2×10
0cm
-3と、Siの真性キャリア濃度に比べて十分に低い値となっている。
【0038】
これらの特性から、バンドギャップエネルギーが大きなGaNを用いた磁気センサは、小型でかつ高温においても安定に動作させる可能性を有している。
【0039】
ところで、GaNは、MOCVD法をはじめとした気相成長法によりさまざまな基板上に成膜される。こうして得られたGaNは、一般的にN空孔や残留不純物を含み、これら影響により10
15cm
-3程度の残留キャリア(通常は電子)を含むため、磁気センサには適さない。
【0040】
ここで、
図3に示す、1×10
18cm
-3以上の電子濃度を有するn型GaN基板201の上に、アンドープのGaN層202,アンドープのAlGaN層203を順次成膜させ、n型GaN基板201の裏面に第1オーミック電極204を形成し、AlGaN層203の上に第2オーミック電極205を形成した素子を作製し、2つの電極間に電圧を印加して流れる電流を測定した結果について説明する。電流測定の結果は、
図4に示す。
【0041】
上述した素子は、各窒化物半導体層をC軸方向にエピタキシャル成長して作製しており、AlGaNとGaNとの格子定数差に起因するピエゾ分極が、自発分極を相殺しない状態で発生する。GaN層202の上にAlGaN層203を形成すると、これらの間の格子定数の違いによりAlGaN層203に引っ張り応力が加わり、これによって自発分極効果を強める方向にピエゾ分極効果が現れる。このため、GaN層202とAlGaN層203との界面には、高濃度の電子(2次元電子ガス:2DEG)211が発生する。また、適切な電極を選択することによって、AlGaN層203の表面から、上述したように発生する2DEG211へ、オーミック接触を取ることが可能である。GaN層202における残留キャリア濃度が十分に低ければ、低電圧領域で電流が電圧に比例するオーミック領域から、電流が電圧の2乗に比例する空間電荷制限電流領域まで得られるはずである。
【0042】
しかしながら、
図4に示すように、空間電荷制限電流が観察される前に絶縁破壊に至った。これは、GaN層202における残留キャリア濃度が、上述したように十分に低くなっていないためである。このような状態では、磁気センサに適用するに適さない。
【0043】
上述したことに対し、残留キャリア濃度を低下させるために、
図5に示すように、CをドープしたGaN層206を、n型GaN基板201とGaN層202との間に配置した。GaN層206では、ドープしたCが深い電子トラップ準位を形成し、GaN中の残留キャリアである残留電子を捕獲する効果を有する。GaN層206におけるC濃度を2×10
18cm
-3、GaN層206の厚さを2μmとした場合の電流・電圧特性は、
図6に示すように、10V程度までの電流が電圧に比例する領域から、10Vを越えて30V程度までの領域で、電流が電圧の2乗に比例する空間電荷制限電流の特性を示し、30Vにおいて絶縁破壊している。このように、CをドープしたGaN層206を挿入することで、磁気センサに適用可能な電流・電圧特性が示されるようになった。
【0044】
発明者らの検討により、GaN層206におけるCドーピング濃度が2×10
18cm
-3未満では、空間電荷制限電流は観測されないことが確認された。従って、空間電荷制限電流を発生させるためには、少なくとも2×10
18cm
-3以上のCのドーピング量が必要である。また、発明者らの検討により、より望ましくは、上述のCドーピング量は、1×10
19cm
-3以上とすることが良いことが判明した。
【0045】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について
図7を用いて説明する。
図7は、本発明の実施の形態2における半導体装置の構成を示す断面図である。
【0046】
この半導体装置は磁気センサであり、キャリア走行層401と、キャリア走行層401の一方の面に接して形成された第1キャリア供給層402と、キャリア走行層401の他方の面に接して形成された第2キャリア供給層403とを備える。また、第1キャリア供給層402に電気的に接続する第1電極404と、第2キャリア供給層403に電気的に接続する第2電極405とを備える。
【0047】
キャリア走行層401は、バンドギャップエネルギーが3eV以上の半導体から構成されて空間電荷制限電流によりキャリアの輸送特性が律速される状態とされている。第1キャリア供給層402は、キャリア走行層401より高い電子濃度とされたバンドギャップエネルギーが3eV以上の半導体から構成され、キャリア走行層401にキャリアを供給する。
【0048】
実施の形態2では、第2キャリア供給層403が、キャリア走行層401に接して形成されて主表面をc面とした窒化物半導体からなるキャリア生成層431と、キャリア生成層431より大きなバンドギャップエネルギーとされてキャリア生成層431に接して形成されて主表面をc面とした窒化物半導体からなる障壁層432とから構成されている。キャリア生成層431は、例えばアンドープのGaNから構成され、障壁層432は、例えば、アンドープのAlGaNから構成されている。
【0049】
このように構成した第2キャリア供給層403では、キャリア生成層431と障壁層432との間の格子定数差に起因するピエゾ分極が、C軸方向に結晶成長した窒化物半導体における自発分極を相殺しない状態で発生する。キャリア生成層431と障壁層432とのヘテロ接合界面には、高濃度の電子(2次元電子ガス:2DEG)411が発生する。なお、キャリア生成層431および障壁層432は、バンドギャップエネルギーが3eV以上の半導体から構成されている。
【0050】
実施の形態2において、キャリア走行層401,第1キャリア供給層402を構成する半導体は、例えばGaNなどの窒化物半導体である。また、実施の形態2において、第1キャリア供給層402は、例えば、主表面の面方位を(0001)面としたn型のGaN基板であり、電子濃度が1×10
18×cm
-3以上とされ、キャリア走行層401より高い電子濃度とされている。
【0051】
一方、第2キャリア供給層403は、キャリア生成層431と障壁層432とのヘテロ界面に誘起した2DEG411により、キャリア走行層401より高い電子濃度とされている。このように構成された第2キャリア供給層403は、キャリア走行層401にキャリアを供給する。
【0052】
また、GaNなどの窒化物半導体から構成したキャリア走行層401は、2×10
18cm
-3以上の不純物濃度で炭素(C)が添加され、空間電荷制限電流によりキャリアの輸送特性が律速される状態とされている。例えば、キャリア走行層401は、不純物濃度が4×10
19cm
-3とされている。
【0053】
なお、実施の形態2において、第1電極404は、第1キャリア供給層402のキャリア走行層401が形成されていない側の面(裏面)に、オーミック接触して形成されている。また、第2電極405は、障壁層432のキャリア生成層431が形成されていない側の面(表面)に、オーミック接触して形成されている。
【0054】
次に、実施の形態2における半導体装置の電流電圧特性について説明する。
図8に、C濃度4×10
19cm
-3とされたキャリア走行層401の厚さを、2μm,9μm,および18μmとした3つの素子における電流電圧特性を示す。
図7に示すように、いずれの素子においても、低電圧においてオーミック特性を示す領域から電流が電圧の2乗に比例する空間電荷制限電流特性を示す領域を経て、素子破壊へと至る特性を示す。また、キャリア走行層401が厚くなることによって、素子破壊に至る電圧が増大するとともに、空間電荷制限電流特性を示す電圧範囲が高電圧シフトする傾向を示す。
【0055】
これらの結果から、破壊電圧および空間電荷制限電流特性を示す(磁気センサとして動作可能な)電圧範囲と、キャリア走行層401の厚さの相関が、
図9に示すように得られる。このように、キャリア走行層401の厚さを制御することによって、所望の動作電圧の磁気センサを作製することが可能である。
【0056】
次に、実施の形態2における半導体装置の温度特性について説明する。キャリア走行層401の厚さを18μmとした実施の形態2の半導体装置の、25℃および150℃における電流電圧特性を
図10に示す。温度が高くい状態では、電流値が増加しているものの、破壊電圧はほとんど変化していない。また、空間電荷制限電流特性を示す電圧範囲は、25℃で100〜1000Vであるが、150℃では10〜1000Vであり、温度上昇による特性不安定化は見られない。このように、実施の形態2における半導体装置によれば、高温においても安定に動作する磁気センサを実現することが可能である。
【0057】
次に、実施の形態2における半導体装置の製造方法について説明する。まず、
図11Aに示すように、主表面を(0001)面としたGaN基板からなる第1キャリア供給層402の上に、Cをドープ(濃度4×10
19cm
-3)したGaNからなる厚さ18μm程度のキャリア走行層401を形成する。次に、
図11Bに示すように、キャリア走行層401の上に、アンドープのGaNから構成したキャリア生成層431を形成する。次いで、
図11Cに示すように、キャリア生成層431の上に、アンドープのAlGaNから構成した障壁層432を形成する。
【0058】
バッファ層106,キャリア走行層401,キャリア生成層431,障壁層432は、よく知られたMOCVD法や、MBE法により、エピタキシャル成長することで形成すれば良い。例えば、Ga原料としてトリメチルガリウムを用い、窒素原料としてアンモニアを用い、Al原料としてトリメチルアルミニウムを用いれば良い。また、Cをドープするためには、アセチレンなどの炭化水素ガスを用いてCをGaNに添加することが可能であるが、成長温度や成長圧力を調整することで、有機金属原料に含まれるアルキル基(例えばメチル基)により、ドープするC添加濃度を制御することもできる。
【0059】
このようにして、第1キャリア供給層402の(0001)面上にエピタキシャル成長した各窒化物半導体の層は、c軸方向に結晶成長し、主表面をc面[(0001)面]として形成される。
【0060】
次に、よく知られたフォトリソグラフィー技術およびエッチング技術により、
図11Dに示すように、キャリア生成層431および障壁層432を所定のメサ形状にパターニングする。
【0061】
この後、第1キャリア供給層402の裏面にオーミック接触する第1電極404を形成し、障壁層432の上にオーミック接触する第2電極405を形成する。第1電極404は、例えば、第1キャリア供給層402の裏面に、Ti,Al,Ti,Auを順に蒸着することで形成すれば良い。また、第2電極405は、例えば、電極形成領域に開口部を有するレジストパターン(リフトオフパターン)を形成し、この上より、Ti,Al,Ti,Auを順に蒸着し、次いで、レジストパターンを除去(リフトオフ)することで形成すれば良い。この後、不活性雰囲気(例えばN
2雰囲気)で加熱することで、各電極を、オーミック接触させる。以上のことにより、実施の形態2における半導体装置が得られる。
【0062】
以上に説明したように、本発明によれば、キャリア走行層をバンドギャップエネルギーが3eV以上の半導体から構成されて空間電荷制限電流によりキャリアの輸送特性が律速される状態とし、これを2つのキャリア供給層で挾むようにしたので、空間電荷制限電流の伝導特性を用いた半導体装置を、高温で安定動作させることができ、また、より小型にできる。
【0063】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、窒化物半導体の自発分極を利用しない場合、(0001)面方位とは異なる面方位の窒化物半導体から構成しても良い。また、p型の窒化物半導体、ダイヤモンド、炭化シリコン、酸化ガリウム、In
1-x-yAl
xGa
yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)などのバンドギャップエネルギーが3eV以上での半導体を用いるようにしても同様である。