【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述した特許文献1〜3に開示される従来の加工方法は、自励びびり振動に関して、一応の抑制効果を奏するものの、本発明者等が得た新たな知見によれば、必ずしも十分には、自励びびり振動を抑制することができないという問題があった。
【0006】
即ち、主軸(言い換えれば主軸モータ)の回転速度を上述の如く三角波形状に沿って変動させるべく、当該主軸モータを制御する場合、
図7に示すように、制御波形の最大値である三角波の頂部Aは、主軸モータの回転速度(主軸回転速度)を増加変動から減少変動に転じさせる部分であるため、実際の主軸モータの回転速度は、このような急激な変動には追随することができず、遅れを伴って追随することになるため、破線で示す凸曲線に沿った変動となる。このことは、主軸モータの回転速度が最小値となる三角波の底部Bにおいても同じであり、底部Bにおける実際の主軸モータの回転速度(主軸回転速度)は、破線で示す凹曲線に沿った変動となる。
【0007】
斯くして、実際の主軸回転速度が最大値(破線で示す凸曲線頂部)及び最小値(破線で示す凹曲線底部)となる付近では、回転速度の変動率がごく僅かとなるため、当該最大値及び最小値付近では、上述した再生効果(即ち、切削抵抗の変動と切り取り厚さの変動の周期性)を崩す作用が弱くなる、言い換えれば、自励びびり振動の十分な抑制効果が得られなくなるのである。
【0008】
図8(a)は、立形のマシニングセンタのテーブル上に直方体状のワークを固定し、主軸にエンドミルを保持して、当該ワークの4側面を加工したときの主軸回転速度の制御波形を示したグラフであり、
図8(b)は、加工時に主軸に作用する加速度を示した線図である。尚、
図8(a)に示すように、主軸回転速度の制御波形は、第1側面の加工から第2側面の加工に移る前後の所定区間、並びに第3側面から第4側面に移る前後の所定区間で三角波状とし、その他の区間は一定とした。
【0009】
図8(b)に示すように、主軸回転速度を一定して加工したときには、びびり振動が発生している。また、主軸の制御回転速度を三角波状に変動させたときにも、三角波の頂部に当たるところで大きく振動しており、また、その他のところでも振幅は小さいものの振動自体は生じている。
【0010】
この
図8から分かるように、主軸回転速度の制御波形を三角波状にすることで、相応の自励びびり振動抑制効果が得られるものの、その抑制効果は必ずしも十分とは言えないものである。
【0011】
このことは、主軸回転速度の制御波形を正弦波形状にした場合も同様である。即ち、
図9に示すように、この場合も、主軸回転速度が最大値となる頂部C、及び最小値となる底部D付近では、当該回転速度の変動率がごく僅かとなるため、当該最大値及び最小値付近では、上述した再生効果(即ち、切削抵抗の変動と切り取り厚さの変動の周期性)を崩す作用が弱くなり、主軸回転速度を三角波形状に沿って変動させる場合と同様に、自励びびり振動を十分に抑制することができないのである。
【0012】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、従来に比べて、自励びびり振動を十分効果的に抑制することができる工作機械、及び加工方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、
工作機械を用い、工具を主軸に保持して、該主軸を目標回転速度で回転させるとともに、被加工物と前記工具とを切削送り方向の目標移動位置に、目標移動速度で相対的に移動させて該被加工物を加工する加工方法、即ち、回転工具を用いた、所謂ミーリング加工方法において、
前記主軸の回転速度を、前記目標回転速度を基準として、予め定められた振幅を有し、周期的又は非周期的に連続して変化する波形に沿って変動させるとともに、
前記主軸の回転速度の変動に同期させ、少なくとも前記主軸の回転速度が極大値となる時点を含む所定の時間帯域、及び極小値となる時点を含む所定の時間帯域において、前記工具と被加工物との相対的な移動速度を、前記主軸の回転速度と該移動速度との比が一定とならない状態で連続的に変動させるようにした被加工物の加工方法に係る。
【0014】
そして、この加工方法は、以下の構成を備えた本発明に係る工作機械によって、好適に実施することができる。
【0015】
即ち、本発明に係る工作機械は、工具を保持する主軸と、該主軸を回転させる主軸モータと、送りモータを有し、被加工物と前記工具とを切削送り方向に相対的に移動させる送り装置と、前記主軸モータを制御する主軸モータ制御部、並びに前記送りモータを制御する送りモータ制御部を具備する制御装置とを備えて構成され、
前記主軸モータ制御部は、前記主軸の目標回転速度に係る指令を受信し、前記主軸の回転速度が、該目標回転速度を基準として予め定められた振幅で周期的又は非周期的に連続して変動するように、前記主軸モータを制御するように構成され、
前記送りモータ制御部は、工具と被加工物との相対的な目標移動位置及び目標移動速度に係る指令を受信して、受信した目標移動速度で前記工具と被加工物とが相対的に目標移動位置に移動するように、前記送りモータを制御するとともに、前記主軸モータ制御部による前記主軸モータの制御に同期させ、少なくとも前記主軸モータの回転速度が極大値となる時点を含む所定の時間帯域、及び極小値となる時点を含む所定の時間帯域において、前記工具と被加工物との相対的な移動速度が、前記主軸の回転速度と該移動速度との比が一定とならない状態で連続的に変動するように、前記送りモータを制御する構成される。
【0016】
本発明に係る工作機械によれば、主軸に工具を保持した後、主軸モータ制御部により主軸モータを制御して主軸を回転させるとともに、送りモータ制御部により送り装置の送りモータを制御して、被加工物と回転工具とを切削送り方向に相対的に移動させることにより、当該被加工物を加工する。
【0017】
その際、前記主軸モータ制御部は、主軸の目標回転速度に係る指令を受信し、前記主軸の回転速度が、該目標回転速度を基準として予め定められた振幅で周期的又は非周期的に連続して変動するように、前記主軸モータを制御する。主軸モータの回転速度を変動させる制御波形は、正弦波のような曲線波形でも、三角波のような直線的な波形(三角波の頂部が曲線となったものも含む)でも良いが、連続的に変動する波形とする。
【0018】
一方、前記送りモータ制御部は、工具と被加工物との相対的な目標移動位置及び目標移動速度に係る指令を受信して、受信した目標移動速度で前記工具と被加工物とが相対的に目標移動位置に移動するように、前記送りモータを制御するとともに、前記主軸モータ制御部による前記主軸モータの制御に同期させ、少なくとも前記主軸モータの回転速度が極大値となる時点を含む所定の時間帯域、及び極小値となる時点を含む所定の時間帯域において、前記工具と被加工物との相対的な移動速度が、前記主軸の回転速度と該移動速度との比が一定とならない状態で連続的に変動するように、前記送りモータを制御する。
【0019】
斯くして、この工作機械及び加工方法によれば、主軸の回転速度が、目標回転速度を基準として予め定められた振幅で、周期的又は非周期的に連続して変動するように制御されるので、主軸回転速度が極大値となるその前後の所定時間帯域、並びに極小値となるその前後の所定時間帯域を除くその他の時間帯域については、従来と同様に、自励びびり振動を十分に抑制することができる。
【0020】
即ち、自励びびり振動は、上述したように、再生効果の一要素であるところの、工具に作用する切削抵抗(言い換えれば、切削速度)の変動の周期性を崩すことによって抑制されるが、上述した各所定時間帯域を除く他の時間帯域では、主軸回転速度が十分大きく変動しているため、例え、工具の送り速度が一定でも、当該工具の刃部と被加工物との間の相対的な移動速度、言い換えれば、工具の刃部が被加工物を切削する切削速度、即ち、工具に作用する切削抵抗が大きく変動することになり、これにより上述した切削抵抗の変動の周期性が喪失され、この結果、自励びびり振動が抑制されるのである。
【0021】
また、主軸回転速度が極大値となる時点を含む所定の時間帯域、及び極小値となる時点を含む所定の時間帯域では、前記工具と被加工物との相対的な移動速度を、前記主軸の回転速度と該移動速度との比が一定とならない状態で連続的に変動させており、このことによって、自励びびり振動が十分効果的に抑制される。
【0022】
上述したように、主軸モータの回転速度を変動させる制御波形が曲線波形である場合には当然のこと、三角波のような直線的な波形であっても、主軸モータの実際の回転速度は、追随遅れによって、極大値となる時点を含む所定の時間帯域、及び極小値となる時点を含む所定の時間帯域では、曲線に沿った変動となり、この時間帯域における主軸回転速度の変動率はごく僅かなものとなる。したがって、この極大値及び極小値付近では、工具の刃部が被加工物を切削する切削速度(即ち、切削抵抗)の変動が小さく、このため再生効果の一要素である切削抵抗の変動の周期性を喪失させ難く、自励びびり振動を抑制し難いのである。
【0023】
そこで、本発明では、主軸回転速度が極大値となる時点を含む所定の時間帯域、及び極小値となる時点を含む所定の時間帯域において、前記工具と被加工物との相対的な移動速度を、前記主軸の回転速度と該移動速度との比が一定とならない状態で連続的に変動させることによって、工具の刃部が被加工物を切削する切削速度(即ち、工具に作用する切削抵抗)が大きく変動する状況を創出した。これにより切削抵抗の変動の周期性が喪失され、自励びびり振動を十分効果的に抑制することができるようになった。尚、切削抵抗が変動する状況を創出するには、工具と被加工物との相対的な移動速度を、主軸の回転速度と該移動速度との比が一定とならない状態で連続的に変動させることが肝要である。
【0024】
斯くして、本発明に係る工作機械及び加工方法によれば、従来に比べて、自励びびり振動をより効果的に抑制することができる。尚、工具と被加工物との相対的な移動速度を変動させる上記所定時間帯域は、自励びびり振動を十分効果的に抑制することができるように、経験的に決定することができる。
【0025】
また、本発明に係る加工方法では、前記主軸の回転速度の変動波形を三角波形状とするとともに、前記各所定時間帯域における前記工具と被加工物との相対的な移動速度の変動を三角波形状に沿った変動としても良い。また、このような加工方法を実施するための工作機械としては、前記主軸モータ制御部は、前記主軸の回転速度が三角波形状に沿って変動するように、前記主軸モータを制御するように構成され、前記送りモータ制御部は、前記各所定時間帯域における前記工具と被加工物との相対的な移動速度の変動が三角波形状に沿った変動となるように、前記送りモータを制御する構成されていても良い。
【0026】
また、本発明に係る加工方法では、前記主軸の回転速度の変動波形を正弦波形状とするとともに、前記各所定時間帯域における前記工具と被加工物との相対的な移動速度の変動を正弦波形状に沿った変動としても良い。また、このような加工方法を実施するための工作機械としては、前記主軸モータ制御部は、前記主軸の回転速度が正弦波形状に沿って変動するように、前記主軸モータを制御するように構成され、前記送りモータ制御部は、前記各所定時間帯域における前記工具と被加工物との相対的な移動速度の変動が正弦波形状に沿った変動となるように、前記送りモータを制御する構成されていても良い。
【0027】
また、本発明は、工作機械を用い、被加工物を主軸に保持して、該主軸を目標回転速度で回転させるとともに、工具と前記被加工物とを切削送り方向の目標移動位置に、目標移動速度で相対的に移動させて該被加工物を加工する加工方法、即ち、所謂旋削による加工方法おいて、
前記主軸の回転速度を、前記目標回転速度を基準として、予め定められた振幅を有し、周期的又は非周期的に連続して変化する波形に沿って変動させるとともに、
前記主軸の回転速度の変動に同期させ、少なくとも前記主軸の回転速度が極大値となる時点を含む所定の時間帯域、及び極小値となる時点を含む所定の時間帯域において、前記工具を前記主軸の軸線及び前記工具の切り込み方向の双方に直交する方向に連続的に移動させるようにした被加工物の加工方法に係る。
【0028】
そして、この加工方法は、以下の構成を備えた本発明に係る工作機械によって、好適に実施することができる。
【0029】
即ち、この工作機械は、被加工物を保持する主軸と、該主軸を回転させる主軸モータと、送りモータを有し、工具と前記被加工物とを切削送り方向に相対的に移動させる送り装置と、前記工具を前記主軸の軸線及び前記工具の切り込み方向の双方に直交するシフト方向に移動させるシフト機構と、前記主軸モータを制御する主軸モータ制御部、前記送りモータを制御する送りモータ制御部、並びに前記シフト機構を制御するシフト制御部を具備する制御装置とを備えた工作機械であって、
前記主軸モータ制御部は、前記主軸の目標回転速度に係る指令を受信し、前記主軸の回転速度が、該目標回転速度を基準として予め定められた振幅で周期的又は非周期的に連続して変動するように、前記主軸モータを制御するように構成され、
前記送りモータ制御部は、工具と被加工物との相対的な目標移動位置及び目標移動速度に係る指令を受信して、受信した目標移動速度で前記工具と被加工物とが相対的に目標移動位置に移動するように、前記送りモータを制御するように構成され、
前記シフト制御部は、前記主軸モータ制御部による前記主軸モータの制御に同期させて前記シフト機構を制御し、少なくとも前記主軸モータの回転速度が極大値となる時点を含む所定の時間帯域、及び極小値となる時点を含む所定の時間帯域において、前記工具を前記シフト方向に連続的に移動させるように構成される。
【0030】
この工作機械によれば、主軸に被加工物を保持した後、主軸モータ制御部により主軸モータを制御して主軸を回転させるとともに、送りモータ制御部により送り装置の送りモータを制御して、被加工物と工具とを切削送り方向に相対的に移動させることにより、当該被加工物を加工する。
【0031】
その際、前記主軸モータ制御部は、主軸の目標回転速度に係る指令を受信し、前記主軸の回転速度が、該目標回転速度を基準として予め定められた振幅で周期的又は非周期的に連続して変動するように、前記主軸モータを制御する。主軸モータの回転速度を変動させる制御波形は、正弦波のような曲線波形でも、三角波のような直線的な波形(三角波の頂部が曲線となったものも含む)でも良いが、連続的に変動する波形とする。
【0032】
一方、前記シフト制御部は、前記主軸モータ制御部による前記主軸モータの制御に同期させて前記シフト機構を制御し、少なくとも前記主軸モータの回転速度が極大値となる時点を含む所定の時間帯域、及び極小値となる時点を含む所定の時間帯域において、前記工具を前記シフト方向に連続的に移動させる。
【0033】
斯くして、この工作機械及び加工方法によれば、上述した工作機械及び加工方法と同様に、主軸の回転速度が、目標回転速度を基準として予め定められた振幅で、周期的又は非周期的に連続して変動するように制御されるので、主軸回転速度が極大値となる時点を含む所定時間帯域、並びに極小値となる時点を含む所定時間帯域を除くその他の時間帯域においては、自励びびり振動を十分に抑制することができる。
【0034】
一方、主軸回転速度が極大値となる時点を含む所定の時間帯域、及び極小値となる時点を含む所定の時間帯域では、主軸回転速度の変動率がごく僅かなものとなるため、この極大値及び極小値付近では、工具の刃部が被加工物を切削する切削速度(即ち、切削抵抗)の変動が小さく、再生効果の一要素である切削抵抗の変動の周期性を喪失させ難くなっており、このため自励びびり振動を十分には抑制し難いものとなっている。
【0035】
そこで、この工作機械では、主軸回転速度が極大値となる時点を含む所定の時間帯域、及び極小値となる時点を含む所定の時間帯域において、前記シフト制御部により前記シフト機構を制御して、前記工具を前記シフト方向に連続的に移動させるようにした。尚、このシフト方向は、主軸の軸線と工具の切り込み方向との双方に直交する方向であり、工具の刃部による周方向の切削方向と一致する方向である。
【0036】
斯くして、工具をシフト方向に移動させることで、工具の刃部による切削速度(即ち、工具に作用する切削抵抗)が変動し、これにより上述した再生効果の一要素である切削抵抗の変動の周期性が喪失され、この結果、自励びびり振動が抑制されることになる。
【0037】
このように、この工作機械及び加工方法によっても、従来に比べて、自励びびり振動をより効果的に抑制することができる。尚、工具シフト方向に移動させる上記所定時間帯域は、自励びびり振動を十分効果的に抑制することができるように、経験的に決定することができる。