特許第6442674号(P6442674)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許6442674-白金族塩酸溶解液の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442674
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】白金族塩酸溶解液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20181217BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20181217BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20181217BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   C22B11/00 101
   C22B7/00 G
   C22B3/44 101A
   C22B3/10
   C22B3/44 101Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-132108(P2015-132108)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-14572(P2017-14572A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2017年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀昌
(72)【発明者】
【氏名】一色 靖志
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 善昭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英明
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−201526(JP,A)
【文献】 特開2007−302944(JP,A)
【文献】 特開2011−195935(JP,A)
【文献】 特開2012−172182(JP,A)
【文献】 特開2012−57193(JP,A)
【文献】 特開2012−57194(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0045405(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウムおよびそれ以外の白金族元素を含有する白金族原料溶解液に塩化カリウムとアルカリ溶液とを添加して白金族元素を白金族カリウム塩として析出させた後、固液分離を行って該白金族カリウム塩を得る第1工程と、
得られた白金族カリウム塩を濃度1〜3モル/lの希塩酸で洗浄する第2工程と、
前記洗浄済みの白金族カリウム塩に水および水酸化ナトリウムを添加してアルカリ領域で中和処理して中和澱物を生成した後、固液分離により該中和澱物と中和処理液とに分離する第3工程と、
分離した中和澱物を水酸化ナトリウムおよび酸化剤で浸出処理した後、固液分離を行って浸出残渣を回収する第4工程と、
回収した浸出残渣を塩酸に溶解して白金族塩酸溶解液を得る第5工程とからなる白金族塩酸溶解液の製造方法であって、
前記第3工程で分離した中和処理液を前記第1工程のアルカリ溶液として用いることを特徴とする白金族塩酸溶解液の製造方法。
【請求項2】
前記中和処理液のpHが8を超え9以下であることを特徴とする、請求項1に記載の白金族塩酸溶解液の製造方法。
【請求項3】
前記白金族原料溶解液が、銅電解工程で生成したアノードスライムに対して、塩素ガス若しくは塩化物を用いて浸出した浸出液、または王水で溶解した溶解液であることを特徴とする、請求項1または2に記載の白金族塩酸溶解液の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不純物が除去された白金族塩酸溶解液の製造方法に関し、特にルテニウムおよびそれ以外の白金族元素を含有する白金族原料溶解液から不純物元素としてのルテニウムを除去してルテニウム以外の白金族元素に富んだ塩酸溶解液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希少な天然資源である白金族元素は、白金鉱石のように高品位の鉱物として産出されることは少なく、そのため、白金族元素の工業的な生産では、銅、ニッケル、コバルトなどの非鉄金属製錬で副生される残滓や、車両の排ガス処理触媒などに代表される各種の使用済み廃触媒など、白金族元素を比較的高品位に含むものが原料として主に用いられている。
【0003】
例えば非鉄金属製錬の残滓について説明すると、一般に非鉄金属製錬の原料鉱石には白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム等の白金族元素がごく微量含まれており、それらは化学的性質のため製錬対象金属である銅やニッケルなどの硫化濃縮物および粗金属の中に濃縮される。濃縮された白金族元素は、電解精製などの製錬対象金属の回収工程において残滓として分離される。
【0004】
分離された残滓は一般に貴金属の混合物からなり、白金族元素の原料として使用する場合は塩素ガス若しくは塩化物を用いて残滓を浸出処理して白金族元素を含む原料溶解液を得た後、この原料溶解液に対して溶媒抽出あるいはイオン交換等の処理を行って白金族元素を分離回収している。非鉄金属製錬の原料鉱石には金や銀が含まれることも多く、その場合は、白金族元素の分離回収に先立って金や銀を分離回収するのが一般的である。
【0005】
上記した白金族元素を含む原料溶解液は通常はビスマス、スズ、アンチモン等の不純物元素も含んでおり、これら不純物元素は特許文献1に記載されている方法で白金族元素から分離することが行われている。この方法は、白金族元素の原料溶解液に塩化カリウムを添加して白金族元素をカリウム塩として析出させた後、この白金族カリウム塩に濃度1〜3モル/lの希塩酸を加えて洗浄し、洗浄後の白金族カリウム塩に水酸化ナトリウム溶液を加えて中和澱物を生成し、得られた中和澱物に水酸化ナトリウムと酸化剤を添加してアルカリ浸出処理を行い、この浸出処理後に残る残渣(アルカリ浸出残渣、あるいは単に浸出残渣とも称する)を塩酸で溶解することにより白金族塩酸溶解液を得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5556701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
白金族元素の中ではルテニウムが最も安価であるため、上記したような白金族元素の分離回収方法ではルテニウムは製品として回収するよりも除去することが一般的である。例えば特許文献1では、上記アルカリ浸出処理によってルテニウムをある程度除去することによって、ルテニウム以外の白金族元素からなる浸出残渣に混在するルテニウムの量を抑制することが行われている。
【0008】
ところが近年は資源の枯渇化や原料鉱石の調達先の多様化等の理由により、従来よりもルテニウムがそれ以外の白金族元素に比べて多く含まれる原料を非鉄金属製錬の原料鉱石として処理する場合が増えてきた。その結果、アルカリ浸出工程にその処理能力を超える量のルテニウムが一時的に供給される場合が生じ、浸出残渣中のルテニウム量が一時的に増大することがあった。白金族元素は基本的には互いに性質が似ているため、浸出残渣中のルテニウム量が増大するとルテニウムをそれ以外の白金族元素から分離するのが困難になって製品としての白金族元素の品質が低下するおそれがあり、これを避けるため原料の単位時間当たりの処理量を下げて対応せざるを得ない場合があった。
【0009】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、ルテニウムおよびそれ以外の白金族元素を含有する原料を処理して白金族元素を製造するに際して、ルテニウム以外の白金族元素に比べてルテニウムが従来よりも多く含まれる原料が一時的に供給されるような場合であっても、製品としての白金族元素の品質の低下や処理量の削減などの問題を生ずることなく当該原料からルテニウムを分離してルテニウム以外の白金族元素に富んだ溶解液を製造することが可能な方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の白金族塩酸溶解液の製造方法は、ルテニウムおよびそれ以外の白金族元素を含有する白金族原料溶解液に塩化カリウムとアルカリ溶液とを添加して白金族元素を白金族カリウム塩として析出させた後、固液分離を行って該白金族カリウム塩を得る第1工程と、得られた白金族カリウム塩を濃度1〜3モル/lの希塩酸で洗浄する第2工程と、前記洗浄済みの白金族カリウム塩に水および水酸化ナトリウムを添加してアルカリ領域で中和処理して中和澱物を生成した後、固液分離により該中和澱物と中和処理液とに分離する第3工程と、分離した中和澱物を水酸化ナトリウムおよび酸化剤で浸出処理した後、固液分離を行って浸出残渣を回収する第4工程と、回収した浸出残渣を塩酸に溶解して白金族塩酸溶解液を得る第5工程とからなる白金族塩酸溶解液の製造方法であって、前記第3工程で分離した中和処理液を前記第1工程のアルカリ溶液として用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ルテニウムおよびそれ以外の白金族元素を含有する原料を処理して白金族元素を製造するに際して、ルテニウム以外の白金族元素に比べてルテニウムが従来よりも多く含まれる原料が一時的に供給されるような場合であっても、製品品質の低下や原料の処理量の削減などの問題を生ずることなく当該原料からルテニウムを分離してルテニウム以外の白金族元素に富んだ溶解液を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る白金族塩酸溶解液の製造方法の一具体例を示すフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の白金族塩酸溶解液の製造方法の一具体例として、ルテニウムおよびそれ以外の白金族元素を含有する溶解液(白金族原料溶解液とも称する)から、ルテニウム、ビスマス、スズ、アンチモンなどの不純物元素を分離して純度の高い白金族塩酸溶解液を製造する方法について図1を参照しながら工程順に説明する。尚、本発明が対象とする白金族原料溶解液は、ルテニウムおよびそれ以外の白金族元素を含有するものであれば特に限定されるものではない。このような白金族原料溶解液の例としては、銅電解工程において生成したアノードスライムを王水で溶解した溶解液や、該アノードスライムを塩素ガス若しくは塩化物を用いて浸出した浸出液などを挙げることができる。図1では塩酸および塩素を用いてアノードスライムなどの白金族原料を浸出した場合が示されている。
【0014】
まず、第1工程では、白金族原料溶解液に塩化カリウムを添加する。更に、この第1工程では、後述する第3工程の固液分離で分離された中和濾液が白金族原料溶解液にアルカリ溶液として添加される。このように白金族原料溶解液および第3工程からのアルカリ溶液に塩化カリウムを添加することによって、これらに含まれる白金族元素が白金族カリウム塩として析出する。例えば、白金族原料溶解液中の白金族元素が白金の場合は、ヘキサクロロ白金(IV)酸がヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム(KPtCl)の結晶となって沈殿する。析出した白金族カリウム塩を含む処理液は、例えばフィルターなどの固液分離手段によって白金族カリウム塩と結晶濾液とに分離される。分離された白金族カリウム塩は後段の第2工程に供給される。
【0015】
次に第2工程では、上記第1工程で得た白金族カリウム塩に希塩酸を加えて混合状態にして洗浄する。この希塩酸による洗浄によって、白金族カリウム塩に付着しているビスマス、スズ、アンチモンなどの不純物元素が希塩酸に溶解して加水分解され、洗浄後液となる。洗浄後液は固液分離により洗浄済みの白金族カリウム塩から取り除かれる。洗浄済みの白金族カリウム塩(洗浄後塩とも称する)は、洗浄前に比べて不純物元素の量、特にビスマスおよびアンチモンの量が大幅に低減されている。
【0016】
上記の第2工程では、洗浄に使用する希塩酸の濃度を1〜3モル/lの範囲内にする。希塩酸濃度が1モル/l未満では水による洗浄と大差なく、ビスマス、スズ、アンチモンの分離が不十分となる。また、白金族元素の一部が溶解してロスする可能性がある。一方、希塩酸濃度が3モル/lを超えてもビスマス、スズ、アンチモンの分離効果に大きな差がないばかりか、かえって設備の腐食が生じやすくなったり、コストの増加を招いたりするので好ましくない。
【0017】
第2工程における洗浄の際は、洗浄液である希塩酸の温度は高い方がカリウム塩の溶解度が向上し、洗浄効果も高くなる。しかし、洗浄後にフィルターで固液分離を行う場合は、温度が低下すると微細なカリウム塩が生成して濾布を目詰まりさせて濾過性が悪化する原因となるので、第2工程では特に加熱を行わずに常温で洗浄することが好ましい。洗浄時間は長ければ長いほど洗浄効果が大きくなるが、一般的には20〜30分程度で十分な洗浄効果が得られる。
【0018】
第2工程から排出される洗浄後液には塩化カリウムが濃度120〜150g/lの範囲内で含まれるように希塩酸の添加量を調整することが好ましい。これにより、ロスを小さく抑えながら十分に洗浄できる。洗浄後液中の塩化カリウム濃度が120g/l未満では、白金族元素までもが過剰に溶出してロスするおそれがある。一方、洗浄後液中の塩化カリウム濃度が150g/lを超えると洗浄が不十分となり、フィルターで固液分離する際に未反応の結晶が残留して濾布を詰まらせるなど操業に悪影響となるため好ましくない。塩化カリウム濃度を上記範囲内に調整する方法としては、第2工程において洗浄液の希塩酸に塩化カリウムを添加するか、あるいは前述した第1工程でカリウム塩を生成する際に白金族原料溶解液への塩化カリウムの添加量を制御することで調整することができる。
【0019】
次に第3工程では、上記第2工程の固液分離により得られた洗浄後塩に水および水酸化ナトリウムを加えてアルカリ領域で中和処理する。この中和処理により白金族元素が水酸化物となり、中和澱物として沈殿析出する。析出した中和澱物を含む中和処理液は、例えばフィルターなどの固液分離手段により中和澱物と中和処理液(中和濾液とも称する)とに分離する。分離した中和澱物は後段の第4工程に供給され、中和処理液は繰り返されて前述した第1工程のアルカリ溶液として使用される。
【0020】
上記の白金族カリウム塩の中和処理における水および水酸化ナトリウムの添加は、洗浄後塩に純水を加えて懸濁させた懸濁液に固体の水酸化ナトリウムを加えてもよいし、洗浄後塩に予め濃度調製した水酸化ナトリウム水溶液を添加してもよい。特に、濃度10〜12%程度の水酸化ナトリウム水溶液を洗浄後塩に添加し、アルカリ領域に調整するのが好ましい。このアルカリ領域としては、中和濾液のpHが8を超え9以下の範囲になるように調整するのが好ましい。中和濾液のpHが8以下になると、中和澱物に分配されるルテニウムが増えるので、後述する白金族塩酸溶解液がルテニウムで汚染される恐れがある。一方、中和濾液のpHが9を超えると、水酸化ナトリウムが多く必要になるうえ、中和濾液に分配されるナトリウムが増えるので、第1工程において白金族カリウム塩の結晶が生成されにくくなる。
【0021】
洗浄後塩に添加する水および水酸化ナトリウム水溶液の合計液量は、中和濾液として繰り返されることを考慮して第1工程で処理される白金族原料溶解液の液量以下とするのがよい。この量が白金族原料溶解液の液量より多いと、中和濾液のpHが高い方に変動した場合に、第1工程において中和濾液の添加によって該添加後の白金族原料溶解液のpHも高い方に大きく変化し、白金族原料溶解液に溶存していた不純物元素が水酸化物となって白金族カリウム塩へ混入することがある。上記のように洗浄後塩に加える液量を白金族原料溶解液の液量以下に抑えることで、このような問題を防止でき、第1工程で比較的高純度な白金族カリウム塩を得ることができる。
【0022】
一方、洗浄後塩に加える液量が少なすぎる場合は、上記した中和濾液のpH調整が難しくなることがある。このため、洗浄後塩に添加する水酸化ナトリウム水溶液の量は、第1工程で処理する白金族原料溶解液の液量の200分の1以上とすることが好ましい。また、中和濾液のpHを安定させるため、洗浄後塩には工程に悪影響のない範囲で緩衝作用をもつ緩衝剤を添加してもよい。このような緩衝剤としては例えばリン酸、炭酸、ホウ酸を挙げることができるが、炭酸水素ナトリウムが安価に入手できるので好ましい。
【0023】
次に第4工程では、上記第3工程で得た中和澱物に水酸化ナトリウムと酸化剤を添加して浸出処理を行い、洗浄後塩中に残留しているスズおよびルテニウムをアルカリ浸出液に溶解させる。溶解後は固液分離によりアルカリ浸出液を取り除く。これにより、主に白金族元素の水酸化物からなるアルカリ浸出残渣が得られる。この中和澱物の浸出処理では、取り扱いが容易であることや添加する際に精度よく制御できるなどの点から、濃度10〜12%程度の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH11以上に調整するのが好ましい。
【0024】
また、第4工程において添加する酸化剤としては、塩素ガス、オゾン、亜塩素酸ナトリウムなどを用いることができるが、取り扱いの容易さやコストなどを考えると亜塩素酸ナトリウムが好ましい。これら水酸化ナトリウムおよび酸化剤を中和澱物に加えて得たスラリーの酸化還元電位を測定し、例えば銀塩化銀電極を参照電極とする場合は酸化還元電位が200mV以上になるまで浸出処理を継続することで、残留するスズなどの不純物が浸出し、白金族元素の水酸化物からなる浸出残渣を得ることができる。浸出時の反応温度は高いほど浸出が促進されるため好ましいが、一般的には60〜80℃とすることが実用的である。
【0025】
次に第5工程では、上記第4工程で回収したアルカリ浸出残渣に塩酸を添加してアルカリ浸出残渣を溶解させる。この溶解に使用する塩酸は12M程度の濃塩酸を用いることが好ましい。具体的な塩酸の濃度は、アルカリ浸出残渣の湿潤状態に応じて適宜調整すれば良い。この塩酸を湿潤状態のアルカリ浸出残渣1kgに対して2リットル程度の割合で添加するのが好ましい。溶解の際は、例えば塩酸を溶解開始時に全量添加し、撹拌しながら室温もしくは60〜90℃に加熱した状態で、pH1.5〜2.0に維持することで良好に溶解させることができる。ことにより、製品としての白金族塩酸溶解液が得られる。
【0026】
上記した一連の工程により、第1工程に供給された白金族原料溶解液中のルテニウムは、白金族カリウム塩の形態を経た後、洗浄後塩として第3工程に供給される。第3工程では、中和濾液のpHが好適には8を超え9以下のアルカリ領域に調整されているので、洗浄後塩中のルテニウムは一部が中和濾液に分配する。中和濾液は第1工程に繰り返されるので、中和濾液中のルテニウムは再度第1工程で処理されて白金族カリウム塩となり、洗浄後塩として再度第3工程に供給される。
【0027】
従って、白金族原料溶解液中のルテニウム量が一時的に大きく変動しても第3工程から第1工程に戻るリサイクルループに緩衝タンクのような役割を担わせることができるので、白金族原料溶解液に過剰にルテニウムが含まれている場合であっても、この過剰なルテニウムが中和澱物に分配されるのを遅らせることができる。よって、中和澱物中のルテニウム品位やルテニウム以外の白金族品位などの品質を安定化させることができ、第4工程においてルテニウムを効率よく分離することができる。
【0028】
すなわち、第4工程において、中和澱物から一定量のルテニウムをアルカリ浸出液へ抜き出すための薬剤(水酸化ナトリウムと酸化剤)添加量を容易に最適化することができ、しかも、この最適化された添加量を急激に変化させる必要がない。よって、アルカリ浸出残渣や白金族塩酸溶解液のルテニウム濃度を安定的に低く抑えることができる。その結果、白金族元素の精製工程へのルテニウムの分配を安定的に低減することができ、該精製工程での処理日数や工数が削減できるうえ、ルテニウム以外の白金族元素のロスを減らすことができる。また、アルカリ浸出液中のルテニウム量を一定にできるので、アルカリ浸出液をルテニウム精製工程で処理する場合は処理が容易になる。しかも、中和濾液を第1工程で全量処理するのでルテニウムのロスも低減させることができる。
【0029】
以上説明したように、第1〜第5工程の一連の工程からなる本発明の一具体例の方法を採用することにより、ルテニウムおよびそれ以外の白金族元素を含む原料溶解液に相対的に多くのルテニウムが一時的に含まれるような場合であっても、当該原料溶解液からルテニウムをビスマス、スズ、アンチモンなどの不純物元素と共に効率良く分離して、これらの不純物濃度が低く且つルテニウム以外の白金族元素に富む溶解液を安定的に作製することができる。
【実施例】
【0030】
不純物としてRu、Bi、Sn、およびSbを多く含有する白金族原料として、銅の電解精製で分離されたアノードスライムを準備し、この白金族原料を図1に示す各工程に従って処理した。具体的には、先ず前処理工程として、上記白金族原料を塩素および塩酸で浸出し、さらに塩素および塩酸を添加しても浸出が進まないことを確認したうえで、固体の塩素浸出残渣をヌッチェと5C濾紙を用いて濾別して白金族原料溶解液を得た。
【0031】
次に、第1工程において、上記前処理工程で得た白金族原料溶解液に塩化カリウムを添加して白金族カリウム塩を析出させた。さらに塩化カリウムを添加しても析出がないことを確認したうえで、ヌッチェと5C濾紙を用いて液を濾別し、白金族カリウム塩を得た。
【0032】
次に、第2工程において、上記第1工程で得た白金族カリウム塩を3モル/lの希塩酸にスラリー濃度がWet換算で500g/lとなるように添加し、30分間撹拌して洗浄した。この洗浄の際に、溶液中の塩化カリウム濃度は130g/lであった。希塩酸による洗浄が終了した後、ヌッチェと5C濾紙を用いて濾別し、固体の洗浄後塩と希塩酸水溶液の洗浄後液とを得た。
【0033】
次に、第3工程において、上記第2工程で得た洗浄後塩の結晶に、上記前処理工程の浸出で得た白金族原料溶解液と同体積の純水を加えて懸濁液にした。この懸濁液に水酸化ナトリウムを添加することでpH8.1の弱アルカリ領域に調整したところ、水酸化物が析出した。水酸化物が析出した懸濁液をヌッチェと5C濾紙を用いて濾別し、固体の中和澱物と液体の中和濾液を得た。中和濾液のpHは、水酸化物が析出した懸濁液のpHに等しかった。
【0034】
次に、第4工程において、上記第3工程で得た中和澱物に、更に水酸化ナトリウム溶液を添加してpHが14となるように調整し、水酸化物が懸濁した状態のスラリーとした。このスラリーを加温して60℃まで昇温した後、酸化剤として亜塩素酸ナトリウム溶液を添加し、酸化還元電位(参照電極:塩化銀電極)が1000mVに達するまで酸化することでアルカリ浸出させた。アルカリ浸出したスラリーをヌッチェと5C濾紙を用いて濾別し、固体のアルカリ浸出残渣と液体のアルカリ浸出液とを得た。アルカリ浸出液のpHは11以上であった。
【0035】
次に、第5工程において、上記第4工程で得たアルカリ浸出残渣に濃度12Mの塩酸を加えることで、pHを1.5〜2の範囲にしてこれを維持し、アルカリ浸出残渣を溶解して白金族塩酸溶解液を得た。上記した前処理工程〜第5工程までの一連の工程を20バッチ行った。ただし、2バッチ目以降の第1工程では、その前のバッチの第3工程で得た中和濾液の全量を、前処理工程で得た白金族原料溶解液に加えたものを、白金族原料溶解液として用いた。
【0036】
2〜20バッチ目の白金族カリウム塩について質量を測定するとともに、分析して平均組成を求めた。2〜20バッチ目の各液についても、質量を測定するとともに、分析して平均組成を求めた。下記表1に分析結果から求めた各元素の分配率(白金族カリウム塩に含まれていた量を100重量%とする物量バランス)を示す。なお、1バッチ目については第1工程に添加する中和濾液がないので分析対象にしなかった。仮に表1にこの1バッチ目を含めた場合、中和濾液は20バッチぶん(第1〜第20バッチ。第3工程)発生し19バッチぶん(第2〜第20バッチ。第1工程)消費されるので(発生量>消費量)、中和濾液への分配率は0よりも大きくなるが、この影響は試行回数を20バッチより大きくすることで実質的に無視することができる。
【0037】
【表1】
【0038】
[実施例2]
第3工程で懸濁液のpHを8.1に代えて9.0に調整した以外は実施例1と同様にして白金族原料を処理し、各元素の分配率を求めた。下記表2にこの分配率を示す。
【0039】
【表2】
【0040】
[比較例1]
第3工程で懸濁液のpHを8.1に代えて7.5に調整したことと、中和濾液を白金族原料溶解液に加えなかったこと以外は実施例1と同様にして白金族原料を処理し、各元素の分配率を求めた。下記表3にこの分配率を示す。
【0041】
【表3】
【0042】
上記表1および2の結果から分るように、白金族カリウム塩中のRu、Bi、Sn、Sbの大部分は、洗浄後液またはアルカリ浸出液として除去され、白金族塩酸溶解液中のこれらの含有量を低く抑えることができた。一方で、白金族カリウム塩中のPt、Pd、Rhの大半は、白金族塩酸溶解液中として回収できた。
【0043】
また、表1および2と表3とを比較して分かるように、白金族塩酸溶解液へのルテニウムとスズの分配率は、比較例1よりも実施例1や2の方が小さいことが分かる。このことから、実施例1や2によれば、従来よりもルテニウムとスズの少ない白金族塩酸溶解液が得られることを確認できた。さらに、白金族塩酸溶解液への白金の分配率は、比較例1よりも実施例1や2の方が大きいことが分かる。このことから、実施例1や2によれば、従来よりも白金の多い白金族塩酸溶解液が得られることを確認できた。


図1