(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光偏向器としての偏向ミラーは、静電力を用いたもの、電磁力を用いたもの、圧電力を用いたものなどがある。
静電力を用いた偏向ミラーは、平行平板型と櫛歯型の電極があり、櫛歯型の電極では近年の微細加工技術の向上によって比較的大きな力を発生できるようにはなった。
しかしながら、十分な光の偏向角が得られないため、駆動電圧を大きくして補うしかない。
駆動電圧を大きくするためには電源系の部品を大きくする必要があるが、全体として大型化したり、コスト増加につながってしまう。
【0003】
電磁力を用いた偏向ミラーは、外部に永久磁石を配置する必要があるため、デバイスの構成が複雑になり、生産性が悪いと共に小型化が困難である。
磁歪膜などを用いたものも検討されているが、磁性体としての特性が劣るため、十分な特性を得ることができていない。
また、コイルに電流を流すと余分な熱が発生しやすく、消費電力が大きくなってしまう。
【0004】
圧電力を用いた場合は、比較的大きな駆動電圧が必要ではあるが、小さな電力で大きな力を発生することが可能である。
この種の圧電デバイスは発生力は大きいものの、変形量は微小であるため、これを拡大するために、圧電材料を他の梁状弾性部材に張り合わせてユニモルフ構造、あるいはバイモルフ構造としている。
このようにして、圧電力による面内方向の僅かな歪みを反りに変えることで大きな変形が得られるようにしている。
【0005】
ミラー部を回転振動可能に支持する一対の弾性支持部材の他端を、ベース台に固定された曲げ変形可能な一対の板ばね(駆動梁)で支持し、駆動梁の曲げ変形によってミラー部を回転振動させる構成も知られている(例えば、特許文献1)。
駆動梁に固定された圧電体に電圧を印加することにより、圧電体が伸縮して駆動梁の曲げ変形が生じ、これによって弾性支持部材に捻り変形が生じてミラー部が回転振動するものである。
一対の駆動梁は、ベース台に個別に固定されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図を参照して説明する。
図1乃至
図5に基づいて第1の実施形態を説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る光偏向器2は、1方向に光を偏向する偏向ミラーである。
光偏向器2は、光反射面4を有するミラー部6と、一端がミラー部6に固定され、ミラー部6を回転振動可能に支持する一対の弾性支持部材としてのトーションバースプリング8、10と、一端がトーションバースプリングの他端側に固定された一対の駆動梁12、14と、駆動梁12、14の他端側が固定された固定ベース16とを備えている。
ミラー部6の光反射面4と反対側には、円柱状の補強リブ18が形成されている。
【0012】
トーションバースプリング8、10のミラー部6と反対側の端部には、ミラー部6が捻り回転する軸方向においてミラー部6が撓むような方向で駆動梁12、14が接続されている。
駆動梁12、14は固定ベース16に該固定ベース16から同一方向に突出するように固定され、トーションバースプリング8、10の片側にのみ配置されている。
すなわち、ミラー部6と一対のトーションバースプリング8、10とが、一対の駆動梁12、14を介して固定ベース16に対して片持ち支持された構成となっている。
【0013】
駆動梁12、14は、梁状部材に圧電体が固定された構成を有している。
すなわち、駆動梁12、14の反射面34側の表面には、圧電体(圧電部材)20が膜状ないし層状に固定され、全体として平板短冊状のユニモルフ構造の駆動梁を形成している。
本実施形態では、シリコン材料でMEMS(micro electro mechanical systems)プロセスによって加工することで、ミラー部6、トーションバースプリング8、10、駆動梁12、14を一体で形成している。
ミラー部6はシリコン基板の表面にアルミニウムや金などの金属の薄膜を形成することによって光反射面4を形成している。
一対の駆動梁12、14の固定ベース16側の端部は繋がって一体化されている。すなわち、駆動梁12、14は全体として固定ベース側で繋がった一枚形状(単板形状)を有している。
【0014】
図1では圧電体20に電界を与えるための配線を省略したが、
図3及び
図4に基づいてその構成を説明する。
図4(a)は
図3のX−X線での断面図、
図4(b)は
図3のY−Y線での断面図である。
図4に示すように、駆動梁の表面に下部電極22が設けられ、その上に圧電体20、上部電極24が設けられており、最表面には絶縁層26が設けられている。
梁状部材の上に下部電極、圧電材料、上部電極の順でスパッタにより成膜して積層し、必要な部分だけが残るようにエッチング加工されている。
接着層の材料はチタン(Ti)、上部電極及び下部電極は白金(Pt)、圧電材料はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などが使用できる。
図4において、符号28、30はコンタクトホールを、32、34はアルミ配線(断面表示を省略)を示している。
【0015】
図3に示すように、圧電体20に電圧を印加するための配線パターンは、一対の駆動梁12、14の中央の部位に接続されている。
図3では絶縁層26は省略している。
詳しく説明すると、上部電極24に対する配線は、一対の駆動梁12、14を連結する部分の中央部に配置されており、下部電極22に対する配線は固定ベース16の略中央部に配置されている。
このようにランド部から配線を引き出し、上部電極24と下部電極22の間に電圧を印加すると、圧電体20の電歪特性により体積が変化し、梁状部材表面の面内方向に伸縮することで駆動梁12、14が反って、曲げ変形するようになっている。
配線パターンの圧電部材の電極との接続部を、駆動梁12、14の振動する範囲を避けて配置することで、電圧印加構成の故障を抑制することができる。
本実施形態では圧電体20を成膜プロセスによって製作した例を説明したが、バルクの材料を貼り付ける方法で製作してもよい。
【0016】
トーションバースプリング8、10と駆動梁12、14の長手方向が略直交して配置されているため、駆動梁12、14の曲げ変形で発生する回転力を効率よくトーションバースプリング8、10の捻り方向の変形に伝えることができる。
また、駆動梁12、14はトーションバースプリング8、10とミラー部6とを片持ちした構造となっているため、駆動梁12、14の先端は自由に振動することができ、大きな振幅を得ることができる。
【0017】
また、
図2に示すように、ミラー部6の中心(重心)p1は、トーションバースプリング8、10の中心線P2に対して、駆動梁12、14と固定ベース16との接続部に近接する方向にオフセットされている。
このようにすることで駆動梁12、14の振動によってミラー部6の回転振動をより大きくしている。
【0018】
上記のように、一対の駆動梁12、14固定ベース16側の端部は繋がって一体化されている。
独立している駆動梁をそれぞれ繋げて一体にすることによって、一対の駆動梁12、14は略一体で振動するようになり、製造精度のばらつきによる駆動梁の形状不均一によって生じるミラー振動挙動の異常を抑制することができる。
また、一対の駆動梁12、14を一体化することで、圧電体20を配置する場所が広くなり、駆動梁においてより大きな振動エネルギーを発生することができる。
すなわち、印加電圧に対するミラー部6の振幅量を増大させることができる(振幅感度の増加)。
一対の駆動梁を独立して設けた場合の両者間に存在する、単なるスペースとなっていた部分に圧電体を配置することでより出力効率の良いデバイスを製作することができる。
【0019】
圧電膜の容量が増加するので消費電力が増加することになるが、振幅感度が増加する分は低電圧で動作させることができるため消費電力も抑えることができる。
光偏向器が搭載されるアプリケーションの仕様により、光偏向器の動作周波数を上げる必要がある場合、弾性支持部材(トーションバースプリング)の剛性を増加させて、ミラー部の回転振動の共振周波数を増加させなければならない。
効率的に動作させるためには回転の共振周波数に対応して駆動梁の曲げ(たわみ)の共振周波数も増加させる必要がある。
本実施形態のように、一対の駆動梁12、14を繋げて一体化することで、ミラー部及びトーションバースプリングを支持する駆動梁全体の剛性を大きくすることができるため、ミラー部の径の大型化及びミラー部の振動周波数の高域化の設計をしやすくすることができる。
【0020】
さらには、成膜プロセスで製作する場合、圧電材料はウエハ全体に成膜した後、不要部を除去する工程となるため、ウエハ面内で圧電材料の面積比率を増加させる方が除去領域を減らす上で効果的である。
さらに、本実施形態では、
図1等に示すように、梁状部材のみでなく、その上に配置する圧電部材も繋げた構成になっている。
駆動梁に電圧を印加するための配線がアルミ等でパターニングされているが、両側の駆動梁に個別に接続されていると、両者で僅かに抵抗が異なり、両者の駆動電圧に差が生じて両者のバランスが崩れる。
【0021】
しかしながら、このように圧電部材も繋げて配置することで圧電部材にかかる電界の均一性も向上するため、ミラー部6の動作を安定化することができる。
すなわち、圧電部材を繋げて一体化することで、抵抗を均一化し駆動電圧のばらつきを抑制することができる。これによって一対の弾性支持部材(トーションバースプリング)へ加わる振動のばらつきを抑制しミラー部の振動挙動の異常を抑制することができる。
また一対の独立した駆動梁上の圧電部材にそれぞれ接続されていた配線パターンを一体化することで配線パターンを簡素化し、不良率を低減することができる。
【0022】
システムに搭載する場合、ミラー部6の振幅量を正確に知る必要があって、ミラー部の振幅量を示す検出信号が必要になる場合がある。
このような場合には、
図5に示すように、検出用圧電体38、40を設ける。
駆動梁の撓みによって検出信号が得られるが、ミラー部の振幅に対応するのはトーションバースプリングとの接続部付近であるためこの付近に検出信号を検知するための検出用圧電体38、40を配置することが望ましい。
振動モードの固有周波数で駆動信号を与えることによって、ミラー部は大きな角度の振幅を得ることができる。なお、駆動波形はパルスでも波状でもよく、周波数が前述の固有周波数近傍であればよい。
【0023】
本実施形態では上記のように、下部電極、上部電極と共に、スパッタにより圧電材料を成膜した構成を示したが、圧電材料はバルク材料を所定のサイズに切断したものを接着剤により貼り付けてもよい。
また、CVD、ゾルゲル法、エアロゾルデポジション法(AD法)等で形成してもよい。
また、本実施形態では駆動梁12、14は梁状部材の片面に圧電材料が配置されたユニモルフ構造で説明しているが、梁状部材の両面に圧電材料を配置したバイモルフ構造としてもよい。
【0024】
図6及び
図7に第2の実施形態を示す。
なお、上記実施形態と同一部分は同一符号で示し、特に必要がない限り既にした構成上及び機能上の説明は省略して要部のみ説明する(以下の他の実施形態において同じ)。
光偏向器2の基本構成は第1の実施形態と同様である。第1の実施形態では、トーションバースプリングと駆動梁とが、駆動梁のミラー部中心側で接続されていたが、本実施形態ではミラー部中心から見て外側で接続されている。
この構成によって、駆動梁12、14の間の間隔を狭めることができ、デバイスのサイズを小さくすることができる。
【0025】
システムに搭載する場合、ミラー部の振幅量を正確に知る必要があって、ミラー部の振幅量を示す検出信号が必要になる場合がある。
このような場合には、
図6に示すように、検出用圧電体42、44を設ける。
第1の実施形態では、
図5に示したように、駆動梁の内側(ミラー部寄り)に検出用圧電体を配置していたが、本実施形態では外側に配置されている。
駆動梁の撓みによって検出信号が得られるが、ミラー部の振幅に対応するのはトーションバースプリングとの接続部付近であるため、この付近に検出信号を検出するための検出用圧電体42、44を配置することが望ましい。
【0026】
図8に基づいて第3の実施形態を説明する。
光偏向器2の基本構成は第1、第2の実施形態と同様である。
第1、第2の実施形態では、トーションバースプリングと駆動梁との間の部分で、一対の駆動梁を繋げた部分が矩形形状になっていたが、本実施形態ではミラー部6との間隙が、ミラー部6の周方向で所定間隔となるようにしている。
すなわち、駆動梁12、14間の繋がり部分は、ミラー部6の周面に沿って円弧状に形成されている。
このようにすることで、一対の駆動梁の間のスペースを有効に利用した上で、駆動梁の角部分での応力集中を抑制し振動により破壊しにくくすることができる。
また、電界集中を抑制して圧電部材や電極を破損しにくくすることができる。
【0027】
図9に第4の実施形態(光走査装置)を示す。
光源としてのレーザ素子50からのレーザ光はコリメート光学系52を経た後、光偏向器2により偏向される。
偏向されたビームは、fθレンズ54、トロイダルレンズ56及びミラー58からなる結像光学系で感光ドラム等の被走査面60にスポット状に結像する。
光偏向器2は、上記各実施形態で示した光偏向器である。図示しないミラー駆動手段により下部電極と上部電極間に駆動電圧を印加することにより駆動される。
本実施形態に係る光走査装置は、写真印刷方式のプリンタや複写機などの画像形成装置のための光走査装置として好適である。
【0028】
図10に第5の実施形態(画像形成装置)を示す。
上記各実施形態で示した光偏向器を備えた光書き込みユニット(光走査装置)62は、レーザビームを被走査面に出射して画像を書き込む。
符号64は光書き込みユニット62による走査対象としての被走査面を有する像担持体としての感光体ドラムを示す。
光書き込みユニット62は、記録信号によって変調された1本又は複数本のレーザビームで感光体ドラム64の表面(被走査面)を同ドラムの軸方向に走査するものである。
【0029】
感光体ドラム64は矢印66方向に回転駆動され、帯電手段68により帯電された表面に光走査装置62により光走査されることによって静電潜像を形成される。
静電潜像は現像手段70でトナー像に可視像化され、トナー像は転写手段72で記録媒体としての記録紙74に転写される。
転写されたトナー像は定着手段76によって記録紙74に定着される。
感光体ドラム64の転写手段72との対向部を通過した感光体ドラムの表面部分はクリーニング部78で残留トナーを除去される。
【0030】
感光体ドラム64に代えてべルト状の感光体を用いてもよい。
また、トナー像を記録紙以外の転写媒体に一旦転写し、この転写媒体からトナー像を記録紙に転写して定着させる中間転写方式の構成としてもよい。
光書き込みユニット62は、記録信号によって変調された1本又は複数本のレーザビームを発する光源部80と、光源を変調する光源駆動手段82と、上記各実施形態で説明した光偏向器2と、光偏向器2の光反射面に光源部80からの、記録信号によって変調されたレーザビーム(光ビーム)を結像させるための結像光学系84と、ミラー面で反射された1本又は複数本のレーザビームを感光体ドラム64の表面(被走査面)に結像させるための手段である走査光学系86などから構成される。
光偏向器2は、その駆動のための集積回路88とともに回路基板90に実装された形で光書き込みユニット62に組み込まれている。
【0031】
光偏向器2は、回転多面鏡に比べ駆動のための消費電力が小さいため、画像形成装置の省電力化に有利である。
光偏向器2のミラー部の振動時の風切り音は回転多面鏡に比べ小さいため、画像形成装置の静音化の改善に有利である。
光走査装置62は回転多面鏡に比べ設置スペースが圧倒的に少なくて済み、また、光偏向器2の発熱量も僅かであるため、小型化が容易であり、したがって画像形成装置の小型化に有利である。
なお、記録紙74の搬送機構、感光体ドラム64の駆動機構、現像手段70、転写手段72などの制御手段、光源部80の駆動系などは、従来の画像形成装置と同様であるため図中省略している。
【0032】
図11及び
図12に第6の実施形態(画像投影装置)を示す。
図11は、本実施形態に係る画像投影装置の概念図、
図12はその全体斜視図である。
画像投影装置には、異なる3波長のレーザ光を出射するレーザ光源92R、92G、92Bと、それぞれの光源の出射端近傍に配置され、レーザ光源からの発散光を略平行光にする集光レンズ94R、94G、94Bが配置されている。
レーザ光源92Rから赤色のレーザ光LRが、レーザ光源92Gからは緑色のレーザ光LGが、レーザ光源92Bからは青色のレーザ光LBがそれぞれ出射される。
レーザ光LRはミラー93で反射されてハーフミラー95を透過し、レーザ光LGハーフミラー95で反射される。
【0033】
略平行になったレーザ光は合成プリズム96によって合成され、MEMSの二次元反射角度可変ミラー98に入射される。
二次元反射角度可変ミラー98は、上記各実施形態で説明した光偏向器と同様の構成である。
二次元反射角度可変ミラー98は、直交した2つの方向に所定角度(例えば10deg程度)の振幅で共振振動をする。
二次元反射角度可変ミラー98は一個で二次元のものではなく、一次元走査のものを二つ組み合わせてもよい。
また、ポリゴンミラーなどの回転走査ミラーを使用することもできる。
【0034】
3波長のレーザ光源は、それぞれ二次元反射角度可変ミラー98によって偏向走査されるタイミングに合わせて強度変調されており、投影面100に二次元の画像情報を投影するようになっている。
強度変調はパルス幅を変調してもよいし、振幅を変調してもよい。
この変調された信号を駆動回路によりレーザを駆動できる電流に変換してレーザ光源を駆動している。
【0035】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を例示したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0036】
本発明は、バーコードスキャナやレーザレーダなどにも応用することができる。