特許第6442856号(P6442856)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442856
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】有機性排水の生物処理方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20181217BHJP
   C02F 3/06 20060101ALI20181217BHJP
   C02F 3/28 20060101ALI20181217BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   C02F3/12 M
   C02F3/06
   C02F3/28 A
   C02F3/00 D
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-81154(P2014-81154)
(22)【出願日】2014年4月10日
(65)【公開番号】特開2015-199049(P2015-199049A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2017年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】藤島 繁樹
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−247566(JP,A)
【文献】 特開平05−123693(JP,A)
【文献】 特開2010−063974(JP,A)
【文献】 特開2000−271593(JP,A)
【文献】 特開2004−298678(JP,A)
【文献】 特開2001−137887(JP,A)
【文献】 特開2001−038378(JP,A)
【文献】 特開昭58−005194(JP,A)
【文献】 特開2009−066505(JP,A)
【文献】 特開2013−236996(JP,A)
【文献】 特開2007−253003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00、12、28−34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水が貯留される原水槽と、
該原水槽から有機性排水が導入され、細菌により生物処理されて第一生物処理水が生成する第一生物処理槽と、
第一生物処理水が導入され、生物処理されて第二生物処理水が生成する第二生物処理槽と
を有する有機性排水の生物処理装置において、
第二生物処理槽又はその下流側から第一生物処理槽又はその上流側への汚泥混合液及び/又は分離汚泥の返送手段を具備せず、
第一生物処理槽内容液又は第一生物処理水を原水流量に対し20%以下の割合で原水槽に返送する返送ラインと、
該原水槽のpHを5.5〜8.5に調整する手段と、
該原水槽のHRTを1時間以上に維持する手段と、
該原水槽に設けられた撹拌手段とを具備したことを特徴とする有機性排水の生物処理装置。
【請求項2】
請求項1の有機性排水の生物処理装置によって有機性排水を処理する有機性排水の生物処理方法。
【請求項3】
請求項2において、有機物分解のための栄養源を前記原水槽に添加するとともに、該原水槽のpHを5.5〜8.5に調整することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。
【請求項4】
請求項2又は3において、前記原水槽の水位を、HRTを1時間以上に維持するように設定することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項において、前記第一生物処理槽で分散状態の細菌により有機物処理を行い、分散状態の細菌を含む第一生物処理水を前記第二生物処理槽に導入し、該第二生物処理槽で分散状態の細菌と残存する有機物の処理を行うことを特徴とする有機性排水の生物処理方法。
【請求項6】
請求項2ないし4のいずれか1項において、前記第一生物処理槽が酸生成槽であり、前記第二生物処理槽がメタン生成を行う嫌気処理槽であることを特徴とする有機性排水の生物処理方法。
【請求項7】
請求項2ないし6のいずれか1項において、前記原水槽に、高さが該原水槽の最大水深の50%以下の固定床を設置し、該固定床が水面下にあるように水位を維持することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活排水、下水、食品工場やパルプ工場をはじめとした広い濃度範囲の有機性排水処理に利用することができる有機排水の生物処理方法及び装置に関するものであり、特に、第一生物処理槽及び該第一生物処理槽からの第一生物処理水が導入される第二生物処理槽を用いた有機性排水の生物処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性排液の嫌気性処理方法として、高密度で沈降性の大きいグラニュール汚泥を形成し、溶解性BODを含む有機性排液を上向流通液してスラッジブランケットを形成した状態で接触させて高負荷高速処理を行うUASB法(上向流スラッジブランケット法)、あるいは汚泥を粒状担体に高密度で付着させて、流動床を形成し、高負荷高速処理を行う流動床法などが採用されている。
【0003】
これらの方法は、消化速度の遅い固形有機物を分離除去して得られた、消化速度の速い溶解性有機物主体の液を、嫌気性微生物密度の高いグラニュール汚泥、あるいは粒状担体に汚泥を担持した担持汚泥の流動床を用いる嫌気性処理によって高負荷で高速処理する方法である。
【0004】
しかし、単にUASBのグラニュール汚泥を回分式嫌気処理法に用いても、被処理液にタンパク質、糖などの高分子の溶解性有機物が多く含まれていると、グラニュール汚泥の軽量化や崩壊、またメタン生成活性の悪化といった問題が生じる。これは被処理液中のタンパク質や糖を基質とする酸生成菌がグラニュール汚泥に付着して増殖するために生じる。すなわち酸生成菌はメタン生成菌に比べ増殖速度が速く、グラニュール汚泥に付着した酸生成菌は羽毛状に増殖するため、グラニュール汚泥の沈降性、メタン生成活性が低下し、処理効率が悪化する。
【0005】
粒状汚泥の活性および沈降性を高くして効率的よく嫌気性処理を行うことができる生物処理方法として、特許文献1に、有機性排液を酸生成槽に導入し、酸生成菌を含む汚泥と嫌気性下に接触させて有機酸生成反応を行う酸生成工程と、酸生成工程の処理液をメタン生成槽に導入し、メタン生成菌を含む粒状汚泥を流動させた状態で嫌気性下に接触させて回分式にメタン生成反応を行い、反応後静置分離して分離液を排出するメタン生成工程と、を有する生物処理方法が記載されている。
【0006】
この特許文献1では、酸生成槽で酸生成菌により有機物をメタン生成細菌が利用可能な形のアルコールや有機酸まで低分子化するとともに、酸生成菌を増殖させ、メタン生成を安定化させる。
【0007】
特許文献2には、有機性排水を第一生物処理槽で細菌により処理し、排水に含まれる有機物を酸化分解して非凝集性の細菌の菌体に変換した後、原生動物の担体を有した第二処理槽で固着性原生動物に捕食除去させる有機性排水の生物処理方法が記載されている。
【0008】
この特許文献2の第一生物処理槽では、一過式で分散状態の細菌により有機物の大部分を処理し、第二生物処理槽でこの分散菌を微小動物により捕食させ、汚泥減量を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−218288
【特許文献2】特開2013−141640
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の酸生成槽や特許文献2の分散菌槽は、浮遊状態で細菌を維持するため、ある程度の滞留時間が必要となり、排水の性状によっては必要な滞留時間が長くなり、槽の容積が大きくなり、大きな設置面積が必要となる。また、装置施工後に原水負荷が設計値より大きくなると、分散菌槽や酸生成槽の槽容積が不足してしまう。
【0011】
本発明は、第一生物処理槽と、その処理水が導入される第二生物処理槽とを有する有機性排水の生物処理方法及び装置において、生物処理槽の容積を減少可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の有機性排水の生物処理装置は、有機性排水が貯留される原水槽と、該原水槽から有機性排水が導入され、細菌により生物処理されて第一生物処理水が生成する第一生物処理槽と、第一生物処理水が導入され、生物処理されて第二生物処理水が生成する第二生物処理槽とを有する有機性排水の生物処理装置において、第二生物処理槽又はその下流側から第一生物処理槽又はその上流側への汚泥混合液及び/又は分離汚泥の返送手段を具備せず、第一生物処理槽内容液又は第一生物処理水を原水流量に対し20%以下の割合で原水槽に返送する返送ラインを具備したことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の有機性排水の生物処理方法は、本発明の有機性排水の生物処理装置によって有機性排水を処理するものである。
【0014】
本発明の有機性排水の生物処理方法では、有機物分解に必要な栄養源を原水槽に添加するとともに、原水槽のpHを5.5〜8.5に調整することが好ましい。
【0015】
本発明の有機性排水の生物処理方法では、原水槽の水位を、HRTを1時間以上に維持するように設定することが好ましい。
【0016】
本発明の有機性排水の生物処理方法では、原水槽に、高さが原水槽の最大水深の50%以下の固定床を設置し、固定床が水面下にあるように水位を維持することが好ましい。
【0017】
本発明の有機性排水の生物処理方法の一態様では、第一生物処理槽で分散状態の細菌により有機物処理を行い、分散状態の細菌を含む第一生物処理水を第二生物処理槽に導入し、第二生物処理槽で分散状態の細菌と残存する有機物の処理を行う。
【0018】
本発明の有機性排水の生物処理方法の別の一態様では、第一生物処理槽が酸生成槽であり、第二生物処理槽がメタン生成を行う嫌気処理である。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、第一生物処理槽内容液又は第一生物処理水の一部を原水槽に返送するところから、原水槽でも第一生物処理槽と同様の生物処理が進行する。これにより、生物処理装置全体の処理効率が向上し、生物処理槽特に第一生物処理槽の容積削減を図ることができる。
特に装置施工後や既設装置において、第一生物処理槽の容積を大きくすることなく高負荷に対応する運転を行うことが可能になる。
【0020】
また、本発明では、第二生物処理槽又はその下流側から第一生物処理槽又はその上流側への汚泥混合液や分離汚泥の返送を行わないので、第一生物処理槽での分散菌生成効率が向上する。なお、第二生物処理槽やその下流側から汚泥混合液や分離汚泥を原水槽や第一生物処理槽に返送すると、好気処理ではワムシなど分散菌を捕食する微小動物が第一生物処理に供給されるため、濾過捕食性分散菌が捕食されてしまい、分散菌生成の制御が困難になる。また、嫌気処理では、原水槽や第一生物処理槽においてメタンガスが発生し、ガス処理など第二生物処理槽と同様の付帯設備が必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の基本態様を示すフロー図である。
図2】本発明の実施態様を示すフロー図である。
図3】本発明の別の実施態様を示すフロー図である。
図4】本発明の別の実施態様を示すフロー図である。
図5】本発明の別の実施態様を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明についてさらに詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明方法及び装置の基本的な形態を示すフロー図である。本発明では、有機性排水を原水槽1に導入し、好ましくは撹拌を行う。この攪拌は機械攪拌、曝気攪拌のいずれでも良い。原水槽1及び第一生物処理槽10内で嫌気処理を行う場合は、連続通水中は原水槽1でDOが検出されないように攪拌するのが好ましい。原水槽1で好気処理を行う場合でも、臭気が発生しない程度であるならば、原水槽1のDOは検出されなくても良い。
【0024】
原水槽1で反応を進めるため、栄養剤を原水槽1に添加するのが好ましい。この栄養剤とは、N、P、S、Ca、Mg、K、Zn、Cu、アミノ酸、ビタミン等、微生物の増殖に必要な、無機物、有機物、ミネラル、微量金属など、対象原水で不足しているものを示す。また、原水槽1のpHは5.5〜8.5となるように酸又はアルカリで調整するのが好ましい。油分を含有する排水の場合は、油分の固化を防ぐため、pHを8〜8.5とすることが望ましい。
【0025】
なお、原水槽1でのHRTが1時間以上、例えば1〜12時間となるように原水槽1内の水位を維持するのが好ましい。
【0026】
原水槽1に固定床担体を設置し、原水槽1内の菌体保持能を高めても良い。この場合、固定床の高さが高いと、原水槽1の水位が低い場合に、固定床が水面から出てしまうため、固定床の高さは原水槽1の最大水深の50%程度、望ましくは30%以下、例えば10〜30%とするのが好ましい。固定床担体は充填型でも可能だが、板状、紐状、短冊状等の揺動型が好ましい。なお、流動床は制御が困難であり固定床が好ましい。
【0027】
原水槽1内の有機性排水は第一生物処理槽10に導入され、好気的又は嫌気的に生物処理される。この第一生物処理槽10の処理水(第一生物処理水)又は内容液を返送ライン2によって原水槽1に返送する。このように第一生物処理槽内容液又は第一生物処理水を原水槽1に返送すると、原水槽1に種菌を接種することとなり、原水槽1でも、第一生物処理槽10と同様の生物処理が行われる。返送ライン2による返送は第一生物処理槽10の処理水移送ライン又は第一生物処理槽10の出口付近から行うことが望ましい。
【0028】
第一生物処理槽10での処理は一過式とし、第二生物処理槽20又はそれよりも下流側からの汚泥混合液や分離汚泥の返送は行わない。第一生物処理槽10のBOD容積負荷は1kg/m/day以上例えば1〜20kg/m/dayとし、HRTは24時間以下、特に0.5〜8時間とするのが好ましい。
【0029】
第一生物処理槽10に担体を添加し、汚泥保持量を増やし、負荷変動に対応できるようにしても良い。担体は流動床担体、固定床担体(充填型担体、揺動性担体)のいずれでも良い。第一生物処理槽10に流動床を形成する場合、図1に示すように、スクリーンやストレーナなどの担体分離手段11を設け、担体12と内容液を分離後、内容液を返送するのが好ましい。
【0030】
また、第二生物処理槽20にも担体を添加し、汚泥保持量を増やし、負荷変動に対応できるようにしても良い。担体は流動床担体、固定床担体(充填型担体、揺動性担体)のいずれでも良い。第二生物処理槽20に流動床を形成する場合、図1に示すように、スクリーンやストレーナなどの担体分離手段21を設け、担体22と内容液を分離後、処理水を取り出すのが好ましい。
【0031】
第一生物処理槽10の処理水又は内容液の返送量は、原水流量Qの20%以下、望ましくは1〜10%、さらに望ましくは1〜5%とする。内容液又は第一生物処理水の返送は、この返送量となるならば、連続でも間欠でもよい。
【0032】
内容液又は第一生物処理槽処理水の返送量は負荷変動(水量、原水濃度)に応じて変更するのが好ましい。時間当たりの変動比(1時間中の最大負荷)/(1時間中の最低負荷)に対する返送量を表1の通りとするのが好ましい。
【0033】
【表1】
【0034】
本発明は、第一生物処理槽10で分散菌を生成させ、第二生物処理槽20でこれを捕食する処理、又は第一生物処理槽10で酸を生成させ、第二生物処理槽20でメタンを生成させる処理を行う方法に適用するのに好適である。
【0035】
図2は、本発明を微小動物の捕食を利用した生物処理に適用したフローを示している。有機性排水は原水槽1から第一生物処理槽10に導入され、散気管13で曝気される。これにより、分散菌が増殖し、有機成分(溶解性BOD)の70%以上、望ましくは80%以上さらに望ましくは90%以上が酸化分解される。第一生物処理槽10のpHは6〜8.5とするのが好ましい。ただし、原水中に油分を多く含む場合は分解速度を上げるため、pHを8.0〜9.0としても良い。
【0036】
第一生物処理槽10での通水は一過式を基本とし、BOD容積負荷は1kg/m/day以上、HRT24時間以下、望ましくは0.5〜8時間とすることで、非凝集性細菌が優占化した処理水を得ることが出来る。また、HRTを短くすることでBOD濃度の薄い排水を高負荷で処理することが出来る。二槽以上の多段化や各種の担体の添加によりBOD容積負荷は5kg/m/day以上の高負荷化が可能になる。
【0037】
担体として流動床担体を添加する場合、流動床担体は球状、ペレット状、中空筒状等、任意であり、大きさも0.1〜10mm程度の径である。材料は天然素材、無機素材、高分子素材等任意で、ゲル状物質を用いても良い。流動床担体を添加する場合は、図1のように槽内液の排出部に担体を分離するためのスクリーンなどの担体分離手段11を設ける。
【0038】
担体は流動床担体に限らず、固定床担体(充填型担体、揺動性担体)でも良い。図2の符号15は固定床担体を示している。揺動性固定床担体の形状は糸状、板状、短冊状など任意であり、材料は天然素材、無機素材、高分子素材等任意である。
【0039】
第一生物処理槽10に添加する担体の充填率が過度に高い場合、分散菌は生成せず、細菌は担体に付着するか、糸状性細菌が増殖する。そこで、第一生物処理槽10の担体の充填率を20%以下、望ましくは10%以下、例えば流動床の場合は5〜10%、揺動性固定床の場合は0.1〜2%とすることで、濃度変動に影響されず、捕食しやすい分散菌の生成が可能になる。また、第一生物処理槽10内のDOを1mg/L以下、望ましくは0.5mg/L以下とし、糸状性細菌の増殖を抑制しても良い。
【0040】
この第一生物処理槽10の処理水を第二生物処理槽20に導入し、散気管23で曝気し、残存している有機成分の酸化分解、分散性細菌の自己分解および微小動物による補食による余剰汚泥の減量化を行う。
【0041】
第二生物処理槽20では、細菌に比べ増殖速度の遅い微小動物の働きと細菌の自己分解を利用するため、微小動物と細菌が系内に留まるような運転条件および処理装置を用いなければならない。そこで、第二生物処理槽20には、流動床担体や固定床、揺動性担体を添加することで微小動物の槽内保持量を高めることが好ましい。図2の符号25は第二生物処理槽20内の固定床担体を示している。流動床担体は球状、ペレット状、中空筒状、糸状など任意であり、大きさも0.1〜10mm程度の径である。材料は天然素材、無機素材、高分子素材等任意である。揺動性固定床担体は、担体の少なくとも一部が、第二生物処理槽20の底面、側面、上部のいずれかに固定される。形状は糸状、板状、短冊状の任意で、材料は天然素材、無機素材、高分子素材等任意である。
【0042】
第二生物処理槽20の後段に固液分離装置30を設け、第二生物処理液を固液分離し、分離した汚泥の少なくとも一部を第二生物処理槽20内に返送しても良い。この固液分離は、沈殿池、膜分離、上向流分離いずれでも良い。
【0043】
図3〜5は本発明を嫌気処理に適用したフローである。このフローでも、有機性排水は原水槽1を介して第一生物処理槽10に供給される。第一生物処理槽10は酸生成槽となり、メタン生成細菌が直接利用できない有機物を有機酸やアルコール等に低分子化する。
【0044】
第一生物処理槽(酸生成槽)10の条件は、空気や酸素で曝気せず、第一生物処理槽10内を非曝気式の撹拌手段で撹拌する点を除いては上記図2のフローの第一生物処理槽(分散菌槽)10と同様である。非曝気式の攪拌手段としては、槽内液の循環、槽内ガスの循環、機械攪拌、原水の上向流添加等、任意である。図3〜5では、第一生物処理槽10内の底部に水中ポンプ16を設置し、その吐出水の一部を配管17によって第一生物処理槽10の上部に流出させて槽内を撹拌している。ポンプ吐出水の残部は、返送ライン2を介して原水槽1に返送される。
【0045】
第一生物処理槽(酸生成槽)10で生成した有機酸やアルコール等を含む第一生物処理水は、第二生物処理槽(メタン生成槽)20に導入され、有機酸、アルコール等がメタンに変換される。メタン生成細菌は、酸生成細菌より増殖速度が遅いため、第二生物処理槽20では高濃度で菌体を維持する必要がある。そのため、第二生物処理槽20では、グラニュール法、担体法(流動床、固定床いずれでも可)など生物膜法を採用するのが好ましい。これらの処理法の場合、図3〜5の通り、第一生物処理水は第二生物処理槽20の下部又は中継槽40に導入される。
即ち、図3においては、第一生物処理水は中継槽40を経て第二生物処理槽20の下部に導入される。第二生物処理槽20内の上部にはGSS(気固液分離装置)26が設けられており、分離ガスが系外へ排出されると共に、分離水の一部が処理水として取り出され、残部は中継槽40に循環される。また、第二生物処理槽20の下部からは余剰汚泥が引き抜かれる。
図4においては、第二生物処理槽20は流動床担体22を有する。また、流動床担体22を分離するためのスクリーンやストレーナなどの担体分離手段21が設けられており、上部からガスが排出されると共に、担体分離手段21で担体22と分離された分離水の一部が処理水として取り出され、残部は中継槽40に循環される。
図5においては、第二生物処理槽20の処理水を処理する膜分離装置50が設けられている。第二生物処理槽20で発生したガスは上部から排出されると共に、第二生物処理槽20の処理水は膜分離装置50で膜分離処理され、分離汚泥は第二生物処理槽20に返送され、分離水が処理水として取り出される。
【0046】
本発明では、第二生物処理槽20の後段にさらに生物処理槽やその他の処理手段を設けてもよい。
また、嫌気処理の場合、酸生成槽でのpH調整剤の使用量削減のため、GSSや膜分離の処理液(図3の処理水又は図5の処理水)、担体を用いる場合はスクリーンにより担体が分離された処理液(図4の処理水)を第一生物処理槽に返送してもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0048】
[実施例1(フロー:図2)]
図2のフローにより、飲料水系排水(CODcr=800mg/L、SS=0mg/L)を処理した。
【0049】
容量50Lの原水槽1と、容量25Lの第一生物処理槽(分散菌槽:汚泥返送なし)と、容量150Lの第二生物処理槽(活性汚泥槽)20と沈殿槽30を図2の通り接続した。CODcr容積負荷2.3kg/m/day、水量500L/day、第一生物処理槽HRT1.2時間の条件で運転した。第一生物処理槽10及び第二生物処理槽20に板状の固定床担体15,25を充填率1体積%にて充填した。第一生物処理槽10から槽内液を10L/dayにて原水槽1へ返送した。原水槽1では、曝気攪拌を行った。
【0050】
その結果、第一生物処理槽10出口の溶解性CODcr濃度は100mg/Lとなり、溶解性CODcr除去率は87.5%に達し、良好な分散菌が生成した。汚泥転換率は0.1kg−SS/kg−CODcrと非常に低い汚泥発生量となった。
【0051】
[比較例1]
第一生物処理槽内容液の原水槽1への返送を行わないこと以外は実施例1と同様にして試験を行った。その結果、第一生物処理槽10出口の溶解性CODcr濃度は500mg/Lで、溶解性CODcr除去率は37.5%に留まり、多量の糸状性細菌が生成した。そのため、沈殿槽30では沈降不良を起こし、安定して処理することが出来なかった。汚泥は大量に引き抜く必要があり、汚泥転換率は0.35kg−SS/kg−CODcrと非常に高い汚泥発生量となった。
【0052】
[実施例2(フロー:図3)]
図3のフローにより、飲料水系排水(CODcr=1500mg/L、SS=0mg/L)の処理を行った。
【0053】
容量50Lの原水槽1と、容量25Lの第一生物処理槽(酸生成槽:汚泥返送なし)10と、容量50Lの第二生物処理槽(メタン生成槽(UASB槽))20とを図3の通り中継槽40を介して接続した。CODcr容積負荷10kg/m/day、水量500L/day、第一生物処理槽HRT1.2hの条件で運転した。第二生物処理槽(UASB槽)20にはグラニュールが槽容積で50%維持されていた。第一生物処理槽10から槽内液を20L/dayとなるように原水槽1へ返送した。なお、原水槽1は機械攪拌とした。
【0054】
その結果、第一生物処理槽10出口の溶解性CODcr濃度に占める有機酸の割合は100mg/L(1500mg/L中)から1000mg/L(1300mg/L中)に上昇し、酸生成が良好に進行した。第二生物処理槽(UASB槽)20では生成した有機酸の95%がメタンに変換され、原水中の溶解性有機物の80%が最終的にメタンに変換され、良好な処理が維持された。
【0055】
[比較例2]
第一生物処理槽10内容液の原水槽1への返送を行わないこと以外は実施例2と同様の運転を行った。その結果、第一生物処理槽10出口の溶解性CODcr濃度に占める有機酸の割合は100mg/L(1500mg/L中)から300mg/L(1400mg/L中)まで上昇しただけであり、酸生成が殆ど進行せず、後段のUASB槽20ではグラニュールの浮上が頻発した。そのため、全体での溶解性有機物の除去率は40%に留まった。
【0056】
以上の実施例及び比較例より、本発明によると、有機性排水の効率的な生物処理が可能になり、槽容積削減の効果があることが認められた。
【符号の説明】
【0057】
1 原水槽
10 第一生物処理槽
11,21 担体分離手段
12,22 流動床担体
15,25、 固定床担体
26 GSS
20 第二生物処理槽
30 固液分離装置
40 中継槽
50 膜分離装置
図1
図2
図3
図4
図5