特許第6442887号(P6442887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442887
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】磁気ギア装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 49/10 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   H02K49/10 A
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-140730(P2014-140730)
(22)【出願日】2014年7月8日
(65)【公開番号】特開2016-19365(P2016-19365A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】大橋 弘光
【審査官】 安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/011809(WO,A1)
【文献】 特開平08−340651(JP,A)
【文献】 特開2008−245488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 49/10
H02K 1/27
H02K 7/10
F16H 49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状をなし、周方向に沿って複数の磁極対が等配されている第1磁石列と、円筒状をなし、該第1磁石列に対向するように、前記第1磁石列の外側に同軸的に配されており、前記第1磁石列よりも短ピッチで前記周方向に沿って複数の磁極対が等配されている第2磁石列と、円筒状をなし、前記第1磁石列及び第2磁石列間に配置してあり、前記周方向に沿って複数の磁性体が等配されている磁性体列とを備える磁気ギア装置において、
前記磁性体列と前記第2磁石列との対向方向における距離は、前記磁性体列と前記第1磁石列との対向方向における距離に比べて短く、
前記磁性体は、
前記第1磁石列側の方が前記第2磁石列側に比べて周方向に広がっており、
前記第2磁石列は異方性R−Fe−B系焼結磁石からなる第1層と等方性R−Fe−B系ボンド磁石からなる第2層からなり前記第2層は前記磁性体列に対向する側に配されている
ことを特徴とする磁気ギア装置。
【請求項2】
前記第1磁石列は異方性R−Fe−B系焼結磁石からなる第1層と等方性R−Fe−B系ボンド磁石からなる第2層からなり前記第2層は前記磁性体列に対向する側に配されている
ことを特徴とする請求項に記載の磁気ギア装置。
【請求項3】
前記第1磁石列は異方性R−Fe−B系焼結磁石からなる
ことを特徴とする請求項に記載の磁気ギア装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の方向に沿って略等間隔に複数の磁極対がそれぞれ配されている第1及び第2磁石列と、第1磁石列及び第2磁石列間に配置してあり、前記特定の方向に沿って略等間隔に複数の磁性体がそれぞれ配されている磁性体列とを備えた磁気ギア装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には磁気ギア装置が開示されている。磁気ギア装置は、周方向に沿って略等間隔に複数の磁極対がそれぞれ配されている円筒状の第1磁石列及び第2磁石列と、該第1磁石列及び第2磁石列の間に配置してあり、周方向に沿って略等間隔に複数の磁性体がそれぞれ配されている筒状の磁性体列とを備える。
【0003】
非特許文献1には磁極対を構成する磁石を周方向に積層することで渦電流損を低減する技術を開示している。
特許文献1には磁気ギア装置において渦電流損を低減するために、磁極対を構成する磁石をボンド磁石とする技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−17285号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】池田哲也・中村健二、一ノ倉理、「永久磁石式磁気ギアの効率向上に関する一考察」、磁気学会論文誌、2009年、33巻、2号、130−134頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気ギア装置において、磁石を周方向に多層に積層することはコストアップとなり、又積層する磁石はNd−Fe−B焼結磁石のため電気抵抗が低く渦電流を低減するためには磁石の厚さを薄くする必要がある。
【0007】
特許文献1の技術は、ボンド磁石(樹脂結合磁石)を用いており、電気抵抗が大きく渦電流の低減はできるが、ボンド磁石は磁気特性が焼結磁石に比べて低く、焼結磁石と同じ能力を有する磁気ギア装置を作るためには、磁気ギア装置を大きくする必要がある。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みなされたものである。その目的は、渦電流損失が少なく、かつ、大型化を抑えた磁気ギア装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る磁気ギア装置は、特定の方向に沿って略等間隔に複数の磁極対が配されている第1磁石列と、前記第1磁石列に対向しており、前記第1磁石列よりも短ピッチ(又は長ピッチ)で、略等間隔に複数の磁極対が配されている第2磁石列と、前記第1磁石列及び第2磁石列間に配置してあり、略等間隔に複数の磁性体が配されている磁性体列とを備える磁気ギア装置において、前記第2磁石列(又は前記第1磁石列)は希土類焼結磁石からなる第1層と希土類ボンド磁石からなる第2層からなる積層体を有し、前記第2層は前記磁性体列に対向する側に配されていることを特徴とする。
【0010】
本発明にあっては、短ピッチ側の磁石列を2層構造からなる積層体とし、磁性体列に対向する面に希土類ボンド磁石を配置し、希土類ボンド磁石の下層に希土類焼結磁石を配置することにより、高い磁気特性と低い渦電流損失を実現できる。
【0011】
本発明に係る磁気ギア装置は、前記第1磁石列(又は前記第2磁石列)は希土類焼結磁石からなる第1層と希土類ボンド磁石からなる第2層からなる積層体を有し、前記第2層は前記磁性体列に対向する側に配されていることを特徴とする。
【0012】
本発明にあっては、短ピッチ側の磁石列に加え、長ピッチ側の磁石列も2層構造からなる積層体としたので、高い磁気特性と低い渦電流損失を実現できる。
【0013】
本発明に係る磁気ギア装置は、前記第1磁石列(又は前記第2磁石列)は希土類焼結磁石からなることを特徴とする。
【0014】
本発明にあっては、短ピッチ側の磁石列にのみ希土類ボンド磁石と希土類焼結磁石の積層体を用い、長ピッチ側の磁石列に希土類焼結磁石のみを用いたので、渦電流損失を抑えつつ高効率の磁気ギア装置を実現することができる。
【0015】
本発明に係る磁気ギア装置は、前記希土類焼結磁石は異方性R−Fe−B系焼結磁石であり、前記希土類ボンド磁石は等方性R−Fe−B系ボンド磁石であることを特徴とする。
【0016】
本発明にあっては、希土類焼結磁石は異方性R−Fe−B系焼結磁石(Rは希土類元素)であるため、磁気特性が高く高効率の磁気ギア装置を実現できる、また希土類ボンド磁石は等方性R−Fe−B系ボンド磁石であるため、電気抵抗率が高く渦電流の発生を抑制できる。
また、R−Fe−B系希土類ボンド磁石は等方性であるため異方性R−Fe−B系焼結磁石の配向方向に合わせ着磁できるので、異方性R−Fe−B系焼結磁石と積層構造にした場合であっても異方性磁石とは異なり配向方向のずれによる効率の低下を少なくすることが可能となる。
【0017】
本発明に係る磁気ギア装置は、前記希土類ボンド磁石は残留磁束密度0.7T超の等方性R−Fe−B系ボンド磁石であることを特徴とする。
【0018】
本発明にあっては、希土類ボンド磁石の残留磁束密度が0.7Tで超あるため、ボンド磁石にしたことによる効率の低下を低く抑えることができる。
【0019】
本発明に係る磁気ギア装置は、第2層の積層方向の厚さは、第1層の積層方向の厚さの5%〜50%の間であることを特徴とする。
【0020】
本発明にあっては、積層体の第2層(希土類ボンド磁石)の積層方向の厚さを、第1層(希土類焼結磁石)の厚さの5〜50%としたので、磁気ギア装置の効率低下を抑えた上で渦電流損失を低減することができる。
【0021】
本発明に係る磁気ギア装置は、前記第1磁石列、前記第2磁石列及び前記磁性体列のそれぞれは同軸的に配された円筒状をなし、前記特定の方向は、前記第1磁石列、前記第2磁石列及び前記磁性体列の周方向であり、前記第1磁石列及び前記第2磁石列は円筒の径方向に着磁してあることを特徴とする。
【0022】
本発明にあっては、円筒状の磁気ギア装置を構成することが可能である。
【0023】
本発明に係る磁気ギア装置は、前記第1磁石列、前記第2磁石列及び前記磁性体列のそれぞれは同軸的に配された円板状をなし、前記特定の方向は、前記第1磁石列、前記第2磁石列及び前記磁性体列の円周方向であり、前記第1磁石列及び前記第2磁石列は円板の厚み方向に着磁してあることを特徴とする。
【0024】
本発明にあっては、円板状の磁気ギア装置を構成することが可能である。
【0025】
本発明に係る磁気ギア装置は、前記第1磁石列、前記第2磁石列及び前記磁性体列のそれぞれは矩形板状をなし、前記特定の方向は、前記第1磁石列、前記第2磁石列及び前記磁性体列の長手方向であり、前記第1磁石列及び第2磁石列は矩形板の厚み方向に着磁してあることを特徴とする。
【0026】
本発明にあっては、長尺板状のリニア磁気ギア装置を構成することが可能である。
【0027】
本発明に係る磁気ギア装置は、前記第1磁石列、前記第2磁石列及び前記磁性体列のそれぞれは同軸的に配された円筒状をなし、前記特定の方向は、前記第1磁石列、前記第2磁石列及び前記磁性体列の中心軸に沿う方向であり、前記第1磁石列及び第2磁石列は円筒の径方向に着磁してあることを特徴とする。
【0028】
本発明にあっては、円筒状のリニア磁気ギア装置を構成することが可能である。
【0029】
本発明に係る磁気ギア装置は、円筒状をなし、周方向に沿って複数の磁極対が等配されている第1磁石列と、円筒状をなし、該第1磁石列に対向するように、前記第1磁石列の外側に同軸的に配されており、前記第1磁石列よりも短ピッチで前記周方向に沿って複数の磁極対が等配されている第2磁石列と、円筒状をなし、前記第1磁石列及び第2磁石列間に配置してあり、前記周方向に沿って複数の磁性体が等配されている磁性体列とを備える磁気ギア装置において、前記磁性体列と前記第2磁石列との対向方向における距離は、前記磁性体列と前記第1磁石列との対向方向における距離に比べて短く、前記磁性体は、前記第1磁石列側の方が前記第2磁石列側に比べて周方向に広がっており、前記第2磁石列は異方性R−Fe−B系焼結磁石からなる第1層と等方性R−Fe−B系ボンド磁石からなる第2層からなり前記第2層は前記磁性体列に対向する側に配されていることを特徴とする。
【0030】
本発明にあっては、第1磁石列が高速、第2磁石列が低速で回転する場合、複数の磁性体は、高速側の第1磁石列に比べて、低速側の第2磁石列側寄りに配されている。後述するように、複数の磁性体を、第1磁石列と、第2磁石列との間隙の略中央部に配する場合に比べて、第1磁石列と、第2磁石列との間で伝達させるトルクは大きい。
対向方向における第1磁石列と第2磁石列との間隔が同じでかつ磁性体の厚さが同じ場合、つまり該間隔及び厚さが一定の設計値に固定されている場合には、複数の磁性体は低速側寄りにあるほうが良い。
また、磁性体は、第1磁石列側の方が第2磁石列側に比べて周方向に広がっている。例えば、磁性体は、第1磁石列側の周方向の幅が第2磁石列側の周方向の幅に比べて長い。全体として円筒状をなしている磁性体列においては、磁性体列が回転し、各磁性体を径方向外側へ移動させる遠心力が働いたとしても、各磁性体には遠心力に抗する力が働く。また、磁性体例は第2磁石列側寄りに配されているため、径方向外側方向の吸引力が磁性体に働くが、該磁性体には該吸引力に抗する力が働く。
したがって、遠心力又は吸引力によって磁性体が径方向外側へ引っ張られないようにするために磁性体列の外周側にカバーのような保持層を設ける必要は無い。該保持層を設ける必要が無いため、複数の磁性体と、低速側の第2磁石列との径方向の距離をより短くすることが可能である。よって、第1磁石列と、第2磁石列との間で伝達させるトルクをより大きくすることが可能である。
さらに、磁性体列が短ピッチ側の第2磁石列側に近づくことで、渦電流の発生が大きくなるところ、短ピッチ側の第2磁石列を、異方性R−Fe−B系焼結磁石からなる第1層と等方性R−Fe−B系ボンド磁石からなる第2層からなる積層体としている。そして、第2層は磁性体列に対向する側に配している。それにより、伝達トルクを向上させることができるとともに、渦電流の発生を抑制することが可能となる。
【0031】
本発明に係る磁気ギア装置は、前記第1磁石列は異方性R−Fe−B系焼結磁石からなる第1層と等方性R−Fe−B系ボンド磁石からなる第2層からなり前記第2層は前記磁性体列に対向する側に配されていることを特徴とする。
【0032】
本発明にあっては、短ピッチ側の第2磁石列に加え、長ピッチ側の第1磁石列も2層構造からなる積層体としたので、高い磁気特性と低い渦電流損失を実現できる。
【0033】
本発明に係る磁気ギア装置は、前記第1磁石列は異方性R−Fe−B系焼結磁石からなることを特徴とする。
【0034】
本発明にあっては、短ピッチ側の第2磁石列にのみ希土類ボンド磁石と希土類焼結磁石の積層体を用い、長ピッチ側の第1磁石列に希土類焼結磁石のみを用いたので、渦電流損失を抑えつつ高効率の磁気ギア装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明にあっては、高い磁気特性と低い渦電流損失を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施の形態1に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。
図2】積層体の2つの構成例を示す説明図である。
図3】実施の形態2に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。
図4】実施の形態3に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。
図5】実施の形態4に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。
図6】実施の形態5に係る磁気ギア装置の一構成例を示す分解斜視図である。
図7】実施の形態5に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。
図8】実施の形態6に係る磁気ギア装置の一構成例を示す分解斜視図である。
図9】実施の形態6に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。
図10】実施の形態7に係る磁気ギア装置の一構成例を示す分解斜視図である。
図11】実施の形態7に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。
図12】実施の形態8に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。
図13】実施の形態9に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、実施の形態をその図面を参照して具体的に説明する。
【0038】
(実施の形態1)
図1は実施の形態1に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。本発明の実施の形態1に係る磁気ギア装置は、回転円筒型である。磁気ギア装置は、円筒状の第1磁石列1と、該第1磁石列の外側に間隙を有して同軸に配された円筒状の第2磁石列3と、第1磁石列1と第2磁石列3の間に間隙を有して同軸に配された円筒状の磁性体列2とを備える。
【0039】
第1磁石列1は、磁性材料からなる内側円筒部11を有し、内側円筒部11の外周面には、厚さ方向に着磁された外周面側N極の磁石12a及び外周面側S極の磁石12bからなる磁極対12が円周方向に沿って略等間隔に3組配置されている。
ここで略等間隔とは設計上は等間隔を意味している。構造物を製作する過程で必要な加工や組み立てに伴う公差を含むため等間隔の前に略を付記している。この点は、以降の記載においても、同様である。
【0040】
磁石12a及び磁石12bは、異方性R−Fe−B系焼結磁石である。異方性R−Fe−B系焼結磁石は、粉末冶金法によって作られる磁石である。
【0041】
第2磁石列3は、磁性材料からなる外側円筒部31を有している。外側円筒部31の内周面には、厚み方向(円筒の径方向)に着磁された内周面側N極の磁石32a及び内周面側S極の磁石32bからなる磁極対32が円周方向に沿って略等間隔に7組配置されている。磁極対32を構成する磁石32a及び磁石32bは、積層体である。磁石32a(32b)は、外側円筒部31の内周側に位置する異方性R−Fe−B系焼結磁石32a1(32b1)とその内周側に位置する等方性R−Fe−B系ボンド磁石32a2(32b2)とを含む積層体である。上述のように磁石32a(32b)は全体として厚み方向に着磁して構成するから、積層体を構成する磁石32a1(32b1)及び磁石32a2(32b2)も厚み方向に着磁してある。ここで厚さ方向に着磁された積層体とは、外周面側と内周面側が異極となるように着磁されていることを意味する。
【0042】
積層体を構成する磁石32a1(32b1)は、異方性R−Fe−B系焼結磁石である。異方性R−Fe−B系焼結磁石は、粉末冶金法によって作られる磁石である。
【0043】
積層体を構成する磁石32a2(32b2)は、等方性R−Fe−B系ボンド磁石である。等方性R−Fe−B系ボンド磁石は、微小な磁石粒ないし微粉を樹脂等のバインダーと混ぜ合わせて、射出成形や圧縮成形等の方法で成形したものである。磁石32a(32b2)は、公知技術、例えば国際公開WO2012/118001号に記載の方法によって製造される。
【0044】
磁性体列2は、円筒状の隔壁21及び隔壁に保持された複数の磁性体22を含む。磁性体22は円周方向に沿って略等間隔に配されている。磁性体列2は第1磁石列1が有する磁極対12の組数3、及び第2磁石列3が有する磁極対32の組数7の合計と等しい10個の磁性体22を有する。
【0045】
磁性体列2は例えば円筒状に形成された樹脂に各磁性体を固定して作製される(例えば、国際公開WO2009/087408号参照)。磁性体列2には第1磁石列の磁極対12および第2磁石列3の磁極対32により発生した3次調波成分、7次調波成分及び13次調波成分を含む交番磁界が径方向に沿って交差する。磁性体22には、例えば、磁性金属、積層した複数の磁性板からなる積層鋼板及び磁性粉の圧粉体からなる軟磁性体を用いるとよい。渦電流損を抑えるため磁性体は、積層鋼板が望ましい。
【0046】
磁気ギア装置は、それぞれ円筒状をなす第1磁石列1、第2磁石列3及び磁性体列2を同軸的に配している。磁性体列2は、第1磁石列1と第2磁石列3とを隔てる位置にある。磁気ギア装置は、第2磁石列3が回転した場合、第1磁石列1及び第2磁石列3それぞれが有する磁極対の磁気的相互作用により、第1磁石列1が回転する。この場合第2磁石列3より磁極数が少ない第1磁石列1は、第2磁石列3より高い回転数で、第2磁石列3の回転方向と逆方向に回転する(非特許文献1を参照)。第1磁石列1に配置してある磁極対12の組数Phと、第2磁石列3に配置してある磁極対32の組数Plとの比Ph/Plが第2磁石列3に対する第1磁石列1のギア比となる。そして、第2磁石列3が左回りに1回転した場合、第1磁石列1が右回りに7/3回転する。
【0047】
次に、渦電流損について説明する。上述したように、第2磁石列3の磁石対32は積層体をなしている。積層体の一層を構成する磁石32a1(32b1)は、異方性R−Fe−B系焼結磁石である。異方性R−Fe−B系焼結磁石は、粉末冶金法によって作られる磁石であり、磁気特性は高いが、金属であるため電気抵抗率が低く(1.5μΩ・m程度)渦電流による損失が大きい。積層体の他層を構成する磁石32a2(32b2)は、等方性R−Fe−B系ボンド磁石である。等方性R−Fe−B系ボンド磁石は、微小な磁石粒ないし微粉を樹脂等のバインダーと混ぜ合わせて、射出成形や圧縮成形等の方法で成形したもので、樹脂を含有しており焼結磁石に比べて磁気特性は低いが、電気抵抗率が高く(16μΩ・m以上)渦電流による損失は小さい。
【0048】
渦電流は表皮効果によって、磁石の表面近傍に発生し、磁石の内部に向かい減衰するという特性を有している。磁石32a(32b)の表面側に電気抵抗率の高い等方性R−Fe−B系ボンド磁石32a2(32b2)を配置している。また、磁石32a(32b)の下層側に磁気特性の高い異方性R−Fe−B系焼結磁石32a1(32b1)を配置している。それにより、磁石32a(32b)の全体としては、磁気特性が高く、渦電流損失を抑えた積層体とすることができる。
【0049】
なお積層体において、積層体全体の厚さに対する、等方性R−Fe−B系ボンド磁石の厚さの割合は5%以上50%以下にするのが望ましい。
等方性R−Fe−B系ボンド磁石の厚さが5%未満では渦電流の発生を十分に抑えることができない。また50%を超えると異方性R−Fe−B系焼結磁石の割合が減ることで磁気特性が低下し、十分な伝達トルクを得ることができない。
【0050】
また、渦電流は、第2磁石列3での発生が多いため、第2磁石列3にのみ異方性焼結磁石と等方性ボンド磁石の積層体を配置している。第2磁石列3側で渦電流の発生が多い理由については、第2磁石列3側の磁石が小さいため第1磁石列1側の磁石の磁場の影響をより多く受けるためと考えられる。
【0051】
次に、等方性R−Fe−B系ボンド磁石を使用する利点について説明する。図2は積層体の2つの構成例を示す説明図である。図2Aは積層体を等方性磁石及び異方性磁石で構成した場合を示す。図2Bは積層体を異方性磁石及び異方性磁石で構成した場合を示す。
【0052】
異方性磁石は、磁石となる磁粉(磁石粒)の向きが磁石を成形する際の磁場の向きに倣う。そのことから、磁石成形時の成形条件によっては、成形時に図2Bの様に磁石の配向の向きが積層体のそれぞれでずれてしまう場合がある。しかし、その後の着磁工程によっても配向を矯正することはできない。そして、磁石の配向の向きが図2Bのようにずれてしまった場合には、それぞれの磁石の配向の向きがそろっていないため(例えば図2Bにおける内側の異方性磁石は配向の向きが厚さ方向からずれ)、磁石の持つ特性を十分生かすことができない。
【0053】
それに対して、実施の形態1で採用する図2Aの構成では、ボンド磁石は等方性であるため着磁条件(着磁ヨークの条件)によって、異方性焼結磁石の着磁の向きに等方性ボンド磁石の着磁の向きをそろえることができる。そのことから磁石の特性を有効に活用することが容易となる。
さらに残留磁束密度が0.7T〜0.9T(700〜900mT)の異方性ボンド磁石並みの残留磁束密度を有する等方性ボンド磁石(たとえばNEOMAXエンジニアリング社製 HIDENSE(登録商標)−500、残留磁束密度 830〜900(mT)、固有保磁力 450〜550(kA/m)、最大エネルギー積 97〜107(kJ/m3))を使用することで高い磁気特性と大きな電気抵抗率による渦電流損失の低減を実現可能である。
【0054】
実施の形態1では、次のような効果を奏する。渦電流の発生が多い第2磁石列3を、電気抵抗率の高い等方性R−Fe−B系ボンド磁石と、磁気特性が高い異方性R−Fe−B系焼結磁石との積層体とすることにより、渦電流損を低減するとともに、磁気特性の低下を防ぐことが可能となる。また、ボンド磁石は等方性、焼結磁石は異方性とするため、ボンド磁石の着磁の向きは、焼結磁石の着磁の向きに容易に揃えられるため、2つの磁石の特性を有効に活用することが可能となる。
【0055】
(実施の形態2)
図3は、実施の形態2に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。実施の形態2に係る磁気ギア装置は、第1磁石列1が低速回転、第2磁石列3が高速回転するように構成されている。それに伴い、第1磁石列1を積層体とし、第2磁石列3は単層としている。以下の説明においては、実施の形態1と同様である構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0056】
第1磁石列1は、磁性材料からなる内側円筒部11を有し、内側円筒部11の外周面には、厚さ方向に着磁された外周面側N極の磁石12a及び外周面側S極の磁石12bからなる磁極対12が、円周方向に沿って略等間隔に7組配置されている。磁極対12を構成する磁石12a及び磁石12bは、積層体である。磁石12a(12b)は、内側円筒部11の外周側に位置する異方性R−Fe−B系焼結磁石12a1(12b1)とその外周側に位置する等方性R−Fe−B系ボンド磁石12a2(12b2)とを含む積層体である。上述のように磁石12a(12b)は全体として厚み方向に着磁して構成するから、積層体を構成する磁石12a1(12b1)及び磁石12a2(12b2)も厚み方向に着磁してある。
【0057】
実施の形態1と同様に、積層体を構成する磁石12a1(12b1)は、異方性R−Fe−B系焼結磁石である。積層体を構成する磁石12a2(12b2)は、等方性R−Fe−B系ボンド磁石である。
【0058】
第2磁石列3は、磁性材料からなる外側円筒部31を有し、外側円筒部31の内周面には、厚さ方向に着磁された内周面側N極の磁石32a及び内周面側S極の磁石32bからなる磁極対32が円周方向に沿って略等間隔に3組配置されている。磁石32a及び磁石32bは、異方性R−Fe−B系焼結磁石である。
【0059】
磁性体列2は、円筒状の隔壁21及び隔壁に保持された複数の磁性体22を含む。磁性体22は円周方向に沿って略等間隔に配されている。磁性体列2は第1磁石列1が有する磁極対12の組数7、及び第2磁石列3が有する磁極対32の組数3の合計と等しい10個の磁性体22を有する。磁性体列2のその他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0060】
磁気ギア装置は、それぞれ円筒状をなす第1磁石列1、第2磁石列3及び磁性体列2を同軸的に配している。磁性体列2は、第1磁石列1と第2磁石列3とを隔てる位置にある。磁気ギア装置は、第2磁石列3が回転した場合、第1磁石列1及び第2磁石列3それぞれが有する磁極対の磁気的相互作用により、第1磁石列1が回転する。この場合第2磁石列3より磁極対数が多い第1磁石列1は、第2磁石列3より低い回転数で、第2磁石列3の回転方向と逆方向に回転する(非特許文献1を参照)。第1磁石列1に配置してある磁極対12の組数Phと、第2磁石列3に配置してある磁極対32の組数Plとの比Ph/Plが第2磁石列3に対する第1磁石列1のギア比となる。そして、第2磁石列3が左回りに1回転した場合、第1磁石列1が右回りに3/7回転する。
【0061】
実施の形態2では、次のような効果を奏する。渦電流の発生が多い第1磁石列1を、電気抵抗率の高い等方性R−Fe−B系ボンド磁石と、磁気特性が高い異方性R−Fe−B系焼結磁石との積層体とすることにより、渦電流損を低減するとともに、磁気特性の低下を防ぐことが可能となる。また、ボンド磁石は等方性、焼結磁石は異方性とするため、ボンド磁石の着磁の向きは、焼結磁石の着磁の向きに揃えられるため、2つの磁石の特性を有効に活用することが可能となる。
【0062】
(実施の形態3)
図4は、実施の形態3に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。実施の形態3に係る磁気ギア装置は、実施の形態1において第1磁石列1も積層体となっている。以下の説明においては、実施の形態1、2と同様である構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0063】
第1磁石列1は、磁性材料からなる内側円筒部11を有し、内側円筒部11の外周面には、厚さ方向に着磁された外周面側N極の磁石12a及び外周面側S極の磁石12bからなる磁極対12が円周方向に沿って略等間隔に3組配置されている。磁極対12を構成する磁石12a及び磁石12bは、積層体である。第1磁石列1の構成は、磁極対の数を除いて、実施の形態2と同様である。また、磁性体列2については、実施の形態1及び実施の形態2と同様である。
【0064】
磁気ギア装置の動作は、実施の形態1と同様であるから、説明を省略する。
【0065】
実施の形態3では、実施の形態1が奏する効果に加え、次のような効果を奏する。第1磁石列1及び第2磁石列3を積層体とすることにより、渦電流損をより低減することが可能となる。
【0066】
(実施の形態4)
図5は、実施の形態4に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。実施の形態4に係る磁気ギア装置は、実施の形態2において第2磁石列3も積層体となっている。以下の説明においては、実施の形態1ないし3と同様である構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0067】
第2磁石列3は、磁性材料からなる外側円筒部31を有している。外側円筒部31の内周面には、厚み方向(円筒の径方向)に着磁された内周面側N極の磁石32a及び内周面側S極の磁石32bからなる磁極対32が円周方向に沿って略等間隔に3組配置されている。磁極対32を構成する磁石32a及び磁石32bは、積層体である。第2磁石列3の構成は、磁極対の数を除いて、実施の形態1と同様である。また、磁性体列2については、実施の形態1ないし実施の形態3と同様である。
【0068】
磁気ギア装置の動作は、実施の形態2と同様である。
【0069】
実施の形態4では、実施の形態2が奏する効果に加え、次のような効果を奏する。第1磁石列1及び第2磁石列3を積層体とすることにより、渦電流損をより低減することが可能となる。
【0070】
(実施の形態5)
図6は、実施の形態5に係る磁気ギア装置の一構成例を示す分解斜視図である。図7は、実施の形態5に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。実施の形態5に係る磁気ギア装置は円板形であり、円板状の第1磁石列3001と、該第1磁石列3001の上方に間隙を有して同軸に配された円板状の第2磁石列3003と、第1磁石列3001及び第2磁石列3003の間に間隙を有して同軸に配された円板状の磁性体列3002とを備える。
【0071】
第1磁石列3001は、磁性体材料からなる第1円板3011を有し、第1円板3011の上面には、上側N極の磁石3012a及び上側S極の磁石3012bからなる磁極対3012が円周方向に沿って略等間隔に6組配置されている。
第2磁石列3003は、磁性体材料からなる第2円板3031を有し、第2円板3031の下面には、下側N極の磁石3032a及び下側S極の磁石3032bからなる磁極対3032が円周方向に沿って略等間隔に14組配置されている。
【0072】
磁石3032a及び磁石3032bは厚み方向に2層構造としてある。磁石3032aは磁石3032a1、磁石3032a2の2層構造としてあり、磁性体列3002に対向する磁石3032a2は、磁石3032a1より薄くしてある。磁石3032a2は等方性R−Fe−B系ボンド磁石である。磁石3032a1は異方性R−Fe−B系焼結磁石である。磁石3032bも磁石3032aと磁極が異なるだけで、同様な構成である。
【0073】
磁性体列3002は、第1磁石列3001及び第2磁石列3003それぞれが有する磁極対3012及び磁極対3032の組数6及び14の合計と等しい20個の磁性体3022を保持する円板状の保持部材3021を備え、保持部材3021には、20個の磁性体3022が円周方向に沿って略等間隔に配されている。また、保持部材3021は、各磁性体3022と第2磁石列3003との回転軸方向における距離が、各磁性体3022と第1磁石列3001との距離に比べて短くなるように磁性体3022を保持している。
この場合、伝達トルクの向上が期待できる。
保持部材3021は、各磁性体3022と第2磁石列3003との回転軸方向における距離が、各磁性体3022と第1磁石列3001との距離と等しくなるように磁性体3022を保持しても良く、必要な伝達トルクや磁気ギア装置の寸法等を考慮し設定すれば良い。
【0074】
実施の形態5のように構成された磁気ギア装置においても実施の形態1と同様の効果を奏する。また、実施の形態2〜4の技術的思想を実施の形態5に係る磁気ギア装置に適用することも可能である。例えば、第2磁性体列3003に加えて、第1磁石列3001を構成する磁石3012a及び3012bも積層体としても良い。
【0075】
(実施の形態6)
図8は、実施の形態6に係る磁気ギア装置の一構成例を示す分解斜視図である。図9は、実施の形態6に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。実施の形態6に係る磁気ギア装置は各構成部材が長尺板状(矩形板状)のリニア型であり、長尺板状の第1磁石列4001と、該第1磁石列4001の上方に間隙を有して配された長尺板状の第2磁石列4003と、第1磁石列4001及び第2磁石列4003の間に間隙を有して配された長尺板状の磁性体列4002とを備える。第1磁石列4001、第2磁石列4003及び磁性体列4002の長手方向は略一致している。
【0076】
第1磁石列4001は、磁性体材料からなる第1長尺板部4011を有し、第1長尺板部4011の上面には、上側N極の磁石4012a及び上側S極の磁石4012bからなる磁極対4012が長手方向に沿って、単位距離(ΔLとする)当たり略等間隔に6個配置されている。
第2磁石列4003は、磁性体材料からなる第2長尺板部4031を有し、第2長尺板部4031の下面には、下側N極の磁石4032a及び下側S極の磁石4032bからなる磁極対4032が長手方向に沿って、単位距離ΔL当たり略等間隔に14個配置されている。
【0077】
磁石4032a及び磁石4032bは厚み方向に2層構造としてある。磁石4032aは磁石4032a1、磁石4032a2の2層構造としてあり、磁性体列4002に対向する磁石4032a2は、磁石4032a1より薄くしてある。磁石4032a2は等方性R−Fe−B系ボンド磁石である。磁石4032a1は異方性R−Fe−B系焼結磁石である。磁石4032bも磁石4032aと磁極が異なるだけで、同様な構成である。
【0078】
磁性体列4002は、第1磁石列4001及び第2磁石列4003それぞれが有する磁極対4012及び磁極対4032の組数6及び14の合計と等しい20個の磁性体4022を保持する長尺板状の保持部材4021を備え、保持部材4021には、単位距離ΔL当たり20個の磁性体4022が長手方向に沿って略等間隔に配されている。また、保持部材4021は、各磁性体4022と第2磁石列4003との離隔方向における距離が、各磁性体4022と第1磁石列4001との距離に比べて短くなるように磁性体4022を保持している。この場合伝達トルクの向上が期待できる。
また保持部材4021は、各磁性体4022と第2磁石列4003との距離との離隔方向における距離が、各磁性体4022と第1磁石列4001との距離と等しくなるように磁性体4022を保持しても良く、必要な伝達トルクや磁気ギア装置の寸法等を考慮し設定すれば良い。
【0079】
実施の形態6のように構成された磁気ギア装置においても実施の形態1と同様の効果を奏する。また、実施の形態2〜4の技術的思想を実施の形態6に係る磁気ギア装置に適用することも可能である。例えば、第2磁性体列4003に加えて、第1磁石列4001を構成する磁石4012a及び4012bを積層体としても良い。
【0080】
(実施の形態7)
図10は、実施の形態7に係る磁気ギア装置の一構成例を示す分解斜視図である。図11は、実施の形態7に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。実施の形態7に係る磁気ギア装置は各構成部材が円筒状のリニア型であり、円筒状の第1磁石列5001と、該第1磁石列5001の外周側に間隙を有して同軸に配された円筒状の第2磁石列5003と、第1磁石列5001及び第2磁石列5003の間に間隙を有して同軸に配された円筒状の磁性体列5002とを備える。
【0081】
第1磁石列5001は、磁性体材料からなる内側円筒部5011を有し、内側円筒部5011の外周面には、外側N極の磁石5012a及び外側S極の磁石5012bからなる磁極対5012が中心軸方向に沿って、単位距離ΔL当たり略等間隔に6組配置されている。
第2磁石列5003は、磁性体材料からなる外側円筒部5031を有し、外側円筒部5031の内周面には、内周面N極の磁石5032a及び内周面S極の磁石5032bからなる磁極対5032が中心軸方向に沿って、単位距離ΔL当たり略等間隔に14組配置されている。
【0082】
磁石5032a及び磁石5032bは厚み方向に2層構造としてある。磁石5032aは磁石5032a1、磁石5032a2の2層構造としてあり、磁性体列5002に対向する磁石5032a2は、磁石5032a1より薄くしてある。磁石5032a2は等方性R−Fe−B系ボンド磁石である。磁石5032a1は異方性R−Fe−B系焼結磁石である。磁石5032bも磁石5032aと磁極が異なるだけで、同様な構成である。
【0083】
磁性体列5002は、第1磁石列5001及び第2磁石列5003夫々が有する磁極対5012及び磁極対5032の組数6及び14の合計と等しい20個の磁性体5022を保持する筒状の保持部材5021を備え、保持部材5021には、単位距離ΔL当たり20個の磁性体5022が中心軸方向に沿って略等間隔に配されている。また、保持部材5021は、各磁性体5022と第2磁石列5003との径方向における距離が、各磁性体5022と第1磁石列5001との距離に比べて短くなるように磁性体5022を保持している。この場合伝達トルクの向上が期待できる。
保持部材5021は、各磁性体5022と第2磁石列5003の径方向における距離が、各磁性体5022と第1磁石列5001の距離と等しくなるように磁性体5022を保持しても良く、必要な伝達トルクや磁気ギア装置の寸法等を考慮し設定すれば良い。
【0084】
実施の形態7のように構成された磁気ギア装置においても実施の形態1と同様の効果を奏する。また、実施の形態2〜4の技術的思想を実施の形態7に係る磁気ギア装置に適用することも可能である。例えば、第2磁性体列5003に加えて、第1磁石列5001を構成する磁石5012a及び5012bを積層体としても良い。
【0085】
(実施の形態8)
図12は、実施の形態8に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。磁性体列2と第2磁石列3との距離が、磁性体列2と第1磁石列1との距離に比べて小さくなっている。また、磁性体列2の磁性体22の断面が台形状になっている。すなわち、磁性体22の第2磁石列側の幅が、第1磁石列側の幅に比べて小さくなっている。以下の説明においては、実施の形態1と同様である構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0086】
実施の形態8に係る磁気ギア装置は、実施の形態1に係る磁気ギア装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。
磁性体列2が第2磁石列3に近いことから、伝達トルクが向上する。
これは次の理由による。高速回転側の第1磁石列1の磁極対12は、低速回転側の第2磁石列3に比べて長ピッチである。高速回転側の長ピッチで配された磁石12a、12bからの磁束は、低速回転側の磁石32a、32bに比べてより大きく広がって、強い磁力が第2磁石列3まで達するが、短ピッチで配された低速回転側の磁石32a、32bからの磁束は第2磁石列3の近傍で閉じてしまい、強い磁力が第1磁石列1まで達しない傾向がある。
従って、磁性体列2の磁性体22によって、第1磁石列1側及び第2磁石列3側の磁石からの磁束に変調をかける場合、低速回転側の磁石32a、32b(第2磁石列側)に寄せて磁性体列2を配して磁束の変調を行った方が、近傍で閉じてしまう低速回転側の磁石32a、32bに起因する磁束と、遠くに達する高速回転側(第1磁石列)の磁石12a、12bに起因する磁束との両方の作用を受けて、より強力に磁束の変調がかけられ、その結果、より大きなトルク伝達が可能になると考えられる。
【0087】
次に磁性体列2の磁性体22の第2磁石列3側の幅が、第1磁石列1側の幅に対して小さくなっている効果について説明する。
この場合、磁性体列2が回転し、各磁性体に遠心力が働くことで、径方向外側に力が働いたとしても、遠心力に抗する力が働く。また磁性体列2は第2磁石列3側に近いため第2磁石列3との吸引力が働くが、この構成により第2磁石列3との吸引力に抗する力が働く。
このため、磁性体列2の外周面側に、磁性体22を保持する保持構造を設けなくても磁性体2が遠心力又は吸引力によって磁性体22を保持する部材(隔壁)から外れることを防止することができる。また保持構造を設ける場合にも強固な構造にする必要は無い。
【0088】
(実施の形態9)
図13は、実施の形態9に係る磁気ギア装置の一構成例を示す側断面図である。実施の形態9に係る磁気ギア装置は、実施の形態8において第1磁石列1も構成する磁石が積層体である。以下の説明においては、実施の形態8と同様である構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0089】
第1磁石列1を構成する磁石12a、12bは2層構造をしている。第1磁石列1の構成は、実施の形態3と同様である。
【0090】
実施の形態9に係る磁気ギア装置は、実施の形態8に係る磁気ギア装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。第2磁石列3を構成する磁石32a、32bに加えて、第1磁石1を構成する磁石12a、12bも積層体とすることで、より渦電流損を低減させることが可能となる。
【0091】
各実施例で記載されている技術的特徴(構成要件)はお互いに組合せ可能であり、組み合わせすることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものでは無いと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味では無く、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0092】
1 第1磁石列
11 内側円筒部
12 磁極対
12a 磁石
12a1 異方性R−Fe−B系焼結磁石
12a2 等方性R−Fe−B系ボンド磁石
12b 磁石
12b1 異方性R−Fe−B系焼結磁石
12b2 等方性R−Fe−B系ボンド磁石
2 磁性体列
21 隔壁
22 磁性体
3 第2磁石列
31 外側円筒部
32 磁極対
32a 磁石
32a1 異方性R−Fe−B系焼結磁石
32a2 等方性R−Fe−B系ボンド磁石
32b 磁石
32b1 異方性R−Fe−B系焼結磁石
32b2 等方性R−Fe−B系ボンド磁石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13