特許第6442998号(P6442998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442998
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】クランクシャフト
(51)【国際特許分類】
   F16C 3/08 20060101AFI20181217BHJP
   F16C 3/14 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   F16C3/08
   F16C3/14
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-234023(P2014-234023)
(22)【出願日】2014年11月18日
(65)【公開番号】特開2016-98862(P2016-98862A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】景山 健太
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 充久
(72)【発明者】
【氏名】大脇 進
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−230027(JP,A)
【文献】 特開2010−230036(JP,A)
【文献】 実開平3−130911(JP,U)
【文献】 実開平2−4017(JP,U)
【文献】 実開昭58−2417(JP,U)
【文献】 特開2005−114131(JP,A)
【文献】 特開2009−133331(JP,A)
【文献】 実開平1−145910(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/00− 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャーナルと、
前記ジャーナルに対して平行に配置されるピンと、
前記ジャーナルと前記ピンとの間に介在し、前記ピンに隣接すると共に有底の孔が凹設されるショルダー部を有するアームと、
を備えるクランクシャフトであって、
前記ジャーナルの軸方向から見て、前記ジャーナルの中心と前記ピンの中心とを結ぶ方向を上下方向、前記上下方向において前記ジャーナルの中心から前記ピンの中心に向かう方向を上方向、前記上下方向において前記ピンの中心から前記ジャーナルの中心に向かう方向を下方向、前記上下方向に対して直交する方向を横方向とする場合、
前記孔の深さ方向に対して直交する方向の断面形状には、
前記断面形状の外縁において曲率が変化する点を変曲点として、
前記断面形状の前記横方向の長さが最長になる第一底辺と、
前記断面形状の重心を挟んで、前記第一底辺の前記上方向または前記下方向に配置され、前記第一底辺から最も離間した前記外縁の一対の前記変曲点間を、前記横方向に連結する第二底辺と、
が設定され、
前記第一底辺および前記第二底辺のうち、一方を上辺、他方を前記上辺の前記下方向に配置される下辺、前記上辺の長さをα、前記下辺の長さをβとする場合、α/β≧1の関係が成立することを特徴とするクランクシャフト。
【請求項2】
前記断面形状の前記外縁の上縁は、曲率中心が前記上縁よりも前記下方向に設定される弧状を呈している請求項1に記載のクランクシャフト。
【請求項3】
前記断面形状は、前記深さ方向全長に亘って相似であり、
前記断面形状の面積は、前記孔が深くなるのに従って小さくなる請求項1または請求項2に記載のクランクシャフト。
【請求項4】
さらに、前記アームを経由して前記ジャーナルと前記ピンとを連結する油路を備え、
前記ピンの外周面には、焼入れ層が形成され、
前記孔は、前記油路および前記焼入れ層に干渉しないように配置される請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のクランクシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両のエンジンなどに用いられるクランクシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の輸送用機器にとって軽量化は最も大きな課題の一つである。その中でも、クランクシャフトは、運動部品の中でも最も質量の大きい部品の一つであり、材料の高強度化等、様々な取り組みが行われてきた。その中で、最近、形状面の最適化により軽量化しようとする試みがされてきている。例えば、特許文献1のように、クランクシャフト中のジャーナルとピンとを連結しているクランクウェブに、一対の肉抜き部を設け、軽量化を図ろうとする提案がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−113323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クランクウェブに肉抜き部を凹設すると、当然の如くクランクシャフトの剛性が低下する。この点、特許文献1のクランクシャフトの場合、肉抜き部の深さは、ピンの内部に到達しないように、規制されている。このため、ピン延いてはクランクシャフトの剛性の低下を抑制することができる。
【0005】
しかしながら、軽量化要求は時間と共により高いレベルが要求されるようになってきていると共に、当然の如く剛性低下には設計上許容できる限界がある。そのような中で、より大きな軽量化効果を得ることを可能にするため、同じ軽量化であってもより剛性低下の値を小さくするための肉抜き部の設け方の開発が強く求められるようになってきた。本発明は、肉抜き部を設けることを前提に肉抜き部による軽量化の大きさの割に剛性低下を小さくできるクランクシャフトの提供を可能とすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のクランクシャフトは、ジャーナルと、前記ジャーナルに対して平行に配置されるピンと、前記ジャーナルと前記ピンとの間に介在し、前記ピンに隣接すると共に有底の孔が凹設されるショルダー部を有するアームと、を備えるクランクシャフトであって、前記ジャーナルの軸方向から見て、前記ジャーナルの中心と前記ピンの中心とを結ぶ方向を上下方向、前記上下方向において前記ジャーナルの中心から前記ピンの中心に向かう方向を上方向、前記上下方向において前記ピンの中心から前記ジャーナルの中心に向かう方向を下方向、前記上下方向に対して直交する方向を横方向とする場合、前記孔の深さ方向に対して直交する方向の断面形状には、前記断面形状の前記横方向の長さが最長になる第一底辺と、前記断面形状の重心を挟んで、前記第一底辺の前記上方向または前記下方向に配置され、前記第一底辺から最も離間した一対の変曲点間を、前記横方向に連結する第二底辺と、が設定され、前記第一底辺および前記第二底辺のうち、一方を上辺、他方を前記上辺の前記下方向に配置される下辺、前記上辺の長さをα、前記下辺の長さをβとする場合、α/β≧1の関係が成立することを特徴とする。
【0007】
ここで、「変曲点」とは、曲率が変化する点をいう。すなわち、曲率の符号が変化しない点であっても、曲率自体が変化する点であれば、本発明の「変曲点」の概念に含まれる。例えば、互いに異なる方向に湾曲する一対の曲線間の境界、互いに同じ方向に湾曲すると共に互いに曲率が異なる一対の曲線間の境界、互いに傾斜が異なる一対の直線間の境界、曲線と直線との境界などは、本発明の「変曲点」の概念に含まれる。
【0008】
本明細書においては、ジャーナルの軸方向から見て、ジャーナルの中心とピンの中心とを結ぶ方向を、「上下方向」と定義する。また、上下方向において、ジャーナルの中心からピンの中心に向かう方向を、「上方向」と定義する。また、上下方向において、ピンの中心からジャーナルの中心に向かう方向を、「下方向」と定義する。また、上下方向に対して直交する方向を、「横方向」と定義する。なお、クランクシャフトが複数のピンを備える場合、上述の各方向(上下方向、上方向、下方向、横方向)は、各ピンごとに定義される。
【0009】
好ましくは、前記断面形状の上縁は、曲率中心が前記上縁よりも前記下方向に設定される弧状を呈している構成とする方がよい。さらに、好ましくは、前記断面形状の上縁は、前記ショルダー部の上縁に相似の弧状を呈している構成とする方がよい。
【0010】
好ましくは、前記断面形状は、前記深さ方向全長に亘って相似であり、前記断面形状の面積は、前記孔が深くなるのに従って小さくなる構成とする方がよい。
【0011】
好ましくは、さらに、前記アームを経由して前記ジャーナルと前記ピンとを連結する油路を備え、前記ピンの外周面には、焼入れ層が形成され、前記孔は、前記油路および前記焼入れ層に干渉しないように配置される構成とする方がよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のクランクシャフトによると、ショルダー部に孔が凹設されており、孔の断面形状には、重心を挟んで、上下方向に対向して、第一底辺と第二底辺とが配置されている。第一底辺および第二底辺のうち、一方を上辺、他方を下辺とする場合、上辺の長さαと下辺の長さβとの間には、α/β≧1の関係が成立する。このため、後述する解析および実験から明らかなように、孔の凹設に伴うクランクシャフトの剛性の低下を、他形状の孔をショルダー部に凹設する場合と比較して、抑制することができる。
【0013】
また、孔の深さが深い程、クランクシャフトの剛性は低くなるが、他の孔形状の場合には、孔が深くなる程、単位質量当たりの剛性悪化率が上昇する傾向があった。それに対し、本発明のクランクシャフトでは、後述する解析から明らかなように、孔の深さが深くなっても剛性悪化率が上昇せず、クランクシャフトの剛性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のクランクシャフトの一実施形態であるクランクシャフトの軸方向部分断面図である。
図2図1のII−II方向断面図である。
図3図1のIII−III方向断面図である。
図4】(a)〜(f)はその他の実施形態の孔の断面形状である。
図5】解析モデルの模式図である。
図6】(a)は第一の解析モデルの孔の斜視図である。(b)は第二の解析モデルの孔の斜視図である。
図7】第一モデル、第二モデルのα/βと曲げ剛性悪化率との関係を示すグラフである。
図8】第一モデル、第二モデルの深さと曲げ剛性悪化率との関係を示すグラフである。
図9】(a)は実施例1の孔の断面形状である。(b)は実施例2の孔の断面形状である。(c)は実施例3の孔の断面形状である。(d)は比較例1の孔の断面形状である。(e)は比較例2の孔の断面形状である。
図10】各サンプルのα/βと曲げ剛性悪化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のクランクシャフトの実施の形態について説明する。図1に、本実施形態のクランクシャフトの軸方向部分断面図を示す。図2に、図1のII−II方向断面図を示す。図3に、図1のIII−III方向断面図を示す。
【0016】
<クランクシャフトの構成>
まず、本実施形態のクランクシャフト1の構成について説明する。図1図3における前後方向は、本発明の「ジャーナルの軸方向」に対応する。図1図3における上下方向は、本発明の「上下方向」に対応する。上方向は、前から1番目、4番目のピン3については本発明の「上方向」に、前から2番目、3番目のピン3については本発明の「下方向」に、各々対応する。下方向は、前から1番目、4番目のピン3については本発明の「下方向」に、前から2番目、3番目のピン3については本発明の「上方向」に、各々対応する。左右方向は、本発明の「横方向」に対応する。
【0017】
図1図3に示すように、本実施形態のクランクシャフト1は、直列4気筒のエンジン用のクランクシャフトである。クランクシャフト1は、5つのジャーナル2と、4つのピン3と、8つのアーム4と、4つの油路5と、を備えている。ジャーナル2は、前後方向に延在する短軸円柱状を呈している。ジャーナル2には、軸受(図略)が環装されている。軸受は、クランクシャフト1を、回転可能に支持している。
【0018】
ピン3は、前後方向に延在する短軸円柱状を呈している。ピン3には、軸受(図略)を介して、コンロッド(図略)が装着されている。前から1番目、4番目のピン3は、ジャーナル2に対して上方向にずれて配置されている。例えば、図2に示すように、1番目のピン3の径方向の中心C2は、ジャーナル2の径方向の中心C1に対して、上方向にずれて配置されている。これに対して、前から2番目、3番目のピン3は、ジャーナル2に対して下方向にずれて配置されている。ピン3の外周面には、耐摩耗性を向上させるため、IH(Induction Heating)処理、すなわち高周波焼入れ処理が施されている。このため、ピン3の外周面には、焼入れ層30が形成されている。
【0019】
アーム4は、ジャーナル2とピン3との間に介在している。アーム4は、ショルダー部40と、カウンターウェイト部41と、を備えている。任意のピン3の前後両側には、各々、ショルダー部40が配置されている。ショルダー部40には、有底の孔400が凹設されている。カウンターウェイト部41は、ジャーナル2を挟んで、ショルダー部40の上下方向反対側に配置されている。油路5は、クランクシャフト1の内部に配置されている。油路5は、アーム4を経由して、ジャーナル2とピン3とを連結している。
【0020】
<クランクシャフトの孔の形状>
次に、本実施形態のクランクシャフト1の孔400の形状について説明する。図3に示すように、孔400の断面形状(詳しくは、孔の深さ方向に対して直交する方向の断面形状)Aは、下向きに尖る三角形状を呈している。断面形状Aは、孔400の深さ方向全長(図1に示す開口部400aから底部400bまでの間)に亘って相似である。孔400は、剪断加工により、ショルダー部40に穿設されている。加工時の抜き勾配により、断面形状Aの面積は、孔400が深くなるのに従って、徐々に小さくなる。図1に示すように、孔400の側部400cと底部400bとは、丸面取り部400dを介して、連なっている。底部400bは、油路5および焼入れ層30に干渉しないように配置されている。
【0021】
図3に示すように、断面形状Aは、上縁aと、下縁bと、左右一対の側縁cと、左右一対の丸面取り部dと、を備えている。上縁aと丸面取り部dとの境界、丸面取り部dと側縁cとの境界、側縁cと下縁bとの境界には、各々、変曲点zが配置されている。断面形状Aは、断面形状Aの重心Gを通過する上下方向の中心線に対して、左右対称である。
【0022】
上縁aは、上方向に膨らむ弧状を呈している。上縁aは、図2に示すショルダー部40の上縁に相似である。左右一対の丸面取り部dは、上縁aの左右方向両端に連なっている。左側の丸面取り部dは、左方向に膨らむ弧状を呈している。右側の丸面取り部dは、右方向に膨らむ弧状を呈している。左右一対の側縁cは、左右一対の丸面取り部dの下端に連なっている。左側の側縁cは、右下方向に延在する直線状を呈している。右側の側縁cは、左下方向に延在する直線状を呈している。左右一対の側縁c間の間隔は、下方向に向かって、徐々に狭まっている。下縁bは、左右一対の側縁cの下端間を連結している。下縁bは、下方向に膨らむ弧状を呈している。下縁bの曲率は、上縁aの曲率よりも大きい。
【0023】
<第一底辺、第二底辺、上辺、下辺の定義>
次に、孔400の形状に関する、第一底辺、第二底辺、上辺、下辺の定義について説明する。図3に点線で示すように、第一底辺L1は、断面形状Aにおいて、左右方向の長さが最長になる部分を直線で結ぶことにより、設定される。
【0024】
図3に点線で示すように、第二底辺L2は、断面形状Aの重心Gを挟んで、第一底辺L1の上方向または下方向に設定される。第二底辺L2は、第一底辺L1から最も離間した一対の変曲点Z間を、左右方向に直線で連結したものである(そのように定義する)。すなわち、第一底辺L1と第二底辺L2とは、断面形状Aの重心Gを挟んで、互いに平行である。
【0025】
第一底辺L1、第二底辺L2のうち、上方向に配置される辺が上辺Uである。下方向に配置される辺が下辺Dである。上辺Uの左右方向の長さαと、下辺Dの左右方向の長さβと、の間には、α/β≧1の関係が成立する。
【0026】
本実施形態の孔400の場合、第一底辺L1は、左右一対の丸面取り部d間を連結している。第二底辺L2は、第一底辺L1の下方向に配置されている。第二底辺L2は、左右一対の変曲点z間(詳しくは、左側の側縁cの下端と下縁bの左端との境界の変曲点zと、右側の側縁cの下端と下縁bの右端との境界の変曲点zと、の間)を連結している。第一底辺L1は上辺Uに、第二底辺L2は下辺Dに、各々対応している。上辺Uの左右方向の長さαと、下辺Dの左右方向の長さβと、の間には、α/β>1の関係が成立している。
【0027】
<作用効果>
次に、本実施形態のクランクシャフト1の作用効果について説明する。本実施形態のクランクシャフト1によると、ショルダー部40に孔400が凹設されている。また、孔400の断面形状には、重心Gを挟んで、上下方向に対向して、第一底辺L1と第二底辺L2とがある。そして、上辺U(第一底辺L1)の長さαと下辺D(第二底辺L2)の長さβとの間には、α/β>1の関係が成立する形状となっている。このような形状とすることにより、後述する解析および実験から明らかなように、孔400の凹設に伴うクランクシャフト1の剛性の低下が、他の孔形状で軽量化を図る場合に比べ小さくなる。
【0028】
また、後述する解析で示す通り、孔400の深さが深くなると、孔を設けることによる軽量化への質量の大きさに対する剛性悪化率が大きくなる傾向となるが、本実施形態のクランクシャフト1では、後述する解析から明らかなように、孔400の深さが深くなっても、剛性悪化率は大きくならず、クランクシャフト1の剛性の低下を抑制することができる。
【0029】
また、断面形状Aの上縁aは、曲率中心が上縁aよりも下方向に設定される弧状を呈している。このため、上縁aが直線状を呈している場合と比較して、ショルダー部40の除肉量(取り代)を多くすることができる。すなわち、クランクシャフト1の軽量化を図ることができる。また、上縁aは、ショルダー部40の上縁に相似である。このため、孔400に「割れ」が発生するのを抑制することができる。
【0030】
また、断面形状Aは、孔400の深さ方向全長に亘って相似である。また、断面形状Aの面積は、孔400が深くなるのに従って小さくなる。このような形状とすることにより、孔400の加工を容易に行うことができる。
【0031】
また、孔400は、油路5および焼入れ層30に干渉しないように配置されている。このため、油路5や焼入れ層30を設けている本来の目的、効果に悪影響を与える可能性はない。
【0032】
また、前述の特許文献1のクランクシャフトの場合、剛性の低下を抑制するために、肉抜き部の深さは、ピンの内部に到達しない深さに、規制されている。これに対して、本実施形態のクランクシャフト1では、後述の結果で示す通り、孔深さを深くしても剛性が低下しにくい孔形状としているため、孔400の底部400bがピン3の内部に到達するような深さとしても、剛性低下を小さく抑制することができる。したがって、クランクシャフト1の軽量化効果を大きくすることができる。
【0033】
<その他>
以上、本発明のクランクシャフトの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0034】
孔400の断面形状Aは特に限定しない。上辺U(第一底辺L1)の長さαと下辺D(第二底辺L2)の長さβとの間に、α/β≧1の関係が成立すればよい。例えば、断面形状Aとしては、多角形(下向きに尖る三角形、下向きに尖る台形、正方形、長方形など)や、当該多角形の頂点に丸面取り部を付与した形状などが挙げられる。
【0035】
図4(a)〜(f)に、その他の実施形態の孔の断面形状を示す。なお、図3と対応する部位については、同じ符号で示す。図4(a)〜(f)に示すように、上縁a、下縁b、側縁cは、直線状であっても、外側に膨らむ曲線状(例えば弧状)であってもよい。また、上縁a、下縁b、側縁cは、断面形状Aの外側に膨らんでいてもよい。丸面取り部400dの有無は、特に限定しないものの、丸面取り部を設けた方が応力集中の点を考慮すると有利である。弧状の丸面取り部400dの代わりに、直線状の平面取り部を配置してもよい。側縁cの配置数は、単数でも複数でもよい。例えば、左右両側に、各々上下2つの側縁cを配置してもよい。同様に、上縁a、下縁bの配置数も、単数でも複数でもよい。図4(a)〜(f)に示す各縁(上縁a、下縁b、側縁c、丸面取り部d)を適宜組み合わせることにより、断面形状Aを構成してもよい。
【0036】
孔400の配置数は特に限定しない。単一のショルダー部40に対して、複数の孔400を配置してもよい。また、任意のピン3の前後両側の一対のショルダー部40のうち、油路5が配置されていない方のショルダー部40にだけ、孔400を配置してもよい。
【0037】
なお、孔400によるショルダー部40の除肉量に対応して、カウンターウェイト部41にも除肉部を設けて、クランクシャフト1の回転バランスをとることが当然の如く必要である。したがって、その分の軽量化効果も得ることができる。断面形状Aは、孔400の深さ方向全長に亘って相似でなくてもよい。すなわち、孔400の深さ方向全長のうち、少なくとも一部が、本発明の断面形状Aを呈していればよい。クランクシャフト1の構成は特に限定しない。クランクシャフト1は、一体物(例えば鋳造物)であってもよい。
【0038】
クランクシャフト1が用いられるエンジンの気筒の配置(すなわち、ジャーナル2に対するピン3の配置)は特に限定しない。直列、V型、水平対向などであってもよい。また気筒数も特に限定しない。2気筒、3気筒、4気筒、5気筒、6気筒、8気筒、10気筒、12気筒などであってもよい。また、油路5の配置場所、配置数も特に限定しない。
【実施例】
【0039】
以下、本発明のクランクシャフトについて行った解析(シミュレーション)および実験(実証実験)について説明する。
【0040】
<解析>
本発明のクランクシャフトについて行った解析について説明する。解析(詳しくは、FEM(Finite Element Method)による弾性変形解析)においては、孔400の形状の異なる二つの解析モデル9の、曲げ剛性悪化率(単位質量当たりの曲げ剛性悪化率)を比較した。
【0041】
[解析モデル]
まず、解析モデルについて説明する。図5に、解析モデルの模式図を示す。なお、図1と対応する部位については同じ符号で示す。図5に示すように、解析モデル9は、図1に示すクランクシャフト1の一部に相当する。
【0042】
図6(a)に、第一の解析モデル(以下、「第一モデル」と称す)の孔の斜視図を示す。図6(b)に、第二の解析モデル(以下、「第二モデル」と称す)の孔の斜視図を示す。なお、図3と対応する部位については同じ符号で示す。また、図5図6においては、孔400の深さ方向を矢印Y3で示す。深さ方向Y3は、図5に示すように、ショルダー部40の表面40F(図5に太線で示す)の面展開方向に対して、直交する方向である。
【0043】
図6(a)に示すように、第一モデルの孔400の断面形状Aは、下向きに尖る台形状である。図6(b)に示すように、第二モデルの孔400の断面形状Aは、第一モデルの孔400の断面形状Aの上縁a、下縁bを直線状から弧状に変更した形状である。第二モデルの上縁aは、図5に示すショルダー部40の上縁に相似である。図6(b)に点線で示すように、第二モデルの底部400bは、開口部400aに相似である。底部400bの面積は、開口部400aの面積よりも小さい。断面形状Aの面積は、孔400が深くなるのに従って小さくなる。すなわち、第二モデルの孔400には、金型用の抜き勾配(深さ方向Y3に対する側部400cの傾斜角度)が設定されている。
【0044】
[解析方法]
次に、解析方法について説明する。解析においては、上辺Uの長さα、下辺Dの長さβ、深さL3を各々変化させた場合の、第一モデル、第二モデルの曲げ剛性、曲げ剛性悪化率を算出した。また、第一モデル、第二モデル以外に、孔400無しの解析モデル(以下、「無孔モデル」と称す)に対しても、同様に、曲げ剛性、曲げ剛性悪化率を算出した。
【0045】
以下、曲げ剛性、曲げ剛性悪化率の算出方法を説明する。各モデルの前後両側の一対のジャーナル2の径方向および軸方向の中心C1a、C1bの真下部分を、図5に白抜き矢印Y2a、Y2bで示すように、回転可能(開脚可能)に支持した。そして、図5に白抜き矢印Y1で示すように、各モデルに対して、ピン3の径方向および軸方向の中心C2の真上部分から、荷重を印荷した。
【0046】
荷重をF、中心C1aの矢印Y1方向の変位量をΔC1a、中心C1bの矢印Y1方向の変位量をΔC1b、中心C2の矢印Y1方向の変位量をΔC2として、以下の式(1)から、曲げ剛性kを算出した。
k=F/[(ΔC2−{(ΔC1a+ΔC1b)/2}] ・・・式(1)
【0047】
無孔モデルの曲げ剛性をk1、有孔モデル(第一モデル、第二モデル)の曲げ剛性をk2、孔400による質量減少量をΔMとして、以下の式(2)から、曲げ剛性悪化率Rを算出した。
R=(k1−k2)/(k1×ΔM) ・・・式(2)
【0048】
[解析結果]
次に、解析結果について説明する。図7に、第一モデル、第二モデルのα/βと曲げ剛性悪化率との関係をグラフで示す。なお、図7においては、第一モデルを白丸で、第二モデルを黒丸で、各々示す。縦軸の「曲げ剛性悪化率」は、点P1の曲げ剛性悪化率を100とした場合の、相対値である。線L4は、全ての白丸の最小二乗法による近似線である。
【0049】
図7に示すように、第一モデル、第二モデル共に、α/β≧1の場合、曲げ剛性悪化率Rが低くなることが判った。すなわち、第一モデル、第二モデル共に、α/β≧1に設定すれば、無孔モデルに対して、曲げ剛性が低下しにくいことが判った。
【0050】
また、第一モデルよりも、第二モデルの方が、曲げ剛性悪化率Rが低くなることが判った。すなわち、第一モデルよりも、第二モデルの方が、曲げ剛性が低下しにくいことが判った。
【0051】
図8に、第一モデル、第二モデルの深さと曲げ剛性悪化率との関係をグラフで示す。なお、図8においては、第一モデルのうちα/β≧1のものを白丸で、第一モデルのうちα/β<1のものを白四角で、第二モデルのうちα/β≧1のものを黒丸で、第二モデルのうちα/β<1のものを黒四角で、各々示す。縦軸の「曲げ剛性悪化率」は、点P2の曲げ剛性悪化率を100とした場合の、相対値である。線L5は、全ての白丸の最小二乗法による近似線である。線L6は、全ての白四角の最小二乗法による近似線である。
【0052】
図8に示すように、第一モデル、第二モデル共に、α/β≧1の場合、孔400の深さL3が深くなっても、曲げ剛性悪化率Rが高くなりにくいことが判った。すなわち、第一モデル、第二モデル共に、α/β≧1に設定すれば、α/β<1となる孔により軽量化を図る場合と比較して、孔400の深さL3が深くなっても、曲げ剛性が低下しにくいことが判った。
【0053】
また、第一モデルよりも、第二モデルの方が、曲げ剛性悪化率Rが高くなりにくいことが判った。すなわち、第一モデルよりも、第二モデルの方が、孔400の深さL3の値に関係なく曲げ剛性悪化率が低く、曲げ剛性が低下しにくいことが判った。
【0054】
<実験>
以上説明したコンピュータシミュレーションで計算した結果により、α/βの値の変化による曲げ剛性悪化率の影響を予想することができたので、実部品により、前記計算結果通りの効果が得られるかどうかを確認する実験を行った。実験においては、孔400の形状の異なる五つのクランクシャフト1(サンプル)の、曲げ剛性悪化率を比較した。
【0055】
[サンプル]
まず、実験に用いたサンプル(実施例1〜3、比較例1、2)について説明する。各サンプルにおいては、図1に示すクランクシャフト1において、全てのピン3の前後両側の一対のショルダー部40のうち、油路5が配置されていない方のショルダー部40にだけ、孔400を配置した。
【0056】
図9(a)に、実施例1の孔の断面形状を示す。図9(b)に、実施例2の孔の断面形状を示す。図9(c)に、実施例3の孔の断面形状を示す。図9(d)に、比較例1の孔の断面形状を示す。図9(e)に、比較例2の孔の断面形状を示す。なお、図6と対応する部位については同じ符号で示す。
【0057】
実施例1の孔400の断面形状Aのα/βは2.9、実施例2の孔400の断面形状Aのα/βは1.1、実施例3の孔400の断面形状Aのα/βは1、比較例1の孔400の断面形状Aのα/βは0.9、比較例2の孔400の断面形状Aのα/βは0.3である。
【0058】
図9(a)、(b)に示すように、実施例1、2の孔400の断面形状Aは、下向きに尖る台形状である。図9(c)に示すように、実施例3の孔400の断面形状Aは、長方形状である。図9(d)、(e)に示すように、比較例1、2の孔400の断面形状Aは、上向きに尖る台形状である。ただし、各サンプルの上縁a、下縁bは、各々、弧状を呈している。また、各サンプルの上縁aは各々、図2に示すショルダー部40の上縁に相似である。
【0059】
各サンプルの孔400の深さ方向は、図5に示す解析モデル9同様に、ショルダー部40の表面40F(図5に太線で示す)の面展開方向に対して、直交する方向である。各サンプルの孔400の底部は、開口部に相似である。底部の面積は、開口部の面積よりも小さい。断面形状Aの面積は、孔400が深くなるのに従って小さくなる。すなわち、孔400には、金型用の抜き勾配が設定されている。各サンプルの孔400の深さL3、抜き勾配は、統一した。
【0060】
[実験方法]
次に、実験方法について説明する。実験方法は、上記解析方法と同様である。すなわち、実験においては、各サンプルの前から2番目のピン3の前後両側の一対のジャーナル2の径方向および軸方向の中心C1a、C1bの真下部分を、図5に白抜き矢印Y2a、Y2bで示すように、回転可能に支持した。そして、図5に白抜き矢印Y1で示すように、ピン3の径方向および軸方向の中心C2の真上部分から、荷重を印荷した。そして、前記の式(1)、式(2)から、各サンプルの曲げ剛性、曲げ剛性悪化率を算出した。
【0061】
[実験結果]
次に、実験結果について説明する。図10に、各サンプルのα/βと曲げ剛性悪化率との関係をグラフで示す。縦軸の「曲げ剛性悪化率」は、比較例2の曲げ剛性悪化率を100とした場合の、相対値である。具体的には、各サンプルの質量100gあたりの曲げ剛性悪化率を算出し、比較例2の当該曲げ剛性悪化率を100とし、比較例2以外のサンプルの曲げ剛性悪化率を、当該100に対する相対値とした。
【0062】
図10に示すように、比較例2の曲げ剛性悪化率Rを100とした場合、比較例1の曲げ剛性悪化率Rは92、実施例3の曲げ剛性悪化率Rは88、実施例2の曲げ剛性悪化率Rは87、実施例1の曲げ剛性悪化率Rは84だった。すなわち、比較例1、2よりも、実施例1〜3の方が、曲げ剛性悪化率Rが低くなることが判った。比較例1、2よりも、実施例1〜3の方が、曲げ剛性の低下が小さくなることが判った。
【符号の説明】
【0063】
1:クランクシャフト、2:ジャーナル、3:ピン、4:アーム、5:油路、9:解析モデル、30:焼入れ層、40:ショルダー部、40F:表面、41:カウンターウェイト部、400:孔、400a:開口部、400b:底部、400c:側部、400d:丸面取り部、A:断面形状、C1:中心、C1a:中心、C1b:中心、C2:中心、D:下辺、G:重心、L1:第一底辺、L2:第二底辺、L3:深さ、U:上辺、Z:変曲点、a:上縁、b:下縁、c:側縁、d:丸面取り部、z:変曲点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10