(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1又は2に記載の複合金属酸化物触媒を用いて、炭素原子数4以上のモノオレフィンと酸素含有ガスを含む混合ガスから気相接触酸化脱水素反応により共役ジエンを製造する共役ジエンの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明について詳細に説明する。
【0010】
[複合金属酸化物触媒]
本発明の複合金属酸化物触媒は、モリブデンの酸化物、ルビジウムの酸化物及びシリカを含有する。該複合金属酸化物触媒中のモリブデン12原子に対する、ルビジウム原子比が0.1〜0.5である。該ルビジウム原子比は好ましくは0.12〜0.48であり、更に好ましくは0.15〜0.45である。ルビジウム原子比が小さすぎると共役ジエンの選択率が低下し収率が低くなる可能性があり、ルビジウム原子比が大きすぎると炭素原子数4以上のモノオレフィンの転化率が低下して収率が低くなる場合がある。
【0011】
更に、該複合金属酸化物触媒中、ケイ素含有量は、0.1重量%〜30重量%である。1重量%〜25重量%が好ましく、3重量%〜20重量%がより好ましい。ケイ素含有量が小さすぎると炭素原子数4以上のモノオレフィンの転化率が低くなる可能性があり、ケイ素含有量が大きすぎると副反応による燃焼が多くなり共役ジエンの選択率が低くなる場合がある。
【0012】
更に本発明の複合金属酸化物触媒は下記組成式(1)で表されることが好ましい。
Mo
aBi
bCo
cNi
dFe
eRb
fX
gY
hSi
iO
j (1)
(式中、Xはナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs)及びタリウム(Tl)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。また、a〜jはそれぞれの元素の原子比を表し、a=12のとき、b=0.1〜7、c=0.1〜10、d=0.1〜10、e=0.05〜3、f=0.1〜0.5、g=0〜2、h=0〜3、i=0.1〜100の範囲にあり、またjは他の元素の酸化状態を満足させる数値である。)
上記組成式(1)の複合金属酸化物触媒とすることで、より高収率で目的物である共役ジエンを得る触媒とすることができる。
【0013】
次に本発明に好適な複合金属酸化物触媒の製造方法について説明する。
複合金属酸化物触媒は、該複合金属酸化物触媒を構成する各成分元素の供給源化合物を水系内で一体化して加熱する工程を経て製造する方法が好ましい。例えば、モリブデン化合物、シリカ、更に鉄化合物、ニッケル化合物及びコバルト化合物等を含む原料化合物水溶液、又は該原料化合物水溶液を更に乾燥して得た乾燥物を加熱処理して触媒前駆体を製造する前工程と、該触媒前駆体、モリブデン化合物、ルビジウム化合物及びビスマス化合物等を水性溶媒とともに一体化し、乾燥、焼成する後工程とを有し、製造する方法が挙げられる。
【0014】
前記前工程で用いられるモリブデンが、モリブデンの全原子比(a)の内の一部の原子比(a
1)相当のモリブデンであり、前記後工程で用いられるモリブデンが、モリブデンの全原子比(a)からa
1を差し引いた残りの原子比(a
2)相当のモリブデンと表記することができる。
【0015】
ルビジウム(Rb)添加量は、前記組成式(1)において、a=12のとき、f=0.1〜0.5となるように添加するが、好ましくはf=0.12〜0.48、より好ましくはf=0.15〜0.45となるように添加する。fが小さすぎると共役ジエンの選択率が低下する傾向にあり、fが大きすぎるとブテン転化率が低下する傾向にある。
【0016】
ビスマス(Bi)添加量は、前記組成式(1)において、a=12のとき、b=0.1〜7となるように添加することが好ましく、より好ましくはb=0.3〜6、更に好ましくはb=0.5〜5となるように添加する。bが小さすぎると共役ジエンの選択率が低下する傾向にあり、bが大きすぎるとブテン転化率が低下する傾向にある。
【0017】
コバルト(Co)添加量は、前記組成式(1)において、a=12のとき、c=0.1〜10となるように添加することが好ましく、より好ましくはc=1〜8、更に好ましくはc=2〜7となるように添加する。cが小さすぎると共役ジエンの選択率が低下する傾向にあり、cが大きすぎると炭素原子数4以上のモノオレフィンの転化率が低下する傾向にある。
【0018】
ニッケル(Ni)添加量は、前記組成式(1)において、a=12のとき、d=0.1〜10なるように添加することが好ましく、より好ましくはd=1〜8、更に好ましくはd=2〜7となるように添加する。dが小さすぎると炭素原子数4以上のモノオレフィンの転化率が低下する傾向にあり、dが大きすぎると共役ジエンの選択率が低下する傾向にある。
【0019】
コバルト(Co)とニッケル(Ni)の添加量の和は、前記組成式(1)において、a=12のとき、c+d=1〜15となるようにすることが好ましく、より好ましくはc+
d=2〜13、更に好ましくはc+d=3〜12となるようにする。c+dの値をこの範囲であることにより、高収率で共役ジエンの製造ができる複合金属酸化物触媒とすることが可能となる。
【0020】
コバルト(Co)とニッケル(Ni)の添加量の比は、前記組成式(1)において、c:d=1:100〜100:1となるようにすることが好ましく、より好ましくはc:d=1:10〜10:1、更に好ましくはc:d=1:5〜5:1となるようにする。c:dの値をこの範囲であることにより、高収率で共役ジエンの製造ができる複合金属酸化物触媒とすることが可能となる。
【0021】
鉄(Fe)添加量は、前記組成式(1)において、a=12のとき、e=0.05〜3となるように添加することが好ましく、より好ましくはe=0.1〜2.8、更に好ましくはe=0.15〜2.5となるように添加する。eが小さすぎると炭素原子数4以上のモノオレフィンの転化率が低下する傾向にあり、eが大きすぎると共役ジエンの選択率が低下する傾向にある。
【0022】
ケイ素(Si)の添加量は、前記組成式(1)において、a=12のとき、i=0.1〜100となるように添加することが好ましく、より好ましくはi=1〜50、更に好ましくはi=3〜30となるように添加する。iが小さすぎると炭素原子数4以上のモノオレフィンの転化率が低下する傾向にあり、iが大きすぎると副反応による燃焼が多くなり共役ジエンの選択率が低下する傾向にある。
【0023】
Xはナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs)及びタリウム(Tl)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であれば特に限定されないが、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及びセシウム(Cs)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、ナトリウム(Na)であることが更に好ましい。Xがナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs)及びタリウム(Tl)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことで、高収率で共役ジエンの製造ができる複合金属酸化物触媒とすることが可能となる。
Xの添加量は、前記組成式(1)において、a=12のときに、g=0〜2となるように添加されることが好ましいが、より好ましくはg=0.01〜1.5、更に好ましくはg=0.1〜1となるように添加する。gが小さすぎると、共役ジエンの選択率が低下する傾向にあり、gが大きすぎると炭素原子数4以上のモノオレフィンの転化率が低下する傾向にある。
【0024】
Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であれば特に限定されないが、ホウ素(B)、リン(P)及び砒素(As)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、ホウ素(B)であることが更に好ましい。Yがホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことで、高収率で共役ジエンの製造ができる複合金属酸化物触媒とすることが可能となる。
Yの添加量は、前記組成式(1)において、a=12のときに、h=0〜3となるように添加されることが好ましいが、より好ましくはh=0.01〜2、更に好ましくはh=0.1〜1となるように添加する。hが小さすぎると共役ジエンの選択率が低下する傾向にあり、hが大きすぎると炭素原子数4以上のモノオレフィンの転化率が低下する傾向にある。
【0025】
上記成分元素の供給源化合物としては、成分元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、水酸化物、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、水素酸、アセチルアセテート、アルコキシド等が挙げられ、その具体例としては、下
記のようなものが挙げられる。
モリブデン(Mo)の供給源化合物としては、パラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸等が挙げられる。
【0026】
ルビジウム(Rb)の供給源化合物としては、硝酸ルビジウム、硫酸ルビジウム、塩化ルビジウム、炭酸ルビジウム、酢酸ルビジウム、水酸化ルビジウム等が挙げられる。
【0027】
コバルト(Co)の供給源化合物としては、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト、炭酸コバルト、酢酸コバルト等が挙げられる。
ニッケル(Ni)の供給源化合物としては、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル等が挙げられる。
鉄(Fe)の供給源化合物としては、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、酢酸第二鉄等が挙げられる。
【0028】
ビスマス(Bi)の供給源化合物としては、塩化ビスマス、硝酸ビスマス、酸化ビスマス、次炭酸ビスマス等が挙げられる。
また、X成分(Na,K,Cs,Tlの1種又は2種以上)を固溶させた、ビスマス(Bi)とX成分との複合炭酸塩化合物として供給することもできる。X成分の供給量は、前記組成式(1)において、a=12のときに、g=0〜2となるように供給される。
【0029】
例えば、X成分としてナトリウム(Na)を用いた場合、ビスマス(Bi)とNaとを複合炭酸塩化合物は、炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムの水溶液等に、硝酸ビスマス等の水溶性ビスマス化合物の水溶液を滴下混合し、得られた沈殿を水洗、乾燥することによって製造することができる。
【0030】
その他の成分元素の供給源化合物としては、下記のものが挙げられる。
カリウム(K)の供給源化合物としては、硝酸カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。
タリウム(Tl)の供給源化合物としては、硝酸第一タリウム、塩化第一タリウム、炭酸タリウム、酢酸第一タリウム等が挙げられる。
【0031】
ホウ素(B)の供給源化合物としては、ホウ砂、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸等が挙げられる。
リン(P)の供給源化合物としては、リンモリブデン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸、五酸化リン等が挙げられる。
砒素(As)の供給源化合物としては、ジアルセノ十八モリブデン酸アンモニウム、ジアルセノ十八タングステン酸アンモニウム等が挙げられる。
タングステン(W)の供給源化合物としては、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、タングステン酸、リンタングステン酸等が挙げられる。
【0032】
この原料化合物水溶液の調製は、供給源化合物の水性系での一体化により行われる。ここで各成分元素の供給源化合物の水性系での一体化とは、各成分元素の供給源化合物の水溶液あるいは水分散液を一括に、あるいは段階的に混合及び/又は熟成処理を行うことをいう。即ち、(イ)上記の各供給源化合物を一括して混合する方法、(ロ)上記の各供給源化合物を一括して混合し、そして熟成処理する方法、(ハ)上記の各供給源化合物を段階的に混合する方法、(ニ)上記の各供給源化合物を段階的に混合・熟成処理を繰り返す方法、及び(イ)〜(ニ)を組み合わせる方法のいずれもが、各成分元素の供給源化合物の水性系での一体化という概念に含まれる。ここで、熟成とは、工業原料もしくは半製品
を、一定時間、一定温度等の特定条件のもとに処理して、必要とする物理性、化学性の取得、上昇あるいは所定反応の進行等を図る操作をいい、一定時間とは、通常10分〜24時間の範囲であり、一定温度とは通常室温から水溶液又は水分散液の沸点までの範囲をいう。
【0033】
上記の一体化の具体的な方法としては、例えば、触媒成分から選ばれた酸性塩を混合して得られた溶液と、触媒成分から選ばれた塩基性塩を混合して得られた溶液とを混合する方法等が挙げられ、具体例としてモリブデン化合物の水溶液に、鉄化合物とニッケル化合物とコバルト化合物との混合物を加温下添加し混合する方法等が挙げられる。なお、シリカの添加、混合もこの前工程で行うのが好ましい。
【0034】
このようにして得られた原料化合物水溶液(スラリー)を60℃〜90℃に一定時間加熱処理する。
この熟成とは、上記触媒前駆体用スラリーを所定温度で所定時間、攪拌することをいう。この熟成により、スラリーの粘度が上昇し、スラリー中の固体成分の沈降を緩和し、とりわけ次の乾燥工程での成分の不均一化を抑制するのに有効となり、得られる最終製品である複合金属酸化物触媒の原料転化率や選択率等の触媒活性がより良好となる。
【0035】
上記熟成における温度は、60℃〜90℃が好ましく、70℃〜85℃がより好ましい。熟成温度が60℃未満では、熟成の効果が十分ではなく、良好な活性を得られない場合がある。一方、90℃を越えると、熟成時間中の水の蒸発が多く、工業的な実施には不利である。更に100℃を越えると、溶解槽に耐圧容器が必要となり、また、ハンドリングも複雑になり、経済性及び操作性の面で著しく不利となる。
【0036】
上記熟成にかける時間は、2時間〜12時間がよく、3時間〜8時間が好ましい。熟成時間が2時間未満では、触媒の活性及び選択性が十分に発現しない場合がある。一方、12時間を越えても熟成効果が増大することはなく、工業的な実施には不利である。
上記攪拌方法としては、任意の方法を採用することができ、例えば、攪拌翼を有する攪拌機による方法や、ポンプによる外部循環による方法等が挙げられる。
【0037】
熟成されたスラリーは、そのままで、又は乾燥した後、加熱処理を行う。乾燥する場合の乾燥方法及び得られる乾燥物の状態については特に限定はなく、例えば、通常のスプレードライヤー、スラリードライヤー、ドラムドライヤー等を用いて粉体状の乾燥物を得てもよいし、また、通常の箱型乾燥機、トンネル型焼成炉を用いてブロック状又はフレーク状の乾燥物を得てもよい。
【0038】
上記の原料塩水溶液又はこれを乾燥して得た顆粒あるいはケーキ状のものは空気中で200℃〜400℃、好ましくは250℃〜350℃の温度域で熱処理を行う。その際の炉の形式及びその方法については特に限定はなく、例えば、通常の箱型加熱炉、トンネル型加熱炉等を用いて乾燥物を固定した状態で加熱してもよいし、また、ロータリーキルン等を用いて乾燥物を流動させながら加熱してもよい。
【0039】
後工程では、上記の前工程において得られる触媒前駆体とモリブデン化合物(全原子比aからa
1相当を差し引いた残りのa
2相当)とルビジウム化合物の一体化を、水性溶媒下で行うことが好ましい。この際、アンモニア水を添加するのが好ましい。X,Y成分の添加もこの後工程で行うのが好ましい。触媒製造原料としてのこれらの化合物は粉末より大きな粒子のものであってもよいが、その熱拡散を行わせるべき加熱工程を考えれば小さい粒子である方が好ましい。従って、原料としてのこれらの化合物がこのように粒子の小さいものでなかった場合は、加熱工程前に粉砕を行うべきである。
【0040】
次に、得られたスラリーを充分に攪拌した後、乾燥する。このようにして得られた乾燥品を、押出成型、打錠成型、あるいは担持成型等の方法により任意の形状に賦形する。これらの型の形状に賦形された触媒の大きさは、固定床や流動床などの反応形式に応じた大きさに適宜変更されることが可能である。次に、このものを、好ましくは450℃〜650℃の温度条件にて1時間〜16時間程度の熱処理を行う。以上のようにして、高活性で、且つ目的とする共役ジエンを高い収率で与える複合金属酸化物触媒とすることができる。
【0041】
このようにして得られる複合金属酸化物触媒は、通常、反応活性を調整するためのイナートボール等と共に反応器に充填されて固定床が形成される。
イナートボールとしては、アルミナ、ジルコニア等のセラミックの球状体が用いられる。イナートボールは通常、複合金属酸化物触媒と同等の大きさであり、その粒径は2mm〜10mm程度である。
【0042】
[共役ジエン製造方法]
本発明の共役ジエンの製造方法では、ブテン(1−ブテン及び/又は2−ブテン等のn−ブテン、イソブテン)、ペンテン、メチルブテン、ジメチルブテン等の炭素原子数4以上のモノオレフィン、好ましくは炭素原子数4〜6のモノオレフィンと酸素含有ガスの混合ガスから気相接触酸化脱水素反応により対応する共役ジエンを製造することができる。炭素数4以上のモノオレフィンとして、ブテン、更には、n−ブテン(1−ブテン及び/又は2−ブテン)からのブタジエンの製造に最も好適に用いられる。
【0043】
本発明の共役ジエンの製造方法は、炭素原子数4以上のモノオレフィンと酸素含有ガスを含む混合ガスから気相接触酸化脱水素反応により共役ジエンを製造するが、炭素原子数4以上のモノオレフィンを含む原料ガスと、酸素含有ガスを混合し、混合ガスとした後に、気相接触酸化脱水素反応を行うことが好ましい。該炭素原子数4以上のモノオレフィンを含む原料ガスには炭素原子数4以上のモノオレフィン以外の成分を含んでいてもよい。例えばn−ブテンと酸素含有ガスを含む混合ガスよりブタジエンを得ようとする場合、ナフサ分解で副生するC
4留分(C
4炭化水素混合物。以下「BB」と称す場合がある。)からブタジエン及びイソブテンを分離して得られるn−ブテン(1−ブテン及び/又は2−ブテン)を主成分としたブタン等を含む混合物を原料ガスとして使用することもできる。また、エチレンの2量化により得られる高純度の1−ブテン、シス−2−ブテン、トランス−2−ブテン又はこれらの混合物を含有するガスを原料ガスとして使用することもできる。尚、このエチレンはエタン脱水素、エタノール脱水、又はナフサ分解などの方法で得られるエチレンを使用することができる。更に、石油精製プラントなどで原油を蒸留した際に得られる重油留分を、流動層状態で粉末状の固体触媒を使って分解し、低沸点の炭化水素に変換する流動接触分解(Fluid Catalytic Cracking)から得られる炭素原子数4の炭化水素類を多く含むガス(以下、FCC−C
4と略記することがある)をそのまま原料ガスとする、又は、FCC−C
4からリンや砒素などの不純物を除去したものを原料ガスとして使用してもよい。ここでいう、主成分とは、原料ガスに対して、通常40体積%以上、好ましくは60体積%以上、より好ましくは75体積%以上、特に好ましくは99体積%以上をいう。
【0044】
また、本発明の混合ガス中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の不純物を含んでいても良い。n−ブテン(1−ブテン及び/又は2−ブテン)からブタジエンを製造する場合、含んでいても良い不純物として、具体的には、イソブテンなどの分岐型モノオレフィン;プロパン、n−ブタン、イソブタン、ペンタンなどの飽和炭化水素;プロピレン、ペンテンなどのオレフィン;1,2−ブタジエンなどのジエン;メチルアセチレン、ビニルアセチレン、エチルアセチレンなどのアセチレン類等が挙げられる。この不純物の量は、主原料に対して通常40体積%以下、好ましくは20体積%以下、より好ましくは
10体積%以下、特に好ましくは1体積%以下である。この量が多すぎると、主原料である1−ブテンや2−ブテンの濃度が下がって反応が遅くなったり、ブタジエンの収率が低下する傾向にある。
【0045】
本発明の酸素含有ガスは、通常、分子状酸素が10体積%以上、好ましくは、15体積%以上、更に好ましくは20体積%以上含まれるガスのことであり、具体的に好ましくは空気である。なお、酸素含有ガスを工業的に用意するために必要なコストという観点から、分子状酸素が、通常50体積%以下、好ましくは、30体積%以下、更に好ましくは25体積%以下である。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、酸素含有ガスには、任意の不純物を含んでいてもよい。含んでいてもよい不純物として、具体的には、窒素、アルゴン、ネオン、ヘリウム、CO、CO
2、水等が挙げられる。この不純物の量は、窒素の場合、酸素含有ガスに対して通常90体積%以下、好ましくは85%体積以下、より好ましくは80体積%以下である。窒素以外の成分の場合、通常10体積%以下、好ましくは1体積%以下である。この量が多すぎると、反応に必要な酸素を供給するのが難しくなる傾向にある。
【0046】
本発明では、複合金属酸化物触媒が充填された反応器に、炭素原子数4以上のモノオレフィンと酸素含有ガスを含む混合ガスを供給するが、該混合ガスには、窒素ガス、及び水(水蒸気)を含んでいてもよい。窒素ガスは、該混合ガスが燃焼範囲に入らないように可燃性ガスと酸素の濃度を調整するという理由から、又、水(水蒸気)は窒素ガスと同様に可燃性ガスと酸素の濃度を調整するという理由と複合金属酸化物触媒のコーキングを抑制するという理由から、混合ガス中に水(水蒸気)と窒素ガスと共に含有していることが好ましい。
【0047】
反応器に供給する混合ガス中の炭素原子数4以上のモノオレフィンの濃度は特に限定されないが、通常1体積%〜20体積%、好ましくは3体積%〜17体積%、更に好ましくは6体積%〜13体積%である。炭素原子数4以上のモノオレフィンの濃度が前記範囲内であれば、対応する共役ジエンの回収コストが低く、重合や燃焼などの副反応が起き難いメリットがある。
【0048】
また、炭素原子数4以上のモノオレフィンを含む原料ガス、酸素含有ガス、窒素ガス、及び水(水蒸気)等により混合ガスとする方法は特に限定されず、例えばそれぞれを別々の配管で反応器に供給して混合ガスとしてもよいが、爆鳴気の形成を確実に回避するために、予め原料ガスに窒素ガス等を混合し、次いで酸素含有ガスを混合し混合ガスとする、又は、分子状酸素含有ガスに窒素ガス等を混合し、次いで、原料ガスを混合し混合ガスとすることが好ましい。
【0049】
本発明の気相接触酸化脱水素反応に用いられる反応器は特に限定されないが、固定床反応器、流動床反応器が挙げられ、触媒活性が長期間保持できることより固定床反応器が好ましい。固定床反応器の中でも固定床管型反応器がより好ましい。
【0050】
反応器が固定床反応器の場合、反応器には、上述の複合金属酸化物触媒が充填された触媒層が存在する。その触媒層は、複合金属酸化物触媒のみからなる層から構成されていても、複合金属酸化物触媒と該複合金属酸化物触媒と反応性の無い固形物とが混在する層のみから構成されていても、複合金属酸化物触媒と該複合金属酸化物触媒と反応性の無い固形物とが混在する層と複合金属酸化物触媒のみからなる層の複数の層から構成されていてもよいが、触媒層が、複合金属酸化物触媒と該複合金属酸化物触媒と反応性の無い固形物とが混在する層を含むことで、気相接触酸化脱水素反応時の発熱による触媒層の急激な温度上昇を抑制できるので、触媒層に複合金属酸化物触媒と該複合金属酸化物触媒と反応性の無い固形物とが混在する層があることが好ましい。
【0051】
本発明の気相接触酸化脱水素反応は発熱反応であり、温度が上昇するが、通常、反応温度は250℃〜450℃、好ましくは、280℃〜400℃の範囲に調整される。反応温度が高くなるほど、複合金属酸化物触媒の触媒活性が低下しやすい傾向にあり、反応温度が低くなるほど、目的生成物である共役ジエンの収率が低下する傾向にある。反応温度は、熱媒体(例えば、ジベンジルトルエンや亜硝酸塩など)を使用して制御することができる。なお、ここでいう反応温度は熱媒体の温度のことである。
【0052】
また、反応器内温度は、特に限定されないが、通常、250℃〜450℃、好ましくは、280℃〜400℃、更に好ましくは、320℃〜395℃である。反応器内温度が高すぎると、気相接触酸化脱水素反応を継続するに従って、該触媒活性が低下する傾向にあり、一方、反応器内温度が低すぎると、目的生成物である共役ジエンの収率が低下する傾向にある。反応器内温度は、反応条件によって決定されるが、触媒層の希釈率や混合ガスの流量等で制御することができる。なお、ここでいう反応器内温度とは、触媒層の温度のことである。
【0053】
反応器内の圧力は、特に限定されないが、上限は、0.5MPaG(ゲージ圧)が好ましく、より好ましくは、0.3MPaG、更に好ましくは、0.1MPaGである。圧力が小さくなるほど、爆発範囲が狭くなる傾向にある。
空間速度(Space Velocity)とは、次式で示される値である。
【0054】
・空間速度SV(h
−1)=反応器に供給する混合ガスの0℃、1気圧での体積流量/反応器に充填された複合金属酸化物触媒の体積(反応性の無い固形物は含まない)
空間速度は特に限定されないが、下限は、好ましくは500h
−1、更に好ましくは800h
−1である。空間速度が大きくなるほど、反応器に供給できる原料ガス中の炭素原子数4以上のモノオレフィンの量を多くすることができるメリットがある。一方、上限は、好ましくは9000h
−1、更に好ましくは7500h
−1である。空間速度が小さいほど、原料ガス中の炭素原子数4以上のモノオレフィンの転化率が高くなるというメリットがある。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は何ら以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中のn−ブテン転化率、ブタジエン選択率、ブタジエン収率は次式に従って算出した。
・n−ブテン転化率(モル%)=(反応した1−ブテン+シス−2−ブテン+トランス−2−ブテンのモル数)/(供給した1−ブテン+シス−2−ブテン+トランス−2−ブテンのモル数)×100
・ブタジエン選択率(モル%)=(生成したブタジエンのモル数)/(反応した1−ブテン+シス−2−ブテン+トランス−2−ブテンのモル数)×100
・ブタジエン収率(モル%)=(生成したブタジエンのモル数)/(供給した1−ブテン+シス−2−ブテン+トランス−2−ブテンのモル数)×100
【0056】
[実施例1]
(a)触媒前駆体の調製
容器に純水2.8Lを入れ、パラモリブデン酸アンモニウム282gを加えて、80℃に加温して溶解し、溶液とした(以下、「溶液A」と称する)。別の容器に純水330mlを入れ、硝酸第二鉄39g、硝酸コバルト168g及び硝酸ニッケル134gを加えて、80℃に加温して溶解し、溶液とした(以下、「溶液B」と称する)。溶液Aと溶液Bを撹拌しながら徐々に混合し溶液とした(以下、「溶液C」と称する)。
【0057】
次にシリカ167gを純水750mlに加え、充分に混合した溶液を、溶液Cに加えて、撹拌混合し、スラリーとした。
該スラリーを80℃に加温し、4時間熟成した。次いで、このスラリーを加熱乾燥し、固形物とし、該固形物を空気雰囲気で300℃、1時間、熱処理した。次いで、熱処理した固形物を粉砕して触媒前駆体を得た。
【0058】
(b)複合金属酸化物触媒の調製
容器に純水80mlを入れ、更にアンモニア水10mlを加えて混合溶媒とした。次いで、パラモリブデン酸アンモニウム14.9g、ホウ砂1.29g、硝酸ルビジウム1.06gを添加し、溶解し、溶液とした。該溶液に、前記触媒前駆体107gを加え、分散し、分散液とした。
【0059】
次いで、Naを0.5%固溶した次炭酸ビスマス13.5gを該分散液に加えて、攪拌混合し、スラリーとした。該スラリーを130℃、12時間加熱乾燥し粒状固体とした。該粒状固体を、小型成型機にて径5mm、高さ4mmの錠剤に打錠成型し、次に500℃、4時間の焼成を行って、焼成体を得た。得られた焼成体を破砕し、破砕した焼成体を目開き1.40mmの篩により粗粒を除き、目開き1.00mmの篩により微粒を除いて複合金属酸化物触媒を得た。該複合金属酸化物触媒を1,3−ブタジエン製造反応に使用した。
仕込み原料から計算される複合金属酸化物触媒の原子比を表1に示す。
【0060】
(c)1,3−ブタジエン製造反応
内径10.0mm、長さ500mmのステンレス製反応管に、上記で製造された複合金属酸化物触媒2.5gを充填した。
反応管には外径2.0mmの挿入管を設置し、挿入管の中に熱電対を設置して反応器内温度を測定した。なお、熱媒体は電気炉を使用した。
【0061】
そして、予め窒素、空気、水蒸気を予熱器に供給しておき、その後、1−ブテンを予熱器内で混合して表1に示すような組成の混合ガスを調製し、反応温度370℃に昇温した反応器に供給して酸化脱水素反応を行った。圧力はゲージ圧で0.055MPaGであった。ガスクロマトグラフィー(GL Science社製 型番:GC−4000)で分析した結果を表1に示す。
【0062】
[実施例2]
硝酸ルビジウムの量を2.10gとした以外は実施例1と同様にして複合金属酸化物触媒を調製し1−ブテンの気相接触酸化脱水素反応を行った。結果を表1に示す。
【0063】
[比較例1]
硝酸ルビジウムの代わりに硝酸カリウムを0.36g加えた以外は実施例1と同様にして複合金属酸化物触媒を調製し1−ブテンの気相接触酸化脱水素反応を行った。結果を表1に示す。
【0064】
[実施例3]
(a)触媒前駆体の調製
容器に純水1.6lを入れ、パラモリブデン酸アンモニウム163gを加えて、加温して溶解し、溶液とした(以下、「溶液D」と称する)。別の容器に、重水170mlを入れ、硝酸第二鉄21.6g、硝酸コバルト62.2g及び硝酸ニッケル97.0gを加えて、加温して溶解し、溶液とした(以下、「溶液E」と称する)。溶液Dと溶液Eを撹拌しながら徐々に混合し溶液とした(以下、「溶液F」と称する)。
【0065】
次にシリカ176gを純水705mlに加え、充分に混合した溶液を、溶液Fに加えて攪拌混合し、スラリーとした。
該スラリーを80℃に加温し、4時間熟成した。次いで、このスラリーを加熱乾燥し、固形部とし、該固形物を空気雰囲気で300℃、1時間、熱処理した。次いで、熱処理した固形物を粉砕して触媒前駆体を得た。
【0066】
(b)複合金属酸化物触媒の調製
容器に純水120mlを入れ、更にアンモニア水10mlを加えて混合溶媒とした。次いで、パラモリブデン酸アンモニウム26.0g、ホウ砂1.11g、硝酸ルビジウム0.85gを添加、溶解し、溶液とした。該溶液に、前記触媒前駆体79gを加え、分散し、分散液とした。
【0067】
次いで、Naを0.5%固溶した次炭酸ビスマス34.4gを該分散液に加えて、攪拌混合し、スラリーとした。該スラリーを130℃、12時間加熱乾燥し粒状固体とした。該粒状固体を、小型成型機にて径5mm、高さ4mmの錠剤に打錠成型し、次に500℃、4時間の焼成を行って、焼成体を得た。得られた焼成体を破砕し、破砕した焼成体を目開き1.40mmの篩により粗粒を除き、目開き1.00mmの篩により微粒を除いて複合金属酸化物触媒を得た。該複合金属酸化物触媒を1,3−ブタジエンの製造反応に使用した。
(c)1,3−ブタジエンの製造
実施例1(c)と同じ方法で、1,3−ブタジエンの製造を行った。結果を表1に示す。
【0068】
[比較例2]
硝酸ルビジウム0.85gの代わりに硝酸カリウムを0.29g加えた以外は実施例3と同様にして複合金属酸化物触媒を調製し1−ブテンの気相接触酸化脱水素反応を行った。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
ブテンの気相接触酸化脱水素反応によるブタジエンの製造において、高転化率条件下で
反応を実施すると逐次反応が進行することによりブタジエン選択率が低下し、結果として収率が低くなるが、本発明の複合金属酸化物触媒を用いれば、高転化率条件下においても高選択率を維持することができ、高収率で1,3−ブタジエンを製造することができる。